(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】ナノ多孔性膜の細孔径分布測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/08 20060101AFI20230201BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20230201BHJP
G01F 1/76 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
G01N15/08 H
G01F1/00 V
G01F1/76
(21)【出願番号】P 2018099964
(22)【出願日】2018-05-24
【審査請求日】2021-05-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・ 産業技術総合開発機構、 新エネルギーベンチャー技術革新事業/(バイオマス)(フェーズB)「ナノ多孔性セラミック複合膜による木質バイオマス高エネルギー化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514213202
【氏名又は名称】イーセップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】澤村 健一
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-235417(JP,A)
【文献】特開2012-169045(JP,A)
【文献】実開昭50-102390(JP,U)
【文献】実開平04-085257(JP,U)
【文献】特開昭55-138247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
G01F 1/00
G01F 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する被検体を、その細孔の一端が1次チャンバに、かつ細孔の他端が2次チャンバにそれぞれ連通するようにして、被検体を保持する保持手段と、
1次チャンバに非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合気体である検査ガスを供給する検査ガス供給手段と、
前記検査ガス供給手段中に設けられ、1次チャンバに供給される非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合割合を調節する調節手段と、
2次チャンバに接続され、
前記検査ガス中の凝縮性ガスを冷却・トラップする手段と、
前記冷却・トラップする手段の後段に接続され、被検体を通過した
前記検査ガスの量を経時的に測定する質量流量計と、
2次チャンバ側圧力を大気圧より低い値に減圧する真空ポンプと、
前記質量流量計と前記真空ポンプの間に、容積が0.1から100Lの連結空間
と
を備え、
前記検査ガスの流量が1から20L/minであり、
測定流量範囲の異なる前記質量流量計を複数台組み合わせて測定可能流量範囲を拡大させたことを特徴とする細孔径分布測定装置。
【請求項2】
1次チャンバの圧力が大気圧であり、2次チャンバ側圧力が大気圧より6から80kPa低い値である請求項1記載の細孔径分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ多孔性膜の細孔径分布測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ膜、ゼオライト膜、炭素膜などをはじめとしたナノ多孔性分離膜は従来の有機高分子膜では適用できない高温・高圧・溶剤存在下でも利用でき、化学プロセスに適用することで大きな省エネ効果が見込まれているため、早期の普及が期待されている。これら分離膜等の細孔径制御はナノからサブナノレベルで行われ、その細孔径分布は分離膜の特性評価の指標として利用されている。
【0003】
ナノ多孔性膜の細孔径分布測定方法としてはナノパームポロメトリー法が定法であり、凝縮成分の相対圧を制御することで多孔性膜の細孔に毛管凝縮を起こさせ、その後非凝縮性ガスの透過量を測定することにより、多孔性膜の細孔径分布を導出している。
【0004】
ナノパームポロメトリー法による細孔径分布測定装置としては、特許文献1において、被検体の形態を崩すことなく、被検体のメソボアからマイクロボアの領域までの細孔の径及びその分布状況を正確に測定する方法が提案されている。特許文献1による手法では、細孔を有する被検体を、その細孔の一端が1次チャンバに、かつ細孔の他端が2次チャンバにそれぞれ連通するようにして、被検体を保持する保持手段と、1次チャンバに非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合気体である検査ガスを供給する検査ガス供給手段と、検査ガス供給手段中に設けられ、1次チャンバに供給される非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合割合を調節する調節手段と、2次チャンバに接続され、被検体を通過した検査ガスの量を経時的に測定する測定手段とを備え、2次チャンバの圧力をほぼ大気圧に維持し、かつ1次チャンバの圧力を大気圧より大きい値に維持する圧力調整手段を設けることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、被検体(分離膜)に連結している1次チャンバを加圧条件にて測定を行う現行のナノパームポロメトリー法では、分離膜を保持する膜モジュール含め1次チャンバ側を耐圧仕様とする必要がある事から、装置が高額となっている。また定常状態に達する時間も長いため、測定に長時間要するというのが実情である。
本発明の目的は、かかる従来の問題点を鑑みてなされたものであり、高価な装置を用いることなく、また被検体の形態を崩すことなく、被検体のメソボアからマイクロボアの領域までの細孔の径及びその分布状況を迅速に測定できるようにした細孔径分布測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、細孔径分布測定装置であって、細孔を有する被検体を、その細孔の一端が1次チャンバに、かつ細孔の他端が2次チャンバにそれぞれ連通するようにして、被検体を保持する保持手段と、1次チャンバに非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合気体である検査ガスを供給する検査ガス供給手段と、前記検査ガス供給手段中に設けられ、1次チャンバに供給される非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合割合を調節する調節手段と、2次チャンバに接続され、前記検査ガス中の凝縮性ガスを冷却・トラップする手段と、前記冷却・トラップする手段の後段に接続され、被検体を通過した前記検査ガスの量を経時的に測定する質量流量計と、2次チャンバ側圧力を大気圧より低い値に減圧する真空ポンプと、前記質量流量計と前記真空ポンプの間に、容積が0.1から100Lの連結空間とを備え、前記検査ガスの流量が1から20L/minであり、測定流量範囲の異なる前記質量流量計を複数台組み合わせて測定可能流量範囲を拡大させたことを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の細孔径分布測定装置であって、1次チャンバの圧力が大気圧であり、2次チャンバ側圧力が大気圧より6から80kPa低い値であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明は、細孔径分布測定装置であって、細孔を有する被検体を、その細孔の一端が1次チャンバに、かつ細孔の他端が2次チャンバにそれぞれ連通するようにして、被検体を保持する保持手段と、1次チャンバに非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合気体である検査ガスを供給する検査ガス供給手段と、前記検査ガス供給手段中に設けられ、1次チャンバに供給される非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合割合を調節する調節手段と、2次チャンバに接続され、検査ガス中の凝縮性ガスを冷却・トラップする手段と、前記冷却・トラップする手段の後段に接続され、被検体を通過した検査ガスの量を経時的に測定する質量流量計と、2次チャンバ側圧力を大気圧より低い値に減圧する真空ポンプと、前記質量流量計と前記真空ポンプの間に、容積が0.1から100Lの連結空間を有することで、質量流量計の安定性を向上させ、定常状態に達するまでの時間を短縮化することで、測定に要する時間を大幅に短縮できるという効果を奏する。また、検査ガスの流量が1から20L/minであることによって、定常状態に達するまでの時間を短縮化することで、測定に要する時間を大幅に短縮できるという効果を奏する。また、検査ガスの流量を大きくすることで、被検体を通過することによる凝縮性ガスの濃度変化の影響を最小化することができるという効果を奏する。さらに、測定流量範囲の異なる質量流量計を複数台組み合わせて測定可能流量範囲を拡大させることで、迅速に高精度で測定できるという効果を奏する。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の細孔径分布測定装置であって、1次チャンバの圧力が大気圧であることによって、装置を耐圧仕様にする必要がなくなる事から、装置を低コスト化できるという効果を奏する。また、2次チャンバ側圧力が大気圧より6から80kPa低い値であることによって、質量流量計の安定性を向上させ、良好な測定が可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における細孔径分布装置の模式図である。
【
図2】実施例1により得られた被検体の細孔径分布である。
【
図3】実施例1の被検体の表面塗布素材であるシリカナノ粒子写真である
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明における細孔径分布装置の模式図である。本体5の内部には、1次チャンバである密閉されたチャンバ8が形成され、本体
5の上端壁には、チャンバ8内に突入する円筒状のホルダ10の基端部がキャップ11をもって着脱自在に装着されている。ホルダ10は、被検体7の保持手段をなすもので、その内部は、2次チャンバ(図示略)となっている。
【0017】
この例では、被検体7は、無数の細孔(図示略)が放射状に形成された円筒状フィルタとしてあり、その細孔の一端が1次チャンバであるチャンバ8に、かつ細孔の他端が2次チャンバであるホルダ10の内部にそれぞれ連通するようにして、一端部がホルダ10の先端部に、気密を保つようにして保持されている。被検体7の他端は、閉塞部材9により気密を保つようにして閉塞されている。
【0018】
ホルダ10は、被検体7の形状に応じて、それに適合するものに適宜交換される。例えば、被検体7が平膜状のものである場合には、先端に拡径段部を有する円筒状のホルダとし、その拡径段部の開口端部に、平膜状の被検体7を太鼓の皮張りと同様の要領で装着し、その周囲を適宜シールするのがよい。
【0019】
チャンバ8には、検査ガス供給管6と余剰ガス排出管12とが接続され、ホルダ10には、通過ガス排出管13が接続されている。
【0020】
検査ガス供給管6には、非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合ガスが供給される。非凝縮性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、空気等の不活性ガスを用いることができるが、ここでは窒素ガスを用いている。凝縮性ガスとしては、水蒸気、エタノール、四塩化炭素、ヘキサン等を用いることができるが、ここでは水蒸気を用いている。
【0021】
検査ガス供給手段6は、非凝縮性ガスの供給系路と、それから分岐されたバイパス系路とを有し、このバイパス系路に、凝縮性ガスの供給手段4を設けている。
凝縮性ガスの供給手段4は、気化することにより凝縮性ガスとなる液体を収容して、その中を非凝縮性ガスが通過することにより、非凝縮性ガス中に凝縮性ガスが混入するようにしたバブラーを有している。凝縮性ガスの供給手段4は、バイパス系路に直列に接続した複数のバブラーを有していることが望ましい。1次チャンバに供給される非凝縮性ガスと凝縮性ガスとの混合割合は、非凝縮性ガス供給源1を流量コントローラー2及び流量コントローラー3に連結することにより調整する。
【0022】
余剰ガス排出管12には、圧力測定・調整手段15、凝縮性ガス濃度測定手段16、凝縮性ガス冷却・トラップ手段17、流量測定手段18が順次設けられ、その下流端は排気口に接続されている。
【0023】
通過ガス排出管13には、減圧測定手段19、凝縮性ガス冷却・トラップ手段20、質量流量計21、緩衝用空間(容積0.1から100L)22、減圧調整・減圧手段23が順次設けられ、その下流端は排気口に接続されている。
【0024】
この実施形態によると、流量コントローラ2、3により、乾燥した窒素ガスの量と、湿気を帯びた窒素ガスの量とを調節して、それらを検査ガス供給管6より本体5のチャンバ8に供給し、被検体7を円筒膜内側方向に通過して、ホルダ10より通過ガス排出管13へ流出した窒素ガスの流量を、質量流量計21により経時的に測定し、その測定データをコンピュータに入力して、既知のいわゆるケルビン径(Kelvin径)と累積無次元透過係数との比較データと対比して、被検体7に、例えば0.5から30nm(10-9m)の範囲内の特定の径のものが、どの程度存在するかを知ることができる。
【0025】
その測定原理は、凝縮性ガスが微細な細孔内で毛管凝縮し、非凝縮性ガスの透過を阻止することを利用したものである。具体的には、凝縮性ガスと非凝縮性ガスとの混合物である検査ガスを、多孔質体の被検体7に供給すると、小さい径の細孔内では、凝縮性ガスの相対圧が低い状態でも毛管凝縮し、非凝縮性ガスの透過を阻止する。一方、大きい径の細孔の場合は、毛管凝縮により非凝縮性ガスの透過を阻止するには、より高い凝縮性ガスの相対圧が必要である。
【0026】
この原理に基づき、凝縮性ガスの分圧、すなわち、凝縮性ガスと非凝縮性ガスとの割合を変化させつつ、非凝縮性ガスの透過計数を測定することにより、どの程度の径の細孔が、どの程度分布しているかを測定することができる。また、すでに細孔の径とその分布状況がわかっているサンプルがある場合には、それをマスターとして、この測定装置にかけ、その測定値と既知の値との差を補正値として他の測定値を補正することもある。
【0027】
この実施形態においては、2次チャンバであるホルダ10の内部を、通過ガス排出管13を介して1次チャンバ側を大気圧程度に維持し、かつ2次チャンバ側を、大気圧より減圧する。ここで、質量流量計21と減圧調整・減圧手段23の間の連結空間に緩衝用空間(0.1 から 100L)22を設けることで、質量流量計の安定性を向上させ、良好な測定が可能となる。緩衝用空間を設けない場合、質量流量計の値が安定せず測定は困難である。
【実施例1】
【0028】
図1に示す細孔径分布測定装置を構築し、長さ40cm、直径12mmの多孔質アルミナ基材表面にシリカ層が形成された、ナノ多孔性基材(イーセップ(株)製:型番eSep-nanoA-SiO2、細孔径3から5nm程度)を被検体として、その膜細孔径分布評価試験を実施した。非凝縮性ガスとして窒素、凝縮性ガスとして水蒸気を利用した。検査ガスは合計5L/minとなるように流量コントローラー(コフロック社製マスフローコント
ローラーMODELL3660及びCR-400)2及び3を制御し、所定の水蒸気濃度を含む検査ガスを被検体に導入した。通過ガス流量は質量流量計(コフロック社製マスフローコント
ローラーMODELL3660及びCR-400)により定常状態に達するまで連続的に測定した。質量流量計は、測定レンジ5L/min(最小測定レンジ0.01 L/min)までのものと、100 mL/min(最小測定単位0.1 mL/min)までのもの2つを使用した。
また減圧手段としてドライ真空ポンプ(ULVAC社製 DA-20A)を用い、また緩衝用空間として容積約6 Lの減圧容器を用いた。凝縮性ガス冷却・トラップ手段として、EYELA社製UT-1000を用いた。1次チャンバ側を大気圧に解放し、2次チャンバ側を真空ポンプにより減圧した。2次チャンバ側圧力は、-6から-80 kPaの範囲で調整した。
【0029】
(比較例1)
比較のため、実施例1の試験において、緩衝用空間の設置を行わずに試験を行った。
【0030】
(比較例2)
比較のため、実施例1の試験において、質量流量計の流量レンジ100 mL/minまでのもの(最小測定単位0.1 mL/min)を用いずに試験を行った。
【0031】
(比較例3)
比較のため、実施例1の試験において、凝縮性ガス冷却・トラップ手段20を設置せずに試験を行った。
【0032】
(比較例4)
比較のため、実施例1の試験において、検査ガス流量0.5L/minにて試験を行った。
【0033】
上記実施試験結果表1にまとめた。
【表1】
実施例1のみ良好に測定できることを確認した。また実施例1について、測定結果詳細を
図2に示す。本発明の細孔分布測定装置にて得られた細孔径分布は、特に2から5nmの範囲に大きな細孔径分布を持つことが示された。ここで、実施例1の被検体は5nm程度のシリカナノ粒子により被膜されたもので、当該シリカナノ粒子を密に充填したものの電子顕微鏡写真(
図3)では、2から5nmの空隙が確認されている。以上から、本実施例で得られた細孔系分布結果は、妥当なものであると判断される。また実施例1については、再現性良く、かつ測定も滞りなく迅速に実施できたことから、本発明の有用性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の細孔径分布測定装置は、分離膜などナノ多孔性膜の細孔径分布評価などに利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 非凝縮性ガス供給源
2 流量コントローラー(調節手段)
3 流量コントローラー(調節手段)
4 凝縮性ガス供給手段
5 本体
6 検査ガス供給菅(検査ガス供給手段)
7 被検体
8 チャンバ(一次チャンバ)
9 閉塞部材
10 ホルダ(保持手段)(内部が2次チャンバ)
11 キャップ
12 余剰ガス排出菅
13 通過ガス排出菅
14 恒温槽(温度調節手段)
15 圧力測定・調整手段
16 凝縮性ガス濃度測定手段
17 凝縮性ガス冷却・トラップ手段
18 流量測定手段
19 減圧測定手段
20 凝縮性ガス冷却・トラップ手段
21 質量流量計
22 緩衝用空間(容積0.1から100L)
23 減圧調整・減圧手段