(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】固形描画材及び教育方法
(51)【国際特許分類】
B43K 19/00 20060101AFI20230201BHJP
C09D 13/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
B43K19/00 D
C09D13/00
(21)【出願番号】P 2018153632
(22)【出願日】2018-08-17
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】花篤 出
(72)【発明者】
【氏名】下楠薗 梨花子
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04752146(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0027498(US,A1)
【文献】意匠登録第1318651(JP,S)
【文献】特開2012-130432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 19/00
C09D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏平形状の固形描画材であって、
複数の前記固形描画材を合致させた状態で手指で保持し、複数の前記固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であり、正面形状が概ね円形であり、略平坦な平面部を有し、前記平面部の略中心部に凹部又は孔を有し、前記平面部の背面が盛り上がった形状であり、前記平面部の裏面側であってその略中心部に凹部又は凸部又は孔を有することを特徴とする固形描画材。
【請求項2】
単体の固形描画材は、通常の力でそれを被描画部に押し当てて、擦り動かすことにより、被描画部に固形描画材が被描画部に付着する部分と付着しない部分を表出させる様に調製されたものであり、
複数の固形描画材の塗布部を同時に被描画部に接触させて塗布することにより、被描画部に一つの固形描画材だけが付着した部分と、他の固形描画材だけが付着した部分と、複数の固定描画材が付着して混色され中間色となった部分が表出することを特徴とする請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
主要部の最大厚さが15mm以下であり、少なくとも一面に略平坦な平面部を有し、前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅が30mm以下であり、前記仮想四角形の長さが40mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固形描画材。
【請求項4】
前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅が30mm以下であり、且つ前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅と長さの比率が1:1から1:3であり、前記平面部を含む面の平均厚さが10mm以下であることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれかに記載の固形描画材。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれかに記載の固形描画材を多数使用し、生徒を対象として実施する教育方法であって、
前記多数の固形描画材には、複数の色のものがあり、且つ固形描画材は、各色それぞれ複数個存在し、
複数の広口容器に、前記固形描画材を色分けして収容し、
生徒には、前記広口容器から望みの固形描画材を取り出し、当該固形描画材を手で保持して被描画部に絵を描かせることを特徴とする教育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレヨンやパステル、オイルパステル等に類する固形描画材に関するものである。また本発明は、固形描画材を使用する教育方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固形描画材として、クレヨン、パステル、オイルパステル等が知られている。
ここでクレヨンは、顔料と固形ワックスを主成分とするものであり、顔料を固形ワックスで塗り固めたものである。
パステルは、顔料を結合材で固めたものである。
オイルパステルは、顔料と固形ワックスに加えて体質顔料と液体油が添加されたものである。
実際にはクレヨンにも体質顔料と液体油が添加されている場合が多いが、オイルパステルと称して販売されている固形描画材には、クレヨンと称して販売されている固形描画材に比べて体質顔料と液体油の添加量が多い。
なお代表的なオイルパステルとしては、株式会社サクラクレパスが製造販売する「クレパス」(株式会社サクラクレパスの登録商標)がある。
【0003】
クレヨンとオイルパステルは、固形ワックスを含有するので画用紙等の被描画部に対する定着性が優れている。そのため、被描画部に付着した顔料等は容易に剥がれ落ちることはない。
これに対してパステルは、前記した様に顔料を結合材で固めたものに過ぎないので、描画された状態においては、単に顔料が画用紙等の表面の凹凸に擦り付けられている状態となっている。そのためパステルは、容易に画用紙等から剥がれ落ちる。そのため仕上げに定着液を噴霧して顔料を画用紙等に付着することが必要である。
なお、洋裁に使用されるチャコは、布に線や印を付けるものであり、自由に絵を描いたり色を塗るものではなく、そもそも描画材ではない。またチャコでは、布に付した印が縫製後の被服に残ることが禁忌であり、パステルと同様に布から容易に剥がれ落ちる。
【0004】
従来技術のクレヨン、パステル、オイルパステル等の固形描画材は、いずれも棒状に成形されていた。使用者は、棒状の固形描画材を直接手で保持し、画用紙やキャンバス等の被描画部に線図を描いたり、色塗りを行う。
従来技術の固形描画材は、いずれも棒状であるから、使用者は一本ずつ手で保持し、被描画部に擦りつけて絵を描いたり、色塗りを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
未就学児や、小学校低学年の児童(以下 幼児と総称する)に対する情操教育の一つとして絵画教育がある。
幼児は手先の動きがぎこちなく、筆を自由に扱うことは難しい。そこで幼児に対しては、クレヨンやオイルパステルを使用して絵を描かせる場合が多い。クレヨンやオイルパステルは、直接、手で保持して使用するので、幼児であっても扱いやすい。
【0007】
ところで、従来技術のクレヨンやオイルパステルは、前記した様に棒状であり、幼児は一本ずつ手で持って線を描いたり、色塗りを行う。
従来技術のクレヨン等によって描かれる線や塗り面は単色であり、例え幼児であっても描く前から完成後が予測できるものである。
即ち従来技術のクレヨン等によって描かれる線や塗り面は、使用者が予測できる範囲を超えるものではなく、偶然の面白さを発現することはできない。
そのため幼児は、クレヨン等を手にとって絵を描いてみても、面白みを感じず、すぐに飽きてしまってクレヨン等を放り出してしまうことがある。
特に、思うような線図を描くことができなかった児童は、絵を描くこと自体に興味を失ってしまい、絵画教育の次の段階に進むことができない。
【0008】
幼児に対する絵画教育の第一歩は、絵を描くことに興味を持たせることであると言われている。従来技術のクレヨンやオイルパステルを使用した絵画教育では、幼児の何割かが絵を描くことに興味を抱くことができず、絵画教育を円滑に行うことができない場合がある。
【0009】
本発明は従来技術の上記した問題点に注目し、幼児等の使用者にとって予期しない現象が発現し、幼児等に描画に対する興味を蜂起させることができる固形描画材を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するための態様は、偏平形状の固形描画材であって、複数の前記固形描画材を合致させた状態で手指で保持し、複数の前記固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であり、正面形状が概ね円形であり、略平坦な平面部を有し、前記平面部の略中心部に凹部又は孔を有し、前記平面部の背面が盛り上がった形状であり、前記平面部の裏面側であってその略中心部に凹部又は凸部又は孔を有することを特徴とする固形描画材である。
本発明に関連する態様は、略平坦な平面部を有し、当該平面部の裏面側であってその略中心部に凹部又は凸部又は孔を有する固形描画材であって、複数の固形描画材の平面部を合致させた状態で手指で保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であることを特徴とする固形描画材である。
【0011】
ここで「略平坦な平面部」とは、当該面を重ねた際に、ぐらぐらしない程度に両者が合致する程度の平滑性を持つ面であり、完全な平面であることは要求されない。
「略中心部」とは、極端に偏りのある位置を除く意味の文言である。「略中心部」の位置は限定されるものではないが、例えば中心から、固形描画材の直径や長径の3分の1以内の領域に、凹部又は凸部又は孔の一部が入っておれば、「略中心部に凹部又は凸部又は孔を有する」と言える。
本発明に関連する態様の固形描画材を使用する際には、複数個を重ねて保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材を略同時に塗り付けを行う。
その結果、画用紙等の被描画部に予期しない混色の図柄が現れ、驚きを感じさせる。
例えば、青色と黄色の固形描画材を重ねて保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布すると、青単独の色が塗られた部分と、黄単独の色が塗られた部分と、青と黄色が混じった色に塗られた部分がランダムに現れる。さらに青と黄色の混じり具合の違う部分が現れ、意外性があって知的興味がそそられる。
また本態様の固形描画材は、裏面に凹凸があるので手指が滑りにくく、持ちやすい
【0012】
本発明に関連する態様は、略平坦な平面部を有し、当該平面部の略中心部に凹部又は孔を有する固形描画材であって、複数の固形描画材の平面部を合致させた状態で手指で保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であることを特徴とする固形描画材である。
【0013】
本態様の固形描画材は、平面部の略中心部に凹部や孔がある。そのため二つの固形描画材の平面部を合致させた際に、その中心部側は二つの固形描画材同士が接しない。その一方で、二つの平面部の縁部同士は合致し易い。そのため複数の固形描画材の縁部分を同時に被描画部に接触させ易い。
【0014】
本発明に関連する態様は、正面形状が概ね円形であり、周部に向かうに従って厚さが薄くなって行く形状の固形描画材であって、複数の固形描画材を合致させた状態で手指で保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であることを特徴とする固形描画材である。
【0015】
本態様の固形描画材は、周辺が薄いので紙に押しつけたときの応力が強く、描きやすい。本態様の固形描画材は、使うに従って厚さが増し、応力が軽減するが、使用者が慣れてくるので不自然さは感じない。
また本態様の固形描画材は、正面形状が概ね円形であるから、点接触や線接触に近い状態で紙を押しつけることもできる。そのため線図の線上に描画材を押し当て、線から描画範囲内に移動することにより、縁取りができる。
本態様の固形描画材は、使うに従って接触面の幅が広がり、且つ厚さが厚くなる部分ができる。また未使用の周部は依然として厚さが薄い。
厚さが厚い部位を使用すると、押しつけ応力が小さいので薄塗りができる。また斑模様を表出することもできる。
未使用の周部を使用すると濃塗りができる。
【0016】
本発明に関連する態様は、全体が偏平形状であり、且つ略平坦な平面部を有し、色違いの複数の固形描画材の平面部を合致させた状態で手指で保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であることを特徴とする固形描画材である。
【0017】
本態様によっても混色の描画が可能である。
【0018】
本発明に関連する態様は、偏平形状であり、なかほどが盛り上がった形状の固形描画材であって、複数の固形描画材を合致させた状態で手指で保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であることを特徴とする固形描画材である。
【0019】
本態様によっても混色の描画が可能である。
またもり上がった部分があるので剛性が高く割れにくい。
【0020】
本発明に関連する態様は、略平坦な平面部を有し、その背面が盛り上がった形状の固形描画材であって、複数の固形描画材の平面部を合致させた状態で手指で保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能であることを特徴とする固形描画材である。
【0021】
本態様によっても混色の描画が可能である。
またもり上がった部分があるので剛性が高く割れにくい。
【0022】
上記した課題を解決するための態様は、 偏平形状の固形描画材であって、
複数の前記固形描画材を合致させた状態で手指で保持し、複数の前記固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることが可能である。
【0023】
本態様によると混色の描画が可能である。
【0024】
上記した各態様において、正面形状が概ね円形であり、略平坦な平面部を有し、前記平面部の略中心部に凹部又は孔を有し、前記平面部の背面が盛り上がった形状であり、前記平面部の裏面側であってその略中心部に凹部又は凸部又は孔を有することが望ましい。
【0025】
上記した各態様において、単体の固形描画材は、通常の力でそれを被描画部に押し当てて、擦り動かすことにより、被描画部に固形描画材が被描画部に付着する部分と付着しない部分を表出させる様に調製されたものであり、 複数の固形描画材の塗布部を同時に被描画部に接触させて塗布することにより、被描画部に一つの固形描画材だけが付着した部分と、他の固形描画材だけが付着した部分と、複数の固定描画材が付着して混色され中間色となった部分が表出することが望ましい。
【0026】
上記した各態様において、主要部の最大厚さが15mm以下であり、少なくとも一面に略平坦な平面部を有し、前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅が30mm以下であり、前記仮想四角形の長さが40mm以下であることが望ましい。
【0027】
上記した各態様において、少なくとも一面に略平坦な平面部を有し、当該平面部を含む面の投影面積が16平方センチメートル以下であり、全体が偏平形状であって最大径に対する厚さの割合が4分の1以下であることが望ましい。
【0028】
上記した各態様において、前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅が30mm以下であり、且つ前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅と長さの比率が1:1から1:3であり、前記平面部を含む面の平均厚さが10mm以下であることが望ましい。
【0029】
教育方法に関する発明は、前記したいずれかの固形描画材を多数使用し、生徒を対象として実施する教育方法であって、前記多数の固形描画材には、複数の色のものがあり、且つ固形描画材は、各色それぞれ複数個存在し、複数の広口容器に、前記固形描画材を色分けして収容し、生徒には、前記広口容器から望みの固形描画材を取り出し、当該固形描画材を手で保持して被描画部に絵を描かせることを特徴とする教育方法である。
【0030】
「広口容器」は、生徒の手が入る程度の開口を有する容器であり、細かい形状や材質を限定するものでない。例えば、紙箱やプラスチックの箱を「広口容器」として使用してもよい。広口のガラス瓶を「広口容器」として使用してもよい。
「広口容器」の形状は、皿状やすり鉢状であってもよい。
【0031】
本発明に関連する描画方法に関する発明は、少なくとも一面に略平坦な平面部を有し、外接する仮想四角形の幅が30mm以下であり、且つ外接する仮想四角形の幅と長さの比率が1:1から1:3の固形描画材を複数使用し、複数の固形描画材の平面部を合致させた状態で手指で保持し、複数の固形描画材の一部を同時に被描画部に接触させて塗布し、複数の固形描画材による混色部分を表出させることを特徴とする描画方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の固形描画材及び描画方法は、使用者が予期しない現象が発現し、幼児等に描画に対する興味を蜂起させることができる。また本発明の教育方法についても、幼児等に描画に対する興味を蜂起させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施形態の固形描画材であり、(a)はその斜視図、(b)はその正面図、(c)はその側面図、(d)はその断面図、(e)はその背面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態の固形描画材であり、(a)はその斜視図、(b)はその正面図、(c)はその側面図、(d)はその断面図、(e)はその背面図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施形態の固形描画材であり、(a)はその斜視図、(b)はその正面図、(c)はその側面図、(d)はその断面図、(e)はその背面図である。
【
図4】本発明の実施形態の固形描画材の使用形態を示し、(a)は固形描画材を保持した斜視図、(b)は固形描画材を他の持ち方で保持した斜視図、(c)固形描画材を2個重ねた状態の正面図、(d)はその側面図、(e)はその断面図である。
【
図5】
図4に示す使用形態での使用により表出した図柄を説明する説明図であり、(a)は青色の固形描画材によって表出した図柄、(b)は黄色の固形描画材によって表出した図柄、(c)は実際に画用紙上に表出した図柄である。
【
図6】複数の広口容器に固形描画材が収容された状態を示す斜視図である。
【
図7】固形描画材を使用して絵を描いている状態を説明する説明図である。
【
図8】本発明の実施形態の固形描画材で縁取りを行う場合の状態を示す斜視図である。
【
図9】(a)(b)は、固形描画材の減り具合を説明する説明図である。
【
図10】(a)(b)(c)(d)は、本発明の他の実施形態の固形描画材の正面図と側面断面図である。
【
図11】本発明の固形描画材の使用例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
以下に示す実施形態の固形描画材は、いずれもその成分及び配合がオイルパステルと同様であり、顔料と固形ワックスを含有し、さらに体質顔料と液体油が添加されたものである。
【0035】
顔料、固形ワックス、体質顔料及び液体油の配合割合は、限定されるものではないが、出来上がった固形描画材の硬度は、通常の力で被描画部に押し当てて、擦り動かすことにより、固形描画材が被描画部に付着する部分と付着しない部分が表出する様に調製されている。
【0036】
以下に示す実施形態の固形描画材は、その形状が特異であり、従来技術とは大きく異なる。代表的なものとして、
図1乃至
図3を例示する。
図1乃至
図3に示す固形描画材1、10、20は、いずれも偏平な円盤状であり、その一方の面が略平坦面であり、他方の面が盛り上がっている。
【0037】
説明の都合上、平坦な側を平面側Aと称し、その裏面であって盛り上がっている側を隆起側Bと称する。
図1に示す固形描画材1は、
図1(a)の様に概観形状が偏平な円盤状である。固形描画材1の正面形状の輪郭線2は、
図1(b)の様に概ね円形である。即ち、固形描画材1の輪郭線2はいびつであり、多少の出入りはあるものの、不連続や突発状の凹凸を除くと、円に近似することができる形状である。
【0038】
固形描画材1は、
図1(c)(d)の様に周辺部(輪郭線2側)の厚さが薄く、中央に向かうに連れてしだいに厚さが厚くなっている。本実施形態の固形描画材1では、一方の面(平面側A)が略平坦面であり、隆起側Bを盛り上げ形状とすることにより、全体の厚さが中央に向かうに連れて厚くなっている。即ち固形描画材1の隆起側Bは、中心に向かうにつれて盛り上がった隆起部3を構成している。ただし、隆起側Bの中心には外面側凹部5がある。
これに対して固形描画材1の平面側Aは、概ね平坦な平面部6を有している。当該平面部6は、少なくとも前記した隆起側Bに比べて平滑である。ただし平面部6の中央には合致面側凹部7がある。
【0039】
図2に示す固形描画材10は、前記した
図1の固形描画材1と略同様の形状であるが、隆起側Bの中央の形状がやや異なる。
即ち
図2に示す固形描画材10も、概観形状が偏平な円盤状である。
固形描画材10についても、周辺部(輪郭線12側)の厚さが薄く、中央に向かうに連れてしだいに厚さが厚くなっている。本実施形態の固形描画材10でも、一方の面(平面側A)が略平坦面であり、隆起側Bを盛り上げ形状とすることにより、全体の厚さが中央に向かうに連れて厚くなっている。即ち固形描画材10の隆起側Bは、中心に向かうにつれて盛り上がった隆起部3を構成している。
図2に示す固形描画材10では、隆起側Bの中心近傍がやや窪み、その内部が少しだけ突出して凸部15を構成している。
固形描画材10の平面側Aは、略平坦な平面部16となっている。ただし平面部16の中央には合致面側凹部17がある。
【0040】
図3に示す固形描画材20は、前記した
図1、
図2の固形描画材1、10と略同様の形状であるが、隆起側Bの中央の形状がやや異なる。
即ち
図3に示す固形描画材20も、概観形状が偏平な円盤状である。
固形描画材20についても、周辺部(輪郭線22側)の厚さが薄く、中央に向かうに連れてしだいに厚さが厚くなっている。本実施形態の固形描画材20でも、一方の面(平面側A)が略平坦面であり、隆起側Bを盛り上げ形状とすることにより、全体の厚さが中央に向かうに連れて厚くなっている。即ち固形描画材20の隆起側Bは、中心に向かうにつれて盛り上がった隆起部23を構成している。
そして
図3に示す固形描画材20では、中央に孔25があり、当該孔25は平面側Aに貫通している。
固形描画材20の平面側Aは、前記した孔25を除いて略平坦な平面部26となっている。
【0041】
次に固形描画材1、10、20の大きさについて説明する。
固形描画材1、10、20の大きさは略同じであるから、代表して
図1の固形描画材1について説明する。
固形描画材1の輪郭には、バリの様な不連続な突出部や凹部があるが、これらを無視して概視的に円形に近似した場合、その直径Dは、20mmから30mm程度である。またバリ状の突出部を除いた実質的な厚さWは、5mmから15mm程度である。
【0042】
次に、固形描画材1、10、20の使用方法について説明する。固形描画材1、10、20の作用効果は略同じであるから、代表して
図1の固形描画材1について説明する。
本実施形態では、異なる色の固形描画材1を任意の数だけ選び出す。例えば複数の固形描画材1から2個の固形描画材1a、1bを選定する。
そして
図4の様に2個の固形描画材1a、1bの平面部6同士を重ねる。
平面部6の面積は、平面側Aの少なくとも半分以上、より好ましくは70パーセント以上を占める。また平面部6は略平滑である。さらに本実施形態の固形描画材1では、平面側Aの中心に合致面側凹部7があり、
図4(e)の様に、固形描画材1a、1bの平面部6同士を重ねた際に、中心同士は接触しない。そのため固形描画材1a、1bの周部は、浮き上がり状態となりにくく、固形描画材1a、1bの平面部6同士は、実質的に密接状態となる。
【0043】
さらに2個の固形描画材1a、1bの平面部6の形状や大きさが略等しいので、
図4(d)の様に平面部6同士は、あたかも一体的に合致する。即ち2個の固形描画材1a、1bの周部が出入り少ない状態で合致する。
【0044】
固形描画材1a、1bの合致形状は周部の厚さが比較的薄く中央部が厚い形状となる。
また
図4(e)の様に隆起側Bがいずれも外側に位置し、その中心に外面側凹部5が位置することとなる。
【0045】
使用者は、
図4(a)の様に親指の腹と人指し指の腹で、隆起側Bを挟む。或いは、
図4(b)の様に親指の腹と中指の側面で隆起側Bを挟み、人指し指の腹で固形描画材1a、1bの合致部を押さえる。
例えば
図1に示す固形描画材1では、隆起側Bの中心に外面側凹部5がある。そのため使用者の指が外面側凹部5に引っ掛かり、手が滑りにくい。
図2に示す固形描画材10では、隆起側Bの中心に窪みと突起がある。そのため使用者の指が突起15に引っ掛かり、手が滑りにくい。
図3に示す固形描画材20では、隆起側Bの中心に孔25がある。そのため使用者の指が孔25に引っ掛かり、手が滑りにくい。
【0046】
この様に色違いの固形描画材1a、1bを手指で保持し、両者の周部を同時に画用紙等の被描画部100に擦り付ける。即ち固形描画材1a、1bの周部を同時に画用紙等の被描画部100に押し当て、両者の合致面に対して交差する方向(
図4の矢印の方向)に擦り動かす。
その結果、二つの固形描画材1の顔料が、被描画部100の同一領域に擦りつけられる。
本実施形態では、固形描画材1a、1bの平面部6は略平滑であり、固形描画材1a、1bの平面部6同士は、実質的に密接状態となっているから、被描画部100に擦り付ける際に、固形描画材1a、1b同士はずれ動くことは少なく、ぐらぐらしない。
【0047】
被描画部100の着色部は、
図5(c)の様に、一方の固形描画材1a単独の色が付着した部分101と、他方の固形描画材1b単独の色が付着した部分102と、両者が入れ混じって異なる色相を呈する部分(混色部分)103ができる。
例えば、一方の固形描画材1aの色相が青であり、他方の固形描画材1bの色相が黄であるならば、被描画部100には、青い部分と、黄の部分と、緑の部分が入れ混じった状態となる。即ち被描画部100には、中間色の部分(混色部分)103があらわれる。
【0048】
以下、この理由を説明する。
固形描画材1は、固形であり、絵の具等の様にべた塗り状態とはならない。特に本実施形態では、固形描画材1は、通常の力で被描画部100に押し当てて、擦り動かすことにより、被描画部100に固形描画材が被描画部に付着する部分と付着しない部分が表出する様に調製されている。
【0049】
そのため、画用紙等を着色すべく固形描画材1を擦りつけて塗布しても、紙面の微小な凹凸や、固形描画材1の表面形状、力の入れ具合により、斑模様に塗り付けられることとなる。
例えば固形描画材1aの青色顔料は、
図5(a)の様に、斑模様に塗り付けられる。青色顔料は、海島状に塗り付けられ、島(以下、青色島部)110に相当する部分が着色部であり、海(以下、青色海部)111に相当する部分には青色顔料はない。
同様に、固形描画材1bの黄色顔料も、
図5(b)の様に、斑模様に塗り付けられる。黄色顔料は、海島状に塗り付けられ、島(以下、黄色島部)120に相当する部分が黄色部であり、海(以下、黄色海部)121に相当する部分には黄色顔料はない。
【0050】
本実施形態では、固形描画材1aによる青色顔料の海島状の塗り付けと、固形描画材1bによる黄色顔料の海島状の塗り付け(塗布)が略同時に行われる。
そのため前記した
図5(a)の青色顔料の海島状の斑模様と、
図5(b)の黄色顔料の海島状の斑模様が
図5(c)の様に重なる。
【0051】
その結果、前記した様に、被描画部100には、青い部分(101の部分)と、黄の部分(102の部分)と、緑の部分が入れ混じった部分(102の部分)という不思議な模様が瞬時に現れる。
即ち青色顔料が無い青色海部111に、黄色顔料の黄色島部120が重なると、当該部位は、黄色の単色が表出する。
逆に黄色顔料が無い黄色海部121に、青色顔料の青色島部110が重なると、当該部位は、青色の単色が表出する。
これに対して、青色顔料が存在する青色島部110に、黄色顔料が存在する黄色島部120が重なると、当該部位は、青色と黄色とが混色されて緑色が表出する。また各島部によって各単色の濃度が異なるので、青色島部110と黄色島部120が重なって出現する緑色(混色部分)は多様であり、黄色に近い緑部分もあり、青に近い緑部分もある。
さらに、島部110、120同士が完全に重なるということはむしろ稀であり、島部110、120同士の一部が重なることとなる。そのため両者の境界部分は、原色と混合色が入れまじる。
【0052】
本実施形態の固形描画材1を使用して色を塗ると、上記した様な複数色の原色領域と、混合割合が異なる混色部分が瞬時に現れる。そのため、使用者に新鮮な驚きを与えることができる。
【0053】
本実施形態の固形描画材1、10、20は、幼児の情操教育に活用することができる。例えば
図6の様な、上部が大きく開口する広口容器40を複数用意し、これに固形描画材1、10、20を色分けして収容する。
例えば広口容器40aには黄色、広口容器40bには緑、広口容器40cには青、広口容器40dには赤、広口容器40eには橙、広口容器40fには白をそれぞれ多数収容する。
【0054】
そしてこれを
図7の様に大きなテーブル200上に置き、その周囲に幼稚園児等の生徒が配置される。生徒は、広口容器40から好きな色の固形描画材1、10、20を取り出し、画用紙等の被描画部100に塗る。
前記した様に、複数色の原色領域と、混合割合が異なる混色部分が瞬時に現れ、生徒に新鮮な驚きを与える。生徒は知的興味をいだき、絵を描く、そしてより難しい絵画の製作を行うきっかけを掴む。
【0055】
幼稚園に就学する前の幼児は、単に画用紙に色を塗り付けるだけであるが、年齢が進むと、線図を描いたり、塗り絵を好むこととなる。
本実施形態の固形描画材1、10、20は、複数の固形描画材1、10、20を合致させた状態においても周部(縁)の幅が狭い。
そのため
図8の様に、塗り絵の線
図130に合致状態の固形描画材1、10、20を押し当てることによって縁取りを行うことができる。
【0056】
線図の縁取りをして、そこから色を塗って行く様な用途に使用するには、固形描画材1、10、20の合致部の幅が狭い部分を使用することが望ましい。また広い面を塗る場合には、固形描画材1、10、20の合致部の幅が広い部分を使用することが望ましい。
本実施形態の固形描画材1、10、20は、正面形状が円形であり、且つ周部の厚さが薄く、中程に行くほど厚さが厚くなる。
そのため新品状態の固形描画材1、10、20を重ねた場合の周部は、厚さが薄く、縁取り用として好適である。
【0057】
これに対して固形描画材1、10、20を使い込んで磨耗すると、紙との接触面積が加速度的に増大する。従って、面を塗る場合には、すり減った状態の固形描画材1、10、20を使用することが推奨される。
縁取りを多用する場合には、
図9(a)の様に周囲を順送り状に使用していくことが望ましい。
また面塗りを多用する場合には、
図9(b)の様に同じ部位を続けて使用してゆくことが望ましい。
図9(b)の様に同じ部位を続けて使用すると、最初は紙等との接触面積が小さく、単位面積当たりの押しつけ力が強いので、綺麗に塗ることができる。使用に従って、紙等との接触面積が大きくなって行き、単位面積当たりの押しつけ力が弱まって行くが、そのころには、固形描画材1、10、20が手に馴染み、使用者も慣れる。そのため綺麗に塗ることができる。
【0058】
以上説明した実施形態では、固形描画材の形状はいずも円盤状であるが、本発明は、この構成に限定されるものではない。
例えば、
図10(a)に示す固形描画材50の様に偏平な長方形や、正方形等の四角形であってもよい。また
図10(b)に示す固形描画材51の様に三角形であってもよい。さらに台形や
図10(c)の固形描画材52の様な5角形以上の多角形であってもよく、曲線と直線が入れ混じった形状てあってもよい。
図10(d)の固形描画材53の様に、偏平であるが平面部を持たない形状であってもよい。
【0059】
次に、固形描画材の望ましい大きさについて説明する。
本発明の固形描画材は、幼児を主たる使用者として開発されたものである。そのため幼児の手に合う大きさであることが望ましい。即ちサイズが大きいと、幼児の手では保持しにくい。また紙等との接触面積が大きくなり、幼児の力では、顔料を紙等に付着させにくいものとなってしまう。
【0060】
この様な観点から、主要部の最大厚さが15mm以下であり、少なくとも一面に略平坦な平面部を有し、前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅が30mm以下であり、前記仮想四角形の長さが40mm以下であることが推奨される。
即ち各図に一点鎖線で示す様な、仮想四角形を想定したとき、主要部の最大厚さWが15mm以下であることが望ましい。平面部6、16、26を含む面に外接する仮想四角形(一点鎖線)の幅Lbが30mm以下であり、仮想四角形の長さLaが40mm以下であることが推奨される。なお本実施形態では、仮想四角形(一点鎖線)の辺の長い側を長さLaとし、短い側を幅Lbとしている。
【0061】
また平面部6を含む面の投影面積が16平方センチメートル以下であり、全体が偏平形状であって最大径Dに対する厚さWの割合が4分の1以下であることが推奨される。
【0062】
また平面部6を含む面に外接する仮想四角形(一点鎖線)の幅Lbが30mm以下であり、且つ前記平面部を含む面に外接する仮想四角形の幅と長さの比率が1:1から1:3であり、前記平面部を含む面の平均厚さが10mm以下であることが推奨される。
【0063】
本発明の固形描画材は、幼児が使用することを想定して開発されたものであるが、勿論大人が使用しても楽しい。
【0064】
上述した使用例は、いずれも固形描画材1を2個重ねて使用したが、
図11に示すように、3個以上の固形描画材1を重ねて使用してもよい。
【0065】
上述した実施形態の固形描画材1等は、成分がオイルパステルと同じであるが、クレヨンやパステルの成分に近いものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1、10、20 固形描画材
3 隆起部
5 外面側凹部
15 凸部
6、16、26 平面部
7、17 合致面側凹部
25 孔
40 広口容器
50、51、52、53 固形描画材
100 被描画部
103 中間色の部分(混色部分)