(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】超音波接合装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20230201BHJP
B29C 65/08 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
B23K20/10
B29C65/08
(21)【出願番号】P 2020549308
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037673
(87)【国際公開番号】W WO2020067198
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2018185354
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518347587
【氏名又は名称】株式会社LINK-US
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光行 潤
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-064779(JP,A)
【文献】実開平01-139986(JP,U)
【文献】特開2011-110839(JP,A)
【文献】特開2015-016504(JP,A)
【文献】特開2017-162635(JP,A)
【文献】特許第4874445(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
B29C 65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、当該第1部材と対向する位置に配置された第2部材との間に重ねられた複数のワークを、当該第1部材が押圧する方向に垂直な第1方向の振動成分と当該第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた超音波振動によって当該第1部材を振動させることにより、当該複数のワークを接合する超音波接合装置であって、
前記第1部材を介して前記複数のワークに圧力を加える加圧部を備え、
前記第1部材と前記第2部材のうち少なくとも一方の当接面に、相互に離間している、開口縁が閉じた複数の凹部を有し、
前記第1方向と前記第2方向の振動成分を複合させて生じる超音波振動によって前記開口縁が楕円リング形状を描
き、前記開口縁の前記第1方向の幅と当該第1方向の振動成分の大きさ、及び当該開口縁の前記第2方向の幅と当該第2方向の振動成分の大きさがそれぞれ対応関係にあることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波接合装置において、
前記第1部材の前記複数のワークに対する押し込み量を取得するセンサと、
前記センサの信号を受信して前記加圧部を制御する制御部と、を備えていることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の超音波接合装置において、
前記凹部の前記開口縁が面取り加工されていることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項4】
請求項1
~3の何れか1項に記載の超音波接合装置において、
前記第1部材は、接合用チップであり、
前記第2部材は、アンビルであることを特徴とする超音波接合装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の超音波接合装置において、
前記接合用チップの先端部の中心領域に少なくとも1つ以上の突起部を有し、当該中心領域の外側の外側領域に前記複数の凹部を有し、
前記突起部は、前記接合用チップの先端部の端面よりも突出していることを特徴とする超音波接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動により金属、プラスチック等のワークを接合する超音波接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品パック等に用いられるプラスチック、電池部品等の金属を接合するため、超音波接合(超音波溶接)が利用されている。一般的な超音波接合装置は、接合用チップの先端を超音波振動させ、接合対象物に繰り返し圧力を加えることにより接合する。
【0003】
例えば、下記の特許文献の超音波金属接合装置は、超音波発振器と、超音波発振器の発振した電気信号から超音波振動を発生させるBLT振動子と、BLT振動子から発生した超音波振動を伝達する共振体としてのコーンと、超音波共振体としてのホーンと、ホーンの先端付近に取り付けられた超音波接合ツールとを有している。
【0004】
超音波金属接合装置の下方には、超音波接合ツールの先端面と平行に、被接合金属を載置するアンビルが配置されている。超音波金属接合装置は、アンビルに対し相対的に移動可能であり、超音波接合ツールの先端面を第2の銅板の接合部の上面に当接させ、ツール長さ方向(下方)への接合荷重を加えつつ横方向の超音波振動を印加することで、第1の銅板と第2の銅板とを超音波接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1:特許第4874445号公報
【0006】
また、超音波接合装置において、接合用チップの先端部を加工して、接合を促進する技術がある。工具ホーンは、太い円柱部分と細い円柱部分を曲面でつないだ円柱状をして、細い円柱部分の先端周面に直方体の押圧部を径方向に盛り上げた形(ローレット加工による突起を格子状)としている。これにより、接合対象物に対して一定時間、圧力と超音波振動を加えて、安定的に固相接合をすることができる(日本国特開2014-213366号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献(特開2014-213366号公報)のように接合用チップに突起部を形成した場合、接合時に突起部のみが接合対象物に当接し、他の部分はほとんど当接しない。従って、このような接合用チップによる接合では、突起部が接合対象物を押し込むことで接合面が薄くなり、接合強度が低下するという問題があった。
【0008】
また、超音波接合装置では、通常、特許文献1のように接合用チップを水平方向に振動(直線振動)させるが、接合用チップのエッジ部で接合対象物が破断してしまうことがあり、十分な接合強度が得られなかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ワークの接合強度を向上させることができる超音波接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1部材と、当該第1部材と対向する位置に配置された第2部材との間に重ねられた複数のワークを、当該第1部材が押圧する方向に垂直な第1方向の振動成分と当該第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた超音波振動によって当該第1部材を振動させることにより、当該複数のワークを接合する超音波接合装置であって、前記第1部材を介して前記複数のワークに圧力を加える加圧部を備え、前記第1部材と前記第2部材のうち少なくとも一方の当接面に、相互に離間している、開口縁が閉じた複数の凹部を有し、前記第1方向と前記第2方向の振動成分を複合させて生じる超音波振動によって前記開口縁が楕円リング形状を描き、前記開口縁の前記第1方向の幅と当該第1方向の振動成分の大きさ、及び当該開口縁の前記第2方向の幅と当該第2方向の振動成分の大きさがそれぞれ対応関係にあることを特徴とする。
【0011】
本発明の超音波接合装置では、第1部材と第2部材との配置方向(水平方向、傾斜方向)に関係なく、加圧部により第1部材で接合対象の複数のワークを押圧し、当該押圧の方向に垂直な第1方向の振動成分と当該第1方向に垂直な第2方向の振動成分とを複合させた複合振動により、第1部材を振動させる。
【0012】
超音波接合装置は、第1部材と第2部材のうち少なくとも一方の当接面に、相互に離間し、開口縁が閉じた複数の凹部が設けられている。凹部は島状の離散的な配置とされ、凹部以外の部分(後述する平坦部)は連続的に形成されているため、ワークの押圧部分がネットワークのように接続されて、接合強度が向上する。これにより、直線振動と比較して、第1部材のストロークを小さく抑えることができる。また、従来の凸部による押圧と比較してワークの押し込み量を小さくしても、十分な接合強度を得ることができる。
【0013】
本発明の超音波接合装置において、前記第1部材の前記複数のワークに対する押し込み量を取得するセンサと、前記センサの信号を受信して前記加圧部を制御する制御部と、を備えていることが好ましい。
【0014】
本発明の超音波接合装置では、第1部材がワーク表面に圧力を加えて接合する際、センサがワークに対する押し込み量を取得する。また、制御部は、センサの信号を受信して第1部材によるワークの圧力を制御するので、ワークの接合面に過剰に高い圧力がかからないようにすることができる。
【0015】
また、本発明の超音波接合装置において、前記開口縁の前記第1方向の幅と当該第1方向の振動成分の大きさ、及び当該開口縁の前記第2方向の幅と当該第2方向の振動成分の大きさがそれぞれ対応関係にあることが好ましい。
【0016】
例えば、凹部の開口縁が楕円形であるとき、第1方向の幅(例えば、長軸幅)と当該第1方向の振動成分の大きさに対応関係があり、凹部の開口縁の第2方向の幅(例えば、短軸幅)と当該第2方向の振動成分の大きさに同じく対応関係がある。さらに、第1方向の振動成分が開口縁の長軸幅に対応して大きく、第2方向の振動成分が開口縁の短軸幅に対応して小さい複合振動によって第1部材を振動させる。これにより、複合振動が滑らかになり、凹部でワーク表面が削れてしまうことを防止し、接合部分の肉厚を確保することができる。
【0017】
また、本発明の超音波接合装置において、前記凹部の前記開口縁が面取り加工されていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、第1部材又は第2部材に設けられた凹部の開口縁が面取り加工されていることで、接合時にワーク表面に皺ができたり、破断したりすることを防止することができる。
【0019】
また、本発明の超音波接合装置において、前記第1部材は、接合用チップであり、前記第2部材は、アンビルであることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、第1部材は接合用チップであり、例えば、接合用チップの先端部に凹部を設けることで、ワークを押圧しつつ、複合の超音波振動によって確実にワークを接合することができる。
【0021】
また、本発明の超音波接合装置において、前記接合用チップの先端部の中心領域に少なくとも1つ以上の突起部を有し、当該中心領域の外側の外側領域に前記複数の凹部を有し、前記突起部は、前記接合用チップの先端部の端面よりも突出していることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、接合用チップの先端部の中心領域に設けられた突起部が、当該先端部の端面よりも突出していることで、接合直前の静圧力をかけた状態でワークを押し込む。これにより、ワーク同士の滑りを抑制しつつ、確実にワークを接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る超音波接合装置の全体構成を説明する図。
【
図2A】超音波接合装置のホーンチップの詳細を説明する図。
【
図2B】(a)ホーンチップの先端部を底面側から見た図。(b)ホーンチップの先端部を側面側から見た図。
【
図3A】(a)接合時のホーンチップ(円形ディンプル)の複合振動を説明する図。(b)
図3A(a)中の領域S1の拡大図。
【
図3B】(a)接合時のホーンチップ(楕円形ディンプル)の複合振動を説明する図。(b)
図3B(a)中の領域S2の拡大図。
【
図4A】接合時のホーンチップとワークの断面の様子を説明する図(加圧前)。
【
図4B】接合時のホーンチップとワークの断面の様子を説明する図(加圧後)。
【
図5A】ホーンチップ(変更形態)の先端部の斜視図。
【
図5B】ホーンチップ(変更形態)による接合時の側面図。
【
図6B】アンビル(変更形態)による接合時の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の超音波接合装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
初めに、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る超音波接合装置1の全体構成を説明する。超音波接合装置1は、金属板等の接合対象物(ワーク)を後述する超音波複合振動を利用して接合(溶接)する装置である。超音波接合装置1は、主にリチウムイオン電池、半導体素子等の電極、同種又は異種の金属の接合に用いられる。
【0026】
超音波接合装置1は、超音波振動子2と、超音波拡大ホーン3と、超音波LT(Langevin Type)ホーン4と、ホーンチップ6と、アンビル7とで構成されている。また、発振装置8、加圧装置10、センサ12、制御装置13、表示装置14も超音波接合装置1の一部である。
【0027】
電源(図示省略)から発振装置8に電源電圧を印加すると、超音波振動子2の+電極及び-電極に電圧信号が伝達され、超音波振動子2が振動し、超音波振動(約20KHz)が発生する。超音波振動子2で発生した超音波振動は、超音波振動子2の一端部に取り付けられた円筒状の超音波拡大ホーン3に伝達され、振動振幅が拡大される。さらに、超音波振動は、超音波拡大ホーン3の一端部(超音波振動子2でない側の端部)に取り付けられた円筒状の超音波LTホーン4に伝達される。
【0028】
ここまで、超音波振動子2で発生した超音波振動は、超音波拡大ホーン3と超音波LTホーン4の長軸方向に伝達されたが(超音波の縦振動)、超音波LTホーン4の複数の斜めスリット4aにより、縦振動から横振動に変換した振動成分が生じる。そして、超音波振動(複合振動)は、超音波LTホーン4の一端部(超音波拡大ホーン3でない側の端部)にネジ止めされたホーンチップ6(本発明の「接合用チップ」及び「第1部材」に相当)に伝達される。
【0029】
ホーンチップ6は、円錐台状の基体部6aと、接合時にワークWと接触する先端部6bとからなる。すなわち、発振装置8で超音波振動の位相を調整することにより、超音波LTホーン4の一端部で複合振動(例えば、楕円振動)が生じ、ホーンチップ6の先端部6bがワークWの表面を楕円軌道を描いて振動する。この振動はワークWの表面の不純物を排除し、さらにワークWの表面の塑性変形を促進する。なお、ホーンチップ6は様々な形状があり、ワークWの種類に応じて交換して使用することができる。
【0030】
複合振動について補足すると、これは、ホーンチップ6の先端部6b(端面6c)がワークWを押圧したとき、押圧の方向に垂直な第1方向の振動成分と、第1方向に直交する第2方向の振動成分とを複合させた振動である。第1方向の振動成分と第2方向の振動成分が1:1であれば円形振動、2:1ならば楕円振動となる。
【0031】
また、超音波拡大ホーン3のフランジ部3aに剛性の高い加圧用ブロック(図示省略)が接触している。このため、制御装置13(本発明の「制御部」に相当)により加圧装置10(本発明の「加圧部」に相当)を制御し、昇降動作する加圧用ブロックを介して超音波接合装置1を垂直方向に移動させることができる。そして、台座であるアンビル7(本発明の「第2部材」の一例)上にワークWを載置しておくことで、ホーンチップ6の先端部6bがワークWに接触して静圧力(接合時は200~800N)が加わるようになっている。
【0032】
さらに、加圧用ブロックの変位を検出するセンサ(ストロークセンサ)12があり、ホーンチップ6のワークWの押し込み量を取得している。センサ12は、接合時のホーンチップ6の垂直方向の座標変化を制御装置13にフィードバック(破線は帰還信号)することで、押し込み量が一定に保持される。このため、加圧装置10には、応答速度が速いアクチュエータが用いられている。
【0033】
押し込み量は、表示装置14から作業者が設定することができる。また、センサ12に加えて圧力センサを備え、静圧力を一定に保持するように制御してもよい。このように、ワークWの接合時には、押し込み量又は静圧力を調整しながら複合振動を与えることで確実に接合(固相接合)が促進される。
【0034】
ここで、固相接合について補足すると、例えば、金属原子は、その表面が油脂、酸化被膜等で覆われ、原子同士の接近が妨げられた状態となっている。超音波接合では、金属に超音波振動を与えて、金属表面に強力な摩擦力を発生させる。これにより、金属表面の酸化被膜等が除去され、接合面に清浄かつ活性化した金属原子が現れる。
【0035】
この状態で、さらに金属表面に超音波振動を与えることにより、摩擦熱による温度上昇で原子の運動が活発となり、原子間の相互引力が発生し、固相接合の状態が生成される。
【0036】
次に、
図2A、
図2Bを参照して、ホーンチップ6の詳細について説明する。
【0037】
図2Aに示すように、ホーンチップ6の基体部6aは高さが25.7mm、超音波LTホーン4と接続するフランジ部6a’の直径が15mmであり、先端部6bに近づくにつれて直径が小さく(10mm)なるように加工されている。基体部6aをこのような形状とすると、小さな断面積の部分に振動を集中させて、超音波振動を拡大させる効果がある。
【0038】
先端部6bは、基体部6aの先端に取り付けられた円錐台状の突起(高さ2.0mm)であり、
図2B(a)に示すように、先端部6bの端面6cに複数のディンプルD(本発明の「凹部」に相当)が形成されている。ディンプルDは、先端部6b(端面6c)の外周縁より内側に、開口縁が相互に離間した状態で、すなわち、離散的な配置で形成されている(合計22個)。
【0039】
ホーンチップ6において、端面6cの全面積に対するディンプルDの開口の合計面積の比率が0.10~0.45の範囲(標準値は0.188)であるとき、接合時の静圧力が最も適切な値となる。面積比率が上記範囲よりも小さい(平坦部が広い)と、ホーンチップ6はワークWに対して滑ってしまう。一方、面積比率が上記範囲よりも大きい(平坦部が狭い)と、接合時の圧力が大きくなり、接合部分が薄肉化してしまう。
【0040】
また、
図2B(b)に示すように、ディンプルDの直径は0.4mmであり、深さは0.1mmである。もちろん、ディンプルDのサイズ及び個数は、これに限られるものではない。
【0041】
ディンプルDの開口は、相互に離間した開口縁が閉じた形状であれば、楕円形、多角形等であってもよい。ホーンチップ6の端面6cに複数のディンプルDを設けることで、従来のローレット(凸部)よりもワークWに加わる静圧力が均一化され、圧力のかかる接合面積が増大する。これにより、ワークWの接合強度を向上させることができる。
【0042】
次に、
図3A、
図3Bを参照して、接合時のホーンチップ6の複合振動について説明する。
【0043】
図3A(a)は、ワークWを上方から見たときのホーンチップ6の1つのディンプルD(開口縁は太線)の移動を示している。ここでは、ホーンチップ6の複合振動に伴い、ディンプルDの開口縁が斜線部のようなリング形状を描く。なお、ホーンチップ6の振幅は、通常10μm以下である。
【0044】
図3A(b)は、
図3A(a)の領域S1の拡大図である。
図3A(b)において、円形の矢印はディンプルDの開口縁の1点が描く軌跡であり、領域A
1(斜線部)の部分が押圧される。領域B
1はディンプルDの内側に入る部分である。また、領域B
2はディンプルDの外側に位置するため、ホーンチップ6の先端部6b(平坦部)で押圧され、押圧部分がネットワークのように接続される。
【0045】
従来の直線振動は、ホーンチップ6を一方向(例えば、x軸方向)に往復させるため、ホーンチップ6を振動させた状態で進行方向を切り替える必要があり、その結果、接合時にワークWに皺、破断部等が生じることがあった。この点、円形振動では進行方向を切り替える必要がなく、ワークWの同じ表面積を接合する場合、直線振動よりもホーンチップ6のストローク(擦る幅)を小さく抑えることができる。これにより、ワークWに生じる皺及び破断部を低減し、接合の方向性のない高い接合強度を得ることができる。
【0046】
真円の円形振動では、x軸方向の速度ベクトルをVx、y軸方向の速度ベクトルをVyとしたとき、Vx:Vy=1:1の対応関係がある。しかし、通常、何れか一方の直線振動成分の方が大きい。例えば、Vx:Vy=2:1の関係があれば、ディンプルDの軌道は、x軸方向に長い楕円形の複合振動(楕円振動)となる。
【0047】
また、
図3B(a)に示すように、開口縁が楕円形(太線)のディンプルD’を採用することもできる。この場合、ホーンチップ6の複合振動に伴い、ディンプルD’の開口縁が斜線部のような楕円リング形状を描くように制御することが好ましい。
【0048】
図示するように、ディンプルD’の開口縁の長軸方向(x軸方向)の幅を幅a、短軸方向(y軸方向)の幅を幅bとしたとき、x軸方向の速度ベクトルVxとy軸方向の速度ベクトルVyの関係は、Vx>Vyとすることが好ましい。より好ましくは、Vx:Vy=a:bの対応関係とすることで楕円振動は滑らかになり、接合時にワークWに生じる皺及び破断部を低減することができる。
【0049】
図3B(b)は、
図3B(a)の領域S2の拡大図である。
図3B(b)において、楕円形の矢印はディンプルD’の開口縁の1点が描く軌跡であり、領域A
2(斜線部)の部分が押圧される。領域B
3はディンプルD’の内側に入る部分である。また、領域B
4はディンプルD’の外側に位置する部分であるため、ホーンチップ6の先端部6bで押圧され、押圧部分がネットワークのように接続される。
【0050】
ディンプルD’の開口縁がx軸に対して所定角度だけ起立している場合も考えられる。この場合、x軸方向の幅を幅a’、y軸方向の幅を幅b’として、例えば、Vx:Vy=a’:b’の対応関係の楕円振動となるようにホーンチップ6を制御すればよい。
【0051】
次に、
図4A、
図4Bを参照して、接合時のホーンチップ6とワークWの断面の様子について説明する。
【0052】
図4Aは、加圧用ブロックにより加圧されたホーンチップ6(先端部6b)がワークWに静圧力を加える直前の状態を示している。図示するように、ディンプルDは半球状の凹部であるが、その深さが半球の半径よりも浅くなっている。これは、ディンプルDがある程度深く、エッジ部分が略垂直である場合、接合時にワークWの表面に皺ができたり、破断したりする原因となるためである。
【0053】
また、領域Eに示すように、ディンプルDのエッジ部分は、面取り加工された曲面形状となっている。エッジ部分の曲率半径は、10~100μmの範囲であることが好ましい。このような形状、数値とすることで、接合時にワークWの表面が均され、皺等が生じ難くなる。
【0054】
図4Bは、ホーンチップ6がワークWに静圧力を加えた接合時の状態を示している。超音波接合装置1は、ホーンチップ6の先端部6bがワークWに接触して静圧力がピークとなったとき、発振が開始するように発振装置8を制御(フォーストリガ方式)する。ワークWは静圧力により押圧され窪むが、ディンプルDの部分は、他の部分よりも窪みが小さくなる。また、加圧装置10は、ディンプルDの内上面にワークWが接触しないように押し込み量を保持することができる。
【0055】
このように、ワークWに静圧力を加えた状態で、ホーンチップ6を超音波振動させることで、
図4B中の領域R1,R2の部分は所定の肉厚を有して、効率良く接合される。また、ディンプルDは互いに離間しているので、領域R1,R2のような圧力がかかる部分は連続的に生じている。これにより、従来のローレットによる押圧と比較してワークWの押し込み量を小さくしても、十分な接合強度を得ることができる。
【0056】
接合のパラメータとなる超音波振動の振動速度、静圧力、その制御時間等は、ワークWの物性により適切な値が選択される。また、ワークWの材料によっては、ワークWをディンプルDの内上面に接触させながら接合することもある。
【0057】
次に、
図5A、
図5Bを参照して、ホーンチップの変更形態について説明する。
【0058】
図5Aは、変更形態に係るホーンチップ20の斜視図を示している。ホーンチップ20は、その端面20cの外側周辺に複数のディンプルD2、中央部に少なくとも1つ以上の突起Pが配置された構造を有する。ホーンチップ6のようなディンプルDのみの構造では(
図2B参照)、ホーンチップ6を超音波振動させた直後の、未だ接合が完了していない時点でワークの面同士が滑ることがある。しかしながら、ホーンチップ20では、静圧力がかかったとき、突起Pをワークに押し込むことで滑りを抑制する効果が生じる。
【0059】
また、
図5Bに、ホーンチップ20による接合時の側面図を示す。上記効果を奏し、ディンプル面D
bとワークWとの静圧力を確保するために、突起Pの先端P
tは、ディンプル面D
b(端面)よりも突出している必要がある。なお、突起Pの底面P
bは、ディンプル面D
bより内部側となるように加工するとよい。
【0060】
ホーンチップ20において、突起Pを端面20cの外側周辺に配置し、複数のディンプルD2を端面20cの中央部に配置するようにしてもよく、レイアウトは様々考えられる。どのような態様であっても、突起PはワークWを抑え、ディンプルD2はワークWが滑り難くなるという効果を生じさせる。
【0061】
突起Pは、それぞれ互いに離間した配置としてもよい。また、端面20cと、突起Pと、ディンプルD2の面積比も任意であるが、ディンプルD2の面積を最も大きくすると、ワークWが滑り難くく、表面にも傷が付き難い。
【0062】
最後に、
図6A、
図6Bを参照して、もう1つの変更形態について説明する。
【0063】
図6Aは、変更形態に係るアンビル30の斜視図を示している。アンビル30は、その上面30aに複数のディンプルD3が配置された構造を有する。ディンプルD3が形成されていることで、接合時にワークが抑えられ、ワークの面同士が滑り難くなるという効果が生じる。ディンプルD3の直径は、ホーンチップ6のディンプルDと同じく、直径0.4mm程度、深さ0.1mm程度が好ましい。もちろん、ディンプルD3のサイズ及び個数は、これに限られるものではない。
【0064】
また、
図6Bに、アンビル30による接合時の側面図を示す。ここでは、静圧力がかかったとき、突起P’を有するホーンチップ21によりワークW
1を押し込む。さらに、アンビル30の上面側と接触したワークW
2は接合時に上側から押圧され、下面側の一部分がディンプルD3に入り込み、ワークW
2が抑えられる。これにより、ワークW
2がアンビルに対して、また、ワーク同士が滑り難くなり、ホーンチップ21の押し込み量を小さくしても、十分な接合強度を得ることができる。
【0065】
アンビルに突起を設けて、ワークの滑りを防止することもできる。しかしながら、上記形態のように、アンビルにディンプルを設けた方が、ワークに傷が付きにくくなる点で有利である。
【0066】
上記説明は、本発明の実施形態の一部であり、これ以外にも種々な実施形態が考えられる。ディンプルは、開口縁が閉じた形状であれば特に限定はなく、その数は複数であればよい。ディンプルの深さ、開口縁の合計面積と平坦部の合計面積の比率も加工するワークの材料に依存する。
【0067】
ディンプルは、ホーンチップと、これと対向する位置に配置されたアンビルのうち少なくとも一方の当接面に設けられていればよい。
図1、
図5B、
図6Bでは、ワークがアンビル上に載置され、ワークの上方にホーンチップがある位置関係(垂直方向)であったが、これに限られない。すなわち、ホーンチップとアンビルは水平方向の配置でもよいし、傾斜方向の配置であってもよい。
【0068】
ワークは、ホーンチップとアンビルの方向によらず、これらの間に位置し、アンビル(又はホーンチップ)に接触して配置される。このような態様であっても、ホーンチップとアンビルの少なくとも一方の当接面に設けられたディンプルは、接合時にワーク同士を滑り難くする効果を生じさせる。
【0069】
上述のホーンチップ6は、基体部6aの先端にワークWと接触する先端部6bが設けられた一体型であったが、基体部6aに長い棒状の先端部をネジ止めして取り付けることもできる。なお、この場合、先端部の取り付け位置が振動ノードとならないように注意する。
【0070】
ホーンチップ6の押し込み量は、どのような方法で検出してもよい。例えば、加圧用ブロックを駆動するアクチュエータ(サーボモータ)にエンコーダを取り付け、基準位置からの変位により押し込み量を検出する方法がある。
【符号の説明】
【0071】
1…超音波接合装置、2…超音波振動子、3…超音波拡大ホーン、3a…フランジ部、4…超音波LTホーン、4a…斜めスリット、6,20,21…ホーンチップ、6a…基体部、6a’…フランジ部、6b…先端部、6c,20c…端面、7,30…アンビル、8…発振装置、10…加圧装置、12…センサ、13…制御装置、14…表示装置、D,D’,D2,D3…ディンプル、P,P’…突起、W,W1,W2…ワーク。