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特許7219516トイレシステム、トイレ汚水の循環利用方法及びトイレシステムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】トイレシステム、トイレ汚水の循環利用方法及びトイレシステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20230201BHJP
   C02F 1/78 20230101ALI20230201BHJP
   C02F 1/40 20230101ALI20230201BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101D
C02F1/78
C02F1/40 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022013817
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2022-07-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518185026
【氏名又は名称】松本工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】松本 一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 秀治
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-330169(JP,A)
【文献】米国特許第05258121(US,A)
【文献】特開2020-049393(JP,A)
【文献】特開平11-090482(JP,A)
【文献】特開2002-045876(JP,A)
【文献】特開2002-233867(JP,A)
【文献】特開2008-036597(JP,A)
【文献】特開昭54-060763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-78、3/00-34、9/00-14
E03D 1/00-7/00、11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生した汚水分だけ処理が進む、汚水循環利用型のトイレシステムであって、
前記処理のために、
好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、
前記第1の処理部からの処理水を多孔性担体に担持した嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、
前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、
を備え、
前記第1の処理部と前記第2の処理部の間において発生するスカムの軟度を、前記スカムの濡れ度を所定のレベル以上となるように制御することによって調整するスカム軟度調整部と、
前記第2の処理部の前で、前記スカム軟度調整部からのスカムを除去するスカム除去部と、を備えたトイレシステム。
【請求項2】
前記スカムの濡れ度の制御が、前記スカム除去部からの処理水の一部によって行われるものである請求項1に記載のトイレシステム。
【請求項3】
前記スカム除去部からの処理水の所望量を、前記第1の処理部に戻すことができる請求項1又は2に記載のトイレシステム。
【請求項4】
発生した汚水分だけ処理を進ませるトイレ汚水の循環利用方法であって、
前記処理が、
好気性菌により硝化処理(第1の処理)し、
前記第1の処理により処理された処理水を少なくとも嫌気性菌により脱窒化処理(第2の処理)し、
前記第2の処理により処理された処理水をオゾンにより分解処理(第3の処理)し、
前記第1の処理と前記第2の処理の間において発生するスカムの軟度を、前記スカムの濡れ度を所定のレベル以上となるように制御することによって調整し、
前記第2の処理の前で、前記軟度が調整されたスカムを除去(スカム除去処理)するトイレ汚水の循環利用方法。
【請求項5】
前記スカムの濡れ度を、前記スカム除去処理後の処理水の一部により制御する請求項4に記載のトイレ汚水の循環利用方法。
【請求項6】
前記スカム除去処理された処理水の所望量を戻して、前記第1の処理を行う請求項4又は5に記載のトイレ汚水の循環利用方法。
【請求項7】
発生した汚水分だけ処理が進む、汚水循環利用型のトイレシステムの製造方法であって、
トイレに、
前記汚水を受け取り、好気性菌担持体を散気攪拌することにより硝化処理する硝化槽と、
前記硝化槽からの処理水を受け取り、発生するスカムの濡れ度を所定のレベル以上となるように制御することによってスカムの軟度を調整するスカム軟度調整槽と、
前記スカム軟度調整槽からの処理水を受け取り、前記スカムを除去するスカム除去槽と、
前記スカム除去槽からの処理水を受け取り、嫌気性菌担持体により脱窒化処理する脱窒化槽と、
前記脱窒化槽からの処理水を受け取り、オゾンバブルにより分解処理するオゾン処理槽と、
前記オゾン処理槽からの処理水を受け取り、前記トイレに洗浄水として供給する洗浄水槽と、を前記の順になるように、前記処理に必要な機構とともに連結し、循環利用可能にするトイレシステムの製造方法。
【請求項8】
前記スカムの濡れ度の制御が、前記スカム除去槽からの処理水の一部によって行われるように連結する請求項7に記載のトイレシステムの製造方法。
【請求項9】
前記スカム除去槽からの処理水の所望量を、前記硝化槽に戻すことができるように連結する請求項7又は8に記載のトイレシステムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水を処理し、循環利用するトイレシステム、トイレ汚水の循環利用方法及びトイレシステムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の調査では、全世界で42億人が、安全に管理されたトイレが使用できないとの報告がなされている。このように発展途上国では、安全に管理されたトイレの普及が課題の一つになっている。また、国内においては、深刻な災害時に、トイレの衛生が保てなくなり、生活環境が悪化し、被災者の健康が保てなくなるという問題がある。特に、病院や高齢者施設等の一般施設において、安全かつ持続可能なトイレの導入が期待される。
【0003】
そのような中、汚水循環利用型のトイレに係る技術として、水洗トイレからの汚水流入路及び散気管を配備すると共に土壌から得られる微生物を担持させた木質細片を浮遊させてなる第一曝気槽と、それに続くバッフル、スカム槽及び沈殿槽を設け、続けて散気管を配備すると共に土壌から得られる微生物を担持させた木質細片を浮遊させてなる第二曝気槽と、それに続くスカム槽及び沈殿槽を設け、更に散気管を配備すると共に接触材を投入してなる第三曝気槽を介して貯留槽を連続的に内蔵したことを特徴とする循環式水洗トイレにおける浄化槽の構造が挙げられる(特許文献1)。
【0004】
また、その他の技術として、少なくとも、好気的雰囲気下で有機物分解菌担持多孔体と接触させて汚水を硝化処理する第1の工程、前記第1の工程後の処理水を活性汚泥処理する第2の工程、前記第2の工程後の処理水を好気的雰囲気下又は嫌気的雰囲気下で有機物分解菌担持多孔体と接触させて脱窒化処理する第3の工程、を備えるトイレ循環処理系において、前記第1~第3工程のいずかの工程又は工程間の処理水が、pH6~7、かつ、硝酸態窒素濃度30~100ppmである場合に、当該処理水を野菜の水耕栽培用とすることを特徴とする養液製造方法が挙げられる(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、処理された汚水が浄化処理され、循環利用されるシステム(循環利用システム)には、いくつかの問題がある。まず、臭気の問題がある。下水処理場や汚泥処理場等の大規模施設等において、汚水は、最初に嫌気性処理されるのが一般的である。この嫌気性処理は、臭気を伴うため、一般施設に設置する循環利用システムおいて、第一工程には適さない。
【0006】
次に、処理水中の窒素分が増加する問題がある。上述の臭気の問題を回避するために、嫌気性処理が循環利用システムから省略されると、処理水が循環利用されるたびに、処理水中の窒素分の濃度が高まってしまう。硝化処理の過程で生じるアンモニアは、水溶性だからである。
【0007】
また、別の問題として、スカムの発生が挙げられる。スカムとは、汚物やトイレットペーパー等を含む汚水の処理過程において、処理槽の水面に浮上するスポンジ状の泡や固形物のことである。スカムは、下水処理場等の大規模施設においては、硫化水素の発生や設備容積の減少等の問題を引き起こすことが知られている。
【0008】
小規模の循環利用システムにおいて、スカムは、硬化し、汚水の処理経路に目詰まり等の問題を引き起こす。スカムは、大規模設備においては、吸引装置による回収や破砕装置による破砕等によって都度、排除される運用がなされているが、一般施設等に設置される小規模の循環利用システムにおいては、このような運用や装置の導入はコスト高につながり、受け入れられない。
【0009】
上述の問題を踏まえると、特許文献1に係る技術は、臭気の問題を解決するものであるが、処理水中の窒素分の増加の問題を解決するものではない。すなわち、当該技術は、脱窒化処理を前提にしておらず、スカム処理についても従来技術の範疇である。また、特許文献2に係る技術は、臭気の問題、窒素分の増加の問題を解決するものであるが、スカムの問題を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-45876号公報
【文献】特開2020-48429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、汚水を浄化処理し、循環利用する循環利用システムとして、安定的に利用可能なトイレシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、発生した汚水分だけ処理が進む、汚水循環利用型のトイレシステムであって、前記処理のために、好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記第1の処理部からの処理水を多孔性担体に担持した嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、を備え、前記第1の処理部と前記第2の処理部の間において発生するスカムの軟度を、前記スカムの濡れ度を所定のレベル以上となるように制御することによって調整するスカム軟度調整部と、前記第2の処理部の前で、前記スカム軟度調整部からのスカムを除去するスカム除去部と、を備えたトイレシステムである。また、第2の発明は、前記スカムの濡れ度の制御が、前記スカム除去部からの処理水の一部によって行われるものである第1の発明のトイレシステムである。また、第3の発明は、前記スカム除去部からの処理水の所望量を、前記第1の処理部に戻すことができる第1又は第2の発明のトイレシステムである。また、第4の発明は、発生した汚水分だけ処理を進ませるトイレ汚水の循環利用方法であって、前記処理が、好気性菌により硝化処理(第1の処理)し、前記第1の処理により処理された処理水を少なくとも嫌気性菌により脱窒化処理(第2の処理)し、前記第2の処理により処理された処理水をオゾンにより分解処理(第3の処理)し、前記第1の処理と前記第2の処理の間において発生するスカムの軟度を、前記スカムの濡れ度を所定のレベル以上となるように制御することによって調整し、前記第2の処理の前で、前記軟度が調整されたスカムを除去(スカム除去処理)するトイレ汚水の循環利用方法である。また、第5の発明は、前記スカムの濡れ度を、前記スカム除去処理後の処理水の一部により制御する第4の発明のトイレ汚水の循環利用方法である。また、第6の発明は、前記スカム除去処理された処理水の所望量を戻して、前記第1の処理を行う第4又は第5の発明のトイレ汚水の循環利用方法である。また、第7の発明は、発生した汚水分だけ処理が進む、汚水循環利用型のトイレシステムの製造方法であって、トイレに、前記汚水を受け取り、好気性菌担持体を散気攪拌することにより硝化処理する硝化槽と、前記硝化槽からの処理水を受け取り、発生するスカムの濡れ度を所定のレベル以上となるように制御することによってスカムの軟度を調整するスカム軟度調整槽と、前記スカム軟度調整槽からの処理水を受け取り、前記スカムを除去するスカム除去槽と、前記スカム除去槽からの処理水を受け取り、嫌気性菌担持体により脱窒化処理する脱窒化槽と、前記脱窒化槽からの処理水を受け取り、オゾンバブルにより分解処理するオゾン処理槽と、前記オゾン処理槽からの処理水を受け取り、前記トイレに洗浄水として供給する洗浄水槽と、を前記の順になるように、前記処理に必要な機構とともに連結し、循環利用可能にするトイレシステムの製造方法である。また、第8の発明は、前記スカムの濡れ度の制御が、前記スカム除去槽からの処理水の一部によって行われるように連結する第7の発明のトイレシステムの製造方法である。また、第9の発明は、前記スカム除去槽からの処理水の所望量を、前記硝化槽に戻すことができるように連結する第7又は第8の発明のトイレシステムの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、最初に汚水の硝化処理されるため、臭気を低減する効果が期待できる。また、本発明は、硝化処理の後に脱窒化処理されるため、処理水中の窒素分の増加を抑える効果が期待できる。また、本発明は、スカムの濡れ度が所定レベルに制御されるため、スカムの硬化を防ぎ、スカムの除去を容易にし、スカムによるシステム各所の目詰まり等を防ぐ効果が期待できる。また、本発明は、スカム除去後の処理水が硝化処理に戻されるため、硝化処理能力を維持しつつ、処理水量を所定レベルに保ち、循環水が不足するのを防ぐ効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るトイレシステムの汚水処理フローの概略図である。
図2】第1の処理部とスカム軟度調整部として利用される処理槽の概略図である。
図3】スカム軟度調整の例である。
図4】スカム除去部の概略図である。
図5】第2の処理部の概略図である。
図6】竹炭細孔断面の概念図である。
図7】第3の処理部の概略図である。
図8】スカム軟度調整の別例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明に係るトイレシステム1の汚水処理フローについて説明する。
図1は、本発明に係るトイレシステム1の汚水処理フローの例である。まず、トイレの利用者がトイレ10を使用することで、汚水が発生する。本発明に係るトイレシステム1は、この汚水を浄化し、循環利用するものである。
【0017】
汚水は、第1の処理部20に送られ、好気性菌によって処理される。好気性菌による処理は、いわゆる硝化処理である。硝化処理は、次の反応式によってあらわされる。
COHNS(有機物)+O+栄養塩→CO+NH+CNO+他の最終産物
NO+5O→5CO+2HO+NH+エネルギー
NH +3/2O→NO +HO+2H
NO +1/2O→NO
【0018】
好気性菌による処理後に発生したスカムは、スカム軟度調整部30において、必要に応じて軟度調整される。ここで、軟度調整とは、スカムの硬化を防ぐことや、硬化が進行したスカムを軟質な状態にすることである。図1において、スカム除去部40からスカム軟度調整部30への矢印は、処理水が、スカムの軟度調整のために戻されることをあらわしている(第1の処理部20への矢印についても同様)。
【0019】
スカム軟度調整部30からの処理水は、スカム除去部40において、スカムが除去される。スカム除去部40では、スカムを含む処理水からスカムの除去処理が行われる。スカムは、別経路から外部に除去される(詳細図省略)。この除去にともなう処理水は、スカムが除去された後、一部がスカム軟度調整部30に、その他が処理水量の維持等、必要に応じて第1の処理部20に戻される。ここで、スカム除去部40が除去する対象には、スカムの他に浮遊物質等も含まれる。
【0020】
スカム除去部40からの処理水は、第2の処理部50に送られ、少なくとも嫌気性菌によって処理される。好気性菌による処理は、いわゆる脱窒化処理である。脱窒化処理は、次の反応式によってあらわされる。
2NO +2H→2NO +2H
2NO +3H→N+2HO+2OH
【0021】
ここで、第2の処理部50では、嫌気性菌だけでなく好気性菌による処理が行われるものでもよい。例えば、第2の処理部50において、好気的雰囲気と嫌気的雰囲気が存在し(又はそのような制御が可能であり)、好気性菌と嫌気性菌による両方の処理ができるものが挙げられる。
【0022】
また、この脱窒化処理は、汚水が循環するシステムにおいて、重要度は大きい。この脱窒化処理がないと汚水から生じたアンモニア成分の濃度が高まるからである。アンモニアは、水溶性であるため、ガス化による放出は困難である。そこで、ガス化により窒素分をシステム系外へ放出することが容易となる脱窒化処理が必須となる。
【0023】
第2の処理部50からの処理水は、第3の処理部60に送られ、オゾンによって処理される。オゾン処理は、オゾンバブルとの接触による酸化、分解処理である。オゾン処理の目的は、主に、滅菌処理と脱色である。当該処理を経た第3の処理部60からの処理水は、循環され、トイレの洗浄水として再利用される(洗浄水は、貯槽部にて一時貯槽されるが、本説明においては省略)。このように、本発明に係るトイレシステム1は、少なくとも、第1の処理部20、スカム軟度調整部30、スカム除去部40、第2の処理部50、第3の処理部60を含むものである。
【0024】
本発明に係るトイレシステム1を構成する各パートについて説明する。
図2は、第1の処理部20及びスカム軟度調整部30として利用される処理槽の概略図である。処理槽は、隔壁によって第1槽21(約6m)、第2槽22(約3m)、第3槽23(約2m)、第4槽30(約1m)に分けられる。第1槽~第3槽が、好気性菌による処理部、すなわち、第1の処理部20に相当する。また、第4槽は、スカム軟度調整部30に相当する。
【0025】
第1槽21と第2槽22には、菌が担持された菌担持体が投入される。菌担持体は、槽底部に設置された散気管からのエアーによって攪拌され、処理槽中を浮遊状態となる(菌担持体の図省略)。本実施例において用いられた菌は、バチルス菌であり、担体は、8mm×8mm×8mmのPVAスポンジである。
【0026】
第3槽23は、活性汚泥による処理槽である。第1槽21、第2槽22と同様に、槽底部に設置された散気管からのエアーによって、好気的な雰囲気が維持され、自然由来の好気性菌による汚水処理が行われる(活性汚泥の図省略)。このように、好気性菌による処理は、主に第1槽~第3槽において行われる。
【0027】
第4槽30は、静的な槽である。第4槽30には、底部に沈殿物(主に汚泥)が堆積する。また、第3槽23と第4槽30は、底部でつながっている。図2には反映されていないが、第4槽30から第3槽23にかけて、なだらかな勾配があり、第4槽30における堆積汚泥は、当該勾配により第3槽23へと徐々に移る。
【0028】
また、第4槽30では、スカムが発生する。スカムは、処理水中の浮遊物が、水面に浮上、肥大化したものであり、時間が経過すると硬化する。硬化したスカムは、各所の目詰まりの原因になり、また、後述の第2の処理部50の脱窒菌担体の表面を覆って脱窒化処理を阻害する。このようなスカム硬化による問題を防ぐための措置として、スカムが軟質な状態のうちに除去する、スカムの硬質化を防ぐために、水面上のスカムに水を滴下することで濡れた状態を維持する、といった措置が取られる。図3は、後者の措置を示すものであり、スカム除去部40からの処理水が利用される。
【0029】
図4は、スカム除去部40の概略図である。第1の処理部20からの処理水は、スカム軟度調整部30を経由し、スカム除去部40に送られる。スカム除去部40では、スカムを含む処理水からスカムを除去するための処理が行われる。この処理は、図4が示すように、複数の処理槽によって多段的に行われるものでもよい。図4では、処理水は、処理槽内の備えられた所定メッシュのフィルタによって濾過され、別の処理槽へと分離される。分離されたスカム含有処理水は、さらに固液分離され、固形分であるスカムは、資源として利用に供され、残った処理水は、必要に応じて、スカム軟度調整部30や第1の処理部20に戻される。
【0030】
図5は、第2の処理部50の概略図である。スカム除去部40からの処理水は、第2の処理部50において嫌気性処理される。図5の処理槽(約1m)には、嫌気性菌担持体が充填される(メッシュ部分に充填)。本実施例において用いられた菌は、自然由来の脱窒菌であり、菌担体は、竹炭(10cm程度の長さの小札状チップ)である。
【0031】
脱窒菌は、竹炭細孔の内部の嫌気的な雰囲気中に存在する。図6は、竹炭細孔断面の概念図である。竹炭の細孔は、上部(表面部)ほど孔径が大きく、下部(奥)ほど孔径が小さい。脱窒菌は、嫌気的な雰囲気である細孔の奥に担持される。また、竹炭表面に近い部分は、孔径が大きいため、酸素溶存下にあっては好気的な雰囲気であり、自然由来の好気性菌が存在、活動し得る。この竹炭が、乾燥重量で約120kg、ナイロンネットに入れられ、第2の処理部50における処理に用いられる。
【0032】
図7は、第3の処理部60の概略図である。第2の処理部50からの処理水は、第3の処理部60においてオゾン処理される。図7の処理槽(約0.3m)には、オゾン発生器によって発生量が調整されたオゾンが送られる。第2の処理部50からの処理水は、オゾンのマイクロバブルによって、滅菌、脱色される。本実施例におけるオゾン発生機の能力は、1000mg/hであり、所望の濃度範囲に設定可能である。
【0033】
第3の処理部60からの処理水は、トイレ洗浄水として洗浄水槽(図省略)に貯水される。トイレ便器に付属の洗浄水タンクから、洗浄水が使用されると、加圧ポンプ(図省略)が作動し、洗浄水槽から洗浄水タンクに処理水が供給される。
【0034】
以上の各パートによって、本発明に係るトイレシステム1が構成される。本発明に係るトイレシステム1は、使用された洗浄水の分だけ処理が進む、自然に任せるものである。本発明に係るトイレシステム1において、電源が必要になるのは、主に、散気を必要とする処理槽の散気用ポンプ、処理水の循環に係るポンプ、オゾン発生機である。これらの電源は、トイレシステム1が導入される建物に併設された太陽光発電と蓄電池の組合せ等によって供給される。ただし、本発明に係るトイレシステムは、必要に応じて、所望の処理速度に制御されたり、上記設備以外の設備等のために電力供給されたりすることが否定されるものではない。
【0035】
本発明に係るトイレシステム1の実証試験結果について説明する。
実証試験では、都内7階建てビルの全フロアのトイレに、循環利用システムが連結された。本実証試験において、トイレシステム1は、処理対象人数として50~70人を想定するものである。
【0036】
トイレスステム1の運転中、第1の処理部20を経た処理水と、第3の処理部60を経た処理水が採取され、窒素含有量、アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物、硝酸化合物の濃度が計測された。いずれの成分についても、第1の処理部20よりも第3の処理部60を経た処理水の方が低濃度であった。
【0037】
また、第1の処理部20からの処理水の色度及び第2の処理部50からの処理水の色度が計測された。これらの色度は、いずれも5度以上であった。また、当該処理水は、第3の処理部60におけるオゾン処理によって1.0~1.5度程度になることが確認された。
【0038】
スカムは、第4槽30において発生することが確認された。発生後、スカムは、通常、約4日程度で硬化することが確認された。また、スカムは、除去されなかった場合、トイレシステム1中の流路の目詰まりの原因となることが確認された。
【0039】
一方、スカムは、第4槽30で肥大、硬化前に除去されることで、目詰まりと嫌気性処理の低下が解消されることが確認された。また、スカム除去部40がなくとも、硬化前のスカム及び浮遊物質の断続的な除去処理が週2回程度行われることで目詰まりがなくなることが確認された。また、スカムは、第4槽30の上部に設置されたシャワーによって軟化することが確認された。このシャワーは、週に2回程度、約60分間、第4槽30の上部全体にポタポタと雫が落ちる程度の量によって硬化が防止されることが確認された。この軟化に用いられたのは、第2の処理部50に送られる前の処理水である。
【0040】
また、スカム除去部40において、固液分離によってスカムが取り除かれた処理水は、第1の処理部20に戻される運用がなされた。この運用によって、トイレシステム1全体の処理水が減少せず、所定量の水を継続的に循環利用可能なことが確認された。また、本発明に係るトイレシステム1の導入によって削減されたビル全体の年間水道使用量は、約85%であることが確認された。
【0041】
実証試験から得られた結果に基づく考察及びそこから示唆されるトイレシステムについて、実施例2として以下に説明する。
【実施例2】
【0042】
実証試験では、汚水が、好気性処理(硝化処理)、スカム軟度調整処理、スカム除去処理、嫌気性処理(脱窒化処理)、オゾンガス処理の順番で処理され、この処理構成により、循環利用可能であることが確認された。具体的な数値は省略するが、この処理構成における処理水は、pH値、NH-N濃度、NO-N濃度、NO-N濃度、色度のいずれも所定範囲を維持することが認められた。
【0043】
これは、本発明に係るトイレシステム1が安定して稼働していることを示唆するものである。すなわち、各処理部からの処理水のpH値、NH-N濃度(NH濃度)、NO-N濃度(NO 濃度)、NO-N濃度(NO 濃度)、色度のいずれか又はいずれもが、本発明に係るトイレシステム1が設計通りに稼働していることを確認するための指標となり得ることを示唆するものである。
【0044】
スカムは、第4槽30において発生し、放置されたまま約4日経過すると、水面上で硬化することが確認された。このスカムが除去されることが、本発明に係るトイレシステムの継続的な稼働にとって重要である。スカムの除去には、どのような方法が用いられてもよい。例えば、処理水がスカムとともに、所定メッシュのフィルタが設置された処理槽に送られ、濾過されるものでもよいし、水面を一定のタイミングで吸引し、スカムを取り除くものでもよい(図省略)。
【0045】
スカムの濡れ度が所定のレベルであること、具体的には、スカムが一様に湿った状態にあることは、スカムの硬化を防止し、軟度を一定レベルに維持する効果があることが確認された。これは、実証試験において見出された効果の一つである。また、スカムが完全に硬化した後では、軟度調整(軟化処理)は困難になることも確認された。実証試験の結果に基づくと、スカムが完全に硬化しないための条件は、完全に固まった箇所がないように(言い換えると、硬質な状態から軟質な状態への可逆性があるうちに)液滴等によってスカム表面が湿らされることであると示唆される。このスカム表面の濡れ具合(濡れ度)が、スカム硬化の判断の指標になる。濡れ度は、スカムの表面全体が濡れた状態となることが前提である。そして、スカム表面が濡れた状態となる機会が多くなるほど、濡れ度が高まる。スカムの硬化防止の観点から、濡れ度は、所定レベル(濡れ度が高いレベル)に維持されるべきものである。
【0046】
実証試験は、スカムを所望の軟度とするために(スカムの濡れ度を所定レベルにするため)、処理液の滴下という手段が取られたが、スカムの濡れ度の制御方法はこれに限定される必要はない。例えば、図8が示すように、槽上部に設置された可動式のメッシュが、一定のタイミングで水面上のスカムを処理水中に押し沈める等の方法でもよい。
【0047】
第4槽30において、スカムは、硬化するまで、ある程度の時間がかかる。そのため、スカムの濡れ度を保つための処理は、常時行われる必要はなく、間欠的に行われるものでよい。例えば、シャワー又はその他のスカム濡れ度の制御処理が2回/週程度で行われる運用でよい。これらの濡れ度の制御によって、スカムは、軟質な状態が保たれる。
【0048】
実証試験では、シャワーに用いられる処理水は、スカム除去部40において、スカムの固液分離に係る残存処理水(行き場を失った処理水)が戻されたものである。このように戻される処理水は、スカムの分離過程で生じる処理水であることが望ましいが、第2の処理部50への経路の途中から得られる処理水でもよい(図省略)。
【0049】
また、スカム除去部40からの処理水は、第1の処理部20に戻されることで、トイレシステム1全体の循環水量の維持が可能になる。また、第1の処理部20に戻される処理水として、スカム除去部40からの処理水が最も有用だと考えられる。その理由として、当該処理水が、第2の処理部50以降の処理水に比べて、第1の処理部20における処理水に最も近い性質を有することが要因として挙げられる。ただし、循環水量が不足した場合に、外部から給水されることが否定されるものではない。
【0050】
実証試験では、スカム除去部40からの処理水の一部は、第1の処理部20の第1槽21に戻されたが、それによって処理水中の成分レベルの大きな変動は確認されなかった。すなわち、スカム除去部40からの処理水が第1槽21に戻され、水位調整される運用は、第1の処理部20における好気性菌の処理を維持することが示唆された。
【0051】
また、スカムは、ほぼ第4槽30において発生し、他のパートではほとんど確認されなかった。すなわち、スカムの軟度調整及び除去処理は、本発明に係る内容に従う限り、第1の処理部20と第2の処理部50の間で行えばよいことが示唆された。
【0052】
実証試験では、ビルのトイレに循環利用システムが後付けされ、汚水が循環利用されるトイレステム1が構築された。このように、本発明に係るトイレシステム1は、新規施設に最初から備えられるだけでなく、既存施設に後付けされることでも実現可能である。
【0053】
本発明に係るトイレシステム1の製造に必要な装置は、まず、トイレからの汚水を受け取り、硝化処理する硝化槽である(図2では、第1~第3槽がこれに相当)。硝化槽は、散気管を備え、好気性菌担持体の散気攪拌により汚水の硝化を促す。
【0054】
次が、硝化槽からの処理水を受け取り、スカムの発生部となり、当該スカムの軟度を調整するスカム軟度調整槽である(図2では、第4槽がこれに相当)。スカム軟度調整槽は、散気攪拌等は行われない静的な槽である。ただし、スカム軟度調整槽では、シャワー等の方法によってスカムの濡れ度を一定レベル以上に維持される。
【0055】
次が、スカム軟度調整槽からの処理水を受け取り、スカムを除去するスカム除去槽(図4の槽がこれに相当)である。スカム除去槽は、メッシュフィルタの濾過等、所定の機構による固液分離槽である。
【0056】
次が、スカム除去槽からの処理水を受け取り、嫌気性菌担持体により脱窒化処理する脱窒化槽である(図5の槽がこれに相当)。菌担体として細孔を有する竹炭等が用いられ、当該細孔内に嫌気性菌が担持されることで、スカム除去槽からの処理水が酸素を含むものであっても脱窒化処理が行われる。
【0057】
次が、脱窒化槽からの処理水を受け取り、オゾン分解処理するオゾン処理槽である(図7の槽がこれに相当)。オゾン処理槽は、オゾン発生器で発生したオゾンを散気管から放出し、処理水の脱色や菌の分解を行う。
【0058】
最後が、オゾン処理槽からの処理水を受け取り、洗浄水として貯蔵するとともに、当該洗浄水を必要に応じてトイレに供給する洗浄水槽(図省略)である。
【0059】
本発明に係るトイレシステム1は、上述の各槽が必要な配管等によって連結され、上記機能を実現するための動力機構や電源系統等によって製造されるものである。また、各槽は、汚水の量に応じて、大きさや流路が調整されるのが望ましい。例えば、硝化槽について、図2の第1~第3槽の容量の適宜変更や、槽増設等が挙げられる。
【0060】
また、本発明に係るトイレシステム1は、上述の構成をベースに、新たな構成が加えられてもよい。具体的には、スカム除去槽からの処理水の一部が、スカム軟度調整槽のためのシャワー用となるための流路等の設置、スカム除去槽からの処理水が、硝化槽の水量調整用となるための流路等の設置、太陽光発電等の動力源の設置等が挙げられる。
【0061】
上述のように、本発明によると、新規のトイレシステムとして利用されるだけでなく、既存のトイレシステムから構築されることも可能である。現在、国内におけるトイレは、上水や中水によりトイレの汚物等が流され、下水として処理場等で処理されるのが一般的である。これが、本発明のトイレシステムに置き換えられてもよいし、非常時等に選択的に稼働できるように設置されてもよい。また、発展途上国における河川流水による処理や溜め込みによる処理等のトイレが本発明に係るトイレシステムとして再構築されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るトイレシステム1は、水が不足する緊急事態等において利用可能である。例えば、病院、高齢者施設その他公共施設等、特に衛生管理が求められる施設において有用である。また、同様に、本発明に係るトイレシステムや汚水の循環利用方法は、発展途上国等、衛生面での改善が求められる地域、水が不足する地域における諸々の施設においても利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 トイレシステム
10 トイレ
20 第1の処理部
21 第1槽(第1の処理部)
22 第2槽(第1の処理部)
23 第3槽(第1の処理部)
30 第4槽(スカム軟度調整部)
40 スカム除去部
50 第2の処理部
60 第3の処理部
60 第3の処理部

【要約】
【課題】 トイレからの汚水を浄化処理し、循環利用するシステムとして、安定的に利用可能なトイレシステムを提供すること。
【解決手段】 好気性菌により硝化処理する第1の処理部20と、前記第1の処理部からの処理水を多孔性担体に担持した嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部50と、前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部60と、を備え、前記第1の処理部20と前記第2の処理部50の間において発生するスカムの軟度を、前記スカムの濡れ度の制御によって調整するスカム軟度調整部30と、前記第2の処理部の前で、前記スカム軟度調整部において軟度調整されたスカムを除去するスカム除去部40と、を備える。
【選択図】 図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8