(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】防カビ用多孔質材料及びそれを含む防カビ加工製品、並びにそれを用いた防カビ方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20230201BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230201BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20230201BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
A01N25/08
A01N25/04 102
(21)【出願番号】P 2018022413
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】520514595
【氏名又は名称】株式会社Furuya Eco-Front Technology
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】平井 香成
(72)【発明者】
【氏名】及川 竜太
(72)【発明者】
【氏名】石丸 武
(72)【発明者】
【氏名】池上 立
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-544953(JP,A)
【文献】特開平09-124425(JP,A)
【文献】特開2019-136655(JP,A)
【文献】特開2019-085336(JP,A)
【文献】特開2000-154340(JP,A)
【文献】LEE, D. W. et al.,Synthesis of Pt-containing mesoporous silica using Pt precursor as a pore-forming agent,Journal of Non-Crystalline Solids,Elsevier,2007年06月01日,Vol.353, Issues 16-17,p.1501-1507
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質シリカに白金族金属を含有する粒子を担持した防カビ用多孔質材料であって、該防カビ用多孔質材料の細孔径が1~50nmであり、かつBET比表面積が300~2000m
2/gであり、
前記白金族金属を含有する粒子は、少なくとも前記多孔質シリカの細孔内に担持されており、
前記白金族金属を含む粒子の粒子径は、前記多孔質シリカの細孔径の95%以下であることを特徴とする防カビ用多孔質材料。
【請求項2】
前記白金族金属が白金であることを特徴とする請求項1に記載の防カビ用多孔質材料。
【請求項3】
前記多孔質シリカの全細孔容積が0.5~0.8
5cm
3/gであることを特徴とする請求項
1又は2に記載の防カビ用多孔質材料。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一つに記載の防カビ用多孔質材料を含むことを特徴とする防カビ剤。
【請求項5】
前記防カビ剤は、前記防カビ用多孔質材料と抗菌剤、殺菌剤、芳香剤及び乾燥剤の少なくとも一つの剤との混合物であることを特徴とする請求項
4に記載の防カビ剤。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一つに記載の防カビ用多孔質材料を含むことを特徴とする防カビ膜。
【請求項7】
加工製品が請求項1~
3のいずれか一つに記載の防カビ用多孔質材料を含むことを特徴とする防カビ加工製品。
【請求項8】
前記加工製品が、不織布、セラミックハニカム、または、ペーパーハニカムのいずれか一つであることを特徴とする請求項
7に記載の防カビ加工製品。
【請求項9】
前記防カビ加工製品は、前記加工製品と前記防カビ用多孔質材料との熱融着物、前記加工製品と該加工製品に形成された前記防カビ用多孔質材料を含む防カビ膜とを有する製品、又は前記加工製品の材料と前記防カビ用多孔質材料とを含む混合物の成型物であることを特徴とする請求項
7又は8に記載の防カビ加工製品。
【請求項10】
請求項1~
3のいずれか一つに記載の防カビ用多孔質材料を分散した分散液を加工製品の表面に塗工して、防カビ膜を形成する工程を有することを特徴とする防カビ加工製品の製造方法。
【請求項11】
前記加工製品が不織布、セラミックハニカム、または、ペーパーハニカムのいずれか一つであることを特徴とする請求項
10に記載の防カビ加工製品の製造方法。
【請求項12】
請求項
4又は5に記載の防カビ剤を用いることを特徴とする防カビ方法。
【請求項13】
請求項1~
3のいずれか一つに記載の防カビ用多孔質材料を分散した分散液を加工製品に塗工して、防カビ膜を形成する工程を有することを特徴とする防カビ方法。
【請求項14】
クロカビ、アオカビ、コウジカビ、ススカビ、ツチアオカビ、黒色酵母、アカカビから選ばれる少なくとも1種のカビ対して防カビ性を発揮させることを特徴とする請求項
12又は13の防カビ方法。
【請求項15】
請求項1~
3のいずれか一つに記載の防カビ用多孔質材料を分散した分散液であることを特徴とする防カビ用分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質シリカに白金族金属を担持した防カビ用多孔質材料と、該防カビ用多孔質材料を含む防カビ剤、防カビ膜、防カビ加工製品及び防カビ用分散液と、これらを用いた防カビ方法とに関し、さらには防カビ加工製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カビは、温暖多湿な環境で発育しやすく、日本はカビの発育に適した気候条件であると言える。カビは、みそ、醤油、チーズ、納豆などの生産に不可欠である一方で、食品・衣類・建築材料・家電製品・医療用品・保育用品に発生して、病気やアレルギーなどの原因となる。
【0003】
そのため、カビの増殖を防ぐために、防カビ剤が用いられてきた。防カビ剤は、有機系と無機系に分けられる。例えば、有機系では、アルコール系、フェノール系、ハロゲン系、トリアジリン系、イソチアゾロン系、イミタゾール系の化合物が用いられている。有機系の防カビ剤は、コストパフォーマンス及び即効性に優れているが、人体や環境への問題が指摘されている。
【0004】
無機系の防カビ剤として、銀、銅、亜鉛等の金属イオンをゼオライト・ガラス・シリカゲル・酸化チタン等に担持したものがあげられる。担体から、金属イオンが溶出することで、効果が発揮すると考えられている。持続性が有機系と比較して、優れているが、熱に弱い、ハロゲンと反応しやすいという問題が指摘されている。
【0005】
また、無機系の防カビ剤として、ケイ酸チタニウム系化合物を有効成分とする防カビ剤が、暗部でも効果があると記載されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】高鳥浩介・久米田裕子,「カビのはなし-ミクロな隣人のサイエンス」(2013),109~110頁,朝倉書店
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
住環境の改善の観点から、人体及び環境に無害であり、防カビ能力を有する、防カビ剤の開発が求められていた。
【0009】
そこで本開示は、人体及び環境に無害であり、防カビ能力を有する防カビ用多孔質材料を提供することを目的とする。さらに、防カビ用多孔質材料を含む防カビ剤、防カビ膜、防カビ加工製品及び防カビ用分散液を提供することを目的とする。さらに、これらを用いた防カビ方法及び防カビ加工製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、多孔質シリカに白金族金属を含有する粒子を担持した防カビ用多孔質材料が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明に係る防カビ用多孔質材料は、多孔質シリカに白金族金属を含有する粒子を担持した防カビ用多孔質材料であって、該防カビ用多孔質材料の細孔径が1~50nmであり、かつBET比表面積が300~2000m2/gであり、前記白金族金属を含有する粒子は、少なくとも前記多孔質シリカの細孔内に担持されており、前記白金族金属を含む粒子の粒子径は、前記多孔質シリカの細孔径の95%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る防カビ用多孔質材料では、前記白金族金属が白金であることが好ましい。本発明に係る防カビ用多孔質材料では、前記多孔質シリカの全細孔容積が0.5~0.85cm3/gであることが好ましい。
【0012】
本発明に係る防カビ剤は、本発明に係る防カビ用多孔質材料を含むことを特徴とする。本発明に係る防カビ剤は、前記防カビ用多孔質材料と抗菌剤、殺菌剤、芳香剤及び乾燥剤の少なくとも一つの剤との混合物であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る防カビ膜は、防カビ用多孔質材料を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る防カビ加工製品は、加工製品が本発明に係る防カビ用多孔質材料を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る防カビ加工製品では、前記加工製品が、不織布、セラミックハニカム、または、ペーパーハニカムのいずれか一つであることが好ましい。本発明に係る防カビ加工製品は、前記加工製品と前記防カビ用多孔質材料との熱融着物、前記加工製品と該加工製品に形成された前記防カビ用多孔質材料を含む防カビ膜とを有する製品、又は前記加工製品の材料と前記防カビ用多孔質材料とを含む混合物の成型物であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る防カビ加工製品の製造方法は、本発明に係る防カビ用多孔質材料を分散した分散液を加工製品の表面に塗工して、防カビ膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る防カビ加工製品の製造方法では、前記加工製品が不織布、セラミックハニカム、または、ペーパーハニカムのいずれか一つであることが好ましい。
【0018】
本発明に係る防カビ方法は、本発明に係る防カビ剤を用いることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る防カビ方法は、本発明に係る防カビ用多孔質材料を分散した分散液を加工製品に塗工して、防カビ膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る防カビ方法では、クロカビ、アオカビ、コウジカビ、ススカビ、ツチアオカビ、黒色酵母、アカカビから選ばれる少なくとも1種のカビ対して防カビ性を発揮させる形態を包含する。
【0021】
本発明に係る防カビ用分散液は、本発明に係る防カビ用多孔質材料を分散した分散液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、人体及び環境に無害であり、高い防カビ能力を有する防カビ用多孔質材料を提供することができる。さらに本開示によれば、防カビ用多孔質材料を含む防カビ剤、防カビ膜、防カビ加工製品及び防カビ用分散液を提供することができる。さらに本開示によれば、これらを用いた防カビ方法及び防カビ加工製品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0024】
以下、本発明について、詳細に説明する。本実施形態の防カビ用多孔質材料は、多孔質シリカに白金族金属を含有する粒子を担持した防カビ用多孔質材料であって、該防カビ用多孔質材料の細孔径(細孔直径)が1~50nmであり、かつBET比表面積が300~2000m2/gである。細孔径は1~10nmが好ましく、BET比表面積は500~1500m2/gが好ましい。
【0025】
また防カビ性能の観点から、白金族金属を含有する粒子を担持する前の多孔質シリカの全細孔容積は0.5~0.8cm3/g、より好ましくは0.5~0.6cm3/g、平均細孔径は2~10nmが好ましく、3~5nmがより好ましい。用いる多孔質シリカは粉末状であってもペレット状であってもよい。
【0026】
白金族金属を含む粒子を担持する前の多孔質シリカのBET比表面積は800m2/g以上、細孔径は3nm以上の多孔質シリカを使用することが好ましい。BET比表面積および細孔径の上限は特にないが、通常はBET比表面積は1100m2/g以下、細孔径は50nm以下である。
【0027】
白金族金属を含む粒子を担持する前の多孔質シリカの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば特開2017-23889号公報に記載にしたがって、製造することができる。具体的には、次のとおりである。まず、無機原料と有機原料を混合し、反応させることにより、有機物を鋳型としてそのまわりに無機物の骨格が形成された有機物と無機物の複合体を形成させる。次いで、得られた複合体から有機物を除去することにより、多孔質シリカが得られる。無機原料としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のアルコキシシラン、ケイ酸ソーダ、カネマイト(kanemite、NaHSi2O5・3H2O)、シリカ、シリカ-金属複合酸化物等が挙げられる。これらの無機原料はシリケート骨格を形成する。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。鋳型として使用される有機原料は、特に限定されるものではないが、例えば界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム(好ましくはアルキル基の炭素数が8~18のアルキルトリメチルアンモニウム)、アルキルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウムの塩化物、臭化物、ヨウ化物又は水酸化物の他、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。無機原料と有機原料を混合する場合、適当な溶媒を用いることができる。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物等が挙げられる。無機物と有機物の複合体の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、有機原料を溶媒に溶解後、無機原料を添加し、所定のpHに調製した後に、反応混合物を所定の温度に保持して縮重合反応を行う方法が挙げられる。縮重合反応の反応温度は使用する有機原料や無機原料の種類や濃度によって異なるが、通常0~100℃程度が好ましく、より好ましくは35~80℃である。縮重合反応の反応時間は、通常1~24時間程度が好ましい。また、上記の縮重合反応は、静置状態、撹拌状態のいずれで行ってもよく、またそれらを組み合わせて行ってもよい。縮重合反応後に得られる複合体から有機原料を除去することによって、多孔質シリカが得られる。有機物と無機物の複合体からの有機物の除去は、400~800℃で焼成する方法、水やアルコール等の溶媒で処理する方法等の方法により行うことができる。
【0028】
上記多孔質シリカに担持される白金族金属を含む粒子の粒子径は、上記多孔質シリカの細孔径の95%以下であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。95%を超えると、細孔内で白金族金属を含む粒子が異形に成長してしまうおそれがあり、防カビ効果が低下する可能性がある。
【0029】
多孔質シリカに担持させる白金族金属を含む粒子は、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、イリジウムの単体粒子、または、これらの合金粒子である。合金粒子としては、ルテニウム/パラジウム合金、白金/ルテニウム合金が好ましい。粒子の粒子径は、0.5nm~10nmであることが好ましく、より好ましくは0.5nm~4nmである。
【0030】
これら白金族金属を含む粒子は白金、ルテニウム、イリジウムの少なくとも一種を含む粒子が好ましく、白金、ルテニウムまたはイリジウムのいずれか一種の粒子がより好ましい。
【0031】
白金族金属を含む粒子は、白金族金属を含む粒子を担持する前の多孔質シリカの存在下で、白金族金属を含む溶液から核生成させて粒成長させることによって、多孔質シリカに担持させることが好ましい。こうすることによって多孔質シリカの細孔内に粒子径が揃った粒子を担持させることができる。
【0032】
白金族金属を含む溶液は、例えば、白金族金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、白金族金属の有機錯体等の水溶液や有機溶媒との溶液である。取り扱いの観点から無機酸塩の水溶液が好ましく、溶解性の観点から酸溶液が好ましい。通常は、白金族金属の塩酸水が使用される。
【0033】
白金族金属を含む粒子が担持された防カビ用多孔質材料は、防カビ性を発揮するため、防カビ剤として好適に使用される。なお、防カビとは、カビの菌に対して、いろいろな処理や処置を施して制御することと定義される。この定義は、広い意味での防カビであり、カビへの作用から殺カビ法、静カビ法、除カビ法が含まれている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0034】
本実施形態の防カビ剤は上記防カビ用多孔質材料を含むものであり、該防カビ用多孔質材料をそのまま単独で防カビ剤として用いてもよい。例えば、パン、もち、ミカンなどのカビやすい食品の近傍に設置することで効果を発揮する。また、食品を保存する倉庫内の送風口に設置することで、倉庫内に浮遊するカビ胞を除去することも可能である。他の機能を有する剤との混合物、例えば抗菌剤、殺菌剤、芳香剤、乾燥剤等の剤との混合物をした防カビ剤でもよい。
【0035】
また本実施形態に係る防カビ用多孔質材料を含む膜(以下防カビ膜と称する場合もある)としてもよい。
【0036】
防カビ膜は防カビ用多孔質材料を樹脂と混合しフィルム状とすることにより作製することができる。または防カビ膜は防カビ用多孔質材料を含有する分散液を調製し、支持体に塗布後、塗膜を乾燥し、支持体を除去して膜状とすることにより作製することもできる。また他の樹脂と混合してフィルム状として他のフィルムと積層する、共押出等により他の樹脂との多層フィルムを形成する、などの方法で防カビ膜(防カビ層)を形成してもよい。樹脂としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル等、通常、フィルムに使用できる樹脂が例示できる。
【0037】
住環境改善の観点から、風呂、トイレ、キッチンなどの住環境における建材や壁紙、エアコンのフィルタ、衣類の繊維製品等の製品に防カビ性を付与した、本実施形態に係る防カビ用多孔質材料を有する加工製品が防カビ加工製品として好ましい。
【0038】
本実施形態に係る防カビ用多孔質材料は、加工製品の内表面または外表面であれば、どの部分に付与されていてもよく、特に、カビが接触しやすい面に付与されていることが好ましい。加工製品の材質は、特に限定されず、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。さらに、プラスチックの基材としては、例えばポリ塩化ビニル系樹脂、ABS系樹脂、AES系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、非結晶性ポリエチレンテレフタレートコポリマー、完全非晶性ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。本実施形態に係る防カビ加工製品としては、具体的には建築資材(天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床など)、自動車内装材(自動車インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材、自動車用ガラスなど)、家電製品用部品(エアコン、空気清浄機用のフィルタ)、繊維製品(衣類、カーテンなど)、家具(タンス、本棚)などが挙げられる。
【0039】
また防カビ効果と取り扱いやすさの観点から、加工製品として後述するような、基材が防カビ用多孔質材料を有する防カビ加工製品が好ましい。
【0040】
基材としては、その形状は例えばフィルム状、シート状、柱状、ハニカム状等の形状や不織布状、織布状、紙状、フェルト状が例示でき、塗布する表面は平滑であっても、凹凸であってもよい。その材質は金属、樹脂、木材、紙、繊維、天然皮革、合成皮革等が例示できる。
【0041】
基材としては防カビ効率の観点から、表面積が大きい基材が好ましく、取り扱いの観点からハニカム状の基材、不織布または紙が好ましい。ここでいうハニカム状とは、広義の意味であり、正六角形に限らず、立体図形を間断なく並べた三次元空間充填形状のものであって連通孔を有するものであり、孔の形状は円形や三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形が例示できる。孔の形状は全て同じであっても、これら形状の2以上を有するものであっても良い。
【0042】
ハニカム状の基材としてはセラミックハニカムやペーパーハニカムが例示できる。セラミックハニカムの成分は、コージェライト、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、ムライト、アルミニウムチタネート、チタニア及びジルコニアからなる群から選ばれる成分からなるものが好ましい。
【0043】
ペーパーハニカムは、クラフト紙、Kライナー紙、強化中芯原紙、耐水中芯原紙、水酸化アルミ紙等からなる群から選ばれる紙からなるものが好ましい。またこれら紙の中でも絶縁性を有する紙が好ましく、不燃性または難燃性を有するものが好ましい。
【0044】
セラミックハニカムは上記成分を押出し成型により所定の形状に成型することで製造することができる。またペーパーハニカムは上記の紙を平板状、波形状、円柱状、蜂巣状等に連続成型積層することで製造することが出来る。これらを用途・環境に合わせて適宜選択し使用する。耐熱性の観点からセラミックハニカムが好ましく、軽量性の観点からペーパーハニカムが好ましい。
【0045】
不織布は、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等の繊維からなるものであり、耐熱性の観点からアラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維が好ましく、難燃性や外気からの洗浄処理性に富んでいるという観点から、ポリエステル/モダアクリル樹脂の繊維がさらに好ましい。
【0046】
紙は、和紙、洋紙、紙と板紙(ボール紙)、包装用紙(包装紙や封筒)等の紙が例示でき、防水や耐水性に富んでいるという観点から包装材料が、また、油や脂質への耐性や難燃性に富んでいるという観点から食品包装用材料がさらに好ましい。
【0047】
防カビ性を付与した防カビ加工製品とする場合、防カビ用多孔質材料はカビと接触する部分にあれば特に制限はないが、通常は基材等の加工製品の表面に付与される。
【0048】
防カビ用多孔質材料を有する加工製品を製造する方法としては、加工製品と防カビ用多孔質材料を熱融着する方法、加工製品に防カビ膜を形成する方法、加工製品の材料と防カビ用多孔質材料を予め混合したのち、目的とする加工製品の形状に成型する方法、等が挙げられる。これらの方法の中でも、加工製品に防カビ膜を形成する方法が加工製品の所望の部分に防カビ性能を付与することができることから好ましい。防カビ膜を形成する場所はカビと接触する位置にあれば特に制限はないが、通常は加工製品の表面に設けられ、表面の一部分に形成されても全面に形成されてもよい。
【0049】
防カビ膜を加工製品に形成する方法としては、上記防カビ用多孔質材料を水、またはエタノール等の有機溶媒に分散させ、必要に応じてバインダーや沈降防止剤を添加して分散液を調製し、この分散液を塗布液として、基材等の加工製品に塗布する方法が例示できる。
【0050】
バインダーとして、例えば、アルミナ、ジルコニア、シリカ等の無機バインダー、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ABS樹脂、PET等のポリエステル系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等のセルロース、アラビヤゴム、ウレタン、フェノール、ジエン等の有機バインダーが例示できる。また塗布液にはさらに、シリカ、フェームドシリカ等の沈降防止剤を含んでいてもよい。
【0051】
塗布液を加工製品の表面に塗布したとき、塗膜に無機バインダーを含有させていると、塗布液を塗布した後の加工製品を昇温・減圧乾燥することによって、乾燥が促進される。さらに、塗膜に無機バインダーを含有させていると、塗膜と加工製品との密着性が向上する。
【0052】
塗膜に有機バインダーを含有させると、塗膜と水の相溶性が低減し、乾燥後の塗膜の撥水性が向上し、防カビ用多孔質材料の細孔内に水分が混入することを防止できる。さらに塗膜に有機バインダーを含有させると、塗膜と加工製品との密着性が向上する。
【0053】
沈降防止剤は、防カビ用多孔質材料を湿式分散するときに、添加され、水またはエタノール等の溶媒に分散させた分散液としたとき、及び、分散液を濃縮乾燥して粉末としたのち、水、溶媒等で乾燥粉末を再度分散させて塗膜用の塗布液としたとき、分散した粉末の沈降を抑制する。沈降防止剤は乾燥した塗膜となったときに塗膜中に存在する。塗布液の分散性が良好であると、均一な塗膜を形成することができ、この結果、防カビ膜における防カビ効果を向上させることができる。
【0054】
上記塗布液において、分散媒の含有量は、防カビ剤100質量部に対して、通常300~20000質量部、好ましくは500~10000質量部である。分散媒がこのような範囲で含有される場合、防カビ剤が沈降しにくく、また容積効率の点でも好ましい。
【0055】
塗布の方法も特に制限はなく、ブレードコーティング、グラビアコーティング、リバースコーティング、刷毛ロールコーティング、スプレーコーティング、キスコーティング、ダイコーティング、ディッピング、バーコーティング、アプリケーターなどの公知の方法で塗布し、分散媒を揮発させればよい。防カビ膜の膜厚は、0.1~500μmであることが好ましく、0.1~100μmであることがより好ましい。
【0056】
塗布液において、使用する有機溶媒等の量は、防カビ用多孔質材料100質量部に対して、通常300~20000質量部、好ましくは500~10000質量部である。有機溶媒等がこのような範囲で含有される場合、防カビ用多孔質材料が沈降しにくく、また容積効率の点でも好ましい。
【0057】
加工製品と防カビ膜との密着性を向上させる目的で、必要に応じて、防カビ膜と加工製品との間に下地層を形成してもよい。下地層は、変性シリコーンや変成シリコーンポリマーを含む下地層形成用コート液を加工製品表面に塗布することによって形成される。下地層の膜厚は、特に制限されるものではなく、その用途などに応じて、適宜設定すればよい。通常、20nm~3mm程度の範囲である。加工製品に付与する防カビ膜の膜厚は上述と同じである。
【0058】
上記防カビ剤を一定の空間内に設置する、防カビ用多孔質材料を有する加工製品を用いる等の方法によって高い防カビ効果を長期に亘って発現することができる。防カビ効果の観点から、上記のような防カビ膜を加工製品に形成した防カビ加工製品を用いる防カビ方法が好ましい。対象となるカビは、クロカビ、アオカビ、コウジカビ、ススカビ、ツチアオカビ、黒色酵母、アオカビが例示でき、これらのカビの増殖を抑制できる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各物性の測定および防カビ性活性の評価については、以下の方法で行った。
【0060】
(実施例1)
(白金が担持された防カビ用多孔質材料の合成)
多孔質シリカとして、メソポーラスシリカ(太陽化学株式会社製 商品名TMPS-4アール 商標登録名TMPS)1gを50mLの水に懸濁させ、白金粒子の担持量が1質量%になるように塩化白金酸水溶液を滴下し、その溶液を室温にて一晩放置した。その後、懸濁液を、エバポレータを用いてオイル温度約70℃にて加熱し、かつ減圧(3kPa)下において、溶媒を揮発させることで懸濁液を濃縮した後、終夜で乾燥した。得られた粉末を60℃で16~18時間、真空乾燥させた。その後、窒素ガス30ml/min及び水素ガスを30mL/minで流通させながら、100℃から200℃の温度となるように水素-窒素の混合ガス雰囲気下で粉末を2時間加熱した。その後、水素で置換した水素雰囲気下において粉末を100℃から200℃で還元処理した。これにより、多孔質シリカに白金粒子を担持した防カビ用多孔質材料1(白金担持率1wt%)を得た。
【0061】
実施例1で得られた防カビ用多孔質材料1のBET比表面積807m2/g、細孔径3~4nm、平均細孔径3.7nm、全細孔容積0.7cm3/gであった。
【0062】
実施例1の防カビ用多孔質材料1を用いてアオカビに対する防カビ性活性の測定を行った。結果を表1に示した。
【0063】
(比較例1)
金属を担持しない多孔質シリカとして、メソポーラスシリカ(太陽化学株式会社製 商品名TMPS-4アール 商標登録名TMPS)単体での防カビ性活性の測定を行った。使用したメソポーラスシリカのBET比表面積850m2/g、細孔径3~4nm、平均細孔径3.8nm、全細孔容積0.85cm3/gであった。結果を表1に示した。
【0064】
(BET比表面積)
比表面積(SBET)は窒素吸脱着測定より得られた吸着等温線を用いてBET法により測定した。
(平均細孔径)
αSプロット法により測定した。
(全細孔容積)
BJH法により測定した。
【0065】
なお、BET比表面積、平均細孔径及び全細孔容積は、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-mini II)を用いて測定した。
【0066】
(防カビ性活性の測定)
ポテトデキストロース寒天培地(Difco社製)に、25±1℃、7~10日間で前培養を行った。菌液は0.005%スルホこはく酸ジオクチルナトリウム溶液で調製し、Penicillium citrinum NBRC 6352(アオカビ)の菌数は105~106/mlで播種した。試験菌液10mlに試料1gを添加して24時間室温で保存した。生菌数測定はGPLP寒天培地(日本製薬株式会社製)を用い、混釈平板培養法にて35±1℃、二日間培養して測定した。防カビ活性値は(数1)の式で求めた。
(数1) 防カビ活性値=log(N0/N)
N0:試料を添加しない場合の生菌数
N:試料1gを添加し、24時間室温で保存後の生菌数
なお、試料とは、実施例1で得られた試料(防カビ用多孔質材料)、或いは比較例1で得られた試料(多孔質シリカ単体)である。
【0067】
【表1】
1)試料の添加量はいずれも試験菌液10mlに対して1g(すなわち1g/10mL)である。
【0068】
上記表1から明らかなように、実施例1の防カビ用多孔質材料は、アオカビに対して高い防カビ性能を発揮することがわかった。