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  • 特許-制振シート、および、その設置方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】制振シート、および、その設置方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230201BHJP
   B32B 3/06 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
F16F15/02 S
B32B3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018049875
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019158120
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306013120
【氏名又は名称】昭和電線ケーブルシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 岳男
(72)【発明者】
【氏名】岩本 康人
(72)【発明者】
【氏名】花田 光弘
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211023(JP,A)
【文献】実開平04-007762(JP,U)
【文献】特開平10-138388(JP,A)
【文献】特開2001-032210(JP,A)
【文献】特開平08-210400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面および前記第1面の反対側に位置する第2面を有する拘束板と、前記拘束板の前記第2面に設けられた制振材とを備え、前記拘束板の前記第2面が前記制振材を介して制振対象に対面するように設置される制振シートであって、
前記制振シートは、前記拘束板と前記制振材とが接着により一体に形成され、中央部分が周辺部分よりも前記第1面の側へ凸な球状に突き出るように断面が湾曲していると共に、前記第1面の側から前記第2面の側に前記拘束板および前記制振材を貫通する貫通孔が前記制振シートの中心である球状の頂点に形成されており、前記制振材の厚みが前記拘束板の厚みよりも厚く、
前記制振対象に設けられた、雄ネジを有する棒状の第1締結部材が前記貫通孔を貫通し、前記貫通孔を貫通した前記第1締結部材に、雌ネジを有する第2締結部材を締め付けることによって、前記制振対象の面に沿った直線的な状態に断面が変形し、前記制振対象に密着する、
制振シート。
【請求項2】
前記貫通孔は、複数であって、前記制振シートの中心の他に、前記制振シートの中心以外に形成されている、
請求項1に記載の制振シート。
【請求項3】
前記制振材において前記制振対象の側に位置する面に設けられている粘着層
を有し、
前記貫通孔は、前記拘束板および前記制振材と共に前記粘着層を貫通するように形成されている、
請求項1または2に記載の制振シート。
【請求項4】
第1面および前記第1面の反対側に位置する第2面を有する拘束板と、前記拘束板の前記第2面に設けられた制振材とを備える制振シートについて、前記拘束板の前記第2面が前記制振材を介して制振対象に対面するように設置する、制振シートの設置方法であって、
前記制振シートは、中央部分が周辺部分よりも前記第1面の側へ凸な球状に突き出るように断面が湾曲していると共に、前記第1面の側から前記第2面の側に前記拘束板および前記制振材を貫通する貫通孔が前記制振シートの中心である球状の頂点に形成されており、前記制振材の厚みが前記拘束板の厚みよりも厚く、
前記制振対象に設けられた、雄ネジを有する棒状の第1締結部材に前記貫通孔を貫通させた後に、前記貫通孔を貫通した前記第1締結部材に、雌ネジを有する第2締結部材を締め付けることによって、前記制振対象の面に沿った直線的な状態に断面を変形させて、前記制振材を前記制振対象に密着させる、
制振シートの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振シート、および、その設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
制振シートの制振対象は、床、壁、機械装置の筐体などの振動体である。制振シートは、振動体の振動に起因して騒音等の不具合が生ずることを抑制するために、振動体に設置される。制振シートは、たとえば、接着剤を用いて制振対象に接着される。また、制振シートは、ボルトなどの締結部材を用いて制振対象に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平05-72435号公報
【文献】特開平10-138388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制振シートは、たとえば、船舶において、床や壁に設置される。船舶において、床や壁は、一般的に、厚板(厚みが8mm以上)の鋼板を用いて構成されており、振動に起因して低周波域(400~1000Hz付近)の騒音が主に生ずる。しかしながら、従来の制振シートは、薄型であるため、低周波域の騒音を抑制する制振効果(損失係数)が十分でない場合がある。また、制振シートが床や壁に十分に固定されず、制振シートが脱離する場合がある。
【0005】
特に、船舶において壁等に用いられた鋼板は、溶接などの熱による影響で歪みが生じ、表面に凹凸(不陸)がある場合が多いので、制振シートが壁等に十分に密着しない場合がある。制振効果を向上させるために制振シートの拘束板を厚くした場合には、制振シートの柔軟性が低下するので、密着性の低下がより顕著になる。密着力の低下に伴い、制振効果の低下、および、制振シートの脱離が生ずる可能性が高まる。制振対象が船舶以外である場合においても同様な不具合が生ずる場合がある。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、制振効果が向上し、脱離の発生を抑制可能な、制振シート、および、その設置方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制振シートは、拘束板と制振材とを備える。拘束板は、第1面および第1面の反対側に位置する第2面を有する。制振材は、拘束板の第2面に設けられている。制振シートは、拘束板の第2面が制振材を介して制振対象に対面するように設置される。ここでは、制振シートは、拘束板と制振材とが接着により一体に形成され、中央部分が周辺部分よりも第1面の側へ凸な球状に突き出るように断面が湾曲していると共に、第1面の側から第2面の側に拘束板および制振材を貫通する貫通孔が制振シートの中心である球状の頂点に形成されている。制振材の厚みが拘束板の厚みよりも厚い。制振シートは、制振対象に設けられた、雄ネジを有する棒状の第1締結部材が貫通孔を貫通し、貫通孔を貫通した第1締結部材に、雌ネジを有する第2締結部材を締め付けることによって、制振対象の面に沿った直線的な状態に断面が変形し、制振対象に密着する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制振効果が向上し、脱離の発生を抑制可能な、制振シート、および、その設置方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。
図2図2は、実施形態に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。
図3図3は、実施形態に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。
図4図4は、実施形態に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。
図5図5は、実施形態に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。
図6図6は、実施形態に係る制振シート1の設置方法を模式的に示す図である。
図7図7は、実施形態の変形例1に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。
図8図8は、実施形態の変形例2に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下より、発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、発明は、図面の内容に限定されない。また、図面は、概略を示すものであって、各部の寸法比などは、現実のものとは必ずしも一致しない。その他、同一の構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
[A]構成
図1から図5は、実施形態に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。図1は、斜視図である。図2は、上面図である。図3は、図2に示すX1-X1部分の断面図である。図4は、図2に示すY1-Y1部分の断面図である。図5は、図3において一点鎖線で囲った領域Aを拡大して示す拡大断面図である。図5では、制振シート1が制振対象80に設置される際の様子を併せて示している。図1から図5において、z方向は、制振シート1の厚み方向zであり、x方向は、z方向に直交する第1方向であり、y方向は、厚み方向zおよび第1方向x方向に直交する方向である。また、破線および一点鎖線は、補助線である。
【0012】
本実施形態において、制振シート1は、図1および図2に示すように、第1方向xに沿った一対の辺と、第1方向xに直交する第2方向yに沿った一対の辺とを含む略正方形形状の板状体である。
【0013】
制振シート1は、図1および図3に示すように、第1方向xに沿った断面(xz面)が弓形に湾曲している。これと共に、制振シート1は、図1および図4に示すように、第2方向yに沿った断面(yz面)が弓形に湾曲している。
【0014】
図5に示すように、制振シート1は、拘束板10と制振材20と粘着層30とを備えていると共に、貫通孔K1が形成されている。制振シート1は、拘束板10が制振材20および粘着層30を介して制振対象80に対面するように設置される。制振シート1の制振対象80は、たとえば、船舶の床や壁を構成する鋼板であって、制振シート1は、制振対象80に伝わった振動を減衰し、固体伝搬音を抑制するように構成されている。
【0015】
制振シート1を構成する各部の詳細について順次説明する。
【0016】
[A-1]拘束板10
制振シート1において、拘束板10は、たとえば、鋼、アルミニウムなどの金属材料を用いて形成された金属板である。拘束板10は、第1面10a、および、第1面10aの反対側に位置する第2面10bを有し、制振シート1が制振対象80に設置される際には、第2面10bが制振対象80の側に位置する。
【0017】
拘束板10は、金属板の他に、ポリ塩化ビニール、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどで形成された樹脂板であってもよい。拘束板10は、制振対象80の材料等に応じて適宜選択された材料を用いて形成される。
【0018】
[A-2]制振材20
制振シート1において、制振材20は、合成ゴム、その他材料を所定の割合で混合した混合物を用いて形成されている。制振材20は、制振シート1が制振対象80に設置された際に拘束板10において制振対象80の側に位置する第2面10bに設けられている。制振材20は、たとえば、拘束板10に接着されている。
【0019】
[A-3]粘着層30
制振シート1において、粘着層30は、制振材20において制振対象80の側に位置する一方の面に設けられている。図示を省略しているが、制振シート1を制振対象80に設置する前は、粘着層30は、剥離紙(離型紙)で被覆された状態にある。
【0020】
[A-4]その他
本実施形態において、制振シート1は、中央部分が周辺部分よりも第1面10aの側へ凸状に突き出るように断面が湾曲している。
【0021】
そして、貫通孔K1は、制振シート1において第1面10aの側から第2面10bの側に貫通するように形成されている。ここでは、貫通孔K1は、円形状であって、制振シート1の中心Cに形成されている。
【0022】
本実施形態において、制振シート1を作製する際には、正方形形状の拘束板10をたとえば、球体の表面に押し付けて、拘束板10を湾曲させる。その後、拘束板の第2面10bに制振材20を圧着するなどして、制振シート1を形成する。このとき、拘束板10などの一部を円形状に切断することで貫通孔K1を形成する。
【0023】
なお、本実施形態において、制振材20の厚み、および、拘束板10の厚みは、抑制する振動の周波数等に応じて任意であるが、制振材20の厚みが拘束板10の厚みよりも厚い方が好ましい。これにより、制振対象80に対して制振材20を均一に貼り付けることできるので、制振効果が向上し、脱離の発生を抑制可能である。たとえば、制振材20の厚みは、1.0mm以上6.0mm以下の範囲であるのに対して、拘束板10の厚みは、たとえば、0.6mm以上3.2mm以下の範囲である。また、たとえば、正方形形状の制振シート1の一辺の長さが300mmである場合には、曲率半径R5000になるように、制振シート1が湾曲していることが好ましい。この場合、制振シート1の湾曲面の高低差が2.25mmになるので、制振対象80である壁のひずみが、最大で2mmであっても、制振シート1が制振対象80である壁に密着するように設置を行うことができる。
【0024】
[B]設置方法
上記の制振シート1を制振対象80に設置する設置方法に関して説明する。
【0025】
図6は、実施形態に係る制振シート1の設置方法を模式的に示す図である。図6は、図5と同様に、図3において一点鎖線で囲った領域Aを拡大して示す拡大断面図であって、制振シート1が制振対象80に設置される際の様子を併せて示している。
【0026】
ここでは、図5と共に、図6を用いて制振シート1の設置方法の説明を行う。図5および図6に示すように、雄ネジを有する棒状の第1締結部材として、スタッドボルト81を用い、雌ネジを有する第2締結部材として、ナット82を用いることによって、制振シート1の設置を行う場合について例示する。
【0027】
具体的には、まず、図5に示すように、制振対象80に設けられたスタッドボルト81に制振シート1の貫通孔K1を貫通させる。
【0028】
ここでは、たとえば、摩擦圧接によってスタッドボルト81を制振対象80に接合する。そして、拘束板10の第2面10bが制振材20を介して制振対象80に対面するように、制振シート1を配置する。その後、制振対象80に設けられたスタッドボルト81に制振シート1の貫通孔K1を挿入する。
【0029】
つぎに、図6に示すように、貫通孔K1を貫通したスタッドボルト81にナット82を締め付ける。
【0030】
ナット82の締め付けによってナット82が制振対象80の側に移動する。これに伴って、制振シート1は、中央部分が周辺部分よりも第1面10aの側へ凸状に突き出るように断面が湾曲していた状態から、制振対象80の面に沿った直線的な状態に断面が変形する。その結果、制振シート1は、制振材20が制振対象80の側に押圧されて粘着層30を介して密着した状態になって、制振対象80に締結される。
【0031】
[C]まとめ
以上のように、本実施形態の制振シート1は、制振対象80に設けられたスタッドボルト81に貫通孔K1を貫通させた後に、貫通孔K1を貫通したスタッドボルト81にナット82を締め付ける。このため、上述したように、ナット82の締め付けによって、制振シート1が湾曲状から直線状に変形するので、制振シート1(ここでは、一方の面に粘着層30を有する制振材20)が、制振対象80に十分かつ均一に密着する。その結果、本実施形態は、制振効果を効果的に発現させることができる。これと共に、本実施形態では、制振シート1の脱離を効果的に防止することができる。なお、制振材20が自己粘着性を有する材料で形成される場合は、粘着層30を別途設けなくても同様の効果が得られる。
【0032】
本実施形態では、貫通孔K1は、制振シート1の中心Cに形成されている。このため、ナット82の締め付けによって、制振材20を制振対象80に対して均一に密着させることができる。その結果、本実施形態は、制振効果を更に高めることができる。
【0033】
[D]変形例
[D-1]変形例1
図7は、実施形態の変形例1に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。図7は、図2と同様に、上面図である。
【0034】
図7に示すように、制振シート1は、貫通孔K1が複数形成されていてもよい。図7では、5つの貫通孔K1が形成された場合を例示している。ここでは、5つの貫通孔K1のうち、1つの貫通孔K1が制振シート1の中心Cに形成されており、4つの貫通孔K1のそれぞれが、制振シート1を構成する4つのコーナー部分のそれぞれに形成されている。図示を省略しているが、制振対象80に設けられた5つのスタッドボルト81のそれぞれが、5つの貫通孔K1のそれぞれに挿入される。そして、スタッドボルト81のそれぞれにナット82が締め付けられる。これにより、制振効果が更に向上可能であって、制振シート1の脱離防止を更に効果的に実現可能である。
【0035】
[D-2]変形例2
図8は、実施形態の変形例2に係る制振シート1の全体を模式的に示す図である。図8は、図2と同様に、上面図である。
【0036】
図8に示すように、制振シート1は、外形が略正方形形状以外の形状であってもよい。図8では、制振シート1の外形について、第1方向xに沿った一対の辺が長辺であって、第1方向xに直交する第2方向yに沿った一対の辺が短辺である略長方形形状である場合を例示している。
【0037】
上記実施形態の制振シート1では、第1方向xに沿った断面(xz面)が弓形に湾曲していると共に、第2方向yに沿った断面(yz面)が弓形に湾曲しているが、これに限らない。第1方向xに沿った断面(xz面)と第2方向yに沿った断面(yz面)とのうち一方が湾曲していてもよい。図8に示すように、制振シート1の外形が略長方形形状である場合には、長辺(第1方向x)に沿った断面(xz面)が弓形に湾曲しているのに対して、短辺(第2方向y)に沿った断面(yz面)が直線状に延在していてもよい。
【0038】
制振シート1の外形は、上記の多角形形状以外に円形状などの種々の形状であってもよい。制振シート1の外形は、設置場所等の事情に応じて、適宜、好適な形状を採用可能である。
【0039】
以上、発明の実施形態を説明したが、発明は上記記載内容に限定されるものではなく、当然ながら、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0040】
1…制振シート、10…拘束板、10a…第1面、10b…第2面、20…制振材、30…粘着層、80…制振対象、81…スタッドボルト(第1締結部材)、82…ナット(第2締結部材)、C…中心、K1…貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8