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特許7219617難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/16 20060101AFI20230201BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 31/4422 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 31/64 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230201BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K31/192
A61K31/196
A61K31/216
A61K31/4422
A61K31/4965
A61K31/64
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/38
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018520979
(86)(22)【出願日】2017-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2017020357
(87)【国際公開番号】W WO2017209216
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2016109393
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】山添 陽平
(72)【発明者】
【氏名】山岡 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】岩田 見二
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-066613(JP,A)
【文献】特公昭46-026989(JP,B1)
【文献】特開2016-084294(JP,A)
【文献】特開2016-053000(JP,A)
【文献】特開2015-209398(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119667(WO,A1)
【文献】特表2012-528171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/16
A61K 31/192
A61K 31/196
A61K 31/216
A61K 31/4422
A61K 31/4965
A61K 31/64
A61K 47/10
A61K 47/26
A61K 47/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合し、得られた混合液を(1)造粒及び乾燥すること、又は(2)乾燥すること、を含む、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法。
【請求項2】
糖または糖アルコールが、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、およびスクロースから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
糖または糖アルコールが、エリスリトール、キシリトール、およびスクロースから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
難溶性薬物のナノ粒子が、湿式粉砕して得られた難溶性薬物のナノ粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
ナノ粒子の粒度分布(D50)が、2μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
造粒が、湿式造粒法である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
難溶性薬物のナノ粒子の分散液が、界面活性剤および/または高分子を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
糖または糖アルコールの水溶液を混合する、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法に関する。また、本発明は、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物、該医薬組成物を含有する経口用医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
難溶性薬物の生体への吸収性を改善する方法として、薬物の微粒子化が挙げられる。これは、薬物をナノオーダーまたはナノオーダーに近いオーダーのサイズにまで微粒子化することで、比表面積を飛躍的に上昇させ、その結果として、溶解速度を向上させることを期待したアプローチである。薬物のナノ粒子化は、食事による吸収性への影響が緩和されることも知られており、難溶性薬物の動態面の改善に対する有用な手法として期待されている。
【0003】
難溶性薬物の微粒子化手法として湿式粉砕技術が広く用いられている。
特許文献1には、難水溶性医薬品を10μm以下に粉砕した後に、結合液中に均一に分散させ、その懸濁液を流動層造粒乾燥機で流動している糖および/または糖アルコールに対し、噴霧、造粒させる方法が開示されている。
非特許文献1には、ミコナゾールとイトラコナゾールについて、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、および水からなる懸濁液を、高エネルギービーズミルで湿式粉砕し、その湿式粉砕液(薬物の平均粒子径(体積基準) 約200~800nm)にマンニトールまたは結晶セルロースを添加、混合し、その懸濁液をスプレードライまたは凍結乾燥により粉末化する方法が開示されている。
非特許文献2には、グリベンクラミドについて、予め分散剤(ジオクチルソジウムスルホサクシネート)とともに溶媒に溶解し、その後スプレードライ処理した薬物を出発原料として、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、および水を加えて得られた懸濁液を高圧ホモジナイザーにより湿式粉砕し、その湿式粉砕液(薬物の平均粒子径 約200nm)にマンニトールを添加、混合し、その懸濁液を撹拌造粒、スプレードライまたは凍結乾燥により粉末化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-126154号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】International Journal of Pharmaceutics 443(2013),209-220
【文献】European Journal of Pharmaceutical Sciences 49(2013),565-577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、固体化後の組成物を再び水に分散(再分散)させ、固体化前後での薬物微粒子の粒度分布を比較するような、組成物中の薬物微粒子の再分散性に関する結果は示されていない。また、特許文献1に開示される技術により製造された製剤は、薬物に対する糖および/または糖アルコールの添加量が多く、錠剤化した際の大型化や薬物含有量が低くなることにより服用製剤量の増加が懸念される。
非特許文献1には、難溶性薬物イトラコナゾールを用いた系では、固体化後の組成物を再び水に再分散させ、固体化前後での薬物微粒子の粒度分布を比較し、固体化後の組成物は良好な再分散性を示した。一方、結晶セルロースを添加した懸濁液から得られた粉末や、凍結乾燥法により得られた粉末、難溶性薬物ミコナゾールを用いた系では、期待した再分散性は得られておらず、薬物適性や製造法といった汎用性の面で課題があるといえる。
非特許文献2には、固体化後の組成物について、種々の添加剤(クロスポビドン、ステアリン酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、乳糖水和物)とともに錠剤化し、その錠剤のpH7.4リン酸緩衝液に対する溶出性を評価している。マンニトールの添加量や製造方法により、溶出性の優劣が議論されているが、組成物中の薬物微粒子の再分散性に関する結果は示されておらず、湿式粉砕液と同等レベルの溶出性改善効果という点では評価されていない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、再分散性に優れる難溶性薬物の医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合し、得られた混合液を造粒することにより、再分散性に優れる難溶性薬物の医薬組成物とすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下の(1)~(12)に関する。
(1)
難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合し、得られた混合液を造粒することを含む、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法。
(2)
糖または糖アルコールが、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、およびスクロースから選択される少なくとも1種である、(1)に記載の製造方法。
(3)
糖または糖アルコールが、エリスリトール、キシリトール、およびスクロースから選択される少なくとも1種である、(1)に記載の製造方法。
(4)
難溶性薬物のナノ粒子が、湿式粉砕して得られた難溶性薬物のナノ粒子である、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)
ナノ粒子の粒度分布(D50)が、2μm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)
造粒が、湿式造粒法である、(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)
難溶性薬物のナノ粒子の分散液が、界面活性剤および/または高分子を含有する、(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)
糖または糖アルコールの水溶液を混合する、(1)~(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)
(1)~(8)のいずれかに記載の製造方法により得られる難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物。
(10)
顆粒である、(9)に記載の医薬組成物。
(11)
(9)又は(10)に記載の難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物と、添加剤とを含有する経口用医薬組成物。
(12)
錠剤、カプセル剤、または顆粒剤である、(11)に記載の経口用医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、再分散性に優れる難溶性薬物の医薬組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合し、得られた混合液を造粒する、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法である。
【0012】
本発明において、難溶性薬物とは、第16改正日本薬局方における溶解性を示す用語において、極めて溶けやすい、溶けやすい、やや溶けやすい、やや溶けにくい、溶けにくい、極めて溶けにくい、ほとんど溶けないとされているもののうち、やや溶けやすい、やや溶けにくい、溶けにくい、極めて溶けにくい、またはほとんど溶けないに分類される薬物を意味する。
難溶性薬物としては、特に限定されるものではないが、例えば、プロブコール、メフェナム酸、フェノフィブラート、フルルビプロフェン、シンナリジン、ニフェジピン、およびグリベンクラミド等が挙げられる。
【0013】
本発明において、難溶性薬物のナノ粒子の分散液は、分散液とすることができる公知の方法により調製することができる。
難溶性薬物を分散媒に添加して、粗分散させた粗分散液を得、湿式粉砕により、難溶性薬物のナノ粒子の分散液を得てもよく、あらかじめ、難溶性薬物を乾式粉砕してから、分散媒に添加して、難溶性薬物のナノ粒子の分散液を得てもよい。
分散液中の難溶性薬物のナノ粒子は、湿式粉砕して得られた難溶性薬物のナノ粒子であることが好ましい。
湿式粉砕に用いる装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、高圧ホモジナイザーおよびミル等が挙げられる。
【0014】
難溶性薬物を分散させるために用いる分散媒としては、特に限定されるものではないが、水または低級アルコール等の水溶性溶媒が好ましく用いられ、水、中でも、精製水を用いることが好適である。
難溶性薬物の分散液中の濃度は、特に限定されるものではないが、分散液に対する質量比で、例えば、30%以下であり、20%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明において、難溶性薬物は、分散液中においてナノ粒子として存在する。
分散液中の難溶性薬物の粒度分布は、D50が2μm以下であることが好ましく、0.05~1μmであることがより好ましい。
本発明において、D50とは、粉体をある粒子径で2つに分けたとき、それより大きい側とそれより小さい側が等量となる径を意味し、メディアン径ともいわれる。
D50は、粒度分布において、累積で50%となる粒子径である。
本発明においては、D10、D50、およびD90は実施例に記載する方法により測定することができる。
【0016】
分散液には、難溶性薬物の分散性を高める観点で、難溶性薬物以外の他の成分として、界面活性剤および/または高分子を含んでいてもよい。
界面活性剤および/または高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリソルベート80(Tween80)、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、Poroxamer、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒプロメロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、およびポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
本発明においては、界面活性剤および/または高分子として、Tween80、SDS、またはHPCが好ましく用いられる。
【0017】
難溶性薬物のナノ粒子の分散液を調製する場合に、分散媒中に、界面活性剤および/または高分子を添加し、その溶液または懸濁液に対して、難溶性薬物を添加してもよく、分散媒中に、難溶性薬物を添加してから、界面活性剤および/または高分子を添加してもよい。
難溶性薬物のナノ粒子の分散液が、界面活性剤および/または高分子を含む場合、分散液中における、難溶性薬物と、界面活性剤および/または高分子の質量比は、難溶性薬物/界面活性剤/高分子として、1/1/1~1/0.05/0.05であることが好ましく、1/0.1/0.3であることがより好ましい。
【0018】
難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合して、難溶性薬物のナノ粒子と糖または糖アルコールを含む混合液を得る。
糖または糖アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、乳糖、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、およびスクロース等が挙げられる。
糖または糖アルコールは、D体を用いてもよく、L体を用いてもよい。また、任意の成分比のDL混合物を用いてもよい。
糖または糖アルコールとしては、再分散性の観点から、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、およびスクロースから選択される少なくとも1種であることが好ましく、エリスリトール、キシリトール、およびスクロースから選択される少なくとも1種であることがより好ましく、スクロースを用いることが好適である。
本発明において、少なくとも1種の糖または糖アルコールを用いるとは、糖または糖アルコールを1種用いてもよく、2種以上の糖または糖アルコールを用いてもよいことと同義である。
糖または糖アルコールとして、マンニトール以外の糖または糖アルコールを用いることができ、また、乳糖以外の糖または糖アルコールを本発明においては用いることができる。
本発明において、例えば、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、およびスクロース等を用いることにより、難溶性薬物に対する糖または糖アルコールの添加量を減らすことができる。
【0019】
糖または糖アルコールは、難溶性薬物のナノ粒子の分散液に対して、直接混合してもよく、糖または糖アルコールの溶液として混合してもよく、難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合する方法は、特に限定されない。また、本発明において、難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合し、混合液を得るにあたり、糖または糖アルコールの溶液に、難溶性薬物のナノ粒子の分散液を混合することを排除するものではない。
【0020】
糖または糖アルコールは、糖または糖アルコールの溶液として混合することができるが、糖または糖アルコールの溶媒としては、特に限定されるものではなく、水または低級アルコール等の水溶性溶媒が好ましく用いられ、水、中でも、精製水を用いることが好適である。
糖または糖アルコールの溶液中の濃度は、特に限定されるものではない。
【0021】
混合液における難溶性薬物と糖または糖アルコールの質量比は、難溶性薬物/(糖または糖アルコール)として、1/20~1/3であることが好ましく、1/10~1/3であることがより好ましい。
糖または糖アルコールの含有量を、難溶性薬物1質量部に対して、20質量部以下とすることにより、錠剤の小型化や薬物の高含量化させることができる。
混合液中の難溶性薬物と糖または糖アルコールの質量比は、造粒後における難溶性薬物の微粒子の医薬組成物中の質量比と近似する。したがって、混合液中の難溶性薬物と糖または糖アルコールの質量比が、そのまま難溶性薬物の微粒子の医薬組成物中の難溶性薬物と糖または糖アルコールの質量比であってよい。逆に、本発明においては、難溶性薬物の微粒子の医薬組成物中の難溶性薬物と糖または糖アルコールの質量比を、混合液中の難溶性薬物と糖または糖アルコールの質量比としてみなすことができる。
【0022】
混合液には、必要な造粒成分を添加してもよい。必要な造粒成分としては、汎用されている公知の造粒成分を使用することができる。
【0023】
混合液を造粒することにより、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物を製造する。
難溶性薬物のナノ粒子と、糖または糖アルコールを少なくとも含む混合液の造粒方法は特に限定されるものではなく、公知の造粒方法を採用することができる。
本発明は、造粒に用いられる難溶性薬物のナノ粒子を含む混合液中に、糖または糖アルコールが共存することにより、造粒過程で、微粒子化された難溶性薬物同士の凝集を抑制し得ることを見出したことによる。
ナノ粒子として存在する難溶性薬物の比表面積の増大効果が失われることなく、難溶性薬物の医薬組成物を製造することができる。
【0024】
本発明において用いられる造粒方法としては、例えば、流動層造粒法および撹拌造粒法等の湿式造粒法が挙げられ、流動層造粒法が好適に用いられる。
また、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物として、オーブン等により混合液の乾燥を行って、水分を除去して、乾燥試料を得てもよい。本発明においては、医薬組成物として、混合液の乾燥を行って、水分を除去して得られる乾燥試料を含む。
【0025】
難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物中の、難溶性薬物の含有量は、特に限定されるものではないが、医薬組成物に対する質量比で、例えば、20%であり、10%以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法は、湿式粉砕による難溶性薬物のナノ粒子の分散液に、糖または糖アルコールを混合し、得られた混合液を造粒する、難溶性薬物の微粒子を含有する医薬組成物の製造方法(ただし、糖または糖アルコールとしてマンニトールは除く。)であることが好ましく、糖または糖アルコール水溶液を添加して難溶性薬物のナノ粒子と混合することが好適であり、また、造粒を流動層造粒により行うことが好適である。本発明においては、医薬組成物は、好適には、顆粒として得られる。顆粒は、流動層造粒によって得られる医薬組成物であってよい。
【0027】
本発明の製造方法により得られる医薬組成物は、再分散性に優れた粒子である。
難溶性薬物のナノ粒子の分散液中で、難溶性薬物と糖または糖アルコールとが共存し、医薬組成物とした場合において、糖または糖アルコールが担体(以下、「MF」と称す。「MF」は、マトリックスフォーマー(Matrix Former)の略称である。)として機能して、MF中に難溶性薬物のナノ粒子が凝集せず、分散したまま存在(固定化)することができるため、再分散性に優れていると考えられる。
【0028】
本発明の製造方法により得られる医薬組成物において、再分散性に優れるのは以下の理由によるものと考えることができる。
糖または糖アルコールの飽和溶液粘度が高いほど、得られる医薬組成物における再分散時の粒子径(D50またはD90)が小さくなり、高い再分散性(すなわち高い凝集抑制効果)を示す傾向が認められた。造粒時において、難溶性薬物のナノ粒子と糖または糖アルコールを含有する混合液は、固形化する直前に、液滴中の糖または糖アルコールが一時的に飽和溶解状態に到達すると考えられる。この飽和溶解状態の液滴の粘度が、液滴中に包含される難溶性薬物のナノ粒子の運動性に影響すると考えられ、糖または糖アルコールの飽和溶液粘度が低いほど、ナノ粒子の運動性が高いため凝集しやすく、糖または糖アルコールの飽和溶液粘度が高いほど運動性が低いため凝集しにくくなったと考えられる。ただし、飽和溶液粘度以外の要因も影響しているとも考えられる。
飽和溶液粘度が低い糖または糖アルコールを用いる場合には、添加量を増加させることで再分散性が改善し、所望の凝集抑制効果が得られる。
【0029】
本発明において得られる医薬組成物は、常法により経口用医薬組成物とすることができる。
経口医薬組成物としては、経口投与できる製剤であれば、特に限定されるものではないが、中でも、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤の形状であってよく、錠剤、カプセル剤、または顆粒剤であることが好ましく、錠剤またはカプセル剤として好適に用いられる。
本発明において得られる医薬組成物、好適には顆粒を必要により他の添加剤等とともにカプセルに充填して、本発明の経口投与用医薬組成物としてのカプセル剤としてもよく、本発明において得られる医薬組成物、好適には顆粒を必要により他の添加剤等とともに混合および/または造粒して本発明の経口投与用医薬組成物としての錠剤としてもよい。
本発明において得られる顆粒を、そのまま顆粒剤としてもよく、必要により他の添加剤の顆粒と混合した顆粒剤としてもよい。
【0030】
添加剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、賦形剤、崩壊剤、および滑沢剤等が挙げられる。
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、デンプン、結晶セルロース、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン誘導体(コーンスターチ等)、セルロース誘導体、炭酸塩、リン酸塩、および硫酸塩等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、および低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、モノステアリン酸グリセリン、および軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
添加剤として、さらに、例えば、着色剤および香料等を任意に加えてもよい。
それぞれの添加剤は、各種1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせ用いてもよい。
【0031】
本発明においては、固形製剤化過程での難溶性薬物のナノ粒子同士の凝集抑制を達成し、得られた医薬組成物を再分散した時の難溶性薬物の粒子径/粒度分布が、固形製剤化前の難溶性薬物のナノ粒子の分散液における難溶性薬物の粒子径/粒度分布と同等レベルを維持することで、ナノ粒子化により得られる溶出性改善などの優れた特性を、固形製剤化した後も発揮可能である。この特性は、カプセル剤や顆粒剤とした場合にも達成される。また、本発明により得られた医薬組成物を錠剤化した後も、医薬組成物の優れた再分散性は維持される。
【実施例
【0032】
本発明を実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
プロブコールを予め調製したヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L、日本曹達)水溶液に投入し、ホモジナイザー(12,000rpm、2分)で粗分散させて分散液を調製した。得られた分散液を高圧せん断式湿式粉砕機(マイクロフルイダイザー、パウレック)に投入し、処理圧力;207MPa、処理時間;バッチ式処理30回に相当する時間で、湿式粉砕を行って、ナノ粒子を含む分散液(以下、「ナノサスペンジョン」と称す)を調製した。ナノサスペンジョンの組成は、プロブコール/ヒドロキシプロピルセルロース=10質量部/1質量部とした。
MFとして、スクロースを精製水に添加、撹拌し、MF水溶液として、スクロース水溶液を調製した。
ナノサスペンジョンと、スクロース水溶液を混合、撹拌し、混合溶液を調製した。混合溶液の組成は、プロブコール/スクロース=1質量部/15質量部とした。
得られた混合溶液を別の容器に取り分け、オーブンによる乾燥(90℃、60~120分)を行い、水分を除去し、医薬組成物として、乾燥試料を調製した。
【0034】
(比較例1)
プロブコールのナノサスペンジョンを別の容器に取り分け、精製水と混合し、撹拌して得られた混合溶液を調製した以外は、実施例1と同様に行って、乾燥試料(MFなし)を調製した。
【0035】
(比較例2)
複合型流動層微粒子コーティング・造粒装置(SFP-1型、パウレック)を用いて、装置缶体に核顆粒である結晶セルロース(粒)(CP-102、旭化成ケミカルズ)を投入し、結晶セルロースの核顆粒に対し、実施例1で得られたプロブコールのナノサスペンジョンをスプレーした(吸気風量;40~42m/min、吸気温度;70℃、スプレー液流量;10.3~11.4g/min、スプレーエア流量;25L/min、ローター回転速度;1000~1003min-1)。スプレー後、低速(300min-1)でのローター回転を行いながら、5分間の乾燥を行い、レイヤリング医薬組成物(MFなし)を調製した。
【0036】
(試験例1)
ナノ粒子化された薬物の粒度分布(D10、D50、D90)に着目し、固形化前のナノサスペンジョンの薬物の粒度分布に対し、得られた乾燥試料またはレイヤリング医薬組成物を精製水に添加し、得られた再分散液の薬物の粒度分布を比較することで、固形化後の製剤における薬物ナノ粒子の再分散性を評価し、MFを含むことによる凝集抑制効果の評価を行った。
固形化前のナノサスペンジョン、実施例1および比較例1で得られた乾燥試料の再分散液、および比較例2で得られたレイヤリング医薬組成物の再分散液の粒度分布を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装)を使用して測定した。分散媒には精製水を使用し、循環式で測定を行った。実施例1および比較例1で得られた乾燥試料については、プロブコール約8mgを含む乾燥試料に対し、精製水5mLを加え、120分間撹拌して、再分散液を調製した。比較例2で得られたレイヤリング医薬組成物については、レイヤリング医薬組成物約160mg(プロブコールとして約8mg相当)に対し、精製水5mLを加え、120分間撹拌して、再分散液を調製した。
【0037】
通常の処方/製造法による製剤化と同等である比較例1で得られた乾燥試料および比較例2で得られたレイヤリング医薬組成物を再分散させたときの薬物の粒度分布は、製剤化前のナノサスペンジョンの薬物の粒度分布と比較して、顕著に増大した結果を示し、製剤化前後での薬物同士の凝集が認められた。これに対して、MFとしてスクロースを含む実施例1で得られた乾燥試料は、薬物の凝集の改善が認められた。
【0038】
表1 実施例1および比較例1~2の処方
【0039】
【表1】
【0040】
表2 実施例1および比較例1~2の粒度分布
【0041】
【表2】
【0042】
(実施例2~7)
ジルコニア容器に種々の薬物(フェノフィブラート、ニフェジピン、グリベンクラミド、フルルビプロフェン、シンナリジンまたはメフェナム酸)を秤量し、次いで所定の濃度で調製したヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL、日本曹達)/Tween80(和光純薬)水溶液を添加、懸濁液とし、ジルコニアボール(ジルコニア粉砕ボール、YTZ 直径0.1mm、ニッカトー)を入れて蓋をした。自転・公転ナノ粉砕機(NP-100、シンキー)を用いて、湿式粉砕を行い、その後、精製水を添加、希釈し、ジルコニアボールをスクリーン除去し、ナノサスペンジョンを調製した。ナノサスペンジョンの組成は、薬物/HPC-SSL/Tween80=10質量部/3質量部/1質量部とした。
いずれのナノサスペンジョンにおいても、薬物の粒度分布は、D50として、約0.20μmであった。
MFとしてスクロースを精製水に添加、撹拌し、MF水溶液として、スクロース水溶液を調製した。
種々の薬物のナノサスペンジョンと、スクロース水溶液を混合、撹拌し、混合溶液を調製した。混合溶液の組成は、薬物/スクロース=1質量部/10質量部とした。
得られた混合溶液を別の容器に取り分け、オーブンによる乾燥(90℃、60~120分)を行い、水分を除去し、医薬組成物として、乾燥試料を調製した。
【0043】
(比較例3~8)
種々の薬物のナノサスペンジョンと、スクロース水溶液を混合せず、混合溶液を調製しなかった、すなわち種々の薬物のナノサスペンジョンを別の容器に取り分け、オーブンによる乾燥(90℃、60~120分)のみを行った以外は、それぞれ、実施例2~7と同様に行って、乾燥試料(MFなし)を調製した。
【0044】
(試験例2)
固形化前のナノサスペンジョンの薬物の粒度分布に対し、得られた乾燥試料を精製水に添加し、得られた再分散液の薬物の粒度分布を比較することで、固形化後の製剤における薬物ナノ粒子の再分散性を評価し、MFを含むことによる凝集抑制効果の評価を行った。固形化前のナノサスペンジョンの各薬剤におけるD50はいずれも約0.20μmであった。
再分散時の薬物濃度が20mg/mLとなるように精製水を加え、5回転倒混和して再分散液を調製した以外は、試験例1と同様にして行った。
【0045】
いずれの薬物においても、MFを含まない乾燥試料に対し、MFを含む乾燥試料では、薬物の再分散性の向上が認められた。フルルビプロフェンでは特に顕著な凝集抑制効果が示された。また、ニフェジピンやグリベンクラミドでは、MF添加により再分散時のD50が、固形化前のナノサスペンジョンとほぼ同じ約0.20μmとなる結果を得た。
【0046】
表3 実施例2~7および比較例3~8の処方
【0047】
【表3】
【0048】
表4 実施例2~7および比較例3~8の粒度分布
【0049】
【表4】
【0050】
(実施例8~10)
薬物として、フェノフィブラート、メフェナム酸またはフルルビプロフェンを用いた以外は、実施例2と同様にして、ナノサスペンジョンを調製した。
いずれのナノサスペンジョンにおいても、薬物の粒度分布は、D50として、約0.20μmであった。
MFとしてスクロースと、造粒用結合剤(HPC-SSL)を精製水に添加、撹拌し、MF水溶液として、スクロース水溶液を調製した。
種々の薬物のナノサスペンジョンと、スクロース水溶液を混合、撹拌し、薬液バインダーを調製した。薬液バインダーの組成は、薬物/スクロース=1質量部/10質量部とした。
流動層造粒機(FL-Labo、フロイント産業)を用いて、造粒成分(乳糖水和物)に対し、薬液バインダーをスプレーした(吸気風量;0.1~0.2m/min、吸気温度;75~85℃、スプレー液流量;1.2~2.5g/min、スプレーエア圧力;0.15MPa)。スプレー後、乾燥を行い、医薬組成物を調製した。
【0051】
(比較例9~11)
種々の薬物のナノサスペンジョンと、造粒用結合剤(HPC-SSL)のみを精製水に添加、撹拌し得られた造粒用結合剤水溶液とを混合し、撹拌し、薬液バインダーとした以外は、それぞれ、実施例8~10と同様に行って、医薬組成物(MFなし)を調製した。
【0052】
(試験例3)
固形化前のナノサスペンジョンの薬物の粒度分布に対し、得られた医薬組成物を精製水に添加し、得られた再分散液の薬物の粒度分布と比較することで、固形化後の製剤における薬物ナノ粒子の再分散性を評価し、MFを含むことによる凝集抑制効果の評価を行った。
医薬組成物の約500mg(薬物として10mg相当)に対し、精製水2mLを加え、5回転倒混和して再分散液を調製した以外は、試験例1と同様にして行った。
【0053】
いずれの薬物においても、MFを含まない医薬組成物に対し、MFを含む医薬組成物では、顕著に粒度分布が小さい値を示し、固形製剤化過程での薬物ナノ粒子同士の凝集が抑制され、薬物の再分散性に優れることが示された。メフェナム酸およびフルルビプロフェンでは、MF添加により再分散時のD50が、固形化前のナノスペンジョンとほぼ同じ約0.20μmとなる結果を得られ、非常に高い再分散性が示された。
【0054】
表5 実施例8~10および比較例9~11の処方
【表5】
【0055】
表6 実施例8~10および比較例9~11の粒度分布
【表6】
【0056】
(実施例11~15)
MFとして種々の糖または糖アルコールを用いる以外は、実施例8と同様に行って、医薬組成物を調製した。
【0057】
(試験例4)
固形化前のナノサスペンジョンの薬物の粒度分布に対し、得られた医薬組成物を精製水に添加し、得られた再分散液の薬物の粒度分布と比較することで、固形化後の製剤における薬物ナノ粒子の再分散性を評価し、MFの種類による凝集抑制効果の評価を、試験例3と同様にして行った。
【0058】
MFとしてD-マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトールまたはスクロースを含む医薬組成物では、MFを含まない医薬組成物(比較例9)と比較して、顕著に粒度分布が小さい値を示し、固形製剤化過程での薬物ナノ粒子同士の凝集が抑制され、薬物の再分散性に優れることが示された。
【0059】
表7 実施例11~14および実施例8の処方
【0060】
【表7】
【0061】
表8 実施例11~14および実施例8の粒度分布
【0062】
【表8】
【0063】
(実施例15~18)
MFとして乳糖水和物またはスクロースを用い、薬液バインダーの組成を、乳糖水和物を用いた系では、薬物/MF=1質量部/10質量部または1質量部/20質量部とし、スクロースを用いた系では、薬物/MF=1質量部/1質量部、1質量部/3質量部または1質量部/10質量部とする以外は、実施例8と同様に行って、医薬組成物を調製した。
【0064】
(試験例5)
固形化前のナノサスペンジョンの薬物の粒度分布に対し、得られた医薬組成物を精製水に添加し、得られた再分散液の薬物の粒度分布と比較することで、固形化後の製剤における薬物ナノ粒子の再分散性を評価し、MFの添加量による凝集抑制効果の評価を、試験例3と同様にして行った。
【0065】
MFとして乳糖水和物を含む医薬組成物では、薬物/MF=1質量部/20質量部の比率において再分散性が改善し、固形製剤化過程における凝集抑制効果が認められた。
MFとしてスクロースを含む医薬組成物では、MFの添加量を代えても凝集抑制効果が示された。
【0066】
表9 実施例15~18および実施例8の処方
【0067】
【表9】
【0068】
表10 実施例15~18および実施例8の粒度分布
【0069】
【表10】
【0070】
(実施例19)
実施例8で得られた医薬組成物と、結晶セルロース(CEORUS PH-702、旭化成ケミカルズ)およびクロスカルメロースナトリウム(Ac-di-sol、FMC)とをガラス瓶内で手混合(100回)した。その後ステアリン酸マグネシウム(Parteck LUB MST、メルク)を添加し、手混合(100回)することで、打錠用顆粒とした。
打錠用顆粒を1錠当たり220mgとなるように秤量し、8mmφの隅角平形状の打錠杵と簡易錠剤成型機(HANDTAB200、市橋精機)を用いて、3kNの打錠圧で製錠し、錠剤を調製した(実施例19)。
【0071】
(比較例12)
HPC-SSL、Tween80およびソルビトールを溶解させた造粒用バインダーを、流動層造粒機(FL-Labo、フロイント産業)を用いて、造粒成分である薬物(フェノフィブラート)の未粉砕原薬および乳糖水和物に対しスプレー添加し、乾燥させることで医薬組成物(通常顆粒)を得た(比較例12)。
【0072】
(試験例6)
モデル薬物(フェノフィブラート)原末、医薬組成物(実施例8、比較例9および比較例12)および錠剤(実施例19)について、溶出性を評価した。主薬9mg相当量をとり、試験液に0.05% Tween80水溶液500mLを用い、パドル法により、毎分50回転で試験を行った。溶出試験開始5、10、15、30、60、90分および120分後、溶出液5mLをとり、孔径0.2μm以下のCellulose Acetate製のメンブランフィルターでろ過した。初めのろ液4mLを除き、次のろ液を試料溶液とした。溶出液を採取した後、別に新たな試験液5mLをとり、容器内の試験液に加えた。別に、定量用の主薬を約10mgを精密に量り、水/アセトニトリル混液(1:1)に溶かし、10分間の超音波照射を行ったのち、正確に100mLとした。この液10mLを正確に量り、水/アセトニトリル混液(1:1)を加えて正確に50mLとし、標準溶液とした。試料溶液および標準溶液10μLずつを正確にとり、液体クロマトグラフィーにより試験を行い、それぞれの液のフェノフィブラートのピーク面積から溶出濃度を測定した。試験例数はn=1~2とした。
薬物原末の溶出性は、120分時点でも1μg/mL以下であり溶出性は非常に低かった。この薬物原末に対し、通常の製剤処方および製造法で得られた医薬組成物(比較例12)では、30分時点で約4μg/mLの溶出性を示し、溶出性の向上が認められた。製剤化により、フェノフィブラートの濡れ性が改善し、溶出性の向上が得られたと考えられる。薬物原末をナノサスペンジョン化し、その後固形製剤化させた医薬組成物の溶出性について、MFを含まない医薬組成物(比較例9)では、通常の製剤処方および製造法で得られた医薬組成物(比較例12)と同等のプロファイルを示した。これらに対し、MFとしてスクロースを用いた医薬組成物(実施例8)については、5分時点での溶解濃度が約6μg/mLに達し、通常の製剤処方および製造法で得られた医薬組成物(比較例12)よりも高い溶出性を示し、薬物をナノ粒子化したことによる溶出性改善効果が示唆された。
さらに、実施例8で得られた医薬組成物を製錠した錠剤(実施例19)の溶出性については、溶出ベッセル中での錠剤の崩壊時間を律速として、溶出試験初期の溶解濃度が、医薬組成物よりも低い値を示したが、錠剤崩壊に伴い、溶解濃度は上昇し、MFとしてスクロースを用いた錠剤(実施例19)についても、30分時点では医薬組成物(実施例8)と同等の溶出性を示した。
【0073】
表11 実施例8および19ならびに比較例9および12の処方
【0074】
【表11】
【0075】
表12 実施例8および19ならびに比較例9および12の溶解試験における溶解濃度
【0076】
【表12】