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7219697液晶形成用組成物、液晶含有乳化剤及びクリーム状又はフィルム状を呈する液晶含有化粧料
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  • -液晶形成用組成物、液晶含有乳化剤及びクリーム状又はフィルム状を呈する液晶含有化粧料 図1A
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  • -液晶形成用組成物、液晶含有乳化剤及びクリーム状又はフィルム状を呈する液晶含有化粧料 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】液晶形成用組成物、液晶含有乳化剤及びクリーム状又はフィルム状を呈する液晶含有化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/63 20060101AFI20230201BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20230201BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
A61K8/63
A61K8/55
A61K8/36
A61K8/02
A61Q19/00
A61Q1/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019218502
(22)【出願日】2019-12-03
(62)【分割の表示】P 2018247793の分割
【原出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020109074
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】595048544
【氏名又は名称】ちふれホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】ハッジャジ,ファティン
(72)【発明者】
【氏名】丸山 寛花
(72)【発明者】
【氏名】小山 摂司
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167134(JP,A)
【文献】特開平07-187987(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0359723(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0057667(KR,A)
【文献】特開2003-081737(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0213579(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0335756(US,A1)
【文献】特開平05-039485(JP,A)
【文献】特許第6399530(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C09K 19/00-19/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチン及び水添レシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸のみからなりかつ25℃で固体の状態である、液晶形成用組成物。
【請求項2】
前記レシチン及び前記水添レシチンは、それぞれホスファチジルコリンの含有量が20質量%以上であるレシチン及び水添レシチンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記両親媒性脂質の含有量は、前記ステロールの含有量よりも多い量である、又は前記直鎖飽和脂肪酸の含有量よりも多い量である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
レシチン及び水添レシチンからなる群から選ばれる少なくとも1種の両親媒性脂質 38質量%~70質量%、ステロール 5質量%~40質量%及び直鎖飽和脂肪酸 10質量%~45質量%のみからなり、かつ25℃で固体の状態である、液晶形成用組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物と、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、エタノール、シクロペンタシロキサン、ミネラルオイル、スクワラン、ゴマ油、マカデミアナッツ油、ホホバ油及びトリエチルヘキサノインからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒とを含有する、液晶含有乳化剤。
【請求項6】
前記溶媒の含有量は50質量%~90質量%である、請求項5に記載の乳化剤。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の液晶形成用組成物と、多価アルコール、アルコール、エステル油、シリコーン油、炭化水素油及び植物油からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒と、被膜形成高分子と、水とを含有する、液晶含有化粧料であって、前記被膜形成高分子がヒアルロン酸ナトリウム、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルヒアルロン酸ナトリウム、チューベロース多糖体、ヒドロキシプロピルキトサン、ガラクトマンナンおよび硫酸化ガラクタン、スイゼンジノリ多糖体、ヒプロメロースおよびメチルセルロース、プルラン、ホソバセンナ種子多糖体、グリコシルトレハロース/加水分解水添デンプン、カラギーナン、タマリンドガム、コラーゲン、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー、高重合ポリエチレングリコール、ポリクオタニウム-51及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記化粧料
【請求項8】
前記化粧料は皮膚に塗布して含水量が50%以下になった場合にフィルム状を呈し、かつ、安定した液晶相を含有する、請求項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を形成するために用いられる組成物及び該組成物を利用した液晶を含有する乳化剤並びにクリーム状及びフィルム状の化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶(Liquid crystalline;LC)には、ラメラ相、ヘキサゴナル相、キュービック相などの構造があることが知られている。液晶構造を有する材料は、美容上の利点のために、化粧品及びパーソナルケア品において広く利用されている。
【0003】
ラメラ相を有する液晶及びゲル、特にケラチノサイト間のラメラ脂質と構造及び性質が類似した脂質を含むものは、それらの保湿及びバリア機能のために皮膚の水和状態を改善することが示されている。ラメラ層間の結合水分量並びにラメラ相に含まれる脂質の性質及び濃度は、保湿効果及びバリア効果の有効性に影響を与える。
【0004】
化粧品分野で応用されるラメラ液晶は、通常、ゲル、クリーム、ローションなどに含まれる液滴エマルションとしてもたらされる。しかし、これらの化粧料中に形成されるラメラ液晶は、溶媒の蒸発の際に濃縮して結晶化が起こる。さらに、化粧料の作製時又は皮膚適用時に機械的なせん断によって、容易に消失し得る。
【0005】
仮に、化粧料中のラメラ状液晶滴(ラメラ脂質)を皮膚表面に安定して高濃度に固定化することができれば、ラメラ脂質の連続シート、すなわち液晶フィルムを形成することができる。このような液晶フィルムを形成する濃縮されたラメラ脂質会合体の存在は、十分な保湿機能及び優れたフィルムバリア機能を同時的に皮膚にもたらし、非常に有用である。
【0006】
しかしながら、脂質及び水分がラメラ状の液晶微小滴として濃縮されたこのようなラメラ脂質の連続シートの実現は、皮膚に適用される間にラメラ脂質液滴が不安定化するためにこれまでに達成されていない。
【0007】
ラメラ液晶を含有する化粧品の調製では、乳化剤、主として界面活性剤及び極性脂質を使用する。しかし、界面活性剤は皮膚の脂質バリアを破壊することによって間接的に皮膚刺激を引き起こす。また、極性脂質は、通常はセラミドやステロールなどの天然の膜脂質であり、これらは溶解性が低く、結晶化度が高いという問題がある。
【0008】
液晶形成用の乳化剤としては、例えば、特許文献1には、ステロール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンを必須成分として含有する液晶形成用乳化剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-280587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、特許文献1に記載の乳化剤を用いることにより、角質細胞間脂質に類似の液晶構造を形成し、皮膚に塗布されている間も液晶構造を安定に保持して、高いスキンケア効果を発揮するとともに製剤化が容易である化粧料を製造することができるという記載がある。
【0011】
しかし、本発明者らが調べたところによれば、特許文献1に記載の乳化剤の必須成分であるステロール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンの混合物を融解することは非常に困難であり、例えば、これらを水性溶媒又は油性溶媒で分散しようとしても、ステロールの残留物や結晶の析出物である凝集体が存在し続けるという問題がある。
【0012】
また、ステロール、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンの混合物を溶解するためには、特許文献1の実施例に記載があるとおりに、多量の高級アルコールを使用しなければならない。その結果として、特許文献1に記載の乳化剤を利用して、液晶を含有する化粧料を得るためには、多量の油性成分を含有させなければならず、配合する水の量が限定されるという問題が生じる。
【0013】
液晶を含有する化粧料を皮膚上に塗布して液晶フィルムを形成する際に、形成したフィルムに接着性、弾力性及び展延性を付与するために、皮膜形成高分子を配合することが考えられる。このような化粧料に使用する皮膜形成高分子は水溶性のものが多く、配合する水の量が限定される特許文献1に記載の乳化剤を利用した化粧料では、このような水溶性の皮膜形成高分子を含有せしめることは困難である。
【0014】
特許文献1の実施例をみると、特許文献1に記載の乳化剤には必ず多量の高級アルコールなどの界面活性剤が使用されている。これはレシチンやフィトステロールなどの成分よりも過剰な量である。このような多量の界面活性剤は皮膚にとって刺激になり得る。また、高級アルコールなどの界面活性剤が多量に含まれる化粧料は皮膚上で塗布時にこすると石けんのように白く残るなどの問題が生じ得る。
【0015】
また、後述する実施例に記載されているとおりに、多量の高級アルコールを水系の製剤に入れた場合、水和結晶となりゲルネットワーク構造が築かれるが、経時変化と共に溶媒の蒸散などが起こって結晶化が起こり、製剤が相分離するなどの問題が生じ得る。
【0016】
そこで、本発明は、溶媒中に分散することにより構成成分による残留物が観察できず、構成成分が均一に融解した状態で液晶を含有することができ、さらに種々の皮膜形成高分子とともに含有せしめることにより、容器中では液状で、及び皮膚上ではフィルム状で安定的に液晶構造を保持する化粧料を調製するために利用可能な組成物並びに該組成物を利用した乳化剤及び化粧料を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題を解決しようとして、鋭意研究開発を進めた結果、両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸の天然膜脂質の3成分の組み合わせに着眼するに至った。この3成分の組み合わせは、加温することにより融解することができ、そして、驚くべきことに、種々の水性溶媒及び油性溶媒を用いて膨潤することにより、上記3成分による残留物が観察できない状態で液晶を形成することができることを見出した。
【0018】
さらに驚くべきことに、上記3成分と溶媒とを含有する乳化剤を、種々の皮膜形成高分子と組み合わせることにより得られる化粧料は、容器中では液状で存在して安定的に液晶構造を保持するとともに、皮膚上に塗布した際にはフィルム状で存在して安定的に液晶構造を保持し得るものであった。
【0019】
例えば、上記3成分を含有する組成物を用い、さらに乳化剤を調製する際に利用する溶媒として水性溶媒を用い、かつ、皮膜形成高分子として水溶性の皮膜形成高分子を用いることにより、乳化剤を被膜形成高分子によって覆うことにより、溶媒の蒸発及び濃縮によるラメラ液晶滴の凝集や塗布時のせん断、汗や皮脂の混入などによる液晶の破壊を防ぎ、細胞間脂質に類似した、ラメラ液晶滴が高濃度に固定化されたフィルムを形成する化粧料を調製することが可能である。
【0020】
結果として、本発明者らは、本発明の課題を解決するものとして、両親媒性脂質と、ステロールと、直鎖飽和脂肪酸とを含有する組成物並びに該組成物を利用した乳化剤及び化粧料を創作することに成功した。本発明は、上記の知見及び成功例に基づき完成された発明である。
【0021】
したがって、本発明の一態様によれば、以下の[1]~[11]の組成物、乳化剤及び化粧料が提供される。
[1]両親媒性脂質と、ステロールと、直鎖飽和脂肪酸とを含有する、液晶形成用組成物。
[2]前記液晶形成用組成物は、25℃で固体の状態である、[1]に記載の組成物。
[3]前記両親媒性脂質は、レシチン、水添レシチン、セラミド及びホスファチジルコリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の両親媒性脂質である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の組成物。
[4]前記レシチン及び前記水添レシチンは、それぞれホスファチジルコリンの含有量が20質量%以上であるレシチン及び水添レシチンである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]前記両親媒性脂質の含有量は、前記ステロールの含有量よりも多い量である、又は前記直鎖飽和脂肪酸の含有量よりも多い量である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]両親媒性脂質 38質量%~70質量%と、ステロール 5質量%~40質量%と、直鎖飽和脂肪酸 10質量%~45質量%とを含有し、かつ25℃で固体の状態である液晶形成用組成物。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の組成物と、溶媒とを含有する、液晶含有乳化剤。
[8]前記溶媒が、水、多価アルコール、アルコール、エステル油、シリコーン油、炭化水素油及び植物油からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である、[7]に記載の乳化剤。
[9]前記溶媒の含有量は50質量%~90質量%である、[7]~[8]のいずれか1項に記載の乳化剤。
[10][1]~[6]のいずれか1項に記載の液晶形成用組成物と、多価アルコール、アルコール、エステル油、シリコーン油、炭化水素油及び植物油からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒と、被膜形成高分子と、水とを含有する、液晶含有化粧料。
[11]前記化粧料は皮膚に塗布して含水量が50%以下になった場合にフィルム状を呈し、かつ、安定した液晶相を含有する、[10]に記載の化粧料。
また、本発明の一態様によれば、以下の[A1]~[A9]の組成物、乳化剤及び化粧料が提供される。
[A1]両親媒性脂質と、ステロールと、直鎖飽和脂肪酸とを含有する、液晶形成用組成物。
[A2]前記両親媒性脂質は、レシチン、水添レシチン、セラミド及びホスファチジルコリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の両親媒性脂質である、[A1]に記載の組成物。
[A3]前記レシチン及び前記水添レシチンは、それぞれホスファチジルコリンの含有量が20質量%以上であるレシチン及び水添レシチンである、[A1]~[A2]のいずれか1項に記載の組成物。
[A4]前記両親媒性脂質の含有量は、前記ステロールの含有量よりも多い量である、又は前記直鎖飽和脂肪酸の含有量よりも多い量である、[A1]~[A3]のいずれか1項に記載の組成物。
[A5][A1]~[A4]のいずれか1項に記載に組成物と、溶媒とを含有する、液晶含有乳化剤。
[A6]前記溶媒が、多価アルコール又は水である、[A5]に記載の乳化剤。
[A7][A5]~[A6]のいずれか1項に記載の乳化剤と、被膜形成高分子と、水とを含有する、液晶含有化粧料。
[A8]前記乳化剤の含有量は5質量%~20質量%であり、前記被膜形成高分子の含有量は2質量%~10質量%であり、かつ、前記水の含有量は80質量%~90質量%である、[A7]に記載の化粧料。
[A9]前記化粧料は含水量が50%以上である場合にクリーム状を呈し、又は含水量が50%以下である場合にフィルム状を呈し、かつ、安定した液晶相を含有する、[A7]~[A8]のいずれか1項に記載の化粧料。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様の組成物、乳化剤及び化粧料によれば、改善された保湿能力を示し、生体適合性が高く、かつ、ヒトの皮膚に優れた感触を有する液晶材料と皮膜形成高分子との複合体フィルムが得られる。本発明の一態様の化粧料は広範囲の化粧品用溶媒において安定な液晶相を形成し、さらに角層の細胞間脂質に類似した構成及び構造の混合物を含み得る。本発明の一態様の化粧料により複合体フィルムを皮膚表面上に形成することで、その保湿性脂質複合体及び結合性層間水(bound interlamellar water)により実現する液晶成分の完全な湿潤性が保証され、それだけでなくフィルムの優れたバリア特性を同時に皮膚に付与することができる。該複合体フィルムの所望の保湿及びバリアの効果は、液晶成分及びフィルム成分によって相乗的に得られる。
【0023】
本発明の一態様の化粧料は、皮膚に局所適用することにより、湿度に富むラメラ液晶相を微小液滴分散体として多量に含む液晶含有フィルムを形成する。本発明の一態様の化粧料によって得られる複合体フィルムは、保湿性、長時間着用性、透過性及び光沢を備えることができ、ケラチン物質の化粧用物理的遮蔽材としても使用することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A図1Aは、実施例に記載されているとおりの、実施例1の化粧料について、皮膚塗布前の水分を多量に含んだクリーム状態における液晶形成性に係る偏光顕微鏡の観察写真である。
図1B図1Bは、実施例に記載されているとおりの、実施例1の化粧料について、皮膚塗布後8時間の水分が自然蒸発して形成したフィルムにおける液晶形成性に係る偏光顕微鏡の観察写真である。
図2A図2Aは、実施例に記載されているとおりの、実施例1の化粧料について、皮膚塗布前の水分を多量に含んだクリーム状態における液晶構造に係るX線小角散乱解析の結果を示す図である。
図2B図2Bは、実施例に記載されているとおりの、実施例1の化粧料について、皮膚塗布後の8時間の水分が自然蒸発して形成したフィルムにおける液晶構造に係るX線小角散乱解析の結果を示す図である。
図3図3は、実施例に記載されているとおりの、実施例13~14の乳化剤及び比較例6の乳化剤について、液晶形成性に係る偏光顕微鏡の観察写真である。
図4A図4Aは、実施例に記載されているとおりの、in vivo保湿性について、実施例1の化粧料と比較例1の化粧料とを比較した結果を示す図である。
図4B図4Bは、実施例に記載されているとおりの、in vivo保湿性について、実施例11の化粧料と比較例5の化粧料とを比較した結果を示す図である。
図5図5は、実施例に記載されているとおりの、閉塞性について、実施例1の化粧料と比較例1の化粧料とを比較した結果を示す図である。
図6図6は、実施例に記載されているとおりの、接着性について、実施例1の化粧料と比較例1の化粧料とを比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一態様である組成物、乳化剤及び化粧料の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0026】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている理論や推測は、本発明者らのこれまでの知見や経験によってなされたものであることから、本発明の技術的範囲はこのような理論や推測のみによって拘泥されるものではない。
【0027】
例えば、「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
【0028】
「含有量」は、濃度と同義であり、水中油型乳化化粧料の全体量に対する成分の量の割合を意味する。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(wt%)」を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100質量%を超えることはない。
【0029】
数値範囲の「~」は、本明細書において、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
【0030】
「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸を包含する総称である。
【0031】
「液晶形成性」は、溶媒で膨潤することにより、リオトロピック液晶を形成する機能である。
「液晶の安定性」は、容器中又は皮膚に塗布した際に形成されるフィルム中で液晶形成性が確認できる状態を生じせしめる機能である。
「保湿性」は、皮膚における角層水分量を保持する機能である。
「閉塞性」は、皮膚表面からの水分蒸発を抑制する機能である。
「接着性」は、皮膚上でフィルム状に展延した状態で皮膚に付着する機能である。
これらの特性は、それぞれ後述する実施例に記載の方法により評価及び確認できる。
【0032】
本発明の一態様の組成物は、液晶の構成成分を少なくとも含有する。本発明の一態様の乳化剤は、液晶の構成成分と溶媒とを少なくとも含有することにより、液晶構造を備える。本発明の一態様の化粧料は、液晶の構成成分を溶媒で膨潤させ、液晶構造を有する乳化剤と皮膜形成高分子と水とを含有することにより、皮膚に局所的に適用した場合に、剥離可能であり、保湿性及びバリア機能を有するラメラ液晶構造を有するフィルムを形成することができる。
【0033】
[1.組成物]
本発明の一態様の組成物は、液晶の構成成分(以下、液晶成分ともよぶ。)として、両親媒性脂質と、ステロールと、直鎖飽和脂肪酸とを少なくとも含有する。本発明の一態様の組成物は、液晶成分を含有すればよく、皮膚刺激性をもたらすような界面活性剤を含有しなくともよい。また、液晶成分は、それぞれ天然成分から選択することができるので、皮膚に適合し、角質層中の細胞間脂質に類似した構成及び構造を形成することが可能である。
【0034】
両親媒性脂質は、分子内に親水基と親油基とを有する脂質であれば特に限定されないが、例えば、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質などが挙げられるが、角質細胞間脂質に類似した構造を形成するという観点では、レシチン、水素添加(水添)レシチン、セラミド及びホスファチジルコリンが好ましい。両親媒性脂質は、上記したものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、両親媒性脂質には、上記列挙したものを酵素処理などによりモノアシル体としたリゾ体などであってもよい。ただし、両親媒性脂質には、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸を含まない。
【0035】
レシチン及び水添レシチンは、化粧品分野で通常用いられているものであれば特に限定されず、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、水添大豆レシチン、水添卵黄レシチンなどを挙げることができる。ただし、本発明の一態様の組成物を用いて得られる乳化剤及び化粧料並びに該化粧料を皮膚に塗布して形成される液晶フィルムが安定した液晶構造を形成及び保持するためには、レシチン及び水添レシチンは、ホスファチジルコリン(PC)の含有量が20質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。レシチン及び水添レシチンのうち、水添レシチンがより好ましい。
【0036】
レシチン及び水添レシチンの市販品としては、例えば、「LIPOID P75」(エイチ・ホルスタイン社製)、「Basis LP-20H」(日清オイリオグループ社製)、「Basis LS-60HR」(日清オイリオグループ社製)、「NIKKOL Lecinol S-10」(日光ケミカルズ社製)、「NIKKOL Lecinol S-10EX」(日光ケミカルズ社製)、「NIKKOL Lecinol S-10E」(日光ケミカルズ社製)、「NIKKOL Lecinol S-10M」(日光ケミカルズ社製)、「Phospholipon(登録商標) 80H」(エイチ・ホルスタイン社製)、「COATSOME NC-21」(日油社製)、「COATSOME NC-61」(日油社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
セラミドは、スフィンゴシン及び脂肪酸で構成されるスフィンゴ脂質であれば特に限定されないが、例えば、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド3B、セラミド4、セラミド5、セラミド6、セラミド6I、セラミド6II及びこれらの混合物などが挙げられ、皮膚の細胞の細胞膜を構成する主要脂質であるとの観点から、セラミド3、セラミド3B、セラミド4、セラミド6II及びこれらの混合物が好ましい。
【0038】
セラミドの市販品としては、例えば、「CERAMIDE 2」(クローダジャパン社製)、「CERAMIDE I」(Evonik Nutrition & Care GmbH社製)、「CERAMIDE III」(Evonik Nutrition & Care GmbH社製)、「CERAMIDE IIIB」(Evonik Nutrition & Care GmbH社製)、「CERAMIDE VI」(Evonik Nutrition & Care GmbH社製)、「CERAMIDE TIC-001」(高砂香料工業社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
ステロールは、ステロイド骨格(シクロペンタヒドロフェナントレン)のA環の3位にOH基を有する構造を基本骨格とする化合物であれば特に限定されず、例えば、β-シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、エルゴステロールなどの植物ステロール(フィトステロール);コレステロール、コレスタノール、ラノステロール、デヒドロコレステロールなどの動物ステロール;ミコステロール、チモステロールなどの微生物由来のステロールなどが挙げられる。また、ステロールは、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、オレイン酸コレステリル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリルなどの、ステロールのOH基に任意のアミノ酸や脂肪酸などが結合したステロールエステルであってもよい。ステロールは、天然由来のものでも合成化合物でもどちらでもよく、これらを安定化のために水素添加などの処理に供したものであってもよいが、皮膚に対する安全性や液晶を安定的に形成するという観点では、天然由来のものが好ましく、フィトステロールがさらに好ましい。
【0040】
ステロールの市販品としては、例えば、「フィトステロール(QI)」(タマ生化学社製)、「フィトステロール(SKP)」(タマ生化学社製)、「フィトステロール」(エーザイフード・ケミカル社製)、「コレステロール JSQI」(日本精化社製)、「日本薬局方コレステロール」(日本精化社製)、「エルデュウPS-203」及び「エルデュウPS-306」(それぞれ味の素ヘルシーサプライ社製)、「海麗マリンコレステロールエステル」及び「マリンコレステロールエステルC」(それぞれ日本水産社製)、「PlandoolTM-MAS」(日本精化社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
直鎖飽和脂肪酸は、直鎖状のアルキル基を有するカルボン酸であれば特に限定されず、例えば、酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などが挙げられ、液晶を安定的に形成するという観点では炭素数が6~22の直鎖飽和脂肪酸が好ましい。
【0042】
本発明の一態様の組成物において、両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸の含有量は特に限定されないが、両親媒性脂質の含有量は、ステロールの含有量よりも多く、又は直鎖飽和脂肪酸の含有量よりも多いことが好ましく;ステロールの含有量よりも多く、かつ、直鎖飽和脂肪酸の含有量よりも多いことがより好ましく;ステロールの含有量及び直鎖飽和脂肪酸の含有量の総量よりも多いことがさらに好ましい。両親媒性脂質の含有量がステロール及び/又は直鎖飽和脂肪酸の含有量よりも小さくなると、本発明の一態様の組成物を溶媒に溶解して得られる乳化剤は液晶を安定的に含有することができなくなるおそれがある。
【0043】
本発明の一態様の組成物における両親媒性脂質の含有量は、例えば、38質量%~70質量%であり、好ましくは40質量%~60質量%であり、より好ましくは約55質量%である。両親媒性脂質がレシチン及び/又は水添レシチンである場合は、これらのPC含有率が小さいときは、両親媒性脂質の含有量を大きくし、該PC含有率が大きいときは、両親媒性脂質の含有量を小さくしてもよい。
【0044】
本発明の一態様の組成物におけるステロールの含有量は、例えば、5質量%~40質量%であり、好ましくは10質量%~30質量%であり、より好ましくは約25質量%である。本発明の一態様の組成物における直鎖飽和脂肪酸の含有量は、例えば、10質量%~45質量%であり、好ましくは10質量%~30質量%であり、より好ましくは約20質量%である。ステロールの含有量と直鎖飽和脂肪酸の含有量との関係性は特に限定されないが、本発明の一態様の組成物を用いて安定的な液晶を形成するためには、ステロールの含有量と直鎖飽和脂肪酸の含有量とは同程度の量であることが好ましい。
【0045】
本発明の一態様の組成物における両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸の含有量は上記した量であれば特に限定されないが、本発明の一態様の組成物における両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸の含有量の割合(両親媒性脂質:ステロール:直鎖飽和脂肪酸)は、角層の細胞間脂質の構成比に類似した配合比であることが好ましく、40~60:20~30:10~25であることがさらに好ましく、55:25:20であることがより好ましいが、これらに限定されない。両親媒性脂質の含有量は、ステロールの含有量及び/又は直鎖飽和脂肪酸の含有量に対して、10質量%よりも多い量であることが好ましく、20質量%よりも多い量であることがより好ましく、30質量%よりも多い量であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の一態様の組成物は、本発明の課題の解決を妨げない限り、すなわち、液晶形成性を有し、さらに構成成分による残留物が生じない限り、両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸に加えて、他の成分を含有し得る。他の成分としては、後述する本発明の一態様の化粧料に含有することができる他の成分などが挙げられる。ただし、本発明の一態様の組成物は、化粧料を調製するために用いられることから、天然成分からなることが好ましく、皮膚刺激性のあるような界面活性剤などを含有しないことがより好ましく、両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸のみからなることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の一態様の組成物は、両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸、並びに任意に他の成分を加温しながら撹拌混合することなどにより調製できる。本発明の一態様の組成物は、加温した状態から25℃以下にまで冷却されると、通常は固体の状態になる。
【0048】
[2.乳化剤]
溶液状又は固体状にある本発明の一態様の組成物を溶媒で膨潤又は溶媒に分散することにより、安定な液晶構造を含有する、本発明の一態様の乳化剤が得られる。
【0049】
本発明の一態様の乳化剤を得るために使用される溶媒は、通常化粧料を調製するために使用される溶媒などであれば特に限定されないが、例えば、水、多価アルコール(グリセリン、BG、PGなど)、アルコール(エタノールなど)、エステル油、シリコーン油、炭化水素油(パラフィン、水添ポリイソブテン、スクアレン、スクワランなど)、植物油(ホホバ油、マカデミアナッツ種子油、ゴマ油、など)などが挙げられるが、本発明の一態様の乳化剤を用いて得られる化粧料を皮膚に塗布することによって得られるフィルムが、角質細胞間脂質に類似する液晶構造、すなわち、ラメラ液晶構造を安定的に形成するという観点では、多価アルコール又は水が好ましい。
【0050】
本発明の一態様の乳化剤における溶媒の含有量は、本発明の一態様の組成物に対して十分に多い量であれば特に限定されないが、例えば、50質量%~90質量%であり、60質量%~80質量%が好ましく、65質量%~70質量%がより好ましく、約67質量%がさらに好ましい。溶媒の含有量が50質量%未満である場合は、本発明の一態様の組成物が均一に膨潤及び分散せずに、良好な液晶形成性が認められないおそれがある。
【0051】
本発明の一態様の乳化剤を調製する方法は特に限定されないが、例えば、含有する液晶構造を消失させない程度に、本発明の一態様の組成物と溶媒とを均一化するまで加温及び撹拌し、さらに室温まで冷却することで、溶媒中に液晶成分が均一に分散することにより、本発明の一態様の乳化剤が得られる。本発明の一態様の乳化剤の形態は特に限定されず、液晶成分の種類や含有比率などに基づく脂質構成及び使用溶媒によって変動があり得るが、例えば、粘性のあるピーナッツバターのようなクリーム状や流動性のあるペースト状などが挙げられる。
【0052】
本発明の一態様の乳化剤における液晶は、後述する実施例に記載の偏光光学顕微鏡法(Polarizing Optical Microscopy;POM)を利用した液晶形成性を評価する方法などにより確認することができるが、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry;DSC)やX線回折(X-Ray Diffraction;XRD)などの当業界において公知の技術によって確認してもよい。
【0053】
本発明の一態様の乳化剤は、本発明の一態様の組成物における液晶成分を溶媒中に分散して液晶を形成してなるものであることから、該液晶はリオトロピック液晶であるといえる。リオトロピック液晶の定義及びその相挙動(安定性)の詳細は、「Cosmetic Science and Technology:Theoretical Principles and Applications」などの文献を参照することができる。
【0054】
一般に、リオトロピック液晶相は、ある温度で溶媒系中の両親媒性分子によって形成される会合体を指す。界面活性剤及び膜脂質などの両親媒性分子は、1つ又は複数の非極性鎖に結合した極性頭部基からなることが多い。そのような両親媒性分子が水のような溶媒に溶解されると、それらは極性(親水性)頭部が非極性(疎水性)尾部を保護するような会合体を形成する。例えば、過剰溶媒中では、両親媒性分子はミセルとして知られている球状の会合体を形成し、(溶媒蒸発又はそれらの濃度の増加によって)濃縮すると、通常ミセルとは異なる形状、構造又は光学特性を有する会合体を形成する。これらの会合体は、六方晶系液晶相を含み、両親媒性分子は六角形配列中に充填される柱状構造を形成する。ラメラ液晶相はより高い両親媒性物質濃度で出現し、両親媒性分子は二分子膜構造を形成する。溶媒及び濃縮効果に加えて、温度はリオトロピック液晶相の形成及び安定性に劇的に影響し得る。例えば、リオトロピック液晶相がクラフト点(Kp)より低い一定の温度まで冷却されると、相転移が起こり、ゲル相が出現することが多い。液晶相又はゲル相の形成は化粧料においてもみられ、それらの相転移の制御は、流動性及び安定性を含む化粧料の物理的性質を維持するために機能する。
【0055】
本発明の一態様の乳化剤と化粧料の調製に通常使用される成分とを、高負荷をかけることなく撹拌混合などをすることによって、液晶を含有する化粧料が得られる。この際、本発明の一態様の乳化剤とともに、皮膜形成高分子及び水を含有せしめることにより、皮膚に塗布することによってラメラ液晶構造を有するフィルムを形成し得る化粧料を得ることができる。すなわち、本発明の一態様の化粧料は、本発明の一態様の乳化剤と、皮膜形成高分子と、水とを少なくとも含有する、液晶含有化粧料である。なお、溶媒として油性成分を用いて、油分の多い化粧料とすることにより、皮膚上にヘキサゴナル液晶構造を有するフィルムを形成し得る化粧料を得ることができる。
【0056】
[3.化粧料]
本発明の一態様の化粧料は、水中に約10μm~30μmの液晶微小滴を安定的に分散したクリーム状の水中油型乳化物であり得るが、本発明の一態様の化粧料の形態はこれに限定されない。本発明の一態様の化粧料は、クリーム状態においては白く、高粘度であり得るが、皮膚上に塗布されて余剰な水分が蒸散するとフィルムを形成する。皮膚上で形成した複合体フィルムは、べたつかず、半透明で光沢が抑えられるので皮膚上で違和感がないものとすることができる。
【0057】
本発明の一態様の化粧料は、皮膜形成高分子を含有することにより、液晶の安定化だけではなく、相乗的な保湿効果をもたらす。また、本発明の一態様の化粧料を皮膚表面上に塗布して形成されるフィルムによって、閉塞効果が付与される。本発明の一態様の化粧料における皮膜形成高分子と液晶との相互作用は、フィルム形成における自然蒸発過程での液晶の融合及び結晶化を防ぎ、さらにフィルムに抱え込むことのできる水分量が増加するのでフィルムの耐水性を改善し得る。液晶を高分子フィルムのフィラーとして配合することにより、皮膚への接着性が向上し、長時間の皮膚への接着と高い水分閉塞性とを実現し得る。
【0058】
本発明の一態様の化粧料において、本発明の一態様の乳化剤の含有量は、化粧料中及び化粧料を皮膚に適用して得られるフィルム中において液晶形成性が確認できる量であれば特に限定されないが、例えば、2質量%~30質量%であり、好ましくは5質量%~20質量%である。本発明の一態様の化粧料において、本発明の一態様の組成物の含有量は、例えば、1質量%~15質量%であり、好ましくは1質量%~10質量%であり、より好ましくは2質量%~5質量%である。本発明の一態様の組成物の含有量がこれらの範囲にない場合は、本発明の一態様の化粧料を皮膚に塗布して形成されるフィルムにおいて、安定的な液晶構造を維持することが困難になるおそれがある。
【0059】
本発明の一態様の化粧料は、皮膜形成高分子を含有する。皮膜形成高分子は、皮膚に化粧料を塗布した際に、フィルム状の皮膜を皮膚上に形成及び保持し得る機能(皮膜形成機能)を有するものであれば特に限定されず、天然由来のものでも、合成して得られるものであっても、これらの混合物であってもいずれのものでもよい。ただし、液晶成分に天然由来成分を用いて、皮膚上に天然由来成分からなるラメラ相を形成するためには、皮膜形成高分子は天然由来の高分子であることが好ましく、生体高分子として知られているものであることがさらに好ましい。
【0060】
天然由来の皮膜形成高分子の具体例としては、ヒアルロン酸塩(アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルヒアルロン酸ナトリウムなど)、チューベロース多糖体、キトサン(ヒドロキシプロピルキトサン、キトフィルマーなど)、糖鎖ポリマー及びガラクタン(ガラクトマンナン、硫酸化ガラクタン)、スイゼンジノリ多糖体、セルロース(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなど)、アルギン酸塩(アルギン酸プロピレングリコール)、プルラン、カラギーナン、デンプン誘導体(グリコシルトレハロース、加水分解水添デンプンなど)、植物性ヘテロ多糖類(ホソバセンナ(cassia angustifolia)種子多糖体など)、コラーゲン(海洋コラーゲンなど)、タマリンドガムなどが挙げられるが、特に限定されない。天然由来の皮膜形成高分子は、上記したものなどの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用し得る。
【0061】
合成品である皮膜形成高分子の具体例としては、例えば、シリコーン改質多糖類(トリメチルシロキシシリルカルバモイルプルラン、「TSPL-30-ID」(信越化学工業社製)など)、シリコーンゴム及び樹脂(トリメチルシロキシケイ酸、「KF-9021」、「KF-7312J」、「X-21-5250L」、「X-21-5616」(それぞれ信越化学工業社製)など)、シリコーンエラストマー(ポリシリコーン11など)、アクリレートコポリマー(アクリレート/VAコポリマーなど)、ポリ(メタ)アクリル酸((メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキル(C10-30)クロスポリマーなど)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエーテル(高重合ポリエチレングリコールなど)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn-ブチルメタクリレートとの共重合体(ポリクオタニウム-51など)、ポリオレフィン(エチレン/オクテン共重合体、エチレン/アクリル酸ナトリウム共重合体など)などが挙げられるが、これらに限定されない。合成品である皮膜形成高分子は、上記したものなどの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用し得る。
【0062】
本発明の一態様の化粧料における皮膜形成高分子の含有量は、皮膜形成機能を発揮し得る量であれば特に限定されないが、例えば、1質量%~15質量%であり、好ましくは2質量%~10質量%であり、より好ましくは3質量%~8質量%である。皮膜形成高分子の含有量が1質量%未満である場合は、本発明の一態様の化粧料を皮膚に塗布しても皮膜状のフィルムを形成しなかったり、破れや剥がれなどの形状安定性に乏しいフィルムが形成したりするおそれがある。
【0063】
天然由来の皮膜形成高分子に加えて、合成品である皮膜形成高分子を用いることもできる。しかしながら、液晶の安定性、フィルムの自立性、保湿性の向上のために生体高分子が優先的に配合されることが好ましい。
【0064】
皮膜形成高分子とともに、ゲル化剤として機能する高分子を配合することにより、皮膚上に形成したフィルムにゲルの特性(増粘性)を付与する、又は湿度応答性などの刺激応答性を向上させるなどの機能を付与し得る。ゲル化剤として機能する高分子としてはキサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられ、その含有量は0.1質量%~0.5質量%程度である。また、フィルムの柔軟性及び皮膚表面の耐久性を改善するために、多価アルコールやポリオキシエチレンメチルグルコシドなどの可塑剤を含有してもよい。可塑剤の含有量は、2質量%~10質量%程度であることが好ましい。
【0065】
本発明の一態様の化粧料における水の含有量は、水中油型化粧料が得られる程度の量であれば特に限定されないが、例えば、70質量%~95質量%であり、好ましくは80質量%~90質量%である。本発明の一態様の化粧料において、液晶成分は安定な微小液滴エマルションとして柱状の液晶相を形成して安定的に保持される(化粧料の水分量が50質量%以上)。また、本発明の一態様の化粧料を皮膚に塗布して水やその他の溶媒を蒸発させて高濃縮条件下(化粧料の水分量が50質量%以下)におくと、液晶成分は高分子フィルム(固体)マトリックス中に安定な微小液滴分散体としてラメラ液晶相を含有する液晶フィルムを形成する。
【0066】
一般的に、角質層のラメラ構造を有する細胞間脂質は、液晶の特性のために変形可能であり、これにより、せん断時に互いに摺動し、ひいては皮膚に弾力性及び可撓性を付与する(Progress in Lipid Research 42、1-36(2003)を参照)。ラメラ構造をとる細胞間脂質は、第一には角質層を通る水の移動を制限することで過度の経表皮水分損失(TEWL)を防止し、そして水溶性化合物(NMF(Natural Moisturizing Factor;天然保湿因子))が角質細胞から浸出するのを効果的に防止する、重要なバリア機能を果たす(Dermatologic Therapy 17,6-15(2004)を参照)。また、細胞間脂質は、汚染物質及び有害な太陽放射線などの環境傷害に対する物理的障壁として作用する。
【0067】
本発明の一態様の化粧料によって皮膚上に形成される液晶フィルムは、成分に自然由来の膜脂質を用いた複数のラメラ液晶滴が凝縮されることで、連続したような構造となり、角質層の細胞間脂質に見出される構成又は構造に類似し得る。このことから、本発明の一態様の化粧料によって皮膚上に形成される液晶フィルムは細胞間脂質と同様の保湿機能及びバリア機能、さらに化粧料に許容可能な皮膚を保護する機能を発揮できる。
【0068】
本発明の一態様の化粧料のpHは、通常知られているとおりの水中油型乳化化粧料のpHの範囲内であれば特に限定されないが、例えば、5~9であり、好ましくは6~8である。pHの値が5~9の範囲外にある場合は、安定的に液晶を維持することが困難であり、さらに安定的な高分子フィルムの形成が困難になるおそれがある。
【0069】
本発明の一態様の化粧料は、化粧料として用いられる限りにおいて、その機能や効果については特に限定されない。本発明の一態様の化粧料は、液晶の安定性について、例えば、後述する実施例に記載の容器中及び/又は皮膚上における液晶の安定性を試験することにより、マルターゼクロスが観察でき、かつ、結晶の析出及びステロールの不溶解物を観察できないものであることが好ましい。
【0070】
本発明の一態様の化粧料のより具体的な態様は、両親媒性脂質を0.5質量%~5.0質量%、ステロールを0.1質量%~2.0質量%、直鎖飽和脂肪酸を0.1質量%~2.25質量%、多価アルコールを2質量%~15質量%、皮膜形成高分子を2質量%~10質量%及び水を80質量%~90質量%で含有し、かつ、容器中及び/又は皮膚上における液晶の安定性が優れた水中油型乳化化粧料であるが、これに限定されない。
【0071】
本発明の一態様の化粧料や本発明の一態様の化粧料によって皮膚表面上に形成される複合体液晶フィルムには、種々のメリットがある。これらによって享受されるメリットについて以下に列挙するが、これらのメリットの有無によってのみでは本発明の技術的範囲は限定されない。
(1)化粧料は、低溶解性脂質を多く含む場合さえ(例えば、脂質の総量に対して30質量%)、凝集(液滴融合)や結晶化が生じることなく、-10℃~50℃の温度範囲内で約1ヶ月間は安定に保持し得る。
(2)化粧料は、周囲条件下(温度:25℃、相対湿度:50%)において、特別な脱水処理やその他のフィルム形成技術を適用することなく、溶媒及び他の揮発性物質の自然蒸発により、皮膚上に連続的なフィルムを容易に形成し得る。
(3)複合体液晶フィルムは、水分及び脂質に富み、複数の分散されたラメラ液晶滴を含む接着フィルムである。分散された液晶滴は、機械的摩擦による液晶相転移、液滴合体、脂質結晶化などの問題が生じ難い。
(4)複合体液晶フィルムは、含有する成分によっては、生体適合性及び通気性があり、さらに安全かつ皮膚表面を損傷することなく自立シートとして剥がすことができる。剥がれたシートに埋め込まれた液晶液滴(ラメラ脂質)を分解することなく、剥離した自立シートを周囲条件(温度:25℃、相対湿度:50%)で3ヶ月を超えて保存することが可能である。
(5)複合体液晶フィルムは、皮膜形成高分子が水溶性高分子である場合、過剰の水で洗浄することにより、除去することができる。
(6)複合体液晶フィルムは、しっとり感、冷たさ、及び軽い触感を有し、使用に際して不快感を生じさせないようにすることができる。
(7)複合体液晶フィルムは、分散されたラメラ液晶滴が、高分子フィルムの補強充填剤として機能し、その保湿性、皮膚への接着性及び閉塞性、さらに光沢度を相乗的に改善したものとなり得る。
(8)複合体液晶フィルムは、所望によって透明又は半透明にすることができ、その透明度は、例えば、液晶分散物の液滴サイズを変化させることによって制御可能である。透明性の他に、複合体液晶フィルムの光沢度は、脂質成分の濃度を変えることによって制御することが可能であり、分散された液晶滴は高分子フィルムの過度な光沢を抑え得る。
(9)複合体液晶フィルムは、耐久性のある長時間の接着が可能な保湿フィルムであり、後述する実施例に記載があるとおり、8時間以上安定して接着したままで皮膚を湿潤状態にし得る。
(10)複合体液晶フィルムは、悪化した皮膚の特性を改善するための皮膚矯正剤及びコンシーラーとしても使用することができる。
(11)複合体液晶フィルムは、化粧品に通常使用される粉末及び顔料により粉末化及び着色することができる。
(12)複合体液晶フィルムは、空気中の粉塵、灰、粒子状物質(PM)、破片、微生物、花粉などの汚染性物質及び他の有害な環境要因に対して、美容上許容可能な物理的遮蔽物として使用することが可能である。
(13)複合体液晶フィルムによって得られる種々の機能、作用及び効果は、液晶成分及び皮膜形成高分子の両方によって相乗的に得られ、個々の成分によって達成することが難しいものである。
(14)複合体液晶フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば、100μm~200μm程度である。本発明の一態様の化粧料の含水量が86質量%である場合、化粧料 約1.0gを健常な肌を有する者の皮膚上に塗布すると、約8×3cmの面積になるように均一に広がり、次いで周囲条件(温度:25℃、相対湿度:50%)下で約10分間にて自然に乾燥することにより、該面積にてフィルムが形成される。
(15)複合体液晶フィルムに含まれる天然膜脂質は細胞間脂質と同様の構造を有するラメラ液晶滴中に担持される。
(16)複合体液晶フィルムの含水率はDSC測定により、及び液晶滴の含水率は(結合性層間水として)XRD測定により確認する。その結果、角層の含水率(約10~20%)に比べて複合体液晶フィルムは含水率が高く(少なくとも40質量%)、さらに複合体液晶フィルムに比べて液晶滴の含水率が高い。よって、皮膚上に複合体液晶フィルムを塗布することで、皮膚へ水分を供給する水分勾配システムを実現し得る。
(17)複合体液晶フィルムによって被覆される皮膚領域の連続的な水和は、膜閉塞力とともに水勾配システムによって達成することができ、経皮水分蒸散などによって皮膚から失われた水分を再捕捉し、さらに複合体液晶フィルムに蓄積することができる。
(18)複合体液晶フィルムは、皮膚水和状態が複合体液晶フィルムによって良好に管理され、過水和も脱水も起こり難い。これは、複合体液晶フィルムの水分勾配システム及び水分応答性によるものであり、皮膚表面の統合性及び性能を損なうことなく、フィルムの含水量を調節するための可逆的膨潤挙動を可能にする。
(19)複合体液晶フィルムは、分散されたラメラ液晶相の所望の機能、例えば、清浄性、光学性、内包物徐放性又は保湿性が凝縮フィルム状態で増幅され得る。これは、フィルム内に安定して埋め込まれた、各液滴が所望の機能を付与する活性物質によりもたらされ、ラメラ液晶滴の多くの集合の存在に起因する。また、複合体液晶フィルムはラメラ液晶滴の多くの集合体を含むため、フィルムの均質性(固体フィルム中の活性物質の分布)は特に問題とならない。また、フィルムが皮膚の広い表面積に物理的に接触している、又は液晶滴の分散がより大きな表面積を有し得るので、化粧料又は液晶の効果は最大化され、等しく送達され得る。
【0072】
本発明の一態様の化粧料は他の成分を含有してもよい。他の成分は、本発明の課題の解決を妨げない限り特に限定されないが、例えば、着色剤及び顔料、香料、粉末、抗老化剤、抗しわ剤、抗皮膚萎縮剤、細胞賦活剤、抗汚染剤、抗菌剤及び防腐剤、皮膚軟化剤、保湿剤及び質感向上剤、界面活性剤、乳化剤、油溶性コンディショニング剤、増粘ポリマー、抗酸化剤、ゲル化剤、ハリや弾力を与える成分、美白剤、抗炎症剤、冷却剤、加温剤、キレート剤、pH調整剤、無機塩及び無機物、紫外線吸収剤及び紫外線散乱剤、日焼け止め剤、創傷治癒剤、ビタミン及びビタミン誘導体、剥離剤及び研磨剤、吸収剤、抗生物質、凝固防止剤、生物学的添加剤、漂白活性化剤、化学添加物、クレンザー、脱臭剤、酵素、乳白剤、酸化剤、緩衝剤、可塑剤、ラジカル捕捉剤、皮膚浸透促進剤、安定剤、美容成分、植物抽出物、制汗剤、昆虫忌避剤、抗ざ瘡剤、消毒剤、皮膚鎮静剤、皮膚バリア修復補助剤、皮膚修復剤、脂質、皮脂抑制剤、痒み防止剤、毛髪の成長を阻害するための薬剤、抗糖化剤、湿潤剤、光散乱剤その他の光学成分などが挙げられる。他の成分は上記したものなどの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用し得る。他の成分の含有量は特に限定されないが、例えば、0質量%~10質量%程度である。
【0073】
本発明の一態様の化粧料は、それ自体で保湿性や閉塞性をもたらし得るものであるが、活性成分を含有することにより、適用する皮膚に対して追加的な機能を付与し得る。追加的な機能は特に限定されないが、例えば、皮膚を水和させること、小じわ及びしわの平滑化、ざ瘡の美容的処置、皮膚の引き締め(ファーミング)、皮膚の軟化、皮膚への活性物質等の浸透性の促進、皮膚のクレンジング、古くなった角層の除去、メイクアップリムーバー、メーキャップベースフィルム、肌の色合い及び質感の改善又は滑らかにすること、皮膚のコンシーラーリングと着色、肌のコンディショニング、毛穴を目立たなくすること、分泌物の吸収及び制御、皮膚の保護、皮膚のリフレッシュと冷却、炎症緩和、衝撃を緩和すること、浄化すること、香り付け、細菌増殖を減少させること、不要な毛髪の除去、防虫、汚れ(汚染物質)とメイクアップ残りの除去などが挙げられる。本発明の一態様の化粧料によって皮膚上に形成された複合体液晶フィルムは、皮膚を水和させ、皮膚を環境損傷から保護し、かつ身体的風貌を美容的に改善するために使用され得る。
【0074】
本発明の一態様の化粧料を適用する部位は特に限定されず、例えば、顔(額、目元、目じり、頬、口元など)、腕、肘、手の甲、指先、足、膝、かかと、首、脇、背中、頭皮、毛髪などが挙げられる。
【0075】
本発明の一態様の化粧料は、その使用態様や剤形については特に限定されず、例えば、スキンケア化粧品、メーキャップ化粧品、フレグランス化粧品、ボディケア化粧品などが挙げられ、より具体的にはクリーム、乳液、ファンデーション、化粧水、美容液、オールインワンジェル、サンスクリーンジェル、ローション、パック、マスク、ポイントマスク、パッチ、洗顔クリーム、ハンドクリーム、メーキャップクレンジング、化粧下地、コンシーラー、ほほ紅、アイシャドウ、アイライナー、アイブロウ、口紅、日焼け止めクリーム、脱毛・除毛クリームなどが挙げられる。ただし、本発明の一態様の化粧料について、他の化粧料を製造する際の原料(中間原料)として用いることを妨げない。
【0076】
本発明の一態様の化粧料を調製する方法は特に限定されないが、例えば、含有する液晶構造を消失させない程度に、加温し、本発明の一態様の乳化剤、皮膜形成高分子及び水、並びに任意にその他の成分を撹拌混合などによって均一に液晶成分を分散させることにより、本発明の一態様の化粧料が得られる。
【0077】
本発明の一態様の化粧料は、皮膚に塗布することにより液晶フィルムを形成し、これにより皮膚表面からの水分蒸発を防ぐことが可能になり、乾燥した皮膚を改善すること又はさらなる乾燥による悪化を抑制することが可能である。本発明の別の一態様として、本発明の一態様の化粧料を、皮膚に局所的に適用することにより、液晶フィルム、好ましくはラメラ液晶構造を有する液晶フィルムを形成する工程を少なくとも含む、皮膚上での液晶フィルムの形成方法が提供される。
【0078】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例
【0079】
[1.被験試料の調製]
(1-1)実施例1~実施例12の乳化剤及び化粧料
表1に示した処方に従い、以下の手順により、実施例1~実施例12の乳化剤及び化粧料を調製した。なお、表中の水添レシチンの含有量は、原料である「Basis LS-60HR」(日清オイリオグループ社製;ホスファチジルコリン(PC)含有率:65~75%)の添加量を表わす。表中のレシチンの含有量は、原料である「LIPOID P75」(エイチ・ホルスタイン株式会社製)の添加量を表す。表中のセラミドの含有量は、原料である「Ceramide VI」(Evonik Nutrition&Care GmbH社製)の添加量を表す。
【0080】
表中のA相について、各成分を加温及び手動撹拌により均一に融解するように混合して調製した。調製したA相に、B相を加えて、均一になるまで加温及び手動撹拌により混合して、クリーム状を呈した実施例1~実施例12の乳化剤を調製した。
【0081】
実施例1~実施例12の乳化剤に、別途各成分を溶解したC相を加えて均一になるまで加温及び手動撹拌により混合した。得られた乳化剤及びC相の混合物を室温になるまで冷却して、実施例1~実施例12の化粧料を調製した。
【0082】
(1-2)比較例1及び比較例5の化粧料
表1に示した処方に従い、B相とC相の各成分とを加温及び手動撹拌により均一に溶解するように混合することにより、比較例1及び比較例5の化粧料を調製した。
【0083】
(1-3)比較例2~比較例4の乳化剤及び化粧料
表1に示した処方に従い、上記(1-1)の手順に従って、比較例2~比較例4の乳化剤及び化粧料を調製した。
【0084】
(1-4)実施例13~14の乳化剤及び比較例6の乳化剤
表1に示した処方に従い、上記(1-1)の手順に従って、クリーム状を呈した実施例13~14の乳化剤及び比較例6の乳化剤を調製した。
【0085】
【表1】
【0086】
表中の※印の原料について、以下のものを用いた:
モノステアリン酸デカグリセリル:「NIKKOLデカグリン1-SV」(日光ケミカルズ社製)
フィトステロール:「フィトステロール(QI)」(タマ生化学社製)
ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル):「エルデュウPS-306」(味の素ヘルシーサプライ社製)
オレイン酸コレステリル、コレステロール:「マリンコレステロールエステルC」(日本水産社製)
ヒアルロン酸Na:「ヒアルロンサン液HA-LQ1」(キューピー社製)
アセチル化ヒアルロン酸Na:「アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム」(資生堂社製)
ヒプロメロースおよびメチルセルロース:「METOLOSE(登録商標) 90SH-4000」(信越化学工業社製)
ポリオキシエチレンメチルグルコシド:「Glucam E-10」(Lubrizol社製)
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー:「PemulenTM EZ-4U」(Lubrizol社製)
ポリビニルアルコール:「ゴーセノール EG-40C」(日本合成化学工業社製)
【0087】
[2.評価方法]
(2-1)液晶形成性
室温下で、スライドガラスに被験試料を薄く延ばし、カバーガラスで覆った後、偏光顕微鏡(「BX41-P」;倍率40倍;OLYMPUS製)を用いて、観察視野におけるマルターゼクロス、結晶の析出及びステロールの不溶解物を観察し、以下の基準により分類した上で、「◎」と評価したものを液晶形成性を有するものとして評価した。
【0088】
「◎」:マルターゼクロスが観察でき、かつ、結晶の析出及びステロールの不溶解物を観察できなかったもの
「×」:マルターゼクロスを観察できなかったもの
「△」:結晶の析出が観察されたもの
「□」:フィトステロールの残留物が観察されたもの
【0089】
(2-2)容器中での液晶の安定性
被験試料をスクリュー管に入れ、室温で1ヵ月保管後に、上記(2-1)の液晶形成性によって評価した。
【0090】
(2-3)皮膚上における液晶の安定性
被験試料を皮膚上に塗布することにより形成したフィルムを塗布8時間後に皮膚から剥がした。得られたフィルムを、スライドガラスに乗せ、カバーガラスで覆った後、上記(2-1)と同様にして液晶形成性を評価した。
【0091】
(2-4)液晶構造
被験試料及び被験試料を皮膚上に塗布して形成したフィルムについて、次の手順によりX線回折装置(「NANO Viewer」;Rigaku社製)を用いてX線小角散乱解析を行い、液晶の構造を確認及び評価した。
【0092】
皮膚に塗布する前のクリーム状の被験試料についてはガラスキャピラリー(φ=3mm)に直接充填し、被験試料を皮膚に適用し、室温環境下で約8時間自然乾燥させた後に得られるフィルムについては、皮膚から剥がして小片に切断した後、ガラスキャピラリー(φ=3mm)の中に充填した。いずれの被験試料も室温にてX線小角散乱(SAXS)を測定した。SAXS回折計をλ=1.541ÅのCu-Ka放射線で操作し、試料からの回折X線の強度を2θの関数として記録した。ここで、2θ及びλはそれぞれX線ビームの散乱角及び波長を示す。被験試料に含まれる液晶構造解析のために、ブラッグの法則(d =λ/2sinθ)を用いてd間隔を計算した。したがって、SAXSパターンの回折ピークはMiller-Bravais指数(hkl)を用いて指標付けした。
【0093】
(2-5)in vivo保湿性
健常な肌を有する被験者の前腕内側に被験試料を48mg/cmで塗布し、塗布後の角層水分量をコルネオメーター(「Corneometer CM825」;Courage+Khazaka社製 )を用いて、室温(22℃)、湿度50%の環境下にて測定した。塗布前の角層水分量に対し、塗布6時間後に形成したフィルムを剥がした後の角層水分量の変化量により保湿性を評価した。
【0094】
(2-6)閉塞性
直径14.5cmのプラスチックディッシュに、被験試料を15.75gを塗布して50℃の恒温槽で1日静置することで0.3g/cmのフィルムを形成させた。スクリュー管に精製水を加え、恒温槽(温度:39.6℃、湿度:7%)に24時間静置し、重量変化を測定した。被験試料のフィルムで蓋をしたスクリュー管の重量(サンプル変化量)と蓋をしていないスクリュー管の重量(コントロール変化量)で割ることにより水分蒸発率を算出した。
【0095】
(2-7)接着性
被験者の前腕内側に、被験試料を48mg/cmで塗布した。塗布直後、塗布5時間後及び塗布8時間後に皮膚上に形成したフィルムを観察することにより、目視によりフィルムの接着性を確認した。
【0096】
[3.評価結果]
(3-1)液晶形成
被験試料について評価した結果を表1に示す。
【0097】
実施例1~実施例12の乳化剤及び化粧料は、いずれも液晶の形成が認められた。また、実施例1~実施例12の化粧料は、塗布8時間後においても、機械的な負荷、水分蒸発、汗や皮脂などの接触などによってさえ、液晶が破壊することなく皮膚上で液晶フィルム状を維持した。さらに、実施例1~実施例12の化粧料は、1ヵ月の保管後においても液晶の形成が認められ、液晶の安定性に優れたものであった。実施例1、実施例2、実施例6及び実施例11の化粧料を皮膚に塗布することにより形成した液晶フィルムは、ラメラ相を形成していた。
【0098】
液晶形成及び安定性に関する典型的な例として、被験試料について、偏光顕微鏡観察及びX線小角散乱解析による結果を図1及び図2に示す。すなわち、実施例1の化粧料について、皮膚塗布前の水分を多量に含んだクリーム状の化粧料における液晶形成性に係る偏光顕微鏡の観察写真及び液晶構造に係るX線小角散乱解析の結果をそれぞれ図1A及び図2Aに示す。同様に、皮膚塗布後8時間の水分が自然蒸発しフィルム形成後の化粧料における液晶形成性に係る偏光顕微鏡の観察写真及び液晶構造に係るX線小角散乱解析の結果をそれぞれ図1B及び図2Bに示す。これらの図が示すとおり、実施例1の化粧料について、皮膚塗布前後において、フィトステロールの残留物や結晶の析出物は観察できず、液晶の存在が確認できた。
【0099】
より詳細には、図1A及び図1Bの偏光顕微鏡結果より、実施例1の化粧料について、分散した微小液晶滴(LC Microdroplet;約30μm)としての安定な液晶相の存在を、マルターゼクロスとして確認できた。特に、水分蒸発した後のフィルムは、数多くの微小液晶滴がポリマーフィルム内に安定に濃度の高い状態で固定化されているため、保湿性及び閉塞性の機能を効率的に発揮できることがわかる。
【0100】
図2A及び図2BのSAXS解析結果からは、実施例1の化粧料について、クリーム状にある場合(含水量>80質量%)は柱状構造を有する液晶相が形成され、フィルム状にある場合(含水量<50重量%)はラメラ相による液晶構造が形成されていることがわかった。化粧料がクリーム状にある場合は柱状構造を有する液晶であることから、水分を強固に保持し容器中で処方を安定化する。一方で、化粧料がフィルム状にある場合はラメラ液晶であることから、水分の捕獲及び排出ができるので、フィルムを通して水分を肌に与えることが期待できる。形成されたフィルムには安定なラメラ液晶滴を数多く含有しており、このラメラ液晶相の層間隔は約7~8nmであった。これは角層の細胞間脂質中の短周期ラメラの層間隔(6nm)に類似している。このような層間隔を有するラメラ液晶相は、周囲からの水分の貯蔵及び再捕獲に有益であり、フィルムの質感としては湿潤性、柔軟性及び弾性を持続することが期待される。
【0101】
比較例1及び比較例5の化粧料は、いずれにおいても、液晶の形成が認められなかった。
【0102】
比較例2の乳化剤及び化粧料は、いずれも液晶の形成が認められた。しかし、比較例2の化粧料は、1ヵ月間保管することにより、結晶の析出が認められるものであった。
【0103】
比較例3の乳化剤は液晶の形成が認められたものの、比較例3の化粧料は結晶の析出が認められるものであった。
【0104】
比較例4の乳化剤及び化粧料は、フィトステロールが完全に溶解せずに、フィトステロールの残留物が観察されるものであった。
【0105】
実施例13~実施例14の乳化剤及び比較例6の乳化剤について、液晶形成性に係る偏光顕微鏡の観察写真を図3に示す。図3が示すとおり、実施例13~実施例14の乳化剤は液晶の形成が認められた。それに対して、比較例6の乳化剤は、多くのフィトステロールの残留物が認められるものであった。
【0106】
以上の結果より、実施例1~実施例14の乳化剤及び化粧料は、調製時において液晶の形成が認められるものであった。また、実施例1~実施例12の化粧料は、液晶の安定性に優れたものであり、皮膚上に塗布することによりラメラ相の液晶フィルムを形成し得るものであった。
【0107】
(3-2)フィルム特性
in vivo保湿性について、実施例1の化粧料と比較例1の化粧料とを、及び実施例11の化粧料と比較例5の化粧料とを比較した結果を、それぞれ図4A及び図4Bに示す。これらの図が示すとおり、実施例1及び実施例11の化粧料は、それぞれ比較例1及び比較例5の化粧料と比べて、保湿効果が高いことがわかった。
【0108】
閉塞性について、実施例1の化粧料と比較例1の化粧料とを比較した結果を図5に示す。図5が示すとおり、実施例1の化粧料は、比較例1の化粧料と比べて、高分子フィルム中に液晶が存在することにより耐水性及び水分保持力が向上したために精製水の蒸発量が少なく、閉塞性の高いものであった。
【0109】
接着性について、実施例1の化粧料と比較例1の化粧料とを比較した結果を図6に示す。図6が示すとおり、実施例1の化粧料及び比較例1の化粧料により形成したフィルムを皮膚上に長時間接着させた際、比較例1の化粧料では剥がれかかっている様子が観察されたが、実施例1の化粧料は皮膚への接着性が高く、8時間を経過しても密着している様子が観察された。高分子フィルム中の液晶滴は保湿性や閉塞性だけではなく、充填剤としても機能することから、液晶滴が存在することにより、汗や皮脂への耐性が向上し、長時間の接着が可能になったと推測される。また、フィルムの上からパウダーファンデーションや口紅などのメーキャップ化粧料などを接着させることも可能であった。
【0110】
[4.処方例]
上記(1-1)の手順にしたがって、それぞれ種々の濃度の両親媒性脂質、ステロール及び直鎖飽和脂肪酸からなるA相を調製し、次いでA相にB相を加えて乳化剤を調製し、液晶形成性を評価した。
【0111】
A相における両親媒性脂質、直鎖飽和脂肪酸及びステロールの濃度が下記表2~表4に記載の濃度範囲にある場合には、液晶形成性を有するもの(「◎」)として評価できた。また、B相として、表5に記載のものが使用可能であることを確認した。
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
水溶性高分子として表6に記載の水溶性高分子を用い、水溶性高分子の濃度範囲を2~10wt%とした以外は、実施例1の処方及び上記(1-1)の手順に従って、化粧料を調製し、液晶形成性を評価した。結果、いずれの化粧料も液晶形成性を有するもの(「◎」)として評価できた。また、得られた化粧料を皮膚上に塗布したところ、フィルムの形成を確認できた。形成されたフィルムは安定なラメラ液晶滴を数多く含有していた。被膜形成高分子とラメラ液晶滴との組み合わせは、角層のバリア機能を担う細胞間脂質と類似した構造となっていることから、角層と同じような機能を果たすことが期待できる。
【0117】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の一態様の組成物及び乳化剤は、容器中では液状で、及び皮膚上ではフィルム状で安定的に液晶構造を保持する化粧料を調製するために利用可能である。本発明の一態様の化粧料は、皮膚表面に塗布することにより、ラメラ液晶構造を備えた複合体フィルムを形成し得ることから、クリーム、乳液、パックなどの化粧品として利用することができるものである。使用者は、本発明の一態様に係る化粧料を使用することにより、日常的に快適に、皮膚の乾燥を低減又は防止すること、皮膚の状態の改善、さらに皮膚の保護ができるようになる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6