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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】転がり軸受及び転がり軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20230201BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20230201BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230201BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230201BHJP
【FI】
F16C33/78 E
F16J15/3204 201
F16C19/06
B23K26/21 N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019520663
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018036068
(87)【国際公開番号】W WO2019181020
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018051093
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109059
【氏名又は名称】ダイベア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 誉典
(72)【発明者】
【氏名】橋本 竜一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕行
(72)【発明者】
【氏名】川阪 利孔
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05472284(US,A)
【文献】国際公開第2015/093591(WO,A1)
【文献】特開2006-009894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16J 15/3204
F16C 19/06
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道輪としての外輪及び内輪、前記外輪と前記内輪との間に介在する複数の転動体、並びに、前記外輪と前記内輪とのうちの一方の軌道輪の側面に取り付けられた環状のシールを備え、
前記シールは、前記側面に重ねて設けられ当該側面との間を接合面として溶接により取り付けられたステンレス製の環状の芯金と、前記芯金の全体に設けられた接着剤を介して当該芯金のうちの他方の軌道輪側の一部に固定されたゴム製のリップと、を有し、
前記一方の軌道輪は、その側部に凹周溝を有し、前記凹周溝は、軸方向に臨む前記側面と、前記他方の軌道輪側へ径方向に臨む周面と、を有し、
前記芯金は、
前記側面に接触する接触面を有し前記側面に溶接により取り付けられる環状部と、
前記環状部から軸方向に向かって折り曲げられ、前記接触面から前記周面側に向かうにしたがって前記側面から離れ前記側面に非接触である円弧面と、前記円弧面と連続し前記周面と非接触である端面と、を有する第一の曲げ部と、を有する、
転がり軸受。
【請求項2】
記環状部は、前記側面に対面すると共に前記接触面から径方向について前記周面と反対側に向かうにしたがって当該側面から離れる傾斜面を有する、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記芯金は、前記環状部を基準として前記第一の折り曲げ部と反対側に位置し前記環状部から軸方向に向かって折り曲げられた第二の曲げ部を有する、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
軌道輪としての外輪及び内輪、並びに前記外輪と前記内輪との間に介在する複数の転動体を備える軸受部に、環状のシールを溶接により取り付ける転がり軸受の製造方法であって、
前記シールは、前記外輪と前記内輪とのうちの一方の軌道輪の側面に溶接により取り付けられるステンレス製の環状の芯金と、前記芯金の全体に設けられた接着剤を介して当該芯金のうちの他方の軌道輪側の一部に固定されたゴム製のリップと、を有し、
前記側面に前記芯金を重ねた状態とし、当該側面と当該芯金との間が接合面となるようにして、当該芯金の表て面からレーザ溶接を行なう溶接工程を有し、
前記溶接工程では、前記芯金がステンレス製であることにより、当該芯金と前記一方の軌道輪との間の接合面の周囲の金属が溶融するよりも先に当該接合面に存在する前記接着剤を溶接の熱により分解させ
前記溶接の際、前記芯金を前記側面に対して軸方向に押して拘束した状態とし、
前記芯金と前記側面との間において、一部で接触させるが、当該一部の径方向隣の他部では非接触となるように、当該芯金を軸方向に押す力を調整する、
転がり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及び転がり軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、様々な分野で広く用いられる。一般的な転がり軸受は、内輪、外輪、及び、複数の転動体を備える。更に、転動体が存在する軸受内部に軸受外部から水や異物等が侵入するのを防いだり、軸受内部のグリースが軸受外部へ流出するのを防いだりするために、密封部材を備えた転がり軸受が知られている。特許文献1には、密封部材として、円環状のシールド板を備えた転がり軸受が開示されている。シールド板以外の密封部材として、円環状の芯金と、芯金に取り付けられたゴム製のリップとを有するシールが知られている。このようなシールでは、芯金の材質として、比較的安価である電気亜鉛めっき鋼板(SECC)が使用される。
【0003】
従来、前記のような密封部材を外輪に取り付けるために、外輪の側部内周側に周溝が形成され、この周溝に密封部材の一部が嵌め入れられる。密封部材の固定を確実とするためには、前記周溝を軸方向にある程度広くするのが好ましい。しかし、軸方向寸法を小さくしてスリム化を図る転がり軸受の場合、周溝のスペースが制限され、確実に密封部材を外輪に固定することが難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-51304号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様に係る転がり軸受は、軌道輪としての外輪及び内輪、前記外輪と前記内輪との間に介在する複数の転動体、並びに、前記外輪と前記内輪とのうちの一方の軌道輪の側面に取り付けられた環状のシールを備え、前記シールは、前記側面に重ねて設けられ当該側面との間を接合面として溶接により取り付けられたステンレス製の環状の芯金と、前記芯金の全体に設けられた接着剤を介して当該芯金のうちの他方の軌道輪側の一部に固定されたゴム製のリップと、を有する。
【0006】
本発明の一態様に係る転がり軸受の製造方法は、軌道輪としての外輪及び内輪、並びに前記外輪と前記内輪との間に介在する複数の転動体を備える軸受部に、環状のシールを溶接により取り付ける方法であって、前記シールは、前記外輪と前記内輪とのうちの一方の軌道輪の側面に溶接により取り付けられるステンレス製の環状の芯金と、前記芯金の全体に設けられた接着剤を介して当該芯金のうちの他方の軌道輪側の一部に固定されたゴム製のリップと、を有し、前記側面に前記芯金を重ねた状態とし、当該側面と当該芯金との間が接合面となるようにして、当該芯金の表て面からレーザ溶接を行なう溶接工程を有し、前記溶接工程では、前記芯金がステンレス製であることにより、当該芯金と前記一方の軌道輪との間の接合面の周囲の金属が溶融するよりも先に当該接合面に存在する前記接着剤を溶接の熱により分解させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。
図2】シールの径方向外側の部分、及び外輪の一部を拡大して示す断面図である。
図3】外輪に溶接される前の状態にある芯金の一部を説明する断面図である。
図4】溶接工程を示す斜視図である。
図5】溶接の途中状態を示すイメージ図である。
図6】本実施形態の転がり軸受の仕様、及び、溶接工程での溶接条件の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示が解決しようとする課題>
密封部材を溶接により外輪に固定する手段が考えられる。例えば、外輪の側面に芯金を重ね、芯金の表て面にレーザ光を照射し溶接する。
【0009】
シールの場合、芯金にゴム製のリップが設けられる。リップは芯金に塗布された接着剤を介して溶接の妨げにならないよう設けられる。リップを芯金の一部にしか設けない場合でも、芯金に対する接着剤の塗布の容易性の観点から、接着剤は芯金の全体に塗布される。
【0010】
芯金の材質が、電気亜鉛めっき鋼板や普通鋼である場合、熱伝導率が高いことから、芯金の表て面にレーザ光を照射し溶接すると、外輪と芯金との間の接合面にまで直ぐに芯金の溶融が進む。また、このように接合面の周囲の金属が溶融すると同時に、芯金の全体に塗布した接着剤のうち、接合面に存在する接着剤は分解されガスが発生する。すると、接合面において、発生した前記ガスによって溶融金属が吹き飛ばされたり、発生した前記ガスが溶融金属内に気泡となって多く残留したりする。従来では、溶接部(溶け込み部)にピットやポロシティ等の欠陥が発生しやすく、このような欠陥は、シールを設ける目的である密封性を損なう原因となる。
【0011】
そこで、本発明は、シールが溶接により取り付けられる転がり軸受において、接着剤によって溶接不良が発生するのを抑制することを目的とする。
【0012】
<本発明の実施形態の概要>
以下、本発明の実施形態の概要を列記して説明する。
【0013】
本実施形態の転がり軸受は、軌道輪としての外輪及び内輪、前記外輪と前記内輪との間に介在する複数の転動体、並びに、前記外輪と前記内輪とのうちの一方の軌道輪の側面に取り付けられた環状のシールを備え、前記シールは、前記側面に重ねて設けられ当該側面との間を接合面として溶接により取り付けられたステンレス製の環状の芯金と、前記芯金の全体に設けられた接着剤を介して当該芯金のうちの他方の軌道輪側の一部に固定されたゴム製のリップと、を有する。
【0014】
この転がり軸受では、シールの芯金は、外輪と内輪とのうちの一方の軌道輪に溶接により固定される。芯金はステンレス製であるため、電気亜鉛めっき鋼板や普通鋼と比べて熱伝導率が低い。このため、溶接すると、一方の軌道輪と芯金との間の接合面にまで芯金の溶融が進むのが遅れる。また、芯金の溶融温度に比べて接着剤の分解温度は十分に低い。したがって、接合面の周囲の金属が溶融するよりも先に接合面に存在している接着剤が分解されガスが発生・拡散する。このため、前記ガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのを抑えることができる。また、ステンレス製である芯金では温度が低下し難いため、溶融すると液相である時間が長い。このため、仮に接着剤が分解されて発生したガスにより溶融した芯金の一部が吹き飛ばされ欠肉したとしても、その欠肉部を埋め戻す時間が多く確保される。この結果、溶接不良が発生するのを抑制することが可能となる。
【0015】
また、前記芯金は、前記側面に溶接により取り付けられる環状部を有し、前記環状部は、前記側面に接触する接触面と、前記側面に対面すると共に前記接触面から径方向に向かうにしたがって当該側面から離れる傾斜面と、を有するのが好ましい。この場合、芯金は、接触面で一方の軌道輪の側面と接触するが、この接触面から径方向に向かう領域では前記側面との間において隙間が形成される。このため、溶接の際に、一方の軌道輪と芯金との間の接合面において接着剤が分解されて発生したガスを、前記隙間から外部へ逃がすことができる。よって、前記ガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのをより一層効果的に抑えることができる。
【0016】
また、前記芯金は、前記環状部から軸方向に向かって折り曲げられた曲げ部を有するのが好ましい。この場合、一方の軌道輪と芯金との間の接合面において接着剤が分解されて発生したガスを、曲げ部側から逃がすことが可能となる。よって、前記ガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのをより一層効果的に抑えることができる。
【0017】
本実施形態の転がり軸受の製造方法は、軌道輪としての外輪及び内輪、並びに前記外輪と前記内輪との間に介在する複数の転動体を備える軸受部に、環状のシールを溶接により取り付ける方法であって、前記シールは、前記外輪と前記内輪とのうちの一方の軌道輪の側面に溶接により取り付けられるステンレス製の環状の芯金と、前記芯金の全体に設けられた接着剤を介して当該芯金のうちの他方の軌道輪側の一部に固定されたゴム製のリップと、を有し、前記側面に前記芯金を重ねた状態とし、当該側面と当該芯金との間が接合面となるようにして、当該芯金の表て面からレーザ溶接を行なう溶接工程を有し、前記溶接工程では、前記芯金がステンレス製であることにより、当該芯金と前記一方の軌道輪との間の接合面の周囲の金属が溶融するよりも先に当該接合面に存在する前記接着剤を溶接の熱により分解させる。
【0018】
この製造方法によれば、接着剤の分解により発生したガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのを抑えることができる。また、ステンレス製である芯金では温度が低下し難いため、溶融すると液相である時間が長い。このため、仮に接着剤が分解されて発生したガスにより溶融した芯金の一部が吹き飛ばされ欠肉したとしても、その欠肉部を埋め戻す時間が多く確保される。この結果、溶接不良が発生するのを抑制することが可能となる。
【0019】
また、前記溶接の際、前記芯金を前記側面に対して軸方向に押して拘束した状態とし、前記芯金と前記側面との間において、一部で接触させるが、当該一部の径方向隣の他部では非接触となるように、当該芯金を軸方向に押す力を調整するのが好ましい。この方法によれば、芯金は、一部において一方の軌道輪の側面と接触するが、この一部の径方向隣の他部では前記側面との間において隙間が形成される。このため、一方の軌道輪と芯金との間の接合面において接着剤が分解されて発生したガスを、前記隙間から外部へ逃がすことができる。よって、前記ガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのをより一層効果的に抑えることができる。
【0020】
<本開示の効果>
本開示によれば、シールが溶接により取り付けられる転がり軸受において、溶接不良が発生するのを抑制することが可能となる。
【0021】
<本発明の実施形態の詳細>
〔転がり軸受について〕
図1は、本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。この転がり軸受7は、内輪10、外輪20、これら内輪10と外輪20との間に設けられた複数の玉(転動体)30、環状の保持器35、及び環状のシール40を備える。図1に示す転がり軸受7は深溝玉軸受である。
【0022】
内輪10は、図示していない軸に外嵌固定される筒状の部材であり、外周に玉30が転動する軌道(軌道溝)11が形成される。外輪20は、図示していないハウジングの内面に嵌めて固定される部材であり、内周に玉30が転動する軌道(軌道溝)21が形成される。複数の玉30が内輪10と外輪20との間に介在しており、内輪10と外輪20とは同心状に配置される。保持器35は、複数の玉30を周方向に沿って所定の間隔(等間隔)で保持する。本実施形態では、内輪10が、軸と共に回転する回転輪であり、外輪20がハウジングと共に静止状態となる固定輪である。
【0023】
内輪10と外輪20との間であって玉30が存在する軸受内部5には、潤滑剤としてグリースが封入される。シール40は、軸受外部に存在する水や異物が軸受内部5へ侵入するのを防ぐと共に、軸受内部5のグリースが軸受外部へ流出するのを防ぐ。
【0024】
シール40は、転がり軸受7の軸方向両側に設けられる。各シール40は、外輪20の側部23に溶接によって取り付けられる。本実施形態では、レーザ溶接が採用される。このシール40が有するリップ42の一部が、内輪10の一部(本実施形態では周溝12)に接触する。軸方向一方側のシール40と軸方向他方側のシール40とは、取り付け向きが反対であるが同じ構成である。
【0025】
内輪10、外輪20、及び玉30は軸受鋼からなる。保持器35は樹脂製又はステンレス鋼等の金属製(金属プレス製)である。シール40は、環状の芯金(金属環)41とリップ42とを有する。芯金41はステンレス鋼(SUS304又はSUS430)からなる。リップ42はゴム製であり弾性を有する。内輪10、外輪20、及び玉30を、軸受鋼としてSUJ2とすることができるが、その他の鋼材としてもよい。内輪10、外輪20、及び玉30の材質はステンレス鋼であってもよい。
【0026】
〔シール40について〕
シール40は、前記のとおり、環状の芯金41とリップ42とを有する。リップ42は、芯金41の径方向内側(内輪10側)の一部にのみ設けられる。芯金41の径方向外側(外輪20側)の一部が、外輪20に溶接によって固定される。
【0027】
芯金41は、ステンレス製の平板部材をプレスにより成型して得たものであり、厚さが薄い。芯金41の厚さtは、例えば0.1ミリメートル以上であり0.5ミリメートル以下であり、薄肉の環状部材である。シール40の内径は例えば10~150ミリメートルである。芯金41は、径方向外側から、第一の曲げ部43、環状部44、第二の曲げ部45、及び本体部46を有する。芯金41は、外輪20の側面25に重ねて設けられ、この側面25との間を接合面として溶接により取り付けられる。
【0028】
図2は、シール40の径方向外側の部分、及び外輪20の一部を拡大して示す断面図である。外輪20の側部23には、凹周溝24が形成されている。凹周溝24は、軸方向一方側に臨む側面25と、径方向内側へ臨む内周面26とを有する。側面25が、溶接によって芯金41を固定する取り付け面となる。側面25と、芯金41の一部である環状部44の環状側面49との間が溶接による接合面Jとなる。接合面Jに、溶接による溶け込み部27の一部が存在する。溶け込み部27は、芯金41の一部(環状部44)と外輪20の一部とが溶け込んだ部分であり、ナゲット又はビードとも呼ばれる。内周面26と芯金41(第一の曲げ部43)との間には隙間が設けられる。側面25は、転がり軸受7の中心軸C(図1参照)に直交する仮想の平面Fに沿って設けられる。転がり軸受7の中心軸Cは、内輪10、外輪20、及びシール40それぞれの中心軸と一致する。
【0029】
凹周溝24には、凹状の隅アール部24aが形成されており、第一の曲げ部43の一部が凸状のアール部43aとなっている。凸状のアール部43aの曲率半径は、隅アール部24aの曲率半径よりも大きくなっている。そして、前記のとおり、内周面26と芯金41(第一の曲げ部43)との間には隙間が設けられる。これにより、芯金41の縁部(第一の曲げ部43)が、隅アール部24aに干渉して、芯金41全体が側面25から浮き上がるのを防止することができる。
【0030】
環状部44は、外輪20の側面25に沿って設けられる円環状の部分であり、側面25に重ねて設けられ、この側面25との間を接合面Jとして溶接により取り付けられる。図3は、外輪20に溶接される前の状態にある芯金41の一部を説明する断面図である。図3には、側面25上に芯金41が載置された状態(溶接前の状態)が示されている。環状部44は、側面25に接触する接触面47と、側面25に対面すると共に接触面47から径方向内方に向かうにしたがって側面25から軸方向に離れる傾斜面48とを有する。本実施形態では、環状部44が有する外輪20側の環状側面49の全体がテーパ面となっていて、この環状側面49の一部が接触面47となり、他部が傾斜面48となる。接触面47が側面25に接触した状態で、傾斜面48と側面25との間に形成される隙間eの最大値は、例えば0.02ミリメートル~0.05ミリメートル程度である。
【0031】
後の製造方法でも説明するが、芯金41を外輪20に溶接する際、芯金41を側面25に対して軸方向(図3の場合、上から下へ向く方向)に押して、芯金41を拘束した状態とする。芯金41は本体部46において図外の治具により軸方向に押される。このため、芯金41は、環状部44を含む領域において弾性的に変形する。接触面47と側面25との接触領域が、溶接前の状態(図3の状態)と比較すると、広くなる。この接触領域において、溶接が行われ、溶け込み部27(図2参照)が接触面47に形成される。芯金41が側面25に対して軸方向に押圧されるが、前記隙間eは残された状態で溶接される。
以上より、溶接後の転がり軸受7において、環状部44は(図2参照)、溶け込み部27(の一部)を含み側面25に接触する接触面47と、傾斜面48とを有する。傾斜面48は、側面25に対面すると共に接触面47から径方向に向かうにしたがって側面25から離れる形状となる。なお、傾斜面48は、接触面47から径方向の内方及び外方の少なくとも一方に向かうにしたがって側面25から離れる形状であればよい。本実施形態では、傾斜面48は、接触面47から径方向の内方に向かうにしたがって側面25から離れる。
【0032】
図2において、第一の曲げ部43は、環状部44から軸方向に向かって折り曲げられた部分である。より具体的に説明すると、第一の曲げ部43は、環状部44から径方向外側に延びつつ軸方向に延びる部分である。環状部44と第一の曲げ部43との境界が二点鎖線で示されている。第一の曲げ部43は、外輪20の側面25及び内周面26に非接触となる。
【0033】
第二の曲げ部45は、環状部44から軸方向に向かって折り曲げられた第一部分51と、第一部分51から径方向に折り曲げられた第二部分52とを含む。前記隙間eにより第二の曲げ部45は、外輪20の側面25と非接触である。環状部44と第二の曲げ部45との境界が二点鎖線で示されている。
【0034】
図2において、本体部46は、凹凸が無く円環状の平板部分を有し、この平板部分は前記仮想の平面Fに平行となって設けられる。ただし、図1に示されるように、本体部46の内輪10側の端部は折り曲げ部を有する。この折り曲げ部にリップ42が固定される。
【0035】
リップ42は、ニトリル系、シリコン系、アクリル系、又はフッ素系のゴムにより構成され、弾性を有する。リップ42を芯金41の一部に固定するために、芯金41の全面に接着剤50が塗布される。リップ42は芯金41の一部にのみ設けられるのに対して、接着剤50を芯金41の全面(全体)に塗布する理由は、接着剤50を芯金41の一部に塗布する場合よりも全体に塗布する方が作業的に容易であり、トータルコスト面で有利となるためである。この芯金41が金型に設置され、金型によりリップ42が成型される。つまり、芯金41を金型に装着して行なうインサート成型により、シール40は製造される。芯金41とリップ42とを接着するために使用される接着剤50は、フェノール樹脂系又はエポキシ系である。芯金41の全面に塗布される接着剤50の厚さは、例えば、1マイクロメートル以上であり5マイクロメートル以下である。芯金41のうち、リップ42が被覆している部分では、芯金41とリップ42との間に接着剤50による層(硬化した層)が介在しており、リップ42が被覆していない部分では、接着剤50による層(硬化した層)が露出する。
【0036】
以上のように、シール40が有する芯金41の径方向外側部がレーザ溶接されており、シール40は外輪20の側面25に溶接によって取り付けられている。更に説明すると、芯金41の外周側の端縁から所定寸法だけ径方向内側に寄った途中部(環状部44)が、レーザ溶接される。本実施形態では、周方向に沿って全周が溶接される。本実施形態の芯金41は、第一の曲げ部43と第二の曲げ部45とを有している。このため、芯金41の剛性が高く、溶接による芯金41の歪の発生が抑制される。
【0037】
〔転がり軸受7の製造方法について〕
前記構成を備える転がり軸受7の製造方法について説明する。図1を参考にして説明すると、この製造方法では、先ず、内輪10、外輪20、玉30及び保持器35を組み立てて一体化し、中間製品である軸受部8とする(組み立て工程)。溶接前、この軸受部8と別体であるシール40は、前記のとおり、ステンレス製である環状の芯金41と、ゴム製のリップ42とを有する。リップ42は、芯金41の全体に設けられた(塗布された)接着剤50を介して芯金41のうち内輪10側の一部に設けられたものである。
【0038】
次に、このシール40の一部(環状部44)を軸受部8が有する外輪20の側面25に重ねる準備工程が行われる。その後、シール40を外輪20の側面25にレーザ溶接(ファイバーレーザ溶接)する溶接工程が行われる(図4参照)。図1に示される転がり軸受7の場合、軸受部8の軸方向一方側において準備工程及び溶接工程を行い、その後、この軸受部8の軸方向他方側において準備工程及び溶接工程を行なう。溶接工程を終えることで、転がり軸受7は完成する。
【0039】
準備工程及び溶接工程では、軸受部8の中心軸Cを鉛直方向として、上方からレーザ溶接を行なう(図4参照)。本実施形態では、回転ステージ38の上に、シール40を重ねた軸受部8を載置する。レーザ光Lを照射するレーザ照射口(ヘッド)39が静止状態にあり、回転ステージ38を回転駆動させ、周方向に沿って溶接を行なう。また、アシストガス噴射口37からガスを噴射させる。レーザ照射口39では、レーザ光Lの焦点距離を変更可能であり、また、レーザ照射口39を備える溶接装置は、レーザ光Lの出力を変更可能である。このように溶接工程では、図4及び図5に示されるように、外輪20の側面25に芯金41を重ねた状態とし、側面25と芯金41との間が接合面Jとなるようにして、この接合面Jと反対側である芯金41の表て面44aからレーザ溶接を行なう。
【0040】
また、溶接工程では、芯金41を側面25に対して軸方向下向きに押して拘束した状態とする。芯金41は、本体部46(図5参照)において図外の治具によって側面25に押し付けられる。この押し付け力は、所定の値に設定される。具体的に説明すると、芯金41と側面25との間において、一部で接触させるが、この一部の径方向内方側の隣の他部では非接触となるように、芯金41を軸方向に押す力を調整する。側面25に接触する前記一部が、前記接触面47となり、側面25に非接触となる前記他部が、前記傾斜面48となる。傾斜面48と側面25との間に前記隙間eが残された状態とし、この状態を維持して、溶接が行われる。
【0041】
図5は、溶接の途中状態を示すイメージ図である。なお、図5では、芯金41の環状部44の表て面(上面)44aにレーザ光Lが照射された直後の状態が示されている。この状態では、芯金41の溶融が、接合面J、つまり環状部44の環状側面49にまで進んでいない。図5において、レーザ光Lにより芯金41が溶融している領域をクロスハッチで示している。
【0042】
ここで、前記のとおり芯金41の全面に接着剤50による層(接着剤50が硬化した層)が形成されている。このため、芯金41の環状部44(環状側面49)にも接着剤50による層が形成されている。
【0043】
環状部44の表て面(上面)44aにレーザ光Lが照射されると、照射された領域において芯金41の溶融が進む。芯金41はステンレス製であり熱伝導率が低い。このため、芯金41の溶融は、従来用いられている電気亜鉛めっき鋼板(SECC)の場合よりも遅延する。芯金41の熱伝導率は低いが、レーザ光Lによって発生する高熱により、環状部44の裏面44b(下面、環状側面49)側においては、接着剤50の分解温度(約300℃)に直ぐに達する。このため、接合面Jでは、芯金41が溶融する温度に達するよりも先に、つまり、接合面J側が溶融するよりも先に、前記分解温度に達して接着剤50の分解が開始されガスが発生する。接合面Jにおいて接着剤50が分解されて発生したガスは、図5の矢印Gで示されるように、前記隙間eを通じて及び第一の曲げ部43側から、外部(大気)へ放出される。なお、本実施形態において芯金41に用いられたステンレス鋼の熱伝導率は、0.16W/m℃×10^2である。これに対して電気亜鉛めっき鋼板(SECC)の熱伝導率は、0.58W/m℃×10^2である。
【0044】
図6は、本実施形態の転がり軸受7の仕様、及び、溶接工程での溶接条件の一例を示している。溶接のためにレーザ出力をパルス波形としている。デューティー比等の溶接条件は、図6に示す条件以外であってもよく、変更可能である。また、適用する転がり軸受のサイズ等も変更可能である。
【0045】
以上のように、組み立てた軸受部8に、環状のシール40を溶接により取り付ける転がり軸受7の製造方法には、次の工程が含まれる。つまり、この製造方法には、芯金41と外輪20との溶接を行なう溶接工程(図4参照)が含まれている。この溶接工程では、芯金41がステンレス製であることにより、芯金41と外輪20との接合面J(図5参照)の周囲の金属が溶融するよりも先に、接合面Jに存在する接着剤50を溶接の熱により分解させる。
【0046】
前記製造方法によって製造される転がり軸受7では、シール40の芯金41は外輪20に溶接により固定される。芯金41はステンレス製であるため熱伝導率が低い。このため、前記のとおり、溶接すると、外輪20と芯金41との接合面Jにまで芯金41の溶融が進むのが遅れる。また、芯金41の溶融温度に比べて接着剤50の分解温度は十分に低い。したがって、図5により説明したように、接合面Jの周囲の金属が溶融するよりも先に接合面Jに存在している接着剤50が分解する。このため、接着剤50が分解されて発生したガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのを抑えることができる。また、ステンレス製である芯金41では温度が低下し難いため、溶融すると液相である時間が長い。このため、仮に接着剤50が分解されて発生したガスにより溶融した芯金41の一部が吹き飛ばされ欠肉したとしても、その欠肉部を埋め戻す時間が多く確保される。この結果、溶接不良が発生するのを抑制することが可能となる。
【0047】
また、溶接の際、前記のとおり、芯金41を側面25に対して軸方向に押して拘束した状態とする。この際、芯金41と側面25との間において、一部で接触させるが、この一部の径方向隣の他部では非接触となるように、芯金41を軸方向に押す力が調整される。この方法によれば、芯金41は、一部において側面25と接触するが、この一部の径方向隣の他部では側面25との間において隙間eが形成される(図5参照)。このため、外輪20と芯金41との間の接合面Jにおいて接着剤50が分解されて発生したガスを、隙間eから外部へ逃がすことができる。よって、前記ガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのをより一層効果的に抑えることができる。
【0048】
また、図5に示されるように、芯金41は、環状部44から軸方向に向かって折り曲げられた第一の曲げ部43を有する。このため、接合面Jにおいて接着剤50が分解されて発生したガスを、曲げ部43側から逃がすことが可能となる。よって、前記ガスによって溶融金属が吹き飛ばされるのをより一層効果的に抑えることができる。
【0049】
前記製造方法によって製造された転がり軸受7によれば、外輪20とシール40とを強固に接合することができ、また、溶接部(溶け込み部27)にピットやポロシティ等の欠陥が発生するのを抑制することができ、密封性も高い。シール40は溶接により外輪20に固定されることから、従来のような嵌合用の広い取り付け溝が不要となり、転がり軸受7の軸方向寸法を小さくする(スリム化する)ことが可能となる。シール40は、凹周溝24(図2参照)の軸方向の範囲内に設けられることから、シール40が軸受部8から軸方向に突出しない構成となる。
【0050】
〔その他について〕
【0051】
図1及び図2に示す芯金41は、径方向外側から順に、第一の曲げ部43、環状部44、第二の曲げ部45、及び本体部46を有する。図2において、第一の曲げ部43と、環状部44と、第二の曲げ部45とによって囲まれた領域に周方向に連続する凹部59が形成される。この凹部59に溶け込み部27の一部が存在する。凹部59は、溶け込み部27が外輪20の側面からはみ出すのを防ぐ。
【0052】
第二の曲げ部45は、内輪10側に向かうにしたがって軸方向外側(図1では右側)へ向かう形状を有する。そして、第二の曲げ部45は、平坦であり円環状の本体部46と繋がる。第二の曲げ部45によれば、本体部46は、環状部44よりも軸方向外側に位置し、保持器35との間隔を広くする。この広くなっている領域に、グリースが存在することができる。このため、軸受内部5におけるグリースの封入量が増加する。
【0053】
本実施形態のシール40の場合、前記準備工程において、第一の曲げ部43と第二の曲げ部45との間、つまり、環状部44の範囲を、溶接すべき箇所として、目視により特定することが容易である。このように、芯金41が第二の曲げ部45を有することで、目視によってシール40を外輪20に位置合わして溶接する作業が容易となる。
【0054】
前記各実施形態では、シール40が外輪20に取り付けられている場合について説明したが、シール40が内輪10に取り付けられていてもよい。つまり、シール40は、外輪20と内輪10とのうちの一方の軌道輪の側面に取り付けられる。
【0055】
本発明の転がり軸受は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。また、その製造方法についても本発明の範囲内において他の形態の方法であってもよい。
例えば、前記各実施形態では玉軸受の場合を説明したが、これ以外として、転がり軸受は、転動体がころであるころ軸受であってもよい。
また、前記各実施形態では、シール40が外輪20の軸方向両側に取り付けられる場合について説明したが、軸方向の一方側のみに取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0056】
7:転がり軸受 10:内輪 20:外輪
25:側面 30:玉(転動体) 40:シール
41:芯金 42:リップ 43:第一の曲げ部
44:環状部 44a:表て面 47:接触面
48:傾斜面 50:接着剤 J:接合面
図1
図2
図3
図4
図5
図6