IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キャタレント・ユーケー・スウィンドン・ザイディス・リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】膣送達のための凍結乾燥医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/19 20060101AFI20230201BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230201BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230201BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230201BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 15/04 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
A61K9/19
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/38
A61K31/522
A61K39/00 A
A61P15/02
A61P15/04
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019541898
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 IB2017056373
(87)【国際公開番号】W WO2018069888
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】62/407,709
(32)【優先日】2016-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519135460
【氏名又は名称】キャタレント・ユーケー・スウィンドン・ザイディス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エミリー・マスト
(72)【発明者】
【氏名】リサ・ガレット
(72)【発明者】
【氏名】ニーアム・バラット
(72)【発明者】
【氏名】イク・テン・ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ロザリーン・テレサ・マクラフリン
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・ジェラルド・バンベリー
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-278779(JP,A)
【文献】特開2014-177492(JP,A)
【文献】特開2010-163428(JP,A)
【文献】特表2013-522308(JP,A)
【文献】特表2003-524622(JP,A)
【文献】特表2012-528789(JP,A)
【文献】特表2006-517236(JP,A)
【文献】特表2009-541419(JP,A)
【文献】特表2012-505171(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102784120(CN,A)
【文献】Carbohydrate Polymers,2013年,Vol.91,p.651-658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-33/44
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00-45/08
A61P 31/00
A61P 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)有効量の少なくとも1つの活性成分、
b)凍結乾燥剤の全質量に基づいて、12.5質量%~25質量%の量の、結晶構造形成化剤、及び
c)少なくとも1つの粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤
を含む固体凍結乾燥膣剤であって、
b) 結晶構造形成化剤が、マンニトールを含み、
c) 粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤が、ウシゼラチン又は魚ゼラチンのうち少なくとも1つを含み、
膣粘膜に接触後120秒以内に崩壊する、固体凍結乾燥膣剤。
【請求項2】
膣粘膜に接触して90秒以内に崩壊する、請求項1に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項3】
粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤が、少なくとも1つの魚ゼラチンを含む、請求項1又は2に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項4】
粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤が、少なくとも1つのウシゼラチンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項5】
粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤が、凍結乾燥剤の全質量に基づいて1~60質量%を構成する、請求項1から4のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項6】
コロイド状二酸化ケイ素、シメチコン、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマーから選択される少なくとも1つの滑沢剤を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項7】
キトサン、デキストリン、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースポリマーからなる群から選択される粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤の1つ又は複数を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項8】
ポビドン、ダイズ、コムギ及びオオバコ種子タンパク質、デキストラン、ゼラチン-アカシア複合体等のポリペプチド/タンパク質又は多糖複合体、カルボキシメチルセルロース、チオール化カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びメチルヒドロキシエチルセルロース、アガロース、ヒアルロン酸、カラゲナン、ペクチン、アルギネート、ポリアクリル酸、架橋ポリ(アクリル酸)、ポリカルボフィル、ポリアクリレート、メタクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルヘキシルアクリレート、ガム、並びに、それらの任意の組合せから選択される粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項9】
pH調整剤を更に含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項10】
少なくとも60%の多孔率を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項11】
60%以上85%未満の多孔率を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項12】
破断ピーク荷重により測定される、10N超かつ100N未満の錠剤強度を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項13】
活性成分が、凍結乾燥剤の全質量に基づいて最大で60質量%を構成する、請求項1から12のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項14】
活性成分が、アシクロビル、フルコナゾール、プロゲステロン、ノノキシノール-9、テルブタリン、リドカイン、テストステロン、ジノプロストン、乳酸菌、エストロゲン、ナフタレン2-スルホネート、ブトコナゾール、硝酸/リン酸クリンダマイシン、硫酸ネオマイシン、硫酸ポリミキシン、ナイスタチン、クロトリマゾール、硫酸デキストリン、グリミノックス、硝酸ミコナゾール、塩化ベンザルコニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、テノホビル、ダナゾール、アクリフラビン、酢酸リュープロレリン、メトロニダゾール、塩酸ベンジダミン、クロラムフェニコール、オキシブチニン、エチニルエストラジオール、インスリン、カルシトニン、並びに、活性成分と同様の活性を有する前述の活性成分のいずれかの塩、エステル、水和物、溶媒和物、HIVのワクチン抗原、HPVのワクチン抗原、クラミジアのワクチン抗原、B型肝炎のワクチン抗原、淋菌のワクチン抗原、並びに、それらの組合せからなる群から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項15】
活性成分が、抗細菌剤、抗真菌剤、抗原虫剤、抗ウイルス剤、陣痛誘発剤、殺精子剤、プロスタグランジン、ステロイド及び殺菌剤、タンパク質/ペプチド、ワクチン抗原、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項16】
二酸化ケイ素を更に含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤を膣粘膜に接触させる工程を含む方法によって、活性成分が膣腔に送達される、請求項1から16のいずれか一項に記載の固体凍結乾燥膣剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2016年10月13日に出願された米国仮特許出願第62/407,709号の優先権を主張し、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、膣送達に好適な医薬剤形、及び様々な活性成分の膣送達のための方法に関する。より具体的には、本発明は、膣送達のための凍結乾燥医薬剤形、及び凍結乾燥医薬剤形を調製し、使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
医薬製剤は、感染又は疾患を予防、処置、及び緩和するための治療剤の膣送達のために開発されている。具体的には、膣送達のためのこのような製剤は、以下に好適である:
- 治療薬の局部/局所送達、
- 医薬品、特に初回通過代謝に影響され易い医薬品の全身送達、
- タンパク質及びペプチド等の高分子の全身送達、及び
- ワクチンの粘膜送達。
【0004】
膣送達は、比較的非侵襲的であり、初回通過肝クリアランスをバイパスして初回通過代謝に影響され易い分子の生物学的利用能を改善し、消化管の副作用の発生率及び重症度も低減できる。また、膣は、血管新生が豊富な浸透面積が広く、多くの活性医薬成分を取り込むためにより望ましく効果的な部位となる。
【0005】
タンパク質及びペプチドの膣送達は、これらの分子を分化して生物学的利用能を低下させる消化管の過酷な環境を避けるという利点がある。
【0006】
同様に、粘膜付着性及び急速な分散特性の両方を有する、本発明の新規の凍結乾燥投与製剤は、理想的には、HPV、HIV、クラミジア、淋菌(N. gonorrhoeae)、及びB型肝炎等の感染を処置するためのワクチンの膣送達に適する。
【0007】
膣送達のための組成物は、膣腔に活性医薬成分(API)を放出できる製剤を提供する必要がある。組成物はまた、破壊することなく取り扱い、挿入することに好適でなければならない。好ましくは、組成物はまた、過剰な排出をすることなく、妥当な時間内に、膣腔で生体内溶解又は崩壊する。更に、膣送達のための製剤は、炎症又は他の潜在的な合併症を避けるために、膣腔の環境をむやみに乱すことを避ける必要がある。
【0008】
従来の膣送達法は、クリーム剤、溶液剤、ペッサリー剤、フォーム剤、軟膏剤、錠剤等の製剤を使用し、一般的に投与部位で短い滞留時間が好ましい。膣送達のために、短い分散時間及び/又は良好な粘膜付着性が、膣液の生理学的な分泌物の洗浄作用の効果を最小限にするために望ましい。挿入剤、錠剤、及びゲル剤等の生体付着剤は、組織との十分な接触時間を達成するために、剤形を膣粘膜と付着するために使用されうる。現在、膣送達法は、抗細菌剤、抗真菌剤、抗原虫剤、抗ウイルス剤、陣痛誘発剤、殺精子剤、プロスタグランジン、ステロイド、及び殺菌剤の局部送達のために使用される。現在の製剤に関連するいくつかの問題として、漏出、悪臭、着色排出物、刺激、掻痒、灼熱及び/又は腫脹、並びに性交での潜在的な有害作用があり、使用者の不便さの原因となり、時に患者のコンプライアンスの低下を招く。
【0009】
迅速溶解剤形(FDDF)の形態での凍結乾燥経口製剤は、使用に便利で、容易に分散して移動しないように、錠剤を口腔内に置く課題に対応するために使用されることが多い。例えば、大量のウィッキング/崩壊化剤を含む「緩く」圧縮された錠剤、大量の発泡剤を含む錠剤、及び、凍結乾燥錠剤等、FDDFの形態は多い。最も一般的には、口腔で活性成分を放出するように設計された凍結乾燥FDDFは、急速に溶解できるゼラチンをベースとするマトリックスを使用して製剤化される。これらの剤形は周知であり、広範囲の薬物を送達するために使用できる。いくつかの迅速溶解剤形は、担体又はマトリックス形成化剤としてゼラチン及びマンニトールを使用する(Seagar, H.、「Drug-Delivery Products and Zydis Fast Dissolving Dosage Form」、J. Pharm. Pharmaco、vol. 50、375~382頁(1998))。
【0010】
典型的には、ゼラチンは、ポリマーマトリックス形成化剤として使用され、マンニトール等の糖アルコールと共に剤形に充分な強度を付与して、包装から取り出す際の破壊を防ぐが、口の中に置いたら、マトリックスは、本質的に、剤形がすぐに分散することを可能にする。加水分解化した哺乳動物由来のゼラチンは、FDDFで選択されるマトリックス形成化剤であることが多いが、それは冷却時に急速にゲル化するためである。好適な加水分解化した哺乳動物由来のゼラチンは、ウシゼラチンでありうる。非ゲル化の魚ゼラチンも使用されうる。処理の間に、投与された溶液/懸濁液は、好ましくは、気体状媒体を通過することにより凍結させて、急速な凍結を成し遂げる。特定の実施形態では、剤形は、少なくとも1つの魚ゼラチン、及び、少なくとも1つのウシゼラチンを含みうる。
【0011】
FDDFを付与する別のアプローチでは、緩く圧縮された錠剤を使用する。このような錠剤を形成するために、活性成分は、水溶性賦形剤と混合し、低い~中程度の圧縮力を使用して打錠機で圧縮する。これは、より従来的なアプローチであり、必要な引張強度及び崩壊時間を有する錠剤を製造できないことが非常に多い。この技術は、超崩壊剤、発泡剤、水溶性の高い添加剤等の使用に依存しうる。緩く圧縮された錠剤は、味マスキング又は放出調節のためにカプセル化医薬成分を組み込むことができるが、圧縮力は、活性医薬成分のコーティングの損傷を防ぐために最低限にする必要がある。例えば、OraSolv(商標)技術である、米国特許第5,178,878号を参照のこと。
【0012】
更に、速溶性錠剤は、調節した硬化条件下で、好適な糖結晶構造を使用して製造されている。例えば、米国特許第5,866,163号を参照のこと。更に、活性成分を含む圧縮された速溶解性剤形、非直接圧縮充填剤からなるマトリックス、及び、滑沢剤は、米国特許第6,221,392号に開示される。
【0013】
凍結乾燥の一形態では、懸濁液は、活性成分と適切な添加剤とで調製される。懸濁液は、ブリスターパックに分注させ、凍結乾燥させる。例えば、米国特許第4,371,516号を参照のこと。このアプローチは、通常、妥当な引張強度及び崩壊時間の多孔質構造を有する錠剤を提供する。いくつかの類似の方法は、米国特許第4,642,903号、米国特許第5,976,577号、米国特許第6,156,359号、米国特許第6,413,549号、米国特許第6,423,342号、米国特許第6,509,040号、及び、米国特許第6,709,669号に記載されている。
【0014】
凍結乾燥錠剤の形態での膣送達システムがいくつか存在する。論文、Abruzzo、表題「Chitosan/alginate complexes for vaginal delivery of chlorhexidine digluconate」は、凍結乾燥膣挿入剤を開示する。この膣挿入剤は、キトサン及びアルギネート複合体からなり、性器感染症に対してジグルコン酸クロルヘキシジンの局部送達に使用される。別の論文、A. David Woolf son、「Freeze-dried, mucoadhesive system for vaginal delivery of the HIV microbidcide, dapivirine: Optimisation by an artificial neural network」は、HIV殺菌剤の送達のための凍結乾燥させた膣送達システムについて議論する。別の論文、Sherry Y. Wu、「Vaginal delivery of siRNA using a novel PEGylated lipoplex-entrapped alginate scaffold system」は、粘膜不活性PEG化リポプレックスを含有するアルギネート足場システムに関し、生体内でリポプレックスの持続的な膣での存在をもたらし、siRNA/オリゴヌクレオチドの膣上皮への送達を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第5,178,878号
【文献】米国特許第5,866,163号
【文献】米国特許第6,221,392号
【文献】米国特許第4,371,516号
【文献】米国特許第4,642,903号
【文献】米国特許第5,976,577号
【文献】米国特許第6,156,359号
【文献】米国特許第6,413,549号
【文献】米国特許第6,423,342号
【文献】米国特許第6,509,040号
【文献】米国特許第6,709,669号
【非特許文献】
【0016】
【文献】Seagar, H.、「Drug-Delivery Products and Zydis Fast Dissolving Dosage Form」、J. Pharm. Pharmaco、vol. 50、375~382頁(1998)
【文献】Abruzzo、表題「Chitosan/alginate complexes for vaginal delivery of chlorhexidine digluconate」
【文献】A. David Woolf son、「Freeze-dried, mucoadhesive system for vaginal delivery of the HIV microbidcide, dapivirine: Optimisation by an artificial neural network」
【文献】Sherry Y. Wu、「Vaginal delivery of siRNA using a novel PEGylated lipoplex-entrapped alginate scaffold system」
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
一実施形態では、
a)有効量の少なくとも1つの活性成分、
b)凍結乾燥剤形の全質量に基づいて、約5質量%~約40質量%の量の結晶構造形成化剤、及び
c)少なくとも1つの粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤
を含む固体凍結乾燥膣剤形であって、剤形のpHが約4.0~5.0であり、膣粘膜に接触後120秒以内に崩壊する、固形凍結乾燥膣剤形を開示する。
【0018】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示する医薬組成物は、質量で15mg~300mgの範囲の様々なサイズでの凍結乾燥膣挿入剤として、膣粘膜に供することができる。凍結乾燥膣挿入剤は、膣腔に挿入する間、無傷のままでありえ、妥当な滞留時間で、膣腔で溶解及び/又は崩壊して、投与部位での薬物の粘膜吸収への十分な接触時間を得られる。いくつかの実施形態では、固形凍結乾燥膣剤形は、膣粘膜内に接触して45秒以内に崩壊しうる。いくつかの実施形態では、固形凍結乾燥膣剤形は、約10秒超かつ約120秒未満で崩壊しうる。いくつかの実施形態では、固形凍結乾燥膣剤形は、約90秒以内に、約10~60秒以内に、又は、約10~45秒以内に崩壊しうる。崩壊時間は、濡れ時間試験、及び/又は、低体積分散時間試験によるインビトロ評価により推定されうる。
【0019】
前述の実施形態の各々では、結晶構造形成化剤は、糖アルコール又は糖でありうる。前述の実施形態の各々では、結晶構造形成化剤は、マンニトール、キシリトール、サッカロース、グルコース、ラクトース、フルクトース、デキストロース、ガラクトース、及びトレハロース、並びに、シクロデキストリン等の環状糖、及び前述の2つ以上の組合せから選択されうる。
【0020】
前述の実施形態の各々では、粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤は、ウシゼラチン等の動物性又は植物性タンパク質、魚ゼラチン等の非哺乳動物由来のゼラチン、ゲル化性又は非ゲル化性ゼラチン、加水分解又は非加水分解ゼラチン、ポビドン、デンプン、予備ゼラチン化デンプン及びヒドロキシプロピルデンプンを含む加工デンプン、マルトデキストリン等のデキストリン、HPMC(メトセル)、ダイズ、コムギ及びオオバコ種子タンパク質、キトサン、デキストラン、多糖類及びゼラチン-アカシア複合体等のポリペプチド/タンパク質又は多糖複合体、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、チオール化カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、及びメチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース及び変性セルロース、アガロース、ヒアルロン酸、カラゲナン、ペクチン、アルギン酸ナトリウムを含むアルギネート、ポリアクリル酸、Carbopol(商標)粘膜付着性ポリマー等の架橋ポリ(アクリル酸)、ポリカルボフィル、ポリアクリレート、メタクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルヘキシルアクリレート、他のチオール化ポリマー、アカシア、ペクチン、寒天、トラガカント、グアーガム、キサンタンガム、イナゴマメガム、タラガム、カラヤ、ゲランガム、ウェランガム、及びラムサンガムの1つ又は複数から選択されるガム由来の物質、並びに、前述の粘膜付着性マトリックス形成化剤の2つ以上の任意の組合せから選択されるポリマー物質を含みうる。
【0021】
前述の実施形態の各々では、粘膜付着性マトリックス形成化剤は、少なくとも1つの魚ゼラチンを含みうる。前述の実施形態の各々では、粘膜付着性マトリックス形成化剤は、少なくとも1つのウシゼラチンを含みうる。前述の実施形態の各々では、粘膜付着性マトリックス形成化剤は、少なくとも1つの魚ゼラチン、及び少なくとも1つのウシゼラチンを含みうる。
【0022】
前述の実施形態の各々では、剤形は、任意選択で粘膜付着剤、滑沢剤、充填剤、保存剤、結合化剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、pH調整剤、着色剤、充填剤、及び浸透圧調節剤でありうる、追加のマトリックス形成化剤の1つ又は複数を更に含みうる。
【0023】
前述の実施形態の各々では、剤形は、コロイド状二酸化ケイ素、シメチコン、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマーから選択される少なくとも1つの滑沢剤を含みうる。
【0024】
前述の実施形態の各々では、剤形は、pH調整剤を含みうる。
【0025】
前述の実施形態の各々では、剤形の多孔率は、少なくとも60%でありうる。
【0026】
前述の実施形態の各々では、剤形は、取扱い及び挿入の間の破壊に対する抵抗性で特徴づけられる物理的堅牢性を有しうる。
【0027】
前述の実施形態の各々では、活性医薬成分は、抗感染剤、抗菌剤、プレバイオティクス、プロバイオティクス、抗ウイルス剤、抗生物質、抗真菌剤、避妊剤、ワクチン抗原、及び、補助剤から選択されうるが、限定されない。いくつかの例として、アシクロビル、フルコナゾール、プロゲステロン及びその誘導体、ノノキシノール-9、テルブタリン、リドカイン、テストステロン及びその誘導体、ジノプロストン、乳酸菌、エストロゲン及びその誘導体、ナフタレン2-スルホネート、ブトコナゾール、硝酸/リン酸クリンダマイシン、硫酸ネオマイシン、硫酸ポリミキシン、ナイスタチン、クロトリマゾール、硫酸デキストリン、グリミノックス(glyminox)、硝酸ミコナゾール、塩化ベンザルコニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、テノホビル、インスリン、カルシトニン、ダナゾール、アクリフラビン、酢酸リュープロレリン、メトロニダゾール、塩酸ベンジダミン、クロラムフェニコール、オキシブチニン、エチニルエストラジオール、プロスタグランジン、インスリン、カルシトニン、HIV、HPV、クラミジア、B型肝炎、淋菌のワクチン抗原、並びに、それらの組合せが挙げられるが、限定されない。
【0028】
別の実施形態では、治療剤を膣腔に送達する方法を開示する。方法は、前述の実施形態のいずれかの固形凍結乾燥膣剤形を膣粘膜と接触させる工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】実施例1の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図1B】実施例1の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図1C】実施例1の1000mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図2A】実施例2の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図2B】実施例2の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図2C】実施例2の1000mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図3A】実施例3の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図3B】実施例3の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図3C】実施例3の1000mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図4A】実施例4の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図4B】実施例4の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図5A】実施例5の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図5B】実施例5の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図6】実施例6の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図7A】実施例7の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図7B】実施例7の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図8】実施例8の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図9A】実施例9の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図9B】実施例9の1000mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図10A】実施例10の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図10B】実施例10の1000mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図11A】実施例11の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図11B】実施例11の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図11C】実施例11の1000mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図12A】実施例12の100mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図12B】実施例12の500mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
図12C】実施例12の1000mg湿潤用量の挿入剤の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
説明の目的のために、本開示の原理は、様々な例示的な実施形態を参照することにより記載される。特定の実施形態は本明細書で具体的に記載されるが、当業者は、同様の原理が、他のデバイス及び方法で、等しく適用可能であり、使用できることを容易に認識するだろう。本開示で開示される実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、その適用を、示される任意の特定の実施形態の詳細に限定されないことは理解されるべきである。更に、本明細書で使用される用語は、説明の目的であって、限定するものではない。
【0031】
成句又は用語の定義は、いくつかの例を含みうる。このような例は、定義される成句又は用語の網羅的な定義ではない。このような例はまた、互いに重複し、互いに一致し、互いの例となりうる。
【0032】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、別段内容を明らかに示さない限り、複数の参照を含むことは留意されるべきである。更に、用語「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ又は複数」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書で互換的に使用できる。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」、及び「から構築される(constructed from)」もまた、互換的に使用できる。
【0033】
一態様では、本発明は、
a)有効量の少なくとも1つの活性成分、
b)凍結乾燥剤形の全質量に基づいて、約5質量%~約40質量%の量の結晶構造形成化剤、及び
c)少なくとも1つの粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤
を含む固体凍結乾燥膣剤形であって、剤形のpHが約4.0~5.0であり、膣粘膜に接触後120秒以内に崩壊する、固形凍結乾燥膣剤形に関する。
【0034】
本発明の特定の実施形態では、剤形は、膣粘膜に接触して、約120秒、約90秒、約10~60秒、又は約10~45秒以内に崩壊する。本発明の特定の実施形態では、剤形は、膣粘膜に接触して45秒以内に崩壊し、剤形は、膣粘膜に接触して、好ましくは10~60秒、より好ましくは10~45秒以内に崩壊する。
【0035】
剤形の多孔率は、少なくとも60%若しくは約60~90%、又は、より好ましくは60%から85%、60%から85%未満、若しくは60%から75%でありうる。多孔率は、ガス吸着分析及び圧入ポロシメトリー分析等の技術により測定されうるか、湿潤投与する質量に対して凍結乾燥剤形の質量から推定されうる。剤形の多孔性は、迅速溶解特性を提供するために有利である。これは、本発明の膣剤形が、活性成分を膣腔に比較的妥当な滞留時間で送達することを可能にする。
【0036】
本発明の剤形は、取扱い及び挿入の間の破壊に対する抵抗性で特徴づけられる物理的堅牢性を有しうる。剤形の物理的強度は、破断ピーク荷重(Peak Load to Fracture)により測定される、約10N超かつ100N未満の錠剤強度を呈することができる。剤形の物理的堅牢性により、剤形を膣粘膜に接触させるように置くためのアプリケーターの使用を必要としない。これらの特性は、望ましくない結果の数を減らすことで、患者のコンプライアンスをより高める結果となり有利である。
【0037】
剤形は、小さいディスク状、シート状、錠剤等の形態でありうる。形態は、鋳型又はブリスターポケットの形状であり、そこで作製又は包装を行う。ゆえに、剤形は、円形、楕円形、正方形、長方形、五角形、六角形、八角形等でありうる。剤形は、古典的なディスク状の形状、球状若しくは楕円形状、ブロック状、丸縁の立方体、又は、好適な鋳型から得られる特定の形状等の多くの異なる外観を有しうる。サイズは、直径およそ1.5mm又は最長の方向の寸法1.5mmから、直径又は最長の寸法およそ20mmまでの幅がありうる。いくつかの実施形態では、形態の直径は、2~10mmである。
【0038】
投与に際し、剤形は膣粘膜に付着し、粘膜の内層から水を急速に取り込み、120秒以内に崩壊する。迅速な崩壊時間により、粘膜付着性固形剤形の使用が可能となり、それにより他の種類の剤形で起こりうる膣腔外での露出を避ける。また、錠剤の物理的堅牢性及び迅速な溶解の組合せにより、扱いにくい包装やアプリケーターの必要がない。
【0039】
成句「迅速崩壊剤形」又はFDDFは、固形剤形の活性成分を送達するための剤形であり、水に曝露すると急速に崩壊する。
【0040】
用語「崩壊」、「崩壊している」等のその形容詞形、及び「崩壊する」等のその動詞形は、粘膜上で見られるような水、水溶液及び液体中の剤形の物理的反応と関係する。剤形の崩壊は、剤形の構造が、固体又は固体様形状から、不均一な混合物、溶液、懸濁液、又はコロイドへと破壊することを意味する。剤形の成分の特性が異なることから、溶液、懸濁液、コロイド、又は不均一な混合物の形成は、崩壊した後に起こる。
【0041】
崩壊試験の例として、米国薬局方(701)Disintegration、又は、欧州薬局方若しくは日本薬局方の同様の試験がある。
【0042】
剤形は、少なくとも1つの活性成分を含む。活性成分は、ヒト又は獣医学的疾患の処置のための活性医薬成分、生物製剤又はワクチン抗原でありうる。活性成分は、固形凍結乾燥膣剤形を使用して送達する成分である。活性成分は、粘膜を介して吸収できる成分でありうる。活性成分は、抗細菌剤、抗真菌剤、抗原虫剤、抗ウイルス剤、陣痛誘発剤、殺精子剤、プロスタグランジン、ステロイド及び殺菌剤、タンパク質/ペプチド、並びに、ワクチン抗原の1つ又は複数でありうる。好ましくは、活性成分は、活性医薬成分である。
【0043】
活性医薬成分は、単一の化学物質等の単一の活性医薬成分でありうるか、いくつかの活性医薬成分の混合物でありうる。活性医薬成分は、多くのカテゴリーの活性医薬成分のいずれかでありうる。活性医薬成分は、アシクロビル、フルコナゾール、プロゲステロン及びその誘導体、ノノキシノール-9、テルブタリン、リドカイン、テストステロン及び誘導体、ジノプロストン、乳酸菌、エストロゲン及び誘導体、ナフタレン2-スルホネート、ブトコナゾール、硝酸/リン酸クリンダマイシン、硫酸ネオマイシン、硫酸ポリミキシン、ナイスタチン、クロトリマゾール、硫酸デキストリン、グリミノックス、硝酸ミコナゾール、塩化ベンザルコニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、テノホビル、インスリン、カルシトニン、ダナゾール、アクリフラビン、酢酸リュープロレリン、メトロニダゾール、塩酸ベンジダミン、クロラムフェニコール、オキシブチニン、エチニルエストラジオール、プロスタグランジン、インスリン、カルシトニン、並びに、それらの組合せからなる群から選択されるが、限定されない。活性医薬成分はまた、B型肝炎、HIV、HPV、クラミジア、淋菌の感染の処置のためのもの等のワクチン抗原でありうる。
【0044】
活性成分は、前述の活性成分のいずれかの塩、エステル、水和物、溶媒和物、及び誘導体を含みうる。好適な誘導体は、活性レベルがより低いかより高い可能性はあるが、活性成分と同様の活性を有する当業者に公知の誘導体である。活性成分はまた、経口送達の方法又は組成物に不適合である任意の活性成分を含みうる。
【0045】
活性成分は、凍結乾燥剤形の全質量に基づいて、最大で60質量%、又は1~50質量%、又は2~40質量%、又は5~25質量%の量で凍結乾燥剤形に存在しうる。
【0046】
活性成分は前処理されうる。前処理された活性成分の例として、コーティングされた活性成分、マイクロカプセル化成分、ナノカプセル化成分、カプセル化成分が挙げられる。このような前処理は、剤形の安定性を向上するために使用しうるか、長時間にわたって活性成分の放出プロファイルを改変するために使用しうる。
【0047】
結晶構造形成化成分は、生成物に必要な形状及び引張強度を提供する化合物である。結晶構造形成化成分の例として、糖及び糖アルコールが挙げられる。結晶構造形成化剤は、マンニトール、キシリトール、サッカロース、グルコース、ラクトース、フルクトース、デキストロース、ガラクトース、及びトレハロース、並びに、シクロデキストリン等の環状糖、及び前述の2つ以上の任意の組合せから選択されうる。好ましい糖及び糖アルコールは、非還元性である。
【0048】
結晶構造形成化剤は、凍結乾燥剤形の全質量に基づいて、5~40質量%、又は6~30質量%、又は7~25質量%、又は8~20質量%の量で存在しうる。
【0049】
粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤は、ウシゼラチン等の動物性又は植物性タンパク質、魚ゼラチン等の非哺乳動物由来のゼラチン、ゲル化性又は非ゲル化性ゼラチン、加水分解又は非加水分解ゼラチン、ポビドン、デンプン、予備ゼラチン化デンプン及びヒドロキシプロピルデンプンを含む加工デンプン、マルトデキストリン等のデキストリン、HPMC(メトセル)、ダイズ、コムギ及びオオバコ種子タンパク質、キトサン、デキストラン、多糖類及びゼラチン-アカシア複合体等のポリペプチド/タンパク質又は多糖複合体、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、チオール化カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、及びメチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース及び変性セルロース、アガロース、ヒアルロン酸、カラゲナン、ペクチン、アルギン酸ナトリウムを含むアルギネート、ポリアクリル酸、Carbopol(商標)粘膜付着性ポリマー等の架橋ポリ(アクリル酸)、ポリカルボフィル、ポリアクリレート、メタクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルヘキシルアクリレート、他のチオール化ポリマー、アカシア、ペクチン、寒天、トラガカント、グアーガム、キサンタンガム、イナゴマメガム、タラガム、カラヤ、ゲランガム、ウェランガム、及びラムサンガムの1つ又は複数から選択されるガム由来の物質、並びに、前述の粘膜付着性マトリックス形成化剤の2つ以上の任意の組合せから選択されるポリマー物質を含みうる。
【0050】
粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤は、凍結乾燥剤形の全質量に基づいて、約1~60質量%、又は1.5~55質量%、又は2~50質量%の量で存在しうる。
【0051】
迅速崩壊剤形を形成するために必要な活性成分、結晶構造形成化成分、粘膜付着性ポリマーマトリックス形成剤、及び残りの成分は、水性液体に溶解させるか、縣濁させる。追加の成分の例として、任意選択で粘膜付着剤、滑沢剤、充填剤、保存剤、結合化剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、pH調整剤、着色剤、充填剤、及び浸透圧調節剤でありうる、追加のマトリックス形成剤が挙げられる。
【0052】
好適な粘着防止剤/滑沢剤/展着剤/湿潤剤は、コロイド状二酸化ケイ素、シメチコン、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマーを、粘着防止剤/滑沢剤/展着剤/湿潤剤として含みうる。
【0053】
本発明による迅速分散剤形はまた、活性成分に加えて、結晶構造形成化成分、1つ又は複数の粘膜付着性ポリマーマトリックス形成化剤、及び1つ又は複数の他の二次成分を含有しうる。
【0054】
本発明での使用に好適な他のマトリックス形成化剤は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機塩、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-ヒドロキシプロリン、L-イソロイシン、L-ロイシン、及びL-フェニルアラニン等の2~12個の炭素原子を有するアミノ酸を含む。
【0055】
1つ又は複数のマトリックス形成化剤は、凝固の前に、溶液又は懸濁液に組み込みうる。マトリックス形成化剤は、界面活性化剤を加えるか、界面活性剤を除外して存在しうる。マトリックスを形成することに加えて、マトリックス形成化剤は、溶液、懸濁液又は混合物内の任意の活性成分の分散又は懸濁を維持する助けとなりうる。これは、水中で充分に溶解できず、したがって溶解よりむしろ縣濁させなければならない活性成分の場合に特に役に立つ。
【0056】
保存剤、抗酸化剤、界面活性剤、粘度増強剤、着色化剤、pH調整剤等の二次成分はまた、組成物に組み込みうる。好適な着色化剤は、赤色酸化鉄、黒酸化鉄、及び黄酸化鉄、並びに、FD&C青色2号及びFD&C赤色40号等のFD&C染料を含む。好適なpH調整剤は、クエン酸、酒石酸、リン酸、塩酸、マレイン酸、炭酸水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムを含む。
【0057】
剤形は、添加剤、他の構造形成化剤、流動助剤、流動化剤、滑沢剤、充填剤、保存剤、結合化剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧調節剤、緩衝剤、及び同様の化合物の1つ又は複数を更に含む。
【0058】
マトリックスは、ゼラチン及びマンニトールを、Table 1(表1)に示された量で、精製水に添加することにより作成される。次いで、混合物を、加熱して添加剤の組込みを助け、次いで周囲温度又は周囲温度より低い温度まで冷却する。次いで、活性成分及びpH調整剤を混合に添加する。次いで、pH調整剤の量が製造の前に未知である場合、追加の精製水を混合物に添加して、100部のバッチサイズを得る。
【0059】
この工程に続いて、製剤を、質量(湿潤用量)で予備形成したブリスターパックのポケットに投与する。活性成分の溶液又は懸濁液を予備形成したブリスターパックに投与したら、それらを、-30℃以下の温度の液体窒素凍結トンネルを通すことで凍結する。次いで、凍結した生成物を、好適な乾燥温度を使用して真空で凍結乾燥する。当業者は、特定の製剤に適した適切な凍結乾燥条件を決定できる。
【0060】
得られる凍結乾燥挿入剤は、少なくとも60%の非常に高い多孔率を有し、急速な崩壊を可能とする。次いで、凍結乾燥挿入剤を含有するブリスターパックは、蓋箔で密封される。
【0061】
一般的に、本発明の好適な固体凍結乾燥膣剤形は、以下の表に列挙される範囲の1つ又は複数の成分を含みうる。
【0062】
【表1】
【0063】
上述の各成分の百分率は、最終固体凍結乾燥膣剤形の全質量に基づいて、各成分の質量パーセントで表す。
【0064】
以下のTable 2(表2)は、凍結乾燥前の液体製剤の3つの湿潤投与する質量の例に提示される、錠剤当たりに存在する医薬組成物のmgの範囲を示す。
【0065】
【表2】
【0066】
本発明はまた、前記の剤形を膣腔に挿入する工程を含む、活性成分の膣送達のための方法に関する。投与の膣経路は、経口経路と比較して、多くの利点を提供する。例えば、膣経路は、消化管等の経口投与の結果、起こりうる活性成分の初回通過代謝を避けるために使用できる。また、膣投与の経路は、消化管の副作用の発生率及び重症度を低減する結果となりうる。また、膣送達法は、膣の浸透面積が広く、血管新生が豊富なことを利用する。
【0067】
本発明の重要な利点は、剤形の物理的堅牢性、及び、120秒以下で溶解する能力の組合せにより得られる。これは、特別な包装又は特別なアプリケーターをしばしば必要とせずに、剤形の自己挿入を可能とする。これは、典型的には、製品の使用を容易にすることにより、患者のコンプライアンスの著しい改善につながることから、重要な利点である。本発明の膣剤形はまた、無臭及び/又は無色に製造しうる。この剤形は、膣腔からの漏出、溢れてくる不快さ又は感覚の問題を避け、典型的には刺激、掻痒、灼熱、又は腫脹を避ける。最後に、剤形は、性交での有害作用がないように製造でき、性交前の処置要件に従って適切な時間で投与できる。
【0068】
膣送達のための凍結乾燥医薬組成物は、アプリケーターを必要とせずに患者が投与できる便利な剤形を提供できる。凍結乾燥挿入剤は、堅牢であるので、破壊することなく膣に投与できる。投与すると、挿入剤は崩壊し始め、活性医薬成分は膣腔に溶解し始める。凍結乾燥膣挿入剤のための組成物は、膣腔からの漏出を防ぐ粘膜付着特性を有する1つ又は複数の成分を含有しうる。
【0069】
以下の実施例は、本開示の方法及び組成物の例示であるが、限定するものではない。当該分野で通常遭遇し、当業者に自明である各種条件及びパラメーターの他の好適な修正及び調節は、本開示の主旨及び範囲内である。本明細書で引用される全ての特許及び刊行物は、その全体を本明細書に参照により全て組み込まれる。
【0070】
実施例1及び実施例2は、経口送達するために使用できる凍結乾燥錠剤の典型的な参照組成物である。実施例3~実施例12は、本明細書で記載される乾燥凍結膣挿入剤において提案される製剤組成物である。
【実施例
【0071】
(実施例1)
ウシゼラチン(参照組成物)
医薬組成物及び凍結乾燥錠剤を調製するための方法は、以下に記載する。
【0072】
混合方法:
最終製品のマトリックスを、ゼラチン及びマンニトールを精製水に添加することにより作成する。次いで、混合物を、60℃まで加熱して添加剤の組込みを助け、次いで周囲温度(23℃)まで冷却する。次いで、活性医薬成分及びpH調整剤を混合に添加する。次いで、pH調整剤の量が製造の前に未知である場合、追加の精製水を混合に添加して100%のバッチサイズを得ることもできる。
【0073】
ウシゼラチンを、本医薬組成物で使用した。アシクロビルを、モデル薬物として使用した。
【0074】
投与、凍結、及び凍結乾燥の方法:
製剤を、質量(湿潤用量)で予備形成したブリスターパックのポケットに投与する。投与したら、ブリスターパックを、混合物内の水をブリスターポケット内で凍結させる液体窒素凍結トンネルを通す。凍結トンネルを出ると、生成物を、凍結乾燥前に冷凍キャビネットで凍結保管する。次いで、凍結させた挿入剤を、氷結晶を挿入剤から低圧で昇華することにより除去する、凍結乾燥機の棚に積載する。得られる凍結乾燥挿入剤は、典型的には少なくとも60%の非常に高い多孔率を有し、急速な崩壊を可能とする。
【0075】
実施例の各錠剤では、「湿潤用量」は、凍結乾燥前の材料を指す。
【0076】
【表3】
【0077】
(実施例2)
魚ゼラチン(参照組成物)
上述の実施例1の方法を、以下の成分で繰り返したが、但し、ウシの代わりに魚ゼラチンを使用することを除く。魚ゼラチン及びマンニトールの量を、以下に示す通り調節した。
【0078】
【表4】
【0079】
(実施例3)
魚ゼラチン(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例2の方法を、実施例3で繰り返したが、但し、魚ゼラチン及びマンニトールの量を以下に示す通り増加したことを除く。
【0080】
【表5】
【0081】
(実施例4)
魚ゼラチン+HPMC(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例3の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、製剤中にヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトセルE15LV)を添加することを除く。ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、マンニトールに手動でブレンドして、組込みを促進する。混合物を確実に均質にするために、pH調節の前に、均質化を必要とした。
【0082】
【表6】
【0083】
(実施例5)
魚ゼラチン+コロイド状二酸化ケイ素(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例3の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、組成物中にコロイド状二酸化ケイ素を添加することを除く。
【0084】
【表7】
【0085】
(実施例6)
魚ゼラチン+シメチコン及びポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマー(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例3の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、シメチコン及びポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンコポリマー(poloxamer 188)の添加を、この順番に、pH調節の前に組み込んだことを除く。
【0086】
【表8】
【0087】
(実施例7)
魚ゼラチン+ヒドロキシエチルセルロース(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例3の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、組成物中にヒドロキシエチルセルロースを添加することを除く。HECを、APIの添加の前に添加した。
【0088】
【表9】
【0089】
(実施例8)
魚ゼラチン+ヒドロキシエチルセルロース(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例3の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、組成物中にキトサンを添加することを除く。キトサンを、APIの添加の前に添加した。
【0090】
【表10】
【0091】
(実施例9)
ウシゼラチン(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例1の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、ウシゼラチン及びマンニトールの量を以下に示す通り増加したことを除く。
【0092】
【表11】
【0093】
マルトデキストリン
(実施例10)
魚ゼラチン及びマルトデキストリン(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例3の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、方法の中でゼラチン及びマンニトールと同時に組み込まれたマルトデキストリンを添加することを除く。加えて、魚ゼラチン及びマンニトールの量は低減した。
【0094】
【表12】
【0095】
ヒドロキシプロピルデンプン(HPデンプン)
(実施例11)
HPデンプン及び魚ゼラチン(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例1の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、方法の中で魚ゼラチン及びマンニトールと同時に組み込まれたHPデンプンを添加することを除く。魚ゼラチン及びマンニトールの量は低減した。
【0096】
【表13】
【0097】
(実施例12)
HPデンプン及びウシゼラチン(膣挿入剤のための組成物)
上述の実施例3の方法を、示した量で、以下の成分で繰り返したが、但し、方法の中でウシゼラチン及びマンニトールと同時に組み込まれたHPデンプンを添加することを除く。ウシゼラチン及びマンニトールの量は低減した。
【0098】
【表14】
【0099】
前述の実施例は、ただ例示及び説明の目的で提示しているのであって、本発明の範囲を多少なりとも限定するものと解釈されるべきではない。本発明の範囲は、添付されている特許請求の範囲から決定されるべきである。
【0100】
試験
湿潤時間評価試験:
湿潤時間評価試験は、工程中の試験である。湿潤時間を、視覚的に湿潤する単位に必要とする時間として定義する。20℃±0.5℃で、精製水中の最小限の3 Zydis(登録商標)単位で測定する。本試験を、ビーカーの中で、およそ200mlの水で実施した。
【0101】
低体積分散時間評価:
低体積分散時間評価試験は、工程中の試験である。時間は、錠剤の最も厚い部分が溶解又は破壊する最初の兆候を視覚的に示す、錠剤に必要な時間として定義する。37℃±2℃で、pH4.5±0.5の緩衝液中の最小限の3 Zydis(登録商標)単位で測定する。本試験を、時計皿の中で、5mlの緩衝液で実施した。
【0102】
錠剤の破壊強度(破断ピーク荷重):
錠剤の堅牢性は、錠剤を破断又は折損するのに必要なピーク荷重を測定することで、錠剤の破壊強度により評価する。試験を、支持体の間隙が6mmである3点折曲げ具で実施した。錠剤を、いずれかの端部で支持し、中心部をナイフ様のプローブで変形することで、最も弱い点で破断及び破壊が起こる。試験速度は、0.05mm/秒であり、試験は、破壊を検出した時点で停止した。破断ピーク荷重は、錠剤の破壊強度を示す。より堅牢な錠剤は、より高い破断ピーク荷重を提供する。この情報は、膣挿入剤を膣腔に挿入する間に起こりうる、損傷に対する錠剤の抵抗性を測るために使用できる。
【0103】
膣挿入剤の多孔率:
膣挿入剤の多孔率は、凍結乾燥錠剤/挿入剤の質量及び凍結乾燥前の湿潤用量質量に基づく、理論的な推定値である。各凍結乾燥錠剤/挿入剤に対して、医薬組成物のアリコートをブリスター上の予備形成したポケットで計量する。挿入剤の寸法及び形状は、ブリスターポケットの幾何形状により決定する。凍結乾燥挿入剤の多孔性の性質は、氷結晶を昇華することで水を除去することにより形成する。挿入剤の寸法及び形状は、凍結乾燥の前後で維持されるので、%多孔率は、以下の通り推定できる。%多孔率=(凍結乾燥錠剤の乾燥質量/湿潤用量質量)×100
【0104】
本明細書で引用される全ての文献は、その全体を参照により組み込まれる。
【0105】
本出願は、本文及び図でいくつかの数値範囲を開示する。開示される数値範囲は、本開示が開示される数値範囲を通して実施できるので、正確な範囲の限定が本明細書に逐語的に記載されていないとしても、本質的に、開示される数値範囲内の任意の範囲又は値を、端点を含んで支持する。
【0106】
上の記載は、当業者が本開示を作製し使用できるように提示し、特定の出願内容及びその要件に関連して提供する。好ましい実施形態への様々な修正は、当業者には容易に明らかであろうし、本明細書で定義される一般的な原理は、本開示の主旨及び範囲から逸脱することなく、他の実施形態及び出願に適用しうる。ゆえに、本開示は、示される実施形態に限定することを意図せず、本明細書に開示する原理及び特徴に相当する最も広い範囲と一致する。最終的に、本出願で参照される特許及び刊行物の全開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C