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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】体液漏出検出水性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/00 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
A61K49/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020535135
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018086183
(87)【国際公開番号】W WO2019122120
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】17208850.2
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520216655
【氏名又は名称】マグル ケモスウェッド ホールディング アーベー
(73)【特許権者】
【識別番号】509223977
【氏名又は名称】ウニベルジテート ハイデルベルク
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】シュイスキー ペーター
(72)【発明者】
【氏名】パウシュ トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ハッケルト ティロ
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/080523(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/073132(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液漏出検出水性組成物であって、前記組成物がゲル化剤を含み、前記組成物の粘度が増加し、前記ゲル化剤が架橋α-グルカンミクロスフェアであり、かつ緩衝種であり、前記組成物がそれにより緩衝されており、前記組成物がpH指示薬をさらに含み、かつ前記組成物のpHが前記pH指示薬のpKaよりも少なくとも0.1pH単位低いか、または高い、体液漏出検出水性組成物。
【請求項2】
前記ゲル化剤が架橋デンプンミクロスフェアである、請求項1に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項3】
前記ゲル化剤が架橋デキストランミクロスフェアである、請求項1に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項4】
前記組成物が、5~25重量%の架橋デンプンミクロスフェアまたは架橋デキストランミクロスフェア、好ましくは10~20重量%の架橋デンプンミクロスフェアまたは架橋デキストランミクロスフェア、より好ましくは13~17重量%の架橋デンプンミクロスフェアまたは架橋デキストランミクロスフェアを含む、請求項2または3に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項5】
重量比架橋剤:デンプンとして、または比架橋剤:デキストランとして表される架橋度が、12~20重量%の範囲、例えば13.5~18.5重量%または15.0~17.0重量%の範囲にあり、好ましくは前記架橋デンプンミクロスフェア、または前記架橋デキストランミクロスフェアがエピクロロヒドリンによって架橋されている、請求項2、3または4に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項6】
前記組成物中に存在する前記架橋デンプンミクロスフェア、または前記架橋デキストランミクロスフェアのレーザー回折を用いることによってISO 13 320:2009に準拠して求めた体積ベースの平均直径(D[4,3])が、100~1000μm、例えば250~750μmである、請求項2~5のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項7】
前記組成物のpHが、前記pH指示薬のpKaよりも少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、または1.0pH単位低いか、または高く;好ましくは、前記組成物のpHが、前記pH指示薬のpKaよりも少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、または1.0pH単位低い、請求項1~6のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項8】
前記pH指示薬のpKaが5~9の範囲;好ましくは6~8の範囲;より好ましくは6.5~7.5の範囲にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項9】
前記pH指示薬がブロモチモールブルーであり、好ましくは前記組成物が0.001~0.5重量%、例えば0.005~0.25重量%または0.01~0.1重量%のブロモチモールブルーを含む、請求項8に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項10】
前記組成物の前記pHが4~7;好ましくは5~6である、請求項1~9のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項11】
前記緩衝種が0.1~30mM、好ましくは0.5~10mM、より好ましくは1.0~5mMの量で存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項12】
前記組成物がリン酸緩衝されている、請求項11に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項13】
前記組成物が:
- 10~20重量%、例えば13~17重量%または14~16重量%の前記ゲル化剤、前記ゲル化剤は架橋デンプンミクロスフェアである;
- 0.001~0.5重量%、例えば0.005~0.25重量%または0.01~0.1重量%の前記pH指示薬、好ましくは前記pH指示薬はブロモチモールブルーである;
- 少なくとも75重量%の水;および
- 任意にリン酸緩衝生理食塩水
を含み:
- 前記架橋デンプンミクロスフェアは、存在する場合、12~20重量%、例えば13.5~18.5重量%または15.0~17.0重量%の架橋度を有し;
- 緩衝剤濃度は、0.1~30mM、例えば0.5~10mMまたは1.0~5mMである、
請求項1~12のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項14】
前記水性組成物がさらに:
- 保存剤、および/または
- 生理食塩水
を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項15】
前記組成物が膵液漏出検出水性組成物であり、前記組成物の前記pHが4~6の範囲にあり;前記pH指示薬のpKaが6~8の範囲;好ましくは6.5~7.5の範囲にある、請求項1~14のいずれか一項に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項16】
前記pH指示薬が、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、アントシアニン、およびニュートラルレッドからなる群から選択される、請求項15に記載の体液漏出検出水性組成物。
【請求項17】
前記膵液漏出検出水性組成物が、膵液漏出を検出するのに使用するためのものである、請求項15または16に記載の膵液漏出検出水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液漏出検出組成物、および膵臓手術、例えば膵部分切除と併せて膵液漏出を検出する際のその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
膵癌は世界で癌関連死の原因の第4位であり、膵切除が唯一の可能性のある治癒である。これらの手順の数万が、毎年、世界中で行われている。頻度が高く、重篤であり、かつ大きな犠牲を払う合併症は、膵液漏出によって引き起こされる術後膵液瘻であり、膵臓手術の最も重要な未解決の問題である。膵液の漏出は、細菌感染症のリスクにとどまらず、膵液の自己消化作用により腸管または血管などの近接臓器が消化されることをも引き起こし、重篤な出血およびさらには死を生じ得る。
【0003】
したがって、膵液漏出は、膵切除における最も重要な病的状態の問題である。膵臓の切離および閉鎖ならびに術後管理技術の様々な膵切除技術が研究されているが、膵液漏出は依然として30~50%の頻度で発生している。術後膵液瘻の症例はいずれも寿命を脅かす可能性があるため、早期発見が肝要である。膵液漏出の困難性は、漏出が肉眼的に知覚できないことであり、現在、外科医は膵臓手術中に膵臓残存物が漏出しているかどうか、どこに漏出しているかを見ることができない。したがって、膵液漏出を予防または閉鎖するための既存の術中アプローチは、膵液漏出の可視化を可能にする信頼性があり実行可能な方法が臨床使用されていないため、不正確である。
【0004】
膵部分切除中、膵組織切離面の膵管系の開口部が小さく、しかも目に見えにくく、したがって標的閉鎖の実施が困難であるため、膵液漏出を完全に防止することは困難である。さらに、膵組織は非常に軟らかく、したがって漏出の外科的閉鎖は、破裂を回避するために非常に穏やかでなければならない。
【0005】
腹腔内ドレナージ液中の解糖酵素であるアミラーゼの濃度の測定は、現在、膵部分切除後の膵液漏出を検出する間接的な方法として用いられている。しかしながら、この技術は間接的であり、膵臓手術中の膵液漏出の直接的な検出および局在化を可能にしないことに苦しんでいる。したがって、手術中にすでに無色かつ透明な膵液の漏出を可視化し、局在化することができる技術を提供することが望まれるであろう。
【0006】
特許文献1、およびMoriらによる非特許文献1中の関連発表(2015;149:p.1334~1336参照)は、術中または術後に膵液の漏出の存在を迅速に検出および画像化することができると述べられている蛍光プローブを開示している。高感度で迅速な検出および画像化を提供することができると述べられているが、プローブは、依然として、漏出を画像化するためにUV光照射および遮光ガラスの使用を必要とすることに苦しんでいる。さらに、最終的に漏出の可視化に至る化学反応では、漏出が可視化されるまでに数分間を要するため、「進行の外科的流れ」が著しく乱される。さらに、一般的に知られているように、蛍光プローブは潜在的に毒性のある副作用を有する傾向があり、紫外線照射はDNAの損傷につながり得る。したがって、提供される可視化アプローチは、かなり複雑で、非効率的で、病院で実施されるには安全ではない。さらに、使用される剤型は、少し不正確であることに苦しむ、すなわち、漏出の正確な点は、局在化するのが困難であり得る。
【0007】
特許文献2および特許文献3は、膵液現像剤を開示する。膵液現像剤は、酸-塩基指示化合物、例えばチモールブルーおよびブロモチモールブルーを含む。膵液現像剤は、ローション、スプレー、指示紙、指示ガーゼ、綿および綿棒からなる群から選択される種々の剤形で提供される。特許文献1の蛍光プローブと同様に、これらの膵液現像剤は、不正確であること、すなわち、漏出の正確な点を同定することが困難であり得ること、およびかつて使用された剤形の除去を必要とすることに苦しむ。
【0008】
膵組織に対する標的された処置を実施することが困難であることを考慮すると、漏出の正確な点の迅速かつ正確な局在化が高度に望まれるであろう。さらに、分解可能な可視化手段を提供することが望まれるであろう。これは、十分な閉鎖を再確認するために反復適用を可能にし、手術の終了時に除去する必要がない。さらに、腹腔鏡下手術において膵液漏出を検出するための可視化手段を提供することも望まれるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第2 857 830号
【文献】中国特許第105334209号
【文献】中国特許第105203541号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Mori et al、Gastroenterology中(2015;149:p.1334~1336参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
結果的に、本発明は、単独で、または任意の組み合わせで、本発明の第1の態様に従い、体液漏出検出水性組成物、ゲル化剤を含む組成物を提供し、組成物、および緩衝種の粘度を増加させ、組成物をそれによって緩衝することにより、当該技術分野における1つ以上の上で同定された欠陥および不利な点を和らげ、軽減し、解消し、または回避しようとするものであり、それにより組成物は緩衝化される。ゲル化剤は、架橋α-グルカンミクロスフェアである。組成物は、さらにpH指示薬を含む。組成物のpHは、pH指示薬のpKaよりも少なくとも0.1pH単位低いか、または高い。
【0012】
一実施形態によると、ゲル化剤は、架橋デンプンミクロスフェアである。したがって、組成物は、5~25重量%の架橋デンプンミクロスフェア、好ましくは10~20重量%の架橋デンプンミクロスフェア、より好ましくは13~17重量%の架橋デンプンミクロスフェアを含み得る。重量比架橋剤:デンプンとして表される架橋度は、12~20重量%の範囲、例えば13.5~18.5重量%または15.0~17.0重量%の範囲であり得る。別の実施形態によれば、ゲル化剤は、架橋デキストランミクロスフェアである。
【0013】
pH指示薬のpKaは、5~9の範囲;好ましくは6~8の範囲;より好ましくは6.5~7.5の範囲であり得る。したがって、pH指示薬はブロモチモールブルーであり得、組成物は0.001~0.5重量%、例えば0.005~0.25重量%または0.01~0.1重量%のブロモチモールブルーを含み得る。さらに、組成物のpHは、4~7;好ましくは5~6であってもよい。緩衝組成物を提供するために組成物中に存在する緩衝種は、0.1~30mM、好ましくは0.5~10mM、より好ましくは1.0~5mMの量で存在し得る。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、体液漏出検出水性組成物は、膵液漏出検出水性組成物である。このような膵液漏出検出水性組成物のpHは、4~6の範囲にあり、pH指示薬のpKaは、6~8の範囲;好ましくは6.5~7.5の範囲にある。
【0015】
本発明の別の態様によれば、膵臓手術、例えば膵部分切除と併せて膵液漏出を検出するのに使用するためのこのような膵液漏出検出水性組成物が提供される。
【0016】
本発明の別の態様によれば、膵臓手術と併せて膵液漏出を検出する方法が提供される。該方法は:
- 膵液漏出検出水性組成物に適用するステップ、および
- 膵液漏出検出水性組成物の色の変化により膵臓の組織表面における膵液のあらゆる漏出を検出し、局在化するステップ
を含む。
【0017】
本発明のさらなる有利な特徴は、従属請求項において定義される。加えて、本発明の有利な特徴は、本明細書に開示された実施形態において詳述される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
膵液漏出検出手段を提供し、当技術分野のニーズに対処するために、様々な概念が考えられた。粉末ベースの手段、例えば、指示薬を含浸させた架橋デンプンミクロスフェアは、取り扱いおよび適用が困難であることに苦しんでいることが見出された。さらに、塗布した粉末は膵液で容易に洗い流され、したがってもしあれば不正確な検出を提供した。さらに、乾燥粉末をテープに提供するか、または指示薬を含浸させたペーパーワイパーもしくはガーゼで置き換えることによる、乾燥粉末の欠点を克服しようとするいずれの試みも成功せず、正確な検出は提供されなかった。
【0019】
これらの欠点を克服し、当技術分野のニーズに対処する膵液漏出検出手段を提供するために、次に、乾燥、固体、または固定化された膵液漏出検出手段ではなく、液体を考慮した。そこで、漏出指示薬を含む体液漏出検出水性組成物を提供した。
【0020】
pH指示薬を漏出指示薬として用いることは、組成物のpHが、pHの変化がpH指示薬の色を変化させるようなpH指示薬のpKaと異なることを条件として、膵液の漏出によって引き起こされるpHの変化に迅速に応答することが認識された。膵液のpHは、正常な間質液のpH(pH約7.4)よりも高い(約8.3~8.5)。適当なpH指示薬、例えばブロモチモールブルーの使用により、膵液漏出が検出され得る。さらに、組成物のpHがpH指示薬のpKaと異なるだけではない。また、緩衝組成物を提供するために、組成物は緩衝種を含むべきであることが分かった。緩衝液は、陽性検出と陰性検出との間のコントラストの改善を可能にするであろう。
【0021】
さらに、精度の向上した体液漏出検出水性組成物を提供するためには、水性組成物の粘度を高める必要がある。例として、例えば噴霧によって水に溶解したpH指示薬を適用しても、正確な検出は何ら得られなかった。しかしながら、ゲル化剤を添加すると、陽性検出と陰性検出との間の鋭い境界を提供するために望ましい方法で粘度が増加することが見出された。組成物の粘度を高めると、ゲルまたは半固体塊として存在する組成物内の拡散が減少するであろう。組成物内の拡散の減少は、組成物の色の変化(pH範囲6.0~7.6でブロモチモールブルーが黄色から青色に変化する)を引き起こす漏出する膵液によるpH変化がより局在化し、そのため精度が改善されることを意味する。このように、体液漏出検出水性組成物の精度は、組成物の粘度を増加させるゲル化剤を添加することによって改善され得る。
【0022】
一実施形態によれば、従って、架橋α-グルカンミクロスフェアの形態のゲル化剤を含む体液漏出検出水性組成物が提供される。組成物は、さらにpH指示薬を含む。pHの変化に応答して視認可能な色の変化をもたらすために、組成物のpHは、pH指示薬のpKaよりも少なくとも0.1pH単位低いか、または高い。
【0023】
例として、7.0のpKaを有するブロモチモールブルーについては、組成物のpHは6.9以下、または7.1以上であるべきである。より明瞭な色変化を提供するために、組成物のpHは、pH指示薬のpKaよりも少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、または1.0pH単位低いか、または高いことがある。一実施形態によれば、組成物のpHは、pH指示薬のpKaよりも少なくとも1.0pH単位低いか、または高い。
【0024】
膵液の漏出の検出には、間質液のpHが膵液のpHよりも低いので、組成物のpHは、好ましくはpH指示薬のpKaよりも低い。したがって、組成物のpHは、pH指示薬のpKaよりも少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、または1.0pH単位低いことがある。一実施形態によれば、組成物のpHは、pH指示薬のpKaよりも少なくとも1.0pH単位低い。
【0025】
さらに、組成物が緩衝種を含むこと、すなわち組成物が緩衝されるべきであることが必要であることが見出された。一実施形態によれば、このように組成物は緩衝される。緩衝種は、0.1~30mM、例えば0.5~10mMまたは1.0~5mMの全体量で存在し得る。緩衝種の濃度が高すぎる結果、色の変化がないかまたは遅延することがある。色の変化が遅延すると、指示が遅延するばかりでなく、精度が低下することに苦しむ。さらに、緩衝種の濃度が低すぎる結果、漏出検出が不正確になり、潜在的にさらに偽陽性になり得る。
【0026】
組成物を緩衝することにより、より強固な体液漏出検出水性組成物が得られる。さらに、間質液および膵液は、pHだけでなく、緩衝強度も異なる。間質液は、緩衝した組成物のpHを有意に変化させない一方、膵液中の重炭酸塩の高い濃度のためにより高い緩衝強度を有する膵液は、緩衝した体液漏出検出水性組成物のpHも増加させることができ、それによって体液漏出検出水性組成物が色を変化させることができるであろう。膵液は、酸性胃酸を中和することができるために、高濃度の重炭酸塩を含む。したがって、体液漏出検出水性組成物を緩衝することは、組成物の精度をさらに向上させるために有利であり得る。
【0027】
当業者によって認識されるように、様々な緩衝系を用いて、緩衝した組成物を提供することができる。すでに概説したように、緩衝された組成物は、4~7、例えば5~7、5~6、または6~7のpHを有し得る。このように、組成物は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含むことができる。実施形態によれば、組成物は、リン酸塩および/またはクエン酸塩で緩衝されている。組成物は、0.1~30mMのリン酸塩、例えば0.5~10mMまたは1.0~5mMのリン酸塩を含むことができる。この文脈において、リン酸塩濃度とは、種々のリン酸塩種(例えばHPO 2-およびHPO )の全濃度を指す。
【0028】
さらに、緩衝種は、リン酸、クエン酸、酢酸、乳酸、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸))、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、またはこれらの化合物の1種もしくは数種の混合物からなる群から選択される化合物に基づいてもよい。しかしながら、緩衝種は、内因性化合物(複数可)、例えばリン酸、クエン酸、酢酸および/または乳酸に基づくことが好ましい。
【0029】
pH指示薬に依存して、本組成物は、様々な種類の体液、例えば弱アルカリ性である膵液に類似する胆汁、または酸性である胃液の漏出を検出するために使用され得る。胆汁は、胆のうによって分泌される。したがって、本体液漏出検出水性組成物は、例えば外傷後、または胆のう手術と併用して胆汁の漏出を検出するのにも使用され得る。これに限定されないが、pH指示薬のpKaは、5~9の範囲;好ましくは6~8の範囲;より好ましくは6.5~7.5の範囲であり得る。膵液の漏出の検出には、6~8の範囲、好ましくは6.5~7.5の範囲のpKaが適していることが見出された。この範囲は、胆汁の漏出の検出にも好まれる。一実施形態によれば、pH指示薬は、ブロモチモールブルーである。ブロモチモールブルーは適当なpKaをもつだけでなく、ブロモチモールブルーはまた低(黄)と高(濃青色)pHとの間で鋭い色のコントラストを示す。さらに、指示薬(濃青色)と組織および血液とのコントラストも鋭い。さらに、pH指示薬は、フェノールレッド(3-アミノ-7-ジメチルアミノ-2-メチルフェナジン塩酸塩)またはニュートラルレッド(フェノールスルホンフタレインもしくは3,3-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-2,1-3H-ベンゾキサチオール1,1-ジオキシドとしても知られている)であり得る。
【0030】
胃液の漏出の検出には、pH指示薬のpKaは、4~6の範囲であり得る。熟練者が認識しているように、この範囲のpKa、およびしたがって対応する色の変化を有する多くのpH指示薬が知られている。一例として、pH指示薬ブロモクレゾールグリーン(2,6-ジブロモ-4-[7-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ-2-メチル-フェニル)-9,9-ジオキソ-8-オキサ-9λ6-チアビシクロ[4.3.0]ノナ-1,3,5-トリエン-7-イル]-3-メチル-フェノール)、メチルレッド(2-{[4-(ジメチルアミノ)フェニル]ジアゼニル}安息香酸)、およびメチルパープル(CAS登録番号:1340-02-9)が、挙げられ得る。
【0031】
すでに述べたように、組成物のpHは、pH指示薬のpKaとは異なるはずである。組成物のpHは、4~7、好ましくは5~6であってもよい。わずかに酸性のpHは、膵液の漏出を検出するのに有益であることが見出された。
【0032】
既に議論したように、体液漏出検出水性組成物は、組成物の粘度を増加させるために、架橋α-グルカンミクロスフェアの形態のゲル化剤を含む。粘度の高い組成物は、精度が向上している。すなわち、色の変化は、例えば膵切除後の膵臓残存物に適用した場合に漏出に近い様相を呈するに過ぎない。なお、組成物の粘度を上げることで精度は向上する一方、色の変化も遅くなり得ることに注目するべきである。より粘性の高い組成物は、より正確な漏出局在を提供するかもしれない一方、粘性の過ぎる組成物は、漏出に反応してゆっくりと色を変えることに苦しむかもしれない。さらに、薄すぎるかまたは粘稠すぎる組成物は、適用しにくくなることがある。
【0033】
組成物が著しくせん断薄化および/またはBingham(擬似)塑性である場合が好ましい。せん断薄化および/またはBingham(擬似)塑性である組成物は、一旦適用され、広がらない位置に留まるであろう。それでもなお、組成物は、その剪断減粘特性(「ケチャップ効果」を参照)が与えられると、例えばシリンジを介して容易に適用することができる。
【0034】
一実施形態によると、体液漏出検出水性組成物は、5~25重量%、例えば10~20重量%、13~17重量%、または14~16重量%のゲル化剤を含む。以下に概説するように、架橋デンプンミクロスフェアは、好ましいゲル化剤を表す。
【0035】
ゲル化剤の濃度だけでなく、塩濃度、すなわちイオン強度も、組成物の粘度に影響する。溶液中の強度の増加は、粘度に対して減少効果を有する。1Mより高い濃度は、粘度に対して有意な影響を及ぼす。この低下は、荷電したイオンとマトリックス中の高分子との間のイオン対形成によって引き起こされる。イオンの導入は、より低い濃度で、塩析効果により高分子(生体高分子)間の低下した誘引相互作用をもたらす。
【0036】
一実施形態によると、体液漏出検出水性組成物中のイオン強度は、50~500mM、例えば100~250mMまたは125~175mMである。100~250mM、例えば125~175mMの範囲のイオン強度は、ゲル化剤が架橋デンプンミクロスフェアである場合に特に好ましいことがある。
【0037】
ゲル化剤は、好ましくは、架橋α-D-グルコース-ポリマー(すなわち、α-グルカン)ミクロスフェア、例えば架橋デンプンミクロスフェア、または架橋デキストランミクロスフェアのような架橋多糖ミクロスフェアであることが見出された。架橋多糖ミクロスフェア、例えば架橋デンプンミクロスフェアは、せん断薄化および/またはBingham(擬似)塑性である組成物を提供する。すでに概説したように、せん断薄化および/またはBingham(擬似)塑性である組成物は、いったん適用され、広がらない位置に留まるであろう。それでもなお、組成物は、そのせん断薄化特性(「ケチャップ効果」を参照)が与えられると、例えばシリンジを介して容易に適用することができる。
【0038】
さらに、ゲル化剤として架橋多糖ミクロスフェア、例えば架橋デンプンミクロスフェアを用いることにより、体液漏出検出に適した粘度を得るための体液漏出検出水性組成物の組成を確立することがより容易であることが見出された。膨潤したミクロスフェアは、体液漏出検出水性組成物の内部摩擦を改善する。これにより、体液漏出検出水性組成物のコンシステンシーは、取り扱いおよび適用がはるかに容易になるようなものである。さらに、それは、色表示が位置上でより正確になるという意味で、指示薬の作用も促進する。
【0039】
さらに、デンプンおよび架橋デンプンミクロスフェアは、生分解性である。これは、ゲル化が除外される必要はなく、in situで分解されるであろうので、体液漏出検出水性組成物がデンプンまたは架橋デンプンミクロスフェアまたは関連ゲル化剤を含むことを意味する。しかしながら、架橋は、架橋デンプンミクロスフェアが天然デンプンよりもゆっくりと分解されることを意味する。膵液中のアミラーゼの濃度が高いことを考慮すると、ゲル化剤が架橋されていないデンプンである場合、ゲル化剤の分解があまりにも速すぎる可能性がある。
【0040】
架橋デンプンミクロスフェアの代替として、架橋デキストランミクロスフェアを、ゲル化剤として使用することができる。デキストランは、主にα-1,3結合によって枝分かれしていることによってデンプンとは異なる。デキストランは高度に枝分かれした構造を示し、グリコシド結合の分布が異なるため、α-アミラーゼでは分解できず、α-アミラーゼでは部分的にしか分解されない。このように、人体に経口的に投与されたデキストランの大部分は、α-アミラーゼによってグルコースに分解されるのではなく、腎臓から排泄される。しかし、人体内の一部の細胞は、デキストランをグルコースに分解することができる。
【0041】
別の実施形態によれば、ゲル化剤は、架橋デキストランミクロスフェアである。α-アミラーゼによる分解に対する抵抗性を考慮すると、架橋デキストランミクロスフェアは、架橋デンプンミクロスフェアよりもより持続性の漏出検出を提供する可能性がある。デキストランは、すでに、容量増量剤として、および非経口栄養の手段として、例えば静脈内溶液中で臨床的に使用されているので、制限されたα-アミラーゼ分解は、本体液漏出検出水性組成物中のゲル化剤としての現在の使用には容認できないとは考えられない。一部の用途では、ゲル化剤としての架橋デキストランミクロスフェアの使用さえ好適であろう。
【0042】
一実施形態によると、ゲル化剤は、架橋デンプンミクロスフェアである。架橋デンプンミクロスフェアは、架橋されてミクロスフェアを提供する植物起源(例えばジャガイモ)のデンプンからなる。当業者が認識しているように、デンプンは天然のポリマーであり、これは分枝グルコースポリマー(α6分枝を有するα-4-グルコース鎖)という2つのポリマー鎖の混合物によって構築される。それは、植物および動物中に見出される天然素材であり、エネルギー貯蔵庫として機能している。ポリマーは、アミロース(長鎖かつ低分枝)およびアミロペクチン(高度に分枝かつ短鎖)からなる。これら2つのポリマー間の比率は、供給源によって異なる。当技術分野で知られているように、分解性架橋デンプンミクロスフェア(DSM)は、ポリマー鎖が球状形状に架橋される乳化プロセスによって形成される。デンプンまたは変性デンプンの微粒子は、従来技術において示されている(例えば、D.R.Lu et al“Starch-based completely biodegradable polymer materials”eXPRESS polymer Letters Vol.3 No.6(2009)p.366-375;P.B.Malafaya et al.”Starch-based microspheres produced by emulsion crosslinking with a potential media dependent responsive behavior to be used as drug delivery carriers”J.Mater.Sci:Mater Med(2006),17:371-377)。当技術分野では、架橋デンプンミクロスフェアは、分解可能な薬物送達系の一部を形成することとして周知である。架橋デンプンミクロスフェア中のデンプンは、加水分解されたデンプンであり得る。加水分解度は、得られる架橋デンプンミクロスフェアの特性を調整するために使用され得る。
【0043】
架橋デンプンにおいて、架橋デンプンミクロスフェアを提供するために、架橋剤、例えばエピクロロヒドリンが使用される。一実施形態によれば、ゲル化剤は、エピクロロヒドリンの使用により架橋された架橋デンプンミクロスフェアである。
【0044】
架橋デキストランミクロスフェアは、対応する方法で得ることができる。
【0045】
膵液中のアミラーゼレベルは体内の正常レベルよりも実質的に高いので、デンプンベースのミクロスフェアの分解時間もそれぞれ短くなるであろう。
【0046】
架橋度は、アミラーゼによる分解に対する抵抗性に影響を及ぼす。より高い程度の架橋は、分解に対するより高い抵抗性を提供する。架橋度は、好ましくは、架橋されたデンプンミクロスフェアが、十分な先行であらゆる漏出を検出できるようにするために、検出される体液に曝露された場合、少なくとも5分間未変化であるようにするべきである。しかし、過度に高い架橋度は、組成物の特性、例えば粘度および検出時間に悪影響を及ぼすであろう。
【0047】
一実施形態によれば、重量比架橋剤:デンプンとして表される架橋度は、12~20重量%、例えば13.5~18.5重量%または15.0~17.0重量%の範囲にあるべきである。膵液の検出には、約25重量%の架橋度が好ましいと考えられた。架橋デキストランミクロスフェアにも同じ範囲があてはまる。
【0048】
架橋デンプンミクロスフェアは、血漿アミラーゼによってオリゴ糖、マルトースに、および最終的にはグルコースにin vivoで分解され、それは、正常な代謝に入る。
【0049】
体液漏出検出水性組成物は、膵液漏出検出水性組成物として使用する場合、腹腔内で使用するべきであるので、ゲル化剤は、好ましくは生分解性であるべきである。生分解性ゲル化剤を使用することは、ゲル化剤が必ずしも腹腔を閉鎖する前に完全に除去されなければならないとは限らないことを意味する。特に腹腔鏡下手術で使用するべきである場合、ゲル化剤が生分解性であることは有利であるか、またはほぼ必要である。架橋デンプンミクロスフェアは、生分解性であるゲル化剤の好適な例を表す。
【0050】
架橋デンプンミクロスフェア、ならびに架橋デキストランミクロスフェアは、様々なサイズで提供され得、様々なサイズ分布を有し得る。以下に提供される図面は、体液漏出検出水性組成物内に存在するように膨潤状態にある架橋デンプンミクロスフェアに関する。架橋デキストランミクロスフェアにも同じ範囲が適用できる。架橋デンプンミクロスフェア、または架橋デキストランミクロスフェアは、顕著なせん断薄化および/またはBingham(擬似)塑性特性を示すためには小さすぎてはならないことが見出された。一実施形態によれば、レーザー回折法を用いてISO 13 320:2009に準拠して決定される体積ベースの平均直径(D[4,3])は、従って、100~1000μm、例えば250~750μmである。さらに、ISO 13 320:2009に準拠して決定される体積ベースの中央径D[v,0.5]は、典型的には、体積ベースの平均直径よりもわずかに低いであろう。それでもなお、またISO 13 320:2009に準拠して決定された体積平均直径D[v,0.5]は、体積ベースの平均直径よりも低いものの、100~1000μmの範囲、例えば250~750μmの範囲であってもよい。さらに、サイズ分布は、粒子の90%が、ISO 13 320:2009に準拠して決定されるように、300~2000μm未満、例えば500~1500μm未満の体積ベースの直径(D[v,0.9])を有するようなものとすることができる。さらに、サイズ分布は、粒子の10%が、ISO 13 320:2009に従って決定されるように、50~600μm未満、例えば100~500μm未満の体積ベースの直径(D[v,0.1])を有する、すなわち粒子の90%が、少なくとも50~600μm、例えば少なくとも100~500μmの直径を有するようなものとすることができる。
【0051】
一実施形態によれば、体液漏出検出水性組成物内に存在するような架橋デンプンミクロスフェアのサイズ分布は、以下のようなものである:
- レーザー回折を用いてISO 13 320:2009に準拠して求めた体積ベースの平均直径D[4,3]は、100~1000μm、例えば250~750μmである、かつ/または
- レーザー回折を用いてISO 13 320:2009に準拠して求めた体積ベースの直径D[v,0.9]は、300~2000μm、例えば500~1500μmである、かつ/または
- レーザー回折を用いてISO 13 320:2009に準拠して求めた体積ベースの直径D[v,0.1]は、50~600μm、例えば100~500μmである。
【0052】
体液漏出検出水性組成物中のゲル化剤の種類および量は、組成物の粘度に影響を及ぼすであろう。一実施形態によれば、体液漏出検出水性組成物は、以下を含む:
- 5~25重量%、例えば10~20重量%、13~17重量%、または14~16重量%のゲル化剤、例えば架橋デンプンミクロスフェア;
- 0.001~0.5重量%、例えば0.005~0.25重量%または0.01~0.1重量%のpH指示薬、例えばブロモチモールブルー;および
- 少なくとも75重量%、例えば少なくとも80重量%の水。
【0053】
好ましくは、このような実施形態における架橋デンプンミクロスフェアは、12~20重量%、例えば13.5~18.5重量%、または15.0~17.0重量%の架橋度を有する。さらに、緩衝液の濃度は、0.1~30mM、例えば0.5~10mMまたは1.0~5mMであってもよい。緩衝液は、リン酸緩衝液であってもよい。さらに、体液漏出検出水性組成物は、生理食塩水ベースであってもよい。好ましくは、水性組成物は、緩衝された等張性組成物を提供するために、リン酸緩衝生理食塩水を含む。体液漏出検出水性組成物のイオン強度は、本実施形態によれば、100~200mM、好ましくは125~175mMとすることができる。
【0054】
架橋デンプンミクロスフェアに関連して、本明細書中に上記で提供される好適な局面(架橋、サイズなど)は、架橋デキストランミクロスフェアに等しく適用可能である。したがって、一実施形態によれば、レーザー回折法を用いてISO 13 320:2009に従って決定した架橋デキストランミクロスフェアの体積ベースの平均直径(D[4,3])は、100~1000μm、例えば250~750μmである。さらに、ISO 13 320:2009に準拠して決定される体積ベースの中央径D[v,0.5]は、典型的には、体積ベースの平均直径よりもわずかに低いであろう。それでもなお、ISO 13 320:2009に準拠して決定された体積平均直径D[v,0.5]は、体積ベースの平均直径よりも低いものの、100~1000μmの範囲、例えば250~750μmの範囲であってもよい。さらに、サイズ分布は、粒子の90%が、ISO 13 320:2009に準拠して決定されるように300~2000μm未満、例えば500~1500μm未満の体積ベースの直径(D[v,0.9])を有するようなものとすることができる。さらに、サイズ分布は、粒子の10%が、ISO 13 320:2009に従って決定されたように50~600μm未満、例えば100~500μm未満の体積ベースの直径(D[v,0.1])を有する、すなわち粒子の90%が少なくとも50~600μm、例えば少なくとも100~500μmの直径を有するようなものとすることができる。さらに、一実施形態によれば、重量比架橋剤:デキストランとして表される架橋デキストランミクロスフェアの架橋度は、12~20重量%、例えば13.5~18.5重量%、または15.0~17.0重量%の範囲にあるべきである。膵液の検出には、約25重量%の架橋度が好ましいと考えられた。
【0055】
一実施形態によれば、体液漏出検出水性組成物内に存在するような架橋デキストランミクロスフェアのサイズ分布は、以下のようなものである:
- レーザー回折を用いてISO 13 320:2009に準拠して求めた体積ベースの平均直径D[4,3]は、100~1000μm、例えば250~750μmである、かつ/または
- レーザー回折を用いてISO 13 320:2009に準拠して求めた体積ベースの直径D[v,0.9]は、300~2000μm、例えば500~1500μmである、かつ/または
レーザー回折を用いてISO 13 320:2009に準拠して求めた体積ベースの直径D[v,0.1]は、50~600μm、例えば100~500μmである。
【0056】
pH指示薬は、少なくともそのpKaの上または下に、着色された組成物を提供するのに十分な量で存在するべきである。したがって、pH指示薬の濃度は、少なくとも0.001重量%、例えば少なくとも0.005重量%または0.01重量%であり得る。さらに、安全性の観点から見ると、pH指示薬の濃度が高すぎてはならない。したがって、pH指示薬の濃度は、0.5重量%以下、例えば0.25重量%または0.1重量%以下であってもよい。
【0057】
体液漏出検出水性組成物の有効期間を改善するために、保存剤をさらに含むことができる。保存剤の例は熟練者に知られており、とりわけ乳酸および安息香酸を含む。組成物が典型的にわずかに酸性であることを考慮すると、保存剤の添加は、不要でさえある。
【0058】
さらに、体液漏出検出水性組成物は、浸透圧を調整し、等張性組成物を提供するために塩化ナトリウム(NaCl)を含むことができる。緩衝された等張な体液漏出検出水性組成物を提供するために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用して、ゲル化剤を溶解してもよい。
【0059】
好ましい実施形態によれば、体液漏出検出水性組成物は、膵液漏出検出水性組成物である。このような膵液漏出検出水性組成物のpHは、4~6の範囲である。さらに、pH指示薬のpKaは、6~8の範囲、例えば6.5~7.5の範囲にある。膵液漏出検出水性組成物中のpH指示薬は、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、およびニュートラルレッドからなる群から選択することができ、好ましくは、pH指示薬はブロモチモールブルーである。
【0060】
このような膵液漏出検出水性組成物は、膵臓手術、例えば膵部分切除と併せて膵液漏出を検出するのに使用され得る。従って、一実施形態は、膵臓手術、例えば膵部分切除と併せて膵液漏出を検出する際に使用するための膵液漏出検出水性組成物に関する。このような使用において、膵液漏出検出水性組成物は、膵臓手術中に膵臓に適用される。膵液漏出検出水性組成物は、シリンジによって適用することができる。好ましくは、膵液漏出検出水性組成物は、膵臓上の連続層として適用される。連続層は、シリンジからの紐を膵臓上の蛇行パターンで適用することによって提供され得る。塗布層の厚さは、できるだけ均一にするべきである。厚すぎる層は、あらゆる漏出の視覚化を妨げることがある。
【0061】
その特性に基づき、組成物は、膵液の漏出がない限り、その初期の色(ブロモチモールブルーを使用する場合は黄色)を維持するであろう。膵液の漏出は、組成物中のpHを局所的に上昇させ、局所的な色の変化(ブロモチモールブルーを使用する場合は青色から緑色を帯びた青色)をもたらし、漏出の量を示すだけでなく、また漏出の正確な点を局在化させる。従って、外科医は、膵臓残存物の閉鎖または吻合が不十分であり、腹腔を閉鎖するべきであるか、または周術期管理を変更しなければならない前に、追加的な処置が必要であることを認識しており、例えばドレナージの配置、集中治療室での薬物療法または処置である。さらに、外科医には、組織表面上の漏出の正確な局在化に関するガイダンスも提供される。後者は、閉鎖処置;例えば追加の結紮を標的とするための重要なガイダンスである。
【0062】
本発明のさらなる実施形態は、膵臓手術と併せて膵液の漏出を検出する方法に関する。このような方法では、膵液漏出検出水性組成物を、膵臓手術の間、例えば、横断非吸収性単縫合縫合糸またはステープラー使用のような結紮処理を伴う膵尾部切除術における膵臓残存物の通常の閉鎖後に、膵臓に適用する。すでに説明したように、膵液の漏出は、表面に適用した膵液漏出検出水性組成物の色の変化によって、組織表面に検出され、局在化されるであろう。本方法は、例えば非吸収性単縫合糸/x縫合糸、またはステープルの適用のような標的された結紮処理によって検出された漏出を停止するさらなるステップを含むことができる。膵液漏出検出水性組成物は腹腔内注射により組織表面に適用されるので、それは、開腹下で、ならびに腹腔鏡下またはロボット支援手術においての両方で使用できる。
【0063】
別の実施形態によれば、体液漏出検出水性組成物は、胆汁漏出検出水性組成物である。このような胆汁漏出検出水性組成物のpHは、4~6の範囲である。さらに、pH指示薬のpKaは、6~8の範囲、例えば6.5~7.5の範囲にある。胆汁漏出検出水性組成物中のpH指示薬は、ブロモチモールブルー、フェノールレッド、およびニュートラルレッドからなる群から選択することができ、好ましくはpH指示薬はブロモチモールブルーである。
【0064】
このような胆汁漏出検出水性組成物は、例えば、良性または悪性疾患、肝外傷または肝移植での肝部分切除後に、腹部手術と併せて胆汁漏出を検出するのに使用され得る。従って、一実施態様は、経切片肝表面、外傷性肝損傷または胆管消化吻合と併せて胆汁漏出を検出する際に使用するための胆汁漏出検出水性組成物に関する。このような使用において、胆汁漏出検出水性組成物は、肝被膜、実質切断面または胆管消化吻合を意味する組織表面に適用される。その特性に基づき、組成物は、胆汁の漏出がない限り、その初期の色(ブロモチモールブルーを使用する場合は黄色)を維持する。胆汁の漏出は、組成物中のpHを局所的に上昇させ、局所的な色の変化(ブロモチモールブルーを使用する場合は青色から緑色を帯びた青色)をもたらし、胆汁漏出の正確な点を示すだけでなく局在化もする。したがって、外科医は、肝残存物または胆管消化吻合部の閉鎖不全を認識し、腹腔を閉鎖するべきであるかまたは周術期管理を変更しなければならない前に、追加的な処置が必要であり、例えば、ドレナージの配置、集中治療室での薬物療法または処置である。さらに、外科医にはまた、胆汁漏出の量および正確な局在に関するガイダンスが提供される。後者は、漏出している肝組織表面の標的された閉鎖あるいは結紮、ステープル処置または生物学的もしくは人工的閉鎖パッチの適用のような胆管消化吻合のための重要なガイダンスである。胆汁液漏出検出水性組成物は、腹腔内注射により組織表面に適用されるので、それは、開腹下で、ならびに腹腔鏡下またはロボット支援手術においての両方で使用できる。さらに詳述することなく、当業者は、先の説明を用いて、本発明をその最大の程度に利用することができると考えられる。したがって、前述の好適な具体的な実施形態は、単なる例示的なものであって、いかなる方法においても開示を限定するものではないと解釈されるべきである。
【0065】
本発明は、具体的な実施形態を参照して上記に記載されているが、本明細書に示される特定の形態に限定されることを意図していない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、上記の具体的なもの以外の実施形態も、例えば上記のものとは異なる、これらの添付の特許請求の範囲内で等しく可能である。
【0066】
特許請求の範囲において、「含む(comprises)/含む(comprising)」という用語は、他の要素またはステップの存在を除外しない。さらに、個々の特徴は、種々の特許請求の範囲または種々の実施態様に含まれ得るが、これらは、場合によっては有利に組み合わされ得、種々の特許請求の範囲または実施態様に含まれることは、特徴の組み合わせが実行可能でなく、かつ/または有利でないことを意味するものではない。
【0067】
さらに、単数の参照は、複数を除外しない。用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、「第1の」、「第2の」等は、複数を排除するものではない。
【0068】
本発明が可能であるこれらおよび他の局面、特徴および利点は、本発明の例示的な実施形態の以下の記載から明らかであり、解明され、添付した図面を参照する:
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1a図1は、膵臓手術(膵尾部切除術)の際に撮影された一連の写真である。図1aは、膵尾部切除術後に残存する膵臓の閉鎖部を示す。裸眼では漏出は認められない。しかしながら、図1bに見られるように、漏出は、本体液漏出検出水性組成物により、依然として可視化された(矢印を参照)。図1cは、局所的漏出の標的された閉鎖後の膵臓を示す。最後に、図1dに見られるように、本体液漏出検出水性組成物の再適用は、局所的漏出の標的された閉鎖(図1b参照)が成功したことを確認した。
図1b図1は、膵臓手術(膵尾部切除術)の際に撮影された一連の写真である。図1aは、膵尾部切除術後に残存する膵臓の閉鎖部を示す。裸眼では漏出は認められない。しかしながら、図1bに見られるように、漏出は、本体液漏出検出水性組成物により、依然として可視化された(矢印を参照)。図1cは、局所的漏出の標的された閉鎖後の膵臓を示す。最後に、図1dに見られるように、本体液漏出検出水性組成物の再適用は、局所的漏出の標的された閉鎖(図1b参照)が成功したことを確認した。
図1c図1は、膵臓手術(膵尾部切除術)の際に撮影された一連の写真である。図1aは、膵尾部切除術後に残存する膵臓の閉鎖部を示す。裸眼では漏出は認められない。しかしながら、図1bに見られるように、漏出は、本体液漏出検出水性組成物により、依然として可視化された(矢印を参照)。図1cは、局所的漏出の標的された閉鎖後の膵臓を示す。最後に、図1dに見られるように、本体液漏出検出水性組成物の再適用は、局所的漏出の標的された閉鎖(図1b参照)が成功したことを確認した。
図1d図1は、膵臓手術(膵尾部切除術)の際に撮影された一連の写真である。図1aは、膵尾部切除術後に残存する膵臓の閉鎖部を示す。裸眼では漏出は認められない。しかしながら、図1bに見られるように、漏出は、本体液漏出検出水性組成物により、依然として可視化された(矢印を参照)。図1cは、局所的漏出の標的された閉鎖後の膵臓を示す。最後に、図1dに見られるように、本体液漏出検出水性組成物の再適用は、局所的漏出の標的された閉鎖(図1b参照)が成功したことを確認した。
図2図2は、膵臓手術(DO)の直後およびD7まで(膵液の漏出が検出された後に余分な縫合糸を使用した場合としない場合)のp-アミラーゼレベルを示す。
図3図3は、膵臓手術の直後および7日目まで(膵液の漏出が検出された後に余分な縫合糸を使用した場合としない場合)の様々な動物群におけるリパーゼレベルを示す。
【実施例
【0070】
実験
以下の例は単なる例であり、決して本発明の範囲を限定するために解釈されるべきではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0071】
材料
使用した架橋デンプンミクロスフェアの3つの異なる種類(サイズおよび架橋度)のうち、2種類は、以下に記載するようにMagle AB(Kristianstad,Sweden)で社内生産し、3番目(Arista(登録商標))は、Davol Inc.から得た。架橋デンプンミクロスフェアの製造、および分析グレードのハイドロゲルの後続の調製に使用されるすべての他の化学物質および試薬は、特に指定のない限り、VWR International ABを入手した。天然ジャガイモデンプンは、Lyckeby Starch(Kristianstad,Sweden)から得た。
【0072】
一般
要するに、最初の2つのタイプの架橋デンプンミクロスフェアは、以下によって提供された:
- 天然のデンプンを加水分解してより短いポリマー鎖を提供する;
- 変色を抑えるために末端アルデヒド基を還元する;
- 球状デンプン滴を含むエマルジョンを形成する;
- 小滴中のデンプンを架橋して架橋デンプンミクロスフェアおよび架橋デンプンミクロスフェアを提供する;
- 架橋デンプンミクロスフェアを洗浄する。
【0073】
得られた架橋デンプンミクロスフェアの特性は、当技術分野で認識されているように、以下を含む多くの因子に依存する:
- 加水分解度、すなわちポリマー鎖の長さ(pH、反応時間および温度の影響を受ける);
- (乳化剤の種類、ポリマー鎖の長さおよび撹拌速度によって影響される)ミクロスフェアのサイズ;ならびに
- (エピクロロヒドリン:デンプンの重量比によって影響される)架橋度。
【0074】
加水分解デンプン(HST)溶液の調製
第1の反応器に、精製水を室温で撹拌しながら投入する。第1の反応器に、次に濃塩酸を投入する。希釈した酸に、ここで、撹拌しながら、天然ジャガイモデンプンを分割して投入する。ジャケット温度を上げる。所望の加水分解度が達成されるまで、混合物を高温で撹拌する。反応時間が完了した後、ジャケット温度を室温まで下げる。酸性反応混合物は、水酸化ナトリウムの制御された添加によって反応停止される。内部温度は、塩基の投入中の反応の温度を超えてはならない。混合物に、水素化ホウ素ナトリウムを、撹拌しながら室温で制御した条件下で投入する。水素化ホウ素が完全に溶解したら、混合物を攪拌して、完全な反応を起こさせる。
【0075】
ミクロスフェアの調製
第2の反応器に、トルエンおよびRhodafac PA17(乳化剤)を、制御された条件下で投入し、Rhodafacが完全に溶解するまで、高温で撹拌する。第2の反応器に、ここで、加水分解され、還元された天然デンプンを含む第1の反応器の内容物を、高い攪拌速度で、安定な懸濁液が得られるまで投入する。攪拌速度およびそれによる懸濁液の組成は、どの範囲のミクロスフェアが生成されるかに応じて調整される。懸濁液に、エピクロロヒドリンを、制御された条件下で投入する。投入される架橋剤の量は、どの範囲のミクロスフェアが生成されるかに依存する。反応は、高温で一晩保たれる。エタノールを投入し、ジャケット温度を室温まで下げ、粗生成物が沈降する。透明な最上部の相を吸い上げる。
【0076】
ワークアップ
エタノールを、撹拌しながら粗生成物に投入する。均一になったら、混合物を沈殿させた。最上部の相を吸い上げる。この連続は、3回繰り返される。
【0077】
生成物混合物に、攪拌しながら、精製水を投入する。スラリーに、ここで、酢酸を撹拌しながら投入して、pH4~5を得る。エタノールを投入する。均一になった後、混合物を沈降させ、次いで最上部の相を吸い上げる。
【0078】
反応器に、あらかじめ作製したエタノールの水溶液(20重量%)を投入し、混合物を攪拌する。均一になった後、混合物を沈降させ、次いで最上部の相を吸い上げる。この連続は、4回繰り返される。
【0079】
沈降なしに上記の手順を繰り返すが、混合物を底弁から採取し、ろ過する。
【0080】
生成物を無水エタノールですすぎ、ろ過する。すすぎ手順を、5回繰り返す。
【0081】
生成物をステンレス鋼トレイ内で60℃で真空下で乾燥し、400ミクロンのふるい(第1のタイプ)でふるい分けして、32~900μmのサイズ範囲のミクロスフェア(湿潤状態;精製水中に分散)を提供するか、または600ミクロンのふるい(第2のタイプ)でふるい分けして、50~1200μmのサイズ範囲のミクロスフェア(湿潤状態;精製水中に分散)を提供する。
【0082】
ミクロスフェアのタイプ
この方法を用いて、2種類の架橋デンプンミクロスフェアを作製した。第1のタイプは、体積ベースの平均直径(D[4,3])が約450μm(湿潤状態;精製水中に分散)であり、架橋度が約14%である。体積ベースの平均直径(D[4,3])が約620μm(湿潤状態;精製水中に分散)であり、架橋度が約15%の第2のタイプを、作製した。
【0083】
すでに述べたように、第3のタイプのミクロスフェアは、Davol Inc.によって提供されたArista(登録商標)であった。これらのミクロスフェアは、体積ベースの平均直径(D[4,3])が約138μm(湿潤状態;精製水中に分散)であり、架橋度は約11%である。
【0084】
膵液漏出検出組成物の提供
膵液漏出検出組成物を提供するために、天然ジャガイモデンプン(実施例21および22参照)、第1、第2または第3のタイプのミクロスフェア(15g)を、ブロモチモールブルー(0.2%w/w)を含むエタノール溶液25mlに投入した。得られた混合物を室温で30分間攪拌し、その上で混合物を60℃で一晩真空下で乾燥した。
【0085】
乾燥生成物、ステム混合物(15g)を、精製水100ml、または生理食塩水およびリン酸緩衝液を含むあらかじめ製造した溶液に溶解し、任意に塩酸を加えて酸性化した。混合物を、均一な溶液が得られるまで室温で撹拌し、次いで、均一なステムゲルを、シリンジ上に充填した。
【0086】
このプロトコルを用いて、25の膵液漏出検出組成物を得た。このプロトコルに対する修正、および各実施例を提供するためのミクロスフェアのタイプを、以下に示す。
【0087】
実施例1 第3のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、精製水100mlに投入し、塩酸(0.1M)で酸性化する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填した。
【0088】
実施例2:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、いかなる酸性化をも伴わずに精製水100mlに投入する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填した。
【0089】
実施例3:第3のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、精製水100mlに投入し、5mlの塩酸(0.1M)によって酸性化する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填した。
【0090】
実施例4:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水83mlおよびpH6.4のリン酸緩衝液1mlを含む予め製造された溶液に投入する。得られたゲルのpHは、0.1M塩酸を用いて4.5に調整した。均一なスラリーが得られるまで混合物を撹拌した。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填した。
【0091】
実施例5:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物(20.5g)を、生理食塩水100mlを含む予め製造された溶液に投入した。溶液を、0.1Mの塩酸を用いて酸性化する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0092】
実施例6:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物(29.5g)を、生理食塩水150mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を4.5に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0093】
実施例7:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水85mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液1.13mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を4.6に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0094】
実施例8:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水85mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液1.13mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を5.0に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0095】
実施例9:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水85mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液1.13mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を4.3に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0096】
実施例10:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水85mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.565mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を4.5に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0097】
実施例11:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水85mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.565mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を4.8に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0098】
実施例12:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水85mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液2.26mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を4.1に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0099】
実施例13:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水85mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液2.26mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いて溶液を4.7に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0100】
実施例14:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水83mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.1mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いてゲルのpHを5.8に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルをシリンジ上に充填し、オートクレーブ中で滅菌する。
【0101】
実施例15:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水83mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.457mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.7に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルをシリンジ上に充填し、オートクレーブ中で滅菌する。
【0102】
実施例16:第2のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水83mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.125mlを含む予め製造された溶液に投入する。0.1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.5に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルをシリンジ上に充填し、オートクレーブ中で蒸気滅菌する。
【0103】
実施例17:第2のタイプのミクロスフェアを含む48gのステム混合物を、生理食塩水230mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.345mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.6に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0104】
実施例18:第2のタイプのミクロスフェアを含む48gのステム混合物を、生理食塩水230mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.345mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.6に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルをシリンジ上に充填し、オートクレーブで蒸気滅菌する。
【0105】
実施例19:ミクロスフェアのサイズ範囲(湿潤状態;精製水中に分散)が150~2000μmであることを除いて、第2のタイプのミクロスフェアを含む31gのステム混合物を、生理食塩水140mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.21mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.6に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0106】
実施例20:ミクロスフェアのサイズ範囲(湿潤状態;精製水中に分散)が150~1600μmであることを除いて、第2のタイプのミクロスフェアを含む28gのステム混合物を、生理食塩水130mlおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.195mlを含む予め製造された溶液に投入する。1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.5に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0107】
実施例21:生理食塩水120ml、グリセロール4.4gおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.075mlを含む予め製造した溶液に、天然ジャガイモデンプンを含む10gのステム混合物を投入する。この混合物を70℃まで加熱し、30分間攪拌した。0.1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.5に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0108】
実施例22:生理食塩水120ml、グリセロール4.4gおよびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.05mlを含む予め製造した溶液に、天然ジャガイモデンプンを含む10gのステム混合物を投入する。この混合物を70℃まで加熱し、30分間攪拌した。0.1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.5に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0109】
実施例23:第1のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水87ml、およびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.124mlを含む予め製造された溶液に投入する。この混合物を70℃まで加熱し、30分間攪拌した。0.1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.4に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0110】
実施例24:第1のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水87ml、およびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.124mlを含む予め製造された溶液に投入する。この混合物を70℃まで加熱し、30分間攪拌した。0.1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.4に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0111】
実施例25:第1のタイプのミクロスフェアを含むステム混合物を、生理食塩水83ml、およびpH5.8の1Mのリン酸緩衝液0.124mlを含む予め製造された溶液に投入する。この混合物を70℃まで加熱し、30分間攪拌した。0.1Mの塩酸を用いてゲルのpHを4.6に調整する。混合物を、均一なスラリーが得られるまで撹拌する。次に、均一なゲルを、シリンジ上に充填する。
【0112】
in vitro評価
得られた体液漏出検出水性組成物(すなわち、実施例1~25)を、唾液で湿らせた濾紙、新鮮なブタ膵組織、および新鮮なヒト膵液を用いてin vitroで評価した。地域の屠殺場(Fleischversorgungszentrum Mannheim)によってブタ膵組織を提供し、死後12時間以内に実験的使用まで2℃の温度で保存した。ヘルシンキ宣言(ハイデルベルグ大学倫理委員会の承認;票301/2001、159/2002)に従い、インフォームドコンセント後の患者の新鮮な手術標本からヒト膵液を吸引した。in vitro法は、複雑性に限界がある高度に管理された試験を提供した。このように、試料は、a)使用の実用性、b)反応までの時間、c)明確性ならびにd)指示の正確さ、および指示薬の迅速な最適化を可能にする開発者への即時フィードバックに関して、迅速に評価され得た。
【0113】
in vitro試験では、いくつかの結論を導くことができた:
- 約12.5重量%の架橋度(実施例3参照)は、組成物が一見したところかなり急速に分解されたので、最適な特性を提供するには少し低すぎることが見出された。架橋度を約16重量%まで増加させること(実施例2、11、14、16、および17参照)は、膵液によるアミラーゼ分解に対して適切な抵抗性を有する組成物を提供した(すなわち、少なくとも5分間安定である);
【0114】
- 組成物中のミクロスフェアの量は、組成物の粘度に影響する。10重量%未満のミクロスフェア(実施例21および22参照)は、最適な特性を提供するには過度な液体組成物を提供し、一方20重量%以上のミクロスフェア(実施例5参照)は、最適な特性を提供するには濃厚すぎる組成物を提供すると結論づけられた。13~18重量%のミクロスフェア(実施例1、2、6~20、23、および24参照)の濃度は、取り扱いが容易であり、迅速、すなわち5分以内、かつ正確な漏出検出を提供する組成物を提供した;
【0115】
- pH指示薬の濃度をできるだけ低く保つことが好ましい。しかしながら、明瞭に視認可能な漏出検出を提供するには十分高くするべきである。0.04重量%未満のBTBの濃度(実施例1および2参照)では、まだ視認可能であるもののやや弱い色が提供された;ならびに
【0116】
- 緩衝化されていない組成物では、より正確でない漏出検出が提供された。さらに、高い緩衝強度を有する組成物(実施例5~9、12および13参照)は、いくぶん遅い検出を提供し、一方、1~10mMの緩衝強度(実施例10、11および14~24参照)は、迅速かつ正確な漏出検出を提供した。
【0117】
in vivo検証
in vitro評価に基づいて、選択された体液漏出検出水性組成物(すなわち、実施例1~25)を、同様に動物モデルにおいて評価した。動物試験プロジェクトは、膵臓手術を受ける家畜ブタ(sus scrofa domestica)に関する指示薬開発および試験のために、地域行政機関(Deutsches TierSchG(ドイツ動物法)§8 Abs.1、参照番号35-9835.81/G-184/16によるRegierungspraesidiumKarlsruhe)によって承認された。手術は、ヒトで使用されるように全身麻酔下で行った。
【0118】
概念実験の第1の証明(n=10動物)において、予備的体液漏出検出水性組成物(実施例1~5)が、それらの技術的応用可能性および最終的な膵臓手術(膵尾部切除術、DP、後述参照)における性能について試験された。in vitro実験と並行して、特徴a)使用の実用性、b)反応までの時間、c)明確性、d)適応の正確性を評価し、続いて膵断端の術後組織学的解析を用いて、指示薬により生じた初期組織損傷の評価を行った。
【0119】
第2の実験(n=8動物)は、第1の膵尾部切除術(下記参照)、続いて体液漏出検出水性組成物(実施例5~25)の局所細胞毒性および全身性副作用の48時間の観察、ならびに腹腔内病理の評価および組織学的分析のための組織試料の回収を伴う最終的な再手術からなっていた。3群試験デザインの動物に続いて、漏出が検出されない指示薬陰性群に分けられ、指示薬が漏出を検出した場合、ランダムに、余分な閉鎖のない指示薬陽性群と、標的された過剰閉鎖を有する指示薬陽性群に分けられた。このように、感度および特異度、ならびに術後膵液瘻の精密閉鎖の影響を、検討することができた。観察中、生物有機体に対する体液漏出検出水性組成物使用の短期的影響が、血液および腹水試料の実験室分析により補完された臨床評価により観察された。臨床パラメータには、感染の徴候または術後膵液瘻が含まれ、血液分析には、血液中の炎症、貧血、または膵炎のマーカーならびに腹水中の膵液漏出が含まれた。
【0120】
実験番号3(n=16動物)は、第2の実験に類似して実施されたが、観察期間を8日間に延長して、体液漏出検出水性組成物使用が生物有機体に及ぼす中長期的な影響の評価を可能にした。臨床的知見に基づいて、この期間内にほとんど全ての術後膵液瘻が臨床的に明らかになることが知られている。反対に、術後1週間で合併症が発生しない場合は、病院からの退院の平均時点と見なすことができ、それによって臨床管理の主要な時間枠が設定される。
【0121】
膵尾部切除術(DP)
平均開腹にて腹腔を開放し、大網のうを開放して膵臓を露出した。露出したら、膵臓の最後の2~3cm(ブタ脾葉)を周囲の腹膜組織から外科的に放出し、膵臓の遠位2cmをメスで切除した。出血は、シングル/x縫合非吸収性縫合糸で止血した(1匹あたり最大3本)。膵臓残存物の閉鎖は、横断非吸収性単縫合糸(1x/cm面)で行った。その後、閉鎖した膵断端をすすぎ、生理食塩水で洗浄した。
【0122】
すすぎ後、上記に準じた体液漏出検出水性組成物を、膵断端全面に適用した。組成物は適用すると黄色の外見を呈するが、ある局在での閉鎖が不十分なために膵液が漏出している場合には、局所的に緑青色に変色する。この指示薬の反応は、すぐに、すなわち数秒以内に起こる。組成物の粘度を考慮すると、色の変化は漏出に近接して出現するのみである。
【0123】
膵液の漏出の場合、非吸収性シングル/x縫合糸を用いた断端の微細閉鎖が、可視化された漏出に対して適用できる。その後、組成物の適用を無制限に繰り返すことにより、閉鎖を制御することができる。
【0124】
最終的に、ガーゼと生理食塩水洗浄で組成物ゲルを除去した。術後排膿および体液の分析のため膵断端に隣接して腹部シリコンドレナージを留置し、腹壁を閉鎖した。
【0125】
毒性と細胞毒性
PAN毒性は、その分解産物のin vivo薬物動態を48時間にわたって分析することにより評価した。さらに、指示薬によって数分以内に引き起こされた急性局所組織損傷、ならびに8日間にわたる装置の肉眼的腹腔内副作用および局所組織学を評価した。最後に、膵臓標的細胞に対するその分解産物の細胞毒性を解析した。
【0126】
PAN指示薬ヒドロゲル薬物動態の毒性学的評価のために、体液成分中の装置の分解産物の濃度を経時的に測定し、結果として膵臓手術における腹部適用を行う研究を行った。門脈からの血液および術中の部位または術後のドレナージからの腹水を採取した。指示薬の適用に関連した採取の時点は、0分(指示薬適用前の基準値)、1、5、30、60、120分、術後第1日、第2日であった。水および分解性成分デンプンミクロスフェアを有するその組成のため、さらなる構成成分であるブロモチモールブルー(BTB)のみを評価する必要があった。膵臓外科領域での適用後、BTBが生体内にとどまり、門脈循環に再吸収され、肝代謝を通過して中心静脈循環に到達するか否か、またその量を評価すべきである。このように、体のサンプルは、前述のように、経時的に種々の体区画で採取された。非常に少量のBTB量が測定されると予想されるため、超高感度検出法High Pressure Liquid Chromatography-Mass Spectrometry (HPLC-MS)を用いた。
【0127】
全てのブタにおいて、指示薬適用後のドレナージ液中のBTB濃度の即時的かつ強力な上昇に続いて、術後第1日(20ng/ml未満)に少量の検出可能なBTB量で徐々に低下し、術後第2日まで、ブタのドレナージ液のいずれにも検出可能な量のBTBが残存しなかった。門脈血では、少量のBTBが適用後5分および30分に1頭のブタでのみ認められた。残りのブタおよび時点では、BTBは検出されなかった(表1)。
【0128】
【表1】
【0129】
指示薬によって引き起こされた膵臓の短期の局所組織病理学的変化をチェックするために、6頭のブタから合計24の新鮮な膵臓組織標本を、組織病理学的評価のために採取した。等しいサイズ(2cm)の4つの横断スライスを、各ブタから採取し、PANまたは生理食塩水(対照)で5または10分間処理した。5または10分後に指示薬を洗い流し、膵組織を直ちに固定し、組織学的評価のためにパラフィンブロック中にセットした。
【0130】
組織学的検査では、有意な局所損傷、膵炎または細胞毒性は認められなかった。急性膵損傷の病理組織学的スコアには、処理群と対照群との間に差は認められなかった。
【0131】
PANによる細胞毒性は、細胞培養アッセイでさらに評価した。生存細胞の代謝活性は、BTBの量の増加に伴うインキュベーション後、レサズリンからの代謝されたレゾフリンの蛍光光光度測定により評価した。PAN指示薬ヒドロゲルは、ほぼ0.5mg/mlの濃度でBTBを含む。そこで、濃度0.5mg/ml、1mg/ml、1.5mg/ml、5.5mg/mlのBTB溶液を、それぞれ試験した。細胞毒性は、細胞生存率が70%未満と定義される。BTB0.5~1.5mg/mlでは細胞毒性は認められない。BTB5.5mg/mlでは軽度の毒性を示した。
【0132】
比較:指示薬(+)/余分な縫合、指示薬(+)/余分な縫合なし、および指示薬(-)
膵液瘻変化率を低下させるための膵臓残存物の指示薬に基づく標的閉鎖の影響を、ドレナージ液中のp-アミラーゼおよびp-リパーゼレベルの調査により評価した。
【0133】
指示薬は、生体ブタにおいて膵尾部切除術後に試験した。標準閉鎖膵臓残存物からの漏出を「指示薬陰性/陽性」として可視化する指示薬反応に従ってブタを研究群に分ける。「陽性」指示薬反応の場合、動物を、指示薬に基づく標的閉鎖(「余分な縫合」)を受けた動物または可視化された漏出の余分な閉鎖を受けなかった動物に無作為にサブグループ化した。無作為化は、コインの投げによって行われた。
第1群:指示薬陽性、余分な縫合なし;
第2群:指示薬陽性、余分な縫合;および
第3群:指示薬陰性
【0134】
標的閉鎖の効果を評価するために、α-アミラーゼおよびリパーゼを、0~8日目に血清およびドレナージ中で測定した(図2および3に提示した結果参照)。術後の腹腔/腹水中の膵酵素の濃度の上昇は、膵分泌の生化学的漏出の発生と強度を表し、術後膵液瘻につながる可能性がある。0日目の値はベースラインの状態を表し、一方以下の値は術後経過を示す。国際的な定義によれば、術後3日目から、生化学的漏出の存在を除外するために、酵素レベルが施設の正常な血清値上限の3倍未満に降下していなければならない。臨床症状が既存の生化学的漏出に加わった場合、定義に従って術後膵液瘻を診断できる。
【0135】
手術後、腹腔ドレナージにおける膵酵素の濃度は、処理群間で有意差があった。処理群3(指示薬陰性)と比較して、処理群1(指示薬陽性、余分な処理なし)のアミラーゼレベルの大幅な上昇が認められた(図2)。その後5~7日目にかけて、徐々に減少するものの、上昇傾向が持続した。興味深いことに、第1群の濃度レベルの変化量(指示薬陽性、余分な処理なし)は、1日目に標準偏差10 000U/l超、2日目、3日目、5日目、7日目に5 000U/l超で高かった。第2群(指示薬陽性、余分な縫合)および特に第3群(指示薬陰性)の変化量は、はるかに小さく、標準偏差は、常にそれぞれ3500U/l未満および1500U/l未満であった。
【0136】
処理群2における標的閉鎖(指示薬陽性、余分な縫合)は、処理群1(指示薬陽性、余分な処理なし)と比較して、ドレナージ液酵素レベルの明確な低下につながった。ドレナージ酵素値の低下は非常に特異的であったため、第2群(指示薬陽性、余分な処理)と第3群(指示薬陰性)を比較すると、有意差はもはや見られなかった(術後全日でp>0.05)。
【0137】
ドレナージリパーゼ値は、0~7日目から分析した。リパーゼは、アミラーゼに加えて、膵臓漏出の早期指示薬であることが示されている。予想通り、ドレナージリパーゼレベルは、膵液漏出と相関するドレナージアミラーゼレベルと平行して発現した(図2参照)。アミラーゼレベルの結果によれば、処理群1(陽性、余分な処理なし)では、第3群(陰性)と比較して、ドレナージ中のリパーゼのレベルがはるかに高く、一方第2群(陽性、余分な縫合)では低下が見られた。
【0138】
結論
新規なin vitro体液漏出検出水性組成物を開発した。体液漏出検出水性組成物を評価し、高速の反応体液漏出検出水性組成物として、最終的に膵臓残存または吻合組織に容易に適用可能なようにin vivoで適応させた。概念実証は、膵尾部切除術のブタモデルにおいて、組成物が膵尾部切除術のブタモデルの切除断端で膵臓漏出を正確かつ迅速に可視化することを示した。
【0139】
膵液漏出に対する組成物の感度および特異度は、共に100%であった。視覚分解能は、1滴より小さかった(500μm未満の直径)。このように、無制限の指示薬-再適用による緊密性制御に続く洗練された目標の漏出閉鎖が可能になった。
【0140】
ブタを用いた中長期観察研究では、この組成物は生物体に害を及ぼさなかった。重要なことに、全身性の副作用は生じなかった。膵臓では、組成物は、組織学により確認されたように、重大な膵炎、出血または細胞毒性には至らなかった。陽性指示薬反応で視覚化された検出された膵液漏出は、特異的に全例で術後膵液瘻に至り、術後1日以内の腹腔液中の膵酵素の濃度の上昇で確認されただけでなく、胃排出遅延または腸間膜内膿瘍などの特異的な病態を伴っていた。逆に、腹水中の膵酵素のレベルの大幅な減少、続いて動物の迅速な回復によって見られるように、術後膵臓瘻速度を有意に低下させるための標的された漏出閉鎖。
【0141】
この体液漏出検出水性組成物は、関連する副作用または毒性なしに、実験的膵臓手術における膵臓漏出を容易かつ迅速に可視化し、手術内で膵臓漏出の定量化と正確な局在化を直接可能にする。可視化により、適応した周術期管理が可能となるとともに、漏出の標的された閉鎖が術後膵液瘻の発生を有意に減少させることが可能となる。
【0142】
さらに、体液漏出検出水性組成物は、安全であること、すなわち、いかなる顕著な細胞毒性作用も関連しないことが確認されている。さらに、ゲルは、膵臓手術後の術後リスクの低下に寄与し得ることが検証されている。

図1a
図1b
図1c
図1d
図2
図3