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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】分散樹脂組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20230201BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230201BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20230201BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20230201BHJP
   C08F 8/22 20060101ALI20230201BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230201BHJP
   C09D 123/26 20060101ALI20230201BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230201BHJP
   C09D 123/28 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L1/02
C08F8/00
C08F10/00
C08F8/22
C09D5/00 D
C09D123/26
C09D7/65
C09D123/28
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021130901
(22)【出願日】2021-08-10
(62)【分割の表示】P 2017209601の分割
【原出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2021181584
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2016211230
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 俊司
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩司
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214563(JP,A)
【文献】特開平07-286073(JP,A)
【文献】特開2016-186018(JP,A)
【文献】特開2011-207939(JP,A)
【文献】特開2011-195691(JP,A)
【文献】特開2015-196790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/26
C08L 1/02
C08F 8/00
C08F 10/00
C08F 8/22
C09D 5/00
C09D 123/26
C09D 7/65
C09D 123/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含有する分散樹脂組成物。
成分(A):不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選ばれる一種以上の極性付与剤を用いてポリオレフィン樹脂を変性した変性ポリオレフィン樹脂。
成分(B):カルボキシル化セルロースナノファイバー。
成分(C):水又は親水性の分散媒。
【請求項2】
前記成分(B)に由来する平均粒子径150μm以上の凝集物の個数割合が、1%未満である請求項1に記載の分散樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)が、前記極性付与剤と、塩素と、を用いて前記ポリオレフィン樹脂を変性した塩素化変性ポリオレフィン樹脂である請求項1又は2に記載の分散樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(A)100重量部に対し、前記成分(B)の含有量が0.01~20重量部である請求項1~3のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(C)が、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びアセトンから選ばれる1種又は2種以上の混合溶媒である請求項1~4のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂が、プロピレンのホモ重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(A)中の前記極性付与剤による変性重量が、0.1~30重量%である請求項1~6のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物。
【請求項8】
前記成分(A)の重量平均分子量が、10,000~500,000である請求項1~7のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物を含む塗料。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物を含む、プライマー塗料。
【請求項11】
請求項10に記載のプライマー塗料を塗装し、ウェットオンプライマー層を形成する工程と、
前記ウェットオンプライマー層上に、上塗り塗料を塗装し、乾燥させる工程と、を有する積層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散樹脂組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン、ポリエチレン等の難接着性ポリオレフィン基材に対して、優れた接着性を持つ塩素化ポリオレフィン樹脂や不飽和カルボン酸及び/またはその無水物等の酸を用いて変性したプロピレン系ランダム共重合体が、付着性付与剤として用いられてきた。自動車産業においても、基材のポリオレフィンに難接着性の塗料を接着させるための付着性付与剤(自動車産業では、付着性付与剤を主成分として構成される、基材上に直接塗布される塗料のことを特にプライマー塗料という)として、上記塩素化ポリオレフィン樹脂や不飽和カルボン酸及び/またはその無水物等の酸を用いて変性したプロピレン系ランダム共重合体が用いられてきた。
【0003】
この様なポリオレフィンからなるプラスチック素材の塗装においては、プライマー塗装-水性ベース塗装-クリヤー塗装の複層塗膜形成方法が一般的に行われている。このような塗装においては、プライマー塗装、水性ベース塗装を行った後に、単層での加熱硬化を行うことなくウェットオンウェットで次の層の形成を行い、複層塗膜形成を行った後にすべてを一度に加熱させる硬化方法が知られている(特許文献1,2参照)。
【0004】
このような複層塗膜の形成においては、塗膜の混層が生じると、得られた塗膜の機能性の低下、外観の不良を生じてしまう。このため、ウェットオンウェットの塗装を行う場合でも、混層を防ぐためプライマー塗装、水性ベース塗装を行った後には、プレヒートを行うことによって、ある程度の溶媒除去を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-240266号公報
【文献】特開2009-173861号公報
【文献】特開2016―87569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなプレヒートを行う場合、塗装ラインにおいて加熱ラインとその後の冷却ラインが必要となり、コストアップの原因となる。そのため、プレヒートを行わずに、ウェット状態での混層を生じることなく、プラスチック素材への塗装を行う方法が望まれている。このような方法として、例えば、特定の増粘剤を配合したり、塗料の揮発成分の配合量を調整したりすること等により、ベース塗料を塗布する直前のプライマー塗膜の粘度が高くなる様にプライマー塗料を設計することで、プレヒートレス条件下での混層を抑止する方法が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3の方法では、プライマー塗料が経時で増粘しやすくなる等、塗料安定性の面で問題が生じやすい。
【0007】
そこで本発明は、プライマーとして用いた際に、プレヒートを行わなくとも混層の発生を抑制できるチキソ性を有する、変性ポリオレフィン樹脂を含む分散樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、変性ポリオレフィン樹脂と分散媒を含有する分散樹脂組成物に、セルロースナノファイバーを含有させることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔11〕を提供する。
〔1〕下記成分(A)~(C)を含有する分散樹脂組成物。
成分(A):不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選ばれる一種以上の極性付与剤を用いてポリオレフィン樹脂を変性した変性ポリオレフィン樹脂。
成分(B):セルロースナノファイバー。
成分(C):分散媒。
〔2〕前記成分(B)に由来する平均粒子径150μm以上の凝集物の個数割合が、1%未満である上記〔1〕に記載の分散樹脂組成物。
〔3〕前記成分(A)が、前記極性付与剤と、塩素と、を用いて前記ポリオレフィン樹脂を変性した塩素化変性ポリオレフィン樹脂である上記〔1〕又は〔2〕に記載の分散樹脂組成物。
〔4〕前記成分(A)100重量部に対し、前記成分(B)の含有量が0.01~20重量部である上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
〔5〕前記成分(C)が、水又は親水性物質を含む上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
〔6〕前記ポリオレフィン樹脂が、プロピレンのホモ重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオレフィン樹脂を含む上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
〔7〕前記成分(A)中の前記極性付与剤による変性重量が、0.1~30重量%である上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
〔8〕前記成分(A)の重量平均分子量が、10,000~500,000である上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
〔9〕上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物を含む塗料。
〔10〕上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物を含む、プライマー塗料。
〔11〕上記〔10〕に記載のプライマー塗料を塗装し、ウェットオンプライマー層を形成する工程と、前記ウェットオンプライマー層上に、上塗り塗料を塗装し、乾燥させる工程と、を有する積層塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プライマーとして用いた際に、プレヒートを行わなくとも混層の発生を抑制できるチキソ性を有する、変性ポリオレフィン樹脂を含む分散樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
なお、本明細書中、変性ポリオレフィン樹脂中の極性付与剤による変性重量を「グラフト重量」ともいう。
【0011】
[1.分散樹脂組成物]
本発明の分散樹脂組成物は、成分(A):不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる選ばれる一種以上の極性付与剤を用いてポリオレフィン樹脂を変性した変性ポリオレフィン樹脂、成分(B):セルロースナノファイバー、並びに成分(C):分散媒、を含有する。
【0012】
[1-1.成分(A):変性ポリオレフィン樹脂]
本発明の分散樹脂組成物は、第1の成分として成分(A):変性ポリオレフィン樹脂を含有する。
【0013】
<ポリオレフィン樹脂>
成分(A)に用いるポリオレフィン樹脂としては、例えば、重合触媒としてチーグラー・ナッタ触媒、或いはメタロセン触媒を用いてエチレン又はα-オレフィンを共重合して得られるものが挙げられる。具体的には、プロピレンのホモ重合体(ポリプロピレン)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体等のプロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体等のエチレン-プロピレン-ブテン共重合体(以下、これらの共重合体を併せて「プロピレン系共重合体」ということがある)などから選ばれる樹脂を例示することができる。これらの樹脂は、単独で用いても良いし、複数の樹脂を混合して用いても良い。
【0014】
成分(A)に用いるポリオレフィン樹脂としては、示差走査型熱量計(DSC)による融点(Tm)が60~165℃のポリオレフィン樹脂が好ましい。融点が60℃以上であると、分散樹脂組成物の耐溶剤性などが低下することを防止し得る。融点が165℃以下であると、基材への付着性が低下することを防止し得る。
【0015】
成分(A)に用いるポリオレフィン樹脂として、上記列挙したものを用いることにより、成分(C):分散媒への分散性に優れた分散樹脂組成物を得ることができる。ポリオレフィン基材への焼き付け性の向上を図りたい場合には、焼付け温度に応じたポリオレフィン樹脂を選択することができる。また、自動車塗装用のプライマー、ヒートシール用接着剤、インク用バインダーなどの用途に応じたポリオレフィン樹脂を選択することもできる。
【0016】
例えば、自動車塗装用のプライマー用途の高温焼き付け(一般的な焼付け温度:100~120℃)用分散樹脂組成物を得たい場合には、チーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒を用いて製造したポリオレフィン樹脂が好ましい。また、低温での焼き付け処理(一般的な焼付け温度:60~100℃)用分散樹脂組成物を得たい場合には、メタロセン触媒を用いて製造したポリオレフィン樹脂が好ましい。一般的には、融点が低いポリオレフィン樹脂を用いた方が、低温焼き付け性に優れる。特に、メタロセン触媒を用いて製造したプロピレン系ランダム共重合体は、低温焼き付け性に優れる。
【0017】
前述のメタロセン触媒としては、公知のものを使用できる。具体的には以下に述べる成分(1)及び(2)、さらに必要に応じて成分(3)を組み合わせて得られるメタロセン触媒が好ましい。
・成分(1);共役五員環配位子を少なくとも一個有する周期律表4~6族の遷移金属化合物であるメタロセン錯体。
・成分(2);イオン交換性層状ケイ酸塩。
・成分(3);有機アルミニウム化合物。
【0018】
DSCによるTmの測定は、例えば、以下の条件で行うことができる。DSC測定装置(日立ハイテクサイエンス製)を用い、約10mgの試料を200℃で5分間融解後、-60℃まで10℃/minの速度で降温して結晶化する。その後、10℃/minで200℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度をTmとして評価する。尚、後述の実施例におけるTmは当該条件で測定された値である。
【0019】
成分(A)に用いるポリオレフィン樹脂の成分組成は、特に限定されるものではないが、プロピレン成分は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましい。プロピレン成分が50モル%以上であると、プロピレン基材に対する付着性が低下することを防止し得る。
【0020】
成分(A)に用いるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10,000~500,000であり、より好ましくは20,000~300,000であり、さらに好ましくは65,000~200,000である。尚、後述の実施例も含めて、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、標準物質:ポリスチレン)によって測定された値である。以下に説明する成分(A):変性ポリオレフィン樹脂も、重量平均分子量は上記の範囲内であることが好ましい。
なお、GPCの測定としては、例えば、下記の条件が挙げられる。
測定機器:HLC-8320GPC(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:TSKgel(東ソー社製)
【0021】
<変性>
成分(A)は、変性ポリオレフィン樹脂である。変性ポリオレフィン樹脂は、上述のポリオレフィン樹脂を変性させて得られるものを意味する。変性は、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選ばれる一種以上の極性付与剤を用いて行う。これらの極性付与剤を用いて変性することにより、付着性、耐ガソホール性等の物性を向上させることができる。尚、極性付与剤は、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
変性ポリオレフィン樹脂は、原料樹脂であるポリオレフィン樹脂の種類により、上記極性付与剤に加えてさらに塩素を用いて変性してもよい。塩素を用いて変性することにより、樹脂の極性付与と結晶性低下が進み、極性溶剤への溶解性や他の極性樹脂との相溶性が向上し得る。
【0023】
以下の記述においては、ポリオレフィン樹脂に対し、上記極性付与剤を用いて変性したポリオレフィン樹脂を総じて変性ポリオレフィン樹脂とする。また、塩素を用いて変性した場合に得られる樹脂は、塩素化変性ポリオレフィン樹脂とする。
【0024】
不飽和カルボン酸とは、カルボキシル基を有する不飽和化合物を意味する。不飽和カルボン酸の誘導体とは、該化合物のモノ又はジエステル、モノ又はジアミド、イミド等を意味する。不飽和カルボン酸の無水物とは、該化合物の無水物を意味する。
不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、及び不飽和カルボン酸の無水物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸、ナジック酸及びこれらの無水物、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイミド、N-フェニルマレイミドが挙げられる。中でも、好ましくは、無水イタコン酸、無水マレイン酸である。不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、及び不飽和カルボン酸の無水物は、単独或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
変性ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の無水物及び不飽和カルボン酸の誘導体のグラフト重量は、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。0.1重量%以上であると、水分散体の分散樹脂組成物を形成することが容易となり、極性の被着体に対する水分散体の分散樹脂組成物の接着性を保つことができる。グラフト重量の上限は、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。20重量%以下であると、未反応物の発生を防止し、非極性の被着体に対する接着性を保つことができ、かつこれらの効果を経済的に実現できるので好ましい。変性ポリオレフィン樹脂中のグラフト重量は、0.1~20重量%が好ましく、1~10重量%がより好ましい。
【0026】
極性付与剤として、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び不飽和カルボン酸の無水物からなる群から選ばれる化合物のみを用いた場合、次のことが言える。上記の好ましい範囲よりもグラフト重量が少ないと、分散樹脂組成物の極性が低下し、有機溶剤への溶解性が低下する場合がある。また、逆にグラフト重量が多すぎると、未反応物が多く発生したり、非極性の被着体に対する接着性が低下したりする場合があるため好ましくない。
不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び不飽和カルボン酸の無水物のグラフト重量は、アルカリ滴定法或いはフーリエ変換赤外分光法により求めることができる。後述の実施例において示すグラフト重量の数値は、アルカリ滴定法にて測定された数値である。
【0027】
ラジカル重合性モノマーとは、(メタ)アクリル化合物、ビニル化合物を意味する。(メタ)アクリル化合物とは、分子中に(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基を意味する。)を少なくとも1個含む化合物である。
ラジカル重合性モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチレン-ビス(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、n-ブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテルが挙げられる。中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが好ましく、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、シクロヘキシルメタアクリレート、ラウリルメタアクリレートがより好ましい。ラジカル重合性モノマーは単独、或いは2種以上を混合して使用することができ、その混合割合を自由に設定することができる。
【0028】
(メタ)アクリル化合物としては、下記一般式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上の化合物を、20重量%以上含むことが好ましい。当該(メタ)アクリル化合物を用いると、変性ポリオレフィン樹脂の分子量分布を狭くすることができ、変性ポリオレフィン樹脂の溶剤溶解性や他樹脂との相溶性をより向上させることができる。
CH=CRCOOR ・・・(I)
(一般式(I)中、R=H又はCH、R=C2n+1、n=1~18の整数)
尚、上記一般式(I)中のRにおけるnは、8~18の整数であることが好ましい。
【0029】
変性ポリオレフィン樹脂中のラジカル重合性モノマーのグラフト重量は、0.1~30重量%が好ましく、0.5~20重量%がより好ましい。極性付与剤としてラジカル重合性モノマーのみを用いた場合、次のことが言える。0.1重量%よりもグラフト重量が少ないと、変性ポリオレフィン樹脂の溶解性や他樹脂との相溶性、接着力が低下する場合がある。また、グラフト重量が30重量%より多いと、反応性が高い為に超高分子量体を形成して溶剤溶解性が悪化したり、ポリオレフィン骨格にグラフトしないホモポリマーやコポリマーの生成量が増加したりする場合があるため好ましくない。
【0030】
なお、ラジカル重合性モノマーのグラフト重量は、フーリエ変換赤外分光法あるいは1H-NMRにより求めることができる。
【0031】
<塩素化>
変性ポリオレフィン樹脂として塩素化変性ポリオレフィン樹脂を用いる場合、塩素化変性ポリオレフィン樹脂中の塩素含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは2~35重量%であり、より好ましくは4~25重量%である。2重量%以上であると、各種非極性基材への接着性を確保しつつ、有機溶剤への溶解性が低下することを防止し得る。また、35重量%以下であると、各種非極性基材への接着性が低下することを防止し得る。
【0032】
尚、塩素含有量は、JIS-K7229に準じて測定することができる。すなわち、塩素化変性ポリオレフィン樹脂を酸素雰囲気下で燃焼させ、発生した気体塩素を水で吸収し、滴定により定量する「酸素フラスコ燃焼法」を用いて測定することができる。
【0033】
成分(A)として、塩素を用いて変性した塩素化変性ポリオレフィン樹脂を使用する場合、変性ポリオレフィン樹脂にしめる合計の変性重量は、0.1~45重量%が好ましく、1~30重量%がより好ましく、3~30重量%がさらに好ましい。変性重量が0.1重量%以上であると、塩素化変性ポリオレフィン樹脂の溶解性や他樹脂との相溶性が低下することを防止し得る。また、変性重量が45重量%以下であると、接着性が低下することを防止し得る。
【0034】
また、成分(A)として、塩素を用いない変性ポリオレフィン樹脂を使用する場合、変性ポリオレフィン樹脂にしめる合計の変性重量は、0.1~30重量%が好ましく、0.1~20重量%がより好ましく、0.1~10重量%がさらに好ましい。変性重量が0.1重量%以上であると、変性ポリオレフィン樹脂の溶解性や他樹脂との相溶性が低下することを防止し得る。また、変性重量が30重量%以下であると、接着性が低下することを防止し得る。
【0035】
なお、変性ポリオレフィン樹脂にしめる合計の変性重量とは、塩素を用いた場合は、塩素含有量と極性付与剤のグラフト重量の合計量を意味し、塩素を用いていない場合は、極性付与剤のグラフト重量の合計量を意味する。
【0036】
塩素を用いた場合に得られる塩素化変性ポリオレフィン樹脂は、紫外線や、高熱にさらされると、通常、脱塩酸を伴い劣化する。塩素化変性ポリオレフィン樹脂が脱塩酸により劣化を起こすと、樹脂の着色とともにポリプロピレン素材などの基材への付着性低下等の物性低下をはじめ、遊離する塩酸により作業環境の悪化を引き起こすおそれがある。そのため、安定剤を添加することが好ましい。
安定剤の添加量は、上記効果を得るために、樹脂成分(固形分)に対して、0.1~5重量%が好ましい。安定剤としては、エポキシ化合物が例示でき、中でも塩素化変性ポリオレフィン樹脂と相溶するエポキシ化合物が好ましい。かかるエポキシ化合物の好ましい例として、エポキシ当量が100から500程度で、一分子中にエポキシ基を1個以上有するエポキシ化合物が挙げられる。
【0037】
このようなエポキシ化合物としては、例えば、天然の不飽和基を有する植物油を過酢酸などの過酸でエポキシ化したエポキシ化大豆油やエポキシ化アマニ油;オレイン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の不飽和脂肪酸をエポキシ化したエポキシ化脂肪酸エステル類;エポキシ化テトラヒドロフタレートに代表されるエポキシ化脂環式化合物;ビスフェノールAや多価アルコールとエピクロルヒドリンとの縮合による化合物(例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等)が挙げられる。また、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイドグリシジルエーテル等に代表されるモノエポキシ化合物類も挙げられる。これらのエポキシ化合物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用して使用しても構わない。
なお、安定剤としては、ポリ塩化ビニル樹脂の安定剤として使用されている、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸類、ジブチル錫ジラウレート、ジブチルマレート等の有機金属化合物類、ハイドロタルサイト類も使用できる。
【0038】
ポリオレフィン樹脂を、極性付与剤を用いて変性して変性ポリオレフィン樹脂を得る方法は特に限定されない。極性付与剤をポリオレフィン樹脂にグラフト重合し、変性ポリオレフィン樹脂を得るには公知の方法で行うことが可能である。例えば、ポリオレフィン樹脂及び極性付与剤の混合物をトルエン等の溶剤に加熱溶解し、ラジカル発生剤を添加する溶液法や、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用して、ポリオレフィン樹脂、極性付与剤、エチレンα-オレフィン共重合体、及びラジカル発生剤を添加して混練する溶融混練法等により変性ポリオレフィン樹脂を得る方法が挙げられる。極性付与剤として、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選ばれる一種以上の極性付与剤を用いる場合は、これらを一括添加しても、逐次添加しても良い。
ここでポリオレフィン樹脂としては、前記ポリオレフィン樹脂として例示列挙したものから適宜選択して用いることができる。
【0039】
また、ポリオレフィン樹脂に対し、極性付与剤をグラフト重合させる際の順序は特に問わない。
【0040】
極性付与剤をポリオレフィン樹脂にグラフト重合する反応に用いることができるラジカル反応開始剤は、公知のラジカル反応開始剤の中より適宜選択することができる。特に有機過酸化物系化合物が好ましい。例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエートが挙げられる。このうち、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイドが好ましい。
ラジカル反応開始剤のポリオレフィン樹脂に対する添加量は、0.01~10重量%が好ましく、0.03~5重量%がより好ましい。この範囲よりもラジカル反応開始剤の添加量が少ない場合、グラフト重合率が低下する場合がある。ラジカル反応開始剤の添加量がこの範囲を超える場合は、不経済である。
【0041】
不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選ばれる極性付与剤を用いる場合、反応助剤としてスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等を添加しても良い。
【0042】
不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選ばれる一種以上の極性付与剤と、塩素を併用する場合、塩素化する工程を最後に行うことが好ましい。すなわち、前述の溶液法または溶融混練法にて、ポリオレフィン樹脂に、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選択される1種以上の極性付与剤をグラフト重合させた後に、後述の方法で塩素化する方法が好ましい。塩素化の工程を、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、不飽和カルボン酸の無水物、及びラジカル重合性モノマーからなる群から選択される1種以上の極性付与剤とのグラフト重合前に行うと、グラフト重合反応の際に脱塩酸を起こす可能性があるため、通常は好ましくない。ただし、下記に記載する通り、必要な場合は、塩素化後に低温の溶液法でグラフト重合を行うことができる。
【0043】
ラジカル重合性モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステル等のエステルを有する化合物を用いる場合、塩素化によりエステルが分解する可能性がある。そのため、これらの化合物を用いる場合は、塩素化の工程後にグラフト重合することが好ましい。
【0044】
塩素化する方法としては、例えば、極性付与剤をグラフト重合させた変性ポリオレフィン樹脂をクロロホルム等の溶媒に溶解した後、紫外線を照射しながら、或いは上記ラジカル反応開始剤の存在下、ガス状の塩素を吹き込むことにより塩素化変性ポリオレフィン樹脂を得る方法が挙げられる。塩素の導入率は、ポリオレフィン樹脂の種類、反応スケール、反応装置等の要素の違いにより変化するため、塩素含有量の調節は、塩素の吹き込み量や時間をモニタリングしながら行うことができる。
【0045】
成分(A)は、水性分散体等の形態であってもよい。成分(A)の水性分散体における固形分濃度は、10~50重量%が好ましく、20~40重量%がさらに好ましい。
【0046】
成分(A)の水性分散体のpHは、5以上が好ましく、6~11がより好ましい。pH5以上であると、中和が十分に行われ、成分(A):変性ポリオレフィン樹脂が他の成分に分散しないこと、或いは分散しても経時的に沈殿、分離が生じ易く、貯蔵安定性が悪化することを防止し得る。また、pH11以下であると、他成分との相溶性や作業上の安全性を確保し得る。
【0047】
成分(A)の水性分散体の、25℃におけるB型粘度計による粘度は、1~200mPa・sが好ましく、1~100mPa・sがより好ましく、1~50mPa・sがさらに好ましい。
なお、粘度は、B型粘度計を用い、回転数は60rpm、#1又は#2ローターを使用して測定することができる。
【0048】
成分(A)の平均粒子径は、1~300μmが好ましく、10~200μmがより好ましく、40~150μmがさらに好ましい。
なお、平均粒子径は、ゼータサイザー3000HS(シスメックス社製)を用いて測定することができる。
【0049】
[1-2.成分(B):セルロースナノファイバー(CNF)]
本発明の分散樹脂組成物は、第2の成分として、成分(B):セルロースナノファイバー(CNF)を含有する。本明細書において、セルロースナノファイバーとは、繊維幅が2~500nm程度、アスペクト比が10以上の微細繊維をいう。セルロースナノファイバーは、化学処理(カチオン化:カルボキシル化(酸化)、カルボキシメチル化、エステル化等のアニオン化:機能性官能基導入)したセルロース(以下、「化学変性セルロース」ともいう)を解繊することによって得ることができる。
【0050】
<セルロース原料>
化学変性セルロースを製造するためのセルロース原料としては、例えば、植物性材料(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等))、動物性材料(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするセルロース繊維を挙げることができ、それらのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0051】
<カルボキシメチル化>
化学変性セルロースとして、カルボキシメチル化したセルロースを用いる場合、カルボキシメチル化したセルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01~0.50が好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。
セルロース原料を出発原料にし、3~20質量倍の溶媒の存在下でマーセル化処理を行った後、エーテル化反応を行うことでカルボキシメチル化したセルロースを製造し得る。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3級ブタノール等を1種単独で、又は2種以上の混合溶媒を使用し得る。なお、低級アルコールを混合する場合、低級アルコールの混合割合は、60~95質量%である。
マーセル化剤としては、出発原料の無水グルコース残基当たり、モル換算で、0.5~20倍のアルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を使用する。
出発原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤(例えば、モノクロロ酢酸ナトリウム)をグルコース残基当たり、モル換算で、0.05~10.0倍添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行うことでカルボキシメチル化したセルロースを製造し得る。
【0052】
<カルボキシル化>
化学変性セルロースとして、カルボキシル化(酸化)したセルロースを用いる場合、カルボキシル化セルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、カルボキシル化の際には、カルボキシル化セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、カルボキシル基量が、0.6~2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
【0053】
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物と、の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基を有する炭素原子が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)と、を有する化学変性セルロースを得ることができる。反応時のセルロース原料の濃度は、特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0054】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば、4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0055】
N-オキシル化合物の使用量は、セルロース原料を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度がよい。
【0056】
臭化物とは、臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能なアルカリ金属の臭化物が挙げられる。また、ヨウ化物とは、ヨウ素を含む化合物であり、例えば、アルカリ金属のヨウ化物が挙げられる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0057】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolがさらにより好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0058】
セルロース原料の酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応は効率よく進行する。よって、反応温度は、4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0059】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
【0060】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0061】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/mが好ましく、50~220g/mがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロース原料が過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作製し、溶液中に酸化セルロースを浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0062】
酸化セルロースのカルボキシル基量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0063】
<カチオン化>
化学変性セルロースとして、カチオン化したセルロース(以下、「カチオン化セルロース」ともいう)を用いる場合、上記のセルロース原料にグリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト又はそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と、触媒であるアルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を、水及び/又は炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって、カチオン化セルロースを得ることができる。なお、この方法において、得られるカチオン化セルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水及び/又は炭素数1~4のアルコールの組成比率をコントロールすることによって、調整することができる。
【0064】
カチオン化セルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.02~0.50であることが好ましい。セルロース原料にカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したカチオン化セルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.02以上であると、セルロース同士の電気的な反発により、十分にナノ解繊し得る。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.50以下であると、膨潤あるいは溶解を抑制でき、ナノファイバーとして得られなくなる事態を防止し得る。解繊を効率よく行なうために、上記で得たカチオン化セルロースを洗浄することが好ましい。
【0065】
<エステル化>
化学変性セルロースとして、リン酸基を導入したセルロースを用いる場合、セルロース原料に、リン酸基を有する化合物を反応させることで、リン酸基を導入したセルロースを得ることができる。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。リン酸基を有する化合物は1種、あるいは2種以上を併用することができる。セルロース原料に対するリン酸基を有する化合物の添加量は、セルロース原料の固形分100質量部に対して、リン元素換算で、0.1~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましく、2~200質量部がさらに好ましい。
【0066】
<解繊>
化学変性セルロースを解繊する際に用いる装置は、特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いることができる。解繊は、化学変性セルロースの水分散体に、強力なせん断力を印加する、物理的解繊処理が好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、前記水分散体に予備処理を施してもよい。
【0067】
この様にして得られるセルロースナノファイバーの平均繊維径は、長さ加重平均繊維径にして、通常、2~500nm程度であるが、好ましくは2~50nmである。平均繊維長は、長さ加重平均繊維長にして、50~2000nmが好ましく、100~1000nmがさらに好ましい。
【0068】
長さ加重平均繊維径および長さ加重平均繊維長(以下、単に「平均繊維径」、「平均繊維長」ともいう)は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察して求められる。セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常、10以上であり、好ましくは50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出できる。
【0069】
平均アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0070】
セルロースナノファイバーの平均繊維長が400~1000nmである場合、本発明の分散樹脂組成物は、チキソ性を発現しやすい一方、粘度が増加するため作業性に劣る場合がある。
【0071】
セルロースナノファイバーの平均繊維長が100nm以上~400nm未満である場合、本発明の分散樹脂組成物は、粘度の増加は少ないので作業性に優れる一方、チキソ性の発現が限定的となる場合がある。
【0072】
したがって、セルロースナノファイバーは、平均繊維長の異なる2種以上のセルロースナノファイバーを適宜組み合わせて用いることも可能である。
【0073】
[1-3.成分(C):分散媒]
本発明の分散樹脂組成物は、第3の成分として、成分(C):分散媒を含有する。
【0074】
分散媒は、成分(A)及び成分(B)を均一に分散するものであれば特に限定されず、親水性・親油性の分散媒を用いることができる。但し、疎水化処理を行っていない成分(B)を用いる場合、水又は親水性物質を主成分として含むことが好ましい。親水性物質とは、親水性を示す物質を意味する。親水性物質は、ポリオレフィン樹脂または変性ポリオレフィン樹脂が溶けない極性物質が好ましい。具体的には、アルコール、ケトン、エステル系の親水性物質を挙げることができる。このような親水性物質として、好ましくはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。また、水は、水道水、蒸留水、精製水などのいずれであってもよい。水温は、分散性やその他条件に合わせて適宜設定することができる。例えば、水温が高すぎると、塩素で変性した塩素化変性ポリオレフィン樹脂を用いる場合、脱塩酸する場合がある。水温が低すぎると、(塩素化)変性ポリオレフィン樹脂が溶解し難く、乳化不良を招く場合がある。そのため、これらの点を加味して水温を調整することが好ましい。
【0075】
分散媒は、本発明の効果を阻害しない限り、2種以上のものを組み合わせて使用しても良い。また必要に応じて、水又は親水性物質を主成分とする分散媒に、親油性物質を組み合わせた分散媒を用いても良い。
【0076】
[1-4.分散樹脂組成物]
本発明の分散樹脂組成物は、上記の成分(A)~(C)を公知の分散方法で分散させて得ることができる。例えば、成分(A)を成分(C)に分散させ、成分(B)を成分(C)に分散させたのち、それぞれの分散物を撹拌混合することで得ることができる。
【0077】
本発明の分散樹脂組成物における、成分(A):変性ポリオレフィン樹脂100重量部に対する、成分(B):セルロースナノファイバーの配合比率としては、0.01~20重量部が好ましく、0.01~10重量部がより好ましく、0.01~5重量部がさらに好ましい。
【0078】
本発明の分散樹脂組成物における固形分濃度は、10~50重量%が好ましく、20~40重量%がさらに好ましい。
【0079】
本発明の分散樹脂組成物のpHは、5以上が好ましく、6~11がより好ましい。pH5以上であると、中和が十分に行われ、(A)成分:変性ポリオレフィン樹脂が他の成分に分散しないこと、或いは分散しても経時的に沈殿、分離が生じ易く、貯蔵安定性が悪化することを防止し得る。また、pH11以下であると、他成分との相溶性や作業上の安全性を確保し得る。
【0080】
本発明の分散樹脂組成物は、B型粘度計にて粘度を測定することができ、チキソ性の目安とし得る。
【0081】
本発明の分散樹脂組成物は、成分(B)に由来する平均粒子径150μm以上の凝集物の個数割合が1%未満であることが好ましく、平均粒子径100μm以上の凝集物の個数割合が1%未満であることがより好ましく、平均粒子径10μm以上の凝集物の個数割合が1%未満であることがさらに好ましい。凝集物の個数割合の下限値は特に限定されず、0%(すなわち、含まれない)が好ましい。
なお、「成分(B)に由来する」とは、成分(B)それ単独の凝集物のみならず、成分(B)と成分(A)等の他の成分の複合凝集物も含む。
【0082】
本発明の分散樹脂組成物中、成分(B)に由来する平均粒子径150μm以上の凝集物の個数割合を1%未満にするためには、例えば、TKホモジナイザー(プライミクス社製)にて3000rpm/15分間処理を行う。かかる処理により、成分(B)に由来する平均粒子径150μm以上の凝集物の個数割合が1%未満、好ましくは含まれない均一な分散系の分散樹脂組成物とすることができる。
【0083】
なお、上記凝集物は、通常、透明の為、目視にて観測され難い。そこで、例えば下記工程(1)~(3)を有する評価方法にて観測することが可能である。かかる観測は、複数回行うことが、より正確な凝集物の個数割合を判断できるので好ましい。複数回とは、通常、3回程度である。
工程(1):固形分1.0質量%の分散樹脂組成物を調整する工程。
工程(2):上記分散樹脂組成物に、色材を添加し撹拌する工程。
工程(3):色材を添加した分散樹脂組成物を、光学顕微鏡(倍率100倍)で3mm×2.3mm範囲を観察する工程。
なお、色材の添加量は、色材を添加した分散樹脂組成物中、5~20重量%程度である。撹拌条件については特に限定されず、通常の条件にて色材を混ぜることができる。例えば、ボルテックスミキサーなどを用いて、1分間撹拌することができる。
【0084】
<色材>
色材とは、白、黒、青、赤、黄、緑などの色を有する材料である。本発明においては色材として、有色顔料又は染料を使用できる。好ましくは、墨汁である。
【0085】
<有色顔料>
有色顔料とは、白、黒、青、赤、黄、緑等の色を有する顔料であり、その形状も板状、球状、鱗片状等特に限定されない。有色顔料としては、無機顔料、有機顔料が挙げられる。
無機顔料としては、カーボンブラック、鉄黒、複合金属酸化物ブラック、クロム酸亜鉛、クロム酸鉛、鉛丹、リン酸亜鉛、リン酸バナジウム、リン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス、ハイドロタルサイト、亜鉛末、雲母状酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、ケイソウ土、カオリン、タルク、クレー、マイカ、バリタ、有機ベントナイト、ホワイトカーボン、酸化チタン、亜鉛華、酸化アンチモン、リトポン、鉛白、ペリレンブラック、モリブデン赤、カドミウムレッド、ベンガラ、硫化セリウム、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、黄土、ビスマスイエロー、シェナ、アンバー、緑土、マルスバイオレット、群青、紺青、塩基性硫酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、硫化亜鉛、三酸化アンチモン、カルシウム複合物、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、オーカ、アルミニウム粉、銅粉、真鍮粉、ステンレス粉、酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、亜鉛酸化銅、銀粒子、アナターゼ型酸化チタン、酸化鉄系焼成顔料、導電性金属粉、電磁波吸収フェライト等が例示できる。
有機顔料としては、キナクリドンレッド、ポリアゾイエロー、アンスラキノンレッド、アンスラキノンイエロー、ポリアゾレッド、アゾレーキイエロー、ベリレン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノンイエロー、ウォッチングレッド、パーマネントレッド、パラレッド、トルイジンマルーン、ベンジジンイエロー、ファーストスカイブルー、ブリリアントカーミン6B等が例示できる。
これらの顔料は単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0086】
有色顔料の平均粒子径は、通常、10μm以下であり、好ましくは0.01~10μmであり、より好ましくは0.03~1μmである。平均粒子径が10μm以下、好ましくは1μm以下であると、分散樹脂組成物中において、有色顔料の分散性が安定するため、評価が容易になる。一方、下限値は制限されないが、平均粒子径が0.01μmより小さいと、凝集物中に有色顔料が入り込む可能性があるため、光学顕微鏡による凝集物の観察が困難になる場合がある。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(例として、Malvern社製マスターサイザー3000やゼータサイザーナノZS)によって測定される。顔料が球形でない場合は最長径の平均値を平均粒子径とする。
【0087】
<染料>
染料とは、可視光線を選択吸収又は反射して固有の色を持つ有機色素のうち、適当な染色法により繊維や顔料等に染着するものをいう。染料としては、アゾ染料、ジフェニル及びトリフェニルメタン染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料等が挙げられる。
これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
本発明の分散樹脂組成物は、成分(A)~(C)を含有していればよく、本発明の効果を阻害しない範囲で、塩基性物質や界面活性剤等の任意の成分を含有してもよい。
【0089】
本発明の分散樹脂組成物は、塩基性物質を含有させることにより、成分(A):変性ポリオレフィン樹脂中の酸性成分を中和し、水や親水性物質への分散性をより高めることができる。塩基性物質として、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン等が挙げられ、より好ましくは、アンモニア、トリエチルアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。塩基性物質の使用量は、変性ポリオレフィン樹脂の酸性成分の量に応じて任意の量に調整することができる。一般には、分散樹脂組成物のpHが5以上、中でもpH6~11になる量とすることが好ましい。
【0090】
乳化剤とは、ポリオレフィン樹脂又は変性ポリオレフィン樹脂を、水又は親水性物質に分散させる際、分散体の安定化を図る目的で添加する薬剤や添加剤をいい、界面活性剤とも言い換えることができる。本発明においては、必要に応じて界面活性剤を用いることができ、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤の何れも使用できる。ノニオン界面活性剤の方が、乳化された分散樹脂組成物の耐水性がより良好であるため好ましい。
【0091】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0092】
アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0093】
本発明の分散樹脂組成物における界面活性剤(乳化剤)の添加量は、成分(A):変性ポリオレフィン樹脂に対して、一般に30重量%以下であり、好ましくは25重量%以下である。30重量%を超える場合は、水性の分散樹脂組成物を形成する量以上の過剰な界面活性剤を添加することとなり、付着性や耐水性を著しく低下させたり、乾燥被膜とした際に可塑効果、ブリード現象を引き起こしたり、ブロッキングが発生し易くなったりするため、好ましくない場合がある。界面活性剤の添加量の下限は、特に限定はないが、できる限り少ないほうがよく、実質的に添加しなくてもよい。
【0094】
本発明の分散樹脂組成物は、用途、目的に応じてさらに架橋剤を含有してもよい。架橋剤とは、変性ポリオレフィン樹脂、界面活性剤、塩基性物質等に存在する水酸基、カルボキシル基、アミノ基等と反応し、架橋構造を形成する化合物を意味する。架橋剤自体が水溶性のもの、或いは何らかの方法で水に分散されているものを用いることができる。より詳細には、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族又は芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、アミノ樹脂等が挙げられる。架橋剤の添加方法は特に限定されるものではない。例えば、水性化工程の途中で、或いは水性化工程の後に添加することができる。
【0095】
本発明の分散樹脂組成物は、上記のほか、用途により必要に応じて、水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、低級アルコール類、低級ケトン類、低級エステル類、防腐剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、金属塩、酸類等の任意成分を配合できる。
【0096】
[2.用途]
本発明の分散樹脂組成物は、プライマーとして用いた際に、プレヒートを行わなくとも混層の発生を抑制できるチキソ性を有するという性質を有する。そのため、本発明の分散樹脂組成物は、例えば、塗料、特にプライマー塗料として好適に用いることができる。
【0097】
[3.積層塗膜形成方法]
本発明の積層塗膜形成方法は、本発明の分散樹脂組成物を含むプライマー塗料を塗装し、ウェットオンプライマー層を形成する工程、ウェットオンプライマー層上に、上塗り塗料を塗装し、乾燥させる工程、を有する。本発明の分散樹脂組成物が、プライマーとして用いた際に、プレヒートを行わなくとも混層の発生を抑制できるチキソ性を有するので、ウェットオンプライマー層をプレヒートすることなく、上塗りしても、混層の発生を防止し得る。従って、塗装ラインにおいて加熱ラインとその後の冷却ラインを必要とせず、コストアップを防止し得る。
なお、ウェットオンプライマー層とは、プレヒートを行わない湿潤状態をいう。上塗り塗装とは、水性ベース塗装等をいう。
【実施例
【0098】
次に本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定
されるものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、「部」は、特に断らない限り、重量部を意味する。
【0099】
(製造例1-1:塩素化変性ポリオレフィン樹脂(1)の水性分散液の製造)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン約97%、エチレン約3%、融点:125℃)100部に対し、無水マレイン酸2.5部、ジクミルパーオキサイド2部を混合し、L/D=60、φ=40mmの二軸押出機に定量フィーダを用いて供給した。滞留時間は15分、バレル温度は180℃(第3バレル~第7バレル)として反応を開始し、第9バレルにて減圧して未反応の無水マレイン酸を除去することにより、プロピレン系ランダム共重合体を無水マレイン酸で変性した変性プロピレン系ランダム共重合物(変性ポリオレフィン樹脂(1)、無水マレイン酸のグラフト量:1.9重量%)を得た。
【0100】
上記で得られた変性ポリオレフィン樹脂(1)3.0kgをグラスライニングされた反応釜に投入し、20L(リットル、以下同)のクロロホルムを加え、0.3MPaの圧力の下、温度110℃で充分に溶解させた。その後、ラジカル反応開始剤としてtert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート3.0gを加え、上記釜内圧力を0.3MPaに制御しながら塩素ガスを吹き込み、塩素含有量20重量%の変性ポリオレフィン樹脂(1)の塩素化物を得た。
【0101】
上記で得られた変性ポリオレフィン樹脂(1)の塩素化物にエポキシ化合物を安定剤として加え、反応溶媒を減圧留去するためのベント口を設置したベント付2軸押出機でクロロホルムを除去し、塩素化変性ポリオレフィン樹脂組成物をストランド状に押出して、水で冷却した。その後、水冷式ペレタイザーでペレット化し、無水マレイン酸で変性した塩素化変性プロピレン系ランダム共重合体の固形物である塩素化変性ポリオレフィン樹脂(1)を得た。
【0102】
塩素化変性ポリオレフィン樹脂(1)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;HLC8320GPC、東ソー社製)による分析を行った結果、重量平均分子量(Mw)が100,000であった。
【0103】
次に、撹拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた、2L容4つ口フラスコ中に、塩素化変性ポリオレフィン樹脂(1)を200g、界面活性剤(リポノールT/25、ライオン製)33g、安定剤(ステアリルグリシジルエーテル)8g、キシレン36gを添加し、120℃で30分混練した。次に、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール8gを5分かけて添加し、5分保持した後、90℃の温水970gを40分かけて添加した。減圧処理を行い、キシレン及び水の一部を除去した後、室温まで攪拌しながら冷却し、変性ポリオレフィン樹脂(1)の水性分散液を得た。該水性分散液の固形分は35重量%、pHは7.0で、粘度は12mPa・s/25℃であり、平均粒子径は90nmであった。
なお、固形分の平均粒子径は、ゼータサイザー3000HS(シスメックス社製)を用いて測定した。
【0104】
(製造例1-2:塩素化変性ポリオレフィン樹脂(2)の水性分散液の製造)
無水マレイン酸の配合量を0.7部、ジクミルパーオキサイドを2.1部、バレル温度を200℃としたこと以外は製造例1と同様にして変性ポリオレフィン樹脂(2)と塩素化変性ポリオレフィン樹脂(2)を得た。変性ポリオレフィン樹脂(2)の無水マレイン酸のグラフト量は0.6重量%であり、塩素化変性ポリオレフィン樹脂(2)の重量平均分子量は120,000であった。塩素化変性ポリオレフィン樹脂(2)を用いたこと、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの使用量を4gとしたこと以外は、製造例1と同様にして塩素化変性ポリオレフィン樹脂(2)の水性分散液を得た。該水性分散液の固形分は35重量%、pHは7.8、粘度は10mPa・s/25℃、平均粒子径は130nmであった。
【0105】
(製造例1-3:塩素化変性ポリオレフィン樹脂(3)の水性分散液の製造)
無水マレイン酸の配合量を5部、ジクミルパーオキサイドを4部としたこと以外は製造例1と同様にして変性ポリオレフィン樹脂(3)と塩素化変性ポリオレフィン樹脂(3)を得た。変性ポリオレフィン樹脂(3)の無水マレイン酸のグラフト量は3.5重量%であり、塩素化変性ポリオレフィン樹脂(3)の重量平均分子量80,000であった。塩素化変性ポリオレフィン樹脂(3)を用いたこと、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの使用量を15gとしたこと以外は、製造例1と同様にして塩素化変性ポリオレフィン樹脂(3)の水性分散液を得た。該水性分散液の固形分は35重量%、pHは7.2、粘度は15mPa・s/25℃、平均粒子径は75nmであった。
【0106】
(製造例1-4:塩素化変性ポリオレフィン樹脂(4)の水性分散液の製造)
塩素含有量が13重量%となるように塩素ガスを吹き込んだこと以外は製造例1と同様にして変性ポリオレフィン樹脂(4)と塩素化変性ポリオレフィン樹脂(4)を得た。変性ポリオレフィン樹脂(4)の無水マレイン酸のグラフト量は1.9重量%であり、塩素化変性ポリオレフィン樹脂(4)の重量平均分子量96,000であった。塩素化変性ポリオレフィン樹脂(4)を用いたこと、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの使用量を10gとしたこと以外は、製造例1と同様にして塩素化変性ポリオレフィン樹脂(4)の水性分散液を得た。該水性分散液の固形分は35重量%、pHは7.5、粘度は14mPa・s/25℃、平均粒子径は120nmであった。
【0107】
(製造例1-5:塩素化変性ポリオレフィン樹脂(5)の水性分散液の製造)
塩素含有量25重量%となるように塩素ガスを吹き込んだこと以外は製造例1と同様にして変性ポリオレフィン樹脂(5)と塩素化変性ポリオレフィン樹脂(5)を得た。変性ポリオレフィン樹脂(5)の無水マレイン酸のグラフト量は1.9重量%であり、塩素化変性ポリオレフィン樹脂(5)の重量平均分子量105,000であった。塩素化変性ポリオレフィン樹脂(5)を用いたこと、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールの使用量を10gとしたこと以外は、製造例1と同様にして塩素化変性ポリオレフィン樹脂(5)の水性分散液を得た。該水性分散液の固形分は35重量%、pHは7.4、粘度は12mPa・s/25℃、平均粒子径は95nmであった。
【0108】
(製造例1-6:塩素化変性ポリオレフィン樹脂(6)の水性分散液の製造)
チーグラー・ナッタ系触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン約97%、エチレン約3%、融点:146℃)100部に対し、無水マレイン酸3部、ジクミルパーオキサイド2.5部を混合し、L/D=60、φ=40mmの二軸押出機に定量フィーダを用いて供給した。滞留時間は15分、バレル温度は190℃(第3バレル~第7バレル)として反応を開始し、第9バレルにて減圧して未反応の無水マレイン酸を除去することにより、プロピレン系ランダム共重合体を無水マレイン酸で変性した変性プロピレン系ランダム共重合物(変性ポリオレフィン樹脂(6)、無水マレイン酸のグラフト量:1.7重量%)を得た。
変性ポリオレフィン樹脂(6)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして塩素化変性ポリオレフィン樹脂(6)を得た。塩素化変性ポリオレフィン樹脂(6)の重量平均分子量65,000であった。塩素化変性ポリオレフィン樹脂(6)を用いたこと、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール8gを、モルホリン15gに変更したこと以外は、製造例1と同様にして塩素化変性ポリオレフィン樹脂(6)の水性分散液を得た。該水性分散液の固形分は35重量%、pHは7.6、粘度は12mPa・s/25℃、平均粒子径は110nmであった。
【0109】
(製造例1-7:変性ポリオレフィン樹脂(7)の水性分散液の製造)
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン成分97%、エチレン成分3モル%、Tm=125℃)100部、無水マレイン酸5部、ジ-t-ブチルパーオキシド2部を160℃に設定した二軸押出機を用いて反応した。押出機内にて脱気も行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリオレフィン樹脂(7)の重量平均分子量は98,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.7、無水マレイン酸のグラフト重量は3.6重量%であった。
攪拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、上記で得られた変性ポリオレフィン樹脂(7)100g及び界面活性剤(エマルゲンLS―106、花王製)20gを添加し、120℃で30分混練した。
次に、ジメチルエタノールアミン6gを5分かけて添加し、30分保持した後、90℃のイオン交換水300gを40分かけて添加した。引き続き、室温まで攪拌しながら冷却し、変性ポリオレフィン樹脂(7)の水性分散液を得た。該水性分散液の固形分は35重量%、pH=7.5で、粘度は47mPa・s/25℃であり、平均粒子径は122nmであった。
【0110】
(製造例1-8:変性ポリオレフィン樹脂(8)の水性分散液の製造)
攪拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、上記で得られた変性ポリオレフィン樹脂(7)200g、トルエン40g、プロピレングリコールモノプロピルエーテル100gを添加し、フラスコ内温90℃で30分混練した。次に、ジメチルエタノールアミン12gを添加し、フラスコ内温90℃で60分混練した。その後、90℃の脱イオン交換水580gを60分かけて添加した。引き続き、トルエン、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、水の一部を減圧下にて除去後、室温まで撹拌しながら冷却し、変性ポリオレフィン樹脂(8)の水性分散液を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエンの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して1重量%以下であった。
該水性分散液の固形分は35重量%、pH=9.0で、粘度は15mPa・s/25℃であり、平均粒子径は135nmであった。
【0111】
(製造例2-1:セルロースナノファイバー1)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)39mgと臭化ナトリウム514mgを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を5.7mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するので、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗して酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.67mmol/gであった。
【0112】
上記の工程で得られた酸化されたパルプを水で1.0%(w/v)(=1.0質量%)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で5回処理して、セルロースナノファイバー1を含む分散液を得た。得られたセルロースナノファイバー1は、平均繊維長600nm、アスペクト比267であった。
【0113】
なお、カルボキシル基量の測定は、以下のようにして行った。カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした。その後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定した。そして、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した。
【0114】
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕
【0115】
(製造例2-2:セルロースナノファイバー2)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(日本製紙社製、白色度84%)5g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(7mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)18mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は反応液のpHは低下するので、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで、酸化されたパルプを得た。
【0116】
酸化されたパルプの5%(w/v)水分散液を調製し、当該分散液に、酸化されたパルプに対して1%(w/v)の過酸化水素を添加し、1M水酸化ナトリウムでpHを12に調整した。この水分散液を80℃で2時間加熱して酸化されたパルプを加水分解した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗した。
【0117】
上記加水分解した酸化されたパルプの濃度が2%(w/v)である水分散液を調整し、超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で10回処理して透明なセルロースナノファイバー2を含む分散液を得た。得られたセルロースナノファイバー2は、平均繊維長300nm、アスペクト比92であった。
【0118】
(実施例1)
製造例1-1で得られた塩素化変性ポリオレフィン樹脂(1)の水性分散液に対し、製造例2-1で得られたセルロースナノファイバー1を、固形分比で塩素化変性ポリオレフィン樹脂(1):セルロースナノファイバー1=100:0.5になるよう添加した後、TKホモジナイザー(プライミクス社製)にて3000rpmの撹拌速度で15分間撹拌処理し、固形分濃度が30%になる様に水を添加することで、分散樹脂組成物1を得た。なお、分散液のpHは8.3であった。
【0119】
得られた分散樹脂組成物1を固形分1.0質量%に調整して水性懸濁液を得た。水性懸濁液1gに墨滴(呉竹社製、固形分10%)を2適垂らし、ボルテックスミキサーにて1分間撹拌した。撹拌後、当該分散液を光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープKH-8700(ハイロックス社製))を用いて倍率100倍で観察し、3mm×2.3mmの範囲に存在する150μm以上の凝集物の発生個数割合を評価した。
粘度は、得られた分散樹脂組成物1を20℃で24時間静置後のB型粘度(60rpm、20℃、B60粘度という)及びB型粘度(6rpm、20℃、B6粘度という)を、TV-10型粘度計(東機産業社製)を用いて測定した。チキソ性については、T.I.=B6粘度/B60粘度から評価した。
【0120】
(実施例2~10、比較例1)
実施例1で用いた塩素化変性ポリオレフィン樹脂1、セルロースナノファイバー1、水を表1に記載した種類に変更したこと以外は、実施例1と同様にして分散樹脂組成物2~11を得た。
なお、実施例2のみ、塩素化変性ポリオレフィン樹脂(1)とセルロースナノファイバー2の固形分比率を100:2.5とした。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例及び比較例で得られた分散樹脂組成物を固形分で40部、水性アクリル樹脂(バイヒドロールXP2427、住化バイエルウレタン社製)を固形分で40部、水性ポリウレタン樹脂(ユーコートUWS-145、三洋化成工業製)を固形分で20部、導電性カーボンのカーボンECP600JD(ライオン社製)20部、二酸化チタンのチタンR-960(DuPont社製)80部を、常法に従って配合し、固形分40%になる様にイオン交換水で希釈することで水性プライマー塗料を調製した。
超高剛性ポリプロピレン板(商品名:TX-933A、三菱化学社製)にエアー式スプレーガンによって膜厚が約10μmになるように、調製した水性プライマー塗料を用いてプライマー層を塗装した後、プレヒートを行うことなく、水性メタリック色ベースコート塗料を乾燥膜厚15μmとなるように塗装した。その後、塗装板を80℃で3分間プレヒートし、ベースコート塗料からなる塗膜上にアクリルウレタン系溶剤型クリヤー塗料を膜厚30μmとなるように塗装した。塗装板を80℃で30分乾燥し、室温にて72時間放置した後、積層塗膜を持つ試験片を得て、下記の付着性評価と、外観評価を行った。結果を表2に示す。
【0123】
[付着性]
塗面上に1mm間隔で素地に達する100個の碁盤目を作製し、その上にセロハン粘着テープを密着させて180゜方向に引き剥し、塗膜の残存する程度で判定した。
【0124】
[外観]
塗面を目視にて観察し、外観を下記の通り評価した。
○:外観が均一であり、良好である。
×:ムラやハジキ等の外観異常が認められる。
【0125】
【表2】
【0126】
上記結果から、本発明の分散樹脂組成物を用いることで、付着性を劣化させることなく、外観が良好な塗装処理を行えることがわかる。