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特許7219810窒化珪素基板、窒化珪素-金属複合体、窒化珪素回路基板、及び、半導体パッケージ
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  • 特許-窒化珪素基板、窒化珪素-金属複合体、窒化珪素回路基板、及び、半導体パッケージ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】窒化珪素基板、窒化珪素-金属複合体、窒化珪素回路基板、及び、半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20230201BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20230201BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20230201BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20230201BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20230201BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C04B35/587
C04B37/02 Z
G01N23/223
H01L23/12 C
H01L23/14 C
H01L23/36 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021512010
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014060
(87)【国際公開番号】W WO2020203787
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019065541
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】津川 優太
(72)【発明者】
【氏名】小橋 聖治
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146789(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170247(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/060274(WO,A1)
【文献】特開平01-174407(JP,A)
【文献】特公昭49-040123(JP,B1)
【文献】特開平04-059659(JP,A)
【文献】特開平09-069590(JP,A)
【文献】特開平09-136312(JP,A)
【文献】特開2009-215142(JP,A)
【文献】米国特許第04285895(US,A)
【文献】国際公開第2017/014169(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,37/00-37/04
H01L 23/13,23/15
G01N 23/223
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素とマグネシウムを含有する窒化珪素基板であって、
窒化珪素を前記窒化珪素基板の80質量%以上含み、
前記窒化珪素基板の表面を、下記条件Iで、蛍光X線分析装置で分析した際、XB/XAが0.80以上、1.00以下であり、
XAが0.1質量%以上、5質量%以下であり、
XBが0.1質量%以上、5質量%以下であり、
前記条件Iで分析した際に得られるXAおよびXB、ならびに、前記窒化珪素基板の表面を、下記条件IIで、蛍光X線分析装置で分析した際に得られるYAおよびYBに関し、
YAが0.1質量%以上、10質量%以下であり、
YBが0.1質量%以上、10質量%以下であり、
XA/YAが0.7以下であり、
XB/YBが0.6以下であり、
前記条件Iにおける交差点Aおよび4点B1、B2、B3、B4を中心として蛍光X線分析装置で測定したとき、Si 3 4 量が80.0質量%以上、98.0%質量以下であり、Si 3 4 、マグネシウム(酸化物換算)、イットリウム(酸化物換算)を除くその他の成分を含むとき、前記その他の成分の量が0.10%質量以上、0.50%質量以下であり、
前記窒化珪素基板の表面における対角線の長さが150mm以上であり、
前記表面が主面表面である、窒化珪素基板。
(条件I)
前記窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点Aを、蛍光X線分析装置で分析し、前記交差点Aにおけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXA(%)とする。また、前記対角線上にあって、前記窒化珪素基板の角部から前記交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を蛍光X線分析装置で分析し、当該4点におけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)の算術平均値をXB(%)とする。
(条件II)
前記窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点Aを、蛍光X線分析装置で分析し、前記交差点Aにおけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)をYA(%)とする。また、前記対角線上にあって、前記窒化珪素基板の角部から前記交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を蛍光X線分析装置で分析し、当該4点におけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)の算術平均値をYB(%)とする。
【請求項2】
前記窒化珪素基板の表面を、記条件IIで、蛍光X線分析装置で分析した際、YA/YBが0.90以上、1.00以下である、請求項1に記載の窒化珪素基板
【請求項3】
前記窒化珪素基板を、下記条件IIIで、酸素窒素分析装置で分析した際、ZC及びZDがそれぞれ0.10%以上7.00%以下であり、かつ、ZD/ZCが0.85以上1.00以下である、請求項1又は2に記載の窒化珪素基板。
(条件III)
前記窒化珪素基板から、その表面における対角線の交差点を中心とした1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Cとする。該酸素分析用試料Cを、酸素窒素分析装置で分析し、前記酸素分析用試料Cの酸素濃度(mass%)をZC(%)とする。また、前記窒化珪素基板から、その表面におけるいずれかの角部を含む1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Dとする。該酸素分析用試料Dを、酸素窒素分析装置で分析し、前記酸素分析用試料Dの酸素濃度(mass%)をZD(%)とする。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の窒化珪素基板の少なくとも一方の面に、金属板を接合した窒化珪素-金属複合体。
【請求項5】
請求項に記載の窒化珪素-金属複合体において、前記金属板の少なくとも一部を除去した、窒化珪素回路基板。
【請求項6】
請求項に記載の窒化珪素回路基板の上に半導体素子を搭載した、半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素基板、窒化珪素-金属複合体、窒化珪素回路基板、及び、半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回路基板等を構成する絶縁基板として、セラミックス焼結体であるセラミックス基板が広く用いられている。例えば、パワーモジュールの製造に際しては、アルミナ、ベリリア、窒化珪素、窒化アルミニウム等のセラミックス材料に金属回路板を接合した、セラミックス回路基板が用いられることがある。
また、近年、パワーモジュールの高出力化や高集積化に伴い、パワーモジュールからの発熱量は増加の一途をたどっている。この発熱を効率よく放散させるため、高絶縁性と高熱伝導性を有する窒化珪素基板や、窒化アルミニウム基板等のセラミックス基板が使用される傾向にある。
【0003】
例えば、特許文献1には、窒化珪素基板の製造工程において、窒化珪素成形体の表面に特定の組成の窒化ホウ素からなる分離層を設ける窒化珪素基板の製造方法に係る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/054852号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、信頼性の高い窒化珪素回路基板を安定な歩止まりで得ることが困難であった。その原因の一つに窒化珪素基板に発生する反りが挙げられる。一般に、窒化珪素基板の反りが大きくなると、金属板と、窒化珪素基板との密着性が低下し、金属板と、窒化珪素基板とをろう材で接合する接合工程における降温過程や、パワーモジュール稼働時のヒートサイクル時において、金属板と、窒化珪素基板とが剥離し、接合不良又は熱抵抗不良を招き、半導体パッケージの信頼性が低下してしまう可能性が増加する。
よって、窒化珪素基板の反りを適正な範囲に調整することは、窒化珪素回路基板の歩留まり向上、及び、信頼性向上の観点から重要であったが、従来の技術では、窒化珪素基板の反りを十分に抑制できない場合があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、一つには、反りの少ない窒化珪素基板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
すなわち、本発明によれば、
窒化珪素とマグネシウムを含有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の表面を、下記条件Iで、蛍光X線分析装置で分析した際、XB/XAが0.8以上、1.0以下である、窒化珪素基板が提供される。
(条件I)
前記窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点Aを、蛍光X線分析装置で分析し、前記交差点Aにおけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXA(%)とする。また、前記対角線上にあって、窒化珪素基板の角部から前記交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を蛍光X線分析装置で分析し、当該4点におけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)の算術平均値をXB(%)とする。
【0008】
また、本発明によれば、上記の窒化珪素基板の少なくとも一方の面に、金属板を接合した窒化珪素-金属複合体が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記の窒化珪素-金属複合体において、上記金属板の少なくとも一部を除去した、窒化珪素回路基板が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記の窒化珪素回路基板の上に半導体素子を搭載した、半導体パッケージが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反りが抑制された窒化珪素基板、窒化珪素回路基板、窒化珪素-金属複合体、及び、半導体パッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る窒化珪素基板のマグネシウム量及びイットリウム量の分析の際の分析箇所を模式的に示した平面図である。
図2】本実施形態に係る窒化珪素基板の酸素量の分析箇所を模式的に示した平面図である。
図3】本実施形態に係る窒化珪素-金属複合体を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。具体的には、図に示されている各部の縦横の寸法は、縦方向または横方向に誇張されている場合がある。
数値範囲の「P~Q」は、断りがなければ、「P以上Q以下」を表す。
【0014】
まず、本実施形態に係る窒化珪素基板について説明する。
本実施形態に係る窒化珪素基板は、窒化珪素とマグネシウムを含有する窒化珪素基板であって、具体的には、窒化珪素を主成分とし、マグネシウムを含む焼結助剤から形成される粒界相とを含む焼結体からなる。「主成分」とは窒化珪素基板の80質量%以上が目安であり、85質量%以上であってよく、90質量%以上であってよい。また、主成分以外の成分は、具体的には、焼結助剤同士が反応してなる化合物や不純物等である。
また、本実施形態に係る窒化珪素基板は、具体的には板状であり、板状の金属との接合面となる表面を備える。窒化珪素基板の表面形状は、さらに具体的には矩形であって、4つの角部を有するとともに2つの対角線を有する。
【0015】
本実施形態に係る窒化珪素基板は、該窒化珪素基板を下記条件Iで、蛍光X線分析装置で分析した際、XB/XAが0.80以上、1.00以下であり、0.82以上、1.00以下であることが好ましく、0.90以上、1.00以下であることがより好ましい。
(条件I)
窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点Aを、蛍光X線分析装置で分析し、交差点Aにおけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXA(%)とする。また、対角線上にあって、窒化珪素基板の角部から交差点の方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を蛍光X線分析装置で分析し、当該4点におけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)の算術平均値をXB(%)とする。
【0016】
条件Iの分析箇所について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る窒化珪素基板のマグネシウム量及びイットリウム量(後述)分析の際の分析箇所を模式的に示した平面図である。
本実施形態に係る窒化珪素基板は、板状であり、矩形であることが好ましい。本実施形態に係る窒化珪素基板のいずれか一面の表面における2本の対角線の交差点を交差点Aとし、交差点Aを中心として蛍光X線分析装置で測定したマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXA(%)とする。また、上記の2本の対角線上に存在する窒化珪素基板の角部から交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を中心として蛍光X線分析装置で測定したマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXB1(%)、XB2(%)、XB3(%)、XB4(%)とする。さらに、XB1(%)、XB2(%)、XB3(%)、XB4(%)の算術平均値をXB(%)とする。
【0017】
蛍光X線分析装置による分析条件は、以下のようにすることができる。
測定装置:株式会社リガク製、ZSX100e
X線管電力:3.6kW
スポット径:1mm
なお、定量方法は、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)を採用することが好ましい。この場合、シリコンについては、すべて窒化物(Si)として存在するものとして、各成分の合計が100%となるように、窒化珪素(Si)をバランス成分として計算する。また、マグネシウム、および、イットリウムについては、それぞれが、酸化物で存在するものとし、酸化マグネシウム(MgO)、および、酸化イットリウム(Y)換算で計算する。なお、XB/XAに関しては、蛍光X線分析により得られたマグネシウムの蛍光X線の強度比から直接算出することも可能である。
【0018】
本実施形態に係る窒化珪素基板が、蛍光X線分析装置で測定したマグネシウム量を上述のように規定することで、窒化珪素基板における反りを抑制することができる理由は必ずしも明らかではないが以下のように推測される。
【0019】
窒化珪素基板の焼成工程においては、焼結助剤である酸化マグネシウム、及び、酸化イットリウムが、窒化珪素や酸化珪素と反応し、液相を形成する。また、該液相によって、窒化珪素の焼結が促進し、緻密な窒化珪素焼結体とすることができる。よって、焼結助剤からなる液相は、窒化珪素の焼結において重要な役割を果たすが、液相は、窒化珪素基板内において、比較的容易に移動することが可能であるため、焼成工程中に窒化珪素基板外周部から窒化珪素基板系外に揮発したり、窒化珪素基板内の特定の箇所に偏析したりする場合があった。中でも、酸化マグネシウムを含む液相成分は融点が低く、焼結促進への寄与も大きいが移動もしやすく、その基板内分布が不均一になりやすかった。
助剤成分の分布が不均一な窒化珪素基板は、助剤成分の多い部分と助剤成分の少ない部分、例えは、基板外周部と基板内部における熱膨張量が異なる基板となるため、冷却過程において収縮差が生じ、反りが生じやすくなるものと推測される。
【0020】
従来から、窒化珪素基板の助剤成分等の組成に着目した検討が行われていた。具体的には、従来技術においては、例えばEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)等を用いた、窒化珪素基板のごく表層(具体的には窒化珪素基板の表面から数μm以内)に存在する助剤に着目した検討が行われてきた。しかしながら、たとえば比較的基板サイズの大きい窒化珪素基板においては、従来技術を用いても、十分に安定的に反りを抑制することができなかった。
本発明者らは、マクロな観点から窒化珪素基板の助剤成分の分布を制御することが、より高度な反りの抑制に関連することを知見し本実施形態を成し得たものである。
すなわち、蛍光X線分析は、種々の電子線を利用した表面分析手法に比べ、より深い位置の組成の分布の情報を取得することができる分析手法であり、例えば、窒化珪素基板の表面から深さ数十μm~数mmに存在する組成の分布を分析することが可能である。よって、蛍光X線分析装置で測定したマグネシウム量を上述のように規定することは、表層を含む深さ数十μmから数mmのバルクに存在するマグネシウムの分布を規定することとなる。
加えて、本実施形態は蛍光X線分析による分析箇所を窒化珪素基板外周部及び窒化珪素基板中央部に特定した点にも特徴がある。すなわち、一般に窒化珪素基板は製造コスト削減等の観点から、複数枚積層して焼成され、また、上記したように、焼結助剤である酸化マグネシウム、及び、酸化イットリウムによって形成される液相は、焼成中に揮発する場合がある。本発明者らの検討によれば、たとえば複数枚積層された窒化珪素基板を焼成する場合、窒化珪素基板の中央部と、窒化珪素基板の外周部では焼結助剤の揮発のしやすさが異なり、例えば酸化マグネシウムは、窒化珪素基板の中央部において最も揮発しにくく、窒化珪素基板の外周部において最も揮発しやすい傾向があることが知見された。すなわち、本発明者らは、焼成後の窒化珪素基板におけるバルクの組成分布について鋭意検討を行い、窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点A、また、対角線上にあって、窒化珪素基板の角部から交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4における各成分の量を規定することで、再現性良く、窒化珪素基板の焼結助剤の分布が最大となる個所と最小となる個所を捉えることができるものと考え、本実施形態を成し得たものである。
本実施形態によれば、窒化珪素基板の原料の成分の種類及び量、並びに、製造方法(中でも、焼成方法における温度条件及び雰囲気調整条件)を調整することにより、得られる窒化珪素基板における中央部と外周部のバルクの助剤成分の量を特定し、従来着目されていなかったマクロな観点において、助剤成分の分布を極めて高度に均一にすることによって、比較的大きいサイズの窒化珪素基板においても、安定的に反りを抑制することができ、また、同時に多数の基板を積層して焼成した場合においても歩留りよく反りを抑制できるものと推測される。よって、例えば、本実施形態に係る窒化珪素基板の一面に金属板を接合し、窒化珪素-金属複合体とした場合や、窒化珪素回路基板とし、その上に半導体素子等を搭載した際、窒化珪素基板と、金属回路板との接合性等の信頼性に優れた半導体パッケージを得ることができる。
また、本実施形態によれば、窒化珪素基板の特性等のばらつきを抑制した窒化珪素基板を得ることができ、例えば、破壊靭性値等の機械的特性の面内分布が均一である窒化珪素基板を得ることができる。
なお、本実施形態は上記推測メカニズムによって限定されるものではない。
【0021】
本実施形態に係る窒化珪素基板は、該窒化珪素基板を、下記条件IIで、蛍光X線分析装置で分析した際、YA/YBが0.90以上、1.00以下であることが好ましく、0.94以上、1.00以下であることがより好ましく、0.97以上、1.00以下であることがさらに好ましくい。
(条件II)
窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点Aを、蛍光X線分析装置で分析し、交差点Aにおけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)をYA(%)とする。また、対角線上にあって、窒化珪素基板の角部から交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を蛍光X線分析装置で分析し、当該4点におけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)の算術平均値をYB(%)とする。
【0022】
条件IIの分析箇所である窒化珪素基板の交差点A、および、窒化珪素基板の角部から交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4については、条件IのA、B1、B2、B3、B4と同様である。すなわち、本実施形態に係る窒化珪素基板のいずれか一面の表面における2本の対角線の交差点を交差点Aとし、交差点Aを中心として蛍光X線分析装置で測定したイットリウム量(mass%、酸化物換算)をYA(%)とする。また、上記の2本の対角線上に存在する窒化珪素基板の角部から交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を中心として蛍光X線分析装置で測定したイットリウム量(mass%、酸化物換算)をYB1(%)、YB2(%)、YB3(%)、YB4(%)とする。さらに、YB1(%)、YB2(%)、YB3(%)、YB4(%)の算術平均値をYB(%)とする。蛍光X線分析装置による分析条件は、上述の通りである。
蛍光X線分析で測定したイットリウム量を上述の数値範囲内とすることによって、反りが少ない窒化珪素基板をより安定的に得ることができ、該窒化珪素基板を用いた半導体パッケージの信頼性、歩止まりを向上させることができるものと考えられる。
【0023】
本実施形態に係る窒化珪素基板において、上記条件Iで分析した際の窒化珪素基板中央部のマグネシウム量XA、及び、窒化珪素基板外周部のマグネシウム量XBは、XB/XAが上記数値範囲内であり、その絶対値は制限されないが、XAおよびXBはそれぞれ、例えば、0.1質量%以上、5質量%以下とすることができ、より好ましくは0.5質量%以上、3質量%以下とすることができる。また、XAおよびXBは、それぞれ、たとえば0.1質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上であり、また、たとえば5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下である。
また、本実施形態に係る窒化珪素基板において、上記条件IIで分析した際の窒化珪素基板中央部のイットリウム量YA、及び、窒化珪素基板外周部のイットリウム量YBは、YA/YBが上記数値範囲内であることが好ましく、その絶対値は制限されないが、YA及びYBはそれぞれ、例えば、0.1質量%以上、10質量%以下とすることができ、より好ましくは、1質量%以上、8質量%以下とすることができる。また、YA及びYBは、それぞれ、たとえば0.1質量%以上であり、好ましくは1質量%以上であり、また、たとえば10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下である。
本実施形態に係る窒化珪素基板は、窒化珪素基板中央部におけるマグネシウム量XAと、窒化珪素基板中央部におけるイットリウム量YAの比である、XA/YAをたとえば0.05以上、好ましくは0.1以上、また、たとえば0.7以下、好ましくは0.5以下とすることができ、窒化珪素基板外周部におけるマグネシウム量XBと、窒化珪素基板中央部におけるイットリウム量YBの比である、XB/YBをたとえば0.05以上、好ましくは0.1以上、また、たとえば0.6以下、好ましくは0.5以下とすることができる。
【0024】
マグネシウム量、イットリウム量以外の成分の含有量について一例を挙げれば、本実施形態に係る窒化珪素基板は、そのいずれか一面の表面における対角線の交差点A、および、窒化珪素基板の角部から交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を中心として、上述の条件で、蛍光X線分析装置で組成分析をした際、窒化珪素(Si34)量を80.0質量%以上、98.0%質量以下とすることができ、より好ましくは85.0質量%以上、95.0質量%以下とすることができる。また、上記窒化珪素量は、たとえば80.0質量%以上であり、好ましくは85.0質量%以上であり、また、たとえば98.0%質量以下であり、好ましくは、95.0質量%以下である。また、窒化珪素(Si34)、マグネシウム(酸化物換算)、イットリウム(酸化物換算)を除くその他の成分を含むとき、その他成分の量を、たとえば0.10%質量以上、0.50%質量以下とすることができる。
【0025】
本実施形態に係る窒化珪素基板は、下記条件IIIで、酸素窒素分析装置で酸素濃度を分析した際、ZC、及び、ZDがそれぞれ0.10%以上7.00%以下、かつ、ZD/ZCが0.85以上1.00以下であることが好ましく、ZC、及び、ZDがそれぞれ2.00%以上5.00%以下であり、かつ、ZD/ZCが0.90以上1.00以下であることがより好ましく、ZC、及び、ZDがそれぞれ2.50%以上3.00%以下であり、かつ、ZD/ZCが0.93以上1.00以下であることがさらに好ましい。
下記条件IIIで、酸素窒素分析装置で酸素濃度を分析した際、ZC、及び、ZDは、それぞれ、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは2.00%以上、さらに好ましくは2.50%以上であり、また、好ましくは7.00%以下であり、より好ましくは5.00%以下、さらに好ましくは3.00%以下である。
下記条件IIIで、酸素窒素分析装置で酸素濃度を分析した際、ZD/ZCは、好ましくは0.85以上であり、より好ましくは0.90以上、さらに好ましくは0.93以上であり、また、好ましくは1.00以下である。
(条件III)
窒化珪素基板から、その表面における、具体的には、条件IおよびIIにて前述の窒化珪素基板のいずれか一面の表面における、対角線の交差点を中心とした1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Cとする。該酸素分析用試料Cを、酸素窒素分析装置で分析し、酸素分析用試料Cの酸素濃度(mass%)をZC(%)とする。また、窒化珪素基板から、その表面におけるいずれかの角部を含む1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Dとする。該酸素分析用試料Dを、酸素窒素分析装置で分析し、酸素分析用試料Dの酸素濃度(mass%)をZD(%)とする。
【0026】
条件IIIの分析箇所について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る窒化珪素基板の酸素量分析の際の分析箇所を模式的に示した平面図である。
本実施形態に係る窒化珪素基板の主面表面における対角線の交差点を中心とし、該交差点を対角線の交点とする一辺が3mmの正方形を特定する。該正方形は、矩形である窒化珪素基板と平行な辺を有する正方形とすることができる。該正方形を切り出し酸素分析用試料Cとする。該酸素分析用試料Cを、酸素窒素分析装置で分析し、酸素分析用試料Cの酸素濃度(mass%)をZC(%)とする。また、窒化珪素基板から、そのいずれかの角部(矩形である窒化珪素基板を上面視した際の各頂点)を含む1辺が3mmの正方形を特定する。該正方形は、矩形である窒化珪素基板と平行な辺を有する正方形とすることができる。該正方形を切り出し酸素分析用試料Dとする。該酸素分析用試料Dを、酸素窒素分析装置で分析し、酸素分析用試料Dの酸素濃度(mass%)をZD(%)とする。
【0027】
酸素窒素分析装置としては、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)により酸素濃度を測定することができる装置を挙げることができ、具体的には株式会社堀場製作所製、EMGA-920を挙げることができる。
【0028】
窒化珪素基板に含まれる酸素は主に助剤成分に起因するものである。よって、窒化珪素基板の中央部に存在する酸素濃度と窒化珪素基板の外周部に存在する酸素濃度を上記数値範囲内とすることは、マグネシウム、イットリウム、および、その他の成分を含む助剤成分全体が面内に均一に分布していることを意味し、本実施形態によれば、各助剤成分の分布の均一性のみならず、助剤成分全体として、その面内分布を均一になるよう制御することにより、反りが少ない窒化珪素基板をより安定的に得ることができ、該窒化珪素基板を用いた半導体パッケージの信頼性、歩止まりをより向上させることができるものと考えられる。
【0029】
本実施形態に係る窒化珪素基板は、矩形であることが好ましい。また、窒化珪素基板の表面における対角線の長さが150mm以上であることが好ましく、200mm以上であることがより好ましく、236mm以上であることがさらに好ましい。上限には制限はないが、例えば254mm以下とすることができる。
本実施形態に係る窒化珪素基板は、その厚みを0.1mm以上3.0mm以下とすることができ、好ましくは0.2mm以上1.2mm以下、より好ましくは0.25mm以上0.5mm以下である。また、窒化珪素基板の厚みは、たとえば0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.25mm以上であり、また、たとえば3.0mm以下であり、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。
従来技術では、サイズが比較的大きい窒化珪素基板や、厚みが比較的薄い窒化珪素基板においては、反り等を抑制し安定的な歩留まりを得ることが困難であったが、本実施形態に係る窒化珪素基板によれば、比較的大面積の窒化珪素基板や、厚みの薄い窒化珪素基板であっても、製造安定性を向上させることができる。
【0030】
本実施形態に係る窒化珪素基板は、その単位長さ当たりの反りが、1.0μm/mm未満であることが好ましい。
なお、反りは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0031】
本実施形態に係る窒化珪素基板は、破壊靭性値が6.5MPa/m1/2以上であることが好ましく、6.6MPa/m1/2以上であることがより好ましい。窒化珪素基板の破壊靭性値に制限はなく、たとえば20MPa/m1/2以下であってもよい。
また、本実施形態に係る窒化珪素基板は、機械特性等の面内分布が均一であることが好ましく、例えば、基板中央部(対角線の交差点を中心とした半径3mm以内の領域)における破壊靭性値をKICI、基板外周部(角部から、半径3mm以内の領域)における破壊靭性値をKICOとしたとき、KICI/KICOが、0.90以上、1.10以下であることが好ましく、0.95以上、1.05以下であることがより好ましく、0.97以上、1.03以下であることがさらに好ましい。また、KICI/KICOは、好ましくは0.90以上であり、より好ましくは0.95以上、さらに好ましくは0.97以上であり、また、好ましくは1.10以下であり、より好ましくは1.05以下、さらに好ましくは1.03以下である。
本実施形態に係る窒化珪素基板によれば、比較的大面積の窒化珪素基板においても、機械特性等の面内分布を均一とすることができ、より信頼性・製造安定性を向上させることができる。
なお、破壊靭性は、JIS-R1607に基づき、IF法で測定することができる。
【0032】
<窒化珪素基板の製造方法>
以下、本実施形態に係る窒化珪素基板の製造方法について説明する。
【0033】
(原料混合工程)
窒化珪素基板の原料は、具体的には窒化珪素およびマグネシウム原料を含み、マグネシウム原料は好ましくは焼結助剤として配合される。
さらに具体的には、まず、窒化珪素(Si34)粉末と、酸化マグネシウム(MgO)粉末、酸化珪素(SiO2)粉末等の焼結助剤粉末とを準備し、バレルミル、回転ミル、振動ミル、ビーズミル、サンドミル、アジテーターミル等の混合装置を用いて、溶媒とともに湿式混合し、スラリー(原料混合体)を作製する。
【0034】
窒化珪素粉末は、直接窒化法、シリカ還元法、イミド熱分解法等の公知の方法で製造された物が使用できる。窒化珪素粉末中の酸素量は2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。窒化珪素粉末の平均粒子径(D50値)は好ましくは0.4~1.5μmであり、より好ましくは0.6~0.8μmである。窒化珪素粉末の酸素量及び平均粒子径(D50値)を前述の範囲とすることで、窒化珪素焼結体の密度及び機械強度の低下を抑制することができる。
本実施形態に係る窒化珪素基板は、その原料の一部にSiO2粉末を用いることが好ましい。具体的には、窒化珪素基板の原料である焼結助剤がSiO2を必須成分とすることが好ましい。SiO2粉末は、純度98%以上であることが好ましく、平均粒子径が0.1μm以上、3.0μm以下であることが好ましい。
【0035】
焼結助剤としては、酸化珪素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)および酸化イットリウム(Y23)を含むことが好ましく、その他の酸化物を含むこともできる。その他の酸化物としては、希土類金属の酸化物を挙げることができ、例えば、Sc23、La23、Ce23、Pr611、Nd23、Pm23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23、Tm3、Yb23およびLu23を挙げることができる。
焼結助剤の平均粒子径は0.1μm以上、3.0μm以下であることが好ましい。
【0036】
原料粉末の配合は、窒化珪素(Si3)粉末及び焼結助剤粉末の合計を100質量部とした時、窒化珪素(Si34)粉末を80質量部以上、98質量部以下、焼結助剤粉末を2質量部以上、20質量部以下とすることが好ましい。焼結助剤粉末が少なすぎるの場合には、緻密な窒化珪素焼結体が得られない場合があり、一方多すぎる場合には、窒化珪素焼結体の熱伝導率が低下する場合がある。
また焼結助剤として酸化珪素、酸化マグネシウムおよび酸化イットリウムを用いる場合、原料粉末の配合は、窒化珪素(Si34)粉末及び焼結助剤粉末の合計を100質量部とした時、窒化珪素(Si34)粉末を80質量部以上、98質量以下、酸化珪素粉末を0.1質量部以上、5質量部以下、酸化マグネシウム粉末を0.1質量部以上、5質量部以下、酸化イットリウムを0.1質量部以上、10質量部以下とすることが好ましく、窒化珪素(Si34)粉末を85質量部以上、95質量以下、酸化珪素粉末を0.5質量部以上、3質量部以下、酸化マグネシウム粉末を0.5質量部以上、3質量部以下、酸化イットリウムを1質量部以上、8質量部以下とすることがより好ましい。
なお、酸化イットリウムの使用量を下げることでYA/YBが低下する傾向にあると考えられる。また、酸化ケイ素の使用量を上げることでZD/ZCが低下する傾向にあると考えられる。
【0037】
上記の原料粉末と、有機溶媒、さらには必要に応じて有機バインダを混合し、原料混合体を作製する。原料混合体の作製に用いる有機溶媒や有機バインダは成形方法に応じて公知のものを適宜選択することが可能である。例えば成形工程において、ドクターブレード法によりシート成形を行う場合、トルエン、エタノール、ブタノール等の有機溶媒や、ブチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート等の有機バインダを用い、シート成形用スラリーを作成することができる。
有機バインダの添加量は、原料粉末の合計を100質量部としたとき、たとえば、3質量部以上、17質量部以下とすることができる。有機バインダの添加量を上記数値範囲内とすることにより、成形体の形状の維持が十分にでき、多層化して量産性を向上することが可能となり、かつ、脱脂工程後に脱脂体の空隙が大きくなり、得られる窒化珪素基板に空隙が残存することを防ぐことができる。
【0038】
(成形工程)
次に、原料混合体を成形する成形工程を行う。原料混合体の成形法としては限定されず、金型プレス法、冷間静水圧プレス(CIP)法、ドクターブレード法、ロール成形法等シート成形法などが適用でき、比較的厚みの薄い成形体を大量に安定的に生産するという観点からはドクターブレード法が好ましい。さらに必要に応じて成形したシートを打ち抜き、所望のサイズのシート成形体を得ることができる。シートの形状は限定されないが、例えば、各辺の長さが100mm以上、厚みが0.2mm以上、2mm以下のシート成形体とすることができる。
【0039】
(BN塗布)
続いて、得られた成形体、具体的にはシート成形体の少なくとも一面にBNを塗布する、BN塗布工程を行うことができる。本工程は、主に、焼成工程中に積層した窒化珪素基板同士が固着することを防ぐ目的で行なわれる。
BNを塗布する方法は制限されないが、例えばBN粉末と、有機溶媒とを含むBNスラリーを準備し、得られたBNスラリーをシート成形体の片面または両面にスプレー塗布する方法、BN粉末と、有機溶媒と、有機バインダを含むBNペーストを準備し、得られたBNペーストをシート成形体の片面または両面にスクリーン印刷する方法等が挙げられる。
BNスラリー又はBNペーストが塗布されたシート成形体を乾燥することで、BNが塗布されたシート成形体を得ることができる。
【0040】
(脱脂工程)
焼成工程の前に成形体の脱脂工程を行うことが好ましい。脱脂工程では、たとえば主に、成形のために添加した有機バインダの除去を行うことができる。
脱脂工程は、大気(酸素を含む雰囲気)中、窒素雰囲気・アルゴンガス雰囲気中等の非酸化性雰囲気中、真空中のいずれで行うことも可能であるが、大気中もしくは真空中が好ましい。
また、脱脂温度・脱脂時間は、成形工程で加えた有機バインダの種類によっても異なるが、例えば、500℃以上800℃以下で、1時間以上20時間以下とすることができる。
脱脂工程においては、前工程で得られたシート成形体を積層して脱脂炉に仕込むことができる。積層枚数は例えば、10枚以上、100枚以下とすることができる。また、脱脂時には10~40kPaの荷重を加えることが好ましい。脱脂時に上記範囲で荷重を加えることで、焼成工程後のセラミックス基板の反り及び割れを抑制することが出来る。
【0041】
(焼成工程)
続いて、得られた脱脂体を焼成炉で焼成する。焼成工程の過程で焼結助剤粉が液相となり、液相反応を経て緻密な焼結体を得ることができる。
焼成温度は、1700℃以上、1900℃以下とすることが好ましく、焼成時間は3時間以上10時間以下とすることが好ましい。
また、焼成後の冷却過程において、焼結助剤が液相を形成する温度域(具体的には1400℃~1600℃)以上の温度域、すなわち1400度以上の温度域では、降温速度は、4℃/分以下にすることが好ましく、2℃/分以下とすることがより好ましく、1℃/分以下とすることがさらに好ましい。
上記焼成温度、焼成時間、降温速度を上記数値範囲内とすることによって、熱的特性、機械的特性に優れ、かつ、助剤分布が均一な窒化珪素基板を得ることができる。
【0042】
本実施形態に係る窒化珪素基板、すなわち助剤が面内に均一に分散した窒化珪素基板を得るためには、焼成工程における雰囲気を制御することが重要である。
焼成工程は、窒化珪素基板の分解を抑制するため、窒素ガス、アルゴンガス等の非酸化性雰囲気にて0.6MPa以上で焼成することが好ましい。
焼成中のガス流量は例えば、5L/分以上、200L/分以下とすることができる。
焼成工程においては、前工程で得られた脱脂体を積層して焼成炉に仕込むことができる。
積層枚数は例えば、10枚以上、100枚以下とすることができる。
積層された脱脂体は、BNからなる容器(以下、BN容器)内に収容した状態で焼成炉内に設置することが好ましい。なお、BN容器は、例えば、複数の板や枠等の部材から構成され、これらの部材を組み合わせることにより閉じた空間を構成することができる構造のものであることが好ましい。
BN容器の容積は、例えば2000cm3以上15000cm3以下とすることができる。BN容器内には、脱脂体と共に、雰囲気調整用の窒化珪素基板(焼結体)を設置することが好ましい。1つのBN容器に収容する脱脂体の重量を100質量部としたとき、雰囲気調整用の窒化珪素基板は、2質量部以上、20質量部以下とすることが好ましい。
また、雰囲気調整用の窒化珪素基板は、脱脂体に対し水平な向きに設置することも、垂直な向きにも設置することも可能であるが、少なくとも垂直な向きにも設置することが好ましい。
BN容器と雰囲気調整用の窒化珪素基板(焼結体)を用い、焼成する脱脂体周辺の還元雰囲気、及び、揮散した助剤雰囲気を適度に調整することで、助剤の分布を制御することができ、焼成後の反りや、さらにその後の熱履歴を加えることによる変形が少ない窒化珪素基板を得ることができるものと推測される。
【0043】
<窒化珪素-金属複合体>
次に本実施形態に係る窒化珪素-金属複合体について説明する。
本実施形態に係る窒化珪素基板の少なくとも一方の面に、金属板を接合し、窒化珪素-金属複合体とすることができる。
図3は、本実施形態の窒化珪素-金属複合体を模式的に示した断面図である。
窒化珪素-金属複合体10は、少なくとも窒化珪素基板1と、金属板2と、それら二層の間に存在するろう材層3とを備える。別の言い方としては、窒化珪素基板1と金属板2とは、ろう材層3により接合されている。
【0044】
<窒化珪素-金属複合体の製造方法>
以下、窒化珪素-金属複合体10の製造方法について説明する。窒化珪素-金属複合体10は、例えば、以下の工程により製造することができる。
(1)ろう材ペーストを窒化珪素基板1の片面または両面に塗布し、その塗布面に金属板2を接触させる。
(2)真空中もしくは不活性雰囲気中で加熱処理をすることで、窒化珪素基板1と金属板2を接合する。
【0045】
(金属板)
本実施形態に係る窒化珪素-金属複合体10に用いる金属板2に使用する金属は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銀、モリブテン、コバルトの単体またはその合金等が挙げられる。金属板2を、活性金属を含有する銀-銅系ろう材で窒化珪素基板1に接合する観点や、導電性、放熱性の観点から銅が好ましい。
【0046】
銅板を使用する場合、その純度は、90%以上であることが好ましい。純度を90%以上とすることにより、十分な導電性、放熱性を有する窒化珪素-金属複合体10となり、また窒化珪素基板1と銅板を接合する際、銅板とろう材の反応が十分進行し、信頼性の高い窒化珪素-金属複合体10を得ることができる。
【0047】
上記金属板2の厚みは限定されないが、0.1mm以上1.5mm以下のものが一般的である。金属板2の厚みは、さらに、放熱性の観点から0.2mm以上が好ましく、耐熱サイクル特性の観点から0.5mm以下が好ましい。
【0048】
(ろう材)
耐熱サイクル特性をより良好とする観点などから、本実施形態に係る窒化珪素-金属複合体10に用いるろう材は、Ag、CuおよびTi、並びに、SnおよびInのいずれか一方、又は、SnおよびInの両方を含むことが好ましい。
また、ろう材は、Ag、Cu、Ti、SnおよびInの合計を100質量部としたとき、Agが78.5質量部以上95質量部以下、Cuが5.0質量部以上13質量部以下、Tiが1.5質量部以上5.0質量部以下、SnおよびInの合計量が0.4質量部以上3.5質量部以下であることがより好ましい。
上記態様とすることで、より信頼性の高い窒化珪素-金属複合体10とすることができる。
【0049】
上記のAgとしては、比表面積が0.1m2/g以上0.5m2/g以下のAg粉末を使用するとよい。適度な比表面積のAg粉末を用いることで、粉末の凝集、接合不良、接合ボイドの形成などを十分に抑えることができる。なお、比表面積の測定にはガス吸着法を適用することができる。
Ag粉末の製法は、アトマイズ法や湿式還元法などにより作製されたものが一般的である。
【0050】
上記のCuとしては、Agリッチ相を連続化させるために、比表面積0.1m2/g以上1.0m2/g以下、かつ、レーザー回折法により測定した体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が0.8μm以上8.0μm以下のCu粉末を使用するとよい。比表面積や粒径が適度なCu粉末を使用することで、接合不良の抑制や、Agリッチ相がCuリッチ相により不連続化することの抑制などを図ることができる。
【0051】
上記のろう材粉末中に含有するSnまたはInは、窒化珪素基板1に対するろう材の接触角を小さくし、ろう材の濡れ性を改善するための成分である。これらの配合量は好ましくは、Agと、Cuの合計100質量部に対して、0.4質量部以上3.5質量部以下である。
配合量を適切に調整することで、窒化珪素基板1に対する濡れ性を適切として、接合不良の可能性を低減することができる。また、ろう材層3中のAgリッチ相がCuリッチ相により不連続化し、ろう材が割れる起点になり、熱サイクル特性が低下する可能性を低減することができる。
【0052】
上記のSnまたはInとしては、比表面積が0.1m2/g以上1.0m2/g以下、かつ、D50が0.8μm以上10.0μm以下のSnまたはIn粉末を使用するとよい。
比表面積や粒径が適度な粉末を使用することで、接合不良の可能性や接合ボイド発生の可能性を低減することができる。
【0053】
ろう材は、窒化珪素基板との反応性を高める等の観点から、活性金属を含むことが好ましい。具体的には、窒化珪素基板1との反応性が高く、接合強度を非常に高くできるため、チタンを含むことが好ましい。
チタン等の活性金属の添加量は、Ag粉末と、Cu粉末と、Sn粉末またはIn粉末の合計100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下が好ましい。活性金属の添加量を適切に調整することで、窒化珪素基板1に対する濡れ性を一層高めることができ、接合不良の発生を一層抑えることができる。また、未反応の活性金属の残存が抑えられ、Agリッチ相の不連続化なども抑えることができる。
【0054】
ろう材ペーストは、少なくとも上述の金属粉末と、必要に応じて有機溶剤や有機バインダとを混合することで得ることができる。混合には、らいかい機、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、3本ロール等を用いることができる。これにより、例えばペースト状のろう材を得ることができる。
ここで使用可能な有機溶剤は限定されない。例えば、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、イソホロン、トルエン、酢酸エチル、テレピネオール、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル、テキサノール等が挙げられる。
ここで使用可能な有機バインダは限定されない。例えば、ポリイソブチルメタクリレート、エチルセルロース、メチルセルロース、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
【0055】
(ろう材ペースト塗布工程)
上記(1)でろう材ペーストを窒化珪素基板1に塗布する方法は限定されない。例えば、ロールコーター法、スクリーン印刷法、転写法などが挙げられる。均一に塗布しやすいという点から、スクリーン印刷法が好ましい。
スクリーン印刷法でろう材ペーストを均一に塗布するためには、ろう材ペーストの粘度を5Pa・s以上20Pa・s以下に制御することが好ましい。また、ろう材ペースト中の有機溶剤量をたとえば5質量%以上17質量%以下、有機バインダ量をたとえば2質量%以上8質量%以下に調整することで、印刷性を高めることができる。
【0056】
(接合工程)
上記(2)の窒化珪素基板1と金属板2との接合については、真空中または窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中、740℃以上850℃以下の温度で、10分以上60分以下の時間での処理が好ましい。
温度を740℃以上とする、処理時間を10分以上とする、または、これらの両方の条件とすることで、たとえば金属板2が銅板であるとき銅板からの銅の溶け込み量が十分多くなり、窒化珪素基板1と金属板2との接合性を十分強固にすることができる。
一方、温度を850℃以下とする、処理時間を60分以下とする、または、これらの両方の条件とすることで、得られるろう材層中のAgリッチ相の連続性が担保されやすくなる、たとえば金属板2が銅板であるとき銅板中への過度なろう材の拡散が抑えられる、銅の再結晶化による銅結晶の粗大化が抑えられる、セラミックスと銅の熱膨張率差に由来する応力を低減できる、等のメリットを得ることができる。
【0057】
上記(1)および(2)のような工程により、窒化珪素-金属複合体10を得ることができる。本実施形態に係る窒化珪素基板1を用いることにより、窒化珪素基板1の反りを少なくすることができるため、窒化珪素基板1と、金属板2の接合の信頼性を向上させることができ、また、窒化珪素-金属複合体10の製造工程における窒化珪素基板1の変形や熱応力の蓄積を抑制することができ、歩留まりが向上するものと考えられる。
【0058】
<窒化珪素回路基板>
得られた窒化珪素-金属複合体10を更に処理し、加工し、または処理および加工し、窒化珪素回路基板得ることもできる。例えば、窒化珪素-金属複合体10の、少なくとも金属板2の一部を除去して回路を形成してもよい。より具体的には、金属板2やろう材層3の一部を、エッチングにより除去することで回路パターンを形成してもよい。これにより、窒化珪素回路基板を得ることができる。
窒化珪素-金属複合体10に回路パターンを形成して窒化珪素回路基板を得る手順について、以下に説明する。
【0059】
・エッチングマスクの形成
まず、金属板2の表面に、エッチングマスクを形成する。
エッチングマスクを形成する方法として、写真現像法(フォトレジスト法)やスクリーン印刷法、たとえば、互応化学社製PER400Kインクを用いたインクジェット印刷法など、公知技術を適宜採用することができる。
【0060】
・金属板2のエッチング処理
回路パターンを形成するため、金属板2のエッチング処理を行う。
エッチング液に関して制限はない。一般に使用されている塩化第二鉄溶液、塩化第二銅溶液、硫酸、過酸化水素水等を使用することができる。好ましいものとしては、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液が挙げられる。エッチング時間を調整することで、銅回路の側面を傾斜させてもよい。
【0061】
・ろう材層3のエッチング処理
エッチングによって金属板2の一部を除去した窒化珪素-金属複合体には、塗布したろう材、その合金層、窒化物層等が残っている。よって、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸、硝酸等の無機酸、過酸化水素水を含む溶液を用いて、それらを除去するのが一般的である。エッチング時間や温度、スプレー圧などの条件を調整することで、ろう材はみ出し部の長さ及び厚みを調整することができる。
【0062】
・エッチングマスクの剥離
エッチング処理後のエッチングマスクの剥離方法は、限定されない。アルカリ水溶液に浸漬させる方法などが一般的である。
【0063】
・メッキ/防錆処理
耐久性の向上や経時変化の抑制などの観点から、メッキ処理または防錆処理を行ってもよい。
メッキとしては、Niメッキ、Ni合金メッキ、Auメッキなどを挙げることができる。メッキ処理の具体的方法は、(i)脱脂、化学研磨、Pd活性化の薬液による前処理工程を経て、Ni-P無電解めっき液として次亜リン酸塩を含有する薬液を使用する通常の無電解めっきの方法、(ii)電極を銅回路パターンに接触させて電気めっきを行う方法などにより行うことができる。
防錆処理は、例えばベンゾトリアゾール系化合物により行うことができる。
【0064】
<半導体パッケージ>
例えば上記のようにして回路が形成された窒化珪素回路基板の上に適当な半導体素子を配置するなどしてパワーモジュール等の半導体パッケージを得ることができる。
パワーモジュールの具体的構成や詳細については、例えば、前述の特許文献1~3の記載や、特開平10-223809号公報の記載、特開平10-214915号公報の記載などを参照されたい。
【0065】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 窒化珪素とマグネシウムを含有する窒化珪素基板であって、
前記窒化珪素基板の表面を、下記条件Iで、蛍光X線分析装置で分析した際、XB/XAが0.80以上、1.00以下である、窒化珪素基板。
(条件I)
前記窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点Aを、蛍光X線分析装置で分析し、前記交差点Aにおけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXA(%)とする。また、前記対角線上にあって、前記窒化珪素基板の角部から前記交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を蛍光X線分析装置で分析し、当該4点におけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)の算術平均値をXB(%)とする。
2. 前記窒化珪素基板の表面を、下記条件IIで、蛍光X線分析装置で分析した際、YA/YBが0.90以上、1.00以下である、1.に記載の窒化珪素基板。
(条件II)
前記窒化珪素基板のいずれか一面の表面における対角線の交差点Aを、蛍光X線分析装置で分析し、前記交差点Aにおけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)をYA(%)とする。また、前記対角線上にあって、前記窒化珪素基板の角部から前記交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を蛍光X線分析装置で分析し、当該4点におけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)の算術平均値をYB(%)とする。
3. 前記窒化珪素基板を、下記条件IIIで、酸素窒素分析装置で分析した際、ZC及びZDがそれぞれ0.10%以上7.00%以下であり、かつ、ZD/ZCが0.85以上1.00以下である、1.又は2.に記載の窒化珪素基板。
(条件III)
前記窒化珪素基板から、その表面における対角線の交差点を中心とした1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Cとする。該酸素分析用試料Cを、酸素窒素分析装置で分析し、前記酸素分析用試料Cの酸素濃度(mass%)をZC(%)とする。また、前記窒化珪素基板から、その表面におけるいずれかの角部を含む1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Dとする。該酸素分析用試料Dを、酸素窒素分析装置で分析し、前記酸素分析用試料Dの酸素濃度(mass%)をZD(%)とする。
4. 前記窒化珪素基板の表面における対角線の長さが150mm以上である、1.乃至3.のいずれか1つに記載の窒化珪素基板。
5. 1.乃至4.のいずれか1つに記載の窒化珪素基板の少なくとも一方の面に、金属板を接合した窒化珪素-金属複合体。
6. 5.に記載の窒化珪素-金属複合体において、前記金属板の少なくとも一部を除去した、窒化珪素回路基板。
7. 6.に記載の窒化珪素回路基板の上に半導体素子を搭載した、半導体パッケージ。
【実施例
【0066】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
<原料混合工程>
Si粉末並びに焼結助剤であるSiO粉末、MgO粉末およびY粉末を準備し、表1に記載の配合量となるようはかり取った。そして、ボールミルの樹脂製ポット中に、上記混合粉末、有機溶剤、及び、粉砕媒体の窒化珪素製ボールを投入し、湿式混合した。さらに、有機バインダ(原料粉末の合計100質量部に対して20質量部)を添加し、湿式混合し、シート成形用スラリーを得た。
【0068】
なお、使用した原料粉末は以下に示すとおりである。
Si34粉末:デンカ社製、品番SN-9FWS、平均粒子径(D50)0.7μm
SiO2粉末:デンカ社製、品番SFP-30M、平均粒子径(D50)0.6μm
MgO粉末:岩谷化学社製、品番MTK-30、平均粒子径(D50)0.2μm
23粉末:信越化学社製、製品名球状微粉、平均粒子径(D50)1.0μm
【0069】
<シート成形工程>
得られたシート成形用スラリーを脱泡、溶媒除去により粘度を調整し、ドクターブレード法によりシートを成形した。また、打ち抜きにより、打ち抜き後シートを得た。打ち抜き後シートのサイズは、焼成後の窒化珪素基板のサイズが、148mm×200mm×0.32mmとなるよう調整した。
【0070】
<BN塗布>
上記シートの上面(一面)にBNを塗布するため、BN粉末と、有機溶媒とを含むBNスラリーを準備した。また、上記BNスラリーを上記シートの片面にコーター法もしくはスクリーン法で塗布し、乾燥させ、BN塗布されたシートを得た。
【0071】
<脱脂工程>
上記BN塗布されたシートを、60枚積層し、該積層体を大気(酸素を含む雰囲気)中で加熱することにより有機バインダを脱脂(除去)し、脱脂体を得た。
なお、脱脂の温度条件は以下に示すとおりである。
保持温度:500℃
保持時間:10時間
【0072】
<焼成工程>
得られた積層された脱脂体60枚(2040g)を、BNからなる容器(BN容器)内に設置した。なお、BN容器は、枠、下蓋、上蓋から構成され、下から、下蓋、枠、上蓋の順に設置することにより、下枠と枠、枠と上蓋とが篏合し閉じた空間を構成する構造のものであり、その容積は5544cm3である。BN容器内には、脱脂体と共に、雰囲気調整用の窒化ケイ素基板(焼結体)100gを設置した。なお、窒化珪素基板は、脱脂体に対し、垂直な向き(BN容器の枠に対し平行な向き)に設置した。脱脂体と、窒化珪素基板とを収容したBN容器を焼成炉内に入れて焼成した。
なお、焼成の条件は以下に示すとおりである。
保持温度:1850℃
保持時間:5時間
降温速度(1850-1400℃):0.8℃/分
降温速度(1400℃以下):6℃/分
雰囲気:窒素雰囲気(0.88MPa、ガス流量30L/分)
以上の工程により、148mm×200mm×0.32mmの窒化珪素基板を得た。
【0073】
<評価方法>
得られた実施例及び比較例の窒化珪素基板について、以下の方法で評価を行なった。
【0074】
(蛍光X線分析による分析)
実施例及び比較例の窒化珪素基板の表面における対角線の交差点を交差点Aとし、交差点Aを中心として、蛍光X線分析装置で組成分析を行った。
また、窒化珪素基板の表面における2本の対角線上に存在する窒化珪素基板の角部から交差点Aの方向に3mm内側に位置する4点B1、B2、B3、B4を中心として蛍光X線分析装置で組成分析を行った。
蛍光X線分析における分析条件は、以下の通りである。
測定装置:株式会社リガク製、ZSX100e
X線管電力:3.6kW
スポット径:1mm
定量方法は、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)を採用した。シリコンについては、すべて窒化物(Si34)として存在するものとして、各成分の合計が100%となるように、窒化珪素(Si34)をバランス成分として計算した。また、マグネシウム、および、イットリウムについては、それぞれが、酸化物で存在するものとし、酸化マグネシウム(MgO)、および、酸化イットリウム(Y23)換算で計算した。
【0075】
Aにおけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXA(%)、B1、B2、B3、B4におけるマグネシウム量(mass%、酸化物換算)をXB1(%)、XB2(%)、XB3(%)、XB4(%)とし、XB1(%)、XB2(%)、XB3(%)、XB4(%)の算術平均値をXB(%)とした。
Aにおけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)をYA(%)、B1、B2、B3、B4におけるイットリウム量(mass%、酸化物換算)をYB1(%)、YB2(%)、YB3(%)、YB4(%)とし、YB1(%)、YB2(%)、YB3(%)、YB4(%)の算術平均値をYB(%)とした。
また、XB/XAおよびYA/YBを算出した。
結果を表1に示す。
【0076】
(酸素窒素分析計による分析)
実施例及び比較例の窒化珪素基板から、その表面における対角線の交差点を中心とした1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Cとした。該酸素分析用試料Cを、酸素窒素分析装置で分析し、酸素分析用試料Cの酸素濃度(mass%)をZC(%)とした。また、実施例及び比較例の窒化珪素基板から、角部を含む1辺が3mmの正方形を切り出し、酸素分析用試料Dとした。該酸素分析用試料Dを、酸素窒素分析装置で分析し、酸素分析用試料Dの酸素濃度(mass%)をZD(%)とした。酸素窒素分析装置は株式会社堀場製作所製、EMGA-920を用いた。
結果を表1に示す。
【0077】
(反り測定)
実施例及び比較例の窒化珪素基板の反りをキーエンス社製の三次元レーザー計測器で測定した。
測定ソフト型番:KS-Measure KS-H1M
解析ソフト型番:KS-Analyser KS-H1A
各実施例および比較例の窒化珪素基板を水平に設置し、148mm×200mmの窒化珪素基板の表面全体を1mm間隔で走査し、窒化珪素基板表面面内における最低点と最高点の高さの差を窒化珪素基板の反り量(μm)とし、反り量(μm)を対角線の長さ(mm)で除したものを単位長さあたりの反り(μm/mm)とし、以下の基準で評価を行なった。
○:単位長さあたりの反り量が2.0μm/mm未満
×:単位長さあたりの反り量が2.0μm/mm以上
同時に焼成した60枚の窒化珪素基板について反りの評価を行ない、○を合格とし、×を不合格としたときの歩留まりを算出した。結果を表1に示す。
また、実施例1の窒化珪素基板について、破壊靭性値を測定した。3枚の基板A~Cについて、基板中央部(対角線の交差点を中心とした半径3mm以内の領域)及び基板外周部(角部から、半径3mm以内の領域)における破壊靭性値を測定したところ、それぞれ、基板Aの基板中央部6.6Mpa/m1/2、基板外周部6.7Mpa/m1/2、基板Bの基板中央部6.8Mpa/m1/2、基板外周部6.9Mpa/m1/2、基板Cの基板中央部6.8Mpa/m1/2、基板外周部6.7Mpa/m1/2であり、実施例1の窒化珪素基板は、同時に焼成した複数の窒化珪素基板内における機械特性のばらつきが少なく、かつ、1枚の窒化珪素基板内における機械特性の面内分布が少ないことが確認された。
なお、破壊靭性は、JIS-R1607に基づき、IF法で測定した。すなわち、ビッカース圧子を試験面に押し込むことによって生じる圧こん、及び、き裂の長さを測定し、押込み荷重、圧こんの対角線長さ、き裂長さ、及び、弾性率から破壊靭性値を算出した。押込み荷重は2Kgf(19.6N)とした。
【0078】
[実施例2~4]
原料配合比を表1に記載の通りとした以外は、実施例1と同様に窒化珪素基板を作製し、蛍光X線分析による分析、酸素窒素分析計による分析、反り測定を行った。
結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
焼成工程において、1850℃から1400℃までの降温速度を8℃/分とし、BN容器内に雰囲気調整用窒化珪素基板を設置しなかった以外は、実施例1と同様に窒化珪素基板を作製し、蛍光X線分析による分析、酸素窒素分析計による分析、反り測定を行った。
結果を表1に示す。
【0080】
[比較例2]
焼成工程において、BN容器内に雰囲気調整用窒化珪素基板を設置しなかった以外は、実施例1と同様に窒化珪素基板を作製し、蛍光X線分析による分析、酸素窒素分析計による分析、反り測定を行った。
結果を表1に示す。
【0081】
各実施例・比較例から理解されるように、高温領域における降温速度、及び、焼成雰囲気を最適化した実施例においては、XB/XAを0.80以上、1.00以下に制御することができ、基板サイズが148mm×200mmと比較的大きい窒化珪素基板であるにもかかわらず、高い歩留りで反りを低減した窒化珪素基板を得ることができた。一方、降温速度や焼成雰囲気の調整を行わなかった比較例においては、XB/XAを0.80以上、1.00以下に制御することができず、高い歩留りで反りを低減した窒化珪素基板を得ることができなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
この出願は、2019年3月29日に出願された日本出願特願2019-065541号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0084】
1 窒化珪素基板
2 金属板
3 ろう材層
図1
図2
図3