(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】シクロドデカノンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/58 20060101AFI20230201BHJP
C07D 301/12 20060101ALI20230201BHJP
C07D 303/04 20060101ALI20230201BHJP
C07C 49/607 20060101ALI20230201BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
C07C45/58
C07D301/12
C07D303/04
C07C49/607
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021529771
(86)(22)【出願日】2019-09-16
(86)【国際出願番号】 KR2019011907
(87)【国際公開番号】W WO2020130292
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165138
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジョンソク
(72)【発明者】
【氏名】パク, ジンホ
(72)【発明者】
【氏名】ソン, キュホ
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034938(JP,A)
【文献】特開2003-335722(JP,A)
【文献】特開2001-226311(JP,A)
【文献】特開2004-131505(JP,A)
【文献】特開2000-256340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン化合物、リン酸化合物、およびアミン化合物を含む触媒系下で、シクロドデセンおよび過酸化水素の混合物に
下記関係式を満たすように過酸化水素を追加注入しながら熱を加え、エポキシ化シクロドデカンを製造するステップと、
アルカリ金属ハライド触媒下で、前記エポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物の分離なしに転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップと、を含む、シクロドデカノンの製造方法。
[関係式]
50≦In
f
≦150
1.0≦In
m
≦3.0
(前記関係式中、
In
f
は、追加注入する過酸化水素の毎分当りの注入流量(μl/min)であり、
In
m
は、シクロドデセン(A)と、追加注入する過酸化水素(B)とのモル比(B/A)である。)
【請求項2】
前記混合物は、実質的にシクロドデカンを含まないものである、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項3】
前記混合物は、前記シクロドデセン100重量部を基準として、1~10重量部の過酸化水素が混合されたものである、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項4】
前記タングステン化合物は、タングステン酸、タングステン酸の塩、またはこれらの混合物である、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項5】
前記リン酸化合物は、無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、またはこれらの混合物である、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項6】
前記アミン化合物は、三級アミン、四級アンモニウム塩、またはこれらの混合物である、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項7】
前記触媒系は、前記シクロドデセン100重量部を基準として、0.001~10重量部で含まれる、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項8】
前記触媒系は、前記タングステン化合物(a)、リン酸化合物(b)、およびアミン化合物(c)を1:0.1~2.0:0.1~5.0の重量比で混合したものである、請求項
7に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項9】
前記エポキシ化シクロドデカンを製造するステップは、50~120℃の温度条件で行う、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項10】
前記転位反応は、溶媒なしに行う、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属ハライド触媒は、前記エポキシ化シクロドデカン100重量部を基準として、0.01~10重量部で含まれる、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【請求項12】
前記シクロドデセンの転換率および前記エポキシ化シクロドデカンの転換率が90%以上である、請求項1に記載のシクロドデカノンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロドデカノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロドデカノン(CDON、cyclododecanone)は、ラウロラクタム(laurolactam)の製造のために用いられるものであり、前記ラウロラクタムは、エンジニアリングプラスチックの1つであるポリアミド(例えば、ナイロン-12、ナイロン6-12など)を製造するためのモノマーとして用いられる有機化合物である。
【0003】
シクロドデカノンの製造は、一般に、シクロドデカトリエン(CDT、cyclododecatriene)から出発して行われることができる。具体的に、シクロドデカノンは、、シクロドデカトリエンから選択的水素化反応によりシクロドデセン(CDEN、cyclododecene)を製造した後、シクロドデセンを酸化反応させることで製造されることができる。しかし、上述のシクロドデカノンの製造方法によると、相当量の副生成物(例えば、シクロドデカノール、シクロドデカンジオールなど)が発生するという問題がある。
【0004】
そこで、上述の従来技術の問題は、ラウロラクタムの製造のための全プロセスシステムを構築するにおいて不利な影響を与えるため、より効率的な方法を捜すための研究が依然として必要である。
【0005】
このような従来技術の問題を解決するために、本発明者らは、シクロドデカノンの製造方法に関する効率的な方法を鋭意研究した。その結果、エポキシ化シクロドデセンを中間体とする中間段階の導入において、過酸化水素の添加形態を調節することにより、著しく向上した転換率および選択度でシクロドデカノンが製造可能であることを確認し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い転換率および選択度でシクロドデカノンを製造することができる製造方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、過酸化水素の分解を効果的に抑え、過酸化水素の選択度を高めることができるシクロドデカノンの製造方法を提供することにある。
【0008】
さらに、本発明の目的は、より簡素化された工程構成により、経済性のあるシクロドデカノンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的のために、タングステン化合物、リン酸化合物、およびアミン化合物を含む触媒系下で、シクロドデセンおよび過酸化水素の混合物に過酸化水素を追加注入しながら熱を加え、エポキシ化シクロドデカンを製造するステップと、
アルカリ金属ハライド触媒下で、前記エポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物の分離なしに転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップと、を含むシクロドデカノンの製造方法が提供される。
【0010】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、追加注入する過酸化水素は、下記関係式を満たすように注入してもよい。
【0011】
[関係式]
50≦Inf≦150
1.0≦Inm≦3.0
(前記関係式中、
Infは、追加注入する過酸化水素の毎分当りの注入流量(μl/min)であり、
Inmは、シクロドデセン(A)と、追加注入する過酸化水素(B)とのモル比(B/A)である。)
【0012】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記混合物は、実質的にシクロドデカンを含まないものであってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記混合物は、前記シクロドデセン100重量部を基準として、1~10重量部の過酸化水素が混合されたものであってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記タングステン化合物は、タングステン酸およびタングステン酸の塩などから選択される1つまたは2つ以上の混合物であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記リン酸化合物は、無機リン酸、無機リン酸塩、および有機リン酸などから選択される1つまたは2つ以上の混合物であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記アミン化合物は、三級アミン、四級アンモニウム塩などから選択される1つまたは2つ以上の混合物であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記触媒系は、前記シクロドデセン100重量部を基準として、0.001~10重量部で含まれてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記触媒系のタングステン化合物(a)、リン酸化合物(b)、およびアミン化合物(c)は、1:0.1~2.0:0.1~5.0の重量比で混合してもよい。
【0019】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記エポキシ化シクロドデカンを製造するステップは、50~120℃の温度条件で行ってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記転位反応は、溶媒なしに行ってもよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記アルカリ金属ハライド触媒は、前記エポキシ化シクロドデカン100重量部を基準として、0.01~10重量部で含まれてもよい。
【0022】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法によると、前記シクロドデセンの転換率および前記エポキシ化シクロドデカンの転換率は、90%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、最終生成物中に反応副生成物として得られるシクロドデカノール、シクロドデカンジオールなどの比率を画期的に減少させることができ、高い転換率でシクロドデカノンを製造することができる。
【0024】
また、本発明によると、反応副生成物を除去するための分離・精製工程も不要である。これにより、本発明は、簡素化された工程構成を提供し、商業的に大量生産が容易なシクロドデカノンの製造方法を提供することができるという利点がある。
【0025】
さらに、本発明によると、過酸化水素の添加形態を調節することで過酸化水素自体の分解を効果的に抑え、過酸化水素の選択度を高めることができる。これにより、本発明は、過酸化水素の分解による爆発的な反応を防止し、それによる反応熱を効率的に抑えることで、工程便宜性を向上させることができるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明に係るシクロドデカノンの製造方法について説明するが、ここで用いられる技術用語および科学用語において別に定義がない限り、この発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明において、本発明の要旨を不明瞭にする可能性のある公知機能および構成についての説明は省略する。
【0027】
本発明は、上述の従来技術の問題に着目し、非常に経済的な方法により高い転換率および選択度を実現できるシクロドデカノンの製造方法を提案しようとする。
【0028】
本発明によると、高い転換率を実現し、未反応物および反応副生成物の生成を最小化することで、追加の分離・精製ステップが不要であるため、工程構成を簡素化することができる。また、本発明によると、触媒活性を極大化し、過酸化水素による爆発危険性がない、安定した製造工程を提供することができる。
【0029】
そこで、本発明によると、高い転換率および選択度を示すことはいうまでもなく、連続的に運転することができる簡素化された工程構成により、実際産業への適用に非常に有利であるという利点がある。
【0030】
本発明は、前述のように、過酸化水素の添加形態を調節することで、不測の転換率および選択度の向上を確認するとともに、アルカリ金属ハライド触媒下で行われる転位反応により、効率的なシクロドデカノンの製造が可能であることを確認し、これを提案しようとする。
【0031】
以下、本発明のシクロドデカノンの製造方法について具体的に説明する。
【0032】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法は、(1)タングステン化合物、リン酸化合物、およびアミン化合物を含む触媒系下で、シクロドデセンおよび過酸化水素の混合物に過酸化水素を追加注入しながら熱を加え、エポキシ化シクロドデカンを製造するステップと、(2)アルカリ金属ハライド触媒下で、前記エポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物から、転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップと、を含んでもよい。この際、前記エポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物は、ステップ(1)で追加の分離・精製工程なしに用いられるものであることができる。
【0033】
具体的に、本発明に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記過酸化水素の添加形態は、前記シクロドデセン100重量部を基準として、10重量部以下の過酸化水素を混合した混合物を含む反応器内に連続的に過酸化水素を追加投入する形態であってもよい。
【0034】
本発明に係る転換率および選択度の向上は、上述の過酸化水素の添加形態によるが、注入される全過酸化水素のモル比(シクロドデカノン基準)と、それを注入する流量によって、その効果が驚くべき向上するという点から、本発明は注目される。
【0035】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、追加注入する過酸化水素は、上述の添加形態によることを特徴とし、下記関係式を満たすように注入する場合に、驚くべきに向上した転換率と選択度を実現することができる。
【0036】
[関係式]
50≦Inf≦150
1.0≦Inm≦ 3.0
(前記関係式中、
Infは、追加注入する過酸化水素(B)の流量(μl/min)であり、
Inmは、シクロドデセン(A)と、追加注入する過酸化水素(B)とのモル比(B/A)である。)
【0037】
前記Infは、具体的に、60~140μl/min、より具体的には70~120μl/minの流量を満たしてもよい。この際、前記Infは、0.1Lの反応器を基準とした流量であり、反応器の容量の増加に応じて定量的に増加された数値の流量によることができる。
【0038】
一例として、追加注入する過酸化水素(B)は、反応溶液を含んでいる反応器に、上述の流量でポンプにより注入されることができる。
【0039】
一例として、前記過酸化水素は、純粋過酸化水素または過酸化水素水溶液などであってもよく、前記過酸化水素水溶液は、30wt%、34.5wt%、50wt%などの濃度のものであってもよい。
【0040】
また、前記Inmは、具体的に、1.5~2.5のモル比(B/A)、より具体的には2.0~2.4のモル比(B/A)を満たしてもよい。
【0041】
上述の関係式を満たさない場合には、過量の反応副生成物の生成をもたらし、過酸化水素の分解が促進されて、エポキシ化に対する選択度(過酸化水素の選択度)が低下するため、効率において不利であって好ましくない。また、過量の過酸化水素の供給は、工程中に2つの液相系の界面温度を高め、過酸化された形態の反応副生成物を急激に生成させるため好ましくない。
【0042】
上述の関係式を満たさない場合に生成される反応副生成物としては、シクロドデカノール、シクロドデカンジオールなどが挙げられる。そのため、本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法の出発物質である前記シクロドデセンまたはシクロドデセンを含む混合物は、実質的にシクロドデカンを含まないことができる。
【0043】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記混合物は、前記シクロドデセン100重量部を基準として、1~10重量部の過酸化水素が混合されたものであってもよく、具体的には1~8重量部、より具体的には1~5重量部の過酸化水素が前記シクロドデセンと混合されたものであってもよい。前記混合物に含まれる少量の過酸化水素は、酸化剤としての目的ではなく、触媒活性を極大化するための用途である。したがって、前記混合物に含まれる過酸化水素の量が上述の範囲を外れる場合には、触媒活性が低下して好ましくない。
【0044】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記触媒系に含まれ得るタングステン化合物は、タングステン酸およびタングステン酸の塩などから選択される1つまたは2つ以上の混合物であってもよい。
【0045】
前記タングステン化合物の一例としては、三酸化タングステンの一水和物形態または二水和物形態のタングステン酸;タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸アンモニウムなどのタングステン酸塩;などが挙げられる。
【0046】
一例として、前記触媒系に含まれるタングステン化合物が上述のタングステン酸を含む場合、不均一触媒系の形態を有することができる。
【0047】
一例として、前記触媒系に含まれるタングステン化合物が、上述のタングステン酸塩から選択される1つまたは2つ以上の混合物を含む場合、均一触媒系の形態を有することができる。
【0048】
一例として、前記触媒系は、上述のタングステン酸と上述のタングステン酸塩を同時に含む場合に、より向上した転換率を実現可能であって好ましい。
【0049】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記触媒系に含まれ得る前記リン酸化合物は、無機リン酸、無機リン酸塩、および有機リン酸などから選択される1つまたは2つ以上の混合物であってもよい。
【0050】
前記リン酸化合物の一例としては、リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸などの無機リン酸;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウムなどの無機リン酸塩;モノメチルリン酸、ジメチルリン酸、トリメチルリン酸、トリエチルリン酸、トリフェニルリン酸などの有機リン酸;などが挙げられる。
【0051】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記触媒系に含まれ得る前記アミン化合物は、三級アミン、四級アンモニウム塩などから選択される1つまたは2つ以上の混合物であってもよい。
【0052】
前記アミン化合物としては、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、ブチルジメチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリイソアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、およびトリ-(2-エチルヘキシル)アミンなどから選択される三級アミン;およびドデシルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、メチルトリブチルアンモニウム塩、およびメチルトリオクチルアンモニウム塩などから選択される四級アンモニウム塩;などが挙げられる。
【0053】
具体的に、前記エポキシ化シクロドデカンを製造するステップ(1)は、シクロドデセンを含む液相、および過酸化水素水溶液を含むさらに他の液相からなる2つの液相系で酸化が行われ、反応終了後に、2つの液相系が迅速に相分離が起こることが好ましい。そのため、前記触媒系に含まれるアミン化合物は、炭素数7以上の長鎖アルキルを含むことが好ましい。
【0054】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記触媒系は、前記シクロドデセン100重量部を基準として、0.001~10重量部で含まれてもよく、具体的には、0.01~5重量部、より具体的には0.1~1.0重量部で含まれてもよい。
【0055】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記触媒系のタングステン化合物(a)、リン酸化合物(b)、およびアミン化合物(c)は、1:0.1~2.0:0.1~5.0の重量比(a:b:c)で混合してもよい。前記重量比(a:b:c)は、具体的に、1:0.5~1.5:0.5~3.0であってもよく、より具体的には1:0.8~1.0:1.0~2.5であってもよい。
【0056】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記エポキシ化シクロドデカンを製造するステップ(1)は、50~120℃の温度条件で行ってもよい。
【0057】
一例として、前記ステップ(1)は、60~100℃の温度条件で0.5~12時間行ってもよい。
【0058】
一例として、前記ステップ(1)は、70~90℃の温度条件で2~8時間行ってもよい。
【0059】
また、本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップ(2)は、アルカリ金属ハライド触媒下で行ってもよい。
【0060】
前記アルカリ金属ハライド触媒の一例としては、KI、NaI、LiI、NaCl、KCl、LiCl、NaBr、KBr、およびLiBrなどが挙げられ、これらから選択される1つまたは2つ以上の混合物で用いてもよいことはいうまでもない。
【0061】
前記転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップ(2)は、溶媒なしに行ってもよい。また、前記ステップ(2)は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0062】
前記不活性ガスは、通常のものであれば制限されず、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス、ネオンガスなどから選択される1つまたは2つ以上の混合ガスであってもよい。
【0063】
また、前記転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップ(2)では、上述のステップ(1)から得られたエポキシ化シクロドデカンを含む、精製されていない反応混合物を用いてもよい。これにより、前記ステップ(2)は、向上した転換率および選択度を実現することができる。
【0064】
前記ステップ(1)から得られたエポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物は、後続のステップ(2)の転換率および選択度にも好ましい影響を与える。
【0065】
一例として、前記ステップ(1)では、前記シクロドデセンの転換率が90%以上であってもよく、具体的には95%以上99.9%以下、より具体的には98%以上99.99%以下であってもよい。
【0066】
一例として、前記ステップ(2)では、前記エポキシ化シクロドデカンの転換率が90%以上であってもよく、具体的には95%以上99.9%以下、より具体的には98%以上99.99%以下であってもよい。
【0067】
一例として、前記ステップ(1)から得られたエポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物は、ステップ(1)が完了した後に追加の分離・精製工程が不要であり、後続のステップ(2)を連続工程として進行することができる。これにより、本発明は、より簡素化された工程を提供することができる。
【0068】
前記転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップ(2)は、前記エポキシ化シクロドデカン100重量部を基準として、アルカリ金属ハライド触媒が0.01~10重量部で含まれてもよい。具体的に、前記アルカリ金属ハライド触媒は、0.1~5重量部、より具体的には0.5~3重量部で含まれることが好ましい。
【0069】
本発明の一実施形態に係るシクロドデカノンの製造方法において、前記転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップ(2)は、100~300℃の温度条件で行ってもよい。
【0070】
一例として、前記ステップ(2)は、120~250℃の温度条件で0.5~8時間行ってもよい。
【0071】
一例として、前記ステップ(2)は、150~230℃の温度条件で0.5~6時間行ってもよい。
【0072】
上述のように、本発明に係るシクロドデカノンの製造方法は、ラウロラクタムを製造するための中間ステップとして、高い転換率および選択度を付与する。具体的に、前記シクロドデセンを用いたシクロドデカノンへの転換率は、最小90%以上に達し、このような高い転換率は、従来技術に比べて顕著な転換率である。このような効果の顕著性により、本発明に係るシクロドデカノンの製造方法は、ラウロラクタムの商業化のためのプロセスシステムへの適用に有用に活用可能であると期待される。
【0073】
以下、上述の本発明の製造方法を採用した一態様を具体的に説明する。
【0074】
一態様において、上述のシクロドデカノンの製造方法は、ラウロラクタムの製造時に反応中間ステップとして採用されることができる。
【0075】
具体的に、ラウロラクタムの製造方法は、(1)タングステン化合物、リン酸化合物、およびアミン化合物を含む触媒系下で、シクロドデセンおよび過酸化水素の混合物に過酸化水素を追加注入しながら熱を加え、エポキシ化シクロドデカンを製造するステップと、(2)アルカリ金属ハライド触媒下で、前記エポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物から、転位反応によりシクロドデカノンを製造するステップと、(3)前記シクロドデカノンから、アンモ酸化反応によりシクロドデカノンオキシムを製造するステップと、(4)前記シクロドデカノンオキシムから、ベックマン転位反応によりラウロラクタムを製造するステップと、を含んでもよい。
【0076】
本発明の一実施形態に係るラウロラクタムの製造方法は、上述の本発明のシクロドデカノンの製造方法を採用することで、最終ステップまでの転換率に優れる効果を付与する。この際、前記最終ステップまでの転換率は、前記ステップ(1)~ステップ(4)を含む全ステップ(Total step)での転換率を意味する。
【0077】
具体的に、本発明の一実施形態に係るラウロラクタムの製造方法において、最終ステップまでの転換率が90%以上であって、著しく向上した転換率で目的のラウロラクタムを提供することができる。
【0078】
前記シクロドデカノンオキシムを製造するステップ(3)は、エタノールを含む溶媒中で、アンモニア;過酸化水素;チタンシリカライトなどを含む触媒;およびアンモニウムアセテートなどを含む反応活性剤;をシクロドデカノンと反応させて製造してもよい。
【0079】
一例として、前記ステップ(3)では、エタノールを含む溶媒に、シクロドデカノン、触媒、および反応活性剤を反応器内で混合した後、反応器内に1.3~2.5barになるまでアンモニアガスを注入してもよい。その後、前記反応器内に過酸化水素を0.5~3.5ml/minの流量でポンプにより注入してもよい。
【0080】
一例として、前記ステップ(3)は、50~100℃の温度条件で、15~70分間行ってもよい。
【0081】
本発明の一実施形態に係るラウロラクタムの製造方法において、前記シクロドデカノンオキシムを製造するステップ(3)は、シクロドデカノンからの転換率が99%以上であり、具体的には99~99.99%であってもよい。
【0082】
前記ラウロラクタムを製造するステップ(4)は、上述の製造方法により製造されたシクロドデカノンオキシムを用いて、通常のベックマン転位反応により製造されることができる。
【0083】
前記ベックマン転位反応は、塩化シアヌール(Cyanuric chloride)などを含む主触媒と塩化亜鉛(Zine chloride)などを含む助触媒を混合した触媒系を用いて行われることができる。
【0084】
一例として、前記ステップ(4)は、イソプロピルシクロヘキサン(Isopropylcyclohexane)などを含む溶媒中で、70~130℃の温度条件で、1~20分間行ってもよい。
【0085】
本発明の一実施形態に係るラウロラクタムの製造方法において、前記シクロドデカノンオキシムを製造するステップ(4)は、シクロドデカノンオキシムからの転換率が99%以上であり、具体的には99~99.99%であってもよい。
【0086】
また、本発明の一実施形態に係るラウロラクタムの製造方法において、前記ラウロラクタムの選択度は99%以上であり、具体的には99~99.99%であってもよい。
【0087】
以下、実施例を挙げて、本発明のエポキシ化シクロドデカンを中間体とする中間ステップを含む、ラウロラクタムの製造のための新しい方法についてより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を詳細に説明するための1つの参照にすぎず、本発明がこれに限定されるわけではなく、様々な形態で実現されることができる。
【0088】
また、別に定義されない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する当業者の1つにより一般に理解される意味と同一の意味を有する。本願で説明に用いられる用語は、単に特定実施例を効果的に記述するためのものであり、本発明を制限する意図ではない。
【0089】
また、明細書において特に記載しない使用量の単位はgである。
【実施例】
【0090】
(実施例1)
ステップ1.エポキシ化シクロドデカンの製造方法
【化1】
高速撹拌回分(Batch)反応器(100ml)に、シクロドデセン25g、H
2WO
4 0.075g、H
3PO
4 0.06g、トリ-n-オクチルアミン(Tri-n-octyl amine)0.105g、H
2O 1.4g、50wt%のH
2O
2 1.02gを入れた。その後、80℃で総4時間反応を進行させた。前記反応中に、反応器の内容物を1500rpmで撹拌させながら、ポンプにより毎分当り85ulの過酸化水素(50wt% in water)を追加注入させた。
【0091】
前記製造方法によるシクロドデセンの転換率は98.8%であり、選択度は99.9%であった。
【0092】
ステップ2.シクロドデカノンの製造方法
【化2】
グローブボックス(Glovebox)を用いて、非活性条件(inert condition)で50mlの丸底フラスコに、前記ステップ1で得られたエポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物5g、リチウムブロミド(LiBr)0.085gを入れた。その後、窒素バルーンを作製してフラスコに連結させた後、シリコーンオイルが入ったオイルバス(oil bath)に入れ、200℃で総2時間反応を進行させた。
【0093】
前記製造方法によるエポキシ化シクロドデカンの転換率は99.5%であり、選択度は99.8%であった。
【0094】
(実施例2~実施例6)
下記表1に示したように過酸化水素の添加量および添加形態を調節し、前記実施例1と同様の方法により各反応を行った。
【0095】
その結果、各ステップの転換率および選択度は、下記表2に示した。
【0096】
【0097】
【0098】
(実施例7)
ステップ1.エポキシ化シクロドデカンの製造方法
高速撹拌回分(Batch)反応器(100ml)に、シクロドデセン25g、Na2WO4 0.1g、H3PO4 0.06g、アリコット336(cognis)0.12g、H2O 1.4g、50wt%のH2O2 1.02gを入れた。その後、80℃で総4時間反応を進行させた。前記反応中に、反応器の内容物を1500rpmで撹拌させながら、ポンプにより毎分当り85μlの過酸化水素を追加注入させた。
【0099】
前記製造方法によるシクロドデセンの転換率は96.0%であり、選択度は98.1%であった。
【0100】
ステップ2.シクロドデカノンの製造方法
前記ステップ1で得られたエポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物を用いて、前記実施例1のステップ2と同様の方法により反応を行った。
【0101】
前記製造方法によるエポキシ化シクロドデカンの転換率は99.0%であり、選択度は99.3%であった。
【0102】
(実施例8)
ステップ1.エポキシ化シクロドデカンの製造方法
高速撹拌回分(Batch)反応器(100ml)に、シクロドデセン25g、H2WO4 0.075g、H3PO4 0.06g、アリコット336(cognis)0.12g、H2O 1.4g、50wt%のH2O2 1.02gを入れた。その後、80℃で総4時間反応を進行させた。前記反応中に反応器の内容物を1500rpmで撹拌させながら、ポンプにより毎分当り85μlの過酸化水素を追加注入させた。
【0103】
前記製造方法によるシクロドデセンの転換率は99.8%であり、選択度は98.8%であった。
【0104】
ステップ2.シクロドデカノンの製造方法
前記ステップ1で得られたエポキシ化シクロドデカンを含む反応混合物を用いて、前記実施例1のステップ2と同様の方法により反応を行った。
【0105】
前記製造方法によるエポキシ化シクロドデカンの転換率は99.2%であり、選択度は99.0%であった。
【0106】
(比較例1)
前記実施例1と同様の方法により行い、この際、前記実施例1のステップ1で使用された過酸化水素の総使用量を初期反応器に混合して反応を行った。
【0107】
この場合、過酸化水素による爆発的な気体が生じ、温度が上昇して反応中に反応を終結しなければならなかった。
【0108】
前記実施例から確認されたように、本発明によると、シクロドデセンから高い転換率および選択度でシクロドデカノンを製造することができることを確認した。特に、追加注入する過酸化水素の流量および総使用量が上述の関係式を満たす場合、転換率および選択度が驚くべき向上する効果を奏することを確認することができる。
【0109】
また、前記ステップ1において、初期反応器に混合される過酸化水素の量が少ない場合、触媒の形成に影響を受けて転換率がやや低下し得ることを確認した。また、前記ステップ1において、初期反応器に混合する過酸化水素の量が過量である場合には、過酸化水素の総使用量が同一であっても、過酸化水素の分解によりエポキシ化に対する選択度が低下し、全転換率が低下し得ることを確認した。
【0110】
前記実施例から確認されたように、本発明によると、未反応物はいうまでもなく、反応副生成物を最小化し、反応副生成物を除去するための分離・精製工程も不要である。これにより、本発明は、簡素化された工程構成を提供し、商業的な大量生産に有利である。
【0111】
まとめると、本発明によると、簡素化された工程構成により、高い転換率および選択度のシクロドデカノンを非常に経済的な条件で提供することができ、ラウロラクタムの商業化のためのプロセスシステムへの適用に有用に活用可能であると期待される。
【0112】
以上のように、特定事項と限定された実施形態により本発明を説明したが、これは、本発明のより全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正および変形が可能である。
【0113】
したがって、本発明の思想は、説明された実施形態に限定されて決まってはならず、添付の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的変形がある全てのものなどは、本発明思想の範疇に属するといえる。