(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】ねじ棒付き圧着グリップ、緊張材及び緊張装置
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20230201BHJP
E01C 11/20 20060101ALI20230201BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01C11/20
E04C5/12
(21)【出願番号】P 2022196303
(22)【出願日】2022-12-08
【審査請求日】2022-12-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000252056
【氏名又は名称】日鉄SGワイヤ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591211917
【氏名又は名称】川田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】森石 慶久
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛文
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】実公昭54-116(JP,Y1)
【文献】特開2003-27663(JP,A)
【文献】特開2006-169731(JP,A)
【文献】特開2011-43025(JP,A)
【文献】特開2018-76745(JP,A)
【文献】特開2019-49190(JP,A)
【文献】特許第6739831(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 11/20
E01D 22/00
E04C 5/00- 5/20
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のグリップ部と、
前記グリップ部の長手方向の一方の端部から突設する、前記グリップ部よりも小径なねじ棒と、からなり、
前記グリップ部の前記ねじ棒側の端部に、略直角に中間段差部を設け、
前記グリップ部の前記ねじ棒側と逆側の端部に、略直角に端部段差部を設けることを特徴とする、
ねじ棒付き圧着グリップ。
【請求項2】
前記中間段差部と前記端部段差部とは、前記グリップ部の長手方向で平面視多角形状を呈することを特徴とする、
請求項1に記載のねじ棒付き圧着グリップ。
【請求項3】
前記中間段差部と前記端部段差部とは、前記グリップ部の長手方向で平面視ギア状を呈することを特徴とする、
請求項1に記載のねじ棒付き圧着グリップ。
【請求項4】
前記中間段差部と前記端部段差部とは、周方向に所定の間隔で凹部を形成することを特徴とする、
請求項1に記載のねじ棒付き圧着グリップ。
【請求項5】
PC鋼より線からなり、請求項1乃至4に記載のねじ棒付き圧着グリップを端部に圧着したことを特徴とする、緊張材。
【請求項6】
請求項1乃至4に記載のねじ棒付き圧着グリップに取り付けた緊張材を緊張するための緊張装置であって、
前記ねじ棒付き圧着グリップを包囲する複数本のロッドと、
前記複数本のロッドの両端に固定する2枚の固定プレートと、
前記2枚の固定プレートの間に、前記ロッドに沿って摺動可能に設ける緊張プレートと、からなり、
前記緊張プレートは、前記ねじ棒付き圧着グリップの前記端部段差部と嵌合可能なロック部材を有することを特徴とする、
緊張装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC工法における緊張材の端部に設ける圧着グリップに関し、特に、ねじ棒を設けたねじ棒付き圧着グリップ、ねじ棒付き圧着グリップを取り付けた緊張材及び、ねじ棒付き圧着グリップを取り付けた緊張材を緊張するための緊張装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路の多くが開通から30年以上を過ぎて老朽化が進んでおり、その対策として高速道路の更新・修繕工事が行われている。そして、特に交通量の多い高速道路では、交通への影響を抑えて更新・修繕工事を行うことが求められている。
【0003】
交通への影響を抑えるための方法として、上下線で分かれた中央部分を拡幅して道路とする工事が考えられる。中央部分を拡幅することで、上下線の車線数を減らすことなく更新・修繕工事を行う事が可能となる。
【0004】
中央部分を拡幅する場合、拡幅する中央部分にもPC工法を適用する工法が以下の手順で行われる。
(1)上下線間に下部工を施工し、中央側端部付近の床版をはつって既存の緊張材を露出し、中間定着具を固定する(
図9(a))。
(2)外桁を撤去し、中間定着具間に中央部分用の緊張材を配置、固定し、中央部分にコンクリートを打設する。このとき、一方の中間定着具側は箱抜きをしておく(
図9(b))。
(3)箱抜き部分の緊張材に緊張装置を設けて、中央部分の緊張材を横締めする(
図9(c))。
(4)箱抜き部分を埋め、上部に舗装を行う(
図9(d))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の工法を行う場合、上下線の緊張材の位置が一直線上であれば中央部の緊張材として鋼棒を用いることができるが、既存の現場においては上下線の緊張材の位置が一直線上にあるとは限らない。
このとき、緊張材が可撓性を有するより線であれば上下線の緊張材の位置のずれに対応でき、鋼棒のねじ機能を付与したねじ棒付きの圧着グリップを用いればこの問題を解決できる。
【0007】
ねじ棒付きの圧着グリップとしては、特許文献1に記載のネジ付き圧着グリップが知られている。
しかし、特許文献1のネジ付き圧着グリップは中間部及び端部にテーパを有しており、中間定着具に連結した状態での緊張材の緊張には適していない。また、緊張時に緊張材のより戻りによるネジ付き圧着グリップの回転が生じ、所定の緊張力の導入、緊張材の品質確保を行うことができない。
【0008】
本発明は、緊張時に緊張材のより戻りによる回転を防ぐ、ねじ棒付き圧着グリップと、ねじ棒付き圧着グリップに取り付けた緊張材を緊張するための緊張装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のねじ棒付き圧着グリップは、筒状のグリップ部と、前記グリップ部の長手方向の一方の端部から突設する、前記グリップ部よりも小径なねじ棒と、からなり、前記グリップ部の前記ねじ棒側の端部に、略直角に中間段差部を設け、前記グリップ部の前記ねじ棒側と逆側の端部に、略直角に端部段差部を設けることを特徴とする。
前記中間段差部と前記端部段差部とは、前記グリップ部の長手方向で平面視多角形状を呈してもよく、平面視ギア状を呈してもよい。
前記中間段差部と前記端部段差部とは、周方向に所定の間隔で凹部を形成してもよい。
【0010】
本発明の緊張材は、PC鋼より線からなり、本発明のねじ棒付き圧着グリップを端部に圧着したことを特徴とする。
【0011】
本発明の緊張装置は、本発明のねじ棒付き圧着グリップに取り付けた緊張材を緊張するための緊張装置であって、前記ねじ棒付き圧着グリップを包囲する複数本のロッドと、前記複数本のロッドの両端に固定する2枚の固定プレートと、前記2枚の固定プレートの間に、前記ロッドに沿って摺動可能に設ける緊張プレートと、からなり、前記緊張プレートは、前記ねじ棒付き圧着グリップの前記端部段差部と嵌合可能なロック部材を有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)ねじ棒付き圧着グリップに端部段差部を設けることで、確実にねじ棒付き圧着グリップを既存側に引き寄せて、緊張材を緊張することができる。
(2)端部段差部をロック部材に嵌合することで、緊張時に緊張材のより戻りによるねじ棒付き圧着グリップの回転がなく、所定の緊張力の導入と、緊張材の品質確保を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明のねじ棒付き圧着グリップの分解斜視図
【
図6】本発明のねじ棒付き圧着グリップと緊張装置の嵌合の説明図
【
図8】本発明のねじ棒付き圧着グリップと連結具の嵌合の説明図
【
図9】上下線で分かれた中央部分を拡幅する工法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[1]ねじ棒付き圧着グリップの概要
<1>ねじ棒付き圧着グリップの構成
本発明のねじ棒付き圧着グリップ1は、グリップ部11と、グリップ部11の長手方向の一方の端部から突設するねじ棒12からなる(
図1)。
【0016】
<2>グリップ部
グリップ部11は、略円柱や略六角柱等の筒状であり、長手方向の一方の端部に緊張材を内挿するための開口部111を有する(
図2)。
グリップ部11は後述の圧着加工を行うため、延性の高い鋼材からなる。
グリップ部11には、円筒状のインサート13を内挿する。
インサート13は内包する緊張材2と接し、緊張材2の引張加重に対抗するものであるため、高硬度であり延性の低い鋼材からなる。
インサート13は、端部から軸方向にスリット131を形成する。
【0017】
<3>ねじ棒
ねじ棒12は、グリップ部11の開口部111とは逆の端部から所定の長さ突出する。
ねじ棒12の直径はグリップ部11の径よりも小径とする。
【0018】
<4>段差部
グリップ部11のねじ棒12側の端部には、小径なねじ棒12との間に略直角に中間段差部14を設ける。
中間段差部14は長手方向で平面視した際に多角形状(
図3(a))、ギア状(
図3(b))を呈し、又は周方向に所定の間隔で凹部を形成する(
図3(c))。
また、グリップ部11の開口部111側の端部にも、中間段差部14と同様の形状の端部段差部15を設ける。
【0019】
<5>ねじ棒付き圧着グリップの圧着
図2のように、PC鋼より線からなる緊張材2はインサート13に挿通される。
ねじ棒付き圧着グリップ1は、インサート13を事前にグリップ部11に挿入しておき、次に緊張材2をインサート13に挿通し、加工前のグリップ部11の外径よりも小径の加工孔が形成されたダイスに通して、押出加工によりグリップ部11を縮径することで、緊張材2の端部へ圧着する。
【0020】
[2]緊張方法
<1>中間定着具
本発明のねじ棒付き圧着グリップ1は、主に既存の緊張材2aの端部に設けた中間定着具3に固定した連結具4にねじ棒12を連結して使用する(
図4)。
中間定着具3は、従来知られたアイ・フィクス(登録商標)が好適であり、既存の緊張材2bを連結した中間定着具3に連結具4を一体に固定する。
【0021】
<2>連結具
連結具4は、中間定着具3に一方の端部を連結する2本の連結ボルト41と、連結ボルト41の他方の端部に設けるホルダ42と、からなる。
ホルダ42には、2本の連結ボルト41を挿通するボルト挿通孔421と、ねじ棒付き圧着グリップ1のねじ棒12を挿通するねじ棒挿通孔422を設ける。
ホルダ42のねじ棒挿通孔422に挿通したねじ棒12には調整ナット121を螺合し、調整ナット121を締め込むことによって、ねじ棒付き圧着グリップ1を中間定着具3側に引き寄せて固定することができる。
【0022】
<3>緊張装置
連結具4に連結したねじ棒付き圧着グリップ1に取り付けた緊張材2aは、緊張装置5を用いて緊張を行う(
図5)。
緊張装置5は、中間定着具3、連結具4及びねじ棒付き圧着グリップ1を包囲する4本のロッド51と、ロッド51の既存側の端部に固定する既存側固定プレート52、ロッド51の側の端部に固定する拡幅側固定プレート53、既存側固定プレート52と拡幅側固定プレート53の間に設ける緊張プレート54、及び拡幅側固定プレート53と緊張プレート54の間に設ける緊張ジャッキ55(
図7)からなる。
緊張プレート54は、既存側固定プレート52と拡幅側固定プレート53の間を、ロッド51に沿って摺動可能とする。
緊張プレート54の既存側の面にはロック部材541を設ける。ロック部材541は、ねじ棒付き圧着グリップ1の端部段差部15と嵌合可能な形状とする(
図6)。
ねじ棒付き圧着グリップ1の端部段差部15は略直角であるため、緊張ジャッキ55により緊張プレート54が既存側に移動させることで、ねじ棒付き圧着グリップ1を既存側に引き寄せて、緊張材2aを緊張することができる。このとき、ねじ棒付き圧着グリップ1の端部段差部15と緊張プレート54のロック部材541が嵌合しているため、確実にねじ棒付き圧着グリップ1を引き寄せることができる。また、ロック部材541により、緊張時に緊張材2aのより戻りによるねじ棒付き圧着グリップ1の回転がなく、所定の緊張力の導入と、緊張材2aの品質確保を行うことができる。
【0023】
緊張ジャッキ55により緊張プレート54が既存側に移動させるため、端部段差部15の端面には大きな支圧力が作用する。この支圧力に耐えるため、端部段差部15の端面は所要の面積を確保する必要がある。
このため、端部段差部15を多角形状とする場合には、角数の多い例えば八角形や十角形状とすることで、小径であっても所要の面積を確保することができる。
【0024】
緊張側のねじ棒付き圧着グリップ1は端部段差部15と緊張プレート54のロック部材541に嵌合して回転を防止したが、逆側(固定側)にもねじ棒付き圧着グリップ1を有する場合には、緊張側と同様の形態で回転を防止してもよいし、
図8のように中間段差部14を固定側の連結具4aの凹部43aに嵌合して回転を防止してもよい。
【0025】
本発明を上下線で分かれた高速道路の中央部分の拡幅に用いる場合、緊張材2の長さは2~3mと比較的短い。端部段差部15をロック部材541に嵌合したり、中間段差部14を接続装置の凹みに嵌合する際には、ねじ棒付き圧着グリップ1を回転して角位置のずれを矯正する必要があるが、より線からなる緊張材2も回転し、より線のよりピッチが変化する。ただし、JISによるより線のよりピッチの範囲はより線径の12~18倍と広いため、矯正によるよりピッチの変化がJISの範囲を逸脱することはなく、より線の品質および性能に与える影響はほぼない。
【0026】
矯正は通常人力により行うので、矯正時の回転角度が小さいほど必要な力は小さくて済み、作業性は向上する。特に、上下線の既存の緊張材の位置にずれが生じている場合、拡幅部の緊張材2は直線でなくなる。長さが短く、しかも変形しているより線を,人力により回転し矯正するのは容易でない。
中間段差部14や端部段差部15を角数の多い例えば八角形や十角形状とすることで、矯正時の回転角度が小さくなり、作業性が向上する。
【符号の説明】
【0027】
1:ねじ棒付き圧着グリップ、11:グリップ部、111:開口部、12:ねじ棒、121:調整ナット、13:インサート、131:スリット、14:中間段差部、15:端部段差部
2:緊張材
3:中間定着具
4:連結具、41:連結ボルト、42:ホルダ、421:ボルト挿通孔、422:ねじ棒挿通孔、43a:凹部
5:緊張装置、51:ロッド、52:既存側固定プレート、53:拡幅側固定プレート、54:緊張プレート、541:ロック部材、55:緊張ジャッキ
【要約】
【課題】緊張時に緊張材のより戻りによる回転を防ぐ、ねじ棒付き圧着グリップを提供する。
【解決手段】筒状のグリップ部と、前記グリップ部の長手方向の一方の端部から突設する、前記グリップ部よりも小径なねじ棒と、からなり、前記グリップ部の前記ねじ棒側の端部に、略直角に中間段差部を設け、前記グリップ部の前記ねじ棒側と逆側の端部に、略直角に端部段差部を設けることを特徴とする、ねじ棒付き圧着グリップ。
【選択図】
図1