(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】微細藻類培養池及び微細藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230202BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
(21)【出願番号】P 2019069467
(22)【出願日】2019-03-30
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】植田 芳昭
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 竜之介
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐介
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-244932(JP,A)
【文献】特開2015-053872(JP,A)
【文献】特開2018-186792(JP,A)
【文献】Algal Research,2017年,28,pp.57-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成を行う微細藻類と前記微細藻類を培養するため培養液との混合液が収納される枠型の外壁と、前記外壁の内部に設けられて、前記混合液の循環流路を形成する内壁と、前記循環流路内に設けられて、前記混合液を攪拌させて前記循環流路に沿って循環させる攪拌装置とを備えた微細藻類培養池において、
前記循環流路に形成される剥離流線上に、前記循環流路の上流側から下流側に向かって延長する整流板を配置したことを特徴とする微細藻類培養池。
【請求項2】
前記整流板の下流側の端部を前記内壁の下流側の端部よりも下流側に位置させたことを特徴とする請求項1に記載の微細藻類培養池。
【請求項3】
前記整流板の下流側に、一端が前記整流板の下流側の端部に接続される円弧状の補助整流板を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細藻類培養池。
【請求項4】
前記外壁の形状を平面視トラック状とするとともに、前記外壁の円弧部の深さを当該円弧の中心にいくにしたがって深くしたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の微細藻類培養池。
【請求項5】
光合成を行う微細藻類の培養方法であって、
前記微細藻類と前記微細藻類を培養するため培養液との混合液を、
前記請求項1~請求項4のいずれかに記載の微細藻類培養池中で攪拌・循環させることを特徴とする微細藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成によりオイルを生産する微細藻類を培養する微細藻類培養池の構造等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな再生可能エネルギーの一つとして、微細藻類が産生するオイル生産などの「バイオマス」の活用が注目されている。微細藻類は、一般的には水中に存在する顕微鏡サイズの藻で、その多くは植物と同様に、太陽光を利用して二酸化炭素を固定し、炭水化物を合成する光合成を行い、代謝物としてオイルを産生する。
微細藻類培養池としては、微細藻類と培養液の混合液を収納するトラック状もしくは長円形状の外壁と、この外壁の内部に設けられて混合液の循環流路を形成する内壁と、水車等の循環流路内の混合液を撹拌するための撹拌装置とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の微細藻類培養池では、循環流路の直線部に、微細藻類が沈殿・堆積してしまう、といった問題点があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、培養池の底部に沈殿・堆積する微細藻類の量を低減することのできる微細藻類培養池等提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、微細藻類は、循環流路の流速分布に大きさ速度差があると、循環流路の幅方向に圧力差が生じ、その結果、混合液に含まれる微細藻類が、流速の大きな幅方向中央部に集まることから、循環流路内に整流板を設けて、循環流路の流速分布を平滑にしてやれば、培養池の底部に沈殿・堆積する微細藻類の量を低減することを見出し本発明に到ったものである。
すなわち、本発明は、光合成を行う微細藻類と前記微細藻類を培養するため培養液との混合液が収納される枠型の外壁と、前記外壁の内部に設けられて、前記混合液の循環流路を形成する内壁と、前記循環流路内に設けられて、前記混合液を攪拌させて前記循環流路に沿って循環させる攪拌装置とを備えた微細藻類培養池において、前記循環流路に形成される剥離流線の直線部分(厳密には曲率半径の大きな部分)に沿って、前記循環流路の上流側から下流側に向かって延長する直線状の整流板を配置したことを特徴とする。
【0007】
図5に示すように、剥離流線Lは、微細藻類培養池10に形成された循環流路において、混合液Cの流速uが最大となる点を結んだ流線で、流路のコーナー部の回転成分の影響により、内壁12の上流側の端部から外壁11方向に発達する。剥離流線Lは、内壁12側で曲率半径が小さく、外壁11に近づくにつれて曲率半径が大きくなる。この曲率半径の大きな部分を、以下、剥離流線の直線部という。
循環流路では、剥離流線上では流速が大きく、混合液に作用する圧力が小さい。一方、内壁側及び外壁側では流速が小さく圧力が大きい。この圧力差により、混合液Cには、圧力差による力Fが作用するので、混合液C中の微細藻類は剥離流線L上に集まり、その結果、微細藻類が剥離流線L上に沈殿・堆積し易くなる。
本発明では、剥離流線上に整流板を配置することで、循環流路の幅方向の流速分布を平滑化するようにしたので、循環流路の幅方向の圧力差についても小さくすることができる。したがって、培養池の底部に沈殿・堆積する微細藻類の量を低減でき、微細藻類を効率よく培養することができる。
なお、剥離流線は、上記のように、内壁の上流側の端部から外壁側に向かう曲線部(曲率半径の小さな部分)と曲線部の下流側の直線部とから成るが、曲線部にも曲線部に沿った整流板を配置すると、整流板の背後に澱み領域が形成され、かえって、微細藻類が沈殿・堆積し易くなるので、整流板は、剥離流線の直線部分に沿って設けることが好ましい。
【0008】
また、前記整流板の下流側の端部を前記内壁の下流側の端部よりも下流側に位置させることで、コーナー部に生じる剥離渦にトラップされる微細藻類を下流側にスムーズに放出できるようにしたので、培養池の底部に沈殿・堆積する微細藻類の量を更に低減できた。
また、前記整流板の下流側に、一端が前記整流板の下流側の端部に接続される円弧状の補助整流板を設けて、コーナー部の澱みを低減するようにしたので、培養池の底部に沈殿・堆積する微細藻類の量が更に低減した。
また、前記外壁の形状を平面視トラック状とするとともに、前記外壁の円弧部の深さを当該円弧の中心にいくにしたがって深くしたので、循環流路の外壁側にあった剥離流線の位置を、循環流路の幅方向中心付近に移動させることができる。したがって、この新たな剥離流線上に整流板を配置すれば、幅方向の流速分布を一層平滑にできるので、培養池の底部に沈殿・堆積する微細藻類の量を更に低減することができる。
また、光合成を行う微細藻類を、前記の構成の微細藻類培養池中で、前記微細藻類と前記微細藻類を培養するため培養液との混合液を攪拌・循環させながら培養したので、微細藻類を効率よく培養することができる。
【0009】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態1に係る微細藻類培養池を示す図である。
【
図2】微細藻類の沈殿・堆積の様子を可視化した実験結果を示す図である。
【
図3】本実施の形態2に係る微細藻類培養池を示す図である。
【
図4】本実施の形態3に係る微細藻類培養池を示す図である。
【
図5】従来の微細藻類培養池におけるを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1(a),(b)は本実施の形態1に係る微細藻類培養池(以下、培養池1という)を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA-A断面図である。
各図において、11は外壁、12は内壁、13は撹拌装置、14は整流板、15は微細藻類培養池1の底部、Cは光合成を行う微細藻類とこの微細藻類を培養するための培養液の混合液で、混合液Cは、培養池1中に収納される。
外壁11は、平面視トラック状(角丸長方形状ともいう)で、この外壁11の内部の空間を、外壁11の直線部と平行な方向に延長する内壁12により区切ることで、一般に、レイスウェイ水路と呼ばれる混合液Cの循環流路が形成される。
なお、Lは剥離流線で、上記のように、循環流路において、混合液Cの流速uが最大となる点を結んだ流線である。また、CLは循環水路の直線部の中心線を示す。
撹拌装置13は、培養池1内に収納される混合液Cに浮遊する複数のフロー部材13aと、フロー部材13a間に配置される水車13bとを備え、循環水路に時計回りの水流を発生させる。フロー部材13aは、例えば、ロープ13c等などにより、外壁11と内壁12との間に拘束されている。
整流板14は、内壁12に平行な方向に延長する板状の部材で、内壁12に循環流路の撹拌装置13が設置されていない側の剥離流線L上に配置される。
本例では、整流板14の下流側の端部を、内壁12の下流側の端部よりも下流側に位置させている。なお、整流板14の上流側の端部の位置と内壁12の上流側の端部の位置とは(水流の方向と垂直な方向から見たときに)同じである。整流板14の下流側の端部を内壁12の下流側の端部よりも下流側に位置させたのは、整流板14の下流側のコーナー部に生じる剥離渦にトラップされる微細藻類を下流側にスムーズに放出するためで、これにより、培養池1の底部15に沈殿・堆積する微細藻類の量を低減できる。
なお、整流板14の上流側の端部の位置を、内壁12の上流側の端部よりも上流側としても、微細藻類の沈殿・堆積は殆ど低減されない。また、整流板14の上流側の端部が、内壁の中心付近になるまで整流板14の長さまでを短くすると、整流板14の上流側に微細藻類の沈殿・堆積し易くなるので、整流板14の上流側の端部の位置を、内壁12の上流側の端部との距離が、内壁12の長さ1/3以下の位置とすることが好ましい。
【0012】
次に、整流板14の効果について説明する。
図2(a)~(c)は、培養池における微細藻類の沈殿・堆積の様子を、実験用水槽を用いて可視化した結果を示す図で、(a)図の実験用水槽1Aは従来の培養池と同構造のもの、(b)図実験用水槽1Bは、整流板14を剥離流線L上に配置したもの、(c)図の実験用水槽1Cは、整流板14を直線部の中心線CL上に配置したものである。
実験は、混合液Cに替えて、水に沈殿し易いアルミナ微粒子を混合させた試験液を水槽内に投入した後、撹拌装置13にて水流を発生させて、アルミナ微粒子の沈殿・堆積している状態を撮影した。アルミナ微粒子が堆積している箇所は写真では光って見える。
(a)図~(c)図は、光っている部分を「ドット」で示した模式図である。
(a)図から、実験用水槽1Aでは、アルミナ微粒子が剥離流線L上と外壁11近傍、特に、その下流側の剥離流線L上と外壁11近傍とに堆積することが確認された。
これに対して、整流板14を剥離流線L上に配置した実験用水槽1Bでは、アルミナ微粒子の堆積箇所が分散されるとともに、堆積量も少なくなっていることが分かる。
なお、この模式図は、水槽の上側から見たもので、(b)図において(a)図と同じ濃度に見える箇所でも、実験用水槽1Bにおける堆積層の厚さは実験用水槽1Aにおける堆積層の厚さよりも薄いことを確認している。
なお、整流板14を中心線CL上に配置した実験用水槽1Cでも、従来に比較してアルミナ微粒子の堆積量が少なくなっているが、本発明に比較すると、堆積層の低減効果は小さいことが分かる。なお、(b)図と同様に、(a)図と同じ濃度に見える箇所でも、実験用水槽1Bにおける堆積層の厚さは、実験用水槽1Aにおける堆積層の厚さよりも薄いことを確認している。
したがって、整流板14を剥離流線L上に配置することにより、微細藻類の沈殿・堆積を大幅に低減できることを実験により確認することができた。
このように、光合成を行う微細藻類とこの微細藻類を培養するため培養液との混合液を、培養池1中で攪拌・循環させるようにすれば微細藻類を効率よく培養することができる。
なお、培養池1の上部に屋根を設けたり、建物内に培養池1を構築する場合には、屋根の一部を透明板にするなど、混合液に太陽光を液面の上方から採光する採光手段を設ける必要があることはいうまでもない。
また、培養池1の混合液中に水中灯を設置したり、屋根の天井部や外壁11の周縁部に照明設備を取付けるなど、人工光を混合液に照射するようにしてもよい。
【0013】
実施の形態2.
図3(a)は、本実施の形態2に係る微細藻類培養池(以下、培養池2という)を示す図で、培養池2は、実施の形態1の培養池1の整流板14の下流側に円弧状の補助整流板16を設けたものである。
補助整流板16の一端は整流板14の下流側の端部に接続され、他端は、外壁11の円弧部と直線部との境界に位置している。
補助整流板16は、整流板14の下流のコーナー部周辺の流れを整えるもので、本例のように、平板状の整流板14と円弧状の補助整流板16とを組み合わせれば、単に、円弧状の整流板を設けた場合に比較して、コーナー部の流れを一層整えることができる。
すなわち、本例の培養池2は、剥離流線L上に堆積する微細藻類の沈殿・堆積を大幅に低減できる効果に加えて、コーナー部に発生する澱みを確実に低減することができるので、培養池2の底部に沈殿・堆積する微細藻類の量を更に低減することができる。
図3(b)は、微細藻類の沈殿・堆積の様子を、整流板14と円弧状の補助整流板16とを実験用水槽1Dを用いて可視化した結果を示す図で、実験方法は、実施の形態1に記載した方法と同じである。
図3(b)に示した実験用水槽1Dでは、上記の
図2(b)に示した実験用水槽1Bに比較して、コーナー部の上流側及び下流側だけでなく、整流板14の近傍でもアルミナ微粒子の堆積量が減少していることから、整流板14と円弧状の補助整流板16とを組み合わせれば、コーナー部の上流側及び下流側だけでなく、整流板14の近傍でもアルミナ微粒子の堆積量が少なくなっていることから、微細藻類の堆積の低減効果を更に高めることできることが分かる。
【0014】
実施の形態3.
図4(a),(b)は、本実施の形態3に係る微細藻類培養池(以下、培養池3という)を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA-A断面図である。
培養池2は、実施の形態1の培養池1または上記の培養池2の外壁11の円弧部の深さを円弧の中心である内壁12側にいくにしたがって深くしたものである。
本例では、外壁11の円弧部を、上記円弧部を含む円錐を、円錐の底面に垂直でかつ円錐の頂点を通る平面で切断した、半円錐形に形成した。すなわち、外壁11の円弧部は、平面視半円で、縦断面形状が三角形をなしており、符号17で示すコーナー部の側壁は、上記の半円錐の側面となっている。
外壁11の円弧部をこのように形成することで、循環流路の外壁11側にあった、(a)図の細い一点鎖線で示す剥離流線Lの位置を、太い一点鎖線で示す剥離流線L
3の位置である、循環流路の幅方向中心付近に移動させることができる。
このように、循環流路の幅方向中心付近に移動した新たな剥離流線L
3上に整流板14を配置すれば、幅方向の流速分布を更に平滑にすることができる。したがって、培養池3の底部15に沈殿・堆積する微細藻類の量を更に低減することができる。
【0015】
以上、本発明を実施の形態及び実験例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0016】
例えば、前記実施の形態1~3では、本例では、下流側の端部を、内壁12の下流側の端部よりも下流側に位置させたが、下流側の端部と内壁12の下流側の端部とが、(水流の方向と垂直な方向から見たときに同じ位置であっても、剥離流線L上に配置されていれば、微細藻類の沈殿・堆積を十分に低減することができる。
なお、整流板14の下流側の端部が内壁12の下流側の端部と位置であっても、一端が整流板14の下流側の端部に接続される円弧状の補助整流板16を設ければ、微細藻類の沈殿・堆積を十分に低減できることはいうまでもない。
また、前記実施の形態1~3では、整流板14を、循環流路の撹拌装置13が設置されていない側のみに配置したが、撹拌装置13の設置側にも配置してもよい。特に、循環流路の直線部が長い場合には、撹拌装置13の設置側にも配置すれば、培養池1の底部15に沈殿・堆積する微細藻類の量を更に低減することができる。
また、前記実施の形態1~3では、外壁11を平面視トラック状としたが、平面視長円形状の外壁11を有する培養池であっても、循環流路に形成される剥離流線L上に、実施の形態と同様の整流板14を配置すれば、培養池1の底部15に沈殿・堆積する微細藻類の量を低減することができる。
また、前記実施の形態1~3では、水車13bを備えた撹拌装置13を用いたが、ナノバブルの発生により水流を起こさせる撹拌装置など、他の撹拌装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0017】
1 微細藻類培養池、11 外壁、12 内壁、13 撹拌装置、
13a フロー部材、13b 水車、13c ロープ、14 整流板、15 底部、
16 補助整流板、17 コーナー部の側壁、C 混合液、L 剥離流線、
CL 直線部の中心線。