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  • 特許-灸用もぐさ成形体の製造方法 図1
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  • 特許-灸用もぐさ成形体の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】灸用もぐさ成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 39/06 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
A61H39/06 314
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017126059
(22)【出願日】2017-06-28
(65)【公開番号】P2019005444
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-06-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(73)【特許権者】
【識別番号】392007153
【氏名又は名称】株式会社山正
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小川 圭二
(72)【発明者】
【氏名】押谷 優助
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】安井 寿儀
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-134154(JP,A)
【文献】登録実用新案第3022687(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
灸用もぐさを金型に投入する第1工程、
金型により5MPa以上の圧力で前記もぐさを加圧し、密度が0.7g/cm以上2.5g/cm 以下であるもぐさ成形体(ただし、錘形のもぐさ成形体を除く)を形成する第2工程、および
金型から前記成形体を取り出す第3工程
を含むことを特徴とする間接灸用もぐさ成形体の製造方法。
【請求項2】
第2工程における圧力が10MPa以上である、請求項1に記載の間接灸用もぐさ成形体の製造方法。
【請求項3】
第2工程において金型温度が0~190℃である、請求項1または2に記載の間接灸用もぐさ成形体の製造方法。
【請求項4】
第2工程において加圧時間が10秒~30分である、請求項1~3のいずれかに記載の間接灸用もぐさ成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体の形状が、粒状体、または回転対称体である請求項1~4のいずれかに記載の間接灸用もぐさ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灸用もぐさ成形体の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍼灸治療は、我が国では古来より民間療法として広く普及している。西洋医学が広まった後も、鍼灸治療は我が国では独自の進化を遂げている。灸治療の中では、患者に負担が少ない無痕灸などの間接灸が存在感を増している。
【0003】
間接灸に用いられる紙管灸や台座灸の製造工程の大部分は、熟練を要する手作業に依存しているのが現状であり、さらに、十分に熟練した作業者は減少している。作業者の技術が十分ではない場合には灸製品中のもぐさの密度や体積に不均一性が生じ、もぐさの燃焼挙動(燃焼速度、燃焼時間)にばらつきが生じることがある。また、近年は高度な技能を有するきゅう師の減少により、点灸を行えない場合があり、その際にも間接灸が使用されることになる。したがって、密度や体積の均一な灸用もぐさの製造方法の開発が求められている。
【0004】
特許文献1は、プラスチック製パイプの内側に和紙を敷き、もぐさを詰めた後に、80~90℃に維持しながらシリンダで押すことによる棒状もぐさの製造方法を開示している。しかしながら、単に和紙に充填することを機械化するものであって、強く加圧するものではない。非特許文献1は、マシニングセンタで抽出した竹繊維のみを用いて金型で加熱しながら加圧することにより板状に成形する方法を開示している。しかしながら、灸用もぐさとは随分と形態の異なる長い剛直な竹繊維しか開示されておらず、もぐさに関する記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-277128号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】小川圭二ら、マシニングセンタ抽出竹繊維のみを用いた資源完全循環型の自己接着成形体の製造と性能評価、日本機械学会論文集(C編)、78、78(2012)、943
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、きゅう師あるいは鍼灸具製造作業者の技能に依存することなく、密度や体積が均一な高品質の灸用もぐさ成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、密度や体積の均一な灸用もぐさの製造方法を検討した結果、もぐさ本体は嵩高い繊維状であるにもかかわらず、金型内で加圧することにより固形化できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、灸用もぐさを金型に投入する第1工程、金型により前記もぐさを加圧し、もぐさ成形体を形成する第2工程、および金型から前記成形体を取り出す第3工程を含むことを特徴とする灸用もぐさ成形体の製造方法に関する。
【0010】
第2工程においてもぐさを加圧する際の圧力が5MPa以上であることが好ましい。
【0011】
第2工程において金型温度が0~190℃であることが好ましい。
【0012】
第2工程において加圧時間が10秒~30分であることが好ましい。
【0013】
前記成形体の形状が、粒状体、または回転対称体であることが好ましい。
【0014】
灸用もぐさ成形体が、点灸用もぐさ成形体であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、密度が0.7g/cm以上である、灸用もぐさ成形体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、灸用もぐさを金型内で加圧することにより、従来の手作業による製造法に比べ、成形体間の品質バラツキの少ない灸用もぐさ成形体を製造することができる。さらに、金型を使用するために、リードタイムが短縮されて量産性が向上し、製造コスト低減が期待できる。金型形状の工夫により、様々な形状および寸法の灸用もぐさを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】灸用もぐさの外観と拡大図を示す。
図2】本発明の製造方法の概略図を示す。
図3A】灸用もぐさ成形体の拡大図、上面外観図、および側面外観図を示す。
図3B】加圧時圧力ともぐさ成形体の厚さの関係を示す。
図3C】加圧時圧力ともぐさ成形体の密度の関係を示す。
図4A】灸用もぐさ成形体の拡大図、上面外観図、および側面外観図を示す。
図4B】灸用もぐさの質量と灸用もぐさ成形体の厚さの関係を示す。
図4C】灸用もぐさの質量と灸用もぐさ成形体の密度の関係を示す。
図5】金型と灸用もぐさ成形体の形状の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、灸用もぐさを金型に投入する第1工程、金型により前記もぐさを加圧し、もぐさ成形体を形成する第2工程、および金型から前記成形体を取り出す第3工程を含むことを特徴とする灸用もぐさ成形体の製造方法に関する。図2に本発明の製造方法の概略図を示す。以下、各工程について概説する。
【0019】
第1工程では、灸用もぐさを金型に投入する。第1工程で使用する灸用もぐさは、灸の原料として通常使用されているものであって、よもぎ類の葉から作製される。よもぎの葉は、表面が緑色で裏面は白っぽく見えるが、裏面には白い毛が密生しており、この毛を集めた綿状の物質を使用する。灸用もぐさは、(1)原草採集、(2)葉の分取、(3)天日乾燥、(4)集荷、(5)火力乾燥、(6)荒砕き、(7)粉砕、(8)篩過、(9)精製の工程で製造される。図1に灸用もぐさの外観と拡大図を示す。
【0020】
灸用もぐさには、離型剤、結合剤等を添加することも可能である。なお、本発明ではもぐさが自己接着力を有することを見出しており、もぐさ自体を金型を介して加圧すればもぐさの成形体が得られる。成形体の製造のために、灸用もぐさへの結合剤の添加する必要はない。灸用もぐさは燃焼して使用されるため、灸用に必要ではない離型剤、結合剤等は配合されないことが好ましい。
【0021】
第1工程で使用する金型とは、原料である灸用もぐさに圧力を加えるものであって、2以上の部位から構成される。たい焼き等の金型や、ペットボトル等のブロー成形金型のように両方が凹型になっている金型や、コア(雄型)とキャビティー(雌型)から構成される金型を使用することができる。成形体を取り出しやすくするために、2以上の部位のうち一方は側面を形成する部分と底面を形成する部分の2つに分離していても良く、成形後に突起を突き出す機構を設けても良い。金型の材質は、耐圧性および耐久性の観点から金属製であることが好ましい。図5に、金型を例示する。成形体の形態として、短形平板用、定量小片用、台座灸用、点灸用の4つの態様を図示する。灸用もぐさを金型に投入する際に、金型底面において灸用もぐさはできるだけ均一になるように投入することが好ましい。
【0022】
第1工程において、金型に投入する灸用もぐさの量は、金型の形状および寸法や、製造する成形体の密度に合わせて適宜選択できる。たとえば、25mm×125mmの金型を使用して20MPaの加圧時圧力により密度が約0.5g/cmの成形体を得るためには、2~4gであることが好ましく、2.5~3.5gであることがより好ましい。
【0023】
第1工程において、後述の第3工程において成形体を金型から取り出しやすくするために、灸用もぐさを金型に投入する前に、金型に離型剤を塗布しておいてもよい。
【0024】
第2工程では、金型により前記もぐさを加圧し、もぐさ成形体を形成する。金型によりもぐさを加圧する際の圧力は、5MPa以上が好ましく、5~30MPaがより好ましく、5~20MPaがさらに好ましい。5MPa未満では固形化が困難となる傾向がある。30MPaを超えると高圧力化による密度の上昇率が低下する傾向がある。
【0025】
第2工程において、灸用もぐさを加圧する際の金型温度は、0~190℃が好ましく、0~100℃がより好ましく、10~60℃がさらに好ましく、15~30℃がさらにより好ましい。0℃未満では固形化が困難な傾向がある。190℃を超えると、成形体が変色し、もぐさ特有の香りを損なう傾向がある。もぐさは常温で加圧しても自己接着性を示して固形化されるので、第2工程において加圧時の加熱は実質的に不要である。もぐさを加圧する際の金型温度は竹繊維をプレス成形する場合、竹に含まれる軟化温度が150~200℃程度のヘミセルロースおよびリグニンの熱融着を利用するため190℃程度に加熱する必要があるが、もぐさでは室温であっても強固に固着化でき、熱融着によらずに、成形体を作製することができる。
【0026】
第2工程において、灸用もぐさを加圧する際の加圧時間は、10秒~30分が好ましく、1~12分がより好ましく、2~10分がさらに好ましい。加熱しない場合には、灸用もぐさに熱を伝える必要がないため、より短時間の加圧時間で成形可能である。10秒未満では固形化が困難となる傾向がある。30分を超えると長時間化による密度の上昇率が低下する傾向がある。
【0027】
第2工程において、形成されるもぐさ成形体の形状は、灸に用いることができれば特に限定されず、粒状体、回転対称体などが挙げられる。回転対称体としては、直方体、立方体、円柱形、円錐形、多角錐形、回転楕円形、きのこ形(円錐と円柱を組み合わせた形状)などが挙げられる。図5に、矩形平板状、円柱状、直方体の成形体を例示する。粒状の成形体は点灸用に用いられる。円柱状の成形体はそのまま、またはさらに切断加工して、台座灸用に用いることができる。本発明の製造方法により得られる成形体を台座灸に使用する場合には、必要に応じて、和紙等で灸の周りを固定してもよい。
【0028】
その他、定量の小片が多数連結した形状で成形されてもよい。この場合には、使用時に、当該成形体から小片を折り取って灸用もぐさとして使用される。図5に、直方体が連結した形状の成形体(定量小片用)を例示する。
【0029】
第3工程では、もぐさ成形体を金型から取り出す。この後、成形体にバリ(ミミ)が存在する場合には、これらを除去してから使用される。
【0030】
また、本発明は、密度が0.7g/cm以上である、灸用もぐさ成形体に関する。該灸用もぐさ成形体は、前述の本発明の製造方法により製造することができる。該灸用もぐさ成形体の密度は、0.9g/cm以上が好ましく、1.1g/cm以上がより好ましく、1.3g/cm以上がさらに好ましい。該灸用もぐさ成形体の密度は、2.5g/cm以下が好ましく、2.0g/cm以下がより好ましい。0.7g/cm未満では 燃焼温度が高くならず時間が短くなる傾向がある。2.5g/cmを超えると成形後の形状修正が困難になる傾向がある。また、成形体の表面は、非常に平滑なものが得られる。
【実施例
【0031】
(実施例1)
原料のもぐさ(長安1号、株式会社山正)7gを金型に投入した。なお、原料中には結合剤等は含まれない。金型中のもぐさを、プレス成形機(アズワン社製、型番:AH-2003C)により、下記の条件で加圧した。
【0032】
加圧条件
金型内径:25mm×125mm
圧力:5、10、または20MPa
加圧温度:25℃
加圧時間:10分
【0033】
金型中で加圧して得られた成形もぐさを金型から取り出した。金型を用いた常温プレス成形により、もぐさを固形化できた。加圧時の圧力が5MPa、10MPa、20MPaのときの、成形もぐさの拡大図、上面外観図、および側面外観図を図3Aに示す。図3Aにおいて、金型形状が転写され、平板形状の成形体が得られている。成形体に変色は見られない。
【0034】
成形もぐさの厚みをノギスにより測定した。成形体の長さ、横幅、および厚さの積により成形体の体積を算出し、電子天秤にて測定した重さを体積で除して、成形もぐさの密度を算出した。加圧時の圧力と、成形もぐさの厚さまたは密度との関係を、それぞれ図3B~Cに示す。
【0035】
図3Bにおいて、加圧時の圧力が高いほど成形体の厚みが低下する傾向がみられた。また、図3Cにおいて、加圧時の圧力が高いほど成形体の密度が増加する傾向がみられた。これらの結果から、成形条件として加圧時の圧力を変化させることによって、成形体の体積と密度を制御できることが明らかとなった。
【0036】
(実施例2)
原料のもぐさ(長安1号、株式会社山正)1、3、または7gを金型に投入した。なお、原料中には結合剤等は含まれない。その後、金型中のもぐさを、プレス成形機(アズワン社製、型番:AH-2003C)により、下記の条件で加圧した。
【0037】
加圧条件
金型内径:25mm×125mm
圧力:20MPa
加圧温度:25℃
加圧時間:10分
【0038】
実施例1と同様に、原料のもぐさの量が1、3、または7gのときの、成形もぐさの拡大図、上面外観図、および側面外観図を図4Aに示す。図4Aにおいて、金型形状が転写され、平板形状の成形体が得られている。成形体に変色は見られない。
【0039】
成形もぐさの厚さおよび密度を実施例1と同じ方法により測定した。原料もぐさの量と、成形もぐさの厚さまたは密度との関係を、それぞれ図4B~Cに示す。
【0040】
図4Bにおいて、投入する灸用もぐさが多量であるほど成形体の厚みが増す傾向がみられた。また、図4Cにおいて、投入する灸用もぐさが多量であるほど成形体の密度が増加する傾向がみられた。これらの結果から、灸用もぐさの投入量を変化させることによって、成形体の体積と密度を制御できることが明らかとなった。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5