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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】痛み軽減システム及び痛み軽減方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/02 20060101AFI20230202BHJP
   A63F 13/837 20140101ALI20230202BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A61H1/02 G
A63F13/837
G09B9/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019085390
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020178986
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】521342670
【氏名又は名称】株式会社Parafeed
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100217984
【弁理士】
【氏名又は名称】川條 英明
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100217984
【弁理士】
【氏名又は名称】川條 英明
(74)【代理人】
【識別番号】110002055
【氏名又は名称】弁理士法人iRify国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 将孝
(72)【発明者】
【氏名】堀江 重郎
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-191964(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0296794(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0077192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
A63F 13/837
G09B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドマウンテッドディスプレイ装置と、サーバ装置とが通信自在に接続された痛み軽減システムにおいて、
前記サーバ装置は、
神経障害性の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムとして、少なくとも緑光法と鏡療法を仮想現実空間で実施するアプリケーションプログラム、及びシューティングゲームを選定するアプリケーション選定部と、
前記選定されたアプリケーションプログラムの識別情報をヘッドマウンテッドディスプレイ装置に送信する送信部と、を備え、
前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置は、
前記アプリケーションの識別情報により特定されるアプリケーションプログラムの中から1つの選択を受けると、前記アプリケーションプログラムを実行するアプリケーション実行部と、を備える
痛み軽減システム。
【請求項2】
ヘッドマウンテッドディスプレイ装置と、サーバ装置とが通信自在に接続された痛み軽減システムにおいて、
前記サーバ装置は、
ユーザ情報を記憶するユーザ情報記憶部と、
症例と前記症例の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムとを対応付けて記憶したアプリケーション記憶部と、
前記症例と実行された前記アプリケーションプログラムと痛みの度合いの変化を対応付けて記憶した効果記憶部と、
前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置からのユーザ情報に基づいて、前記アプリケーション記憶部を参照して、前記ユーザ情報に含まれる症例の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムを選定するアプリケーション選定部と、
前記選定されたアプリケーションの識別情報を前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置に送信する送信部と、を備え、
前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置は、
前記アプリケーションの識別情報により特定されるアプリケーションプログラムの中から1つの選択を受けると、前記アプリケーションプログラムを実行するアプリケーション実行部と、
前記アプリケーションプログラムの実行の前後で、痛みの度合いの入力を受付け、前記痛みの度合いの情報を前記サーバ装置に送信する送信部と、を備え、
前記サーバ装置では、前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置から送られる前記痛みの度合いの情報に基づいて、前記効果記憶部の内容を更新し、
前記アプリケーション選定部は、神経障害性の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムとして、少なくとも緑光法と鏡療法を仮想現実空間で実施するアプリケーションプログラム、及びシューティングゲームを選定する
痛み軽減システム。
【請求項3】
前記シューティングゲームでは、ターゲットとなるオブジェクトに対して弾が発射されてから、前記オブジェクトに的中し、効果表示、効果音の出力がなされるまでの処理を0.2秒以内で実行する
請求項2に記載の痛み軽減システム。
【請求項4】
前記効果記憶部の内容に基づいて、症例の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムを学習し、学習結果に基づいて、前記アプリケーション記憶部の内容を更新する学習部を更に備える
請求項2又は3に記載の痛み軽減システム。
【請求項5】
ヘッドマウンテッドディスプレイ装置と、サーバ装置とが通信自在に接続された痛み軽減システムによる痛み軽減方法において、
前記サーバ装置が、ユーザ情報をユーザ情報記憶部に記憶し、症例と前記症例の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムとを対応付けてアプリケーション記憶部に記憶し、前記症例と実行された前記アプリケーションプログラムと痛みの度合いの変化を対応付けて効果記憶部に記憶するステップと、
前記サーバ装置が、前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置からのユーザ情報に基づいて、前記アプリケーション記憶部を参照して、前記ユーザ情報に含まれる症例の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムを選定するステップと、
前記サーバ装置が、前記選定されたアプリケーションの識別情報を前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置に送信するステップと、
前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置が、前記アプリケーションの識別情報により特定されるアプリケーションプログラムの中から1つの選択を受けると、前記アプリケーションプログラムを実行するステップと、
前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置が、前記アプリケーションプログラムの実行の前後で、痛みの度合いの入力を受付け、前記痛みの度合いの情報を前記サーバ装置に送信するステップと、
前記サーバ装置が、前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置から送られる前記痛みの度合いの情報に基づいて、前記効果記憶部の内容を更新するステップと、を有し、
前記サーバ装置が、神経障害性の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムとして少なくとも緑光法と鏡療法を仮想現実空間で実施するアプリケーションプログラム、及びシューティングゲームを選定する
痛み軽減方法。
【請求項6】
前記シューティングゲームでは、ターゲットとなるオブジェクトに対して弾が発射されてから、前記オブジェクトに的中し、効果表示、効果音の出力がなされるまでの処理を0.2秒以内で実行する
請求項5に記載の痛み軽減方法。
【請求項7】
前記サーバ装置が、前記効果記憶部の内容に基づいて、症例の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムを学習し、学習結果に基づいて、前記アプリケーション記憶部の内容を更新するステップを更に有する
請求項5又は6に記載の痛み軽減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幻肢痛等、慢性神経障害性疼痛の痛み強度を軽減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者が四肢切断の後、失った四肢があたかも存在するような錯覚や、失った四肢が存在していた空間に痺れ感を知覚する現象を幻肢と称するが、当該幻肢が原因で四肢が存在していた空間に痛みを感じる幻肢痛の軽減が嘱望されている。
【0003】
一方、今日では、ゲームベースの仮想学習カリキュラムにより、医療専門家、医療関係者、ユーザ等に、ターゲット認知スキルのトレーニングを測定及び管理するシステムも提案されている(例えば、特許文献1等参照)。同文献1の技術は、認知スキル(例えば、注意力集中、注意力持続、認知抑制、行動抑制、選択性注意力、転換性注意力、配分性注意力、干渉制御、新規性抑制、満足遅延耐性、インナーボイス、動機付け抑制、および自己制御性)を改善する効果的で速やかなビデオゲームベースのトレーニングカリキュラムを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-533044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたものは、認知スキルを改善することに着目されたものであり、神経障害性の痛み軽減を実現するものではない。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、慢性化した神経障害性疼痛、神経引き抜け損傷(腕神経叢引き抜き損傷)、幻肢痛等の痛みを軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一つの態様は、ヘッドマウンテッドディスプレイ装置と、サーバ装置とが通信自在に接続された痛み軽減システムにおいて、前記サーバ装置は、神経障害性の痛み軽減に効果のあるアプリケーションプログラムとして、少なくとも緑光法と鏡療法を仮想現実空間で実施するアプリケーションプログラム、及びシューティングゲームを選定するアプリケーション選定部と、前記選定されたアプリケーションプログラムの識別情報をヘッドマウンテッドディスプレイ装置に送信する送信部と、を備え、前記ヘッドマウンテッドディスプレイ装置は、前記アプリケーションの識別情報により特定されるアプリケーションプログラムの中から1つの選択を受けると、前記アプリケーションプログラムを実行するアプリケーション実行部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、慢性化した神経障害性疼痛の痛みを軽減する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る痛み軽減システムの構成図である。
図2】サーバ装置の構成図である。
図3図3(a)乃至図3(c)は、各種テーブルを示す図である。
図4】VR装置の構成図である。
図5】痛み軽減システムにより処理手順を示すフローチャートである。
図6図6(a)乃至図6(j)は、画面遷移を示す図である。
図7図7(a)乃至図7(c)は、痛みレベルの設定スケールを示す図である。
図8】第1のアプリケーションプログラムの実行手順を示す図である。
図9図9(a)乃至図9(f)は、第1のアプリケーションプログラムの実行過程における画面遷移を示す図である。
図10】第2のアプリケーションプログラムの実行手順を示す図である。
図11図11(a)乃至図11(g)は、第2のアプリケーションプログラムの実行過程における画面遷移を示す図である。
図12】痛み低下レベルを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
幻肢痛のメカニズムは、未だ明らかでなく、身体部位に関する大脳知覚の変化と求心性情報の変化による混乱が疼痛として認識されるなど、多くの意見がある。その中、発明者は、健常肢と切断肢とで、両手の協調運動がなくなることが幻肢痛の原因であるとの仮説を立て、両手の協調運動と錯覚するような知覚をもたらすシューティングゲームを開発したところ、幻肢痛に強い効果があることを見出した。シューティングが、両手で行うような錯覚した知覚を与え、且つ標的へのシューティングが効果音と視覚により、脳への報酬系への刺激となることが、痛み軽減に寄与しているものと考える。
【0012】
図1には、本発明の一実施形態に係る痛み軽減システムの構成を示し説明する。
【0013】
同図に示されるように、痛み軽減システムは、サーバ装置1と、VR(Virtual Reality)を実現するHMD(Head Mounted Display)装置2と、医師の端末装置3とが、インターネット等のネットワーク4を介して通信自在に接続され、構成されている。
【0014】
このような構成において、HMD装置2には、予め各種のアプリケーションプログラムがインストールされている。HMD装置2により、サーバ装置1のプラットフォームにログインされ、年齢、性別、各種質問事項に対する回答等が入力されると、それら情報がサーバ装置1に送信される。そして、サーバ装置1は、ユーザの症例の痛み軽減に好適なアプリケーションプログラムを選定する。そして、HMD装置2では、サーバ装置2により選定され、レコメンドされた中からユーザにより選択されたアプリケーションプログラムが実行され、その過程で、症例に係る痛みが軽減される。
【0015】
ユーザは、HMD装置2でアプリケーションプログラム、例えばゲームを実行する前後に痛みスケールの入力を行う。この痛みスケールの情報も、サーバ装置2に送信され、データベースに記憶されるので、ある症例に対して、どのようなアプリケーションプログラムが実行され、その結果、痛みがどの程度軽減されたか、情報が蓄積されていく。この蓄積された情報は、遠隔の医師の端末装置3でも確認可能である。
【0016】
図2には、サーバ装置の構成を示し説明する。
【0017】
同図に示されるように、サーバ装置1は、全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)等の制御部11を備える。制御部11は、通信部12、記憶部13と接続されている。通信部12は、ネットワーク4を介してVR装置2や医師の端末装置3等と通信するための通信インタフェースである。
【0018】
記憶部13は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリやハードディスクドライブ(HDD;Hard Disc Drive)等で構成されており、制御部11で実行されるプログラムを記憶している。さらに、記憶部13は、ユーザ情報記憶部14、アプリケーション記憶部15、及び効果記憶部16等を備えている。
【0019】
図3(a)に示されるように、ユーザ情報記憶部14には、ユーザIDと、ユーザの氏名、性別、年齢等の属性情報と、症例(症例ID)が対応付けられて記憶されている、図3(b)に示されるように、アプリケーション記憶部15には、症例IDと、症例の内容(例えば、幻肢痛等)、及び当該症例の痛み軽減に好適なアプリケーションプログラムのIDが対応付けられて記憶されている。そして、図3(c)に示されるように、効果記憶部16には、症例IDと、実行したアプリケーションプログラムのID、痛みレベル(実行前)、痛みレベル(実行後)、及び評価が対応付けられて記憶されている。この例では、いずれも正規化されたテーブル形式で記憶されている。
【0020】
このような構成において、制御部11は、記憶部13のプログラムを実行することで受信部11a、アプリケーション選定部11b、送信部11c、登録部11d、及び学習部11eとして機能する。
【0021】
受信部11aは、HMD装置2で入力されたユーザの年齢、性別、名前、及び質問事項に対する回答等を受信する。アプリケーション選定部11bは、ユーザ情報記憶部14とアプリケーション記憶部15を参照して、ユーザの症例に係る痛みの軽減に好適なアプリケーションプログラムを選定する。送信部11cは、アプリケーション選定部11bにより選定されたアプリケーションプログラムのID等を選定情報としてVR装置2に送信する。登録部11dは、受信部11aが受信した情報をユーザ情報記憶部14、アプリケーション記憶部15、及び効果記憶部16に登録する。
【0022】
そして、学習部11eは、効果記憶部16に記憶された情報に基づいて、症例と実行されたアプリケーションプログラム、実行による痛み軽減の度合い(実行前、実行後の差分値等)から、症例の痛み軽減に効果的なアプリケーションプログラムを学習し、学習の結果をアプリケーション記憶部15の内容に反映させる。換言すれば、学習の結果に基づいて、アプリケーション記憶部15のテーブルの内容を更新する。この学習部11eによる学習により、症例の痛み軽減に好適なアプリケーションプログラムの選定の精度が、使用頻度が高まるにつれて向上する。
【0023】
図4には、痛み軽減システムの一部となり、仮想現実を実現するHMD(Head Mounted Display)装置の構成を示し説明する。
【0024】
同図に示されるように、HMD装置2は、全体の制御を司るCPUやMPU等の制御部21を備えている。制御部21は、通信部22、入力インタフェース(I/F)23、表示部24、記憶部25、センサ部26、マイクロフォン27、及びスピーカ28と接続されている。センサ部26は、角速度センサ26aを備えている。入力I/F23は、コントローラ30と通信自在となっている。
【0025】
通信部22は、ネットワーク4を介してサーバ装置1等と通信するための通信インタフェースである。入力I/F23は、コントローラ30からの操作入力信号を受信する。表示部24は、液晶ディスプレイ等で構成されており、各種表示を行う。記憶部25は、RAMやROM等のメモリやHDD、SSD等で構成されており、制御部21で実行されるメインプログラムのほか、VRやゲーム等に係る各種アプリケーションプログラム25aを記憶している。
【0026】
センサ部26は、HMD装置2の位置を示す位置情報と、HMD装置2の方向を示す方向情報を生成し、それら位置情報と方向情報とを制御部21へ送信する。マイクロフォン27は、収音手段として機能し、スピーカ28は、放音手段として機能する。
【0027】
このような構成において、制御部21は、記憶部25に記憶されているメインプログラムを実行することで、送信部21a、受信部21b、アプリケーション実行部21c、表示制御部21d、及び基準面設定部21eとして機能する。
【0028】
送信部21aは、コントローラ30の操作やマイクロフォン27から入力された音声の音声認識結果に基づいて、ユーザの年齢、性別、名前、質問事項に対する回答等の情報をサーバ装置1へと送信する。受信部21bは、サーバ装置1から受信したアプリケーションの選定情報等を受信する。
【0029】
アプリケーション実行部21cは、記憶部25記憶されているアプリケーションプログラム25aの中からユーザにより選択されたアプリケーションプログラムを実行する。表示制御部21dは、表示部24における表示を制御する。
【0030】
基準面設定部21eは、センサ部26のセンサ出力と、コントローラ30の操作に基づいて、仮想現実に係る画面中の基準面等を設定する。より詳細には、基準面設定部21eは、加速度センサ26aで検出される重力方向を下方向とし、当該下方向に対して直行する平面を表示座標系における基準面として設定する。そして、音声認識部21fは、マイクロフォン27より入力された音声を音声認識してテキスト化する。
【0031】
以下、図5のフローチャートを参照して、痛み軽減システムによる痛み軽減の処理手順を説明する。ここでは、図6(a)乃至図6(j)の画面遷移図を適宜参照する。
【0032】
HMD装置2は、コントローラ30の操作により、図6(a)に示されるような画面上でカーソルを動かし、「VR」を選択することで、本システムにログインする(S1)。続いて、コントローラ30の操作により、図6(b)に示されるような画面にて性別を選択し、図6(c)に示されるような画面にて年代を選択し、図6(d)に示されるような画面の下、マイクロフォン27よりニックネームを入力する。この音声入力は、音声認識部21fにより音声認識される(S2)。HMD端末2では、送信部21aが、属性情報をサーバ装置1へと送信する(S3)。サーバ装置1では、属性情報を受信部11aが受信すると、登録部11dがユーザ情報記憶部14に登録する(S4)。
【0033】
続いて、HMD装置2では、画面上に質問事項が表示され、コントローラ30の操作により質問に回答する(S5)。スピーカ28より音声出力により質問がなされ、当該質問に対して音声で回答するようにしてもよい(S5)。送信部21aは、これら質問事項に対する回答をサーバ装置1に送信する(S6)。サーバ装置1では、回答を受信部11aが受信すると、登録部11dがユーザ情報記憶部14に登録する(S7)。そして、サーバ装置1では、アプリケーション選定部11bが、ユーザ情報記憶部14、アプリケーション記憶部15を参照して、当該ユーザの症例の痛み軽減に効果的なアプリケーションプログラムを選定し、送信部11cが、選定した複数のアプリケーションプログラムのIDを選定情報としてHMD装置2に送信する(S8)。
【0034】
HMD装置2では、受信部21bがサーバ装置1からのアプリケーションの選定情報を受信すると(S9)、表示制御部21dが、図6(f)に示されるように、選定情報により選定されたアプリケーションプログラムの表示がアクティブになるように、表示部24に画面を表示する(S10)。この画面上、コントローラ30の操作により、カーソルが移動されて、1つのアプリケーションプログラムが選択されると(S11をYesに分岐)、ニックネームの入力を受け(S12)、送信部21aはニックネームの情報をサーバ装置1に送信する(S13)。サーバ装置1では、ニックネームを受信部11aが受信すると、登録部11dがユーザ情報記憶部14に登録する(S14)。
【0035】
続いて、HMD装置2では、図6(g)、(h)に示されるように、コントローラ30の操作による痛みスケール(実行前)の入力を受け付けると(S15)、送信部21aが、スケールで設定された痛みレベルの情報をサーバ装置1に送信する(S16)。サーバ装置1では、痛みレベルの情報を受信部11aが受信すると、登録部11dが効果記憶部16に登録する(S14)。
【0036】
HMD装置2では、図6(i)に示されるように、選択されたアプリケーションプログラムが実行される(S18)。尚、このアプリケーション実行に関わる詳細については、図面を参照しつつ、後に詳述する。
【0037】
こうして、HMD装置2では、アプリケーションプログラムの実行を終了すると、再び図6(j)に示されるように、コントローラ30の操作による痛みスケール(実行後)の入力を受け付け(S19)、送信部21aが、スケールで設定された痛みレベルの情報をサーバ装置1に送信する(S20)。サーバ装置1では、痛みレベルの情報を受信部11aが受信すると、登録部11dが効果記憶部16に登録する(S21)。
【0038】
続いて、HMD装置2では、画面上に質問事項が表示され、コントローラ30の操作により質問に回答する。スピーカ28より音声出力により質問がなされ、当該質問に対して音声で回答するようにしてもよい(S22)。送信部21aは、これら質問事項に対する回答をサーバ装置1に送信する(S23)。サーバ装置1では、回答を受信部11aが受信すると、登録部11dがユーザ情報記憶部14や効果記憶部16に登録する(S24)。こうして、一連の処理を終了する。
【0039】
ここで、図7(a)乃至図7(c)には、痛みレベルの設定スケールの他の例を示し説明する。図5で前述した処理手順の中では、図7(a)に示されるような、視覚的アナログスケールを採用したが、図7(b)に示されるように、痛みの設定レベルが数値で確認できるような指標を添えた数値評価スケールや、図7(c)に示されるように、痛みの度合いが表情で実感できるような表情尺度スケールを採用してもよい。
【0040】
次に、図8のフローチャートを参照して、第1のアプリケーションプログラムの実行手順を説明する。ここでは、図9(a)乃至図9(f)の画面遷移図を適宜参照する。
【0041】
第1のアプリケーションプログラムは、緑光セラピー、鏡療法、アニマルセラピーを実現するリラックスVRに関わるプログラムである。
【0042】
本プログラムを実行すると、図9(a)から図9(b)に画面が切り替わり、コントローラ30の操作により、切断等された手(幻肢側)の選択を受ける(S31)。ここで、左手が選択された場合には、以降、健肢でVR上、幻肢側(左手)を操作することになり(S32)、一方、右手が選択された場合には、以降、健肢でVR上、幻肢側(右手)を操作することになる(S33)。
【0043】
続いて、表示制御部21dにより、VRの中で、図9(c)、図9(d)に示されるような幻肢操作等の操作等に関わる各種説明画面が表示部24に表示される(S34)。この操作説明等の後、表示制御部21dにより、緑光セラピーを基本とした、図9(e)に示されるようなアニマルセラピー、図9(f)に示されるような鏡療法を実現する表示が表示部24に順次になされる(S35)。こうして、ゲームの実行を完了した後、図5のステップS19にリターンする。
【0044】
例えば、前述したVR上での鏡療法によれば、健肢によるコントローラの操作によりVR上の幻肢を操作することで、幻肢痛を含む、一部の慢性神経障害性疼痛を軽減できることが発明者による実験により明らかとなった。このほか、基本となる緑光セラピーでは、VRにより森林の中にユーザが身を置くような環境を構築するが、視覚入力に占める緑色可視光線として520~530nm(ナノメーター)、輝度1cd(カンデラ)での照射による視覚入力を提供している。それによっても各種疾病による一部の慢性痛を軽減できることが明らかとなった。そのほか、VR上でのアニマルセラピーでは、森林の中に動物を登場させることで、動物と触れ合う機会を仮想的に提供するものであるが、例えば痛みの増強因子である心因的修飾が見られる疼痛緩和に寄与することが明らかとなった。
【0045】
次に、図10のフローチャートを参照して、第2のアプリケーションプログラムの実行手順を説明する。ここでは、図11(a)乃至図11(g)の画面遷移図を適宜参照する。
【0046】
第2のアプリケーションプログラムは、ターゲットを射撃することで当該ターゲットを撃沈させるようなシューティングゲームに関わるプログラムである。
【0047】
本プログラムを実行すると、ユーザは、表示部24による表示で実現されるVR中を自動的に奥へ向かって進む。そして、表示制御部21dの制御の下、図11(a)に示されるように、VR中にターゲットとなるキャラクターやオブジェクトがランダム、或いは予め決められた場所に出現する。この出現のときには、オブジェクトに合わせた効果音がスピーカ28より出力される(S41)。
【0048】
ユーザが、身体的運動機能を使ってターゲットとなるオブジェクトを補足し、コントローラ30のトリガを引くと(S42をYesに分岐)、図11(b)、図11(c)に示されるように、表示部24の表示画面上で弾が発射されると共に、発射音がスピーカ28より出力される(S43)。そして、発射した弾がターゲットとなるオブジェクトに当たると(S44をYesに分岐)、図11(d)、図11(e)に示されるように、オブジェクトが砕ける描写がなされると共に、破壊音がスピーカ28より出力される(S45)。このとき、図11(f)に示されるように、砕けたオブジェクトの中に、報酬系を象徴するコインやハートが提示され、再びステップS41に戻り、上記処理を繰り返す(S46をNoに分岐)。そして、ゲームを終了する場合には(S46をYesに分岐)、図5のステップS19にリターンする。
【0049】
以上の処理の中、ステップ42からステップS44までの処理、即ち、トリガが引かれてから、射出された弾がターゲットとなるオブジェクトに着弾し、その効果が出力されるまでの処理を、0.2秒の間により行う。これにより、脳内報酬系、ドーパミン、ノルアドレナリン神経回路への放出効果をもたらし、利用者の記憶定着と健在意識への占有率を高め、幻肢痛等、慢性化した痛みの一部を軽減することができることが、発明者の研究により明らかになった。
【0050】
また、一般に、慢性病の中でも、神経障害性疼痛の治療の第一選択薬の一部として、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が挙げられるが、ドーパミンは、ノルアドレナリンの前躯体として機能するため、セロトニンバランスが保たれた状態の体験者においては、ノルアドレナリンの働きと相まって鎮痛効果を発揮する。また、報酬により学習を強化するため、記憶定着がより強化される事で、鎮痛時間は人によって数時間から2週間程度維持されることが明らかになった。
【0051】
最後に、図12には、痛み低下レベルに係る特性図を示し説明する。
【0052】
同図に示されるように、神経引き抜け損傷については、患者の60%が痛みを感じていたが、本システムによるアプリケーションの実行後においては、15%に減少した。幻肢痛については、患者の全てが痛みを感じていたが、本システムによるアプリケーションの実行後においては70%に減少した。がん切除については、患者の35%が痛みを感じていたが、本システムによるアプリケーションの実行後においては15%に減少した。複合性局所疼痛症候群については、患者の70%が痛みを感じていたが、本システムによるアプリケーションの実行後においては、50%に減少した。そして、良性腫瘍・座骨神経痛では、患者の20%が痛みを感じていたが、本システムによるアプリケーションの実行後においては、10%に減少した。このように、各疾病について、本システムによる痛みの軽減効果を確認することができた。
【0053】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、幻肢痛等の痛みを、VR上で実現される鏡療法や緑光法、アニマルセラピー等により、及びシューティングゲームの実行により効果的に軽減することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の改良・変更が可能であることは勿論である。
【0055】
例えば、選択、実行可能なアプリケーションプログラムは、前述したリラックスVRやシューティングゲームには限定されず、各種のものを採用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…サーバ装置、2…HMD装置、3…端末装置、4…ネットワーク、11…制御部、11a…受信部、11b…アプリケーション選定部、11c…送信部、11d…登録部、11e…学習部、12…通信部、13…記憶部、14…ユーザ情報記憶部、15…アプリケーション記憶部、16…効果記憶部、21…制御部、21a…送信部、21b…受信部、21c…アプリケーション実行部、21d…表示制御部、21e…基準面設定部、21f…音声認識部、22…通信部、23…入力I/F、24…表示部、25…記憶部、25a…アプリケーションプログラム、26…センサ部、26a…角速度センサ、27…マクロフォン、28…スピーカ、30…コントローラ。
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