(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】成形体の製造方法および成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 55/18 20060101AFI20230202BHJP
B29C 43/02 20060101ALI20230202BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20230202BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B29C55/18
B29C43/02
C08J5/00
C07K14/435 ZNA
(21)【出願番号】P 2019559231
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2018046150
(87)【国際公開番号】W WO2019117296
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2017240347
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】平井 伸治
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔太
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086242(JP,A)
【文献】特表2002-505367(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103799(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/019841(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047504(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/073796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00-43/58
B29C 55/00-55/30
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
C07K 14/435
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を含まない成形体の製造方法であって、
構造タンパク質
と、前記構造タンパク質の含有量の50質量%以下の添加成分と、からなる組成物を成形する工程1と、
前記工程1で得られる成形組成物を圧縮して延伸する工程2と、を含
み、
前記工程1および前記工程2を経て曲げ強度が141MPaを超える前記成形体を得る、成形体の製造方法。
【請求項2】
前記工程1が、前記組成物を加熱および加圧することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程2が、前記成形組成物を加熱することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程2を複数回繰り返す、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程2の前および前記工程2の後の少なくともいずれかにおいて、前記成形組成物を乾燥する工程3を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
強化繊維を含まない成形体の製造方法であって、
構造タンパク質を含む組成物(ただし、約30重量%から約95重量%のモロコシ粉を含有する組成物を除く。)を成形する工程1と、
前記工程1で得られる成形組成物を圧縮して延伸する工程2と、を含み、
前記工程1および前記工程2を経て曲げ強度が141MPaを超える前記成形体を得る、成形体の製造方法。
【請求項8】
構造タンパク質を含む組成物の成形体であって、
前記成形体は強化繊維を含まず、曲げ強度が141MPaを超え
、かつ、曲げ弾性率が8.47GPaを超える成形体。
【請求項9】
構造タンパク質を含む組成物の成形体であって、
前記成形体は強化繊維を含まず、配向度が0.22以上であ
り、かつ、曲げ強度が141MPaを超える成形体。
【請求項10】
前記構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、請求項
8または9に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量化、コストダウン、成形加工の容易化等を目的として、金属材料を有機材料で代替する試みがなされている。このような有機材料としては、硬度の高いフェノール樹脂が用いられることが多く、曲げ弾性率や曲げ強度を更に上昇させるため、フェノール樹脂を含有するマトリックス樹脂に、フェノール樹脂繊維を添加する手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、環境保全意識の高まりから、非石油系材料であるバイオプラスチックが注目されており、例えば、シルク粉末を樹脂化することで曲げ弾性率4.5GPaの成形体を得られることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】平井伸治、月刊機能材料誌、2014年6月、「廃棄物由来動物タンパク質を用いた環境調和型シルクおよび羊毛樹脂」
【文献】Science,2002年,295巻,pp.472-476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるような材料は、マトリックス樹脂に繊維(強化繊維)を含有することにより補強効果を発揮するものであり、マトリックス樹脂自体で高強度を達成することは困難であった。また、生分解性材料により曲げ弾性率4.5GPaを超える成形体を得ることはできなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高強度を有する生分解性の成形体の製造方法、および、高強度を有する生分解性の成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1] 構造タンパク質を含む組成物を成形する工程1と、上記工程1で得られる成形組成物を圧縮して延伸する工程2と、を含む成形体の製造方法。
[2] 上記工程1が、上記組成物を加熱および加圧することを含む、[1]に記載の方法。
[3] 上記工程2が、上記成形組成物を加熱することを含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 上記工程2を複数回繰り返す、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 上記工程2の前および上記工程2の後の少なくともいずれかにおいて、上記成形組成物を乾燥する工程3を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 構造タンパク質を含む組成物の成形体であって、曲げ弾性率が8.47GPaを超える成形体。
[8] 構造タンパク質を含む組成物の成形体であって、曲げ強度が141MPaを超える成形体。
[9] 構造タンパク質を含む組成物の成形体であって、配向度が0.22以上である成形体。
[10] 上記構造タンパク質がクモ糸フィブロインである、[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
【0008】
上記成形体は、生分解性を有しており、また構造タンパク質を原料とすること、そして当該原料を成形し、更に圧縮して延伸したものであることを特徴としており、これらの特徴に起因して、強化繊維等の添加材料を用いなくとも、高強度を有する成形体が得られる。高強度を有する成形体とは、たとえば、曲げ弾性率が8.47GPaを超える成形体、または、曲げ強度が141MPaを超える成形体である。高強度を有する成形体とは、たとえば、配向度が0.22以上である成形体である。
【0009】
組成物を成形する工程において加熱および加圧を行うことにより、更に高強度を有する成形体が得られる。成形組成物を圧縮して延伸する工程において加熱を行うことにより、更に高強度を有する成形体が得られる。成形組成物を圧縮して延伸する工程を複数回繰り返すことにより、更に高強度を有する成形体が得られる。
【0010】
成形組成物を圧縮して延伸する工程の前に、または、成形組成物を圧縮して延伸する工程の後に、その成形組成物の乾燥を行うことにより、更に高強度を有する成形体が得られる。その成形組成物の乾燥を、成形組成物を圧縮して延伸する工程の前後に行ってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、強化繊維等の添加材料を用いなくとも、高強度を有する生分解性の成形体の製造方法、および、高強度を有する生分解性の成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】(a)は組成物の導入前の状態、(b)は組成物の導入直後の状態、(c)は組成物を加熱及び加圧している状態の加圧成形機をそれぞれ模式的に示す断面図である。
【
図3】(a)は1回目の延伸工程を模式的に示す図、(b)は2回目の延伸工程を模式的に示す図である。
【
図4】(a)は延伸工程の他の例を模式的に示す図、(b)は延伸工程の更に他の例を模式的に示す図である。
【
図5】実施例に係る成形体の作製工程を示すフロー図である。
【
図6】(a)は、比較例に係る成形体の写真であり、(b)~(d)は、実施例1~3に係る各成形体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る成形体は、構造タンパク質を含む組成物を成形し、この成形工程で得られた成形組成物を圧縮して延伸する工程等により得られるものである。
【0015】
[構造タンパク質]
構造タンパク質とは、生体構造を構築する役割を有するタンパク質であり、酵素、ホルモン、抗体等の機能タンパク質とは異なる。構造タンパク質としては、天然に存在するフィブロイン、コラ-ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン等の天然型構造タンパク質を挙げることができる。天然に存在するフィブロインとして、昆虫及びクモ類が産生するフィブロインが知られている。本実施形態において、構造タンパク質はスパイダーシルクタンパク質を含むことが好ましい。
【0016】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0017】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0018】
クモには最大7種類の絹糸腺が存在し、それぞれ性質の異なるフィブロイン(スパイダーシルクタンパク質)を産生する。スパイダーシルクタンパク質は、その源泉の器官にしたがって、高い靭性を有する大瓶状スパイダータンパク質(major ampullate spider protein、MaSp)、高度な伸長力を有する小瓶状スパイダータンパク質(minor ampullate spider protein、MiSp)、並びに鞭状(flagelliform(Flag))、管状(tubuliform)、集合(aggregate)、ブドウ状(aciniform)及びナシ状(pyriform)の各スパイダーシルクタンパク質と命名されている。
【0019】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0020】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0021】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0022】
構造タンパク質は、上記天然型構造タンパク質に由来するポリペプチド、すなわち組換えポリペプチドであってもよい。例えば、組換えフィブロインは、いくつかの異種タンパク質生産系で産生されており、その製造方法として、トランスジェニック・ヤギ、トランスジェニック・カイコ、又は組換え植物若しくは哺乳類細胞が利用されている(非特許文献2参照)。
【0023】
組換えフィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0024】
大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えポリペプチドは、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式1中、(A)nモチーフは4~20アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示し、かつ(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数が80%以上である。REPは10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは8~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)として表すことができる。具体的には配列番号12で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をあげることができる。
【0025】
コラーゲンの組換えポリペプチドとして、例えば、式2:[REP2]oで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式2中、oは5~300の整数を示す。REP2は、Gly一X一Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP2は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号13で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenbankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0026】
レシリンの組換えポリペプチドとして、例えば、式3:[REP3]pで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは4~300の整数を示す。REP3はSer一J一J一Tyr一Gly一U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号14で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenbankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号17で示されるアミノ酸配列(タグ配列)が付加されたものである。
【0027】
エラスチンの組換えポリペプチドとして、例えば、NCBIのGenbankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号15で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenbankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0028】
ケラチンの組換えポリペプチドとして、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号16で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenbankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
【0029】
組換えポリペプチドは、(i)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列、又は(ii)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、組換えフィブロインであってもよい。
【0030】
(i)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列を含む、組換えフィブロインについて説明する。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号4の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。なお、配列番号3で示されるアミノ酸配列は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。
【0031】
(ii)配列番号2、配列番号4若しくは配列番号10で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、組換えフィブロインについて説明する。(ii)組換えフィブロインは、配列番号2、配列番号4又は配列番号10で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(ii)組換えフィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0032】
上述の組換えフィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、組換えフィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0033】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による組換えフィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0034】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0035】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に組換えフィブロインを精製することができる。
【0036】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した組換えフィブロインを回収することもできる。
【0037】
タグ配列を含む組換えフィブロインのより具体的な例として、(iii)配列番号7、配列番号9若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列、又は(iv)配列番号7、配列番号9若しくは配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、組換えフィブロインを挙げることができる。
【0038】
組換えポリペプチドは、(iii)配列番号7、配列番号9又は配列番号11で示されるアミノ酸配列、又は(iv)配列番号7、配列番号9又は配列番号11で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、組換えフィブロインであってもよい。
【0039】
配列番号6、7、8、9及び11で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4及び10で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグを含む)を付加したものである。(iv)組換えフィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0040】
構造タンパク質は、組換えポリペプチドを含むことが好ましい。構造タンパク質として組換えポリペプチドを含むことにより、得られる成形体の曲げ弾性率、曲げ強度及び硬度を所望の数値に調整することが可能である。また、得られる成形体の配向度を所望の数値に調整することが可能である。
【0041】
[構造タンパク質を発現する組換え細胞]
組換えポリペプチドの製造方法について、以下に詳述する。目的とする組換えポリペプチドは、例えば、構造タンパク質をコードする遺伝子配列と、当該遺伝子配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該遺伝子を発現させることにより生産することができる。
【0042】
目的とする組換えポリペプチドをコードする遺伝子の製造方法は特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的な合成によって、遺伝子を製造することができる。遺伝子の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製や確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したポリペプチドをコードする遺伝子を合成してもよい。
【0043】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いても良い。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0044】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とする組換えポリペプチドをコードする遺伝子を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0045】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0046】
原核生物の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。
【0047】
目的とする組換えポリペプチドをコードする遺伝子を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0048】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。
【0049】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0050】
ベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。
【0051】
上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0052】
発現ベクターで形質転換された宿主による遺伝子の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0053】
目的とする組換えポリペプチドは、例えば、本発明に係る発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。本発明に係る宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0054】
本発明に係る宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、本発明に係る宿主の培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0055】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0056】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0057】
無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0058】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0059】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0060】
本発明に係る組換えポリペプチドは、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、当該組換えポリペプチドが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫酸アンモニウム等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0061】
また、組換えポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として組換えポリペプチドの不溶体を回収する。回収した組換えポリペプチドの不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により組換えポリペプチドの精製標品を得ることができる。
【0062】
組換えポリペプチドが細胞外に分泌された場合には、培養上清から組換えポリペプチドを回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0063】
[成形体の製造方法]
一実施形態である成形体の製造方法は、構造タンパク質を含む組成物をたとえば鋳型(モールド)に導入して成形する工程1と、工程1で得られた成形組成物を圧縮して延伸し、成形体を得る工程2と、を含む。
【0064】
工程1は、構造タンパク質を含む組成物を鋳型(モールド)に導入し、成形加工して、成形組成物(モールド成形体)を得る工程である。この成形加工において、組成物を加熱および/または加圧してもよい。
【0065】
組成物は、構造タンパク質を含んでいればよい。組成物は、構造タンパク質のみであってもよく、構造タンパク質及び任意の添加成分(例えば、可塑剤、着色剤、フィラー、合成樹脂等)を含んでいてもよく、複数種類の構造タンパク質を含んでいてもよい。上記添加成分の含有量は、構造タンパク質の合計量の50質量%以下にすることが好ましい。組成物は、典型的には粉末状(凍結乾燥粉末等)又は繊維状(紡糸して得られる繊維等)の形状を有している。成形組成物は、そのような形状の構造タンパク質を含む組成物の融着体であり得る。
【0066】
組成物は、TiO2またはモンモリロナイト等の無機添加成分を含んでいてもよい。
【0067】
成形組成物は、例えば、加圧成形機を用いて成形することができる。
図1は、成形組成物を製造するために用いることのできる加圧成形機の模式断面図である。
図1に示す加圧成形機10は、貫通孔が形成され加温可能な金型2と、金型2の貫通孔内で上下動が可能な上側ピン4及び下側ピン6とを備えるものである。加圧成形機10では、金型2の貫通孔に上側ピン4又は下側ピン6を挿入して生じる空隙に、構造タンパク質を含む組成物を導入して、金型2を加温しつつ、上側ピン4及び下側ピン6で当該組成物を圧縮することで、成形組成物を得ることができる。
【0068】
図2は、成形組成物を得る工程図を示すものであり、(a)は組成物の導入前、(b)は組成物の導入直後、(c)は組成物を加熱および加圧している状態の加圧成形機の模式断面図である。
図2(a)に示すように、金型2の貫通孔に下側ピン6のみを挿入した状態で貫通孔内に組成物を導入する。続いて
図2(b)に示すように、金型2の貫通孔に上側ピン4を挿入して下降させ、金型2の加熱を開始して、加熱加圧前の組成物8aを貫通孔内で加熱加圧する。あらかじめ定めた加圧力に至るまで上側ピン4を下降させ、
図2(c)に示す状態で組成物が所定の温度に達するまで、加熱および加圧を継続して、加熱加圧後の組成物8bを得る。その後、冷却器(例えばスポットクーラー)を用いて金型2の温度を下降させ、成形組成物8bが所定の温度になったところで、上側ピン4又は下側ピン6を金型2から抜き取り、内容物を取り出す。加圧に関しては、下側ピン6を固定した状態で上側ピン4を下降させて実施してもよいが、上側ピン4の下降と下側ピン6の上昇の両方を実施してもよい。取り出した内容物を乾燥させて、成形組成物を得る。加圧に関しては、下側ピン6を固定した状態で上側ピン4を下降させて実施してもよいが、上側ピン4の下降と下側ピン6の上昇の両方を実施してもよい。
【0069】
工程1における加熱は、金型の温度が80~300℃で行うことが好ましく、100~180℃がより好ましく、100~130℃が更に好ましい。加圧は、5kN以上で行うことが好ましく、10kN以上がより好ましく、20kN以上が更に好ましい。また、所定の加熱加圧条件に達した後、その条件での処理を続ける時間(保温条件)は、0~100分が好ましく、1~50分がより好ましく5~30分が更に好ましい。
【0070】
なお、工程1の前に、構造タンパク質を含む組成物に水を加える工程を行ってもよい。当該工程における水の添加量は、構造タンパク質の質量に対して10~40wt%であることが好ましく、20~30wt%であることがより好ましい。
【0071】
その場合、
図2(a)に示すように、金型2の貫通孔に下側ピン6のみを挿入した状態で貫通孔内に含水組成物を導入するが、導入前または導入後に水分を加えた上で撹拌する。続いて
図2(b)に示すように、金型2の貫通孔に上側ピン4を挿入して下降させ、金型2の加熱を開始して、加熱加圧前の含水組成物8aを貫通孔内で加熱加圧する。その後の工程1の手順は、上記実施形態と同じであってよい。
【0072】
水を加える工程に続く工程1の後に、工程1で得られる成形組成物を乾燥する工程を行ってもよい。乾燥は、真空中及び/又は100℃の環境下に1分から10日間静置することが好ましい。
【0073】
工程2は、上記工程1で得られる成形組成物を圧縮して延伸する工程である。工程2では、たとえば2本の円筒状のロールを有する延伸機が用いられる。工程2では、たとえば2本のロールで成形組成物(モールド成形体)を挟み込んで圧力を加えつつ、2本のロールをそれぞれ回転させて送り出す。これにより、成形組成物の全体を圧縮延伸する。1回のみの圧縮延伸を行ってもよいが、複数回の圧縮延伸を行ってもよい。すなわち、工程2を複数回繰り返してもよい。工程2は、成形組成物を加熱することなく行われてもよい。一方、工程2において、成形組成物を加熱してもよい。その場合、加熱延伸機が用いられ得る。延伸機は、手動でローラを回転させる形式であってもよく、電動等の自動でローラを回転させる形式であってもよい。延伸機における送出し速度は、任意に調整可能である。加熱延伸機が用いられる場合、たとえばローラにヒータが内蔵される。ローラの温度は、任意に調整可能である。
【0074】
図3は、成形体を得る工程を示すものであり、(a)は1回目の延伸工程を模式的に示す図、(b)は2回目の延伸工程を模式的に示す図である。
図3(a)に示す延伸機20は、上ロール10Aと下ロール10Bとを備えるものである。上ロール10Aおよび下ロール10Bの位置(間隔)は、所定の板厚比すなわち圧下率で成形組成物8bを延伸するように設定され得る。延伸機20では、成形組成物8bを上ロール10Aと下ロール10Bとの間に送り込んで挟み込むことで、成形組成物8bを圧縮延伸することができる。1回のみの工程2を行う場合には、延伸されて、成形組成物8bの板厚よりも薄い板厚を有する成形体8cを得ることができる。複数回の工程2を行う場合には、
図3(b)に示すように、成形体8cを上ロール10Aと下ロール10Bとの間に再度送り込む。上ロール10Aおよび下ロール10Bの位置(間隔)は、所定の板厚比すなわち圧下率で成形体8cを延伸するように設定される。ここでの板厚比は、前回の延伸における板厚比と同じであってもよく、異なってもよい。その後、延伸されて、成形体8cの板厚よりも薄い板厚を有する成形体8dを得ることができる。
【0075】
工程2において、圧下率および延伸回数は多い方がより高強度のものが得られるが、用途に応じて定めることができる。
【0076】
工程2において加熱を行う場合、加熱は、80~200℃で行うことが好ましく、100~180℃がより好ましく、120~160℃が更に好ましい。
【0077】
なお、工程2は、2本のロールを用いた形態に限られず、圧縮延伸を行い得る他の形態によって行われてもよい。たとえば、
図4(a)に示すように、平板状の基盤とロール11とを備える延伸機20Aを用い、基盤上に成形組成物を置き、その上からロール11を転がしつつ押し当てることで、成形組成物を圧縮延伸してもよい。さらには、
図4(b)に示すように、平板状の上金型12Aおよび下金型12Bを備える延伸機20Bを用い、上金型12Aおよび下金型12Bにより成形組成物を挟み込んで圧力を加えることで、成形組成物を圧縮延伸してもよい。
【0078】
工程1と工程2の間(工程2の前)に、成形組成物を乾燥する工程3を行ってもよい。その場合、乾燥は、真空中及び/又は100℃の環境下に30分から3日間静置することが好ましい。工程2の後に、成形組成物を乾燥する工程3を行ってもよい。その場合、乾燥は、真空中及び/又は100℃の環境下に30分から3日間静置することが好ましい。これらの両方、すなわち工程2の前および後に、成形組成物を乾燥する工程3を行ってもよい。
【0079】
本実施形態によって得られる成形体は、樹脂様成形体である。樹脂様成形体とは、外観が合成樹脂のような成形体である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
図5は、実施例に係る成形体の作製工程を示すフロー図である。まず、以下の手順で、人工クモ糸粉末を用意した(ステップS01)。
【0082】
(1)構造タンパク質発現株の作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列をGenBankのウェブデータベースより取得した後、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施し、さらにN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加して、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有する組換えフィブロイン(以下、「PRT410」ともいう。)を設計した。
【0083】
次に、PRT410をコードする遺伝子を合成委託した。その結果、遺伝子の5’末端直上流にNdeIサイト、及び3’末端直下流にEcoRIサイトを付加した遺伝子を得た。当該遺伝子をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした後、NdeI及びEcoRIで制限酵素処理し、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組み換えた。
【0084】
(2)タンパク質の発現
上記で得られたPRT410をコードする遺伝子を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。形質転換された大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養後、同培養液を、表1に示すシード培養用培地100mLに、OD
600が0.005となるように添加した。培養液の温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコにて、さらに約15時間培養を行い、シード培養液を得た。
【表1】
【0085】
得られたシード培養液を、表2に示す生産培地500mLを添加したジャーファーメンターに、OD600が0.05となるように添加した。培養液の温度を37℃に保ち、pH6.9で一定になるように制御し、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにして培養した。なお、消泡剤として、アデカノールLG-295S((株)ADEKA製)を使用した。
【0086】
【0087】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)水溶液を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質の発現を確認した。
【0088】
(3)構造タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0089】
<成形体の作製>
次に、人工クモ糸粉末をステンレス製治具に充填し、ホットプレスを用いて温度170℃、圧力30MPaで加熱および加圧を行った(ステップS02)。これにより、成形組成物(中間成形体)を得た(ステップS03)。成形組成物のサイズは、直径20mm、厚さ3mmの円板状であり、質量は1.2gであった。
【0090】
次に、真空乾燥機(AS ONE株式会社製のAVO-250N)を用いて、温度100℃、減圧真空下で6時間、成形組成物を乾燥させた(ステップS04)。
【0091】
次に、手動式加熱延伸機(井元製作所株式会社製、IMC-1989型)を用い、成形組成物を直接ロールに挟み込み、延伸させた(ステップS05)。延伸条件としては、温度150℃、延伸回数1~9回、最終圧下率を30~72%とした。これにより、延伸された成形体を得た。各実施例における延伸条件の詳細については、後述する。
【0092】
延伸後、再び上記の真空乾燥機を用い、温度100℃、減圧真空下で12時間、成形体を乾燥させた(ステップS06)。乾燥後、成形体をデシケータ内で12時間保管し、その後、試験に用いる成形体を得た(ステップS07)。その後、ダイヤモンドカッターを用いて、成形体の中央部を短冊状に切り出し、曲げ試験のための試験片を作製した。
【0093】
<曲げ試験>
切り出した試験片に対し、卓上形精密万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAGS-X 1kN)を用いて三点曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。測定条件は、支点間距離14mm、試験速度1mm/minとした。試験片のサイズは、長さ18mm、幅4mm、厚さ0.6~2mmとした。
【0094】
<硬さの測定>
切り出した試験片に対し、マイクロビッカース硬さ試験機(島津製作所株式会社製、商品名:HMV-G)にてビッカース硬さを測定した。
【0095】
(試験例1)
試験例1では、実施例1~3でそれぞれ1回のみの加熱延伸を行い、圧下率を変化させた。実施例1では圧下率を30%とし、実施例2では圧下率を50%とし、実施例3では圧下率を68%とした。比較例では、加圧成形後に加熱延伸を行わなかったこと以外、実施例1~3と同様にして成形体を得た。試験結果を表3に示す。表3に示されるように、圧下率を変化させたいずれの実施例でも、曲げ強度および曲げ弾性率の両方において、比較例よりも高い値が得られた。
【0096】
【0097】
図6(a)は、比較例に係る成形体の写真であり、
図6(b)~(d)は、実施例1~3に係る各成形体の写真である。実施例1~3では、比較例よりも透明度が向上した。圧下率が大きいほど、高い透明度が得られた。
【0098】
(試験例2)
試験例2では、実施例3,4,5,6において、最終的な圧下率が70%に近くなるようにし、加熱延伸をそれぞれ1,3,5,9回行った。試験結果を表4に示す。表4に示されるように、同程度の圧下率であれば、加熱延伸工程の回数が多い方が、曲げ強度が大きくなった。
【0099】
【0100】
また実施例7,8では、加熱延伸の回数をそれぞれ5回とし、最終的な圧下率が70%に近くなるようにしたところ、それぞれ65%、72%となった。試験結果を表5に示す。表5に示されるように、加熱延伸工程の回数が同じであれば、圧下率の大きい方が、曲げ強度および曲げ弾性率の両方が大きくなった。
【0101】
【0102】
【0103】
(試験例3)
試験例3では、最初の真空乾燥機を用いた乾燥(ステップS04)と、延伸後の真空乾燥機を用いた乾燥(ステップS06)とを行わなかったこと以外、上記した方法と同様に成形体を作製した。すなわち、試験例3では、2つの乾燥工程が省略された。実施例9,10では、それぞれ1回のみの加熱延伸を行い、圧下率を変化させた。実施例9では圧下率を41%とし、実施例10では圧下率を60%とした。比較例では、加圧成形後に加熱延伸を行わなかったこと以外、実施例9,10と同様にして成形体を得た。これらの試験片について、上記の曲げ試験を行った。さらに試験例3では、広角X線散乱装置(株式会社リガク製、XtaLAB)を用いて、試験片の配向度を測定した。試験結果を表7に示す。表7に示されるように、加熱延伸工程の回数が同じであれば、圧下率の大きい方が、配向度が大きくなった。また実施例9,10では、実施例1~8に比して曲げ強度が低い。これは、乾燥工程が省略されたことに起因し、試験片が水分を多く含んでいたためと思われる。
【0104】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、強化繊維等の添加材料を用いなくとも、高強度を有する生分解性の成形体の製造方法、および、高強度を有する生分解性の成形体が提供される。
【符号の説明】
【0106】
8a…成形前の組成物、8b…圧縮延伸前の成形組成物、8c,8d…圧縮延伸後の成形体、10…加圧成形機、10A…上ロール、10B…下ロール、11…ロール、12A…上金型、12B…下金型、20…延伸機、20A,20B…延伸機。
【配列表】