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特許7219910コンクリートの最適締固め判定施工システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】コンクリートの最適締固め判定施工システム
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/06 20060101AFI20230202BHJP
   E04G 21/08 20060101ALI20230202BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20230202BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230202BHJP
【FI】
E04G21/06
E04G21/08
G01N33/38
G06T7/00 350C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018167811
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020041290
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】長田 茂美
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕史
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-242435(JP,A)
【文献】特開平09-078521(JP,A)
【文献】特開2017-025609(JP,A)
【文献】特開2017-107443(JP,A)
【文献】特開平02-020766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/06-21/08
G01N 33/38
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設されたコンクリートに挿入されて当該コンクリートに振動を与え、コンクリートの締固めを行うバイブレータと、
前記締固めされるコンクリートの画像を取得する撮影手段と、
画像或いは画像特徴量とコンクリートの締固め具合に関する既知の数値列との集合を学習データとした教師あり学習をするとともに、前記撮影手段から取得された画像を基に、前記コンクリートの締固め具合に関する特徴量である数値列を算出する画像特徴量算出部と、
前記画像特徴量算出部によって算出された前記数値列を基に教師あり学習をするとともに、前記コンクリートの締固め具合を表す数値の予測値を導出する学習部と、
学習部からの予測値を演算して締固め判定を行う締固め判定部と、
を備えるコンクリートの最適締固め判定システム。
【請求項2】
前記学習部は、前記予測値として、前記コンクリートの表面状態に関する数値の予測値を導出する、
請求項1記載のコンクリートの最適締固め判定システム。
【請求項3】
撮影手段を用いて、打設されたコンクリートの表面の画像を取得し、
画像特徴量算出部により、画像或いは画像特徴量とコンクリートの締固め具合に関する既知の数値列との集合を学習データとした教師あり学習をするとともに、前記撮影手段から取得された画像を基に、前記コンクリートの締固め具合に関する特徴量である数値列を算出し、
学習部により、前記画像特徴量算出部によって算出された前記数値列を基に教師あり学習するとともに、前記コンクリートの締固め具合を表す数値の予測値を導出し、
締固め判定部により、学習部からの予測値を演算して締固め判定を行う、
ことを特徴とするコンクリートの最適締固め判定方法。
【請求項4】
打設されたコンクリートに挿入されて当該コンクリートに振動を与え、コンクリートの締固めを行うバイブレータと、
前記締固めされるコンクリートの画像を取得する撮影手段と、
打設されたコンクリートに対して、バイブレータを昇降動作および位置変更動
作を行わせるバイブレータ駆動手段と、
前記締固めされるコンクリートに対して、撮影手段を昇降動作および位置変更
動作を行わせる撮影手段駆動手段と、
画像或いは画像特徴量とコンクリートの締固め具合に関する既知の数値列との集合を学習データとした教師あり学習をするとともに、前記撮影手段から取得された画像を基に、前記コンクリートの締固め具合に関する特徴量である数値列を算出する画像特徴量算出部と、
前記画像特徴量算出部によって算出された前記数値列を基に教師あり学習をするとともに、前記コンクリートの締固め具合を表す数値の予測値を導出する学習部と、
学習部からの予測値を演算して締固め判定を行う締固め判定部と、
前記バイブレータ駆動手段および前記撮影手段駆動手段を駆動制御する動作制御部と、
を備えるコンクリートの最適締固め判定施工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレッシュコンクリートを締固める際に、最適な締固め状態を判定するコンクリートの最適締固め判定施工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、フレッシュコンクリートを締固める際は、運搬時、打込み時に巻き込んだ空気をコンクリートから除去し、鉄筋や埋設物などをコンクリートとよく密着させ、コンクリートを均一で密実にすることが求められる。一般に、コンクリートの締固めは、型枠内に打込まれたコンクリートにバイブレータを挿入し振動を加えることで行われている。また、この場合、コンクリートの十分な締固めの判断、つまり、締固めの判定は、ベテランの作業員や技術者のコンクリート表面に対する目視判断によって行われている。この振動締固めが十分になされることにより、コンクリートを型枠、鉄筋の隅々まで密に充填し、かつコンクリートの内部及び表面の気泡などの空隙をなくして、強度、水密性、耐久性に優れたコンクリートを作ることができる。
【0003】
なお、コンクリートの十分な締固めに関し、一般的な指針として、コンクリート標準示方書では「振動締固めが十分である証拠の一つは、コンクリートとせき板との接触面にセメントペーストの線が現れることである。また、コンクリートの容積の減っていくのが認められなくなり、表面に光沢が現れてコンクリート全体が均一に溶け合ったように見えること等から分かる。」と記載されている。
【0004】
また、従来においては、作業員の個人的技量に左右されないで、打設コンクリートの所要の品質を確保することを目的としたコンクリートの締固め方法が特許文献1により提案され、また、カメラ撮影や、距離センサによる計測技術により打設コンクリートの締固め判定を行う技術が特許文献2及び特許文献3により提案されている。
【0005】
上記特許文献1のコンクリートの締固め方法では、打設するコンクリートの型枠底部に浮揚式バイブレータを設置し、型枠内にコンクリートを所定高さになるように打設するとともに、バイブレータ付近のコンクリート圧に応じてバイブレータを振動させながらコンクリート内を上方へ浮上させることにより、打設コンクリートを下部から上方へ向けて締固める。
【0006】
この場合、バイブレータは、型枠内に打設するコンクリートが所定厚さに達すると、圧力センサーにより検出されるコンクリート圧の検出信号により原動機が駆動し、これにより、バイブレータは所定周波数で振動して周囲のコンクリートを締固めるとともに、バイブレータとコンクリートとの摩擦抵抗を減少させる。また、バイブレータのかさ比重がコンクリートの比重より軽量に形成されているので、バイブレータとコンクリートとの摩擦抵抗の減少に伴ってバイブレータに公知の浮力が発生し、バイブレータは振動して周囲のコンクリートを締固めながら上方へ上昇する。そして、バイブレータがコンクリートの上面に位置すると、コンクリート圧が0値の検出信号が圧力センサーから原動機へ送電され、バイブレータが停止してコンクリートの締固めが終了する。
【0007】
このようにこのコンクリートの締固め方法では、浮揚式バイブレータを用いることにより、コンクリートの締固め作業を自動化して、従来の重作業から解放することができ、コンクリートの締固め度合いが個人的技量に依存されないため、施工の信頼性を向上させることができる、としている。
【0008】
上記特許文献2のコンクリートの締固め判定を行う技術は、コンクリート内部に挿入したバイブレーターで振動を加えること等によって、締固め作業を行う。ここで、あらかじめ設定した所定の時間間隔でバイブレーターを一時的に停止し、形状データ取得手段(カメラ等)によりコンクリートの表面Sの形状データを取得する。平滑度検出手段による形状データ解析によって、表面の凹凸形状が把握され、取得した表面の平滑度が検出される。検出した平滑度に基づいて締固め度判定手段がコンクリートの締固め度を定量的に判定する。この結果、所定の締固め度に達したら、締固め完了と判定する、としている。
【0009】
また、上記特許文献3のコンクリートの締固め判定を行う技術は、光線を対象物に投射して、点群データの集合である3次元距離データを取得する3次元距離センサと、取得された前記3次元距離データを、3次元直交座標に基づく点群データに変換する座標変換部と、変換された点群データから、平面として認識される点群を抽出する平面抽出部と、抽出された平面を構成する点群の点群数を計算する点群数計算部と、計算された点群数が閾値以上であるか否かを判定する判定部と、を備えた判定システムにおいて、前記判定部で点群数が閾値以上であるときコンクリートの締固めが完了したことを判定する、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平4-357274号公報
【文献】特開2017-025609号公報
【文献】特開2017-053084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のコンクリートの締固めの判定は、ベテランの作業員や技術者のコンクリート表面に対する目視判断によって行われており、その判断基準が作業員や技術者の経験、技量などに依存するため、適切に判断できる者が限られており、また他面で、作業員、技術者間で判定結果に個人差が生じることがあり、さらにはコンクリート内部における振動の伝播状況までは把握できないことから、コンクリートの仕上がり品質にばらつきが生じるおそれがある、という問題がある。
【0012】
また、特許文献1のコンクリートの締固め方法では、作業員の個人的技量に左右されない点で利点があるものの、バイブレータ自体が浮上するものであるため、コンクリートの締固めの判定がコンクリート内のバイブレータの挿入位置のみの判定に留まり、また、この場合も、コンクリート内部における振動の伝播状況までは把握することができないことから、コンクリートの仕上がり品質にばらつきが生じるおそれがある、という問題がある。
【0013】
また、特許文献2のコンクリートの締固め判定方法では、打設したコンクリートの判定画像を取得するために、あらかじめ設定した所定の時間間隔でバイブレーターを一時的に停止し、形状データ取得手段(カメラ等)によりコンクリートの表面Sの形状データを取得するため、作業が中断される、という問題がある。
【0014】
また、特許文献3のコンクリートの締固め判定方法では、カメラ等の撮影方法を用いていないこと、及び、3次元距離データを、3次元直交座標に基づく点群データに変換し、その点群データとコンクリートの締固め具合との関係を表す閾値を予め設計することなど、人間(設計者)による事前の作業に手間がかかる、という問題がある。
【0015】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、その目的は、コンクリートの締固めの判定を、ベテランの作業員や技術者のコンクリート表面に対する目視判断と同様な操作によるコンクリートの締固めの判定を、コンピュータ化して、コンクリートの締固め判定に作業員や技術者の経験や技量などの個人差を排除したコンクリートの最適締固め判定施工システムを提供することである。
【0016】
本発明の第2の目的は、コンピュータによるコンクリートの締固め判定処理を最適化し、品質の高い締固め判定ができるコンクリートの最適締固め判定施工システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、打設されたコンクリートに挿入されて当該コンクリートに振動を与え、コンクリートの締固めを行うバイブレータと、前記締固めされるコンクリートの画像を取得する撮影手段と、画像或いは画像特徴量とコンクリートの締固め具合に関する既知の数値列との集合を学習データとした教師あり学習をするとともに、前記撮影手段から取得された画像を基に、前記コンクリートの締固め具合に関する特徴量である数値列を算出する画像特徴量算出部と、前記画像特徴量算出部によって算出された前記数値列を基に教師あり学習をするとともに、前記コンクリートの締固め具合を表す数値の予測値を導出する学習部と、学習部からの予測値を演算して締固め判定を行う締固め判定部と、を備えるコンクリートの最適締固め判定システムを要旨とする。前記締固め判定システムにおいて、前記学習部は、前記予測値として、前記コンクリートの表面状態に関する数値の予測値を導出してもよい。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明はまた、撮影手段を用いて、打設されたコンクリートの表面の画像を取得し、画像特徴量算出部により、画像或いは画像特徴量とコンクリートの締固め具合に関する既知の数値列との集合を学習データとした教師あり学習をするとともに、前記撮影手段から取得された画像を基に、前記コンクリートの締固め具合に関する特徴量である数値列を算出し、学習部により、前記画像特徴量算出部によって算出された前記数値列を基に教師あり学習するとともに、前記コンクリートの締固め具合を表す数値の予測値を導出し、締固め判定部により、学習部からの予測値を演算して締固め判定を行うコンクリートの最適締固め判定方法を要旨とする。
【0019】
上記目的を達成するために、本発明はさらに、打設されたコンクリートに挿入されて当該コンクリートに振動を与え、コンクリートの締固めを行うバイブレータと、前記締固めされるコンクリートの画像を取得する撮影手段と、打設されたコンクリートに対して、バイブレータを昇降動作および位置変更動作を行わせるバイブレータ駆動手段と、前記締固めされるコンクリートに対して、撮影手段を昇降動作および位置変更動作を行わせる撮影手段駆動手段と、画像或いは画像特徴量とコンクリートの締固め具合に関する既知の数値列との集合を学習データとした教師あり学習をするとともに、前記撮影手段から取得された画像を基に、前記コンクリートの締固め具合に関する特徴量である数値列を算出する画像特徴量算出部と、前記画像特徴量算出部によって算出された前記数値列を基に教師あり学習をするとともに、前記コンクリートの締固め具合を表す数値の予測値を導出する学習部と、学習部からの予測値を演算して締固め判定を行う締固め判定部と、前記バイブレータ駆動手段および前記撮影手段駆動手段を駆動制御する動作制御部と、を備えるコンクリートの最適締固め判定施工システムを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコンクリートの最適締固め判定施工システムによれば、型枠内に打込まれたコンクリートにバイブレータを挿入し振動を加えてコンクリートを締固めるに当り、AI(Artifical Intelligence)の機械学習機能を用いてコンクリートの締固め具合を予測して締固め判定に活用するようにしたため、コンクリートの締固め判定に作業員や技術者の経験や技量などの個人差を排除したコンクリートの最適締固め判定および施工を行うことができる。また、コンピュータによるコンクリートの締固め判定処理を最適化し、品質の高い締固め判定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係るコンクリートの最適締固め判定施工システムの全体を示す構成図である。
図2】上記実施の形態における制御装置に備えられたコンピュータのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】上記図2に示された制御装置の機能的構成を表す機能ブロック図である。
図4】上記実施の形態にかかる締固め判定施工システムの制御装置による締固め判定及び施工制御の処理手順を示すフローチャートである。
図5】上記実施の形態の学習動作で採用されるCNNによる動作手順の一例を示す処理流れ図である。
図6】上記実施の形態において、画像取得部により取得されるラベル付きフレーム画像が締固め操作により時間経過とともに変化する様子を示す図である。
図7】上記実施の形態において、フレッシュ性の異なる3種類のコンクリートに対し、締固め試験を実施したときの締固め判定結果の良否を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。図1は本発明の一実施の形態に係るコンクリートの最適締固め判定施工システム(以下、単に「締固め判定施工システム」という)の全体を示す構成図である。図1に示すように、この締固め判定施工システム1は、コンクリート2を収容する型枠3と、型枠3内において、コンクリート2に挿入されるバイブレータ4と、締固め作業中にバイブレータ4の挿入位置付近のコンクリート2の面を撮影する撮影手段としてのビデオカメラ5と、ビデオカメラ5に接続され、当該ビデオカメラ5からの撮影信号を取得して各種データ処理を行う制御装置6とを備えて成る。
【0023】
バイブレータ4は、当該バイブレータ4を懸架支持する支持棒7の先端(下端)に取り付けられている。ビデオカメラ5は、当該ビデオカメラ5を懸架支持するカメラ支持棒8の先端(下端)に取り付けられている。支持棒7およびカメラ支持棒8はそれぞれ、別々のレール(図示してない)に移動可能に連結され、型枠3の平面区域内部で駆動装置によって移動されるようになっている。支持棒7には昇降機(図示してない)が取り付けられており、この昇降機により支持棒7を上下方向へ運動させることによりバイブレータ4をコンクリート2に対して上下方向へ運動させるようになっている。また、カメラ支持棒8にも別のカメラ昇降部材(図示してない)が取り付けられており、このカメラ昇降部材によりカメラ支持棒8を上下方向へ運動させることによりビデオカメラ5をコンクリート2の面に対して上下方向へ運動させてコンクリート2の面からの高さ調整ができるようになっている。また、ビデオカメラ5は、位置および高さ調整により、バイブレータ4から30cm(センチメートル)程度の範囲のコンクリート2の面を撮影するように設定されている。
【0024】
上述の通り、ビデオカメラ5と制御装置6とは接続関係にあるが、この接続関係は、ビデオカメラ5と制御装置6とが図1中符号9で示されるような信号線により接続されていてもよいし、或いはビデオカメラ5と制御装置6とが公衆通信ネットワーク(インターネット等)や近距離簡易通信システム(ブルーツース等)により接続されていてもよい。また、ビデオカメラ5にはレーザー距離計のような距離測定手段が搭載され、コンクリート2の打設面とビデオカメラ5との距離を計測して取得画像の縮尺の相違に対応するようになっている。縮尺対応は取得画像の中にスケールを入れることによっても行うことができる。この締固め判定施工システム1では、機械学習により対象物としてのコンクリート2の締固め具合が予測され、締固めの完了が判定される。なお、撮影手段としては、上記ビデオカメラ5以外にも、ディジタルカメラ、3D距離センサなど、2次元配列画像のキャプチャが行われるものであれば採用可能である。
【0025】
本実施形態で使用する機械学習は、画像或いは画像特徴とコンクリートの締固め具合に関する既知の数値列との集合である学習データを学習することで、画像或いは画像特徴を数値列に変換するパターン変換関数を獲得し、そのパターン変換関数を用いて未知の値を予測する処理である。本実施形態では、数値列である教師データを用い、その教師データから得られたパターン変換関数を用いて将来の時点における値を予測する。なお、数値列とは、コンクリート2に関する現象の様々な観測値によって得られた数値の系列であり、その現象をある規則に基づいて観測することにより得られた数値の系列である。本実施形態では、教師データとして、締固め未完了(before)、或いは締固め完了(just)という情報を付与した画像を用いる。機械学習の一例として、畳み込みニューラルネットワーク(Convolution Neural Network: 以下、「CNN」という。)があり、本実施の形態においてはこのニューラルネットワークにおける深層学習(Deep Learning)用いた例を説明する。
【0026】
なお機械学習の他の例としては、リカレントニューラルネットワーク(RNN Recurrent Neural Network)、多層パーセプトロン(MLP Multilayer Perceptron)、サポートベクターマシン(SVM Support Vector Machine)、あるいはそのSVMを回帰に対応させたサポートベクター回帰(SVR Support Vector Regression)、決定木学習,相関ルール学習,ベイジアンネットワークなどが挙げられ、本実施の形態に係る締固め判定施工システム1は、その有用性に応じてこれらのアルゴリズムのいずれかを用いてもよい。
【0027】
本実施の形態に係る締固め判定施工システム1が予測する対象としては、打設されたコンクリート2の締固め具合としてコンクリート2の表面の態様が挙げられる。
【0028】
締固め判定施工システム1は、ビデオカメラ5で取得された画像信号が信号線9或いは通信ネットワークを介して制御装置6によって取得可能に構成されている。また、バイブレータ4の移動及び昇降動作が制御装置6から送られた制御信号によって制御可能に構成されている。さらに、ビデオカメラ5の移動及び昇降動作が制御装置6から送られた制御信号によって制御可能に構成されている。
【0029】
制御装置6は1台、またはそれ以上のコンピュータを備えてなる。制御装置6が複数台のコンピュータを備える場合には、後述する制御装置6の各機能要素は分散処理により実現される。個々のコンピュータの種類は限定されない。例えば、据置型または携帯型のパーソナルコンピュータ(PC)を用いてもよいし、ワークステーションを用いてもよいし、高機能携帯電話機(スマートフォン)や携帯電話機、携帯情報端末(PDA)などの携帯端末を用いてもよい。あるいは、様々な種類のコンピュータを組み合わせて制御装置6を構築してもよい。複数台のコンピュータを用いる場合には、これらのコンピュータはインターネットやイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続される。
【0030】
図2は、制御装置6に備えられた個々のコンピュータ50のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。コンピュータ50は、オペレーティングシステムや締固め判定用のアプリケーション・プログラムなどを実行する演算装置であるCPU(プロセッサ)51と、上記アプリケーション・プログラムを格納するROM(リード・オンリー・メモリ:読出し専用メモリ)、或いはデータ処理動作で随時処理される各種データが格納されるRAM(ランダム・アクセス・メモリ:随時書換え可能メモリ)で構成される主記憶部52と、ハードディスクやフラッシュメモリなどで構成される補助記憶部53と、ネットワークカードあるいは無線通信モジュールで構成される通信制御部54と、キーボードやマウスなどの入力装置55と、ディスプレイやプリンタなどの出力装置56とを備える。なお、搭載されるハードウェアモジュールはコンピュータ50の種類により異なる場合がある。例えば、据置型のPCおよびワークステーションは入力装置および出力装置としてキーボード、マウスを備えることが多く、出力装置としてディスプレイ等のモニタを備えることが多いが、スマートフォンではタッチパネルが入力装置および出力装置として機能することが多い。
【0031】
後述する制御装置6の各機能要素は、CPU51または主記憶部52の上に所定のソフトウェアを読み込ませ、CPU51の制御の下で通信制御部54や入力装置55、出力装置56などを動作させ、主記憶部52または補助記憶部53におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。データ処理に必要なデータやデータベースは主記憶部52または補助記憶部53内に格納される。
【0032】
図3は、上記図2に示された制御装置6の機能的構成を表す機能ブロック図である。この制御装置6は、機能的要素として、ビデオカメラ5に接続され、このビデオカメラ5によって連続して取得された画像を入力する画像取得部21と、上記主記憶部52又は補助記憶部53に設けられ、教師データ及び各種処理に必要なデータが格納されるデータベース22と、データベース22に接続され、このデータベース22から教師データを受け取る教師データ取得部23と、画像取得部21及び教師データ取得部23に接続され、これらの動作部21,23からのデータを基に入力画像の特徴量を算出する画像特徴量算出部24と、画像特徴量算出部24に接続され、撮影手段であるビデオカメラ5から取得された画像と前記画像特徴量算出部によって算出された前記数値列との関係を、機械学習を用いて学習するとともに、前記コンクリートの締固め具合を表す数値の予測値を導出する学習部(予測値導出部)25とを備える。制御装置6はさらに、画像特徴量算出部24及び学習部25における処理結果を基に締固め判定のための演算を行う演算部26と、演算部26に接続され、演算部位の演算結果により締固め具合が締固め未完了(before)であるか,締固め完了(just)であるかの判定を行う締固め判定部27と、締固め判定部27に接続され、この締固め判定部27における判定結果をモニター等の出力装置56に出力する出力部28と、締固め判定部27に接続され、この締固め判定部27における判定結果に基づきバイブレータ4の設置位置を変更したり、ビデオカメラ5の設置位置を変更したりする制御動作を行う動作制御部29とを備える。画像特徴量算出部24は、学習部25で使用される機械学習によって、受け取った画像をそのまま学習部25に渡すか、画像特徴量を算出してから学習部25へ渡すかする。
【0033】
図4は本実施の形態にかかる締固め判定施工システムの制御装置6による締固め判定及び施工制御の処理手順を示すフローチャートである。
【0034】
まず、ユーザによる指示入力等を契機に制御装置6による締固め判定施工制御の処理が起動されると、型枠3内の所定の位置(挿入点Aとする)でバイブレータ4の巻き下げ、すなわち、降下動作が開始され、バイブレータ4がコンクリート2の中に挿入される(ステップS1)。バイブレータ4には、当該バイブレータ4をコンクリート2の面に対して昇降させる機構が搭載されていて、制御装置6により制御される。
【0035】
次にバイブレータ4が始動される(ステップS2)とともに、ビデオカメラ5の動作が開始され、バイブレータによる振動動作を受けているコンクリート2の面が撮影される(ステップS3)。ビデオカメラ5またはカメラ支持棒8には、ビデオカメラ5とコンクリート2の面との距離を維持する機構及び距離計測器(レーザー距離計など)が搭載されていて、制御装置6により制御される。図1中の符号P1は本実施の形態におけるビデオカメラ5による撮影範囲を表す。この撮影範囲P1は、一例として、バイブレータ4から概略30cm(センチメートル)の範囲である。
【0036】
次に、画像取得部21による画像データの取得、及び教師データ取得部22による教師データの取得が行われ、2次元配列画像のキャプチャが行われる(ステップS4)。この2次元配列画像のキャプチャ処理において、画像取得部21は、ビデオカメラ5によって連続して取得された画像を、ラベル付きフレーム画像の画像信号として受信する。この画像取得部21は、受信した画像をアナログ/ディジタル変換して画像データを生成し、2次元配列画像として画像特徴量算出部24に送付する。教師データ取得部23は、データベース22から教師データを取得し、この教師データを2次元配列画像として画像特徴量算出部24に送付する。
【0037】
本実施の形態に係る締固め判定施工システムの動作には学習フェーズと、予測(判定実行)フェーズとがある。よって、先ず学習フェーズの動作について説明する。
学習フェーズ
この学習フェーズは、画像或いは画像特徴量と、締固め具合を表す既知の数値列との集合(学習データ)をデータベース22に蓄積し、その後、蓄積した学習データを読み出して、機械学習を用いてCNNにパターン変換関数を獲得させる動作モードである。本実施の形態のように機械学習のためにCNNが用いられる場合は、上記2次元配列画像は、画像特徴量算出部24をスルー(つまり、通過)してAIすなわち、CNNへ入力される(ステップS5)。CNNは、予め、ビデオカメラ5から入力される映像のフレーム画像と、締固め状態との対応関係を学習している。このため、入力されるフレーム画像は、尤度(もっともらしさ)の高いクラスに分類される。画像特徴量算出部24は、画像データを基に、機械学習を用いて対象物であるコンクリート2の締固め具合に関する特徴量である数値ベクトル(数値列)を算出する。例えば、画像特徴量算出部24は、画像データと教師データとを用いて、将来(例えば、それぞれの画像データの取得時点から所定時間後)の、時間差によって生じるコンクリート2の締固め量の差分(以下、「差分締固め量)という)を機械学習による予測対象の数値(目的変数)とした教師あり機械学習を実行する。上記CNNは、機械学習の一例であり、公知の深層学習の手法である畳み込みニューラルネットワークである。
【0038】
図5はCNNによる学習フェーズの動作手順の一例を示す処理流れ図である。CNNは、図5に示されるように、入力画像データ40に対して、第1畳み込み層における畳み込み処理を実行し(ステップS21)、その次に第1プーリング層におけるプーリング処理を実行し(ステップS22)、さらにその後、第2畳み込み層における畳み込み処理を実行し(ステップS23)、その次に第2プーリング層におけるプーリング処理を実行し(ステップS24)、次に第3畳み込み層3の畳み込み処理を実行し(ステップS25)、その後、全結合層Aの処理を実行し(ステップS26)、また、全結合層Bの処理を実行する(ステップS27)というように、畳み込み処理動作とプーリング処理動作を繰り返すことで画像データから機械的に特徴量を抽出できる手法である。CNNを用いる場合の一例を示すと、画像特徴量算出部24は、畳み込み層とプーリング層とにおける処理を何回か(例えば、5回)繰り返した後に、出力層における処理を経由して、目的変数である差分締固め量の予測値を算出する。この予測値がコンクリート2の将来の締固め具合を表している。その際、画像特徴量算出部24は、CNNの学習アルゴリズムにしたがって、画像と締固め具合に関する数値列との関係を学習し、CNNの結合の重みの更新をすることにより、パターン変換関数を更新できる。ここで、画像特徴量算出部24は、いったんパターン変換関数を構築した後は、実測値のデータを用いたパターン変換関数の更新は停止してもよく、最初からパターン変換関数が構築されている場合には、パターン変換関数の更新の機能は含まれていなくてもよい。さらに、画像特徴量算出部24は、構築された状態での画像データを対象にした出力層の出力を、特徴量である数値ベクトル(例えば、256列の数値ベクトル)として、学習部25に出力する。
【0039】
次に、予測(判定実行)フェーズについて説明する。
予測(判定実行)フェーズ
この予測(判定実行)フェーズは、上述の学習フェーズにおいて求められたパターン変換関数を上記機械学習によって獲得したCNNを用いて、数値列を予測する動作モードである。この予測(判定実行)フェーズの動作例が図6に示されている。図6は画像取得部21により取得されるラベル付きフレーム画像が締固め操作により時間経過とともに変化する様子を示す図である。図6に示されるように、コンクリート2の打設直後(0秒後)では締固めはまだ進行しておらず、締固め判定結果も締固め未完了(before)の結果である。コンクリート2の打設が行われて4秒後の状態では、締固めはまだ十分に進行しておらず、締固め判定結果も締固め未完了(before)のままである。コンクリート2の打設が行われてから8秒後の状態では、締固めは十分に進行しており、締固め判定結果は締固め完了(just)の結果になっている。コンクリート2の打設が行われてから16秒後の状態では、締固めはさらに十分に進行しており、締固め判定結果は締固め完了(just)の判定になっている。
【0040】
学習部25は、画像特徴量算出部24によって算出された数値ベクトルを基に、コンクリート2の締固め具合を表す数値として、差分締固め量の予測値を導出する。この予測値の導出処理動作の一例を説明すると、学習部25は、数値ベクトルと時系列の環境測定データとを組み合わせた数値ベクトルを基に、機械学習を実行することにより、目的変数である差分締固め量の予測値の推移を算出する。その際、学習部25は、教師データを基に、機械学習を実行することによりフィルタパラメータ等のパターン変換関数を更新する。学習部25は、いったんパターン変換関数を構築した後は、実測値のデータを用いたパターン変換関数の更新は停止してもよく、最初からパターン変換関数が構築されている場合には、パターン変換関数の更新の機能は含まれていなくてもよい。そして、学習部25は、パターン変換関数が構築された状態での機械学習による差分締固め量の予測値の推移のデータを、締固め判定部27に出力する。
【0041】
締固め判定部27では、上記差分締固め量の予測値の推移データにより、コンクリート2の締固め具合が締固め未完了であるか、締固め完了であるかの判定を行い(ステップS6)、締固め未完了である場合は、「before」信号を出力し、ステップS3のビデオカメラ5による撮影動作に戻る。他方,締固め完了である場合は、「just」信号を出力する。さらに、締固め判定部27は、上記「before」信号又は「just」信号を動作制御部29に送付する。
【0042】
動作制御部29は、締固め判定部27によって出力されたコンクリート2の締固め判定結果を基に、バイブレータ4及びビデオカメラ5の動作を制御するための制御信号を生成する。そして、動作制御部29は、締固め判定部27が「just」信号を出力した場合は、バイブレータを巻き上げる動作を開始し(ステップS7)、この動作を行った後、バイブレータ4を停止させる(ステップS8)。
【0043】
次に、制御装置のCPU50は、コンクリート2の全領域の締固めが完了したか否かをチェックし(ステップS9)、コンクリート2の全領域の締固めが完了していなければ、締固め領域の移動を動作制御部29に指示する(ステップS10)。動作制御部29は、支持棒7およびカメラ支持棒8をそれぞれ対応するレールに沿って移動させ、図1に示されるように、バイブレータ4による締固め位置を挿入点Aから挿入点Bへ変更し、また、ビデオカメラ5による撮影領域を撮影範囲P1から撮影範囲P2へと変更する。そして、制御装置6の処理動作によりステップS1~ステップS9の動作が行われる。
【0044】
実施例
フレッシュ性の異なる3種類のコンクリートに対し、締固め試験を実施した。この締固め試験では、ビデオカメラ5により、1秒当たり30フレームの映像を撮影した締固め試験映像を50本取得した。
【0045】
そして、上記1秒当たり30フレームの映像を撮影した締固め試験映像から、複数名の熟練オペレータが判定した締固め完了(just)の適正時間(フレーム番号で特定される)の平均値を取り、この平均値を、そのコンクリートの締固め試験における締固め未完了(before)と締固め完了(just)の境界の教師データとした。また、画像取得部21により取得したすべてのフレーム画像に「before」、または「just」の正解ラベルを付与し、「締固め判定」、及び「締固め判定の評価」試験とした。また、締固め試験時のバイブレータの位置によるコンクリートの締固め状態の違いを考慮して、フレーム画像を左右の2つの画像に分割し、各々に対する適正時間を判定した。
【0046】
図7は、上述のようにフレッシュ性の異なる3種類のコンクリート2に対し、締固め試験を実施したときの締固め判定結果の良否を表す図である。図7において、テスト01、テスト02、テスト03は、それぞれフレッシュ性の異なる3種類のコンクリート2に対する締固め試験を表す。各テストにおいて、上段は教師データにおける締固め判定の「before」又は「just」の境界を表し、下段は本実施の形態に係る締固め判定施工システムによる判定結果の良否を表す。図7中の下段の判定結果の良否について、判定結果「correct」は、締固め判定の「before」および「just」のいずれにおいても、判定結果が良であったことを示す。他方、判定結果「incorrect」は、締固め判定の「before」および「just」のいずれにおいても、判定結果が誤りであったことを示す。図7に示されるように、テスト01では、教師データ(上段)に対して判定施工システムによる判定結果(下段)は上記「before」又は「just」の境界部分及びこの境界部分からそれ程離れていない範囲で判定の誤り(黒塗り部分)が表れていることにより、概略教師データに合致した判定結果が得られている。
【0047】
テスト02では、教師データ(上段)に対して判定施工システムによる判定結果(下段)は上記「before」又は「just」の境界部分のみならず、境界から「before」方向へ(約550フレーム位置)も、また「just」方向へ(約1600フレームより先の位置)も判定の誤り(黒塗り部分)が表れていることにより、かなり不正確な判定結果が得られている。
【0048】
テスト03では、教師データ(上段)に対して判定施工システムによる判定結果(下段)は上記「before」又は「just」の境界に近接した部分でのみ判定の誤り(黒塗り部分)が表れていることにより、教師データに非常に合致した判定結果が得られている。
【0049】
なお、今回の締固め試験では、フレーム画像の右画像を64×64画素にリサイズした画像のみを使用した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、コンクリートの締固め判定において、AIの機械学習機能を用いてコンクリートの締固め具合を予測して締固め判定に活用するため、コンクリートの締固め判定に作業員や技術者の経験や技量などの個人差を排除したコンクリートの最適締固め判定および施工を行うことができ、有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 締固め判定施工システム
2 コンクリート
3 型枠
4 バイブレータ
5 ビデオカメラ(撮影手段)
6 制御装置
7 支持棒
8 カメラ支持棒
9 信号線
21 画像取得部
22 データベース
23 教師データ取得部
24 画像特徴量算出部
25 学習部(予測値導出部)
26 演算部
27 締固め判定部
28 出力部
29 動作制御部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7