(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】リグノフェノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08H 8/00 20100101AFI20230202BHJP
C07G 1/00 20110101ALI20230202BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C08H8/00
C07G1/00
C08B15/00
(21)【出願番号】P 2019066638
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(73)【特許権者】
【識別番号】391041660
【氏名又は名称】株式会社藤井基礎設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 旭
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正裕
(72)【発明者】
【氏名】安井 裕彦
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145296(JP,A)
【文献】特開2018-154585(JP,A)
【文献】特開2018-024601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07G
C08H
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する、リグノフェノールの製造方法であって、
前記リグノセルロース系材料から得られたリグノフェノールが有機溶媒に溶解されたリグノフェノール溶液を調製する溶液調製工程と、
前記リグノフェノール溶液と、粒子状のリグノフェノールを含む水とを混合して混合液を調製することにより、該混合液中に前記リグノフェノールを析出させる析出工程と、
を有する、リグノフェノールの製造方法。
【請求項2】
前記析出工程では、前記粒子状のリグノフェノールを含む水に、前記リグノフェノール溶液を加えることで前記混合液を調製する、請求項1に記載のリグノフェノールの製造方法。
【請求項3】
前記析出工程では、前記粒子状のリグノフェノールを含む水を収容する槽に、前記リグノフェノール溶液を流下させることで前記混合液を調製する、請求項2に記載のリグノフェノールの製造方法。
【請求項4】
リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する、リグノフェノールの製造方法であって、
前記リグノセルロース系材料から得られたリグノフェノールが有機溶媒に溶解されたリグノフェノール溶液を調製する溶液調製工程と、
前記リグノフェノール溶液と水とを混合して、
溶解している前記リグノフェノールを含有する混合水を得、
溶解している前記リグノフェノールを含有する前記混合水と、粒子状のリグノフェノールとを混合して混合液を調製することにより、
溶解している前記リグノフェノールを前記混合液中
に析出させる析出工程と、を有する、リグノフェノールの製造方法。
【請求項5】
前記粒子状のリグノフェノールとして、前記析出工程で析出されたリグノフェノールを用いる、請求項1~4の何れか1項に記載のリグノフェノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リグニンおよびセルロースを含有するリグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する方法としては、以下の方法が知られている(例えば、特許文献1)。
まず、リグノセルロース系材料、フェノール誘導体、および酸を混合することにより、リグニンを酸触媒の下でフェノール誘導体と反応させてリグノフェノールを生成し、該リグノフェノールを含有する酸混合物を得る。
次に、前記リグノフェノールに対して貧溶媒となる有機溶媒に、前記酸混合物を加えることにより、前記リグノフェノールの凝集物を含む有機溶媒混合物を得る。
そして、前記有機溶媒混合物から前記リグノフェノールを取り出す(精製工程)。
【0003】
また、前記精製工程としては、以下の方法が知られている(例えば、特許文献1)。
まず、前記有機溶媒混合物をろ過することにより前記リグノフェノールの凝集物を含む固形分と、液体(水、酸等を含む液体)とに分離する。
次に、前記固形分と有機溶媒(アルコール等)とを混合することにより、リグノフェノールを有機溶媒に溶解させて、リグノフェノールを含有するリグノフェノール溶液を得る。
そして、前記リグノフェノール溶液を濾過することにより、前記リグノフェノール溶液から固形分(残渣物)を取り除く。
次に、前記固形分を取り除いたリグノフェノール溶液と、水とを混合することにより混合液を調製し、該混合液中においてリグノフェノールを析出させる(析出工程)。
また、前記析出工程では、前記水に塩化ナトリウムを含ませることで、塩化ナトリウムによる塩析効果により、リグノフェノールを析出させやすくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、今後、不純物(塩化ナトリウム等)がより一層少ない、すなわち、純度がより一層高いリグノフェノールが求められ得る。
【0006】
そこで、本発明は、上記要望点に鑑み、純度の高いリグノフェノールを効率良く得ることができるリグノフェノールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るリグノフェノールの製造方法は、リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する、リグノフェノールの製造方法であって、
前記リグノセルロース系材料から得られたリグノフェノールが有機溶媒に溶解されたリグノフェノール溶液を調製する溶液調製工程と、
前記リグノフェノール溶液と、粒子状のリグノフェノールを含む水とを混合して混合液を調製することにより、該混合液中に前記リグノフェノールを析出させる析出工程と、
を有する。
【0008】
また、本発明に係るリグノフェノールの製造方法は、リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する、リグノフェノールの製造方法であって、
前記リグノセルロース系材料から得られたリグノフェノールが有機溶媒に溶解されたリグノフェノール溶液を調製する溶液調製工程と、
前記リグノフェノール溶液と水とを混合して、混合水を得、該混合水と、粒子状のリグノフェノールとを混合して混合液を調製することにより、該混合液中に前記リグノフェノールを析出させる析出工程と、
を有する。
【0009】
これらの製造方法によれば、粒子状のリグノフェノールを核にして、溶解していたリグノフェノールを析出させることができるので、純度の高いリグノフェノールを効率良く得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、純度の高いリグノフェノールを効率良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るリグノフェノールの製造装置の概略図、および本実施形態に係るリグノフェノールの製造方法のフロー図。
【
図2】本実施形態に係るリグノフェノールの製造装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係るリグノフェノールの製造方法は、リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する方法である。
【0014】
より詳しくは、本実施形態に係るリグノフェノールの製造方法は、前記リグノセルロース系材料、フェノール誘導体、および酸を混合することにより第1混合物を得る第1混合工程と、前記第1混合物、およびリグノフェノールに対して貧溶媒となる溶媒を混合することにより、リグノフェノールを凝集させて、リグノフェノールの凝集物を含む第2混合物を得る第2混合工程と、前記第2混合物を濾過することにより、前記第2混合物から前記リグノフェノールの凝集物を濾取する濾過工程と、前記濾過工程で濾取された前記リグノフェノールの凝集物の純度を向上させる精製工程と、を備える。
精製工程は、濾過工程で濾取されたリグノフェノールの凝集物(以下、「粗LP」ともいう。)に水を加えることにより、前記リグノフェノールの凝集物を洗浄する洗浄工程と、洗浄工程で純度が向上されたリグノフェノール(以下、「洗浄済LP」ともいう。)を有機溶媒に溶解させてリグノフェノール溶液を調製する溶液調製工程と、前記リグノフェノール溶液と、粒子状のリグノフェノールを含む水とを混合して混合液を調製することにより、該混合液中に前記リグノフェノールを析出させる析出工程と、を備える。
本実施形態のリグノフェノールの製造方法では、前記析出工程で得られる精製されたリグノフェノール(以下「精製LP」ともいう。)が製品とされる。
【0015】
また、上記リグノフェノールの製造方法においては、前記濾過工程の前に、前記第2混合物中の前記リグノフェノールの凝集物を担体に付着させることにより、前記第2混合物から前記リグノフェノールの凝集物を捕捉するリグノフェノール捕捉工程を備え、前記洗浄工程において、前記水によって、前記濾過工程で濾取された前記リグノフェノールの凝集物に加えて、前記リグノフェノール捕捉工程で前記担体に捕捉された前記リグノフェノールの凝集物を洗浄してもよい。
【0016】
また、上記リグノフェノールの製造方法においては、前記リグノフェノール捕捉工程と前記濾過工程とを一つの槽で行ってもよい。
【0017】
なお、本明細書において、濾過とは、リグノフェノールの凝集物を通さない濾材を用いて、リグノフェノールを分離することを意味する。
また、本明細書において、洗浄とは、リグノフェノールの凝集物に含まれる不純物を洗浄液中に移動させ、該洗浄液に移動させた不純物がリグノフェノールの凝集物に再度移動しないように除去することを意味する。
また、本明細書において、捕捉としては、例えば、リグノフェノールの凝集物の流路を確保しながら、リグノフェノールの凝集物を捕捉する態様が挙げられる。
【0018】
前記リグノセルロース系材料は、リグニンおよびセルロースを含有する。
前記リグノセルロース系材料としては、例えば、木質材料、草木材料が挙げられる。木質材料としては、例えば、針葉樹(マツ、スギ、ヒノキなど)、広葉樹(シイ、柿、サクラなど)、熱帯樹などが挙げられる。草木材料としては、ケナフ、ラミー(苧麻)、リネン(亜麻)、アバカ(マニラ麻)、ヘネケン(サイザル麻)、ジュート(黄麻)、ヘンプ(大麻)、ヤシ、パーム、コウゾ、ワラ(稲わら、麦わらなど)、バガス、とうもろこしなどが挙げられる。リグノセルロース系材料は、粉状、チップ状(廃木材の端剤など)のような種々の状態で使用される。
【0019】
前記リグニンは、フェニルプロパン単位(C6-C3単位)を基本骨格として有し、該フェニルプロパン単位が酵素によりランダムに酸化重合された高分子化合物である。前記リグニンは、植物細胞壁を構成する成分であり、該植物細胞壁においてセルロースやヘミセルロースに結合している。
【0020】
前記フェノール誘導体は、フェノール構造を分子中に有する化合物である。前記フェノール誘導体としては、フェノール、p(パラ)-クレゾール、m(メタ)-クレゾール、o(オルト)-クレゾール、アニソール、2,4-ジメトキシフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、n(ノルマル)-プロピルフェノール、i(イソ)-プロピルフェノール、tert(ターシャリー)-ブチルフェノール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ビスフェノール、バニリン、シリンゴール、クアイアゴール、フェルラ酸、およびクマル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。前記フェノール誘導体としては、クレゾールが好ましく、特に、p-クレゾールが好ましい。
【0021】
前記酸としては、無機酸、有機酸が挙げられる。前記無機酸としては、硫酸、リン酸、塩酸などが挙げられる。前記有機酸としては、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などが挙げられる。
【0022】
前記リグノフェノールに対して貧溶媒となる溶媒は、添加によってリグノフェノールの溶解度を低下させる溶媒であり、通常、疎水性を有する。
前記溶媒としては、例えば、エーテル、エステル、炭化水素などが挙げられる。エーテルとしては、非対称エーテル、対称エーテルなどが挙げられ、より具体的には、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。エステルとしては、酢酸エチルなどが挙げられる。炭化水素としては、環状炭化水素、直鎖状炭化水素が挙げられ、より具体的には、ヘキサン(n-ヘキサンなど)、トルエン、ペンタン(n-ペンタンなど)、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、デカリン、ベンゼンなどが挙げられる。
前記溶媒としては、炭化水素が好ましく、n-ヘキサンがより好ましい。
【0023】
前記担体としては、リグノフェノールの凝集物を付着させることができ、それにより、リグノフェノールの凝集物を捕捉することができるものであれば、どのようなものでも用いることができる。
前記担体としては、例えば、粒状の担体、繊維状の担体、板状の担体などを用いることができる。
【0024】
上記担体を構成する材料は特に限定されないが、酸、アルカリ、有機溶剤に対する耐性を考慮した場合、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アルミナ、活性炭、シリカゲルを用いることが好ましい。
【0025】
前記粒子状のリグノフェノールとしては、前記析出工程で析出されたリグノフェノールを用いることが好ましい。
【0026】
前記析出工程では、前記粒子状のリグノフェノールを含む水に、前記リグノフェノール溶液を加えることで前記混合液を調製することが好ましい。
【0027】
また、前記析出工程では、前記粒子状のリグノフェノールを含む水を収容する槽に、前記リグノフェノール溶液を流下させることで前記混合液を調製することが好ましい。
【0028】
本実施形態に係るリグノフェノールの製造方法は、本実施形態に係るリグノフェノールの製造装置を用いて、リグノセルロース系材料から、リグノフェノールを製造する方法である。
【0029】
本実施形態に係るリグノフェノールの製造装置は、リグノセルロース系材料からリグノフェノールを製造する装置である。
本実施形態に係るリグノフェノールの製造装置は、リグノセルロース系材料、フェノール誘導体、および酸を混合することにより第1混合物を得て、該第1混合物、およびリグノフェノールに対して貧溶媒となる溶媒を混合することにより、リグノフェノールを凝集させて、リグノフェノールの凝集物を含む第2混合物を得る混合部と、該2混合物からリグノフェノールを取り出す、精製部とを備える。
また、精製部は、第2混合物を濾過することにより、リグノフェノールの凝集物を濾取し、濾取されたリグノフェノールの凝集物を洗浄液によって洗浄し、洗浄されたリグノフェノールの凝集物からリグノフェノールを取り出す精製部である。
なお、精製部は、前記濾取する前に、第2混合物中のリグノフェノールの凝集物を担体に付着させることにより、第2混合物からリグノフェノールの凝集物を捕捉する精製部であってもよい。この場合、濾取されたリグノフェノールの凝集物と、担体に捕捉されたリグノフェノールの凝集物とを洗浄液で洗浄し、洗浄されたリグノフェノールの凝集物からリグノフェノールを取り出す。
本実施形態の洗浄液としては、水が用いられる。
以下では、捕捉および濾過の両方を含む概念として、固液分離という用語を使用する場合がある。
【0030】
より具体的には、
図1、2に示すように、本実施形態に係るリグノフェノールの製造装置1は、リグノセルロース系材料Aにフェノール誘導体Cを収着させる前処理部2と、フェノール誘導体Cが収着されたリグノセルロース系材料A、および酸水溶液Dを混合することにより第1混合物を得て、該第1混合物、および前記リグノフェノールに対して貧溶媒となる溶媒Fを混合することにより、前記リグノフェノールを凝集させて、前記リグノフェノールの凝集物(粗LP)を含む第2混合物を得る混合部3と、前記第2混合物から前記リグノフェノールを得る、精製部4とを備える。
以下では、精製部4で行われる各工程を総称して前記精製工程という。
【0031】
前記第1混合工程では、前処理部2および混合部3を用いる。
【0032】
前処理部2は、槽21と、槽21内の収容物を撹拌する撹拌部22と、槽21内を加熱する加熱部23とを備える。前処理部2は、槽21内の収容物を濾過できるように、槽21の底部21aの少なくとも一部が濾材で形成されている。そのため、前処理部2は、濾過部(第1濾過部)としても機能する。槽21は、下方に向けて先細りとなるようにテーパ状に形成されている。前処理部2としては、例えば、神鋼環境ソリューション社製の「濾過機能付きPVミキサー」などが挙げられる。
【0033】
前記第1混合工程では、リグノセルロース系材料AとアセトンBとを前処理部2で混合することにより、アセトンBによってリグノセルロース系材料Aを脱脂処理する(脱脂工程a1)。アセトンBは、リグノセルロース系材料Aの1kgに対して、2kg~10kg加えられることが好ましい。次に、リグノセルロース系材料AとアセトンBとの混合物を濾過することにより、固形状のリグノセルロース系材料Aと液状のアセトンBとを分離し、アセトンBを回収する(第1濾過工程a2)。
これにより、リグノセルロース系材料Aに含まれる脂をアセトンBによってリグノセルロース系材料Aから取り除くことができる。
また、前記第1混合工程では、第1濾過工程a2後に、加熱部23で槽21内を加熱することにより、リグノセルロース系材料Aに付着しているアセトンBを揮発させて、リグノセルロース系材料Aから余分なアセトンBを取り除くことができる。
【0034】
また、前記第1混合工程では、余分なアセトンBが取り除かれたリグノセルロース系材料Aとフェノール誘導体Cとを前処理部2で混合することにより、リグノセルロース系材料Aにフェノール誘導体Cを収着させる(収着工程a3)。フェノール誘導体Cは、リグノセルロース系材料Aの1kgに対して、3kg~10kg加えられることが好ましい。そして、リグノセルロース系材料Aとフェノール誘導体Cとの混合物を濾過することにより、固形状のリグノセルロース系材料Aと余分な液状のフェノール誘導体Cとを分離し、フェノール誘導体Cを回収する(第2濾過工程a4)。
また、前記第1混合工程では、第2濾過工程a4の後に、加熱部23で槽21内を加熱することにより、リグノセルロース系材料Aに付着しているフェノール誘導体Cを揮発させて、リグノセルロース系材料Aから余分なフェノール誘導体Cを取り除くことができる。
余分なフェノール誘導体Cが取り除かれたリグノセルロース系材料Aは、混合部3に移送されてさらなる処理が施される。
【0035】
混合部3は、槽31と、槽31内の収容物を撹拌する撹拌部32とを備える。槽31内には酸水溶液Dが加えられるため、槽31および撹拌部32は、耐酸性に優れるという点から、グラスライニング処理されていることが好ましい。
【0036】
さらに、前記第1混合工程では、フェノール誘導体Cが収着されたリグノセルロース系材料Aと、酸水溶液Dとを混合部3で混合することにより、リグノフェノールを生成し、リグノフェノールを含有する第1混合物を得る(生成工程a5)。酸水溶液Dは、リグノセルロース系材料Aの1kgに対して、3kg~10kg加えられることが好ましい。
生成工程a5では、リグノセルロース系材料Aに含有されるセルロースが酸触媒の下で加水分解されて、糖類が生成される。また、リグノセルロース系材料Aに含有されるリグニンが、酸触媒の下で加水分解されて低分子化する。さらに、リグニンが、酸触媒の下でフェノール誘導体と反応してリグノフェノールが生成される。
図3に、酸として硫酸を用い、フェノール誘導体Cとしてp-クレゾールを用いて、リグノフェノールを生成する反応の例を示す。また、生成されたリグノフェノールは、酸触媒の下で加水分解されて低分子化する。以上により、リグノフェノールを含有する第1混合物が得られる。
【0037】
酸水溶液Dは、酸を、通常65~98質量%、好ましくは72~98質量%含有する。
【0038】
また、前記第1混合工程では、リグノフェノールを含有する第1混合物と、水Eとを混合部3で混合することにより、前記第1混合物を希釈し該第1混合物における酸の濃度を低下させて、加水分解反応を抑制させる(希釈工程a6)。水Eは、前記第1混合物の希釈後において、酸濃度が60質量%以下となる量を加えることが好ましい。
【0039】
前記第2混合工程では、水Eで希釈された第1混合物と、リグノフェノールに対して貧溶媒となる溶媒Fとを混合部3で混合することにより、第1混合物において液分に溶解していたリグノフェノールが析出(晶出)し、該リグノフェノールが凝集して、粘着性を有するリグノフェノールの凝集物が得られる。溶媒Fは、リグノセルロース系材料Aの1kgに対して、3kg~10kg加えられることが好ましい。
これにより、リグノフェノールの凝集物を含む第2混合物が得られる(第2混合工程b)。
【0040】
精製工程では、精製部4を用いて、第2混合物たる油水混合物から粗LPを取り出す。より具体的には、第2混合物を固液分離することにより、粗LPを油水混合物から取り出し、取り出された粗LPを洗浄液によって洗浄し、洗浄された洗浄済LPから精製LPを取り出す。
【0041】
精製部4は、第2混合物を固液分離することにより、粗LPを取り出し、取り出された粗LPを洗浄液Gによって洗浄し、洗浄された洗浄済LPおよび有機溶媒としてのアルコールHを混合することにより、洗浄済LPをアルコールHに溶解させて、リグノフェノールおよびアルコールHを含有するリグノフェノール溶液(以下「LPアルコール液」ともいう)を得る固液分離部4aと、LPアルコール液にアルカリ剤Iを混合することによりLPアルコール液のpHを向上させるpH調整部4bと、LPアルコール液からアルコールHを除去することによりリグノフェノールを濃縮させる濃縮部4cと、濃縮されたLPアルコール液と粒子状のリグノフェノールを含む水とを混合して混合液を調製し、該混合液中にリグノフェノールを析出させる析出部4dと、析出されたリグノフェノールを含有する混合液を濾過することにより、固形状のリグノフェノール(精製LP)を得る第2濾過部4eと、第2濾過部4eで得られた固形状のリグノフェノールを乾燥させる乾燥部4fとを備えている。
【0042】
固液分離部4aは、槽4a1と、槽4a1内の収容物を撹拌する撹拌部4a2とを備える。また、固液分離部4aは、前記第2混合物を濾過することにより、前記第2混合物中の粗LPを得る濾過手段4a4と、濾過手段4a4で濾取された粗LPを洗浄するための洗浄手段4a5を備える。
濾過手段4a4としては、槽4a1の底部4a1aの少なくとも一部が、槽4a1内の収容物を濾過できるように濾材で形成されたものを用いてもよい。槽4a1の底部4a1aの少なくとも一部が濾材で形成されたものとしては、例えば、神鋼環境ソリューション社製の「フィルタードライヤー」などを用いることができる。
また、本実施形態では、
図2に示すように、槽4a1の頂部4a1bに、洗浄手段4a5としてのシャワーノズルが配されている。シャワーノズルは、噴射面が濾過面と向かい合うように配されることが好ましい。シャワーノズルには、図示しないポンプで加圧された洗浄液が供給され、この洗浄液がシャワーノズルから噴射されることによって、洗浄が行われる。
【0043】
前記精製工程では、粗LPを濾過手段4a4で濾取することによって、リグノフェノールの凝集物を取り出す(固液分離工程c1)。固液分離工程c1で分離された液体には、酸および有機溶媒が含有されている。固液分離工程c1によって分離された液体は、静置分離などにより、酸水溶液Dと溶媒Fとに分離して回収することができる。
【0044】
なお、固液分離部4aは、2段階のプロセスで粗LPを捕捉し得るように構成されていてもよい。すなわち、固液分離部4aは、前記第2混合物中の粗LPの中でも比較的大きなものを捕捉する捕捉手段4a3と、比較的大きな粗LPを捕捉手段4a3によって捕捉したときに得られた液体を濾過することにより、捕捉手段4a3で捕捉され得なかった比較的小さな粗LPを得る濾過手段4a4とを備えてもよい。この場合、固液分離部4aは、捕捉手段4a3で捕捉された粗LPおよび濾過手段4a4で濾取された粗LPを洗浄するための洗浄手段4a5を備える。
また、この場合、
図2に示すように、アルミナボールが、槽4a1の底部4a1aに敷き詰めるように配されることによって、捕捉手段4a3とされている。アルミナボールとしては、比較的小さな粗LPの流路を確保できる大きさのものが配されている。
また、この場合、
図2に示すように、槽4a1の底部4a1aと捕捉手段4a3との間にアルミナボールの隙間よりも目の細かな濾材が配されることによって、濾過手段4a4とされている。
この場合、前記精製工程では、固液分離部4aの捕捉手段4a3によって、第2混合物中の粗LPを捕捉し、捕捉手段4a3で捕捉され得なかった粗LPを濾過手段4a4で濾取することによって、リグノフェノールの凝集物を取り出す(固液分離工程c1)。
【0045】
固液分離工程c1の濾過手段4a4として使用される濾材の材質としては、耐食性に優れるという観点から、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、テフロン(登録商標))、ニッケルとモリブデンとを含有する合金(例えば、ハステロイ(登録商標))が好ましく、ポリプロピレン、ニッケルとモリブデンとを含有する合金が特に好ましい。
該濾材の孔径は、リグノフェノールの凝集物を通さず、かつ濾過時間を短縮するという観点から、10~30μmであることが好ましく、20μmであることが特に好ましい。
【0046】
そして、前記精製工程では、濾過手段4a4で濾取された粗LPを、洗浄手段4a5を用いて洗浄液Gによって洗浄する(洗浄工程c2)。なお、捕捉手段4a3を用いる場合には、捕捉手段4a3で捕捉された粗LPも、洗浄手段4a5を用いて洗浄液Gによって洗浄する。
より具体的には、洗浄液Gとして水を用いて粗LPを洗浄し、洗浄済LPを得る。
洗浄液Gとして用いる水の量は、リグノセルロース系材料Aの1kgに対して、1.0kg~10kgであることが好ましい。
水を用いて粗LPを洗浄することにより、精製されたリグノフェノールにおける残留酸濃度を低減させることができる。
【0047】
次に、前記精製工程では、洗浄済LPおよび有機溶媒たるアルコールHを固液分離部4aで混合することにより、リグノフェノールをアルコールHに溶解させて、リグノフェノールおよびアルコールHを含有するLPアルコール液を得る(溶解工程c3)。アルコールHとしては、メタノール、エタノールなどを用いることができる。溶解工程c3で用いる前記有機溶媒たるアルコールHは、リグノセルロース系材料Aの1kgに対して、1kg~10kg加えることが好ましい。
なお、リグノフェノールがアルコールに溶解するのは、リグノフェノールが水酸基を有することにより、リグノフェノールがアルコールにある程度の親和性を有するからである。
本実施形態では、前記溶解工程c3で用いる有機溶媒としてアルコールを用いたが、前記溶解工程c3で用いる有機溶媒としては、アルコール以外に、例えば、アルキルケトン類(例えば、アセトン等)等が挙げられる。
次に、LPアルコール液を濾過することにより、LPアルコール液から固形物(残渣物)を取り除く(第3濾過工程c4)。
【0048】
pH調整部4bは、槽4b1と、槽4b1内の収容物を撹拌する撹拌部4b2とを備える。槽4b1は、耐酸性に優れるという観点から、グラスライニング処理されていることが好ましい。
【0049】
また、前記精製工程では、固形分を取り除いたLPアルコール液と、アルカリ剤IとをpH調整部4bで混合することによりpHを調整する(pH調整工程c5)。
析出工程c7の前にpH調整工程c5を実施することにより、析出工程c7でのリグノフェノールの収率を向上させることができる。
pH調整工程c5によってリグノフェノールの収率が向上するのは、リグノフェノールが酸によって分解されるのを抑制できるからである。また、後述する析出工程c7の混合液のpHを高めることができ、その結果、リグノフェノールが有する水酸基が前記混合液内で解離し難くなり、リグノフェノールが析出しやすくなる。
粗LPの外表面に付着している酸については、洗浄工程c2によって除去され得るものの洗浄工程c2後の洗浄済LPの内部には酸が残留しているため、LPアルコール液のpHは、通常、1以上2未満となっている。
pH調整工程c5では、この酸を中和させてpHを2以上4以下とすることが好ましい。
アルカリ剤Iとしては、アンモニア水溶液を用いることが好ましい。
前記アンモニア水溶液のアンモニア濃度は、好ましくは1.0~28質量%、より好ましくは10~25質量%である。
LPアルコール液と、アンモニア水溶液とは、撹拌混合で混合することが好ましい。
ここで、本実施形態においては、洗浄工程c2でリグノフェノールの凝集物を洗浄液Gで洗浄するので、リグノフェノールの凝集物に残留する酸の量を少なくすることができる。そのため、pH調整工程c5で使用するアルカリ剤Iの量を少なくすることができる。
【0050】
濃縮部4cは、槽4c1と、槽4c1内の収容物を撹拌する撹拌部4c2と、槽4c1内を加熱する加熱部4c3とを備える。
【0051】
前記精製工程では、pHを調整したLPアルコール液を槽4c1内において撹拌しながら加熱部4c3で加熱する(濃縮工程c6)。これにより、LPアルコール液中のアルコールを濃縮部4cで蒸発させることができる。その結果、LPアルコール液のリグノフェノール濃度を高めることができ、処理すべきLPアルコール液の量を低減することができる。また、リグノフェノールを結晶化させることができる。
LPアルコール液へのアルカリ剤Iの添加は、要すれば、濃縮工程の後でもよい。
LPアルコール液へのアルカリ剤Iの添加を濃縮工程の前に実施する場合、アルカリ剤Iと酸との反応熱を濃縮のための熱エネルギーに活用できるという利点を有する。
【0052】
析出部4dは、槽4d1と、槽4d1内の収容物を撹拌する撹拌部4d2とを有する。
【0053】
前記精製工程では、濃縮工程c6でリグノフェノールが濃縮されたLPアルコール液と、粒子状のリグノフェノールを含む水とを混合して混合液を調製することにより、該混合液中にリグノフェノールを析出させる(析出工程c7)。
リグノフェノールは、疎水性を有する構造部分(ベンゼン環等炭化水素で構成されている部分等)を有するので、水は、リグノフェノール(溶質)に対して貧溶媒となる。よって、LPアルコール液と、水とを混合することにより、リグノフェノールの溶解度を低下させ、混合液中においてリグノフェノールを過飽和にして、混合液中にリグノフェノールを析出させることができる。
そして、前記混合液中に粒子状のリグノフェノールが含まれていることで、粒子状のリグノフェノールを核にして、析出したリグノフェノールを凝集させることができ、その結果、粒径が大きいリグノフェノールを得ることができる。リグノフェノールは、粒径が大きいことにより、溶媒と分離させやすくなる。その結果、純度の高いリグノフェノールを効率良く得ることができる。
特に、後述の第4濾過工程c8において、リグノフェノールの粒径が大きいことにより、固液分離により、純度の高いリグノフェノールを効率良く得ることができる。
【0054】
また、粒子状のリグノフェノールを含む水に、LPアルコール液を加えることが好ましい。粒子状のリグノフェノールを含む水に、LPアルコール液を加えると、LPアルコール液に、粒子状のリグノフェノールを含む水を加える場合に比べて、リグノフェノールが凝集する際に、LPアルコール液に含まれる不純物(酸、フェノール誘導体等)が、リグノフェノールの周りに存在する可能性が低くなり、析出したリグノフェノールに前記不純物が含まれ難くなる。その結果、純度の高いリグノフェノールをより一層効率良く得ることができるという利点がある。
【0055】
さらに、前記精製工程では、粒子状のリグノフェノールを含む水を収容する槽に、LPアルコール液を流下させることが好ましい。
LPアルコール液に含まれる不純物たる酸は、リグノフェノールよりも比重が高い。
よって、粒子状のリグノフェノールを含む水を収容する槽に、LPアルコール液を流下させると、リグノフェノールは槽の上方で析出し凝集する一方で、酸は槽の下方に移動する。そして、リグノフェノールの周りに酸が存在する可能性がより一層低くなり、その結果、析出したリグノフェノールに酸がより一層取り込まれ難くなる。
すなわち、純度の高いリグノフェノールをより一層効率良く得ることができるという利点がある。
【0056】
また、前記精製工程では、析出されたリグノフェノールを含有する混合液を第2濾過部4eで濾過することにより、固形状のリグノフェノールを得る(第4濾過工程c8)。第4濾過工程c8で得られた濾液は、アルコールHとして回収することができる。
さらに、前記精製工程では、第2濾過部4eで得られたリグノフェノールを乾燥部4fで乾燥させることにより、粉末状のリグノフェノールK(精製されたリグノフェノールK)を得る(乾燥工程c9)。
【0057】
前記析出工程c7では、粒子状のリグノフェノールとして、析出工程c7で析出されたリグノフェノールの一部を用いてもよい。
すなわち、前記析出工程c7では、粒子状のリグノフェノールを含む水として、析出工程c7で得られた混合液の一部を用いてよく、第4濾過工程c8で得られた固形状のリグノフェノールの一部と水との混合水を用いてもよく、乾燥工程c9で得られた粉末状のリグノフェノールの一部と水との混合水を用いてもよい。
【0058】
精製されたリグノフェノールKは、残留酸濃度が、好ましくは1000mg/kg以下、より好ましくは500mg/kg以下である。残留酸濃度は、電気キャピラリー法で測定することができる。
【0059】
本実施形態に係るリグノフェノールの製造方法で得られるリグノフェノールK、すなわち、精製されたリグノフェノールKは、例えば、プラスチック用の難燃剤、合板接着剤、含浸材などの用途で用いることができる。
【0060】
なお、本発明に係るリグノフェノールの製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係るリグノフェノールの製造方法は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。さらに、本発明に係るリグノフェノールの製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、本実施形態に係るリグノフェノールの製造方法は、前記リグノフェノール溶液と、粒子状のリグノフェノールを含む水とを混合して混合液を調製することにより、該混合液中に前記リグノフェノールを析出させる析出工程を有するが、本発明に係るリグノフェノールの製造方法では、前記リグノフェノール溶液と水とを混合して、混合水を得、該混合水と、粒子状のリグノフェノールとを混合して混合液を調製することにより、該混合液中に前記リグノフェノールを析出させる析出工程を有してもよい。
前記粒子状のリグノフェノールとしては、粉末状のリグノフェノールや、液体に浮遊した状態の粒子状のリグノフェノール等を用いることができる。
液体に浮遊した状態の粒子状のリグノフェノールを用いることにより、粒子状のリグノフェノールを前記液体に分散させた状態で、粒子状のリグノフェノールと、前記混合水とを混合できるので、粒子状のリグノフェノールを前記混合水に分散させやすくなり、その結果、溶解しているリグノフェノールを析出させやすくなる。
前記粒子状のリグノフェノールを分散させる液体としては、水などが挙げられる。
また、粉末状のリグノフェノールを用いることにより、混合液の水の量を抑制でき、その結果、溶解しているリグノフェノールが析出しやすくなるとともに、粉末状のリグノフェノールを混合水と混合させる前に有機溶媒を十分に希釈でき、粉末状のリグノフェノールが有機溶媒によって溶解するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:製造装置、2:前処理部、3:混合部、4:精製部、
4a:固液分離部、4a1:槽、4a1a:底部、4a2:撹拌部、4b:pH調整部、4b1:槽、4b2:撹拌部、4c:濃縮部、4c1:槽、4c2:撹拌部、4c3:加熱部、4d:析出部、4d1:槽、4d2:撹拌部、4e:第2濾過部、4f:乾燥部、
21:槽、21a:底部、22:撹拌部、23:加熱部、31:槽、32:撹拌部、
A:リグノセルロース系材料、B:アセトン、C:フェノール誘導体、D:酸水溶液、E:水、F:溶媒、G:洗浄液、H:アルコール、I:アルカリ剤、J:水、K:リグノフェノール、
a1:脱脂工程、a2:第1濾過工程、a3:収着工程、a4:第2濾過工程、a5:生成工程、a6:希釈工程、b:第2混合工程、c1:固液分離工程、c2:洗浄工程、c3:溶解工程、c4:第3濾過工程、c5:pH調整工程、c6:濃縮工程、c7:析出工程、c8:第4濾過工程、c9:乾燥工程