(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】エアレス容器
(51)【国際特許分類】
B65D 83/76 20060101AFI20230202BHJP
B05B 11/00 20230101ALI20230202BHJP
【FI】
B65D83/76 160
B05B11/00 101Z
(21)【出願番号】P 2020540880
(86)(22)【出願日】2018-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2018032596
(87)【国際公開番号】W WO2020049612
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000104526
【氏名又は名称】キタノ製作株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000124269
【氏名又は名称】科研製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】島倉 克典
(72)【発明者】
【氏名】高岡 昌義
(72)【発明者】
【氏名】長尾 達郎
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-162669(JP,A)
【文献】特開平08-268460(JP,A)
【文献】特開2010-105683(JP,A)
【文献】国際公開第2007/123207(WO,A1)
【文献】特開2014-221664(JP,A)
【文献】特表2013-529093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0193166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/76
B05B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動体である収容物を気密状態で収容できる収容空間を構成することができる筒状の容器本体と、前記容器本体の上端部に取り付けられ、前記収容物を外部に吐出させるポンプと、前記容器本体の容器底部の開口を塞ぐ底蓋と、前記ポンプと前記底蓋との間の前記容器本体内に設けられ、前記容器本体内の収容空間を気密状態で摺動できるように設けられたピストンとを有するエアレス容器であって、
前記ピストンの前記底蓋側に変形部が設けられ、前記変形部は、前記底蓋と接することができ、且つ、前記ピストンの前記底蓋側への摺動に対して変形可能に設けられて
おり、
前記ピストンが、前記底蓋の材料よりも相対的に柔らかい材料により形成され、前記変形部が、前記ピストンと一体的に成形された可撓片であり、
前記可撓片は、同一円周上に複数設けられ、前記可撓片の先端部は、垂直方向に対して斜めの端面を有して形成されて、前記可撓片の前記先端部が一方向に倒れやすい形状に形成され、
前記ピストンが押し下げられると、前記先端部の前記斜めの端面が、前記底蓋の内側に設けられた支持壁の上端縁に接触して摺動し、前記端面が前記上端縁に対面するように前記可撓片が撓み、前記先端部は前記支持壁の前記上端縁に対面した状態で、前記可撓片が折れ曲がることを特徴とするエアレス容器。
【請求項2】
前記収容物が、揮発性もしくは熱膨張性の高い溶剤を含む液体またはゲルあるいは有効成分にエステル結合を持つ製剤であり、前記容器本体の収容空間の容積は25mL以上100mL以下であり、前記容器本体に前記ピストンと前記ポンプを取り付けて前記収容物を収容した状態で、前記容器本体の収容空間に残る空隙の割合が、前記収容空間の最大値の10%以下である請求項1に記載のエアレス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収容された流動体をポンプから吐出させると、容器本体内に設けられたピストンが上昇し、容器内の収容空間へ空気が流入しないエアレス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1-3に開示されているように、液体を収容した容器として、容器内の液体に圧力を掛けて液体を吐出すると、その液体の排出により容器内が負圧になり、容器内部の隔壁であるピストンが、吐出された流動体の体積だけ上昇し、容器内の収容空間に新たに空気が入らないエアレス容器が使用されている。
【0003】
この種のエアレス容器は、使用前の状態において、容器の底蓋とピストンが隣接しており、容器の落下等でエアレス容器に大きな力がかかった場合に、ピストンを介して容器底部の底蓋が外れることがあった。さらに、収容物で満たされた容器を高温の環境下で保管した場合に、収容物の膨張や気化により、容器内の圧力が高まり、ピストンが押し下げられて、底蓋が外れることもあった。
【0004】
特許文献1-3に開示された容器は、外部からの衝撃に対して底蓋の外れを防止するために、弾性材による緩衝片や緩衝吸収材を底蓋と一体的に設けている。この緩衝片や緩衝吸収材は、ピストンと接することにより、底蓋にかかる衝撃を吸収し底蓋の外れを防いでいるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-282708公報
【文献】特開2012-116492号公報
【文献】特表2015-523292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景技術の各容器の構造の場合、底蓋側に弾性材による緩衝片や緩衝吸収材を一体に設けて、緩衝機能を持たせているが、底蓋は、容器底部に確実に嵌合させるために硬い材料が好ましい。しかし、硬い材料は弾性変形しにくく緩衝効果が小さいという問題がある。また、柔らかく緩衝効果が大きい材料で底蓋を形成した場合、容器底部との嵌合強度が低下し、容器温度の上昇による容器内圧の上昇で、容器から底蓋が外れやすくなるという問題がある。従って、底蓋の緩衝機能の向上と外れ防止は、相反する課題であった。
【0007】
さらに、底蓋を相対的にピストンよりも硬い材料により形成した場合、ピストンから衝撃等の大きな力が加わると、ピストンと底蓋が相互に圧嵌又は付着する場合がある。この両者が圧嵌又は付着すると、ピストンが固定化してしまい、使用時において、負圧による僅かな力では、ピストンが容器上方に摺動しない恐れもある。
【0008】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みて成されたもので、容器底部と底蓋との嵌合強度が高く、容器内の圧力の上昇や外部からの衝撃によって、底蓋が外れにくいエアレス容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の発明を含む。
[1]流動体である収容物を気密状態で収容できる収容空間を構成することができる筒状の容器本体と、前記容器本体の上端部に取り付けられ、前記収容物を外部に吐出させるポンプと、前記容器本体の容器底部の開口を塞ぐ底蓋と、前記ポンプと前記底蓋との間の前記容器本体内に設けられ、前記容器本体内の収容空間を気密状態で摺動できるように設けられたピストンとを有するエアレス容器であって、前記ピストンの前記底蓋側に変形部が設けられ、前記変形部は、前記底蓋と接することができ、且つ、前記ピストンの前記底蓋側への摺動に対して変形可能に設けられているエアレス容器。
【0010】
[2]前記ピストンが、前記底蓋の材料よりも相対的に柔らかい材料により形成され、前記変形部が、前記ピストンと一体的に成形された可撓片である[1]に記載のエアレス容器。
【0011】
[3]前記可撓片が、複数設けられており、前記可撓片が同一円周上に等間隔に設けられている[2]に記載のエアレス容器。
【0012】
[4]前記可撓片が、一方向に倒れやすく形成されている[2]又は[3]に記載のエアレス容器。
【0013】
[5]前記可撓片の先端部が、垂直方向に対して、斜めの端面を有し、前記ピストンが押し下げられると、前記先端部の前記斜めの端面が、前記底蓋の内側に設けられた支持壁の上端縁に接触して摺動し、前記端面が前記上端縁に対面するように前記可撓片が撓み、前記先端部は前記支持壁の前記上端縁に対面した状態で、前記可撓片が折れ曲がる[4]に記載のエアレス容器。
【0014】
[6]前記収容物が、揮発性もしくは熱膨張性の高い溶剤を含む液体またはゲルあるいは有効成分にエステル結合を持つ製剤であり、前記容器本体の収容空間の容積は25mL以上100mL以下であり、前記容器本体に前記ピストンと前記ポンプを取り付けて前記収容物を収容した状態で、前記容器本体の収容空間に残る空隙の割合が、前記収容空間の最大値の10%以下である[1]から[5]のいずれかに記載のエアレス容器。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエアレス容器は、容器底部と底蓋との嵌合強度が高く、容器の温度上昇による内圧の上昇や、外部からの衝撃に対しても、底蓋が外れにくいものである。さらに、ピストンと底蓋が相互に圧嵌又は付着することもない。
また、本発明のエアレス容器は、底蓋に対してピストンを相対的に柔らかい材料で形成した一実施態様の場合、ピストンが底蓋に圧嵌又は付着することがない上、より気密性や液密性が高く、底蓋と容器本体との嵌合強度も高い構造にすることができる。
さらに、本発明のエアレス容器は、可撓片をピストンと一体的に成形した一実施態様の場合、製造が容易であり製造コストを抑えることができる。しかも柔軟な可撓片により、容易に可撓片の変形が生じ、ピストンの摺動により底蓋にかかる力を確実に吸収し、底蓋の外れをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態のエアレス容器の部分破断正面図である。
【
図2】この実施形態のエアレス容器のピストンの平面図である。
【
図3】
図2のA-A断面図(a)、B部の拡大図(b)である。
【
図4】この実施形態のエアレス容器のピストンを下方から見た斜視図である。
【
図5】この実施形態のエアレス容器の平面図である。
【
図6】この実施形態のエアレス容器のピストンが押し下げられた状態の部分破断正面図である。
【
図7】この実施形態のエアレス容器のピストンが押し下げられた状態の部分破断斜視図である。
【
図8】
図7に示すエアレス容器の容器底部の部分破断拡大斜視図である。
【
図9】
図7に示すエアレス容器のピストンの状態を下方から見た斜視図である。
【
図10】本発明の他の実施形態のエアレス容器の部分破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
初めに、本発明における各用語について、以下に説明する。
【0018】
本発明の明細書中における「流動体」とは、液体やゲルである。本発明のエアレス容器に収容される収容物は、流動体であり、例えば、水やアルコールを含む製剤である。好ましい流動体は、揮発性もしくは熱膨張性の高い溶剤を含む液剤、ゲル剤又はローション剤、あるいは有効成分にエステル結合を持つ製剤である。前記溶剤としては、例えば、エタノールである。収容物が揮発性若しくは熱膨張性が高い溶剤を含む場合の前記溶剤の含有率は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。
【0019】
本発明の「容器本体」は、本発明の一実施態様によれば、円筒状又は楕円筒状の形状である。好ましい前記容器本体は、円筒状の形状であり、その直径(容器本体の横断面)は、好ましくは10mm以上100mm以下であり、より好ましくは20mm以上50mm以下である、更に好ましくは30mm以上45mm以下である。
なお、本明細書中における「底」、「上」、「下」などの用語は、
図1に示す状態で、エアレス容器10を静置した場合の位置又は方向として用いており、「垂直方向」は「上下方向」と一致する。
【0020】
本明細書中における「ポンプ」とは、種々のポンプを含む。例えば、押圧操作により収容物を外部に吐出するポンプを含む。
【0021】
本明細書中における「ピストン」は、前記容器本体中に前記ポンプと前記底蓋との間に設けられる。前記ピストンは、前記ポンプから収容物が吐出されると同時に、容器本体内を気密状態で上方に摺動することができるように設けられる。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、前記容器本体は、前記ピストンと前記ポンプと一緒になって、前記収容物を収容する収容空間を形成する。
容器本体の下部には、開口を塞ぐ底蓋が連結されており、前記収容空間が最大値をとるとき、前記ピストンは、底蓋と隣接し、かつ、底蓋と圧嵌又は付着しないように、最も下部に配される。この時、ピストンと底蓋は、後述の変形部を介して隣接する。
本発明の一実施態様によれば、前記収容空間の最大値は、好ましくは、100mL以下であり、より好ましくは、25mL以上75mL以下であり、更に好ましくは30mL以上60mL以下である。
また、本発明の一実施態様によれば、収容物を収容した状態で前記収容空間の最大値に対する空隙の割合(以下、空隙率とも言う。)が、20%以下が好ましく、より好ましくは10%以下であり、更に好ましくは7%以下であり、より一層好ましくは5%以下である。
なお、本発明が適用されるエアレス容器は、使用前後(ポンプによる収容物の吐出やピストンの摺動)に伴って、空気が容器内の収容空間に侵入せず、収容空間の最大値はその容器に固有の値であるため、前記空隙率は、使用前後に伴って、大きく変化するものではない。
【0023】
本明細書中における「変形部」とは、前記ピストンの底蓋側であって、かつ、底蓋と接することができるように形成され、内圧の上昇等に伴う前記ピストンの前記底蓋側への摺動に対して、弾性的に撓む変形部である。本明細書における「変形部」は、弾性的に撓むが、底蓋と圧嵌又は付着しない。従って、変形部はピストンの摺動には影響を及ぼさない。
本発明の一実施態様によれば、前記変形部は、前記ピストンの底蓋側に配置され、前記ピストンと同一の材料で構成され、前記ピストンと一体的に成形された可撓片である。好ましい可撓片の長さは、特に限定されないが、0.1mm以上20mm以下が好ましく、1mm以上10mm以下がより好ましい。
また、本発明の一実施態様によれば、前記変形部は、前記ピストンの底蓋側であって、かつ、底蓋と接することができるように配置され、前記ピストンとは別の材料で構成された、弾性的に変形することが可能な弾性体であっても良い。この場合の変形部(弾性体)は、底蓋の材料よりも相対的に柔らかい材料により形成され、かつ、ピストンと底蓋が相互に圧嵌又は付着しなければ、特に限定されず、種々の樹脂や金属等適宜選択可能である。例えば、変形部として、単一の円状の弾性体(ゴム材質)を前記ピストンの底蓋側に配してもよい。
製造コストの観点からは、前記ピストンの底蓋側に前記ピストンと一体的に成形された可撓片であることが好ましい。
前記可撓片又は弾性体は、前記ピストンの底蓋側に複数設けられていても良く、例えば、可撓片又は弾性体を4か所以上設ける場合が好ましく、その場合は、同一円周上に等間隔に設けることが好ましい。
本発明の一実施態様によれば、前記変形部がピストンと一体的に成形された可撓片である場合は、垂直方向に対して斜めの端面を有する先端部を有する可撓片が好ましい。これにより、前記可撓片は一方向に倒れることで、弾性変形することができる。
【0024】
次に、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1~
図5は本発明の一実施形態のエアレス容器10を示す。この実施形態のエアレス容器10に収容する収容物は流動体であり、例えば、エタノールを溶剤として含む液体又はゲルである。
【0025】
この実施形態のエアレス容器10は、
図1において示されるように、上下端が開口した筒状の容器本体12を有している。容器本体12は、金属や樹脂で円筒状に形成されているが、楕円筒状に形成されるように適宜変更してもよい。容器本体12の直径(容器本体の横断面)は、36mmであるが、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜変更してもよい。本発明のエアレス容器の容器本体の直径は、好ましくは10mm以上100mm以下であり、より好ましくは20mm以上50mm以下である、更に好ましくは30mm以上45mm以下である。
【0026】
容器本体12の上端部12aの上開口部14は、容器本体12よりも径が小さい円状に形成され、上開口部14に、ポンプ16が取り付けられ塞がれている。ポンプ16は、押圧操作により収容物を外部に吐出するものであるが、種々の形態のポンプに変更可能である。容器本体12の内部には、ピストン20が自由に摺動できるように設けられている。ピストン20は、容器本体12中に、ポンプ16と後述する底蓋22との間に設けられる。ピストン20は、後述するように、ポンプ16から収容物が吐出されると、それにより生じる負圧により、同時に容器本体12内を気密状態で上方に摺動可能に設けられている。容器本体12の容器底部12bの全周には、外径が僅かに小さく形成された嵌合凹部13が、下開口部18から筒状に設けられている。容器底部12bの嵌合凹部13には、底蓋22が嵌合し、下開口部18を閉塞している。
【0027】
容器本体12は、ピストン20とポンプ16が装着されて、収容物を収容する収容空間を形成する。収容空間が最大値をとる状態は、ピストン20は最下部に位置し、この状態で底蓋22とピストン20は、上下に隣接している。この実施態様のエアレス容器10においては、収容空間の容積の最大値は、53mLであるが、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜変更してもよい。本発明のエアレス容器の収容空間の最大値は、好ましくは、100mL以下であり、より好ましくは、25mL以上75mL以下であり、更に好ましくは30mL以上60mL以下である。
【0028】
ポンプ16は、頭部16aを押圧動作することにより、底部の吸引口16bから収容物である液体等を吸引し、上端部の吐出部16cから、容器本体内12内に収容した液体等の流動体を吐出可能に設けられている。ポンプ16の内部構造は、周知の構造であり、説明を省略するが、頭部16aの押圧動作により、収容物を吐出しても、空気を外部から吸い込まない。後述するように、収容物の吐出により、容器本体12内の収容空間が負圧になり、ピストン20が容器本体12内を摺動して上昇する。
【0029】
ピストン20は、底蓋22の材料よりも相対的に柔らかい材料で一体的に円筒状に形成され、容器本体12の内周面に密接して気密状態で摺動可能に形成されている。ピストン20の材料は、例えば、ポリエチレン等が好適である。ピストン20の上端縁部には、容器本体12の内周面に密接する接触縁部20aが環状の溝部20bを介して形成されている。下端縁部にも、容器本体12の内周面に密接する接触縁部20cが形成されている。上下端縁部の接触縁部20a,20cの外径は、
図3に示すように、容器本体12内に嵌合される前は、側方に広がり、容器本体12の内径よりも僅かに大きい。これにより、ピストン20は、容器本体12内に挿入された状態で、気密状態で容器本体12の内壁面に圧接し、容器本体12内部の収容空間と、ピストン20の下方の外界とを区切る隔壁として機能する。
【0030】
ピストン20には、上端縁部の接触縁部20aから溝部20bを経て中央部側に、ポンプ16の底部の吸引口16bが挿入される吸引口収容部24がピストン20と同心状に形成されている。吸引口収容部24は、有底状に形成され、容器本体12内に収容した収容物の液体を収容可能に形成されている。従って、ピストン20が上限まで上昇すると、吸引口16bは、吸引口収容部24の底部に位置する。その結果、エアレス容器10は、収容物の液体等を余すことなく吸引できる。
【0031】
ピストン20の内壁側には、
図1、
図3、
図4に示すように、ピストン20の環状の溝部20bの僅かに内側に、溝部20bから下方に、半径方向に内側に厚みが厚くなり突出した内周壁21が全周に形成されている。内周壁21の高さ方向の長さは、ピストン20の高さ方向の長さの1/2程度の長さに形成されている。
【0032】
ピストン20の内側の内周壁21の下端側には、弾性変形可能な変形部である可撓片26が形成されている。変形部である可撓片26は、ピストン20の底蓋22側に位置して、ピストン20と同一の材料で一体的に成形されている。
図1で示される可撓片26の長さは、2.5mmであるが、適宜変更でき、例えば、5mmとすることもできる。本発明のエアレス容器において、可撓片の長さは、0.1mm以上20mm以下が好ましく、1mm以上10mm以下がより好ましい。ピストン20は、上述の通り、底蓋の材料よりも相対的に柔らかい材料で形成されており、可撓片26は、ピストン20と同じ材料で一体的に成形される。可撓片26は、ピストン20の内周壁21の底蓋側に突出し、同一円周上に90°間隔で4ヶ所に設けられている。
【0033】
可撓片26を含む変形部は、ピストン20の底蓋22側に形成され、内圧の上昇等に伴うピストン20の底蓋22側への摺動に対して、撓むことが可能な部位及び形状である。変形部である可撓片26は、弾性的に撓む。さらに、可撓片26は、底蓋22と圧嵌又は付着しない。従って、変形部である可撓片26は、ピストン20の摺動には影響を及ぼさない。
【0034】
可撓片26は、ピストン20の底蓋22側への摺動に対して、底蓋22の支持壁28に当接して、撓んで変形するため、底蓋22の外れを防止する。さらに、可撓片26の先端部26aは、
図3に示すように、底蓋22の支持壁28の上端縁28aである当接部に対して、90°以下の斜面に形成され、先端部26aの斜面が支持壁28の上端縁28aに接触して摺動し、先端部26aが一方向に倒れやすい形状に形成されている。
【0035】
底蓋22は、ポリプロピレン等で、ピストン20の材料よりも相対的に硬い材料で形成されている。底蓋22の形状は、容器底部12bの全周に形成された嵌合凹部13の外周面に嵌合する内径を有して、有底筒状に形成されている。底蓋22の内周面の所定位置には、環状に嵌合凸部22aが形成され、容器本体12の嵌合凹部13の下端側に全周に亘り形成された嵌合溝13aに嵌合可能に設けられている。
【0036】
有底筒状の底蓋22の内側には、同心状の円筒である支持壁28が一定の高さで設けられている。支持壁28は、底蓋22から一定間隔を空けて同心の筒状に形成され、容器本体12の嵌合凹部13及びピストン20の側周面や接触縁部20cが、支持壁28の外側に位置して挿入できるように設けられている。支持壁28の上端縁28aは、容器本体12の下開口部18から一定の高さに位置し、ピストン20の各可撓片26の先端部26aが当接して、ピストン20が配置される。底蓋22には、ピストン20の底蓋側の空間と外界を連通させるための透孔29が底面に形成されている。
【0037】
次に、本発明の一実施形態であるエアレス容器10の組み立てについて説明する。先ず、容器本体12の下開口部18にピストン20を対向させて、ピストン20の吸引口収容部24の凹部がポンプ16の吸引口16b側を向くように挿入する。ピストン20の容器本体12内での挿入位置は、この後に嵌合する底蓋22により、位置決めされる。
【0038】
底蓋22と容器本体12は、底蓋22の開口側を容器本体12の下開口部18に対向させて、嵌合凹部13に底蓋22を被せて押し込んで嵌合する。このとき、底蓋22の支持壁28の上端縁28aは、ピストン20の可撓片26の先端部26aに当接し、底蓋22の挿入とともに、ピストン20を所定の位置に押し上げる。ピストン20は、大きな抵抗なく容器本体12内を摺動するので、底蓋22の嵌合時に可撓片26の先端部26aが撓むことはない。底蓋22を容器本体12に嵌合し、容器本体12の下開口部18が底蓋22の内側底面に当接した状態で、底蓋22の内周面の嵌合凸部22aが、容器本体12の嵌合凹部13の嵌合溝13aに係合し、底蓋22が容器本体12の嵌合凹部13に固定される。
【0039】
次に、容器本体12の収容空間に液体等の収容物を充填し、容器本体12の上開口部14にポンプ16を嵌合して固定する。このとき、容器本体12の収容空間内には、収容物が100%充填されることが好ましいが、製造効率上、100%の充填は難しく、僅かな空隙が残る。収容物を充填した状態で、容器本体12の収容空間の最大値に対する空隙の割合(空隙率)は、より少ないことが好ましい。これは、後述するように、空隙率が高いと、容器本体12内の収容物や空気、気化した気体の膨張により、ピストン20が押し下げられやすくなり、底蓋の外れが生じやすいためである。なお、空隙率は、20%以下が好ましく、より好ましくは10%以下である。更に好ましくは7%以下であり、より一層好ましくは5%以下である。なお、本発明の一実施態様であるエアレス容器10は、使用時(ポンプ16によって収容物が吐出し、ピストン20が摺動する際)に、空気が容器本体12内に侵入しないため、空隙率は、使用前後で変化するものではない。
【0040】
以上の様に組み立てられたエアレス容器10は、容器本体12に収容物が充填され、ポンプ16にて上開口部14が閉塞され、包装されて、出荷される。以下、この実施形態のエアレス容器10の使用時における機能について説明する。
【0041】
エアレス容器10内に収容物が充填された状態で、流通及び保管される際に、室温以上の高温状態に一定時間さらされると、容器本体12内の収容物の一部が気化して内圧を高め、さらに収容物自体も熱膨張して内圧を高める。容器本体12内の内圧が高くなると、ピストン20には、容器本体12の下開口部18側に押し下げられる方向の力が掛かり、底蓋22の支持壁28の上端縁28aは、ピストン20からその力を受ける。しかし、底蓋22は、内周面の嵌合凸部22aが、容器本体12の嵌合凹部13の嵌合溝13aに係合して、容器本体に固定されているので、容易には動かず、ピストン20が僅かに底蓋22側に動き、可撓片26が弾性変形するのみである。
【0042】
さらに温度上昇等により、容器本体12内の圧力が上昇すると、ピストン20が容器本体12の下開口部18側にさらに押し下げられる。ピストン20の摺動により、可撓片26の先端部26aは、底蓋22の支持壁28の上端縁28aを押圧し、先端部26aは90°以下の斜面で支持壁28の上端縁28aに接触しているので、
図6~
図9に示すように、可撓片26の先端部26aは支持壁28の上端縁28aに対面するように撓む。
【0043】
さらに内圧が上昇してピストン20が押し下げられると、可撓片26は折れ曲がるように弾性変形して撓む。このように、ピストン20が、容器本体12内の圧力上昇により、容器本体12の下開口部18側に押し下げられると、容器本体12内の収容空間の体積が増えるので、内圧の上昇が抑えられ、底蓋22にはピストン20から過大な力が掛からず、容器本体12から外れることがない。また、外界の温度が低下して、容器本体12内の内圧が低下し、収容物や気体の体積が減少すると、容器本体12内が負圧になることにより、ピストン20は押し上げられる。
【0044】
この実施形態のエアレス容器10は、先端部26aが斜面に形成された可撓片26を備えるピストン20により、ピストン20側の部材が底蓋22に対して一定の間隔を有して対面し、ピストン20が底蓋側へ摺動することで、収容空間の体積が増えるので、内圧の上昇を抑える。その結果、ピストン20側の部材が底蓋22と圧嵌又は付着することもない。しかも容器本体12の容器底部12bと底蓋22との嵌合強度が高く、容器の温度上昇による内圧の増加や、外部からの衝撃によっても、底蓋22が外れにくい。さらに、ピストン20は、底蓋22の材料より相対的に柔らかい材料で形成され、気密性や液密性が高く、内圧の上昇に対しても、可撓片26が変形することにより、底蓋22やピストン20等への負荷を緩和する。また、ピストン20と一体的に成形された可撓片26により変形部が構成され、可撓片26は容易に変形し、ピストン20は、底蓋22方向容易に摺動可能である。これにより、底蓋22に掛かる力を吸収するとともに、容器本体12内の内圧の上昇を抑え、底蓋22の外れを防止する。なお、「底蓋22の外れ」とは、容器本体12から底蓋22が完全に脱落することだけでなく、底蓋22が完全には脱落しないものの、容器本体12と底蓋22との嵌合が不十分な状態も含む。
【0045】
本発明のエアレス容器は、前記実施の形態で説明したエアレス容器10に限定されるものではなく、例えば、
図10に示すように、可撓片26の代わりに、ピストン20の内周壁21の下端縁と底蓋22の支持壁28の上端縁28aとの間に、ピストン20とは別部材で構成された、変形可能な変形部である弾性体30を同一円周上に一定間隔で配置しても良い。また、例えば、単一の円状の弾性体を前記ピストンの底蓋側に配してもよい。弾性体30は、底蓋22の材料よりも相対的に柔らかい材料により形成され、かつ、底蓋22と圧嵌又は付着しないものであれば、材料や形状は特に限定されず、種々の樹脂や金属等適宜選択可能である。
【0046】
また、ピストン20とは別部材の弾性体30を設けた構成にすることにより、より高い圧力に対応できる変形部を形成することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明のエアレス容器について、従来のエアレス容器と比較して説明する。以下の試験1及び試験2では、揮発性の溶剤であるエタノールを70%以上含むゲル剤(以下、試験製剤と言う。)を調製し、
図1に記載された本発明のエアレス容器を用いた(可撓片の長さが2.5mmの容器である。)。同時に、本発明の別の態様のエアレス容器(可撓片の長さが5.0mmの容器である。)と、従来のエアレス容器を用いた。なお、いずれの容器も、容器本体の直径が41mmであり、収容空間の最大値が53mLであり、各々等しい収容空間を有している。
【0048】
<試験1>
本発明のエアレス容器について、ピストンが底蓋に接した状態で(即ち、収容空間が最大となる状態で)、容器内に収容物である試験製剤を充填した。比較例である従来のエアレス容器についても、同様に収容物を充填した。空隙率は、いずれも5%以下であった。本発明のエアレス容器と従来のエアレス容器の各々4本のサンプルについて、3週間、60℃の環境で保管した。表1は、各々4本のサンプルについて、底蓋の外れが確認されなかった本数を示す。
【表1】
【0049】
表1に示す通り、従来のエアレス容器の場合、60℃環境において1日経過時点においてで全ての底蓋の外れが確認された。これに対して、可撓片が2.5mmである本発明のエアレス容器の場合は、2週間経過時点において、底蓋の外れがないことを確認した。この結果、本発明のエアレス容器は、従来のエアレス容器において底蓋が外れてしまう環境下でも長期間に渡って、底蓋が外れないということが明らかとなった。
また、5mmの可撓片を有する本発明のエアレス容器は、3週間以上底蓋の外れが生じなかった。即ち、底蓋の外れ防止の効果は、可撓片の長さが長いほど、その緩衝能力が高くなり、より効果的であることが確認された。
【0050】
<試験2>
一般的に、揮発性もしくは熱膨張性の高い溶剤を含む液体を収容物とする場合、空隙率が大きいほど内圧が上昇しやすくなるため、底蓋の外れが生じやすい。
【0051】
本発明は、容器内の空隙率が高い場合にも効果がある。表2及び表3は、空隙率を5%以上に設定した場合の従来のエアレス容器と、本発明のエアレス容器(
図1に記載のエアレス容器)を、試験1と同じ試験製剤を同様の条件(60℃の環境温度)で比較したものである。表中の数値は、各々3本のエアレス容器において、底蓋の外れが確認されなかった本数を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
以上の結果から、空隙率が5%以上の場合、従来のエアレス容器は、1日以内で全ての底蓋の外れが確認されたが、本発明のエアレス容器の場合、1日以上底蓋の外れがなかった(表2、表3)。さらに、本発明のエアレス容器は、60℃の環境下で1週間保管しても、底蓋の外れは確認されず、長期間に渡って効果を発揮した(表2)。
【符号の説明】
【0055】
10 エアレス容器
12 容器本体
12a 上端部
12b 容器底部
14 上開口部
18 下開口部
20 ピストン
21 内周壁
22 底蓋
24 吸引口収容部
26 可撓片
26a 先端部
28 支持壁
28a 上端縁