(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/503 20060101AFI20230202BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20230202BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20230202BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C23C16/503
C23C16/26
G11B5/84 B
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2017138045
(22)【出願日】2017-07-14
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】310018593
【氏名又は名称】ジャパンクリエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081455
【氏名又は名称】橘 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100170966
【氏名又は名称】藤本 正紀
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩二
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 利行
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-096250(JP,A)
【文献】特開2014-025114(JP,A)
【文献】国際公開第2010/134354(WO,A1)
【文献】特開2000-187833(JP,A)
【文献】特開2001-214269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/503
G11B 5/84
H05H 1/24
C23C 16/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された被成膜基板を保持する保持部と、
前記保持部に電気的に接続された第1の直流電源と、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の一方側に配置された第1のアノードと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の一方側に配置された第1のカソードと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の他方側に配置された第2のアノードと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の他方側に配置された第2のカソードと、
前記第1のアノードに電気的に接続された第2の直流電源と、
前記第1のカソードに電気的に接続された第1の交流電源と、
前記第2のアノードに電気的に接続された第3の直流電源と、
前記第2のカソードに電気的に接続された第2の交流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
前記保持部に第1の電圧を、
1/30msecの周期で
70%のDUTY比のパルス状に印加するように前記第1の直流電源を制御する制御部と、を具備し、
前記制御部は、前記第1の電圧が前記保持部に印加されないDUTY比の残りの期間に、前記保持部に前記第1の電圧と正負が逆であり、かつ、絶対値が前記第1の電圧の絶対値の
36%となる第2の電圧を印加するように前記第1の直流電源を制御することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板と前記第1のアノード及び前記第1のカソードそれぞれとの間の空間を覆うように設けられ、フロート電位とされるプラズマウォールを含むことを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載のプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法において、
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を前記保持部に保持し、
前記チャンバー内で前記第1のカソードと前記第1のアノードとの間の放電により前記原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させて炭素が主成分である保護膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
チャンバー内に配置された被成膜基板を保持する保持部を有するとともに該保持部の両面側にそれぞれアノードとカソードを有するプラズマCVD装置を用いて被成膜基板に成膜する成膜方法において、
前記チャンバー内に前記被成膜基板の両面をそれぞれ前記アノード及び前記カソードに対向するように配置し、
前記チャンバー内に原料ガスを供給し、
前記アノードに第1の直流電圧を印加し、且つ前記カソードに交流電圧を印加し、且つ前記保持部に第2の直流電圧を、
1/30msec以上1msec以下の周期で7
0%のDUTY比のパルス状に印加するとともに、前記保持部に前記第2の直流電圧を印加しないDUTY比の残りの期間に、前記保持部に前記第2の直流電圧と正負が逆であり、かつ、絶対値が前記第2の直流電圧の絶対値の
36%となる第3の直流電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記被成膜基板に加速衝突させて前記両面に膜を成膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記被成膜基板に前記膜を成膜している際に前記被成膜基板に流れる電流値が、前記保持部に前記第2の直流電圧を連続的に印加した場合に前記被成膜基板に流れる電流値の前記DUTY比に相当する電流値の1.2倍以上であることを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した後に炭素が主成分である保護膜を形成する磁気記録媒体の製造方法において、
請求項
5に記載の成膜方法により保護膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、HDD(Hard Disk Drive)用のメディアであるディスク基板の両面に同時に膜を成膜する熱フィラメントプラズマCVD(chemical vapor deposition)装置が開示されている。この熱フィラメントプラズマCVD装置では、ディスク基板の両面にプラズマを生成するため、一方の面のプラズマと他方の面のプラズマが相互に干渉し、ディスク基板上に成膜された膜の膜厚分布が悪くなることがある。従って、均一性の良い膜厚を有する膜をディスク基板上に成膜することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様は、均一性の良い膜厚を有する膜を被成膜基板に成膜できるプラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法または成膜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された被成膜基板を保持する保持部と、
前記保持部に電気的に接続された第1の直流電源と、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の一方側に配置された第1のアノードと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の一方側に配置された第1のカソードと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の他方側に配置された第2のアノードと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部の他方側に配置された第2のカソードと、
前記第1のアノードに電気的に接続された第2の直流電源と、
前記第1のカソードに電気的に接続された第1の交流電源と、
前記第2のアノードに電気的に接続された第3の直流電源と、
前記第2のカソードに電気的に接続された第2の交流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
前記保持部に第1の電圧を、1/30msecの周期で70%のDUTY比のパルス状に印加するように前記第1の直流電源を制御する制御部と、を具備し、
前記制御部は、前記第1の電圧が前記保持部に印加されないDUTY比の残りの期間に、前記保持部に前記第1の電圧と正負が逆であり、かつ、絶対値が前記第1の電圧の絶対値の36%となる第2の電圧を印加するように前記第1の直流電源を制御することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0008】
[2]上記[1]において、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板と前記第1のアノード及び前記第1のカソードそれぞれとの間の空間を覆うように設けられ、フロート電位とされるプラズマウォールを含むことを特徴とするプラズマCVD装置。
【0010】
[3]上記[1]または[2]に記載のプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法において、
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を前記保持部に保持し、
前記チャンバー内で前記第1のカソードと前記第1のアノードとの間の放電により前記原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させて炭素が主成分である保護膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0011】
[4]チャンバー内に配置された被成膜基板を保持する保持部を有するとともに該保持部の両面側にそれぞれアノードとカソードを有するプラズマCVD装置を用いて被成膜基板に成膜する成膜方法において、
前記チャンバー内に前記被成膜基板の両面をそれぞれ前記アノード及び前記カソードに対向するように配置し、
前記チャンバー内に原料ガスを供給し、
前記アノードに第1の直流電圧を印加し、且つ前記カソードに交流電圧を印加し、且つ前記保持部に第2の直流電圧を、1/30msecの周期で70%のDUTY比のパルス状に印加するとともに、前記保持部に前記第2の直流電圧を印加しないDUTY比の残りの期間に、前記保持部に前記第2の直流電圧と正負が逆であり、かつ、絶対値が前記第2の直流電圧の絶対値の36%となる第3の直流電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記被成膜基板に加速衝突させて前記両面に膜を成膜することを特徴とする成膜方法。
【0013】
[5]上記[5]又は[6]のいずれか一項において、
前記被成膜基板に前記膜を成膜している際に前記被成膜基板に流れる電流値が、前記保持部に前記第2の直流電圧を連続的に印加した場合に前記被成膜基板に流れる電流値の前記DUTY比に相当する電流値の1.2倍以上であることを特徴とする成膜方法。
【0014】
[6]非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した後に炭素が主成分である保護膜を形成する磁気記録媒体の製造方法において、
上記[5]に記載の成膜方法により保護膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、均一性の良い膜厚を有する膜を被成膜基板に成膜できるプラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法または成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を模式的に示す断面図である。
【
図2】第2及び第3の直流電圧それぞれを印加する期間を説明するための図である。
【
図3】
図1に示すプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法を説明するための断面図である。
【
図4】
図1に示すプラズマCVD装置を用いて被成膜基板にDLC膜を成膜した実施例のサンプル(1)~(6)及び比較例のサンプルの外観写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
<プラズマCVD装置>
図1は、本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を模式的に示す断面図である。このプラズマCVD装置は被成膜基板(例えばディスク基板)1に対して左右対称の構造を有しており、被成膜基板1の両面に同時に成膜可能な装置である。
【0019】
プラズマCVD装置はチャンバー102を有しており、このチャンバー102内には、例えばタンタルからなるフィラメント状の第1及び第2のカソード電極(第1及び第2のカソードフィラメント)103a,103bが形成されている。第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれの両端はチャンバー102の外部に位置する第1及び第2のカソード電源(第1及び第2の交流電源)105a,105bに電気的に接続されており、第1及び第2のカソード電源105a,105bはチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。第1及び第2のカソード電源105a,105bとしては例えば0~50V、10~50A(アンペア)の電源を用いることができる。第1及び第2のカソード電源105a,105bの一端はアース106に電気的に接続されている。
【0020】
チャンバー102内には、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれの周囲を囲むようにロート状の形状を有する第1及び第2のアノード電極(第1及び第2のアノードコーン)104a,104bが配置されており、第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれはスピーカーのような形状とされている。
【0021】
第1のアノードコーン104aは第1のスイッチ121aを介して第1のアノード電源(第1のDC電源)107aに電気的に接続されており、第1のDC電源107aはチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。第1のDC電源(第2の直流電源ともいう)107aのプラス電位側が第1のスイッチ121aを介して第1のアノードコーン104aに電気的に接続されており、第1のDC電源107aのマイナス電位側がアース106に電気的に接続されている。
【0022】
第2のアノードコーン104bは第2のスイッチ121bを介して第2のアノード電源(第2のDC電源)107bに電気的に接続されており、第2のDC電源107bはチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。第2のDC電源(第3の直流電源ともいう)107bのプラス電位側が第2のスイッチ121bを介して第2のアノードコーン104bに電気的に接続されており、第2のDC電源107bのマイナス電位側がアース106に電気的に接続されている。
【0023】
第1及び第2のスイッチ121a,121b、第1及び第2のDC電源107a,107bそれぞれは、図示せぬ制御部によって制御される。これにより、第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれに印加される電圧が制御される。なお、第1及び第2のDC電源107a,107bとしては例えば0~500V、0~7.5A(アンペア)の電源を用いることができる。
【0024】
チャンバー102内には被成膜基板1が配置されており、この被成膜基板1は第1及び第2のカソードフィラメント103a,103b及び第1及び第2のアノードコーン104a,104bに対向するように配置されている。詳細には、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bは第1及び第2のアノードコーン104a,104bの内周面の中央部付近で包囲されており、第1及び第2のアノードコーン104a,104bは、その最大内径側を被成膜基板1に向けて配置されている。
【0025】
被成膜基板1は、図示しない保持部および図示しないトランスファー装置(ハンドリングロボットあるいはロータリインデックスデーブル)により、図示の位置に、順次供給されるようになっている。
【0026】
被成膜基板1はイオン加速用電源としてのバイアス電源(DC電源)112に電気的に接続されており、このDC電源112はチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。このDC電源112のマイナス電位側が被成膜基板1に電気的に接続されており、DC電源112のプラス電位側がアース106に電気的に接続されている。DC電源112としては例えば0~1500V、0~100mA(ミリアンペア)の電源を用いることができる。
【0027】
チャンバー102内には、第1のカソードフィラメント103a及び第1のアノードコーン104aそれぞれと被成膜基板1との間の空間を覆うように第1のプラズマウォール108aが配置され、且つ第2のカソードフィラメント103b及び第2のアノードコーン104bそれぞれと被成膜基板1との間の空間を覆うように第2のプラズマウォール108bが配置されている。
【0028】
第1及び第2のプラズマウォール108a,108bそれぞれは、フロート電位(図示せず)に電気的に接続されており、チャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。また、第1及び第2のプラズマウォール108a,108bは円筒形状又は多角形状を有している。
【0029】
第1及び第2のプラズマウォール108a,108bそれぞれの被成膜基板1側の端部には膜厚補正板118a,118bが設けられており、膜厚補正板118a,118bは前記フロート電位に電気的に接続されている。膜厚補正板118a,118bにより被成膜基板1の外周部分に成膜される膜の厚さを制御することができる。
【0030】
チャンバー102の外側には第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bが配置されている。第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bは例えば円筒形状又は多角形状を有しており、円筒形又は多角形の内径の中心は磁石中心となり、この磁石中心は第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bの略中心及び被成膜基板1の略中心それぞれと対向するように位置している。第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bそれぞれは、その磁石中心の磁力が50G(ガウス)以上200G以下であることが好ましく、より好ましくは50G以上150G以下である。磁石中心の磁力を200G以下とする理由は、ネオジウム磁石では磁石中心の磁力を200Gまで高めるのが製造上の限界であるからである。また、磁石中心の磁力を150G以下とするのがより好ましい理由は、磁石中心の磁力を150G超とすると磁石を作るコストが増大するからである。
【0031】
また、プラズマCVD装置はチャンバー102内を真空排気する真空排気機構(図示せず)を有している。また、プラズマCVD装置はチャンバー102内に成膜原料ガスを供給するガス供給機構(図示せず)を有している。
【0032】
バイアス電源(第1の直流電源ともいう)112は制御部130によって制御され、保持部を介して被成膜基板1に印加される電圧が次のように制御される。
バイアス電源112は、保持部に第2の直流電圧(第1の電圧ともいう)を、1/100msec以上1msec以下の周期(1kHz以上100kHz以下の周波数)で10%以上90%以下(好ましくは30%以上90%以下、より好ましくは30%以上80%以下、さらに好ましくは50%以上80%以下)のDUTY比のパルス状に印加するように制御される。これにより、上記の第2の直流電圧が保持部を介して被成膜基板1に供給される。
【0033】
また、バイアス電源112は、保持部に第3の直流電圧(第2の電圧ともいう)を、第2の直流電圧が保持部に印加されない期間(前記周期の10%以上90%以下のDUTY比の残りの期間)に印加するように制御される。これにより、上記の第3の直流電圧が保持部を介して被成膜基板1に供給される。また、第3の直流電圧は第2の直流電圧と正負が逆の電圧であるとよい。
【0034】
DUTY比を10%以上とする理由は、DUTY比を10%未満にすると、成膜レート(膜の堆積スピード)が遅くなりすぎるためである。
【0035】
なお、本実施形態では、1/100msec以上1msec以下の周期(1kHz以上100kHz以下の周波数)としているが、好ましくは1/50msec以上1/5msec以下の周期(5kHz以上50kHz以下の周波数)であり、より好ましくは1/40msec以上1/5msec以下の周期(5kHz以上40kHz以下の周波数)であり、さらに好ましくは1/30msec以上1/5msec以下の周期(5kHz以上30kHz以下の周波数)である。
【0036】
また、本実施形態では、バイアス電源112により第2の直流電圧を保持部を介して被成膜基板1に供給するが、バイアス電源112により第2の直流電圧を被成膜基板1に直接供給してもよい。
【0037】
DUTY比は、1周期の間で保持部に第2の直流電圧が印加される期間の比率である。例えば、30%のDUTY比の場合は、1周期の30%の期間が保持部に第2の直流電圧が印加される期間となり、1周期の70%の期間が保持部に第3の直流電圧が印加される期間となる。詳細には、例えば1msecの周期(1kHzの周波数)で30%のDUTY比の場合は、1msec(1周期)の30%の0.3msecの期間が第2の直流電圧が印加される期間となり、1msec(1周期)の70%の0.7msecの期間が第3の直流電圧が印加される期間となる。
【0038】
また、例えば
図2は、100S/T%のDUTY比の場合を示しており、1周期の100S/T%の期間が第2の直流電圧(-xV)を印加する期間となり、1周期の残りの100N/T%の期間が第3の直流電圧(yV)を印加する期間となる。但し、x及びyは、正の数値である。
【0039】
また、第3の直流電圧の絶対値は、第2の直流電圧の絶対値の10%以上60%以下(好ましくは20%以上50%以下)の範囲内であるとよい。
【0040】
<成膜方法>
図1に示すプラズマCVD装置を用いて被成膜基板1にDLC膜を成膜する方法について説明する。
【0041】
まず、前記真空排気機構を起動させ、チャンバー102の内部を所定の真空状態とし、チャンバー102の内部に前記ガス導入機構によって成膜原料ガスとして例えばトルエン(C7H8)ガスを導入する。チャンバー102内が所定の圧力になった後、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれに第1及び第2のカソード電源105a,105bによって交流電流を供給することにより第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bが加熱される。
【0042】
また、第1及び第2のDC電源107a,107bそれぞれから第1及び第2のスイッチ121a,121bを介して第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれに第1の直流電圧を印加する。また、保持部を介して被成膜基板1にバイアス電源112によって第2の直流電圧を印加する。この際の印加される第2の直流電圧(第1の電圧ともいう)は、1/100msec以上1msec以下の周期(1kHz以上100kHz以下の周波数)で10%以上90%以下(好ましくは30%以上90%以下、より好ましくは30%以上80%以下、さらに好ましくは50%以上80%以下)のDUTY比のパルス状の直流電圧であり、前述した制御部130によって制御されるものである。また、保持部を介して被成膜基板1にバイアス電源112によって第3の直流電圧を印加する。この際の印加される第3の直流電圧(第2の電圧ともいう)は、第2の直流電圧が保持部に印加されない期間(前記周期の10%以上90%以下のDUTY比の残りの期間)のパルス状の直流電圧であり、前述した制御部130によって制御されるものである。第3の直流電圧は第2の直流電圧と正負が逆の電圧であるとよく、第3の直流電圧の絶対値は、第2の直流電圧の絶対値の10%以上60%以下(好ましくは20%以上50%以下)の範囲内であるとよい。なお、本成膜方法では、第2の直流電圧が負の電圧(例えば-250V)であり、第3の直流電圧が正の電圧(例えば+90V)である。
【0043】
第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bの加熱によって、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれから第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれに向けて多量の電子が放出され、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれと第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれとの間でグロー放電が開始される。多量の電子によってチャンバー102の内部の成膜原料ガスとしてのトルエンガスがイオン化され、プラズマ状態とされる。この際、第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bそれぞれによって第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれの近傍に位置するトルエンガスをプラズマ化する領域に磁場が発生されているので、この磁場によってプラズマを高密度化することができ、イオン化効率を向上させることができる。そして、プラズマ状態の成膜原料分子は、被成膜基板1へ第2の直流電圧のマイナス電位がパルス状に印加されることで直接に加速されて、被成膜基板1の方向に向かって飛走して、被成膜基板1の表面に付着される。これとともに、第2の直流電圧が印加されない期間において被成膜基板1へ第3の直流電圧のプラス電位が印加されることで被成膜基板1のマイナス電位のチャージを確実に消す。このようにして、被成膜基板1には薄いDLC膜が形成される。この際、被成膜基板1の表面では下記式(1)の反応が起きている。
【0044】
C7H8+e- → CaHb +xH2↑ ・・・(1)
【0045】
<磁気記録媒体の製造方法>
図3は、
図1に示すプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法を説明するための断面図であり、磁気記録媒体の一部を示している。磁気記録媒体は例えばHDD用のメディアである。
【0046】
まず、非磁性基板11上に少なくとも磁性層12を形成した被成膜基板1を用意し、この被成膜基板1を保持部に保持させる。次いで、チャンバー102内で所定の真空条件下で加熱された第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれと第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれとの間の放電により原料ガス(例えばトルエン)をプラズマ状態とし、バイアス電源112によって保持部に、1/100msec以上1msec以下の周期(1kHz以上100kHz以下の周波数)で10%以上90%以下のDUTY比のパルス状の第2の直流電圧(負の電圧)を印加する。これとともに、第2の直流電圧が保持部に印加されない期間(前記周期の10%以上90%以下のDUTY比の残りの期間)に、バイアス電源112によって保持部に第3の直流電圧(正の電圧)を印加する。詳細は、前述した成膜方法と同様である。このようにして、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板1の表面に加速衝突させる。その結果、この被成膜基板1の表面には炭素が主成分である保護膜としてのDLC膜13が形成される。
【0047】
本実施形態によれば、バイアス電源112によって保持部を介して被成膜基板1に、上記の周期及びDUTY比のパルス状の第2の直流電圧を印加し、第2の直流電圧を印加しない期間に第3の直流電圧を印加する。このため、負の電圧である第2の直流電圧が被成膜基板1に印加される期間では、プラズマ状態のイオンに方向性が生じて被成膜基板1に成膜されるが、第2の直流電圧が被成膜基板1に印加されない期間では、被成膜基板1に正の電圧である第3の直流電圧を印加することで、被成膜基板1のマイナス電位のチャージを確実に消すことができる。つまり、第2の直流電圧が被成膜基板1に印加されない期間に、被成膜基板1のマイナス電位のチャージを確実に消すことで、被成膜基板1の一方の面と他方の面のプラズマが相互に干渉することを抑制できる。その結果、均一性の良い膜厚を有するDLC膜13を被成膜基板1上に成膜することが可能となる。
【実施例】
【0048】
図4は、
図1に示すプラズマCVD装置を用いて被成膜基板にDLC膜を成膜した実施例のサンプル(1)~(6)及び比較例のサンプルの外観写真を示す図である。
【0049】
実施例のサンプル(1)~(6)及び比較例の成膜条件は以下のとおりである。
[サンプル(1)の成膜条件]
被成膜基板1:NiP/Alディスク
成膜装置:
図1に示すプラズマCVD装置
出発原料:高純度トルエン(C
7H
8)
図1の左側の原料ガス流量:3.25sccm
図1の右側の原料ガス流量:3.5sccm
圧力 :0.3Pa
成膜時間:2sec
カソードフィラメント103a,103b:タングステンフィラメント
交流電源105a,105bの出力:360W
アノード電源107a,107bの電流:1650mA
アノード電源107a,107bの電圧:75V
バイアス電源112の第2の直流電圧:-250V
バイアス電源112の第3の直流電圧:+90V
第2の直流電圧が印加される周期:1/5msec
第2の直流電圧が印加される周波数:5kHz
第2の直流電圧がパルス状に印加されるDUTY比:70%
第3の直流電圧が印加される期間:第2の直流電圧が印加されない期間
外部磁場 : 50G
【0050】
[サンプル(2)の成膜条件]
第2の直流電圧が印加される周期:1/10msec
第2の直流電圧が印加される周波数:10kHz
なお、サンプル(2)の上記の成膜条件以外の成膜条件は、サンプル(1)と同様である。
【0051】
[サンプル(3)の成膜条件]
第2の直流電圧が印加される周期:1/20msec
第2の直流電圧が印加される周波数:20kHz
なお、サンプル(3)の上記の成膜条件以外の成膜条件は、サンプル(1)と同様である。
【0052】
[サンプル(4)の成膜条件]
第2の直流電圧が印加される周期:1/30msec
第2の直流電圧が印加される周波数:30kHz
第2の直流電圧がパルス状に印加されるDUTY比:50%
なお、サンプル(4)の上記の成膜条件以外の成膜条件は、サンプル(1)と同様である。
【0053】
[サンプル(5)の成膜条件]
第2の直流電圧が印加される周期:1/30msec
第2の直流電圧が印加される周波数:30kHz
なお、サンプル(5)の上記の成膜条件以外の成膜条件は、サンプル(1)と同様である。
【0054】
[サンプル(6)の成膜条件]
第2の直流電圧が印加される周期:1/30msec
第2の直流電圧が印加される周波数:30kHz
第2の直流電圧がパルス状に印加されるDUTY比:90%
なお、サンプル(6)の上記の成膜条件以外の成膜条件は、サンプル(1)と同様である。
【0055】
[比較例の成膜条件]
被成膜基板1:NiP/Alディスク
成膜装置:
図1に示すプラズマCVD装置
出発原料:高純度トルエン(C
7H
8)
図1の左側の原料ガス流量:3.25sccm
図1の右側の原料ガス流量:3.5sccm
圧力 :0.3Pa
成膜時間:2sec
カソードフィラメント103a,103b:タングステンフィラメント
交流電源105a,105bの出力:360W
アノード電源107a,107bの電流:1650mA
アノード電源107a,107bの電圧:75V
バイアス電源112の第2の直流電圧:-250V
第2の直流電圧が印加される期間:連続(100%)
外部磁場 : 50G
【0056】
なお、比較例の成膜条件がサンプル(1)の成膜条件と異なる点は、第2の直流電圧が連続的に印加される点及び第3の直流電圧は印加されない点である。
【0057】
図4に示すように、実施例のサンプル(1)~(6)のDLC膜の膜厚均一性が比較例のサンプルに比べて向上していることが確認された。また、実施例のサンプル(1)~(5)のDLC膜の膜厚均一性がより良くなっており、実施例のサンプル(4)、(5)のDLC膜の膜厚均一性がさらに良くなっていることが確認された。
【0058】
図4に示す各サンプルの電流値は、成膜時にバイアス電源112から被成膜基板1に流れる電流値である。比較例のサンプルには46mAの電流が流れたのに対し、実施例のサンプル(1)には32mAの電流が流れ、実施例のサンプル(2)には32mAの電流が流れ、実施例のサンプル(3)には33mAの電流が流れ、実施例のサンプル(6)には42mAの電流が流れた。これらのサンプルでは、第2の直流電圧を連続的に印加した比較例のサンプルの電流値が46mAで100%とすると、実施例のサンプル(1)~(3)の電流値は46mAの70%(32.2mA)程度となっており、実施例のサンプル(6)の電流値は46mAの90%(41.4mA)程度となっていることが分かる。
【0059】
一方、実施例のサンプル(4)の電流値は46mAの50%(23mA)を超える37mAであり、実施例のサンプル(5)の電流値は46mAの70%(32.2mA)を超える50mAであった。このことから、被成膜基板1に流れる電流値が第2の直流電圧を連続的に印加した場合の電流値のDUTY比に相当する電流値を超えている場合(好ましくは前記DUTY比に相当する電流値の1.2倍以上である場合、より好ましくは1.4倍以上である場合)に、DLC膜の膜厚均一性がより良くなることが分かる。なお、1.2倍以上とは、前記DUTY比に相当する電流値が23mAのときなら27.6mA以上であり、1.4倍以上とは、前記DUTY比に相当する電流値が23mAのときなら32.2mA以上である。
【符号の説明】
【0060】
1 被成膜基板
11 非磁性基板
12 磁性層
13 DLC膜
102 チャンバー
103a 第1のカソード電極(第1のカソードフィラメント)
103b 第2のカソード電極(第2のカソードフィラメント)
104a 第1のアノード電極(第1のアノードコーン)
104b 第2のアノード電極(第2のアノードコーン)
105a 第1のカソード電源(第1の交流電源)
105b 第2のカソード電源(第2の交流電源)
106 アース電源
107a 第1のアノード電源(第1のDC電源、第2の直流電源)
107b 第2のアノード電源(第2のDC電源)
108a 第1のプラズマウォール
108b 第2のプラズマウォール
109a 第1のネオジウム磁石
109b 第2のネオジウム磁石
112 バイアス電源(DC電源,第1の直流電源)
118a,118b 膜厚補正板
121a 第1のスイッチ
121b 第2のスイッチ
130 制御部