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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】Wnt発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/758 20060101AFI20230202BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230202BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230202BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230202BHJP
【FI】
A61K36/758
A61P17/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K8/9789
A61Q19/00
A23L33/105
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017206279
(22)【出願日】2017-10-25
(65)【公開番号】P2019077643
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田所 修平
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-320956(JP,A)
【文献】特開2007-291069(JP,A)
【文献】特開2007-210992(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2012-0111385(KR,A)
【文献】Environmental Toxicology,2017年03月26日,Vol. 32,p. 2133-2143,DOI: 10.1002/tox.22426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/758
A61P 43/00
A61P 35/00
A61P 25/28
A61P 3/10
A61P 25/18
A61P 9/00
A61P 19/00
A61P 17/00
A61K 8/9789
A61Q 19/00
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウの種子の熱水もしくは水抽出物、エタノール水溶液抽出物、またはエタノール抽出物を有効成分として含有する、Wnt1発現亢進に関連する色素沈着の治療または予防剤(ただし、サンショウ抽出物と枇杷の葉抽出物の組み合わせを有効成分として含むものを除く)
【請求項2】
サンショウの種子の熱水もしくは水抽出物、エタノール水溶液抽出物、またはエタノール抽出物を有効成分として含有する、Wnt1発現亢進に関連する色素沈着の治療または予防用化粧品、医薬品、または医薬部外品(ただし、サンショウ抽出物と枇杷の葉抽出物の組み合わせを有効成分として含むものを除く)
【請求項3】
サンショウの種子の熱水もしくは水抽出物、エタノール水溶液抽出物、またはエタノール抽出物を有効成分として含有する、Wnt1発現亢進に関連する色素沈着の治療または予防用飲食品(ただし、サンショウ抽出物と枇杷の葉抽出物の組み合わせを有効成分として含むものを除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンショウの抽出物を有効成分として含有するWnt発現抑制剤に関する。より詳細には、本発明は、Wntの発現を抑制することにより、Wnt/β-カテニンシグナルの亢進に関連する疾患の治療または予防に有効なWnt発現抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Wntは分泌性糖タンパク質で、線虫やショウジョウバエから哺乳類に至るまで生物種を超えて広く保存されている。Wntは、発生、器官や臓器の形成、細胞の分化・増殖・運動・極性など様々な生命活動に関与する重要なタンパク質であり、哺乳類では19種類が同定されている(非特許文献1)。Wntの命名は、ショウジョウバエの分節遺伝子Wingless(Wg)とマウス乳癌で同定された遺伝子int-Iに由来する。Wntが細胞に作用することにより活性化される細胞内伝達機構は「Wntシグナル経路」と呼ばれ、β-カテニンを介して遺伝子発現を制御する「β-カテニン経路」と、β-カテニンに依存しない「β-カテニン非依存性経路」が存在する。β-カテニン経路(Wnt/β-カテニンシグナル)では、Wntが細胞膜上の受容体(Frizzled)に結合するとGSK-3β(Glycogen synthase kinase-3β)によるリン酸化が抑制され、分解を免れたβ-カテニンが核内へと移行し、遺伝子発現を介して細胞の増殖や分化を促すことが知られている(非特許文献2)。β-カテニン経路に関与するWntとしては、Wnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt3a、Wnt7a等が知られている(非特許文献3)。一方、β-カテニンを介さないβ-カテニン非依存性経路は、平面内細胞極性経路(PCP経路)とCa2+経路に分類され、細胞運動や、細胞極性の調節、あるいはβ-カテニン経路の抑制に働く(非特許文献4、5)。β-カテニン非依存性経路に関与するWntとしては、Wnt4、Wnt5a、Wnt11等が知られている(非特許文献3)。
【0003】
このように、Wntは複数の細胞内シグナル伝達機構に関与し、多様な細胞応答を制御するので、Wntシグナル経路は、生体の組織を構成する細胞の機能維持にとって不可欠である一方、その異常は様々な疾患や病態と関連している。実際、Wntシグナル経路の構成分子の遺伝子異常やタンパク質の機能異常が癌、アルツハイマー病、糖尿病、精神系疾患、心疾患、骨・軟骨疾患などに関連するという報告がある。なかでも、細胞の増殖や分化の制御に関与するWnt/β-カテニンシグナルの異常は、癌との関連性が深く、乳癌、大腸癌、胃癌、肺癌、食道癌、神経膠芽腫、及び線維腫などの癌においてWnt/β-カテニンシグナルの亢進が認められる。Wnt非存在下では、細胞質内のβ-カテニンがAPC (adenomatous polyposis coli)、GSK-3βとともにAxinに結合し、このβ-カテニン分解複合体(Axin複合体)中でCKI-1α(casein kinase Iα)と、GSK-3βとによるリン酸化を受けたβ-カテニンが、さらにユビキチン化を受けてプロテアソームによって分解されるので細胞内のβ-カテニン量は低い状態に保たれている。ところが、癌細胞では、共通してβ-カテニンの細胞質や核での異常蓄積が認められる。癌細胞の増殖は、この異常蓄積したβ-カテニンと転写因子であるT cell factor/Lymphocyte exnhacing factor (Tcf/Lef)とが結合し、cyclin D1やc-Mycなどの癌関連遺伝子が過剰発現することによると考えられている。
【0004】
また、皮膚や毛髪のメラニンは、メラノサイトによって合成されるが、Wnt/β-カテニンシグナルは、毛包のバルジ領域付近に存在するメラノサイトの起源となる色素幹細胞からメラノサイトへの分化や、分化したメラノサイトのメラニン合成を制御しており、その亢進は、老人性色素斑、肝斑、雀卵斑、黒子症、シミ、日焼けなどの色素沈着を引き起こす。
【0005】
このようなWntシグナル経路の異常を制御して正常な状態に戻すことが、Wntシグナル経路の異常に関連する疾患や病態の治療の選択肢の一つとして期待されており、研究が進んでいる。例えば、Wnt/β-カテニンシグナルを抑制するように制御する例としては、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt7a、Wnt7b、Wnt10bの発現を抑制するポリヌクレオチドを用いる色素沈着の予防または改善剤(特許文献1)、Wnt2の発現を抑制するポリヌクレオチドやその機能を阻害するモノクローナル抗体を用いた癌の治療方法などがある(特許文献2)。また、Wntシグナルは、細胞レベルにおいて、胚性幹細胞や組織特異的幹細胞(筋芽細胞、骨芽細胞、神経幹細胞、小腸幹細胞、色素幹細胞、造血幹細胞、表皮幹細胞、毛包幹細胞、骨髄及び脂肪組織由来間葉系幹細胞など)の増殖および末分化状態の維持に関与することも明らかになっており、これらの幹細胞の増殖や分化の制御のためにWntの発現を抑制するポリヌクレオチドも開発されている(特許文献3)。
【0006】
従って、Wntシグナルを適切に制御することは、各種疾患の治療のみならず、幹細胞の増殖や分化を効率的に制御する上でも有用であるが、上記のようなポリヌクレオチドや抗体タンパク質は、生体内に存在する酵素により分解されやすく、また生体内に導入する手段が煩雑であるため日常的な使用が困難である。よって、これらに代わる新たな因子の解明が望まれている。
【0007】
サンショウ(山椒、学名:Zanthoxylum piperitum)は、ミカン科サンショウ属の落葉低木で、その成熟した果皮や未熟な果実は香辛料として利用されている。これまでサンショウには、毛包賦活化作用(特許文献4)、細胞賦活化作用(特許文献5)、アロマターゼ活性化作用(特許文献6)が知られている。しかしながら、Wnt発現抑制効果についてはこれまで何ら知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-67582号公報
【文献】特表2007-536938号公報
【文献】特表2008-526229号公報
【文献】特開2013-119535号公報
【文献】特開2011-219403号公報
【文献】特開2005-343872号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nusse R. et al., Cell Res., 2008, 18, 523-527
【文献】Aberle H. et al., EMBO J., 1997, 16(13), 3797-3804.
【文献】Sastre-Perona A., Santisteban P., Front Endocrinol., 2012, doi: 10.3389/fendo.2012.00031. eCollection.
【文献】Kikuchi A. et al., Cancer Sci., 2008, 99, 202-208
【文献】Veeman M.T. et al., Dev. Cell, 2003, 5, 367-377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、Wntの発現抑制作用を有し、かつ生体内で安定な新たな因子を見出し、Wnt/β-カテニンシグナルの亢進に関連する癌や色素新着などの疾患または病態を治療、改善、および予防するための化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、サンショウの抽出物が、優れたWnt発現抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)サンショウの抽出物を有効成分として含有するWnt発現抑制剤。
(2)Wntが、Wnt/β-カテニンシグナルに関与するWntである、(1)に記載のWnt発現抑制剤。
(3)サンショウの抽出物を有効成分として含有するWnt発現抑制用化粧品、医薬品、または医薬部外品。
(4)サンショウの抽出物を有効成分として含有するWnt発現抑制用飲食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明のWnt発現抑制剤は、細胞におけるWntの発現および分泌を抑制することができる。従って、Wnt/β-カテニンシグナルの亢進に関連する癌や色素沈着などの疾患や病態を治療、改善、および予防することができる。また本発明のWnt発現抑制剤の有効成分は緩和な植物の抽出物を有効成分とするから、安全性が高く、生体内においても安定であるから、化粧品や医薬品等に配合して日常的に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に述べる。
【0015】
本発明のWnt発現抑制剤は、サンショウの抽出物を有効成分として含有する。サンショウ(山椒、学名:Zanthoxylum piperitum)は、ミカン科サンショウ属の落葉低木で、日本にも多く自生している。本発明において用いることのできるサンショウとしては、ミカン科サンショウ属のアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperitum (L.)DC forma inerme (Makino) Makino)、イヌザンショウ(Zanthoxylum schinifolium)、ヤマアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperitum (L.)DC forma brevispinosum Makino)、ブドウザンショウ(学名:Zanthoxylum piperitum(L.)DC. f. inerme Makino)などが挙げられ、なかでもブドウザンショウが好ましい。
【0016】
本発明においてサンショウの抽出物とは、サンショウの花、果実、果皮、茎、葉、枝、根、種子等の植物体の一部又は植物体全体、あるいはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、果皮や種子が好ましい。果皮(粉山椒)は、薬味として市販されているものを用いることができる。
【0017】
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、または水と有機溶媒の混合溶媒を用い、攪拌またはカラム抽出する方法により行うことができる。有機溶媒としては、アルコール類、エーテル類、エステル類などを用いることができるが、エタノール、メタノール、アセトン、n-プロパノール、t-ブタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の水溶性有機溶媒が好ましく、これらの一種又は二種以上を用いてもよい。特に好ましい抽出溶媒としては、水、または水-エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記サンショウの果皮(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0018】
Wntとは、Wntシグナル経路に関与するタンパク質をいい、現在までに、ヒトのWntタンパク質は、19種類同定されている(Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16)。Wntシグナル経路には、細胞表面のWnt受容体に結合することによってβ-カテニンの安定化を介して遺伝子発現を誘導するβ-カテニン経路、JNKやRhoキナーゼを活性化するPCP経路、PKCなどを活性化するCa2+経路があるが、本発明におけるWntは、β-カテニン経路(以下、「Wnt/β-カテニンシグナル」と記載することもある)に関与するタンパク質をいう。よって、本発明のWnt発現抑制剤が作用するWntは、Wnt/β-カテニンシグナルに関与するWntをいい、例えば、Wnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt3a、Wnt7a、Wnt7b、Wnt10a、Wnt10b等が挙げられる。本発明において「Wntの発現抑制」とは、上記WntのmRNA発現及びタンパク質発現を抑制することをいう。
【0019】
本発明のWnt発現抑制剤は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物を混合して種々の形態の製剤や組成物に配合し、Wnt発現抑制用の化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品の形態で提供することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。本発明のWnt発現抑制剤を、例えば、メラニン合成を抑制し美白を目的として使用する場合は、化粧品等の皮膚外用組成物の形態や、飲食品に配合した形態とすることが好ましい。また、本発明のWnt発現抑制剤を、例えば、抗がんを目的として使用する場合は、医薬品の形態で使用することが好ましい。
【0020】
本発明のWnt発現抑制剤は、有効成分であるサンショウの抽出物が、Wnt発現抑制によりWnt/β-カテニンシグナルの亢進を抑制することができるので、Wnt/β-カテニンシグナルの亢進に関連する疾患または病態の治療、改善、および予防に有効である。ここで、Wnt/β-カテニンシグナルの亢進に関連する疾患または病態としては、メラニン合成促進による色素沈着が認められる皮膚疾患(老人性色素斑、肝斑、雀卵斑、黒子症、脂漏性角化症、炎症性色素沈着、黒子(母斑細胞母斑、色素性母斑)、後天性真皮メラノサイトーシス(遅発性太田母斑)、扁平母斑、Riehl黒皮症、摩擦黒皮症、遺伝性対側性色素異常症、Addison病、光線性花弁状色素斑、色素異常性固定紅斑、日焼けなど)、癌(大腸癌、黒色腫、胃癌、肝細胞癌、前立腺癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、腎臓癌、膀胱癌、子宮頚癌、卵巣癌、甲状腺癌、頭頸部癌、リンパ腫、神経膠腫、グリア芽腫など)、老化に伴って発症率が増加する種々の疾患(心不全、糖尿病、動脈硬化症等)、骨・軟骨疾患(骨粗しょう症、関節リウマチ等)、精神神経疾患(アルツハイマー病、躁うつ病、統合失調症など)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0021】
本発明のWnt発現抑制剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、または水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、Wnt発現抑制剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0022】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、ボディローション等が挙げられる。
【0023】
本発明のWnt発現抑制剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0024】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0025】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0026】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、点眼剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0027】
本発明のWnt発現抑制剤を、色素沈着を治療、改善、または予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0028】
本発明の医薬品は、上記疾患または病態の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、および予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的にまたは非経口的に投与することができる。
【0029】
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、サンショウの抽出物として0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。
【0030】
サンショウの抽出物を上記の化粧品や医薬品に配合する場合、その含有量は特に限定されないが、製剤全重量に対して、サンショウの抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%(w/w)が好ましく、0.01~10重量%(w/w)がより好ましい。0.001重量%(w/w)未満では効果が低く、また30重量%(w/w)を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0031】
また、本発明のWnt発現抑制剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、または特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法または食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品および栄養機能食品が含まれる。飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0032】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)および該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0033】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0034】
本発明の飲食品におけるサンショウの抽出物の配合量は、Wnt発現抑制作用を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【実施例
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
サンショウの抽出物を以下のとおり製造した。
【0037】
(製造例1)ブドウザンショウの果皮の50%エタノール抽出物の調製
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果皮の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0038】
(製造例2)ブドウザンショウの果皮の熱水抽出物の調製
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してブドウザンショウ果皮の熱水抽出物を2.3g得た。
【0039】
(製造例3)ブドウザンショウの果皮のエタノール抽出物の調製
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果皮のエタノール抽出物を0.5g得た。
【0040】
(製造例4)ブドウザンショウの種子の50%エタノール抽出物の調製
ブドウザンショウ種子の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ種子の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0041】
(製造例5)アサクラザンショウの果皮の50%エタノール抽出物の調製
アサクラザンショウ果皮の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してアサクラザンショウ果皮の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0042】
(製造例6)アサクラザンショウの果皮の熱水抽出物の調製
アサクラザンショウ果皮の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してアサクラザンショウ果皮の熱水抽出物を2.3g得た。
【0043】
(製造例7)アサクラザンショウの果皮のエタノール抽出物の調製
サンショウ果皮の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してアサクラザンショウ果皮のエタノール抽出物を0.5g得た。
【0044】
(製造例8)アサクラザンショウの種子の50%エタノール抽出物の調製
アサクラザンショウ種子の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してアサクラザンショウ種子の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0045】
[実施例2]
サンショウの抽出物のWnt1発現抑制効果の評価実験を次のとおり行った。
【0046】
(試験例1)Wnt1発現抑制効果の評価
20%(v/v)ウシ胎児血清(FBS、ニチレイバイオ社製)を含有するDulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM、Sigma-Aldrich社製)を用いて培養したヒト扁平上皮がん細胞HSC-1(Wnt1発現細胞、JCRB細胞バンク製)を、2%(v/v)FBS含有DMEMに懸濁し、8ウェルカルチャースライドに1x103個ずつ播種した。24時間培養後、サンショウ抽出物(製造例1~8)を最終濃度が0.01%(w/v)になるように添加した2%(v/v)FBS含有DMEMに交換し、さらに72時間培養した。細胞をPBS(-)にて2回洗浄し、4%(w/v)パラホルムアルデヒドを加え、室温で10分間インキュベーションして細胞を固定した。
【0047】
細胞をPBS(-)にて2回洗浄し、2%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA、和光純薬工業社製)含有PBS(-)に抗Wnt1抗体(Spring Bioscience社製)及び抗β-アクチン抗体を添加した一次抗体溶液を加え、37℃で1時間インキュベーションした。細胞をPBS(-)にて2回洗浄し、2%(w/v)BSA含有PBS(-)にAlexa488標識抗ウサギIgG抗体及びAlexa594標識抗マウスIgG抗体を添加した二次抗体溶液を加え、37℃で1時間インキュベーションした。細胞をPBS(-)にて2回洗浄し、蛍光顕微鏡(Olympus社製)を用いて観察し、Wnt1の発現を緑色の蛍光として、β-アクチンの発現を赤色の蛍光として画像を撮影した。取得した画像について、市販の解析ソフトを用いて測定した蛍光強度を指標に各タンパク質の発現量を測定し、Wnt1の相対発現量(緑色の蛍光強度/赤色の蛍光強度)を算出した。試料を添加せずに培養した細胞におけるWnt1の相対発現量を100%とし、これに対し、試料を添加して培養した細胞におけるWnt1の相対発現量の値を算出し、評価した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、サンショウの抽出物(製造例1~8)の全てに、顕著なWnt1発現抑制効果が認められた。以上より、サンショウの抽出物の極めて優れたWnt1発現抑制効果が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、Wnt/β-カテニンシグナルの亢進に関連する疾患や病態、例えば癌や色素沈着などの予防、改善、または治療を目的とした医薬品、医薬部外品、化粧品の製造分野において利用できる。