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特許7219973PEM水電解槽システム、PEM水電解槽セル(又は電池;cell)、スタック及びシステムにて水素を生成するための方法
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  • 特許-PEM水電解槽システム、PEM水電解槽セル(又は電池;cell)、スタック及びシステムにて水素を生成するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】PEM水電解槽システム、PEM水電解槽セル(又は電池;cell)、スタック及びシステムにて水素を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/042 20210101AFI20230202BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230202BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20230202BHJP
   C25B 11/03 20210101ALI20230202BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230202BHJP
【FI】
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B15/08 302
C25B11/03
C25B9/23
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019572810
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 NO2018050174
(87)【国際公開番号】W WO2019009732
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】20171090
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】521208767
【氏名又は名称】ハイスター・アクシェセルスカプ
【氏名又は名称原語表記】HYSTAR AS
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】マグヌス・エス・トマセン
(72)【発明者】
【氏名】アレハンドロ・オジャルセ・バーネット
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087168(JP,A)
【文献】特開平11-171504(JP,A)
【文献】特開平03-182052(JP,A)
【文献】特開2015-187287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0198232(US,A1)
【文献】特開2003-328170(JP,A)
【文献】特開2003-082486(JP,A)
【文献】特表2015-537329(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103882466(CN,A)
【文献】国際公開第2018/103769(WO,A1)
【文献】特開2014-109046(JP,A)
【文献】SAWADA ET AL,Solid polymer electrolyte water electrolysis systems for hydrogen production based on our newly developed membranes, Part I: Analysis of voltage-current characteristics,PROGRESS IN NUCLEAR ENERGY,英国,2007年12月21日,vol. 50, no. 2-6,443-448
【文献】KIM SEUNG-GON ET AL,A review on experimental evaluation of water management in a polymer electrolyte fuel cell using X-ray imaging technique,JOURNAL OF POWER SOURCES,2013年01月05日,vol. 230,101-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜(PEM)付水電解槽セル内で水素を生成するための方法であって、該方法は、
直流電流を水電解槽セルに印加すること、
カソード室から水分子を、高分子電解質膜を通じてアノード室中へ拡散させること、
アノード触媒層における水分子をプロトン、酸素、及び電子へと酸化させること、
プロトンを、高分子電解質膜を通じてカソード室中へと移動させること、
カソード触媒層におけるプロトンを還元し水素を生成すること、
液体水をカソード室へ供給すること、及び
加湿空気をアノード室へ供給すること
を含み、前記高分子電解質膜は50μm未満の厚さを有する、
方法。
【請求項2】
加湿空気が電解槽の公称動作温度において75%RHを超える相対湿度(RH)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加湿空気が過飽和空気である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
稼働中における前記アノード室を、大気圧を超える圧力で稼働させ、カソード室をアノード室の圧力より0.5bar~35bar高い圧力で稼働させる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
流れ分配マニホールドを通じて、アノード・バイポーラ・プレートにおける流れ場パターンを介して加湿空気を供給する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
高分子電解質膜が5~49μmの範囲内の厚さを有する、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
水素を生成するための高分子電解質膜(PEM)付水電解槽セルであって、
アノード・バイポーラ・プレート、アノード金属製多孔質輸送層、及びアノード触媒層を有して成るアノード室、
カソード・バイポーラ・プレート、カソード金属製多孔質輸送層、及びカソード触媒層を有して成るカソード室を有して成り、
前記カソード室は入口及び出口流れ分配マニホールドの第1セットを通してイオン交換液体水が供給されるようになっており、前記カソード・バイポーラ・プレートには第1流れ場パターンが設計されており、
前記アノード室は入口及び出口流れ分配マニホールドの第2セットを通して加湿空気が供給されるようになっており、前記アノード・バイポーラ・エリアには第2流れ場パターンが設計されており、
前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層が、高分子交換膜のどちらか一方の側に覆われ、高分子電解質膜は50μm未満の厚さを有する、
高分子電解質膜(PEM)付水電解槽セル。
【請求項8】
高分子電解質膜が5~49μmの範囲内の厚さを有する、請求項7に記載のPEM電解槽セル。
【請求項9】
高分子電解質膜が再結合触媒として白金又はパラジウムをさらに含んで成る、請求項7又は8に記載のPEM電解槽セル。
【請求項10】
直列に接続された請求項7~9のいずれかに記載の高分子電解質膜付水電解槽セルを複数有して成る、PEM水電解槽スタック。
【請求項11】
PEM水電解槽システムであって、
水及び酸素の管理システム、
水素ガスの管理システム、
水インプットシステム、
取り付け及びパッケージングキャビネットサブシステム、
通気システム、
パワーエレクトロニクス及び電源、
システムコントロール及び計器を有して成り、
請求項10に記載の高分子電解質膜付水電解槽スタック、並びに
加湿空気の供給及び加湿システムを更に有して成る、
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPEM電解槽(又は電気分解槽、又は電気分解装置;electrolyser、又は;electrolysis)システムを用いて水素を生成するための方法に関し、高分子電解質膜(又は高分子交換膜;polymer electrolyte membrane)(PEM)付水電解槽システムに関する。より具体的には、本発明はPEM電解(又は電気分解;electrolysis、又は;electrolyser)セル及びセルのスタック、及びその稼働(又は動作;operation)に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解セルは水を解離し水素ガス及び酸素ガスを生成する電気化学デバイスである。電解セルはカソード、アノード及び電解質を有して成る。
【0003】
電解質はカソード及びアノードの間に置かれ、電子の輸送を防ぎながら電極間にイオンを輸送する。
【0004】
電解質の選択肢の一つは高分子電解質膜(PEM)であり、プロトン交換膜とも呼ばれている。電解槽セルの稼働の間、水はアノードで酸素ガス、プロトン及び電子へと酸化される。プロトンは、高分子電解質膜に印加された電場(又は電界;electric field)により、アノードからカソードへと移動する。カソードで、プロトンは外部回路を通じて移動される電子と結合し水素ガスを生成する。
【0005】
図2は先行技術によるPEM水電解槽セルの膜/電極アッセンブリ(又は膜/電極接合体、又は膜電極接合体;membrane electrode assembly)(MEA)及び発生する主な輸送現象及び反応の概略図を示す。
【0006】
電解セルはアノード側で水を消費し、この水はアノードへ連続的に供給する必要がある。水はアノード、カソードのどちらかに供給することができる。水はアノード(図2で示すような)に直接供給することができる。又は水はカソードに供給することができ、高分子電解質膜を通じてアノードへ輸送することができる。
【0007】
水の消費速度、これに伴う水素及び酸素の発生速度は、セルを通過する電流の増大が、電流の増大に対応してガスの生成及び水の消費の増大をもたらすという点で、ファラデーの法則に支配される(又は準拠される、又は適用される;governed)。
【0008】
水の輸送に加えて、酸素(O2(拡散))(又はO2(ディフ))及び水素(H2(拡散))(又はH2(ディフ))は膜を横切る(又はわたる、又は跨る;across)ガスの分圧勾配により、拡散/対流メカニズムにより(又は、を介して;through)膜を通じて輸送される。膜を横切るガス流束(又はフラックス、又は流れ;flux)及びガス流束の結果として生じるアノードの酸素に水素及びカソードの水素に酸素が混合することは、先行技術のPEM水電解槽において、主要な設計及び稼働制約の一つである。アノードの酸素中の微量水素のみが、可燃性及び/又は爆発性のガス混合物を形成するために必要とされるため、アノードでの酸素生成量が非常に少ない(低電流密度)又は水素の輸送が非常に多い(薄膜及び/又は高浸透性(又は透過性;permeability))場合、膜を通じて輸送される水素はこのレベルを超える。
【0009】
この水素クロスオーバー問題は、PEM水電解槽の先行技術において、好ましくはナフィオン(登録商標)(Nafion(登録商標))又はアクイヴィオン(登録商標)(Aquivion(登録商標))等のパーフルオロスルホン酸(PSFA)ポリマーから成っている、厚膜(125μmを超える)を用いることにより改善され、膜を渡る水素の拡散を効果的に減らす。白金又はパラジウム等の水素/酸素の再結合(又は再反応;recombination)触媒は膜中へ導入され得て、水への酸素及び水素の局所的(又は部分的;local)な再結合のための反応場として作用し、拡散ガスが他の電極室(又は区画、又はコンパートメント;compartment)に到達しガス相へ入ることを防ぐ。しかしながら、必要な再結合触媒量及び再結合反応が起こる時間を確保するために(又は有するために;to have)、膜は著しい厚みを有する必要が依然ある。従って、先行技術の水電解槽は125ミクロン(ナフィオン(登録商標)115又は同等品)又は125ミクロンを超える厚さを有する高分子電解質膜を使用する。
【0010】
そのような厚膜の使用は大きいオーム抵抗(又は電気抵抗;ohmic resistance)を引き起こし、結果として電解槽の低効率を、特に1Acm-2より高い電流密度において、引き起こす。
【0011】
今日、水電解槽は約65-70%のスタック効率(高位発熱量(又は高発熱量;higher heating value)、HHV)で稼働され、約65-70%のスタック効率は1kgのHにつき約55kWhの電気を必要とする。55khの内、約50kWhが電解プロセスによって使用され、5kWhがプラントのバランス(循環及び給水ポンプ、熱交換、イオン交換、ガス/水の分離、バルブ及びセンサー)によって使用される。水電解槽システムの多くは、電気コストは生成される水素のコストの80%まで達し、水電解槽のスタック効率の増大は全体の主要な電気エネルギー消費及び水素の総コストの両方を改善する。
【0012】
現在のPEM電解槽は主に二つの要因により効率面で制限される。
1.アノードの過電圧
2.高分子膜のオーム抵抗
【0013】
本発明の目的は水電解による水素の生成のための改良された方法及びシステムを提供することである。エネルギー消費を減じ、結果として生成される水素のコストを減じることがさらなる狙いである。本発明の他の目的は、電解槽内での酸素及び水素の可燃性又は爆発性混合物の形成を回避することである。
【0014】
本発明の第1の態様では、高分子電解質膜(PEM)付水電解槽セル内で水素を生成するための方法が供される。当該方法は、直流電流を水電解槽セルに印加すること、カソード室から水分子を、高分子電解質膜を通じてアノード室中へ拡散させること(又は、できること;allowing)、アノード触媒層で水分子をプロトン、酸素及び電子へ酸化させること、プロトンを、高分子電解質膜を通じてカソード室の中へ移動させること、カソード触媒層でプロトンを還元させ水素を生成すること、カソード室に水を供給し及び加湿空気をアノード室に供給すること、を含む。
【0015】
本発明の一つの実施形態では、アノード室に供給される加湿空気は75%(RH)を超える相対湿度(RH)を有する。加湿空気はまた水で飽和され得る。任意で、過飽和空気が用いられる。加湿空気は空気加湿機ポンプ/ブロワーの使用によりアノードに供給され、流れ(又はフロー;flow)分配マニホールドを通じて、アノードのアクティブ・エリア(又は活性領域、又は活性場;active area)に沿って最適なガス及び水の分配のためのアノード・バイポーラ・プレートにおける流れ(又はフロー;flow)パターンを介して分配され得る。
【0016】
稼働の間、電解槽セルのカソード側の圧力は好ましくはアノード側の圧力より高くコントロールされる。好ましくはカソード側の圧力はアノード室での圧力より0.5bar~35bar高い。稼働の間、アノード室は大気圧(又は周囲圧力、又は環境圧力;ambient pressure)を僅かに超える圧力で通常稼働される。
【0017】
本発明の第2の態様では、水素を生成するための高分子電解質膜(PEM)付水電解槽セルが供される。PEM水電解槽セルは、アノード・バイポーラ・プレート、アノード金属製多孔質輸送層、及びアノード触媒層を有して成るアノード室、カソード・バイポーラ・プレート、カソード金属製多孔質輸送層、及びカソード触媒層を有して成るカノード室を有して成り、
カソード室は入口及び出口流れ分配マニホールドの第1セットを通じてイオン交換水が供給されるようになっており、カソード・バイポーラ・プレートには第1流れ場パターンが設計されており、
アノード室は入口及び出口流れ分配マニホールドの第2セットを通じて加湿空気が供給されるようになっており、アノード・バイポーラ・プレートには第2流れ場パターンが設計されており、
アノード触媒層及びカソード触媒層が高分子交換膜(又は高分子電解質膜;polymer exchange membrane)のどちらか一方の側に覆われ(又はコートされ;coated)ている。
【0018】
アノード触媒層及びカソード触媒層は粉末状の触媒を有して成り得る。供給される空気の温度及び相対湿度の値は通常、50~90℃の電解槽の公称動作温度にある。
【0019】
高分子電解質膜は50ミクロン未満の厚さを有し、好ましくは5~49ミクロンの範囲、最も好ましくは10~35ミクロンの範囲であり得る。
【0020】
本発明の第3の態様では、本発明による複数の高分子電解質膜付水電解槽セルを有して成るPEM水電解槽スタックが、直列に接続されて供される。
【0021】
本発明の第4の態様では、PEM水電解槽システムが供される。当該システムは、水と酸素管理(又はマネジメント;management)システム、水素ガス管理システム、水入力(又はインプット;input)システム、取り付け及びパッケージング(又は包装;packaging)キャビネット(又は棚;cabinetry)サブシステム、通気(又は換気;ventilation)システム、パワーエレクトロニクス(又は動力電子機器;power electronics)及び電源(又は電力供給;power supply)、システムコントロール及び計器(又は計装、又は計測、又はインストルメンテーション;Instrumentation)、及び加湿空気の供給及び加湿システムと共に本発明によるPEM電解槽スタックを有して成る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1はアノードに加湿空気及びカソードに液体水を供給して稼働されるように構成された電解槽セルの概略図である。
【0023】
図2は先行技術による膜/電極アッセンブリ、MEAの概略図である。
【0024】
図3は本発明による膜/電極アッセンブリ、MEAの概略図である。
【0025】
図4は本発明によるPEM水電解槽システムの概略図である。
【0026】
図5は電解槽テストの間のセル電圧、電流密度、及びアノード側のガス組成を示す図である。
【0027】
図6は異なる稼働状態(エネルギー消費に比例)でのセル電圧を示す図である。
詳細な説明
【0028】
本発明の目的及び特徴は下記で説明する図を参照してより理解することができる。
【0029】
図1はアノードに加湿空気、及びカソードに液体水の供給で稼働されるように構成された電解槽セルの概略図である。
【0030】
電解槽セルはアノード・バイポーラ・プレート(1a)、アノード金属製多孔質輸送層(2a)、及び薄い高分子電解質膜(4)の頂部(又は最上層、又は最表面;top)に覆われるアノード触媒層(3)を有するアノード室を有して成る。カソード室は高分子電解質膜(4)の頂部に覆われるカソード触媒層(5)、カソード金属製多孔質輸送層(2b)及びカソード金属製バイポーラ・プレート(1b)を有して成る。
【0031】
アノード・バイポーラ・プレート(1a)は高腐食耐性及び高電気伝導性を有する金属材料から成っている。さらに、アノード・バイポーラ・プレート(1a)には、流れ場パターン(6)並びに対応する入口(7)及び出口(8)流れ分配マニホールドが設計されており、当該流れ分配マニホールドは電解槽のアクティブ・エリアに沿って最適なガス及び水を分配する。
【0032】
アノード・バイポーラ・プレート(1a)及びアノード金属製多孔質輸送層(2a)の両者は電解槽内で電気接触抵抗が最小限になるように最適化される。
【0033】
アノード金属製多孔質輸送層(2a)は高腐食耐性及び高電気伝導性の多孔質材から成っており、当該多孔質材はアノード触媒層(3)の中へ加湿空気の拡散を可能とする。アノード触媒層(3)は 酸素発生反応で高効率である触媒と、アノード触媒層(3)の外にプロトンの移動を可能にしてアノード触媒層(3)の中に水の移動を可能にするプロトン伝導性ポリマーを有して成る。
【0034】
カソード金属製バイポーラプレート(1b)もまた高腐食耐性及び高電気伝導性を有する金属材料から成っている。カソード・バイポーラ・プレート(1b)には流れ場パターン(9)が設計されているが、アノード・バイポーラ・プレート(1a)の流れ場パターン(6)と必ずしも同じではなく、また、カソード金属製バイポーラプレート(1b)には、電解槽デバイスのアクティブ・エリアに沿って最適な水及びガスの分配のための、流れ場パターン(9)に対応する入口(10)及び出口(11)流れ分配マニホールドが設計されているが、アノード側における(7)及び(8)は必ずしも同じではない。
【0035】
カソード金属製多孔質輸送層(2b)はカソード触媒層(5)の内外に水及び水素の輸送を可能とする高腐食耐性及び高電気伝導性多孔質材から成っている。
【0036】
カソード触媒層(5)は水素発生反応で高効率である触媒と、カソード触媒層(5)の中にプロトンの移動を可能にしてカソード触媒層(5)の外に水の移動を可能にさせるプロトン伝導性ポリマーを有して成る。
【0037】
図3は本発明によるPEM水電解槽セルの膜/電極アッセンブリ(MEA)及び主な輸送現象及び発生する反応の概略図を示す。
【0038】
稼働の間、イオン交換水(HO(l))はスタック入口ポート、内部マニホールド及びカソード・バイポーラ・プレートにおける流れ場パターンを通じてセルのカソード室に導入される。加湿空気は、アノード入口ポート、内部マニホールド及びアノード・バイポーラ・プレートにおける流れ場パターンを通じてアノード室に供給される。カソードの水の一部は高分子電解質膜に吸収され、複合の(又は混合の、又は一体化した;combined)拡散/対流メカニズム(HO(拡散))を通じてアノードに移動する。水はアノードで反応し、式(1)に従って酸素ガス、プロトン及び電子に変換される。
【0039】
プロトンはアノード側からカソード側へ高分子電解質膜を通じて移動し、電気浸透抗力(又は電気浸透ドラッグ、又はエレクトロオスモティック・ドラッグ;electroosmotic drag)として知られた現象により、膜のアノード側からカソード側へ液体水(HO(drag))のかなりの部分を運ぶ。カソードで、プロトンが外部回路を通じて輸送された電子と結合し、式(2)に従って、水素ガスを生成する。
【0040】
アノード室内の任意の過剰な水は空気、生成された酸素ガス、水蒸気(HO(g))及び少量の水素ガスと共にセルから出ていく(又は排出する;exit)。カソード側で生成された水素ガスは過剰な水及び微量の酸素と共にセルから出ていく。
【0041】
印加されたセル電流の増大がアノードでの水の消費速度を増大させ、これに伴い、アノードとカソードの両方でのガス発生の速度を増大させるという点において、電解槽セル内におけるアノードでの酸素発生の速度及びカソードでの水素発生の速度は、ファラデーの法則に支配される。所定の電極エリア及びスタックサイズで、増加する水素発生を維持するために、アノードには十分な水を供給する必要がある。
【0042】
電解セルの連続的な稼働は、カソードからアノードで水が酸素発生反応で消費されるアノードへと水の輸送を必要とする。この消費に加えて、他のメカニズムもまたアノードから水を除去する。第1に、膜を通じて移動するプロトンはプロトンとともに所定量の水分子量(an amount of water molecules)を引っ張るように、電気浸透抗力として知られる効果がアノードの水を消耗させる。例えばナフィオン(登録商標)膜において、電気浸透抗力はプロトンあたり最大で約水分子3つ分となることができる。セル内のアノードガス相はアノードで生成された追加の酸素ガスによる、水蒸気で不飽和になる。それゆえアノード内の液体水は蒸発し、出ていくガスと共にアノードを離れ、膜からの水で補充される。
【0043】
膜を通る水の拡散は、膜内の水の活性勾配及び膜内の水の拡散係数に比例しており、これはフィックの法則としても知られている。膜の厚さの減少が活性勾配を増加させるという点において、膜内の活性勾配は膜の厚さに反比例する。
【0044】
本発明において、PEM膜の厚さは50ミクロン未満であってよく、好ましくは5~49ミクロン、さらにより好ましくは10~35ミクロンの範囲である。電解セルで上記のような薄膜を用いると、カソードからアノードへの水の輸送が増加し、結果としてより大きな限界電流密度になり、それによって、所定のセルとスタックサイズで水素及び酸素ガスの発生の増加をもたらす。
【0045】
カソードでの水の活性はカソードの圧力に比例する。ある実施形態では、稼働の間の電解槽セルのカソードの圧力はアノードの圧力より高くなるように制御される。この圧力の違いは水をカソードからアノードへ“押し”、それによって、カソードからアノードへの水の輸送を改善し、結果としてガス生成速度は同じ電極サイズにおいて増加する。アノードでの圧力は、アノード室を通じて流れる加湿空気の圧力降下に打ち勝つために、通常、僅かに大気圧より大きい。ある実施形態では、カソード及びアノードの間の圧力差は0.5bar及び35barの間であり、他の実施形態では圧力差は1bar及び20barの間となっている。
【0046】
上記のような、先行技術の電解セルで使用されてきた膜よりはるかに薄い薄膜の使用は、電解セルのオーム抵抗を減少させ、それにより、15-20%程度のプロセスのエネルギー消費を減少させ、従って、電解セルの外部冷却の必要性が減少する。より薄い膜はカソードからアノードへの水素の流束を増加させ、アノードからカソードへの酸素の流束も増加させる。アノードに単に水の供給を伴う従来の電解セルでは、増加した水素の流束が電解セルの幅広い稼働範囲にわたり、アノード室に爆発性又は可燃性ガス混合体の生成リスク増大を引き起こす。この発明は、アノードへの加湿空気の供給及び薄膜の使用を組み合わせることによりこの危険を緩和している。アノードへの加湿空気の供給は、膜を通してカソードから輸送された水素を約4mol-%の水素‐空気混合物の爆発下限界(LEL)をはるかに下回るレベルへと効果的に薄め、それにより、電解セルの完全な(又は全ての;complete)稼働範囲で可燃性又は爆発性ガス混合物の形成の危険を取り除く。
【0047】
電解槽セルの稼働は、例えばフリーラジカル攻撃プロセスによる高分子電解質膜の劣化の原因となり得る。この劣化プロセスは、カソードでの酸素の還元の副生成物である過酸化水素及びフリーラジカルの生成が原因で、カソードに近い膜部位で通常最も進む。フリーラジカルの形成速度、つまり、膜中のフリーラジカルの濃度はアノードからカソードへ膜を通る酸素の流束に直接関連する。この流束は膜中のポリマー相での拡散及び水相での拡散/対流の組合せである。拡散速度は、アノードの酸素分圧(pO)に一般的に正比例し、対流速度は膜を通る水の流束に比例する。
【0048】
ある実施形態では、電解セルにはアノードで加湿空気が供給され、空気中の窒素及び水蒸気の組合せは、従来のPEM電解セルでのpOよりもはるかに低いpOを供給する。加えて、従来のPEM電解セルでは正味の水の流束(net water flux)がアノードからカソードであるのとは対照的に、正味の水の流束はカソードからアノードへとなる(図2及び3を参照)。従って、アノードにおける加湿空気の供給及びカソードにおける水の供給で稼働される電解槽セルは、従来のPEM電解槽より、はるかに低いフリーラジカルの生成及び低い膜劣化速度を有する。
【0049】
図4は本願発明によるPEM水電解槽システムの概略図を示す。このシステムにおいて、空気はブロワー又はコンプレッサー(12)を介して空気加湿機(13)へ供給され、当該加湿機(13)は、PEM電解槽スタック(14)中のセルのアノード側へ供給される空気の制御された加湿水準を、達成するようになっている。空気加湿機は エンタルピーホイール、膜加湿機、水噴霧機、スプレータワー又は泡加湿機等の代替方法の範囲から選択されることができる。
【0050】
電解槽スタック(14)は各電解槽セルに加湿空気を供給するようになっている。このため、カソードから通り抜ける水素ガスを1vol%(又は体積%)未満のレベルに希釈するために、加湿空気がアノード電極の表面上に均等に分配される。加えて、電解槽スタックは各電解槽セルのカソード室に液体水を供給するようになっている。この組合せは、アノードでの酸素発生反応のために要する必要な水を確保し、膜内で高含水量を確実にして高プロトン伝導性を保持するために重要である。イオン交換水は浄水装置(19)から供給される。生成された水素は、水とともにPEM水電解槽スタック(14)から出ていく。水素及び水は水素/水分離機(又はセパレーター;separator)(15)で分離される。水素は脱酸素機/乾燥機(16)を通じて流れる。分離された水は浄水ユニット(19)へ再循環(又はリサイクル;recycle)され、PEM水電解槽スタック(14)の中へ再循環される。循環ポンプ(17)及び熱交換機(18)は循環ライン中に含み得る。
【実施例
【0051】
ナフィオン(登録商標)212(Nafion(登録商標)212)膜(厚さ50ミクロン)を基とし、25cm電解槽テスト(又は試験;test)セルに装着されたMEAを用いて実験を行った。テストセルをグリーンライト・テクノロジー(Greenlight Technologies)のPEM電解槽テストステーションに接続した。実験の初めの2時間の間、セルをアノードとカソードの水循環とともに1Acm-2の従来(又は通常、又は慣習;conventional)モードで、60℃で稼働した。酸素中の水素濃度を連続的に測定し、アノード側で約2vol%の定常状態の値が示された。時間の関数として酸素中の水素の濃度を図5に示す。2時間後、稼働方法を変更し、液体水をカソードに供給する間に9l分-1の加湿空気(60℃で100%RH)をアノードに供給した。アノードから出ていくガス中の水素濃度は、電解槽のセル電圧及び電流が一定の間、検出不可(0.1%未満)のレベルへと急激に落ちる。
【0052】
5時間後、電流密度の効果を調査した。これらの結果もまた図5に示す。電流密度が0.01から2Acm-2へと変化し、出ていく(又は排出していく;outgoing)アノードガス中の検出不可な水素の量(又は極微量な水素;no detectable amounts of hydrogen)が検出された。比較として、アノード及びカソードの両方に水を伴う従来の稼働にセルを戻すと、水素濃度は約2vol%以上(低電流密度で)に急激に増大した。
【0053】
稼働8時間後、セルをシャットダウンし、実験を終了させた。この実験は、薄膜を有するPEM電解槽が、アノードに液体水が供給されるセルと同じ性能で、アノード入口に供給される加湿空気のみで稼働できることを明らかに示しているが、アノードで生成されるガス中に著しく低い水素濃度を伴って稼働できることも示している。水がカソードに供給され、加湿空気がアノードに供給され、水素濃度がアノード側で低い際に、高電流密度を維持することができる。本発明の方法は高効率と組み合わさった安全な稼働を可能とし、これにより、より低い稼働及び機器コストを可能とする。
【0054】
図6は異なる稼働条件での厚膜及び薄膜での使用の間のエネルギー消費における違いを示す。ラインA-Dは異なる状態の効果を示す。
【0055】
A:厚膜(125ミクロン)、市販の水電解槽相当品。カソード及びアノードに水。非効率であるが安全(又はSAFE)稼働(アノードで低H濃度)
B:薄膜(27.5ミクロン)。カソード及びアノードに水:非常に効率的であるが非安全(又は安全ではない;UNSAFE)稼働(薄膜によりアノードで3.5vol%と非常に高いH濃度)
C:薄膜(30ミクロン)。カソードに水及びアノードに加湿空気:効率的及び安全稼働(希釈によりアノードで低H濃度(検出不可能))。乾燥アノードにより電圧は高電流で増加。)
D:薄膜(30ミクロン)。カソードに高圧を伴う水及びアノードに加湿空気:非常に効率的で安全稼働(希釈により低H濃度(検出不可能)で、より高いカソードの圧力によってカソードからアノードへより多くの加圧された水によって効率性が改善。)
【0056】
アノード及びカソード(先行技術)の両方で水を使用し厚膜を使用する際、ラインAの安全な稼働が得られたが、そのプロセスはそれほど効率的ではない。薄膜を使用し並びにカソード及びアノード側の両方で水を使用することは、ラインBのように、O中のHが3vol%よりも高い水素濃度へと増加するため、非常に効率的であるが安全ではない。薄膜を使用する際、エネルギー消費は約20%減少する。
【0057】
本発明(ラインC及びD)によるセルを稼働することによって、Hの濃度は低レベルに、即ち0.5%未満に維持され、セルは先行技術と比較してより高い電流密度とより低エネルギー消費で稼働され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6