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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】熱間投入補修材及び熱間吹付補修材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20230202BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20230202BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
F27D1/16 W
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021041796
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022141472
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510037259
【氏名又は名称】昭和セラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 輝久
(72)【発明者】
【氏名】山田 和典
(72)【発明者】
【氏名】坂川 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 慧太
(72)【発明者】
【氏名】向山 賢一
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111848192(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火材料100質量%に占める割合において、鋼管の内面スケールを除去するためのショットブラスト処理に使用された使用後のアルミナショット(以下「使用後アルミナショット」という。)であって粒径が1mm未満の使用後アルミナショット微粉を55~85質量%、粒径が1mm未満のマグネシア微粉を15~45質量%含有し、使用後アルミナショット微粉とマグネシア微粉との質量比(使用後アルミナショット微粉:マグネシア微粉)が55:45~85:15の範囲内にある熱間投入補修材。
【請求項2】
耐火材料として、粒径が1mm以上の粗粒の耐火材料と、粒径が1mm未満の微粉の耐火材料とを含み、粗粒の耐火材料と微粉の耐火材料との質量比(粗粒の耐火材料:微粉の耐火材料)が30:70~55:45の範囲内にある熱間吹付補修材であって、
前記粗粒の耐火材料は塩基性耐火材料であり、
前記微粉の耐火材料は、当該微粉の耐火材料100質量%に占める割合において、鋼管の内面スケールを除去するためのショットブラスト処理に使用された使用後のアルミナショット(以下「使用後アルミナショット」という。)であって粒径が1mm未満の使用後アルミナショット微粉を55~85質量%、粒径が1mm未満のマグネシア微粉を15~45質量%含有し、使用後アルミナショット微粉とマグネシア微粉との質量比(使用後アルミナショット微粉:マグネシア微粉)が55:45~85:15の範囲内にある熱間吹付補修材。
【請求項3】
使用後アルミナショット微粉とマグネシア微粉との質量比(使用後アルミナショット微粉:マグネシア微粉)が55:45~70:30の範囲内にある、請求項2に記載の熱間吹付補修材。
【請求項4】
前記粗粒の耐火材料はマグネシアを含む、請求項2又は3に記載の熱間吹付補修材。
【請求項5】
使用後アルミナショット微粉はブラウンアルミナよりなる、請求項2~4のいずれか一項に記載の熱間吹付補修材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄用の電気炉、溶銑又は溶鋼を保持する溶銑溶鋼容器(溶銑鍋、溶鋼鍋、タンディッシュ等)などの熱間補修に使用する熱間投入補修材及び熱間吹付補修材に関する。なお、本明細書では熱間投入補修材及び熱間吹付補修材を総称して「熱間補修材」という。
【背景技術】
【0002】
例えば製鋼用電気炉においてその一般的な内張り構造は、内張りれんがの表面を耐火スタンプ材で覆った構造である。内張りの頂部はスラグラインに相当し、先行損耗される。このスラグラインには通常、耐スラグ浸食性に優れたマグネシア-カーボン質れんがが設けられている。しかし、それでもスラグラインの耐用は十分なものではなく依然として先行損耗される。そこで、スラグラインに対し、その損耗を見計らって随時、熱間吹付補修が行われている。また、炉底部の補修には熱間投入補修が行われている。
【0003】
このような熱間補修に使用される熱間補修材の材質として、マグネシア質が知られている(例えば、特許文献1、2)。マグネシア質は高耐食性材質である。しかし、従来の熱間補修材は、熱間補修後の再稼働時に、被補修部(スラグライン、炉底部等)から剥離しやすく、結果として十分な補修効果が得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6735064号公報
【文献】特開2012-126610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、補修効果の高い熱間補修材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、熱間補修時には被補修部の表面に高温のスラグが残存していることに注目し、熱間補修材による補修効果を高めるには、被補修部の表面に残存しているスラグとの熱間親和付着性を高めることが重要であると考え、試験及び検討を重ねた。その結果、熱間補修材のマトリックス部(粒径が1mm未満の微粉の耐火材料)の配合を熱間補修時に2次スピネルを生成する配合とすることが有効であること、更に2次スピネルを生成するためのアルミナ源として、鋼管の内面スケールを除去するためのショットブラスト処理に使用された使用後のアルミナショットを使用することが有効であることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の熱間投入補修材が提供される。
耐火材料100質量%に占める割合において、鋼管の内面スケールを除去するためのショットブラスト処理に使用された使用後のアルミナショット(以下「使用後アルミナショット」という。)であって粒径が1mm未満の使用後アルミナショット微粉を55~85質量%、粒径が1mm未満のマグネシア微粉を15~45質量%含有し、使用後アルミナショット微粉とマグネシア微粉との質量比(使用後アルミナショット微粉:マグネシア微粉)が55:45~85:15の範囲内にある熱間投入補修材。
【0008】
また、本発明の他の観点によれば、次の熱間吹付補修材が提供される。
耐火材料として、粒径が1mm以上の粗粒の耐火材料と、粒径が1mm未満の微粉の耐火材料とを含み、粗粒の耐火材料と微粉の耐火材料との質量比(粗粒の耐火材料:微粉の耐火材料)が30:70~55:45の範囲内にある熱間吹付補修材であって、
前記粗粒の耐火材料は塩基性耐火材料であり、
前記微粉の耐火材料は、当該微粉の耐火材料100質量%に占める割合において、鋼管の内面スケールを除去するためのショットブラスト処理に使用された使用後のアルミナショット(以下「使用後アルミナショット」という。)であって粒径が1mm未満の使用後アルミナショット微粉を55~85質量%、粒径が1mm未満のマグネシア微粉を15~45質量%含有し、使用後アルミナショット微粉とマグネシア微粉との質量比(使用後アルミナショット微粉:マグネシア微粉)が55:45~85:15の範囲内にある熱間吹付補修材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱間補修材によれば、熱間補修時に被補修部の表面に残存しているスラグとの熱間親和付着性が向上する。そのため、被補修部から剥離しにくくなり、高い補修効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の熱間投入補修材の作用効果を概念的に示す説明図。
図2】本発明の熱間吹付補修材の作用効果を概念的に示す説明図。
図3】使用後アルミナショット微粉の実体顕微鏡観察写真(×200)。
図4】使用後アルミナショット微粉(磁選品)のSEM観察写真(×100)。
図5】使用前のアルミナショットのSEM観察写真(×100)。
図6A】表2に示す実施例1~3と比較例1の熱間投入補修材について、スラグとの熱間親和付着性を評価した試験結果(スラグの塩基度(C/S)=0.55)。
図6B】表2に示す実施例1~3と比較例1の熱間投入補修材について、スラグとの熱間親和付着性を評価した試験結果(スラグの塩基度(C/S)=1.74)。
図7】表2に示す実施例2の加熱処理後の試験体(スラグの塩基度(C/S)=0.55の場合)の、断面SEM観察写真で、(a)及び(b)は熱間投入補修材の本体部分の断面SEM観察写真、(c)はマグネシア質れんがとの界面部分の断面SEM観察写真。
図8】表3に示す実施例2と比較例2の熱間投入補修材について、スラグとの熱間親和付着性を評価した試験結果(スラグの塩基度(C/S)=1.74)。
図9】表4に示す実施例4と比較例3の熱間吹付補修材について、スラグとの熱間親和付着性を評価した試験結果。
図10A】表5に示す実施例4と比較例4,5の熱間吹付補修材についてのスラグ浸食試験結果(スラグの塩基度(C/S)=1)。
図10B】表5に示す実施例4と比較例4,5の熱間吹付補修材についてのスラグ浸食試験結果(スラグの塩基度(C/S)=3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様である熱間投入補修材は、耐火材料100質量%に占める割合において、使用後アルミナショット微粉を55~85質量%、マグネシア微粉を15~45質量%含有し、使用後アルミナショット微粉とマグネシア微粉との質量比(使用後アルミナショット微粉:マグネシア微粉)(以下、「アルミナマグネシア質量比」という。)が55:45~85:15の範囲内にあることを特徴とする。
【0012】
アルミナマグネシア質量比を上記範囲にすることで、熱間投入補修時に2次スピネルを生成し、これにより、熱間投入補修時に被補修部の表面に残存しているスラグとの熱間親和付着性が向上する。また、2次スピネルの生成に伴う体積膨張により熱間緻密性が向上する。なお、理論スピネルにおいてアルミナマグネシア質量比は概ね70:30であるが、後述する試験結果より、アルミナマグネシア質量比は55:45~85:15の範囲内であれば、上述の効果が確認されている。
【0013】
使用後アルミナショット微粉はショットブラスト処理により除去された鋼管の内面スケール(以下、単に「スケール」という。)を含む。このスケールが焼結助剤的な作用を発揮し、これによりスラグとの熱間親和付着性及び熱間緻密性が更に向上する。また、使用後アルミナショット微粉は、角が欠けて丸みを帯びた形状を有する。このため、投入施工時の流動性が向上し被補修部への充填性も向上する。なお、使用後アルミナショット微粉の材質はショットブラスト処理に必要な硬度とコスト面からホワイトアルミナではなく、ブラウンアルミナであることが好ましい。
【0014】
以上の通り、本発明の熱間投入補修材によれば、図1に概念的に示しているように、投入施工時の流動充填性が向上すると共に、スラグとの熱間親和付着性及び熱間緻密性が向上する。特に、スラグとの熱間親和付着性については、従来の熱間投入補修材では考慮されていなかった特性であり、スラグとの熱間親和付着性を向上させた点が本発明の熱間投入補修材の最大の特徴である。そのため、熱間投入補修材が被補修部から剥離しにくくなり、高い補修効果を得ることができる。
【0015】
なお、熱間投入補修材は、フレコンバッグ等の熱焼失性バッグに収容されて被補修部に投入されるもので、「焼付補修材」と呼ばれることもある。そして本発明の熱間投入補修材は、従来の焼付補修材と同様に、上述の耐火材料に、珪酸ソーダ等の無機結合剤や樹脂、糖類、ピッチ、タール等の有機結合剤を添加したものとすることもできる。
【0016】
本発明の他の態様である熱間吹付補修材は、粒径が1mm未満の微粉の耐火材料よりなるマトリックス部の配合が、上述の熱間投入補修材と同様の配合である。すなわち、本発明の熱間吹付補修材においてマトリックス部(微粉の耐火材料)は、当該マトリックス部(当該微粉の耐火材料)100質量%に占める割合において、使用後アルミナショット微粉を55~85質量%、マグネシア微粉を15~45質量%含有し、アルミナマグネシア質量比が55:45~85:15の範囲内にあることを特徴とする。
【0017】
したがって、本発明の熱間吹付補修材においても、スラグとの熱間親和付着性及び熱間緻密性が向上する。また、使用後アルミナショット微粉は丸みを帯びた形状を有することから、吹付施工安定性も向上する。
【0018】
一方、本発明の熱間吹付補修材は、耐火材料の骨材部として粒径が1mm以上の粗粒の耐火材料を含む。骨材部(粗粒の耐火材料)とマトリックス部(微粉の耐火材料)との質量比(粗粒の耐火材料:微粉の耐火材料)(以下「粗粒微粉質量比」という。)は、従来一般的な熱間吹付補修材と同様に、30:70~55:45の範囲内にある。
【0019】
熱間吹付補修材はスラグラインの補修に使用されることが多い。スラグラインには耐スラグ浸食性が要求されるため、本発明の熱間吹付補修材において骨材部である粗粒の耐火材料は、塩基性耐火材料よりなる。塩基性耐火材料は耐スラグ浸食性に優れるからである。塩基性耐火材料としては、マグネシア、焼成オリビン、焼ドロマイト、使用済のマグネシア-カーボン質れんが屑などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上の組合せとすることができるが、耐スラグ浸食性を高める点から、粗粒の耐火材料はマグネシアを含むことが好ましい。マグネシアとしては、天然マグネシア、焼成マグネシアあるいは電融マグネシア、海水マグネシアを使用することができる。また、骨材部の最大粒径(トップサイズ)は従来技術と同様に2mm以上5mm未満が好ましい。なお、耐火材料の粒度は篩によって調整することができる。本発明において粒径1mm以上とは目開き1mmの篩の篩上に相当する。逆に粒径1mm未満とは、目開き1mmの篩の篩下である。
【0020】
また、本発明の熱間吹付補修材においてマトリックス部は、上述の通りスラグとの熱間親和付着性が高いことからスラグの粘性を高める効果がある。このスラグの粘性を高める効果は、スラグによる化学的な浸食への耐用性、すなわち耐スラグ浸食性の向上に寄与する。すなわち、本発明の熱間吹付補修材によれば、骨材部が耐スラグ浸食性に優れる塩基性耐火材料であることに加え、マトリックス部がスラグの粘性を高める効果を奏することから、全体として耐スラグ浸食性の向上効果が得られる。
【0021】
スラグラインは、スラグによる化学的な浸食を受けるほか、スラグの流動などによる機械的な作用を受ける。このような機械的な作用を受けると、スラグラインに施工された熱間吹付補修材がスラグラインから剥離しやすくなる。これに対して、本発明の熱間吹付補修材によれば上述の通り、熱間吹付補修時にスラグラインの表面に残存しているスラグとの熱間親和付着性が高いことから、スラグの流動などによる機械的な作用を受けても、スラグラインから剥離しにくい。
【0022】
以上の通り、本発明の熱間吹付補修材によれば、図2に概念的に示しているように、吹付施工時の吹付施工安定性が向上すると共に、熱間吹付補修時にスラグラインの表面に残存しているスラグとの熱間親和付着性が向上し熱間緻密性も向上する。また、熱間吹付補修後の再稼働時にスラグと接する稼働面においても、スラグとの熱間親和付着性が向上してスラグの粘性を高める効果を奏することから、耐スラグ浸食性が向上する。
以上より、本発明の熱間吹付補修材によれば、従来の熱間吹付補修材に比べ、高い補修効果を得ることができる。
【0023】
なお、本発明の熱間吹付補修材はスラグラインに限らず、スラグライン下方の鋼浴部の補修にも適用できる。この場合も、本発明の熱間吹付補修材によれば、熱間吹付補修時に鋼浴部の表面に残存しているスラグとの熱間親和付着性が高いことから、溶鋼の流動などによる機械的な作用を受けても鋼浴部から剥離しにくくなり、高い補修効果を得ることができる。
【0024】
本発明の熱間吹付補修材は従来の熱間吹付補修材と同様に、上述の耐火材料に結合剤を添加してなる。結合剤は特に限定されるものではない。リン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、リン酸カリウム、リン酸カルシウムなどのリン酸塩、珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、珪酸カリウムなどの珪酸塩、あるいはアルミナセメント、ポルトランドセメント等である。その添加量は耐火材料に対する割合で、外掛けで1質量%以上15質量%以下が好ましい。更に好ましくは3質量%以上10質量%以下である。また、結合剤の種類によっては、さらに硬化促進剤を添加する。硬化促進剤の具体例としては、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム等のカルシウム塩である。
【0025】
また、必要によっては、ファイバー類、金属粉、分散剤、乳酸アルミニウム類、CMC等を添加してもよい。ファイバー類の具体例は、ポリプロピレン、ナイロン、PVA、ビニロン、ポリエチレン、アクリル、ポリエステル、パルプ、紙繊維、セピオライト等である。耐火材料に対する割合で、外掛けで0.05質量%以上1質量%以下の添加が好ましい。
【0026】
本発明の熱間吹付補修材は、従来の熱間吹付補修材と同様に、任意の吹付装置を使用し、基本的には乾式法にて施工する。すなわち、本発明の熱間吹付補修材を吹付材として吹付装置にてノズルへ搬送し、ノズルあるいはノズル近傍にて施工水を添加し、吹付ける。発塵防止のために施工水の一部を予め吹付材に添加しておいてもよい。
【実施例
【0027】
<使用後アルミナショット微粉の性状>
表1に、使用後アルミナショット微粉の化学成分例を示している。
これらの使用後アルミナショット微粉は、小径油井管用のステンレス鋼管の内面スケールを除去するためのショットブラスト処理に使用後、サイクロンで回収されたものである。表1からわかるように、使用後アルミナショット微粉は、ショットブラスト処理により除去されたスケールを、Fe換算で3~6質量%程度含む。
なお、本実施例では、スケールをFe換算で約4質量%含む3号サイクロンで回収された使用後アルミナショット微粉を用いた。以下の説明では、3号サイクロンで回収された使用後アルミナショット微粉を単に使用後アルミナショット微粉という。
【0028】
【表1】
【0029】
図3に、使用後アルミナショット微粉の実体顕微鏡観察写真を示している。同写真中に見られる黒い点がスケールである。
図4に、使用後アルミナショット微粉のSEM観察写真を示している。また図5には、使用前のアルミナショットのSEM観察写真を示している。ここで、使用後アルミナショット微粉には上述の通りスケールを含み、そのスケールは磁性を帯びているので、使用後アルミナショット微粉のSEM観察は、磁選によりスケールを除去した磁選品について行った。
図5に示す使用前のアルミナショットはブラウンアルミナよりなる。ブラウンアルミナは黒褐色でガラス面もあり緻密で硬い。一方、図4に示す使用後アルミナショット微粉では粒径が0.2~0.4mmとなり、ショットブラスト処理により角が欠けて丸みを帯びた形状になっている。なお、使用後アルミナショット微粉では角が欠けてはいるが、亀裂は見られなかった。
そして、図3の実体顕微鏡観察写真及び図4のSEM観察写真より、スケールはアルミナよりも小さい10~50μmの単体又は集合体として混在していることがわかる。
【0030】
<熱間投入補修材の実施例>
表2に示す実施例1~3と比較例1の熱間投入補修材について、スラグとの熱間親和付着性を評価するための試験を実施した。
試験の方法は以下の通りである。
マグネシア質並形型れんがの上面にφ20×H20mmのタップホールを形成し、そのタップホール内に電気炉排滓スラグの粉末を5mm厚となるように充填し、その上に実施例1~3、比較例1それぞれの熱間投入補修材を5mm厚となるように充填し試験体とした。電気炉排滓スラグとしては、スラグの塩基度(C/S)の違いによる影響をみるため、C/S=0.55のスラグとC/S=1.74のスラグの2種類を使用した。
試験体を電気炉に静置し、以下の加熱条件で加熱処理を実施した。なお、加熱処理にあたっては、スラグによる電気炉汚染防止のため、タップホールの上にマグネシア質れんがの蓋を設置した。加熱処理後、試験体を切断し状態を比較観察した。
・加熱条件:大気雰囲気で1650℃まで5.5hで昇温し、2.5h保持し、その後自然放冷。
【0031】
【表2】
【0032】
図6A及び図6Bに、各試験体の断面観察写真を示している。図6Aはスラグの塩基度(C/S)=0.55の場合、図6Bはスラグの塩基度(C/S)=1.74の場合である。なお、図6A及び図6Bにおいて上段に各試験体の断面写真を示し、下段にはスラグの浸潤状態を見るためにタップホールの部分をマスキングした状態の断面写真を示している。
【0033】
図6A及び図6Bより、アルミナマグネシア質量比が55:45~85:15の範囲内にある実施例1~3の熱間投入補修材では、使用後アルミナショット微粉を含まない比較例1の熱間投入補修材に比べ、スラグと一体化しており、スラグとの熱間親和付着性が高いことがわかる。また、実施例1~3の熱間投入補修材では、スラグとの熱間親和付着性が高いことからスラグの粘性が高まり、その結果、マグネシア質れんがへのスラグ浸潤が抑制されていることがわかる。更に、実施例1~3の熱間投入補修材のなかでは、理論スピネルにおけるアルミナマグネシア質量比(70:30)である実施例2の熱間投入補修材が最もスラグとの熱間親和付着性が高く、マグネシア質れんがへのスラグ浸潤が抑制されていることがわかる。このことから、実施例1~3の熱間投入補修材では、2次スピネルが生成されていると考えられる。
【0034】
このことを検証するために、実施例2の加熱処理後の試験体(スラグの塩基度(C/S)=0.55の場合)について、断面のSEM観察を行った。そのSEM観察写真を図7に示している。同図(a)及び(b)は、熱間投入補修材の本体部分の断面SEM観察写真、同図(c)は、マグネシア質れんがとの界面部分の断面SEM観察写真である。
図7(a)及び(b)に示すように加熱処理後の熱間投入補修材の本体部分では、様々な大きさの気孔が観察された。大~中の気孔については、その大きさや形からスケールの溶融によるものと推定された。一方、小さな気孔は円形をしており、熱間投入補修材の溶融時の発泡によるものと推定され、熱間投入補修材の組成からして2次スピネルが生成としたものと考えられる。また、図7(c)に示すようにマグネシア質れんがとの界面には、高粘性化の溶融体の付着の散在が観察され、スラグ溶融物が上記の2次スピネル構造体と反応又はトラップされて高粘性化し、結果的にスラグ浸潤が抑制されたものと考えられる。
【0035】
スラグの塩基度(C/S)の違いによる影響については、予想通りスラグの塩基度(C/S)が高くなるとマグネシア質れんがへのスラグ浸潤が増大した。ただし、実施例1~3及び比較例1におけるスラグ浸潤の傾向は同じであった。すなわち、実施例1~3では、スラグの塩基度(C/S)の違いにかかわらず、比較例1に比べてスラグとの熱間親和付着性が向上し、スラグ浸潤が抑制される傾向であった。
【0036】
次に、使用後アルミナショット微粉に含まれるスケールの作用効果を確認するために、表3に示す実施例2と比較例2の熱間投入補修材について、スラグとの熱間親和付着性を評価するための試験を実施した。その試験方法は上述の通りであり、スラグは塩基度(C/S)=1.74のものを使用した。
【0037】
【表3】
【0038】
表3の実施例2は、表2の実施例2と同じ配合であり使用後アルミナショット微粉を70質量%配合したものである。一方、表3の比較例2は、磁選によりスケールを除去した磁選品を70質量%配合したものである。
【0039】
図8に、各試験体の断面観察写真を示している。
図8より、磁選によりスケールを除去した磁選品を使用した比較例2では、スラグと一体化が見られず、スラグとの熱間親和付着性が低いことがわかる。すなわち、使用後アルミナショット微粉に含まれるスケールは焼結助剤的な作用を発揮し、これによりスラグとの熱間親和付着性及び熱間緻密性が向上することがわかる。
【0040】
<熱間吹付補修材の実施例>
上述の熱間投入補修材における作用効果が、熱間吹付補修材においても得られることを確認するため、表4に示す実施例4と比較例3の熱間吹付補修材について、スラグとの熱間親和付着性を評価するための試験を実施した。その試験方法は上述の通りであり、スラグは塩基度(C/S)=1.74のものを使用した。
【0041】
【表4】
【0042】
図9に、各試験体の断面観察写真を示している。
図9より、マトリックス部のアルミナマグネシア質量比が55:45~85:15の範囲内にある実施例4の熱間吹付補修材では、使用後アルミナショット微粉を含まない比較例3の熱間吹付補修材に比べ、スラグと一体化しており、スラグとの熱間親和付着性が高いことがわかる。すなわち、熱間吹付補修材においても熱間投入補修材と同様の作用効果が得られることを確認した。
【0043】
次に、特にスラグライン補修用の熱間吹付補修材に求められる耐スラグ浸食性を評価するため、表5に示す実施例4と比較例4,5の熱間吹付補修材について、スラグ浸食試験を実施した。なお、表5の実施例4は表4の実施例4と同じ配合でありマトリックス部のアルミナマグネシア質量比は71:29である。一方、表5の比較例4,5はアルミナマグネシア質量比がそれぞれ47:53,22:78であり、使用後アルミナショット微粉の質量割合が低い例である。
【0044】
【表5】
【0045】
スラグ浸食試験の方法は以下の通りである。
表5に示す実施例4と比較例4,5の熱間吹付補修材にそれぞれ外掛けで20質量%の水を添加して型枠に流し込んで施工体を作製した。このとき施工体の上面にφ20×H20mmのタップホールが形成されるように中子を使用した。そして、タップホール内に電気炉排滓スラグの粉末を5mm厚となるように充填し試験体とした。電気炉排滓スラグとしては、スラグの塩基度(C/S)の違いによる影響をみるため、C/S=1のスラグとC/S=3のスラグの2種類を使用した。
試験体を電気炉に静置し、1500℃×3hの加熱処理を実施した。加熱処理後、試験体を切断し、最大溶損量及び最大浸潤量を計測した。
【0046】
図10A及び図10Bに、各試験体の断面観察写真と最大溶損量及び最大浸潤量の計測結果を示している。図10Aはスラグの塩基度(C/S)=1の場合、図10Bはスラグの塩基度(C/S)=3の場合である。
耐スラグ浸食性は、使用後アルミナショット微粉の含有率が高いほど低下することが予想されるが、スラグの塩基度(C/S)=1の場合、図10Aに示すように使用後アルミナショット微粉の含有率の違いにより顕著な差は見られなかった。一方、スラグの塩基度(C/S)=3の場合、図10Bに示すように予想通り、使用後アルミナショット微粉の含有率が高いほど耐スラグ浸食性は低下する傾向が見られた。このことより、高塩基度のスラグに接するスラグラインの熱間吹付補修のように、特に高い耐スラグ浸食性が求められる場合、熱間吹付補修材マトリックス部のアルミナマグネシア質量比は55:45~70:30の範囲、すなわち、マグネシアリッチスピネルから理論スピネルまでの範囲とすることが好ましいといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B