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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】アルミホイールの表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/73 20060101AFI20230202BHJP
   B60B 3/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C23C22/73 A
B60B3/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021182182
(22)【出願日】2021-11-08
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591100301
【氏名又は名称】株式会社レイズエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100111257
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100110504
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】稲谷 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 友幸
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-113651(JP,A)
【文献】特開平3-60759(JP,A)
【文献】特開昭63-229167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-30/00,
B08B 3/00-3/14,
B60B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミホイールの塗装下地処理として実施する表面処理方法であって、
アルミホイールを複数の処理水槽に順に浸漬させる浸漬工程と、浸漬工程の終了後に続けてアルミホイールを乾燥させる乾燥工程とを有し、
前記浸漬工程は、
アルミホイールを水平にして且つ意匠面を上に向けた状態で、アルミホイールを処理槽移載装置に具備する移動用置き台に載せて処理槽移載装置により移載させて、処理水槽上に配置する配置ステップと、
移動用置き台を降下させて、アルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽中に沈める沈降ステップと、
処理水槽中で移動用置き台を上下動させて、アルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽中にて上下揺動する搖動ステップと、
移動用置き台を上昇させて、アルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽から引き上げる引き上げステップとを有し、
前記乾燥工程は、
液温が室温よりも高く加温された最終の処理水槽から搬出したアルミホイールを搬出後直ちに回転水切り装置にて水平に保持して水平方向に回転させて水切りを行うことで、加温されたアルミホイールの自熱に加えて強制乾燥させる、アルミホイールの表面処理方法。
【請求項2】
複数の処理水槽を円周状に配設してロータリー設備を構成し、ロータリー設備の中央位置には回転機構が設置され、回転機構には複数の処理槽移載装置が円周状に配設され、各処理槽移載装置には移動用置き台を上昇降下及び上下動させる昇降機構が具備され、
配置ステップは、回転機構により処理槽移載装置を回転移動させて移動用置き台に載せたアルミホイールを各処理水槽上に順に配置することで実行し、
処理水槽での沈降ステップ、搖動ステップ及び引き上げステップは、昇降機構の一連の動作により順に実行する、請求項1に記載のアルミホイールの表面処理方法。
【請求項3】
移動用置き台は、下方ほど外径が拡径されたテーパーコーン部と、テーパーコーン部を上方に付勢する付勢手段とが具備され、
アルミホイールのハブ締結部に設けたセンター孔にテーパーコーン部を配置させることでアルミホイールを半径方向に位置決めして載置させ、
テーパーコーン部に水抜き溝を設け、ハブ締結部に処理水槽の処理液が溜まらないように排水する、請求項1又は2に記載のアルミホイールの表面処理方法。
【請求項4】
前記乾燥工程は、回転するアルミホイールの意匠面に対して、さらにエアーノズルを接近させてアルミホイールの内径から外径に向けて移動させながら乾燥用エアーを噴射してアルミホイールを強制乾燥させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミホイールの表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミホイールの塗装下地処理として実施される浸漬法によるアルミホイールの表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミホイールは、耐食性及び塗装密着性を向上させるために、塗装下地処理としてアルミホイール表面にクロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)などを無電解で析出させて被膜を形成する表面処理が施される。この表面処理は、アルミホイール表面に対して、脱脂、酸洗、化成処理、水洗などの各処理が施され、各処理を処理液を溜めた処理水槽中にアルミホイールを浸漬させて行う浸漬法が知られている。従来、この浸漬法によるアルミホイールの表面処理方法は、ホイール回転軸を水平に向けてアルミホイールを縦にした状態で天井コンベアから吊り下げて各処理水槽中に浸漬させるようにしていた(特許文献1の図1、段落0022、段落0024等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-344186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のように、アルミホイールを縦にした状態で処理水槽中に浸漬させる方法では、縦にしたアルミホイールの下部から段階的に処理水槽に浸かり、上部から段階的に処理水槽から引き上げられるため、浸漬時間(処理液の反応時間)は下部側では長く、上部側では最も短くなってしまう。そのため、下部側に位置する意匠面の部位と、上部側に位置する意匠面の部位とでは処理液の反応時間が異なることで被膜の付着量に大きなバラツキが発生することがあった。また、アルミホイールを最終の処理水槽から搬出、移動している間や乾燥を行っている間に、アルミホイールのリムなどに付着した処理液が上から下に向かって垂れて意匠面にシミや白濁や膜厚変化などを生じさせ、正常な被膜形成を阻害することがあった。すなわち、従来の表面処理方法では、意匠面における被膜の付着量にバラツキが生じたり所々にシミや白濁などが生じて正常な被膜が形成されなかったりし、塗装下地処理による被膜の品質コントロールが非常に難しく、そのため、耐食性及び塗装密着性を高品質に維持できるアルミホイール製品を安定して生産することが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、アルミホイールの塗装下地処理における被膜付着量のバラツキを抑制することができ且つ正常な被膜の形成が阻害されることもなく、良好な品質の被膜を安定して形成することを可能とするアルミホイールの表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミホイールの表面処理方法は、
アルミホイールの塗装下地処理として実施する表面処理方法であって、
アルミホイールを複数の処理水槽に順に浸漬させる浸漬工程と、浸漬工程の終了後に続けてアルミホイールを乾燥させる乾燥工程とを有し、
前記浸漬工程は、
アルミホイールを水平にして且つ意匠面を上に向けた状態で、アルミホイールを処理槽移載装置に具備する移動用置き台に載せて処理槽移載装置により移載させて、処理水槽上に配置する配置ステップと、
移動用置き台を降下させて、アルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽中に沈める沈降ステップと、
処理水槽中で移動用置き台を上下動させて、アルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽中にて上下揺動する搖動ステップと、
移動用置き台を上昇させて、アルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽から引き上げる引き上げステップとを有し、
前記乾燥工程は、
液温が室温よりも高く加温された最終の処理水槽から搬出したアルミホイールを搬出後直ちに回転水切り装置にて水平に保持して水平方向に回転させて水切りを行うことで、加温されたアルミホイールの自熱に加えて強制乾燥させる、構成を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るアルミホイールの表面処理方法によれば、意匠面には、被膜付着量のバラツキが抑制され、略均一な付着量の被膜を形成することができる。また、意匠面には、液垂れによるシミや白濁や膜厚変化などを生じ難くすることができ、正常な被膜を形成することができる。従って、意匠面において塗装下地処理で形成される被膜の品質を向上することができ、その結果、耐食性及び塗装密着性の高い品質を有するアルミホイールを安定生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態のアルミホイールの表面処理方法の工程を示すフロー図である。
図2】処理対象のアルミホイールの一例を示す図であり、同図(a)は上面図、同図(b)は断面図である。
図3】実施形態のアルミホイールの表面処理方法に適用される設備のレイアウトを示す模式図である。
図4】浸漬工程を行うロータリー設備を示す模式図である。
図5】処理槽移載装置に具備する移動用置き台の構成を示す模式図である。
図6】乾燥工程を行う乾燥装置の回転水切り装置及びエアー噴射装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
実施形態のアルミホイールの表面処理方法は、アルミホイールの塗装下地処理として、浸漬法により、被膜付着量のバラツキを抑制した良好な被膜を形成する方法である。図1に示すように、アルミホイール5の表面処理方法は、浸漬工程と乾燥工程とを有する。
【0010】
浸漬工程は、塗装前のアルミホイール5を複数の処理水槽2に順に浸漬させて処理を施す工程であり、脱脂、水洗、酸洗、水洗、化成処理、水洗の各処理を順に行う。この浸漬工程は、処理対象(ワーク)のアルミホイール5を水平にして且つ意匠面を上に向けた状態で移動用置き台71に載せて処理槽移載装置7により移載させて処理水槽2上に配置する配置ステップと、処理槽移載装置7により移動用置き台71を降下させてアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2中に沈める沈降ステップと、処理槽移載装置7により処理水槽2中で移動用置き台71を上下動させてアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2中にて上下揺動する搖動ステップと、処理槽移載装置7により移動用置き台71を上昇させてアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2から引き上げる引き上げステップとを有する。なお、酸洗及び酸洗後の水洗の処理は、必要に応じて割愛することができる。
【0011】
乾燥工程は、浸漬工程の終了後に続けてアルミホイール5を乾燥させる工程である。この乾燥工程は、液温が室温よりも高く加温された最終の処理水槽2から搬出したアルミホイール5を搬出後直ちに自熱を持った状態のアルミホイール5を回転水切り装置31にて水平に保持して水平方向に回転させて水切りを行うと同時に、エアー噴射装置32によりエアー噴射を行うことで、アルミホイール5の自熱による乾燥に加えて強制乾燥させる。
【0012】
処理対象のアルミホイール5は、鋳造又は鍛造により製造された生地又は表面加工後の塗装前のアルミホイール5や、一旦塗装された後に切削加工等され再塗装前のアルミホイール5などが含まれる。アルミホイール5は、図2(a)(b)に示すように、円盤状のディスク部51と、ディスク部51の外周縁に設けられた円筒状のリム部52とで構成されている。リム部52のフランジ部にはタイヤに空気を入れるためのバルブ孔53が設けられている。ディスク部51は、中央に車軸ハブと連結する円柱状のハブ締結部54と、ハブ締結部54の外周縁から放射状に設けた複数のスポーク部55とを備えている。ハブ締結部54は、中心部に車軸ハブを挿通するセンター孔56が設けられ、センター孔56の外側周方向に複数のボルト孔57が等間隔に設けられている。スポーク部55は、枝分かれ形状やストレート形状など様々な形状とすることができ、また、スポーク天面は3次元形状に形成されている。アルミホイール5の意匠面は、アルミホイール5の車軸取り付け状態で車体外側に配置されるディスク部51の表面側により構成される。
【0013】
次に、本実施形態の表面処理方法に用いる設備について説明する。
図3に示すように、表面処理設備1は、浸漬工程を行う複数の処理水槽2と、乾燥工程を行う乾燥装置3とを備えている。複数の処理水槽2は、円周状に配設してロータリー設備6を構成している。これにより、複数の処理水槽2を省スペースに配設することができる。ロータリー設備6は、浸漬工程の主な処理ごとに分けて複数設けられている。本実施形態では、3つのロータリー設備6が並設されており、脱脂を行う第1のロータリー設備61と、酸洗を行う第2のロータリー設備62と、化成処理を行う第3のロータリー設備63とが配設されている。乾燥装置3は、浸漬工程の最終処理を行う第3のロータリー設備63に隣接して設置されている。また、この表面処理設備1には、各ロータリー設備6及び乾燥装置3にワークのアルミホイール5を搬送する搬送ロボット11が複数台(実施形態では4台)設置されており、搬送ロボット11間にはアルミホイール5の受け渡しを行う中継部12が複数(実施形態では3つ)設置されている。
【0014】
各ロータリー設備6における複数の処理水槽2は、主の処理用の処理水槽2と、水洗用の処理水槽2とを有し、本実施形態では、各ロータリー設備6は、主の処理用の処理水槽2が1つ、水洗用の処理水槽2が3つ配設されているが、これに限らず、処理水槽2の数は任意の数とすることができる。主の処理用の処理水槽2として、第1のロータリー設備61には脱脂の処理液を貯留した処理水槽2が設けられ、第2のロータリー設備62には酸洗の処理液を貯留した処理水槽2が設けられ、第3のロータリー設備63には化成処理の処理液を貯留した処理水槽2が設けられている。主の処理(脱脂、酸洗、化成処理)に用いられる処理液は、通常の表面処理で用いられる処理液を使用することができる。なお、化成処理の処理液は、クロムを用いたクロメート処理液のほか、ジルコニウム、コバルト、チタン、シリカ等によるノンクロメート処理液を用いることができる。
【0015】
各ロータリー設備6には、複数の処理水槽2の円周中央位置に、テーブル状の回転機構70が設置され、回転機構70には、アルミホイール5を各処理水槽2に移載する処理槽移載装置7が円周状に複数台設置されている。本実施形態の各ロータリー設備6は、4つの処理水槽2と1つの受け渡し場所9の5つのエリアが円周上等分に設けられており、処理槽移載装置7は、このエリア毎に対応して円周上等分に5台設置されている。回転機構70は、処理槽移載装置7が隣り合った処理水槽2間を移動するピッチで間欠的に回転するように構成されている。従って、回転機構70を回転して処理槽移載装置7を移動させることで、処理槽移載装置7に載せたアルミホイール5を各処理水槽2上に順に配置する動作(配置ステップ)が行われる。
【0016】
各ロータリー設備6には、円周上、主の処理用の処理水槽2がワーク移送の最上流位置に配設され、これより下流位置に水洗用の処理水槽2が配設されており、最上流位置の処理水槽2と最下流位置の処理水槽2との間にワークのアルミホイール5の受け渡し場所9が配設されている。すなわち、複数の処理水槽2をライン状に配置する設備とは異なり、このロータリー設備6によれば、アルミホイール5の投入位置と搬出位置となる受け渡し場所9を一つの場所に設けることができる。これにより、ロータリー設備6における処理槽移載装置7に対してアルミホイール5の受け渡しを同一場所で効率よく行うことができる。
【0017】
図4に示すように、処理槽移載装置7は、アルミホイール5を水平にして且つ意匠面を上に向けた状態で載置する移動用置き台71と、移動用置き台71を上昇降下及び上下動させる昇降機構72とを備える。昇降機構72は、上下方向に延びるガイドレール73及びアーム74と、ガイドレール73を上下移動させてアーム74を昇降させる昇降駆動部75とを有し、回転機構70においてガイドレール73が上下移動可能に取り付けられている。図5に示すように、移動用置き台71は、昇降機構72のアーム74に設けられた基台76に対し垂直に立設したパイプ状の支柱77と、支柱77に対し上下移動可能に支柱77の上部に設けたホイール載置部8とを備える。ホイール載置部8は、アルミホイール5を水平にして且つ意匠面を上に向けた状態に配置させる。従って、昇降機構72によって、移動用置き台を降下させることでアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2中に沈降させ(沈降ステップ)、処理水槽2中で移動用置き台を上下動させることでアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2中にて上下搖動させ(搖動ステップ)、移動用置き台を上昇させることでアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2から引き上げる(引き上げステップ)という一連の動作が順に行われる。本実施形態では、複数の処理槽移載装置7が各処理水槽2毎に対応して配置されるので、各処理水槽2での適切な処理時間を独立して設定することができる。
【0018】
また、ホイール載置部8は、支柱77に挿通した筒部81と、筒部81の上部に設けたテーパーコーン部82とを有し、支柱77の内部に配設するコイルバネ83(付勢手段)によって常時上方へ付勢するように支柱77に取り付けられている。テーパーコーン部82は、下方ほど外径が拡径されたテーパー形状を有し、このテーパーコーン部82にアルミホイール5のセンター孔56を配置させることで、アルミホイール5は半径方向に位置決めされる。アルミホイール5をテーパーコーン部82に載せるとコイルバネ83の圧縮によってアルミホイール5は所定の高さ位置に配置され、また、アルミホイール5をテーパーコーン部82に載せる際や移動時などの衝撃はコイルバネ83によって吸収される。
【0019】
テーパーコーン部82には、アルミホイール5のセンター孔56に処理液が溜まらないようにするため下方に延びる水抜き溝84が設けられている。これにより、アルミホイール5の処理水槽2間移動時においても、各処理水槽2の処理液の持ち出しを最小に抑えることができる。
【0020】
また、テーパーコーン部82の上端部には、アルミホイール5のセンター孔56に挿通させるロッド85が立設されている。このロッド85により、アルミホイール5のセンター孔56をテーパーコーン部82に配置させる際にガイドすることができる。また、ロッド85により、移送時・昇降時にテーパーコーン部82に載せたアルミホイール5が位置ずれしても受け止めて落下を防止することができ、また、処理水槽2中でアルミホイール5がテーパーコーン部82から離脱しないように受け止めることができる。従って、浸漬工程中においてテーパーコーン部82とロッド85とによってアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態の姿勢を良好に保つことができる。
【0021】
ワークのアルミホイール5は、搬送ロボット11により、第1のロータリー設備61、第2のロータリー設備62、第3のロータリー設備63の順に搬送され、各処理が施される。浸漬工程の最終処理を行う第3のロータリー設備63では、各処理水槽2の液温が室温以上(例えば、40℃以上)に加温されている。これにより、アルミホイール5は、第3のロータリー設備63の処理水槽2に浸漬させることで加温されるので、浸漬工程終了後しばらくの間は自熱を持った状態となって乾燥装置3に送られる。この場合、例えば、化成処理の処理水槽2の液温を45℃、次の水洗の処理水槽2の液温を50℃、その次の水洗の処理水槽2の液温を55℃、最終の水洗の処理水槽2の液温を60℃のように、下流側ほど高くなるように設定することで、アルミホイール5を段階的に効率よく加温することができる。なお、アルミホイール5が浸漬工程終了後しばらくの間は自熱を持った状態となる限り、第3のロータリー設備63の最終の処理水槽2(水洗)以外は常温であってもよい。
【0022】
図6に示すように、乾燥装置3は、回転水切り装置31と、エアー噴射装置32とを備える。回転水切り装置31は、アルミホイール5のハブ締結部54を保持する回転ポスト33と、回転ポスト33を回転駆動する回転駆動部34とを有する。この回転水切り装置31により、アルミホイール5のハブ締結部54を回転ポスト33に取り付け、アルミホイール5を意匠面を上に向けて水平状態に保持して水平方向に回転させることで、アルミホイール5表面に存残する処理液(洗浄水)が回転水切りされる。回転水切り装置31によるアルミホイール5の回転数は、例えば、80~100rpm程度に設定することができる。
【0023】
エアー噴射装置32は、乾燥用エアーを噴射するエアーノズル35と、エアーノズル35を移動させる移動機構36とを有する。このエアー噴射装置32により、エアーノズル35を回転ポスト33に取り付けたアルミホイール5の意匠面に接近させてアルミホイール5の内径から外径に向けて移動させながら乾燥用エアーを噴射することで、アルミホイール5の意匠面に存残する処理液(洗浄水)が外方へ吹き飛ばされる。エアー噴射装置32のエアーノズル35でのエアー圧は、例えば、0.5MPa程度に設定することができる。
【0024】
以上より、この乾燥装置3での回転水切りとエアー噴射により、第3のロータリー設備63から自熱を有した状態で搬出されたアルミホイール5を自熱による乾燥に加えて強制乾燥させることができる。
【0025】
図3を参照して、前記構成の表面処理設備1により、上流位置の搬送コンベア4aから搬入された塗装前のアルミホイール5は、搬送ロボット11によって、第1、第2、第3の各ロータリー設備6に順に搬送されて浸漬工程が行われる。第1のロータリー設備61で脱脂、水洗の処理が施され、第2のロータリー設備62で酸洗、水洗の処理が施され、第3のロータリー設備63で化成処理、水洗の処理が施され、浸漬工程を終了する。第3のロータリー設備63で最終の化成処理を終えたアルミホイール5は、搬送ロボット11によって、乾燥装置3に搬送されて乾燥工程が行われる。そして、乾燥工程を終えたアルミホイール5は、搬送ロボット11によって、下流位置の搬送コンベア4bに搬送され、塗装工程へと送られる。
【0026】
図4図5を参照して、前記浸漬工程は、アルミホイール5を水平にして且つ意匠面を上に向けた状態でアルミホイール5を処理槽移載装置7に具備する移動用置き台71に載せて、処理槽移載装置7によって、移載させて処理水槽2上に配置する配置ステップと、移動用置き台71を降下させてアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2中に沈める沈降ステップと、処理水槽2中で移動用置き台71を上下動させてアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2中にて上下揺動する搖動ステップと、移動用置き台71を上昇させてアルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽2から引き上げる引き上げステップとが順に実行される(図1参照。)。
【0027】
図6を参照して、前記乾燥工程は、第3のロータリー設備63で加温された状態のアルミホイール5を搬出後直ちに回転水切り装置31にて意匠面を上に向けて水平に保持して水平方向に回転させて水切りを行うと同時に、回転するアルミホイール5の意匠面に対して、エアー噴射装置32によりエアーノズル35を接近させてアルミホイール5の内径から外径に向けて移動させながら乾燥用エアーを噴射することで、アルミホイール5の自熱による乾燥に加えて強制乾燥させる。
【0028】
以上のように、浸漬工程では、アルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態に維持して、沈降ステップから引き上げステップまでの一連のステップを実行することで、意匠面の各部位における浸漬時間は差が生じ難く、意匠面の各部位に対する処理液の反応時間に大きな差が生じないようにすることができる。搖動ステップでは、アルミホイール5を水平且つ意匠面を上に向けた状態で上下搖動することで、意匠面全体を処理液と対向するように移動させ、意匠面の隅々に処理液を流動接触させることができる。従って、意匠面には、第3のロータリー設備63での化成処理で形成される被膜の付着量のバラツキが抑制され、略均一な付着量を有する被膜が形成される。
【0029】
また、アルミホイール5を水平の姿勢にすることで、リム部52などのアルミホイール5の部位が意匠面の真上に配置され難くなるため、アルミホイール5を処理水槽2から搬出、移動している間や乾燥を行っている間に、アルミホイール5のリム部52などに付着した処理液が意匠面上に垂れることが防止される。アルミホイール5を水平にするとき、意匠面を下に向けた状態にすると、処理水槽2からアルミホイール5を搬出、移動している間に、下面となる意匠面に処理液がつらら状となって部分的に溜まり得るが、意匠面を上に向けた状態にすることで、意匠面上に処理液が部分的に溜まることが抑制される。従って、意匠面には、液垂れによるシミや白濁や膜厚変化などが生じることなく、正常な被膜が形成される。
【0030】
また、乾燥工程では、アルミホイール5の自熱による自然乾燥に加え、回転水切り装置31による回転の遠心力によってアルミホイール5表面に残存する処理液(洗浄水)を水切りすると同時に、エアー噴射装置32のエアーノズル35からの乾燥用エアーの噴射によって意匠面上に残存する処理液(洗浄水)を吹き飛ばすことで、強制乾燥させる。エアーノズル35をアルミホイール5の内径から外径に向けて移動させることで、乾燥用エアーの噴射で吹き飛ばした処理液が意匠面に再び付着することなく外方へ排出することができる。従って、アルミホイール5の回転の遠心力と乾燥用エアー噴射との相乗効果で乾燥させ、さら、アルミホイール5の自熱による乾燥を伴うことで、より一層、意匠面上から処理液(洗浄水)を素早く且つきれいに除去して乾燥させることができ、また、乾燥時間を短くすることができる。よって、乾燥工程中に意匠面にシミや白濁や膜厚変化などが生じないようにすることができる。
【0031】
以上より、アルミホイール5の表面処理で形成される被膜として、意匠面における被膜付着量のバラツキが抑制され、且つ、意匠面全体に正常な被膜を形成することができる。従って、意匠面において塗装下地処理で形成される被膜の品質を向上することができ、その結果、耐食性及び塗装密着性の高い品質を有するアルミホイール5を安定生産することができる。
【0032】
本発明の効果を確かめるため、浸漬法によるアルミホイール5の化成処理(日本ペイント社製のアルサーフ320:ジルコニウムでの化成処理)において、従来の表面処理方法として、ホイール回転軸を水平に向けバルブ孔53を下にしてアルミホイール5を縦にした状態で吊り下げて処理水槽2中に浸漬させる方法では、アルミホイール5の意匠面におけるジルコニウム被膜の付着量は、ホイール上部で6.9mg/m、ホイール下部で16.2mg/mであり、被膜付着量のバラツキが大きかった。また、この従来方法では、外観観察で意匠面の所々にシミや白濁が見られた。
これに対して、上述の本発明の表面処理方法では、アルミホイール5の意匠面においてジルコニウム被膜の付着量が最も少なかった箇所で14.9mg/m、最も多かった箇所で15.3mg/mであり、被膜付着量のバラツキが非常に少なく、被膜付着量が略均一で高品質の被膜が形成されることが確認された。また、外観観察で意匠面にはシミや白濁は全く見られなかった。
【0033】
ところで、従来のように天井コンベアでアルミホイール5を連続搬送する設備では、所定の処理工程を割愛しようとする場合でも、割愛する処理工程の処理水槽2上を通ってアルミホイール5を搬送せざるを得ないから無駄な搬送時間がかかってしまう。そのため、表面処理による被膜形成の品質に悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0034】
これに対して、実施形態における表面処理設備1のように、ロータリー設備6を複数設置することで、特定のロータリー設備6を通さずにアルミホイール5を搬送する工程飛ばし(図3中、点線矢印を参照。)を行うことが可能であり、無駄な搬送時間をかけずに必要に応じて所定の処理工程を簡単に割愛することができる。本実施形態の表面処理設備1では、例えば、第1のロータリー設備61から搬出されるアルミホイール5を、第2のロータリー設備62には搬入させずに第2のロータリー設備62に隣接する中継部12に送り、この中継部12から第3のロータリー設備63に搬入させることで、第2のロータリー設備62での酸洗の処理工程を割愛することができる。従って、アルミホイール5の形状や種類などの特徴に合わせて必要な処理工程を効率よく実施することができ、アルミホイール5の特徴に対応して、表面処理による被膜形成の品質を良好に保つことができる。
【0035】
なお、本発明は、前記実施形態のみに限定されず、特許請求の範囲内で様々な変更を行うことが可能である。
例えば、第1~第3のロータリー設備6での処理水槽2の数は、任意の数に設置することができ、また、脱脂、酸洗、化成処理、水洗の各処理の回数も任意に設定することができる。
また、本発明の方法は、複数の処理水槽2を円周状に配設するロータリー設備6とするものに限らず、ライン状に並べたライン設備としてもよい。
アルミホイール5の搬送手段も搬送ロボット11を用いることに限らず、天井コンベアで吊り下げて搬送する手段としてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 表面処理設備
2 処理水槽
3 乾燥装置
4a,4b 搬送コンベア
5 アルミホイール
6 ロータリー設備
7 処理槽移載装置
8 ホイール載置部
9 受け渡し場所
11 搬送ロボット
12 中継部
31 回転水切り装置
32 エアー噴射装置
33 回転ポスト
34 回転駆動部
35 エアーノズル
36 移動機構
51 ディスク部
52 リム部
53 バルブ孔
54 ハブ締結部
55 スポーク部
56 センター孔
57 ボルト孔
61 第1のロータリー設備
62 第2のロータリー設備
63 第3のロータリー設備
70 回転機構
71 移動用置き台
72 昇降機構
73 ガイドレール
74 アーム
75 昇降駆動部
76 基台
77 支柱
81 筒部
82 テーパーコーン部
83 コイルバネ
84 水抜き溝
85 ロッド
【要約】
【課題】アルミホイールの塗装下地処理における被膜付着量のバラツキが抑制され良好な品質の被膜を安定して形成する表面処理方法を提供する。
【解決手段】浸漬工程は、アルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で移動用置き台に載せて処理槽移載装置により処理水槽上に配置し、移動用置き台を降下させてアルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽中に沈め、処理水槽中で移動用置き台を上下動させてアルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽中にて上下揺動し、移動用置き台を上昇させてアルミホイールを水平且つ意匠面を上に向けた状態で処理水槽から引き上げる各ステップを有する。乾燥工程は、アルミホイールを液温が室温よりも高く加温された最終の処理水槽から搬出後直ちに回転水切り装置にて水平に保持して水平方向に回転させて水切りを行うことでアルミホイールの自熱に加えて強制乾燥させる。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6