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特許7220021水素化熱分解プロセスの制御のための共処理及びその生成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】水素化熱分解プロセスの制御のための共処理及びその生成物
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/06 20060101AFI20230202BHJP
   C10G 3/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C10G1/06 D
C10G3/00 Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2017555397
(86)(22)【出願日】2016-04-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 US2016029445
(87)【国際公開番号】W WO2016176255
(87)【国際公開日】2016-11-03
【審査請求日】2019-02-26
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】14/696,632
(32)【優先日】2015-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591002016
【氏名又は名称】ガス、テクノロジー、インスティチュート
【氏名又は名称原語表記】GAS TECHNOLOGY INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】リンク、マーティン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】マーカー、テリー エル.
(72)【発明者】
【氏名】ロバート、マイケル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス、ラリー ジー.
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】門前 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-177631(JP,A)
【文献】国際公開第2014/055527(WO,A1)
【文献】特表2014-515055(JP,A)
【文献】特開2013-170224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0204054(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素生成物を生成するためのプロセスであって、
a)水素及び脱酸素化触媒を含み、7barg(102psig)~55barg(798psig)の水素分圧で作動する水素化熱分解反応容器において、バイオマス含有供給原料を水素化熱分解して、少なくとも1つの非凝縮性ガス、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物、及びチャー粒子を含む水素化熱分解反応器生産物を生成することと、
b)水素化転化触媒を含有する少なくとも1つの水素化転化反応容器を含む水素化転化反応ゾーンにおいて、前記部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の少なくとも一部を水素化転化して、水素化転化反応器生産物を生成することと、
c)前記水素化転化反応器生産物から実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体及びガス混合物を回収することと、を含み、
前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の特性が、前記水素化熱分解反応容器において、別の供給原料としての酸素含有プラスチックを共処理するおかげで改善
前記酸素含有プラスチックが、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアミドを含み、且つ、前記特性が(i)前記脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の改善したセタン価、(ii)前記脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の改善した収量、もしくは(iii)前記脱酸素化された炭化水素液体のジェット燃料沸点範囲留分の改善した収量である、又は、
前記酸素含有プラスチックが、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートを含み、且つ、前記特性が(i)前記脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の改善したオクタン価、もしくは(ii)前記脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の改善した収量である、
プロセス。
【請求項2】
前記酸素含有プラスチックが、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアミドを含み、且つ、前記酸素含有プラスチックの供給速度が、前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の収量もしくはセタン価の測定された減少または所望の増大に応じて増大される、または、前記酸素含有プラスチックの供給速度が、前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の収量もしくはセタン価の測定された増大または所望の減少に応じて減少される、または、
前記酸素含有プラスチックが、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートを含み、且つ、前記酸素含有プラスチックの供給速度が、前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の収量もしくはオクタン価の測定された減少または所望の増大に応じて増大される、または、前記酸素含有プラスチックの供給速度が、前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の収量もしくはオクタン価の測定された増大または所望の減少に応じて減少される、プロセスであって、
水素化熱分解反応容器の触媒インベントリーの重量によって分割されるバイオマス含有供給原料及び酸素含有プラスチックの組み合わされた重量流量として計算される、水素化熱分解反応器の重量毎時空間速度(WHSV)が、0.1hr-1~10hr-1である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記酸素含有プラスチックが、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアミドを含み、且つ、前記特性が、前記脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の改善したセタン価である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記酸素含有プラスチックが、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアミドを含み、且つ、前記特性が、前記脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の改善した収量である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記酸素含有プラスチックが、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアミドを含み、且つ、前記特性が、前記脱酸素化された炭化水素液体のジェット燃料沸点範囲留分の改善した収量である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記酸素含有プラスチックが、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートを含み、且つ、前記特性が、前記脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の改善したオクタン価である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項7】
前記酸素含有プラスチックが、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートを含み、且つ、前記特性が、前記脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の改善した収量である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項8】
前記水素化熱分解反応容器が流動床反応器であり、前記水素化転化反応容器が固定床反応器であり、水素化転化ステップ(b)の前に前記部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物からチャー粒子が除去される、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
水素化転化ステップ(b)の前に前記水素化転化触媒の毒が前記チャー粒子において除去される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記酸素含有プラスチックが、ポリ(メチルメタクリレート)またはポリアミドを含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項11】
前記酸素含有プラスチックの供給速度が、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の収量もしくはセタン価の測定された減少または所望の増大に応じて増大される、または、前記酸素含有プラスチックの供給速度が、前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の収量もしくはセタン価の測定された増大または所望の減少に応じて減少される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記酸素含有プラスチックが、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項13】
前記酸素含有プラスチックの供給速度が、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の収量もしくはオクタン価の測定された減少または所望の増大に応じて増大される、または、前記酸素含有プラスチックの供給速度が、前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の収量もしくはオクタン価の測定された増大または所望の減少に応じて減少される、請求項12に記載のプロセス
【請求項14】
記水素分圧が、13.8barg(200psig)~34.5barg(500psig)である、請求項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記脱酸素化触媒が、耐火性無機酸化物を含む担持材料上の少なくとも1つのVIII族金属および少なくとも1つのVI族金属を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記酸素含有プラスチックが、都市固形廃棄物(MSW)中に存在する、請求項1~1のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
固体の前記バイオマス含有供給原料が、木材を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ガス混合物の少なくとも一部を水蒸気改質し、改質した水素を生成することをさらに含む、請求項1~1のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記改質した水素の少なくとも一部を水素化熱分解反応容器にリサイクルすることをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
前記実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体が、2重量%未満の全酸素含有量を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記水素化転化反応器からの水相水素化転化生成物を凝縮することをさらに含む、請求項1~2のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記水素化転化反応ゾーンが、水素化異性化反応容器をさらに含む、請求項1~2のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年4月27日に出願された米国出願番号第14/696,632号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は、その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、水素化熱分解プロセスで回収された実質的に完全に脱酸素化された炭化水素生成物の特性を含む、水素化熱分解生成物の作動条件及び特性(例えば、品質及び/または収率)の調節及び/または制御を対象とする。
【背景技術】
【0003】
バイオマスの従来の熱分解、通常、不活性雰囲気下で行われる急速熱分解において、高密度で、酸性の、反応性液体バイオ油生成物が得られ、これはプロセス中に形成される、水、油、及びチャーを含有する。バイオマス中に存在する酸素の多くは、最終的にバイオ油中に存在し、これにより、その化学反応性を増加させる。従来のバイオ油の特徴的な全酸価(TAN)は100~200の範囲であり、それが非常に腐食性の材料であることを示している。その上、この生成物は、重合されやすく、一般に、水混和性及び非常に高い酸素含有量(約40重量%程度)のため、石油炭化水素と非相容性であり、低発熱量を有する。従来の熱分解の不安定なバイオ油は、時間と共に増稠しやすく、親水性及び疎水性相が形成される点まで反応することもある。その結果、この生成物の輸送及び利用は、問題を含む。また、通常、急速熱分解を含む、従来の熱分解プロセスにおいて生じる、逆行性反応により、この生成物を液体炭化水素燃料にアップグレードすることは、困難である。メタノールまたは他のアルコールによる希釈は、形成されたバイオ油の活性及び粘度を低下させることが示されているが、この手法は、熱分解液体を安定させるために必要とされる大量の回収不能なアルコールのため、実用的または経済的に現実的であるとみなされない。
【0004】
従来の熱分解によって生成される、チャーのそれがまだ蒸気相中にある間の液体熱分解生成物からの除去は、さらなる技術的な課題を提示する。熱分解蒸気中の大幅な量の酸素及びフリーラジカルは、高反応性のままであり、フィルタまたは他の固体分離器の表面上のチャー粒子と接触すると、ピッチ様物質を形成する。したがって、高温熱分解蒸気からチャーを分離するために使用される装置は、そのような装置の表面上のチャーの層上及びその中、ならびに多孔性フィルタ要素の孔内で起こる、チャー及び熱分解蒸気成分の反応物により、急速に塞がれることがある。最終的に、従来の水素化転化プロセスを使用して、熱分解油をアップグレードすることが、大量のHを消費し、生成物の品質要件を満たすのに必要な高水素圧を含む、極度のプロセス条件が、そのようなプロセスを不経済にすることに留意すべきである。この反応は、必要とされる高圧のため、過剰なHが消費されると同時に過剰な水が生成されるという点で本質的に不均衡である。加えて、従来の水素化転化反応器は、熱分解油中に存在する、または触媒作用の結果として生成されるコークスからの反応性コークス前駆体により、高差圧を急速に引き起こすことがある。
【0005】
近年、バイオマス熱分解(すなわち、水素化熱分解)における水素の使用が開示されている。例えば、米国特許第8,492,600号に教示される水素化熱分解プロセスは、上述のものを含む、従来の急速熱分解プロセスの多くの欠点を解決し、多くの他の処理上の利点をもたらすことが見出されている。これらの及び他の改良にもかかわらず、水素化熱分解においてリグノセルロース系バイオマスなどの所定の供給原料を使用すると、所定の用途(例えば、芳香族の豊富な再生可能なガソリン留分またはブレンド成分の生成において)に主に好適であり得、他(例えば、高セタン、再生可能なディーゼル留分、またはブレンド成分の生成において)には好適ではない脱酸素化後の定義された炭化水素の分布がもたらされる。しかしながら、水素化熱分解の技術は、様々な収率及び組成で所望の生成物品質の特質(例えば、ディーゼル沸点範囲留分の場合の低温流動特性またはガソリン沸点範囲留分の場合のオクタン価)を有する炭化水素含有生成物留分を提供するという観点から柔軟性を可能にする処理オプションから大幅に利益を得るであろう。そのような処理オプションは、再生可能な燃料の技術における変化する最終生成物の需要を満たすために必要に応じて適応され得、それにより全体的な価値及びプロセスの経済性を最大化する。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に開示される実施形態は、変化する顧客の要件及び/または全体の市場需要に応じて、作動条件及び/または生成物特性の改善を可能とするために、少なくとも1種のバイオ再生可能供給原料、すなわち、バイオマス含有供給原料を含む異なる種類の供給原料が共処理され得る水素化熱分解プロセスの発見に関連する。特定の実施形態によれば、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体が、バイオマス含有供給原料と共処理されて、水素化熱分解プロセスの作動条件を改善する。代表的な作動条件は、水素化熱分解反応器における、または水素化熱分解反応器の部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の実質的に完全な脱酸素化のための水素化転化ゾーンにおいて使用される下流の水素化転化反応器における反応器温度プロファイルを含む。他の特定の実施形態によれば、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体はバイオマス含有供給原料と共処理され、定義された沸点範囲(例えば、ディーゼル沸点範囲留分またはガソリン沸点範囲留分)を有する脱酸素化された炭化水素液体の所与の留分の収率などの生成物特性を改善する。
【0007】
作動条件または生成物特性における「改善」は、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体を共処理しない場合に得られる同じ作動条件または生成物特性と比較した作動条件または生成物特性の差異または変化を指し、その差異または変化は所望の作動目的(例えば、水素化転化反応ゾーンから回収された実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の所与の沸点範囲留分の増大した収量または増大した品質)を達成するのに指向的に好都合である。
【0008】
多様な再生可能な供給原料及び非再生可能な供給原料の両方のバイオマス含有供給原料との共処理は、統合された水素化熱分解プロセスにおいて以下により十分に記載される数多くの利点を提供する。特定の利点には、従来の熱分解を使用して得ることはできず、かつ実際に熱分解における最新技術の知見から予見及び/または予測することができなかったものが含まれる。そのような利点は、(i)水素化熱分解反応器において所定の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体(例えば、固体を含むもの)を処理することによって、しばしばバイオマス含有供給原料との作動的相乗効果を達成する手法で水素化転化ゾーンの上流でこれらの供給原料をアップグレードする能力、(ii)従来の熱分解油(バイオ油)のそれよりも大幅に少ない酸素含有量を有する、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物との組み合わせからもたらされる組み合わされた供給原料の酸素含有量の減少を伴って、水素化転化反応器における所定の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体を処理して、水素化転化反応器における反応器温度上昇及び最大触媒床温度を低下させ、水素化転化触媒の寿命を延ばす能力、(iii)例えば、トリグリセリドのグリセロール骨格の水素化脱酸素化反応生成物として発生するプロパンの水蒸気改質によって水素生成を促進することにより、水素化熱分解反応器、下流の水素化転化反応ゾーン、またはその両方の全体の水素必要量を少なくとも部分的に満たすための所定の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体の能力に関する。
【0009】
本開示の上記の及び他の態様、特徴、及び利点は、添付の図面と併せて読まれる、その例証された実施形態の以下の詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示の例示的実施形態のより完全な理解及びその利点は、添付の図面を考慮して以下の説明を参照することによって得ることができ、それらの図において、同じ参照番号、または下2桁が同じである参照番号は、同様の特徴を示す。
【0011】
図1】本開示の一実施形態による、バイオマスの共処理から液体燃料を生成するための水素化熱分解プロセスの概略フロー図である。
図2】本開示の別の実施形態による、バイオマスの共処理から液体燃料を生成するための水素化熱分解プロセスの概略フロー図である。
図3】本開示のさらに別の実施形態による、バイオマスの共処理から液体燃料を生成するための水素化熱分解プロセスの概略フロー図である。
図4】本明細書に記載の水素化熱分解プロセスにおいて、共処理のための供給原料を取り扱うための可能な方法を図説している。
図5】本明細書に記載のバイオマス含有供給原料または共供給物を前処理するための代表的な前反応器を図示している。
【0012】
図1~5は、本発明及び/または関係する原理の例証を提示するために理解されるべきである。説明及び理解を容易にするために、簡略化されたプロセスフロースキームが使用される。ポンプ、加熱器及びいくつかの熱交換器、バルブ、計測器、ならびに本開示の理解にとって必須ではない他の品目を含む詳細は、示されていない。本開示の知識を有する当業者には容易に明らかであるように、供給原料の共処理を含む本開示の様々な他の実施形態による水素化処理されたバイオ燃料を提供するための方法は、部分的に、得られた液体生成物及び/または使用された特定のバイオマス含有供給原料もしくは共供給物の所望の特性によって決定される構成及び成分を有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の態様は、バイオマスの水素化熱分解に使用される、温度、全圧、水素分圧、触媒の種類、及び固体粒子床流動化を含む、水素化熱分解反応容器に存在する条件下で、多様な再生可能及び非再生可能の両方の供給原料を共処理する能力に関連する特定の予期されない利点を利用する。バイオマス含有供給原料の水素化脱酸素化を促進する上昇した水素分圧及び脱酸素化触媒の使用から利益が得られない従来の熱分解とは異なり、例示的な水素化熱分解反応容器及び関連する条件により、本明細書に記載の脂肪族炭化水素前駆体及び/または芳香族炭化水素前駆体の共処理をして、これらの成分(すなわち、共供給物)を脱酸素化によってアップグレードすることが可能となる。
【0014】
いくつかの場合では、特定の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体が水素化熱分解応器容器に導入される場所及び/または手法に応じて、例えば、局所的または全体的な反応器温度制御の観点から、作動上の相乗効果が達成され得る。他の場合では、従来の熱分解によって有益に変換することができず、実際にはこの作動に有害である脂肪族炭化水素前駆体及び/または芳香族炭化水素前駆体は、水素化熱分解反応容器において、それらを後続の水素化転化ゾーンにおける処理にとって好適なものとする手法で、効果的にアップグレードされ得る。この目的のためにしばしば使用される固定床水素化転化反応器は、望ましく共処理されるであろういくつかの供給原料に存在する固体を一般に許容することができない。そのような供給原料の例は、代表的な脂肪族(パラフィン系)炭化水素前駆体でもある褐色グリースである。まず、褐色グリースまたは他の固体含有供給原料を流動床において水素化熱分解に供することにより、固体粒子は効果的に変換され(例えば、脱揮発され)、次いでバイオマス含有供給原料から形成されたチャーと共に除去され得、それは一般にそれ自体で固体粒子形態で水素化熱分解反応器に導入される。所与の共供給物中の固体微粒子の物理的特性(例えば、サイズ及び密度)に依存して、それらはチャーと共に溶出しないかもしれないが、代わりに水素化熱分解反応器において流動粒子床内に残存する。この場合、固体微粒子の蓄積は、新しい脱酸素化触媒に交換され得る使用済みの脱酸素化触媒(固体微粒子の一部を含有する)の取り出し速度を変化させることによって効果的に管理され得る。固体汚染物質が溶出しているか否かにかかわらず、水素化転化反応器の上流でのそれらの除去は、この反応器において詰まりの危険性を著しく減少させるか、または排除することさえし得る。
【0015】
固体を含有する脂肪族炭化水素前駆体及び/または芳香族炭化水素前駆体に関して上述した同じ利点は、主に固体の形態であるために、固定床水素化転化反応器への直接導入には好適ではないそのような供給原料にも適用される。代表的な固体の脂肪族炭化水素前駆体は、固体の(例えば、乾燥及び顆粒化された)藻類である。代表的な固体の芳香族炭化水素前駆体は、固体の(例えば、乾燥及び顆粒化された)リグニンである。
【0016】
同様に、水素化転化触媒は、アルカリ及びアルカリ土類金属を含む金属、ハロゲン化化合物(例えば、塩化物含有化合物)ならびにリン(これらは全てそのような触媒の可逆的または不可逆的毒として作用し得る)などの本明細書に記載の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体中に存在し得る数多くの汚染物質に耐えることができない。脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体の品質を改良するために、許容できない高速の触媒活性損失を伴わずにそれらが水素化転化触媒の存在下で効果的に脱酸素化され得るように、数多くの前処理ステップが可能である。そのような前処理ステップは、例えば、(i)例示的な芳香族炭化水素前駆体であるトール油を蒸留して、ピッチを除去することにより脱ピッチされたトール油を提供すること、(ii)例示的な脂肪族炭化水素前駆体であるキャノーラ油などの植物油をアルカリ精製して、金属及び半金属、例えばリンを除去すること、(iii)非再生可能(例えば、石油由来の)留分を含む他の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体の濾過、ガード床処理、及び/または洗浄を含み得る。
【0017】
そのため、例示的な実施形態では、所定の共供給物、例えば全金属含有量、またはアルカリもしくはアルカリ土類金属含有量が10重量ppmを超える(及びいくつかの場合では100重量ppmを超える)ものを固定床水素化転化反応容器に導入する前に通常は必要とされるであろう前処理は、それらを水素化熱分解反応器に先に導入することによって有利に回避され得る。この反応器を使用すると、そうでなければ水素化転化触媒に有害であろう種の含有量は、例えば、水素化熱分解反応容器中に存在する脱酸素化触媒及び/またはチャー粒子上に、またはこれらの有害な種の吸着に選択的である固体スカベンジャー上にこれらの種を優先的に吸着させることによって、大幅に低減され得る。次いで金属及び/または他の不要な汚染物質の除去は、その後水素化転化ゾーンに送られる部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物からチャー及び/または使用済み触媒を分離することによって達成される。すなわち、これらの種は、所与の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体中に存在し得る固体の汚染物質に関して上述したのと同じ手法で除去され得る。これらの共供給物の任意の汚染物質が脱酸素化触媒の毒として作用し得る範囲で、水素化熱分解反応容器の流動床の作動は、そのような汚染物質の効果的な管理を可能にする。特に、水素化熱分解反応容器に含有される流動触媒床への新しい脱酸素化触媒の供給速度及びその流動触媒床からの使用済み脱酸素化触媒の取り出しの両方が、供給(添加)及び取り出し速度のこれらの上昇がなく、上昇した不活性化速度を示すであろう増加したレベルの汚染物質に応えて容易に上昇し得る。
【0018】
さらなる実施形態では、特に、1つ以上の点で、例えば、黒液として知られているクラフトまたは硫酸塩処理の副生成物の場合の過剰量の脱酸素化触媒毒の存在の点で低品質である脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体の場合、この供給原料は、前処理された脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体を水素化熱分解反応容器に導入する前に、前処理反応器において前処理(例えば、脱揮発)に供され得る。
【0019】
本開示の他の態様は、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体を、水素化熱分解反応器の下流の水素化転化反応器に導入することによって共処理することに関連する特定の予期されない利点を利用し、従来の熱分解プロセスが下流の水素化処理ステップと併せて実施されるか否かにかかわらず、そのような従来のプロセスでは実現されない利益を得る。この点に関して、水素化熱分解と従来の熱分解との間の重要な区別は、それぞれの水素化熱分解反応または熱分解反応容器の部分的に脱酸素化された生成物において達成される酸素除去の程度にある。例えば、水素化熱分解反応容器からの生産物の凝縮性液体留分を表す部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物は、従来の熱分解油(バイオ油)の場合の30~40重量%と比較して、約15重量%未満の全酸素含有量を有し得る。そのような部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物を水素化転化反応ゾーン(例えば、固定床水素化転化反応器を含む)でさらに処理すると、最終生成物としての炭化水素の生成におけるさらなる脱酸素化の必要性が大幅に低減され得る。これにより、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物と比較して(但し、従来の熱分解油とは比較しない)より高い酸素含有量を有する他の供給原料との部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の共処理が有利に可能となる。例えば、トリグリセリド含有成分は、典型的には、25重量%もの高い全酸素含有量を有する。この成分を部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物と共処理することにより、共処理された供給原料の全体の全酸素含有量は、トリグリセリド含有成分の全酸素含有量と比較して減少し得る(従来の熱分解油との共処理の場合にはむしろ増大する)。重要なことに、これは、他の処理変数が一定に維持されると仮定して、所与の水素化転化反応器(完全な脱酸素化を達成するために使用される)における水素化転化反応の発熱及び対応する断熱温度上昇を低減する。
【0020】
他の言い方をすれば、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物は、有利には、トリグリセリド含有成分または他の脂肪族炭化水素前駆体の水素化転化から放出された熱の少なくとも一部を吸収するためのヒートシンクとして作用する。対照的に、同じ条件下での従来の熱分解油のトリグリセリド成分との共処理は、平均及び最大触媒温度を上昇させる(低下させない)であろう。そのため、本開示から当業者は、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の水素化転化ゾーンにおけるトリグリセリド含有成分との共処理は、有害なコークスの生成速度を低下させ得、それにより水素化転化触媒の寿命を延ばし、現在の最先端の知識に基づいて予測することができなかったような手法で全体のプロセスの経済性を改良することを理解し得る。
【0021】
その上、水素化熱分解反応器における上昇した水素分圧環境は、他の重要な点において、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の品質を改良する。従来の熱分解油(バイオ油)と比較して減少した酸素含有量に加えて、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物は、窒素含有化合物のアンモニア(NH)への水素化からもたらされるより低い窒素含有量を有し得る。比較として、従来の熱分解では大幅な程度には起こらない水素化反応の結果、この生成物は、有機酸の比較的低い含有量及びより高い含有量の完全に脱酸素化された炭化水素に起因して化学的反応性がより低いものとなり得る。部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物のこれらの特性は全て、作動の厳しさ(例えば、温度及び/または水素分圧)を低下させること、及び、高い発熱の脱酸素化及び脱窒反応の結果としての熱の除去の必要性の観点から、下流の水素化転化反応器において処理されるその能力を改良する。
【0022】
本開示のまたさらなる態様は、水素が少なくとも2つの反応段階(例えば、水素化熱分解反応器及び水素化転化反応器の両方で)で消費される本明細書に記載の統合された水素化熱分解プロセスの全体的な水素必要量を満たすという観点から、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体を共処理する特定の予期されない利点を利用する。例えば、特定の実施形態では、脂肪族炭化水素前駆体は、水素化脱酸素化(例えば、水素化熱分解及び/または水素化転化ステップ)に供すると、トリグリセリドのグリセロール骨格を脱酸素化する結果としてプロパンを生じさせるトリグリセリド含有成分(例えば、野菜油または動物性脂肪)である。この手法で生成されたプロパンの一部、全て、または実質的に全ては、水素化転化ゾーン(例えば、このゾーンにおける水素化転化反応器)の生産物から、非凝縮性ガスを含むガス混合物に回収され得る。次いでこのプロパンは、今度は、例えば、このプロパンをガス混合物中の他のガスと一緒に本明細書に記載の水蒸気改質に供することによって、水素化熱分解反応器、水素化転化ゾーン、またはその両方のための水素源として使用され得る。
【0023】
熱分解プロセスの概要
水素化熱分解プロセスは、水素及び脱酸素化触媒を含有する水素化熱分解反応容器において起こる水素化熱分解ステップを含む。本明細書に記載されているように、水素化熱分解は、一般に、水素、バイオマス含有供給原料、及び任意に共供給物を、高い温度及び圧力下で作動し、かつ脱酸素化触媒を(例えば、流動床として)含有する水素化熱分解反応容器に供給することを含む。少なくとも1つの非凝縮性ガス(例えば、CO、CO、及び/またはCH)、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物、及びチャー粒子を含む水素化熱分解反応器生産物が生成される。代表的なプロセスは、任意にチャー粒子を除去した後(例えば、それからのそれらの溶出に続いて水素化熱分解反応容器の外部に)、水素化転化触媒を(例えば、固定床として)含有する少なくとも1つの水素化転化反応容器を含む水素化転化ゾーンにおいて部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の少なくとも一部を水素化転化することをさらに含む。水素化熱分解反応容器に導入する代わりに、またはそれと組み合わせて、共供給物が水素化転化反応容器に任意に導入され得る。いずれの場合でも、水素化転化反応器生産物が生成され、その生産物から実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体及びガス混合物が回収され得る。
【0024】
実質的に完全に脱酸素化された液体の留分として(例えば、分留によって)様々な液体生成物が得られ得る。そのような液体生成物、及び実質的に完全に脱酸素化された液体それ自体は、バイオマス含有供給原料よりも(例えば、重量ベースで)高価値を有する範囲で、水素化熱分解プロセスから発生する「より高価値の液体」と称され得る。代表的なより高価値の液体としては、個々の化合物(例えば、レボグルコサン)、化合物群(例えば、芳香族炭化水素)、及び特定の目的に好適な化合物の混合物(例えば、輸送燃料としての使用にあるいはそのような燃料にブレンドするのに好適なガソリン、ディーゼル、またはジェット燃料沸点範囲炭化水素)が挙げられる。
【0025】
バイオマス及びバイオマス含有供給原料
「バイオマス」は、任意の種類の木材または紙生成物を含む、任意の固体植物材料またはそのような植物材料の混合物を指す。代表的な木材としては、硬材(例えば、白色木材)、軟材、または硬材もしくは軟材の樹皮が挙げられる。また、エネルギー作物、または農業残渣(例えば、伐採残渣)もしくは他の種類の植物廃棄物もしくは植物由来の廃棄物を植物材料として使用してもよい。特定の例示的な植物材料としては、「意図的な」エネルギー作物、例えばスイッチグラス及びススキに加えて、コーンファイバー、コーンストーバー、トウゴマ豆茎、サトウキビバガス、及びモロコシが挙げられる。短輪作森林生成物、例えばエネルギー作物としては、ハンノキ、灰、南ブナ、カバノキ、ユーカリ、ポプラ、ヤナギ、カジノキ、オーストラリアブラックウッド、スズカケノキ、及びウスバギリの変種が挙げられる。好適なバイオマスの他の例としては、炭水化物(例えば、糖)、有機性廃棄物材料、例えば廃棄紙、建設、解体廃棄物、及びバイオスラッジが挙げられる。
【0026】
「バイオマス含有」供給原料は、上記で定義した全てのまたは実質的に全てのバイオマスを含み得るが、一方で、非生物学的材料(例えば、プラスチックなどの石油由来の材料、またはガラスを含む、金属及び金属酸化物などの地球から抽出される鉱物由来の材料)を大幅な量で(例えば、少なくとも約5重量%、例えば、約5重量%~約55重量%、または少なくとも約25重量%、例えば、約25重量%~約45重量%)含有し得る。1種以上の非生物学的材料を含み得る「バイオマス含有」供給原料の例は、都市固形廃棄物(MSW)である。
【0027】
共供給物としての脂肪族炭化水素前駆体
代表的な実施形態では、脂肪族炭化水素前駆体は、この別の供給原料(または共供給物)を水素化熱分解反応容器、水素化転化反応容器、またはその両方に導入することによって上述の水素化熱分解プロセスにおいて共処理され、上述したように、これらの反応器の一方または両方の作動条件を改善し、及び/または水素化転化反応器から回収される完全に脱酸素化された炭化水素液体の特性を改善する。
【0028】
「脂肪族炭化水素前駆体」は、上記で定義されているように、バイオマス含有供給原料以外の供給原料であるが、脂肪族炭化水素前駆体は、それ自体が、(鉱物または石油系ではなく)生物起源のものであり得、及び/またはバイオマス源と考えられ得る。脂肪族炭化水素前駆体は、水素化熱分解反応容器及び/または水素化転化反応ゾーンにおいて処理に供されると、プロセスに導入される脂肪族炭化水素前駆体の重量を基準として、芳香族炭化水素に対してより高い百分率の脂肪族(例えば、パラフィン系)炭化水素を生じさせる。以下により十分に記載されているように、脂肪族炭化水素前駆体は、脱酸素化された炭化水素液体のジェット燃料沸点範囲留分及び/またはディーゼル沸点範囲留分の収率を高めるために、及び/またはこの留分のセタン価を増大させるために、水素化熱分解反応容器または水素化転化反応容器に導入することによって共処理において特に有用である。
【0029】
代表的な脂肪族炭化水素前駆体として、トリグリセリド含有成分、例えば、天然に発生する植物(例えば、野菜)油及び動物性脂肪、またはそのような油及び脂肪の混合物(例えば、飲食店の廃油またはグリース)が挙げられる。有利には、(共供給物としての)これらの成分の多くに関連する温室効果ガス(GHG)の放出は、これらのバイオ燃料源が人間と動物の消費のために既に生成された食品の通常の廃棄物であるため、無視できると考えられる。当技術分野で理解されるように、計算されるGHG放出は、供給原料源の栽培時から(植物油の場合)これらの供給原料の処理から得られる液体生成物の最大燃焼までの及びそれを含むライフサイクル評価(LCA)に基づく。トリグリセリド含有成分は、典型的には、遊離脂肪酸及びトリグリセリドの両方を含有し、モノグリセリド及びジグリセリドのあり得る追加的な存在を伴う。トリグリセリド含有成分はまた、脂肪酸メチルエステル(FAME)及び脂肪酸エチルエステル(FAEE)を含む脂肪酸アルキルエステル(FAAE)などの化合物の誘導体群を含有するものを含み得る。
【0030】
植物油の例としては、ナタネ(キャノーラを含む)油、トウモロコシ油、セイヨウアブラナ油、クラム油、ヒマワリ油、大豆油、麻実油、オリーブ油、アマニ油、マスタード油、パーム油、ピーナッツ油、ヒマシ油、ヤシ油、ジャトロファ油、カメリナ油、綿実油、サリコニア油、グンバイナズナ油、藻類油、及び他のナッツ油、ならびにそれらの混合物が挙げられる。動物性脂肪の例としては、ラード、臓物、獣脂、鯨油、乳脂肪、魚油、下水汚泥、及び/または黄色及び褐色のグリースなどの様々な廃棄物流を含む食品産業のリサイクルされる脂肪が挙げられる。これらの動物性脂肪の1種以上とこれらの植物油の1種以上との混合物も、脂肪族炭化水素前駆体として使用され得る。典型的な植物油、動物性脂肪、またはそれらの混合物のトリグリセリド及び遊離脂肪酸は、上述のように、それらの構造中に脂肪族炭化水素鎖を含み得、これらの鎖の大部分は約8~約24個の炭素原子を有する。トリグリセリド含有成分として使用される代表的な植物油及び/または動物性脂肪は、16及び18個の炭素原子を有する脂肪族(例えば、パラフィン系またはオレフィン系)炭化水素鎖の大幅な割合(例えば、少なくとも約30%、または少なくとも約50%)を含み得る。トリグリセリド含有成分は室温で液体または固体であり得る。低い水分含有率に任意に乾燥される固体顆粒化藻類などの所定の固体脂肪族炭化水素前駆体は、水素化熱分解反応容器への直接導入のための共供給物として好適であり得る。
【0031】
粗製形態のまたは前処理された植物油及び動物性脂肪を含む代表的なトリグリセリド含有成分は、典型的には約10~12重量%の全酸素含有量を有する。上述のように、いくつかの実施形態では、水素化熱分解反応器を出る凝縮可能な部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物は、より低い酸素含有量、例えば、約10重量%未満、約5重量%未満、または約3重量%未満の酸素含有量を有し得、これにより、この生成物は、水素化転化反応器に導入されるトリグリセリド含有成分または他の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体と組み合わされた場合、全酸素の希釈剤として作用し得(すなわち、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体のそれよりも低い全酸素含有量を有する組み合わされた供給原料を提供する)、それにより水素化転化反応器内の温度上昇が低減される。結果として、触媒コークスの形成速度は有益に低下し、これは、触媒床温度を典型的には活性を維持するために上昇させなければならない場合、水素化転化触媒の寿命の終わりの頃にますます重要になる。他の実施形態によれば、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物は、例えば、より一般的には約2重量%~約30重量%の範囲、典型的には約5重量%~約25重量%の範囲であるが、しばしば15重量%未満である全酸素の他の含有量を有し得る。それにもかかわらず、これらの範囲の酸素含有量は、熱分解プロセスから得られる従来の熱分解油(バイオ油)の典型的な酸素含有量(例えば、約40重量%)よりも依然として低く、そのため、水素化転化ゾーンにおける処理の容易性(例えば、低下した断熱温度上昇)の観点から同様の利点を提供する。
【0032】
また、上述のように、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物は、水素化熱分解反応器で起こる水素化脱窒素反応の結果として、低下した全窒素の含有量を有し得るが、この含有量は水素化熱分解反応器に導入される供給原料の窒素含有量及びこの反応器における作動条件に依存する。水素の実質的な非存在下での従来の熱分解と比較して、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の低下した窒素含有量は、その低下した酸素含有量に関して上述したように、水素化転化反応器における処理のより高い容易性の観点から同様の利益を提供する。さらなる利益は、水素化転化反応器において、望ましくない副反応、例えばコークス前駆体を形成する副反応の発生を減少させる、従来のバイオ油と比較して、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物の全体的な低下した化学反応性から得られる。
【0033】
別の代表的な脂肪族炭化水素前駆体は、フィッシャー・トロプシュ(F-T)合成の生成物であり得るバイオマスから液体(Biomass to Liquid、BTL)経路の生成物である。そのような脂肪族炭化水素前駆体には、ガス化及びそれに続くF-T合成の生成物が含まれ、これらの生成物は、一般に、それらの対応物、すなわち、燃料ブレンドのために使用されるパラフィンの豊富な石油由来の生成物と比較して大幅に低い品質である。この品質損失は、脂肪族アルコール及び他の酸素含有副生成物、ならびに場合によっては反応性オレフィンの存在に起因し、これらの非パラフィン系不純物の量は、F-T触媒系及び使用される処理条件に依存する。F-T合成生成物の代表的な全酸素含有量は、典型的には、約0.25%~約10%、しばしば約0.5重量%~約5重量%の範囲である。また、F-Tワックスを含むF-T合成の生成物は、広い炭素数(及びそれ故に分子量)分布及び非常に乏しい低温流動特性を有する。これらの特徴の両方は、ディーゼル沸点範囲留分及び/または航空(例えば、ジェット)燃料沸点範囲留分などの実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の蒸留燃料留分の仕様を満たすために、F-Tワックスをより低い平均分子量(及びより狭い分子量分布)を有するパラフィンの豊富な成分に転化するための特定の水素化処理反応としての水素化分解、及び/または、より高い分岐度(またはイソパラフィンの含有量)を達成するための別の特定の水素化処理反応としての水素化異性化を含む、水素化転化ゾーンにおける適切な変換を使用して、改良され得る。
【0034】
多様な炭素質供給原料のガス化(例えば、非接触部分酸化)は、F-T合成に使用される合成ガスを提供し得る。好ましくは、合成ガスは、必ずしも再生可能炭素を含まない他の好適なガス化供給原料も使用され得るが、上記で定義したバイオマスのガス化から得られる。F-T合成生成物が再生可能炭素に由来しない場合、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の再生可能炭素は、上述のように、バイオマス含有供給原料のバイオマスから得られるこの液体中の全炭素の部分のみであり得る。水素と一酸化炭素の混合物(合成ガス)にガス化することができる炭素質供給原料としては、石炭(例えば、無煙炭、褐炭、歴青炭、亜歴青炭、亜炭、及び石油コークス)、歴青炭油、その鉱物原油または留分(例えば、残油)、及びメタン含有供給原料(例えば、製油所ガス、炭層ガス、付随ガス、及び天然ガス)が挙げられる。そのような供給原料を合成ガスに転化するプロセスは、例えば、「Gasification」by C.Higman and M van der Burgt,Elsevier Science(USA),2003,ISBN 0-7506-7707-4,Ch.4 and 5に記載されている。そのため、脂肪族炭化水素前駆体としてのF-T合成生成物は、石炭から液体(CTL)経路または天然ガスから液体(GTL)経路に由来し得る。
【0035】
F-T合成は、合成ガス、すなわち、COとHとの混合物を、以下の反応に従って分子量が増えた炭化水素に転化するプロセスを指す。

n(CO+2H)→(-CH-)+nHO+熱
【0036】
F-T合成反応は、広い範囲の分子量(メタンのものから重質パラフィンワックスのものまで)を有する反応生成物を発生させる。一般に非環状のパラフィン系及びオレフィン系炭化水素の特定の混合物ならびにこれらの反応生成物の割合は、使用される触媒系によって実質的に支配される。通常、メタンの生成は最小限とされ、生成する炭化水素の実質的な部分は少なくとも5個の炭素原子の炭素鎖長を有する。そのため、C 炭化水素は、F-T合成生成物中に、一般に少なくとも約60重量%(例えば、約60重量%~約99重量%)、典型的には少なくとも約70重量%(例えば、約70重量%~約95重量%)の量で存在する。F-T合成生成物は、軽質炭化水素(例えば、C~C炭化水素)及び水の除去のために前処理され得る。しかしながら、これらの成分は、本明細書に記載の水素化熱分解プロセスにおいて良好に許容され、場合によっては(例えば、改質による必要な水素の生成のために)有益でさえあるため、F-T合成の粗生成物も脂肪族炭化水素前駆体として使用され得る。そのような粗生成物は、約1体積%を超え、さらには5体積%を超える組み合わされたC~C炭化水素及び酸素含有炭化水素含有量を有し得る。
【0037】
所定のF-T合成生成物の場合と同様に、他の種類の粗製または低品質の脂肪族炭化水素前駆体、例えば褐色グリースなどの特定のトリグリセリド含有成分が前処理され得る。褐色グリースには腐った食品粒子などの固体微粒子が含まれる。粗製トリグリセリド含有成分は、リン脂質(ガム)ならびにアルカリ及びアルカリ土類金属を含む金属汚染物質を含み得る。高い固体含有率、高い水素化転化触媒毒含有量、及び/または水素化転化触媒の詰まりを引き起こす傾向のため、低品質及び/または粗製トリグリセリド含有成分は、固定床水素化転化反応容器への導入には非好適であり得る。そのため、そのようなトリグリセリド含有成分は、この目的のために使用される場合、固体または他のこれらの望ましくない材料の含有量を減少させるために前処理され得る。しかしながら、そのようなトリグリセリド含有成分はまた、いくつかの実施形態によれば、そのような前処理ステップを行わずに水素化熱分解反応器に直接導入され得、これにより、この反応器自体が、必要な前処理を実施し得、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物(低品質及び/または粗製トリグリセリド含有成分の水素化熱分解の生成物を含む)を、効果的な手法で水素化転化ゾーンでさらに処理することが可能となる。水素化熱分解反応器において直接処理され得る代表的なトリグリセリド含有成分には、約10ppmを超える(例えば、約10ppm~約500ppm)、または約25ppmを超える(例えば、約25ppm~約250ppm)の全塩化物または金属含有量、及び場合によっては全アルカリ金属及びアルカリ土類金属含有量を有するものが含まれる。汚染物質の塩化物または金属、特にアルカリ及びアルカリ土類金属のそのようなレベルは、多くの種類の水素化処理触媒の活性に有害である。
【0038】
脂肪族炭化水素前駆体の前処理はまた、水素化熱分解反応器の上流で本明細書に記載の前反応器において実施され得、本明細書に記載のバイオマス含有供給原料と共に、水素化熱分解反応器及び/または水素化転化反応器におけるそれらの共処理の前に、そのような共供給物の脱揮発を含み得る。脱揮発は、例えば、腐食種の含有量を減少させ、水素化熱分解触媒毒含有量を減少させ(例えば、ナトリウムを減少させ)、及び/または水素化転化触媒毒含有量を減少させるために、前処理された脂肪族炭化水素前駆体の他の有益な変換を伴い得る。前反応器における脂肪族炭化水素前駆体の前処理は、そのような補足的変換を達成するのを助けることによって前処理される共供給物の品質を改良するために、好適な固体床材料、例えば、前処理触媒、吸着剤、伝熱媒体、及びそれらの混合物の存在下で行われ得る。好適な固体床材料は、二重または多機能を有するものを含む。前処理触媒の場合、本明細書に記載のバイオマス含有供給原料の水素化処理のための活性を有するものが代表的である。
【0039】
共供給物としての芳香族炭化水素前駆体
代表的な実施形態では、芳香族炭化水素前駆体は、この別の供給原料(または共供給物)を水素化熱分解反応容器、水素化転化反応容器、またはその両方に導入することによって上述の水素化熱分解プロセスにおいて共処理され、上述したように、これらの反応器の一方または両方の作動条件を改善し、及び/または水素化転化反応器から回収される完全に脱酸素化された炭化水素液体の特性を改善する。
【0040】
「芳香族炭化水素前駆体」は、上記で定義されているように、バイオマス含有供給原料以外の供給原料であるが、芳香族炭化水素前駆体は、それ自体が、(鉱物または石油系ではなく)生物起源のものであり得、及び/またはバイオマス源と考えられ得る。芳香族炭化水素前駆体は、水素化熱分解反応容器及び/または水素化転化反応ゾーンにおいて処理に供されると、プロセスに導入される芳香族炭化水素前駆体の重量を基準として、脂肪族炭化水素に対してより高い百分率の芳香族炭化水素(例えば、アルキルベンゼン)を生じさせる。以下により十分に記載されているように、芳香族炭化水素前駆体は、脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分または非タービン航空燃料沸点範囲留分の収率を高めるために、及び/またはこの留分のオクタン価を増大させるために、水素化熱分解反応容器または水素化転化反応容器に導入することによって共処理において特に有用である。
【0041】
代表的な芳香族炭化水素前駆体は、バイオマスに由来するものである(例えば、US5,961,786;加国特許出願536,549;及びBridgwater,A.V.,による「Biomass Fast Pyrolysis,」Review paper BIBLID:0354-9836,8(2004),2,21-49に記載されている高速熱分解プロセスを含む従来の熱分解プロセスの生成物である)。バイオマスに由来する特定の芳香族炭化水素前駆体は、大幅な量の、例えば、一般に約5重量%~約85重量%、しばしば約10重量%~約75重量%の環状有機酸素含有化合物を含む環状化合物を含む。「環状有機酸素含有化合物」という用語は、環構造(例えば、ピラン環)に酸素が組み込まれた化合物、及び環構造外に酸素が組み込まれている環構造を有する化合物(例えば、フェノール)を含むことを意味する。いずれの場合にも、環構造は3~8環員を有してよく、他の環構造に縮合していてよく、完全に飽和(例えば、ナフテン)、完全に不飽和(例えば、芳香族)、または部分的に不飽和であってよい。本明細書に記載の水素化熱分解プロセスにおいて水素化転化に供された後、環状有機酸素含有化合物を含むこれらの環状化合物は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の全芳香族炭化水素含有量に寄与し得る。これらの環状化合物は好ましくは、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンの環状構築ブロックを解重合及び分断するために熱分解された、上述のリグノセルロース系バイオマスなどの天然源から得られる。
【0042】
バイオマスに由来する代表的な芳香族炭化水素前駆体は、大幅な量の、芳香族炭化水素に対する前駆体である上述の環状化合物(例えば、一般に約10重量%~約90重量%、典型的には約20重量%~約80重量%)を含有する従来の熱分解油(バイオ油)である。熱分解油は、しばしば、例えば、(i)ヒドロキシアルデヒド、ヒドロキシケトン、糖、カルボン酸、及びフェノールオリゴマーなどの有機酸素含有化合物、及び(ii)溶解水の両方の形態で、約30~約40重量%の全酸素を含有する。この理由のため、注ぐことが可能でありかつ輸送可能な液体燃料ではあるが、熱分解油(及び特に前処理されていない粗製熱分解油)は、原油ベースの燃料油のエネルギー含有量の約55~60%しか有していない。エネルギー含有量の代表値は、約19.0MJ/リットル(69,800BTU/gal)~約25.0MJ/リットル(91,800BTU/gal)の範囲である。その上、この粗生成物はしばしば腐食性であり、オレフィン(ジオレフィンを含む)及びアルケニル芳香族化合物などの高不飽和化合物の存在のために化学的不安定性を示す。本明細書に記載の水素化熱分解プロセスにおいて、熱分解油はさらに脱酸素化され、他の変換を受けて、水素化転化ゾーンを出る実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体中で炭化水素を生じさせる。そのため、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の分別の後に、熱分解油に由来する芳香族炭化水素が液体生成物中で濃縮されることによって、生成物が、ガソリンなどの燃料にブレンドするのに好適になり、またはブレンドせずにそのような燃料(例えば、1つ以上の、及び場合によっては全ての、適用可能なガソリン仕様を満たすガソリン沸点範囲留分)として有用であるように、本明細書に記載の水素化熱分解プロセスにおける熱分解油の共処理は、その酸素含有量の減少及びその化学反応性(例えば、分解する傾向)の低下の観点から有益である。
【0043】
バイオマスに由来する他の代表的な芳香族炭化水素前駆体には、一般に、上記で定義されたバイオマス、またはバイオマス含有供給原料(例えば、MSW)の熱的及び/または化学的変換から生じるかまたは得られる生成物が含まれる。そのため、これらの芳香族炭化水素前駆体には、熱分解、焙焼(例えば、焙焼され及び任意に高密度化された木材)、熱水炭化(例えば、熱い圧縮水中で酸加水分解によって前処理され高密度化されたバイオマス)、及び重合(例えば、植物モノマーに由来する有機ポリマー)の生成物が含まれるがこれらに限定されない。バイオマスに由来する芳香族炭化水素前駆体は、所与の転化ステップ(例えば、水素化熱分解または水素化転化)のための供給原料(共供給物)としてのそれらの使用の前または上流で、熱的及び/または化学的変換から生じるかまたは得られる前処理された供給原料まで及ぶ。バイオマス由来生成物である芳香族炭化水素前駆体を生じさせる特定の種類の前処理ステップには、本明細書に記載のものが含まれる。そのため、代表的な前処理ステップは、水素化熱分解反応器の上流で前反応器を使用し得、バイオマス含有供給原料の脱揮発及び/または少なくともいくらかの水素化熱分解を含む。所定の前処理された供給原料は、本明細書に記載のバイオマス含有供給原料と共に、水素化熱分解反応器及び/または水素化転化反応器における共処理のために、芳香族炭化水素前駆体として作用し得るバイオマス由来生成物である。
【0044】
芳香族炭化水素前駆体のさらなる具体例には、木材をパルプに転化するためのクラフトまたは硫酸塩処理の副生成物が含まれる。これらの副生成物には、黒液、トール油、純粋なリグニン、及びスルホン酸リグニンが含まれる。トール油は、樹脂性の黄色-黒色の油状の液体、すなわち、松材処理の酸性化された副生成物を指す。精製前のトール油は、通常、ロジン酸、脂肪酸、ステロール、高分子量アルコール、及び他のアルキル鎖材料の混合物である。粗製トール油の蒸留を使用して、本明細書に記載の芳香族炭化水素前駆体として使用するために、ロジン酸が濃縮されたトール油留分を回収し得る。
【0045】
熱分解油、及びクラフトもしくは硫酸塩処理の副生成物(例えば、黒液、粗製トール油、及びデピッチされた(depitched)トール油)を含む、環状化合物が豊富なために本明細書に記載の芳香族炭化水素前駆体として有用な天然由来(例えば、非化石由来)の油は、これらの生成物を脱酸素化なしではバイオ燃料として使用するのに非好適なものとする高い含酸素含有化合物含有量を有する。トール油の場合、例えば、ロジン酸(全ての多環有機酸)が大幅な濃度で存在する。水素化熱分解及び/または水素化処理条件下でのこれらの酸素含有環状化合物の脱酸素化は、有益には芳香族炭化水素を生じさせる。酸素除去と組み合わせて、多環化合物の少なくとも1つの環(但し全ての環ではない)の環飽和化及び/または開環は、それぞれ、ナフテン系及び/またはアルキル化環状炭化水素の形成をもたらす。重要なことに、使用される特定の水素化熱分解及び/または水素化転化条件下でのナフテン系/芳香族炭化水素の平衡は、これらの種の相対的割合を支配し、それにより特定の用途の所望の仕様、例えばガソリン沸点範囲留分または航空燃料沸点範囲留分における芳香族炭化水素の収率または含有量を満たすため、必要に応じて所望の仕様(例えば、ガソリン仕様の場合におけるオクタン価または航空(非タービンまたはジェット)燃料仕様の場合における芳香族炭化水素含有量)を満たすために、使用され得る。
【0046】
芳香族炭化水素前駆体のさらに別の例には、オイカリプトールなどの芳香葉から得られる油が含まれる。また、低い水分含有量に任意に乾燥される固体顆粒化リグニンなどの所定の固体芳香族炭化水素前駆体は、水素化熱分解反応容器への直接導入のための共供給物として好適である。
【0047】
芳香族炭化水素前駆体は、本明細書に記載の水素化熱分解プロセスに導入される前に、その品質を改良するために前処理され得る。トール油は、例えば、その粗製形態で使用され得、または蒸留(例えば、真空蒸留)によって前処理されて、ピッチを除去し(すなわち、脱ピッチされたトール油を提供する)及び/または主としてアビエチン酸及びデヒドロアビエチン酸であるが他の環状カルボン酸を含むロジン酸を濃縮し得る。芳香族炭化水素前駆体は、一般に、例えば、粗製トール油または粗製熱分解油(バイオ油)から不要な材料を除去するための分離を含む前処理によって得られ得る。粗製バイオ油の場合、例えば、濾過及び/またはイオン交換による前処理を使用して、前処理されたバイオ油を水素化熱分解反応器または水素化転化反応器に導入する前に、固体及び/または可溶性金属を除去し得る。
【0048】
そのため、上述の代表的な脂肪族炭化水素前駆体(例えば、トリグリセリド含有成分またはF-T合成の生成物)、芳香族炭化水素前駆体(例えば、粗熱分解油、クラフトまたは硫酸塩処理の副生成物、バイオマス由来生成物、またはリグニン)が前処理され得る。また、しかしながら、そのような粗製または低品質の芳香族炭化水素前駆体、例えば粗製バイオ油または黒液はまた、いくつかの実施形態によれば、そのような前処理ステップを行わずに水素化熱分解反応器に直接導入され得、これにより、この反応器自体が、必要な前処理を実施し得、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物(粗製または低品質の芳香族炭化水素前駆体の水素化熱分解の生成物を含む)を、効果的な手法で水素化転化ゾーンでさらに処理することが可能となる。
【0049】
芳香族炭化水素前駆体の前処理はまた、水素化熱分解反応器の上流で本明細書に記載の前反応器において実施され得、本明細書に記載のバイオマス含有供給原料と共に、水素化熱分解反応器及び/または水素化転化反応器におけるそれらの共処理の前に、そのような共供給物の脱揮発を含み得る。脱揮発は、例えば、腐食種の含有量を減少させ、水素化熱分解触媒毒含有量を減少させ(例えば、ナトリウムを減少させ)、及び/または水素化転化触媒毒含有量を減少させるために、前処理された脂肪族炭化水素前駆体の他の有益な変換を伴い得る。前反応器における芳香族炭化水素前駆体の前処理は、そのような補足的変換を達成するのを助けることによって前処理される共供給物の品質を改良するために、好適な固体床材料、例えば、前処理触媒、吸着剤、伝熱媒体、及びそれらの混合物の存在下で行われ得る。好適な固体床材料は、二重または多機能を有するものを含む。前処理触媒の場合、本明細書に記載のバイオマス含有供給原料の水素化処理のための活性を有するものが代表的である。
【0050】
他の共供給物
上述の特定の脂肪族炭化水素前駆体及び芳香族炭化水素前駆体のいずれかに加えて、またはその代替として他の共供給物も同様に、水素化熱分解反応容器、水素化転化反応容器、またはその両方に導入することによって上述の水素化熱分解プロセスにおいて共処理することができ、上述したように、これらの反応器の一方または両方の作動条件を改善し、及び/または水素化転化反応器から回収される完全に脱酸素化された炭化水素液体の特性を改善する。当業者は、本開示に従って、そのような共供給物のどれが、水素化熱分解プロセスにおいて所定の種類の炭化水素(例えば、脂肪族または芳香族炭化水素)に対する前駆体であるかを所与の共供給物の特定の分子構造が決定づけるであろうことを認識するであろう
【0051】
他の種類の共供給物の例としては、それらの繰り返しモノマー置換基の官能基に酸素を含有する酸素含有ポリマー(例えば、プラスチック)が挙げられる。上述のバイオマス含有供給原料及び脂肪族炭化水素前駆体及び芳香族炭化水素前駆体の場合のように、酸素は、HO、CO、及び/またはCOの生成を介して、水素化熱分解及び/または水素化転化反応器においてそのような共供給物から少なくとも部分的に除去される。ポリマー構造の残りは、脂肪族または芳香族炭化水素のいずれかを発生させるために使用され得る。代表的な酸素含有プラスチックは、少なくとも10重量%(例えば、約10~約45重量%の範囲)の酸素含有量を有し、酸素含有プラスチック共供給物の特定の例は、ポリカーボネート(例えば、(C1516、およそ14重量%のO)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA、(C、およそ32重量%のO)、ポリエチレンテレフタレート(PET、(C10、およそ33重量%のO)、及びポリアミン(例えば、(CONH、およそ36重量%のO)である。所定の酸素含有ポリマー(例えば、PET及びポリカーボネート)中に炭化水素環構造が存在するため、これらの酸素含有ポリマーは、芳香族炭化水素前駆体として機能する一方で、他の酸素含有ポリマーは脂肪族炭化水素前駆体として機能する。
【0052】
そのような酸素含有ポリマーは、例えば都市固形廃棄物(MSW)の場合には、別の共供給物として存在するのとは対照的に、バイオマス含有供給原料中に存在し得る。
【0053】
共処理による改善
上述したように、脂肪族炭化水素前駆体及び/または芳香族炭化水素前駆体の共処理は、例えば、(例えば、分留または分別によって)この液体から得られた/分離された液体生成物を含む実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の水素化熱分解プロセスの作動及び/または生成物特性の改善につながる。特に、水素化熱分解プロセスにおいて、そのような供給原料をバイオマス含有原料と共処理することに関連する数多くの利点が本明細書に記載されている。これらの利点のいくつかは、いくつかの実施形態によれば、水素化熱分解反応器及び/または水素化転化ゾーンの少なくとも1つの水素化転化反応器において、適度な水素分圧(例えば、約13.8barg(200psig)~約34.5barg(約500psig)の範囲)の使用に関する。水素化熱分解反応器の場合、この水素分圧は、流動触媒床と併せて、比較的乏しい品質のもの(例えば、固体不純物を含有する)を含む多様な共供給物が、水素化転化ゾーンにおいてさらなる処理のために好適にアップグレードされる環境を提供する。また、下流の処理において問題となるフリーラジカル及び多核芳香族化合物(PNA)を含有する高度に酸素含有酸性バイオ油の生成が有利に回避される。
【0054】
プロセス作動の改善に関して、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体は、水素化熱分解反応器または水素化転化反応器における数多くの位置のいずれかで導入され得、例えば、全温度上昇を制限する及び/または最大触媒温度を制限する局所的な「ホットスポット」を矯正することによって反応器の温度プロファイルを調節する。そのような改善の全ては、触媒の寿命を延ばし得、及び/または所望のまたは最適な生成物の特性または収率を促進する熱境界内での作動を維持し得る。特定の実施形態によれば、本明細書に記載の共供給物を導入することによって達成される作動上の改善(例えば、共供給物を用いない場合での同じ条件下での作動と比較して)は、共供給物が処理される水素化熱分解容器または水素化転化容器における低下した温度上昇(または最高及び最低触媒床温度の差)または低下した最大温度を含む。例えば、温度上昇または最大温度は、少なくとも約5℃(9°F)低下(例えば、約5℃(9°F)~約50℃(90°Fの範囲の低下))、少なくとも約10℃(18°F)低下(例えば、約10℃(18°F)~約35℃(63°Fの範囲の低下))、少なくとも約15℃(27°F)低下(例えば、約15℃(27°F)~約30℃(54°Fの範囲の低下))し得る。
【0055】
特性の改善に関して、本明細書に記載の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体との共処理は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の所望の留分(例えば、所定の沸点範囲内のこの液体の留分)の上昇した収率及び/またはそのような留分の上昇した品質につながる。
【0056】
有利には、いくつかの実施形態によれば、所与の共供給物の添加速度は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体またはその留分の測定された収率または測定された品質に応じて調節され得る。そうでなければ、所与の共供給物の添加速度は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体またはその留分の収率または品質の所望の変化に応じて調節され得る。例えば、本明細書に記載の脂肪族炭化水素前駆体の供給速度は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のディーゼル沸点範囲留分の増大した(もしくは減少した)収率または増大した(もしくは減少した)セタン価についての必要性に応じて(測定または所望の変化に基づいて)増大または減少され得る。同様に、本明細書に記載の芳香族炭化水素前駆体の供給速度は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分またはジェット燃料沸点範囲留分の増大した(もしくは減少した)収率または増大した(もしくは減少した)オクタン価についての必要性に応じて(測定または所望の変化に基づいて)増大または減少され得る。
【0057】
一般に、水素化熱分解反応器と水素化転化反応器のいずれかまたは両方において、バイオマス含有供給原料と併せた脂肪族炭化水素前駆体の共処理は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の分別から得られるディーゼル沸点範囲留分の改善した収率または改善したセタン価につながる。これに関して、代表的な脂肪族炭化水素前駆体は、水素化転化ゾーンから得られるこの液体において、天然に発生する植物油及び動物性脂肪の脱酸素化から得られるC~C24ノルマルパラフィン系炭化水素の収率をより特に改善し得る。しかしながら、水素化転化ゾーンが水素化異性化反応容器を含む場合、代表的な脂肪族炭化水素前駆体は、この液体において、C10~C24の組み合わされたノルマルパラフィン系及びイソパラフィン系炭化水素の収率を改善し得、これにより、水素化異性化から得られるイソパラフィン系炭化水素は、ディーゼル沸点範囲留分の低温流動特性を改良し得る。
【0058】
場合によっては、収率またはセタン価の改善の程度は、脂肪族炭化水素前駆体の添加速度の増加と直接的な関係を有する。ディーゼル沸点範囲留分の収率の改善は、例えば、添加される脂肪族炭化水素前駆体に基づいて少なくとも30重量%(例えば、約30重量%~約95重量%)の増加に相当し得る(すなわち、この添加された共供給物の少なくとも約30重量%がディーゼル沸点範囲留分に回収される)。他の実施形態によれば、収率の改善は、添加される脂肪族炭化水素前駆体に基づいて少なくとも50重量%(例えば、約50重量%~約85重量%)の増加に相当し得る。脂肪族炭化水素前駆体の異なる添加は、異なる鎖長を有する炭化水素の生成につながり得るので、添加される脂肪族炭化水素前駆体に基づくこれらの代表的な収率の増加は、あるいは、灯油沸点範囲留分またはジェット燃料沸点範囲留分の収率の増加に相当し得る。あるいは、ディーゼル沸点範囲留分のセタン価の増加は、少なくとも約3(例えば、約3~約20)、または少なくとも約5(例えば、約5~約10)のセタン価の増加に相当し得る。
【0059】
他の実施形態によれば、水素化熱分解反応器と水素化転化反応器のいずれかまたは両方において、バイオマス含有供給原料と併せた芳香族炭化水素前駆体の共処理は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体のガソリン沸点範囲留分の改善した収率または改善したオクタン価につながる。収率またはオクタン価の改善の程度は、芳香族炭化水素前駆体の添加速度の増加と直接的な関係を有し得る。ガソリン沸点範囲留分の収率の改善は、例えば、添加される芳香族炭化水素前駆体に基づいて少なくとも20重量%(例えば、約30重量%~約90重量%)の増加に相当し得る(すなわち、この添加された共供給物の少なくとも約20重量%がガソリン沸点範囲留分に回収される)。他の実施形態によれば、収率の改善は、添加される芳香族炭化水素前駆体に基づいて少なくとも35重量%(例えば、約35重量%~約80重量%)の増加に相当し得る。芳香族炭化水素前駆体の異なる添加は、異なる分子量を有する炭化水素の生成につながり得るので、添加される芳香族炭化水素前駆体に基づくこれらの代表的な収率の増加は、あるいは、非タービン航空燃料沸点範囲留分の収率の増加に相当し得る。あるいは、ガソリン沸点範囲留分のオクタン価の増加は、少なくとも約3(例えば、約3~約20)、または少なくとも約5(例えば、約5~約10)のオクタン価の増加に相当し得る。
【0060】
本明細書に記載の実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の様々な留分は、それらの沸点範囲によって特性化されるか、またはそれらの沸点範囲に基づいて分離され得る(例えば、上昇蒸気と落下液体との間で接触する平衡の好適な数の理論的段階を行うことが可能な蒸留塔においてそれらの相対的揮発性に基づいて分離され得る)。代表的な実施形態では、非タービン航空燃料沸点範囲留分は、C炭化水素の初期沸点(または「フロントエンド」)温度特徴、例えば、約30℃(86°F)~約40℃(104°F)、代表的な値は35℃(95°F)、及び一般に約138℃(280°F)~約300℃(572°F)、典型的には約145℃(293°F)~約288℃(550°F)、代表的な値は215℃(419°F)の蒸留終点温度を有し得る。これらの初期沸点温度範囲はまた、ナフサまたはガソリン沸点範囲留分の特徴であるが、この留分についての蒸留終点温度範囲は一般により低く、例えば、約約110℃(230°F)~約149℃(300°F)、典型的には約121℃(250°F)~約143℃(290°F)であり、代表的な値は130℃(266°F)である。ディーゼル沸点範囲留分またはジェット燃料沸点範囲留分は、約120℃(248°F)~約160℃(320°F)の範囲、代表的な値は149℃(300°F)の初期沸点温度を有し得る。ディーゼル沸点範囲留分の蒸留終点は、一般に約300℃(約572°F)~約400℃(752°F)の範囲であり、代表的な値は370℃(698°F)である。灯油沸点範囲留分は、約140℃(284°F)~約160℃(320°F)の範囲、代表的な値は150℃(302°F)の初期沸点温度を有し得る。灯油沸点範囲留分の蒸留終点は、典型的には約265℃(約509°F)~約285℃(545°F)の範囲であり、代表的な値は275℃(527°F)である。これらの沸点温度は、それぞれの石油由来のディーゼル、ナフサ、ガソリン、灯油、及び航空(例えば、ジェット)燃料沸点範囲留分の特徴でもあり、ASTM D86に従って測定され得、終点が95%の回収値である。ジェット燃料沸点範囲留分は、好ましくは、「Standard Specification for Aviation Turbine Fuel Containing Synthesized Hydrocarbons.」と題するASTM D7566に適合する。
【0061】
実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の分別に続いて、得られた液体生成物は、(例えば、ディーゼル燃料として)純粋な形態のバイオ燃料として使用され得、または、例えば、従来の石油由来のブレンド原料とブレンドされ得る。所与のバイオ燃料がブレンドされているかどうかに関わらず、得られる純粋なバイオ燃料またはブレンドされたバイオ燃料の炭素排出量(carbon footprint)は、従来の(完全に石油由来の)燃料相当物と比較して減少され得る。本明細書に記載の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体との共処理のおかげで、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の分別によって回収されたバイオ燃料または液体生成物は、所与の燃料成分についての全ての適用可能基準を満たし得る。例えば、ディーゼル沸点範囲留分は、脂肪族炭化水素前駆体(例えば、トリグリセリド含有成分)との共処理の結果として「仕様通り(on-spec)」のディーゼル燃料にされ得る一方で、ディーゼル燃料仕様は、そのような共処理なしでは満たされなかったであろう。そのため、そのようなディーゼル沸騰範囲留分は、最小セタン価(または最小セタン指数、例えば、41)、水の最大含有量(例えば、0.05重量%)及び硫黄(例えば、15ppm)、ならびに最大冷フィルタ目詰まり点及び曇点温度(例えば、-12°Cまたは-10°F)の適用可能な仕様に適合し得る。同様に、芳香族炭化水素前駆体との共処理の結果として、ガソリンまたは航空燃料の沸点範囲留分は「仕様通り」にされ得る。ガソリン沸点範囲留分の場合には、最小モーターオクタン価(例えば、82)、水の最大含有量(例えば、0.05重量%)、硫黄(例えば、50ppm)、及びベンゼン(例えば、3.8体積%)の要件を満たし得る。航空燃料沸点範囲留分の場合、ASTM熱安定性仕様を満たすために、最大全酸素(例えば、0.5重量%)についての要件に加えて、適切なエラストマーエンジンシール及びガスケット性能(例えば、約3体積%~約25体積%、しばしば約10体積%~約20体積%)のための芳香族炭化水素についての要件を満たし得る。有利には、再生可能な源(例えば、リグニンまたはトール油)に由来する芳香族炭化水素前駆体の環状化合物の性質のため、得られるガソリンまたは航空燃料沸点範囲留分中の芳香族炭化水素は、一般に、少量のベンゼン及びトルエンしか含まない。
【0062】
一般に、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体(及びこの液体自体)の分別から得られる上記の液体生成物は、低い全酸素含有量、例えば、約3重量%未満、約2重量%未満、約1重量%未満、約5000重量ppm未満、約2000重量ppm未満、さらに約1000重量ppm未満を有し得る。典型的には、全酸素含有量は、水素化転化の後に達成される実質的に完全な脱酸素化の結果として、約0.001重量%~約2重量%の範囲にあり、水素化処理条件下で最も耐熱性であるそれらの有機酸素含有化合物のみが残存する。結果として、そのような液体生成物の燃料価値は、バイオ油と比較してかなり増加し得る。そのような液体生成物の炭化水素含有量は、しばしば、少なくとも約98重量%、多くの場合は少なくとも約99重量%または少なくとも約99.5重量%であり得る。実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の低い酸素含有量は、それを凝縮水から分離可能な相に容易にする。有利には、統合されたプロセスにおいて生成される任意の正味の凝縮水は、低含有量の溶解された全有機炭素(TOC)、一般に約5000wt-ppm未満、典型的には約2000wt-ppm未満、及びしばしば約500wt-ppm未満を有し得る。
【0063】
全体として、本明細書に記載の共処理は、再生可能な炭素から少なくとも部分的に、しかししばしば完全に得られる液体生成物を提供し得、これは数多くの重要な生成物仕様(例えば、ディーゼル沸点範囲留分の場合のセタン指数及び低温流動特性、ガソリン沸点範囲留分の場合のモーターオクタン価、または航空燃料沸点範囲留分の場合の芳香族炭化水素含有量)を満たす。そのため、いくつかの実施形態によれば、そのような液体生成物と石油由来の燃料とのブレンド及び/またはさらなる処理は、「仕様通り」の燃料を達成するために必要とされない。
【0064】
前処理を含む代表的な水素化熱分解プロセスのさらなる詳細
上述したように、前処理ステップ、例えば、減少した非生物学的材料の含有量(例えば、全ての鉱物形態を含む、ガラス、金属、及び金属酸化物の含有量)、減少した平均粒径、減少した平均粒子空気力学的径、増加した平均粒子表面積対質量比、またはより均一な粒径などの少なくとも1つの特徴を改良するための物理的分類に供された後に得られる前処理された供給原料である共供給物のバイオマス含有供給原料を供給することも可能である。脱揮発された及び/または部分的に水素化熱分解された前処理された供給原料の場合、前反応器から得られる蒸気、すなわち、固体(例えば、チャーまたは触媒などの固体床材料)の除去後に得られる前反応器蒸気流または精製された前反応器蒸気流から得られた蒸気は、水素化熱分解反応容器に供給され得る。水素が前反応器において脱揮発及び/または限定された水素化熱分解を行うために最初に利用される場合、前反応器蒸気流または精製された前反応器蒸気流は水素を含有し得る。そのため、前反応器蒸気流、または精製された前反応器蒸気流は、水素化熱分解反応器に供給される水素の一部もしくは全部、または水素化熱分解用の化学的水素必要量の少なくとも一部及び場合によっては全てを提供し得る。
【0065】
上記したように、水素化熱分解は、少なくとも1つの非凝縮性ガス、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物(例えば、凝縮性蒸気の形態)、及び固体のチャー粒子を含む水素化熱分解反応器生産物を生成する。多くの場合、水素化熱分解反応器生産物は、COに加えて、少なくとも1つの他の非凝縮性ガス(例えば、H、CO、及び/またはCH)を含み得る。しかしながら、脱酸素化触媒のメタン化活性及び水性ガスシフト転化活性に応じて、多少のメタン(CH)が、CO、CO、及びHを犠牲にして生成され得る。本明細書で使用される場合、水素化熱分解ステップの「部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物」は、次の(下流の)水素化転化ゾーンにおいてより完全な脱酸素化(例えば、炭化水素を生成して、CO、CO、及び/または水の形態で酸素を除去する)に供され得る酸素含有炭化水素(例えば、セルロース、ヘミセルロース、及び/またはリグニン由来)を含み得る。しかしながら、「部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物」という用語は、完全に脱酸素化されることによりさらに脱酸素化することができない若干量の炭化水素(例えば、アルキルベンゼンなどの芳香族炭化水素)の存在を排除しない。
【0066】
上流の前反応容器の場合のように、水素化熱分解反応容器は、脱酸素化触媒の流動床を含有し得る。水素化熱分解反応容器用の流動化ガスは、水素含有水素化熱分解供給流及び/または場合によっては精製された前反応器蒸気流(これらのいずれかまたは両方がこの容器に供給され得る)中に存在する水素を含有し得る。水素化熱分解ステップ後、代表的なプロセスは、水素化熱分解反応器生産物からチャー粒子及び/または他の固体粒子(例えば、触媒微粉)の全てもしくは実質的に全て(例えば、少なくとも約99%、またはさらに少なくとも約99.9%)を除去し、減少したチャー含有量を有する水素化熱分解反応器蒸気を提供することをさらに含み得る。チャー粒子、例えば、水素化熱分解反応器生産物中に同伴され得るものの除去は、水素化熱分解反応器蒸気またはその一部を含む水素化熱分解の生成物が、固定床触媒転化プロセスに供されるプロセスにおいて特に重要であり得る。上述したように、チャー粒子の除去は、全水素化熱分解反応器生産物から、チャー粒子上に選択的に吸着する触媒毒(例えば、アルカリ及びアルカリ土類金属)を除去するという追加の利益を有し得る。
【0067】
いくつかの実施形態によれば、水素化熱分解ガス混合物が分離され得る水素化熱分解バイオ油生成物(及び任意に別のまたは相分離可能な水相の水素化熱分解生成物)を回収するために、水素化熱分解反応器蒸気を冷却及び凝縮することが可能であり得る。水素化熱分解バイオ油生成物は、(例えば、さらなる脱酸素化のために)さらに処理または反応され得、または最終生成物として、例えば液体燃料ブレンド成分として直接使用され得る。脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体が水素化転化反応器において共処理される一実施形態によれば、水素化熱分解バイオ油は、任意に、水相を除去するための相分離に続いて、(例えば、液相において)追加的な供給原料と組み合わせられ得、得られたブレンドはその後に水素化転化ゾーンに導入され得る。
【0068】
この手法では、水素化転化反応器における得られた組み合わされた供給物の反応の前に、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体を希釈し、その粘度を低下させ、及び/またはそれに固体を溶解させるために、凝縮された水素化熱分解バイオ油(例えば、部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物を含む)が使用され得る。凝縮された水素化熱分解バイオ油は、水素化転化反応器において共供給物をより揮発しやすくするか、または一般により容易に処理するために使用され得る。特定の実施形態によれば、褐色グリースは、共供給物として使用される場合、この共供給物中に固体を溶解させるために、凝縮された水素化熱分解バイオ油と組み合わされ得る。別の具体的な実施形態では、固体藻類は、共供給物として使用される場合、凝縮された水素化熱分解バイオ油と組み合わせられ得、水素化転化反応器においてより容易に揮発する高い液体含有量(例えば、約20重量%を超える液体)を有するスラリーが生成される。さらなる実施形態によれば、水素化熱分解プロセスから回収される他の液体、例えば、約400℃(752°F)よりも高い初期沸点を有する重沸点範囲留分、及び実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の分別によって回収される他の液体はまた、本明細書に記載の共供給物と組み合わせられ得る。
【0069】
代表的なプロセスは、水素化転化ゾーンにおいて、好ましくは水素化熱分解バイオ油生成物の中間的縮合を伴わずに、水素化熱分解反応器蒸気の少なくとも一部(例えば、上述の固体チャー粒子の除去後に得られる)を水素化転化することをさらに含む。あるいは、共供給物は、上述の共供給物の特徴に依存して、水素化熱分解反応器とは対照的に、水素化転化ゾーンに導入され得る。水素化転化ゾーンは、水素化熱分解反応容器の下流に1つ以上の水素化転化反応容器を含み得る。水素化転化ゾーンの1つ以上の水素化転化反応容器は、水素及び、通常は固定床として存在する水素化転化触媒を含有する。高い水素圧力、高い温度、及び水素化転化触媒の使用の条件は、水素化熱分解反応器蒸気における部分的に脱酸素化された水素化熱分解生成物をさらに脱酸素化し、多くの場合実質的に完全に脱酸素化するのに十分である。このさらなる脱酸素化に必要とされる水素化転化ゾーンに供給される水素は、水素化熱分解反応器蒸気と別に供給され得るかまたは組み合わされ得る、水素化熱分解反応器蒸気及び/または場合によっては追加的な水素含有水素化転化反応器供給流中に存在し得る。
【0070】
水素化転化ゾーン生産物(すなわち、水素化転化ゾーンの水素化転化反応器(複数可)からの流出物)は、CO及び少なくとも1つの他の非凝縮性ガス(例えば、H、CO、及び/またはCH)を、凝縮され得る蒸気に加えて含有する。特に、水素化転化ゾーン生産物は、分離ゾーン(例えば、場合によっては異なる温度及び/または圧力での分離の1つ以上の段階を含む)の前またはその中で冷却され得、これにより、この流れの成分の蒸気-液体相分離、及び場合によっては凝縮した生成物液体の水性-有機相分離が可能になる。例えば、水相水素化転化生成物は、水素化転化ゾーン生産物から凝縮した水を含み得、有機相水素化転化生成物は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体を含み得る。
【0071】
そのため、分離ゾーンから、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体は、凝縮留分または液相として回収され得、水素化転化ガス混合物は、非凝縮留分または蒸気相として除去され得る。分離された水素化転化ガス混合物の少なくとも一部は、軽質炭化水素、例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、及びプロパンの改質からの水素の正味の生成に加えて、COの正味の生成を提供する水蒸気改質器に導入され得る。そのような軽質炭化水素は、パラフィンを形成するためのトリグリセリド及び遊離脂肪酸の脱酸素化及びこれらの形成されたパラフィンの任意の分解から発生し得、特にトリグリセリドのグリセロール骨格を脱酸素化してプロパンを生成することによって発生し得る。改質から発生した水素は、水素必要量の一部または全部を満たすために、水素化熱分解プロセスにリサイクルされ得る。一実施形態によれば、改質器流出物(蒸気改質器からの生産物)またはその一部は、水素化熱分解反応器及び/または水素化転化反応器にリサイクルさせるための高純度の水素含有ガス流を提供するために、付加的な分離設備、例えば膜分離ユニットまたは圧力スイング吸着(PSA)ユニットを使用して、水素を濃縮してもよい(例えば、CO及び/または他のガスの選択的除去によって)。
【0072】
一実施形態によれば、分離される水素化転化ガス混合物の少なくとも第2の部分(例えば、上述の水蒸気改質器に導入されない部分)は、改質に供されることなく、水素化熱分解プロセスにリサイクルされ得る。改質器流出物または排出物の場合のように、この第2の部分は、その反応器及び/または水素化転化反応器にリサイクルさせるための高純度の水素含有ガス流を提供するために、付加的な分離設備、例えば膜分離ユニットまたは圧力スイング吸着(PSA)ユニットを使用して、水素が濃縮され得る(例えば、CO及び/または他のガスの選択的除去によって)。
【0073】
実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体は、実質的に完全に脱酸素化されたより高価値の液体生成物、例えばガソリン沸点範囲及び/またはディーゼル燃料沸点範囲炭化水素留分を得るために、上述のように、さらなる分離設備、例えば蒸留塔または一連の蒸留塔を使用して分別され得る。
【0074】
水素化熱分解反応器中の条件は、一般に約300℃(572°F)~約600℃(1112°F)、典型的には約400℃(752°F)~約500℃(932°F)、及びしばしば約410℃(770°F)~約475℃(887°F)の温度を含む。水素化熱分解反応容器の触媒インベントリーの重量によって分割されるバイオマス含有供給原料及び本明細書に記載の任意の共供給物の組み合わされた重量流量として計算される、水素化熱分解反応器の重量毎時空間速度(WHSV)は、一般に約0.1hr-1~約10hr-1、典型的には約0.5hr-1~約5hr-1、及びしばしば約0.8hr-1~約2hr-1である。水素化転化反応器(または使用される場合、できれば2つ以上の水素化転化反応器のいずれか)中の条件は、一般に約200℃(392°F)~約475℃(887°F)、典型的には約260℃(500°F)~約450℃(842°F)、及びしばしば約315℃(599°F)~約430℃(806°F)の温度を含む。水素化転化反応容器の触媒インベントリーの重量によって分割される水素化転化反応容器への、本明細書に記載の任意の共供給物を含む供給物(例えば、水素化熱分解反応器から得られるチャー粒子除去後の精製された蒸気流)の全重量流量として計算される、水素化転化反応容器の重量毎時空間速度(WHSV)は、一般に約0.01hr-1~約5hr-1、典型的には約0.05hr-1~約5hr-1、及びしばしば約0.1hr-1~約4hr-1である。
【0075】
前反応容器(使用される場合)、水素化熱分解反応容器、及び/または水素化転化ゾーンの少なくとも1つの水素化転化反応容器(使用される場合)において使用するための好適な触媒は、一般に、好適な水素分圧、温度、及び本明細書に記載の他の条件の環境において、バイオマス含有供給原料(前処理された供給原料を含む)、添加される共供給物(前処理された共供給物を含む)、及び/またはそれらの水素化熱分解反応生成物の水素化処理のための活性を有し得る。水素化処理は、水素化処置(hydrotreating)、水素化分解、水素化異性化、及びそれらの組み合わせ、ならびに水素豊富環境下で起こる可能性があるオリゴマー化を含む、多くの可能な反応を広範に包含することを意味する。代表的な水素化処理触媒としては、耐火性無機酸化物などの高表面積担持材料(例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、及び/またはジルコニア)上に、少なくとも1つのVIII族金属、例えば鉄、コバルト、及びニッケル(例えば、コバルト及び/又はニッケル)並びに少なくとも1つのVI族金属、例えばモリブデン及びタングステンを含むものが挙げられる。また、炭素担体を使用してもよい。
【0076】
そのため、代表的な水素化転化ゾーンは、例えば、並列または直列で配置され、異なる水素化処理活性を有する触媒を含有し、かつ異なる条件(例えば、異なる圧力及び/または温度)下で作動される、2つ以上の水素化転化反応容器を含み得る。特定の実施形態では、水素化処置活性を有する触媒を含有する第1の水素化転化反応容器は、水素化分解活性及び/または水素化異性化活性を有する触媒を含有する第2の水素化転化反応器に直列かつ上流に配置され得る。あるいは、これらの第1及び第2の水素化転化反応器は、並列に配置され得る。当技術分野における技術を有し、本開示から得られる知識から利益を得る当業者に理解されるように、処理される特定のバイオマス含有供給原料の特性に基づいて、様々な構成で配列される、1つ以上の水素化転化反応容器中の異なる水素化処理触媒の使用は、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の所望の特徴を達成よるように調整され得る。例えば、水素化分解は、ガソリン沸点範囲の炭化水素の増大した収率が所望の目的である場合、脂肪族炭化水素前駆体に由来するパラフィン系炭化水素の分子量を低下させるのに有用であり得る。水素化異性化は、ディーゼル沸点範囲の炭化水素の改良された低温流動特性が所望の目的である場合、脂肪族炭化水素前駆体に由来するパラフィン系炭化水素の分岐度を増加させるのに有用であり得る。
【0077】
長期間使用した後、触媒または他の固体床材料(吸着剤及び/または伝熱媒体)は、その意図された目的のための触媒または固体触媒床の機能性に有害なコークス、炭素、または他の材料(例えば、溶融プラスチック)を蓄積し得る。蓄積した堆積物を有する触媒または他の固体床材料は、前反応容器、水素化熱分解反応容器、及び/または水素化転化反応容器(複数可)のいずれかから、例えば、これらの反応容器を出る蒸気流中の同伴粒子として付随して、またはこれらの反応容器内の固体床(例えば、前反応容器内及び/または水素化熱分解反応容器内の流動粒子床、または水素化転化反応容器(複数可)内の固定粒子床)から意図的に取り出され得る。粒子床内から触媒及び/または他の固体床材料を取り出す場合、これは、粒子床を出る固体排出出口を使用して行われ得る。任意の取り出された触媒または他の固体床材料は、例えば、密度に基づく分離を使用することによって、触媒または他の固体床材料の豊富な留分中の不要な固体(例えば、チャー粒子)から分離され得、それらのそれぞれの反応容器に戻され得る。
【0078】
しかしながら、任意の取り出された触媒もしくは他の固体床材料、またはこれらの固体の豊富な任意の留分のこの戻しの前に、そのような取り出された触媒、取り出された他の固体床材料、またはその富む留分(複数可)は、コークス、炭素、または吸着された触媒毒を含む他の蓄積物質が除去される条件に供され得る。代表的な条件は、燃焼によって、蓄積されたコークス及び炭素を除去することによって、触媒または他の固体床材料を再生成するのに十分な酸化条件、ならびにこれらの汚染物質をメタン及び他の軽質炭化水素に転化する、蓄積されたコークス及び炭素を水素ガス化するのに十分な還元条件(例えば、流動水素含有ガスの存在下)を含む。水素ガス化容器中での取り出された触媒の水素ガス化は、この触媒の硫化、例えば、HSまたは好適なHS前駆体の水素含有ガスへの導入に付随し得る。
【0079】
蓄積したコークス及び他の蓄積した堆積物を燃焼するのに十分な再生成条件は、当該技術分野において知られており、酸素含有環境において一般に約400℃(752°F)~約750℃(1382°F)の範囲の再生成温度を含む。蓄積したコークス及び他の蓄積した堆積物からメタン及び他の炭化水素を形成するのに十分な水素ガス化条件は、当該技術分野において知られており、一般に約500℃(932°F)~約950℃(1742°F)の範囲の水素ガス化温度を含む。再生成及び水素ガス化の両方は、実質的に大気圧または大気圧より僅かに高い圧力(例えば、大気圧より約3bar未満高い圧力)で実施され得る。
【0080】
前反応器(使用される場合)の多様な機能のために、前反応器における作動条件は、広く変化し得、水素化熱分解反応器に関する上述の温度及び圧力の範囲を含み得る。しかしながら、より高い及びより低い温度が、いくつかの実施形態に対して考察され、例えば、代表的な温度は、前処理ステップの特定の目的(複数可)に応じて、一般に約150℃(302°F)~約650℃(1202°F)、典型的には約260℃(149°F)~約540℃(1004°F)の範囲であり得る。また、水素化熱分解反応容器及び任意の水素化転化反応容器における大幅な程度の脱酸素化のため、関連する水素化熱分解及び水素化転化ステップは、通常、共に発熱であり、すなわち、これらのステップと関連した反応は、単離では吸熱である熱分解反応にもかかわらず、熱の正味生成を伴う。対照的に、前反応容器中で起こる、比較的低い程度の水素化転化(または場合によっては水素化転化しない)のため、前反応器作動は、一般に、吸熱である、すなわち、前反応器における反応は全体として熱の正味消費を伴う。
【0081】
水素化熱分解及び水素化転化ならびにそれらの重要性についてさらに代表的な作動条件をより詳細に以下に記載する。いくつかの代表的な条件は、米国特許出願公開第US2010/0251600、US2010/0256428、US2010/0251615、及びUS 2013/0338412、ならびに米国特許出願第14/321,147号にも記載されており、これらの文献のそれぞれの内容は参照によりその全体において本明細書に組み込まれる。
【0082】
これらの刊行物に記載されるように、水素化熱分解及び水素化転化反応容器の両方の触媒及び作動条件は、バイオマス由来分子(例えば、セルロース、ヘミセルロース、及び/またはリグニン)から酸素を除去する脱酸素化反応が、HOを生じさせる水素化脱酸素と、CO及びCOをそれぞれ生じさせる脱カルボニル及び脱炭酸の非凝縮性ガス発生反応との間で平衡するように、調節され得る。有利には、バイオマス酸素からの大幅な量のこれらのガスの生成により、それらが含有される(例えば、軽質炭化水素と共に)ガス混合物(例えば、水素化熱分解反応器生産物及び/または水素化転化反応器生産物から)の改質において、それらの次の使用が可能になり、一体化プロセスにおいて必要とされる水素の一部もしくは全てを生成する。本明細書に記載の前反応器の使用の場合、例えば、水素含有ガスが脱揮発及び/または水素化熱分解を行うための前反応器流動化ガスとして使用される場合、統合されたプロセスに必要とされる水素は、前反応器中で消費される水素の量を含み得る。
【0083】
代表的な実施形態によれば、バイオマス含有供給原料及び添加される共供給物(複数可)(前処理された共供給物(複数可)を含む)の酸素含有量の少なくとも約20%、または本明細書に記載の前処理された供給原料及び添加される共供給物(前処理された共供給物を含む)の酸素含有量の少なくとも約20%は、水素化熱分解及び水素化転化後に、及び任意に脱揮発を含む前処理後に、CO及びCOに転化される。これらのステップ後のCO及びCOに対する、バイオマス含有供給原料及び共供給物または前処理された供給原料及び共供給物(前処理された共供給物を含む)の酸素含有量の転化の代表的な範囲は、上述のように、水素化脱酸素と脱カルボニル/脱炭酸との間の適切な平衡を達成するために、約20%~約80%、約30%~約70%、約40%~約60%である。これらのステップ後のHOに対する、この酸素含有量の転化の代表的な範囲は、多くとも約80%、約20%~約80%、約30%~約70%、及び約40%~約60%である。水素化熱分解及び水素化転化後に、転化される供給原料または前処理された供給原料の酸素含有量のこれらの範囲は、水素化熱分解及び/または水素化転化において形成されるHOが消費され得る、水蒸気改質による下流転化後にバイオマス酸素含有量の最終的な確定を必ずしも代表するというわけではない。いくつかの実施形態によれば、水蒸気改質後のCO及びCOに対する、供給原料または前処理された供給原料の酸素含有量の最終的な確定は、大幅により高くてよい。例えば、プロセスが、水蒸気改質と統合されるいくつかの実施形態によれば、供給原料または前処理された供給原料の酸素含有量の少なくとも約90%、場合によっては少なくとも約95%が、CO及び/またはCOを形成するために使用され得る。しかしながら、他の実施形態によれば、メタンを形成するためのCO及び/またはCOのメタン化は、これらの量を減少する働きをし得ることにも留意すべきである。
【0084】
さらに他の実施形態では、例えば、トリグリセリド含有成分を共供給物として使用する場合、大幅な量の軽質炭化水素(例えば、プロパン)が、水素化熱分解反応器及び/または水素化転化ゾーンでの脱酸素化から発生し得る。結果として、水素化熱分解プロセスの要件のためにこれらの軽質炭化水素の改質を介して十分な水素を依然として生成しつつ(すなわち、水素を取り込む必要がなく)、より高い百分率のバイオマス酸素がHOに転化する条件(例えば、より高い水素圧力)下で作動することが可能であり得る。そのため、そのような軽質炭化水素形成共供給物が導入される特定の代表的な実施形態によれば、バイオマス含有供給原料(前処理された供給原料を含む)及び添加される共供給物(前処理された共供給物を含む)の全酸素含有量の約20%未満(例えば、約1%~約20%、または約5%~約20%)が、水素化熱分解及び水素化転化後に、及び任意に脱揮発を含む前処理後に、CO及びCOに転化される。有利には、共供給物及びそれから発生する炭化水素化合物の特定の組成に応じて、そのような条件下での作動は依然として水素平衡状態を達成し得る。
【0085】
いくつかの実施形態によれば、従来の水素化処理作動(例えば、石油留分の従来の水素化処置及び/または水素化分解)におけるより高レベルの圧力及び/または水素分圧の使用と比較して、適度なレベルの圧力及び/または水素分圧は、HOを犠牲にして、比較的高い収率のCO及びCOをもたらすことが見出されたので、液体及びガス生成物に対するバイオマス酸素転化の所望の平衡は、適度な反応条件、例えば、水素化熱分解ならびに/または水素化転化反応器中の適度なレベルの圧力及び/もしくは水素分圧を使用して、達成され得る。水素化熱分解及び水素化転化反応器の代表的な圧力及び/または水素分圧(ゲージ圧として表される)は、独立して約55barg(798psig)未満(例えば、約7barg(102psig)~約55barg(798psig)、約14barg(203psig)~約41barg(595psig)、または約21barg(305psig)~約38barg(551psig))であり得る。
【0086】
いくつかの実施形態によれば、例えば、水素化熱分解反応容器が水素化転化反応容器の圧力をほんの僅かに超える圧力で作動する場合(例えば、多くとも約3.5bar(51psi)超、または多くとも約2bar(29psi)超)、通常作動の間、これらの容器間の差圧を少なくとも克服するために必要である、水素化熱分解反応器圧力が水素化転化反応器のものと実質的に同じであることが望ましくなり得る。同様に、使用する場合、前反応容器は、水素化熱分解反応容器のものをほんの僅かに超える圧力(例えば、多くとも約3.5bar(51psi)超、または多くとも約2bar(29psi)超)で作動され得る。このように、ガス流(例えば、リサイクルされる水素含有流)の圧縮に関連するコストが減少し得る。反応器間の差圧が最小化される代表的なプロセスによれば、前反応容器は、水素化熱分解反応容器の下に直接配置され得、または水素化熱分解反応容器の一部を形成し得(すなわち、前反応器の固体床材料は、水素化熱分解反応器と同じ物理的容器中に配置され得る)、その場合、前反応器及び水素化熱分解反応器の作動圧力が実質的に同じであり得る。
【0087】
例示的実施形態
本開示の態様によれば、水素化熱分解プロセスは、(i)水素、(ii)バイオマス含有供給原料(例えば、脱揮発及び/または水素化熱分解後の前処理された供給原料を含む)、及び/または(iii)共供給物(例えば、脱揮発後の前処理された共供給物を含む)を水素化熱分解反応容器に供給することを含む。そのプロセスは、異なる供給原料を組み合わせ、共処理し、またはブレンドして、大幅に望ましい特性、割合、及び/または収率を有する液体炭化水素生成物を生成することを含み、これを以下により十分に記載する。
【0088】
バイオマス供給原料、例えば木材が、水素化熱分解及び水素化脱酸素化に供されると、バイオマス供給原料は、炭化水素生成物、例えば、ガソリンまたはディーゼル燃料に転化され得る。しかしながら、その炭化水素生成物は、商業的に実行可能な燃料に関連する生成物の特性に合致しないか、または一致しないことが見出された。
【0089】
一態様では、本開示は、ディーゼル沸点範囲の炭化水素生成物のセタン価を増大及び改良するためのプロセスを提供する。一態様では、そのプロセスは、そのプロセスの第2段階、すなわち、水素化脱酸素化段階または水素化転化ユニットに有機液体を(共供給物として)を添加することを含み得、その場合、有機液体は、そのプロセスの第2段階に入れられるとパラフィンへの転化を受けやすい。有機液体は、トリグリセリド及び/または遊離脂肪酸を含む動物性脂肪または植物油であり得る。例として、褐色グリース、野菜油、及びトール油が挙げられる。有機液体は、環境上のコスト及び負担で処理及び/または処分されなければならないであろう別のプロセスの廃棄物であり得る。そのプロセスは、プロセスの第2段階において有機液体を脱酸素化及び転化してパラフィンとすることを含み得る。そのプロセスは、パラフィンをディーゼル沸点範囲の液体に転化することを含み得る。一態様では、そのプロセスは、(例えば、既定の温度まで)急速に加熱されるプロセスの第2段階に有機液体を(共供給物として)をポンプ輸送または噴霧することを含み得る。一実施形態では、熱ペナルティを回避するために、プロセスの第2段階に有機液体を添加する前に、廃熱または低位プロセス熱を使用して有機液体を加温し得る。
【0090】
一態様では、ディーゼル沸点範囲の炭化水素液体生成物のセタン価を増大及び改良するために、有機液体は、プロセスの第1段階、すなわち、水素化熱分解ユニットに添加され得る。一実施形態では、有機液体は、スラリーとしてプロセスの第1段階に添加され得る。一実施形態では、有機液体は、著しい量の固体が存在する褐色グリースを含み得る。
【0091】
本開示の一態様では、有機液体は、第1段階急冷として使用され得、水素化転化ユニットに向けられたプロセス蒸気の温度を低下させ得る。これにより、水素化熱分解ユニットと水素化転化ユニットとの間に配置されたチャー除去システムを出る高温プロセス蒸気を冷却するための熱交換器の必要性を減少または排除することができるであろう。
【0092】
上記態様に従って有機液体を添加することにより、そのプロセスは、非常に高品質のディーゼルを生成し得、所定のセルロース系供給物の高い芳香族含有量を相殺するのを助け得る。
【0093】
一態様では、本開示は、固体供給原料をプロセスに導入することによって高品質のディーゼル燃料の生成を改良するためのプロセスを提供し、その固体供給原料は、固体、乾燥、及び顆粒化高脂質藻類及び/または固体、乾燥、及び顆粒化脱脂質化藻類、ならびにそれらの組み合わせを含む、固体、乾燥、顆粒化藻類からなる群から選択される。この固体供給原料をプロセスに添加することにより、木材がプロセスにおいて転化される唯一の供給原料である場合に得られるディーゼル生成物よりも高いセタン価を有するより高いグレードのディーゼル生成物が生成されることが見出された。これは、揮発及び脱酸素化されると、灯油、ディーゼル、及びジェット燃料の沸点範囲にそれらが入る分子量を有するパラフィン系炭化水素を形成する、藻類の細胞構造中に脂質及びトリグリセリドなどの分子が存在することに起因し得る。重要なことに、これらの固体供給原料は、プロセスの第2段階の固定床または水素化転化反応器に導入されず、プロセスの第1段階の流動床または水素化熱分解反応器に導入され得る。固定床反応器は、ガス及び/または液体である供給原料を処理することはできるが、固体供給原料を処理することはできない。そのプロセスは、固体木材粒子などの供給原料と、固体、顆粒藻類粒子などの供給原料との様々な割合の組み合わせを処理し得、液体炭化水素生成物の特性を、第1段階の反応器に入る流れ(複数可)における各供給原料の割合に基づいて調節することを可能にする点で独特である。
【0094】
一態様では、本開示は、様々な炭化水素生成物の所望の比例収率を得るための、及びディーゼル生成物の品質、もしくはガソリン生成物の品質、または炭化水素生成物の任意の他のカットの品質を改良するための量及び手法で所定の供給原料を導入することを含むプロセスを提供する。例えば、木材のみが統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスで転化される場合、組み合わされた全炭化水素生成物はおよそ70質量%のガソリン及び30質量%のディーゼルを含み得る。野菜油がプロセスに投入され、木材と共に転化される場合、野菜油からの生成物のおよそ100質量%がディーゼル範囲の炭化水素であり得る。そのため、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスが2つの供給原料流(50質量%の木材及び50質量%の野菜油からなる合計を有する)を転化する場合、組み合わされた全炭化水素生成物は約35質量%のガソリン、及び約65質量%のディーゼルを含み、これは所望の比例収率であり得る。それ故、一実施形態では、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体全体の質量ガソリン百分率が、(第1のバイオマス含有供給原料の質量百分率の)約(0.7)倍に等しく、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体全体の質量ディーゼル百分率が、(第1のバイオマス含有供給原料の質量百分率の)約1-(0.7)倍に等しい。
【0095】
本開示の一態様では、プロセスは、一次供給原料を第1段階または水素化熱分解反応器に搬送することと、二次供給原料を第1段階の反応器に搬送することと、を含み、二次供給原料は一次供給原料とは異なる。一次供給原料はバイオマス供給原料を含み得る。二次供給原料は、上記で論じた有機液体を含み得る。一態様では、二次供給原料は、プロセスの第1段階の反応器に投入、噴霧、またはポンプ輸送され得る。このようにして、第1段階の反応器の温度プロファイルに対する独特で望ましいレベルの制御が達成され得る。例えば、一次供給原料、例えば木材は、流動化水素ガスが反応器の床に入る分配プレートに近接して、第1段階の反応器の底部の近くに導入され得る。最初に、各々の木材粒子は床から熱を吸収し、木材が床に入る固体供給原料入口の近くの局所温度を低下させる。しかしながら、木材の脱揮発の間に発生する蒸気は、次いで床を介して上昇し、発熱脱酸素化を受ける。この熱の放出は、最適であることが知られている温度の範囲を超えて流動床の上部区分における温度を上昇させ得る。この効果を低減または排除するために、プロセスは、第1段階の反応器に二次供給原料(例えば、野菜油、液体脂肪、及び液体グリース)を投入することを含み得る。特に、二次供給原料が、気化する際に大幅な量の熱エネルギーを消費し、脱酸素化する際に制限された(より少ない)量のエネルギーのみを放出する場合、二次供給原料は、二次供給原料が投入される位置の近くの床温度を低下させる働きをする。野菜油、液体脂肪、及び液体グリースは、木材よりも比例して少ない質量の化学的に結合した酸素を含み、それ故、上述の効果を有し得る。二次供給原料はまた、第1段階から出るプロセス蒸気流に投入され得、その場合、二次供給原料は、プロセス蒸気流の温度を低下させ得、第2段階の反応器における温度プロファイルの制御を助け得る。二次供給原料はまた、第2段階の反応器における温度プロファイルを調節及び制御するために、その中における様々な位置に投入され得る。
【0096】
本開示の一態様では、ディーゼル収率及びディーゼルセタン価を増加させる傾向のある脂肪、油、及びグリースに加えて、炭化水素生成物のガソリン及び芳香族化合物の含有量の割合を増加させる傾向のある他の有機液体を転化することが可能であることが見出された。例えば、従来の熱分解油、及び接触熱分解(高圧水素雰囲気の非存在下で)により発生する熱分解油は、組み合わせた炭化水素生成物全体における芳香族化合物及びナフテンの収率を増加させ得る。クラフト製紙プロセスによって発生する黒液は、リグニン及びヘミセルロースの水溶液、ならびに多様な他の汚染物質及び無機化合物からなる。黒液は、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスにより転化される場合、ガソリン範囲の炭化水素の比例収率ならびに炭化水素生成物全体の様々なカットの芳香族化合物及びナフテン含有量を増加させることが見出された。芳香族化合物の含有量は、任意の炭化水素燃料の重要なパラメータである。ガソリンでは、芳香族化合物の含有量はオクタン価に大幅に影響を及ぼし得、ディーゼル、灯油、及びジェット留分では、芳香族化合物の含有量は曇点及び粘度に重要な影響を及ぼす。芳香族化合物の含有量及び関連する分子の含有量は、燃料仕様を満たすために、所定の範囲内及び所定の最大値未満に保つべきであるが、熱分解油などの液体供給原料の、別の液体供給原料、例えば野菜油との共処理は、全炭化水素生成物の特性を調節すること、及び転化される異なる液体供給原料の割合を調節することによって生成物を最適化することを可能にし得ることが見出された。統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスは固体供給原料の転化を可能にし得るが、1つ以上の液体供給原料が転化されるような手法で作動することも可能である。液体炭化水素生成物の特性は次いで、一方の供給原料対他方の供給原料(複数可)の割合を増加させることによって制御され得る。
【0097】
本開示の一態様では、プロセスは、親水性または水性液体、例えば、熱分解油、黒液、及びスラリーを、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階に添加することを含むプロセスが提供される。水素化熱分解反応器の流動床は、水素化処理条件下で急速コーキングする傾向がある液体を受け入れて好適に処理し得る点で驚くべき利点を提供する。急速なコークス形成はしばしば回避できないが、開示されたプロセスのバブリング流動床の性質のために、固体コークスが大きな固体構造を形成することが低減または防止されることが発見された。その代わりに、コークスがプロセスの第1段階の反応器で形成される範囲で、コークスは、床材料の粒子の外表面上に形成し、摩滅または磨耗され、次いで溶出によって床から除去される。次いでコークスは、第1段階の反応器の下流のチャー/固体回収トレインを介して除去される。それ故、例えば、高脂質藻類の水性スラリーでさえ、プロセスの第1段階において直接的かつ連続的に処理され得る。スラリーが床に入ると、スラリーに付随する水は蒸発し、藻類材料は加熱及び脱揮発され、脱揮発中に放出された蒸気は水素化処置される。藻類材料の脱揮発中に形成された任意のコークスまたはチャーは、次いで摩滅され、溶出される。
【0098】
本開示の一態様では、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階が、触媒毒を含有し得る汚染されたまたは低価値の供給原料流(黒液など)の処理に関して独特かつ驚くべき利点を提供することが発見された。検討中の供給原料流が、脱酸素化及び水素化処置反応を行うのに必要な触媒の活性を急速に劣化または低下させる触媒毒を含有する液体である場合、供給原料流は固定床反応器において容易に処理されないことがある。コーキングがない場合であっても、そのような反応器の床は、頻繁な除去及び交換が必要であり、不可能ではないにしても、プロセスの一定の安定した連続的な作動を困難にするであろう。統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階の流動床中の触媒は絶えず交換される。具体的には、相対的に少量の新しい触媒が連続的にまたは間隔をあけて添加され得、使用済みの触媒は摩滅及び/または溶出を介して流動床の頂部から除去され得る。使用済み触媒は、第1段階の反応器を出るプロセス蒸気からチャー/コークスを除去するのと同じ固体回収トレインを介してプロセスから回収され得る。この理由から、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスは、液体炭化水素生成物流の特性を調節、制御、及び最適化することを可能にする、固体または液体の広範囲の供給原料の共処理を可能にする。
【0099】
本開示の一態様では、液体供給原料は、固体供給原料上への堆積を介して搬送され得、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階において処理され得る。例えば、高レベルの水を含有する熱分解油、水性スラリー、または黒液などの液体供給原料は、木材チップに噴霧され得る。次いで、水を放出、例えば乾燥させて、液体供給原料の最も価値ある留分を木材チップの上及び内部において固体または半固体の堆積物として残存させ得る。次いで、これらの価値のある留分は第1段階の反応器に搬送され得る。また、供給原料の脱揮発の間に発生した任意のコークスは、木材チップの固体チャーの構造に組み込まれる傾向があり得、触媒毒または腐食種(塩素など)もまた、そのチャーに効果的に結合し得る。チャーが床から溶離され、プロセスから回収される場合、コークス、触媒毒、及び腐食種もまた除去される傾向にあり得る。
【0100】
本開示の態様では、野菜油を含むがこれに限定されない液体供給原料は、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階の反応器おいて、木材チップを含むがこれに限定されない固体供給原料と共処理され得る。野菜油などの疎水性供給原料は、乾燥を介して大幅に改良されないことがある。この場合、第1段階の反応器、第2段階の反応器、またはプロセスの装備の任意の他の部分を大幅に改変することなく、液体供給原料を固体供給原料と共処理することが依然として可能である。リグノセルロース系供給原料は、大量のこれらの液体(すなわち、脂肪、野菜油など)を吸着し得ることが発見された。木材チップ(例えば、おがくず)は、十分に疎水性の液体を吸着して、50質量%を超える液体である組み合わされた供給原料を生成し得ることが見出された。驚くべきことに、得られた組み合わせ(おがくずプラス油)の機械的特性は、依然として乾燥木材チップのものとかなり同様である。処理される供給原料を第1段階の反応器に導入するために固体取扱い設備を改変する必要はなく、第1段階の反応器に直接投入する場合のように、次いで液体供給原料がプロセスに加えられる。
【0101】
本開示の態様では、黒液などの特に問題のある液体供給原料は、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階の反応器の上流の前反応器において脱揮発され得る。そのような前反応器は、いくつかの固体材料の流動床、機械的に攪拌される床、加熱され加圧されるボールミルなどを含み得る。前反応器の機能は、液体供給原料をプロセスの蒸気に転化することであり得、それは次いで第1段階の反応器においてさらに処理され得る。木材チップまたは都市固形廃棄物に由来する材料などの固体供給原料も、前反応器において液体供給原料と一緒に共処理され得る。前反応器中の任意の固体床材料の特性はまた、触媒毒及び腐食種を捕捉し、第1段階の反応器に入るプロセス蒸気流の特性及び特徴を大幅に改良し得る。
【0102】
本開示の一態様では、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの独特かつ驚くべき特徴が広い範囲の用途を提供し、望まれる通り、複数の固体または液体供給原料の第1段階の反応器と第2段階の反応器のいずれかでの転化を可能にすることが発見された。各々の場合では、供給原料流の特性及び割合は、所望の液体炭化水素生成物流の各々の特性を最適化するために調節され得る。
【0103】
図1は、水素含有流116を使用して、第1段階または水素化熱分解反応器114においてバイオマス112を水素化熱分解する段階を行うための1つの可能なプロセスを図示している。図1に示されているように、水素含有流116は、改質器流出物または排出流128と組み合わされてもよく、水素化熱分解反応器114の底部で導入されてもよい。水素含有流116は、温度及び/もしくは局所的なガス速度を制御する、または消費水素の均一性を改良する目的のために、水素化熱分解反応器114の複数の軸方向の高さ(脱酸素化触媒床118内及び/またはその外部の高さに対応する)で導入されてもよい。
【0104】
そのため、水素化熱分解反応器114は、脱酸素化触媒床118を含んでもよく、その上が拡張径ガス触媒離脱ゾーン120である。ガス触媒離脱ゾーン120は、一般に、水素化熱分解反応器114において採用される作動条件下で、触媒床118について輸送離脱高さ(TDH)より上の高さまで延在してもよい。ガス触媒離脱ゾーン120は、通常なら、床118を通じてより高い空塔ガス速度で水簸される比較的小さな径の触媒粒子の効果的な離脱を促進する、減少した空塔ガス速度のゾーンを提供し得る。任意に、ガス触媒分離は、機械的分離装置、例えばガス触媒離脱ゾーン120内のサイクロン(図示せず)を使用してさらに改良され得る。
【0105】
また、1つ以上の脱酸素化触媒入口122及び1つ以上の脱酸素化触媒排出出口124は、水素化熱分解反応器114への及び/または水素化熱分解反応器114からの脱酸素化触媒の連続的もしくは間欠的な導入及び/もしくは除去を提供し得る。例えば、新しい脱酸素化触媒は、脱酸素化触媒入口(複数可)122を通じて、連続的または間欠的に導入され得、使用済みまたは部分的に使用済みの脱酸素化触媒は、脱酸素化触媒排出出口(複数可)124を通じて、連続的または断続的に除去され得る。
【0106】
図1に示される実施形態によれば、水素化熱分解反応器生産物130における実質的に全てのチャー粒子は、水素化熱分解反応器気固分離器132中で除去される。同伴されたチャー粒子は、例えば外部サイクロン、静電分離器、バリアフィルタ、及び比較的濃縮されたチャー粒子の流出物流を提供する、他の機械的装置の場合、フィルタ、外部サイクロン、静電分離器、液体接触器(例えば、バブラー)などを含む、機械的装置を使用して除去して、減少したチャー含有量及び任意のチャー豊富流136を有する精製された水素化熱分解蒸気流134が提供され得る。一実施形態では、熱交換器138は、水素化転化反応器150に導入される前に、精製された水素化熱分解蒸気流134を加熱するために使用され得る。
【0107】
一実施形態では、有機液体142が第2段階または水素化転化反応器150に導入され得る。有機液体142は、トリグリセリド及び/または遊離脂肪酸を含む動物性脂肪または植物油であり得る。例として、褐色グリース、野菜油、及びトール油が挙げられる。有機液体142は、環境上のコスト及び負担で処理及び/または処分されなければならないであろう別のプロセスの廃棄物であり得る。そのプロセスは、プロセスの第2段階において有機液体142を脱酸素化及び転化してパラフィンとすることを含み得る。そのプロセスは、パラフィンをディーゼル沸点範囲の液体に転化することを含み得る。一態様では、そのプロセスは、有機液体142が既定の温度まで急速に加熱される水素化転化反応器150に有機液体142をポンプ輸送または噴霧することを含み得る。一実施形態では、熱ペナルティを回避するために、水素化転化反応器150に有機液体142を添加する前に、廃熱または低位プロセス熱を使用して有機液体142を加温し得る。
【0108】
図1に示されているように、有機液体142は精製された水素化熱分解蒸気流134に添加されて、精製された水素化熱分解蒸気流134を急冷し得、これにより水素化転化反応器150に向けられた精製された水素化熱分解蒸気流134の温度を低下させ得る。有機液体142は、熱交換器138の必要性が減少または排除され得る程度に、精製された水素化熱分解蒸気流134を急冷し得る。
【0109】
一態様では、ディーゼル沸点範囲の炭化水素液体生成物のセタン価を増大及び改良するために、有機液体152は、プロセスの第1段階、すなわち、水素化熱分解ユニット114に添加され得る。一実施形態では、有機液体152は有機液体142と同一かまたは類似し得る。それ故、有機液体152は、トリグリセリド及び/または遊離脂肪酸を含む動物性脂肪または植物油であり得る。例として、褐色グリース、野菜油、及びトール油が挙げられる。有機液体152は、環境上のコスト及び負担で処理及び/または処分されなければならないであろう別のプロセスの廃棄物であり得る。一実施形態では、有機液体152は、スラリーとしてプロセスの第1段階に添加され得る。一実施形態では、有機液体152は、大幅な量の固体が存在する褐色グリースを含み得る。上記態様に従って有機液体152を添加することにより、プロセスは、例えば高品質のディーゼル燃料を含む非常に高品質の燃料生成物162を生成し得、水素化熱分解反応器114に導入される所定のセルロース系バイオマス供給物の高い芳香族含有量を相殺するのを助け得る。
【0110】
一実施形態では、有機液体142は上述の水素化転化反応器150に添加され得、有機液体152は上述の水素化熱分解反応器114に添加され得る。一実施形態では、有機液体142は上述の水素化転化反応器150に添加され得、有機液体152は上述の水素化熱分解反応器114に添加されない。一実施形態では、有機液体152は上述の水素化熱分解反応器114に添加され得、有機液体142は上述の水素化転化反応器150に添加されない。
【0111】
図1に示されているように、水素化転化反応器150からの水素化転化生成物流154は、熱交換器156において冷却され得、次いで水素化転化生成物流154中のガス及び凝縮液体は分離器158において分離され得る。分離器158からのガス144は、改質器160に搬送され得る。改質器160は水蒸気改質器であり得る。改質器流出物または排出流128は、改質器160から水素化熱分解反応器114に搬送され得る。改質器流出物(蒸気改質器からの生産物)またはその一部は、水素化熱分解プロセスにリサイクルするための高純度の水素含有ガス流を提供するために、付加的な分離設備、例えば膜分離ユニットまたは圧力スイング吸着(PSA)ユニットを使用して、水素を濃縮してもよい(例えば、CO及び/または他のガスの選択的除去によって)。これは、次に、水蒸気改質器流出物からの分離のCO濃縮生成物の回収を可能にする。分離器158からの液体流出物162は、高品質のディーゼル含有生成物を含み得る。
【0112】
本開示の一態様では、プロセスは、一次供給原料を第1段階または水素化熱分解反応器に搬送することと、二次供給原料を第1段階の反応器に搬送することと、を含み、二次供給原料は一次供給原料とは異なる。一次供給原料はバイオマス供給原料、例えば、バイオマス112を含み得る。二次供給原料は、上記で論じた有機液体、例えば、有機液体152を含み得る。一態様では、二次供給原料は、プロセスの第1段階の反応器に投入、噴霧、またはポンプ輸送され得る。このようにして、第1段階の反応器114の温度プロファイルに対する独特で望ましいレベルの制御が達成され得る。例えば、バイオマス112などの一次供給原料(例えば、木材)は、流動化水素ガス(水素含有流と改質器流出物または排出流128との組み合わせであり得る)が反応器114の床118に入る分配プレートに近接して、第1段階反応器114の底部の近くに導入され得る。最初に、各木材粒子は床から熱を吸収し、木材が床118に入る固体供給原料入口の近くの局所温度を低下させる。しかしながら、木材の脱揮発の間に発生する蒸気は、次いで床118を介して上昇し、発熱脱酸素化を受ける。この熱の放出は、最適であることが知られている温度の範囲を超えて流動床118の上部区分における温度を上昇させ得る。この効果を低減または排除するために、プロセスは、第1段階の反応器に二次供給原料または有機液体152(例えば、野菜油、液体脂肪、及び液体グリース)を投入することを含み得る。特に、二次供給原料が、気化する際に大幅な量の熱エネルギーを消費し、脱酸素化する際に制限された(より少ない)量のエネルギーのみを放出する場合、二次供給原料は、二次供給原料が投入される位置の近くの床温度を低下させる働きをする。野菜油、液体脂肪、及び液体グリースは、木材よりも比例して少ない質量の化学的に結合した酸素を含み、それ故、上述の効果を有し得る。二次供給原料はまた、第1段階から出るプロセス蒸気流に投入され得、その場合、二次供給原料は、プロセス蒸気流の温度を低下させ得、第2段階の反応器における温度プロファイルの制御を助け得る。二次供給原料はまた、第2段階の反応器における温度プロファイルを調節及び制御するために、その中における様々な位置に投入され得る。
【0113】
図2は、本開示による別の実施形態の概略フロー図である。図2に示されているように、固体供給原料264は、床218を有する水素化熱分解反応器214に導入され得る。固体供給原料264は、固体の乾燥した顆粒化高脂質藻類を含む固体の乾燥した顆粒化藻類からなる群から選択される。図2に示されているように、固体供給原料264は、水素化熱分解反応器214への導入の前に、バイオマス212と組み合わされ得る。あるいは、固体供給原料264は、水素化熱分解反応器214に導入される前に、水素含有ガス216及び/または脱酸素化触媒を導入するための入口及び/または有機液体252に添加され得る。
【0114】
固体供給原料264をプロセスに添加することにより、木材がプロセスにおいて転化される唯一の供給原料(例えば、バイオマス212)である場合に得られるディーゼル生成物よりも高いセタン価を有するより高いグレードのディーゼル生成物が生成されることが見出された。それ故、分離器258からの液体流出物262は、高品質のディーゼル含有生成物を含み得る。液体流出物262は、図1に示される液体流出物162と同様であり得る。より高いセタン価を有するディーゼル生成物のより高いグレードは、供給原料264中の藻類の細胞構造中に脂質及びトリグリセリドなどの分子が存在することに起因し得る。これらの分子は、揮発及び脱酸素化されると、灯油、ディーゼル、及びジェット燃料の沸点範囲にそれらが入る分子量を有するパラフィン系炭化水素を形成する。重要なことに、固体供給原料264は、プロセスの第2段階の固定床または水素化転化反応器に導入されず、プロセスの第1段階の流動床または水素化熱分解反応器に導入され得る。固定床反応器は、ガス及び/または液体である供給原料を処理することはできるが、固体供給原料を処理することはできない。そのプロセスは、固体木材粒子などの供給原料と、固体、顆粒藻類粒子などの供給原料との様々な割合の組み合わせを処理し得、液体炭化水素生成物の特性を、第1段階の水素化熱分解反応器214に入る流れ(複数可)における各供給原料の割合に基づいて調節することを可能にする点で独特である。
【0115】
一実施形態では、上述の水素化転化反応器150への有機液体242の添加の任意の組み合わせ、及び/または上述の水素化熱分解反応器214への有機液体252の添加の組み合わせを伴ってまたは伴わずに、固体供給原料264は上述の水素化熱分解反応器214に添加され得る。
【0116】
図3は、水素含有流316を使用して、第1段階または水素化熱分解反応器314において一次供給原料312を水素化熱分解する段階を行うための可能なプロセスを図示している。図3に示されているように、一次供給原料312は、水素化熱分解反応器314に供給され得る。一次供給原料312は、熱分解油、黒液、及びスラリーからなる群から選択され得る。熱分解油は、触媒熱分解(高圧水素雰囲気の非存在下)によって発生し得る。熱分解油は、組み合わされた全炭化水素生成物の芳香族化合物及びナフテンの収率を増大させ得る。クラフト製紙プロセスによって発生する黒液は、リグニン及びヘミセルロースの水溶液、ならびに多様な他の汚染物質及び無機化合物からなる。黒液は、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスにより転化される場合、ガソリン範囲の炭化水素の比例収率ならびに炭化水素生成物全体の様々なカットの芳香族化合物及びナフテン含有量を増加させることが見出された。前述したように、芳香族化合物の含有量は、任意の炭化水素燃料の重要なパラメータである。ガソリンでは、芳香族化合物の含有量はオクタン価に大幅に影響を及ぼし得、ディーゼル、灯油、及びジェット留分では、芳香族化合物の含有量は曇点及び粘度に重要な影響を及ぼす。芳香族化合物の含有量及び関連する分子の含有量は、燃料仕様を満たすために、所定の範囲内及び所定の最大値未満に保つべきであるが、熱分解油などの液体供給原料の、別の液体供給原料、例えば有機液体352(例えば、野菜油)との共処理は、全炭化水素生成物の特性を調節すること、及び転化される異なる液体供給原料の割合を調節することによって生成物を最適化することを可能にし得ることが見出された。統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスは固体供給原料の転化を可能にし得るが、1つ以上の液体供給原料のみが転化されるような手法で作動することも可能である。液体炭化水素生成物の特性は次いで、一方の供給原料対他方の供給原料(複数可)の割合を増加させることによって制御され得る。
【0117】
前述によれば、そのプロセスは所望の燃料生成物362を生成する。唯一のまたは一次供給原料312が熱分解油である場合、所望の燃料生成物362は、唯一のまたは一次供給原料が木材などのバイオマスである場合よりも、全炭化水素生成物中の芳香族化合物及びナフテンの比例収率が高い傾向にあり得る。唯一のまたは一次供給原料312が黒液である場合、所望の燃料生成物362は、唯一のまたは一次供給原料が木材などのバイオマスである場合よりも、全炭化水素生成物中の様々なカットのガソリン範囲炭化水素ならびに芳香族化合物及びナフテンの比例収率が高い傾向にあり得る。
【0118】
本開示の一態様では、プロセスは、親水性または水性液体、例えば、熱分解油、黒液、及びスラリーを含む一次供給原料312を、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階に添加することを含む。そのプロセスは、従来的に、水素化処置のための固定床反応器に親水性または水性の液体、例えば、熱分解油、黒液、及びスラリーを添加することが、固定床におけるコーキング及び堆積のために非好適であるため、驚くべき利点を提供する。統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階の反応器314のバブリング流動床318は、水素化処理条件下で急速コーキングする傾向のある液体を受け入れて好適に処理し得ることが発見された。急速なコークス形成はしばしば回避できないが、開示されたプロセスのバブリング流動床の性質のために、固体コークスが大きな固体構造を形成することが低減または防止されることが発見された。その代わりに、コークスがプロセスの第1段階の反応器314で形成される範囲で、コークスは、床材料の粒子の外表面上に形成し、摩滅または磨耗され、次いで溶離によって床から除去される。次いでコークスは、チャー/固体回収トレイン、例えば、第1段階の反応器314の下流の気固分離器332を介して除去される。それ故、例えば、高脂質藻類の水性スラリーでさえ、プロセスの第1段階314において直接的かつ連続的に処理され得る。スラリーがバブリング流動床318に入ると、スラリーに付随する水は蒸発し、藻類材料は加熱及び脱揮発され、脱揮発中に放出された蒸気は水素化処置される。藻類材料の脱揮発中に形成された任意のコークスまたはチャーは、次いで摩滅され、溶出される。
【0119】
本開示の一態様では、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階314のバブリング流動床318が、触媒毒を含有し得る汚染されたまたは低価値の供給原料流(黒液など)の処理に関して独特かつ驚くべき利点を提供することが発見された。検討中の供給原料流が、脱酸素化及び水素化処置反応を行うのに必要な触媒の活性を急速に劣化または低下させる触媒毒を含有する液体である場合、供給原料流を固定床反応器において容易に処理することはできない。コーキングがない場合であっても、そのような反応器の床は、頻繁な除去及び交換が必要であり、不可能ではないにしても、プロセスの一定の安定した連続的な作動を困難にするであろう。統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階314の流動床318中の触媒は絶えず交換される。具体的には、相対的に少量の新しい触媒が連続的にまたは間隔をあけて脱酸素化触媒入口322を介して添加され得、使用済みの触媒は摩滅及び/または水簸を介して流動床318の頂部から除去され得る。また、使用済みのまたは部分的に使用済みの脱酸素化触媒は、脱酸素化触媒排出出口(複数可)324を介して連続的または間欠的に除去され得る。使用済み触媒は、第1段階の反応器314を出るプロセス蒸気からチャー/コークスを除去するのと同じ固体回収トレイン、例えば、気固分離器332を介してプロセスから回収され得る。この理由から、本明細書に記載の統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスは、液体炭化水素生成物流の特性を調節、制御、及び最適化することを可能にする、固体または液体の広範囲の供給原料の共処理を可能にする。
【0120】
図4は、固体供給原料480上への液体供給原料470の堆積を行うプロセスを図示している。固体供給原料480は、バイオマス、例えば、木材チップを含み得る。図4に示されているように、液体供給原料470を固体供給原料480上に噴霧または堆積させて供給原料流412を形成し得る。一実施形態では、液体供給原料470はリザーバ472に供給され得る。リザーバ472は、液体供給原料470を噴霧器474に供給し得る。噴霧器474は、液体供給原料470を固体供給原料480に噴霧するように構成され得る。液体供給原料470を固体供給原料480に適用した後、混合された供給原料は供給原料412を形成する。図1~3のいずれかの実施形態に従って、供給原料412は、乾燥器476から第1段階の反応器の入口に搬送され得る。それ故、液体供給原料470は、固体供給原料480上への堆積を介して入口440に搬送され得、次いで、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階の反応器114、214、314(それぞれ図1、2及び3に示される)において処理され得る。液体供給原料470は、熱分解油、黒液、及び水性スラリーからなる群から選択され得る。水性スラリーは藻類を含み得る。黒液及び水性スラリーは高レベルの水を含有する。次いで、水を放出、例えば乾燥機476において乾燥させて、液体供給原料470の最も価値ある留分を固体供給原料480の上及び内部において固体または半固体の堆積物として残存させ得る。次いで、これらの価値のある留分は第1段階の反応器114、214、314に搬送され得る。また、供給原料の脱揮発の間に発生した任意のコークスは、木材チップの固体チャーの構造に組み込まれる傾向があり得、触媒毒または腐食種(塩素など)もまた、そのチャーに効果的に結合し得る。チャーが床から溶離され、プロセスから回収される場合、コークス、触媒毒、及び腐食種もまた除去される傾向にあり得る。
【0121】
本開示の一態様では、液体供給原料470は、疎水性供給原料を含み得、またはより一般的には、本明細書に記載の共供給物のいずれかを含み得る。上述したように、液体供給原料470は、代替的に、水素化熱分解反応器蒸気から凝縮される水素化熱分解バイオ油、または約400℃(752°F)よりも高い初期沸点を有する重沸点範囲留分などの、水素化熱分解プロセスから回収され、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の分別によって回収される生成物を含み得る。例示的な実施形態では、液体供給原料470は、脂肪、油、及びグリース(野菜油を含むがこれに限定されない)からなる群から選択され得る。疎水性供給原料は、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階の反応器114、214、314において、木材チップを含むがこれに限定されない固体供給原料と共処理され得る。野菜油などの疎水性供給原料は、乾燥を介して大幅に改良することはできない。それ故、液体供給原料470が疎水性供給原料(複数可)を含む場合、乾燥器476は必要ではない場合がある。この場合、第1段階の反応器(114、214、314)、第2段階の反応器(150、250、350)、またはプロセスの装備の任意の他の部分を大幅に改変することなく、液体供給原料470を固体供給原料480と共処理することが依然として可能である。リグノセルロース系供給原料は、大量のこれらの液体(すなわち、脂肪、野菜油など)を吸着し得ることが発見された。木材チップ(例えば、おがくず)は、十分に乾燥していれば、十分に疎水性の液体を吸着して、50質量%を超える液体である組み合わされた供給原料を生成し得ることが見出された。驚くべきことに、得られた組み合わせ(おがくずプラス油)の機械的特性は、依然として乾燥木材チップのものとかなり同様である。処理された供給原料412を第1段階の反応器(114、214、314)に導入するために固体取扱い設備を改変する必要はなく、第1段階の反応器(114、214、314)に直接投入する場合のように、次いで液体供給原料がプロセスに加えられる。
【0122】
図5は、バイオマス含有供給原料及び共供給物(例えば、本明細書に記載の脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体)の前処理を行い、続いて前処理から発生する前反応器蒸気流の水素化熱分解を行う1つの可能なプロセスを図示している。黒液などの特に問題のある液体供給原料は、統合された水素化熱分解及び水素化転化プロセスの第1段階の反応器(114、214、314)の上流の前反応器509において脱揮発され得る。前反応器509は、いくつかの固体材料の流動床505、機械的に攪拌される床、加熱され加圧されるボールミルなどを含み得る。前反応器509の機能は、供給原料入口501を通って前反応器509に入る供給原料をプロセス蒸気流に転化することであり得、それは次いで第1段階の反応器(114、214、314)においてさらに処理され得る。木材チップまたは都市固形廃棄物に由来する材料などの固体供給原料も、前反応器509において液体供給原料と一緒に共処理され得る。前反応器中の任意の固体床材料の特性はまた、触媒毒及び腐食種を捕捉し、第1段階の反応器に入るプロセス蒸気流の特性及び特徴を大幅に改良し得る。一態様では、供給原料入口501における供給原料は、トリグリセリド及び/または遊離脂肪酸(例えば、褐色グリース、野菜油、及びトール油)、熱分解油、黒液、及び水性スラリー、ならびにそれらの組み合わせを含む動物性脂肪または植物油からなる群から選択される液体供給原料を含み得る。一態様では、供給原料は固体のバイオマス含有供給原料をさらに含み得る。
【0123】
この特定の実施形態によれば、液体供給原料(例えば、脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体)及びバイオマス含有供給原料は、前反応器ガス入口503を通じて前反応器509に導入される前反応器ガスと組み合わされた後に、供給原料入口501を通じて前反応器509の下部区分(例えば、底部)に導入され得る。供給原料及び前反応器ガスは、同じまたは異なる位置、例えば粒子床505内で前反応器509に導入され得る。供給原料及び前反応器ガスの両方はまた、独立して、複数の位置、例えば、入口550a、550b、及び550cを通じて導入され得る。例えば、前反応器ガスは、温度及び/または局所的なガス速度を制御する、または反応ガス(例えば、水素)の消費量の均一性を改良する目的のために、前反応器509の、入口550a、550b、及び550cの高さに対応する、複数の軸方向の高さ(粒子床505内及び/またはその外部のものと対応する)で導入され得る。
【0124】
前反応器ガスは、水素、または二酸化炭素などの不活性ガスを含有し得、この反応器中に含有される粒子床505の固体粒子の一部もしくは全ての流動化のために、前反応器509内で、十分な空塔速度を有し得る。粒子床505は、粒子床界面507で起こる気固分離のため、例えば、前反応器509内の前反応器ガスが、粒子床505を流動化するが、固体床材料のエントレインメント(エラトリエーション)に対する不十分な空塔速度を有する場合、供給原料入口501を通じて導入されるバイオマス含有供給原料の粒子及び/または脂肪族炭化水素前駆体または芳香族炭化水素前駆体の固体粒子(そのような供給物が固体形態で使用される場合)、及びまず前反応器509に装入され、この反応器中に保持され得る固体床材料を含み得る。そのため、粒子床界面507は、拡張されたもしくは静止した、高密度の床相の上側境界、または固定床の上側境界を表し得る。前反応器509から出る前反応器蒸気流513から、確実に固体床材料を完全または実質的に完全に分離するために、拡張径気固離脱ゾーン511は、粒子床界面507より上の、この反応器の上部区分(例えば、フリーボード領域)に含まれ得る。気固離脱ゾーン511は、一般に、前反応器509中に採用される作動条件下で、固体床材料の粒子について輸送離脱高さ(TDH)より上の高さまで延在し得る。気固離脱ゾーン511は、通常なら、粒子床505を通じてより高い空塔ガス速度で水簸される比較的小さな径の固体粒子の効果的な離脱を促進する、減少した空塔ガス速度のゾーンを提供し得る。任意に、気固分離は、気固離脱ゾーン511の内側、または外側及び下流のサイクロン(図示せず)などの機械的分離装置を使用してさらに改良され得る。
【0125】
1つの特定の実施形態によれば、固体排出出口521a、521b、及び521cから取り出される固体は、触媒水素化処置活性を有する固体床材料を含み得る。この活性は、不純物、例えば炭素(コークス)、溶解プラスチック、及び他の反応生成物または供給原料不純物が、固体床材料上に堆積するので、時間と共に低下する。そのため、固体排出出口(複数可)521からの除去後、水素化処置触媒である固体床材料は、蓄積されたコークス及び他の不純物を酸素で燃焼させることによって好適な再生成に供され得、前反応器509に(例えば、床材料入口519を通じて)戻され得る再生成された固体床材料を生じさせる。供給原料からの固体は、固体排出出口521を通じて除去され得、これらの固体は、非生物学的材料(例えば、プラスチック)の回収/再生のために送られ得る。
【0126】
図5の実施形態によれば、前反応器蒸気流513は、同伴された固体、例えば、固体床材料のチャー及び/または微粒子の除去のために、任意の前反応器気固分離器515に供給される。同伴された固体は、フィルタ、外部サイクロン、静電分離器、液体接触器(例えば、バブラー)などを含む、機械的装置を使用して除去され得る。前反応器気固分離器515が使用される場合、前反応器蒸気流513に対して、減少した含有量の固体を有する、精製された前反応器蒸気流512が得られる。固体を分離するための特定の方法に応じて、前反応器蒸気流513に対して、増加した含有量の固体を有する、固体豊富流517も得られ得る。例えば、外部サイクロン、静電分離器、及び他の機械的装置は、比較的濃縮された固体粒子の連続的な固体豊富流517を提供し得る。一般に、固体豊富流517中の固体粒子が、精製された前反応器蒸気流512中に残存する任意の固体粒子と比較して、より高い平均粒径及び/またはより高い平均粒子重量を有する。気固分離器515が使用される場合、前反応器蒸気流513の一部、すなわち、精製された前反応器蒸気流512は、水素化熱分解反応器(114、214、314)に入口540を介して導入され得、固体豊富流517は水素化熱分解プロセスから除去され得る。気固分離器が使用されない場合、前反応器509から同伴された固体を含む、全ての前反応器蒸気流513は、水素化熱分解反応器(114、214、314)に導入され得る。
【0127】
前反応器蒸気流513の全てまたは一部に加えて、水素含有流(116、216、316)はまた、使用される場合(例えば、図1図2、または図3に図示される特定の実施形態に従って)、水素化熱分解反応器(114、214、314)に導入され得る。
【0128】
図1図2、または図3の実施形態によれば、水素及び他の非凝縮性ガス(例えば、CO、CO、及び/またはCH)を含むガス混合物を含有する、水素化転化生成物流154、254、354(例えば、水素化転化反応器からの流出物または生産物)は、外部熱交換媒体(例えば、冷却水)、統合されたプロセス内部の交換媒体(例えば、供給流)、またはそれらの組み合わせを利用し得る、水素化転化ゾーン出口熱交換器156、256、356を使用して冷却され得る。水素化転化生成物流154、254、354(例えば、上述のような単一の水素化転化反応器または2つ以上のそのような反応器からの生産物)の冷却は、分離器158、258、358中のこの流れの成分の相分離を可能にする。分離器158、258、358は、複数の理論的平衡液体蒸気分離段階を達成するために、例えば、直列に作動する1つ以上のフラッシュ分離器を使用して、または充填カラム及び任意にストリッピング媒体(例えば、流動ストリッピングガス)を使用して、達成され得る相分離の1つ以上の段階を含み得る。ガス混合物の成分と実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体の成分との間の相対的な揮発性における大幅な差のため、単一のフラッシュ分離器または2つのフラッシュ分離器を使用する分離は、十分であり得る。
【0129】
分離器158、258、358から、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体162、262、362は、凝縮留分または液相として回収され、ガス混合物144、244、344は、非凝縮留分または蒸気相として除去される。分離されたガス混合物144、244、344の少なくとも一部は、蒸気改質器160、260、360に導入され、これは、統合されたプロセスの水素必要量の一部もしくは全てを満たすために、コンプレッサー126、226、326を介してリサイクルされ得る正味の生成物の水素を提供する。蒸気改質器160、260、360も、正味の量のCOを生成する。蒸気改質器160、260、360、またはその一部からの生産物は、水素化熱分解反応器114、214、314にリサイクルするための高純度の水素含有ガス流を提供するために、付加的な分離設備(図示せず)、例えば膜分離ユニットまたは圧力スイング吸着(PSA)ユニットを使用して、水素が濃縮され得る(例えば、CO及び/または他のガスの選択的除去によって)。また、実質的に完全に脱酸素化された炭化水素液体162、262、362は、実質的に完全に脱酸素化されたより高価値の液体生成物、例えばガソリン沸点範囲及び/またはディーゼル燃料沸点範囲炭化水素留分を得るために、上述のように、さらなる分離設備(図示せず)、例えば蒸留塔または一連の蒸留塔を使用して、分別され得る。
【0130】
全体として、本開示の態様は、共供給物の使用が、様々なプロセス及び最終生成物の目的を満たす改善された柔軟性を含む、しばしば本明細書に記載のさらなる利点及び有益な結果と組み合わせて、作動条件または生成物特性を有益に改良し得る水素化熱分解プロセスに関連する。当業者は、本開示から得られる知識によって、様々な変化が、本開示明の範囲から逸脱することなく、これらの方法においてなされ得ることを認識する。理論上または観察された現象もしくは結果を説明するために使用される機構は、単なる例証であり、添付したクレームの範囲をいかなる方法であれ限定しないと解釈されるべきである。上記明細書において、本開示をその特定の好ましい実施形態に関連させて記載し、例証の目的のために詳細を記載してきたが、本開示はさらなる実施形態の影響を受け、本明細書に記載した特定の詳細が本開示の基本原理から逸脱することなく大いに変更可能であることが当業者には明らかである。本開示の特徴は、本開示の趣旨から大幅に逸脱することなく、改変、変更、変化、または置換されやすいことを理解すべきである。例えば、各種要素の寸法、数、サイズ、及び形状は、特定の用途に適合するように変更され得る。したがって、本明細書において例証され、記載される特定の実施形態は、単なる例証目的であり、添付の特許請求の範囲に説明される本開示を限定するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5