(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】ゲル化剤を含む飲食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/269 20160101AFI20230202BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230202BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20230202BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20230202BHJP
A61K 47/36 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
A23L29/269
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L2/52 101
A23L2/38 P
A23L2/02 B
A61K47/36
(21)【出願番号】P 2018019964
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501360821
【氏名又は名称】住友ファーマフード&ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】内藤 彰子
(72)【発明者】
【氏名】柴村 歩美
(72)【発明者】
【氏名】平田 茉莉子
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-517568(JP,A)
【文献】特開2009-247286(JP,A)
【文献】Research Disclosure,CP Kelco U.S., Inc., 2013, 594013, p.1219-1222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00- 2/89
A23L 21/00-21/25
A21L 29/20-29/30
C08B 1/00-37/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤を含む飲食品の製造方法であって、
ゲル化剤と、飲食品とを20~65℃で混合して、前記ゲル化剤を含む飲食品を製造することを備え、
前記ゲル化剤は、ジェランガムを含有し、
前記ジェランガムは、
部分的に脱アシル化された部分脱アシル化ジェランガムであり、1質量%食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度に対する、1質量%食塩水に0.5質量%となるように80℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度の比が50%以上であり、且つ、1質量%食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルの最大変形量に対する破断点の変形量である破断変形率が50%以上である、ゲル化剤を含む飲食品の製造方法。
【請求項2】
前記ジェランガムは、1質量%食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させたときのセット温度が55~70℃である、請求項1に記載のゲル化剤を含む飲食品の製造方法。
【請求項3】
20~65℃で混合した後に前記ゲル化剤を含む飲食品を再加温する、請求項1または2に記載のゲル化剤を含む飲食品の製造方法。
【請求項4】
前記ゲル化剤は、さらに、脱アシル型ジェランガムを2~10質量%含有する、請求項1~
3のいずれかに記載のゲル化剤を含む飲食品の製造方法。
【請求項5】
前記飲食品が、咀嚼及び/または嚥下困難者用の飲食品である、請求項1~
4のいずれかに記載のゲル化剤を含む飲食品の製造方法。
【請求項6】
20~65℃で混合した後に前記ゲル化剤を含む飲食品を加熱しない、請求項1または2に記載のゲル化剤を含む飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化剤、及び、それを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者人口の増加に伴い、飲食品の咀嚼機能や飲み込み機能が低下した咀嚼及び/または嚥(えん)下困難者(以下、咀嚼及び/または嚥下困難を、咀嚼・嚥下困難という場合がある。)が増加している。咀嚼・嚥下困難者は、食べ物を細かく噛み砕くことや、上手に飲み込むことが難しい。特に、飲食品を飲み込む際に誤って気管へ流し込んでしまうこと(誤嚥)が多く、これが原因で重篤な誤嚥性肺炎が引き起こされることが多い。
【0003】
そこで、咀嚼・嚥下困難者が飲み込みやすい物性を有する飲食品を提供すべく、咀嚼・嚥下困難者用のゲル化剤を飲食品と混合して、飲食品としての咀嚼・嚥下調整食を調製する試みがなされている。
【0004】
咀嚼・嚥下困難者用のゲル化剤は、飲食品に添加することによってゲル化性を付与し得る(ゲル化させ得る)。かかるゲル化剤には、咀嚼・嚥下困難者が飲み込み易い物性として、(1)適度なかたさを有すること、(2)食塊形成性(口中での飲食品のまとまりやすさ)に優れること、(3)口腔及び咽頭への付着性が小さいこと等が求められている。かかる飲み込み易い物性は、具体的には、消費者庁より通達されている特別用途食品えん下困難者用食品の許可基準(消食表第529号)の方法に準拠して測定した場合に、許可基準I~IIIのいずれかの範囲内であることによって示される。
【0005】
この種のゲル化剤は、種々の飲食品に添加されるため、飲食品材料の種類によらず同様のゲル化性を付与できることが望ましい。
【0006】
一方、病院や介護施設等の集団給食施設等において提供される食品については、食中毒の予防のための管理マニュアル(大量調理施設衛生管理マニュアル)が、厚生労働省によって作成されている。このマニュアルによれば、ゲル化性を付与した飲食品(ゲル状組成物)は、60~70℃の環境下で2時間程度保管される可能性があるため、このような条件下でもゲル状組成物が融解しない(ゲルが融解しない)ことが求められている。
【0007】
これらの物性を付与するゲル化剤として、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤が提案されている。
【0008】
例えば、澱粉性食品に、ネイティブ型ジェランガムを、α-アミラーゼと、他の多糖類と共に添加することによって誤嚥を防止する技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0009】
一般的に、ネイティブ型ジェランガムは、飲食品に添加し、加熱による溶解後に冷却することによって、喫食に適した適度なかたさのゲル化性を付与することができ(上記(1))、形成されたゲルは、食塊形成性に優れ(上記(2))、口腔等への付着性も高くない(上記(3))ため、上記の通り、咀嚼・嚥下困難者が飲み込みやすい物性を有する。
また、ネイティブ型ジェランガムは、溶解後に冷却する際のゲル形成温度(以下、「セット温度」と称す。)が高いため、飲食品が冷める前の温かい状態でゲル化し、この状態で喫食可能であるため、調理の時間を短縮できるという利点がある。
さらに、ネイティブ型ジェランガムは、ゲルの再加温耐性に優れているため、例えば、大量調理して一旦冷めた後、温冷配膳車等の中で60~70℃程度の温度で再加温されている間においても、融解せずに、ゲルによる形状を保持できる。
【0010】
その反面、ネイティブ型ジェランガムは、セット温度が高いことに起因して、溶解後にゲル化するまでに時間が短いため、取り扱いが困難な状況も発生するという不具合がある。
また、ネイティブ型ジェランガムは、溶解させるのに85~90℃程度といった高温で加熱し続ける必要があるが、このような高温に保つことは難しく、加熱が不十分な場合が生じるおそれがある。加熱が不十分であると、十分にゲル化することができず、その結果、咀嚼・嚥下困難者にとって望ましい上記(2)(3)の物性を有するゲルを調製できなくなるという問題が生じてしまう。
【0011】
そこで、溶解温度を低下させること、及び、セット温度を低下させることが提案されている。
【0012】
例えば、ネイティブ型ジェランガムと、易溶性寒天及びグァーガムとを組み合わせることによって加熱温度を低下させる技術が提案されている(特許文献3参照)。
しかし、ネイティブ型ジェランガムと、易溶性寒天及びグァーガムとを組み合わせた場合には、セット温度が低下し過ぎるため、ゲル化に要する時間が2時間程度となり、調理に要する時間が長すぎるおそれがある。
【0013】
例えば、ネイティブ型ジェランガムと、脱アシル型ジェランガムとを組み合わせることによって加熱温度を低下させる技術が提案されている(特許文献4参照)。
しかし、ネイティブ型ジェランガムと、脱アシル型ジェランガムとを組み合わせた場合には、80℃で飲食品に添加する必要があるため、溶解温度が十分に低いとはいい難い。
【0014】
例えば、脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガムやグルコマンナン等の多糖類とを組み合わせることによって溶解温度を低下させる技術が提案されている(特許文献5参照)。
しかし、脱アシル型ジェランガムと、キサンタンガムやグルコマンナン等の多糖類とを組み合わせた場合には、ゲルのかたさが大きくなりすぎて、前述した特別用途食品えん下困難者用食品の許可基準I~IIIを満たさないおそれがある。
【0015】
このように、ネイティブ型ジェランガムや脱アシル型ジェランガムを用いた場合には、溶解温度やセット温度とゲル化に要する時間との双方を適切にすることが困難といえる。また、複数の多糖類を組み合わせる必要があるため、各多糖類の種類に応じた飲食品に適用させる必要が生じる結果、適用し得る飲食品が制限されてしまうおそれがある。
【0016】
一方、例えば、ネイティブ型ジェランガムを部分的に脱アシル化し、その比率を調整することによってセット温度を調整する技術が提案されている(特許文献6、非特許文献1参照)。
かかる技術によれば、セット温度が低くなることによって、加熱溶解後、ゲル化までの時間が長くなるため、小分け充填し易くなる等、取り扱いが容易となるため、簡便となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2008-271985号公報
【文献】特開2013-085512号公報
【文献】特開2008-220362号公報
【文献】特開2009-247286号公報
【文献】特開2013-132284号公報
【文献】特表2002-517568号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】CP Kelco U.S.,Inc.、「Novel High Acyl Gellan Gum with Low Set Temperature」、Research Disclosure database number 594013、October 2013 paper journal、2013年9月2日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、特許文献6及び非特許文献1には、咀嚼・嚥下困難者用の飲食品に適用し得ることは開示されていない。しかも、かかる飲食品に適用したとしても、再加温時の保形性が十分ではないおそれがある。
【0020】
一方、咀嚼・嚥下困難者用の飲食品にゲル化剤を適用する場合、加熱することなく、撹拌のみで調製できることが、簡便であるため、望ましい。
しかし、特許文献6及び非特許文献1の技術には、加熱が必要であったり、ゲル化に要する時間が長くなったりする場合があるため、簡便にゲル化させることができないおそれがある。
【0021】
上記事情に鑑み、本発明は、飲食品に、喫食に適した適度なかたさのゲル化性、優れた食塊形成性、口腔等への付着性の低減性だけでなく、再加温時の優れた保形性をも、簡便に付与し得るゲル化剤、及び、それを含有する飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、部分的な脱アシル化の程度を種々変更した部分脱アシル化ジェランガムを用い、咀嚼・嚥下困難者にとって有用な飲食品用のゲル化剤について鋭意研究した結果、特許文献6及び非特許文献1に記載されているジェランガムのうち、特定の水溶液によってゲル化されたときに特定のゲル強度と破断変形率とを有する程度に部分的に脱アシル化された、特定のジェランガムを含有するゲル化剤が、以下の利点を有することを見出した。
【0023】
すなわち、上記特定のジェランガムを含有するゲル化剤は、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤より低い溶解温度で溶解されるため、その分、高温にする必要がなく、作業が簡便である。
【0024】
上記特定のジェランガムを有するゲル化剤は、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤よりも、低い温度でゲル化が開始される(セット温度が低い)ため、小分け充填等が容易となり、作業が簡便である。
しかも、このセット温度が低過ぎることがないため、ゲル化に要する時間が遅くなりすぎず、作業が簡便である。
このように作業が簡便でありながらも、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤と同程度に、ゲル化された飲食品は再加温時の保形性に優れる。これにより、ネイティブ型ジェランガムと同様、温かい食事を提供できる。
【0025】
ネイティブ型ジェランガムが飲食品のゲル化に加熱が必要であるのに対し、上記特定のジェランガムを有するゲル化剤は、加熱することはもちろん、飲食品によっては加熱しなくても、ゲル化させることができる。よって、その分、作業が簡便である。
【0026】
上記特定のジェランガムを有するゲル化剤は、飲食品に対して咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した食感とレオロジー特性を付与し得る。具体的には、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤と同程度に、適度なかたさを有し(上記(1))、食塊形成性に優れ(上記(2))、口腔等への付着性が小さい(上記(3))飲食品を調製することができる。
【0027】
このように、特定の水溶液によってゲル化されたときに特定のゲル強度と破断変形率とを有するようにネイティブ型ジェランガムを部分的に脱アシル化したジェランガムを含有するゲル化剤が、飲食品に、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤と同程度の上記食感とレオロジーとを付与しつつも、再加温時の保形性を十分に保ち、しかも、ネイティブ型ジェランガムの欠点である作業の煩雑さ(不簡便性)を改善し得ることを見出した。
【0028】
すなわち、ネイティブ型ジェランガムが脱アシル化された程度は、特定し難いが、その脱アシル化の程度を、上記のように特定のゲル強度や破断変形率といった物性によって特定し、かかる物性と飲食品との関係を見出して、本発明を完成するに至った。
【0029】
すなわち、本発明に係るゲル化剤は、
ジェランガムを含有し、
前記ジェランガムは、1質量%食塩水に90℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度に対する、1質量%食塩水に80℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度の比が50%以上であり、且つ、1質量%食塩水に90℃で溶解させた後に冷却させたゲルの最大変形量に対する破断点の変形量である破断変形率が50%以上であり、
飲食品用である。
【0030】
かかる構成によれば、上記範囲のゲル強度及び破断変形率を有する特定のジェランガムを含有することによって、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤と同程度に、飲食品に、喫食に適した適度なかたさ、優れた食塊形成性、及び、口腔等への付着性の低減性を付与し得る。
【0031】
また、上記特定のジェランガムを含有することによって、セット温度が高過ぎることがないため、取り扱い易くなる。よって簡便である。
さらに、上記特定のジェランガムを含有することによって、セット温度が低過ぎることがないため、ゲル化に要する時間が遅すぎない。よって、簡便である。
しかも、かかるゲル化剤は、加熱することなく飲食品をゲル化させることができる。よって、簡便である。
さらに、再加温時の保形性に優れる。
【0032】
このように、飲食品に、喫食に適した適度なかたさのゲル化性、優れた食塊形成性、口腔等への付着性の低減性だけでなく、再加温時の優れた保形性をも、簡便に付与し得るゲル化剤が提供される。
【0033】
上記構成のゲル化剤においては、
前記ジェランガムは、1質量%食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させたときのセット温度が55~70℃であってもよい。
【0034】
ここで、セット温度とは、1質量%の食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させた後、冷却させたときにゲルの形成を開始する温度を意味する。具体的には、このように溶解させて得られた溶液の温度と粘度の関係を測定し、温度を横軸、粘度を縦軸にして、グラフを描いたとき、(最大粘度-90℃での粘度)×0.2+(90℃での粘度)を示す温度を意味する。
ここにおいて、最大粘度は、測定された粘度の最大値である。粘度が最大値を示すとき、溶液はゲル化している。
90℃での粘度は、90℃で溶解している状態の粘度である。
数値0.2は、ゲル化が開始されたことを示す、経験的に得られた数値である。
このセット温度は、ゲル化が開始される温度と近似していることが経験的に分かっている。
粘度は、後述する方法で測定される値である。
【0035】
かかる構成によれば、セット温度がより適切な範囲となるため、より取り扱い易くなって、より簡便となる。
また、ゲル化された飲食品が再加温時の保形性に優れ、しかも加熱しなくても飲食品をゲル化させることができるゲル化剤が、より確実に提供される。
【0036】
上記構成のゲル化剤においては、
前記飲食品が、ゲル化された後に再加温される飲食品であってもよい。
【0037】
かかる構成によれば、飲食品が再加熱されてもゲル化が維持されるため、このような飲食品に適用することによって、ゲル化剤がより有用となる。
【0038】
上記構成のゲル化剤においては、
前記ジェランガムは、部分的に脱アシル化された部分脱アシル化ジェランガムであってもよい。
【0039】
上記構成のゲル化剤においては、
さらに、脱アシル型ジェランガムを2~10質量%含有してもよい。
【0040】
ここで、脱アシル型ジェランガムとは、ネイティブ型ジェランガムのアシル基がほとんど脱アシル化されたジェランガムであって、1質量%食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルの破断変形率が50%未満であるようなジェランガムを意味する。
【0041】
かかる構成によれば、脱アシル型ジェランガムを上記の含有量で含有することによって、ゲル化剤全体としてのセット温度や溶解温度は、脱アシル型ジェランガムを含有しない場合と同程度に低いながらも、再加温時の保形性がより向上し得る。
【0042】
上記構成のゲル化剤においては、
前記飲食品が、咀嚼及び/または嚥下困難者用の飲食品であってもよい。
【0043】
かかる構成によれば、咀嚼・嚥下困難者用の飲食品に上記ゲル化剤を適用することによって、咀嚼・嚥下困難者が喫食し易い飲食品となるため、ゲル化剤がより有用となる。
【0044】
上記構成のゲル化剤においては、
前記飲食品を非加熱でゲル化させるものであってもよい。
【0045】
かかる構成によれば、前記飲食品を非加熱でゲル化させることができるため、ゲル化がより容易となる。
【0046】
本発明に係る飲食品は、
前記ゲル化剤を含有する。
【0047】
かかる構成によれば、上記ゲル化剤を含有することによって、上記の通り、喫食に適した適度なかたさのゲル化性、優れた食塊形成性、口腔等への付着性の低減性だけでなく、再加温時の優れた保形性をも、簡便に付与された飲食品が提供される。
【発明の効果】
【0048】
以上の通り、本発明によれば、飲食品に、喫食に適した適度なかたさのゲル化性、優れた食塊形成性、口腔等への付着性の低減性だけでなく、再加温時の優れた保形性をも、簡便に付与し得るゲル化剤、及び、それを含有する飲食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】実施例1、比較例1、2の各試料のゲル強度及び破断変形率を測定したときの波形の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に、本発明に係るゲル化剤、それを含有する飲食品の実施形態について、説明する。
【0051】
まず、本実施形態のゲル化剤について、説明する。
【0052】
本実施形態のゲル化剤は、
ジェランガムを含有し、
前記ジェランガムは、1質量%食塩水に90℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度に対する、1質量%食塩水に80℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度の比が50%以上であり、且つ、1質量%食塩水に90℃で溶解させた後に冷却させたゲルの最大変形量に対する破断点の変形量である破断変形率が50%以上であり、
飲食品用である。
【0053】
本実施形態において、「ゲル化」及び「ゲル化性」とは、静置状態において、自重で流動しない状態及びその性質をいう。この意味で、「ゲル化性を付与する」は、「保形性を付与する」と言い換えることもできる。
【0054】
本実施形態のゲル化剤に含有されるジェランガムは、ネイティブ型ジェランガムが部分的に脱アシル化処理された部分脱アシル化ジェランガムである。以下、本実施形態のゲル化剤に含有されるジェランガムを、部分脱アシル化ジェランガムという場合がある。
【0055】
ネイティブ型ジェランガムは、微生物Sphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類である。
かかるネイティブ型ジェランガムにおいては、D-グルコース、D-グルクロン酸、D-グルコース及びL-ラムノースの4つの糖をモノマーとして重合されたものであり、1→3結合したD-グルコースのC-6位にアセチル基(1/2残基)、C-2位にグリセリル基が結合している。かかるネイティブ型ジェランガムとしては、DSP五協フード&ケミカル株式会社製の「ケルコゲル(登録商標)LT-100」、「ケルコゲル(登録商標)HM」等が挙げられる。
一方、脱アシル型ジェランガムは、これらのアセチル基及びグリセリル基(アシル基)がほとんど脱アシル化されたものであり、具体的には、上記破断変形率が50%未満、好ましくは20%未満であるようなものである。
かかる脱アシル型ジェランガムとしては、DSP五協フード&ケミカル株式会社製の「ケルコゲル(登録商標)」等が挙げられる。
【0056】
本実施形態において、部分脱アシル化ジェランガムは、ネイティブ型ジェランガムのアセチル基及びグリセリル基を全て除去するのではなく、部分的に除去したものである。
かかるアシル化の除去(脱アシル化)の程度は、ネイティブ型ジェランガムをアルカリ処理することによって調整され得る。具体的には、前述した非特許文献6に記載された方法に基づいて、アルカリ処理におけるアルカリの添加量、処理温度及び処理時間を変更することによって、脱アシル化の程度が調整され得る。
【0057】
部分脱アシル化ジェランガムは、1質量%食塩水に90℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度に対する、1質量%食塩水に80℃で溶解させた後に冷却させて生成したゲルのゲル強度の比が50%以上である。
【0058】
かかるゲルの強度の比は、ネイティブ型ジェランガムが脱アシル化される程度を表す指標となり得る。このゲル強度は、後述する実施例に記載の測定方法によって測定される値である。
【0059】
上記強度の比は、50%以上の範囲で適宜設定され得る。例えば、ネイティブ型ジェランガムよりも低い溶解温度で溶解し得るという観点を考慮すると、上記ゲル強度の比は、大きい程好ましく、例えば、60%以上がより好ましい。上記ゲル強度の比は、100%であってもよい。
【0060】
部分脱アシル化ジェランガムは、1質量%食塩水に90℃で溶解させた後に冷却させたゲルの最大変形量(mm)に対する破断点の変形量(mm)である破断変形率が50%以上である。
【0061】
かかる破断変形率は、ネイティブ型ジェランガムが脱アシル化される程度を表す指標となり得る。この破断変形率は、後述する実施例に記載された測定方法によって測定される値である。
【0062】
上記破断変形率は、50%以上の範囲で適宜設定され得る。例えば、ネイティブ型ジェランガムと同程度の食感を有するという観点や、咀嚼・嚥下困難者に適した食塊形成性を有するという観点を考慮すると、上記破断変形率(%)は、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。
一方、上記破断変形率は、100%以下の範囲で適宜設定され得る。例えば、咀嚼・嚥下困難者の噛み切りや飲み込みに適した物性を有するという観点を考慮すると、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。
このように、上記破断変形率は、60%~95%が好ましく、65%~90%がより好ましい。
【0063】
部分脱アシル化ジェランガムは、1質量%食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させたときのセット温度が55~70℃であることが好ましい。
【0064】
ここで、セット温度とは、1質量%の食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させた後、冷却させたときにゲルを形成する温度を意味する。
具体的には、前述したように、このように溶解させて得られた溶液の温度と粘度の関係を測定し、温度を横軸、粘度を縦軸にして、グラフを描いたとき、(最大粘度-90℃での粘度)×0.2+(90℃での粘度)を示す温度を意味する。
ここにおいて、最大粘度は、測定された粘度の最大値である。粘度が最大値を示すとき、溶液はゲル化している。
90℃での粘度は、90℃で溶解している状態の粘度である。
数値0.2は、ゲル化が開始されたことを示す、経験的に得られた数値である。
このセット温度は、ゲル化が開始される温度と近似していることが経験的に分かっている。
粘度は、Rapid Visco Analyzer(型式:RVA-4、Newport Scientific社製)を用いて、200rpmでパドルを回転させながら90℃で3分間保持した後、そのままの速度で回転させながら4℃/分の速度で90℃から25℃まで冷却することによって測定された値である。
【0065】
かかるセット温度は、ネイティブ型ジェランガムが脱アシル化される程度を表す指標となり得る。
セット温度が高いと、脱アシル化の程度が小さくなり(ネイティブ型ジェランガムに近づき)、セット温度が低いと、脱アシル化の程度が大きくなる(脱アシル型ジェランガムに近づく)傾向にある。
【0066】
セット温度が上記の範囲であることによって、より適切な範囲となるため、取り扱い易く、ゲル化された飲食品が再加温時の保形性に優れ、しかも加熱しなくても飲食品をゲル化させることができるゲル化剤が、より確実に提供される。
【0067】
本実施形態のゲル化剤における部分脱アシル化ジェランガムの含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用される飲食品に応じて適宜調整され得る。
例えば、ゲル化剤中の部分脱アシル化ジェランガムの含有量が大きくなる程、飲食品に適用される際に、ゲル化剤の添加量が少なくなるため、ゲル化剤の取り扱いが容易になる傾向にあり、また、ゲル化剤中の部分脱アシル化ジェランガムの含有量が少なくなる程、部分脱アシル化ジェランガムの分散性が向上する傾向にある。
従って、例えば、かかる観点を考慮すると、例えば、ゲル化剤は、部分脱アシル化ジェランガムを、5~100質量%含有することが好ましく、10~85質量%含有することがより好ましい。
部分脱アシル化ジェランガムを5~100質量%含有することによって、飲食品に適用する際に取り扱いが容易な程度の量のゲル化剤を添加することが可能になり、また、ゲル化剤が適度な分散性を有するため、飲食品に適用する際に飲食品を簡便に調製し得る。
【0068】
後述するように、飲食品材料にゲル化剤が配合されて飲食品(ゲル状組成物)が調製される際には、例えば、飲食品に求められる食感やレオロジー特性に応じて、含有される部分脱アシル化ジェランガムの量を適宜調整し得る。例えば、最終的に調製される飲食品100質量%中の含有割合に換算して、部分脱アシル化ジェランガムが好ましくは0.05~4質量%、より好ましくは0.1~2質量%含有されるように、ゲル化剤中の部分脱アシル化ジェランガムの配合量、及び、飲食品中のゲル化剤の配合量が設定され得る。
飲食品に部分脱アシル化ジェランガムが0.05~4質量%含有されることによって、飲食品が、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性となり得る。
【0069】
本実施形態のゲル化剤は、部分脱アシル化ジェランガムの他に、脱アシル型ジェランガムを含有していてもよい。
かかる場合、ゲル化剤は、脱アシル型ジェランガムを、2~10質量%含有することが好ましく、4~6質量%含有することがより好ましい。
脱アシル型ジェランガムを上記の含有量で含有することによって、ゲル化剤全体としてのセット温度や溶解温度は、脱アシル型ジェランガムを含有しない場合と同程度に低いながらも、再加温時の保形性がより向上し得る。これにより、温かい温度帯でもゲルとして喫食し易くなるため、ゲル化剤がより有用となる。
脱アシル型ジェランガムとしては、例えば、市販品が挙げられ、かかる市販品としては、前述したDSP五協フード&ケミカル株式会社製の「ケルコゲル」(登録商標)等が挙げられる。
【0070】
本実施形態のゲル化剤は、飲食品のゲル化用である。
本実施形態のゲル化剤は、飲食品材料と混合され、撹拌されることによって、ゲル状組成物である飲食品が調製される。
この調製においては、別途加熱や冷却工程を要さず、簡便に短時間で飲食品にゲル化性を付与できる。
具体的には、例えば、本実施形態のゲル化剤を飲食品材料に添加するか、または、飲食品材料を本実施形態のゲル化剤に添加して両者を混合した後、室温にて、ミキサーやフードプロセッサーを用いて攪拌を行うことによって、ゲル状組成物である飲食品を調製し得る。このように、別途加熱や冷却工程を行うことなく、飲食品にゲル化性を付与することができる。
なお、撹拌時に加熱工程を実施してもよい。
【0071】
上記のようにして調製された飲食品は、加熱することなく室温で調製された後、または、加熱して調製した後に冷却された後、温冷配膳車等によって、再度、喫食に適した温度帯(30~70℃)に加温される場合がある。
本実施形態のゲル化剤によって調製された飲食品は、このように再加温された際においても、ゲル化によって付与された保形性を保持することができる。
【0072】
本実施形態のゲル化剤は、上記の他、本願発明の効果を損なわない限りにおいて、従来公知の増粘剤・ゲル化剤や分散剤等を含有しても良い。それらの例としては、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸及びその塩、カードラン、ガティガム、カラギーナン、カラヤガム、カルボキシメチルセルロース及びその塩、寒天、キサンタンガム、グァーガム、グルコマンナン、酵素分解グァーガム、水溶性大豆多糖類、スクシノグリカン、ゼラチン、タマリンドシードガム、デキストリン、トラガントガム、難消化性デキストリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ファーセルラン、ブドウ糖、プルラン、ペクチン、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、ローカストビーンガム等が挙げられる。
【0073】
本実施形態のゲル化剤は、上記の他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、従来公知の各種の塩類、乳化剤、高甘味度甘味料、タンパク質等を含有してもよい。
【0074】
本実施形態のゲル化剤の形状は、特に限定されない。
例えば、ゲル化剤は粉末状や顆粒状であってもよい。このような顆粒状のゲル化剤は、例えば、部分脱アシル化ジェランガムの粉体と、他の添加剤の粉体との混合物を、任意のバインダー液(例えば、イオン交換水や、デキストリン、ガム質、金属塩を含有する水溶液)を用いて造粒することによって製造され得る。造粒方法としては、流動層造粒、噴霧乾燥造粒、圧縮造粒、押出し造粒等の造粒機械を用いて実施できる。
例えば、ゲル化剤は、錠剤等の成形体であってもよい。このような成形体のゲル化剤は、例えば、粉末状のゲル化剤、または、上記した顆粒状のゲル化剤を各種打錠機によって打錠する(錠剤化する)ことによって製造され得る。
【0075】
本実施形態のゲル化剤は、咀嚼・嚥下困難者用のゲル化剤であることが好ましい。すなわち、飲食品に添加されるゲル化剤であって、添加されることにより咀嚼・嚥下困難者が喫食するために適した物性にすることができるようなゲル化剤であることが好ましい。咀嚼・嚥下困難者が喫食するために適した物性とは、例えば、前述した消費者庁によって定められた特別用途食品のえん下困難者用食品を評価する方法で測定した場合に、許可基準I~IIIのいずれかの範囲内であることによって示される。
【0076】
本実施形態において、ゲル化剤が適用されて飲食品とされる飲食品材料は、水を含有するものであって、飲食されるものであれば、特に限定されない。飲食品材料としては、例えば、水、乳飲料、酸性飲料等に代表される日常的に飲まれる飲料品材料全般および肉・魚類、野菜類、果物類、穀物類等に代表される日常的に食べられる食品材料全般を意味する。
【0077】
本実施形態のゲル化剤は、一般的に溶解温度やゲル化し始める温度が高くなるとされる食塩などのミネラル、脂肪、たんぱく質の含有量が高い飲食品を含む幅広い飲食品に適応され得る。
【0078】
このような飲食品のうち、咀嚼及び/または嚥下困難者用の飲食品が好ましい。
【0079】
咀嚼・嚥下困難者用の飲食品に上記ゲル化剤を適用することによって、咀嚼・嚥下困難者が喫食し易い飲食品となるため、ゲル化剤がより有用となる。
咀嚼・嚥下困難者用の飲食品材料としては、水を含有するものであって、飲食されるものであれば特に限定されない。例えば、水、乳飲料、酸性飲料、機能性飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料といった飲料類、肉類、魚類、野菜類、果物類、穀物類等に代表される日常的に食される飲食品;醤油、ソース、ドレッシング等の液状調味料;コンソメスープ、クリームスープといった各種スープ、みそ汁、カレー、グラタン等の調理された液状食品、カルシウム・鉄・ビタミン等の栄養強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、経腸栄養剤、ミキサー食、ペースト食、およびキザミ食等が挙げられる。
【0080】
適用される飲食品は、非加熱でゲル化されるものであることが好ましい。
すなわち、本実施形態のゲル化剤は、飲食品を非加熱でゲル化させるものであることが好ましい。
飲食品を非加熱でゲル化させ得ることによって、ゲル化が容易となる。
このように非加熱でゲル化される飲食品としては、前述で挙げた飲食品材料が加熱されていない、または、加熱後に冷めた状態にあるもの等が挙げられる。
【0081】
上記の通り本実施形態のゲル化剤によれば、上記範囲のゲル強度及び破断変形率を有する特定のジェランガムを含有している。
【0082】
これによって、ネイティブ型ジェランガムを含有するゲル化剤と同程度に、飲食品に、喫食に適した適度なかたさ、優れた食塊形成性、及び、口腔等への付着性の低減性を付与し得る。
【0083】
また、上記特定のジェランガムを含有することによって、セット温度が高過ぎることがないため、取り扱い易くなる。よって簡便である。
さらに、上記特定のジェランガムを含有することによって、セット温度が低過ぎることがないため、ゲル化に要する時間が遅すぎない。よって、簡便である。
しかも、かかるゲル化剤は、加熱することなく飲食品をゲル化させることができる。よって、簡便である。
さらに、再加温時の保形性に優れる。
【0084】
このように、飲食品に、喫食に適した適度なかたさのゲル化性、優れた食塊形成性、口腔等への付着性の低減性だけでなく、再加温時の優れた保形性をも、簡便に付与し得るゲル化剤が提供される。
また、再加温時の優れた保形性を有することによって、簡便に温かい食事を提供することも可能となる。
【0085】
本実施形態のゲル化剤においては、
前記ジェランガムは、1質量%食塩水に0.5質量%となるように90℃で溶解させたときのセット温度が55~70℃であることが好ましい。
これによって、セット温度がより適切な範囲となるため、より取り扱い易くなって、より簡便となる。
また、ゲル化された飲食品が再加温時の保形性に優れ、しかも加熱しなくても飲食品をゲル化させることができるゲル化剤が、より確実に提供される。
【0086】
本実施形態のゲル化剤においては、
前記飲食品が、ゲル化された後に再加温される飲食品であることが好ましい。
これによって、飲食品が再加熱されてもゲル化が維持されるため、このような飲食品に適用することによって、ゲル化剤がより有用となる。
【0087】
本実施形態のゲル化剤においては、
前記ジェランガムは、部分的に脱アシル化された部分脱アシル化ジェランガムであることが好ましい。
【0088】
本実施形態のゲル化剤においては、
さらに、脱アシル型ジェランガムを2~10質量%含有することが好ましい。
脱アシル型ジェランガムを上記の含有量で含有することによって、ゲル化剤全体としてのセット温度や溶解温度は、脱アシル型ジェランガムを含有しない場合と同程度に低いながらも、再加温時の保形性がより向上し得る。
【0089】
本実施形態のゲル化剤においては、
前記飲食品が、咀嚼及び/または嚥下困難者用の飲食品であることが好ましい。
咀嚼・嚥下困難者用の飲食品に上記ゲル化剤を適用することによって、咀嚼・嚥下困難者が喫食し易い飲食品となるため、ゲル化剤がより有用となる。
【0090】
本実施形態のゲル化剤においては、
前記飲食品を非加熱でゲル化させるものであってもよい。
前記飲食品を非加熱でゲル化させることによって、ゲル化がより容易となる。
【0091】
次に、本実施形態の飲食品について、説明する。
【0092】
本実施形態の飲食品は、本実施形態のゲル化剤を含有する。
具体的には、本実施形態の飲食品は、本実施形態のゲル化剤と、上記飲食品材料とを含有する。
【0093】
飲食品及び飲食品材料としては、前述したものが挙げられる。
飲食品の調製方法としては、前述した調製方法が挙げられる。
【0094】
前述したように、飲食品(ゲル状組成物)に求められる食感やレオロジー特性に応じて、飲食品中のゲル化剤の配合量が適宜設定され得る。例えば、飲食品100質量%中の含有割合に換算して、部分脱アシル化ジェランガムが好ましくは0.05~4質量%、より好ましくは0.1~2質量%含有されるように、飲食品中のゲル化剤の配合量が設定され得る。
飲食品中に部分脱アシル化ジェランガムが0.05~4質量%含有されることによって、飲食品が、咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性となり得る。
【0095】
本実施形態の飲食品によれば、上記ゲル化剤を含有することによって、上記の通り、喫食に適した適度なかたさのゲル化性、優れた食塊形成性、口腔等への付着性の低減性だけでなく、再加温時の優れた保形性をも、簡便に付与された飲食品が提供される。
【0096】
以上の通り、本実施形態によれば、飲食品に、喫食に適した適度なかたさのゲル化性、優れた食塊形成性、口腔等への付着性の低減性だけでなく、再加温時の優れた保形性をも、簡便に付与し得るゲル化剤、及び、それを含有する飲食品が提供される。
【0097】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0098】
以下、本発明について、実施例を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
実験例1:1質量%食塩水でのゲル強度(溶解温度に起因するゲル強度の比較)
(実施例1)
ゲル化剤として、非特許文献1に記載されている方法で、アルカリの添加量、処理温度及び処理時間を適宜設定してネイティブ型ジェランガムをアルカリ処理することによって部分的に脱アシル化された部分脱アシル化ジェランガム(以下、「LSTG」と称する)を用いた。この部分脱アシル化ジェランガムを、後述するゲル強度の測定方法に示すようにして、1質量%食塩水に添加し、90℃、80℃、70℃の各温度で溶解させ、冷却後生成した試料(ゲル溶液)の各ゲル強度を測定した。
【0100】
(実施例2)
ゲル化剤として、LSTGに代えて、LSTGと、該LSTGに対して5質量%の脱アシル型ジェランガム(以下、「LAG」と称する)とを混合したもの(以下、単に「LSTG-LAG」と称する)を用いること以外は実施例1と同様にて、ゲル溶液を生成し、各ゲル強度を測定した。LAGとしては、一般的な脱アシル型ジェランガムであるケルコゲル(登録商標)(DSP五協フード&ケミカル株式会社製)を用いた。
(比較例1)
ゲル化剤として、LSTGに代えて、一般的なネイティブ型ジェランガムであるケルコゲル(登録商標)HM(DSP五協フード&ケミカル株式会社製)(以下、「HM」と称する)を用いること以外は実施例1と同様にて、ゲル溶液を生成し、各ゲル強度を測定した。
(比較例2)
ゲル化剤として、LSTGに代えて、一般的な脱アシル型ジェランガムである上記LAGを用いること以外は実施例1と同様にて、ゲル溶液を生成し、各ゲル強度を測定した。
【0101】
(ゲル強度及び破断変形率の測定方法)
実施例1、2または比較例1のゲル化剤を、下記表1に示すように、90℃、80℃、70℃に調整した1質量%食塩水に各0.5質量%添加し、汎用撹拌機(型式:スリーワンモータBLh1200、新東科学株式会社製)を用いて各温度で5分間攪拌して溶解させた後、容器(スナップカップ、φ50mm、高さ55mm)に25mmの厚さになるように充填し、20℃で1時間静置した後、10℃で一晩冷却して試料(ゲル溶液)を調製した。調製したゲル溶液について、クリープメータ(型式RE2-33005C、山電社製)でプランジャー(直径8mm)を用い、圧縮速度1mm/sで0~25mmまで試料を変形させたときの荷重(N)を測定し、ゲルの破断点における荷重をゲル強度(N)とした。また、最大変形量に対する破断点の変形量の比を破断変形率(%)とした。
各溶解温度での生成後のゲル強度を表1に示す。表1において括弧内の数値は、90℃でのゲル強度を100%としたときの各温度でのゲル強度の比である。また、各試料について測定したときの波形の一例を
図1に示す。
【0102】
【0103】
表1に示すように、実施例1及び実施例2は、70℃で溶解させた場合でも、40%以上のゲル強度と50%以上の破断変形率とを示した。また、実施例1及び実施例2は、80℃で溶解させた場合、50%以上のゲル強度比と50%以上の破断変形率とを示した。
一方、比較例1は、80℃で溶解させた場合、ゲル強度比と破断変形率はいずれも50%に満たなかった。また、比較例2は、80℃で溶解させた場合、ゲル強度比は50%以上を示したが、破断変形率は50%に満たなかった。
1質量%食塩水は、比較対象の基準として用いた。なお、1質量%食塩水は、通常、それ自体を食される(飲用される)ことは少ないが、食すことが可能な点では、食品に包含される。また、汁物、焼き物、炒め物、煮物等の食品には味付けのために食塩が含まれていることが多いため、食塩水を用いた結果は、汁物、焼き物、炒め物、煮物等の各種食品においても同様の効果を示すと推察される。
【0104】
実験例2:食材によるかたさの違い(溶解温度に起因するゲル強度の比較)
(実施例3~6、比較例3、4)
実施例1、2で用いたゲル化剤(LSTG、LSTG-LAG)及び比較例1で用いたゲル化剤(HM)を用い、下記表3に示すように各種飲食品材料(食材)に混合した。具体的には、90℃、80℃、70℃、65℃、60℃に調整した各種食材ペーストに、各ゲル化剤を0.3質量%または0.5質量%となるように添加し、上記汎用撹拌機を用いて各温度で5分間攪拌して溶解させた後、測定容器(φ40mm、高さ15mm)に満量充填した。その後、20℃で30分間静置後、得られた試料に対して、消費者庁によって定められた試験方法(特別用途食品えん下困難者用食品の許可基準)に準拠して上記クリープメータでプランジャー(直径20mm、高さ8mm)を用い、かたさの測定を行った(圧縮速度:10mm/s、クリアランス5mm)。各溶解温度でのゲル生成後のゲルのかたさを表2に示す。
【0105】
【0106】
表2に示すように、実施例3~6は、溶解温度が低くても、生成したゲルは安定したかたさを発現した。また、いずれの食材、溶解温度でも、物性値は特別用途食品えん下困難者用食品の許可基準I~IIIのいずれかを満たしており、咀嚼・嚥下困難者の飲み込みに適した物性であった。一方、比較例3、4は、溶解温度が低くなると、実施例3~6に比べて、十分なかたさを示さなかった。
【0107】
実験例3:セット温度の測定
(実施例7、8、比較例5)
実施例1、2で用いたゲル化剤(LSTG、LSTG-LAG)及び比較例1で用いたゲル化剤(HM)を用い、下記表3に示すように各種食材に混合した。具体的には、90℃に調整した各種飲料及び食品に、各ゲル化剤を0.5質量%となるように添加し、上記汎用撹拌機を用いて90℃で5分間攪拌した後、Rapid Visco Analyzer(型式:RVA-4、Newport Scientific社製)によって、200rpmの速度でパドルを回転させながら90℃で3分間保持した後、そのままの速度で回転させながら4℃/分の速度で90℃から25℃まで冷却した際の粘度を測定した。横軸に温度、縦軸に粘度をプロットし、以下の定義に従って、算出された粘度から、各セット温度を決定した。結果を表3に示す。
セット温度:「(最大粘度-90℃粘度)×0.2+90℃粘度」に該当するときの温度
【0108】
【0109】
表3に示すように、いずれの食材においても、実施例7、8のセット温度は、比較例5よりも10℃以上低くなった。基準とした1質量%食塩水では、セット温度が60℃~70℃の範囲内であり、実際の食材、すなわち、塩分等のミネラル分や固形分を含むほうれん草やサケといった食材では、55℃~65℃の範囲内であった。
【0110】
実験例4:再加温時の保形性
(実施例9~14、比較例6~8)
実施例1、2で用いたゲル化剤(LSTG、LSTG-LAG)及び比較例1で用いたゲル化剤(HM)を用い、下記表4に示すように各種食材に混合した。具体的には、90℃、80℃、70℃、65℃、60℃に調整した各種食材ペーストに、各ゲル化剤を0.3質量%または0.5質量%となるように添加し、上記汎用撹拌機を用いて各温度で5分間攪拌して溶解させた後、測定容器(φ40mm、高さ15mm)に満量充填した。その後、20℃で30分間静置した後、容器から取り出し、65℃で2時間加温し、再加温後のゲルの保形性を、下記の評価基準で、目視で観察した。結果を表4に示す。
【0111】
(保形性の評価基準)
〇:ゲルが保形しているもの
△:厚みが薄くなるもの
×:厚みがほぼなくなるもの
××:ゲル化しないもの
【0112】
【0113】
表4に示すように、実施例9~14は、比較例6~8に比べて、低い溶解温度で溶解した場合にも、65℃で2時間の再加温耐性を有していた。特に、サケとほうれん草では、実施例と比較例に顕著な差があった。
【0114】
実験例5:ミキサー攪拌によるゲル化(飲料)
(実施例15、16、比較例9)
【0115】
実施例1で用いたゲル化剤(LSTG、LSTG-LAG)及び比較例1で用いたゲル化剤(HM)を用い、下記表5に示すように各種飲料(食材)に混合した。具体的には、20℃に調温した各種食材にゲル化剤を1.0質量%となるように添加し、Waring Blender(型式7011HS、WARING社製)を用いて14,000rpmの攪拌速度で1分間攪拌した後、測定容器(φ40mm、高さ15mm)に満量充填した。その後、20℃で30分間静置した後、上記消費者庁によって定められた試験方法に従って、上記クリープメーターでプランジャー(直径20mm、高さ8mm)を用い、かたさの測定を行った(圧縮速度:10mm/s、クリアランス5mm)。結果を、水道水とのかたさ(100%)に対する各種食材のかたさ比(%)として、表5に示す。
【0116】
【0117】
表5に示すように、水道水や、イオン類の含有量が少ないお茶では、実施例15、16及び比較例9は、共に十分なかたさを示した。
一方、多種のイオン類が含まれるオレンジジュースや牛乳では、比較例9では水道水に比べて20%~30%と大幅にかたさが低くなるのに対し、実施例15、16では水道水の50%以上のかたさを示した。また、いずれの溶媒でも、物性値は特別用途食品えん下困難者用食品の許可基準I~IIIのいずれかを満たしており、咀嚼・嚥下困難者の飲み込みに適した物性だった。
【0118】
実験例6:ミキサー攪拌によるゲル化(食品)
(実施例17、18、比較例10~12)
実施例1、2で用いたゲル化剤(LSTG、LSTG-LAG)及び比較例1で用いたゲル化剤(HM)を用い、表6に示すように各種食品に混合した。おかゆは20℃、1質量%食塩水及びほうれん草は55℃に調温し、各ゲル化剤を1.0質量%となるように添加した後、Waring Blender(型式7011HS、WARING社製)で14,000rpmの攪拌速度で1分間攪拌した後、測定容器(φ40mm、高さ15mm)に満量充填した。その後、20℃で30分間静置した後に消費者庁によって定められた試験方法に従って上記クリープメーターでプランジャー(直径20mm、高さ8mm)を用い、かたさの測定を行った(圧縮速度:10mm/s、クリアランス5mm)。その後、容器から取り出し、65℃で2時間加温し、加温後のゲルの保形性を、下記評価基準によって目視で観察した。結果を表6、表7に示す。
【0119】
(20℃静置後のゲル化性の評価基準)
〇:ゲルが保形したもの
△:ゲルを形成するが保形性が不十分(容器から出したときに容易に形状が変化する)
×:ゲル化しなかったもの
【0120】
(加温時の保形性の評価基準)
〇:ゲルが保形しているもの
△:厚みが薄くなるもの
×:ゲルが融解する、または、厚みがほぼなくなるもの
-:加温前にゲル化していないもの
【0121】
【0122】
【0123】
表6、7に示すように、おかゆでは、実施例17、18と比較例10とでかたさに差がみられなかった。
一方、1質量%食塩水では、実施例19、20は比較例11に比べてかたさを発現しやすく、ゲル化性、保形性も優れていた。ほうれん草では、実施例21、22の方が比較例12よりもかたさが大きく、ゲル化性、保形性も優れていた。また、いずれの食材でも、物性値は特別用途食品えん下困難者用食品の許可基準I~IIIのいずれかを満たしており、咀嚼・嚥下困難者の飲み込みに適した物性だった。