(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】帯鋸盤
(51)【国際特許分類】
B23D 53/06 20060101AFI20230202BHJP
B23D 55/00 20060101ALI20230202BHJP
B23D 55/04 20060101ALI20230202BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230202BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20230202BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B23D53/06
B23D55/00 D
B23D55/04 E
B22F3/24 G
B22F3/105
B22F3/16
(21)【出願番号】P 2018161373
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】10 2017 120 087.8
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592234090
【氏名又は名称】コイロ ベズィッツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー エーデーファウ-ディーンストライストゥングス コマンデイトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】アルミン・シュトルツァー
(72)【発明者】
【氏名】ゼンケ・フロリアン・クレッバー
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0112054(US,A1)
【文献】特開昭57-107756(JP,A)
【文献】特開平09-136215(JP,A)
【文献】実開昭63-154118(JP,U)
【文献】特開2015-123524(JP,A)
【文献】実開昭53-120392(JP,U)
【文献】特開2015-208830(JP,A)
【文献】特開2008-307650(JP,A)
【文献】特開平05-111808(JP,A)
【文献】登録実用新案第3189616(JP,U)
【文献】米国特許第04922777(US,A)
【文献】特開平04-217419(JP,A)
【文献】特開2006-150576(JP,A)
【文献】特表2015-529579(JP,A)
【文献】特開平04-304921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 45/00-65/04
B23Q 1/00-9/02
B27B 13/00-13/16
B28D 1/00-7/04
B22F 1/00-8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の工作物を鋸挽きするための帯鋸盤であって、
鋸盤下部(1)と、前記鋸盤下部に取り付けられた鋸盤上部(4)と、前記鋸盤上部(4)内に軸支された、少なくとも一方が駆動される少なくとも二つの回転輪(6)と、前記回転輪(6)周りを回るとともに切断領域(7)を走り抜け、切断運動をする帯鋸刃(5)と、
鋸挽き送り運動(11)を実行するために前記工作物(3)を前記帯鋸刃(5)の前記切断領域(7)へ、及び/又は
、前記帯鋸刃(5)の前記切断領域(7)が変位可能な鋸挽き面へと供給するための、前記鋸盤下部(1)に取り付けられた供給装置とを備え、その際、前記供給装置は、前記工作物(3)を取り外し可能に固定するための可動式のホルダ(20)を有する帯鋸盤において、
前記供給装置の前記ホルダ(20)は、出発ポジションから出発して、並進運動及び回転運動によって、前記帯鋸刃(5)の前記切断領域(7)へ及び/又は前記鋸挽き面へと動かし得るように構成され
、
前記供給装置の前記ホルダ(20)は、前記鋸挽き送り運動を実行するときに、前記帯鋸刃(5)の前記切断領域(7)へ向かって並進的に動かし得るように構成され、
前記帯鋸刃(5)は、前記切断領域(7)において、水平の方向に走り、かつ、前記供給装置の前記ホルダ(20)は、前記鋸挽き送り運動を実行する前に、水平な回転軸周りに回転可能であることを特徴とする帯鋸盤。
【請求項2】
前記供給装置は、前記ホルダ(20)の前記回転運動を制限するための固定ストッパが配設されている、請求項1に記載の帯鋸盤。
【請求項3】
前記供給装置の前記ホルダ(20)は、前記出発ポジションにおいて、工作物を前記ホルダ(20)上又は前記ホルダ(20)内へセットするときに、上方へ向けられており、かつ、
前記ホルダ(20)は、前記鋸挽き送り運動を実行する前に
、水平な回転軸周りに回転可能であって、前記ホルダ(20)は、前記鋸挽き送り運動の際に下方へ向けられている、請求項
1又は2に記載の帯鋸盤。
【請求項4】
前記帯鋸刃(5)は、前記帯鋸刃が前記回転輪(6)周りを回る際の方向と
、同じ方向に、前記切断領域(7)を走り抜けるように構成されている、請求項
1から3のいずれか一項に記載の帯鋸盤。
【請求項5】
前記鋸盤上部(4)は、前記工作物(3)における切断のポジションを調節するために、前記鋸盤下部(1)に対して相対的に動かし得るように構成されている、請求項
1から
4のいずれか一項に記載の帯鋸盤。
【請求項6】
前記ホルダ(20)は、前記出発ポジションにおいて、上方から工作物(3)を挿入し得るように構成されている、請求項1から
5のいずれか一項に記載の帯鋸盤。
【請求項7】
前記ホルダ(20)は、金属3Dプリント法によって製造された工作物(3)のベースプレート(26)を、前記ベースプレート(26)上にプリントされた金属部材(27)とともに収容するために設けら
れている、請求項
6に記載の帯鋸盤。
【請求項8】
前記ホルダ(20)は
、水平に走行可能なキャリッジ(24)上に軸支された回転テーブル(22)を含む、請求項
7に記載の帯鋸盤。
【請求項9】
前記鋸盤上部(4)及び前記鋸盤下部(1)は、前記供給装置とともに
、防塵閉鎖するためのハウジング(12)及び/又は
防塵閉鎖するためのケーシングが配設されている、請求項1から
8のいずれか一項に記載の帯鋸盤。
【請求項10】
前記ハウジング(12)及び/又は前記ケーシングの内部用の、少なくとも一つの吸引設備(19)が設けられている、請求項
9に記載の帯鋸盤。
【請求項11】
前記ハウジング(12)及び/又は前記ケーシングは、
クレーンを使用した工作物(3)又は工作物部材
の挿入及び/又は取出しを可能とする、ドア(15)及び/又はフラップ(16)が配設されている、請求項
9又は
10に記載の帯鋸盤。
【請求項12】
金属3Dプリント法によって製造された金属部材(27)を、その上側面(28)に前記金属部材(27)がプリントされたベースプレート(26)から、請求項1から
11のいずれか一項に記載の帯鋸盤を用いて、切り離すための方法であって、
前記ベースプレート(26)は、前記供給装置の前記可動式のホルダ(20)に取り外し可能に固定され、
前記ホルダ(20)は、前記ベースプレート(26)の前記上側面(28)に沿って鋸挽き面が延びるようにして、前記帯鋸刃(5)の前記切断領域(7)及び/又は前記鋸挽き面内へ移動させられるように構成された方法において、
前記ベースプレート(26)は
、上方から前記ホルダ(20)上又は前記ホルダ(20)内へセットされて、前記ホルダ(20)に固定され、
前記ホルダ(20)は、それから、並進運動及び回転運動によって
、鋸挽きプロセスの際に、
前記ベースプレート(26)が垂直に保持され、又は、前記ベースプレートの上側面(28)が下方に向けられ
るように
前記ベースプレート(26)が保持されるようにして、前記帯鋸刃(5)の前記切断領域(7)及び/又は前記鋸挽き面へ向かって移動させられることを特徴とする方法。
【請求項13】
前記ホルダ(20)は、前記ベースプレート(26)とともに回転運動によって180°回転させられ、かつ、前記並進運動によって、それによって前記鋸挽き送り運動が生ずるようにして、前記帯鋸刃(5)の前記切断領域(7)へ向かって、移動させられる、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載の、金属製の工作物を鋸挽きするための帯鋸盤、及び、請求項13のプリアンブルに記載の、金属3Dプリント法によって製造された金属部材をベースプレートから切り離すための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明によるタイプの帯鋸盤は、それゆえ、鋸盤下部と鋸盤上部とを含んでなり、その際、前記鋸盤上部は、通常、前記鋸盤下部に可動式に取り付けられているが、ただし、特殊な用途のために、前記鋸盤下部に非可動式に固定取付けされていてもよい。前記鋸盤上部は、通常、前記鋸盤下部の上方に配置され、それが可動式に取り付けられている限りで、直線的に又は旋回運動によって前記鋸盤下部にまで下降させられ、かつ、同所から引上げられることができる。ただし、本発明は、前記鋸盤上部が前記鋸盤下部の上方に配置されることに限定されるものではない。
【0003】
前記鋸盤上部内には少なくとも二つの回転輪が軸支されており、そのうち少なくとも一方の回転輪は駆動されている。前記回転輪周りには、回転輪周りを回って切断運動をする帯鋸刃が巻き付けられている。前記切断運動のための前記帯鋸刃の前記駆動は前記の駆動回転輪を経て行われる。二つの回転輪の間の前記鋸盤上部には、前記帯鋸刃がその切断運動によって通過する切断領域が設けられ、同所において、鋸挽き対象である前記金属製の工作物が鋸挽きされる。そのため、通例、前記帯鋸刃ないし一般に前記鋸盤上部全体が、前記切断運動の前記方向とは異なる、前記方向に対して通例略垂直をなす方向に行われる鋸挽き送り運動によって、前記工作物に向かって移動させられる。別法として又はさらに加えて、前記工作物が前記帯鋸刃に向かって移動させられ、こうして、同様に、前記鋸挽き送り運動が実現されるようにすることも可能である。
【0004】
本発明によるタイプの帯鋸盤の前記鋸盤下部には、前記工作物を供給するための供給装置が取り付けられている。前記供給装置によって、前記工作物は前記帯鋸刃の切断領域へ及び/又は前記帯鋸刃の前記切断領域が前記鋸挽き送り運動を実行するために変位可能な鋸挽き面へと運搬される。
【0005】
一般に、従来の技術において、前記工作物の前記供給は前記鋸挽き面内へ行われ、その際、前記供給運動は前記鋸挽き送り運動に対して略垂直にかつ同時に切断運動に対して略垂直に行われ、すなわち、前記工作物は前記供給装置によって前記鋸挽き面内へ押し入れられ、次いで、回転中の前記帯鋸刃を具備する前記鋸盤上部が前記工作物上に下降させられる結果、前記鋸挽き面内の前記切断領域をガイドされる前記帯鋸刃が前記工作物に食い込んで、前記工作物を鋸断する。前記工作物を正確にポジショニングして、前記鋸挽きプロセス用に固定するため、前記供給装置は、前記工作物を取り外し可能に固定する、一般に可動式のクランプジョーからなるホルダを有する。このホルダは、特に、鋸挽き切断の完了後に前記工作物を移動させ、通例、前方へ押し出して、新たな鋸挽き切断を実行し得るようにするために、可動式に形成されている。この種の帯鋸盤は、例えば、独国特許出願公開第102013210573号明細書から公知である。
【0006】
本発明によるタイプの帯鋸盤は、極めて多様な金属部材の鋸挽きに適している。通例、長尺材が鋸挽きされ、したがって、前記帯鋸盤に、通常、ローラコンベアを経て供給されて、前記鋸盤下部の前記上側面を形成する鋸挽きテーブル上に分離切断のためにポジショニングされる棒材、管材、異形材が個別に又は束ねて鋸挽きされる。
【0007】
比較的新しい用途は、金属3Dプリント法で製造された金属部材を、前記金属部材が、例えば、レーザ焼結法でその上に“プリント”されたベースプレートから分離することである。この種のベースプレートは、一般に、200×200mm2から400×400mm2までの寸法を有し、その上に製造された前記金属部材は、一般に、200mmないし400mmの高さを有する。前記本来の3Dプリントは、前記ベースプレート上に、通例、点状又は行列状に敷き詰められた金属粉末を層ごとに溶融することによって行われる。この場合、層ごとに前記ベースプレート上で成長する前記金属部材は、結果として、前記ベースプレートと接合固着しているという問題が生ずる。こうした金属部材を前記ベースプレートから切り離すために、最近では、本発明によるタイプの帯鋸盤も使用される。
【0008】
金属3Dプリント法で製造された金属部材を、例えば独国特許出願公開第102013210573号明細書から公知の帯鋸盤を用いて、そのベースプレートから切り離すために、前記ベースプレートは、前記供給装置のクランプジョーとして形成された前記可動式のホルダに-しかも、前記ベースプレートが正確に垂直に向けられているかあるいは前記鋸挽き面に対して正確に平行をなす面内に向けられるようにして-挟掴されなければならない。この場合、ベースプレート上に製造された金属部材は、前記鋸挽き面に対して水平をなす方向ないし垂直をなす方向に延びている。前記ベースプレートが前記クランプジョーによって前記鋸挽き面に達するまで移動させられると、前記鋸盤上部の下降によって、前記帯鋸刃は前記金属部材がその上にプリントされた前記ベースプレートの前記上側面に沿ってガイドされて、必要な前記鋸挽き切断が実行される。この鋸挽き切断によって、前記金属部材は前記ベースプレートから切り離される。
【0009】
ただし、この場合、誤って前記ベースプレート又は前記金属部材を鋸挽きしないようにすべく、前記ベースプレートは前記鋸挽き面に対して極めて正確に整列されなければならないという点が問題である。というのも、さもなければ前記3Dプリントの前記所産が破壊され、傷物が製造されてしまうことになるからである。一般的なベースプレートの重量は略30kgであり、その上に金属部材がプリントされているために、正確に整列してクランプジョーに挟掴させるには非常に不適な重心を有している。それゆえ、従来の帯鋸盤で、前記ベースプレートの正確な整列とそれによる正確な分離切断とを保証することは困難である。
【0010】
さらに、一つのベースプレート上に一つの金属部材がプリントされるだけでなく、単一の鋸挽きプロセスによって前記ベースプレートから切り離されることとなる複数の金属部材が同時にプリントされるのが通例である。ところで、前記ベースプレートが従来の帯鋸盤において垂直に向けられて挟掴され、前記鋸挽き切断が垂直な鋸挽き面によって実行される場合には、最初に前記ベースプレートから切り離された前記金属部材が下方に落下して、まだ前記ベースプレートから切り離されていない金属部材に当たることがある。これは損傷の危険をはらんでおり、特に、複雑で壊れやすい構造を有する金属部材が前記ベースプレートから切り離される必要があり、しかも前記金属部材の製造がそもそも3Dプリント法によって初めて可能となり、かつ、そのために、特に、前記金属3Dプリント法が使用されるような場合に当てはまる。またさらに、鋸断された金属部材が落下せずに、まだ鋸断されていないその他の金属部材の方へ傾くだけの場合には、それに邪魔されて前記帯鋸刃が動かなくなる危険も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】独国特許出願公開第102013210573号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の目的は、冒頭に述べたタイプの帯鋸盤を改良し、金属3Dプリント法で製造された金属部材を前記ベースプレートから切り離すのに従来よりも格段に優れて適合したものとすることである。本発明の目的は、さらに、上述した問題を回避し得る、金属3Dプリント法によって製造された金属部材を前記ベースプレートから切り離すための方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的は、請求項1に記載の特徴を有する帯鋸盤、及び、請求項13に記載の特徴を有する方法によって達成される。本発明による帯鋸盤の好ましい態様は、請求項2から12に記載したとおりである。本発明による方法の好適な発展態様は、請求項14に記載したとおりである。
【0014】
本発明による前記帯鋸盤は、したがって、大部分が従来のように構成されており、つまり、鋸盤下部と、前記鋸盤下部に(可動式又は非可動式に)取り付けられた鋸盤上部(これは前記鋸盤下部の上方に配置されていてよいが、ただしそうでなくともよい)と、前記鋸盤上部内に軸支された、少なくとも一方が駆動される少なくとも二つの回転輪と、前記回転輪周りを回るとともに切断領域を走り抜け、切断運動をする帯鋸刃と、前記工作物を前記帯鋸刃の前記切断領域へ、及び/又は、鋸挽き送り運動を実行するために前記帯鋸刃の前記切断領域が変位可能な鋸挽き面へと供給するための、前記鋸盤下部に取り付けられた供給装置とを備えている。
【0015】
それ自体として公知のように、本発明による前記帯鋸盤の前記供給装置は、前記工作物を取り外し可能に固定するための可動式のホルダを有している。ただし、従来にあってはクランプジョーによって形成されたこの可動式のホルダは、本発明によれば、前記帯鋸盤の上述した意図的な使用に向けて適合化されている。前記ホルダは、次のように、すなわち、前記ホルダに固定された工作物を-前記工作物が前記ホルダに、例えば、クランプ又は締付け装置によって、ただし好ましくはねじ留めによって取り外し可能に取り付けられた出発ポジションから出発して、並進運動及び回転運動によって、前記帯鋸刃の前記切断領域及び/又は前記鋸挽き面へと動かし得るように形成されている。この場合、前記並進運動及び前記回転運動は、順次に実行可能であるが、ただし、相応して重ねた運動として実行することも可能である。
【0016】
最終的に前記工作物を鋸挽きされる前記ポジションへもたらす前記可動式のホルダの前記回転運動によって、ベースプレート上に金属3Dプリント法で製造された金属部材を有する前記ベースプレートを前記ホルダに取り付けるにあたって、前記ベースプレートを前記鋸挽き面内ないし前記鋸挽き面と平行に向けられた面内に正確に整列させることはもはや不要となる。むしろ、例えば、その上に金属部材を有した前記ベースプレートを-例えばクレーンを使用して-出発ポジションにてフラットなテーブルを形成しているホルダ上に載置することが可能である。前記工作物はかくて、特に容易に前記ホルダ上に載置されるだけでなく、特に容易に前記ホルダに取り外し可能に固定されることができる。その後に、前記ホルダは、前記回転運動によって、前記ベースプレートを前記切断面と正確に平行に整列された指向位置又は正確に前記切断面内に位置する指向位置にもたらすことができる。
【0017】
前記鋸挽き送り運動を実行するために、本発明による前記帯鋸盤の前記帯鋸刃は、従来の方法で、前記鋸盤上部の下降又は回旋によって前記鋸挽き面内を移動させられるか否か、あるいは前記鋸挽きプロセスに際して前記帯鋸刃が定置されたまま(前記切断運動のみを実行する)だけであり、他方、前記工作物が前記帯鋸刃の前記指向によって決定された前記鋸挽き面内を前記帯鋸刃に向かって移動させられ、こうして、前記鋸挽き送り運動が達成されるか否かに応じて、本発明による前記ホルダの前記並進運動によって、前記ベースプレート、より正確には、前記金属部材がプリントされた前記ベースプレートの前記上側面が正確に前記切断面内に位置するようにされるか、又は、前記鋸挽き送り運動が前記帯鋸刃によって実行されない場合、前記並進運動の少なくとも一部が前記鋸挽き送り運動とされることになる。本発明の範囲において、これらの基本原理の混合形態も思量可能である。
【0018】
前記ホルダの本発明による前記回転運動によって、金属3Dプリント法によって製造された金属部材とベースプレートとからなる工作物を鋸挽きする際の従来の技術の前記第二の主たる短所も取り除くことが可能である。すなわち、一回の鋸挽きプロセスで順次に鋸断される複数の金属部材が前記ベースプレート上にプリントされ、かつその際、既に鋸断された金属部材がまだ鋸断されていない金属部材上に倒れかかり、障害又は損傷を惹起する危険が存在する場合、前記ホルダを次のように、すなわち、前記ホルダが前記回転運動によって、前記工作物をいわば反転させ、つまり、前記金属部材が下方を向いて前記ベースプレートに吊り下げられ、その際、前記ベースプレートが好ましくは水平に向けられるようにして前記工作物を前記帯鋸刃の前記切断領域ないし前記鋸挽き面に供給するように、形成することができる。
【0019】
これによって、既に鋸断された金属部材は、まだ鋸断されていない金属部材と接触することなく、重力によって下方に落下し、こうして、万一の場合の損傷及び前記鋸挽きプロセスの障害の発生が排除されることとなる。
【0020】
前記工作物、特に金属部材がプリントされたベースプレートの正確な整列を保証するために、好ましくは、並進運動及び回転運動可能な、前記ホルダの前記回転運動を制限するための固定ストッパが配設されている。これによってまた、前記工作物を前記ホルダに取り付けた際に万一前記ホルダを誤回転変位させることがないように特別な慎重さが求められる必要もないようにすることができる。さらに、前記ホルダに前記並進運動を制限するための固定ストッパが装備されていてもよいことは言うまでもない。
【0021】
本発明の範囲において、特に好ましいのは、前記供給装置の前記ホルダが並進運動によって前記帯鋸刃の前記切断領域に向かって運動可能であり、かつ、それによって前記鋸挽き送り運動を実行することである。これによって、前記鋸盤上部を、前記鋸挽き切断中、不動のままとすることが可能である。前記鋸盤上部が前記鋸挽き送り運動のために運動する必要がない場合には、まさに、金属3Dプリント法によって製造された、前記供給装置の前記可動式のホルダの本発明による前記回転運動のせいで垂直な鋸挽き面が不要とされる工作物の鋸挽きに際して、一連の利点が得られることになる。というのも、その場合には、公知の帯鋸盤に通例の、前記切断領域の前後における前記帯鋸刃の捻りを不要とし、前記帯鋸刃をそれが前記回転輪周りを回る際の、特に水平な指向のままとすることができるからである。これによって、運転中に前記帯鋸刃にかかる負荷を、前記帯鋸刃が捻られて前記鋸挽き面に適合させられる場合に比べて、大幅に低下させることができ、前記帯鋸刃の耐久寿命を有意に高めることができる。
【0022】
前記帯鋸刃は、前記切断領域において、基本的に水平の方向に走る場合には、前記供給装置の前記ホルダは、前記鋸挽き送り運動を実行する前に、同じく基本的に水平な回転軸周りに、しかも好ましくは180°回転可能であるのが好適である。このことは、前記工作物、特に金属部材がプリントされた前記ベースプレートを、この場合、前記ホルダの前記出発ポジションにおいて、容易に上方から前記ホルダ上に載置することができるがゆえに、利点を供する。
【0023】
本発明によるタイプの帯鋸盤において一般に備わっている、前記鋸盤上部の垂直可動性は、この場合、前記鋸挽き切断の前記高さ位置を調節するために使用することができる。このことは、金属3Dプリント用のベースプレートが多重使用されるという点からして既に好適である。そのため、前記金属部材がプリントされるベースプレートの表面は、新たなプリントが行われる前に研磨され、これによって、前記ベースプレートの前記材料厚さはその都度僅かに減少する。前記ホルダ及び好ましくは固定ストッパで制限されている前記ホルダの運動ストロークの変更を要することなく、この好適な態様の本発明による前記帯鋸盤は、前記鋸盤上部を相応して再調節することによって、さまざまなベースプレート厚さに適合させることが可能である。
【0024】
本発明による前記帯鋸盤のこの好ましい態様は、正確に水平及び垂直な方向に限定されているわけではない。前記帯鋸刃は、むしろ、水平面に対して一定の角度をなして向けられていてもよく、こうして、前記鋸挽き面が相応して変化し、前記鋸挽き送り運動を実行する前記ホルダの前記並進運動も、同じく、前記鋸挽き面から逸れないように、水平面に対して同じ角度をなして行われることになる。
【0025】
本発明による可動式の前記ホルダは、前記ベースプレート上にプリントされた金属部材を有する、金属3Dプリント法によって製造された工作物のベースプレートを収容するために設けられ、かつ、特に、基本的にテーブルとして形成されている場合には、前記ホルダは、基本的に水平に走行可能なキャリッジ上に軸支された回転テーブルを有しているのが好適である。このキャリッジは前記並進運動を引き受け、他方、前記回転テーブルは前記回転運動を実行する。前記ホルダのこの種の態様によって、特に容易な方法で、前記の好適な固定ストッパを設けることが可能となる。
【0026】
本発明のさらに別な態様によって、金属3Dプリント法で製造された工作物の鋸挽きに際して生ずるさらに別な問題が解決される。
【0027】
金属3Dプリント、特にレーザ焼結に際し、前記ベースプレート上にプリントされる前記金属部材は、あらかじめ前記ベースプレート上に敷き詰められた金属粉末の点状及び層状の溶融によって製造される。3Dプリント法は、特に、特にアンダーカットを有する点で従来の製造方法では一体製造することのできなかった異例な形状を有する金属部材の製造に使用される。前記アンダーカットの形状及び大きさに応じ、前記ベースプレートとプリントされた前記金属部材との間に、前記ベースプレートからの前記金属部材の切り離しによって開放される空洞が生ずる。その際、なおその中に存在する、溶融されなかった金属粉末が放出される。同様な効果は、支持構造を有する金属部材が3Dプリント法で前記ベースプレート上に製造される場合にも、観察することができる。この種の支持構造も鋸挽きに際して開放されて、その中になお存在する金属粉末が放出される。
【0028】
前記3Dプリント法に使用される前記金属粉末は、一般に、40μmの粒子サイズを有する。この点から、操作員の健康を危険にさらす大きな問題が生ずるが、それはこのサイズの金属粒子は吸込まれることができるが、ただし小さすぎて、肺臓の絨毛によって再び肺臓外へ排出されることができないからである。したがって、プリントされた金属部材を前記ベースプレートから切り離すにあたっては、操作員用に、独立した呼吸気供給装置を備えた防塵防護服を設けることが不可欠である。
【0029】
こうした問題を解決するために、本発明の範囲において、本発明による前記帯鋸盤、したがって、前記鋸盤上部及び前記供給装置を含めた前記鋸盤下部に、好ましくは防塵閉鎖するハウジング及び/又はそのようなケーシングが配設されることが提案される。さらに、前記ハウジング及び/又は前記ケーシングの内部用の、好適にはできるだけ前記切断領域の近傍に配置されて、万一粉塵が発生した場合であっても前記放出現場においてそれを吸引する、少なくとも一つの吸引装置が設けられていてよい。
【0030】
特に、基本的に定置式の鋸盤上部を有する本発明による前記帯鋸盤の好適な前記態様において、前記鋸盤全体の前記の類の被覆は穏当なコストで実行可能である。金属3Dプリント法で製造された金属部材の前記ベースプレートからの切り離しに本発明による前記帯鋸盤が好適にもしくは意図的に使用される点からしても、帯鋸盤の被覆は好都合であると考えられるが、それは、この場合、鋸挽きされる前記工作物が、例えば、ローラコンベアで供給されなければならないような長尺物ではなく、前記工作物は各個供給されるのが通例であり、しかも前記工作物が比較的コンパクトな-一般に、一辺の長さが400~500mmの立方体を上回ることがない程度の-寸法を有しているからである。
【0031】
特に、3Dプリントされた工作物用に本発明による前記帯鋸盤が意図的に使用されるに際し、前記防塵封止ハウジング及び/又は前記ケーシングに、クレーンを使用した工作物又は工作物部材の挿入及び/又は取出しを可能とするドア及び/又はフラップを設けるのが好適である。
【0032】
以下に、その正規な運転が本発明による方法の実施形態でもある、本発明によって形成された帯鋸盤の実施形態を、添付図面を参照して、詳細に記述し、説明する。各図は以下を示している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】従来の技術による帯鋸盤を概略的に示す図である
【
図2】本発明によって形成された帯鋸盤の等角投影図である。
【
図3】鋸挽きプロセスのさまざまな時点における、
図2に示した帯鋸盤を示す図である。
【
図4】鋸挽きプロセスのさまざまな時点における、
図2に示した帯鋸盤を示す図である。
【
図5】鋸挽きプロセスのさまざまな時点における、
図2に示した帯鋸盤を示す図である。
【
図6】鋸挽きプロセスのさまざまな時点における、
図2に示した帯鋸盤を示す図である。
【
図7】鋸挽きプロセスのさまざまな時点における、
図2に示した帯鋸盤を示す図である。
【
図8】鋸挽きプロセスのさまざまな時点における、
図2に示した帯鋸盤を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1には、従来の技術からそれ自体として公知の帯鋸盤が概略的に示されている。前記帯鋸盤は、鋸挽き対象である工作物3用の鋸挽きテーブル2がその上に取り付けられた鋸盤下部1、及び、その内部において帯鋸刃5が二つの回転輪6周りをエンドレスに回る、鋸盤下部1に対して可動する鋸盤上部4を含んでなっている。二つの回転輪6のうち一方がモータ8によって駆動され、帯鋸刃5は回転する切断運動を実行する。
【0035】
帯鋸刃5は、それが鋸挽き面内に位置するように、切断領域7において垂直に向けられている。そのために、前記帯鋸刃は切断領域7の始端と終端とにおいて、さもなければ前記帯鋸刃が水平に向けられて回転輪6周りを回ることになってしまうために、二つの帯鋸刃ガイド9によって90°だけ捻られる。鋸盤上部4は、ピラーガイド10によって、鋸盤下部1に可動に取り付けられ、鋸盤上部4の下降によって帯鋸刃5の切断領域7が垂直方向下方に変位することによって、鋸挽き送り運動11が実行される。帯鋸刃5の切断領域7がその面内で変位する前記面が、前記鋸挽き面である。
【0036】
図2は、本発明によって形成された帯鋸盤の等角投影図を示しており、その際、前記帯鋸盤は周囲をハウジング12によって防塵に被覆されている。操作パネル13によって、ハウジング12の外部から前記帯鋸盤を操作することが可能である。
【0037】
ここに示した前記帯鋸盤の内部に配された前記要素はその大部分が、
図1に示した前記要素と同じであるが、ただし、切断領域7における帯鋸刃5の捻りは不要である。帯鋸刃5は、切断領域7において、むしろその水平な指向を保持したままであり、前記鋸挽き送り運動は、鋸盤上部4の下降によって行われるのではなく、工作物3の並進運動によって行われ、それゆえ、鋸挽きテーブル2も不要である。
【0038】
図2に示された前記帯鋸盤への挿入は、スライディングルーフ14とサイドドア15とを介して行われ、鋸挽きされた工作物部材は、フラップ16を介して前方に取り出される。目視ウィンドウ17によって現場監視が可能とされ、前記帯鋸盤の整備を可能とするために、正面に二つのフロントドア18が設けられている。
【0039】
図2に具体的に示された前記帯鋸盤の被覆によって、健康に害のある金属粉塵が周囲環境に放出されることが防止される。さらに、帯鋸刃ガイド9には、例えば鋸挽きの際に放出される金属粉塵を直接吸引するために、吸引設備が設けられている(図中不図示である)。
【0040】
図3から7は、
図2に示した前記帯鋸盤を、別々の図で示したものであり、その際、前記帯鋸盤への挿入を行うためにサイドドア15とスライディングルーフ14とが開放されて、供給装置を視認することが可能とされている。
【0041】
図3にあっては、さらに、鋸盤下部1と鋸盤上部4とが視認される。同じく、その一方の端部が図中視認可能な帯鋸刃ガイド9によって示された切断領域7を走り抜ける帯鋸刃5が視認される。この帯鋸刃ガイド9は吸引設備19を備えている。帯鋸刃ガイド9は、帯鋸刃5を捻って垂直に指向させることはなく、むしろ前記帯鋸刃は水平な指向のままであることから、前記鋸挽き送り運動は実行されず、鋸盤上部4の上下運動によって、前記鋸挽き面の水平の位置が調節可能とされるだけである。前記回転輪は、前記モータとともに、この場合、ハウジング12内にあって、視認することはできない。
【0042】
前記供給装置は、本実施形態において、可動式のホルダ20と、鋸盤下部1に定置的に取り付けされた二本のレール21とから構成されている。ホルダ20それ自体は、二つのねじ列23を備えた、一本の水平軸周りに回転可能なようにキャリッジ24に固定された回転テーブル22を含んでいる。キャリッジ24は、レール21に沿って前方及び後方へ動かし得るために、これによって帯鋸刃5に向かっての鋸挽き送り運動を実現することができる。キャリッジ24におけるテーブル22の回転は、回転装置25によるモータ駆動によって行われ、前記回転運動は固定ストッパによって制限される。
【0043】
図4から7は、
図3と同様な表現によって、ベースプレート26と、金属3Dプリント法によってベースプレート26上に製造され、ベースプレート26と接合された、シンボリックにのみ図示した金属部材27とからなる工作物3の鋸挽きの際のさまざまな時点を示している。その上に金属部材27がプリントされ、それに沿って鋸挽きされる、ベースプレート26の上側面28は、暗い線によって示されている。ベースプレート26と金属部材27とからなる工作物3は、クレーンを使用することによって、回転テーブル22上に載置される。
【0044】
ベースプレート26は、そのコーナーに、ベースプレート26を回転テーブル22上に固定するためにねじ列23にねじ込み可能な、ねじ29が配設されている。これによって、工作物3は取り外し可能にホルダ20に固定される。
【0045】
図5に示されたように、回転テーブル22の回転によって、工作物3は、しかるべきポジション-すなわち、ベースプレート26が水平に向けられ、切断領域7における帯鋸刃5の指向によって定義される鋸挽き面内に正確に位置するポジション-へもたらされ、前記ポジションにおいて金属部材27は下方に向けられてベースプレート26に吊り下げられている(
図6)。
【0046】
この回転運動の後、キャリッジ24がレール21に沿って帯鋸刃5に向かって前方に移動させられることによって、ホルダ20の並進運動が行われる。このプロセスは
図7に示されている。その際、帯鋸刃5は、切断領域7において工作物3に食い込み、上側面28に沿ってベースプレート26を金属部材27から切り離す。
【0047】
鋸断された前記金属部材は、下方の、
図3から6及び特に
図8において視認することのできる受け皿30内に落下する。
図8は、本発明による帯鋸盤の本実施形態を再び前方から、しかも、前記鋸挽きプロセスの終了後の状態を示している。つまり、フラップ16は開放され、受け皿30はフラップ16上でハウジング12から手前に引き出されている。受け皿30内には鋸断された金属部材27が収容されており、金属部材27は同所から取り出されるか又は受け皿30とともに運び去られる。
【0048】
ベースプレート26は、当然のことながら、ホルダ20上に残ったままであり、ホルダ20とともに再び後方へ移動させられるため、ベースプレート26は、サイドドア15の開放後、回転テーブル22のねじ列23から螺脱され、再使用のために取り出すことが可能である。
【0049】
上述の図面によって示された本実施形態の特別な利点は、従来の技術によるこれまでの帯鋸盤を、基本的に前記供給装置に係わる比較的僅かな改良によって、本発明による帯鋸盤として形成し得た点にあり、これによって、金属3Dプリント法によって製造された工作物の鋸挽きに際する大きな利点が得られる。というのも、上述したように、本発明によって形成された前記帯鋸盤によって、これまでの帯鋸盤によるこの種の工作物の鋸挽きに際して生じた一連の問題が取り除かれるからである。