(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】溶解原料の製造方法及び、チタン鋳造材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/12 20060101AFI20230202BHJP
C22B 9/22 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C22B34/12 103
C22B9/22
(21)【出願番号】P 2018245022
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】諸富 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田中 太千
(72)【発明者】
【氏名】針生 修一
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-093213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/12
C22B 9/22
C22C 1/02
B22F 1/00-12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含有し電子ビーム溶解炉で溶解させる溶解原料を製造する方法であって、
目開きが5mm×5mmである篩の篩下になり、かつ目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩上になるスポンジチタンが80質量%以上含まれる成形原料に対し、150MPa以上の圧力の一軸加圧により、体積30cm
3以上の溶解原料を成形する成形工程を含み、
前記成形
原料が酸化チタンを含む、溶解原料の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程前に、前記スポンジチタン及び前記酸化チタンを、酸化鉄、アルミニウム、バナジウム、モリブデン、ジルコニウム、鉄、クロム、ニッケル、銅、ニオブ、ケイ素、スズ及び、パラジウムからなる群から選択される一種以上を含む添加原料と混合させ、前記成形原料を得る混合工程をさらに含む、請求項1に記載の溶解原料の製造方法。
【請求項3】
前記スポンジチタンの平均粒径が1mm~5mmである、請求項1又は2に記載の溶解原料の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程で、体積が30cm
3~2000cm
3である溶解原料を成形する、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶解原料の製造方法。
【請求項5】
前記電子ビーム溶解炉ではチタン鋳造材が製造される、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶解原料の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の溶解原料の製造方法を用いて製造した溶解原料を、電子ビーム溶解炉で溶解させる溶解工程を含む、チタン鋳造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタンを含有し電子ビーム溶解炉で溶解させる溶解原料を製造する方法及び、それを用いるチタン鋳造材の製造方法に関するものである。特に、この発明は、所定のスポンジチタンを電子ビーム溶解炉の溶解原料として有効に用いることを可能にする技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえばクロール法にて、精製四塩化チタンを金属マグネシウムで還元すること等により生成されるスポンジチタンは、チタン又はチタン合金のインゴット又はスラブその他のチタン鋳造材の製造に用いられる。かかるチタン鋳造材の製造では一般に、真空アーク溶解炉もしくは電子ビーム溶解炉等を用いて、スポンジチタンを、必要に応じて合金添加元素とともに溶解し、それにより得られる溶湯を所定の鋳型に流し込んで硬化させる。
【0003】
スポンジチタンを溶解するに当っては、電子ビーム溶解炉が、真空アーク溶解炉を用いる場合のようなスポンジチタンを含有する電極の事前の作製を要しないことから注目されている。また、電子ビーム溶解炉は、高密度介在物(High Density Inclusion、いわゆるHDI)や低密度介在物(Low Density Inclusion、いわゆるLDI)と称される介在物の分離性に優れているという利点もある。加えて、電子ビーム溶解炉では、ハース内で高真空及び高温により所定の不純物元素が蒸発するので、不純物の量を低減することができる。
【0004】
電子ビーム溶解炉等を用いるスポンジチタンその他の溶解原料の溶解に関する技術として従来は、特許文献1及び2に記載されたものがある。
特許文献1には、「粉状の合金原料と顆粒状金属原料を歩留まり良く、また均一に電子ビーム溶解炉に供給する技術の提供」を目的として、「電子ビーム溶解炉を用いた金属インゴットの溶製方法において、塊状酸化物と顆粒状金属とを混合し、これらの混合物を溶解原料として電子ビーム溶解炉に供給することを特徴とする金属インゴットの溶製方法」が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、「水平に配置された平面基盤上に載置された、5~19mm程度の大きさに破砕整粒されたスポンジチタン粒を、前記平面基盤の法線に沿って上方より投影して得られる投影面積Ap(mm2)と、投影した形状から算出される凸包の面積Ach(mm2)との比(Ap/Ach)である凸状比が0.84以上であり、かつ前記平面基盤上に投影した形状から算出される投影図形の周縁部の長さLp(mm)と、前記投影面積Apに等しい面積を有する円の円周の長さLr(mm)との比(Lr/Lp)であるWadellの円形度が0.55以上である、スポンジチタン粒の集合体」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/078402号
【文献】特開2018-48362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、精製四塩化チタンの還元により、スポンジチタンは比較的大きな塊状(スポンジチタン塊)として得られる。このようなスポンジチタン塊は電子ビーム溶解炉で溶解するには大きすぎるので、通常、溶解に先立ってスポンジチタン塊を破砕し、電子ビーム溶解炉による溶解が可能な粒状のスポンジチタンにする。
特に電子ビーム溶解炉では、それにより溶解させようとするスポンジチタンが、その溶解に適した所定の大きさであることが要求される。それ故に、破砕して得られた粒状のスポンジチタンは、例えば目開きが5mm×5mmである篩といった所定の篩を用いた篩分けにより篩上になる、粒度のある程度大きなものに選別されて溶解に用いられる。
【0008】
ここで、上記の篩分けで篩下になるスポンジチタンについては、そのままでは電子ビーム溶解炉にて良好に溶解させることができず、篩下である比較的小さなスポンジチタンを有効活用する手法が希求されている。特許文献1及び2には、このような篩下であるスポンジチタンの取扱いに関しては何ら検討されていない。
【0009】
この発明の目的は、所定のスポンジチタンを電子ビーム溶解炉の溶解原料として有効に用い得るようにする溶解原料の製造方法及び、チタン鋳造材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は鋭意検討の結果、目開きが5mm×5mmである篩による篩分けで篩下になるスポンジチタンを主成分とする成形原料を、150MPa以上の圧力で一軸加圧することにより所定の大きさの溶解原料とし、この溶解原料であれば電子ビーム溶解炉での溶解に有効に用いることができるとの知見を得た。但し、上記の一軸加圧をする前の成形原料に、目開きが0.2mm×0.2mmである篩を通過するスポンジチタンが多量に含まれていると、所要の強度の溶解原料を得るために過度に大きな圧力が必要になる他、溶解原料の溶解性が悪化することが解かった。
【0011】
この知見に基いて、この発明の電子ビーム溶解炉の溶解原料の製造方法は、チタンを含有し電子ビーム溶解炉で溶解させる溶解原料を製造する方法であって、目開きが5mm×5mmである篩の篩下になり、かつ目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩上になるスポンジチタンが80質量%以上含まれる成形原料に対し、150MPa以上の圧力の一軸加圧により、体積30cm3以上の溶解原料を成形する成形工程を含むものである。
【0012】
この発明の溶解原料の製造方法では、前記成形工程前に、前記スポンジチタンを、酸化チタン、酸化鉄、アルミニウム、バナジウム、モリブデン、ジルコニウム、鉄、クロム、ニッケル、銅、ニオブ、ケイ素、スズ及び、パラジウムからなる群から選択される一種以上を含む添加原料と混合させ、前記成形原料を得る混合工程をさらに含むことができる。
【0013】
また、この発明の溶解原料の製造方法では、前記スポンジチタンの平均粒径が1mm~5mmであることが好ましい。
【0014】
また、この発明の溶解原料の製造方法では、前記成形工程で、体積が30cm3~2000cm3である溶解原料を成形することが好ましい。
【0015】
この発明のチタン鋳造材の製造方法は、上記のいずれかの溶解原料の製造方法を用いて製造した溶解原料を、電子ビーム溶解炉で溶解させる溶解工程を含むものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の溶解原料の製造方法によれば、所定のスポンジチタンを電子ビーム溶解炉の溶解原料として有効に用い得るようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の一の実施形態の溶解原料の製造方法を用いるチタン鋳造材の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の溶解原料の製造方法は、電子ビーム溶解炉で溶解させるための、チタンを含有する溶解原料を製造する方法であり、具体的には、目開きが5mm×5mmである篩の篩下になり、かつ目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩上になるスポンジチタンを80質量%以上含む成形原料に対し、一軸加圧により150MPa以上の圧力を作用させ、体積30cm3以上の溶解原料を成形する成形工程を含むものである。スポンジチタンの粒度にばらつきがある場合は必要に応じて、成形工程前に、目開きが5mm×5mmである篩による篩別を行って篩下になり、かつ、目開きが0.2mm×0.2mmである篩による篩別を行って篩上になるスポンジチタンを得る篩別工程を行ってもよいが、この篩別工程は任意である。また必要に応じて、成形工程の前に、前記粒度のスポンジチタンを所定の添加原料と混合させる混合工程をさらに含むことができる。
【0019】
このような溶解原料の製造方法により製造される溶解原料は、溶解工程にて電子ビーム溶解炉で溶解させる溶解工程及び、その後に、その溶湯を鋳型に流し込んで冷却硬化させる鋳造工程等を経て、所定のチタン鋳造材を製造することができる。このようなチタン鋳造材の製造方法を、
図1に例示する。
【0020】
(スポンジチタン)
スポンジチタンとしては、たとえば、次のようにして得られるものを用いることができる。スポンジチタンを得るには通常、主成分として酸化チタンを含むルチルやイルメナイト等のチタン鉱石を塩素ガス及び還元剤としてのコークス等の炭素源とともに塩化炉に供給し、四塩化チタンを生成する。次いで、一般に粗四塩化チタンと称されるこの四塩化チタンを蒸留し不純物を除去して精製四塩化チタンとする。その後、たとえば、クロール法のように精製四塩化チタンを金属マグネシウムで還元すること等によりスポンジチタン塊が得られる。
【0021】
このようなスポンジチタン塊は通常、大きな塊状のものであり、電子ビーム溶解炉での溶解に先立って破砕する。スポンジチタン塊の破砕には種々の破砕機ないし装置を用いることができるが、たとえば、公知の専用のスポンジチタン切断機等が用いられることもある。
【0022】
(篩別工程)
電子ビーム溶解炉での溶解に先立ち、スポンジチタンを篩分けする篩別工程が行われ得る。ここでは、正方形状の篩目の目開きが5mm×5mmである篩を用いる。これにより篩上に選別される比較的粗粒のスポンジチタンはそのまま、電子ビーム溶解炉での溶解に用いることができる。当該篩上のスポンジチタンは、粒径が5.6mm~22.4mmの範囲内にあるものが99質量%以上であることがある。なお、この篩は、JIS Z8801-1:2006に規定される金属製網ふるいを意味する。後述の目開きが0.2mm×0.2mmである篩についても同様である。
【0023】
この一方で、上記の篩による篩分けでは、篩下に、比較的細粒のスポンジチタンが得られるが、このスポンジチタンはそのままでは電子ビーム溶解炉での溶解に供することができない。これは、このような細粒のスポンジチタンは電子ビーム溶解炉のフィーダー及びハース上でより大きいスポンジチタンと分離してしまうため全体としてスポンジチタンの溶解量が安定せず、チタン鋳造材組成にばらつきがでやすいことによる。
【0024】
このような細粒のスポンジチタンを有効活用するため、この実施形態では、当該細粒のスポンジチタンに対し、後述するように、必要に応じて混合工程を行った後に、成形工程を行い、溶解原料を得て、該溶解原料を電子ビーム溶解炉で良好に溶解させることができるものとする。しかも、目開きが5mm×5mmである篩を通過する細粒のスポンジチタンを後の成形工程にて所定の圧力で成形することにより良好な強度を有する溶解原料を得るので、該溶解原料がハースにフィードされるまでさらにはフィード後も破損等しにくく溶解原料の投入量を制御しやすい。そのため、溶解鋳造を経て製造されるチタン鋳造材の成分量のばらつきを抑制できる。
【0025】
但し、目開きが5mm×5mmである篩を通過するスポンジチタンのなかでも、特に微粒なスポンジチタンがある程度多く含まれている場合、所要の強度を有する溶解原料を得るために成形時に過度に大きな圧力が必要になる。また、微粒のスポンジチタンは密度を増大させるので、そのような微粒のスポンジチタンを多く使用した成形後の溶解原料は高密度になって溶解性が悪化する。このような極めて微粒なスポンジチタンを除去するため、さらに、目開きが0.2mm×0.2mmである篩による篩別を行って、篩上になるものを選別する。
このように、目開きが5mm×5mmである篩の篩下になるとともに、目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩上になるスポンジチタンを、後述する成形原料に含ませることにより、良好な溶解原料を製造することが可能になる。
【0026】
目開きが5mm×5mmである篩の篩下になり、かつ目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩上になるスポンジチタンは、ここでいう成形原料に含ませる主原料に該当する。この「主原料」は、成形原料に80質量%以上の割合で含まれる原料を意味する。実際に篩分けを行うか否かを問わず、仮に目開きが5mm×5mmである篩による篩分けをした場合に篩下になるとともに、目開きが0.2mm×0.2mmである篩による篩分けをした場合に篩上になるものは、上記のスポンジチタンとする。したがって、篩別工程は必ずしも必要ではない。なお、目開きが5mm×5mmよりも小さい篩を通過するものも、目開きが5mm×5mmの篩を通過することになる。
【0027】
上記のような所定の篩の篩下かつ篩上になるスポンジチタンは、平均粒径が、好ましくは1mm~5mmである。スポンジチタンの平均粒径がこのような大きさになることにより、表面積がある程度大きくなって、その表面に、たとえば酸化チタン等の微細な添加原料を均一に付着させることが可能となる。またスポンジチタンのかさ密度が小さい状態を維持できるので、後述の成形工程で比較的低い圧力であっても圧縮成型ができるようになる。この平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求められる粒度分布測定で、体積基準の累積分布が50%となる粒径を指し、JIS Z8825:2013に基いて測定する。
【0028】
(混合工程)
次いで、上述したような目開き5mm×5mmの篩の篩下かつ、目開き0.2mm×0.2mmの篩の篩上になるスポンジチタン(以下、単に「スポンジチタン」ともいう。)を、所定の添加原料と混合させ、成形原料とするための混合工程を行うことができる。
混合工程で、スポンジチタンに混合させる添加原料は、酸化チタン、酸化鉄、アルミニウム、バナジウム、モリブデン、ジルコニウム、鉄、クロム、ニッケル、銅、ニオブ、ケイ素、スズ及び、パラジウムからなる群から選択される一種以上の材料を含むものとしてよい。チタンスクラップやチタン切粉など、スポンジではない形態のチタンも添加原料として扱う。このような添加原料は、製造しようとするチタン鋳造材の目標とする組成等に応じた材料及び所定の量で、スポンジチタンと混合することができる。即ち、合金元素単独の原料を使用してもよく、合金である原料を使用してもよい。
【0029】
一般にチタンは酸化されやすいことから、チタン鋳造材の製造では、酸素量を制御することが重要になる。チタン鋳造材中の酸素量を適切に制御できれば板材等の適切な高強度化を図れる一方、特に表層部の酸素量が過多となるとチタン鋳造材の熱間圧延等において不利となる。この実施形態では、当該混合工程で、細粒のスポンジチタンと酸化チタン等の添加原料との混合を良好に行うことができ、その後の成形工程でこれを成形して溶解原料とするので、電子ビーム溶解炉への各成分の供給量を高度に制御することが可能になる。その結果、製造されたチタン鋳造材は、添加成分量のばらつきが良好に低減されたものになる。
なお、従前の方法では、酸化チタン等の焼成ペレットとスポンジチタンとの混合物を電子ビーム溶解炉へ投入していたので成分ごとの投入量が安定せず、チタン鋳造材の特に酸素量のばらつきにおいて改善の余地があった。一方で本実施形態ではスポンジチタンと添加原料を溶解原料に成形してから電子ビーム溶解炉に投入するのでフィーダーにおける各原料の分離を良好に抑制可能である。
【0030】
添加原料は、その平均粒径が、50mm以下、また25mm以上の範囲内のものでよい。このような比較的大きいサイズである添加原料の平均粒径は、添加原料1000個について、該添加原料を撮影して得られる画像から、画像解析により求めた添加原料の粒子の面積と同一の面積を有する円の直径の平均値を意味する。
【0031】
成形原料中の添加原料の割合は、その添加の目的等に応じて適宜決定することができるが、たとえば20質量%以下、典型的には1質量%~10質量%とすることができる。但し、チタンインゴット又はチタンスラブ等といったような、製造しようとするチタン鋳造材によっては、添加原料との混合を要しないものもある。この場合、混合工程は省略してもよく、成形原料中の添加原料の割合は0質量%となることがある。なお、合金成分を含まないチタン鋳造材を製造する場合でも、酸化チタンを添加原料として混合させることはある。
【0032】
なお、スポンジチタンと添加原料との混合は、公知の混合手段を用いて、スポンジチタンと添加原料とを機械的に混ぜ合わせることにより行うことができる。
【0033】
(成形工程)
その後の成形工程では、上述した成形原料に対して、プレス金型等を用いて、150MPa以上の圧力を作用させる一軸加圧を行う。これにより、成形原料が圧縮されて、所定の形状の溶解原料が形成される。一軸加圧は、型による成形、特に金型による成形により行うことが好適である。
【0034】
ここで、成形原料は、目開きが5mm×5mmである篩を通過し、かつ目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩上として残るスポンジチタンを80質量%以上含むものとする。本実施形態では成形原料の大部分が所定の細粒のスポンジチタンで構成されるとしても、良好な強度を有しかつ所期した形状の溶解原料が形成可能である。その結果、後述の溶解工程で、電子ビーム溶解炉への溶解原料の投入量をコントロールすることが容易になるとともに、成分量のばらつきが小さい良好なチタン鋳造材を製造することができる。
【0035】
なお、成形原料は、当該スポンジチタンを80質量%以上含むものであれば、その残部に、目開きが5mm×5mmである篩の篩上になるスポンジチタン、目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩下になるスポンジチタン、並びに/あるいは、上述した添加原料を含むものであってもよい。また、成形原料中の細粒のスポンジチタンには、たとえば特許文献2でいう「異形スポンジチタン粒」のようなものが含まれてもよい。
【0036】
またここで、成形工程では、様々な、一軸加圧が可能な粉末成形機を用いることができる。このような粉末成形機としては、市販されているものを用いることができる。なかでも、金属製の金型での一軸加圧による成形機を用いることは、強度に優れたブリケットを連続的に成形できるという利点がある。粉末成形機の駆動形式は特に問わないが、たとえば油圧駆動とすることができる。
【0037】
成形工程では、成形原料に150MPa以上の圧力を一軸方向に作用させることにより、所要の強度を有する溶解原料を得ることができる。これにより、溶解工程で、溶解原料を電子ビーム溶解炉へ投入する際の、意図しない材料崩れを良好に抑制することができる。溶解原料の強度向上の観点から、溶解原料に作用させる圧力は180MPa以上とすることが好ましい。成形時の圧力は、装置の仕様や製造コスト等を考慮して適宜設定した所定の大きさを、その上限とすることができる。たとえば、当該圧力は250MPa以下とすることができる。
成形時の温度は5℃~50℃とすることが一般的である。但し、成形時の温度は、溶解原料に含まれる成分や、溶解原料の所期する特性等を考慮して適宜設定することができ、この範囲に限らない。
【0038】
上記のように成形して得られる溶解原料は、その形状は特に問わないが、実質的に、円柱状、直方体状もしくは球状又は、それらの組合せ等のブリケットの形態とすることができる。溶解原料の体積は、たとえば30cm3~2000cm3、好ましくは30cm3~300cm3することができる。溶解原料の体積を30cm3以上とある程度大きくすることにより、溶解原料間の形状や成分を均一にしやすくなる。また溶解原料の体積を2000cm3以下の所定の大きさに止めることにより、フィード時の溶解原料堆積状態を制御しやすくなる。
なお、電子ビーム溶解炉のバーフィーダーとして用いることのできる形状の溶解原料を成形してもよい。バーフィーダーとは、比較的大きな塊状のものであって、電子ビーム溶解炉の炉外から炉内に装入されて、ハースの上方側からの電子ビームの照射により溶解して、ハースに溶湯が供給される。バーフィーダーは一般に、電子ビーム溶解炉で、例えば300cm3以下の小塊状の溶解原料とは異なる位置から装入されるが、バーフィーダーの装入位置は適宜決定することができる。この場合、バーフィーダーとしての溶解原料の体積は、たとえば、2000cm3~20000cm3とすることができる。
【0039】
(溶解工程)
上記の成形工程で得られる溶解原料を電子ビーム溶解炉で溶解させる溶解工程を行うことができる。
【0040】
溶解工程で溶解原料を溶解させる電子ビーム溶解炉は、公知のものが用いられ得るが、溶解原料を溶解させた溶湯を貯留するハースと、電子ビーム溶解炉に投入される小塊状の溶解原料をハースに案内するフィーダーと、ハース内の溶湯に電子ビームを照射する電子ビーム照射器と、ハースから流し込まれる溶湯を冷却硬化させる鋳型とを有するものが一般的である。場合によっては、電子ビーム溶解炉は、さらにバーフィーダーを有することもある。
【0041】
溶解原料は、先述したように、所定のスポンジチタンを含んで構成され、また一軸加圧による所定の圧力で成形されたことにより、電子ビーム溶解炉への溶解原料の投入量のコントロールが容易であるとともに、電子ビーム溶解炉に投入されてそのハースに至るまで材料崩れが生じ難い。その結果として、成分量のばらつきが小さい良好なチタン鋳造材の製造に大きく寄与することができる。なお、上述の実施形態にて製造した溶解原料と目開きが5mm×5mmである篩の篩上となる粗粒のスポンジチタンを併用して溶解させてもよい。
【0042】
(鋳造工程)
溶解工程の後、溶解工程で得られた溶湯を所定の鋳型に流し込んで冷却硬化させる鋳造工程を行うことができる。それにより、チタン鋳造材を製造することができる。チタン鋳造材として具体的には、たとえば、略円形断面のインゴット、略矩形断面のインゴット、スラブ、ブルーム、ビレット等が挙げられるが、その形状は特に限定されない。
【実施例】
【0043】
次に、この発明の溶解原料の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0044】
<溶解原料の製造>
(実施例1)
スポンジチタン塊を破砕した後、目開きが5mm×5mmの篩及び目開きが0.2mm×0.2mmである篩で選別し、目開きが5mm×5mmの篩の篩下でありかつ目開きが0.2mm×0.2mmである篩の篩上となるスポンジチタンを得た。
【0045】
上記スポンジチタン90質量%とJIS H4600の2種の純チタンに該当するチタンスクラップ等の添加原料10質量%とを混合して成形原料を得た後、該成形原料をブリケットマシーン(RUF社製のRUF4/3700 60×40)により200MPaで加圧成型し、溶解原料としてのブリケットを作製した。ブリケットは、略矩形であり、サイズは40mm×60mm×30mm程度(体積約72cm3)のものとした。なお、このブリケットマシーンは、金属金型使用、一軸加圧形式、油圧駆動のものである。
【0046】
なお、添加原料であるチタンスクラップは、JIS H4600の2種の純チタンに該当し、平均寸法が10mm×20mm×2mmであった。
【0047】
(実施例2)
添加原料として酸化チタンを含むものとし、成形原料中のスポンジチタンと酸化チタンの含有量をそれぞれ90質量%、10質量%としたことを除いて、実施例1と同様にブリケットを作製した。なお、酸化チタンの平均粒径は0.2μmである。
【0048】
(比較例1)
ブリケットマシーンでの加圧力を98MPaとしたことを除いて、実施例1と同様にブリケットを作製した。
【0049】
(比較例2)
成形原料中のスポンジチタンの割合を70質量%とし、チタンスクラップの割合を30質量%としたことを除いて、実施例1と同様にブリケットを作製した。
【0050】
(比較例3)
ブリケットマシーンでの加圧力を98MPaとしたことを除いて、実施例2と同様にブリケットを作製した。
【0051】
(比較例4)
成形原料中のスポンジチタンの割合を70質量%とし、酸化チタンの割合を30質量%としたことを除いて、実施例2と同様にブリケットを作製した。
【0052】
(比較例5)
ブリケットの体積を10cm3としたことを除いて、実施例1と同様にしてブリケットを作製することを試みたが、成形原料を所望形状に成形し難く、プレス後の成形体は強度不足で崩れてしまったので、ブリケットの作製ができなかったと判断した。
【0053】
(評価)
上述した実施例1及び2並びに、比較例1~4の各ブリケットについて、5mの高さから落下させ、落下後に、ブリケットの破損ないし材料崩れがないか確認した。その結果、実施例1及び2はブリケットが破損も型崩れもしなかったのに対し、比較例1~4はいずれのブリケットも破損し、破損部が粉々に分離してしまった。
【0054】
また各ブリケットを用いて電子ビーム溶解炉への投入量制御の可否を確認した。実施例1及び2は問題なく投入出来たのに対し、比較例1~4は投入後にブリケットが破損して該破損により分離したものの溶解量を制御できず、溶湯組成に偏りが生じた。
【0055】
【0056】
<チタン鋳造材の製造>
(実施例3)
成形原料におけるスポンジチタン量を80質量%とし、添加原料がさらにアルミニウム及びバナジウムを含むものとし、溶解原料中のアルミニウムの含有量を6質量%とし、溶解原料中のバナジウムの含有量を4質量%としたことを除いて、実施例1と同様にブリケットを作製した。このブリケットを溶解原料として、電子ビーム溶解炉を用いてチタン鋳造材を作製した。
【0057】
(比較例6)
成形原料中のスポンジチタン量を70質量%、チタンスクラップ等の添加原料量を20質量%としたことを除いて、実施例3と同様にブリケットを作製した。このブリケットを溶解原料として、電子ビーム溶解炉を用いてチタン鋳造材であるチタンインゴットを作製した。
【0058】
(評価)
実施例3及び比較例6の各チタン鋳造材の合金成分のばらつきを、チタン鋳造材の長手方向の成分分析により確認した。ここでは、チタン鋳造材のボトムからトップにかけて100mmピッチで合金成分を測定した。合金成分の測定は、各測定箇所にて、ドリルを用いてチタン鋳造材から直径6mm、長さ30mmの円柱状のピンサンプルを採取し、該ピンサンプルに対してICP発光分光法を適用することにより行った。そして、各測定箇所における測定値をチタン鋳造材の目標値で除して、これを百分率で表し、合金成分のばらつきとして相対誤差を算出した。なお、バナジウムの濃度変化よりもアルミニウムの濃度変化が大きいため、ここでは、アルミニウム濃度の相対誤差を求めた。
その結果、実施例3のチタン鋳造材の相対誤差の最大値は3%であった。これに対し、比較例6のチタン鋳造材の合金成分の相対誤差の最大値は10%であった。実施例3は、溶解原料の投入を適切に制御でき、ひいてはアルミニウム等の合金元素の意図しない蒸発を良好に抑制することができたことにより、合金成分のばらつきが小さかったと推測される。
【0059】