(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】コンクリート成形用型枠およびその製造方法ならびに着色コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/36 20060101AFI20230202BHJP
B28B 7/16 20060101ALI20230202BHJP
B28B 7/34 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B28B7/36
B28B7/16 G
B28B7/34 M
(21)【出願番号】P 2019014168
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】黒田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】片山 行雄
(72)【発明者】
【氏名】清村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】辻埜 真人
(72)【発明者】
【氏名】麻植 啓司
(72)【発明者】
【氏名】西川 浩之
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B7/00-7/46
E04G9/00-19/00
E04G25/00-25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料からなる基材と、この基材の上に設けられた凹凸層と、この凹凸層の上に設けられた撥水層とを備えるコンクリート成形用の型枠であって、
凹凸層は、樹脂およびフィラーを含んで構成され、樹脂およびフィラーは、基材から溶出する成分を撥水層の外側のコンクリートに到達させることが可能な組成物であ
り、
樹脂の伸び率が50%以下であり、
撥水層は、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層であることを特徴とするコンクリート成形用型枠。
【請求項2】
請求項
1に記載のコンクリート成形用型枠を製造する方法であって、
基材の上に、凹凸層および撥水層を設けることを特徴とするコンクリート成形用型枠の製造方法。
【請求項3】
請求項
1に記載のコンクリート成形用型枠を用いて着色したコンクリートを製造する方法であって、
コンクリート成形用型枠にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型することを特徴とする着色コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート成形用型枠およびその製造方法ならびに着色コンクリートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート成形用の型枠として、本出願人は既に特許文献1に記載の型枠を提案している。特許文献1の型枠は、コンクリート表面に木調の外観を付与可能な型面と、この型面の少なくとも一部に設けられ、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層とを備えるものである。これによれば、多孔質層によって型枠からの成分(例えばリグニンなどの成分)の滲み出しを抑制するとともに、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層の持つ超撥水効果によって、成形後のコンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みの発生が大幅に低減し、コンクリート表面の意匠性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、杉板などの木材を張り合わせた型枠を用いてコンクリートを打設すれば、コンクリート表面に木目や天然成分由来の色をつけることが可能である。型枠が木材特有の木目調の段差を有する場合、木目の段差の部位で気泡が抜けにくくなるため、
図6に示すようにコンクリート表面に空気あばた等の窪みができやすい。空気あばた等の窪みをなくすために表面気泡を低減させる目的で型枠の表面に超撥水剤を塗布すると、木材までコンクリート中の水が到達しにくくなり、木材から溶出する天然成分由来の色がコンクリート表面に付きにくくなるという問題があった。このため、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みを低減するとともに、木材から溶出する天然成分由来の色がコンクリート表面につきやすくすることが求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みを低減するとともに、木材から溶出する天然成分由来の色をコンクリート表面につけることのできるコンクリート成形用型枠およびその製造方法ならびに着色コンクリートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るコンクリート成形用型枠は、木質材料からなる基材と、この基材の上に設けられた凹凸層と、この凹凸層の上に設けられた撥水層とを備えるコンクリート成形用の型枠であって、凹凸層は、樹脂およびフィラーを含んで構成され、樹脂およびフィラーは、基材から溶出する成分を撥水層の外側のコンクリートに到達させることが可能な組成物であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠は、上述した発明において、樹脂の伸び率が100%以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠は、上述した発明において、撥水層は、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るコンクリート成形用型枠の製造方法は、上述したコンクリート成形用型枠を製造する方法であって、基材の上に、凹凸層および撥水層を設けることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る着色コンクリートの製造方法は、上述したコンクリート成形用型枠を用いて着色したコンクリートを製造する方法であって、コンクリート成形用型枠にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るコンクリート成形用型枠によれば、木質材料からなる基材と、この基材の上に設けられた凹凸層と、この凹凸層の上に設けられた撥水層とを備えるコンクリート成形用の型枠であって、凹凸層は、樹脂およびフィラーを含んで構成され、樹脂およびフィラーは、基材から溶出する成分を撥水層の外側のコンクリートに到達させることが可能な組成物であるので、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みを低減するとともに、木質の基材から溶出する天然成分由来の色をコンクリート表面につけることができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠によれば、樹脂の伸び率が100%以下であるので、樹脂とフィラー界面に微細なひび割れが発生しやすくなる。このひび割れを介して基材からの成分をコンクリートに到達させることが可能となるので、木質の基材から溶出する天然成分由来の色をコンクリート表面により濃くつけることができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠によれば、撥水層は、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層であるので、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みをより効果的に低減することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係るコンクリート成形用型枠の製造方法によれば、上述したコンクリート成形用型枠を製造する方法であって、基材の上に、凹凸層および撥水層を設けるので、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みを低減可能で、かつ、木質の基材から溶出する天然成分由来の色をコンクリート表面に着色可能なコンクリート成形用型枠を得ることができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る着色コンクリートの製造方法によれば、上述したコンクリート成形用型枠を用いて着色したコンクリートを製造する方法であって、コンクリート成形用型枠にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型するので、空気あばた等の窪みが低減され、かつ、木質調に着色された着色コンクリートを得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係るコンクリート成形用型枠およびその製造方法ならびに着色コンクリートの製造方法の実施の形態を示す型枠断面図である。
【
図2】
図2は、使用したフィラーと樹脂の特性(平均値)を示す図である(出典:ポリマー辞典および化学便覧他)。
【
図3】
図3は、フィラーと様々な樹脂の混合物である凹凸層を杉板に塗布した場合のコンクリート表面を示す写真図である。
【
図4】
図4は、CIE1976色空間によるコンクリート表面の色の評価を示す図である。
【
図5】
図5は、締固めエネルギーと表面気泡率の関係の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、杉板を型枠として利用したコンクリート表面の一例を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るコンクリート成形用型枠およびその製造方法ならびに着色コンクリートの製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
<コンクリート成形用型枠>
図1は、本発明の好ましい一態様の模式的な断面図である。この図に示すように、本実施の形態に係るコンクリート成形用型枠10は、型枠本体をなす基材12と、基材12の上に設けられた凹凸層14と、凹凸層14の上に設けられた撥水層16とを備える。撥水層16が、型枠10の最外側に位置して、成形対象のコンクリートCと接する。
【0019】
[基材]
基材12は、型枠本体を構成するものである。基材12は、例えば杉板などの木質材料からなる。基材12は、着色用の天然成分を含有しており、この天然成分は水分の作用を受けて基材12の外部に溶出可能である。基材12の形状や大きさ等については、目的とするコンクリート成形体に応じて適宜設計することができ、成形体に溝を施したい場合は、目地棒を介在させることもできる。目地棒を介在させる場合には、目地棒は基材12の一部を構成する。したがって、この場合の基材12は目地棒も含む。なお、目地棒を介在させる場合には、目地棒の表面に凹凸層14、撥水層16を設けてもよい。
【0020】
[凹凸層]
凹凸層14は、基材12の上に設けられる。凹凸層14は、樹脂18およびフィラー20の混合物からなる。凹凸層14が完全に基材12をコーティングしている場合、木質の基材12からの成分は凹凸層14の外部に溶出することはできない。このため、樹脂18およびフィラー20は、木質の基材12から溶出する成分をコンクリートCに到達させることが可能な組成物で構成する。樹脂18の伸び率は100%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以下の樹脂がよい。このような伸び率の樹脂を用いれば、樹脂18とフィラー20の界面に微細なひび割れを発生しやすくすることができる。微細なひび割れを介して木質の基材12から溶出する成分を撥水層16の外側のコンクリートCに到達させることが容易となるので、コンクリート表面に木質の基材12から溶出する成分の色をより濃くつけることが可能である。
【0021】
上記の凹凸層14としては、例えば、フィラー20(充填粒子)が樹脂18(マトリックス)中に分散した充填粒子含有層で構成することができる。この凹凸層14を介在させることにより、コンクリート成形用型枠10の離型性をさらに長期間維持することができる。フィラー20としては、有機成分および無機成分の少なくとも1種を含む充填粒子を採用することができる。凹凸層14を基材12の表面に設ける場合の付与量は、固形分基準で例えば0.1~100g/m2程度、好ましくは1.0~20.0g/m2程度とすればよい。上記範囲内に設定することによって、撥水層16の疎水性酸化物微粒子のより優れた密着性を長期にわたって得ることができる上、凹凸層14上に塗布された疎水性酸化物微粒子の脱落抑制、耐久性等の点でも有利となる。なお、凹凸層14を付与する方法は、特に制限されるものではないが、例えばスプレー、刷毛、ローラー、浸漬等による塗布方法のほか、印刷方法、滴下法等も採用することができる。付与(塗工)の際は、下記マトリックスを適当な溶剤で希釈することもでき、付与後は、室温~150℃程度で適宜乾燥させればよい。
【0022】
無機成分としては、例えば1)アルミニウム、銅、鉄、チタン、銀、カルシウム等の金属またはこれらを含む合金または金属間化合物、2)酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物、3)リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等の無機酸塩または有機酸塩、4)ガラス、5)窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、窒化珪素等のセラミック等を好適に用いることができる。
【0023】
有機成分としては、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等の有機高分子成分(または樹脂成分)を好適に用いることができる。
【0024】
上記の充填粒子は、無機成分からなる粒子あるいは有機成分からなる粒子のほか、無機成分および有機成分の両者を含む粒子を用いることができる。この中でも特に、アクリル系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子、親水性シリカ粒子、リン酸カルシウム粒子、炭粉、焼成カルシウム粒子、未焼成カルシウム粒子、ステアリン酸カルシウム粒子、酸化アルミニウム粒子等の少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0025】
充填粒子の平均粒子径(レーザー回折式粒度分布計による)は型枠に使用する塗膜の厚みも考慮すると、0.3~100μm程度が好ましく、1~80μmがさらに好ましく、5~60μmがよりさらに好ましく、20~50μmが最も好ましい。0.3μm未満では取扱い性、凹凸形成等の点で不向きである。他方、100μmを超える場合は、充填粒子の脱落、分散性等の点で不向きである。充填粒子の形状は限定的でなく、例えば球状、回転楕円体状、不定形状、涙滴状、扁平状、中空状、多孔質状等のいずれであってもよい。
【0026】
凹凸層14を構成し、フィラー20(充填粒子)を繋ぎとめる樹脂18(マトリックス)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、エラストマー、ワックスなどを採用できる。マトリックス中における充填粒子の含有量は、マトリックスの材質または充填粒子の種類、所望の物性等に応じて適宜変更できるが、一般的には固形分重量基準で1~80重量%が好ましく、3~50重量%がさらに好ましい。
【0027】
充填粒子を含有させる方法(充填粒子をマトリックス中に分散させる方法)は、特に限定されないが、一般的にはマトリックスを形成するための原料(例えば、熱可塑性樹脂を含む組成物)に充填粒子を配合する方法等が挙げられる。混合する方法は、乾式混合または湿式混合のいずれであってもよい。
【0028】
マトリックスが熱可塑性樹脂の場合、一般的に熱可塑性樹脂層の主成分は1)熱可塑性樹脂またはそれを構成するモノマーもしくはオリゴマー、2)溶剤、3)必要に応じて架橋剤等からなるため、それらの混合物中に充填粒子を添加混合すればよい。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を採用することができる。例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッ素系樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル系樹脂等のほか、これらのブレンド樹脂、これらを構成するモノマーの組み合わせを含む共重合体、変性樹脂等を用いることができる。
【0029】
マトリックスが熱硬化性樹脂の場合、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂等を採用することができる。マトリックスがエラストマーの場合、例えば、PVC-NBRブレンドエラストマー、ウレタン系エラストマー等を採用することができる。
【0030】
[撥水層]
撥水層16は、凹凸層14の表面に設けられる。この撥水層16に整形対象のコンクリートCが接することになる。撥水層16は、水に対する接触角αが130°以上の撥水性の表面を有する層であり、より望ましくは150°以上の超撥水性の表面を有する層である。
【0031】
ここで、撥水性とは、水による濡れにくさを表す性質をいい、撥水層16の表面上に置かれた水滴の接触角が撥水性の指標になっている。一般には接触角が90°以上の場合には撥水性、110°から150°の場合には高撥水性、150°以上の場合には超撥水性とされる。材料の表面自由エネルギーを下げても接触角は120°が限界といわれており、それ以上を実現するには後述するように表面形状を特殊なものに加工する必要がある。
【0032】
上記の構成によれば、型枠表面の表面張力が撥水層16によって著しく高くなることで、打ち込み時に連行されたコンクリート中の気泡が撥水層16の表面に接した際に、この表面に沿って広がりやすくなり、コンクリート表面の気泡は従来よりも表面に沿って薄く、平べったいものとなる。しかも、この気泡は、基材12の外部から加えられる小さな振動で上昇してコンクリート表面から容易に抜けやすい。したがって、本実施の形態によれば、コンクリート表面の空気あばたの原因となる気泡を、より確実に低減することができる。
【0033】
撥水層16は、疎水性酸化物微粒子からなる多孔質層や、フッ素系樹脂などにより構成することができる。撥水層16を疎水性酸化物微粒子からなる多孔質層で構成する場合、原料である疎水性酸化物微粒子としては、疎水性を有するものであれば特に限定されず、表面処理により疎水化されたものであってもよい。例えば、親水性酸化物微粒子をシランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした微粒子を用いることもできる。酸化物の種類も、疎水性を有するものであれば特に限定されない。例えばシリカ(二酸化珪素)、アルミナ、チタニア等の少なくとも1種を用いることができる。これらは公知または市販のものを採用することができる。
【0034】
例えば、シリカとしては、製品名「AEROSIL R972」、「AEROSIL R972V」、「AEROSIL R972CF」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RX300」、「AEROSIL NX90G」、「AEROSIL RY200」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R202」、「AEROSIL R805」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」(以上、エボニック デグサ社製)、「サイロホービック-100」、「サイロホービック-200」、「サイロホービック-603」(以上、富士シリシア化学株式会社製)等が挙げられる。なお、AEROSIL、サイロホービックは登録商標である。
【0035】
チタニアとしては、製品名「AEROXIDE TiO2 T805」(エボニック デグサ社製)等が例示できる。アルミナとしては、製品名「AEROXIDE Alu C」(エボニック デグサ社製)等をシランカップリング剤で処理して粒子表面を疎水性とした微粒子が例示できる。なお、AEROXIDEは登録商標である。
【0036】
この中でも、疎水性シリカ微粒子を好適に用いることができる。とりわけ、より優れた撥水性が得られるという点において、表面にトリメチルシリル基を有する疎水性シリカ微粒子が好ましい。これに対応する市販品としては、例えば上記「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RX300」、「AEROSIL NX90G」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」、「AEROSIL R8200」(以上、エボニック デグサ社製)等が挙げられる。
【0037】
疎水性酸化物微粒子の粒度は限定的ではないが、一次粒子平均径が3nm~10μmであることが好ましく、より好ましくは3~100nmであり、最も好ましくは5~50nmである。一次粒子平均径を上記範囲とすることにより、その凝集体中にある空隙に空気等の気体を保持することができる結果、多孔質構造となり、優れた離型性を発揮することができる。この凝集状態は、凹凸層14の表面に付着した後も維持されるので、優れた離型性を発揮することができる。特に、一次粒子平均径が3~100nmの疎水性酸化物微粒子を用いることにより、三次元網目状の多孔質構造の表面を有するコンクリート成形用型枠10を得ることができる。
【0038】
凹凸層14の表面に形成される疎水性酸化物微粒子の撥水層16は、三次元網目状構造を有する多孔質状であるのが好ましく、その厚みは0.1~500μm程度が好ましく、0.5~20μm程度がさらに好ましい。このようなポーラスな状態で形成することにより、当該層に空気を多く含むことができ、より優れた離型性を発揮することができる。
【0039】
なお、本発明において、一次粒子平均径の測定は、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で実施することができ、走査型電子顕微鏡の分解能が低い場合には透過型電子顕微鏡等の他の電子顕微鏡を併用して実施してもよい。具体的には、粒子形状が球状の場合はその直径、非球状の場合はその最長径と最短径との平均値を直径とみなし、走査型電子顕微鏡等による観察により任意に選んだ50個分の粒子の直径の平均を一次粒子平均径とする。
【0040】
疎水性酸化物微粒子の比表面積(BET法)は特に制限されないが、通常50~300m2/gが好ましく、100~300m2/gがさらに好ましい。
【0041】
凹凸層14の表面への塗布に際しては、疎水性酸化物微粒子をそのまま付与してもよいし(乾式方法)、あるいは疎水性酸化物微粒子を溶媒に分散してなる分散液を塗工することにより付与してもよい(湿式方法)。本発明では、工業的に均一な塗膜(疎水性酸化物微粒子層)が得られやすく、しかも三次元網目状構造が得られやすいという見地より、後者の湿式方法が好ましい。
【0042】
上記の分散液を用いる場合、分散液に用いる溶媒は、例えばアルコール(エタノール)、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、IPA、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、ペンタメチレングリコール、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ヘキシルアルコール等の有機溶剤を適宜選択することができる。この際、微量の分散剤、着色剤、沈降防止剤、粘度調整剤等を併用することもできる。溶媒に対する疎水性酸化物微粒子の分散量は通常10~300g/L(リットル)程度、好ましくは30~100g/L程度とすればよい。
【0043】
また、分散液を塗工する方法も制限されず、例えばスプレー、刷毛、ローラー、浸漬等による塗布方法のほか、印刷方法(インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷)、滴下法等も採用することができる。塗布後は、室温~150℃程度で適宜乾燥させればよい。
【0044】
疎水性酸化物微粒子を凹凸層14の表面に付与する場合の付与量は、通常は所望の離型性等に応じて適宜設定することができるが、固形分基準で例えば0.1~100g/m2程度、好ましくは0.5~20.0g/m2程度とすればよい。上記範囲内に設定することによって、より優れた離型性を長期にわたって得ることができる上、疎水性酸化物微粒子の脱落抑制、コスト等の点でも一層有利となる。
【0045】
上記のように構成したコンクリート成形用型枠10によれば、表面気泡を低減しながらコンクリートに木質の基材12から溶出する天然成分由来の色をつけることが可能である。
【0046】
また、型枠表面の表面張力が撥水層16によって著しく高くなることで、打ち込み時に巻き込まれたコンクリート中の気泡が撥水層16の表面に接した際に、この表面に沿って広がりやすくなり、コンクリート表面の気泡は表面に沿って薄く、平べったいものとなる。しかも、この気泡は、外部から加えられる小さな振動で上昇してコンクリート表面から抜けやすい。したがって、本実施の形態によれば、コンクリート表面の空気あばたの原因となる気泡を、より確実に低減することができる。このため、コンクリート表面の意匠性を向上することができる。
【0047】
[本発明の効果の検証]
次に、本発明の効果を検証するために行った実験および結果について説明する。
【0048】
実験に使用したフィラーと樹脂の種類および物性は、
図2に示すとおりである。横8cm×縦10cm程度に加工した杉板に対して、
図2のフィラーと樹脂の混合物である凹凸層を塗布した。この杉板を6水準全て1枚の型枠に張り合わせ、コンクリートを打ち込み、脱型後のコンクリート表面の色合いを評価した。
図3にコンクリート表面の写真を、
図4にCIE1976色空間で評価した色合いの結果を示す。
【0049】
図4に示すように、No.3とNo.6の樹脂を使用した場合、木材から溶出する成分により、b*値(黄色成分)が顕著に増加し、コンクリート面に色がついていることが確認できた。そこで、No.3とNo.6の樹脂にみられる特徴を
図2で確認すると、樹脂の伸び率が小さいことが確認できる。外力を受けた場合に変形が小さいため、樹脂とフィラー界面に微細なひび割れが発生しやすいと考えられる。
【0050】
以上の結果から、樹脂の伸び率が100%以下、より好ましくは50%以下の樹脂を用いることで、コンクリート面に木材から溶出する成分の色をより濃くつけることが可能であることがわかる。
【0051】
<コンクリート成形用型枠の製造方法>
本実施の形態に係るコンクリート成形用型枠の製造方法は、基材12の上に凹凸層14を設けるとともに、凹凸層14の上に撥水層16を設けることによって、上記のコンクリート成形用型枠10を製造する方法である。凹凸層14は、上述したように、樹脂18およびフィラー20の混合物からなる。樹脂18およびフィラー20は、木質の基材12から溶出する成分をコンクリートCに到達させることが可能な組成物で構成する。樹脂18の伸び率は100%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以下の樹脂がよい。基材12の上に上記の条件を満たす凹凸層14を塗布等により施工し、さらに凹凸層14の上に撥水層16を塗布等により施工し、
図1に示すような型枠10を製作することは、本発明の実施に相当する。
【0052】
なお、上記の基材12に対する凹凸層14の施工、凹凸層14に対する撥水層16の施工は、型枠板の製作工場やプレキャストコンクリートの製造工場だけでなく、コンクリート打設現場における型枠組立の前後の工程で行うことが可能である。このように、本発明は、市販されている一般的な型枠板に対して適用することが可能であり、上記したのと同様な作用効果を奏することができる。
【0053】
<着色コンクリートの製造方法>
本実施の形態に係る着色コンクリートの製造方法は、上述したコンクリート成形用型枠10を用いて着色したコンクリートを製造する方法であって、コンクリート成形用型枠10にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートCが硬化した後で脱型するものである。これによれば、空気あばた等の窪みが低減され、かつ、木質調に着色された着色コンクリートを得ることができる。
【0054】
ここで、コンクリートの打ち込み中に、振動機で締固めエネルギーが100~200J/L程度となるような振動を与えてもよい。つまり、表面気泡を低減させる目的で最外面に撥水層16を設けると、撥水層16が残存している間は、コンクリートの水分が木質の基材12まで到達しにくくなることに加え、木質の基材12から溶出する天然成分がコンクリート表面へ到達しにくくなるおそれがある。撥水層16の超撥水機構は、ナノ~マイクロオーダーの構造を有しているため、そのような微細な機構は、外部から与えられるある一定以上のエネルギーにより破壊可能である。そこで、表面気泡を低減させる作用を損なわない程度に破壊の度合いを制御するのである。
【0055】
図5は、超撥水剤を塗布した型枠による表面気泡と、締固めエネルギーの関係の一例である。締固めエネルギーが100J/L以上で、表面気泡が増加していることがわかる。これは、100J/L以上で、超撥水機構が破壊されているためである。したがって、型枠による表面気泡の低減率をある程度維持したまま(例えば、表面気泡低減率90%以上)、超撥水機構を破壊するためには、およそ100~200J/Lの締固めエネルギーを与えることが必要である。なお、これは、型枠の表面から5~7.5cm程度離した位置のコンクリートに10秒間程度、振動機を用いて締固めする際のエネルギーに相当し、通常の施工で実施する締固め作業の際の締固めエネルギーと同等である。
【0056】
なお、締固めエネルギーは、以下の式で計算することができる。
E=ρα2×t0/4π2f
ここに、
E:締固めエネルギー
ρ:コンクリートの密度
α:最大加速度
t0:締固め時間
f:振動数
【0057】
したがって、木質の基材12の上に凹凸層14と撥水層16を設けた型枠10に対して、コンクリートを打ち込み、通常と同様の締固めを実施し、さらに凹凸層14の樹脂の伸び率が100%以下、より好ましくは50%以下の樹脂を用いることで、コンクリート表面の気泡の低減を実現しつつ、木質の基材12から溶出する成分による特徴的な色をコンクリート表面により濃くつけることが可能となる。
【0058】
以上説明したように、本発明に係るコンクリート成形用型枠によれば、木質材料からなる基材と、この基材の上に設けられた凹凸層と、この凹凸層の上に設けられた撥水層とを備えるコンクリート成形用の型枠であって、凹凸層は、樹脂およびフィラーを含んで構成され、樹脂およびフィラーは、基材から溶出する成分を撥水層の外側のコンクリートに到達させることが可能な組成物であるので、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みを低減するとともに、木質の基材から溶出する天然成分由来の色をコンクリート表面につけることができる。
【0059】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠によれば、樹脂の伸び率が100%以下であるので、樹脂とフィラー界面に微細なひび割れが発生しやすくなる。このひび割れを介して基材からの成分をコンクリートに到達させることが可能となるので、木質の基材から溶出する天然成分由来の色をコンクリート表面により濃くつけることができる。
【0060】
また、本発明に係る他のコンクリート成形用型枠によれば、撥水層は、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層であるので、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みをより効果的に低減することができる。
【0061】
また、本発明に係るコンクリート成形用型枠の製造方法によれば、上述したコンクリート成形用型枠を製造する方法であって、基材の上に、凹凸層および撥水層を設けるので、コンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みを低減可能で、かつ、木質の基材から溶出する天然成分由来の色をコンクリート表面に着色可能なコンクリート成形用型枠を得ることができる。
【0062】
また、本発明に係る着色コンクリートの製造方法によれば、上述したコンクリート成形用型枠を用いて着色したコンクリートを製造する方法であって、コンクリート成形用型枠にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型するので、空気あばた等の窪みが低減され、かつ、木質調に着色された着色コンクリートを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明に係るコンクリート成形用型枠およびその製造方法ならびに着色コンクリートの製造方法は、コンクリート表面の空気あばたの原因となる気泡を低減するのに有用であり、特に、木材から溶出する天然成分由来の色をより確実にコンクリート表面につけるのに適している。
【符号の説明】
【0064】
10 コンクリート成形用型枠
12 基材
14 凹凸層
16 撥水層
18 樹脂
20 フィラー
C コンクリート