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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】水中油型乳化剤および化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20230202BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 8/31 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20230202BHJP
   A61K 8/89 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 8/69 20060101ALI20230202BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230202BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20230202BHJP
   A61Q 1/14 20060101ALI20230202BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20230202BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20230202BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20230202BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20230202BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20230202BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/06
A61K8/31
A61K8/37
A61K8/97
A61K8/89
A61K8/92
A61K8/69
A61Q19/00
A61Q13/00 100
A61Q1/14
A61Q5/12
A61Q17/04
A61Q5/10
A61Q1/02
C09K23/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019014490
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020121941
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】村社 敬子
(72)【発明者】
【氏名】和田 美里
(72)【発明者】
【氏名】田中 利奈
(72)【発明者】
【氏名】杉山 郁絵
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109986(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230228(WO,A1)
【文献】特開2017-014115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/90
A61Q 1/00- 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料を形成するために用いられる水中油型乳化剤であって、
繊維幅が1000nm以下であり、かつリン酸基またはリン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含む、水中油型乳化剤。
【請求項2】
前記繊維状セルロースにおける疎水基の含有量が、0.1mmol/g未満である、請求項1に記載の水中油型乳化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水中油型乳化剤と、油性成分とを有する化粧料であって、
前記油性成分/前記繊維状セルロースの質量比が0.1以上350以下である、化粧料。
【請求項4】
前記化粧料の全質量に対する、前記繊維状セルロースの含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、前記油性成分の含有量が0.1質量%以上50質量%以下である、請求項に記載の化粧料。
【請求項5】
前記油性成分が、炭化水素油、エステル油、植物油、シリコーン油、フッ素油、紫外線吸収剤および香料から選択される少なくとも1種である、請求項またはに記載の化粧料。
【請求項6】
高級脂肪酸および高級アルコールから選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項のいずれか1項に記載の化粧料。
【請求項7】
前記化粧料の全質量に対する、界面活性剤の含有量が0.1質量%以下である、請求項のいずれか1項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料を形成するために用いられる水中油型乳化剤および化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚に適度な潤いを与えるために、水と油とを安定に含有した皮膚外用剤が利用されている。このような水と油を安定に含有した乳化型の皮膚外用剤では、界面活性剤を用いて乳化粒子を細かくして安定化する水中油型乳化や油中水型乳化等の乳化技術が用いられている。このような乳化方法では、乳化粒子の安定化のために、界面活性剤が油量の1割程度配合されており、界面活性剤に起因するべたつきにより使用感が低下したり、用いる界面活性剤によっては軽度の刺激性を有したりするといった問題があった。
【0003】
これらの課題に対し、界面活性剤の使用量を低減するために水膨潤性粘土鉱物とポリエーテル変性シリコーンオイルとを組み合わせる技術(特許文献1)や、アルキル変性カルボキシビニルポリマーなどのアルキル変性水溶性高分子を用いて界面活性剤を配合せずに乳化する技術(特許文献2)等が知られている。アルキル変性水溶性高分子としては、アクリレーツ/アクリル酸アルキルクロスポリマー、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられるが、これらアルキル変性水溶性高分子もまた、水溶性高分子に起因する特有のべたつきがある。
【0004】
乳化剤の多くは、石油原料等から製造されたものであるが、近年は、セルロース微粒子やセルロース繊維といった天然素材から製造されたものも知られている。例えば、特許文献3には、平均粒子径が10~500nmであるセルロース微粒子およびセルロース複合体微粒子の群から選ばれた少なくとも1種類の微粒子を含有することを特徴とする油中水型乳化組成物が開示されている。特許文献3の油中水型乳化組成物中には、親油性界面活性剤に加えて親水性界面活性剤が配合されている。また、特許文献4には、セルロースに疎水基とカチオン性基またはアニオン性基とが導入されている微細セルロース繊維を含む乳化剤が開示されている。しかし、特許文献4に記載の乳化剤を水中油型乳化組成物として用いた場合、その安定性が十分に得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-39612号公報
【文献】特開平08-217624号公報
【文献】特開2006-342140号公報
【文献】特開2015-044168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、界面活性剤を用いなくとも、乳化安定性に優れた化粧料であって、かつ使用感に優れた化粧料を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースが、水中油型乳化組成物である化粧料の乳化剤としての機能を有し、このような微細繊維状セルロースを用いることで、乳化安定性と使用感に優れた化粧料が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 化粧料を形成するために用いられる水中油型乳化剤であって、
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む、水中油型乳化剤。
[2] 繊維状セルロースにおける疎水基の含有量が、0.1mmol/g未満である、[1]に記載の水中油型乳化剤。
[3] 繊維状セルロースは、アニオン性基を有する、[1]又は[2]に記載の水中油型乳化剤。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の水中油型乳化剤と、油性成分とを有する化粧料であって、
油性成分/繊維状セルロースの質量比が0.1以上350以下である、化粧料。
[5] 化粧料の全質量に対する、繊維状セルロースの含有量が0.01質量%以上5質量%以下であり、油性成分の含有量が0.1質量%以上50質量%以下である、[4]に記載の化粧料。
[6] 油性成分が、炭化水素油、エステル油、植物油、シリコーン油、フッ素油、紫外線吸収剤および香料から選択される少なくとも1種である、[4]または[5]に記載の化粧料。
[7] 高級脂肪酸および高級アルコールから選択される少なくとも1種をさらに含む、[4]~[6]のいずれかに記載の化粧料。
[8] 化粧料の全質量に対する、界面活性剤の含有量が0.1質量%以下である、[4]~[7]のいずれかに記載の化粧料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、界面活性剤を用いなくとも、乳化安定性に優れた化粧料であって、かつ使用感に優れた化粧料を提供することができる。また、本発明により、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを用いた新規な水中油型乳化剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、リン酸基を有する微細繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度との関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
図3図3は、リン酸基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳細に説明する。なお、本明細書に記載される材料、方法および数値範囲などの説明は、当該材料、方法および数値範囲などに限定することを意図したものではなく、また、それ以外の材料、方法および数値範囲などの使用を除外するものでもない。
【0012】
(水中油型乳化剤)
本発明の水中油型乳化剤は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む。本発明は、化粧料を形成するために用いられる水中油型乳化剤に関するものであり、このような水中油型乳化剤は化粧料用水中油型乳化剤とも言う。本発明の水中油型乳化剤は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの他に、水分等の他の成分を含むものであってもよいが、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースからなるものであってもよい。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0013】
本発明の水中油型乳化剤は、上記構成を有するものであるため、界面活性剤を用いなくとも、乳化安定性に優れた化粧料を得ることができる。さらに、本発明の水中油型乳化剤を用いた場合、得られる化粧料は使用感に優れている。なお、本発明の水中油型乳化剤は天然素材を主成分として含むものであるため、安全性が高く、低刺激性である。
【0014】
水中油型乳化剤が固形状物またはゲル状物である場合、水中油型乳化剤に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、たとえば水中油型乳化剤の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、水中油型乳化剤が固形状物またはゲル状物である場合、水中油型乳化剤に含まれる微細繊維状セルロースの含有量の上限値は、とくに限定されないが、たとえば99.5質量%とすることができる。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、ハンドリング性に優れた水中油型乳化剤を得ることができる。
【0015】
水中油型乳化剤が固形状物またはゲル状物である場合、水中油型乳化剤に含まれる溶媒の含有量は、たとえば水中油型乳化剤の全質量に対して90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。溶媒の含有量の上限値を上記範囲とすることにより、ハンドリング性に優れた微細繊維状セルロース含有物を得ることができる。一方で、水中油型乳化剤に含まれる溶媒の含有量の下限値は、とくに限定されず、たとえば0質量%であってもよい。本実施形態においては、水中油型乳化剤に含まれる溶媒の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.5質量%以上とすることができる。
【0016】
水中油型乳化剤がスラリーである場合、水中油型乳化剤に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、水中油型乳化剤の全質量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性が発揮されやすくなる。
【0017】
水中油型乳化剤がスラリーである場合、水中油型乳化剤に含まれる溶媒の含有量は、水中油型乳化剤の全質量に対して60質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、90質量%以上99.7質量%以下であることがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下であることがさらに好ましい。溶媒の含有量を上記範囲とすることにより、よりハンドリング性をよくすることができる。
【0018】
水中油型乳化剤となる微細繊維状セルロースは、実質的に疎水基を有さない。ここで、疎水基とは、疎水性を示す官能基であり、具体的には疎水性の嵩高基である。疎水基としては特に限定されないが、2~50個の炭素原子を有する、飽和または不飽和の、直鎖または分枝鎖、芳香環を含む、あるいは飽和または不飽和環を含む炭化水素基またはアシル基等を挙げることができる。疎水基の具体例としては、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2-ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基等のアシル基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-プロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、並びにベンジル基、ベンゾイル基、ナフトイル基等の芳香環を含む官能基等が挙げられる。
【0019】
具体的には、繊維状セルロースにおける疎水基の含有量は、0.1mmol/g未満であることが好ましく、0mmol/gであることが特に好ましい。なお、本明細書では、疎水基の含有量が0.1mmol/g未満であれば、微細繊維状セルロースは、実質的に疎水基を有していないと言える。微細繊維状セルロース中に含まれる疎水基の含有量は、適当な前処理により微細繊維状セルロース中に含まれる疎水基を抽出し、抽出物を定量分析に供試することで測定可能である。定量分析としては、例えば、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS)を用いることができる。前処理法としては、例えば、疎水基がエステル結合により繊維状セルロース表面の水酸基に結合している場合、酸加水分解等の前処理等で疎水基を抽出することができる。また、疎水基がイオン結合で繊維状セルロース表面に存在するアニオン性官能基に結合している場合、酸処理等の前処理により疎水基を抽出することができる。
【0020】
(微細繊維状セルロース)
本発明の水中油型乳化剤は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を含む。微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、入手のしやすさという点で、製紙用パルプが好ましいが、特に限定されない。製紙用パルプとしては、広葉樹クラフトパルプおよび針葉樹クラフトパルプが挙げられる。広葉樹クラフトパルプとしては、晒クラフトパルプ(LBKP)、未晒クラフトパルプ(LUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)などが挙げられる。針葉樹クラフトパルプとしては、晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)などが挙げられる。また、化学パルプ、半化学パルプ、機械パルプ、非木材パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。化学パルプとしては、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等がある。半化学パルプとしては、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等がある。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等がある。非木材パルプとしては、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とするものがある。これらの中でも、より入手しやすいことから、クラフトパルプ、脱墨パルプ、サルファイトパルプが好ましいが、特に限定されない。セルロース原料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0021】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0022】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、微細繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0023】
微細繊維状セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0024】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0025】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0026】
微細繊維状セルロースはアニオン性基を有することが好ましい。アニオン性基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基またはカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基およびカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースがリン酸基を有することにより、化粧料中における水中油型乳化剤(微細繊維状セルロース)の乳化安定性をより効果的に高めることができる。
【0027】
リン酸基またはリン酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基であり、リンオキソ酸基またはリンオキソ酸に由来する置換基として一般化される。
リン酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リン酸基に由来する置換基には、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として微細繊維状セルロースに含まれていてもよい。また、リン酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リン酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
【0028】
【化1】
【0029】
式(1)中、a、bおよびnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α,α,・・・,αおよびα’のうちa個がOであり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αnおよびα’の全てがOであっても構わない。Rは、各々、水素原子である。
【0030】
βb+は有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、または芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、または水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、またはカリウムのイオンが好ましいが、とくに限定されない。
【0031】
微細繊維状セルロースにおけるアニオン性基の導入量(アニオン性基量)は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロースにおけるアニオン性基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることが特に好ましい。ここで、単位mmol/gは、アニオン性基の対イオンが水素イオン(H)であるときの微細繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。アニオン性基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。
【0032】
微細繊維状セルロースに対するアニオン性基の導入量は、たとえば伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定では、得られた微細繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0033】
図1は、リン酸基を有する微細繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。微細繊維状セルロースに対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、微細繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図1に示すような滴定曲線を得る。図1に示すように、最初は急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このように、滴定曲線には、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。したがって、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
【0034】
図2は、カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。微細繊維状セルロースに対するカルボキシル基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、微細繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図2に示すような滴定曲線を得る。滴定曲線は、図2に示すように、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでの第1領域と、その後に伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、カルボキシル基の導入量(mmol/g)となる。
【0035】
セルロース原料の化学的処理の方法は、微細繊維を得ることができる方法である限り特に限定されない。例えば、酸処理、オゾン処理、TEMPO酸化処理、酵素処理、またはセルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられるがこれらに限定されない。また、微細繊維状セルロースがリン酸由来の置換基を有する場合には、たとえば化学的処理の方法としては、リン酸基を有する化合物または/およびその塩による処理を行うことが好ましい。
【0036】
<リン酸基導入工程>
微細繊維状セルロースがリン酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、リン酸基導入工程を含む。リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リン酸基導入繊維が得られることとなる。
【0037】
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0038】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0039】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
【0040】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0041】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素およびその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0042】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加または混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば攪拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いることができる。
【0044】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または攪拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0045】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、および化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0046】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0047】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0048】
繊維原料に対するリン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、繊維原料に対するリン酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0049】
<カルボキシル基導入工程>
微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、カルボキシル基導入工程を含む。カルボキシル基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
【0050】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0051】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0052】
TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0053】
繊維原料に対するカルボキシル基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシル基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることが特に好ましい。また、2.5mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
【0054】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてアニオン性基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりアニオン性基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
【0055】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、アニオン性基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、アニオン性基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0056】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0057】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるアニオン性基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばアニオン性基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、アニオン性基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、アニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったアニオン性基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0059】
<解繊処理>
アニオン性基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0060】
解繊処理工程においては、たとえばアニオン性基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0061】
(化粧料)
本発明は、上述した化粧料用水中油型乳化剤と、油性成分とを有する化粧料に関するものでもある。本発明の化粧料は、水中油型乳化組成物である。なお、化粧料は、水性成分も含有する。
【0062】
化粧料に含まれる油性成分としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、イソドデカン、ヘミスクワラン、水添ポリイソブテン、オクタン酸セチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、マカデミアナッツ油、ホホバ油、メドウホーム油、パーム油、シアバター、水添パーム油、水添ヒマシ油、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、シクロペンタシロキサン、ジメチコン、ジフェニルジメチコン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、パーフルオロポリエーテル、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オキシベンゾン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、トリエチルヘキサノイン、油溶性香料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。油性成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
中でも、化粧料に含まれる油性成分は、炭化水素油、エステル油、植物油、シリコーン油、フッ素油、紫外線吸収剤および香料から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、油性成分には、油溶性の成分が含まれていてもよい。油溶性の成分としては、例えば、界面活性剤や乳化助剤を挙げることができる。中でも、化粧料には、乳化助剤をさらに添加することが好ましく、乳化助剤として高級脂肪酸および高級アルコールから選択される少なくとも1種をさらに添加することがより好ましい。
【0064】
化粧料に含まれる水性成分としては、例えば、水、または各種の水溶液があげられる。また、水性成分には、水溶性の成分も含まれ、例えばグリセリン、糖類、アルコール類、塩化ナトリウムまたは炭酸カリウム等の塩類、クエン酸、リン酸などの酸などを配合することができる。
【0065】
化粧料に含まれる油性成分と水性成分の含有量比は特に限定されるものではないが、例えば、油性成分:水性成分=1:1~1:999とすることができる。
【0066】
水中油型乳化剤は、上述した微細繊維状セルロースを主成分として含む。このような水中油型乳化剤を含む化粧料においては、一般的な界面活性剤を併用せずとも、十分な乳化が行われる。本発明においては、化粧料の全質量に対する、界面活性剤の含有量は0.1質量%以下であることが好ましい。なお、本明細書では、界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であれば、化粧料は、実質的に界面活性剤を含有していないと言える。
【0067】
化粧料中における水中油型乳化剤の含有量は、特に制限されるものではないが、十分な乳化性能および乳化安定性を示すためには、油性成分/乳化剤の質量比は、0.1以上350以下であることが好ましく、0.1以上300以下であることがより好ましく、5以上200以下であることがさらに好ましい。また、油性成分/微細繊維状セルロースの質量比は、0.1以上350以下であることが好ましく、0.1以上300以下であることがより好ましく、5以上200以下であることがさらに好ましい。油性成分/乳化剤(微細繊維状セルロース)の質量比を上記範囲内とすることにより、より乳化安定性が良好な化粧料が得られる。
【0068】
化粧料の全質量に対する、水中油型乳化剤の含有量は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましい。また、化粧料の全質量に対する、微細繊維状セルロースの含有量は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましい。化粧料の全質量に対する、油性成分の含有量は、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。化粧料中における水中油型乳化剤や、微細繊維状セルロース、油性成分の含有量を上記範囲内とすることにより、より乳化安定性が良好な化粧料が得られる。
【0069】
さらに本発明の化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲において、目的とする化粧料の用途に応じて、添加剤を配合することができる。添加剤としては、たとえば、紫外線吸収剤、無機・有機顔料、色材、多価アルコール、糖類、高分子化合物、生理活性成分、経皮吸収促進剤、溶剤、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、香料、防腐剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
<化粧料の製造方法>
本発明の化粧料の製造方法は、使用する成分の種類などに応じて適宜選択することができ、特に限定されない。中でも、化粧料の製造方法は、微細繊維状セルロースを含む水性成分に、油性成分を混合する工程を含むことが好ましい。本発明の化粧料は、水性成分と油性成分とを含むため、水相と油相とを混合することにより、本発明の水中油型乳化組成物である化粧料を製造することができる。たとえば、微細繊維状セルロースをと水性成分を含む水相を準備し、水相中の各成分を溶解した後、あらかじめ均一分散し、適当な温度により調整した油相(油性成分を含む)と混合する。
【0071】
混合工程の後には、乳化工程を設けることが好ましい。乳化工程では、ホモミキサーなどで乳化を行うことにより、水中油型乳化組成物である化粧料を製造することができる。
【0072】
<化粧料の形態>
本発明の化粧料は、例えば、皮膚用化粧料、メイクアップ化粧料、毛髪用化粧料、紫外線防御化粧料、さらにはプレシェーブローション、アフターシェーブローション、香水、軟膏等として用いられることが好ましい。皮膚用化粧料としては、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック、ファンデーション、サンスクリーン、サンタン化粧料、各種ローション等が挙げられる。クリームとしては、コールドクリーム、バニシングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、クレンジングクリーム、モイスチャークリーム、ハンドクリーム、ボディクリーム等が挙げられる。メイクアップ化粧料として、化粧下地、ファンデーション、アイシャドウ、チークなどが挙げられる。毛髪用化粧料としてはヘアスタイリング剤(ヘアフォーム、ジェル状整髪料等)、ヘアワックス、ヘアトリートメント剤、染毛剤等が挙げられる。ヘアトリートメント剤としては、ヘアクリーム、トリートメントローション、ヘアミルク等が挙げられる。さらに毛髪用化粧料としては、ローションタイプの育毛剤または養毛剤等でもよい。上記した化粧料の具体例は例示に過ぎず、特にこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0073】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例により限定されない。表中の配合量は、質量%を表す。なお、以下において、実施例5は、参考例5と読み替えるものとする。
【0074】
(微細繊維状セルロースの製造)
<製造例1:微細繊維状セルロース1の製造>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。
【0075】
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて1回処理し、微細繊維状セルロース1を含む微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロース1がセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0076】
<製造例2:微細繊維状セルロース2の製造>
湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にてセルロース懸濁液を10回処理した以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース2を含む微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、微細繊維状セルロース2はセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0077】
<製造例3:微細繊維状セルロース3の製造>
中和処理前のリン酸化パルプに対して、さらに上記リン酸化処理を200秒行い、上記洗浄処理を行った後、中和処理を行った以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース3を含む微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、微細繊維状セルロース3はセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0078】
<製造例4:微細繊維状セルロース4の製造>
中和処理前のリン酸化パルプに対して、さらに上記リン酸化処理を150秒行い、上記洗浄処理を行った後、中和処理を行った以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロース4を含む微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、微細繊維状セルロース4はセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0079】
<製造例5:繊維状セルロース5の製造>
薬液含浸パルプ中におけるリン酸二水素アンモニウムの含有量が4.5質量部になるように調整した以外は製造例1と同様にしたが、湿式微粒化装置内において詰まりが起こり、スラリーを通過させることが出来なかった。すなわち、湿式微粒化処理を行っていない、繊維状セルロース5を含む繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、繊維状セルロース5はセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0080】
<製造例6:微細繊維状セルロース6の製造>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0081】
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0082】
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて1回処理し、微細繊維状セルロース6を含む微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロース6がセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0083】
(粘度および結晶化度の測定)
1.粘度の測定
製造例1~4、6で得られた微細繊維状セルロース含有分散液および製造例5で得られた繊維状セルロース含有分散液に水を添加し、各々の繊維状セルロースの濃度を0.4質量%に調整した。これにより得られた各懸濁液を25℃の条件下に24時間放置後、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて25℃にて回転数3rpm×3分で粘度を測定した。
【0084】
2.繊維幅の測定
微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、濃度が0.01~0.1質量%となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察した。なお、製造例5では、繊維状セルロース分散液を、濃度が0.01~0.1質量%となるように水で希釈し、上澄み液を同様に観察したが、繊維が存在しなかった。そこで、沈殿物に存在する繊維の繊維幅を、製造例5の繊維幅とした。製造例5の上記希釈液を撹拌して、スライドガラスに滴下した。カバーガラスをかぶせ、デジタルマイクロスコープ(Hirox製、KH-7700)により観察した。
【0085】
3.結晶化指数(結晶化度)の測定
微細繊維状セルロース1~4、6および繊維状セルロース5の結晶化度については、X線回折装置を用いて測定し、下記の計算式から求めた。なお、下記計算式の「結晶化指数」は、「結晶化度」ともいう。
セルロースI型結晶化指数(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、およびI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
0.45≦αω(m・rad/sec) (2)
〔αは、片振幅(m)、ωは、角速度(rad/sec)を示す。〕。
【0086】
4.リン酸基およびカルボキシル基の導入量(置換基量)の測定
製造例1~4、6で得られた微細繊維状セルロースのリン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。リン酸基量(mmol/g)は、計測結果のうち図1に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。カルボキシ基量(mmol/g)は、計測結果のうち図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
【0087】
製造例5で得られた繊維状セルロース5に対するリン酸基の導入量は、中和滴定法により測定した。まず、繊維状セルロースをイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N塩酸を添加し、その後、濾過脱水により繊維状セルロースを回収した。この操作を、繰り返し、繊維状セルロースが有するリン酸基を完全に酸型へ変換した。次いで、得られた繊維状セルロースをイオン交換水で希釈した後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流した。その後、得られた繊維状セルロース(酸型)をイオン交換水で希釈した懸濁液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図3に示すような滴定曲線を得た。得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象の繊維状セルロース懸濁液中の固形分(g)で除して、リン酸基導入量(mmol/g)とした。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示すように、製造例1~4、6で得られた微細繊維状セルロースは十分な粘度を発揮した。一方、製造例5で得られた繊維状セルロース5はリン酸化反応が十分ではなく、解繊後も繊維幅10μm以上の粗大な繊維のみが観察され、繊維幅1000nm以下の微細な単繊維は見られず、十分な粘性を発揮しなかった。
【0090】
(実施例1~5および比較例1~8)
表2および3に示す組成になるように、各成分を混合し、化粧料を調製した。各成分を混合する際には、まず、水相を均一混合した。別途、油相は必要に応じて加温し、均一混合した。水相を撹拌しているところに油相を添加し、ホモミキサー等を用いて乳化した。表中の各成分の配合量は、質量%である。
【0091】
(評価)
実施例および比較例で得られた化粧料について、乳化剤の安定性(乳化安定性)および使用感(べたつきの有無)について以下の方法で評価した。評価は以下の基準に従って行った。
【0092】
<乳化安定性評価>
化粧料を調製した直後および45℃の条件下に3ヶ月後保管した後に、化粧料の性状確認および油滴の平均粒子径測定を行った。
性状評価
A:乳化ができ油の分離がない
B:乳化はできるが僅かに油の分離がある
C:乳化ができておらず、油が分離している
平均粒子径測定
上述の性状評価でAおよびB判定の乳化物について、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-300V(島津製作所製)を用いて油滴の平均粒子径測定を行った。
【0093】
<使用感評価>
専門パネル10名によって、実使用試験を実施した。評価基準は以下の通りである。
A:パネル8名以上が、使用後べたつきがないと認める
B:パネル4名以上7名以下が、使用後べたつきがないと認める
C:パネル3名以下が、使用後べたつきがないと認める
D:乳化物が得られず評価未実施
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
4.結果
表2および3より、実施例1~4のアニオン性基を有する微細繊維状セルロースで乳化した化粧料は油浮きがなく油滴の平均粒子径の変化が少なく乳化安定性が良好であった。また化粧料のべたつきもなく、使用感に優れたものであった。実施例5についても、実施例1~4よりは劣るが分離の程度は小さく、化粧料の乳化安定性と化粧料の使用感についてバランスに優れた結果が得られた。
【0097】
一方で、比較例1では繊維状セルロースが粗大であるために油を乳化することができなかった。比較例2~3ではアルキル変性されていない水溶性高分子を用いているため乳化作用を示さず、乳化できなかった。比較例4ではアルキル変性された水溶性高分子を用いているため乳化作用を示したものの、水溶性高分子に由来するべたつきが強く使用感に劣っていた。比較例5~6は界面活性剤を配合しているため化粧料の乳化安定性は良好であったが、界面活性剤に由来するべたつきが強く、使用感が劣っていた。
【0098】
(実施例6~12)
表4に示す組成なるように、各成分を混合し、化粧料を調製した。各成分の混合は上述した実施例1~5と同様の方法で行った。
【0099】
(評価)
実施例6~12で得られた化粧料について、乳化剤の安定性(乳化安定性)および使用感(べたつきの有無)について上述した方法と同様に評価した。
【0100】
【表4】
【0101】
表4より、油性成分/微細繊維状セルロースの質量比が0.1以上300以下のときに、より安定性の良好な化粧料が得られることがわかった。
【0102】
以下のようにして、本発明の化粧料の応用例を作製した。なお、実施例13~21について、乳化剤の安定性および使用感(べたつきの有無)について上述した方法と同様に評価したところ、いずれの応用例でも良好な評価が得られた。
【0103】
(実施例13:化粧水)
1.微細繊維状セルロース1 0.15(質量%)
2.ブチレングリコール 5.00
3.グリセリン 5.00
4.防腐剤 適量
5.クエン酸 0.03
6.精製水 残部
7.リノール酸エチル 1.00
8.水素添加レチノール 1.00
9.テトラヘキシルデカン酸アスコルビル 1.00
合計 100.00
上記の成分1~5を均一混合した。成分6~8を均一混合した。1~5を撹拌しながら、6~8を添加して均一になるまで混合した。
【0104】
(実施例14:ウォータリーフレグランス)
1.微細繊維状セルロース2 0.15(質量%)
2.プロパンジオール 3.00
3.防腐剤 適量
4.pH調整剤 適量
5.精製水 残部
6.香料 5.00
合計 100.00
上記の成分1~5を均一混合した。成分1~5を撹拌しながら成分6を添加して均一になるまで混合した。
【0105】
(実施例15:クレンジングジェル)
1.微細繊維状セルロース3 0.7(質量%)
2.ジプロピレングリコール 10.0
3.防腐剤 適量
4.pH調整剤 適量
5.精製水 残部
6.イソオクタン酸セチル 10.0
7.トリエチルヘキサノイン 10.0
8.ジメチコン 5.0
9.イソステアリン酸 1.0
合計 100.0
上記の成分1~5を均一混合した。成分6~9を均一混合した。成分1~5を撹拌しながら成分6~9を添加してホモミキサーにより均一になるまで混合した。
【0106】
(実施例16:ヘアミルク)
1.微細繊維状セルロース4 0.2(質量%)
2.ポリビニルアルコール 0.1
3.エタノール 6.0
4.防腐剤 適量
5.pH調整剤 適量
6.精製水 残部
7.高重合ジメチコン 3.0
8.シクロメチコン 15.0
9.イソステアリルアルコール 1.0
合計 100.0
上記の成分1~6を均一混合した。成分7~9を均一混合した。成分1~6を撹拌しながら成分7~9を添加してホモミキサーにより均一になるまで混合した。
【0107】
(実施例17:ヘアトリートメント)
1.微細繊維状セルロース6 1.0(質量%)
2.ポリビニルピロリドン 0.2
3.エタノール 6.0
4.防腐剤 適量
5.pH調整剤 適量
6.精製水 残部
7.高重合ジメチコン 8.0
8.シクロメチコン 15.0
9.イソステアリルアルコール 1.0
合計 100.0
上記の成分1~6を均一混合した。成分7~9を均一混合した。成分1~6を撹拌しながら成分7~9を添加してホモミキサーにより均一になるまで混合した。
【0108】
(実施例18:サンスクリーンミルク)
1.微細繊維状セルロース3 0.4(質量%)
2.ブチレングリコール 5.0
3.防腐剤 適量
4.pH調整剤 適量
5.キサンタンガム 0.1
6.精製水 残部
7.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 8.0
8.SSQP50ZJEJ 20.0
9.ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン 3.0
10.ポリシリコーン-15 1.0
合計 100.0
※SSQP50ZJEJ:スクワラン、酸化亜鉛、ポリヒドロキシステアリン酸、ホホバエステル(日光ケミカルズ社製)
上記の成分1~6を均一混合した。成分7~10を均一混合した。成分1~6を撹拌しながら成分7~10を添加してホモミキサーにより均一になるまで混合した。
【0109】
(実施例19:サンスクリーンジェル)
1.微細繊維状セルロース3 0.6(質量%)
2.防腐剤 適量
3.pH調整剤 適量
4.ブチレングリコール 5.0
5.精製水 残部
6.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 7.5
7.t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン 6.0
8.ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン 3.0
9.ホモサレート 3.0
10.アジピン酸イソプロピル 3.0
11.イソステアリン酸 1.0
合計 100.0
上記の成分1~5を均一混合した。成分6~11を加温して均一混合し、室温まで冷却した。成分1~5を撹拌しながら成分6~11を添加してホモミキサーにより均一になるまで混合した。
【0110】
(実施例20:酸化染毛剤)
酸化染毛剤1剤
A)オレイン酸 1.0(質量%)
セタノール 8.0
ミネラルオイル 2.0
B)プロピレングリコール 5.0
エリソルビン酸ナトリウム 0.4
亜硫酸ナトリウム 0.5
パラフェニレンジアミン 0.2
レゾルシン 1.0
パラアミノフェノール 0.5
2,5-ジアミノピリジン 0.2
微細繊維状セルロース1 10.0
キレート剤 適量
C)アンモニア水 8.0
水 残部
合計 100.0
A及びBを80℃で加温溶解後、AにBを添加しながらホモミキサーで乳化する。撹拌冷却後、40℃でCを添加する。
酸化染毛剤2剤
A)過酸化水素(30%水溶液) 20.0(質量%)
水 残部
合計 100.0
Aを均一に混合する。
【0111】
(実施例21:リキッドファンデーション)
A)イソステアリン酸 0.8(質量%)
ラウリン酸メチルヘプチル 10.0
顔料級酸化チタン 9.0
黄酸化鉄 3.0
赤酸化鉄 1.5
黒酸化鉄 1.5
B)微細繊維状セルロース1 15.0
ヘキサンジオール 0.3
ブチレングリコール 6.0
水 残部
合計 100.0
A及びBを室温で均一にし、BにAを添加しながらホモミキサーで乳化する。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の水中油型乳化剤は、界面活性剤を用いなくとも、安定性に優れた化粧料を提供できる。本発明の水中油型乳化剤は、安全性が高く、かつ使用感に優れた化粧料の提供を可能とする。
図1
図2
図3