(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】地表面変位の推定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
E02D3/12 101
(21)【出願番号】P 2019051145
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
【審査官】大塚 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-270446(JP,A)
【文献】特開平09-158681(JP,A)
【文献】特開平10-018282(JP,A)
【文献】特開2017-117147(JP,A)
【文献】特開2019-039264(JP,A)
【文献】特開2017-002677(JP,A)
【文献】池内章雄、大里睦男、平義章,静的圧入締固め工法(CPG工法)における隆起量予測法に関する検討,沿岸技術研究センター論文集,No.10,2010年10月,49-52
【文献】仲山貴司、橘直毅、岡野法之、赤木寛一,薬液注入に伴う地盤変形の数値解析手法に関する研究,土木学会論文集 F1(トンネル工学)特集号,Vol.66 No.1,2010年11月25日,137-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液注入工法による地盤改良工事の第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、当該時点における前記変位測定点における変位の測定値を示す測定変位量データと、を取得する第1データ取得ステップと、
前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データと前記薬液注入データとを入力変数とし、前記測定変位量データを目的変数として機械学習により人工知能モデルを生成する人工知能モデル生成ステップと、
薬液注入工法による地盤改良工事の第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、を取得する第2データ取得ステップと、
前記人工知能モデル生成ステップにおいて生成した人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位推定位置データと前記薬液注入データとを入力変数として入力し、前記ある時点における前記変位推定点の変位量の推定値を目的変数として出力させる変位量推定ステップと
を備え
、
前記人工知能モデル生成ステップにおいて、複数の前記変位測定点のうちの一部の変位測定点に関し前記測定変位量データが示す当該変位測定点の測定変位量を目的変数に代えて入力変数として人工知能モデルを生成し、
前記第2データ取得ステップにおいて、前記第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、前記ある時点における当該変位測定点の変位量の測定値を示す測定変位量データとを取得し、
前記変位量推定ステップにおいて、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データの一部と当該一部の前記変位測定位置データに応じた前記測定変位量データの一部とを入力変数として入力する変位量推定方法。
【請求項2】
薬液注入工法による地盤改良工事の第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、当該時点における前記変位測定点における変位の測定値を示す測定変位量データと、を取得する第1データ取得ステップと、
前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データと前記薬液注入データとを入力変数とし、前記測定変位量データを目的変数として機械学習により人工知能モデルを生成する人工知能モデル生成ステップと、
薬液注入工法による地盤改良工事の第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、を取得する第2データ取得ステップと、
前記人工知能モデル生成ステップにおいて生成した人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位推定位置データと前記薬液注入データとを入力変数として入力し、前記ある時点における前記変位推定点の変位量の推定値を目的変数として出力させる変位量推定ステップと
を備え、
前記第1データ取得ステップにおいて、前記薬液注入完了点の位置は
、前記薬液注入実施点の位置を基準として、薬液注入完了点における薬液が、薬液注入実施点に対し、地表面の変位に関して無視できない影響を与える所定範囲内に含まれ、
前記第2データ取得ステップにおいて、前記薬液注入完了点の位置は前記薬液注入実施点の位置を基準として定まる所定範囲内に含まれ
る変位量推定方法。
【請求項3】
薬液注入工法による地盤改良工事の第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、当該時点における前記変位測定点における変位の測定値を示す測定変位量データと、を取得する第1データ取得ステップと、
前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データと前記薬液注入データとを入力変数とし、前記測定変位量データを目的変数として機械学習により人工知能モデルを生成する人工知能モデル生成ステップと、
薬液注入工法による地盤改良工事の第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、を取得する第2データ取得ステップと、
前記人工知能モデル生成ステップにおいて生成した人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位推定位置データと前記薬液注入データとを入力変数として入力し、前記ある時点における前記変位推定点の変位量の推定値を目的変数として出力させる変位量推定ステップと
を備え、
前記第1データ取得ステップにおいて、前記第1対象領域内及び前記第2対象領域内の細粒分含有率を示す細粒分含有率データを取得し、
前記人工知能モデル生成ステップにおいて、前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記細粒分含有率データを入力変数として、前記人工知能モデルの生成を行い、
前記第2データ取得ステップにおいて、前記第1対象領域内及び前記第2対象領域内の細粒分含有率を示す細粒分含有率データを取得し、
前記変位量推定ステップにおいて、前記人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記細粒分含有率データを入力変数として入力す
る変位量推定方法。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の変位量推定方法によって、薬液注入工法による地盤改良工事の薬液注入を未実施の複数の薬液注入未実施点の各々に関し、当該薬液注入未実施点を薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点とみなして仮定した薬液注入データを用いて 、前記第2対象領域の地表面変位を推定する変位推定点の変位量を推定するステップと、
前記推定するステップにおいて推定した変位量に基づき、前記複数の薬液注入未実施点に対する薬液の注入の順序を決定するステップと
を備えることを特徴とする施工管理方法。
【請求項5】
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の変位量推定方法によって、薬液注入工法による地盤改良工事の薬液注入を未実施の薬液注入未実施点を実施途中にある薬液注入実施点とみなして仮定した薬液注入データを用いて、前記第2対象領域の地表面変位を推定する変位推定点の変位量を推定するステップと、
前記推定するステップにおいて推定した変位量に基づき、前記薬液注入未実施点において薬液注入を実施する場合の薬液の注入の速度を決定するステップと
を備えることを特徴とする施工管理方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の施工管理方法によって決定された順序で薬液注入未実施点に薬液が注入されて液状化対策が施された地盤改良体。
【請求項7】
請求項
6に記載の施工管理方法によって決定された速度で薬液注入未実施点に薬液が注入されて液状化対策が施された地盤改良体。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変位量推定方法により地表面変位を推定する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表面の変位を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物直下の地盤に対して液状化対策を行う場合、その構造物から離れた地表面から構造物直下の地盤に対して削孔を行い、薬液を注入して地盤改良する方法が知られている。これは例えば薬液注入工法と呼ばれている。
【0003】
この工法では、溶液型の恒久薬液を低圧で地盤内に注入するため、構造物やその周辺地盤に対する影響が少ないとされているが、供用中の構造物や重要度の高い構造物の直下を地盤改良する場合には、その薬液注入の影響による地盤の隆起や側方変形等の各種変位量を測定しながら施工することが求められる。具体的には、構造物自体や周辺地盤の変位に関する管理値を設定しておき、それを超える変位が発生した場合は、薬液の注入速度を低下させる又は注入を停止するといった対策を実施する。例えば特許文献1には、シリカ注入液を地盤中に注入して地盤改良を行う場合に、注入領域の地盤ないし構造物に変位センサを設置し、変位センサが測定した変位量が限界値に達したら注入を中断する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、構造物本体やその周辺において地表面の変位を測定することが難しいケースがある。例えば供用中の滑走路の直下を地盤改良する場合、航空機の運航に関する安全性の観点から、地表面の変位を測定する装置を設置し得る場所には制限がある。このため、測定対象の滑走路に対して遠距離からその変位を測定せざるを得ず、このため、測定対象の滑走路に対する測定用レーザーの照射角が非常に小さくなってしまい、測定の精度が低くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、薬液注入工法において、地表面の変位を測定しない場合にその変位を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、薬液注入工法による地盤改良工事の第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、当該時点における前記変位測定点における変位の測定値を示す測定変位量データと、を取得する第1データ取得ステップと、前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データと前記薬液注入データとを入力変数とし、前記測定変位量データを目的変数として機械学習により人工知能モデルを生成する人工知能モデル生成ステップと、薬液注入工法による地盤改良工事の第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、を取得する第2データ取得ステップと、前記人工知能モデル生成ステップにおいて生成した人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位推定位置データと前記薬液注入データとを入力変数として入力し、前記ある時点における前記変位推定点の変位量の推定値を目的変数として出力させる変位量推定ステップとを備え、前記人工知能モデル生成ステップにおいて、複数の前記変位測定点のうちの一部の変位測定点に関し前記測定変位量データが示す当該変位測定点の測定変位量を目的変数に代えて入力変数として人工知能モデルを生成し、前記第2データ取得ステップにおいて、前記第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、前記ある時点における当該変位測定点の変位量の測定値を示す測定変位量データとを取得し、前記変位量推定ステップにおいて、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データの一部と当該一部の前記変位測定位置データに応じた前記測定変位量データの一部とを入力変数として入力する変位量推定方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、薬液注入工法による地盤改良工事の第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、当該時点における前記変位測定点における変位の測定値を示す測定変位量データと、を取得する第1データ取得ステップと、前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データと前記薬液注入データとを入力変数とし、前記測定変位量データを目的変数として機械学習により人工知能モデルを生成する人工知能モデル生成ステップと、薬液注入工法による地盤改良工事の第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、を取得する第2データ取得ステップと、前記人工知能モデル生成ステップにおいて生成した人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位推定位置データと前記薬液注入データとを入力変数として入力し、前記ある時点における前記変位推定点の変位量の推定値を目的変数として出力させる変位量推定ステップとを備え、前記第1データ取得ステップにおいて、前記薬液注入完了点の位置は、前記薬液注入実施点の位置を基準として、薬液注入完了点における薬液が、薬液注入実施点に対し、地表面の変位に関して無視できない影響を与える所定範囲内に含まれ、前記第2データ取得ステップにおいて、前記薬液注入完了点の位置は前記薬液注入実施点の位置を基準として定まる所定範囲内に含まれる変位量推定方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、薬液注入工法による地盤改良工事の第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、当該時点における前記変位測定点における変位の測定値を示す測定変位量データと、を取得する第1データ取得ステップと、前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記変位測定位置データと前記薬液注入データとを入力変数とし、前記測定変位量データを目的変数として機械学習により人工知能モデルを生成する人工知能モデル生成ステップと、薬液注入工法による地盤改良工事の第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データと、を取得する第2データ取得ステップと、前記人工知能モデル生成ステップにおいて生成した人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記変位推定位置データと前記薬液注入データとを入力変数として入力し、前記ある時点における前記変位推定点の変位量の推定値を目的変数として出力させる変位量推定ステップとを備え、前記第1データ取得ステップにおいて、前記第1対象領域内及び前記第2対象領域内の細粒分含有率を示す細粒分含有率データを取得し、前記人工知能モデル生成ステップにおいて、前記第1データ取得ステップにおいて取得した前記細粒分含有率データを入力変数として、前記人工知能モデルの生成を行い、前記第2データ取得ステップにおいて、前記第1対象領域内及び前記第2対象領域内の細粒分含有率を示す細粒分含有率データを取得し、前記変位量推定ステップにおいて、前記人工知能モデルに対し、前記第2データ取得ステップにおいて取得した前記細粒分含有率データを入力変数として入力する変位量推定方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記の変位量推定方法によって、薬液注入工法による地盤改良工事の薬液注入を未実施の複数の薬液注入未実施点の各々に関し、当該薬液注入未実施点を薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点とみなして仮定した薬液注入データを用いて 、前記第2対象領域の地表面変位を推定する変位推定点の変位量を推定するステップと、
前記推定するステップにおいて推定した変位量に基づき、前記複数の薬液注入未実施点に対する薬液の注入の順序を決定するステップとを備えることを特徴とする施工管理方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記の変位量推定方法によって、薬液注入工法による地盤改良工事の薬液注入を未実施の薬液注入未実施点を実施途中にある薬液注入実施点とみなして仮定した薬液注入データを用いて、前記第2対象領域の地表面変位を推定する変位推定点の変位量を推定するステップと、前記推定するステップにおいて推定した変位量に基づき、前記薬液注入未実施点において薬液注入を実施する場合の薬液の注入の速度を決定するステップとを備えることを特徴とする施工管理方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記の施工管理方法によって決定された順序で薬液注入未実施点に薬液が注入されて液状化対策が施された地盤改良体を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記の施工管理方法によって決定された速度で薬液注入未実施点に薬液が注入されて液状化対策が施された地盤改良体を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記のいずれかの変位量推定方法により地表面変位を推定する情報処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、薬液注入工法において、地表面の変位を測定しない場合にその変位を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシステム全体の構成の一例を示すブロック図。
【
図2】同実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図。
【
図3】同情報処理装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【
図4】同実施形態において人工知能モデルを生成する方法の一例を示すフローチャート。
【
図5】同実施形態において人工知能モデルを用いて薬液の注入諸元を推定する方法の一例を示すフローチャート。
【
図6】施工対象となる地盤において変位の測定が行われる第1対象範囲と変位の測定が行われない第2対象範囲を例示する概念図。
【
図7】滑走路直下を地盤改良する場合の施工状況を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。
[構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るシステム1の全体構成の一例を示すブロック図である。システム1は、地盤に削孔した後、液状化対策に用いられる薬液を注入する注入システム10と、例えばレーザーにより地盤の地表面の変位(以下、単に、変位という場合がある)を測定する変位測定システム20と、変位測定システム20によって測定できない地表面の変位を推定する情報処理装置30とを備える。注入システム10及び変位測定システム20と、情報処理装置30とは有線又は無線を介して通信可能に接続されていてもよい。
【0019】
薬液注入工法による地盤改良工事の対象として注入システム10によって薬液の注入がなされた地盤であって、変位測定システム20による変位の測定が行われる地盤の領域を、「第1対象領域」という。これに対し、注入システム10によって薬液の注入がなされた地盤であっても、変位測定システム20による変位の測定が行われない領域を、「第2対象領域」という。
【0020】
例えば供用中の滑走路の直下を地盤改良する場合、航空機の運航に関する安全性の観点から、地表面の変位を測定する変位測定システムを設置し得る場所には制限がある。ここで、
図7は、滑走路直下を地盤改良する場合の施工状況を例示する図である。図示せぬボーリングマシンにより滑走路から離れた位置から滑走路直下に対して削孔経路を計測しながら削孔した後、注入パッカーIやマンシェットチューブMからなる注入装置を挿入する。この注入装置は、ホースHにより、流量計検出部F、インジェクションポンプP及び可搬式タンクTの順に接続されている。可搬式タンクTに貯留されている薬液は、インジェクションポンプPにより注入装置へと送り出され、注入装置から地中に注入される。このときの薬液の注入速度や注入量は流量計検出部Fにより検出される。
【0021】
例えば
図7に例示するように滑走路に対する制限表面Dが決められている場合、幅60mの滑走路に対して、その滑走路中心から95m離れた高さ10m以下の場所に計測位置Xを持つ変位測定システムを設置しなければならない場合がある。このような場合、特に中央付近にピークを持つ形状の滑走路においては、その中央付近から変位測定システムよりも遠い領域(滑走路幅60mのうち半分の30mに相当する領域)に対するレーザーの照射角が非常に小さくなってしまい、測定の精度が悪化してしまう。つまり、この滑走路上の幅60mのうち半分の30mに相当する領域は、変位測定システムによる変位の測定が困難な第2対象領域に相当することになる。
【0022】
システム1においては、第1対象領域における薬液注入に関するデータ及び地表面の変位に関するデータに基づいて教師データを作成し、この教師データに対して機械学習を実施して、第2対象領域の地表面の変位を推定するための人工知能モデルを生成する。なお、第1対象領域と第2対象領域は、同一の施工区域内であることが望ましいが、必ずしもそうである必要はなく、それぞれが異なる施工区域であってもよい。
【0023】
図2は、情報処理装置30のハードウェア構成を示す図である。情報処理装置30は、物理的には、プロセッサ3001、メモリ3002、ストレージ3003、通信装置3004、入力装置3005、出力装置3006及びこれらを接続するバスなどを含むコンピュータ装置として構成されている。これらの各装置は図示せぬ電源から供給される電力によって動作する。なお、以下の説明では、「装置」という文言は、回路、デバイス、ユニットなどに読み替えることができる。情報処理装置30のハードウェア構成は、図に示した各装置を1つ又は複数含むように構成されてもよいし、一部の装置を含まずに構成されてもよい。
【0024】
情報処理装置30における各機能は、プロセッサ3001、メモリ3002などのハードウェアに所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることによって、プロセッサ3001が演算を行い、通信装置3004による通信を制御したり、メモリ3002及びストレージ3003におけるデータの読み出し及び書き込みの少なくとも一方を制御したりすることによって実現される。
【0025】
プロセッサ3001は、例えば、オペレーティングシステムを動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ3001は、周辺装置とのインターフェース、制御装置、演算装置、レジスタなどを含む中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)によって構成されてもよい。また、例えばベースバンド信号処理部や呼処理部などがプロセッサ3001によって実現されてもよい。
【0026】
プロセッサ3001は、プログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュール、データなどを、ストレージ3003及び通信装置3004の少なくとも一方からメモリ3002に読み出し、これらに従って各種の処理を実行する。プログラムとしては、後述する動作の少なくとも一部をコンピュータに実行させるプログラムが用いられる。情報処理装置30の機能ブロックは、メモリ3002に格納され、プロセッサ3001において動作する制御プログラムによって実現されてもよい。各種の処理は、1つのプロセッサ3001によって実行されてもよいが、2以上のプロセッサ3001により同時又は逐次に実行されてもよい。プロセッサ3001は、1以上のチップによって実装されてもよい。なお、プログラムは、電気通信回線を介してネットワーク2から情報処理装置30に送信されてもよい。
【0027】
メモリ3002は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、RAM(Random Access Memory)などの少なくとも1つによって構成されてもよい。メモリ3002は、レジスタ、キャッシュ、メインメモリ(主記憶装置)などと呼ばれてもよい。メモリ3002は、本実施形態に係る方法を実施するために実行可能なプログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュールなどによる処理過程を保存することができる。
【0028】
ストレージ3003は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、CD-ROM(Compact Disc ROM)などの光ディスク、ハードディスクドライブ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク(例えば、コンパクトディスク、デジタル多用途ディスク、Blu-ray(登録商標)ディスク)、スマートカード、フラッシュメモリ(例えば、カード、スティック、キードライブ)、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気ストリップなどの少なくとも1つによって構成されてもよい。ストレージ3003は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。ストレージ3003は、本実施形態に係る方法を実施するために実行可能なプログラム(プログラムコード)やソフトウェアモジュールなどを保存することができる。
【0029】
通信装置3004は、有線ネットワーク及び無線ネットワークの少なくとも一方を介してコンピュータ間の通信を行うためのハードウェア(送受信デバイス)であり、例えばネットワークデバイス、ネットワークコントローラ、ネットワークカード、通信モジュールなどともいう。
【0030】
入力装置3005は、外部からの入力を受け付ける入力デバイス(例えば、キーボード、マウス、マイクロフォン、スイッチ、ボタン、センサ、ジョイスティック、ボールコントローラなど)である。出力装置3006は、外部への出力を実施する出力デバイス(例えば、ディスプレイ、スピーカー、LEDランプなど)である。なお、入力装置3005及び出力装置3006は、一体となった構成(例えば、タッチパネル)であってもよい。
【0031】
情報処理装置30は、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアを含んで構成されてもよく、当該ハードウェアにより、各機能ブロックの一部又は全てが実現されてもよい。例えば、プロセッサ3001は、これらのハードウェアの少なくとも1つを用いて実装されてもよい。
【0032】
図3は、情報処理装置30の機能構成の一例を示す図である。データ取得部31は、外部から各種のデータを取得する。第1対象領域に対する地盤改良工事に基づいて人工知能モデルを生成する場合にデータ取得部31によって取得されるデータは、その第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置と、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置と、当該時点における前記変位測定点の変位量の測定値を示す測定変位量データである。変位測定点の位置は、2次元の地表面上の位置を意味する2次元座標で表現される。薬液注入実施点の位置及び薬液注入完了点の位置は、現実に薬液が注入される地盤内の位置、つまり3次元空間の位置を意味する3次元座標で表現される。薬液注入実施途中とは、現に薬液が注入されている期間を意味するほか、薬液の注入が一時的に中断されており、将来において薬液の再注入が予定されている期間をも言う。薬液注入完了とは、薬液注入が完了して、将来において薬液の再注入が予定されていないことを言う。薬液注入完了点の位置は、薬液注入実施点の位置を基準として定まる所定範囲内(つまり、薬液注入完了点における薬液が、薬液注入実施点に対し、地表面の変位に関して無視できない影響を与える範囲内)に含まれる。
【0033】
一方、第2対象領域に対する地盤改良工事において人工知能モデルによって変位を推定する場合にデータ取得部31によって取得されるデータは、その第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点における薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データである。変位測定点の位置とは、2次元の地表面上の位置を意味する2次元座標で表現される。薬液注入実施点の位置及び薬液注入完了点の位置とは、薬液が注入される地盤内の位置、つまり3次元空間の位置を意味する3次元座標で表現される。薬液注入実施途中とは、現に薬液が注入されている期間を意味するほか、薬液の注入が一時的に中断されており、将来において薬液の再注入が予定されている期間をも言う。薬液注入完了とは、薬液注入が完了して、将来において薬液の再注入が予定されていないことを言う。薬液注入完了点の位置は薬液注入実施点の位置を基準として定まる所定範囲内(つまり、薬液注入完了点における薬液が薬液注入実施点に対し、地表面の変位に関して無視できない影響を与える範囲内)に含まれる。
【0034】
図6に例示するように、地表面の変位を測定可能な第1対象領域A1においては、任意の位置に任意の数の変位測定点P1を設定し得る。これに対し、地表面の変位の測定が困難な第2対象領域A2においては、その地表面全域が変位推定点P2に相当する。
【0035】
教師データ生成部32は、第1対象領域に対する地盤改良工事時にデータ取得部31によって取得されたデータを用いて、人工知能モデルにおける教師データを生成する。より具体的には、教師データ生成部32は、第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置と、当該地盤改良工事の過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置を入力変数とし、当該時点における変位測定点の変位量の測定値を示す測定変位量データを目的変数とした教師データを生成する。
【0036】
人工知能モデル生成部33は、上記の教師データに含まれる入力変数及び目的変数を用いて機械学習を実施して、人工知能モデルを生成する。
【0037】
人工知能モデル格納部34は、人工知能モデル生成部33により生成された人工知能モデルを格納する。
【0038】
変位量推定部35は、人工知能モデル格納部34に格納された人工知能モデルに対して、第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データと、当該地盤改良工事のある時点に関し、当該時点における薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データとを入力変数として入力する。これにより、変位量推定部35は、上記のある時点における変位推定点の変位量の推定値を目的変数として出力する。変位測定点の位置とは、2次元の地表面上の位置を意味する2次元座標で表現される。薬液注入実施点の位置及び薬液注入完了点の位置とは、薬液が注入される地盤内の位置、つまり3次元空間の位置を意味する3次元座標で表現される。薬液注入実施途中とは、現に薬液が注入されている期間を意味するほか、薬液の注入が一時的に中断されており、将来において薬液の再注入が予定されている期間をも言う。薬液注入完了とは、薬液注入が完了して、将来において薬液の再注入が予定されていないことを言う。
【0039】
[動作]
[人工知能モデルの生成動作]
図4は、人工知能モデルを生成する方法の一例を示すフローチャートである。まず、第1対象領域にて削孔がなされたのち、薬液注入が注入システム10により実施される(ステップS11)。このとき、この実施における過去の複数時点の各々に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データが、注入システム10により得られる。
【0040】
次に、変位測定システム20により、第1対象領域にて地表面の変位の測定が行われる(ステップS12)。これにより、第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、変位測定点における変位の測定値を示す測定変位量データとが、変位測定システム20により得られる。
【0041】
次に、これらの薬液注入データ、変位測定位置データ及び測定変位量データが注入システム10又は変位測定システム20から通信により、又は任意の記録媒体を介して、情報処理装置30に入力される(ステップS13)。これにより、情報処理装置30のデータ取得部31は、これらの薬液注入データ、変位測定位置データ及び測定変位量データを取得する(第1データ取得ステップ)。
【0042】
次に、情報処理装置30の教師データ生成部32は、データ取得部31によって取得された薬液注入データ及び変位測定位置データを入力変数とし、データ取得部31によって取得された測定変位量データを目的変数とした、例えばマルチタスクのニューラルネットワークの人工知能モデル(同時回帰モデル)における教師データを生成する(ステップS14)。
【0043】
次に、人工知能モデル生成部33は、上記の教師データを用いて、例えばニューラルネットワークによるマルチタスク学習を実施し(ステップS15)、これにより、人工知能モデルを生成して人工知能モデル格納部34に格納する(ステップS16)。
【0044】
[変位量の推定動作]
図5は、第2対象領域の地表面の変位を推定する方法の一例を示すフローチャートである。まず、第2対象領域における地盤改良工事のある時点に関し、当該時点において薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点の位置、薬液の注入速度及び注入済の薬液の量と、当該時点において薬液注入が完了している薬液注入完了点の位置とを示す薬液注入データとが注入システム10から通信により、又は任意の記録媒体を介して、情報処理装置30に入力される(ステップS21)。また、第2対象領域内の地表面変位を推定する変位推定点の位置を示す変位推定位置データが、所定の入力装置から通信により、又は任意の記録媒体を介して、情報処理装置30に入力される(ステップS21)。これにより、情報処理装置30のデータ取得部31は、これらの薬液注入データ及び変位推定位置データを取得する(第2データ取得ステップ)。
【0045】
次に、変位量推定部35は、人工知能モデル格納部34に格納された人工知能モデルと、データ取得部31によって取得された各データとを用いて、第2対象領域の各変位推定点における変位量の推定値を推定して出力する(ステップS22)。
【0046】
作業者は、推定された変位量が管理基準値を超える状況にあれば、例えば薬液注入速度の緩和や注入の停止、または薬液注入箇所の順序の変更等の、薬液の注入諸元に関する対策を決定して実行する(ステップS23)。
【0047】
以上が本実施形態の説明である。この実施形態によれば、薬液注入工法において、地表面の変位を何らかの理由により測定しない場合に、その変位を推定することが可能となる。これにより、例えばこれまでは変位を監視することが困難であった範囲を含む施工範囲全域での変位の管理が可能となり、既設の構造物に影響を与えない安全な地盤改良施工が実施可能となる。また、例えば削孔や薬液注入にかかるコストや工期の低減等の理由で測定システム20による変位の測定を行わない地盤の領域においても、その変位管理を行いつつ地盤改良施工を行うことが可能となる。
【0048】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態に限定されない。上述した実施形態を以下のように変形してもよい。また、以下の2つ以上の変形例を組み合わせて実施してもよい。
【0049】
[変形例1]
情報処理装置30は、変位量推定部35によって推定された変位に基づいて、薬液の注入の順序及び速度を決定するようにしてもよい。具体的には、変位量推定部35は、薬液注入工法による地盤改良工事の薬液注入を未実施の複数の薬液注入未実施点の各々に関し、当該薬液注入未実施点を薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点とみなして仮定した薬液注入データを用いて、第2対象領域の地表面変位を推定する変位推定点の変位量を推定する。薬液注入未実施点を、薬液注入の実施途中にある薬液注入実施点とみなして仮定することにより、薬液注入未実施点に薬液が注入されたときの変位を推定することができる。そして、情報処理装置30は、推定された変位量に基づき、複数の薬液注入未実施点に対する薬液の注入の順序及び速度(薬液注入諸元)を決定する決定部を備える。具体的には、決定部は、薬液の注入の順序及び速度の様々な値の組み合わせで上記のような変位の推定を行うよう変位量推定部35に指示する。この指示に応じて、変位量推定部35は、薬液の注入の順序及び速度の様々な値の組み合わせごとに、薬液注入未実施点に薬液が注入されたときの変位を推定する。決定部は、このようにして推定された変位のうち、最も変位が小さいときの薬液の注入の順序及び速度を、実際の施工において採用する薬液の注入の順序及び速度として決定する。このような施工管理方法によって決定された薬液注入諸元に基づいて地盤改良工事が施工される。なお、決定部が決定する対象は、薬液の注入の順序又は速度のいずれか一方であってもよい。
【0050】
また、本発明は、上記の施工管理方法によって決定された順序又は速度で薬液注入未実施点に薬液が注入されて液状化対策が施された地盤改良体としてもよい。
【0051】
[変形例2]
実施形態において、変位測定点の測定変位量は人工知能モデルにおける目的変数であったが、一部の変位測定点の測定変位量を人工知能モデルにおける入力変数として用いてもよい。具体的には、人工知能モデル生成部33は、
図4のステップS15において、複数の変位測定点のうちの一部の変位測定点(以下、代表測定地点という)に関し測定変位量データが示す当該変位測定点の測定変位量を目的変数に代えて入力変数として人工知能モデルを生成する。データ取得部31は、
図5のステップS21において、第1対象領域内の地表面変位を測定する変位測定点の位置を示す変位測定位置データと、ある時点における当該変位測定点の変位量の測定値を示す測定変位量データとを取得する。変位量推定部35は、
図5のステップS22において、取得された変位測定位置データの一部(代表測定地点)と、当該一部の変位測定位置データに応じた変位測定点の変位測定位置データに応じた測定変位量データ(つまり、全変位測定点のうちの一部である代表測定地点の測定変位量)とを入力変数として入力する。このように一部の変位測定点の測定変位量を人工知能モデルにおける入力変数として用いることにより、或る変位測定点の測定変位量がその周辺の変位測定点の変位量に与える影響が大きい場合には、変位の推定精度の向上を期待できる。
【0052】
[変形例3]
第1対象領域と第2対象領域は、同一の施工区域内であることが望ましいが、必ずしもそうである必要はなく、それぞれが異なる施工区域であってもよい。いずれの場合であっても、各々の領域の細粒分含有率を用いた機械学習を行ってもよい。つまり、データ取得部31は、
図4のステップS13において、第1対象領域内及び第2対象領域内の細粒分含有率を示す細粒分含有率データを取得する。第1対象領域内及び第2対象領域内の細粒分含有率データは、これらの領域に対するいわゆるボーリング等の地質調査によって得られる。人工知能モデル生成部33は、
図4のステップS15において、取得した細粒分含有率データを入力変数として、人工知能モデルの生成を行う。また、データ取得部31は、
図5のステップS21において、第1対象領域内及び第2対象領域内の細粒分含有率を示す細粒分含有率データを取得する。変位量推定部35は、
図5のステップS22において、人工知能モデルに対し、取得した細粒分含有率データを入力変数として入力する。これにより、各々の領域の細粒分含有率を考慮した、地表面の変位を推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1:システム、10:注入システム、20:変位測定システム、30:情報処理装置、31:データ取得部、32:教師データ生成部、33:人工知能モデル生成部、34:人工知能モデル格納部、35:変位量推定部、3001:プロセッサ、3002:メモリ、3003:ストレージ、3004:通信装置、3005:入力装置、3006:出力装置。