(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】膜分離方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230202BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20230202BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20230202BHJP
【FI】
C02F1/44 C
B01D61/04
C02F1/50 520A
C02F1/50 520B
C02F1/50 520F
C02F1/50 520P
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/50 550L
C02F1/50 560E
C02F1/50 510C
C02F1/50 532E
C02F1/50 532C
C02F1/50 532J
(21)【出願番号】P 2019065692
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100130683
【氏名又は名称】松田 政広
(72)【発明者】
【氏名】小森 英之
(72)【発明者】
【氏名】早川 邦洋
(72)【発明者】
【氏名】ルー インホン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ツィー ハウル
(72)【発明者】
【氏名】シム リー ヌアン
(72)【発明者】
【氏名】ホ ジア シン
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/005787(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/125764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/04
B01D 61/10
C02F 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜分離装置に供給する被処理水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を間欠添加して膜分離処理をする方法であり、
前記間欠添加は、
バイオフィルム中の微生物活性を抑制させる
ために前記結合塩素剤を
結合塩素濃度が0.3~10mg/Lとなるように、被処理水に添加して逆浸透膜分離装置に給水する間欠添加給水期間と、
結合塩素剤を添加しないで逆浸透膜分離装置に給水する無添加給水期間とを繰り返し行うものであり、
前記間欠添加給水期間は、0.25~5時間であり、
前記無添加給水期間は、1
時間以上6時間
未満である、膜分離方法。
【請求項2】
1つの間欠添加給水期間及び1つの無添加給水期間を1サイクルとしたときに、当該1サイクルの時間が、1.25~11時間である、請求項1記載の膜分離方法。
【請求項3】
〔前記無添加給水期間/前記間欠添加給水期間〕の時間比が、0.2~24である、請求項1又は2記載の膜分離方法。
【請求項4】
前記間欠添加給水期間は0.5~1時間である、及び/又は、前記無添加給水期間は1~4時間である、請求項1~3のいずれか
1項に記載の膜分離方法。
【請求項5】
1つの間欠添加給水期間及び1つの無添加給水期間を1サイクルとしたときに、当該1サイクル当たり、被処理水中の結合塩素剤の平均濃度が、0.05~1.5mg/L(as 結合塩素)である、請求項1~4のいずれか
1項に記載の膜分離方法。
【請求項6】
前記被処理水中の塩分濃度が、0~50000mg/Lとなる範囲で運転する、請求項1~5のいずれか
1項に記載の膜分離方法。
【請求項7】
前記間欠添加給水期間における被処理水中のアルカリ金属成分に対する塩素系酸化剤の組成比が、Cl/アルカリ金属(モル比)で、2×10
-5~1×10
-3である、請求項1~6のいずれか
1項に記載の膜分離方法。
【請求項8】
前記間欠添加給水期間における被処理水中のBrとClの比率が、Br/Cl(モル比)で5×10
-3以下である、請求項1~7のいずれか
1項に記載の膜分離方法。
【請求項9】
分離用膜における膜面の流速が、4cm/sec~15cm/secになるように運転する、請求項1~8のいずれか
1項に記載の膜分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業排水や生活排水などの排水、表層水や地下水から、不純物やイオンを取り除くために、膜処理が行われている。そして、膜処理を行う系は、工業用水や水道水、排水などを原水とした超純水製造プロセス、排水再利用プロセス、海水淡水化プロセスに組み込まれ、幅広く利用されている。
【0003】
しかし、逆浸透膜(RO膜)などの透過膜で膜処理を行うとき、被処理水中に濁質、有機物とともに微生物などの汚染性物質が含まれている。これら汚染性物質によって透過膜が汚染され、透過膜の閉塞が起こり、これにより透過流束が低下し、あるいは分離率が低下するなどの問題がある。そうなると、膜分離装置又は膜分離システムにおいて、長期的に安定して水処理を継続できなくなる。そこで、例えば、長期的に安定して膜分離を行うために、以下のような膜分離方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、膜分離装置への給水又は洗浄剤中に、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物から形成される結合塩素剤を存在させることを特徴とする膜分離方法が記載されている。
スルファミン酸化合物としては、R1R2NSO3H・・・〔1〕で表されるアミド硫酸で、R1、R2はそれぞれ独立にHもしくは炭素数1~6の炭化水素基である化合物又はその塩が挙げられ、塩素系酸化剤としては、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩などが挙げられている。
【0005】
例えば、特許文献2には、膜分離装置の給水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を添加して膜分離処理する方法において、定期的に又は不定期的に、通常の結合塩素剤添加量の2~10倍×T量の結合塩素剤を添加し、このとき次の〔2〕式で示されるZが、1.0<Z<2.0である方法が示されている。 Z=(Mo×T+Mx×Tx)/(Mo×T)・・・〔2〕 (〔2〕式中、Mo:通常の酸化結合塩素剤添加量で添加しているときの給水の結合塩素剤濃度、T:通水時間、Mx:通常の結合塩素剤添加量の2~10倍量の結合塩素剤を添加しているときの給水の結合塩素剤濃度、Tx:給水の結合塩素剤濃度Mxで通水する時間。)
【0006】
例えば、特許文献3には、膜分離装置に供給する被処理水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を間欠添加して膜分離処理する方法であって、被処理水の生菌数(logCFU/mL)が3以上であり、前記間欠添加は、結合塩素剤を添加しないで給水する無添加給水期間と、この無添加給水期間におけるバイオフィルム形成の初期に、バイオフィルムを剥離させる濃度の結合塩素剤を添加して給水する間欠添加給水期間とを繰返して行うものであり、前記無添加給水期間は6~120時間であり、前記間欠添加給水期間は0.5~40時間であり、前記間欠添加給水期間の被処理水の結合塩素剤濃度は、全塩素濃度が0.5~20mg/Lとなる濃度であることを特徴とする、膜分離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-263510号公報
【文献】特開2010-201312号公報
【文献】国際公開2013/005787号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制しつつ、長期的に安定して水処理を継続できる逆浸透膜分離方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
RO膜などの透過膜においては、溶媒である水が膜を透過するため、溶質が膜面で濃縮され、微生物が膜面に付着し、この膜面に残った微生物が多糖類、タンパク質などを分泌してバイオフィルムを形成する。このバイオフィルム中の微生物を放置して膜分離を継続すると、バイオフィルム中における微生物の活動により、バイオフィルムがより厚く成長していく。このバイオフィルムが膜面で成長することで、膜が閉塞し、差圧の上昇やフラックスが低下し、最終的に長期的に安定して膜分離ができなくなり、水処理が継続できなくなる。このため、フラックスが低下した場合又は定期的に、透過膜を洗浄するか交換するが、透過膜洗浄や透過膜交換によるコストや作業性の観点から、透過膜をできるだけ洗浄や交換せずに長期にわたり水処理が継続できるように運転できることが望まれている。
【0010】
上述のように、膜分離を行っている逆浸透膜上に付着しているバイオフィルム中には微生物が存在し、この中の微生物が活動することによってバイオフィルムが形成される原因になっている。そこで、本発明者は、新たなアプローチとして、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制することに着目し、これにより長期的に安定して逆浸透膜にて水処理を継続できないかを検討することとした。
【0011】
そこで、本発明者は、逆浸透膜及び微生物を一緒にインキュベートさせることで、逆浸透膜上に微生物を付着させつつバイオフィルム中で微生物が活動しているような状況のモデルを作製した。
【0012】
そして、本発明者は、このインキュベートモデルを用いて鋭意検討を行った結果、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤(以下、「結合塩素剤」ともいう)を、短期の間欠添加条件において、バイオフィルムを含む逆浸透膜に使用したところ、バイオフィルム中の微生物の活性(特に微生物によるバイオフィルム形成の活性)を抑制できることを見出した。このときの短期の間欠添加条件としては、間欠添加給水期間の時間及び無添加給水期間の時間のそれぞれ(具体的にはこれらの繰り返し1ターンの期間)を短くして行った。斯様にして、本発明者は、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(9)のとおりである。
(1)
逆浸透膜分離装置に供給する被処理水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を間欠添加して膜分離処理をする方法であり、
前記間欠添加は、
バイオフィルム中の微生物活性を抑制させる濃度の前記結合塩素剤を被処理水に添加して逆浸透膜分離装置に給水する間欠添加給水期間と、
結合塩素剤を添加しないで逆浸透膜分離装置に給水する無添加給水期間とを繰り返し行うものであり、
前記間欠添加給水期間は、0.25~5時間であり、
前記無添加給水期間は、1~6時間である、膜分離方法。
(2)
1つの間欠添加給水期間及び1つの無添加給水期間を1サイクルとしたときに、当該1サイクルの時間が、1.25~11時間である、前記(1)記載の膜分離方法。
(3)
〔前記無添加給水期間/前記間欠添加給水期間〕の時間の比が、0.2~24である、前記(1)又は(2)記載の膜分離方法。
(4)
前記間欠添加給水期間は0.5~1時間である、及び/又は、前記無添加給水期間は1~4時間である、前記(1)~(3)のいずれか記載の膜分離方法。
(5)
1つの間欠添加給水期間及び1つの無添加給水期間を1サイクルとしたときに、当該1サイクル当たり、被処理水中の結合塩素剤の平均濃度が、0.05~1.5mg/L(as 結合塩素)である、前記(1)~(4)のいずれか記載の膜分離方法。
(6)
前記被処理水中の塩分濃度が、0~50000mg/Lとなる範囲で運転する、前記(1)~(5)のいずれか記載の膜分離方法。
(7)
前記間欠添加給水期間における被処理水中のアルカリ金属成分に対する塩素系酸化剤の組成比が、Cl/アルカリ金属(モル比)で、2×10-5~1×10-3である、前記(1)~(6)のいずれか記載の膜分離方法。
(8)
前記間欠添加給水期間における被処理水中のBrとClの比率が、Br/Cl(モル比)で5×10-3以下である、前記(1)~(7)のいずれか記載の膜分離方法。
(9)
分離用膜における膜面の流速が、4cm/sec~15cm/secになるように運転する、前記(1)~(8)のいずれか記載の膜分離方法。
【0014】
なお、特許文献1には、前記結合塩素剤を常時又は間欠的に添加することが開示されているが、実際には、実施例において、前記結合塩素剤を常時添加することで目的を達成できたことが開示されている。また、当該特許文献1の段落〔0006〕には、クロラミンの殺菌力が、遊離塩素の殺菌力に比べて1/50~1/200程度と、弱いことが記載されている。このように特許文献1では、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物から形成される結合塩素剤が、微生物の増殖による透過膜の汚染を防止するためには、常時添加することが必要であると、通常は理解する。このため、特許文献1から、本発明における、短期の間欠添加条件、具体的には無添加給水期間及び間欠添加給水期間のそれぞれが短期であること、には到達しない。
【0015】
また、特許文献2には、実施例において、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を連続的に添加する過程で、30日に一度、24時間の間、通常の2~10倍量の高濃度の添加を実施することが開示されている。このように特許文献2では、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤は、通常の濃度で添加され、次いで高濃度で添加されているので、当該結合塩素剤を常時添加することが必要であると、通常は理解する。このため、特許文献2から、本発明における、短期の間欠添加条件、具体的には無添加給水期間及び間欠添加給水期間のそれぞれが短期であること、には到達しない。
【0016】
また、特許文献3では、無添加給水期間と間欠添加給水期間とを繰り返して膜分離処理する方法において、無添加給水期間では、結合塩素剤を添加しないで給水すること、及び、間欠添加給水期間では、バイオフィルム形成の初期に、バイオフィルムを剥離させる濃度の結合塩素剤を添加して給水する方法が開示されている。このように特許文献3では、バイオフィルムの剥離とバイオフィルムの形成初期に焦点を当てて間欠添加条件が設定されているが、この初期では微生物が活発に活動している状態とはいいがたい。すなわち、特許文献3では、バイオフィルム中の微生物の活性(特に微生物によるバイオフィルム形成の活性)を抑制する観点からの条件設定が十分とはいえなかった。このため、本発明における短期の間欠添加条件は、特許文献3のものとは全く異なるアプローチから新たに見出されたものであり、特許文献3から、本発明における、短期の間欠添加条件、具体的には無添加給水期間及び間欠添加給水期間のそれぞれが短期であること、には到達しない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制しつつ、長期的に安定して水処理を継続できる逆浸透膜分離方法を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態の一例として、逆浸透膜処理系の前段に、結合塩素剤を同時又は別々に添加する場合の水系フロー図である。
【
図2】間欠添加給水期間0.5時間かつ無添加給水期間0~6.5時間における微生物活性(
図2A:タンパク質量、
図2B:生菌数、
図2C:総ATP量)の変化を示す。横軸は、間欠添加給水期間及び無添加給水期間の総時間(h)を示し、薬剤を添加した時点からの総時間である。
【
図4】逆浸透膜を用いる水系において、間欠添加条件を変更したときの膜圧の変化を示す。前半部分は、間欠添加給水期間(1h;結合塩素剤添加量1.2~2.4mg/L as結合塩素)及び無添加給水期間(7h)で運転を行う。後半部分は、本発明の間欠添加給水期間(0.5h;結合塩素剤添加量2.4~1.8mg/L as結合塩素)及び無添加給水期間(3.5h)で運転を行う。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。
【0020】
1.本発明に係る膜分離方法
本発明に係る膜分離方法は、逆浸透膜分離装置(又は逆浸透膜分離工程)に供給する被処理水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤(以下、「前記結合塩素剤」ともいう)を間欠添加して膜分離処理をする方法を提供するものである。
さらに、前記間欠添加は、バイオフィルム中の微生物活性を抑制させる濃度の前記結合塩素剤を被処理水に添加して逆浸透膜分離装置に給水する間欠添加給水期間と、結合塩素剤を添加しないで逆浸透膜分離装置に給水する無添加給水期間とを繰り返し行うものであることが好適である。これらの間欠添加給水期間と無添加給水期間を交互に繰り返して膜分離処理することが好適である。
さらに、前記間欠添加給水期間は、0.25~5時間であり、前記無添加給水期間は、1~6時間であることが好適である。
このとき、前記間欠給水期間においては、被処理水にスルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を、結合塩素濃度が0.3~10mg/Lとなるように添加することが好適である。
これにより、本発明の逆浸透膜分離方法において、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制しつつ、長期的に安定して水処理を継続できる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【0021】
また、本発明では、前記結合塩素剤及び短期の間欠添加条件を組み合わせることにより、後記〔実施例〕に示すようにバイオフィルム中に存在する微生物であってもその活性を抑制することができる利点を有する。通常バイオフィルム中に微生物が存在することで殺菌剤や静菌剤(bacteriostatic agent)などの効果が十二分に発揮できないなどがあるが、本発明の前記結合塩素剤及び短期の間欠添加条件を組み合わせることにより、大量の薬剤添加せずに適正な薬剤量にて、バイオフィルムの形成の活性を抑制することができ、膜の目詰まりに繋がる微生物によるバイオフィルム形成量を低減することができる。
【0022】
<1-1.本発明に係る分離方法>
本発明は、膜分離を有する系(以下、「膜分離系」ともいう)又は膜分離装置に被処理水を供給して膜分離を行う方法である。本発明では、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制するために、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を使用して短期の間欠添加を行い、膜分離を行う。これにより、透過膜上にバイオフィルムが存在していても、このバイオフィルム中の微生物の活性を抑制することができ、特に微生物によるバイオフィルム形成の活性を抑制することができる。さらに、本発明では、より好適には、膜分離処理の給水中に当該結合塩素剤が所定濃度(as 結合塩素)になるように設計することで、より良好に長期間に渡り安定して膜分離を行うことができる。
【0023】
より具体的には、本発明は、逆浸透膜(以下、「RO膜」ともいう)などの透過膜を備えた膜分離を有する系又は膜分離装置に被処理水を供給して膜分離する方法を提供するものである。本発明は、特にRO膜を利用する膜分離方法に適している。なお、本明細書では、「膜分離系又は膜分離装置」を、「膜分離処理」ともいう。
【0024】
本発明は、短期の間欠添加条件にて、被処理水に対してスルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を添加して、RO膜分離装置又はRO膜分離系に給水することが好適である。本発明では、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制するために、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤(以下、「前記結合塩素剤」ともいう)を被処理水中に添加することが好適である。
本発明では、短期の間欠添加条件で前記結合塩素剤を被処理水に添加することによって、RO膜上にバイオフィルムが存在していても、このバイオフィルム中に存在する微生物に対してより影響を与え、微生物の活性をより抑制することができ、特に微生物によるバイオフィルム形成の活性を抑制することができる。また、本発明では、RO膜上に付着し存在しているバイオフィルムの厚さを抑制することも可能である。
また、本発明では、バイオフィルムがRO膜上に充分に形成されていない早期に、短期の間欠を行うことが好適であり、これにより膜閉塞に繋がるバイオフィルム量をより低減することができる。
【0025】
一般的に、膜処理分離で問題となるバイオフィルムは、粘着性を有し、透過膜などの基質に付着している。しかも、この粘着性の高いバイオフィルムは、被処理水に含まれる他粒子(具体的には、有機物や無機物などの濁度成分)も吸着して、さらに膜閉塞を引き起こしやすくする。
しかしながら、本発明では、バイオフィルム中の微生物の活性(特に微生物によるバイオフィルム形成の活性)を抑制することができるので、バイオフィルムを形成する量が抑制され、被処理水中又は逆浸透膜上のバイオフィルム量が低減できる。
このようなことから、透過膜に接触するバイオフィルム量が抑制できることで、バイオフィルムによる膜閉塞をより防止しやすく、長期的に安定して膜分離が行いやすい。そして、本発明は、長期にわたり安定して水処理を継続できる膜分離方法を提供することができる。
【0026】
<1-2.本発明における微生物の活性>
本発明では、微生物の活性の抑制を確認する指標として、生菌数、総ATP量、及びタンパク質量を指標としているが、当該指標はこれに限定されるものではない。
基質(例えば、RO膜)に付着した微生物は、活動を行うことによって細胞外にバイオフィルムを形成し、さらに微生物が活動することによって微生物数及びバイオフィルム量がより増大し、このようにして微生物は基質に付着し、生活圏を確保している。
このバイオフィルムには細胞外多糖体が含まれ、この細胞外多糖体は、糖タンパク質やペプチドグリカンなどとも呼ばれ、バイオフィルムにはタンパク質やペプチドが概ね含まれる。
また、微生物が増殖活性することで生菌数が増加するとバイオフィルムの総量も増大しやすくなる。
また、微生物が増殖やバイオフィルムの形成等のような活動をするときには、微生物中の総ATP量も増大しやすい。
このようなことから、本発明において、タンパク質量、生菌数、又は総ATP量の少なくともいずれかを測定することで、微生物の活性抑制(特に微生物によるバイオフィルム形成の活性抑制)を精度良く検討することができると本発明者は考えた。
【0027】
<1-3.本発明における逆浸透膜>
本発明の逆浸透膜(ナノ濾過(NF)膜を含む)の材質としては、ポリアミド、特に耐塩素性の小さい芳香族ポリアミド、ポリ尿素、ポリピペラジンアミドなどの窒素含有基を有する高分子膜に対して特に有効であるが、酢酸セルロース系、その他のRO膜であってもよい。透過膜として、例えば、酢酸セルロース、三酢酸セルロース、硝酸セルロース、セルロースなどのセルロース系;ポリアクリロニトリル(PAN)、芳香族ポリアミド (aromatic and aliphatic)、ポリイミド(Polyimide)などの窒素含有基系;ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0028】
本発明の逆浸透膜は、特に限定されず、例えば、スパイラル状、中空糸状、平膜状などの形状で、スキン層が酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリイミドなどの樹脂製のものを用いるものが挙げられる。
【0029】
また、本発明の膜分離装置又は膜分離系は、海水、河川水、井戸水、湖沼水などの天然水や、工業用水や水道水、排水などを原水とした水処理系に組み込むことが可能であり、例えば、海水淡水化プロセス、超純水処理製造プロセス、排水再利用プロセスなどの水処理系に組み込むことも可能である。
【0030】
<1-4.被処理水>
本発明において、膜分離装置又は膜分離系に供給して膜分離する被処理水としては、透過膜による膜分離が可能なすべての水が対象となり、例えば、海水、河川水、井戸水、湖沼水、工業用水、市水、排水、排水処理水などが挙げられる。また、被処理水には、細菌などの微生物が含まれていてもよい。
また、被処理水のpHは、特に限定されないが、pH3~9が好ましく、適宜酸やアルカリにて調整することができる。また、被処理水の水温は、一般的に4~40℃程度であるが、本発明はこれに特に限定されない。
【0031】
<1-4a.被処理水中の生菌数>
本発明において、浸透膜上に存在する微生物の活性を抑制することで、バイオフィルムの形成量を低減でき、透過膜に接触するバイオフィルム総量が低減できる。また、本発明において、バイオフィルムが充分に形成されていない早期に短期の間欠添加を行うことが、バイオフィルム総量を低減できるので、好適である。
【0032】
本発明において、バイオフィルム形成量が少ないときに、前記結合塩素剤を添加することが、膜分離を長期的に安定して継続できる観点から、好ましい。また、バイオフィルムが多く形成される前に前記結合塩素の添加を開始することが、薬剤使用の効率性の観点から好適である。
また、微生物数を抑制させる手段を用いて、生菌数を適宜調整してもよく、例えば殺菌剤又は静菌剤などの各種薬剤を使用してもよく、殺菌装置(例えば、UV殺菌装置)を使用してもよく、特に限定されない。
【0033】
また、前記結合塩素剤は、菌数が多くバイオフィルムの付着ポテンシャルが高い厳しい条件の被処理水に使用することも可能である。このため、本発明では、被処理水中の生菌数(logカウント/mL)が好ましくは4以上、より好ましくは5以上であり、この生菌数の上限値として6程度までは対応可能である。
【0034】
<logカウント/mLの測定方法>
本発明において、被処理水の細菌数(生菌数)(logカウント/mL)は、後述する<生菌数のカウント方法>記載のフローサイトメトリー分析にて測定することができる。ここでlogは常用対数log10を示す。
【0035】
<1-4b.被処理水中の塩分濃度>
被処理水中の塩分濃度は、特に限定されないが、例えば、本発明であれば、淡水や水道水など低塩分の被処理水の他、高い塩分濃度の被処理水(例えば、汽水や海水、これらや塩分が混入した水など)であっても、長期的に安定して膜分離を行うことができる。本発明では、被処理水中の塩分濃度を所定の範囲になるように調整して運転することが可能であり、例えば、好ましくは0~50000mg/Lとなる範囲で運転が可能であり、通常、海水を被処理水とする場合には概ね25000~50000mg/Lの範囲であり、水道水や淡水などを被処理水とする場合には概ね25000mg/L未満の範囲になる。
<塩分濃度の測定方法>
なお、塩分濃度は、導電率測定による塩分計にて測定することができる。
【0036】
本発明であれば、被処理水として種々の原水を用いた場合でも、逆浸透膜上に存在するバイオフィルム中の微生物の活性を抑制しつつ、長期的に安定して膜分離することが可能である。
【0037】
<1-5.本発明に使用する結合塩素剤>
本発明において、被処理水に添加する結合塩素剤は、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤である。本発明で用いる結合塩素剤としては、例えば、WO2011/125762(参考文献1)及びWO2013/005787(特許文献3)に記載のものが挙げられる。
【0038】
<遊離塩素濃度、結合塩素濃度および全塩素濃度の測定方法>
本発明において、遊離塩素濃度、結合塩素濃度および全塩素濃度は、JIS K 0400-33-10:1999に示される、N,N-ジエチル-1,4-フェニレンジアミンを用いるDPD法によりCl2の濃度として測定される。JIS K 0400-33-10:1999では、次の定義が与えられている。
すなわち、遊離塩素は次亜塩素酸、次亜塩素酸イオン又は溶存塩素の形で存在する塩素とされている。結合塩素はクロロアミンおよび有機クロロアミンなどの形で存在する塩素とされており、上記遊離塩素に含まれないが、DPD法により測定される全塩素とされている。全塩素は遊離塩素、結合塩素又は両者の形で存在する塩素とされている。
【0039】
<1-5a.結合塩素剤>
本発明で用いられる結合塩素剤は、上記結合塩素として測定される薬剤であることが好適であり、より好ましくはアルカリ金属水酸化物からなるアルカリと、スルファミン酸化合物と、塩素系酸化剤とを含有する水溶液製剤から構成される結合塩素剤である。当該水溶液製剤を、結合塩素剤としてそのまま使用してもよい。
【0040】
前記水溶液製剤中のスルファミン酸化合物に対する塩素系酸化剤の組成比が、好ましくはCl/N(モル比)で0.3~0.7、より好ましくは0.4~0.6である。
前記水溶液製剤中のアルカリ金属成分に対する塩素系酸化剤の組成比が、Cl/アルカリ金属(モル比)で、好ましくは0.15~0.5、より好ましくは0.2~0.4である。
前記水溶液製剤中の遊離塩素濃度が、全塩素濃度の2質量%以下であるものが好ましい。
【0041】
また、前記水溶液製剤は、好ましくは、pHが13以上、水溶液製剤中のアルカリに対するスルファミン酸化合物の組成比が、N/アルカリ金属(モル比)で0.4~0.7とするのが好適である。
上記のCl/N(モル比)は、前記JIS K 0400-33-10:1999により測定される塩素系酸化剤のCl2のモル数と、Nにより構成されるスルファミン酸化合物のモル数との比に相当することが好適である。またN/アルカリ金属(モル比)は、上記スルファミン酸化合物のモル数と、アルカリ金属水酸化物により構成されるアルカリのモル数との比に相当することが好適である。
なお、前記水溶液製剤の各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0042】
<1-5b.結合塩素剤のスルファミン酸>
前記結合塩素剤のスルファミン酸化合物を構成するスルファミン酸は、 R1R2NSO3H・・・〔1〕で表されるアミド硫酸であることが好適である。当該式〔1〕中の、R1、R2はそれぞれ独立にH又は炭素数1~6の炭化水素基であることが好適である。このようなスルファミン酸としては、R1、R2がそれぞれHである「狭義のスルファミン酸」がより好ましいが、N-メチルスルファミン酸、N,N-ジメチルスルファミン酸、N-フェニルスルファミン酸なども使用できる。スルファミン酸化合物は、これらのスルファミン酸を遊離(粉末状)の酸の状態で用いてもよく、またナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩などの塩であってもよい。
【0043】
<1-5c.結合塩素剤のアルカリ成分>
前記結合塩素剤を構成するアルカリ成分は、アルカリ金属水酸化物からなるアルカリであることが好適であるが、これに限定されない。アルカリ金属水酸化物として、例えば、水酸化ナトリウム塩、水酸化カリウム塩などが挙げられる。
また、塩素系酸化剤は、例えば次亜塩素酸、亜塩素酸、又はそのアルカリ金属塩などの可溶性塩が挙げられ、これらのいずれも塩化ナトリウムを含まないものがより望ましい。水溶液製剤中の塩化ナトリウムは、50,000mg/L以下に管理することが好適であり、これにより、塩の沈澱を防止でき、塩素系酸化剤の安定性の向上が達成できる。
【0044】
前記結合塩素剤は、アルカリ金属水酸化物からなるアルカリ水溶液にスルファミン酸化合物を添加して溶解し、得られたスルファミン酸化合物-アルカリ混合水溶液に、塩素系酸化剤を添加して混合し、水溶液製剤として調製することにより製造することができる。調製された水溶液製剤を、結合塩素剤として使用してもよい。
アルカリ水溶液は、水の量が50~65質量%とするのが好ましい。
アルカリはアルカリ金属水酸化物からなるものであり、このようなアルカリとして、上記結合塩素剤水溶液としたときに可溶性を維持するものが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0045】
<1-5d.結合塩素剤のスルファミン酸化合物の形態>
スルファミン酸化合物は、塩で添加してもよく、この場合の使用可能な塩としては、上記結合塩素剤水溶液としたときに可溶性のものが挙げられる。この塩として、例えば、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウムなどから選択される1種又は2種以上のものを用いることができる。
スルファミン酸化合物は、水溶液製剤中のスルファミン酸化合物濃度が上記濃度となるように添加されることが好適である。
スルファミン酸化合物の添加量は、アルカリとスルファミン酸化合物との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.4~0.7とするのが好ましい。
スルファミン酸化合物は、スルファミン酸又はその塩を、粉末状態で、あるいは水溶液の状態で添加することができる。スルファミン酸塩を用いる場合、スルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量は、前記Cl/アルカリ金属、N/アルカリ金属のアルカリとして加算される。水溶液を用いる場合は、水溶液に含まれる水の量は、前記アルカリ水溶液の水の量として加算される。
【0046】
塩素系酸化剤は、次亜塩素酸又はその塩が好ましく、このときの有効塩素(Cl2)濃度として、その下限値は好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、その上限値は好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、当該数値範囲として、好ましくは5~20質量%、より好ましくは10~15質量%の水溶液として添加するのが好適である。なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0047】
塩素系酸化剤の添加量は、水溶液製剤中の塩素系酸化剤濃度が有効塩素(Cl2)濃度として上記濃度となるように、またスルファミン酸化合物に対する塩素系酸化剤の組成比が、Cl/N(モル比)で上記モル比となるように添加される。これにより発泡や塩素臭の発生はなく、反応性、安定性、取扱性、無塩素臭などに優れた水溶液製剤からなる結合塩素剤を効率よく製造することができる。この場合でも、塩素系酸化剤を徐々に添加して混合するのが好ましい。塩素系酸化剤がアルカリ金属塩の場合、このアルカリ金属の量は、前記Cl/アルカリ金属、N/アルカリ金属のアルカリとして加算される。
【0048】
上記のような結合塩素剤は、塩素処理を行うために被処理水に添加して使用されるが、上記のように製剤の遊離塩素濃度が低く、かつ結合塩素濃度が高いので、このような製剤を遊離塩素濃度が低くなるように水系に添加しても、結合塩素濃度を高くすることができる。結合塩素は遊離塩素に比べてバイオフィルムへの浸透性が高く、内部から粘着性物質の粘着性を低下させることができる。本発明の結合塩素剤により、微生物の活性を抑制することができる。
【0049】
結合塩素剤は、被処理水中の結合塩素濃度が、その上限値として、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは5mg/L以下、さらにより好ましくは3mg/L以下になるように、また、その下限値として、好ましくは0.3mg/L以上になるように、膜分離装置又は膜分離系に供給する被処理水に添加して塩素処理を行うことができる。
また、このとき、被処理水中の遊離塩素濃度が、好ましくは0.3mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下、さらに好ましくは0.05mg/L以下とすることが好ましい。このように遊離塩素濃度を低く設定することによって、RO膜の劣化を防止することが可能となる。
本発明においては、このように被処理水中の遊離塩素濃度が低いため、被処理水中の全塩素濃度は、結合塩素濃度と略等しいものとなる。
【0050】
上記の結合塩素剤は、RO膜などの透過膜のスライムコントロール剤として用いる場合、遊離塩素濃度が低くなるように被処理水に添加しても、結合塩素濃度を高くすることができるので、生菌数が多く微生物活性のポテンシャルが高い厳しい条件の水質に対しても、有効塩素濃度を高くしてバイオフィルム形成の活性を抑制できるので、これにより膜の閉塞を防止することができる。上記の結合塩素剤を用いることにより、結合塩素として高濃度に添加して、生菌数が多い被処理水のバイオフィルム形成の活性増大を防止することができる。
【0051】
<1-6.短期の間欠添加条件>
本発明では、短期の間欠添加条件にて、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を被処理水に添加して膜分離処理を行うことに特徴がある。この短期の間欠添加条件は、間欠添加給水期間と、無添加給水期間とを、それぞれ短期に行うことが好適である。また、さらに、これら間欠添加給水期間及び無添加給水期間を交互に繰り返し行うことが好適である。前記被処理水は、逆浸透膜分離装置又は逆浸透膜分離系に供給するものである。
【0052】
本発明の膜分離処理において、1つの間欠添加給水期間及び1つの無添加給水期間を1サイクルとし、この1サイクルを少なくとも含むことが好適である。本発明の膜分離処理において、この1サイクルを連続的に又は断続的に複数回行ってもよく、また、この複数回のサイクルの運転条件を1セットと設定して膜分離処理の運転を行ってもよい。また、本発明では、時間の経過に合わせて、本発明の短期の間欠添加条件を適宜変更しながら膜分離処理の運転を行ってもよい。本発明では、このセット条件を適宜変更して運転を行ってもよく、また、適宜、このセット条件を複数組み合わせて運転を行ってもよい。また、本発明では、サイクル条件やセット条件を変更することで、RO膜の経時的変化に応じて膜分離処理の運転を行うこともできる。
【0053】
前記間欠添加給水期間は、スルファミン酸化合物を含む結合塩素を被処理水に添加して、逆浸透膜分離装置に給水する給水期間である。
前記無添加給水期間は、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を添加しないで逆浸透膜分離装置に給水する給水期間である。
前記スルファミン酸化合物を含む結合塩素は、バイオフィルム中の微生物活性を抑制させる濃度のものを使用することが好適である。
このように、前記結合塩素剤を使用して短期の間欠添加を行うことで、バイオフィルム中の微生物の活性(特に微生物によるバイオフィルム形成の活性)をより良好に抑制することができる。
【0054】
本発明における短期の間欠添加条件にすることで、少ない薬剤添加量でも効率よく、微生物に対してバイオフィルム形成の活性をより抑制することができる。添加給水期間と間欠添加給水期間を繰返すことで、微生物によるバイオフィルム形成の活性をより抑制することができるため、バイオフィルムの総量も減るため、結果として膜に対するバイオフィルムの付着量も低減できる。また、本発明のような短期の間欠添加条件ではなく、薬剤を常時連続添加する方法では、薬剤量が増大するためコストの観点からも、好ましくない。
【0055】
また、本発明における短期の間欠添加条件は、好ましくはバイオフィルム形成の初期段階又はその前に、より好ましくはバイオフィルム中の微生物の対数増殖期間より前の時期に、さらに好ましくは増殖の加速期の段階の前の時期に、開始することが好ましい。
また、本発明における、短期の間欠添加条件は、無添加給水期間よりも、間欠添加給水期間を、先に開始することが好ましく、被処理水中の前記結合塩素剤の濃度を高くして、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制しやすい。
これにより、少ない薬剤使用量により効率よく微生物の活性を抑制でき、バイオフィルムの形成が増大することによる膜閉塞を防止することができる。
【0056】
<1-6a.間欠添加給水期間>
本発明では、結合塩素剤を添加して給水する間欠添加給水期間は、1回当たりの添加期間の長さとして、その上限値として、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下、さらに好ましくは3時間以下、よりさらに好ましくは2時間以下、よりさらに好ましくは1時間以下、より好ましくは0.75時間以下であり、また、その下限値は、好ましくは0.25時間以上、より好ましくは0.3時間以上、さらに好ましくは0.4時間以上、よりさらに好ましくは0.5時間以上である。当該数値範囲として、好ましくは0.25~5時間、より好ましくは0.4~3時間、、さらに好ましくは0.5~1時間である。なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0057】
<1-6b.間欠添加給水期間の処理水中の各濃度>
間欠添加給水期間において被処理水に結合塩素剤が添加されるが、この間欠添加給水期間における被処理水中の各構成成分は、被処理水及びこれに添加する結合塩素剤によって、適宜調整することができる。なお、間欠添加給水期間における被処理水中の各構成成分のおける上限値と下限値は、本明細書に記載されている範囲から、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0058】
間欠添加給水期間における被処理水の結合塩素濃度は、特に限定されないが、その下限値は、好ましくは0.3mg/L以上、より好ましくは0.5mg/L以上、さらに好ましくは1.0mg/L以上であり、また、その上限値は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは5mg/L以下、さらに好ましくは3mg/L以下である。当該範囲としては、好ましくは0.3~10mg/L、より好ましくは0.5~5mg/L、さらに好ましくは1~3mg/Lの範囲になるように薬剤を添加することが好適である。
このような濃度にすることにより、バイオフィルム中の微生物活性(特に、微生物によるバイオフィルム形成の活性)を効率良く抑制させることができる。なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0059】
間欠添加給水期間における被処理水中のアルカリ金属成分に対する塩素系酸化剤の組成比が、Cl/アルカリ金属(モル比)で、特に限定されないが、好ましくは、4×10-6~1×10-3、より好ましくは2×10-5~5×10-4、さらに好ましくは3×10-5~2.4×10-4となるような範囲で薬剤を添加することが好適である。
前記間欠添加給水期間における被処理水中のBrとClの比率が、Br/Cl(モル比)で、好ましくは5×10-3以下の範囲になるように薬剤を添加することが好適である。
【0060】
<1-6c.無添加給水期間>
本発明では、結合塩素剤を添加しないで給水する無添加給水期間は、その上限値が6時間以下、より好ましくは6時間未満であり、さらに好ましくは5.5時間以下、よりさらに好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下、より好ましくは2.5時間以下であり、また、その下限値は好ましくは0.25時間以上、より好ましくは0.5時間以上、さらに好ましくは1時間以上、よりさらに好ましくは2時間以上である。当該数値範囲として、好ましくは1~6時間、より好ましくは1~4時間、さらに好ましくは1~3時間である。なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0061】
<1-6d.結合塩素剤による被処理水中の平均濃度>
前記結合塩素剤による被処理水中の平均濃度(mg/L as 結合塩素)は、1サイクル当たりにおいて特に限定されないが、1サイクル当たりの前記平均濃度は、この下限値として、好ましくは0.05mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、さらに好ましくは0.2mg/L以上であり、また、その上限値として、好ましくは1.5mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、さらに好ましくは0.5mg/L以下である。1サイクル当たりの前記平均濃度は、当該数値範囲として、好ましくは0.05~1.5mg/L(as 結合塩素)、より好ましくは0.1~1.0mg/L(as 結合塩素)、さらに好ましくは0.2~0.5mg/L(as 結合塩素)である。なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0062】
本発明において、1つの間欠添加給水期間及び1つの無添加給水期間を1サイクルといい、この1サイクルが1ユニットとして繰り返し行われることが望ましい。
この1サイクル当たりの被処理水中の結合塩素剤の平均濃度の調整は、間欠添加給水期間及び結合塩素剤の添加量と、無添加給水期間とで、行うことができる。また、このサイクル条件は、適宜変更することができる。
【0063】
本発明では、RO膜上に付着した微生物の活性を抑制する観点から、短期の間欠添加条件が見出された。さらに、本発明では、この短期の間欠添加条件から、1サイクル当たり、被処理水中の結合塩素剤の平均濃度が見出された。これにより、本発明は、従来の連続添加や従来の間欠添加と比較して、長期的な運転をする際に被処理水中に添加する結合塩素剤の使用量を、より適切な量にすることができるので、コストの面からも有利である。
【0064】
<1-6e.間欠添加給水期間と無添加給水期間の比及びサイクル>
本発明では、〔無添加給水期間/間欠添加給水期間〕の時間の比は、特に限定されないが、その下限値として、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは2以上、よりさらに好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上であり、また、その上限値として、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下、よりさらに好ましくは10以下である。当該数値範囲として、〔無添加給水期間/間欠添加給水期間〕の時間の比は、0.2~24にすることが好適であり、より好適には3~10、さらに好適には5~10、よりさらに好適には6~8である。なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0065】
本発明では、1つの間欠添加給水期間及び1つの無添加給水期間を1サイクルとしたときに、当該1サイクルの時間が、特に限定されないが、その下限値として好ましくは0.75時間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは1.25時間以上、より好ましくは1.5時間以上、さらに好ましくは2時間以上であり、また、当該1サイクルの時間が、その上限値として好ましくは11時間以下、より好ましくは10時間以下、より好ましくは9時間以下、さらに好ましくは8時間以下、よりさらに好ましくは7時間以下、より好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下、より好ましくは3.5時間以下、より好ましくは3時間以下である。
当該1サイクル時間の数値範囲として、好ましくは1.25~11時間、より好ましくは1.5~11時間、さらに好ましくは1.5~9時間、よりさらに好ましくは1.5~5時間である。
なお、各構成成分のおける前記の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0066】
<1-6f.膜面の流速>
本発明において、膜分離処理に給水する分離用膜における膜面の流速は、特に限定されないが、好ましくは、2~20cm/secになるように運転することが好適であり、より好ましくは4~15cm/sec、さらに好ましくは6~10cm/secである。
【0067】
2.本発明に係る水処理方法
本発明に係る実施形態は、上述したように、逆浸透膜分離装置又は逆浸透膜分離系に供給する被処理水に、バイオフィルム中の微生物の活性(特に微生物によるバイオフィルム形成の活性)を抑制するために、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を使用して短期の間欠添加を行い、膜分離処理をする方法であり、これにより長期的に安定して水処理を行うことができる。
【0068】
本実施形態における逆浸透膜処理は、逆浸透膜処理を少なくとも行うことであり、RO膜処理装置を少なくとも備えることができる。また、逆浸透膜処理は、不純物(塩や有機物など)などを取り除き、純水化や海水淡水化などが可能な一般的な水処理装置又は水処理系に備えることができる。前記逆浸透膜処理は、例えば、超純水処理製造プロセス、排水回収プロセス、海水淡水化プロセスなどに備えることができる。
本実施形態のRO膜処理工程を含む水処理系(又は水処理装置)は、生物処理工程、凝集処理工程、沈殿処理工程、加圧浮上処理工程、固液分離工程、砂ろ過処理工程、膜(MF、UFなど)処理工程などの何れか、又はこれら複数を組み合わせる処理系を備えることが好ましい。また、これら処理工程は、処理装置を用いて行ってもよい。
【0069】
また、本実施形態の逆浸透膜処理又はこれを備える水処理系は、凝集処理工程、固液分離処理工程、除濁膜処理工程を、順次又は順不同に配置して、備えることが好ましい。また、これら処理工程は、処理装置を用いて行ってもよい。
これにより、これら処理工程(又は装置)の何れか又はこれらを組み合わせて前処理したRO給水を得ることができる。前記除濁膜処理として、特に限定されないが、例えば、精密ろ過膜(MF膜)処理、限界ろ過膜(UF)処理、などが挙げられ、これらから1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これにより、RO給水の不純物を低減することができ、より良好にRO膜処理系を長期的に安定的に運転できるので、RO膜処理を行う前に前処理を行うことが好ましい。
【0070】
本実施形態における通水の条件は、RO膜分離処理に応じて適宜設定すればよいが、例えば、目標回収率、被処理水の供給水圧(MPa)、被処理水の供給pH、被処理水の供給水量(mL/min)などが挙げられる。
RO膜分離処理を長期的にかつ効率よく運転するために、目標の水回収率としては、60%程度まですることができ、好ましくは30~50%程度であり、供給水圧として、好ましくは4~8MPa程度である。
本実施形態の被処理水の供給pHは、特に限定されないが、好ましくは3.0~9.0、より好ましくは4.0~8.0、さらに好ましくは5.0~7.0である。当該pHにpH調整剤で調整してもよく、当該pH範囲により、本実施形態で使用する薬剤を効果的に使用することができ、RO膜分離処理を長期的に安定してより良好に運転できる。
【0071】
なお、本実施形態の方法を、水質を管理するための装置(例えば、コンピュータ、PLCなど)におけるCPUなどを含む制御部によって実現させることも可能である。また、本実施形態の方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリなど)、HDD、CDなど)などを備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、前記制御部によって実現させることも可能である。当該制御部によって、被処理水に薬剤を添加するように制御する膜分離処理システム若しくは水処理システム又はこれら装置を提供することも可能である。
【0072】
<2-1.本発明の実施形態の例1>
以下、本発明の実施形態の例1を
図1により説明するが、本発明はこれに限定されない。
本実施形態の例1で処理する被処理水として、例えば、海水、河川水、井戸水、湖沼水、工業用水、市水、排水、排水処理水などが挙げられる。当該被処理水には有機物を含んでいてもよく、本発明を工業排水処理などに適用することで、有機化合物を除去した処理水(例えば、再生水、純水や超純水など)を得ることもできる。また、当該被処理水には塩分を含んでいてもよく、本発明を海水淡水化などに適用することで、塩分を除去した処理水(例えば、飲料水、純水や超純水など)を得ることもできる。
【0073】
図1に、本実施形態の水処理系30を示し、本実施形態における代表的なRO膜を有するRO膜処理系31を有する水処理系30のフロー図を示す。水処理工程は、被処理水(原水)に凝集剤が凝集装置に添加される凝集処理工程32と、凝集処理水が固液分離装置にて処理される固液分離工程33と、プレフィルター処理工程34と、RO膜処理装置にて処理される逆浸透膜処理工程31とを備えるものである。そして、プレフィルター処理34を経たRO膜処理31の前に、本発明の方法である結合塩素剤を上述したように結合塩素剤による短期の間欠添加を行い、逆浸透膜の膜分離処理を行う。
【0074】
本実施形態における結合塩素剤は、RO膜処理を通過する前の被処理水に添加する。好ましくは、RO膜処理前~凝集処理後の間に添加することであり、さらに好ましくは、RO膜処理とプレフィルター処理の間に添加することである。
【0075】
RO膜処理を通過する前の被処理水に、前記結合塩素剤を添加することで、RO膜表面やRO膜分離装置(モジュール)に付着するバイオフィルム量を低減することができる。さらに、被処理水は、RO膜処理工程を経ることで、濃縮水中に含まれる有機化合物や塩分などを含む濃縮水と透過水とに分けられ、透過水を処理水として得ることができる。
【実施例】
【0076】
以下の試験例、実施例及び比較例などを挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例などに限定されるものではない。
【0077】
<試験例1及び2>
〔試験例1及び試験例2のプロトコール〕
試験例1(0.5h曝露→無添加期間)のために、コントロール、0.5h曝露→0h無添加期間(合計0.5h)、0.5h曝露→0.5h無添加期間(合計1.0h)、0.5h曝露→1.5h無添加期間(合計2.0h)、0.5h曝露→2.5h無添加期間(合計3.0h)、0.5h曝露→3.5h無添加期間(合計4.0h)、0.5h曝露→4.5h無添加期間(合計5.0h)、0.5h曝露→5.5h無添加期間(合計6.0h)、0.5h曝露→6.5h無添加期間(合計7.0h)の各6ウェルプレート(合計9セット)としを用意した。
試験例2(1h曝露→無添加期間)のためにコントロール、1h曝露→0h無添加期間(合計1.0h)、1h曝露→1h無添加期間(合計2.0h)、1h曝露→2h無添加期間(合計3.0h)、1h曝露→3h無添加期間(合計4.0h)、1h曝露→4h無添加期間(合計5.0h)、1h曝露→5h無添加期間(合計6.0h)、1h曝露→6h無添加期間(合計7.0h)の各6ウェルプレート(合計8セット)を用意した。
【0078】
そして、各プレートにある各ウェルに、5mLの海水培地(DifcoTM Marine Broth 2216)(37.4g/L)を添加した(表1参照)。1mLの微生物を含む懸濁液を、生細胞数:3×105カウント/mL(logカウント/mLは5以上)になるように、各ウェルに添加した。細菌を付着させるための、2cm×2cmのSWC5-4040膜(Nitto Denko Corporation社製:ポリアミド系)を各ウェルに入れ、海水培地に浸した。細菌付着後の6ウェルプレートを180rpmのオービタルシェーカーで37℃でインキュベートした。
【0079】
[微生物の懸濁液]
微生物の懸濁液を含む海水培地を180rpmのオービタルシェーカーで37℃でインキュベートした。細菌の一晩培養物を含有する溶液を、4500rpm、20分間で、遠心分離し、さらに10分間遠心分離するために2つのチューブを合わせた。この細菌の懸濁液を、約65mLの0.85%NaClで希釈した。この細菌を含む希釈液を、試験例1及び試験例2に使用した。
【0080】
本試験例で使用する細菌は、海水を逆浸透膜に一定期間通過させて逆浸透膜に付着したバチルス種を使用することができる。本試験例では、以下の操作にて得られたBF1株を使用した。具体的には、バッチ試験で使用されたBF1株は、シンガポール西部の生海水を用いて実験室規模の逆浸透(RO)システムを操作することによって得られた生物付着膜クーポンから抽出されたものである。このBF1株は、16SrRNA配列決定の結果に基づいて、Bacillus acidicolaとして同定された。
【0081】
【0082】
インキュベート1日後に、ウェル内の海水培地を捨て、結合塩素剤入りの海水培地に代えた。この結合塩素剤入りの海水培地は、結合塩素の濃度3mg/L(as結合塩素)になるように、結合塩素剤と海水培地と混合して調製されたものである。これにより、SWC5-4040膜を結合塩素剤入りの海水培地に浸して、曝露させた。
試験例1及び試験例2の各6ウェルプレートについて、それぞれ0.5時間曝露及び1時間曝露で行った。この曝露期間を、間欠添加給水期間とした。
【0083】
[結合塩素剤]
結合塩素剤は、次亜塩素酸ナトリウム2%(有効塩素(Cl2)濃度として)、スルファミン酸(R1及びR2=Hの狭義のスルファミン酸)8%及び水酸化ナトリウム1%を含むpH13の水溶液からなるスルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を調製し、試験例1及び試験例2に使用した。
なお、結合塩素剤を使用したときに、遊離塩素は検出限界以下となるため、被処理水中の結合塩素濃度は、被処理水中の全塩素濃度とする。
【0084】
各ウェル内において所定時間曝露させた後、各ウェル内の結合塩素剤入りの海水培地を捨て、代わりに6mLの1×PBS(Phosphate-buffered saline)を添加した。このPBSを添加した状態を、結合塩素剤の無添加の状態とし、この無添加期間を、無添加給水期間とした。各6ウェルプレートを所定期間経過させて、それぞれの間欠添加給水期間-無添加給水期間における、膜の特徴の確認を行った。
【0085】
また、試験例1及び試験例2の各コントロールとして、上述した結合塩素剤入り海水培地に代えずに、海水培地でそのままインキュベートし、PBS交換もせずにさらにインキュベートした。試験例1のコントロールでは合計7.5時間、試験例2のコントロールでは合計8時間インキュベートした。
【0086】
[膜及び懸濁液の特徴付け]
各ウェルプレートにある2×2cmの膜を取り出し、それぞれの膜を各10mLの滅菌0.85%NaCl溶液に浸し、それぞれの溶液を3分間撹拌処理した。次いでタンパク質及び細胞生存率分析のために膜表面からバイオフィルムを分離するために10秒間撹拌処理した。この操作を試験例1及び試験例2のウェルプレートごとに行い、これらを各サンプル溶液とした。
膜の特徴確認として、各サンプル溶液を用いて、細菌の生菌数、総ATP量、総タンパク質量を測定した。
【0087】
〔総タンパク質測定方法〕
細胞外多糖体中のタンパク質含量の定量化は、マイクロビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイキット(Pierce、#23235)を用いて行った。1mLのワーキング溶液(反応試薬)を、1mLのサンプル溶液に加えて混合液を得た。この混合液を20分間室温で暗所でインキュベートした。続いて、562nmでUV吸光度を測定した(A562)。この操作を、各サンプル溶液ごとに行った。
標準検量線は、ウシ血清アルブミン(BSA、Pierce)を用いた測定を用いて作成した。
【0088】
〔生菌数のカウント方法〕
生菌数(細胞生存率)はフローサイトメーター(BD Biosciences、USA)を用いて定量した。1mLのサンプル溶液をそれぞれ1μLのSYTO(R)9色素及びPI(Propidium iodide)色素(LIVE/DEAD(R) BacLightTM Bacterial Viability Kit:Molecular Probes、米国)で染色した。なお、これらの色素の最大励起/発光波長は、SYTO(R)9色素では480/500nmであり、PI色素では490/635nmである。サンプル溶液を、フローサイトメトリー分析のために平底ウェルプレートに移した(未染色サンプルを対照として)。独自のソフトウェア(CSampler、BD、USA)を使用して結果を処理した。密度プロットの定義された領域内のカウントを生細胞と死細胞に変換した。この操作を、各サンプル溶液ごとに行った。
【0089】
〔総ATP測定方法〕
バイオフィルムを、綿棒を使用して2×2cm片の膜から抽出し、10mLのMilliQ水に2分間浸した。抽出されたバイオフィルムのATPは、キッコーマンのATPアッセイキット及びルミテスター(Lumitester C-110:キッコーマン、日本)を使用して測定された。
【0090】
<試験結果>
試験例1の0.5時間の薬剤曝露のときの「総タンパク質量」、「生菌数(count)」、「総ATP量」の測定結果を、それぞれ表2、表3及び表4に示し、これらの結果を
図2に示す。また、試験例2の1時間の薬剤曝露のときの、「総タンパク質量」の測定結果を、表5に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
バイオフィルム中に微生物が存在する逆浸透膜において、表2~4及び
図2に示すように、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を使用して0.5時間曝露し次いで薬剤無添加の状態で0.5~6.0時間経過させた場合、総タンパク質量及び微生物の生菌数は、当初0時間(コントロール)との相対比において、大幅に下回っており、微生物の活性を非常に効率よく抑制することができた。また、総ATP量は、通常、増殖率の増加やその後の代謝産物の生産量の増加の前に急激に増えやすい。
また、表5に示すように、スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を使用して1.0時間曝露し次いで薬剤無添加の状態で1.0~6.0時間経過させた場合、総タンパク質量は、当初0時間(コントロール)との相対比において、大幅に下回っており、微生物の活性を非常に効率よく抑制することができた。
このため、本試験例1及び2において、0.5~1時間曝露し次いで薬剤無添加の状態で6.5時間又は6時間付近から急激に上昇するため、薬剤無添加の状態が6時間までであれば、微生物の活性を効率よく抑制することができると考えた。このように本試験例1及び2において、0.5~1時間曝露し次いで薬剤無添加の状態で0.5~6.0時間経過させた場合、微生物の活性を抑制することができ、バイオフィルムの形成も抑制することができることが裏付けられた。
【0096】
従来は、微生物が形成したバイオフィルムの剥離に着目していたため、無添加期間を長くする方が、逆浸透膜分離において、より長期的に安定して水処理を継続できると考えられていた。これに対し、本発明者は、微生物を一旦増殖させて活性化させた後に試験を行った結果(すなわち、微生物の活性に着目した結果)、逆浸透膜分離において、長期的に安定して水処理を継続する場合に、短期間の間欠添加方法があることを新たに見出した。
【0097】
また、本件試験例1及び2の効果やコスト面なども鑑みると、曝露期間は0.25~5時間が良好と考える。このことから、1サイクルの時間は、1.25~11時間が良好と考え、さらに好ましくは1.5時間~7時間が好適である。
このように結合塩素剤による短期の間欠添加を行うことによって、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制させることができた。このことから、逆浸透膜分離において、本発明の短期の間欠添加条件を用いることで、長期的に安定して水処理を持続できる。
【0098】
被処理水中の前記結合塩素剤の平均濃度は、培地中の結合塩素の濃度3mg/L(as 結合塩素)×曝露期間(h)/1サイクル期間(h)にて算出した。
培地中の結合塩素濃度3mg/L(as 結合塩素)にて曝露を行ったので、曝露期間0.5h及び無添加期間1~6hを1サイクルとしたときに、被処理水中の前記結合塩素剤の平均濃度は、当該1サイクル当たり、無添加期間が1h、2h、3h、4h、5h、6hの場合、それぞれ、1.00、0.60、0.42、0.33、0.27、0.23mg/L(as 結合塩素)であった。
また、培地中の結合塩素濃度3mg/L(as 結合塩素)にて曝露を行ったので、曝露期間1h及び無添加期間1~6hを1サイクルとしたときに、被処理水中の前記結合塩素剤の平均濃度は、当該1サイクル当たり、無添加期間が1h、2h、3h、4h、5h、6hの場合、それぞれ、1.50、1.00、0.75、0.60、0.50、0.43mg/L(as 結合塩素)であった。
このことから、被処理水中の前記結合塩素剤の平均濃度は、当該1サイクル当たり、0.05~1.5mg/L(as 結合塩素)が適切と考え、さらに0.1~1.0mg/L(as 結合塩素)が好ましく、より0.2~1.0mg/L(as 結合塩素)が好ましい。
【0099】
また、曝露期間における培地中のアルカリ金属成分に対する塩素系酸化剤の組成比は、Cl/アルカリ金属(モル比)で、2×10-5~1×10-3であったので、この範囲が良好と考える
また、曝露期間における培地中のBrとClの比率が、Br/Cl(モル比)で5×10-3以下であったので、この範囲が良好と考える。
また、試験開始前の培地中の生菌数は3×105カウント/mLであったので、生菌数(logカウント/mL)は5までは良好に本発明の効果を発揮することができ、さらに被処理水中の生菌数(logカウント/mL)が4以下や3以下、又はさらに3未満の微生物に対して本発明を行うことで、本発明の効果をよりよく発揮することができると考える。
【0100】
<参考試験例3及び試験例4>
以下のパイロットプラントの実験条件にて、参考試験例3及び試験例4を行った。参考試験例3及び試験例4で使用した結合塩素剤は、上述の試験例1及び試験例2で使用した結合塩素剤と同じものを使用した。また、当該結合塩素剤は、遊離塩素濃度は検出限界以下のため、被処理水中の結合塩素濃度=被処理水中の全塩素濃度とする。
【0101】
装置構成は、
図3に示すとおりである。
夾雑物を除去した海水をUF膜処理で処理した被処理水を原水として、原水貯留タンク51に貯留する。この原水は原水貯留タンク51から供給タンク52に流れる。原水貯留タンク51及び供給タンク52の間の流路に、SBSを、バイオファウリングを防止する目的で、T-Cl
2(全塩素濃度)<0.1mg/L及びORP<300mVになるように添加する。SBS処理された原水を、供給タンク52からプレフィルタ(3μm)53にポンプにて移送する。供給タンク52とプレフィルタ53の間の流路に、スケール防止用分散剤(SD)を添加すると共に、同時又は別々に、結合塩素剤(CCA)を、下記の<結合塩素添加条件>にて添加する。その処理後の原水を、プレフィルター(3μm)53で、膜処理を行う。プレフィルタ処理後の原水を、逆浸透膜装置(SWRO、4inch、4エレメント、Nitto SWC5)54にポンプにて移送する。移送された原水を、逆浸透膜装置54にて、Flux=0.35m/dとなるように、処理する。原水は、RO膜処理後に、透過水(淡水)及び排水(濃縮水)とに分かれる。
【0102】
原水(UF Permeate)として、夾雑物を除去した海水をUF膜で処理したものを使用する。この原水は、凝集剤を添加せずに、UF膜装置などのバイオファウリングを防止する目的で次亜塩素酸ナトリウムを添加して処理されている。
SD:スケール分散剤(スケール防止用)(Scale dispersant:SD)として、クリバーターN300(栗田工業社製)を使用する。
CCA:スルファミン酸化合物を含む結合塩素剤(Conbined chlorine agent:CCA)を使用し、この結合塩素剤を、間欠添加給水期間に被処理水中に「as結合塩素」の濃度になるように添加する。
なお、使用する結合塩素剤は、被処理水中に添加した後の検出で、遊離塩素が検出限界以下となるため、被処理水中の結合塩素濃度は、被処理水中の全塩素濃度とする。
SBS:亜硫酸水素ナトリウム(SBS)は、原海水の殺菌のために添加した次亜塩素酸ナトリウムを低減させるために使用する。
【0103】
用いる膜:日東電工SWC5-4040、芳香族ポリアミドRO膜。
膜面流速:0.063m/sec。
回収率:45%。
原水:海水。
温度:30~35℃。
pH:7~8。
【0104】
<結合塩素剤添加の条件:間欠添加給水及び無添加給水条件>
以下の第一ステップ~第五ステップの順に水処理の運転を行った。
図4に示すように、前半部分(第二ステップ及び第三ステップ)で、間欠添加給水期間(1h;結合塩素剤添加量1.2~2.4mg/L as結合塩素)及び無添加給水期間(7h)の間欠添加条件で運転を行い、これを参考試験例3とする。後半部分(第四ステップ及び第五ステップ)で、本発明の短期間の間欠添加条件、具体的には、間欠添加給水期間(0.5h;結合塩素剤添加量2.4~1.8mg/L as結合塩素)及び無添加給水期間(3.5h)で運転を行い、これを試験例4とする。
【0105】
第一ステップ:結合塩素剤を、被処理水中の結合塩素濃度0.48~0.6mg/Lの条件で、2週間、連続添加した。
第二ステップ:次いで、添加給水期間1h(結合塩素剤の添加量:被処理水中の結合塩素濃度 1.2mg/L)及び無添加給水期間7hの1サイクルを繰り返して行う条件で、5月7日~5月23日の間、水処理の運転を行った。
第三ステップ:さらに添加給水期間1h(結合塩素剤の添加量:被処理水中の結合塩素濃度 2.4mg/L)及び無添加給水期間7hの1サイクルを繰り返して行う条件で、5月24日~5月27日の間、水処理の運転を行った。
第四ステップ:さらに、本発明に該当する添加給水期間0.5h(結合塩素剤の添加量:被処理水中の結合塩素濃度 2.4mg/L)及び無添加給水期間3.5hの1サイクルを繰り返して行う条件で、5月27日~6月18日の間、水処理の運転を行った。
第五ステップ:さらに、本発明に該当する添加給水期間0.5h(結合塩素剤の添加量:被処理水中の結合塩素濃度 1.8mg/L)及び無添加給水期間3.5hの1サイクルを繰り返して行う条件で、6月19日~6月30日の間、水処理の運転を行った。
【0106】
<試験結果>
図4に、水系でのRO膜圧の変化を示す。前半部分の参考試験例3(第二ステップ~第三ステップ)は、特許文献3の間欠添加条件に該当する。後半部分は、本発明に該当する試験例4(第四ステップ~第五ステップ)である。
第二ステップ開始5月7日:膜圧 delta pressure 0.107Mpa、第三ステップ終了5月27日:膜圧 delta pressure 0.165Mpaで、運転日数20日間。
第二ステップ開始~第三ステップ終了までの傾きは、0.0029MPa/1日であった。
第四ステップ開始5月28日:膜圧 delta pressure 0.165Mpa、第五ステップ終了6月30日:膜圧 delta pressure 0.210Mpa、で、運転日数33日間。
第四ステップ開始~第五ステップ終了までの傾きは、0.0014MPa/1日であった。
【0107】
パイロットプラントの逆浸透膜系において、参考試験例3でも膜圧を良好に抑えることができているが、この参考試験例3の膜圧変化の傾きと、本発明に該当する試験例4の傾きを対比すると、参考試験例3の傾きと対比して試験例4の傾きが約半分以下になった。この膜圧の変化の傾きが小さくなるほど、逆浸透膜処理において長期的に安定して水処理を持続できるので、本発明は特許文献3の間欠添加条件の方法と比較しても、長期的に安定して水処理を継続する観点において、際立って非常に優れている効果を有することが裏付けられた。また、本発明の短期間の間欠添加条件は、試験例1及び2に示すように、バイオフィルム中の微生物の活性を良好に抑制することができる条件である。
このようなことから、本発明は、バイオフィルム中の微生物の活性を抑制しつつ、従来の方法よりも格別顕著な効果を有し、長期的に安定して逆浸透膜分離の水処理を継続できる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、逆浸透膜などの透過膜を備えた膜分離装置に被処理水を供給して膜分離する方法に利用可能である。本発明は、特に膜分離装置の給水にスルファミン酸化合物を含む結合塩素剤を短期の間欠添加条件にて添加することで、バイオフィルム中の微生物活性を抑制しつつ、長期的に安定して水処理を継続できるようにした膜分離方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0109】
30 水処理系;31 RO膜処理装置(RO膜処理工程);32 凝集装置(凝集処理工程);33 固液分離装置(固液分離処理工程);34 MF膜装置(プレフィルター処理工程);50 水処理系;51 UF透過タンク;52供給タンク;53 プレフィルター; 54 RO膜処理装置;P ポンプ;SBS 亜硫酸水素ナトリウム;SD スケール分散剤;CCA 結合塩素剤