(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】チタン層またはチタン含有層のエッチング液組成物およびエッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20230202BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20230202BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20230202BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
H01L21/308 F
H01L29/78 618B
H01L29/78 616K
H01L29/78 627C
H01L21/28 E
H01L21/28 301R
H01L21/28 301B
(21)【出願番号】P 2019510243
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013603
(87)【国際公開番号】W WO2018181896
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2017071076
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遼
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 大雅
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-505990(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066750(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/002272(WO,A1)
【文献】特表2017-502491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
H01L 29/786
H01L 21/336
H01L 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウムイオンを含む化合物、過酸化水素および塩基性化合物を含み、
リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンをさらに含み、
pHが7~11である、
酸化物半導体上のチタン層またはチタン含有層をエッチングするためのエッチング液組成物。
【請求項2】
アミノカルボン酸および/またはカルボン酸をさらに含む、請求項
1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
銅防食剤をさらに含む、請求項1
または2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
アンモニウムイオンの濃度が0.01~1.00mol/Lである、請求項1~
3のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
アンモニウムイオンを含む化合物が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、コハク酸アンモニウムおよびアンモニアからなる群から選択される1種または2種以上の化合物である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
アンモニウムイオンを含む化合物が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムおよびコハク酸アンモニウムからなる群から選択される1種または2種以上の化合物である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項7】
塩基性化合物が、無機アルカリ化合物、4級アミン水酸化物およびアミンからなる群から選択される、請求項1~
6のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項8】
リン原子含有のオキソ酸またはそのイオンの濃度が0.0001~1.0mol/Lである、請求項
1~
7のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項9】
リン原子含有のオキソ酸またはそのイオンが、リン酸、ホスホン酸、多座ホスホン酸、ホスフィン酸、亜リン酸およびそれらの誘導体から選択される1種または2種以上の化合物またはその遊離したイオンである、請求項
1~
8のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項10】
アンモニウムイオンを含む化合物0.1~40質量%、過酸化水素5~30質量%および塩基性化合物0.1~50質量%を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項11】
酸化物半導体が、インジウム、ガリウム、亜鉛を主成分とする金属酸化物(IGZO)、インジウム、亜鉛を主成分とする金属酸化物(IZO)およびガリウム、亜鉛を主成分とする金属酸化物(GZO)からなる群から選択される、請求項1~
10のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項12】
酸化物半導体上のチタン層またはチタン含有層を、請求項1~
11のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いてエッチングする工程を含む、チタン層またはチタン含有層のエッチング方法。
【請求項13】
請求項1~
11のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いて酸化物半導体上のチタン層またはチタン含有層をエッチングする工程を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体層上に形成されたチタン層またはチタン含有層を選択的にエッチング処理するためのチタンまたはチタン含有層エッチング液組成物および該エッチング液組成物を用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のスイッチ素子等に用いられる薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下、「TFT」ともいう)は、一般的に、ガラス等の基板上のゲート電極およびそれを覆うゲート絶縁膜、および、同ゲート絶縁膜上の一部に形成された半導体層を備え、そして同半導体層と前記ゲート絶縁膜の両方の上にソース電極またはドレイン電極が形成された構造を有する。このような構造はBottom Gate Top Contact型(以下BGTC型、逆スタガ型)と呼ばれ、アモルファスシリコンを半導体層に用いたTFTの中で広く用いられる構造である。アモルファスシリコンを用いたTFT製造ラインや装置を転用できることから酸化物半導体を半導体層に用いたTFTを製造するうえで最も盛んに検討が行われている。また、ゲート電極が上部に位置するTop Gate Top Contact型(TGTC型、コープレーナー型)TFTも従来から使用されている。
【0003】
ソース電極またはドレイン電極の配線材料としては、銅やアルミニウムなどが用いられる。電極形成は、配線材料のエッチングによって行われるが、最近では、配線材料の保護およびゲート絶縁膜との密着性向上、マイグレーション防止のため、チタンまたはチタン合金と配線材料とを積層膜にして成膜した後に、エッチングされている。
【0004】
TFTは、これまで半導体層の材料面からみて、多結晶シリコンを用いたTFTおよびアモルファスシリコンを用いたTFTが広く用いられてきた。しかし、近年IGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛から構成される酸化物)等の酸化物半導体を半導体層に用いたTFTが注目を集めている。
【0005】
酸化物半導体を用いたTFTは、これまでのTFTに比べ、電子移動度が高く、また消費電力が低減できるなどの優れた特性を有する。しかしながら、酸化物半導体は多結晶シリコンおよびアモルファスシリコンと比べると、エッチングの際にエッチング対象の電極材料との選択が取れないため加工が難しい。
【0006】
BGTC型TFTにおいては、電極形成の方法に関連して、エッチストップレイヤー(ESL)型(
図1)およびバックチャネルエッチ(BCE)型(
図2)に分けることができる。エッチストップレイヤー型は、半導体層と電極の間にエッチストップレイヤーと呼ばれる層を追加で形成し、これによりエッチングによる半導体層へのダメージを防ぐものであるが、工程が煩雑になりコストがかかる。一方、バックチャネルエッチ型は、エッチストップレイヤーを形成しない方法であるが、酸化物半導体にダメージを与えうるため、エッチング方法が制限される。
【0007】
チタンまたはチタン合金のエッチングは、通常、ドライエッチングまたはウェットエッチングで行われるが、ドライエッチングは設備費が高く、エッチストップレイヤー型でないと半導体層へのダメージを回避することができない。一方、ウェットエッチングはコストを抑え、大量生産が可能になる。
しかしながら、チタンまたはチタン合金の下地の酸化物半導体がエッチングによるダメージを受けやすいため、酸化物半導体層上の電極形成は、ほとんどがエッチストップレイヤー型で行われているのが現状である。特許文献1にはIGZO上の銅のエッチング液として、過酸化水素、フッ素を含有しない酸、ホスホン酸系化合物を含むエッチング液が記載されているが、チタンエッチングについては全く検討されていない。また、特許文献2にはIGZO上の銅のエッチング液として、過酸化水素、酸、フッ素イオン供給源、メチレンスルホン酸系化合物、過酸化水素安定剤を含むエッチング液が記載され、チタンのエッチングについても検討されているが、該エッチング液はpHを5以下とする酸性のエッチング液である。
【0008】
一方、チタン、チタン含有金属化合物またはチタン合金のエッチング液としては、従来、フッ素イオンを含む酸性のエッチング液および過酸化水素を含むエッチング液が知られている。
過酸化水素を含むチタンまたはチタン合金のエッチング液としては、過酸化水素、有機アミン系塩基性化合物および水溶性有機溶媒を含むエッチング液(特許文献3)、過酸化水素、キレート剤およびアンモニアまたは無機酸塩を含むエッチング液(特許文献4)、過酸化水素、有機酸塩および水を含むエッチング液(特許文献5)過酸化水素、アンモニア化合物および表面均一化剤を含むエッチング液(特許文献6)、過酸化水素、含窒素ホスホン酸系キレート剤、アルカリ金属水酸化物および有機酸を含むエッチング液(特許文献7)、過酸化水素、ヒドロキシル基含有ホスホン酸、塩基性化合物および無機酸由来のアニオン種を含むエッチング液(特許文献8)、過酸化水素、ケイ酸アルカリ金属塩またはビスホスホネート、および塩基性化合物を含むエッチング液(特許文献9)、過酸化水素、ヒドロキシル基含有ホスホン酸、塩基性化合物、アニオン種および銅防食剤を含むエッチング液(特許文献10)および過酸化水素、リン酸、ホスホン酸およびアンモニアを含むエッチング液(特許文献11)が提案されている。
しかしながら、いずれの文献においても酸化物半導体層上に形成されたチタン、チタン含有金属化合物またはチタン合金を選択的にエッチングすることについては全く検討されていない。また、特許文献7~11に記載されているホスホン酸、ビスホスホネート、リン酸は、キレート剤として過酸化水素の安定性向上のために添加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-108659
【文献】特開2016-111342
【文献】特開2013-33942
【文献】特開2002-155382
【文献】国際公開番号WO2010/029867号公報
【文献】特開2014-107434
【文献】国際公開番号WO2015/002272号公報
【文献】特許5344051
【文献】特開2016-27186
【文献】国際公開WO2009/081884号公報
【文献】特許4471094
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記従来の問題に鑑み、酸化物半導体層上に形成されたチタン層またはチタン含有層を、酸化物半導体層へのダメージを抑制してエッチングするエッチング液および当該エッチング液を用いたエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を行う中で、従来から使用されているチタン層またはチタン含有層用のエッチング液では、酸化物半導体層に無視できないダメージを与えるなどの問題に直面した。また酸化物半導体層にダメージをあたえないpH領域ではTiに対して十分なエッチングレートが得られなかった。かかる問題を解決すべく、鋭意検討を重ねたところ、過酸化水素を含むエッチング液のpHを、アンモニウムイオンおよび塩基性化合物の存在下で調整することにより、チタンのエッチングレートを保持し、かつ、酸化物半導体層へのダメージを抑制することができることを見出し、また、リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオン、および/または、アミノカルボン酸および/またはカルボン酸を添加することにより、酸化物半導体層へのダメージをより抑制することができることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] アンモニウムイオンを含む化合物、過酸化水素および塩基性化合物を含み、pHが7~11である、酸化物半導体上のチタン層またはチタン含有層をエッチングするためのエッチング液組成物。
[2] リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンをさらに含む、[1]に記載のエッチング液組成物。
[3] アミノカルボン酸および/またはカルボン酸をさらに含む、[1]または[2]に記載のエッチング液組成物。
[4] 銅防食剤をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【0013】
[5] アンモニウムイオンの濃度が0.01~1.00mol/Lである、[1]~[4]に記載のエッチング液組成物。
[6] アンモニウムイオンを含む化合物が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、コハク酸アンモニウムおよびアンモニアからなる群から選択される1種または2種以上の化合物である、[1]~[5]に記載のエッチング液組成物。
[7] アンモニウムイオンを含む化合物が、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムおよびコハク酸アンモニウムからなる群から選択される1種または2種以上の化合物である、[1]~[6]のいずれかに記載のエッチング液組成物。
[8] 塩基性化合物が、無機アルカリ化合物、4級アミン水酸化物およびアミンからなる群から選択される、[1]~[7]のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【0014】
[9] リン原子含有のオキソ酸またはそのイオンの濃度が0.0001~1.0mol/Lである、[2]~[8]のいずれかに記載のエッチング液組成物。
[10] リン原子含有のオキソ酸またはそのイオンが、リン酸、ホスホン酸、多座ホスホン酸、ホスフィン酸、亜リン酸およびそれらの誘導体から選択される1種または2種以上の化合物またはその遊離したイオンである、[2]~[9]のいずれかに記載のエッチング液組成物。
[11] アンモニウムイオンを含む化合物0.1~40質量%、過酸化水素5~30質量%および塩基性化合物を0.05~50質量%を含む、[1]~[10]のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【0015】
[12] 酸化物半導体が、インジウム、ガリウム、亜鉛を主成分とする金属酸化物(IGZO)、インジウム、亜鉛を主成分とする金属酸化物(IZO)およびガリウム、亜鉛を主成分とする金属酸化物(GZO)からなる群から選択される、[1]~[11]のいずれかに記載のエッチング液組成物。
[13] 酸化物半導体上のチタン層またはチタン含有層を、[1]~[12]のいずれかに記載のエッチング液組成物を用いてエッチングする工程を含む、チタン層またはチタン含有層のエッチング方法。
[14] [1]~[12]のいずれかに記載のエッチング液組成物を用いて酸化物半導体上のチタン層またはチタン含有層をエッチングする工程を含む、薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化物半導体層上に形成されたチタン層またはチタン含有層を、酸化物半導体層へのダメージを抑制して、エッチング処理することが可能なエッチング液組成物および当該エッチング液組成物を用いたエッチング方法を提供することができる。
【0017】
特に、本発明のエッチング方法によれば、アンモニウムイオンおよび塩基性化合物の存在下、pH7~11で過酸化水素を作用させることにより、酸化物半導体層へのダメージを抑制し、かつ、十分なエッチング速度でチタンをエッチングすることができる。したがって、IGZOなどの酸化物半導体層上のチタン層またはチタン含有層を、これまで不可能であったバックチャネルエッチ型でエッチングすることができ、大幅なコスト削減が可能になる。
【0018】
さらに、本発明のエッチング方法によれば、アンモニウムイオンおよび塩基性化合物の存在下、pH7~11で過酸化水素を作用させることに加えて、リン原子含有オキソ酸および/またはそのイオン、および/または、アミノカルボン酸および/またはカルボン酸を添加することにより、十分なエッチング速度でチタンをエッチングしつつ、酸化物半導体層へのダメージをより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、エッチストップレイヤー(ESL)型TFTの構造を示す図である。
【
図2】
図2は、バックチャネルエッチ(BCE)型TFTの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、本発明の好適な実施態様に基づき、詳細に説明する。
本発明のエッチング液組成物は、酸化物半導体上のチタン層またはチタン含有層を選択的にエッチングするために用いられるエッチング液組成物である。
【0021】
酸化物半導体層は、主にインジウム、ガリウム、亜鉛および錫等を含む材料から構成され、具体例としてはインジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(IGZO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、ガリウム・亜鉛酸化物(GZO)などが挙げられるが、この限りではない。本発明において、好ましい酸化物半導体層は、IGZOである。
【0022】
本発明において、チタン層およびチタン含有層は酸化物半導体上にスパッタリングなどによって、形成され得る。本明細書において、チタン層はチタンからなる層のことをいう。チタン含有層としては、例えばTiW、TiMoなどのTi合金層およびTiNなどのTiを主成分とする金属化合物の層が挙げられる。
【0023】
本発明のエッチング液組成物は、アンモニウムイオンを含む化合物、過酸化水素および塩基性化合物を含む。
アンモニウムイオンを含む化合物は、溶液中でアンモニウムイオン(NH4
+)を遊離することができる化合物であれば特に限定されないが、アンモニアおよびアンモニウム塩が好ましい。特にアンモニウム塩は、緩衝作用も期待でき、溶液のpHの変動を抑えることができるため好ましい。アンモニウム塩としてアンモニウムの無機酸塩および有機酸塩を含むことができる。アンモニウム塩としては、これに限定されるものではないが、例えば、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、コハク酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。特に、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムおよびコハク酸アンモニウムは、酸化物半導体層へのダメージ性が低く好ましい。ここで示すアンモニウム塩はアンモニウムイオンと陰イオンのみからなる塩だけでなく、アンモニウムイオンと陰イオン以外のイオンを有するものも含む。例として、リン酸アンモウムはリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムを含む。一般的に、各種有機酸溶液はITOなどの透明導電膜を溶解することが知られているが、このような知見に反し、有機酸のアンモニウム塩を含む本発明のエッチング液組成物はIGZOなどの酸化物半導体層へのダメージ性が低い。
【0024】
アンモニウムイオンを含む化合物は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。炭酸アンモニウムは他のアンモニウム塩と比較するとダメージ抑制効果が小さい。したがって、本発明は一態様において、炭酸アンモニウムを含まない。
アンモニウムイオンを含む化合物の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1~10質量%、特に好ましくは0.5~5質量%である。好ましくはアンモニウムイオン換算で0.01mol/L以上、より好ましくは0.01~1.00mol/L、特に好ましくは0.05~0.8mol/Lである。アンモニウムイオンを含む化合物の濃度を大きくすることによって、チタンのエッチング速度を増加することができるが、一方同じpHでもアンモニウムイオン濃度が大きくなると、IGZOのダメージが徐々に増加する傾向がある。したがって、エッチング液中のアンモニウムイオンの濃度は1.00mol/L以下が特に好ましい。選択比を大きくする観点からはアンモニウムイオン濃度がより低い方が好ましい。
【0025】
本発明のエッチング液組成物が含む塩基性化合物としては、限定されるものではないが、無機アルカリ化合物、4級アミン水酸化物、アミン(第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンおよび第4級アミン)などが挙げられる。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、アミノメタノール、トリエタノールアミンおよびコリンなどが挙げられる。
TFT製造用途の観点から、4級アミン水酸化物およびアミンが好ましい。
塩基性化合物の含有量は、本発明のエッチング液組成物のpHを11よりも大きくしない限りにおいて、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05~50.0質量%であり、より好ましくは0.1~15質量%である。アンモニアは、pHを比較的大きく変動する効果を有するため塩基性化合物としても作用する。例えばアンモニウムイオンを含む化合物として、アンモニウム塩を含む本発明のエッチング液組成物において、アンモニアを塩基性化合物として一緒に用いることもできる。この場合には、アンモニウムイオン濃度は、両者の総濃度を考慮する必要がある。
【0026】
本発明のエッチング液組成物に含まれる過酸化水素の含有量は、チタン層およびチタン含有層の種類、膜厚および目的とする選択比等により適宜調節されるためものであり、特に限定されないが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5.0~30.0質量%であり、より好ましくは10~25質量%である。
本発明のエッチング液組成物は、一態様において、アンモニウムイオンを含む化合物0.1~40質量%、過酸化水素5~30質量%および塩基性化合物を0.1~50質量%を含む。
【0027】
本発明のエッチング液組成物は、リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンをさらに含んでもよい。リン原子含有のオキソ酸のイオンは、リン原子含有のオキソ酸から遊離したイオンである。リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンを含むことで、酸化物半導体層へのダメージをより抑制することができる。リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンが酸化物半導体層のダメージを抑制する理由は必ずしも明らかではないが、リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンの酸素原子が酸化物半導体基板表面に対し吸着するためであると考えられる。
リン原子含有のオキソ酸としては、限定されるものではないが、リン酸、ホスホン酸、多座ホスホン酸、ホスフィン酸、亜リン酸およびそれらの誘導体などが挙げられる。ホスホン酸の具体的な例として、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)およびニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(ATMP)、アレンドロン酸、フェニルホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)などが挙げられる。リン原子含有のオキソ酸の誘導体としては、リン酸エステルやホスホン酸エステルがあり、リン酸トリエチルやフェニルホスホン酸ジメチルなどが挙げられる。特に、リン酸、HEDPおよびATMPは、酸化物半導体層へのダメージ性が低く好ましい。また、多座ホスホン酸の具体例としてビスホスホネートが挙げられる。多座ホスホン酸は、キレート剤としても作用し、過酸化水素の分解を抑制する効果がある。
【0028】
なお、リン原子含有のオキソ酸は、前記の任意のアンモニウム塩にリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ビスホスホネート、亜リン酸およびそれらの誘導体などを添加したものでもよい。例えば、限定されるものではないが、リン酸二水素アンモニウムやリン酸三アンモニウムなどが挙げられる。アンモニウムイオンを含む化合物にリン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンを別途添加した場合と同様の酸化物半導体層へのダメージ抑制効果が得られる。
リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
リン原子含有のオキソ酸および/またはそのイオンの含有量は、特に限定されないが、好ましくは1.0mol/L以下、より好ましくは0.75mol/L以下、更に好ましくは0.0001~0.5mol/Lである。
【0029】
本発明のエッチング液組成物は、アミノカルボン酸および/またはカルボン酸をさらに含んでもよい。アミノカルボン酸および/またはカルボン酸を含むことで、酸化物半導体層へのダメージをより抑制することができる。
アミノカルボン酸としては、限定されるものではないが、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(cyDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミンテトラプロピオン酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3-ジアミノ-ヒドロキシプロパン-N,N,N’、N’-四酢酸、プロピレンジアミン四酢酸、ブチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミンプロピオン酸、1,6-ヘキサメチレンジアミン-N,N,N’、N’-四酢酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N-二酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン四酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、(ヒドロキシエチル)エチレン-ジアミン三酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、グルタミン酸二酢酸およびヒドロキシエチレンジアミン三酢酸などが挙げられる。特に、cyDTAおよびEDTAは、酸化物半導体層へのダメージ性が低く好ましい。
アミノカルボン酸の添加量は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0030】
カルボン酸としては、限定されるものではないが、コハク酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、ジグリコール酸、ピルビン酸、マロン酸、酪酸、ヒドロキシ酢酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、吉草酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、カプロン酸、クエン酸、プロパントリカルボン酸、トランス-アコノット酸、エナント酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、トルイル酸、安息香酸、5-ベンゾトリアゾールカルボン酸、1,3-アセトンジカルボン酸、アセチル安息香酸、ニコチン酸およびピコリン酸などが挙げられる。特に、コハク酸は、酸化物半導体層へのダメージ性が低く好ましい。
カルボン酸の添加量は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005~5質量%、更に好ましくは0.01~3質量%である。
酸化物半導体層へのダメージを抑制する効果をより発揮させるという観点からは、アミノカルボン酸および/またはカルボン酸を含むエッチング液組成物を50℃以上で用いることが好ましい。
【0031】
アミノカルボン酸および/またはカルボン酸は、キレート剤としても作用するため、酸化物半導体層へのダメージ抑制効果だけでなく、液安定性を向上させる効果がある。特にTFTの電極作製の際に、配線材料の下地として使用されたチタン層またはチタン含有層をエッチングする場合には、配線材料である銅、アルミニウムなどの金属がエッチング液中に溶解する場合がある。エッチング液中の金属イオンは過酸化水素の分解を触媒的に速めることがあり、液の安定性を低下させる恐れがある。これらの配線材料金属およびエッチングで生じるチタンまたはチタン含有層の残渣の金属イオンをアミノカルボン酸および/またはカルボン酸(キレート剤)と配位させることによって、過酸化水素の分解を抑制し、液の安定性を高めることができる。同様の効果を期待して、本発明のエッチング液組成物はアミノカルボン酸および/またはカルボン酸とは異なる他のキレート剤をさらに含んでもよい。他のキレート剤としては、例えばエチレンジアミン、ビピリジンおよびグルコン酸などが挙げられる。
【0032】
本発明のエッチング液組成物は、銅防食剤をさらに含んでもよい。銅防食剤としては、限定されるものではないが、5-アミノ-1H-テトラゾール(ATZ)、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(ATA)、トリアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール(BTA)、アデニン、グアニン、5-フェニルテトラゾールおよび5-メルカプト-1-メチルテトラゾールなどの含窒素環化合物が挙げられる。
【0033】
本発明のエッチング液組成物は、溶媒を含む。溶媒は水、メタノールやイソプロパノールなどの有機溶媒などを用いることができる。
エッチング液組成物中における水の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、50~95質量%であり、より好ましくは、70~85質量%である。また、エッチング液組成物を構成する媒体は、他の成分を含んでいてもよいが、水を主成分とすることが好ましい。このような場合、エッチング液組成物を構成する媒体中における水の含有率は、80質量%以上であり、さらに好ましくは、90質量%以上である。
【0034】
本発明のエッチング液組成物のpHは7~11である。このpH範囲であれば、酸化物半導体層へのダメージを抑制して、かつ、チタンのエッチング速度が速いという、極めて優れたエッチングを達成することができる。pHが7より小さい場合、チタンに対して十分なエッチング速度を持たない、もしくは酸化物半導体層へのダメージが増加する。pHが11より大きい場合には、酸化物半導体層へのダメージが増加する。また、pHが高い場合は過酸化水素の分解が速くなり、チタンに対して安定したエッチング速度が得られないことがある。最も選択比が高いという点から、pH8.0~9.0が好ましい。
【0035】
本発明のエッチング液組成物のpHは、アンモニウムイオンを含む化合物、過酸化水素および塩基性化合物の量をそれぞれ適宜調節して、pH7~11の範囲にすることができる。操作性の容易さから、塩基性化合物の量で調節するのが好ましい。pHの調整には、種々の無機酸、有機酸およびそれらの塩などを用いてもよい。
【0036】
本発明のエッチング液組成物は、チタン層またはチタン含有層をエッチング処理することを妨げない限り、上述の成分のほか、任意の成分を含むことが可能である。本発明において使用することができる任意の成分としては、例えば、界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤を添加することによって、ぬれ性の向上や面内均一性向上の効果が得られる。界面活性剤としては、例えばカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0037】
本発明のエッチング液組成物は、一態様において、フッ素含有化合物を含まないことが好ましい。フッ素含有化合物は酸化物半導体層へダメージを与える場合がある。
【0038】
上述のとおり、本発明のエッチング液組成物は、酸化物半導体層上の少なくとも1層のチタン層またはチタン含有層をエッチングするために用いるため、チタン層またはチタン含有層と、酸化物半導体層との選択比は大きいほどよく、好ましくは10以上、より好ましくは30以上、特に好ましくは50以上である。
【0039】
本明細書におけるエッチング液組成物のエッチング速度(nm/min)は、処理時間(分)あたりの膜のエッチング量(nm)として定義される。本発明のエッチング液組成物のエッチング速度は特に限定されないが、エッチング液組成物がアンモニウムイオンを含む化合物、過酸化水素および塩基性化合物を含む場合、チタン層およびチタン含有層に対して、測定温度が30℃および35℃の条件下で、10~100nm/minの範囲にあることが好ましく、20~85nm/minの範囲にあることがより好ましく、25~75nm/minの範囲にあることがさらに好ましい。また、測定温度が50℃の条件下では、10~250nm/minの範囲にあることが好ましく、20~200nm/minの範囲にあることがより好ましく、30~150nm/minの範囲にあることがさらに好ましい。
【0040】
チタン層およびチタン含有層のエッチング速度は、チタン層およびチタン含有層の厚さや膜質に対応して、調節することができる。例えば、本発明のエッチング液組成物の組成およびエッチングを行う温度の少なくとも一つを適宜調整することにより、調節することができる。
【0041】
本発明は、一態様において、上述したエッチング液組成物を用いて、酸化物半導体層上のチタン層またはチタン含有層をエッチングする、エッチング方法に関する。
エッチングにおけるエッチング組成物の温度は、特に限定されないが、好ましくは25℃以上である。過酸化水素の安定性および安定したエッチングを行うという観点から、より好ましくは30~50℃、さらに好ましくは30~40℃である。
【0042】
本発明のエッチング方法において、本発明のエッチング液をチタン層またはチタン含有層に適用する方法には特に制限はなく、例えば浸漬する方法、スプレーする方法などが挙げられる。
【0043】
本発明のエッチング方法は、特に薄膜トランジスタの製造における電極作製の工程で、酸化物半導体層上のチタン層またはチタン含有層をエッチングするために用いるのに好適である。
【0044】
BGTC型の薄膜トランジスタの電極作製工程の一例を挙げて説明すると、本発明のエッチング方法は、バックチャネルエッチ(BCE)型のTFTのエッチングに適用できる。
図2はバックチャネルエッチ(BCE)型の電極形成後の構造を示しているが、電極形成前は、酸化物半導体層上に金属配線とチタン層またはチタン含有層との積層膜が形成されている。一般的には、配線材料の保護および、密着性の向上の目的で、配線材料の下もしくは上下にチタン層またはチタン含有層が形成されている。これを、順番に上からエッチングする。本発明のエッチング方法によれば、酸化物半導体層に接するチタン層またはチタン含有層を酸化物半導体層のダメージを抑制してエッチングすることができる。これにより、
図1のエッチストップレイヤー型のTFTに設けられるエッチストップレイヤーを省略することができるため、コストを大幅に削減することができる。
本発明のエッチング液組成物およびエッチング方法はTGTC型の薄膜トランジスタにおいても有用である。
【0045】
以上、本発明について好適な実施態様に基づき詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の実施例と比較例とともに示し、発明の内容をさらに詳細に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
以下の方法で、本発明のエッチング液組成物と比較のためのエッチング液組成物とを用いて実験を行った。(表中のアンモニウムイオンを含む化合物の濃度について、例えば(NH4)2SO4の濃度が0.3Mである場合、アンモニウムイオンに換算すると0.6mol/Lである。)
【0048】
[チタンのエッチング速度の評価方法(実施例1~31および比較例1~4)]
ガラス基板上にチタン50nmを製膜し、レジストを塗布、フォトリソグラフィーによってパターニングを行った基板を10mm×10mmの大きさにカットした。エッチング液組成物を調製後、35℃で15分間温浴したのち、各エッチング液組成物約40mL中にカットした基板を水平に浸漬させ、35℃で攪拌してエッチングを行った。目視で膜の消失を確認し、エッチングの開始から完了までの時間(ジャストエッチングタイム:JET)を計測、エッチング速度の算出を行った。エッチング後の基板は超純水で水洗し、窒素気流下で乾燥させた。
【0049】
[チタンのエッチング速度の評価方法(実施例32~41および比較例5~9)]
ガラス基板上にチタン50nmを製膜し、レジストを塗布、フォトリソグラフィーによってパターニングを行った基板を10mm×10mmの大きさにカットした。エッチング液組成物を調製後、30℃で30分間温浴したのち、各エッチング液組成物約50mL中にカットした基板を水平に浸漬させ、30℃で攪拌してエッチングを行った。目視で膜の消失を確認し、エッチングの開始から完了までの時間(ジャストエッチングタイム:JET)を計測、エッチング速度の算出を行った。エッチング後の基板は超純水で水洗し、窒素気流下で乾燥させた。
【0050】
[チタンのエッチング速度の評価方法(実施例42~43および比較例10)]
ガラス基板上にチタン50nmを製膜し、レジストを塗布、フォトリソグラフィーによってパターニングを行った基板を10mm×10mmの大きさにカットした。エッチング液組成物を調製後、50℃で30分間温浴したのち、各エッチング液組成物約50mL中にカットした基板を水平に浸漬させ、50℃で攪拌してエッチングを行った。目視で膜の消失を確認し、エッチングの開始から完了までの時間(ジャストエッチングタイム:JET)を計測、エッチング速度の算出を行った。エッチング後の基板は超純水で水洗し、窒素気流下で乾燥させた。
【0051】
[IGZOのエッチング速度の評価方法(実施例1~31および比較例1~4)]
ガラス基板上にIGZO50nmを製膜し、レジストを塗布、フォトリソグラフィーによってパターニングを行った基板を10mm×10mmの大きさにカットした。エッチング液組成物を調製後、35℃で15分間温浴したのち、各エッチング液組成物約40mL中に基板を垂直に5分間浸漬させ、35℃で無撹拌でエッチングを行った。エッチング後の基板は超純水で水洗し、窒素気流下で乾燥させた。レジストの剥離は、アセトンを用いて35℃で90秒間攪拌浸漬することにより行った。アセトン浸漬後の基板は超純水を用いて水洗し、窒素気流下で乾燥させた。エッチングを行った基板に対して触針式段差計(BrukerAXS製DektakXT)を用いてエッチング量を測定し、エッチング速度を算出した。
【0052】
[IGZOのエッチング速度の評価方法(実施例32~41および比較例5~9)]
ガラス基板上にIGZO50nmを製膜し、レジストを塗布、フォトリソグラフィーによってパターニングを行った基板を10mm×10mmの大きさにカットした。エッチング液組成物を調製後、30℃で30分間温浴したのち、各エッチング液組成物約50mL中に基板を垂直に5分間浸漬させ、30℃で無撹拌でエッチングを行った。エッチング後の基板は超純水で水洗し、窒素気流下で乾燥させた。レジストの剥離は、アセトンを用いて35℃で90秒間攪拌浸漬することにより行った。アセトン浸漬後の基板は超純水を用いて水洗し、窒素気流下で乾燥させた。エッチングを行った基板に対して触針式段差計(BrukerAXS製DektakXT)を用いてエッチング量を測定し、エッチング速度を算出した。
【0053】
[IGZOのエッチング速度の評価方法(実施例42~43および比較例10)]
ガラス基板上にIGZO50nmを製膜し、レジストを塗布、フォトリソグラフィーによってパターニングを行った基板を10mm×10mmの大きさにカットした。レジストの剥離は、アセトンを用いて35℃で90秒間攪拌浸漬することにより行った。エッチング液組成物を調製後、50℃で30分間温浴したのち、各エッチング液組成物約50mL中に基板を垂直に5分間浸漬させ、50℃で無撹拌でエッチングを行った。エッチング後の基板は超純水で水洗し、窒素気流下で乾燥させた。エッチング速度はエッチング前後の基板に対し、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(HITACHI FT9500X)を用いてエッチング量を測定することで算出した。
エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いた場合、測定原理の違いから触診式段差計を用いた場合と比べて同一のエッチング条件におけるエッチング量の測定値の絶対値は小さくなるため、絶対値の比較はできない。しかしながら測定値の大小の傾向が同じであることはいうまでもない。
【0054】
表1に、各実施例1~5で用いたエッチング液組成物の組成ならびに、エッチング速度(E/R)およびチタンとIGZOのエッチングの選択比を示す。
【表1】
【0055】
表2に、実施例6および比較例1および2で用いたエッチング液組成物の組成ならびに、チタンのエッチング速度(E/R)を示す。アンモニウムイオンを含まない比較例1および2ではエッチング速度が低下した。
【表2】
【0056】
表3に、実施例7~14で用いたエッチング液組成物の組成ならびにIGZOのエッチング速度(E/R)を示す。なお、アンモニウムイオンの含量を統一するために、一部の組成にはアンモニアを添加している。
【表3】
【0057】
表4に、実施例15~19で用いたエッチング液組成物の組成ならびにチタンのエッチング速度、IGZOのエッチング速度(E/R)および選択比を示す。アンモニウムイオンの濃度が低い方が選択比が大きい傾向が認められた。
【表4】
【0058】
表5に、実施例20~24で用いたエッチング液組成物の組成ならびにチタンのエッチング速度、IGZOのエッチング速度(E/R)および選択比を示す。いずれの塩基性化合物を用いても高い選択比をもってチタンをエッチングできることが認められた。
【表5】
【0059】
表6に、実施例25~31および比較例3および4で用いたエッチング液組成物の組成ならびにチタンのエッチング速度、IGZOのエッチング速度(E/R)および選択比を示す。pHが11.0より大きいエッチング液組成物ではIGZOへのダメージが大きい。またpH8.0~9.0の選択比が最も大きいことが確認された。
【表6】
【0060】
表7に、実施例32~34および比較例5で用いたエッチング液組成物の組成ならびにチタンのエッチング速度、IGZOのエッチング速度(E/R)および選択比を示す。リン原子含有のオキソ酸を添加することでIGZOへのダメージが抑制されることが確認された。
【表7】
【0061】
表8に、実施例35~37および比較例6で用いたエッチング液組成物の組成ならびにチタンのエッチング速度、IGZOのエッチング速度(E/R)および選択比を示す。リン原子含有のオキソ酸を添加することで、シュウ酸イオンのようなIGZOダメージが大きい陰イオンの存在下においても、IGZOダメージが抑制されること、特にHEDPを添加した場合、リン原子含有のオキソ酸を添加しない場合と比べて選択比が10倍以上向上することが確認された。
【表8】
【0062】
表9に、実施例38~41および比較例7~9で用いたエッチング液組成物の組成ならびにチタンのエッチング速度、IGZOのエッチング速度(E/R)および選択比を示す。リン原子含有のオキソ酸の代わりに、アンモニウム塩にリン酸やホスホン酸を添加することで、リン原子含有のオキソ酸を添加した場合と同様のIGZOダメージの抑制効果が確認された。
【表9】
【0063】
表10に、実施例42~43および比較例10で用いたエッチング液組成物の組成ならびにチタンのエッチング速度、IGZOのエッチング速度(E/R)および選択比を示す。
カルボン酸またはアミノカルボン酸を添加することで、IGZOへのダメージが抑制されることが確認された。
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のエッチング液組成物を使用することにより、酸化物半導体上のチタンからなる層またはチタンを含有する層を、酸化物半導体にほとんどダメージを与えずにエッチングすることが可能になる。