(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】水不溶性量子ドットパターンの生成方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20230202BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230202BHJP
C09D 11/03 20140101ALI20230202BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20230202BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20230202BHJP
B41M 5/00 20060101ALN20230202BHJP
B42D 25/415 20140101ALN20230202BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/24 303A
C09D11/03
C09D11/30
C09D11/54
B41M5/00 120
B41M5/00 134
B42D25/415
(21)【出願番号】P 2019564910
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2018063073
(87)【国際公開番号】W WO2018215333
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-03-09
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505018120
【氏名又は名称】オムヤ インターナショナル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボールストレーム,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】フトーニ,ジャマル
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/030907(WO,A1)
【文献】特開2012-219218(JP,A)
【文献】特開2010-001425(JP,A)
【文献】米国特許第09382432(US,B1)
【文献】特表2018-532031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B05D 1/00 - 7/26
B41M 5/00
B41M 5/50 - 5/52
B42D 15/02
B42D 25/00 - 25/485
C09D 11/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上及び/又は基材内に水不溶性パターンを生成するための方法であって、以下のステップ:
(a)基材を提供するステップ;
(b)カチオンを含む潮解性塩を提供するステップ;
(c)量子ドットを提供するステップ;
(d)アニオンを含む若しくはアニオンを形成することができる酸、又は前記アニオンを含むその塩を提供するステップであって、
前記潮解性塩及び前記酸又はその塩が、前記潮解性塩のカチオン及び前記酸又はその塩のアニオンが水不溶性塩を形成できるように選択される、ステップ;並びに
(e)ステップ(b)で提供される前記潮解性塩、ステップ(c)で提供される前記量子ドット、及びステップ(d)で提供される前記酸又はその塩を、前記潮解性塩、前記量子ドット、及び前記酸又はその塩が少なくとも部分的に接触して、前記基材上及び/又は基材内に少なくとも1つの水不溶性パターンを形成するように、ステップ(a)で提供される基材の少なくとも1つの表面領域に堆積させるステップであって、
(i)前記潮解性塩及び前記量子ドットを、前記酸又はその塩を堆積させる前に、同時に堆積させ、又は(ii)前記潮解性塩及び前記量子ドットが、前記酸又はその塩を堆積させる前に、任意の順序で連続して堆積させる、ステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(b)で提供される前記潮解性塩、ステップ(c)で提供される前記量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される前記酸又はその塩が、液体組成物の形態で提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体組成物が、水性組成物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)で提供される前記潮解性塩及びステップ(c)で提供される前記量子ドットが、単一の液体組成物で一緒に提供され、前記潮解性塩及び前記量子ドットを、同時に堆積させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)で提供される前記潮解性塩及びステップ(c)で提供される前記量子ドットが、単一の液体組成物で一緒に提供され、前記潮解性塩及び前記量子ドットを、酸又はその塩を堆積させる前に、同時に堆積させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基材が、第1の面及び裏面を有する平面状基材であり、
(i)ステップ(b)で提供される前記潮解性塩、ステップ(c)で提供される前記量子ドット、及びステップ(d)で提供される前記酸又はその塩を、前記基材の前記第1の面に堆積させる、又は
(ii)ステップ(b)で提供される前記潮解性塩、ステップ(c)で提供される前記量子ドット、及びステップ(d)で提供される前記酸又はその塩を、前記基材の前記裏面に堆積させる、
請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記基材が、第1の面及び裏面を有する平面状基材であり、
(i)ステップ(b)で提供される前記潮解性塩及びステップ(c)で提供される前記量子ドットを、前記基材の前記第1の面に堆積させ、且つステップ(d)で提供される前記酸を、前記基材の前記裏面に堆積させる、又は
(ii)ステップ(d)で提供される前記酸又はその塩を、前記基材の前記第1の面に堆積させ、且つステップ(b)で提供される前記潮解性塩及びステップ(c)で提供される前記量子ドットを、前記基材の前記裏面に堆積させる、
請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、ステップ(b)で提供される前記潮解性塩を堆積させた後、ステップ(c)で提供される前記量子ドットを堆積させた後、及び/又はステップ(d)で提供される前記酸又はその塩を堆積させた後に、前記基材を乾燥させるステップをさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記潮解性塩が、塩素酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択される、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記量子ドットが、
(i)金属ベースの量子ドット;
(ii)炭素量子ドット;
(iii)ペプチドベースの量子ドット;
及び上記のいずれかの混合物から選択される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
(i)金属ベースの量子ドットが、CdTe量子ドットである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酸が、塩酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、シュウ酸、酒石酸、炭酸及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
(i)前記潮解性塩が、それぞれ前記液体組成物の総重量に基づいて、0.1~100重量%の量で前記液体組成物中に存在し;
(ii)前記量子ドットが、それぞれ前記液体組成物の総重量に基づいて、20~0.0001重量%の量で前記液体組成物中に存在し;及び/又は
(iii)前記酸又はその塩が、それぞれ前記液体組成物の総重量に基づいて、0.1~100重量%の量で前記液体組成物中に存在する、
請求項2~5のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
(i)前記潮解性塩が、それぞれ前記液体組成物の総重量に基づいて、1~80重量%の量で前記液体組成物中に存在し;
(ii)前記量子ドットが、それぞれ前記液体組成物の総重量に基づいて、5~0.001重量%の量で前記液体組成物中に存在し;及び/又は
(iii)前記酸又はその塩が、それぞれ前記液体組成物の総重量に基づいて、1~80重量%の量で前記液体組成物中に存在する、
請求項2~5のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記潮解性塩が塩化カルシウムであり、前記量子ドットがCdTe量子ドットであり、及び前記酸がリン酸である、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記基材が、紙、厚紙、ボール紙、プラスチック、セロファン、テキスタイル、木材、金属、ガラス、マイカプレート、セルロース、ニトロセルロース、綿、大理石、方解石、天然石、複合石、レンガ、コンクリート、タブレット、キャンバス、ヒト又は動物起源の天然素材及びそれらの積層体又は複合材料を含む群から選択される、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ステップ(b)で提供される前記潮解性塩、ステップ(c)で提供される前記量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される前記酸又はその塩を、電子シリンジ分注、スプレーコーティング、インクジェット印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、プロット、コンタクトスタンピング、グラビア印刷、パウダーコーティング、スピンコーティング、リバースグラビアコーティング、スロットコーティング、カーテンコーティング、スライドベッドコーティング、フィルムプレス、メタリングフィルムプレス、ブレードコーティング、ブラシコーティング及び/又はペンシルペンシルによって堆積させる、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記水不溶性パターンが、チャネル、バリア、一次元バーコード、二次元バーコード、三次元バーコード、セキュリティマーク、数字、文字、英数字記号、テキスト、ロゴ、画像、点字マーキング、形状、デザイン又はそれらの組み合わせである、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれかに記載の方法により得ることができる水不溶性パターンを含む基材。
【請求項20】
請求項19に記載の水不溶性パターンを含む基材を備える製品であって、前記製品が、バイオアッセイ用ツール、マイクロ流体デバイス、ラボオンチップデバイス、紙ベースの分析及び/若しくは診断ツール、分離型プラットフォーム、印刷媒体、包装材料、データ記憶装置、セキュリティ文書、非セキュア文書、装飾用基材、薬物、タブレット、ピル、タバコ製品、ボトル、衣服、容器、スポーツ用品、玩具、ゲーム、携帯電話、CD、DVD、ブルーレイディスク、機械、工具、自動車部品、ステッカー、ラベル、タグ、ポスター、パスポート、身分証明書、運転免許証、銀行カード、クレジットカード、債券、チケット、バウチャー、切手、納税印紙、紙幣、証明書、ブランド認証タグ、名刺、グリーティングカード、触覚文書又は壁紙である、製品。
【請求項21】
印刷用途、分析用途、診断用途、バイオアッセイ、化学用途、電気用途、セキュリティデバイス、オバート又はコバートのセキュリティ要素、ブランド保護、マイクロレタリング、マイクロイメージング、装飾的、芸術的若しくは視覚的な用途又は包装用途における請求項19に記載の水不溶性パターンを含む基材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上及び/又は基材内に量子ドットを含有する水不溶性パターンを生成するための方法及び対応する印刷インクセットに関する。本発明はさらに、本発明による水不溶性パターンを含む前記基材並びに紙及びテキスタイルベースの製品を含む対応する製品に関する。
【背景技術】
【0002】
デスクトッププリンタ及びカラーコピー機の性能が改善したため、文書詐欺の機会が劇的に増加している。スタンピング、パンチング又はエンボス加工などの技法とは別に、偽造防止性を改善するために透かしを組み込むことにより、紙及び紙ベースの製品に識別画像又はパターンでマークを付与することがある。改ざん防止マーキングは、文書、例えば、パスポート、運転免許証、銀行カード、クレジットカード、バウチャー、納税証明書、切手、証明書、又はいずれかの支払い手段の信頼性を検証するのに役立ち得る。さらに、製紙業者は、特に自身のラベル用紙及び包装紙が偽造品に使用されているという問題に対処する必要がある。
【0003】
同様の問題は、製品及びブランドの著作権侵害が広範及び世界的な現象である消費財の分野でも観察され得る。食料品、アルコール飲料、宝飾品及び他のアクセサリー、携帯電話、物理メディア、玩具及びゲーム、医薬品、自動車部品及びアクセサリー、並びに事務用品のカテゴリーで、偽造の大幅な増加が観察された。インクカートリッジ及びトナー、スポーツ用品及び衣服全般、シガレット及び他のタバコ製品、機械及び道具、ライター、ラベル、タグ並びにステッカーなどの製品も偽造の対象となることがよくある。
【0004】
したがって、それらの出所を確認するために、前述の品目に個別にタグ付けするための方法に対する必要性が継続的にあり、またますます増えつつある。
【0005】
これに関連して、US2005/0031838A1は、紙製品に関連する商品の偽造を防止するためのタガントセキュリティシステムを開示している。タガントセキュリティシステムは、紙製品上に配置された紙製品コーティングを含み、タガントセキュリティシステムは、1つ以上の蛍光インク若しくは染料、蛍光体、ポリマー繊維又は粒子をさらに含む。しかしながら、前述のタガントを含めると、紙の生成中にリパルプなどの問題が発生する可能性がある。
【0006】
WO2008/024542A1は、反射特性を生成するために、金属粒子を含むインクを使用する直接書き込み印刷工程によって、反射特性が形成される方法を記載している。
【0007】
US2014/0151996A1は、視角が変更されたときにセキュリティ要素の外観を変えることを可能にする光学構造を備えたセキュリティ要素に関する。しかしながら、これらのセキュリティ要素は、肉眼で視認できるため、潜在的な偽造者によって容易に認識され得る。
【0008】
WO2017/052701A1は、内部に複数の量子ドットが配置された液体媒体を含むセキュリティインクを開示している。好適な光源で励起すると、インクは30%を超える量子収率、及び40ナノ秒を超える寿命を有するフォトルミネッセンスを示す。量子ドットを含有するインクは、インクジェット印刷を含むインク堆積の任意の好適な方法によって基材に適用され得る。
【0009】
出願人はさらに、基材上に表面改質材料を製造するための方法を開示するEP2949813A1として公開されたその欧州特許出願に言及したい。そこでは、基材の少なくとも片側に存在する塩化可能なアルカリ又はアルカリ土類化合物を含むコーティング層を、酸を含む液体組成物で処理して、コーティング層上に表面改質領域を形成する。
【0010】
本出願人に代わってEP3067214A1として公開された欧州特許出願は、少なくとも1つの酸を含む液体処理組成物が、インクジェット印刷によって、塩化可能なアルカリ又はアルカリ土類化合物を含む少なくとも1つの外部表面を備える基材上に堆積される隠しパターンを作るための方法を対象とする。
【0011】
本出願人に代わってEP3067215A1として公開された欧州特許出願は、少なくとも1つの酸及びインクを含む液体処理組成物がインクジェット印刷によって基材上に同時に又は連続的に堆積され、基材が塩化可能なアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物を含むコーティング層を含む、インクジェット印刷方法に関する。
【0012】
前述の出願に加えて、EP3173522A1は、コバートの、分光学的に検出可能なセキュリティ機能で基材をタグ付けする方法を開示している。EP3173247A1は、埋め込まれたUV可視パターンを有する基材の製造方法に関する。
【0013】
完全を期すために、出願人は、水不溶性パターンを製造するための方法に関するその未公開の欧州特許出願第16188664.3号、天然素材にパターンを作る方法に関する同第16188656.9号及び基材の滑り抵抗を増加させるための方法を対象とする同第16188665.0号に言及したい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許出願公開第2005/0031838号明細書
【文献】国際公開第2008/024542号
【文献】米国特許出願公開第2014/0151996号明細書
【文献】国際公開第2017/052701号
【文献】欧州特許出願公開第2949813号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3067214号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3067215号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3173522号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3173247号明細書
【文献】欧州特許出願第16188664.3号明細書
【文献】欧州特許出願第16188656.9号明細書
【文献】欧州特許出願第16188665.0号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、急速な技術進歩により、前述のセキュリティ要素の一部は簡単に識別され得、最終的には熟練した偽造者によってコピー又は模倣され得る。したがって、偽造のリスク又は製品及びブランドの著作権侵害のリスクを減らすために、セキュリティ要素として機能する改善されたタグ付けが依然として必要である。
【0016】
したがって、本発明の1つの目的は、信頼できるセキュリティ要素を作るための方法を提供することである。
【0017】
本発明の1つのさらなる目的は、一方では、潜在的な偽造者にとって、目視によって特定することが困難であるセキュリティ要素を生成するための方法の提供において理解され得る。好ましくは、1つの目的は、隠されているか又は(肉眼では)ほとんど視認できないセキュリティ要素、又は機能の提供において理解され得る。他方、これらのセキュリティ要素は、必要に応じて、例えば、事情を知らされているセキュリティ担当者又は税関職員によって容易に確認できることが望ましい場合がある。
【0018】
この点で、セキュリティ要素が、多種多様な特定の光学指紋セキュリティ機能を作る機会を提供することも望ましく、これらの機能を異なる製造業者に割り当てることができ、及び/又は異なる顧客に配送することができる。
【0019】
また、本方法は、小規模及び大規模の両方で既存の印刷施設で簡単に実装できることが望ましい。さらに、本方法は、非常に多様な基材で使用できることが望ましい。
【0020】
1つのさらなる目的は、日常品で使用した場合に機械的ストレスに耐えるセキュリティ要素又はタグの提供に見ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前述及び他の目的は、本明細書の独立請求項で定義される主題によって解決される。
【0022】
本発明の第1の態様は、基材上及び/又は基材内に水不溶性パターンを生成するための方法であって、以下のステップ:
(a)基材を提供するステップ;
(b)カチオンを含む潮解性塩を提供するステップ;
(c)量子ドットを提供するステップ;
(d)アニオンを含む若しくはアニオンを形成することができる酸、又は前記アニオンを含むその塩を提供するステップであって、
潮解性塩及び酸又はその塩が、潮解性塩のカチオン及び酸又はその塩のアニオンが水不溶性塩を形成できるように選択される、ステップ;並びに
(e)ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及びステップ(d)で提供される酸又はその塩を、潮解性塩、量子ドット、及び酸又はその塩が少なくとも部分的に接触して、前記基材上及び/又は基材内に少なくとも1つの水不溶性パターンを形成するように、ステップ(a)で提供される基材の少なくとも1つの表面領域に堆積させるステップであって、
(i)潮解性塩及び量子ドットを、好ましくは酸若しくはその塩を堆積させる前に同時に堆積させ、又は(ii)潮解性塩及び量子ドットを、好ましくは酸若しくはその塩を堆積させる前に任意の順序で連続して堆積させるステップを含む、方法に関する。
【0023】
本発明者らは、驚くべきことに、潮解性塩、量子ドット、及びそのアニオンが前記潮解性塩のカチオンと水不溶性塩を形成することができる酸又はその塩を、基材(例えば紙基材)上に施用することで、潮解性塩のカチオン、酸のアニオン及び量子ドットを含む安定したネットワークで構成される水不溶性パターンの形成をもたらすことを見出した。本方法は、考えられる任意の形状を有し得る前記基材上及び/又は前記基材内に、安定した水不溶性パターンを提供する。本発明の方法に従って生成されたパターンは、視認できても隠されていてもよく、信頼性があり耐性のあるセキュリティ要素を表す。無数の可能な形状の生成とは別に、本発明の方法は、量子ドットの組み込み及び永続的な固定を可能にし、これにより、追加の柔軟性が提供され、タグ付けされた品目ごとに個別に設計及び適応できる非常に特殊なセキュリティ要素の生成を可能にする。
【0024】
本発明の別の態様は、本発明の方法により得られる水不溶性パターンを含む基材に関する。
【0025】
さらに別の態様は、前記水不溶性パターンを含む基材を備える製品に関し、この製品は、バイオアッセイ用ツール、マイクロ流体デバイス、ラボオンチップデバイス、紙ベースの分析及び/若しくは診断ツール、分離型プラットフォーム、印刷媒体、包装材料、データ記憶装置、セキュリティ文書、非セキュア文書、装飾用基材、薬物、タブレット、ピル、タバコ製品、ボトル、衣服、容器、スポーツ用品、玩具、ゲーム、携帯電話、CD、DVD、ブルーレイディスク、機械、工具、自動車部品、ステッカー、ラベル、タグ、ポスター、パスポート、身分証明書、運転免許証、銀行カード、クレジットカード、債券、チケット、バウチャー、切手、納税印紙、紙幣、証明書、ブランド認証タグ、名刺、グリーティングカード、触覚文書又は壁紙である。
【0026】
さらに別の態様は、印刷用途、分析用途、診断用途、バイオアッセイ、化学用途、電気用途、セキュリティデバイス、オバート又はコバートのセキュリティ要素、ブランド保護、マイクロレタリング、マイクロイメージング、装飾的、芸術的若しくは視覚的な用途又は包装用途における前記水不溶性パターンを含む基材の使用に関する。
【0027】
本発明のさらなる一態様は、基材上及び/又は基材内に水不溶性パターンを生成するための印刷インクセットであって、
(i)カチオンを含む潮解性塩を含有する第1のセット要素;
(ii)量子ドットを含有する第2のセット要素;及び
(iii)アニオンを含む若しくはアニオンを形成することができる酸又は前記アニオンを含むその塩を含有する第3のセット要素;
を含み、潮解性塩及び酸又はその塩が、潮解性塩のカチオン及び酸又はその塩のアニオンが水不溶性塩を形成できるように選択されることを特徴とする、印刷インクセットに関する。
【0028】
本発明のさらなる類似の一態様は、基材上及び/又は基材内に水不溶性パターンを生成するための印刷インクセットであって、
(i)カチオンを含む潮解性塩及び量子ドットを含有する、第1のセット要素;並びに
(ii)アニオンを含む若しくはアニオンを形成することができる酸又は前記アニオンを含むその塩を含有する、第2のセット要素;
を含み、潮解性塩及び酸又はその塩が、潮解性塩のカチオン及び酸又はその塩のアニオンが水不溶性塩を形成できるように選択されることを特徴とする、印刷インクセットに関する。
【0029】
本出願を通して使用される以下の用語は、以下に記載する意味を有するものとする:
【0030】
「パターン」とは、チャネル、バリア、一次元バーコード、二次元バーコード、三次元バーコード、セキュリティマーク、数字、文字、英数字記号、テキスト、ロゴ、画像、点字マーキング、又は形状などの、特定の形状に形成される水不溶性塩を含む材料であると理解される。しかしながら、これらの例は限定的なものではない。
【0031】
本発明の意味において、「水不溶性」材料とは、20℃で脱イオン水と混合し、0.2μmの孔径を有するフィルターで濾過して濾液を回収した場合、100gの前記濾液を95~100℃で蒸発させた後に、0.1g以下の回収固体材料を提供する材料として定義される。したがって、「水溶性」材料は、95~100℃での100gの前記濾液の蒸発後に0.1gを超える回収固体材料をもたらす材料として定義される。本出願を通して使用される「水不溶性」という用語は、材料が、有機溶媒の水性混合物又は単独の有機溶媒などのさらなる溶媒に不溶性であることを除外する意味ではないことに留意されたい。例えば、本発明の水不溶性パターンは、同時に、エタノール、イソプロパノール、エステル、エーテルなどのような有機溶媒に不溶性であってもよい。
【0032】
本文脈において、「基材」という用語は、紙、厚紙、ボール紙、プラスチック、セロファン、テキスタイル、木材、金属、ガラス、マイカプレート、セルロース、ニトロセルロース、大理石、方解石、天然石、複合石、レンガ、コンクリート、又はヒト若しくは動物起源の天然素材、好ましくは紙、厚紙、ボール紙又はプラスチックなどの印刷、コーティング又は塗装に好適な表面を有する任意の材料として理解されるべきである。しかしながら、前述の例は限定的な性質のものではない。
【0033】
本発明の意味において、「基材上のパターン」という表現は、基材の表面に配置されるパターンを指し、「基材内」という表現は、基材のバルクに吸収された、又はバルクに浸透したパターンを指す。
【0034】
本明細書で使用される「潮解性塩」という用語は、水分に対して高い親和性を有し、物質が溶解されるまで大気から気体の水分子を収集して、固体塩と液体水との混合物、又は塩の水溶液を形成できる塩を指す(「潮解」の定義、IUPAC、化学用語集ゴールドブック、バージョン2.3.3、2014年を参照)。「潮解性塩」の非限定的な例は、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化銅、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化銅、臭化亜鉛、臭化アルミニウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸鉄、硝酸銀、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸鉄、酢酸銅、酢酸亜鉛又は酢酸アルミニウムである。
【0035】
好ましくは、本明細書で使用される「潮解性塩」という用語は、14g/m3の含水量を有する雰囲気において、20℃で24時間保存した場合、少なくとも18gのH2O/mol塩、すなわち1molのH2O/mol塩の水を大気から吸収し、固体塩と液体水又は塩の水溶液との混合物を形成する塩を指す。
【0036】
本発明の目的のために、「酸」は、ブレンステッド・ローリー酸として定義される、すなわち、それはH3O+イオン供与体である。
【0037】
「懸濁液」又は「スラリー」は、不溶性の固体及び液体(好ましくは水)、並びに任意選択的にさらなる添加剤を含み、通常は大量の固体を含有するため、それが形成される液体よりも高粘度であり、高密度であり得る。
【0038】
本明細書で言及される「溶液」は、特定の溶媒と特定の溶質との単相混合物、例えば塩と水との単相混合物であると理解される。したがって、本明細書で使用される「溶解した」という用語は、溶液中の溶質の物理的状態を指す。
【0039】
本発明による「固体」という用語は、298.15K(25℃)の温度及び正確に1バールの絶対圧力を指す標準周囲温度及び圧力(SATP)下で固体である材料を指す。固体は、粉末、タブレット、顆粒、フレークなどの形態であり得る。したがって、「液体」という用語は、298.15K(25℃)の温度及び正確に1バールの絶対圧力を指す標準的な周囲温度及び圧力(SATP)下で液体である材料を指す。
【0040】
特に明記しない限り、「乾燥する」という用語は、120℃で「乾燥された」結果、得られた材料の重量が一定になるように、乾燥されるべき材料から水を除去する工程を指し、質量(サンプルサイズ5g)は、30秒の期間で1mgを超えて変化しない。
【0041】
したがって、「乾燥」材料(例えば、乾燥表面反応炭酸カルシウム)は、特に明記しない限り、乾燥材料の総重量に基づいて、5.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは、0.5重量%以下、さらにより好ましくは0.2重量%以下、最も好ましくは0.03~0.07重量%であるその総含水量によって定義され得る。
【0042】
単数名詞を指すときに不定冠詞又は定冠詞、例えば、「a」、「an」又は「the」が使用される場合、これには、特に明記されていない限り、その名詞の複数形が含まれる。
【0043】
「含む」という用語が本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、他の要素を除外しない。本発明の目的のために、「からなる」という用語は、「含む」という用語の好ましい実施形態であると見なされる。以下、少なくとも特定の数の実施形態を含むようにグループが定義される場合、これはまた、好ましくはこれらの実施形態のみからなるグループを開示すると理解されるべきである。
【0044】
「得ることができる」又は「定義することができる」及び「得られた」又は「定義された」のような用語は、互換的に使用される。これは、例えば、文脈がそうでないことを明確に示していない限り、「得られた」という用語は、例えば、ある実施形態が、「得られた」という用語に続くステップのシーケンスによって得られなければならないことを示す意味ではないが、そのような限定された理解は、好ましい実施形態として「得られた」又は「定義された」という用語に常に含まれる。
【0045】
「含む」又は「有する」という用語が使用されるときはいつでも、これらの用語は、上で定義された「含む」と同等であることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0046】
水不溶性パターンを生成するための本発明の方法の有利な実施形態及びさらなる態様は、対応する従属請求項に定義されている。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩が、液体組成物の形態で提供され、好ましくはステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及びステップ(d)で提供される酸又はその塩が、液体組成物の形態で提供され、前記液体組成物が、より好ましくは、水性組成物である。
【0048】
別の実施形態によれば、ステップ(b)で提供される潮解性塩、及びステップ(c)で提供される量子ドットは、単一の液体組成物として一緒に提供され、潮解性塩及び量子ドットは、好ましくは酸又はその塩を堆積させる前に、同時に堆積させる。
【0049】
さらに別の実施形態によれば、基材は、第1の面及び裏面を有する平面状基材であり、
(i)ステップ(b)で提供された潮解性塩、ステップ(c)で提供された量子ドット、及びステップ(d)で提供された酸又はその塩を、基材の前記第1の面に堆積させ、又は
(ii)ステップ(b)で提供された潮解性塩、ステップ(c)で提供された量子ドット、及びステップ(d)で提供された酸又はその塩を、基材の前記裏面に堆積させる。
【0050】
したがって、別の実施形態では、基材は、第1の面及び裏面を有する平面状の基材であり、
(i)ステップ(b)で提供される潮解性塩及びステップ(c)で提供される量子ドットを、基材の前記第1の面に堆積させ、且つステップ(d)で提供される酸を、基材の前記裏面に堆積させ、又は、
(ii)ステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を、基材の前記第1の面に堆積させ、且つステップ(b)で提供される潮解性塩、及びステップ(c)で提供される量子ドットを、基材の前記裏面に堆積させる。
【0051】
別の実施形態によれば、本方法は、ステップ(b)で提供される潮解性塩を堆積させた後、ステップ(c)で提供される量子ドットを堆積させた後、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を堆積させた後、基材を乾燥するステップをさらに含む。
【0052】
さらに別の実施形態によれば、潮解性塩は、塩素酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択され、好ましくは塩素酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択され、より好ましくは、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、塩素酸カルシウム、ヨウ化コバルト、塩素酸銅、硫酸マンガン、硫酸第二スズ、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化銅、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化銅、臭化亜鉛、臭化アルミニウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸銀、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸鉄、酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸アルミニウム並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択され、最も好ましくは、潮解性塩は塩化カルシウムである。
【0053】
本発明の別の実施形態によれば、量子ドットは、
(i)金属ベースの量子ドット、好ましくはCdベースの量子ドット、最も好ましくはCdTe量子ドット;
(ii)炭素量子ドット;
(iii)ペプチドベースの量子ドット;
及び上記のいずれかの混合物から選択される。
【0054】
さらに別の実施形態によれば、酸は、塩酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、シュウ酸、酒石酸、炭酸及びそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、酸は、リン酸、シュウ酸、酒石酸及びそれらの混合物からなる群から選択され、最も好ましくは、酸はリン酸である。
【0055】
本発明のさらなる実施形態では、
(i)潮解性塩が、それぞれ液体組成物の総重量に基づいて、0.1~100重量%、好ましくは1~80重量%、より好ましくは3~60重量%、最も好ましくは10~50重量%の量で液体組成物中に存在し;
(ii)量子ドットが、それぞれ液体組成物の総重量に基づいて、20~0.0001重量%、好ましくは5~0.001重量%、より好ましくは1~0.005重量%、さらにより好ましくは0.5~0.01重量%、最も好ましくは0.1~0.01重量%の量で液体組成物中に存在し;及び/又は
(iii)酸若しくはその塩が、それぞれ液体組成物の総重量に基づいて、0.1~100重量%、好ましくは1~80重量%、より好ましくは3~60重量%、最も好ましくは10~50重量%の量で液体組成物中に存在する。
【0056】
特定の一実施形態では、潮解性塩は塩化カルシウムであり、量子ドットはCdTe量子ドットであり、酸はリン酸である。
【0057】
さらに別の実施形態によれば、基材は、紙、厚紙、ボール紙、プラスチック、セロファン、テキスタイル、木材、金属、ガラス、マイカプレート、セルロース、ニトロセルロース、綿、大理石、方解石、天然石、複合石、レンガ、コンクリート、タブレット、キャンバス、ヒト又は動物由来の天然素材及びそれらの積層体又は複合材料を含む群から選択され、好ましくは紙、厚紙、ボール紙又はプラスチック、より好ましくは、基材は紙基材である。
【0058】
別の実施形態では、基材は、ミネラルフィラーコーティング及び/又は内部ミネラルフィラーを含有しない紙基材である。
【0059】
さらに別の実施形態によれば、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を、電子シリンジ分注、スプレーコーティング、インクジェット印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、プロット、コンタクトスタンピング、グラビア印刷、パウダーコーティング、スピンコーティング、リバースグラビアコーティング、スロットコーティング、カーテンコーティング、スライドベッドコーティング、フィルムプレス、メタリングフィルムプレス、ブレードコーティング、ブラシコーティング、及び/又はペンシルによって、好ましくはインクジェット印刷又はスプレーコーティングによって堆積させる。
【0060】
さらに別の実施形態によれば、水不溶性パターンは、チャネル、バリア、一次元バーコード、二次元バーコード、三次元バーコード、セキュリティマーク、数字、文字、英数字記号、テキスト、ロゴ、画像、点字マーキング、形状、デザイン又はそれらの組み合わせである。
【0061】
以下において、水不溶性パターンを生成するための本発明の方法の詳細及び好ましい実施形態が議論される。これらの詳細及び実施形態が、本発明の方法によって得ることができる、水不溶性パターンを含む基材並びに紙ベースの製品又はテキスタイルベースの製品などのような、任意の対応する用途及び製品にも適用されることを理解されたい。前記詳細及び実施形態は、好適な場合、本発明の印刷インクセットにも適用される。
【0062】
<(A)基材>
【0063】
本発明の方法のステップ(a)によれば、水不溶性パターンを受容するための基材が提供される。
【0064】
一般に、基材は多孔質でも非多孔質であってもよい。好ましい実施形態によれば、基材は多孔質である。その場合、使用されるインク成分(潮解性塩、量子ドット及び酸又はその塩)は、少なくとも部分的に基材に吸収され得、これにより基材上及び/又は基材内に形成された水不溶性パターンの付着性を増加させ得る。
【0065】
一実施形態によれば、基材は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、セルロースエーテル、ポリオキサゾリン、ポリビニルアセトアミド、部分加水分解されたポリ酢酸ビニル/ビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、スルホン化又はリン酸化ポリエステル及びポリスチレン、カゼイン、ゼイン、アルブミン、キチン、キトサン、デキストラン、ペクチン、コラーゲン誘導体、コロディアン、寒天、クズウコン、グアー、カラギーナン、デンプン、トラガカント、キサンタン、ラムサン、ポリ(スチレン-co-ブタジエン)、ポリウレタンラテックス、ポリエステルラテックス、ポリ(n-ブチルアクリレート)、ポリ(n-ブチルメタクリレート)、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、n-ブチルアクリレートとエチルアクリレートとのコポリマー、酢酸ビニルとn-ブチルアクリレートとのコポリマーなど並びにそれらの混合物、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のホモポリマー又はコポリマー、イタコン酸及び酸エステル、例えばエチルアクリレート、ブチルアクリレート、スチレン、非置換若しくは置換塩化ビニル、酢酸ビニル、エチレン、ブタジエン、アクリルアミド及びアクリロニトリル、シリコーン樹脂、水希釈性アルキド樹脂、アクリル/アルキド樹脂の組み合わせなど、アマニ油などの天然油、並びにそれらの混合物などのポリマーを添加剤として含む繊維ベース基材である。繊維ベースの基材の非限定的な例は、紙、厚紙、ボール紙、テキスタイル、セルロース又はニトロセルロースである。
【0066】
別の実施形態によれば、基材は、紙、厚紙、ボール紙、プラスチック、セロファン、テキスタイル、木材、金属、ガラス、マイカプレート、セルロース、ニトロセルロース、綿、大理石、方解石、天然石、複合石、レンガ、コンクリート、タブレット、キャンバス、ヒト又は動物起源の天然素材、及びそれらの積層体又は複合材料からなる群から選択される。好ましい実施形態によれば、基材は、紙、厚紙、ボール紙又はプラスチックからなる群から選択され、より好ましくは、基材は紙である。紙の非限定的な例は、ユーカリ繊維紙又は綿繊維紙である。別の実施形態によれば、基材は、紙、プラスチック及び/又は金属の積層体であり、プラスチック及び/又は金属は、例えばTetra Pak(R)で使用されるような薄い箔の形態であることが好ましい。
【0067】
本発明の別の実施形態によれば、基材は紙、厚紙又はボール紙である。厚紙は、カートンボード又はボックスボード、波形化厚紙又はクロモボードなどの非梱包厚紙又は製図用厚紙を含んでもよい。ボール紙は、ライナーボード及び/又は波形媒体を包含してもよい。段ボールの生成には、ライナーボード及び波形媒体の両方が使用される。
【0068】
紙、厚紙又はボール紙基材は、10~1000g/m2、好ましくは20~800g/m2、より好ましくは30~700g/m2、最も好ましくは50~600g/m2の坪量を有することができる。一実施形態では、基材は、紙であり、好ましくは10~400g/m2、20~300g/m2、30~200g/m2、40~100g/m2、50~90g/m2、60~80g/m2又は約70g/m2の坪量を有する。
【0069】
さらに別の実施形態によれば、基材はプラスチック基材である。好適なプラスチック材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート樹脂又はフッ素含有樹脂、好ましくはポリプロピレンである。好適なポリエステルの例は、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)又はポリ(二酢酸エステル)である。フッ素含有樹脂の例は、ポリ(テトラフルオロエチレン)である。
【0070】
基材は、前述の材料のうちの1つの層のみからなってもよく、又は同じ材料若しくは異なる材料のいくつかの副層を有する層構造を含んでもよい。一実施形態によれば、基材は1つの層によって構成される。別の実施形態によれば、基材は、少なくとも2つの副層、好ましくは3、5、又は7つの副層によって構成され、副層は平坦又は非平坦な構造、例えば波形化構造を有することができる。好ましくは、基材の副層は、紙、厚紙、ボール紙及び/又はプラスチックから作製される。
【0071】
上記の「ヒト又は動物起源の天然素材」は、生きている若しくは死んだヒトの体、又は生きている若しくは死んだ動物の体に由来する任意の材料である。前記用語には、卵殻又は真珠などの動物によって生成される製品も含まれる。本明細書で使用される「動物」という用語は、哺乳動物、魚、鳥、爬虫類、両生類、昆虫又は軟体動物などの真核生物を指す。天然素材は、爬虫類の卵殻、鳥の卵殻、単孔目の卵殻、歯、骨、牙、象牙、真珠、真珠層、軟体動物の殻、イカの甲、軟甲、コーラルライト、甲殻類の外骨格、石灰化した化石からなる群から選択され得る。一実施形態では、天然素材は、鳥の卵殻、歯、骨、牙、象牙、真珠、真珠層又は石灰化した化石からなる群から選択される。本発明の好ましい実施形態では、天然素材は、鳥の卵殻、好ましくはウズラの卵殻、鶏の卵殻、アヒルの卵殻、ガチョウの卵殻又はダチョウの卵殻である。卵殻は、別個に又は卵殻を含む卵の形態で提供されてもよい。
【0072】
基材はまた、金属であってもよい。本発明の目的のために、「金属」という用語は、純粋な金属及び合金を指す。好適な金属の例は、鉄、鋼、アルミニウム、銅、マグネシウム、ニッケル、チタン、亜鉛、真鍮、青銅、パラジウム、ロジウム、白金、銀又は金である。
【0073】
上記で使用されるように、「テキスタイル」という用語は、層化、プレーティング、編組、ノッティング、ウィービング、編み、かぎ針編み、又はタフティングなどの方法によって生成された製品を指す。本発明の目的のために、「織布」という用語は、ウィービングによって生成されるテキスタイル物品を指し、「不織布」という用語は、繊維、フィラメント、又はフィルム状のフィラメント構造の層又はネットワークを連結することによって生成される平らで柔軟な多孔質シート構造を指す。本発明の一実施形態によれば、テキスタイルは、ウール、シルク、綿、亜麻、ジュート、麻、アセテート、リヨセル、モーダル、ポリエステル、ポリアミド、アラミド、ナイロン、スパンデックス、ルレックス、サイザル、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維又はそれらの混合物を含む。
【0074】
基材は、溶媒、水又はそれらの混合物に対して透過性又は不透過性であってもよい。一実施形態によれば、基材は、水、溶媒又はそれらの混合物に対して不透過性である。好ましい実施形態によれば、基材は、水、溶媒又はそれらの混合物に対して透過性である。溶媒の例には、脂肪族アルコール、4~14個の炭素原子を有するエーテル及びジエーテル、グリコール、アルコキシル化グリコール、グリコールエーテル、アルコキシル化芳香族アルコール、芳香族アルコール、それらの混合物、又は水とそれらの混合物が含まれる。
【0075】
一実施形態によれば、基材は平面状基材であり、第1の面及び裏面を含む。本発明の意味における「平面状基材」という用語は、二次元特性を有する平坦な基材、すなわち、基材が第1の面及び裏面を有することを指す。平面状基材の例は、シート、マット、フィルム、パネル、又はタイルの形態の基材である。
【0076】
原則として、本発明の方法で使用される成分を、(平面状)基材の任意の面、例えば基材の同じ面に適用することが可能である。
【0077】
したがって、一実施形態では、基材は、第1の面及び裏面を有する平面状基材であり、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、ステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を、基材の前記第1の面に堆積させ、又はステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及びステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を、基材の前記裏面に堆積させる。
【0078】
場合によっては、成分を(平面状)基材の異なる面に施用することが好ましい場合がある。したがって、別の実施形態では、基材は、第1の面及び裏面を有する平面状基材であり、ステップ(b)で提供される潮解性塩、及びステップ(c)で提供される量子ドットを、基材の前記第1の面に堆積させ、ステップ(d)で提供された酸若しくはその塩を、基材の前記裏面に堆積させ、又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を、基材の前記第1の面に堆積させ、且つステップ(b)で提供される潮解性塩、及びステップ(c)で提供される量子ドットを、基材の前記裏面に堆積させる。基材は、好ましくは多孔質基材である。
【0079】
基材が紙、厚紙、ボール紙又はプラスチックの場合、基材は1つ以上の添加剤を含んでもよい。
【0080】
一実施形態によれば、基材は、それぞれが基材の総重量に基づいて、好ましくは少なくとも0.001重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%、さらにより好ましくは少なくとも0.5重量%、さらにより好ましくは少なくとも1重量%、最も好ましくは、少なくとも1.2重量%の量の蛍光増白剤を含む。別の実施形態では、蛍光増白剤は、それぞれが基材の総重量に基づいて、0.001~15重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.5~8重量%、さらにより好ましくは1~6重量%、最も好ましくは1.2~4重量%の量で存在する。これに関連して、「蛍光増白剤」という用語は、典型的には、電磁スペクトルの340~370nmの紫外線及び紫色領域の光を吸収し、青色領域、典型的には420~470nmの光を再放射することにより、組み込んだ基材に対し、白化効果を引き起こす化学化合物を指す。
【0081】
最も一般的に使用される蛍光増白剤化合物のクラスは、4,4’-ジアミノ-2,2’-スチルベンジスルホン酸などのスチルベンの誘導体である。これらの蛍光増白剤は、350~360nmの範囲内の紫外線を吸収し、430nmの極大波長を有する400~500nmの青色光を再放射する。スルホン酸基は、蛍光増白剤の水溶性に寄与するため、セルロースに対する蛍光増白剤の親和性は、スルホン酸基の数を変えることで操作することができる。ジスルホン酸又は二価の蛍光増白剤は、2つのスルホン酸基で構成されており、酸性pHでのナイロン、シルク及びウールなどの疎水性繊維に特に好適である。四スルホン酸又は四価の蛍光増白剤は、4つのスルホン基で構成され、水溶性に優れ、中性又はアルカリ性pHでのセルロース繊維及び紙への適用に特に好適である。ヘキサスルホン酸又は六価の蛍光増白剤は、6つのスルホン基で構成され、写真用紙のような表面コーティング用途に優れた溶解性を有する。他のクラスの蛍光増白剤には、ピラゾリン、クマリン、ベンゾオキサゾール、ナフタルイミド及びピレンの誘導体が含まれる。
【0082】
一実施形態によれば、蛍光増白剤は、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、クマリン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ナフタルイミド誘導体、ピレン誘導体及びそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、蛍光増白剤は、ジアミノスチルベンジスルホン酸の誘導体、ジアミノスチルベンテトラスルホン酸の誘導体、ジアミノスチルベンヘキサスルホン酸の誘導体、4,4’-ジアミノ-2,2’-スチルベンジスルホン酸、4 4’-ビス(ベンゾオキサゾリル)-シス-スチルベン、2 5-ビス(ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェン、5-[(4-アニリノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)アミノ]-2-[(E)-2-[4-[(4-アニリノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)アミノ]-2-スルホナトフェニル]エテニル]ベンゼンスルホネート(ロイコホールPC)及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0083】
本発明の別の実施形態によれば、基材は、生物活性分子、例えば酵素、pH又は温度の変化に敏感な呈色指示薬、蛍光物質、分散剤、粉砕助剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、潤滑剤、消泡剤、染料、防腐剤、pH調整剤、又は前述の添加剤の任意の混合物などの添加剤を含む。
【0084】
さらに別の実施形態によれば、基材は、カオリン、シリカ、タルク、沈降炭酸カルシウム(PCC)、粉砕天然炭酸カルシウム(GNCC)、改質炭酸カルシウム(MCC)又はそれらの混合物などのミネラルフィラー材料を含む。
【0085】
本発明の意味における「粉砕天然炭酸カルシウム」(GNCC)は、石灰石、大理石又はチョークなどの天然源から得られ、例えば、サイクロン若しくは分級機による粉砕、篩分け及び/又は分別などの湿式及び/又は乾式処理によって処理される炭酸カルシウムである。
【0086】
本発明の意味における「改質炭酸カルシウム」(MCC)は、内部構造改質又は表面反応生成物、すなわち「表面反応炭酸カルシウム」を有する粉砕天然又は沈降炭酸カルシウム(すなわち、GNCC若しくはPCC)を特徴とし得る。表面反応炭酸カルシウムは、炭酸カルシウム及び酸のアニオンからなる水不溶性、好ましくは少なくとも部分的に結晶性のカルシウム塩をその表面に含む材料である。好ましくは、不溶性カルシウム塩は、炭酸カルシウムの少なくとも一部の表面から延伸する。前記アニオンと前記少なくとも部分的に結晶性のカルシウム塩を形成するカルシウムイオンは、主に出発炭酸カルシウム材料を起源とする。MCCは、例えば、US2012/0031576A1、WO2009/074492A1、EP2264109A1、WO00/39222A1又はEP2264108A1に記載されている。
【0087】
本発明の意味における「沈降炭酸カルシウム」(PCC)は、水性、半乾燥若しくは湿潤環境での二酸化炭素と石灰との反応後の沈殿により、又は水中のカルシウムイオン源及び炭酸イオン源の沈殿により得られる合成材料である。沈降炭酸カルシウムは、バテライト、カルサイト又はアラゴナイトの結晶形態を有し得る。好適なPCCは、例えば、EP2447213A1、EP2524898A1、EP2371766A1、EP1712597A1、EP1712523A1又はWO2013/142473A1に記載されている。
【0088】
いくつかの実施形態では、基材は、コーティング層も含み得る。本発明の目的のために、「コーティング層」という用語は、基材の片面に主に残るコーティング配合物から形成される、作成される、調製されるなどした、層、被覆、フィルム、膜などを指す。コーティング層は、基材の表面と直接接触することができ、又は基材が1つ以上のプレコーティング層及び/若しくはバリア層を含む場合、トッププレコーティング層又はバリア層のそれぞれと直接接触することができる。
【0089】
一実施形態によれば、基材は、それぞれが基材の総重量に基づいて、少なくとも0.001重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%、さらにより好ましくは少なくとも1重量%、最も好ましくは少なくとも1.2重量%の量の蛍光増白剤を添加剤として含むコーティング層を含む。別の実施形態では、蛍光増白剤は、それぞれが基材の総重量に基づいて、0.001~15重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.5~8重量%、さらにより好ましくは1~6重量%、最も好ましくは1.2~4重量%の量で存在する。
【0090】
別の実施形態によれば、基材は、生物活性分子、例えば、酵素、pH若しくは温度の変化に影響されやすい呈色指示薬、蛍光物質、分散剤、粉砕助剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、潤滑剤、消泡剤、染料、防腐剤、pH調整剤又はそれらの任意の混合物などの添加剤を含むコーティング層を有する。
【0091】
さらに別の実施形態によれば、基材は、カオリン、シリカ、タルク、沈降炭酸カルシウム、粉砕炭酸カルシウム、改質炭酸カルシウム又はそれらの混合物などの添加剤としてミネラルフィラー材料を含むコーティング層を含む。
【0092】
別の実施形態では、基材は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、セルロースエーテル、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ポリオキサゾリン、ポリビニルアセトアミド、部分加水分解されたポリ酢酸ビニル/ビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、スルホン化又はリン酸化ポリエステル及びポリスチレン、カゼイン、ゼイン、アルブミン、キチン、キトサン、デキストラン、ペクチン、コラーゲン誘導体、コロディアン、寒天、クズウコン、グアー、カラギーナン、デンプン、トラガカント、キサンタン、ラムサン、ポリ(スチレン-co-ブタジエン)、ポリウレタンラテックス、ポリエステルラテックス、ポリ(n-ブチルアクリレート)、ポリ(n-ブチルメタクリレート)、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、n-ブチルアクリレートとエチルアクリレートとのコポリマー、酢酸ビニルとn-ブチルアクリレートとのコポリマーなど並びにそれらの混合物、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のホモポリマー又はコポリマー、イタコン酸及び酸エステル、例えばエチルアクリレート、ブチルアクリレート、スチレン、非置換若しくは置換塩化ビニル、酢酸ビニル、エチレン、ブタジエン、アクリルアミド及びアクリロニトリル、シリコーン樹脂、水希釈性アルキド樹脂、アクリル/アルキド樹脂の組み合わせなど、アマニ油などの天然油、並びにそれらの混合物などのポリマーを添加剤として含むコーティング層を含む。
【0093】
本発明者らは、潮解性塩、量子ドット及び酸又はその塩のみが、所望の水不溶性量子ドット含有パターンを生成するのに十分であるため、本発明の方法によって得ることができるパターンが、これらの基材がミネラルフィラー含有コーティングを有するか否か、又は任意の種類の内部ミネラルフィラーを含有するか否かとは無関係に、前述の基材のいずれかを用いて生成され得ることを見出した。したがって、一実施形態では、使用される基材は、ミネラルフィラーコーティング及び/又は内部ミネラルフィラーを含有せず、好ましくは、基材は、ミネラルフィラーコーティング及び/又は内部ミネラルフィラーを含有しない紙基材である。
【0094】
一実施形態によれば、基材は、塩化可能なアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物を含有しない。本発明の意味における「塩化可能な」化合物は、酸と反応して塩を形成することができる化合物として定義される。塩化可能な化合物の例は、アルカリ若しくはアルカリ土類酸化物、水酸化物、アルコキシド、メチルカーボネート、ヒドロキシカーボネート、重炭酸塩又は炭酸塩である。
【0095】
したがって、別の実施形態では、基材は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属アルコキシド、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属メチルカーボネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属ヒドロキシカーボネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属重炭酸塩、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属炭酸塩、又はそれらの混合物を含有しない。別の実施形態によれば、基材は炭酸カルシウム含有材料を含有しない。
【0096】
<(B)潮解性塩>
【0097】
本発明の方法のステップ(b)によれば、潮解性塩が提供される。潮解性塩は、イオン性化合物であり、したがってカチオンを含む。
【0098】
すでに前述したように、潮解性塩という用語は、水分に対して高い親和性を有し、物質が溶解するまで大気から気体の水分子を収集して、塩と水との混合物又は塩の水溶液を形成することができる。
【0099】
一実施形態では、潮解性塩は、14g/m3の含水量を有する雰囲気中に20℃で24時間保存された場合、少なくとも18gのH2O/mol塩、すなわち1molのH2O/mol塩の水を大気から吸収する。
【0100】
別の実施形態では、本発明の方法のステップ(b)で提供される潮解性塩は、水溶性塩である。
【0101】
本発明の方法で使用される潮解性塩はカチオンを含み、前記カチオン及び工程(d)で提供される酸又はその塩のアニオンは、水不溶性塩を形成することができる。当業者は、所望の水不溶性塩を形成することができるように適切なカチオン/アニオンのペアを選択することに精通している。
【0102】
一実施形態では、前記カチオンは、金属カチオン、好ましくは二価又は三価金属カチオン、より好ましくは二価金属カチオン、最も好ましくはCa2+である。
【0103】
別の実施形態によれば、潮解性塩は、塩素酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択され、好ましくは塩素酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、クエン酸塩、酢酸塩並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択され、より好ましくは、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、塩素酸カルシウム、ヨウ化コバルト、塩素酸銅、硫酸マンガン、硫酸第二スズ、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化銅、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化銅、臭化亜鉛、臭化アルミニウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸銀、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸鉄、酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸アルミニウム、並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択され、最も好ましくは、潮解性塩は塩化カルシウムである。
【0104】
本発明の目的のために、潮解性塩は、対応する機器と適合する任意の形態で提供され得る。それは、そのままの形態(固体及び液体の物理的状態を含む)又は組成物の形態で、好ましくは液体組成物として提供され得る。
【0105】
したがって、好ましい実施形態では、ステップ(b)の潮解性塩は、液体組成物の形態で、より好ましくは水性組成物の形態で提供される。好ましくは、前記液体又は水性組成物は、懸濁液又は溶液、より好ましくは溶液である。
【0106】
特に好ましい実施形態では、潮解性塩は、潮解性塩を含む水溶液として提供され、第1の溶媒は水であり、任意選択的に、第2の溶媒は有機溶媒である。別の特に好ましい実施形態では、潮解性塩は、潮解性塩を含む水溶液として提供され、第1の溶媒は水であり、第2の溶媒は有機溶媒である。別の実施形態では、潮解性塩は、潮解性塩及び有機溶媒を含む溶液として提供される。
【0107】
前述の実施形態のいずれかにおいて、有機溶媒は、脂肪族アルコール、4~14個の炭素原子を有するエーテル及びジエーテル、グリコール、アルコキシル化グリコール、グリコールエーテル、アルコキシル化芳香族アルコール、芳香族アルコール、並びにそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましい実施形態によれば、溶媒は、エチレングリコール、メタノール、エタノール、プロパノール又はそれらの混合物であり、最も好ましくはエタノールである。
【0108】
潮解性塩が液体組成物の形態で、例えば、懸濁液又は溶液(水溶液を含む)として提供される場合、潮解性塩は、それぞれが前記液体組成物の総重量に基づいて、0.1~100重量%、好ましくは1~80重量%、より好ましくは3~60重量%、最も好ましくは10~50重量%の量で存在し得る。
【0109】
特に好ましい実施形態では、潮解性塩は、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、塩素酸カルシウム、ヨウ化コバルト、塩素酸銅、硫酸マンガン、硫酸第二スズ、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化銅、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化銅、臭化亜鉛、臭化アルミニウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸銀、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸鉄、酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸アルミニウム並びにそれらの混合物及び水和物からなる群から選択され、最も好ましくは塩化カルシウムであり、潮解性塩は、潮解性塩を含む水溶液として提供され、第1の溶媒は水であり、第2の溶媒は有機溶媒であり、好ましくはエチレングリコール、メタノール、エタノール、プロパノール、又はそれらの混合物から選択され、最も好ましくはエタノールである。
【0110】
<(C)量子ドット>
【0111】
本発明による方法で使用されるインク成分は、量子ドット(QD)をさらに含む。
【0112】
当業者は、量子ドットという用語に精通している。「量子ドット」は、離散化された電子状態を示す多原子(好ましくはナノサイズ)構造である。これらの構造はサイズが小さいため、自然に発生する原子又は分子と一致する量子力学的特性を有する。したがって、量子ドットは、人工原子と呼ばれることもある。例えば、量子ドットは、電気又は光による励起時に特定の周波数の光を放出できる。これらの周波数は、サイズ、形状及び素材を変えることで精密に調整することができる。
【0113】
原則として、本発明は、特定のタイプ又はクラスの量子ドットに限定されず、したがって、一実施形態では、量子ドットは、金属ベースの量子ドット、炭素量子ドット、ペプチドベースの量子ドット及びそれらの混合物から選択され得る。
【0114】
より具体的には、本発明による方法で使用するのに好適な量子ドットには、GaP、GaAs、InP、InSb、InAs、GaSb、GaN、AlN、InN、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、BeSe、BeTe、HgS、GaS、GaSe、GaTe、InGaAs、InS、InSe、及びInTe量子ドットが含まれるが、これらに限定されない。
【0115】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、量子ドットは金属ベースの量子ドットである。さらに別の好ましい実施形態では、ステップ(c)で提供される量子ドットは、Cdベースの量子ドットであり、最も好ましくはCdTe量子ドットである。
【0116】
本発明の一実施形態によれば、量子ドットは炭素量子ドットであり、好ましくは、グラフェン量子ドットである。
【0117】
本発明で使用される量子ドットは、対応する機器及び使用されるさらなるインク成分と適合する任意の形態で提供され得る。一般に、量子ドットは、そのままの形態で、又は液体組成物として提供され得る。
【0118】
好ましい実施形態では、ステップ(c)の量子ドットは、液体組成物の形態で提供され、より好ましくは、量子ドットは水性組成物の形態で提供される。好ましくは、前記液体又は水性組成物は、懸濁液又は溶液、より好ましくは溶液である。
【0119】
特に好ましい実施形態では、量子ドットは、前記量子ドットを含む水溶液として提供され、第1の溶媒は水であり、任意選択的に、第2の溶媒は有機溶媒である。別の特に好ましい実施形態では、量子ドットは、前記量子ドットを含む水溶液として提供され、第1の溶媒は水であり、第2の溶媒は有機溶媒である。代替的な実施形態では、量子ドットは、潮解性塩及び有機溶媒を含む溶液の形態で提供される。
【0120】
前述の実施形態のいずれかにおいて、有機溶媒は、脂肪族アルコール、4~14個の炭素原子を有するエーテル及びジエーテル、グリコール、アルコキシル化グリコール、グリコールエーテル、アルコキシル化芳香族アルコール、芳香族アルコール並びにそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましい実施形態によれば、溶媒は、エチレングリコール、メタノール、エタノール、プロパノール又はそれらの混合物であり、最も好ましくはエタノールである。
【0121】
水性環境での性能及び適合性を改善するために、量子ドットが官能化され得る。一実施形態では、量子ドットはCOOH官能化される。したがって、特に好ましい実施形態では、量子ドットは、COOH官能化金属ベースの量子ドット、好ましくはCOOH官能化Cdベースの量子ドット、最も好ましくはCOOH官能化CdTe量子ドットである。
【0122】
量子ドットが液体組成物の形態で、例えば懸濁液又は溶液(水溶液を含む)として提供される場合、量子ドットは、それぞれが液体組成物の総重量に基づいて、20~0.0001重量%、好ましくは5~0.001重量%、より好ましくは1~0.005重量%、さらにより好ましくは0.5~0.01重量%、最も好ましくは0.1~0.01重量%の量で液体組成物中に存在し得る。
【0123】
<(D)酸>
【0124】
本発明による方法のステップ(c)では、酸又はその塩がさらなるインク成分として提供される。
【0125】
本明細書で使用するとき、酸はブレンステッド・ローリー酸であることを意味する、すなわち、NaH2PO4などのプロトン性塩を含むH3O+イオン供与体である。したがって、酸はアニオンを含むか、解離によりアニオンを形成することができる。前記アニオンを含む対応する非プロトン性塩を使用することも可能である。例えば、リン酸(H3PO4)又はリン酸一ナトリウム(NaH2PO4)が酸として使用される場合、原則として、Na3PO4などのその任意の非プロトン性塩も使用可能である。
【0126】
一実施形態によれば、酸は、塩酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、シュウ酸、酒石酸、炭酸、及びそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、酸は、リン酸、シュウ酸、酒石酸及びそれらの混合物からなる群から選択され、最も好ましくは、酸はリン酸である。
【0127】
好ましい実施形態によれば、酸又はその塩は、塩酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、シュウ酸、酒石酸、前述の酸のいずれかの塩、重炭酸リチウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及びそれらの混合物からなる群から選択され、最も好ましくは、酸又はその塩は、リン酸、シュウ酸、酒石酸及びそれらの混合物からなる群から選択される酸である。
【0128】
本発明で使用される酸又はその塩は、対応する機器、及び使用されるさらなるインク成分と適合する任意の形態で提供され得る。一般に、酸又はその塩は、そのままの形態で、又は液体組成物として提供され得る。
【0129】
好ましい実施形態では、ステップ(c)の酸又はその塩は、液体組成物の形態で提供され、より好ましくは酸又はその塩は、水性組成物の形態で提供される。好ましくは、前記液体又は水性組成物は、懸濁液又は溶液、より好ましくは溶液である。
【0130】
特に好ましい実施形態では、酸又はその塩は、前記酸又はその塩を含む水溶液として提供され、第1の溶媒は水であり、任意選択的に、第2の溶媒は有機溶媒である。別の、特に好ましい実施形態では、酸又はその塩は、前記酸又はその塩を含む水溶液として提供され、第1の溶媒は水であり、任意選択的に、第2の溶媒は有機溶媒である。代替的な実施形態では、酸又はその塩は、酸又はその塩及び有機溶媒を含む溶液の形態で提供される。
【0131】
前述の実施形態のいずれかにおいて、有機溶媒は、脂肪族アルコール、4~14個の炭素原子を有するエーテル及びジエーテル、グリコール、アルコキシル化グリコール、グリコールエーテル、アルコキシル化芳香族アルコール、芳香族アルコール、並びにそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましい実施形態によれば、溶媒は、エチレングリコール、メタノール、エタノール、プロパノール、又はそれらの混合物であり、最も好ましくはエタノールである。例示的な一実施形態によれば、酸又はその塩は、好ましくは1:1:1の重量比で、リン酸、水及びエタノールを含む水性組成物の形態で提供される。
【0132】
酸又はその塩が液体組成物の形態で、例えば懸濁液又は溶液(水溶液を含む)として提供される場合、酸又はその塩は、それぞれが液体組成物の総重量に基づいて、0.1~100重量%、好ましくは1~80重量%、より好ましくは3~60重量%、最も好ましくは10~50重量%の量で液体組成物中に存在する。
【0133】
<(E)水不溶性パターンの形成>
【0134】
本発明による方法のステップ(e)では、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及びステップ(d)で提供される酸又はその塩を、潮解性塩、量子ドット、及び酸又はその塩が少なくとも部分的に接触して、前記基材上及び/又は前記基材内に少なくとも1つの水不溶性パターンを形成するように、好適な基材の少なくとも1つの表面領域上に堆積させる。
【0135】
潮解性塩及び酸又はその塩は、潮解性塩のカチオン及び酸又はその塩のアニオンが水不溶性塩を形成できるように選択されることが本発明の要件である。したがって、当業者は、一般的な技術知識に従って、接触させたときに前記水不溶性塩を形成することができるような、適切な潮解性塩、及び適切な酸又はその塩を選択する。さらに、水不溶性塩は当技術分野で既知である。
【0136】
例えば、当業者には、塩化カルシウム及びリン酸が水不溶性リン酸カルシウムを形成することは既知である。同様に、硝酸銀及び塩酸は、水不溶性塩化銀を形成し、塩化カルシウム及び炭酸ナトリウムは、水不溶性炭酸カルシウムを形成し、塩化マグネシウム及び重炭酸ナトリウムは、水不溶性炭酸マグネシウムを形成し、又は塩化カルシウム及びシュウ酸ナトリウムは、水不溶性シュウ酸カルシウムを形成する。
【0137】
当業者は、ステップ(b)~(d)で提供されるインク成分を少なくとも部分的に接触させることにより、基材上及び/又は基材内に水不溶性塩が形成され、潮解性塩のカチオン、量子ドット、及び酸又はその塩のアニオンを含む、所望の水不溶性パターンが構築されると理解する。本発明の方法で形成され得る水不溶性塩の非限定的な例は、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸鉄、リン酸銅、炭酸カルシウム、炭酸鉄、炭酸亜鉛、炭酸銅、塩化銀又はシュウ酸カルシウムである。
【0138】
本発明の方法により得られるパターンは、水不溶性パターンであり、これは、パターン(量子ドットを含む)が水でほとんど洗い流されないこと、又はパターン(量子ドットを含む)が、従来のセキュリティ要素と比較して、水で洗い流すことが少なくともより困難であることを意味する。本発明の水不溶性パターンはまた、機械的ストレスに対しても耐性がある。
【0139】
水不溶性パターンは、任意の事前に選択されたパターンの形態であり得る。一実施形態によれば、水不溶性パターンは、チャネル、バリア、配列、一次元バーコード、二次元バーコード、三次元バーコード、セキュリティマーク、数字、文字、英数字記号、テキスト、ロゴ、画像、形状、点字マーキング又はデザインである。
【0140】
本発明による水不溶性パターンは、基材上、すなわち基材に浸透することなく基材の表面上に形成され得る。例えば、これは、金属などの非多孔質材料の場合であり得る。しかしながら、例えば、紙などの透過性基材のバルクへの堆積処理組成物の吸収後に、水不溶性パターンが基材内に形成されることもあり得る。水不溶性パターンはまた、基材内及び基材の表面上の両方に形成され得る。
【0141】
一実施形態では、水不溶性パターンは基材上に形成される。別の実施形態によれば、水不溶性パターンは、基材内に形成される。好ましい実施形態によれば、水不溶性パターンは、基材上及び基材内に形成される。
【0142】
水不溶性パターンのネットワークの一部を形成する量子ドットは、例えば、特定の波長でのパターンの検出を可能にするが、その濃度は非常に低いため、それらは、エネルギー分散型X線分析(EDS)などの確立された分析方法では検出できない。
【0143】
本発明者らは、基材の色及び水不溶性パターンの色が同じ又は類似している場合、基材上又は基材内に隠れたパターンを形成できることも見出した。理論に束縛されることなく、本発明者らは、水不溶性パターン及び基材の周囲表面の異なる光散乱特性により、水不溶性パターンは、基材の表面に対して第1の角度で見たときに視認できず、基材の表面に対して第2の角度から見たときに視認できると考えている。
【0144】
したがって、一実施形態によれば、水不溶性パターンは、基材の表面に対して80°~100°、好ましくは約90°の角度で見たときに視認できず、基材の表面に対して10°~50°、好ましくは20~30°の角度で見たときに視認できる。好ましくは、水不溶性パターンは、周囲光下で見られる。視角が定義される基材の表面は、水不溶性パターンが適用される表面である。別の実施形態によれば、水不溶性パターンは、周囲光下で基材の表面に対して第1の角度で見たときに、ヒトの裸眼又は肉眼では視認できず、周囲光下で基材の表面に対して第2の角度で見たときに、ヒトの裸眼又は肉眼で視認することができる。
【0145】
さらに別の実施形態によれば、水不溶性パターンは、基材の表面に対して80°~100°、好ましくは約90°の角度で照明された際に視認できず、基材の表面に対して10°~50°、好ましくは20~30°の角度で照明されると視認できる。さらに別の実施形態では、水不溶性パターンは、基材の表面に対して第1の角度で照明された場合、ヒトの裸眼又は肉眼で視認できず、基材の表面に対して第2の角度で照明された場合、ヒトの裸眼又は肉眼で視認することができる。
【0146】
前述したように、異なる角度での視覚的検出又は特定の波長での検出が可能である点に加えて、本発明のさらなる利点は、基材の表面上に水不溶性塩が形成されるため、水不溶性パターンがエンボス構造を有し得ることである。これにより、印刷基材上の水不溶性パターンを触覚的に検出できる可能性を提供し得、これは、盲目の人及び弱視のユーザーに有利であり得る。したがって、本発明の方法を使用して、基材上に触覚パターンを作成し得る。例えば、本発明の方法は、触覚画像、触覚図、触覚マップ又は触覚グラフなどの触覚グラフィックスを作成するために使用されてもよく、点字テキストなどの点字マーキングを作るために使用されてもよい。
【0147】
上述したように、各インク成分(すなわち、潮解性塩、量子ドット及び若しくはその塩)は、そのままの形態で、又は好ましくは液体組成物の形態で提供及び堆積され得る。
【0148】
一実施形態では、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩は、液体組成物の形態で提供され(すなわち、ステップ(e)で堆積される)、好ましくはステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及びステップ(d)で提供される酸又はその塩は、液体組成物の形態で提供され、前記液体組成物は、より好ましくは水性組成物である。
【0149】
原則として、ステップ(b)~(d)で提供される成分を、考えられる任意の順序で堆積させることが可能である。しかしながら、あらゆる副反応又は量子ドットの破壊を避けるために、潮解性塩及び量子ドットを同時に堆積させるか、潮解性塩及び量子ドットを任意の順序で連続して堆積させる場合、酸又はその塩を堆積させる前に、潮解性塩及び量子ドットを堆積させる。このようにして、潮解性塩の非存在下で、量子ドット及び酸又はその塩が相互作用するのを防止することができる。
【0150】
したがって、本発明の方法のステップ(e)では、潮解性塩及び量子ドットは、(i)好ましくは酸若しくはその塩を堆積させる前に、同時に堆積され、又は潮解性塩及び量子ドットは、(ii)好ましくは酸若しくはその塩を堆積させる前に、任意の順序で連続して堆積される。
【0151】
潮解性塩及び量子ドットを同時に堆積させる場合、好ましくは酸又はその塩を堆積させる前に、潮解性塩及び量子ドットを単一の組成物、例えば液体組成物に一緒に提供する(すなわち堆積させる)ことが可能である。したがって、一実施形態では、ステップ(b)で提供される潮解性塩、及びステップ(c)で提供される量子ドットを、単一の液体組成物として一緒に提供し、潮解性塩及び量子ドットを、好ましくはステップ(d)で提供される酸又はその塩を堆積させる前に、同時に堆積させる。
【0152】
本発明の方法で使用されるインク成分を連続的又は別個に堆積させる場合、これらの成分を堆積させる対応する表面領域は、形状が異なっていてもよい(少なくとも部分的に重なる場合)。
【0153】
したがって、潮解性塩又は量子ドットを含む液体組成物に関して本明細書で議論される詳細及び実施形態は、ステップ(b)の潮解性塩及びステップ(c)の量子ドットの両方を含む組成物に適用される。
【0154】
好ましい実施形態では、ステップ(b)の潮解性塩、及びステップ(c)の量子ドットは、単一の液体組成物で一緒に提供され、潮解性塩及び量子ドットを、好ましくはステップ(d)で提供される酸又はその塩を堆積させる前に、同時に堆積させ、液体組成物は、潮解性塩、量子ドット、水である第1の溶媒、及び有機溶媒である第2の溶媒を含む水溶液である。
【0155】
本発明の方法の例示的な実施形態では、ステップ(b)で提供される潮解性塩及びステップ(c)で提供される量子ドットを、単一の液体組成物で一緒に提供し、潮解性塩及び量子ドットを、好ましくはステップ(d)で提供される酸又はその塩を堆積させる前に、同時に堆積させ、液体組成物は、潮解性塩、量子ドット、水である第1の溶媒及び有機溶媒である第2の溶媒を含む水溶液であり、潮解性塩は、水溶性Ca2+塩であり、量子ドットは、Cdベースの量子ドット、好ましくはCdTe量子ドットであり、酸はリン酸であり、有機溶媒はエタノールである。
【0156】
特に好ましい実施形態では、有機溶媒は、脂肪族アルコール、4~14個の炭素原子を有するエーテル及びジエーテル、グリコール、アルコキシル化グリコール、グリコールエーテル、アルコキシル化芳香族アルコール、芳香族アルコール並びにそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましい実施形態によれば、溶媒は、エチレングリコール、メタノール、エタノール、プロパノール又はそれらの混合物であり、最も好ましくはエタノールである。
【0157】
さらに別の実施形態によれば、本発明による方法は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属アルコキシド、アルカリ金属若しくはアルカリ金属土類メチルカーボネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属ヒドロキシカーボネート、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属重炭酸塩、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属炭酸塩又はそれらの混合物を堆積させるステップを含まない。
【0158】
一般に、本発明の成分を基材上に堆積させるために、考えられる任意の技法をステップ(e)で適用し得る。異なるインク成分に対して異なる方法を使用することも可能である。例えば、潮解性塩及び量子ドットを、別々に又は単一の組成物として一緒に、インクジェット印刷によって堆積させ、スプレーコーティングを使用して酸又はその塩を堆積させることが可能である。
【0159】
ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を堆積させるための好適な技法には、電子シリンジ分注、スプレーコーティング、インクジェット印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、プロット、コンタクトスタンピング、グラビア印刷、パウダーコーティング、スピンコーティング、リバースグラビアコーティング、スロットコーティング、カーテンコーティング、スライドベッドコーティング、フィルムプレス、メタリングフィルムプレス、ブレードコーティング、ブラシコーティング、及び/又はペンシルが含まれる。
【0160】
好ましい実施形態では、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を、インクジェット印刷又はスプレーコーティングによって、好ましくはインクジェット印刷によって堆積させる。
【0161】
より好ましい実施形態では、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を、インクジェット印刷によって堆積させ、液滴間隔は1000μm以下である。
【0162】
別の好ましい実施形態によれば、前記液滴間隔は、10nm~500μm、好ましくは100nm~300μm、より好ましくは1μm~200μm、最も好ましくは5μm~100μmである。本発明の方法の別の好ましい実施形態によれば、液滴間隔は、800μm未満、より好ましくは600μm未満、さらにより好ましくは400μm未満、最も好ましくは80μm未満である。さらに別の好ましい実施形態によれば、液滴間隔は、500nm未満、より好ましくは300nm未満、さらにより好ましくは200nm未満、最も好ましくは80nm未満である。液滴間隔はゼロにすることもでき、これは、液滴が完全に重なり合うことを意味する。
【0163】
一実施形態では、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩は、液体組成物の形態で提供され、これを、1~250g/m2、好ましくは5~200g/m2、より好ましくは15~150g/m2、最も好ましくは35~65g/m2の量で基材の少なくとも1つの表面領域上に堆積させる。
【0164】
ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩が液体組成物の形態で提供される場合、それらは10μl以下の体積を有する液滴の形態で堆積され得る。一実施形態によれば、液滴は、5nl~10μl、好ましくは10nl~5μl、より好ましくは50nl~2μl、最も好ましくは200nl~750nlの体積を有する。別の実施形態では、液滴は、10μl未満、好ましくは5μl未満、より好ましくは2μl未満、最も好ましくは750nl未満の体積を有する。
【0165】
さらに別の実施形態によれば、液滴は、10fl~500pl、好ましくは100fl~200pl、より好ましくは500fl~100pl、最も好ましくは1pl~30plの体積を有する。別の実施形態によれば、液滴は、1000pl未満、好ましくは600pl未満、より好ましくは200pl未満、さらにより好ましくは100pl未満、最も好ましくは30pl未満の体積を有する。
【0166】
<(F)さらなる態様及び実施形態>
【0167】
本発明による方法は、潮解性塩、量子ドット及び酸又はその塩を少なくとも部分的に接触させて、前記基材上及び/又は基材内に少なくとも1つの水不溶性パターンを形成するように、ステップ(a)で提供された基板上にステップ(b)~(d)で提供された各インク成分を堆積させるステップ(e)を含む。
【0168】
本発明の方法は、さらなるステップを含み得る。例えば、本方法は、ステップ(b)~(d)で提供される成分のうちの1つ以上を基材上に堆積させた後、基材を乾燥させるステップを含み得る。したがって、一実施形態では、本方法は、ステップ(b)で提供される潮解性塩を堆積させた後、ステップ(c)で提供される量子ドットを堆積させた後、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩を堆積させた後、基材を乾燥するステップをさらに含む。好ましい実施形態では、本方法は、ステップ(b)で提供される潮解性塩を堆積させた後、及びステップ(c)で提供される量子ドット、及びステップ(d)で提供される酸又はその塩を堆積させた後、基材を乾燥するステップを含む。
【0169】
乾燥は、当技術分野で既知の任意の方法によって実施することができ、当業者は、そのプロセス機器に応じて、温度などの乾燥条件を適応させる。例えば、基材は、赤外線乾燥及び/又は対流式乾燥によって乾燥させることができる。乾燥ステップは、室温、すなわち、20℃±2℃又は他の温度で実施され得る。一実施形態によれば、乾燥は、25~150℃、好ましくは50~140℃、より好ましくは75~130℃で実施される。
【0170】
水不溶性パターンが形成された後、使用済みインク成分の残留量を除去するために、少なくとも1つの表面領域を水溶液、好ましくは水で洗浄又はすすいでもよい。基材表面の洗浄又はすすぎは、表面の乾燥の前後に、好ましくは乾燥の前に実施され得る。
【0171】
本発明の方法を使用して、当業者に一般的に既知である1つ以上の添加剤も基材上に堆積させ得る。そのような添加剤は、別々に堆積又は施用させるか、又はそれらは、本発明の方法のステップ(b)~(d)で提供されるインク成分のいずれかと一緒に単一の組成物として堆積させ得る。
【0172】
好適な添加剤には、例えば、印刷インク、顔料インク、着色剤、蛍光染料、リン光染料、紫外線吸収染料、近赤外線吸収染料、サーモクロミック染料、ハロクロミック染料、金属塩、遷移金属塩、磁性粒子及びそれらの混合物が含まれる。そのような追加の化合物は、水不溶性パターンに、特定の光吸収特性、電磁放射反射特性、蛍光特性、リン光特性、磁気特性、電気伝導率、白色度、輝度及び/又は光沢などの追加機能を具備させることができる。
【0173】
したがって、一実施形態では、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩は、液体組成物の形態で提供され、前記組成物は、印刷インク、顔料インク、着色剤、蛍光染料、リン光染料、紫外線吸収染料、近赤外線吸収染料、サーモクロミック染料、ハロクロミック染料、金属塩、遷移金属塩、磁性粒子からなる群から選択される1つ以上の添加剤を含み、より好ましくは、前記液体組成物は水性組成物である。
【0174】
さらに別の実施形態では、ステップ(d)で提供される酸又はその塩は、塩化アルミニウム、塩化鉄、及び炭酸亜鉛からなる群から選択される金属塩又は遷移金属塩をさらに含む液体組成物の形態で提供される。好ましくは、前記金属塩又は遷移金属塩は、前記組成物の総重量に基づいて、0.1~10重量%、より好ましくは0.5~7重量%、最も好ましくは1~5重量%の量で存在する。
【0175】
ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及び/又はステップ(d)で提供される酸若しくはその塩が、液体組成物(上記の液体組成物など)の形態で提供される場合、前記組成物は、分散剤、界面活性剤、レオロジー調整剤、潤滑剤、消泡剤、殺生物剤、防腐剤、pH調整剤、カオリン、シリカ及びタルクなどのミネラルフィラー材料、又は高分子バインダーからなる群から選択される1つ以上の薬剤をさらに含み得る。
【0176】
本発明による方法は、水不溶性パターンの上に保護層及び/又は印刷層を施用するステップをさらに含み得る。前記保護層は、水不溶性パターンを望ましくない環境影響又は機械的摩耗から保護するのに好適な任意の材料から作製することができる。好適な材料の例は、樹脂、ワニス、シリコーン、ポリマー、金属箔、又はセルロースベースの材料である。
【0177】
保護層は、当技術分野において既知であり、保護層の材料に好適な任意の方法によって基材に施用されてもよい。好適な方法は、例えば、エアナイフコーティング、静電コーティング、メタリングサイズプレス、フィルムコーティング、スプレーコーティング、押出コーティング、ワイヤーロッドコーティング、スロットコーティング、スライドホッパーコーティング、グラビア、カーテンコーティング、高速コーティング、積層、ラッカー塗装、印刷、接着剤などである。
【0178】
本発明は、基材上に(例えばインクジェット印刷により)堆積されて水不溶性パターンを形成する3つの異なるインク成分を利用する。これらの成分には、ステップ(b)で提供される潮解性塩、ステップ(c)で提供される量子ドット、及びステップ(d)で提供される酸又はその塩が含まれる。したがって、本発明の別の態様は、これらの個々の成分のそれぞれをセット要素として含む印刷インクセットに関する。本発明の意味におけるセット要素は、インク容器又はインクカートリッジであり得る。
【0179】
より正確には、一態様は、基材上及び/又は基材内に水不溶性パターンを生成するための印刷インクセットであって、
(i)カチオンを含む潮解性塩を含有する第1のセット要素;
(ii)量子ドットを含有する第2のセット要素;及び
(iii)アニオンを含むか、若しくはアニオンを形成することができる酸又は前記アニオンを含むその塩を含有する第3のセット要素;
を含み、潮解性塩及び酸又はその塩が、潮解性塩のカチオン及び酸又はその塩のアニオンが水不溶性塩を形成できるように選択されることを特徴とする、印刷インクセットに関する。
【0180】
さらに別の態様は、基材上及び/又は基材内に水不溶性パターンを生成するための印刷インクセットであって、
(i)カチオンを含む潮解性塩及び量子ドットを含有する第1のセット要素;並びに
(ii)アニオンを含む若しくはアニオンを形成することができる酸、又は前記アニオンを含むその塩を含有する第2のセット要素;
を含み、潮解性塩及び酸又はその塩が、潮解性塩のカチオン及び酸又はその塩のアニオンが水不溶性塩を形成できるように選択されることを特徴とする、印刷インクセットに関する。
【0181】
本発明の一実施形態では、印刷インクセットは、インクジェット印刷で使用するための印刷インクセットである。
【0182】
本発明の方法は、多数の基材で使用され得る(好適な基材を開示する項を参照)。したがって、本発明の別の態様は、本発明の方法により得ることができる水溶性パターンを含む基材に関する。
【0183】
特に、本発明者らが、本発明の方法のステップ(b)~(d)で提供される成分(すなわち潮解性塩、量子ドット、及び酸又はその塩)のみが所望の水不溶性パターンを生成するのに十分であることを見出したため、基材は、ミネラルフィラーコーティング、及び/又は内部ミネラルフィラーを含有しない紙基材であってよい。したがって、基材の特定の表面特徴に限定されることなく、種々の基材上に水不溶性パターンを形成することが可能である。本発明による方法はさらに、多孔質基材内に水不溶性パターンを形成することを可能にし、したがって、従来の印刷及びコーティング技術などの基材の表面に限定されない。したがって、潜在的な偽造者による再現が容易ではない水不溶性パターンを形成することができる。
【0184】
形成されたパターンは、触覚、表面粗さ、光沢、光吸収、電磁放射反射、蛍光、リン光、磁気特性、電気伝導率、白色度、及び/又は輝度の点で、基材の未処理の外部表面とは異なり得る。これらの識別可能な特性を利用して、パターンを視覚的、触覚的に、又は適切な検出器を使用して、例えばUV線又は近赤外線下の代替条件で検出し、それを機械可読にすることができる。したがって、本発明の方法はまた、チケット又は文書を、目立たない方法で永続的に有効化又は無効化するために使用され得る。
【0185】
一般に、本発明の水不溶性パターンを含む処理済み基材は、偽造、模倣又は複製の対象となる任意の製品に用いてもよい。さらに、本発明の水不溶性パターンを含む基材は、非セキュリティ製品又は装飾製品に用いてもよい。本発明の水不溶性パターンを含む基材は、分析装置又は診断装置に用いてもよい。
【0186】
基材に応じて、可能な用途には、印刷用途、分析用途、診断用途、バイオアッセイ、化学用途、電気用途、セキュリティデバイス、オバート又はコバートのセキュリティ要素、ブランド保護、マイクロレタリング、マイクロイメージング、装飾、芸術又は視覚用途、及び包装用途が含まれる。したがって、可能な製品には、バイオアッセイ用ツール、マイクロ流体デバイス、ラボオンチップデバイス、紙ベースの分析及び/又は診断ツール、分離型プラットフォーム、印刷媒体、包装材料、データ記憶装置、セキュリティ文書、非セキュア文書、装飾用基材、薬物、タバコ製品、ボトル、衣服、容器、スポーツ用品、玩具、ゲーム、携帯電話、CD、DVD、ブルーレイディスク、機械、工具、自動車部品、ステッカー、ラベル、タグ、ポスター、パスポート、身分証明書、運転免許証、銀行カード、クレジットカード、債券、チケット、バウチャー、郵便切手、税印、紙幣、証明書、ブランド認証タグ、名刺、グリーティングカード、触覚文書、又は壁紙が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【
図1】上面視(約90°)からの周囲光下での、本発明の水不溶性パターンで処理した基材を示す。
【
図2】UV光(365nm)下での、本発明の水不溶性パターンで処理した同じ基材を示す。
【
図3】上面視(約90°)からの周囲光下での、本発明の水不溶性パターンで処理した基材を示す。
【
図4】UV光(365nm)下での、本発明の水不溶性パターンで処理した同じ基材を示す。
【実施例】
【0188】
本発明の範囲及び利益は、本発明の実施形態を例示することを意図した以下の実施例に基づいてよりよく理解され得る。
【0189】
<(A)分析方法>
【0190】
デジタル写真及び照明
調製したサンプルの画像は、Canon Macroレンズ、EF-S 60mm、1:2.8USM(Canon Japan)を装備したEOS 600Dデジタルカメラで記録した。
【0191】
周囲光条件下での照明には、RB 5055 HF照明ユニット(Kaiser Fototechnik GmbH&Co.KG,Germany)を使用した。調製したサンプルは、照明ユニットの中央テーブルの中央に配置し、基材とランプの中心との間の距離が約50cmである2つのランプのうちの1つで照明した。UV光下での照明のために、365nmにピーク波長を有する手持ち式UV光MR96Bミニライト(MR Chemie GmbH,Germany)を使用した。
【0192】
<エネルギー分散型X線(EDS)分析>
【0193】
調製したサンプルを、Sigma VP電界放出型走査電子顕微鏡(Carl Zeiss AG,Germany)で検査した。後方散乱電子画像は、サンプルの化学組成の違いを視覚化するために、約50Paのチャンバー圧力で、COMPOモードにより記録した。存在する元素の原子量が重いほど、画像内の粒子が明るくなる。
【0194】
エネルギー分散型X線画像を、Oxford X-Max SDD検出器(Silicon Drift Detector)、50mm2(Oxford Instruments PLC,United Kingdom)及びチャンバー圧約40~90Pa(表面では40~60Pa/断面積で約90Pa)で記録した。ドットマッピング及びEDS分析は、エネルギー分散型X線検出器(EDS)で行った。EDS検出器は、サンプルの化学元素を決定し、サンプル内の元素の位置を示すことができる。
【0195】
<(B)実施例>
【0196】
以下の実施例は、いかなる形であれ、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0197】
<材料>
【0198】
<基材>
Security Paper Mill(SPM),Praha,Czech Republicからの商業用ペーパータイプ「ANTIK」を使用した。坪量が130g/m2のパルプベースの表面がやや黄色がかったアートペーパーである。
【0199】
<インク組成A:潮解性塩及び量子ドット>
35重量%の塩化カルシウム、10重量%のエタノール及び55重量%の水を含有する水性インク組成物を調製した。
【0200】
8gの上記の塩化カルシウムインク組成物を、COOH官能基で官能化された0.005gのCdTeコア型量子ドットと混合した(Sigma-Aldrichの#777951-25MG)。
【0201】
<インク組成B:潮解性塩及び量子ドット>
35重量%の塩化カルシウム、10重量%のエタノール及び55重量%の水を含有する水性インク組成物を調製した。
【0202】
7.9gの上記の塩化カルシウムインク組成物を、水溶媒(Strem Chemicals、Inc.の品目番号:06-0336、100mL、CAS 7735-18-5、ロット番号21418300)で調製した2.4gの青色発光グラフェン量子ドット(BGQD)と混合した。
【0203】
<インク組成物C:酸>
40重量%のリン酸、24重量%のエタノール及び36重量%の水を含有する水性インク組成物を調製した。
【0204】
<パターン化基材の調製及び結果>
【0205】
30μmの液滴間隔で10plの液滴サイズを備えたインクジェットプリンタ(Dimatix DMP 2831,Fujifilm Dimatix Inc.,USA)を使用した。
【0206】
[実施例1]
【0207】
上記のインク組成物A(潮解性塩及びCdTe量子ドット)を用いて、最初に所定のパターンの形態で基材をインクジェット印刷した。15分後、インク組成物C(酸)を、同じ基材上に同じパターンの形態及び同じ位置でインクジェット印刷した。
【0208】
形成された水不溶性パターンは、周囲光条件下での基材の上面視(約90°)から肉眼ではほとんど視認できなかった(
図1を参照)。量子ドットの元素(Cd、Te)は、EDSで検出できなかった。しかしながら、印刷されたパターンは、365nmのUV光下で視認できた(赤色、蛍光)(
図2を参照)。
【0209】
[実施例2]
【0210】
上記のインク組成物B(潮解性塩及びグラフェン量子ドット)を用いて、最初に所定のパターンの形態で基材をインクジェット印刷した。15分後、インク組成物C(酸)を、同じ基材上に同じパターンの形態及び同じ位置でインクジェット印刷した。
【0211】
形成された水不溶性パターンは、周囲光条件下での基材の上面視(約90°)から肉眼ではほとんど視認できなかった(
図3を参照)。印刷されたパターンは、365nmのUV光下で視認できた(青色、蛍光)(
図4を参照)。