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特許7220186チタン粉の製造方法、スポンジチタンの製造方法、チタン粉および、ガス収集装置
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  • 特許-チタン粉の製造方法、スポンジチタンの製造方法、チタン粉および、ガス収集装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】チタン粉の製造方法、スポンジチタンの製造方法、チタン粉および、ガス収集装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20230202BHJP
   C22B 5/04 20060101ALI20230202BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230202BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20230202BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C22B5/04
B22F1/00 R
B22F1/14
B22F9/24 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020135919
(22)【出願日】2020-08-11
(62)【分割の表示】P 2019034962の分割
【原出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020180380
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「チタン薄板の革新的低コスト化技術開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516893(JP,A)
【文献】特開2001-181752(JP,A)
【文献】特開2005-179757(JP,A)
【文献】特開2004-169139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製還元反応容器内に貯留させた溶融金属マグネシウムに四塩化チタンを供給し、クロール法により四塩化チタンを還元するプロセスにおいて、
前記金属製還元反応容器の内部空間から粉体を含む内部ガスを収集するガス収集工程と、
前記内部ガスに存在するチタン粉を含む粉体を該内部ガスから分離する粉体分離工程

前記ガス収集工程での前記内部ガスの収集を、四塩化チタンの累積供給量(質量基準)が総供給予定量の0%~75%の間の少なくとも一部の時期に行う、チタン粉の製造方法。
【請求項2】
粉体分離工程で、前記内部ガスの移送中に該内部ガス中の前記粉体を捕集する乾式分離を用いる、請求項1に記載のチタン粉の製造方法。
【請求項3】
粉体分離工程の後、前記粉体を酸で処理し、チタン粉と異なる別種粉末の少なくとも一部を溶解して除去する酸処理工程をさらに有する、請求項1又は2に記載のチタン粉の製造方法。
【請求項4】
前記別種粉末が、金属マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの一種以上を含む、請求項3に記載のチタン粉の製造方法。
【請求項5】
前記酸を、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも一種とする、請求項3又は4に記載のチタン粉の製造方法。
【請求項6】
前記金属製還元反応容器内での四塩化チタンの還元によるスポンジチタン塊の製造とともに行う、請求項1~5のいずれか一項に記載のチタン粉の製造方法。
【請求項7】
スポンジチタンを製造する方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載のチタン粉の製造方法を伴う、スポンジチタンの製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のチタン粉の製造方法に用いられ、四塩化チタンを還元する金属製還元反応容器の内部空間から、内部ガスを収集するガス収集装置であって、
前記内部空間に連通し、該内部空間からの内部ガスを通すガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられて、内部ガス中の粉体を捕集する粉体捕集部とを有してなる、ガス収集装置。
【請求項9】
金属製還元反応容器に接続され、内部に前記ガス流路が形成された管状流路部材を有し、前記管状流路部材の軸線方向の一部に、前記粉体捕集部が設けられてなる、請求項8に記載のガス収集装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえばスポンジチタンの製造等における、金属製還元反応容器内での四塩化チタンの還元に際して、チタン粉を製造する方法ならびに、スポンジチタンの製造方法、チタン粉およびガス収集装置に関するものである。特にこの発明は、新規な手法にて、チタン粉を製造することのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
スポンジチタンを製造するに当り、たとえば原料鉱石から生成した粗四塩化チタンを連続蒸留して得られる精製四塩化チタン等の四塩化チタンを金属製還元反応容器内に供給し、金属製還元反応容器内で当該四塩化チタンを還元する還元プロセスが行われる。
【0003】
工業的に利用されることが多いクロール法による還元プロセスでは、たとえば、金属製還元反応容器内に予め溶融金属マグネシウムを貯留させ、その溶融金属マグネシウム上に四塩化チタンをある程度の時間をかけて継続的に滴下する。この金属マグネシウムは還元材として働いて、四塩化チタンを金属チタンに還元する。かかる金属チタンはスポンジ状の大塊として得られ、当該スポンジチタン塊を破砕したものは一般にスポンジチタンと称されている。四塩化チタンの還元では副生物として塩化マグネシウムが生成される。
【0004】
ここで、金属製還元反応容器内では、より詳細には、次のような反応が起こると考えられる。上方側から滴下された四塩化チタンは浴面付近で金属マグネシウムと反応し、そこで金属チタン及び塩化マグネシウムが生成される。浴面付近で生成したこの塩化マグネシウムは金属マグネシウムとの比重の差に起因して浴面より深いほうに沈降する一方で、金属マグネシウムは浴面に向かって浮上する。この結果、通常は、浴面には金属マグネシウムが存在することになり、当該浴面付近で金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応が継続して起こる。
【0005】
なお、この種のスポンジチタンの製造に関する技術としては、特許文献1に記載されたもの等がある。特許文献1には、「スポンジチタン塊全体ひいてはスポンジチタンの平均塩素濃度を低減する」ことを目的として、「クロール法にて反応容器中の溶融マグネシウム上に四塩化チタンを供給してスポンジチタン塊を生成させるスポンジチタンの製造方法であって、生成する少なくとも一部のスポンジチタンは、反応浴面の金属マグネシウムが枯渇して塩化マグネシウム中にチタン低級塩化物が溶解し始めた時点からt時間の間、四塩化チタンの供給を続けて生成するスポンジチタンの製造方法」が提案されている。
【0006】
このような四塩化チタンの還元プロセスの詳細なメカニズムについては、これまでに、たとえば特許文献2に記載されているような知見が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/110617号
【文献】特開2003-306726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、主として金属チタンを含有するチタン粉は一般に、上記の還元プロセスで得られるスポンジチタンや、チタン切粉から、水素化脱水素法等を用いて製造されている。チタン粉をこれ以外の方法によっても製造することができれば、その製造に由来する特有の性状によっては用途等が広がる可能性もある。
【0009】
この発明の目的は、新規な手法にて、チタン粉を製造することのできるチタン粉の製造方法、スポンジチタンの製造方法、チタン粉および、ガス収集装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、金属製還元反応容器内での四塩化チタンの還元反応メカニズムについて各種の調査を行った。その結果、還元反応を行う工程の間に金属製還元反応容器内の浴面上の内部空間から内部ガスを収集し、この内部ガスに存在する粉体からチタン粉が得られることを発明者は見出した。
【0011】
かかる知見の下、この発明のチタン粉の製造方法は、金属製還元反応容器内で四塩化チタンを還元するプロセスにおいて、前記金属製還元反応容器の内部空間から粉体を含む内部ガスを収集するガス収集工程と、前記内部ガスに存在するチタン粉を含む粉体を該内部ガスから分離する粉体分離工程と、を有するものである。
【0012】
ここで、粉体分離工程では、前記内部ガスの移送中に該内部ガス中の前記粉体を捕集する乾式分離を用いることが好ましい。
【0013】
またここで、この発明のチタン粉の製造方法は、粉体分離工程の後、前記粉体を酸で処理し、チタン粉と異なる別種粉末の少なくとも一部を溶解して除去する酸処理工程をさらに有することが好ましい。
この場合、前記別種粉末は、金属マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの一種以上を含むことがある。
またこの場合、前記酸を、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも一種とすることが好ましい。
【0014】
この発明のチタン粉の製造方法は、前記金属製還元反応容器内での四塩化チタンの還元によるスポンジチタン塊の製造とともに行うことができる。
【0015】
また、この発明のスポンジチタンの製造方法は、上記のいずれかのチタン粉の製造方法を伴うものである。
【0016】
この発明のチタン粉は、平均粒子径d50が5.0μm以下であるものである。
【0017】
ここで、この発明のチタン粉は、10%粒子径d10が0.7μm~1.0μmであることが好ましい。
またここで、この発明のチタン粉は、平均粒子径d50が2.5μm以下であり、90%粒子径d90が3.0μm~12.0μmであることが好ましい。
【0018】
この発明のガス収集装置は、四塩化チタンを還元する金属製還元反応容器の内部空間から、内部ガスを収集するものであって、前記内部空間に連通し、該内部空間からの内部ガスを通すガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられて、内部ガス中の粉体を捕集する粉体捕集部とを有してなるものである。
【0019】
ここで、この発明のガス収集装置は、金属製還元反応容器に接続され、内部に前記ガス流路が形成された管状流路部材を有し、前記管状流路部材の軸線方向の一部に、前記粉体捕集部が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、新規な手法にて、チタン粉を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の一の実施形態に係るチタン粉の製造方法が行われ得る四塩化チタンの還元プロセスについて示す、金属製還元反応容器の概略断面図である。
図2】この発明の一の実施形態に係るチタン粉の製造方法のガス収集工程で収集した内部ガスを送ることができるガス収集装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、この発明の実施の形態について説明する。
この発明の一の実施形態に係るチタン粉の製造方法は、金属チタン(Ti)を含有するチタン粉を製造する方法であって、金属製還元反応容器内で四塩化チタンを還元する際に、金属製還元反応容器の内部空間から粉体を含む内部ガスを収集するガス収集工程と、その内部ガスに存在するチタン粉を含む粉体を、該内部ガスから分離する粉体分離工程とを有する。
【0023】
ここで、多くの場合は、スポンジチタンを製造する際の四塩化チタンの還元プロセスの間に、上記のチタン粉の製造方法を好適に行うことができる。それ故に、ここではまず四塩化チタンの還元プロセスについて詳説する。
【0024】
(四塩化チタンの還元プロセス)
この還元プロセスでは、一般に、金属製還元反応容器内に四塩化チタンを供給し、金属製還元反応容器内で四塩化チタンを還元してスポンジチタン塊が製造される。
【0025】
四塩化チタン(TiCl4)は、たとえば、精留塔にて精製された後の液体状の四塩化チタン(「精製四塩化チタン」ともいう。)とすることができる。この精製四塩化チタンは、たとえば、チタン鉱石等の原料鉱石を還元して生成される粗四塩化チタンを精留塔で精製して得られるものである。具体的には、原料鉱石をコークスによって高温で還元し、原料鉱石中の酸化チタンを塩素と反応させて粗四塩化チタンとする。粗四塩化チタンは揮発性の他の塩化物等を不純物として含むので、精留塔内で連続蒸留により精製する。それにより、かかる不純物のほとんどが低減された高純度の精製四塩化チタンが得られる。
【0026】
還元プロセスにて四塩化チタンの還元に用いる金属製還元反応容器は、これまでに同様の還元で用いられている公知のものとすることができる。たとえば、図1に模式的に示す金属製還元反応容器1は、内部に溶融金属マグネシウム等の還元材を貯留させる容器本体2と、容器本体2の上方側開口部に取り付けられる蓋部材3と、上方側から浴面Sbに向けて四塩化チタンを供給できるように、蓋部材3に設けられた原料供給管4と、四塩化チタンの還元反応により生成される塩化マグネシウム等を排出する副生物排出管5とを備える。
【0027】
さらにこの金属製還元反応容器1では、蓋部材3に、金属製還元反応容器1の内部空間Siから、後述する内部ガスGiを採取するためのガス採取管6を設けている。ガス採取管6は、圧抜き配管としても機能し得るものである。即ち、圧抜き配管は蓋部材3に別途設けられてもよいしガス採取管6が圧抜き機能を兼ね備えてもよい。
金属製還元反応容器1は通常、図示は省略するが、その周囲に加熱機構や冷却機構等が設けられており、それにより内部が適切な温度に調整される。金属製還元反応容器1は、ステンレスもしくは鋼等からなるものとすることが一般的である。
【0028】
還元プロセスでは、金属製還元反応容器1内に、原料供給管4から上記の四塩化チタンを供給し、ここで四塩化チタンを還元することにより、スポンジチタン塊TSが得られる。
還元プロセスの一例について詳説すると、はじめに、内部を所定の高温に維持した金属製還元反応容器1内に、液体状の溶融金属マグネシウムを貯留させる。そして、この溶融金属マグネシウムより上方側から、その浴面Sb上に、四塩化チタンを滴下すること等により供給する。
【0029】
これにより、浴面Sb付近で、四塩化チタンと金属マグネシウムとが接触し、金属チタンが、副生物としての塩化マグネシウムとともに生成される。浴である溶融マグネシウムと四塩化チタンとの反応(下記式(a))が生じると考えられるが、このとき、浴面Sbより上の領域にて気体どうしの反応もある割合で起こっていると推測される。なお、生成する金属チタンは微粉として金属製還元反応容器1内の内部空間Si中を浮遊しうる。
TiCl4(気、液)+Mg(液)→Ti(固)+MgCl2(液) (a)
TiCl4(気)+Mg(気)→Ti(固)+MgCl2(液) (b)
【0030】
このうち、塩化マグネシウムは、金属マグネシウムに比して比重が大きいことに起因して、浴面Sbから下方側に沈降する。一方、浴中の金属マグネシウムは、相対的に小さな比重の故に、浴面Sbに向かって浮上する。このような塩化マグネシウムと金属マグネシウムとの間の比重差により、浴流れが生じて浴面Sbには金属マグネシウムが位置し、この金属マグネシウムと、滴下される四塩化チタンとの間で反応が継続して起こり、主として浴中でスポンジチタン塊TSが成長する。
【0031】
還元プロセスの序盤及び中盤では、上記式(a)及び(b)の反応が良好に起こるので、金属製還元反応容器1内への四塩化チタンの供給速度をある程度速くすることができる。
一方、還元プロセスで上記の反応が進行して、還元プロセスの終盤になると、浴中の金属マグネシウムが消費されてその量が減少する。また、図1に例示するように、浴中でスポンジチタン塊TSが大きく成長し、このスポンジチタン塊TSの頂部が、四塩化チタンを滴下している浴面Sbに達することがある。これによって、金属マグネシウムがスポンジチタン塊TSにトラップされやすくなるので、金属マグネシウムの量の減少とも相俟って、先述した浴流れによる金属マグネシウムの浮上が妨げられ、金属マグネシウムが浴面Sbに到達するまでに時間がかかる。その結果として、浴面Sb付近での金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応の速度が低下することがある。それ故に、終盤では、金属製還元反応容器1内への四塩化チタンの供給速度を低下させる必要がある場合がある。
【0032】
発明者は、このような還元反応の詳細なメカニズムについて調査したところ、金属製還元反応容器1内で四塩化チタンを還元している間に、金属製還元反応容器1内の浴面Sbよりも上方側の内部空間Siから採取した粉体を含む内部ガスGiに、チタン粉が含まれるとの新たな知見を得た。そして発明者は、このような知見に基いて、次に詳細に述べるようなチタン粉の製造方法を案出した。
【0033】
(チタン粉の製造方法)
この発明の一の実施形態に係るチタン粉の製造方法は、金属製還元反応容器1内で四塩化チタンを還元している間に、その内部空間Siから、粉体を含む内部ガスGiを得るガス収集工程を有する。そして、この内部ガスGiには、チタン粉を含む粉体が存在するので、ガス収集工程の後に、当該粉体を内部ガスGiから分離する粉体分離工程を行う。
【0034】
ガス収集工程では、上記の還元プロセスで、金属製還元反応容器1内に四塩化チタンを供給したときから、四塩化チタンの供給を停止してスポンジチタン塊の回収が終了するまでの間の所定の時期に、内部空間Siから内部ガスGiを収集することができる。
特に、反応序盤及び中盤で、内部空間Siから内部ガスGiを収集することが好ましい。これにより、後述するような小さな粒径のチタン粉を製造しやすくなる。ここで、より具体的には、反応序盤とは、四塩化チタンの累計供給量(質量基準)が総供給予定量の0%~64%のタイミングを指し、反応中盤とは、65%~75%のタイミングを指すこととしてよい。したがって、内部ガスGiは、四塩化チタンの累計供給量が75%になるまで収集してよい。
【0035】
内部ガスGiを収集するに当って具体的には、たとえば、ガス供給管12等で金属製還元反応容器1の内部空間Siにアルゴンガス等の不活性ガスGaを供給して、該不活性ガスで内部ガスGiをガス採取管6から押し出すことができる。
【0036】
金属製還元反応容器1の内部空間Siから収集した内部ガスGiは、図2に例示するようなガス収集装置7に送ることができる。
図示のガス収集装置7は、内部空間Siに連通し、内部空間Siからの内部ガスGiを通すガス流路が形成された管状流路部材としてのガス採取管6と、そのガス流路の一部に設けられて、内部ガスGi中の粉体を捕集する粉体捕集部6aとを有するものである。
【0037】
ここで、粉体捕集部6aは、たとえば、ガス採取管6の所定の領域にわたるステンレス製のフレキシブルホース等とすることができる。粉体捕集部6aは、内部ガスGiに含まれる粉体を捉えることができるものであれば特に限定されず、たとえば、粉体導入部とガス排出部を有する単純な鋼製容器や、フィルターのようなものや、気流分級機のようなものとすることもできる。粉体捕集部は、容器状のもので、内部ガスGiが送り込まれて、そのうちの粉体を蓄積させるとともに、気体を排出させることができる単純なものであってもよい。つまり、外気と遮断できて、所定の高温に耐え得るものであればよい。
これにより、液体を用いない乾式分離として、内部ガスGiがガス採取管6の粉体捕集部6aを通過するに際し、その粉体捕集部6aで内部ガスGi中の粉体が捕集される。
【0038】
なお、このガス収集装置7はガス採取管6の他さらに、内部ガスGiの所要の分析等を行うための、ガス採取管6が接続されるタンク状等の液体接触部8と、液体接触部8の上方側から水を噴出させるノズル部9と、ノズル部9から噴出されて液体接触部8に溜まった液体を、ノズル部9に循環させる液体循環パイプ10と、残りのガスを排出させるガス排出管11とを有する。但し、このような追加の構成は必ずしも必要ではない。
【0039】
あるいは、湿式分離により、内部ガスGiから粉体を分離してもよい。湿式分離の一例としては、上記の液体接触部8に流入した内部ガスGiを、ノズル部9から噴出される液体と接触させる。これにより、内部ガスGiの粉体が液体接触部8にも蓄積するので、液体から粉体を取り出すことにより、粉体を分離することができる。なお、この液体は、たとえば水、具体的には、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、イオン交換水、純水、超純水等とすることができるが、水道水もしくは工業用水で十分である。湿式分離により得られた粉体には、Mg等を含有する後述の別種粉末が比較的多く含まれ得るので、これを除去すること等を目的として、湿式分離で用いる液体を酸性にするか、当該粉体に対して後述する酸処理工程を行ってもよい。但し、このような湿式分離では、チタン粉の水素濃度が高くなる傾向がある。それ故に、用途等によっては、先述の乾式分離のほうが好ましいことがある。また、乾式分離は、湿式分離に比して、粉体中の別種粉末の量が少なくなる点でも優れている。
【0040】
上記の粉体捕集部6aで捕集された粉体には、金属チタンを含有するチタン粉の他、金属マグネシウム及び塩化マグネシウムのうちの一種以上の別種粉末が含まれることがある。これは、還元プロセスにおける金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元は発熱反応であり、金属製還元反応容器1内のマグネシウムが蒸発しやすくなったことによるものと考えられる。なお粉体には、場合によっては、水素化チタン(TiH)の粉末が含まれることもある。
【0041】
粉体捕集部6aで捕集した粉体に、金属マグネシウム(Mg)及び塩化マグネシウム(MgCl2)のうちの一種以上の別種粉末が含まれる場合は、粉体分離工程の後に、粉体を酸で処理し、当該別種粉末の少なくとも一部を溶解させて除去する酸処理工程を行うことが好ましい。
このときに用いる酸としては、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも一種とすることができるが、なかでも、硝酸が、酸化性の酸であることから好ましい。酸化性の酸であれば、チタン粉の表面に安定な酸化被膜が形成されるためである。塩酸もしくは硫酸を用いる場合は、希薄(たとえば濃度5質量%以下)とし、できる限り常温を保持することが望ましい。
【0042】
酸処理工程での酸処理は、たとえば、室温、好ましくは30℃以下で、処理時間15~60分により行うことができる。
【0043】
上述したガス収集工程及び、粉体分離工程、さらに必要に応じて酸処理工程を経ることにより、チタン粉を製造することができる。チタン粉の詳細については後述する。
このようなチタン粉の製造方法は、金属製還元反応容器1内での四塩化チタンの還元による、スポンジチタン塊の製造とともに行うことが好適である。言い換えれば、金属製還元反応容器1内で四塩化チタンを還元して、スポンジチタン塊の製造とともにチタン粉を製造できる。これにより、四塩化チタンの還元により、スポンジチタン塊のみならず、チタン粉も製造することができる。
【0044】
(チタン粉)
以上に述べたようにして製造されたチタン粉は、理由は必ずしも明らかではないが、その粒径が、他の製造方法によるものに比して小さいことが解かった。
具体的には、チタン粉の平均粒子径d50は、5.0μm以下であり、好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは2.5μm以下である。このような小径のチタン粉は、所定の既存の用途又は、新たな用途で有効に用いることができる可能性がある。一方、かかるチタン粉の平均粒子径d50は、たとえば1.0μm以上、典型的には1.5μm以上となることがある。
【0045】
また、チタン粉の10%粒子径d10は、0.7μm~1.0μmであることが好ましい。また、チタン粉の90%粒子径d90は、3.0μm~12.0μmであることが好ましい。また、90%粒子径d90は3.0μm~7.0μmとすることも好ましく、3.0μm~5.0μmとすることも好ましい。
【0046】
ここでいう平均粒子径d50は、いわゆるメジアン径とも称され得るものである。チタン粉の平均粒子径d50、10%粒子径d10及び90%粒子径d90の測定はそれぞれ、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定して得られる粒子径分布グラフで、体積基準の頻度の累積が50%、10%及び90%になる粒子径を求めることにより行う。
【0047】
なお、チタン粉の組成として、金属チタンの純度は、たとえば97.0質量%~99.0質量%、典型的には98.0質量%~99.0質量%である場合がある。
チタン粉に含まれる可能性のある不純物としては、鉄、マグネシウム、塩素、水素及び酸素からなる群から選択される少なくとも一種がある。これらの不純物の含有量は、複数種の場合はそれらの合計で、一般に3質量%以下、場合によっては1質量%以下であることがある。これらの元素のうち、鉄およびマグネシウム濃度は誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)、塩素濃度は硝酸銀滴定法、水素濃度は不活性ガス融解-ガスクロマトグラフ法、酸素濃度は不活性ガス融解-赤外線吸収法によってそれぞれ測定できる。
【0048】
(スポンジチタンの製造方法)
一例として、クロール法におけるスポンジチタンの製造方法は、還元プロセスと、真空分離プロセスと、破砕プロセスとを含む。還元プロセスでは、先に述べたように、金属製還元反応容器1内に不活性条件下で装入された溶融金属マグネシウムに対して、先述した四塩化チタンを滴下し、スポンジチタン塊を生成する。次の真空分離プロセスでは、金属製還元反応容器1内から、副生物である溶融塩化マグネシウムと、残存する場合は溶融金属マグネシウムとを金属製パイプを介して抜き出した後、スポンジチタン塊に対して真空分離処理を施す。破砕プロセスでは、スポンジチタン塊を破砕する。これにより、スポンジチタンが得られる。
【実施例
【0049】
次に、この発明を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0050】
図1に示すような金属製還元反応容器内で、溶融金属マグネシウムを貯留させ、そこに四塩化チタンを滴下して供給する還元プロセスを行い、スポンジチタン塊を製造した。その際に、図2に示すような構成を備えるガス収集装置を用いて、金属製還元反応容器の内部空間から内部ガスを収集するガス収集工程を行い、この内部ガスに対して、粉体分離工程及び酸処理工程を順次に行った。
【0051】
還元プロセスでの四塩化チタンの総滴下量に対する滴下量が、25%になる時点(反応序盤に当たる)、67%になる時点(反応中盤に当たる)および、92%になる時点(反応終盤に当たる)で、内部ガスを収集するガス収集工程を行った。この還元プロセスより、8tのスポンジチタン塊を製造した。なお、再現性確認のため、滴下量25%時点でのガス収集は、同一条件で反応させた三つの反応容器A、B、Cから、それぞれ行なった。
【0052】
そして、上記のガス収集工程で収集した内部ガスに対し、粉体分離工程及び酸処理工程を行い、チタン粉を製造した。ガス収集工程では、金属製還元反応容器内にアルゴンガスを100L/min~200L/minで導入することにより、金属製還元反応容器の内部空間からガス収集装置に向けて、ガス採取管を介して、内部ガスを3分間送り込んだ。この際に、ガス採取管の途中に設けた粉体捕集部としてのSUS製フレキシブルホース(口径10A)で、内部ガスに含まれる粉体を捕集した(乾式分離)。酸処理工程は、粉体:2g、3質量%の希硝酸:150ml、溶解時間:60min、温度:常温の条件で行った。
【0053】
粉体分離工程後かつ酸処理工程前の粉体について、XRD及びSEMその他各種の分析を行ったところ、滴下量25%時点、滴下量67%時点及び滴下量92%時点のいずれで得られた粉体も、MgCl2及びTiが主要相であること、滴下量92%時点の粉体はTiのX線回折のピークが比較的小さいことが解かった。なお、滴下量92%時点の粉体はMgCl2のX線回折のピークが大きかった。
【0054】
また、酸処理工程後の粉体について、同様の分析を行った。その結果、酸処理工程後の粉体は、メインがTiであり、わずかにTiHも検出された。滴下量25%時点で反応容器B及びCのそれぞれから得られた酸処理工程後の粉体中の不純物濃度(質量%)を表1に示す。Ti純度は、100質量%から表1中に記載の各元素の含有量を差し引いて求め、滴下量25%時点の容器Bでは97.2質量%程度、滴下量25%時点の容器Cでは98.1質量%程度であった。
また、滴下量25%時点の反応容器A及びB、滴下量67%時点の反応容器Aならびに、滴下量92%時点の反応容器Aのそれぞれから得られた酸処理工程後の粉体の平均粒子径d50、10%粒子径d10及び90%粒子径d90を、表2に示す。粒度に関して、一次粒子は平均2μm程度であった。10μm~20μmの二次粒子も存在していた。なお、滴下量92%時点のものは二次粒子の割合が多かった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【符号の説明】
【0057】
1 金属製還元反応容器
2 容器本体
3 蓋部材
4 原料供給管
5 副生物排出管
6 ガス採取管(管状流路部材)
6a 粉体捕集部
7 ガス収集装置
8 液体接触部
9 ノズル部
10 液体循環パイプ
11 ガス排出管
12 ガス供給管
Sb 浴面
TS スポンジチタン塊
Gi 内部ガス
Ga 不活性ガス
図1
図2