(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】医学における使用のためのMPO阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20230202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230202BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20230202BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P43/00 111
A61P15/08
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2020500882
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2018068992
(87)【国際公開番号】W WO2019016074
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-08
(32)【優先日】2017-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ホイッタカー
(72)【発明者】
【氏名】ヒテシュ・ジャヤンティラル・サンガニー
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-162450(JP,A)
【文献】特表2010-536849(JP,A)
【文献】特表2004-509841(JP,A)
【文献】特表2017-535588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-[[(2R)-テトラヒドロフラン-2-イル]メチル]-2-チオキソ-7H-プリン-6-オン:
【化1】
又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、男性不妊の処置又は予防における使用のための医薬組成物。
【請求項2】
男性特発性不妊症の患者のためのものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ヒト患者のためのものである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
非ヒト陸上哺乳動物のためのものである、請求項1
または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
男性特発性不妊症に関して酸化ストレス誘発性精子損傷を阻害するためのもの及び/又は精子誘発NETosisを予防するためのものである、請求項1~4の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
3-[[(2R)-テトラヒドロフラン-2-イル]メチル]-2-チオキソ-7H-プリン-6-オン:
【化2】
又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む医薬組成物、および該医薬組成物の男性特発性不妊症の処置又は予防のための使用のための説明書を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、男性不妊の処置における使用のための化合物及び男性不妊の処置の方法を対象とする。
【0002】
本願中の明らかに以前公開された文書のリスト又は考察は、必ずしもその文書が最先端の一部であるか又は日常的で一般的な知識であることを承諾するものとして解釈すべきではない。
【背景技術】
【0003】
世界中で妊娠を試みる生殖年齢カップルのおよそ15%が不妊症であり;これはおよそ4850万組前後のカップルに相当する。男性不妊は不妊問題の50%における要因であり、全症例の20~30%前後で不妊症の唯一の原因であることが報告されている。男性不妊の評価及び報告は多くの国で実際より少なく報告されていると思われるため、これらの数字の見積もりは不十分であり得る。
【0004】
男性不妊は様々な状態により引き起こされ得、そのうち一部は、管の閉塞及び低ゴナドトロピン性の性腺機能低下症など、容易に同定され、補正され得る。他の状態は、ウイルス性精巣炎に続発する両側性精巣萎縮症など、可逆的ではない。同定可能な原因はないが分析において異常な精液プロファイルを呈する男性について、多くの患者の症例の場合、その状態は特発性男性不妊症と呼ばれる。不妊症検査を受ける男性の評価中に通常適用される精液試料の標準的なWHO基準が定められている(表1)。男性が要因である不妊症は、一般的に、1週間及び4週間離して回収される2回の精子分析のうち少なくとも1つの試料での精子濃度及び/又は運動性及び/又は形態の変化として定義される。男性不妊症例のうち最大90%が、同定可能な原因のない、精子濃度、形態又は機能の異常によるものであり;これは特発性乏精子症と呼ばれることがある。このコホートにおいて、酸化ストレスが精子損傷に関与する重要な要因であると思われる。
図1は、男性不妊症における酸化ストレスの役割を図式的に示す。
【0005】
酸化ストレス(OS)は、活性酸素種(ROS)の生成と内因性抗酸化剤の生成との間のアンバランスを反映し、過剰なROSがある場合、細胞及び組織に対する損傷が生じ得る。米国からの疫学的データにより、過剰なROSが男性要因不妊症の主要な原因であり;不妊男性の30~40%で精漿中のROSレベルが上昇していることが示唆される。精子は、それらの細胞膜が多不飽和脂肪酸(PUFA)に富み、それにより脂質過酸化の影響を受け易くなるので、OSに対して特に脆弱である。これは、軸糸損傷を引き起こす細胞内アデノシン三リン酸(ATP)の急速な喪失、精子生存能の低下及び中片部精子形態学的欠損の増加につながり、これらは全て、精子運動性の低下に関与する。さらに、精子は細胞内抗酸化剤酵素保護において遺伝的な欠失を有し、殆どの細胞型とは異なり、精子はDNA損傷検出及び修復のための能力が制限されている。
【0006】
【0007】
ROSは、精子そのもの及び精子形成中に精巣及び精巣上体内で精子と共局在する好中球などの多形核白血球(PMN)の両方により産生され、一般的には前立腺及び精嚢が起源である精漿中で見られる。PMNは、精子よりも1000倍前後多いROSを産生し、放出し得、したがって特発性男性不妊症におけるOSの主要な起源であると思われる。活性化好中球と同時温置した精子は、好中球数増加とともに、運動性の濃度関連低下を示す。好中球は、男性生殖器で見られるPMN集団の60%前後に相当し、活性化される場合、それらの酸化的バーストの一部としてスーパーオキシド及び過酸化水素を生成させる。さらに、好中球は、生成される過酸化水素を利用して、次亜塩素酸及び他の非常に反応性が高いオキシダントを生成させる、大量のヘム酵素ミエロペルオキシダーゼ(MPO)を含有する。これらのオキシダントはヒト細胞に有害であり、したがって精子にダメージを与え、それらの生存能及び機能を変化させる可能性がある。精液ミエロペルオキシダーゼレベルの上昇は、若くて健康な男性における精子濃度低下と関連付けられている。さらに、ミエロペルオキシダーゼは、NETosis中の好中球細胞外トラップ(NET)形成において複合的な役割を果たすことが示されている。ヒト精子は、好中球からのNETの放出を惹起し得、次いでこれが精子に固く付着するようになり、精子が動けなくなる。前臨床ツールMPO阻害剤である4-アミノ安息香酸ヒドラジドで好中球を処理すると、精子誘発性NET形成が顕著に低下することが示されている。発明者らの知る限り、不妊男性の処置のためのMPO阻害剤の使用の研究は今日まで行われていなかった。
【0008】
特発性不妊症を経験している男性に対する最新の処置計画は、禁煙、アルコールからの脱離、体重の最適化などのライフスタイルのアドバイスで開始し、熱及び環境毒素への精巣の曝露を最小化する。市販の経口ビタミン及び抗オキシダントに基づくサプリメントの選択が利用可能である。これらの治療法の効果を評価するために複数の臨床治験が行われてきた。しかし、これらの多くは小規模であり、ともにそれらは顕著な方法論及び臨床不均一性を呈し、全体的に見て、それらが示した結果はまちまちであった。最近のメタ解析から、不妊男性における経口抗酸化剤の使用によって精子の質及び妊娠率が向上し得ると結論付けられた。しかし、臨床診療を先導するために、個々の抗酸化剤及びそれらの組み合わせの適切な検出力を有するロバストな治験が必要とされる。これらの測定にもかかわらずカップルが依然として妊娠できない場合、細胞質内精子注入(ICSI)又はIVFなどの生殖補助技術が使用される。これらの技術は、侵襲性であり、高価であり、普遍的に利用可能ではない。
【0009】
したがって、男性不妊、特に、男性特発性不妊症の処置のための新しい選択肢に対する明確なニーズがある。これは、有効性が確立されていない現在の「適用外」療法に照らして特に明らかである。本願の目的は、男性不妊の処置のための新規治療法を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
特発性男性不妊症において酸化ストレスの有病率が高いこと、好中球が介在する強力なオキシダント生成におけるミエロペルオキシダーゼの役割及び精子誘発性NETosisにおけるMPOの役割を示す新たなデータを考慮して、発明者らは、MPO阻害剤が、男性不妊の処置又は予防及び特に男性特発性不妊症の処置に対する治療剤としての有用性を有し得ると考える。
【0011】
したがって、第1の態様において、本願は、男性不妊の処置又は予防での使用のためのミエロペルオキシダーゼ(MPO)阻害剤を提供する。男性特発性不妊症の処置のために、使用のためのMPO阻害剤が使用され得る。それらの精液試料中の活性酸素種のレベル上昇の同定及び/又は酸化ストレスに対する二次的なものとして起因する精子機能不全ゆえに男性特発性不妊症になる傾向があるものとして判断された対象において、使用のためのMPO阻害剤が予防的に使用され得る。
【0012】
第2の態様において、本願は、不妊症の処置又は予防を必要とする男性患者における不妊症の処置又は予防の方法を提供し、この方法には、治療的有効量のMPO阻害剤をこの患者に投与することが含まれる。必要とする男性患者は、一般的には男性特発性不妊症の患者であるか又は男性特発性不妊症の傾向があるものとして判断される対象であろう。
【0013】
第3の態様において、本願は、男性不妊の処置又は予防のための薬剤の製造における使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物を提供する。
【0014】
第4の態様において、本願は、男性不妊の処置又は予防での使用のための、特に男性特発性不妊症での使用のための、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
第5の態様において、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物を含む医薬組成物と、男性特発性不妊症の処置又は予防のための医薬組成物の使用のための説明書と、を含むキットが提供される。
【0016】
本明細書中に記載及び上記の好ましい態様において、必要としている男性患者は、男性特発性不妊症の患者であるか又は、予防の場合、男性特発性不妊症の傾向があるものとして判断される患者である。
【0017】
本明細書中に記載及び上記の好ましい態様において、男性患者はヒトである。本発明はまた、非ヒト陸生哺乳動物、例えばイヌ科、ネコ科、ウシ科、ウマ科、イノシシ科、ラクダ科及びシカ科のメンバーにおける男性不妊の処置のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤の使用も提供する。
【0018】
上記で提供される態様の実施形態において、使用のための、処置の方法での使用のための、薬剤の製造での使用のための、又は医薬組成物中で提供される、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤は、精子誘発性NETosisを阻害するために適用される。このような実施形態において、患者は、それらの精子の試料の分析により処置についてスクリーニングされ得、精子に対する酸化ストレス誘発性損傷の証拠、例えば低精子数/濃度、精子運動性低下、精子DNA断片化の証拠、特発性男性不妊症に関する生殖不能性膿精子症又は高度の精液NETosisを示すことが分かった。
【0019】
上記で提供される態様の実施形態において、使用のための、処置の方法での使用のための、薬剤の製造での使用のための、又は医薬組成物中で提供される、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤は、活性酸素種及び/又は下流活性酸素介在産物の産生の阻害を介して酸化ストレスを阻害するために適用される。したがって、使用のための、又は処置の方法での使用のためのMPO阻害剤は、次亜塩素酸などの次亜ハロゲン酸並びに3-クロロチロシン及び3-ニトロチロシンを含むが限定されない他のMPO介在産物など、活性酸素種の産生を阻害するために使用され得る。
【0020】
さらに又は或いは、処置を必要とする患者は、例えば6か月以上の期間にわたる妊娠の可能性があるパートナーとの関係において妊娠に失敗した後、男性特発性不妊症であるとして診断されているものであり得る。予防的介入の場合、それを必要とする患者は、それらの精子の特徴又は他の生理学的パラメーターの分析により、男性特発性不妊症に罹患する傾向に対して分析されているものであり得、例えば、酸化ストレス誘発性精子機能不全又は精液酸化ストレスレベルが異常に高いこと(総抗酸化能の低下、活性酸素種の上昇又は脂質過酸化の増加など)又は亜正常男性妊孕性に関して精液の膿精子症(WHO定義による)又は高度の精液NETosisを示す、精子試料中のマーカー/特徴の、ある一定のプロファイルがある患者である。
【0021】
上記で提示される態様の実施形態において、妊孕性回復を必要とする特発性不妊症患者と判断される男性対象において妊孕性を回復させる方法が提供され、この方法は治療的有効量のMPO阻害剤の投与を含む。一実施形態において、男性特発性不妊症の処置の方法又は男性特発性不妊症患者における妊孕性回復の方法は、精子に対する酸化ストレス誘発性損傷を阻害し、精子誘発性NETosisを防ぐための治療的有効量のMPO阻害剤の投与を含む。
【0022】
使用のための、処置の方法における使用のための、薬剤の製造における使用のための、又は医薬組成物中で提供される、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤は、何れかの既知のMPO阻害剤から選択され得る。上記態様の好ましい実施形態において、MPO阻害剤は、国際公開第2006062465A1号パンフレット、同第2008152420A1号パンフレット及び/又は同第2016087338A1号パンフレットに記載されるMPO阻害剤から選択される。
【0023】
実施形態において、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤は、3-[[(2R)-テトラヒドロフラン-2-イル]メチル]-2-チオキソ-7H-プリン-6-オン(AZD5904)又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物である。
【0024】
実施形態において、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤は、1-(2-イソプロポキシエチル)-2-チオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4(5H)-オン又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物である。
【0025】
実施形態において、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤は、式(I)の化合物:
【化1】
(式中、
R
1はH、F、Cl又はCF
3であり;
R
2はH、CH
3又はC
2H
5であり;
R
3はH、CH
3、C
2H
5、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロブチルメチル又はシクロペンチルである);
又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物である。
【0026】
一実施形態において、式(I)の化合物は、
1-{2-[(1R)-1-アミノプロピル]-4-クロロベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-[2-(1-アミノエチル)-4-クロロベンジル]-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{2-[(1R)-1-アミノエチル]-4-クロロベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{2-[(1S)-1-アミノエチル]-4-クロロベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{4-クロロ-2-[1-(メチルアミノ)エチル]ベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{4-クロロ-2-[(エチルアミノ)メチル]ベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-[2-(アミノメチル)-4-クロロベンジル]-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{4-クロロ-2-[(メチルアミノ)メチル]ベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-(2-{[(シクロブチルメチル)アミノ]メチル}ベンジル)-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{2-[(シクロブチルアミノ)メチル]ベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{2-[(シクロペンチルアミノ)メチル]ベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-(2-{[(2-メチルプロピル)アミノ]メチル}ベンジル)-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-{2-[(プロパン-2-イルアミノ)メチル]ベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;
1-[2-(アミノメチル)-4-(トリフルオロメチル)ベンジル]-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2d]ピリミジン-4-オン;
1-{2-[(メチルアミノ)メチル]-4-(トリフルオロメチル)ベンジル}-2-チオキソ-1,2,3,5-テトラヒドロ-4H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4-オン;及び
薬学的に許容可能なその塩又は溶媒和物から選択される。
【0027】
式(I)の化合物の単一エナンチオマーの絶対立体配置(R又はS)が上記の式(I)の化合物のリストで指定される場合において、問題となっている立体中心(キラル中心)はR2が連結される炭素原子である。
【0028】
本明細書中に記載及び上記のような、男性不妊の処置での使用のための、男性不妊の処置の方法における、男性不妊の処置のための薬剤の製造の方法における、又は男性不妊の処置のための医薬組成物における、4-アミノ安息香酸ヒドラジドは、本明細書中に記載の全ての態様及び実施形態から具体的に放棄される。
【0029】
「薬学的に許容可能な」という用語は、目的(例えば塩、溶媒和物、剤型、希釈剤又は担体)が患者での使用に適切であることを明示するために使用される。薬学的に許容可能な塩の例の一覧は、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection and Use,P.H.Stahl and C.G.Wermuth,editors,Weinheim/Zuerich:Wiley-VCH/VHCA,2002で見出され得る。
【0030】
本願に記載の化合物及び塩は溶媒和形態及び非溶媒和形態で存在し得る。例えば、溶媒和形態は、ヘミ水和物、一水和物、二水和物、三水和物又はその代替的な量など、水和物形態であり得る。本発明は、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤、例えば式(I)の化合物の全てのこのような溶媒和及び非溶媒和形態を包含する。
【0031】
「治療」という用語は、その症状の1つ、一部若しくは全てを完全に若しくは部分的に緩和するため、又は基本的な病理を補正するか若しくは代償するために、疾患を取り扱う、その通常の意味を有するものとする。「治療」という用語は、それとは反対の具体的な指示がない限り、「予防」も含む。「治療的」及び「治療的に」という用語は、対応する方式で解釈されるべきである。
【0032】
「予防」という用語は、その通常の意味を有し、疾患の発症を予防するための一次予防及び、疾患が既に発症している場合の二次予防を含むものとし、患者は、疾患の増悪若しくは悪化又は疾患と関連する新しい症状の発症から一時的又は永久的に保護される。本願による、男性特発性不妊症の傾向があるものとして判断され、したがって予防的処置について指示される対象(すなわち予防を必要とする対象)は、一般に、酸化ストレスに対する二次的なものとして起因するそれらの精液試料中の活性酸素種のレベル上昇及び/又は精子機能不全があるものとして判定される患者であると考えられる。いくつかの実施形態において、男性特発性不妊症に対する素質の判定は、喫煙、アルコール消費、体重及び熱及び環境毒素への精巣の曝露などのライフスタイル因子の組み合わせの分析に由来し得る。
【0033】
「処置」という用語は、「治療」と同意語として使用される。同様に「処置」という用語は、「治療」が本明細書中で定義されるようなものである場合、「治療を適用する」ものとみなされ得る。
【0034】
「治療的有効量」という用語は、対象において「治療」を提供するために、又は対象において疾患若しくは障害を「処置する」ために有効である、本明細書中で実施形態の何れかにおいて記載されるようなミエロペルオキシダーゼ阻害剤の量を指す。
【0035】
ミエロペルオキシダーゼ阻害剤及び薬学的に許容可能なその塩又は溶媒和物は、1つ以上の薬学的に許容可能な希釈剤又は担体を含む医薬組成物として投与され得る。
【0036】
したがって、一実施形態において、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤、例えば3-[[(2R)-テトラヒドロフラン-2-イル]メチル]-2-チオキソ-7H-プリン-6-オン、1-(2-イソプロポキシエチル)-2-チオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4(5H)-オン又は式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な希釈剤若しくは担体と、を含む医薬組成物が提供される。本組成物は、経口での使用(例えば錠剤、薬用キャンディー、硬又は軟カプセル、水性若しくは油性懸濁液、エマルション、分散性粉末又は顆粒剤、シロップ又はエリキシル剤として)のため、局所使用(例えばクリーム、軟膏、ゲル又は水性若しくは油性溶液又は懸濁液として)のため、吸入(例えば微粉化粉末又は液体エアロゾルとして)による投与のため、吹送法(例えば微粉化粉末として)による投与のため、又は非経口投与(例えば静脈内、皮下又は筋肉内投与のための滅菌水性若しくは油性溶液として)のため、又は直腸投与のための坐剤として適切な形態であり得る。本組成物は、当技術分野で周知である従来の医薬賦形剤を使用して従来の手順により得られ得る。したがって、経口での使用が意図される組成物は、例えば1つ以上の着色剤、甘味料、香味料及び/又は保存剤を含有し得る。いくつかの好ましい実施形態において、MPO阻害剤は、経口投与しようとするものである。いくつかの好ましい実施形態において、MPO阻害剤は、持続放出形態、例えば経口持続放出形態又は皮下持続放出形態として投与しようとするものである。
【0037】
一実施形態において、男性不妊の処置での使用のための、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤、例えば式(I)の化合物、3-[[(2R)-テトラヒドロフラン-2-イル]メチル]-2-チオキソ-7H-プリン-6-オン(AZD5904)又は1-(2-イソプロポキシエチル)-2-チオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4(5H)-オン又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な希釈剤又は担体と、を含む医薬組成物が提供される。
【0038】
ミエロペルオキシダーゼ阻害剤は、通常、2.5~5000mg/m2動物の体表面積又はおよそ0.05~100mg/kgの範囲内の単位用量で温血動物に投与され、これは通常、治療的有効用量を提供する。錠剤又はカプセルなどの単位剤型は通常、例えば0.1~500mgの活性成分を含有する。1日用量は、処置される宿主、特定の投与経路、同時に行われる何れかの治療及び処置している疾病の重症度に依存して必ず変動する。したがって、何れかの特定の患者を処置している医師は最適な投与量を決定し得る。
【0039】
MPO阻害剤が男性特発性不妊症の処置に適切であり得るという仮説を試験するために、下記のようにDundeeのNinewells Hospitalにおいて受胎補助ユニット(ACU)に通院する患者から同意を得て回収した男性の診断試料に対して一連のエクスビボ試験を行った。下記のように精子運動性及び機能の様々なパラメーターを評価するために、実験を行った。
【0040】
本発明が良好に理解され得るように、次の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、男性不妊における酸化ストレスの役割を図示する。
【
図2】
図2は、試験する各患者に関するクリニックから入手可能なアンドロロジーに関するベースライン情報の簡単なまとめを例示する表である(年齢、原発性/二次性不妊症及び不妊の長さ)。カウント図面は百万単位/mL(M/mL)であり、WHO参照値は濃度15M/mL、前進性32%、形態4%、白血球1M/mLである)。
【
図3a】
図3aは、棒グラフであり、完全データセットについては、運動性、前進運動性、高速運動性、平均進行方向速度(VAP)、直線速度(VSL)、曲線速度(VCL)及び精子頭部変位(ALH)に対する、時間ゼロと24時間温置後との間のCASA測定の%差異を示す(n=29)。3つの条件を測定し;対照としての精子単独(左手カラム、a)、ビヒクル対照を伴う、精子と活性化好中球(3:1比)(中央カラム、b)及び精子と活性化好中球(3:1比)+3μM AZD5904(右手カラム、c)。Kruskal-Wallis試験は、AZD5904に対する陽性傾向を示し、これは測定した各パラメーターに対して統計学的有意性に達しない(P>0.1)。エラーバーは平均の標準誤差に相当する。
【
図3b】
図3bは、次の18名の被験対象よりもベースライン精子パラメーターにおいてより顕著な異常性がある最初の11名の対象(
図2で青で強調)に対する、ベースラインから温置後2時間及び24時間の全体的な精子運動性の絶対的変化を示す直線図である。3つの条件を測定した;対照としての精子単独(a)、ビヒクル対照を伴う、精子と活性化好中球(3:1比)(b)及び精子と活性化好中球(3:1比)+3μM AZD5904(c)。AZD5904とビヒクル処置群との間の両側スチューデントt検定から、統計学的傾向が示された:P=0.09。
【
図4】
図4は、対照に対する比として表される結果(精子単独)を伴う、完全データセット(n=29)に対するKremer貫入アッセイからの累積的な結果を示す。エラーバーは、平均の標準誤差に相当する。スチューデントt検定分析から、薬物なしの群よりも、AZD5904処置群において1cmで有意に多くの精子が見られたことが示される。P=0.02。
【
図5】
図5は、4名の「反応者」対象に対する2時間の時点でのKremer貫入試験からのデータの例を示す。データは、対照に対する比として表す(精子単独)。バーの上の値は、1cmでの実際の精子数を指し;上部の数は試験条件(ビヒクル又はAZD5904)を指し、一方で角括弧中の数は対照数である。X軸に沿うR番号は匿名の患者番号を指す。少なくとも0.25の変化を個体における意義のある差であるとする。
【
図6】
図6は、29名の患者から、及びインビトロ処理条件による、平均MDA染色を示す:精子単独(a)、精子+好中球+ビヒクル対照(b)、精子+好中球+AZD5904(薬物)(c)及び精子+4mM H
2O
2(d)。4mM H
2O
2を用いた精子に対する結果では、他の条件よりも有意に多くの染色があった(P<0.01)。エラーバーは平均の標準誤差に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
材料及び方法
実験設計
得られた各精液試料に対して一連の5回の試験を行った(
図2)。精子運動性及び機能の様々なパラメーターを評価するために、このアプローチを使用した。結果の信頼性及び再現性を確実にするために、データ回収前に本方法を検証した。
【0043】
試験対象/試料回収
DundeeのNinewells Hospitalの受胎補助ユニット(ACU)に通院する男性からの同意を得て、余剰診断男性疾患試料(N=29)を回収した。
【0044】
材料
・非受精能獲得培地(pH7.4):1.8mM CaCl2、5.4mM KCl、0.8mM MgSO4.7H2O、116.4 NaCl、1mM NaH2PO4.2H2O、5.55mM D-グルコース、2.73mMピルビン酸ナトリウム、41.75mM乳酸ナトリウム、25mM HEPES、0.3%BSA。
・受精能獲得培地(pH7.4):1.8mM CaCl2、5.4mM KCl、0.8mM MgSO4.7H2O、116.4mM NaCl、1mM NaH2PO4.2H2O、5.55mM D-グルコース、2.73mMピルビン酸ナトリウム、25mM乳酸ナトリウム、26mM重炭酸ナトリウム、0.3%BSA。
・sEBSS(pH7.4):1.01mM NaH2PO4、5.4mM KCl、0.8mM MgSO4.7H2O、5.5mM C6H12O6、2.5mMピルビン酸ナトリウム、19mM乳酸ナトリウム、25mM重炭酸ナトリウム、15mM HEPES、1.8mM CaCl2.2H2O、118.4mM NaCl、0.3%BSA。
【0045】
精液試料調製
禁欲から最短で2日後及び最長で7日後に滅菌プラスチック容器へのマスターベーションによって精液試料を回収した。精液試料は、ACUにおいて現場で作製し、30分間(37℃)液化させた。試料調製前に、各試料から20μLの未処理精液を回収し、このうち10μLを使用して、清潔なスライドガラス上で精液スメアを調製した(白血球の検査)。試料ごとに2枚のスライドを作製し、スズ箔で包み、必要になるまで-20℃の冷凍庫で保存した。次に、前に記載のようにPercoll Density Gradient Centrifugation(DGC)によって精液試料を調製した(Tardif S,Madamidola OA,Brown SG,Frame L,Lefievre L,Wyatt PG, et al.,Human Reproduction 2014;29:10 2123-2135)。次に、勾配あたり最大2mLの未処理精液を上部に慎重に重ねた。次に、300gで20分間、勾配を遠心分離した。精液のみを含有した最上層を1.5mLエッペンドルフチューブに回収した。次に、この層を17x106xgで20分間遠心分離し、精液層中のあらゆる細胞及び残屑をペレット化して、精液のみが回収されるようにした。次いで、上清を回収し、17,000xgで20分間、再び遠心分離した。上清を回収し、必要になるまで-20℃冷凍庫で保存した。80%DGC分画からのペレットを回収し、4mLの非受精能獲得培地中で300gにて10分間洗浄した。次に、上清を廃棄した。ペレットを回収し、1mL sEBSS溶液中で再懸濁し、精子機能分析のために温置した(37℃)。
【0046】
好中球単離
凝固を停止させるためにEDTAを含有するバキュテイナー中にボランティアドナーから血液試料を回収した(Zambrano F,Carrau T,Garner U,Seipp A,Taubert A,Felmer R,et al.Fertility and Sterility 2016;106(5):1053-1060)。15mLファルコンチューブに1:1.2の比で血液をHistopaque 1119 (Sigma,UK)と混合した(Zambrano et al,2016.)。次に、これを800gで20分間遠心分離した。この後、上清を廃棄し、新鮮なファルコンチューブにペレットを移した。次に、このチューブにリン酸緩衝食塩水(PBS)を15mLまで満たし、300gで10分間遠心分離した。最初に100%保存液を作製するために18mL Percollに2mLの10X PBSを添加することによってPercoll勾配を調製した。次にこれを1XPBSで希釈して、65%、70%、75%、80%及び85%の濃度で5つの4mL Percoll勾配保存液を作製した。次に、15mLファルコンチューブにおいて、チューブの底部が85%で上部が65%になるように、2mLの各勾配濃度を他のものの上に重ねた。10分間の遠心分離後、上清を再び廃棄し、4mLになるようにPBSでペレットを再懸濁した。次に、密度勾配の上部に2mLの血液を慎重に重ね、800gで20分間遠心分離した。最上部層を廃棄し、70~80%層を回収し、新鮮なファルコンチューブに移した。次にこのチューブに15mLまでPBSを満たし、300gで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、2mLの赤血球溶解緩衝液中での洗浄時にペレットを回収した。各回で上清を廃棄してペレットが赤くなくなるまでこの段階を反復した。最後に、1mLのsEBSS中でペレットを再懸濁し、37℃インキュベーター中に置いた。
【0047】
AZD5904又はビヒクルでの精子の処理
100%DMSO中で薬物の10mM保存溶液を作製した。次に希釈剤としてsEBSSを使用してこれを連続的に希釈して、3μMの作業濃度にし、4℃で保存した。次に、薬物又はビヒクルを好中球に添加し、37℃の水浴中に10分間置いた。次に、約1:3の比でスパーム-セーフ(sperm-safe)5mLポリスチレン丸底チューブ(Falcon)中の精子に好中球を添加した。1μg/mLの最終濃度のザイモサンを添加して好中球を活性化し、37℃で2時間温置した。運動性評価、フローサイトメトリー及びKremerアッセイのために4つの条件を調製した:精子単独、精子+好中球+ビヒクル、精子+好中球+AZD5904(薬物)及び精子+4mM(最終濃度)過酸化水素(H2O2;傷害に対する陽性対照)。
【0048】
運動性評価
Hamilton-Thorn CASA系を使用して精子運動性を評価した。各条件に対して、少なくとも4か所の異なる視野において全部で200個の細胞を数えた。試料の運動性が非常に低かった場合、少なくとも100個の細胞を数えた。好中球との同時温置の開始時(時間0)、2時間後及び24時間後に運動性パラメーターを評価した。運動性は、各試料に対する各時点について、時間0と2時間後との間の差のパーセンテージ及び時間0と24時間後との間の差のパーセンテージとして表した。
【0049】
Kremer貫入アッセイ
Kremer貫入試験は、粘性媒体を通じた精子細胞の貫入及び泳動能を評価する。この試験は、精子-頸管粘液貫入試験としても知られている。受精能獲得培地中で溶解させた1%メチルセルロースを使用して、頸管粘液代用物を作製した。この溶液に対して37℃5%CO2インキュベーター中で20分間ガス供給を行った。次に、平らな毛細管(Rectangle Boro Tubing、CM Scientific)をメチルセルロース溶液中にさらに20分間置いて、毛細管に媒体を流入させた。2時間温置後、各条件からの100μLを新鮮なスパーム-セーフ(sperm safe)チューブに分割した。次に、プラスティシンを用いて各チューブの一方の端部を遮断し、次いで最初に1本の管の開口端を各試験条件に置いた。毛細管を含有する各スパーム-セーフ(sperm safe)チューブを37℃で1時間、5%CO2とともに温置した。1時間後、毛細管を取り出し、1cmの印の位置で細胞数を手作業で数えた。結果は対照(精子単独)に対する比として表した。
【0050】
フローサイトメトリー
活性化好中球との2時間温置後、50μLのアリコートを全4条件から採取し、1.5mLエッペンドルフチューブに移した。陽性対照としてH2O2を使用した。二次単独対照のための余分なアリコートを精子単独チューブから採取した。1:50の作業比で抗マロンジアルデヒド(MDA)抗体(ab27642,abcam,Cambridge)とともに細胞(二次単独のチューブを除く)を37℃で0.5時間温置した(Moazamian R,Polhemus A,Connaughton H,Fraser B,Whiting S,Gharagozloo P,Aitken RJ.Mol Hum Reprod 2015;21(6):502-15)。次に、300gで5分間チューブを遠心分離して細胞をペレット化し、上清を廃棄した。次に、細胞をsEBSSで2回洗浄し、各回で上清を廃棄した。次いで、蛍光タグ付加ヤギ抗ウサギ二次抗体(Thermofisher、UK)を1:50の比で全条件に添加し、チューブを37℃で10分間温置した。細胞をペレット化し、上記のように2回洗浄した。最終洗浄後、250μL sEBSS溶液中でペレットを再懸濁し、新鮮なスパーム-セーフ(sperm safe)チューブに移した。次に、BD LSRFortessa細胞分析装置において、予め検証したフローサイトメトリープログラムを使用して、10,000個の細胞で各条件におけるMDA染色レベルを評価した。技術的エラーのため、フローサイトメトリーを使用して1つの試料を評価できなかった。
【0051】
白血球計数
精液スメアスライドを冷凍庫から取り出し、Giemsa May-Gruenwald溶液(蒸留水中で1:20希釈)を満たしたコプリンジャーに5分間入れた。次にスライドをPBS中で1.5分間洗浄した。次に、スライドを新鮮なGiemsa May-Gruenwaldに20分間入れ、次いで蒸留水で洗浄した。計数前にこれらを風乾した。試料あたり2枚のスライドからの平均数をとった。400個の精子と同じ視野中で数えた白血球数を記録し、WHO 2010推奨方法に従い、精子濃度を使用して試料白血球濃度を計算した(Cooper TG,Noonan E,von Eckardstein S,Augur J,Baker HWG,Behre HM,et al.Human Reproduction Update,2010;16(3):231-245)。
【0052】
結果
患者層
図2の表は、試験した各患者に関するクリニックから入手可能なアンドロロジーに関するベースライン情報の簡単なまとめに相当する(年齢、原発性/二次性不妊症及び不妊症の長さ)。未処理及び調製精子パラメーターも記録し、白血球数も記録した。
【0053】
より詳細に、表は、年齢、カップルが妊娠に挑戦し続けた時間の長さ(不妊の長さ)及び患者の不妊症状態(原発性又は二次性)を表す。WHOマニュアル(World Health Organization.(2010).WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen,5th ed.Geneva:World Health Organization)に従いアンドロロジストが手作業で評価した未処理計数を除き、Hamilton-Thorne CASA系を使用して、密度勾配遠心分離の前(未処理)及び後(調製)に精液パラメーターを測定した。赤字は、WHO2010による正常値よりも低いパラメーターとともに示される何れかの試料を指す。白血球数は、未調製精液試料中で見られる白血球の濃度を指す。R番号は匿名の患者番号を指す。
【0054】
運動性評価
患者らのアンドロロジー試験日に患者から精液試料を回収し、運動性パラメーターを記録した。各試料は3つの試験条件があり、24時間にわたり測定した;精子単独、3:1の比の精子と好中球+ビヒクル対照及び3:1の比の精子と好中球+3μM AZD5904。時間0、2時間温置後及び24時間後に運動性を測定した。
図3aは、時間0の精液パラメーターと24時間温置後の精液パラメーターとの間の%差を表す。Kruskal-Wallis試験から、全体的な精子運動性に対する不具合の軽減においてAZD5904処置についておよそ30%の有利な相対的効果サイズに対する有意ではない傾向があった(測定した各パラメーターに対してp>0.01)。経時的な運動性の相違を視覚化するために、試験した最初の11名の対象に対して全体的な運動性、高速及び前進運動性に対するデータも線グラフとしてプロットしたが、この11名はベースライン精子パラメーターにおいてより顕著な異常性があった。
図3bは、試験した患者の運動性に対する経時的な差を示す(N=11)。
【0055】
Kremer貫入アッセイ
Kremer貫入試験を使用して粘性媒体に対する貫入能についても各試験対象の精子試料を評価した(N=29)。
図4は、精子と活性化好中球+ビヒクル及び精子と活性化好中球+AZD5904に対するコホート平均結果を示す。この結果から、ビヒクル対照で処理した試料と比較して、AZD5904で処理した試料については粘性媒体への精子貫入の改善が示された。スチューデントt検定分析から、薬物なしの群よりも、薬物処理群において1cmで有意に多くの精子が見出されたことが示される(p=0.02)。AZD5904後に精子貫入の臨床的に適切な改善があったと感じることを示す29名の対象のうち15名で、AZD5904での処置に対する個々の反応に変動があった。AZD5904処置に対する陽性反応者の4例を
図5で示す。
【0056】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーを使用して、2時間温置後にMDAレベルを測定した(N=29)。2時間温置後に4つの条件を測定した;精子単独(対照)、3:1の比の精子と好中球+ビヒクル対照、3:1の比の精子と好中球+3μM AZD5904(薬物)及び4mM H
2O
2を伴う精子。
図6は、全4つの条件に対する平均MDA染色を示す。一元配置ANONAから、4mM H
2O
2を伴う精子が他の試験条件よりも有意によく染色されたことが示された(P<0.01)。
【0057】
結果の分析
男性におけるその詳細な以前の臨床プロファイリング及びそこで観察された良好な安全性プロファイルにより、代表的なMPO阻害剤としてAZD5904を選択した。この代表的なMPO阻害剤で得られる結果は、国際公開第2006062465A1号パンフレット(1-(2-イソプロポキシエチル)-2-チオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4(5H)-オン(AZD3241としても知られる)を開示する)、同第2008152420A1号パンフレット及び/又は同第2016087338A1号パンフレット(具体的に本明細書中で開示される式(I)の化合物を記載)に記載の化合物などであるが限定されない他の強力で選択的なMPO阻害剤でも得られることが予想される。
【0058】
より詳細には、AZD5904は、マウス及びラットで同様の効力を有する、ヒトMPOの強力な(IC50 140nM)不可逆的阻害剤である。これは、密接に関連するラクトペルオキシダーゼ及び甲状腺ペルオキシダーゼと比較して10~19倍選択的であり;他の酵素、イオンチャネル及び受容体の幅広いパネルに対して>70倍である。単離ヒト好中球において、1μM阻害PMAはHOClを>90%刺激した。ラットにおいて、約5μMの血漿濃度によって、インサイチュのザイモサン活性化腹膜好中球からのグルタチオンスルホンアミド(グルタチオンとのHOClの反応の産物)のインビボ形成が減少した。最大1200mg(持続放出で1400mg、ER、処方)の単回投与及び最大325mg TID(ER処方で10日間にわたり600mg BID)の複数回投与で健康なボランティアにAZD5904を経口投与した。全体で、5回の第1相試験で181名の対象に投与した。明らかな薬物関連の有害事象はまだ同定されていない。
【0059】
添付の図面で与えられる精子特性に対するMPO阻害剤の活性に関連する本願に記載の試験で得られた結果は、男性特発性不妊症に罹患している対象から得た精子に対する代表的なMPO阻害剤(AZD5904)の効果を例示する。全部で、29名の対象からの精子試料を試験した。個々の結果は累積的に可変性の程度を示し、試料サイズが小さい(パイロット試験)にもかかわらず、データは、ビヒクルの場合と比べて、ヒト精子と活性化ヒト好中球との同時温置に対して、AZD5904の投与から24時間後の全体的な精子運動性の改善について肯定的な傾向を示す。
【0060】
Kremer貫入試験は、精子運動性に対する薬物の影響を評価するための特に有用な試験である。これは、この試験が、インビボで精子が自然に泳ぐ女性生殖管で見られるものと同様の粘性がある媒体を精子が貫入し、泳ぐ能力について精子を評価するからである(Ivic A,Onyeaka H,Girling A,Brewis IA,Ola B,Hammadieh H et al.Human Reproduction 2002;17(1):143-149)。精子貫入試験は、精子の機能状態に関する、客観的で定量的及び再現性がある情報を提供し、妊孕性、特に男性が要因の不妊症の価値あるマーカーであることが示されている(Eggert-Krause W,Gerhard I,Tilgen W,Runnebaum B.Fertil Steril 1989;52:1032-1040;Eggert-Krause W,Leinhos G,Gerhard I,Tilgen W,Runnebaum B.Fertil Steril 1989;51:317-323;Polansky FF及びLamb EJ.Fertil Steril 1989;51(2):215-28;Ola B,Afnan M,Papaioannou S,Sharif K,Bjorndahl L,Coomarasamy A.Hum Reprod 2003;18(5):1037-46を参照のこと)。メチルセルロース及び受精能獲得培地を使用して作製した、試験で使用する頸管粘液代替物は、ヒト頸管粘液に対する適切な代理物であることが示されている(Ivic et al,2002;Tang S,Garrett C,Baker HW.Human Reprod 1999;14(11):2812-7)。この予備試験からの結果から、活性化好中球と同時温置した精子の2時間の処理後、ビヒクルと比べてAZD5904処理で精子貫入の統計学的に有意な改善が得られた(p=0.02)。個々の対象レベルで、AZD5904は、試験した患者の50%余りにおいて臨床的に適切で有益な効果をもたらし(評価した29名の患者のうち反応者15名)、一方でさらに8名の対象がより小さい改善を示した。AZD5904処置に対する陽性反応と関連付けられた表現型又は人口統計学的要因の同定を試みたが、これは試料サイズが小さすぎて可能ではなかった。より多数の対象を含むさらなる研究を継続中である。
【0061】
MPO阻害が精子特性の改善をもたらす効果の正確な機序は依然として確立されていない一方で、運動性試験における差は、24時間温置後、より明らかであった。
【0062】
まとめるために、上記で開示される男性特発性不妊症の処置のためのMPO阻害剤の潜在力の予備試験からの結果により、24時間後の全体的な精子運動性及びちょうど2時間後の精子貫入の改善に関して、MPO阻害剤でのヒト精子のインビトロ処理が、好中球介在性損傷からの精子保護における有益な効果に対する強い傾向と関連があることが示される。29名の対象のうち15名において、Kremer貫入試験での改善は、臨床的に重要であると裁定され、全体的なMPO阻害剤処理は、Kremer試験での精子貫入の統計学的に有意な改善につながった。これらの結果から、AZD5904などのMPO阻害剤が男性特発性不妊症の処置に有用であり得るという提案について強力な裏付けが提供される。これらの最初の研究で得られた結果を確認するための拡大試験を継続中である。
本願は、以下の態様も包含する。
[態様1]
男性不妊の処置又は予防における使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤。
[態様2]
男性不妊の処置を必要とする男性患者における男性不妊の処置の方法であって、治療的有効量のMPO阻害剤を前記患者に投与することを含む、方法。
[態様3]
男性不妊の予防を必要とすると判断された男性患者における男性不妊の予防の方法であって、治療的有効量のMPO阻害剤を前記患者に投与することを含む、方法。
[態様4]
男性不妊の処置又は予防のための薬剤の製造における使用のための、ミエロペルオキシダーゼ阻害剤又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物。
[態様5]
男性不妊の処置又は予防における使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤を含む、医薬組成物。
[態様6]
男性特発性不妊症の患者のためである、態様1~5の何れかに記載の、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物。
[態様7]
ヒト患者のためである、態様1~6の何れかに記載の、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物。
[態様8]
非ヒト陸上哺乳動物のためである、態様1~7の何れかに記載の、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物。
[態様9]
男性特発性不妊症に関して酸化ストレス誘発性精子損傷を阻害する、及び/又は精子誘発NETosisを予防するためである、態様1~8の何れかに記載の、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物。
[態様10]
態様1~9の何れかに記載の、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物であって、前記ミエロペルオキシダーゼ阻害剤が、1-(2-イソプロポキシエチル)-2-チオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-d]ピリミジン-4(5H)-オン又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物である、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物。
【化2】
[態様11]
態様1~9の何れかに記載の、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物であって、前記ミエロペルオキシダーゼ阻害剤が、3-[[(2R)-テトラヒドロフラン-2-イル]メチル]-2-チオキソ-7H-プリン-6-オン又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物である、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物。
【化3】
[態様12]
態様1~9の何れかに記載の、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物であって、前記ミエロペルオキシダーゼ阻害剤が、式(I)の化合物:
【化4】
(式中、
R
1
は、H、F、Cl又はCF
3
であり;
R
2
は、H、CH
3
又はC
2
H
5
であり;
R
3
は、H、CH
3
、C
2
H
5
、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロブチルメチル又はシクロペンチルである);
又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物である、使用のためのミエロペルオキシダーゼ阻害剤、処置若しくは予防の方法又は医薬組成物。
[態様13]
ミエロペルオキシダーゼ阻害剤又は薬学的に許容可能なその塩若しくは溶媒和物を含む医薬組成物と、男性特発性不妊症の処置又は予防のための医薬組成物の使用のための説明書と、を含むキット。
[態様14]
前記MPO阻害剤が、態様10、11又は12の何れかで定義されるとおりである、態様13に記載のキット。