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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】TBRFV抵抗性トマト植物
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/82 20180101AFI20230202BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A01H6/82 ZNA
C12N15/11 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020531141
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2018084031
(87)【国際公開番号】W WO2019110821
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/082096
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB42882
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB42885
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB42887
【微生物の受託番号】NCIMB  NCIMB42890
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500502222
【氏名又は名称】ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ルール・ハメリンク
(72)【発明者】
【氏名】ヨナタン・カリスファールト
(72)【発明者】
【氏名】ハメド・ラシディ
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-502210(JP,A)
【文献】特表2014-532420(JP,A)
【文献】特表2020-521492(JP,A)
【文献】Neta Luria et al.,A new israeli Tobamovirus isolate infects tomato plants harboring Tm-22 resistance genes,PLOS ONE,2017年01月20日,Vol.12, No.1,e0170429
【文献】藤 普一他,トマトTMV抵抗性品種・系統のもつ特異DNAの解析,愛知県農業総合試験場研究報告,Vol.28,1996年,pp.101-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00 - 17/00
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TBRFVに抵抗性であるソラヌム・リコペルシクム植物であって、前記植物は染色体11のQTLを含み、ここで染色体11のQTLは配列番号7と配列番号11の間に位置し、ここで染色体11の前記QTLが、配列番号8、9および10からなる群から選択される少なくとも1のマーカーと遺伝的に連鎖し、含み、ここで前記QTLが受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、またはNCIMB42890でNCIMBで寄託された種子に存在するQTLと同一である、植物。
【請求項2】
前記QTLがソラヌム・リコペルシクム植物のゲノム中の配列番号7および配列番号11に隣接している、請求項1に記載のソラヌム・リコペルシクム植物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のTBRFV抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物の細胞であって、前記細胞が、そのゲノム中に染色体11の請求項1または2に規定されるQTLを含む、細胞。
【請求項4】
ソラヌム・リコペルシクム種子であって、請求項1または2に規定される染色体11のそのゲノム中のQTLの存在に起因して、前記種子から生長した植物がTBRFVに抵抗性である、ソラヌム・リコペルシクム種子。
【請求項5】
請求項1または2に記載のソラヌム・リコペルシクム植物の生産に適した繁殖材料であって、ここで繁殖材料が有性生殖、栄養繁殖、または再生可能な細胞の組織培養に適しており、ここで、前記繁殖材料から産生された植物が、請求項1または2に規定される染色体11のTBRFV抵抗性をもたらすQTLを含む、繁殖材料。
【請求項6】
繁殖材料が有性生殖に適しており、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢、および卵細胞を含む群から選択される、請求項5に記載の繁殖材料。
【請求項7】
繁殖材料が栄養繁殖に適しており、カッティング(cutting)、根、茎、細胞、およびプロトプラストを含む群から選択される、請求項5に記載の繁殖材料。
【請求項8】
繁殖材料が再生可能な細胞の組織培養に適しており、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根冠、葯、花、種子、および茎を含む群から選択される、請求項5に記載の繁殖材料。
【請求項9】
配列番号7-11を含む群から選択される、ソラヌム・リコペルシクム植物におけるTBRFV抵抗性の同定のための核酸分子
【請求項10】
配列番号7-11を含む群から選択される、ソラヌム・リコペルシクム植物におけるTBRFV抵抗性をもたらす染色体11のQTLの同定のための核酸分子
【請求項11】
ソラヌム・リコペルシクム植物におけるTBRFV抵抗性の同定のための請求項9または10に記載の核酸分子の使用。
【請求項12】
S.リコペルシクム植物における染色体11の請求項1または2に規定されるQTLを導入する工程を含む、TBRFV抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物の製造方法。
【請求項13】
染色体11の請求項1または2に規定されるQTLの存在を同定する工程、およびTBRFV抵抗性植物として前記QTLを含む植物を選択する工程を含む、TBRFV抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物を選択する方法。
【請求項14】
染色体11の前記QTLの存在を同定する工程が、配列番号7-11を含む群から選択されるマーカーを使用して行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
TBRFVに抵抗性であるソラヌム・リコペルシクム植物の製造方法であって、前記方法が:
a)染色体11のQTLを含む請求項1または2に記載の植物を別の植物と交配する工程;
b)工程a)の交配から得られる植物の1回以上の自家交配および/または交配を実施して、さらなる世代集団を得る工程;
c)工程a)の交配から得られる植物から、または工程b)のさらなる世代集団から、TBRFVに対して抵抗性である請求項1または2に規定される染色体11のQTLを含む植物を選択する工程、
を含む、製造方法。
【請求項16】
染色体11のQTLを含む植物の選択が前記QTLに遺伝的に連鎖している分子マーカーを使用して行われ、ここでマーカーが配列番号7-11を含む群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
TBRFVに抵抗性である植物が、表現型的に選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記植物が、TBRFV抵抗性についてのバイオアッセイを使用することにより表現型的に選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1または2に記載の植物がNCIMB受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、もしくはNCIMB42890で寄託された種子から生長した植物、またはその子孫植物である、請求項15-17のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
第一親植物を第二親植物と交配する工程、および得られるハイブリッド種子を収穫する工程を含むハイブリッド種子の製造方法であって、ここで第一親植物および/または第二親植物が、染色体11の請求項1または2に記載のQTLを含むTBRFVに抵抗性である請求項1または2に記載の植物であり、ここで前記QTLの存在が前記種子から生長するハイブリッド植物におけるTBRFVへの抵抗性をもたらす、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト褐色しわ果実ウイルス(Tomato brown rugose fruit virus)(TBRFV)に抵抗性であるトマト(ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum))植物に関する。本発明はさらに、かかるソラヌム・リコペルシクム植物を生産する方法およびかかる植物の同定および選択のための方法に関する。本発明はまた、トマト褐色しわ果実ウイルス抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物の子孫、種子および果実、ソラヌム・リコペルシクム植物の産生に適した繁殖材料(Propagation material)、およびかかるトマト果実またはその部分を含む食品に関する。本発明はさらに、トマト褐色しわ果実ウイルス抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物に由来するか、またはトマト褐色しわ果実ウイルス抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物に再生され得る細胞または組織培養に関する。本発明はまた、トマト褐色しわ果実ウイルス抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物の同定のためのマーカー、およびマーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
トマト作物(ソラヌム・リコペルシクム)を栽培する際に遭遇する問題の一つに、様々なウイルスの発生がある。多くの既知のウイルスに対する抵抗性が確認されており、それらの抵抗性は育種により適切なトマト品種に組み込まれる。これにより、生産中に特定のウイルスが存在する場合でも、生産者は良好な収量を得ることができる。しかしながら、ある場合にはその利用可能な抵抗性を破壊できる新しいウイルスや既知のウイルスの株が定期的に同定される。
【0003】
2015年にトマトの新しいトバモウイルスの発生が発表された(Salemet al: A new tobamovirus infecting tomato crops in Jordan. Arch Virol. 2016 Feb; 161(2):503-6. Epub 2015 Nov 19)。このウイルスは、既知のトバモウイルスであるタバコモザイクウイルス(TMV)、トマトモザイクウイルス(ToMV)、トマトマイルドモトルウイルス(ToMMV)に関することが示され、ToMMVとToMVの最も近い関連配列については、約80%から90%の配列同一性を有することが示された。病徴は、植物上ではやや軽度であったが、ほとんどすべての果実に非常に重度の褐色縮葉病徴が存在した。前記ウイルスは、ToMVに対する一般的に使用される抵抗性遺伝子:Tm-1、Tm-2、Tm-2(Tm-2としても知られている)の抵抗性を破壊することが観察された。その後の刊行物では、前記ウイルスはイスラエルでも発見されており、前記ウイルスはトウガラシ(Capsicum annuum)植物にも感染できることが確立された(Luria et al (2017): A new Israeli tobamovirus isolate infects tomato plants harboring Tm-2 resistance genes. PLoS ONE 12(1):e0170429. Doi:10.1371/journal.pone.0170429)。病徴は罹患した品種によって異なるようで、場合によっては重度または軽度のモザイク、壊死、葉の歪み、またはその他の病徴の形で主に生長部分に病徴が見られた。前記ウイルスは、既知のトバモウイルスとは明らかに異なっていたため、新しい名称トマト褐色しわ果実ウイルス(TBRFV)で記載された。
【0004】
果実への病徴が深刻であるため、果実は基本的に市場に出回ることができずTBRFVの存在がトマト生産者に与える影響は非常に大きい。これまでに前記ウイルスに対する抵抗性は確認されていない。前記ウイルスは少なくとも機械的に伝播するため、伝播は容易かつ迅速であり、コントロールは困難である。ウイルスの伝染はまた、感染した種子を介して起こる可能性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、トマト褐色しわ果実ウイルス(TBRFV)に抵抗性であるソラヌム・リコペルシクム種のトマト植物を提供することである。
【0006】
新型TBRFVの問題点は、非常に迅速に拡散し、特定の地域でトマトの生産に大きな影響を与えたため、抵抗性トマト植物を得る緊急性が非常に高かった。また、その非常に効果的な伝染により、このウイルスは他の地域にも急速に広がることが予想された。そのため、可能性のある供給源の存在についての見識を得るために、大規模な遺伝資源スクリーニングが組織された。
【0007】
ソラヌム・リコペルシクムには、病気の抵抗性を有し、かつ育種のための貴重な資源である様々な近縁野生種がある。そのため、最新のトマト品種の多くは、すでに野生種からの1以上の遺伝子移入を保有する。しかしながら、近縁野生種からのトバモウイルス抵抗性遺伝子をすでに持っているものも含む現在栽培されているトマト品種は、この新しいウイルスに感染しやすいようであった。このことは、抵抗性を同定することが容易ではないことを意味していると考えられる。
【0008】
驚くべきことに、広範なスクリーニングの後、TBRFVに対して非常に高い抵抗性を持つソラヌム・ピンピネリフォリウム(Solanum pimpinellifolium)種の3つの系統種(accession)を同定することができた(実施例1)。続いて、この抵抗性がソラヌム・リコペルシクムに移入され得るどうかを判断し、抵抗性の背後にある遺伝学を同定するための研究プログラムが設定された。
【0009】
3つのS.ピンピネリフォリウム供給源GNL.3919、GNL.3920、およびGNL.3951と、一方では内部育種系統と交配を行い、その後、QTLマッピングのためにF2、F3、および戻し交配集団などの集団形成を行った。すべての世代でバイオアッセイを実施して、様々な集団における抵抗性の確認とモニタリングをし、そして遺伝の決定を行った。分子マーカーを介するQTLの同定および特性解析により、遺伝的に連鎖したマーカーを使用して、前記QTLの存在、したがって抵抗性の存在を同定する機会が得られ、これは、バイオアッセイの使用よりも明らかにはるかに効率的である。
【0010】
この目的のために、QTLマッピング研究を行った。F2集団に対する第一QTLマッピングは、3つすべてのS.ピンピネリフォリウム供給源に基づいて開発された集団に存在する染色体11のQTL領域を同定した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、トマト褐色しわ果実ウイルス(TBRFV)に抵抗性であるトマト植物を提供し、前記植物は、染色体11のQTLを含む。染色体11のQTLは特にS.ピンピネリフォリウム種に由来するかまたは遺伝子移入されたQTLである。
【0012】
染色体11のQTLは、配列番号1と配列番号53の間に位置する。本発明のQTLは優先度の増加順に配列番号4および配列番号52、配列番号5および配列番号52、配列番号5および配列番号51、配列番号4および配列番号33、配列番号5および配列番号11、または配列番号6および配列番号11、または配列番号7および配列番号11に隣接する。染色体11の本発明のQTLはもっとも好ましくは配列番号8および配列番号10に隣接する。本明細書中で使用される「隣接する」は、配列がQTL領域の境界を示し、したがって、前記QTLの一部であることを意味する。
【0013】
染色体11の本発明の前記QTLの存在の同定のためのマーカーは、優先度の増加順に配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から選択される。本発明のQTLの同定のためのマーカーはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群から選択される。本明細書中で使用されるように、QTLの同定のためのマーカーは、QTLに存在する図1の配列により表されるマーカーである。
【0014】
本発明の前記QTLの存在の同定のためのさらなるマーカーは本発明の抵抗性植物および感受性のコントロール植物間の任意のほかの多型に基づくことができ、ここで多型は優先度の増加順に配列番号4および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号51の間、または配列番号4および配列番号33の間、または配列番号5および配列番号11の間、または配列番号6および配列番号11の間に位置する。本発明の前記QTLの存在の同定のためのさらなるマーカーはもっとも好ましくは本発明の抵抗性植物および感受性植物間の任意のほかの多型に基づき、ここで多型は配列番号7および配列番号11の間に位置する(実施例2)。
【0015】
図1は、トマト植物にTBRFV抵抗性をもたらす染色体11の本発明の前記QTLの存在を同定するためにマーカーとして使用され得るか、またはマーカーを開発するために使用され得る配列番号の配列を示す。表3は、マーカースコア、すなわちQTLの存在、したがって抵抗性植物を同定する配列のヌクレオチド並びに図1の配列のSNPの位置を示す。マーカーの配列が例えば、S.リコペルシクムの公表されているゲノム参照配列のバージョンSL3_00上に位置する場合、前記マーカー配列中のSNP多型が対応する前記物理的位置が由来し得る。この位置はまた、表3に示される。公開されているS.リコペルシクムゲノム参照配列のバージョンSL3_00は例えば、ソルゲノミクスウェブサイト(solgenomics.net)でアクセスでき、本明細書中で使用される「公開トマトゲノム」の参照である。前記QTLの前記位置および本発明のマーカーは公開されたマップに由来でき、かつこれらの位置は物理的位置に相対的である。
【0016】
マーカーの存在の同定は特に、SNPの位置の野生型ヌクレオチドと比較して前記配列番号を決定する配列のいずれかに存在するような前記抵抗性を示すSNPの位置のヌクレオチドの存在を同定することにより行われ;遺伝的に連鎖され、そのため抵抗性を示すSNPsの位置およびヌクレオチドは表3に示される。野生型ヌクレオチドは公開ゲノムにおけるその位置に存在するヌクレオチドである。
【0017】
本明細書中で使用されるトマト植物はソラヌム・リコペルシクム種の植物である。
【0018】
本明細書中で使用されるように、トマト褐色しわ果実ウイルスへの抵抗性は、Salem et al(2016、supra)に記載されるウイルスへの抵抗性であり、ここで前記ウイルスはNCBI Taxonomy ID1761477が割り当てられている。
【0019】
本明細書中で使用されるように、本発明のQTLを含む植物と前記QTLを欠く植物を交配して得られる分離集団において前記マーカーと前記TBRFV抵抗性が共分離である場合、マーカーは遺伝的に連鎖しており、したがって、本発明のQTLの同定のために使用され得る。
【0020】
本発明のTBRFV抵抗性は、中間的に遺伝する。本明細書中で使用されるように、中間的とは、本発明のQTLがホモ接合的に存在する場合、本発明のQTLがヘテロ接合的に存在する場合よりも高いレベルのTBRFV抵抗性を与えることを意味する。しかしながら本発明のQTLのヘテロ接合的な存在であっても、抵抗性として定義され得るTBRFV抵抗性の一定のレベルを付与する。ホモ接合およびヘテロ接合の植物の両方のTBRFV抵抗性はTBRFVが存在する条件下での前記植物の栽培をより適したものにする。したがって抵抗性の両方のレベルは改良された農学的特性であると考えられる。最も高いレベルの抵抗性は前記QTLがホモ接合的に存在する場合に得られる。
【0021】
TBRFV抵抗性の存在はバイオアッセイ、例えば、当業者に知られ、かつ例えばLuria et al(2017、supra)に記載されるトバモウイルスについての標準的な樹液-機械的播種技術(sap-mechanical inoculation technique)を使用するバイオアッセイを介して決定され得る。若いトマト植物での病徴の観察は播種後約12-18日(dai)で行うことができる。
【0022】
TBRFV抵抗性は、TBRFV感受性として知られるコントロール品種との比較により決定される。コントロールとして使用され得るTBRFV感受性トマト品種の例は、Candela F1およびRazymo F1である。本発明が行われる前にはTBRFVに抵抗性であると知られたトマト品種はなかったため、本発明前に抵抗性コントロールを含めることはできなかった。抵抗性は好適には0-4のスケールでスコア化され;スコアのスケールは表1で示される。
表1:スケール TBRFV抵抗性スコア
【表1】
【0023】
本明細書中で使用されるように、QTLがホモ接合的に存在するTBRFV抵抗性トマト植物は表1に従うスコアリングが使用される場合、0または1のスコア、または最大でも2より小さいスコアを有する。抵抗性植物は3より小さいスコアを有する。
【0024】
TBRFV抵抗性をもたらす本発明のQTLを有するS.リコペルシクム植物はNCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、またはNCIMB42890として寄託された種子から生長し得る。NCIMB42882は、GNL.3951から開発した。NCIMB42885は、GBN.3920から開発した。NCIMB42887およびNCIMB42890は、GNL.3919から開発した。
【0025】
NCIMB42882は本発明のTBRFV抵抗性を有し、かつ優先度の増加順に配列番号1と53の間、または配列番号4および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号51の間、または配列番号4および配列番号33の間、または配列番号5および配列番号11の間、または配列番号6および配列番号11の間に位置する染色体11の本発明のQTLを含む。NCIMB42882における本発明のQTLはもっとも好ましくは配列番号7および配列番号11の間に位置する。前記QTLはホモ接合形態で寄託物NCIMB42882に存在する。
【0026】
NCIMB42885は本発明のTBRFV抵抗性を有し、かつ優先度の増加順に配列番号1と53の間、または配列番号4および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号51の間、または配列番号4および配列番号33の間、または配列番号5および配列番号11の間、または配列番号6および配列番号11の間に位置する染色体11の本発明のQTLを含む。NCIMB42885における本発明のQTLはもっとも好ましくは配列番号7および配列番号11の間に位置する。前記QTLはホモ接合形態で寄託物NCIMB42885に存在する。
【0027】
NCIMB42887は本発明のTBRFV抵抗性を有し、かつ優先度の増加順に配列番号1と53の間、または配列番号4および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号51の間、または配列番号4および配列番号33の間、または配列番号5および配列番号11の間、または配列番号6および配列番号11の間に位置する染色体11の本発明のQTLを含む。NCIMB42887における本発明のQTLはもっとも好ましくは配列番号7および配列番号11の間に位置する。前記QTLはホモ接合形態で寄託物NCIMB42887に存在する。
【0028】
NCIMB42890は本発明のTBRFV抵抗性を有し、かつ優先度の増加順に配列番号1と53の間、または配列番号4および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号52の間、または配列番号5および配列番号51の間、または配列番号4および配列番号33の間、または配列番号5および配列番号11の間、または配列番号6および配列番号11の間に位置する染色体11の本発明のQTLを含む。NCIMB42890における本発明のQTLはもっとも好ましくは配列番号7および配列番号11の間に位置する。前記QTLはホモ接合形態で寄託物NCIMB42890に存在する。
【0029】
染色体11の本発明のQTLを含む植物はTBRFVバイオアッセイにおける抵抗性コントロール品種として使用され得る。評価されるべき植物、系統、または集団が、バイオアッセイにおいてNCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、またはNCIMB42890と同じレベルの抵抗性を示し、かつこの植物、系統または集団が染色体11の本明細書中に記載されるQTLを含む場合、この植物、系統、または集団は本発明のTBRFV抵抗性を有すると考えられ、したがって本発明の植物である。
【0030】
本発明の植物は所望により、植物を商業的栽培に適したものとする改良された農学的特性を有する栽培されたS.リコペルシクム植物である。本発明はまた、本発明の植物から収穫されたトマト果実に関し、ここでトマト果実は、前記植物におけるTBRFV抵抗性をもたらす本発明のQTLをそのゲノム中に含む。このトマト果実はまた、本明細書中で「本発明の果実」または「本発明のトマト果実」とも呼ばれる。本明細書中で使用される「トマト果実」は、ソラヌム・リコペルシクム種の植物により産生される果実を含む。
【0031】
本発明は、染色体11のQTLを提供し、ここで、QTLは優先度の増加順に配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から選択される少なくとも1のマーカーに遺伝的に連鎖しており、ここでS.リコペルシクム植物における前記QTLの存在がTBRFV抵抗性をもたらす。本発明のQTLはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群から選択される少なくとも1のマーカーに遺伝的に連鎖している。
【0032】
本発明は、染色体11のQTLを導入する工程を含むTBRFV抵抗性S.リコペルシクム植物を生産する方法に関し、ここで前記QTL領域は優先度の増加順にS.リコペルシクム植物において、配列番号4および配列番号52に隣接する、または配列番号5および配列番号52に隣接する、または配列番号5および配列番号51に隣接する、または配列番号4および配列番号33に隣接する、または配列番号5および配列番号11に隣接する、または配列番号6および配列番号11に隣接する、または配列番号7および配列番号11に隣接する。もっとも好ましくは、導入される前記QTLは配列番号8および配列番号10に隣接する。
【0033】
本発明のQTLは、植物が性的に適合する場合に交配および選択などの一般的に使用される育種技術により前記QTLを含む別の植物から導入され得る。かかる導入は通常容易に交配がされ得る同種の植物から、または近縁種の植物からである。交配の困難性は、胚救出などの当該技術で知られている技術により克服でき、またはシスジェネシスが適用できる。好適には、本明細書中に記載されるマーカーは別の植物への前記QTLの組み込みを追跡するために使用される。
【0034】
上記方法は特に、かかる遺伝情報の組み込みに適した植物種に本発明のQTLを導入するために使用され得る。特定の実施形態では、前記QTLは例えば、標準的な育種方法を使用して前記QTLを含むソラヌム・ピンピネリフォリウム植物から前記QTLを欠くソラヌム・リコペルシクム植物に導入され得る。別の実施形態では、前記QTLは、標準的な育種方法を使用して前記QTLを含むソラヌム・リコペルシクム植物から前記QTLを欠くソラヌム・リコペルシクム植物に導入され得る。
【0035】
染色体11のQTLは、受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、またはNCIMB42890でNCIMBで寄託されたソラヌム・リコペルシクム植物の代表的な種子から、またはNCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、またはNCIMB42890の寄託された種子から、またはそれらの性的または栄養的子孫から導入され得る。ソラヌム・リコペルシクムにおける染色体11のQTLの導入はTBRFV抵抗性をもたらす。
【0036】
あるいは、本発明のQTLは、例えばトランスジェニックアプローチを使用することにより、別の、性的に適合しない植物から移入または導入できる。好適に使用され得る技術は、アグロバクテリウム媒介トランスフォーメーション方法の使用などの当業者に知られた一般的な植物トランスフォーメーション技術を含む。CRISPR/Casシステムの使用などのゲノム編集法はまた、本発明の植物を得るために利用されてもよい。
【0037】
本発明はホモ接合またはヘテロ接合のいずれかでTBRFV抵抗性をもたらす本発明のQTLを含む本発明の植物にさらに関し、ここで前記植物は近交系統、ハイブリッド、二倍体ハプロイドの植物、または分離集団の植物である。好ましくは、本発明の植物は非トランスジェニック植物である。
【0038】
本発明はまた、染色体11の本発明のQTLを含むソラヌム・リコペルシクム種子に関し、ここで前記種子から生長した植物はTBRFVに抵抗性である本発明の植物である。本発明はまた、本発明の植物により産生された種子に関し、ここで前記種子は本発明のQTLを有し、したがって、前記種子から生長した植物は本発明の植物である。
【0039】
さらに、本発明はまた、本発明のトマト果実またはその部分を含む食品または加工食品に関する。前記食品は1以上の加工工程を受けていてもよい。かかる加工工程は以下の処置のいずれかまたはそれらの組合せを含むがこれらに限定されなくてもよい:皮むき(peeling)、切断(cutting)、洗浄、搾汁(juicing)、調理(cooking)、冷却または本発明の果実を含むサラダ混合物。得られた加工された形態も本発明の一部である。
【0040】
本発明はまた、本発明のソラヌム・リコペルシクム植物を産生するのに適した繁殖材料に関し、ここで、繁殖材料は有性生殖に適しており、かつ特に小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢、および卵細胞から選択される;または栄養繁殖に適しており、かつ特にカッティング(cutting)、根、茎、細胞、プロトプラストから選択される;または再生可能な細胞の組織培養に適しており、かつ特に葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根冠、葯、花、種子、および茎から選択される;ここで、前記繁殖材料から産生された植物は、TBRFV抵抗性を付与する本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含む。本発明の植物は前記繁殖材料の供給源として使用されてもよい。
【0041】
本発明はさらに、本明細書中で規定される本発明のQTLを含む細胞に関する。本発明の細胞は本発明の植物から得ることができ、または本発明の植物中に存在することができる。かかる細胞は単離形態、または完全な植物の一部もしくはそれらの部分のいずれかであってもよく、かかる細胞は、栽培されたS.リコペルシクム植物のTBRFV抵抗性をもたらす本明細書中に記載されるQTLを決定する遺伝情報を含むので、それでなお本発明の細胞を構成する。本発明の植物の各細胞は、TBRFV抵抗性をもたらす遺伝情報を保有する。本発明の細胞は本発明の新たな植物に再生できる再生可能な細胞であってもよい。この文脈における遺伝情報の存在は、染色体11の本発明の前記QTLの存在であり、ここで前記QTLは本明細書中で規定される。
【0042】
本発明はさらに、本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含む本発明の植物の植物組織に関する。前記組織は、未分化組織または既に分化した組織であり得る。未分化組織は例えば、茎の先端、葯、花弁、花粉であり、そしてマイクロプロパゲーションにおいて使用され、本発明の新たな植物に生長する新たな小植物を得ることができる。前記組織はまた、本発明の細胞から生長できる。
【0043】
本発明は、本発明の植物、細胞、組織、または種子の子孫にさらに関し、ここで子孫は本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含み、QTLの存在、好ましくはホモ接合形態の存在がTBRFV抵抗性をもたらす。かかる子孫はそれ自体で、植物、カッティング(cutting)、種子、細胞、または組織であり得る。
【0044】
本明細書中で使用されるように「子孫」(progeny)は本発明の植物との交配からの第一およびすべてのさらなる子孫(descendant)を意味することが企図され、ここで交配はそれ自体との交配または別の植物との交配を含み、ここで子孫(progeny)であると決定される子孫(descendant)は、TBRFVへの抵抗性をもたらす本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含む。この交配において使用される本発明の植物は所望により寄託物NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、NCIMB42890、またはそれらの子孫種子の植物であって、1以上の後続の世代について寄託された種子から生長した植物を、それ自身とまたは別の植物と交配することを介する直系またはさらなる子孫(descendant)である。
【0045】
「子孫」はまた、染色体11の本発明のQTLを保有し、かつTBRFVに抵抗性であるS.リコペルシクム植物を包含し、栄養繁殖または別の形態の繁殖により別の植物、または本発明の植物の子孫から得られる。
【0046】
本発明はさらに、有性生殖に適している本発明のS.リコペルシクム植物の一部に関し、植物部分は、染色体11の本発明のQTLを含み、ここでQTLは本明細書中で規定される。かかる部分は例えば、小胞子、花粉、子房、胚珠、胚嚢、および卵細胞を含む群から選択される。
【0047】
さらに、本発明は、栄養繁殖に適している本発明のS.リコペルシクム植物の一部に関し、特に染色体11の本発明のQTLを含むカッティング(cutting)、根、茎、細胞、またはプロトプラストであり、ここでQTLは本明細書中で規定される。上述のような植物の一部は繁殖材料と考えられる。繁殖材料から産生される前記植物は、本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含み、QTLの存在はTBRFV抵抗性をもたらす。
【0048】
本発明はさらに、繁殖材料でもあり、かつそのゲノム中に染色体11の本発明のQTLを含む、本発明の植物の組織培養に関し、ここでQTLは本明細書中で規定される。前記組織培養は、再生可能な細胞を含む。かかる組織培養は前記植物の任意の部分、特に葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根冠、葯、花、種子、または茎から選択されまたは由来することができる。前記組織培養は本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含むS.リコペルシクム植物に再生でき、ここで前記再生されたS.リコペルシクム植物はTBRFV抵抗性をあらわし、そして発明の部分でもある。
【0049】
本発明はさらに植物育種における本発明の植物の使用に関する。したがって、本発明はまた、TBRFVに抵抗性である栽培されたS.リコペルシクム植物の開発についての育種方法に関し、ここで本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含む植物は別の植物への抵抗性を付与するために使用される。TBRFV抵抗性を有する別の植物を開発するために植物育種において使用され得る植物について代表的な種子は、受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、およびNCIMB42890でNCIMBで寄託された。
【0050】
本発明はまた、TBRFVへの抵抗性を有するソラヌム・リコペルシクム植物の開発のための本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLの使用に関する。
【0051】
本発明はまた、ソラヌム・リコペルシクム植物におけるTBRFV抵抗性の同定のためのマーカーに関し、マーカーは染色体11のQTLの同定について優先度の増加順に配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から選択される。本発明のQTLの同定のためのマーカーはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群から選択される。上記で規定される領域のいずれかにおける多型に基づいて開発される任意のほかのマーカーも本発明の一部である。
【0052】
ソラヌム・リコペルシクム植物におけるTBRFV抵抗性の同定のための、配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から、またはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群からのマーカーのいずれかの使用も本発明の一部である。これらのマーカーのいずれかはまた、配列番号間の領域における任意の他の多型を決定することによってTBRFV抵抗性をもたらす染色体11のQTLの同定のための他のマーカーを開発するために使用され得、使用も本発明の一部である。
【0053】
本発明はまた、染色体11の本発明の前記QTLの存在を同定する工程を含むTBRFV抵抗性ソラヌム・リコペルシクム植物を選択する方法およびTBRFV抵抗性植物として前記QTLを含む植物を選択する方法に関する。
【0054】
染色体11の前記QTLの存在の同定は、配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から、またはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群から選択されるマーカーを使用して好適には行われる。
【0055】
本発明はまた、TBRFV抵抗性を付与する染色体11の本発明のQTLのそのゲノム中の存在についてソラヌム・リコペルシクム植物を試験する方法であって、ソラヌム・リコペルシクム植物のゲノム中の配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から、またはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群からなる群から選択されるマーカー配列の存在を検出する工程を含む、方法に関する。
【0056】
TBRFV抵抗性を付与する染色体11の本発明のQTLのそのゲノム中の存在についてソラヌム・リコペルシクム植物を試験する方法は、所望によりTBRFV抵抗性植物として前記QTLを含むソラヌム・リコペルシクム植物を選択する工程をさらに含む。
【0057】
本発明はまた、TBRFVに抵抗性であるソラヌム・リコペルシクム植物の生産方法に関し、前記方法は以下:
a) 染色体11の本発明のQTLを含む本発明の植物を別の植物と交配する工程;
b) 所望により交配から得られる植物の1回以上の自家交配および/または交配を実施してさらなる世代集団を得る工程;
c) 交配から得られる植物、またはさらなる世代集団から、本明細書中で規定される染色体11のQTLを含む植物であって、TBRFVに対して抵抗性である植物を選択する工程、
を含む。
【0058】
染色体11のQTLを含む植物の選択は好適には前記QTLに遺伝的に連鎖している分子マーカーを使用することにより行われ、染色体11のQTLの同定についてマーカーが配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から、またはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群から選択される。前記植物は代替的には、または追加的には、TBRFVへの抵抗性を有することについて、特にTBRFV抵抗性についてバイオアッセイを実施することにより、表現型的に選択され得る。
【0059】
本発明の一実施形態では、TBRFVに対して抵抗性であるソラヌム・リコペルシクム植物の生産方法において使用される本発明の植物は、NCIMB受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、またはNCIMB42890で寄託された種子から生長した植物、または1以上の後続の世代について前記寄託された種子から生長した植物をそれ自身とまたは別の植物と交配することによる直系またはさらなる子孫(descendant)であるその子孫(progeny)植物である。
【0060】
本発明はさらにTBRFV抵抗性を含むソラヌム・リコペルシクム植物に別の所望の形質を導入する方法であって、以下:
a) 染色体11のQTLを含む本発明のソラヌム・リコペルシクム植物を、前記他の所望の形質を含む第二ソラヌム・リコペルシクム植物と交配してF1子孫を産生する工程;
b) 所望によりTBRFV抵抗性および前記他の所望の形質を含む植物についてF1を選択する工程;
c) 所望により選択したF1子孫をいずれかの親と交配すると交配して、戻し交配子孫を産生する工程;
d) TBRFV抵抗性および前記他の所望の形質を含む戻し交配子孫を選択する工程;および
e) 所望により工程c)およびd)を1回以上連続して繰り返すことにより、前記他の所望の形質を含み、かつTBRFVへの抵抗性を有する選択された第四またはそれ以上の戻し交配子孫を産生する工程、
を含む方法を提供する。戻し交配は所望により、戻し交配子孫が安定し、親系統として使用され得るまで行われ、最大で10の戻し交配の後に達成され得る。
【0061】
本発明の一実施形態では、別の所望の形質をTBRFVへの抵抗性を含むソラヌム・リコペルシクム植物に導入する方法において使用される本発明の植物は、NCIMB受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB NCIMB42887、またはNCIMB42890で寄託された種子から生長した植物、または1以上の後続の世代について前記寄託された種子から生長した植物を、それ自身とまたは別の植物と交配することによる直系またはさらなる子孫であるその子孫植物、である。
【0062】
所望により、自家交配工程は、交配または戻し交配工程のいずれかの後に実施される。TBRFV抵抗性をもたらす染色体11の本発明のQTLおよび前記他の所望の形質を含む植物の選択は代替的には、前記方法の交配または自家交配のいずれかの工程のあとに行われ得る。前記他の所望の形質は以下の群から選択され得るが、これらに限定されない:細菌、真菌またはウイルス性の病気への抵抗性、昆虫または害虫抵抗性、改良された発芽、植物の大きさ、植物の種類、改良された貯蔵寿命、水ストレスおよび熱ストレス耐性、および雄性不稔性。本発明は、この方法により産生されたソラヌム・リコペルシクム植物およびそれらから得られたソラヌム・リコペルシクム果実を含む。
【0063】
本発明はさらに、染色体11の本発明のQTLを含むソラヌム・リコペルシクム植物の生産方法であって、そのゲノム中に本発明のQTLを含む植物材料の組織培養を使用することによる方法に関し、ここで前記QTLの存在がTBRFVへの抵抗性をもたらす。
【0064】
本発明はさらに、染色体11の本発明のQTLを含むソラヌム・リコペルシクム植物の生産方法であって、そのゲノム中に本発明のQTLを含む植物材料の栄養繁殖を使用することによる方法に関し、ここで前記QTLの存在がTBRFVへの抵抗性をもたらす。
【0065】
本発明は、二倍体ハプロイド世代技術を使用してホモ接合に本発明のQTLを含み、かつTBRFVに対して抵抗性である二倍体ハプロイド系統を産生することにより、染色体11の本発明のQTLを含み、かつ本明細書中で規定されるTBRFVへの抵抗性を有するソラヌム・リコペルシクム植物の生産方法をさらに提供する。
【0066】
本発明はさらに、本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含むソラヌム・リコペルシクム植物の生産方法であって、ここで前記QTLの存在がTBRFV抵抗性をもたらし、前記方法が前記QTLを含む種子をソラヌム・リコペルシクム植物に生長させる工程を含む、方法に関する。一実施形態では、前記方法において使用される種子は、受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、またはNCIMB42890でNCIMBで寄託された種子、または1以上の後続の世代について前記寄託された種子から生長した植物を、それ自身と、または別の植物と交配することによる直系またはさらなる子孫であるその子孫種子、である。
【0067】
本発明はさらに、本発明の種子からソラヌム・リコペルシクム植物を生長させ、前記植物に種子を有する果実を産生させ、前記果実を収穫し、かつそれらの種子を抽出する工程を含む種子生産のための方法に関する。前記種子の生産は好適には、それ自身とまたは所望により本発明の植物でもある別の植物と交配することにより行われる。このようにして産生された種子は、本発明のQTLを含み、かつTBRFVに抵抗性である植物に生長する能力を有する。
【0068】
本発明はさらに、ハイブリッド種子および第一親植物を第二親植物と交配する工程および得られたハイブリッド種子を収穫する工程を含む前記ハイブリッド種子を生産する方法に関し、ここで第一親植物および/または第二親植物は本明細書中で規定される染色体11の本発明のQTLを含む本発明の植物である。前記QTLを含むハイブリッド種子から生長できる得られるハイブリッド植物はまた本発明の植物であり、ここで前記ハイブリッド植物はTBRFVへの抵抗性を有する。
【0069】
本発明のTBRFV抵抗性を提供する親は寄託された種子から直接生長した植物であり得る。前記親はまた、1回以上それ自身とまたは別の植物と交配することにより得られる直系またはさらなる子孫である寄託された種子からの子孫植物、または、他の手段により本発明のQTLを得、それにより本発明のTBRFV抵抗性を得た、として同定される種子からの子孫植物であり得る。
【0070】
本明細書中で使用される染色体11の本発明のQTLの遺伝子移入は前記QTLを含むドナー植物から前記QTLを保有していないレシピエント植物への標準的な育種技術による前記QTLの導入を意味し、ここで本発明のQTLを含む植物についての選択はTBRFVへの抵抗性の観察によって表現型的に実施され得、または選択は、本明細書中で規定されるマーカー、好ましくは配列番号4-52を含む群から、または配列番号5-52を含む群から、または配列番号5-51を含む群から、または配列番号4-33を含む群から、または配列番号5-11を含む群から、または配列番号6-11を含む群から、または配列番号7-11を含む群から、またはもっとも好ましくは配列番号8-10を含む群から選択されるマーカーの使用により、マーカーアシスト育種またはこれらの選択方法の組合せを介して実施され得る。選択はF1または前記レシピエント植物および前記ドナー植物間の最初の交配からの任意のさらなる世代で始まり、その後好適には本明細書で同定され規定されるマーカーを使用することにより、それ自身とまたは別の植物とのいずれかのさらなる交配が行われる。当業者は前記QTLを同定するために使用され得るか、または前記QTLしたがって本発明のTBRFV抵抗性に遺伝的に連鎖している新たな分子マーカーを作製し、使用することに精通している。本発明の植物の同定および選択のためのかかるマーカーの開発および使用も本発明の一部である。
【0071】
本発明は、後の実施例でさらに例示され、それは例示の目的のためだけのものである。実施例は、本発明をいかなる意味でも限定することを意図していない。実施例および本願では、以下の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】配列番号1-53のヌクレオチド配列。
【0073】
寄託
TBRFV抵抗性植物をもたらす染色体11の本発明のQTLをホモ接合に含むトマトソラヌム・リコペルシクムの種子は、受託番号NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、およびNCIMB42890で2017年11月9日にUK、AB21 9YA、アベルディーン、ブックスバーン、クライブストーン エステート、フェルグソンビルディング、NCIMB Ltdで寄託された。
【実施例
【0074】
実施例1
S.リコペルシクムにおけるTBRFV抵抗性についてのバイオアッセイおよび寄託開発
新たなTBRFVトバモウイルスの存在により問題が増大し、このウイルスが広い地域に容易に拡散する恐れがあるため、大規模な遺伝資源スクリーニングが組織された。潜在的な抵抗性材料のスクリーニングは、バイオアッセイにより行った。ウイルスは機械的に感染するため、バイオアッセイでは標準的な機械的播種技術を使用した。当時は抵抗性材料が知られていなかったため、抵抗性コントロールを含めることはできなかった。しかしながら、感受性のコントロールを含めることは容易であった:Candela F1は感受性があると発表されていたので含み、Razymo F1も第二の感受性コントロールとして含んだ。抵抗性が栽培材料にすでに存在していることもあるかもしれず、存在するかどうかを決定するために、市販されている多数のハイブリッドトマト品種も含んだ。
【0075】
試験される系統種の種子を標準的な種苗トレイに播種し、系統種あたり11種苗を播種後3週間接種した。病徴のスコアリングは播種後2週および再度播種後3週目に表1に従って行った。
【0076】
接種源をセライトと混合した0.01Mリン酸バッファー(pH7.0)中でTBRFVに感染したトマト植物の葉を接地させることにより調製した。植物は接種源を葉に軽くこすりつける前に、カルボランダム粉末を散布した。
【0077】
前記大規模スクリーニングでは、3つのソラヌム・ピンピネリフォリウム系統種GNL.3919、GNL.3920、およびGNL.3951がTBRFVに抵抗性であると同定された。すべての3つの系統種は100%抵抗性であり、第一並びに第二の観察で病徴を示さず、そのためスコア0を有した。Candela F1およびRazymo F1について、すべての植物はスコア4を有していたため、それらは感受性が高い。含まれた他の市販のトマト品種は主にスコア3および4を有しており、いずれも抵抗性植物を示さなかった。
【0078】
同定された抵抗性S.ピンピネリフォリウム供給源を内部S.リコペルシクム系統TB1、TB2、およびTO1と交配した。続いてこれらの交配からのF1植物を生長させ、F2種子も得た。前記供給源、前記育種系統、前記F1および集団あたり184のF2植物を含む新たな大規模スクリーニングを設定した。接種後2週間のこのスクリーニングの親およびF1の平均スコアは表2で示される。個々のF2植物スコアは予想通りにスコア0-4の範囲で分離した。内部育種系統TB1、TB2、およびTO1の場合のように植物が第一観察で3をスコアした場合、当該植物を除去し、第二観察を行わなかった。
【0079】
分離F2集団から、抵抗性植物を選択し、自家交配させた。QTL解析から並列に開発されたマーカーを使用して(実施例2を参照されたい)、同定されたQTLを有する植物を選択した。すべての3つの供給源が代表したこれらの個々の植物からの種子をその後NCIMB42882、NCIMB42885、NCIMB42887、およびNCIMB42890として寄託した。NCIMB42882は、GNL.3951との交配から開発した。NCIMB42885は、GNL.3920との交配から開発した。NCIMB42887およびNCIMB42890は、GNL.3919との交配から開発した。全ての寄託植物は染色体11のQTLをホモ接合に有した。
表2-TBRFVバイオアッセイ結果
【表2】
【0080】
当該QTLをホモ接合に有するよう選択したF2およびF3植物でさらなる観察を行い、前記QTLの存在が表1に記載されるスケールに従って病気のスコア平均0-1、場合によっては1.5をもたらすことが確認された。戻し交配を、反復親として育種系統と行い、戻し交配世代のその後の自家交配集団でも、当該QTLのホモ接合の存在はTBRFVに抵抗性である植物をもたらすことがわかった。
【0081】
実施例2
QTLマッピングおよびマーカー開発
同定された供給源からTBRFV抵抗性を付与するQTLをマッピングするために、7つのF1のF2集団の184の植物をTBRFV抵抗性について表2から表現型化した;参照のため親も含まれた;遺伝子型化のために各植物のDNA試料を採取した。表1に従った表現型スコア0-4は全F2集団に存在した。
【0082】
集団ごとに遺伝地図を作成し、非多型マーカーと強い分離歪みを持つマーカーを除去した。各集団について、約400-450のマーカーがマップされ、平均2-3cMの間隔でゲノム上に十分に分布していた。マーカーの順番を決定し、公開されているゲノムアセンブリを使用して、番号付けと連鎖群の向きを決定した。7の個々のマップからコンセンサスマップを作製した。
【0083】
表現型スコア、遺伝子型データ、マーカー位置を含有するコンセンサスマップをQTLマッピングの入力データとして使用した。QTL解析を実施し、データのマッピングは最初に3つのQTLの同定:染色体11に1つ、染色体12に1つ、および染色体6に1つ、をもたらした。
【0084】
抵抗性のために分離した集団のさらなる観察、およびその後のQTLのファインマッピングにより、TBRFVへの抵抗性への主要な寄与が染色体11の前記QTLの存在に起因することがわかった。このファインマッピングにより、染色体11のQTL領域をさらに絞り込むことができた。元のQTL内の組み換えの同定により最初に約54Mbpのより小さな領域が得られた。さらなるファインマッピングにより、約7.7Mbpから10.1Mbp間の供給源からの遺伝子移入を含む小さな領域が得られた。抵抗性を示した最終的な組み換えは配列番号7および配列番号10の間である約8.6から10.1Mbp間の供給源からの小さな遺伝子移入を有するのみであった。公開SL3_00トマトマップに基づく正確な位置は、表3に示され得る。この解析で同定され、かつ当該QTL領域に存在する多型SNPマーカーは表3に示される。これらのマーカーの配列は図1に示される。これらのマーカーは、前記寄託から生長した植物またはそれらの子孫における前記QTLの存在を同定するために使用され得る。これらのマーカーは、前記QTLを含む任意のほかの集団における染色体11のTBRFV抵抗性についての本発明のQTLの存在を同定するためにさらに使用できる。
表3.SNPマーカー-ヌクレオチドおよび物理的位置
【表3】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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