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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】デジタル検体分析
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6816 20180101AFI20230202BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230202BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20230202BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
C12Q1/6816 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6827 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 21
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021065558
(22)【出願日】2021-04-08
(62)【分割の表示】P 2019123457の分割
【原出願日】2011-02-11
(65)【公開番号】P2021118697
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】61/347,158
(32)【優先日】2010-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/304,163
(32)【優先日】2010-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/331,490
(32)【優先日】2010-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/388,937
(32)【優先日】2010-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519218567
【氏名又は名称】バイオ-ラド ラボラトリーズ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン ウィリアム ラーソン
(72)【発明者】
【氏名】ゾン クン
(72)【発明者】
【氏名】ダレン ローイ リンク
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/059430(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/013492(WO,A1)
【文献】特表2009-536313(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0003142(US,A1)
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2003年,Vol. 100, No. 13,pp. 7449-7453
【文献】J. Biotechnol.,2003年,Vol. 102,pp. 117-124
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2007年,Vol. 104, No. 32,pp. 13116-13121
【文献】Nat. Biotechnol.,2001年,Vol. 19,pp. 78-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を分析するための方法であって、
核酸、遺伝子座特異的プライマー、及び標識されたプローブを含有するサンプル流体を提供する工程;
前記サンプル流体を不混和性のキャリア流体と交差させるように流すことにより、前記サンプル流体液滴に区画化する工程であって、少なくとも1つの液滴が、少なくとも2つの遺伝子座を含有する単一ターゲット核酸と、前記2つの遺伝子座それぞれからのアンプリコンにハイブリダイズするプローブと、前記2つの遺伝子座それぞれに特異的なプライマー対とを含有する、前記区画化工程;
前記液滴において増幅反応を実施する工程;及び
ローブを使用して、前記液滴において前記単一ターゲット核酸上の前記2つの遺伝子座から生産されたアンプリコンを検出する工程、
を含有する、前記方法。
【請求項2】
前記核酸が、生物の血液、尿、脳脊髄液、精液、唾液、痰、糞便、又は組織から得られた核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸が、ゲノムDNA、cDNA、又はRNAを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプル流体が、さらにポリメラーゼ及び複数のデオキシヌクレオチドを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記検出工程が、ハプロタイプを提供し、疾患を検出するために前記ハプロタイプを使用する工程をさらに含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記疾患が、癌であり、前記遺伝子座特異的プライマーが、公知の癌のバイオマーカーに関連づけられる遺伝子座にハイブリダイズする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに、薬物療法への応答を評価する、又は細菌もしくはウイルス感染症の薬物耐性を同定するために、前記ハプロタイプを使用する工程を含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記2つの遺伝子座の前記プローブが、ターゲット1に結合するカラー1の蛍光体で標識されたプローブP1と、ターゲット2に結合するカラー2の蛍光体で標識されたプローブP2とを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記不混和性のキャリア流体が、フッ素系界面活性剤を含む油である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
核酸を分析するための方法であって、
マイクロチャネルにサンプル流体を提供する工程であって、前記サンプル流体が、核酸、遺伝子座特異的プライマー、及び標識されたプローブを含有する、前記提供工程;
前記サンプル流体を、油と交差させる工程であって、少なくとも1つの液滴が、少なくとも2つの遺伝子座を含有する単一ターゲット核酸と、前記2つの遺伝子座それぞれからのアンプリコンにハイブリダイズする標識されたプローブと、前記2つの遺伝子座それぞれに特異的なプライマー対とを含有する複数の水性液滴を形成する、前記交差工程;
前記液滴において増幅反応を実施する工程;及び
前記標識されたプローブを介して、前記液滴において前記単一ターゲット核酸上の前記2つの遺伝子座から生産されたアンプリコンを検出する工程、
を含有する、前記方法。
【請求項11】
前記核酸が、生物の血液、尿、脳脊髄液、精液、唾液、痰、糞便、又は組織から得られた核酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸が、ゲノムDNA、cDNA、又はRNAを含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記核酸が、基質に結合する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプル流体が、さらにポリメラーゼ及び複数のデオキシヌクレオチドを含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記核酸及び遺伝子座特異的プライマーが、マイクロフルイディクス制御の下で併用される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記油が、フルオロカーボン油を含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記油が、界面活性剤を含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
さらに、前記ターゲット核酸のハプロタイプを決定する工程、及び疾患を検出するために前記ハプロタイプを使用する工程を含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記疾患が、癌であり、前記遺伝子座特異的プライマーが、公知の癌のバイオマーカーに関連づけられる遺伝子座にハイブリダイズする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
さらに、薬物療法への応答を評価する、又は細菌もしくはウイルス感染症の薬物耐性を同定するために、前記ハプロタイプを使用する工程を含有する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記2つの遺伝子座の前記標識されたプローブが、ターゲット1に結合するカラー1の蛍光体で標識されたプローブP1と、ターゲット2に結合するカラー2の蛍光体で標識されたプローブP2とを含有する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参照
この本出願は、2010年10月1日に出願された米国仮出願第61/388,937号、2010年5月21日に出願された米国仮出願第61/347,158号、2010年5月5日に出願された米国仮出願第61/331,490号、および2010年2月12日に出願された米国仮出願第61/304,163号(これらの内容は、各々それらの全体が参考として本明細書に援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、液滴ベースのデジタルPCR、およびそれを使用してターゲット核酸を分析するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
体液からの核酸分子を突然変異の存在について分析することに依存するアッセイが開発され、このようにして癌などの一定の疾患の早期診断に至ってきた。しかし、典型的な体液サンプルの場合、関心のある突然変異を含有するいずれの異常核酸も、その体液サンプル中の核酸の総量に対して少量(例えば1%未満)で存在することが多い。この結果、確率的サンプリングバイアスのため、その少量の異常核酸の検出に失敗することとなり得る。
【0004】
PCRおよびリアルタイムPCR方法論の登場は、スループットの見地からも、定量的な見地からも、核酸の分析を大きく改善した。伝統的なPCR技術が、概して、アガロースゲル電気泳動法による増幅DNAターゲットのエンドポイント、および時として半定量的、分析に依存するが、リアルタイムPCR(またはqPCR)法は、反応進行につれての指数関数的増幅の正確な定量に適合している。qPCR反応は、様々な高配列特異的蛍光プローブ技術を用いて、または非特異的DNA挿入蛍光発生色素を使用することにより、モニターされる。
【0005】
複数のターゲットを並行して分析する際のより高いスループットの必要性がゲノムおよび遺伝学の分野において漸増し続けているので、ならびにサンプルのより効率的な使用の必要性が診断などの医学関連分野において増しているので、同じ反応体積の中で複数の増幅を同時に実施および定量できること(多重化)が、PCRにとってもqPCRにとっても最重要である。エンドポイントPCRは、高いレベルのアンプリコン多重化に対応することができるが、プローブベースのqPCR反応の多重化についてのそのような十二分な能力は、多くの理由のため依然として達成困難である。例えば、殆どの市販用リアルタイム・サーマル・サイクラーは、一般的な蛍光体の限られたスペクトル分解能の結果として4色までの異なる色の検出用蛍光体にしか対応しておらず、言い換えると4×の多重化能力ということになる。加えて、単一ターゲットプライマー/プローブ反応の最適化は今や標準作業であるが、複数の反応のためのプライマーとプローブの併用は、熱力学的効率および/または化学的動態を変えるので、大々的な不具合対策および最適化を余儀なくさせる可能性を秘めている。100×より大きい非常に高度な多重化は、「スラッピー(sloppy)」分子ビーコンおよび融点をフィンガープリントとして使用する病原体同定のための「ワン・オブ・メニー(one of many)」検出形式で実証されているが、このアプローチは、複数の同時に存在するターゲットの存在尤度がほんのわずかである用途に限られる。半多重化法は、第一工程での一般的な多重化プレ増幅、続いて第二工程での別のシングルプレックス定量的PCRを用いる2工程反応で、19×を達成した。しかし、qPCR多重化に対する汎用シングルポットでの解決策は、まだ存在しない。
【0006】
デジタルPCR(dPCR)は、希薄サンプルを多くの別の反応に分割する代替定量法である。例えば、Brownら(特許文献1および特許文献2)およびVogelsteinら(特許文献3、特許文献4および特許文献5)を参照のこと;これらのそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に援用されている。反応間のターゲットDNA分子のバックグラウンドからの分布はポアソン統計学に従い、いわゆる「終点希釈(terminal dilution)」では反応の大多数が実際には1つかゼロのターゲットDNA分子を含有する。別の場合、いわゆる「限界希釈(limiting dilution)」ではポアソン分布に従って、ゼロのDNA分子を含有する反応もあり、1つの分子を含有する反応もあり、および多数の分子を含有する反応もしばしばある。終点希釈および限界希釈は、反応容器へのDNA負荷量を説明するために有用な概念であるが、それらは正式な数学的定義を有さず、必ずしも相互に排他的でないことは理解される。理想的には、終点希釈でのPCRポジティブ反応(PCR(+))の数は、元々存在するテンプレート分子の数と等しい。限界希釈では、DNAの根本的な量を明らかにするためにポアソン統計学を用いられる。qPCRと比較されるデジタルの原則利点は、初期サイクル中の非指数関数的増幅の主な根本的不確実性に加えて蛍光強度-アナログシグナル-の時間依存性を解釈する一切の必要を回避する点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第6,143,496号明細書
【文献】米国特許第6,391,559号明細書
【文献】米国特許第6,440,706号明細書
【文献】米国特許第6,753,147号明細書
【文献】米国特許第7,824,889号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一般に液滴内の核酸の操作、ならびに詳細には核酸増幅および検出に関する。1つの態様において、本発明は、単一の核酸テンプレートと該テンプレート上の複数のターゲット部位に特異的な複数のプライマー対とを含有する液滴を提供する。前記単一の核酸テンプレートは、DNA(例えば、ゲノムDNA、cDNAなど)である場合もあり、またはRNAである場合もある。前記テンプレートを検出のために前記液滴内で増幅する;および好ましくは、本明細書に記載するように複数のプライマー対を使用して増幅することができる。
【0009】
液滴内の単一の核酸を増幅および検出できることで、デジタルPCR、検出、カウント、および核酸、とりわけ不均一サンプル中に存在するもの、の間の差別化が可能になる。従って、本発明は、デジタル増幅技術に適用され、および特定の実施形態では、液滴内でのマルチプレックスPCRを可能にする。例えば、液滴内の多重化プライマーは、インプットDNAの量を同じにまたはより少なく保ち、同じまたはより大きなアンプリコン収量を生じさせながら、同時にPCR液滴数を増加させることを可能にする。これは、結果として、より多くのDNAを消費することなくPCRポジティブ液滴の量およびアンプリコン収量の総合的増加をもたらす。1液滴あたりのPCRプライマー対の数がたとえ1より多くても、1液滴あたり1つのテンプレート分子しかなく、それ故、一部の実行では、1滴あたり1つのプライマー対しか1度に利用されることとならない。従って、対立遺伝子特異的PCRからのまたは異なるアンプリコン間の競合からのバイアスを無くすことについての液滴PCRの利点は維持される。しかし、ハプロタイプの検出に関して下で説明するように、他の実行は、好ましくはバイアスを最少にするように設計されたものである複数のプライマー対を使用して、単一のテンプレート上の複数の遺伝子座の検出を有利に可能にする。
【0010】
本発明によるマルチプレックス分析のためのマイクロ流体液滴は、該液滴内で生産されるアンプリコンにハイブリダイズする複数のプローブを含有する。好ましくは、前記液滴は、2つ以上のプローブ、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、60、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、500、またはそれ以上のプローブを含有する。前記複数のプローブの一定の構成員(member)は、検出可能標識を含む。前記複数のプローブの構成員は、それぞれ、同じ検出可能標識を含むことがあり、または異なる検出可能標識を含むことがある。前記検出可能標識は、好ましくは蛍光標識である。前記複数のプローブは、様々な濃度のプローブの1つ以上の群を含むことがある。前記プローブの1つ以上の群は、同じ検出可能標識を含むことがあり、これらのプローブは、それらの様々なプローブ濃度のため、検出時に強度が様々であるだろう。本発明の液滴は、ポリメラーゼ連鎖反応を行うための1つ以上の試薬、例えばDNAもしくはRNAポリメラーゼおよび/またはdNTP、をさらに含有することができる。
【0011】
本発明は、マイクロ流体液滴内でデジタルPCRを用いて生体サンプル中の複数のターゲットを検出するための方法にさらに関する。前記サンプルは、ヒト組織または体液であり得る。例示的体液:膿、痰、精液、尿、血液、唾液、および脳脊髄液。
【0012】
単一の核酸テンプレート、およびそれぞれが該テンプレート上の複数のターゲット部位に特異的なプライマー対とプローブの不均一混合物をそれぞれが含む、1つ以上の液滴を形成する。例えば、単一の核酸テンプレート(DNAまたはRNA)を含有する第一の流体(連続的、または液滴の場合のように不連続的)を、それぞれが該核酸テンプレートの複数のターゲット部位に特異的な複数のプライマー対および複数のプローブを含有する第二の流体(同じく、連続的、または液滴の場合のように不連続的)と合体させて、単一の核酸テンプレートおよびプライマー対とプローブの不均一混合物を含有する液滴を形成する。前記第二の流体は、PCR反応を行うための試薬、例えばポリメラーゼおよびdNTP、も含むことができる。
【0013】
前記複数のプローブの一定の構成員は、検出可能標識を含む。前記複数のプローブの構成員は、それぞれ、同じ検出可能標識を含むことがあり、または異なる検出可能標識を含むことがある。前記検出可能標識は、好ましくは蛍光標識である。前記複数のプローブは、様々な濃度のプローブの1つ以上の群を含むことがある。前記プローブの1つ以上の群は、同じ検出可能標識を含むことがあり、これらのプローブは、それらの様々なプローブ濃度のため、検出時に強度の点で様々である。
【0014】
前記第一の流体および第二の流体は、それぞれ、液滴形態であってもよい。液滴の形成について当該技術分野において公知の任意の技術を本発明の方法と共に用いることができる。例示的方法は、核酸テンプレートを含有するサンプル流体のストリームを、流れているキャリア流体の2つの対向するストリームを交差するように流すことを含む。前記キャリア流体は、前記サンプル流体と不混和性である。前記サンプル流体と前記流れているキャリア流体の2つの対向するストリームとの交差の結果、該サンプル流体は区画化されて、第一の流体を含有する個々のサンプル液滴となる。前記キャリア流体は、前記サンプル流体と不混和性であるいずれの流体であってもよい。例示的キャリア流体は油である。一定の実施形態において、前記キャリア流体は、フッ素系界面活性剤などの界面活性剤を含む。同じ方法を利用して、プライマー対(および、一部の実行では、増幅試薬)を含有する第二の流体から個々の液滴を作ることができる。第一の流体を含有する液滴もしくは第二の流体を含有する液滴のいずれか、または両方を形成して、後のマージのためにライブラリーに保管してもよく、その一定の実行の態様は米国特許第出願第12/504,764号に記載されており、この出願は、あらゆる意味でその全体が参照により本明細書に援用されている。形成したら、第一の流体を含有する液滴と第二の流体を含有する液滴を合体させて、単一の核酸テンプレートおよびプライマー対とプローブの不均一混合物を含有する、単一の液滴を形成することができる。例えば電場の存在下で、マージを果たすことができる。さらに、マージを行うときに両方の流体が液滴の形態である必要はない。流体部分と液滴を合体させるための1つの例示的方法は、例えば、本願と同日に出願された同時係属米国特許出願第61/441,985号に教示されている。
【0015】
合体された/形成された液滴のそれぞれの中の核酸テンプレートを、例えばPCR反応を行うために十分な温度/条件下でのそれらの液滴の熱サイクリングによって、増幅する。その後、前記液滴内の結果として生じたアンプリコンを分析することができる。例えば、1つ以上の液滴内の複数のターゲットの存在または不在を光学的に、例えば複数のプローブ上の検出可能標識によって、検出する。
【0016】
本発明は、ターゲット核酸を分析するための方法にさらに関する。より詳細には、本発明の方法は、PCR反応中に発生するポリメラーゼエラーを検出することができ、およびポリメラーゼエラーの結果である増幅産物を分析から排除することができる。本発明の方法は、ポリメラーゼエラーが、突然変異体対立遺伝子を含有すると間違って同定される、すなわち偽ポジティブである、サンプルの区分セクションをもたらすことがあるデジタルPCRにおいて特に有用である。そのような偽ポジティブは、一般に、デジタルPCR結果の妥当性および精度に大きな影響を及ぼす。本発明の方法は、同じ光色を有する複数のターゲットを一意的に検出することができる。本発明の方法は、出発試験流体中に存在し得る複数の異なるターゲット分子を同定することが望ましいデジタルPCRにおいて、特に有用である。
【0017】
本発明の方法は、ターゲット核酸を含有するサンプル液滴の形成を含む。理想的には、本発明の方法は、デジタルPCR用の液滴の形成を含む。好ましいデジタルPCR液滴は、増幅すべき核酸の1つのコピーを含有するが、同じ核酸配列の複数のコピーを含有することもある。サンプル液滴を形成するための当該技術分野において公知の任意の技術を本発明の方法と共に用いることができる。1つの例示的方法は、核酸を含むサンプル流体のストリームを、流れているキャリア流体の2つの対向するストリームを交差するように流すことを含む。前記キャリア流体は、前記サンプル流体と不混和性である。前記サンプル流体と前記流れているキャリア流体の2つの対向するストリームとの交差の結果、該サンプル流体は区画化されて個々のサンプル液滴になる。前記キャリア流体は、前記サンプル流体と不混和性であるいずれの流体であってもよい。例示的キャリア流体は油である。一定の実施形態において、前記キャリア流体は、フッ素系界面活性剤などの界面活性剤を含む。
【0018】
次に、前記ターゲットを前記液滴内で増幅する。当該技術分野において公知の任意の方法を用いて、ターゲット核酸を線形にまたは指数関数的に増幅することができる。好ましい方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。本発明のために、当該技術分野において一般に公知の任意の増幅技術、例えば、ローリングサークル増幅、等温増幅、または遺伝子座特異的プライマー、ネステッドプライマーもしくはランダムプライマーを使用する増幅法の任意の組み合わせ、を実行することができる(前述のプライマー、および/またはPCRに使用されるプライマーは、用語「増幅試薬」に含まれる)。増幅したら、前記ターゲットからのアンプリコンおよび前記ターゲットの変異体からのアンプリコンを含有する液滴を排除する。アンプリコンの均一集団を含有する液滴からアンプリコンの不均一集団を含有する液滴を排除する1つの方法は、検出可能に標識されたプローブをアンプリコンにハイブリダイズさせること、前記液滴を、マイクロ流体チャネルを通して流すこと、および前記ターゲットからのアンプリコンと前記ターゲットの変異体からのアンプリコンの両方が検出される液滴を排除することを含む。
【0019】
アンプリコンの不均一集団を含有する液滴を排除したら、アンプリコンの均一集団を含有する液滴を分析する。当該技術分野において公知の任意の分析技術を用いることができる。一定の実施形態において、前記液滴の分析は、野生型ターゲットのみを含有する液滴の数を決定すること、および該ターゲットの変異体のみを含有する液滴の数を決定することを含む。一般に、変異体のみを含有する液滴の存在は、癌などの疾患の指標となる。前記変異体は、対立遺伝子変異体であることがある。例示的対立遺伝子変異体は、一塩基多型である。前記変異体は特異的ハプロタイプである場合もある。ハプロタイプは、同じ核酸鎖上の2つ以上の変異体の存在を指す。ハプロタイプは、疾患の存在もしくは重症度、薬物療法への応答または細菌もしくはウイルス感染症の薬物耐性といったことを決定するために用いたとき、遺伝子型より多くの情報をもたらすまたは予測に役立つことができる。各液滴は1本のテンプレート鎖しか含有しないので、それはハプロタイプの決定にとって理想的な器である。1本の無損傷核酸鎖を含有する単一の液滴内の2つ以上の変異体の検出により、その鎖上の変異体のハプロタイプが同定される。同じ液滴内の2つ以上のマーカーの存在は、多色の色素の存在、または単一色素の強度の増加、または両方の組み合わせといった手段によって同定することができる。単一の液滴内の多数の変異体の同定を可能にする任意の方法によって、サンプルのハプロタイプを決定することができる。
【0020】
本発明の一部の実行に従って、ターゲット核酸を分析するための方法を提供し、この方法は、それぞれの部分が単一のターゲット核酸を含有する複数の部分に第一の流体を区画化すること;前記部分の中の前記ターゲットを増幅すること;前記ターゲットからのアンプリコンおよび前記ターゲットの変異体からのアンプリコンを含有する部分を排除すること;およびターゲットアンプリコンを分析することを含む。
【0021】
他の態様において、本発明は、一般に、患者における癌の再発を検出するための方法を提供する。これらの方法は、患者のサンプルから採取した単一のターゲット核酸を含有するサンプル液滴を形成すること、前記サンプル液滴を、チャネルを通して流すこと、前記液滴内の前記ターゲットを増幅すること、前記液滴内の増幅されたターゲットを検出すること、アンプリコンの不均一集団を含む液滴を排除すること、および排除されなかった液滴を分析して再発の指標となる突然変異体対立遺伝子を決定することを含み得る。一定の実施形態において、前記分析工程は、標識された捕捉プローブを使用して前記液滴から得られたアンプリコンを捕捉することを含む。前記サンプルは、ヒト組織または体液であり得る。例示的体液は、膿、痰、精液、尿、血液、唾液、糞便および脳脊髄液である。本発明の他の態様では、低レベルのターゲット核酸を多数の他の核酸源を有する環境で法医学的に同定する方法を一般に提供する。そのような方法を、液滴以外にまたは液滴に加えて容器内で区画された流体を使用して実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、液滴形成デバイスを図示するものである。
図2図2は、図1の液滴形成デバイスの一部分を図示するものである。
図3図3は、液滴生成用の例示的マイクロ流体システムおよび読み出しを図示するものである。図3aは、液体生成チップを図示するものである;図3bは、読み出しのための液滴間隔どりを図示するものである;および図3cは、蛍光による液滴読み出しの漫画を描いたものである。
図4図4は、dPCRによって定量したテンプレートDNAの系列希釈を図示するものである。図4aは、最高濃度のサンプルについての読み出し中の液滴蛍光を示すものである。別個の蛍光バーストそれぞれが個々の液滴に対応する。液滴の2つの異なる群:~0.8Vでピークに達するPCR(+)液滴、および~0.1Vでピークに達するPCR(-)液滴、がはっきりとわかる;図4bは、(a)における完全データトレースからの液滴のピーク蛍光強度のヒストグラムを示すものである。PCR(+)およびPCR(-)液滴は、それぞれ0.78および0.10Vに中心を置く2つの非常に異なる集団として現れる;図4cは、テンプレートDNAの系列希釈を示すものである。白丸:実測占有率;実線:Eqn2への最良適合(A=0.15、f=4.8、R-0.9999)。
図5図5Aは、テンプレート配列のPCR増幅のための5セットのプライマーと、それぞれが蛍光色素で標識されており、増幅配列に特異的に結合するものである5つのプローブとを有する液滴の略図である;図5Bは、PCR増幅後の液滴から検出された蛍光強度のタイムトレースである;図5Cは、特異的増幅配列(TERT、RNaseP、E1a、SMN1およびSMN2)を含有する液滴を表すクラスタを示す散布図である。
図6図6Aは、テンプレート配列のPCR増幅のための5セットのプライマーと、それぞれが蛍光色素で標識されており、増幅配列に特異的に結合するものである5つのプローブとを有する液滴の略図である;図6Bは、特異的増幅配列(TERT、815A、RNaseP、E1a、および815G)を含有する液滴を表すクラスタを示す散布図である;図6Cは、図6Bに示す特異的配列のコピー数を示す表である。
図7図7は、マイクロ流体デバイスでの1遺伝子配列の一色検出を図示する概略図である。
図8図8は、マイクロ流体デバイスでの2遺伝子配列の二色検出を図示する概略図である。
図9図9は、マイクロ流体デバイスでの3遺伝子配列の二色検出を図示する概略図である。
図10図10は、蛍光強度によって検出された遺伝子配列のクラスタを図示する2つのドットプロットを示すものである。左のパネルは、4つのクラスタを示すドットプロットである。SMN1配列のブロックが存在した。上部左:参照配列(SMARCC1)を含有する微小液滴;下部左:いずれの配列も含有しない微小液滴;下部中央:SMN1の配列を含有する微小液滴;および下部右:SMN2の配列を含有する微小液滴。右パネルは、4つのクラスタを示すドットプロットである。SMN1配列のブロックは存在しなかった。上部左:参照配列(SMARCC1)を含有する微小液滴;下部左:いずれの配列も含有しない微小液滴;下部中央:SMN1の配列を含有する微小液滴;および下部右:SMN2の配列を含有する微小液滴。左のパネルと比較して右のパネルにおける下部中央クラスタのシフトは、蛍光強度により配列の存在についての非常に高感度の測定がもたらされることを確証する。
図11図11は、デジタルPCRによる1タイプのみの蛍光体を使用するデュプレックス遺伝子コピー数アッセイのヒストグラムを図示するものである;図11aは、液滴ピーク蛍光強度のヒストグラムを図示するものである;図11bは、単色dPCRによって測定された遺伝子コピー数の比較を示すものである。
図12図12は、マイクロ流体デバイスでの特定のターゲットに対する検出可能標識の強度のチューニングについて概略図である。
図13図13は、プローブ濃度への液滴蛍光強度の直線的依存性を図示する線グラフである(直線、最良直線適合(y=-0.092x+0.082、R=0.995)。
図14図14は、2つだけの蛍光体を用いる棘筋萎縮症についての5プレックスdPCRアッセイを図示するものである。図14aは、検証のための合成モデル染色体に対する5プレックスアッセイについての、ヒートマップとして示す、液滴蛍光強度の2Dヒストグラムである。6つのよく分解されている液滴集団は、5つの個々のアッセイ物と空の液滴に対応する;図14bは、SMAパイロット研究の結果を示すものである。
図15図15は、2つだけの蛍光体を用いる棘筋萎縮症についての9プレックスdPCRアッセイを図示するものであり、液滴強度を最適化するプロセスを示している。図15aおよび15bは、合成モデル染色体に対する9プレックスアッセイについてのヒートマップとして示す、液滴蛍光強度の2Dヒストグラムであり、暖色ほど高い液滴数を表す((a)=最適化前;(b)=最適化後)。
図16図16は、光学的標識と多重化の併用についての光学的概略図を図示するものである。
図17図17は、コ・フロー(co-flow)・マイクロフルイディクスを用いる、多重化と光学的標識を併用するdPCRアッセイを図示するものである。すべての液滴からの、すなわち3回の異なるトリプレックスアッセイ物からの、寄与を示す。(両方のパネル)暖色ほど高い液滴数を表す、ヒートマップとして示す2-Dヒストグラム。(左のパネル)光学的標識のヒストグラム、すなわち、該光学的標識を含む2つの蛍光体についての波長で測定した液滴の蛍光強度。(右のパネル)アッセイヒストグラム、すなわち、FAM検出(x軸)およびVIC検出(y軸)に適する波長で測定した液滴の蛍光強度。両方のヒストグラムを標準的な技術によってスペクトルオーバーラップについて補正した。
図18図18は、光学的標識を使用する単一アッセイ物選択を示すものである。選択は、図17からの液滴のすべてから行った。パネルA~Cにおける3回の異なる選択のそれぞれが、同じアッセイ物(TERT、SMN1、およびSMN2)をコードする光学的標識についてのものであった。ヒストグラムは、図17に記載したとおりである。(左のヒストグラム、光学的標識)重畳された線が、単一の光学的標識を選択するためのバウンディングボックスの境界を画定する。(右のヒストグラム、アッセイ物)選択された光学的標識を含有する液滴のみが表示される。
図19図19は、光学的標識を使用する単一アッセイ物選択を示すものである。選択は、図17からの液滴のすべてから行った。パネルA~Cにおける3回の異なる選択のそれぞれが、同じアッセイ物(TERT、SMN1からのc.5C、およびBCKDHA)をコードする光学的標識についてのものであった。ヒストグラムは、図17に記載したとおりである。(左のヒストグラム、光学的標識)重畳された線が、単一の光学的標識を選択するためのバウンディングボックスの境界を画定する。(右のヒストグラム、アッセイ物)選択された光学的標識を含有する液滴のみが表示される。
図20図20は、光学的標識を使用する単一アッセイ物選択を示すものである。選択は、図17からの液滴のすべてから行った。パネルA~Cにおける3回の異なる選択のそれぞれが、同じアッセイ物(TERT、SMN1からのc.88G、およびRNaseP)をコードする光学的標識についてのものであった。ヒストグラムは、図17に記載したとおりである。(左のヒストグラム、光学的標識)重畳された線が、単一の光学的標識を選択するためのバウンディングボックスの境界を画定する。(右のヒストグラム、アッセイ物)選択された光学的標識を含有する液滴のみが表示される。
図21図21は、液滴マージを用いる、多重化と光学的標識を併用するdPCRアッセイを図示するものある。
図22図22は、液滴内のハプロタイプ検出を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、生体分子の分析のための材料および方法を提供する。1つの態様において、本発明は、マイクロ流体液滴などの液滴におけるデジタル分析に備えるものである。本発明は、デジタルPCRの実施を可能にし、およびエラーの有意な低減または排除に備えている。
【0024】
理想的には、デジタルPCRの感度は、分析することができる独立した増幅の数によってのみ制限され、これが、(他の箇所で詳細に論ずる)何百万もの単一分子PCR反応を並行して行うことができる、幾つかの超高スループットの小型化された方法の開発の動機となった。本発明の好ましい実施形態では、マイクロフルイディクス・システムを使用して油によって分離された水性液滴においてデジタルPCRを行う。もう1つの好ましい実施形態において、前記油は、Fluorinertオイル(3M)などのフッ素化油である。なおさらに好ましい実施形態において、前記フッ素化油は、液滴を増幅工程中にまたはそれらが互いに接触する任意の時点で合体しないように安定させるために、PFPE-PEG-PFPEトリブロックコポリマーなどの界面活性剤を含有する。マイクロ流体アプローチは、ピコリットル容積の反応容器として機能する多数(例えば10以上)の非常に均一なサイズの液滴の迅速な生成を可能にする(液滴ベースのマイクロフルイディクスの総説を参照のこと)。しかし、説明するように、本発明は、油中水型エマルジョンにおいて行われるdPCRに限定されず、むしろdPCRのためのすべての反応区画化法に対して一般的である。後に続く説明の中で、本発明は、区画化のための液滴の使用に関して説明するが、説明のこの選択は本発明にとって限定的なものでないと、および本発明の方法をdPCRのためのすべての他の反応区画化法と両立できると考える。
【0025】
本発明の方法は、「多重化」として当業者に一般に知られている、複数の異なるDNAターゲットの存在度を定量するための同じサンプルでの複数の異なる増幅反応の同時実施についての新規戦略を含む。多重化dPCRアッセイのための本発明の方法は、既存のqPCRまたはdPCR技術で可能なものより大きなプレキシティー(plexity)-同時反応数-を約束する。それは、異なる対立遺伝子をターゲットにする複数のプライマー/プローブが存在するときでさえ、最も多くの場合、いずれの1液滴内にも単一のターゲット対立遺伝子しか決して存在しないために生ずる、終点または限界希釈での特異な性質の増幅に基づく。これは、指数関数期への様々な到達時間およびプライマー間の意図されたものでない反応などの同時に存在する競争反応をそうでなければもたらす厄介な問題を軽減する。
【0026】
1つの態様において、本発明は、液滴ベースのデジタルPCRにおいて感度および特異性を維持しながらアンプリコン収量を向上させるための材料および方法を提供する。より具体的には、本発明は、単一の核酸テンプレートと多重化PCRプライマーとを含有する液滴を提供し、ならびにそのような液滴を形成することおよび液滴ベースのデジタルPCRを用いて核酸テンプレートを増幅することによる生体サンプル中の複数のターゲットを検出するための方法を提供する。
【0027】
マイクロ流体液滴内での反応は、終点で非常に均一な蛍光強度を生じさせ、結局、その強度は、プローブ加水分解効率に依存する。従って、本発明の方法のもう1つの態様では、異なる効率を有する異なる反応を、たとえそれらが同じ色を有したとしても、終点蛍光強度のみに基づいて識別することができる。さらに、本発明のもう1つの方法では、単にプローブ濃度を調整することによって効率をチューニングすることができ、その結果、使用が容易な汎用多重化法が得られる。本発明の1つの実証実験において、5プレックスTaqMan(登録商標)dPCRアッセイは、この程度に多重化するqPCRを象徴する冗長な最適化とは対照的に、「すぐに(right out of the box)」機能した。本発明のもう1つの態様において、複数の色の追加は、個々の反応を複数の蛍光体で標識できるため、qPCRのように直線的にではなく幾何級数的に可能な反応の数を増加させる。一例として、2つの蛍光体(VICおよびFAM)を使用して、本発明の1回の実行で5つの異なる反応を区別した。
【0028】
本発明の方法は、増幅反応中に発生するポリメラーゼエラーを検出することができ、およびポリメラーゼエラーの結果である産物を分析から排除することができる。本質的に、本発明の方法は、偽ポジティブである増幅産物を同定することおよび分析からそれらの産物を排除することによって、デジタルPCRの感度を増大させる。
【0029】
本発明の方法は、単一のターゲット核酸を含有するサンプル液滴を形成すること、該液滴内の該ターゲットを増幅すること、該ターゲットからのアンプリコンおよび該ターゲットの変異体からのアンプリコンを含有する液滴を排除すること、およびターゲットアンプリコンを分析することを含む。
【0030】
核酸ターゲット分子
核酸分子は、デオキシリボ核酸(DNA)および/またはリボ核酸(RNA)を包含する。核酸分子を合成することができ、または自然に存在する源から採取することができる。1つの実施形態では、様々な他の成分、例えばタンパク質、脂質および非テンプレート核酸、を含有する生体サンプルから核酸分子を単離する。動物、植物、細菌、真菌または任意の他の細胞性生物から得られる、任意の細胞性材料から核酸テンプレート分子を得ることができる。一定の実施形態では、単個細胞から核酸分子を得る。本発明において使用するための生体サンプルは、ウイルス粒子または調製物を含む。核酸分子を生物から直接得ることができ、または生物から得た生体サンプルから、例えば血液、尿、脳脊髄液、精液、唾液、痰、糞便および組織から、得ることができる。任意の組織または体液検体を本発明において使用するための核酸の源として使用することができる。培養細胞、例えば一次細胞培養物または細胞株、から核酸を単離することもできる。テンプレート核酸を得る細胞または組織は、ウイルスまたは他の細胞内病原体に感染している場合がある。サンプルは、生物検体、cDNAライブラリー、ウイルスまたはゲノムDNAから抽出された全RNAである場合もある。一定の実施形態において、核酸分子は、他のターゲット分子、例えばタンパク質、酵素、基質、抗体、結合剤、ビーズ、小分子、ペプチドまたは任意の他の分子、に応じて確定され、ターゲット分子を定量および/もしくは検出するための代用物として役立つ。
【0031】
一般に、核酸は、Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、N.Y.、pp.280-281(1982)によって記載されたものなどの様々な技術によって生体サンプルから抽出することができる。核酸分子は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよく、または一本鎖領域を有する二本鎖(例えば、幹-およびループ-構造)であってもよい。
【0032】
液滴形成
本発明の方法は、サンプル液滴を形成することを含み、この場合、ゼロのターゲット核酸分子を含有する液滴もあり、1つのターゲット核酸分子を含有する液滴もあり、および複数の核酸分子を含有することがあるまたはしないことがある液滴もある(上で定義したとおりの限界または終点希釈にそれぞれ対応する)。好ましい実施形態において、液滴内の分子の分布は、ポアソン分布に従う。しかし、液滴の非ポアソン負荷のための方法は当業者に公知であり、それらの方法としては、液滴の能動的選別、例えばレーザー誘導蛍光によるもの、または受動的な1対1負荷(one-to-one loading)によるものが挙げられるが、これに限定されない。後に続く説明は液滴のポアソン負荷を想定しているが、本発明は限界または終点希釈に準拠するDNA負荷量のすべての分布と両立できるので、そのような説明は非ポアソン負荷を排除することを意図したものではない。
【0033】
前記液滴は、不混和性キャリア流体によって包囲されている水性液滴である。そのような液滴を形成する方法は、例えば、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)、Stoneら(米国特許第7,708,949号および米国特許出願第2010/0172803号)、Andersonら(米国特許第7,041,481号および再発行番号41,780として再発行されたもの)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号に示されている。これらのそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に援用されている。
【0034】
図1は、液滴形成のためのデバイス100の例示的実施形態を示すものである。デバイス100は、流入チャネル101と、流出チャネル102と、2つのキャリア流体チャネル103および104とを備えている。チャネル101、102、103、および104は、接合部105で出会う。流入チャネル101は、サンプル流体を接合部105に流す。キャリア流体チャネル103および104は、サンプル流体と不混和性であるキャリア流体を接合部105に流す。流入チャネル101は、接合部105に接続するその先端部が狭くなっている(図2参照)。流入チャネル101は、キャリア流体チャネル103および104に垂直になるような向きになっている。サンプル流体が流入チャネル101から接合部105へと流れ、そこでサンプル流体が、キャリア流体チャネル103および104によって接合部105に供給される流れているキャリア流体と交差すると、液滴が形成される。流出チャネル102は、キャリア流体によって包囲されたサンプル流体の液滴を受け取る。
【0035】
前記サンプル流体は、概して水性緩衝溶液、例えば超純水(例えばカラムクロマトグラフィーによって得られる、例えば18メガオームの抵抗率)、10mM Tris HClおよび1mM EDTA(TE)緩衝液、リン酸緩衝食塩水(PBS)または酢酸緩衝液、である。核酸分子と生理的に適合性である任意の液体または緩衝液を使用することができる。前記キャリア流体は、前記サンプル流体と不混和性であるものである。前記キャリア流体は、非極性溶剤、デカン(例えば、テトラデカンもしくはヘキサデカン)、フルオロカーボン油、シリコーン油または他の油(例えば、鉱物油)であり得る。
【0036】
一定の実施形態において、前記キャリア流体は、1つ以上の添加剤、例えば、非ニュートン表面張力を増加させる、低減するもしくは別様に作る作用物質(界面活性剤)および/または接触時に自然に合体しないように液滴を安定させる作用物質、を含有する。界面活性剤としては、Tween、Span、フッ素系界面活性剤、および水に比べて油に溶ける他の作用物質を挙げることができる。幾つかの用途では、第二の界面活性剤または他の作用物質、例えばポリマーもしくは他の添加剤、をサンプル流体に添加することによって性能を向上させる。界面活性剤は、例えば交差チャネルに液滴を押し出すまたは注入するために必要な剪断力を低減することにより、液滴サイズ、流量および均一性の制御または最適化を助けることができる。これは、液滴体積および周期性、または液滴が交差チャネルへと離脱する率または頻度に影響を及ぼすことができる。さらに、界面活性剤は、フッ素化油中の水性エマルジョンが合体しないように安定させることに役立つことができる。
【0037】
一定の実施形態では、液滴を界面活性剤または界面活性剤の混合物で被覆することができる。キャリア流体に添加することができる好ましい界面活性剤としては、ソルビタンモノラウレート(Span 20)、ソルビタンモノパルミテート(Span 40)、ソルビタンモノステアレート(Span 60)およびソルビタンモノオレエート(Span 80)をはじめとするソルビタン系カルボン酸エステル(例えば、「Span」界面活性剤、Fluka Chemika)ならびに過フッ素化ポリエーテル(例えば、DuPont Krytox 157 FSL、FSMおよび/またはFSH)などの界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。使用することができる非イオン性界面活性剤の他の非限定的な例としては、ポリオキシエチレン化アルキルフェノール(例えば、ノニル-、p-ドデシル-、およびジノニルフェノール)、ポリオキシエチレン化直鎖アルコール、ポリオキシエチレン化ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化メルカプタン、長鎖カルボン酸エステル(例えば、天然脂肪酸のグリセリルおよびポリグリセリルエステル、プロピレングリコール、ソルビトール、ポリオキシエチレン化ソルビトールエステル、ポリオキシエチレングリコールエステルなど)ならびにアルカノールアミン(例えば、ジエタノールアミン-脂肪酸縮合物およびイソプロパノールアミン-脂肪酸縮合物)が挙げられる。
【0038】
一定の実施形態では、キャリア流体中の界面活性剤がチャネル壁を被覆するように、キャリア流体を、流出チャネルを通して流れさせることができる。1つの実施形態では、過フッ素化ポリエーテルDuPont Krytox 157 FSL、FSMまたはFSHと水酸化アンモニウム水溶液とを揮発性フッ素化溶剤中で反応させることによって、フッ素系界面活性剤を調製することができる。溶剤ならびに残留水およびアンモニアをロータリーエバポレータで除去することができる。その後、その界面活性剤をフッ素化油(例えば、Flourinert(3M))に溶解することができ(例えば、2.5重量%)、すると担体液として役立つ。
【0039】
ラムダインジェクタと呼ばれるデバイスを使用して、サンプル流体を合体させることへの1つのアプローチは、液滴を形成すること、および該液滴と流体ストリームを接触させることを含み、この場合、該流体ストリームの一部分が該液滴と一体化して混合液滴を形成する。このアプローチでは、1つの形態の液滴内のマージエリアに1つの相しか到達する必要がない。そのような方法のさらなる説明は、Yurkovetskyらの共同所有および同時係属米国特許出願(米国特許出願第61/441,985号)に示されており、前記出願の内容は、その全体が参照により本明細書に援用されている。
【0040】
ラムダインジェクタの動作方法に従って、上で説明したように液滴を形成する。第一のサンプル流体からのサンプル液滴の形成後、その液滴を第二のサンプル流体ストリームのフローと接触させる。前記液滴と前記流体ストリームの接触の結果、該流体ストリームの一部分が該液滴と一体化して混合液滴を形成することとなる。
【0041】
不混和性キャリア流体によって互いに隔てられており、その不混和性キャリア流体に懸濁している第一のサンプル流体の液滴が、第一のチャネルを通って流れる。液滴は、容積式ポンプによって生成される圧力駆動フローによりマージエリア、すなわち第一のチャネルと第二のチャネルの接合部、に送達される。液滴がそのマージエリアに到着すると、第二のサンプル流体のボーラスが、第二のチャネルの開口部から第一のチャネルに押し出されることとなる。好ましくは、これらのチャネルは、互いに垂直な向きである。しかし、これらのチャネルを直行させる結果となる任意の角度を用いることができる。
【0042】
前記第二のサンプル流体ストリームのボーラスは、チャネルに接続された容積式ポンプのポンピング作用のためサイズを増しつづけ、それがマージエリアへの第二のサンプル流体の定常ストリーム流を産出する。第一のサンプル流体を含有する流れている液滴は、その第一のチャネルの中に押し出されている第二のサンプル流体のボーラスと最終的に接触する。これら2つのサンプル流体間の接触の結果、第二のサンプル流体の一部分が、該第二のサンプル流体ストリームから分けられ、第一のサンプル流体液滴と合流して混合液滴を形成することとなる。一定の実施形態では、第一のサンプル流体の入って来る液滴それぞれを同量の第二のサンプル流体と合体させる。
【0043】
一定の実施形態では、第一および第二サンプル流体に電荷を印加する。サンプル流体への電荷の印加についての説明は、Linkら(米国特許出願第2007/0003442号)およびRaindance Technologies Incの欧州特許第2004316号に提供されており、これらのそれぞれの内容はその全体が参照により本明細書に援用されている。任意の適する技術を用いて、例えば、第一および第二のサンプル流体を電場(AC、DCなどであり得る)の中に置くことにより、ならびに/または第一および第二のサンプル流体に電荷を持たせる反応、例えば化学反応、イオン反応、光触媒反応など、を起こさせることにより、キャリア流体内の第一および第二のサンプル流体内で電荷を作り出すことができる。
【0044】
幾つかの実施形態において、電場は、電場発生器、すなわち、流体に印加することができる電場を作り出すことができるデバイスまたはシステム、から発生される。電場発生器は、AC場(すなわち、時間に対して周期的に、例えば正弦波的に、変動するもの、鋸歯、方形など)、DC場(すなわち、時間に対して一定しているもの)、パルス場などを生じさせることができる。チャネルまたはマイクロ流体チャネル内に収容された流体の中で電場を作り出すように、電場発生器を構築および配置することができる。幾つかの実施形態によると、電場発生器は、チャネルまたはマイクロ流体チャネルを含む流体システムと一体型であることもあり、または別個であることもある。
【0045】
適する電場(AC、DCなどであり得る)を生じさせる技術は、当業者に公知である。例えば、1つの実施形態では、1対の電極の両端に電圧を印加することによって電場を生じさせ、それらの電極を流体システム上に配置してもよく、もしくは流体システム内に(例えば、チャネルもしくはマイクロ流体チャネルを規定する基板内に)埋め込んでもよく、および/または電場の少なくとも一部分が流体と相互作用するように流体の近位に配置してもよい。前記電極は、銀、金、銅、炭素、白金、銅、タングステン、スズ、カドミウム、ニッケル、酸化インジウムスズ(「ITO」)など、ならびにこれらの組み合わせをはじめとする(しかしそれらに限定されない)、当業者に公知の任意の適する電極材料(単数または複数)から作ることができる。場合によっては、透明または実質的に透明な電極を使用することができる。
【0046】
電場は、第二のサンプル流体と液滴を隔てる界面の破断を助長する。界面の破断は、第二のサンプル流体のボーラスと第一のサンプル流体液滴のマージを助長する。形成混合液滴は、第一のサンプル流体を含有する次の液滴の到着およびマージ前に第二のサンプル流体の一部分が第二のサンプル流体ストリームから解放されるまたは分割するまで、大きくなり続ける。第二のサンプル流体ストリームからの第二のサンプル流体の前記部分の分割は、混和性キャリア流体によって形成混合液滴に及ぼされる剪断力が表面張力(この作用は、第二のサンプル流体の分割部分を第二のサンプル流体ストリームとつながったままにすることである)に打ち勝つやいなや発生する。今や完全に形成された混合液滴が、第一のチャネルを通って流れ続ける。
【0047】
他の実施形態において、界面の破断は自然発生的である場合があり、または表面化学によって破断を助長することができる。任意の手段によって破断を生じさせることができるので、本発明は、界面での破断方法に関して限定されない。
【0048】
PCRに関連して、好ましい実施形態では、第一のサンプル流体は核酸テンプレートを含有する。前記第一のサンプル流体の液滴は、上で説明したように形成される。これらの液滴は、核酸テンプレートを含むであろう。一定の実施形態において、前記液滴は、単一の核酸テンプレートのみを含むこととなり、従って、デジタルPCRを行うことができる。第二のサンプル流体は、PCR反応のための試薬を含有する。そのような試薬としては、一般に、Taqポリメラーゼ、タイプA、C、GおよびTのデオキシヌクレオチド、塩化マグネシウム、ならびにフォワードおよびリバースプライマーが挙げられ、これらのすべてが水性緩衝液に懸濁されている。前記第二の流体は、増幅されたターゲット核酸を検出するための検出可能に標識されたプローブも含み、これらの詳細は下で論ずる。次に、核酸を含有する液滴を、上で説明したような第二の流体中のPCR試薬と合体させて、Taqポリメラーゼ、タイプA、C、GおよびTのデオキシヌクレオチド、塩化マグネシウム、フォワードおよびリバースプライマー、検出可能に標識されたプローブならびにターゲット核酸を含む液滴を生じさせる。もう1つの実施形態において、前記第一の流体は、テンプレートDNAおよびPCRマスターミックス(下で定義する)を含有することができ、ならびに前記第二の流体は、フォワードおよびリバースプライマーならびにプローブを含有することができる。本発明は、PCRまたはデジタルPCRのための第一および第二のフルイディクスの要素構成に関して如何なる点においても制限されない。例えば、幾つかの実施形態において、前記テンプレートDNAは、液滴内部の第二の流体に含有される。
【0049】
ターゲット増幅
本発明の方法は、各液滴内のターゲット核酸を増幅することをさらに含む。増幅は、核酸配列の追加のコピーの生産を指し、一般に、ポリメラーゼ連鎖反応または当該技術分野において周知の他の技術を用いて行われる(例えば、Dieffenbach and Dveksler、PCR Primer、a Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、Plainview、N.Y.[1995])。増幅反応は、核酸分子を増幅する当該技術分野において公知の任意の増幅反応、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応(Barany F.(1991)PNAS 88:189-193;Barany F.(1991)PCR Methods and Applications 1:5-16)、リガーゼ検出反応(Barany F.(1991)PNAS 88:189-193)、鎖置換増幅、転写ベースの増幅システム、核酸配列ベースの増幅、ローリングサークル増幅および超分岐ローリングサークル増幅であり得る。
【0050】
一定の実施形態において、前記増幅反応は、ポリメラーゼ連鎖反応である。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、クローニングまたは精製なしでゲノムDNAの混合物中のターゲット配列のセグメントの濃度を増加させるためのK.B.Mullisによる方法(参照により本明細書に援用されている、米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号)を指す。ターゲット配列を増幅するためのプロセスは、所望のターゲット配列を含有するDNA混合物への過剰なオリゴヌクレオチドプライマーの導入、続いてのDNAポリメラーゼの存在下での的確な順序の熱サイクリングを含む。前記プライマーは、二本鎖ターゲット配列のそれらそれぞれの鎖に相補的である。
【0051】
増幅を果たすために、プライマーをターゲット分子内のそれらの相補配列にアニールする。アニーリング後、それらのプライマーをポリメラーゼで伸長して、新たな相補鎖対を形成する。変性、プライマーアニーリングおよびポリメラーゼ伸長の工程を何度も繰り返して(すなわち、変性、アニーリングおよび伸長が1サイクルを構成する;非常に多くのサイクルがあり得る)、所望のターゲット配列の高濃度の増幅セグメントを得ることができる。所望のターゲット配列の増幅セグメントの長さは、プライマーの互いに対する相対的位置によっておよびサイクリングパラメータによって決定され、従って、この長さは、制御可能なパラメータである。
【0052】
液滴内でPCRを行うための方法は、例えば、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)、Andersonら(米国特許第7,041,481号および再発行番号41,780として再発行されたもの)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号に示されており、これらのそれぞれの内容はその全体が参照により本明細書に援用されている。
【0053】
サンプル液滴をプライマー(単数もしくは複数)と予混してもよいし、またはプライマー(単数もしくは複数)を前記液滴に添加してもよい。幾つかの実施形態では、出発サンプルを分割することによって作られた液滴を、ターゲット核酸のための1つ以上のプライマーを含む第二のセットの液滴と合体させて、最終液滴を生じさせる。液滴のマージは、例えば、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号に記載されている1つ以上の液滴マージ技術を用いて遂行することができる。
【0054】
液滴のマージを含む実施形態では、2つの液滴形成モジュールを使用する。1つの実施形態において、第一の液滴形成モジュールは、ターゲット核酸の限界または終点希釈に見合ったサンプル液滴を生じさせる。第二の液滴形成または再注入モジュールは、PCR反応用の試薬を含有する液滴を挿入する。そのような液滴は、一般に、「PCRマスターミックス」(少なくともTaqポリメラーゼと、タイプA、C、GおよびTのデオキシヌクレオチドと、塩化マグネシウムとを含有する混合物として当業者に公知)ならびにフォワードおよびリバースプライマー(ひとまとめにして「プライマー」として当業者に公知)を含み、これらのすべてが水性緩衝液に懸濁されている。前記第二の液滴は、増幅されたターゲット核酸を検出するための検出可能に標識されたプローブも含み、これらの詳細は下で論ずる。2つの液滴タイプ間での試薬の異なる取り合わせが考えられる。例えば、別の実施形態では、テンプレート液滴もPCRマスターミックスを含有するが、プライマーおよびプローブは第二の液滴内に残存する。試薬およびテンプレートDNAの任意の取り合わせを本発明に従って用いることができる。
【0055】
プライマーは、当該技術分野において周知の方法(Narangら、Methods Enzymol.、68:90(1979);Brownら、Methods Enzymol.、68:109(1979))を用いる適切な配列のクローニングおよび直接化学合成をはじめとする(しかしこれらに限定されない)様々な方法によって調製することができる。プライマーを商業的供給源、例えばOperon Technologies、Amersham Pharmacia Biotech、SigmaおよびLife Technologies、から得ることもできる。前記プライマーは、同一融解温度を有することができる。前記プライマーの長さを5’末端または3’末端で伸長または短縮して、所望の融解温度を有するプライマーを生成させることができる。また、プライマー対の配列および長さが所望の融解温度を生じさせるように、各プライマー対のアニーリング位置を設計することができる。25塩基対より小さいプライマーの融解温度を決定するための最も単純な方程式は、ウォーレスの法則(Wallace Rule)(Td=2(A+T)+4(G+C))である。プライマーの融解温度を決定するためのもう1つの方法は、ニアレストネーバー法である。Array Designer Software(Arrayit Inc.)、Oligonucleotide Probe Sequence Design Software for Genetic Analysis(Olympus Optical Co.)、NetPrimer、およびHitachi Software EngineeringからのDNAsisをはじめとする(しかしこれらに限定されない)コンピュータプログラムを使用してプライマーを設計することもできる。各プライマーのTM(融解またはアニーリング温度)は、Invitrogen Corp.から入手できるOligo Designなどのソフトウェアプログラムを使用して計算する。
【0056】
1つの実施形態では、チャネルを通って流れるサンプル液滴とPCR試薬液滴の相互嵌合(interdigitation)を生じさせるように液滴形成モジュールを配置および制御する。そのような配置は、例えば、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号に記載されている。
【0057】
次に、サンプル液滴をPCR試薬液滴と合体させて、PCRマスターミックスとプライマーと検出可能に標識されたプローブとターゲット核酸とを含む液滴を生成させる。例えば、電場勾配を用いて液滴に対する誘電泳動力を生じさせて、液滴を合体させるようにその力を制御すること;異なるサイズの液滴であって、それ故、異なる速度で移動する液滴を生成し、それによって液滴を合体させること;および異なる粘度を有する液滴であって、それ故、異なる速度で移動する液滴を生成させ、それによって液滴を互いに合体させることにより、液滴を合体することができる。これらの技術のそれぞれが、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号にさらに記載されている。液滴を合体させるための液滴に対する誘電泳動力の生成および制御についてのさらなる説明は、Linkら(米国特許出願第2007/0003442号)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2004316号に記載されている。
【0058】
単純液滴生成と呼ばれる、もう1つの実施形態では、テンプレートDNAとPCRマスターミックスとプライマーと検出可能に標識されたプローブとを既に含有する混合物から液滴を生成させるように単一の液滴形成モジュールまたは多数の液滴形成モジュールを配置する。コ・フローと呼ばれるさらにもう1つの実施形態では、単一の液滴形成モジュールの上流で2つのチャネルが交差し、それによって2つのフローストリームを収束させる。一方のフローストリームは、1セットの試薬とテンプレートDNAを含有し、他方は、残りの試薬を含有する。コ・フローについての好ましい実施形態では、テンプレートDNAおよびPCRマスターミックスが一方のフローストリームの中にあり、プライマーおよびプローブが他方の中にある。しかし、本発明は、いずれのフローストリームの要素構成に関しても限定されない。例えば、もう1つの実施形態では、一方のフローストリームがテンプレートDNAのみを含有し、他方はPCRマスターミックス、プライマーおよびプローブを含有する。流体交差部においてフローストリームが収束するとき、該フローストリームは、液滴生成ノズルの前で混ざることもあり、または混ざらないこともある。いずれの実施形態においても、第一のストリームからの多少の量の流体、および第二のストリームからの多少の量の流体が単一の液滴内に封入される。封入後に完全混合が起こる。
【0059】
上の液滴形成実施形態のいずれかにより、または任意の他の実施形態により、最終液滴を生成されたら、それらの液滴を熱サイクルに付して、各液滴内のターゲット核酸の増幅を生じさせる。一定の実施形態では、液滴をPCR熱サイクリングチューブにエマルジョンとしてオフチップで回収し、その後、従来の熱サイクラーでの熱サイクルに付す。熱サイクリングについての温度プロフィールは、PCRによる任意の従来のDNA増幅と同様に調整および最適化することができる。
【0060】
一定の実施形態では、加熱ラインと冷却ラインの間の蛇行通路内のチャネルを通して液滴を流して、該液滴内の核酸を増幅する。前記チャネルの幅および深さを調整して各温度での滞留時間を設定してもよく、1秒未満と数分の間のどのような程度にも滞留時間を制御することができる。
【0061】
一定の実施形態では、3つの温度ゾーンを増幅反応に用いる。二本鎖核酸の変性(高温ゾーン)、プライマーのアニーリング(低温ゾーン)および二本鎖核酸を生産するための一本鎖核酸の増幅(中温ゾーン)を生じさせるように、前記3つの温度ゾーンを制御する。これらのゾーン内の温度は、PCR反応を行うための当該技術分野において周知の範囲内に入る。例えば、Sambrookら(Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、2001)を参照のこと。
【0062】
一定の実施形態では、前記3つの温度ゾーンを次のような温度を有するように制御する:95℃(T)、55℃(T)、72℃(T)。調製されたサンプル液滴は、制御された速度でチャネルを通って流れる。サンプル液滴は、熱サイクリング前に初期変性ゾーン(T)を先ず通過する。初期予熱は、サンプル液滴内の核酸が熱サイクリング前に首尾よく変性してしまうための拡張ゾーンである。予熱ゾーンの必要条件、および必要とされる変性時間の長さは、その反応において用いられることとなる化学に依存する。サンプルは、おおよそ95℃の高温ゾーンを通過し、そこでサンプルは、変性と呼ばれるプロセスで先ず一本鎖DNAへと分離される。次に、サンプルは、おおよそ55℃の低温へと流れ、そこでハイブリダイゼーションプロセスが発生し、その間にプライマーがサンプルの相補配列にアニールする。最後に、サンプルがおおよそ72℃の第三の中温を通って流れると、ポリメラーゼプロセスが発生し、このときプライマーは熱安定性酵素でDNAの一本鎖に沿って伸長される。各ゾーンにおける温度を制御するための方法としては、電気抵抗、ペルチェ接合、マイクロ波照射、および赤外線での照明を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0063】
核酸は、チャネルを通って流れるにつれて液滴が各熱サイクルを通過するのと同じ熱サイクリングおよび化学反応を受ける。そのデバイスにおけるサイクルの総数は、熱ゾーンの拡張によって、または連続ループ構造を作ることによって、容易に改変される。サンプルは、それが完全熱デバイスのN回の増幅サイクルを通過するのと同じ熱サイクリングおよび化学反応を受ける。
【0064】
他の実施形態では、PCR反応のための2つの個々の温度ゾーンを実現するように温度ゾーンを制御する。一定の実施形態では、前記2つの温度ゾーンを、次のような温度を有するように制御する:95℃(T)および60℃(T)。サンプル液滴は、場合により、熱サイクリングに入る前に初期予熱ゾーンを通って流れる。この予熱ゾーンは、活性化のための、およびまた、熱サイクリング反応が始まる前に液滴内の二本鎖核酸を確実に十分に変性させるための、何らかの化学にとって重要であり得る。例示的実施形態では、その予熱ドウェル長が、より高温での液滴のおおよそ10分の予熱をもたらす。
【0065】
サンプル液滴は、おおよそ95℃の高温ゾーンへと続き、そこでこのサンプルは変性と呼ばれるプロセスで先ず一本鎖DNAに分離される。次に、そのサンプルは、そのデバイスを通っておおよそ60℃の低温ゾーンへと流れ、そこでハイブリダイゼーションプロセスが起こり、その間にプライマーがそのサンプルの相補配列にアニールする。最後に、ポリメラーゼプロセスが発生し、このときプライマーは熱安定性酵素でDNAの一本鎖に沿って伸長される。サンプルは、完全デバイスの各熱サイクルを通過するのと同じ熱サイクリングおよび化学反応を受ける。そのデバイスにおけるサイクルの総数は、ブロック長および配管によって容易に改変される。
【0066】
もう1つの実施形態では、液滴をオンチップで作成および/またはマージし、その後、PCRチューブなどの何らかのタイプの保管容器内に同じチップ若しくは別のチップ上またはオフチップで保管する。その後、液滴を収容しているチップまたは保管容器全体をサイクルに付して、所望のPCR加熱および冷却サイクルを達成する。
【0067】
もう1つの実施形態では、液滴を除去することなく液滴と周囲の油の間の密度差によって油を迅速に交換することができるチャンバに、液滴を回収する。このとき、容器内の油を異なる温度の油と交換することによって、液滴の温度を容易に変えることができる。この技術は、大まかに、2および3工程温度サイクリングまたは任意の他の温度順序で有用である。
【0068】
本発明は、液滴を熱サイクルに付す方法によって限定されない。任意の液滴熱サイクリング法を用いることができる。
【0069】
ターゲット検出
増幅後、増幅産物の検出のための検出モジュールに液滴を流す。液滴をオフチップで熱サイクルに付す実施形態については、液滴は、読み出しのために第二の流体回路-液滴生成のための流体回路(単数もしくは複数)と同じチップ上にあってもよいし、なくてもよい-への再注入を必要とし、または一定の実施形態では読み出しのために液滴を液滴生成に使用した元の流体回路に戻って再注入してもよい。当該技術分野において公知の任意の方法、例えばレポーターの存在または量の検出、を用いて、それらの液滴を個々に分析および検出することができる。一般に、前記検出モジュールは、1つ以上の検出装置と連通している。前記検出装置は、光学的もしくは電気的検出器またはこれらの組み合わせであり得る。適する検出装置の例としては、光導波路、顕微鏡、ダイオード、光刺激デバイス(例えば、レーザー)、光電子倍増管およびプロセッサ(例えば、コンピュータおよびソフトウェア)、ならびに特性、マーカーまたはレポーターのシグナル表示を検出するためにおよび選別モジュールでの測定または選別動作を決定および命令するために共働するこれらの組み合わせが挙げられる。検出モジュールおよび液滴中の増幅産物の検出方法についてのさらなる説明は、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号に示されている。
【0070】
一定の実施形態では、増幅されたターゲットを、検出可能に標識されたプローブを使用して検出する。特定の実施形態において、前記検出可能に標識されたプローブは、蛍光標識されたプローブなどの光学的に標識されたプローブである。蛍光標識の例としては、Atto色素、4-アセトアミド-4’-イソチオシアナトスチルベン-2,2’ジスルホン酸;アクリジンおよび誘導体;アクリジン、アクリジンイソチオシアネート;5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS);4-アミノ-N-[3-ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド-3,5ジスルホネート;N-(4-アニリノ-1-ナフチル)マレイミド;アントラニルアミド;BODIPY;ブリリアント・イエロー;クマリンおよび誘導体;クマリン、7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC、クマリン120)、7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン(trifluoromethylcouluarin)(クマラン151);シアニン色素;シアノシン;4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI);5’,5’’ジブロモピロガロール-スルホンフタレイン(sulfonaphthalein)(ブロモピロガロール・レッド);7-ジエチルアミノ-3-(4’-イソチオシアナトフェニル)-4-メチルクマリン;ジエチレントリアミンペンタアセテート;4,4’-ジイソチオシアナトジヒドロ-スチルベン-2,2’-ジスルホン酸;4,4’-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸;5-[ジメチルアミノ]ナフタレン-1-スルホニルクロリド(DNS、ダンシルクロリド);4-ジメチルアミノフェニルアゾフェニル-4’-イソチオシアネート(DABITC);エオシンおよび誘導体;エオシン、エオシンイソチオシアネート、エリトロシンおよび誘導体;エリトロシンB、エリトロシン、イソチオシアネート;エチジウム;フルオレセインおよび誘導体;5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、5-(4,6-ジクロロトリアジン-2-イル)アミノフルオレセイン(DTAF)、2’,7’-ジメトキシ-4’5’-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、QFITC、(XRITC);フルオレスカミン;IR144;IR1446;マラカイトグリーンイソチオシアネート;4-メチルウンベリフェロンオルトクレゾールフタレイン;ニトロチロシン;パラローズアニリン;フェノールレッド;B-フィコエリトリン;o-フタルジアルデヒド;ピレンおよび誘導体;ピレン、ピレンブチレート、スクシンイミジル1-ピレン;ブチレート量子ドット;リアクティブレッド4(Cibacron(商標)ブリリアント・レッド 3B-A)ローダミンおよび誘導体;6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシローダミン(R6G)、リサミンローダミンBスルホニルクロリドローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアネート、スルホローダミンB、スルホローダミン101、スルホローダミン101のスルホニルクロリド誘導体(テキサス・レッド);N,N,N’,N’テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA);テトラメチルローダミン;テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC);リボフラビン;ロゾール酸;テルビウムキレート誘導体;Cy3;Cy5;Cy5.5;Cy7;IRD 700;IRD 800;ラホーヤブルー(La Jolta Blue);フタロシアニン;ならびにナフタロシアニンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい蛍光標識は、FAMおよびVIC(商標)(Applied Biosystemsから)である。他の光学的に検出可能な標識を含めて、蛍光標識以外の標識が本発明により考えられる。
【0071】
一定の態様において、本発明の液滴は、液滴内で生産されるアンプリコンにハイブリダイズする多数の検出可能プローブを含有する。前記複数のプローブの構成員は、それぞれ、同じ検出可能標識を含むことがあり、または異なる検出可能標識を含むことがある。前記複数のプローブは、様々な濃度のプローブの1つ以上の群を含むこともある。様々な濃度のプローブの前記群は、様々なプローブ濃度のため強度の点で様々である、同じ検出可能標識を含むことができる。
【0072】
別の実施形態において、方法または検出のための波長に対して透明である保管デバイス内の単層に閉じ込められた液滴のスキャンによって、検出を行うことができる。この仕方で保管された液滴は、スキャナーによる保管デバイスの移動または保管デバイスの上でのスキャナー移動のいずれかによってスキャンすることができる。
【0073】
本発明は、上で説明したようなTaqManアッセイに限定されず、むしろ本発明は、すべての蛍光発生性DNAハイブリダイゼーションプローブ、例えば分子ビーコン、Solarisプローブ、スコーピオンプローブ、およびハイブリダイゼーションによるターゲットDNAの配列特異的認識によって機能し、そのターゲット配列の増幅により蛍光増加を生じさせる任意の他のプローブ、の使用を包含する。
【0074】
液滴内でのデジタルPCR性能
エマルジョン形式でのデジタルPCR性能を、参照遺伝子、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼE1(BCKDHA)、の系列希釈物を測定することによって検証した。液滴生成マイクロ流体チップを使用して、PCRマスターミックスと、1×プライマーと、BCKDHA用のプローブと、様々な濃度のヒトゲノムDNA混合物(1:1 NA14091とNA13705)との混合物を、フッ素化油中水型エマルジョン中の100万個を超える5.3pL液滴に区画化した。そのエマルジョンをオフチップで熱サイクルに付し、その後、各液滴の蛍光を読み出しチップにおいて蛍光によって分析した(図3参照)。
【0075】
液滴生成および読み出しのための例示的マイクロ流体システムを、図3に図示する。液滴生成および読み出しのためのマイクロ流体システム。図3a(液滴生成チップ)に示すように、PCRマスターミックスとプライマーとプローブとテンプレートDNAとを含有する連続水性相が左から流体交差部へと流れ、キャリア油が上部および下部から入った。水性液の新生ボーラスを、交差部内で、流体の張力が水性液の表面張力を超えはじめて耐えきれなくなって別個の4pL液滴になる直前に撮像した。交差部を出て右へと向かう液滴の定常的つらなりを熱サイクリング用の安定したエマルジョンとしてオフチップで回収した。図3bは、読み出しのための液滴間隔どりを図示するものである。連続相の代わりに(a)からのエマルジョンを熱サイクリング後に左から交差部に注入したことを除き、3aの場合と同様にフローを準備した。オフチップ処理中にエマルジョンから油が排液される故、エマルジョンは、この画像では交差部の前は密充填されているように見えた。交差部に導入された油によって液滴は分離され、矢印によってしるしをつけた位置で各液滴の蛍光を測定した。図3cは、蛍光による液滴読み出しの漫画を描いたものである。比較的頻度の低いPCR(+)液滴(薄灰色)が大多数のPCR(-)液滴(濃灰色)と一緒に検出器のほうに流れる。液滴は、検出領域を通過している間にレーザー誘導蛍光による問い合わせを逐次的に受ける。
【0076】
系列希釈の場合、1液滴あたりのターゲットDNA分子の平均数-この時点以降「占有率」と呼ぶ-は、DNA濃度に正比例して増加するはずである。この占有率は、当業者に周知の次の方程式を用いてポアソン統計から計算した:
【0077】
【数1】
(この式中、PおよびNは、それぞれ、PCR(+)およびPCR(-)液滴の数である)。
【0078】
読み出しチップを通って流れているときに蛍光によって液滴を分析して、PCR(+)およびPCR(-)液滴の数をカウントした(図3c参照)。各液滴が(図3bにおいて矢印でしるしをつけた)検出ゾーンを通過すると、蛍光のバーストが観察された。異なるチップ配置などのために起こり得る蛍光強度のラン間の小さな差を説明するために、各データセットを、空の液滴の平均蛍光強度が0.1Vになるように拡大縮小した。図4aは、その系列の中で最高DNA濃度を有するサンプルについての個々の液滴からの蛍光バーストの典型的トレースの非常に短い継続時間を示している。PCR(+)およびPCR(-)液滴は、蛍光強度によって容易に識別された。~0.8Vでピークに達する2つの大きな蛍光バーストがPCR(+)液滴から発生し、これに対してPCR(-)液滴では不完全な蛍光消光に起因するより小さいバーストが~0.1Vでピークに達した。完全データセットからのピーク強度のヒストグラムは、0.10および0.78Vに中心を有する2つの明確な集団を明示した(図4b)。これは、図4aにおける短いトレースにおいて明白な傾向が、はるかに長い期間にわたって安定していたことの証拠となる。図4bにおける2つの集団の統合により、合計197,507個のPCR(+)および1,240,126個のPCR(-)液滴を得た。従って、Eqn.1によりこのサンプルについての占有率は0.15であり、これは、110ng/μLの測定DNA濃度に基づく0.18の期待占有率に対応した。系列希釈での各サンプルについての占有率を測定し、希釈方程式:
【0079】
【数2】

に当てはめた。この直線当てはめは、データと非常によく一致しており、R値は0.9999であり、および当てはめられた希釈係数は5.0の期待値とほぼ一致して4.8であった。
【0080】
デジタルPCR反応における多重化プライマー
Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)、Andersonら(米国特許第7,041,481号および再発行番号41,780として再発行されたもの)およびRaindance Technologies Incの欧州特許出願公開第2047910号(これらのそれぞれの内容は、それら全体が参照により本明細書に援用されている)に記載されているような液滴ベースのデジタルPCR技術は、1ライブラリー液滴あたり単一のプライマー対を用いる。このライブラリー液滴を、プライマーを除いてゲノムDNAを含むすべてのPCR試薬を含有するテンプレート液滴と合体させる。テンプレート液滴とプライマーライブラリー液滴のマージ後、その新たな液滴は今やPCRを行うために必要なすべての試薬を含有する。その後、その液滴を熱サイクルに付してアンプリコンを生産する。1つの実施形態では、平均して1液滴あたり1未満の半数体が存在するようにテンプレートDNAをテンプレートミックスで希釈する。
【0081】
1液滴あたり1つの半数体ゲノム(すなわち、1つの対立遺伝子)しか有さないことは、チューブまたはマイクロウエルにおける標準的なシングルプレックスまたはマルチプレックスPCRに勝る液滴PCRの利点をもたらす。例えば、伝統的なPCRでは、両方の対立遺伝子が反応ミックス中に存在するので、対立遺伝子間のPCR効率に差がある場合、最高効率を有する対立遺伝子が過剰に示されることとなる。加えて、注意深いプライマー設計にもかかわらず、PCRプライマーがハイブリダイズする配列に不一致がある場合がある。プライマーハイブリダイゼーション配列の不一致は、野生型配列を有する対立遺伝子と比較してこの不一致を有する対立遺伝子についてのほうが低いハイブリダイゼーション効率をプライマーが有する原因となり得る。これは、両方の対立遺伝子が同じ反応ミックス中に存在する場合、一方の対立遺伝子が他方の対立遺伝子より優先的に増幅される原因にもなり得る。
【0082】
液滴ベースのPCRでは、1液滴あたり1つのテンプレート分子、従って1液滴あたり1つの対立遺伝子、しか存在しないため、これらの問題は回避される。従って、1つの対立遺伝子についてのPCR効率を低減するプライマー不一致がたとえ存在したとしても、対立遺伝子は分離されるおよび従って均一に増幅されるため、対立遺伝子間の競合がない。
【0083】
チューブまたはウエルにおける標準的なPCRプライマーの伝統的多重化の最適化が難しいことは公知である。同じ反応で産生される複数のPCRアンプリコンは、配列または長さの違いのために異なる効率を有するアンプリコン間での競合をもたらすことがある。これは、競合するアンプリコン間での収量の変動をもたらし、その結果、不均一なアンプリコン収量となり得る。しかし、液滴ベースのデジタルPCRは、1液滴あたり1つのテンプレート分子しか利用しないため、液滴内に複数のPCRプライマー対がたとえ存在したとしても、1つのプライマー対しか活性にならない。1液滴あたり1つのアンプリコンしか生成されることとならないので、アンプリコン間に競合はなく、その結果、異なるアンプリコン間でより均一なアンプリコン収量が得られる。
【0084】
1塩基あたりの十分なシークエンシング網羅を達成するための特定の量のDNAおよび/または特定の数のPCRポジティブ液滴のいずれかを生成させるために、一定の量のDNAが必要とされる。液滴のわずかな割合、標準的な手順でおおよそ3分の1、しかPCRポジティブでないため、テンプレートDNA分子あたりの当量PCR収率を達成するには、より多くのDNAがかかる。より多くのゲノムDNAを加えることにより、PCRポジティブ液滴の数および従ってアンプリコン収量を増加させることができる。例えば、液滴の数を一定に維持しながらのゲノムDNAの量を2倍増加させると、アンプリコン収量は2倍になるだろう。しかし、同じ液滴内の遺伝子が両方の対立遺伝子を有する有意な機会が存在する前に加えることができるゲノムDNAの量には限界があり、その結果、対立遺伝子特異的PCRに打ち勝つことおよび対立遺伝子ドロップアウトをもたらすことについての液滴PCRの利点は無くなる。
【0085】
より多くのゲノムDNAのインプットを可能にする1つの方法は、より多くの液滴を生成させて液滴あたりの半数体分子の比率を一定に保つことによる。例えば、DNAの量を2倍にすることおよび液滴の量を2倍にすることで、同じ液滴あたりの半数体ゲノム比を維持しながらアンプリコン収量を2X増加させる。しかし、液滴の数を2倍にすることは問題が多い上、DNAの量を増加させることは、限られた量のDNAを有する使用者には難しい。
【0086】
液滴内でのPCRプライマーの多重化は、インプットDNA量を同じにまたはより少なく保って同等のまたはより大きいアンプリコン収量を生じさせながら、同時にPCR液滴数を増加させることができる。これは、より多くのDNAを消費することなく、PCRポジティブ液滴の量とアンプリコン収量の総合的増加をもたらす。
【0087】
例として、4液滴ごとに平均1つの半数体ゲノムまたは1液滴あたり平均1/4の半数体ゲノムおよび1液滴あたり1つのPCRプライマーがある場合、液滴内にPCRプライマーにとって適正なテンプレートが存在する機会は、4分の1である。しかし、1液滴あたり2つのPCRプライマーがある場合には、液滴内に適切なテンプレートが存在することとなる機会は2倍になる。この結果、2個のうち1個の液滴がPCRポジティブとなり、これは、インプットDNAを2倍にすることなくアンプリコン収量を2倍にする。2x多重化プライマーを含有する液滴の数を2倍にし、DNAを一定に保った場合には、PCRポジティブ液滴の数は落ちて4分の1に戻るが、液滴数が倍増されているためPCR液滴の総数は同じままである。各液滴内の多重化レベルを4xに増加させ、インプットDNAが同じである場合、各液滴内に適正なテンプレート分子が存在する機会は2倍になる。この結果、PCRポジティブ液滴の数は2分の1に増加することとなり、これは、インプットDNAの量を増加させることなくアンプリコン収量の量を2倍にする。このように、各液滴内のPCRプライマーの多重化を増すことにより、および全体的に液滴の数を増加させることにより、インプットDNAの量を増加させることなくアンプリコン収量を4倍増加させることができる。
【0088】
あるいは、アンプリコン収量がすでに十分である場合、各液滴内のPCRプライマーについての多重化レベルを増すことにより、アンプリコン収量を犠牲にすることなくインプットゲノムDNAの量を低下させることができる。例えば、PCRプライマーの多重化レベルが1xから2xになると、同じ総アンプリコン収量をなお維持しながらインプットゲノムDNAの量を2x減少させることができる。
【0089】
1液滴あたりのPCRプライマー対の数が、たとえ1より多かったとしても、やはり1液滴あたり1つのテンプレート分子しかなく、従って、1液滴あたり1つのプライマー対しか一度に利用されることとならない。これは、対立遺伝子特異的PCRまたは異なるアンプリコン間の競合のいずれかからのバイアスを無くすことについての液滴PCRの利点が維持されることを意味する。
【0090】
液滴ベースの増幅および単一液滴内の複数のターゲット配列の検出についての例示的実証実験をここに示す。5セットのプライマー(TERT、RNaseP、E1a、SMN1およびSMN2についてのプライマー)の複数のコピーを、テンプレートDNAおよびPCRマスターミックスと一緒に、様々な濃度で単一の液滴に封入した。TERT、RNaseP、E1a、SMN1またはSMN2に特異的に結合するプローブも、それらのプライマーを含有する液滴に封入した。TERT、RNasePおよびE1aについてのプローブをVIC色素で標識し、SMN1およびSMN2についてのプローブをFAM色素で標識した。TERT、RNaseP、E1a、SMN1およびSMN2の配列をPCRによって増幅した。標準的な熱サイクリング設定でPCRを行った。例えば:
10分間95℃
31サイクル
15秒間92℃
60秒間60℃。
【0091】
PCR終了時、各液滴からの蛍光放射を決定し、その波長および強度に基づいて散布図にプロットした。対応する蛍光波長を有する液滴をそれぞれが表す6つのクラスタを示した。TERT、RNasePおよびE1aクラスタは、3つの別個の強度でVIC色素の蛍光を示し、SMN1およびSMN1クラスタは、2つの別個の強度でFAM色素の蛍光を示した(図5)。TERT、RNaseP、E1a、SMN1およびSMN2から選択される1つ以上の配列をそれぞれが有する液滴の数をその散布図から決定することができる。
【0092】
液滴ベースの増幅および単一液滴内の複数のターゲット配列の検出についてのもう1つの実証実験では、5セットのプライマー(TERT、RNaseP、E1a、815Aおよび815Gについてのプライマー)を、テンプレートDNA、PCRマスターミックスおよびプローブと一緒に、様々な濃度で単一の液滴に封入した。5つの異なるプローブTERT、RNaseP、E1a、815Aおよび815Gも、それらのプライマーを含有する液滴に封入した。TERTおよび815AについてのプローブをVIC色素で標識し、815GについてのプローブをFAM色素で標識した。RNasePおよびE1aのそれぞれについては、一方をVIC色素で標識し、他方をFAM色素で標識した、2つのプローブを封入した。
【0093】
プライマーとプローブの両方を含有する液滴を、テンプレートを含有する液滴と融合させた。それらの融合液滴でPCR反応を行って、TERT、RNaseP、E1a、815Aおよび815Gの配列を増幅した。標準的な熱サイクリング設定でPCRを行った。
【0094】
PCR終了時、各融合液滴からの蛍光放射を決定し、その波長および強度に基づいて散布図にプロットした。対応する蛍光波長および強度を有する液滴をそれぞれが表す6つのクラスタを示した。TERTおよび815Aクラスタは、2つの別個の強度でVIC色素の蛍光を示し;815Gクラスタは、FAM色素の蛍光を示し;ならびにRNasePおよびE1aクラスタは、別個の強度でFAMおよびVIC両方の色素の蛍光を示した(図6)。TERT、RNaseP、E1a、815Aおよび815Gから選択される1つ以上の配列をそれぞれが有する液滴の数をその散布図から決定することができる。RNaseP、E1a、815Aおよび/または815G配列を有する液滴の数とTERT配列を有する液滴の数の間の比によって、テンプレート内のRNaseP、E1a、815Aおよび815Gのコピー数を決定した(図6)。
【0095】
液滴ベースのデジタルPCR反応における多重化プライマー対のもう1つの例示的実証実験では、2つの液滴ライブラリーを生成させた:各液滴が1つのプライマー対しか含有しない、液滴ライブラリーAを生成させ;およびプライマー対が各液滴内で5xレベルで多重化された、液滴ライブラリーBを生成させた。標準的な手順を用いて液滴ライブラリーAおよびBでHapMapサンプルNA18858を二重反復で処理した。液滴ライブラリーAには2μgのサンプルDNAを使用し、5xマルチプレックス液滴ライブラリーBには1μgのサンプルDNAを使用した。PCR増幅後、両方の液滴ライブラリーをばらし、Qiagen MinEluteカラムで精製し、その後、Agilent Bioanalyzerにかけた。サンプルは、IlluminaによりIllumina GAIIを用いて50ヌクレオチド読み取りでシークエンシングされ、標準的なシークエンシング測定基準を用いてそれらのシークエンシング結果を分析した。下の表に示す標準的な測定基準を用いて、5x多重化液滴ライブラリーBからの結果をシングルプレックス液滴ライブラリーAと比較した。
【0096】
5x多重化液滴ライブラリーBから得た結果は、液滴ライブラリーAから得たものと等価またはそれより良好であった。プライマーの多重化は、インプットDNA低減の追加の利点と共に、塩基網羅(base coverage)、特異性および均一性について一重化(singleplex)が成すものと同じシークエンシング結果をもたらす。
【0097】
【化1】

全読み取り:与えられたサンプルデータの中で見いだされたシークエンシング読み取りの総数。
位置づけられた読み取り(%):ヒトゲノムにマップされた全読み取りの百分率。
特異性:ターゲットを含むマップされた読み取りの百分率。前記ターゲットはすべてのアンプリコン配列を含むが、プライマー配列を含まない。
平均塩基網羅:ターゲット内の平均塩基網羅。前記ターゲットはすべてのアンプリコン配列を含むが、プライマー配列を含まない。
C1:少なくとも1x塩基網羅を有するターゲットの%。注記:非一意的シークエンシング読み取りがランダムにマップされる。
C20:少なくとも20x塩基網羅を有するターゲットの%。
C100:少なくとも100x塩基網羅を有するターゲットの%。
塩基網羅(平均の0.2x):平均塩基網羅の少なくとも20%を有するターゲットの%。
【0098】
単色遺伝子コピー数アッセイ
伝統的なデジタルPCR法は、個々のターゲットに特異的な単一標識プローブの使用を含む。図7は、液滴ベースのデジタルPCRを用いるターゲット配列の一色検出を図示する概略図である。図7のパネルAに示すように、テンプレートDNAをフォワードプライマー(F1)およびリバースプライマー(R1)で増幅する。カラー1の蛍光体で標識されたプローブ(P1)は、ターゲット遺伝子配列(ターゲット1)に結合する。限界または終点希釈条件下でテンプレートDNAの希釈溶液で微小液滴を作製する。ターゲット配列を含有する液滴は蛍光を放射し、レーザによって検出される(パネルBおよびC)。ターゲット配列を含有するまたは含有しないマイクロカプセルの数を、ヒストグラムで示し(D)、定量した(E)。
【0099】
図8は、マイクロ流体デバイスでの2つの遺伝子配列の二色検出を図示する概略図である。図8のパネルAに示すように、テンプレートDNAを2セットのプライマー:フォワードプライマー(F1)とリバースプライマー(R1)、およびフォワードプライマー(F2)とリバースプライマー(R2)、で増幅する。カラー1の蛍光体で標識されたプローブ(P1)は、ターゲット1に結合し、カラー2の蛍光体で標識されたプローブ(P2)は、ターゲット2に結合する(パネルBおよびC)。限界または終点希釈条件下でテンプレートDNAの希釈溶液で微小液滴を作製する。ターゲット配列1または2を含有する液滴は、カラー1または2の蛍光をそれぞれ放射し、レーザによって光学的に検出される(パネルBおよびC)。ターゲット1または2を含有するマイクロカプセルの数を、ヒストグラムによってパネル(D)に示す。
【0100】
本発明の方法は、同じ蛍光体を有するプローブを使用してdPCRにより複数の異なるDNAターゲットの正確な定量を行うことを含む。図9は、マイクロ流体デバイスでの3つの遺伝子配列の二色検出を図示する概略図である。図9のパネルAに示すように、テンプレートDNAを3セットのプライマー:フォワードプライマー(F1、F2およびF3)とリバースプライマー(R1、R2およびR3)、で増幅する。プローブ(P1、P2およびP3)は、蛍光体(カラー1、カラー2およびカラー1)で標識されており、ターゲット遺伝子配列(ターゲット1、ターゲット2およびターゲット3)に結合する(パネルBおよびC)。限界または終点希釈条件下でテンプレートDNAの希釈溶液で微小液滴を作製する。ターゲット配列1または3を含有する微小液滴は、2つの異なる強度でカラー1の蛍光を放射し;ならびにターゲット配列2を含有する微小液滴は、カラー2の蛍光を放射する。ターゲット1、2または3を含有する微小液滴の数を、ヒストグラムによりパネルDに示す。
【0101】
液滴デジタルPCR(dPCR)からの先程の結果は、同じ蛍光体を使用して複数の独立したPCR反応をランでき、別々に定量できることを示している。とりわけ、SMN2アッセイは、FAM検出チャネルにおいて有意に高いシグナルを有する予期せぬ液滴集団を生じさせる。
【0102】
結果を図10に図示する。図10における左側のドットプロットは、反応に存在するSMN1ブロッカーを有することの効果を図示している。左側のドットプロットに図示されている4つのクラスタは、次のとおりである:上部左クラスタは、参照配列(SMARCC1)を含有する微小液滴を含み;下部左クラスタは、いずれの配列も含有しない微小液滴を含み;下部中央クラスタは、SMN1の配列を含有する微小液滴を含み;および下部右クラスタは、SMN2の配列を含有する微小液滴を含む。図10の右側のドットプロットは、SMN1ブロッカーが反応に存在しなかった4つのクラスタを図示しており;上部左クラスタは、参照配列(SMARCC1)を含有する微小液滴を含み;下部左クラスタは、いずれの配列も含有しない微小液滴を含み;下部中央クラスタは、SMN1の配列を含有する微小液滴を含み;および下部右クラスタは、SMN2の配列を含有する微小液滴を含む。左のパネルと比較して右のパネルにおける下部中央クラスタのシフトは、蛍光強度により配列の存在についての非常に感度の高い測定がもたらされることを確証する。
【0103】
いずれの理論によっても拘束されることを意図しないが、SMN1遺伝子へのSMN2プローブへの弱い会合から、その遺伝子に対するブロッカー(SMN1遺伝子に対する非蛍光相補的プローブ)の存在にもかかわらず、クラスターが発生することが、その最も簡単な説明である。
【0104】
予期せぬクラスタ源としてのSMN1の1つの決定的確証は、SMN1ブロッカーの存在への、この特徴の強度について観察される依存であった。より高いFAM蛍光強度への明確なシフトが、ブロッカー不在下で観察された(図10)。もう1つの決定的確証では、予想と完全に一致して0.96の参照サイズに対するSMN1(推定)集団サイズの比(それぞれの2つのコピー)(S_131サンプル)。同数のSMN1コピーを有するもう1つのサンプル、S_122、は、あるランでは0.88および別のランでは0.93の比を生じさせ、これも予期せぬクラスタについて提案した説明と一致した。
【0105】
いずれの理論によっても拘束されることを意図しないが、これらの観察は、SMN1 DNAへのSMN2プローブの結合が高い蛍光シグナルを生じさせることを示している。この現象を説明する単純な動態モデルは、ポリメラーゼが相補鎖をふさぐより速い速度でSMN2プローブのSMN1 DNAへのハイブリダイゼーションが平衡に達することを想定している。従って、各熱サイクルの際に放出されるプローブ蛍光体の量は、結合しているプローブの数に比例する(または等しいことさえある)。それ故、結合親和性が低いほど、放出されるプローブ蛍光体の数は少ない。SMN2プローブとSMN1配列のミスマッチ(単数または複数)のため、プローブの親和性は、SMN2よりSMN1に対するほうが低いと確かに予想される。このモデルは、sMN1ブロッカーへのシグナル依存性も説明する:該ブロッカーは、ポリメラーゼエキソヌクレアーゼ活性によるSMN2プローブ加水分解を競合的に阻害する。
【0106】
しかし、プローブハイブリダイゼーションがエキソヌクレアーゼ活性の前に平衡に達しない場合もある。この場合、会合速度がより支配的な役割を果たすであろう。同様の理論が適用される。マッチング部位への結合速度は、ミスマッチ部位へより速い可能性が高く、ブロッカーは、ミスマッチ部位へのプローブ結合を減速させるように作用するであろう。SMN1 DNAへのSMN2プローブの結合は、従来のバルクqPCRによって、とりわけSMN2の不在下で、検出可能であり得るが、ここで示すもののような高定量的結果は、非常に見込み薄である。確かに、同じ色の蛍光体で2つの異なるDNA配列モチーフを定量するqPCRまたは任意の他の技術についての報告はない。液滴内での単一分子増幅による個々の反応の隔離は、シグナルへの種々雑多な寄与に関する一切の混乱を無くす。
【0107】
同じ色の蛍光体の複数のプローブでDNAを定量することの利点は、ここに示す2つの高相同性配列の実施例を超えて広がる。むしろ、いかなる類似度または非類似度のいかに多数の配列も、異なるプローブがそれらのそれぞれのDNA結合部位への有意に異なる結合占有率を有する限り、定量することができる。
【0108】
多重化反応のためのdPCRアプローチのもう1つの利点は、異なる反応が、バルクqPCRアッセイでのように試薬について互いに競合しない点である。しかし、予期せぬ交差反応性についての可能性は残存する。マルチプレクセスアッセイ(multiplexes assay)は、より希薄なサンプルを必要とし得る。例えば、10%占有率で、デュプレックス反応は、その時の2倍の占有率1%を有するであろう。それ故、10個のPCR+液滴のうちの1つは2倍となり、その結果、2つのプローブの増白剤と少なくとも同様の高さのおよびことによるとそれより高い最終強度をもたらす。単純なデュプレックス系については、各プローブからの寄与を回収することができた。この実施例では、プローブ1に対するPCR+液滴の総数は、(プローブ1)+(プローブ1+プローブ2)となるだろう。多重度が高いほど、大きな希釈を必要とする。例えば、1%占有率での4プレックスについては、他の3つのいずれかとオーバーラップする1つのプローブの確率は、~3%であり、その誤差は、一部の用途にとっては高すぎる。大きな希釈の必要は、数の多いdPCR反応に好都合に働く。
【0109】
本発明のもう1つの実施例では、参照DNAとターゲットDNAの両方についての遺伝子コピー数アッセイにおいて単一の蛍光体(FAM)を使用した。1細胞あたりターゲット遺伝子の0~16コピーに相当する、参照遺伝子に対するターゲット遺伝子コピー数の変化を表すために、様々な濃度のプラスミドDNAを有するモデルシステムを使用した。BCKDHAおよびSMN2プラスミドDNAは、それぞれ1×および0.5×プライマーおよびプローブと共に参照およびターゲットとして役立った。8:1 SMN2対BCKDHAの出発比率で、サンプルを同じ濃度のBACDHAの溶液で2×系列希釈して、SMN2の量だけを変動させた。得られたサンプルを乳化させ、熱サイクルに付し、10個を超える液滴を、前のセクションで説明したように各サンプルについて分析した。このプロセスを三重反復で繰り返した。
【0110】
本発明の方法は、各プローブに一意的な蛍光シグネチャの同定のための分析技術も含む。本発明のこの実施例では、3つの異なるテンプレートDNAサンプルについての液滴蛍光強度のヒストグラムを図11aに示す:無テンプレート対照(点線)、BCKDHAのみ(実線)、および1:1 BCKDHA対SMN2(一点鎖線)。明瞭さのために、一定のピークについての類似性を強調するためにオーバーラップさせたヒストグラム、および特徴のすべてを明らかにするために互いに並置したヒストグラム、両方を示す。1:1 BCKDHA対SMN2の場合、3つの集団が容易に認められる:最も有力な特徴が0.08Vに現れ、ならびに0.27および0.71Vでの2つの小さなピークがはっきりわかった。無テンプレート対照では両方の小さいピークが消失したが、大きいものは残存したので、0.08Vでの最も有力な特徴をPCR(-)液滴に割り当てた。0.71Vでのピークは、BCKDHAだけの添加に伴って生ずる唯一の特徴であるので、BCKDHAに割り当て、そしてその後、SMN2を添加すると0.27Vでのピークが現れ、割当てを終えた。図11aのスケールでは見えない非常に小さいピークが~0.9Vに現れ、これは、両方の遺伝子によって占有された液滴に対応する。本発明のもう1つの方法として、異なるピークが同定されたら、各ピーク内の液滴をそれぞれの可能な状態(BCKDHAもしくはSMN2または両方についてはPCR(+)、あるいはPCR(-))に応じてカウントし、その後、遺伝子コピー数を占有の比率から決定した。系列希釈での各サンプルについての遺伝子コピー数を期待値に対して図11bにプロットし(SMN2のBSKDHAに対する期待比率に対するSMN2のBCKDHAに対する観察比率)、十分な範囲にわたって非常によく直線(y=1.01x)に当てはまった(R=0.9997、勾配1.01)。これは、1細胞あたり0から16のSMN2コピーの等価物の正確で的確な測定を確証している。
【0111】
選択的にスプライスされた転写産物の検出
同じ原理を用いて、選択的にスプライスされた転写産物を検出し、カウントした。RNA転写産物内のそれぞれのエキソンに特異的であるTaqManアッセイ物を設計することができる。RNAをcDNAにした後、それを液滴に1液滴あたり1コピー以下で封入することができる。この液滴は、それぞれのエキソンについての多重化TaqManアッセイ物も含有するであろう。それぞれのTaqManアッセイ物は、異なるプローブを含有するが、すべてのプローブに同じ蛍光色素が付いているだろう。それらの液滴を熱サイクルに付して、それぞれのTaqManアッセイ物についてのシグナルを生成させることとなる。サンプル中に多数のスプライス変異体がある場合、それらは、スプライシング事象に依存して異なる数のエキソンを含有するだろう。各液滴の蛍光強度は、存在するエキソンの数に依存して異なるだろう。異なる強度を有する液滴の数をカウントすることにより、サンプル中の異なるスプライス変異体の存在および存在度を同定することが可能であろう。
【0112】
不均一サンプル中のコピー数変異体
不均一サンプルが異なるコピーレベル数を有する成分を含有するかどうかを決定することが可能だろう。アッセイすべきコピー数変異体を染色体に沿って十分近い間隔で配置した場合、サンプルからのDNAをフラグメント化し、1液滴あたり1半数体ゲノム当量以下のレベルで液滴に封入することができよう。この液滴は、そのコピー数変異体に特異的なTaqManアッセイ物も含有するだろう。各液滴におけるシグナルの強度は、そのサンプルについての存在するコピー数変異体の数に依存するであろう。異なる強度の液滴の数のカウントは、特定のサンプル中の幾つの細胞が如何なるレベルのコピー数変異体を有するかというようなことを示すだろう。
【0113】
TaqMan(登録商標)プローブ蛍光強度のチューニング
蛍光強度によるプローブの同定は、プローブ、特に、密なプローブパタンを有するより高プレックスの(higher-plex)アッセイのためのプローブ、の輝度の調整を必要とすることが多い。前のセクションにおいて、遺伝子コピー数アッセイ用のプローブは、非常によく分解されたピークを生じさせた(図11a)。明らかに、測定値の分解にコピー数アッセイにおける1つまたは多数のさらなるプローブを適応させる余地が存在するが、既存のアッセイ物への干渉を避けるために新たなプローブの蛍光強度を調整するための方法が求められる。本発明の1つの方法は、より高プレックスの反応における相対強度を最適化するための非常に単純な技術としてプローブおよびプライマー濃度を共に変化させることを含む。
【0114】
図12は、マイクロ流体デバイスでの特定のターゲットに対する検出可能標識の強度のチューニングについての概略図である。図12のパネルAに示すように、テンプレートDNAを2セットのプライマー:フォワードプライマー(F1およびF2)およびリバースプライマー(R1およびR2)、で増幅する。プローブ(P1およびP2)は、カラー1の蛍光体で標識されており、ターゲット1およびターゲット2にそれぞれ結合する。ターゲット2からの蛍光は、P2とターゲット2の間の一塩基ミスマッチのため、ターゲット1からのものより強度が低い。パネルBに示すように、テンプレートDNAを2セットのプライマー:フォワードプライマー(F1およびF2)およびリバースプライマー(R1およびR2)、で増幅する(パネルB)。ターゲット2からの蛍光は、蛍光体で標識されていない競合プローブ2の存在のため、ターゲット1からのものより強度が低い。パネルCに示すように、テンプレートDNAを2セットのプライマー:フォワードプライマー(F1およびF2)およびリバースプライマー(R1およびR2)、で増幅する。プローブ(P1およびP2)は、カラー1の蛍光体で標識されており、ターゲット1およびターゲット2にそれぞれ結合する。ターゲット2からの蛍光は、異なる蛍光体で標識されている競合プローブ2の存在のため、ターゲット1からのものより強度が低い。
【0115】
図13は、異なる参照遺伝子、リボヌクレアーゼP(RNaseP)、についてのプローブおよびプライマーの系列希釈全体を通してのプローブ蛍光強度を、1液滴あたり0.02のターゲットDNA分子の占有率でCoriell細胞株NA3814からの一定量のゲノムDNAに対して示すものである。プローブ蛍光強度は、希釈誤差および他のラン間の差についての補正、例えば、PCR(-)液滴を参照として使用する光学的再アラインメントの後、~0.15から0.4μMにわたる狭い濃度範囲-大体、0.2μMの典型的なプローブ濃度あたりが中心-にわたってプローブ濃度に正比例して変動した(R=0.995)。要約すると、増幅それ自体に影響を及ぼすことなく多重化アッセイのチューニングのために小さいが適正な範囲にわたって希釈によりプローブ強度を変えることができる。
【0116】
プローブ蛍光強度を調整するための上の実施例は、プローブおよびプライマー濃度を共に同じ率で変えることを含むが、本発明は、プローブ強度を変えるためにこの方法のみに限定されない。プローブ強度を変えるための当業者に公知の他の方法も考えられる。そのような方法としては、プローブ濃度のみを変えること;プライマー濃度のみを変えること;フォワードプライマー濃度のみを変えること;リバースプライマー濃度のみを変えること;プローブ、フォワードおよびリバースプライマー濃度を任意の方法で変えること;熱サイクリングプログラムを変えること;PCRマスターミックスを変えること;蛍光体を欠くプローブの何らかの部分をアッセイ物に組み込むこと;またはプローブ結合に対する任意のハイブリダイゼーションベースの競合阻害剤、例えばブロッキングオリゴマーヌクレオチド、ペプチド核酸およびロックド核酸、をアッセイ物に組み込むことが挙げられる。本発明は、単独でまたは任意の組み合わせで用いられる、プローブ蛍光強度を調整するこれらの方法、またはプローブ蛍光強度を調整するための任意の他の方法の使用を援用する。
【0117】
より高プレックスの反応
本発明の1つの方法は、単一プローブカラー(すなわち蛍光体)を用いてより高プレックスのアッセイを行うことを含む。上で説明したように、様々な手段により、各強度レベルがDNAターゲットを一意的に同定するようにプローブ蛍光強度を調整することができる。例えば、ターゲットT1、T2、T3およびT4は、強度レベルI1、I2、I3およびI4によって一意的に同定され得る。理論により拘束されることを意図しないが、ターゲットの一意的同定のために可能な強度レベルの最大数は、異なる強度レベルの分解-すなわち、プローブの平均強度間の隔たりと比較した特定のプローブそれぞれについての強度の幅-に関連づけられ、ならびにプローブの数が増加するにつれて増す傾向がある空の液滴の強度にも関係づけられる。強度レベル数は、0、または1、または2、または3、または4、または10以下、または20以下、または50以下、または100以下であり得る。強度レベル数は、100より上であることもある。下に示す実施例においては、3ほどもの多さの強度レベルを実証する。
【0118】
本発明のもう1つの方法は、多数の異なるプローブカラー(すなわち蛍光体)を用いてより高プレックスのアッセイを行うことを含む。上の単色多重化アッセイについてと同様に、各カラープローブについて、強度に基づき複数のターゲットを同定することができる。加えて、スペクトル的に分離可能である多数の色を同時に使用することができる。例えば、単一の液滴が、4つの異なるターゲットのための4つの異なるプローブを含有してもよい。2つのプローブが、異なる強度のカラーAのもの(例えば、A1およびA2)であってもよく、他の2つのプローブが異なる強度を有するカラーBのもの(例えば、B1およびB2)であってもよい。対応するターゲットは、A1、A2、B1およびB2についてそれぞれT1、T2、T3およびT4である。液滴がカラーAの蛍光の増加を示す場合には、その液滴はターゲットT1またはT2のいずれかを含有した。このとき、カラーAの蛍光強度に基づき、ターゲットがT1と同定されることもあり、またはターゲットがT2と同定されることもあった。しかし、液滴が、カラーBの蛍光の増加を示す場合には、その液滴はターゲットT3またはT4のいずれかを含有した。このとき、カラーBの蛍光強度に基づき、ターゲットがT3と同定されることもあり、またはターゲットがT4と同定されることもあった。理論により拘束されることを意図しないが、可能な異なる色の最大数は、異なる蛍光体の蛍光放射間のスペクトルのオーバーラップによって限定される。色の最大数は、1、または2、または3、または4、または10以下、または20以下であり得る。色の最大数は、20より高いこともある。後続の実証実験において、色の最大数は2である。
【0119】
本発明のもう1つの方法は、多数の異なるプローブカラー(すなわち、蛍光体)を用いてより高プレックスのアッセイを行うことを含むが、一意的な色および強度を有する単一のタイプのプローブで各ターゲットを同定する上記戦略とは異なり、代わりにこの方法では色と強度の両方の一意的シグネチャを構成する複数のプローブによって単一のターゲットを同定することができる。例えば、単一の液滴が、3つの異なるターゲット(例えば、T1、T2およびT3)を測定するために4つの異なるプローブを含有してもよい。2つのプローブがカラーAのもの(例えば、A1およびA2)であってもよく、2つのプローブがカラーBのもの(例えば、B1およびB2)であってもよい。T1をプローブA1によって測定し、T2をプローブB1によって測定するが、T3は、プローブA2とB2の両方によって測定する。従って、液滴がT1のみを含有するとき、カラーAの蛍光増加が現れる。液滴がT2のみを含有するとき、カラーBの蛍光増加が現れる。しかし、液滴がT3を含有するとき、カラーAとBの両方の蛍光増加が現れる。
【0120】
一般に、理論により拘束されることを望まないが、より高プレックスのdPCRについての上記3つの方法は、終点希釈の条件下で、すなわち、複数の異なるターゲット分子が同じサンプルを共に占有する確率が、任意の単一のターゲットが液滴を占有する確率に比べて非常に低いとき、実行が最も簡単である。多重占有により、同じ反応液滴内で競合する同時に存在するアッセイ物の複雑さ、およびまた、個々の反応生成物の2つの蛍光強度の合計に等しいこともあり等しくないこともある2つの異なる反応生成物からの蛍光の組み合わせを含む得られる蛍光強度の割り当ての複雑さが生ずる。しかし、本発明の方法は、多重占有から生ずるこれらの複雑化に対応することができる。
【0121】
より高プレックスの反応のための本発明の方法は、プライマーおよびプローブを対にする方法も含む。最も単純な場合、例えば、ターゲットが異なる細胞からのものであるとき;またはターゲットが単一の細胞タイプの中の異なる染色体からのものであるとき;またはターゲットが、単一の染色体の中で互いに遠く離れているので、DNAフラグメント化中に物理的に分離した状態になるとき;またはターゲットが、染色体の中で互いに非常に接近しているが、それにもかかわらず、DNAのターゲッティングされた切断により、例えば制限酵素消化により、分離した状態になるとき;または任意の他の理由のため、ターゲットは同じDNAフラグメント上にある可能性が低い。そのような場合、各プローブを単一のプライマー(フォワードおよびリバース)セットと対にすることができる。しかし、他の場合、例えば、ターゲットが同じコドン内にあるとき、または任意の他の理由のため、ターゲット領域は、しばしば、同じDNAフラグメント上にあり得る。そのような場合、単一のプライマーセットが複数のプローブのために役立つだろう(一例として、Pekinら参照)。
【0122】
より高マルチプレックスの反応を行って、2つのSNPのハプロタイプを区別することができる。例えば、位置1に遺伝子型AまたはA’があり得、位置2にBまたはB’の遺伝子型があり得ると仮定する。二倍体ゲノムでは、4つの特有のハプロタイプが可能である(A、B;A、B’;A’、B;およびA’、B’)。例えば、A’およびB’が感染に対する薬物耐性突然変異を表す場合、A’BおよびAB’は、細心の注意を払って処置しなければならない有意な薬物耐性を表すA’B’より重症でなく、A’B’とは異なって処置される場合が多い。強度識別を伴うデジタルPCRは、他の3つのハプロタイプの混合物のバックグラウンドの中での低い頻度のA’B’の同定に理想的に適する。ハプロタイピング情報は、HLAにおけるハプロタイプの構築にも重要である。本実施例を構築できる1つの方法は、カラー1をAのために用い、カラー1が、対立遺伝子AまたはA’を示すそれぞれ高いまたは低い強度のものであり、およびカラー2をBのために用い、カラー2が、BまたはB’を示すそれぞれ高いまたは低い強度のものであるようなアッセイ設計による。[低、低]に対応する[カラー1、カラー2]の集団は、ABの対立遺伝子の測度であり、[高、低]対立遺伝子A’Bおよび[A’B’]の対立遺伝子は、主にA’BとAB’の混合物であるバックグラウンドにおいても[高、高]と容易に区別可能であろう。図22参照。ある場合には、A SNP位置とB SNP位置の両方を含有する核酸の長い単一分子を液滴に封入することによって開始することが有利であろうし、別の場合には、単個細胞、細菌または他の生物を液滴に封入することによって開始して、その後、生物から核酸を放出させることが望ましいであろう。さらに他の実施形態では、ターゲット材料の結合相互作用または標識の複数のタイプについての代用マーカーとして、複数の同時に存在するターゲットのマルチプレックス強度検出を用いることができる。この技術もまた、単一分子検出に限定されず、および単個細胞(例えば、細菌、体細胞など)におけるハプロタイプ検出に使用することができる。単個細胞分析の場合、選別工程をハプロタイピングの前に適用してもよい。
【0123】
棘筋萎縮症についての5プレックスアッセイ
本発明の1つの態様を、棘筋萎縮症(SMA)についての幾つかの遺伝マーカーの定量の実例実証実験の実施にまとめた。SMAは、その重要な臨床的有用性とその複雑な遺伝的特質の両方のため、実例実証実験の1つに選択した。それは二番目に高頻度の致命的神経変性疾患であり、10,000のうち~1の出生を襲う。SMAは、生存運動ニューロン1遺伝子(SMN1、Wirthらにより総説されている)内のエキソン7のホモ接合不在に、最も多くの場合、起因するが、この容態の重症度は、SMN2の遺伝子コピーの数によって変調され、1~5コピー数で致死性から無症候性にわたる予後となる(Elsheikhらにより総説されている)。従って、SMN2コピー数の正確な定量は、臨床的予後および遺伝学カウンセリングに重量である。SMN1の大きな欠失とは別に、同じ遺伝子内の点突然変異または短い欠失/重複の数もSMAの症例の~4%の原因である。総合SMAアッセイへの有意な工程において、ここで実証実験する多重化dPCRアッセイは、(SMN1および2についての)コピー数アッセイと高頻度SNPのもの(c.815A>G)についてのアッセイの両方を含む。
【0124】
本発明の1つの実施形態は、SMA診断のための5プレックスアッセイである。この5プレックスアッセイは、SMAに影響を与える共通の遺伝子変異体を定量するものであり、参照としてBCKDHAを用いるSMN1およびSMN2遺伝子についての2つのコピー数アッセイおよびとc.815A>G突然変異についてのSNPアッセイを含む。2つの異なる色の蛍光体、FAMおよびVIC、を使用して、アッセイ物のそれぞれを一意的に定量した。SMN1およびSMN2についてのプローブは、FAMのみを含有し、c.815Aについてのプローブは、VICのみを含有した。しかし、BCKDHAおよびc.815GにはVIC標識プローブとFAM標識プローブの混合物を使用した。この実施例におけるVICおよびFAM蛍光体の使用は、本発明を限定せず、むしろ、TaqManアッセイと適合性の任意のスペクトル分離可能蛍光体での、または任意の他の蛍光発生性ハイブリダイゼーションベースのプローブ化学での、5プレックスアッセイを用いることができる。アッセイを検証するために、異なるプライマー/プローブ対のそれぞれについての単一のターゲット領域を含有するモデル染色体を合成した。EcoRV制限部位が各ターゲットに隣接しており、それによってフラグメントを分離することができた。
【0125】
本発明のもう1つの方法として、1つのプローブシグネチャ(色および強度)から生ずる液滴の統計的に類似した集団の同定および特性付けのために、ならびに1つの液滴集団と他のものとを識別するために、ヒストグラムベースのデータ提示および分析を本発明に組み込む。図14aは、液滴蛍光強度の2次元ヒストグラムを等高線付きヒートマップ(contoured heat map)として示すものであり、暖色ほど高い出現率を表す。標準的な技術を用いて、FAMおよびVICシグナルのスペクトルのオーバーラップを補正した。サンプルを1ターゲットあたり0.006占有率でランした。6集団、アッセイ物について5およびPCR(-)液滴について1、が明瞭にはっきりと見える。本発明の1つの方法として、前記集団をアッセイ成分の選択的排除によって割当てた。例えば、SMN2プライマーおよびプローブの排除は、前記ヒストグラムの下部右の集団を消去したが、他の点では分布は、不変のままであった。図14aにおいて割り当てを標識した。本発明者らは、この多重化方法が一般に当てはまることを発見したので、各ターゲットの十分分解されたまたは少なくとも区別可能な集団を対象に直ちにアッセイを行った。次に、本発明のもう1つの方法として、前のセクションにおいて説明したようにプローブ濃度をチューニングすることによって前記ヒストグラム中の異なる集団の相対的位置を調整して規則正しい間隔の長方形アレイにした。通常、2回以下の反復が最適化に必要である。
【0126】
本発明のもう1つの方法では、異なる集団を十分によく分解して、長方形の境界を越えて統合することによって各集団内の液滴のカウントを可能にした。境界は、隣接ピーク間の中間部に位置する。本発明の方法は、長方形の境界、およびピーク間の特定の境界位置に拘束されない。むしろ、いずれの閉または開境界条件でも十分である。境界条件は、液滴数に到達するために境界を越えて重み付け統合を行うこともできるという意味で、「バイナリ」である必要がない。各クラスタのピーク位置は、検出効率の変動を説明するための空の液滴の強度に対する正規化後、ラン間で2%より大きく変動しない(データを示さない)。従って、一旦同定されると、統合のために同じ境界をサンプル間で再利用することができた。本発明の方法は、固定された境界位置に限定されない。サンプルまたは研究間での動的集団同定および境界選択を前もって処理する。Coriell細胞レポジトリーからの20の異なる患者サンプルをこのアッセイで分析した:SMAに罹患している4つ、1つのSMA保因者、および15のネガティブ対照。アッセイ結果を図14bに示す。遺伝子コピー数を、前のように、ターゲット液滴対参照液滴の数から誘導した占有率の比として計算した。図11におけるコピー数測定と同様に、各アッセイによって期待整数値に非常に近い比を得たが、患者データのすべてを期待整数比に対する実際の比としてプロットしたとき、1の理想勾配から小さな系統的偏差が観察された。実測勾配は、SMN1、SMN2およびc.815Aについてそれぞれ0.92、0.92および0.99であった。明瞭さのために、図14bにおけるデータを1の理想勾配に応じて拡大縮小した。
【0127】
異なる患者についての観察された遺伝子型は、彼らの疾病状態(罹患していない、保因者、または罹患している)と一致した。SMAに罹患している患者は、それぞれ、SMN1のゼロ個のコピーを有し(図14b中の番号SMA1~4)、保因者は、ちょうど1個のコピーを有し、およびネガティブ対照すべてが、2個または3個のコピーを有した(番号1~15)。3人の無関係な個体(番号6、8および9)がSMN1の3個のコピーを有し、これは、健常個体についての以前の報告と同様である20%の率で生じた。SMN1コピー数のばらつきは、それが染色体5q13の不安定な領域内に存するので、驚くべきことではない。より多種多様なSMN2コピー数が観察された。1から2個のコピーが対照群では最も一般的であったが、1人の個体は、ゼロ個のコピー(正常個体についての期待値と一致する分布)を有した。SMA保因者および罹患患者は、平均してSMN2の高いコピー数を有した:保因者は5;罹患している2人は3個のコピーを有し、その他は2個のコピーを有した。罹患患者はすべて、Coriellレポジトリーによる臨床観察に基づき、SMA タイプI、最重症形態、と診断された。SMN2コピー数と疾患重症度の間の強い遺伝子型/表現型相関関係は、SMN2の3個のコピーを有する2人の個体が、とりわけ、2年のSMAタイプIについての典型的な最大余命をはるかに超えてサンプリング時点で3年より長く生きていた患者SMA1に関して、改善されたタイプII予後を有し得ることを示唆している。しかし、他のあまり十分に特性づけされていないまたは未知の修飾遺伝子が予後に影響を及ぼすかもしれないので、またすべてのSMN2コピーが完全遺伝子であることができるとは限らないため、SMN2コピーのみに基づいて疾患の結果を予測することは、依然としてためらわれる。さらに、一部のタイプI患者は、より新しい臨床環境でより長く生存し始めている。従って、本発明者らが入手できる患者に関するわずかな臨床情報で、本発明者らのSMN2アッセイ結果は、疾患重症度についての広い期待値と一致した。
【0128】
前記SNPアッセイは、すべての患者が正常なc.815A遺伝子型を保有することを示し、c.815Gの事例は観察されなかった。突然変異は比較的稀であり、従って、小さな患者パネルにおいて現れると予想されなかった。しかし、SNPアッセイでカバーされなかった2人の無関係な個体における明らかな余分な遺伝子フラグメントの存在は、興味深かった。c.815A>Gアッセイは、SMN1とSMN2とを、それらの高配列類似性のため、識別せず、それ故、c8.15AおよびGの全コピーは、SMN1およびSMN2のコピーの合計に等しいだろう。これは、健常患者、番号1および2(両方ともc.815Aの1個の余分コピーを有した)を除いてすべての患者に当てはまった。c.815は、エキソン6上に存し、SMN1遺伝子とSMN2遺伝子とを識別するSNPは、エキソン7上に存する故、前記余分な遺伝子は、エキソン7を欠くSMN1のフラグメントであり得る。これは、エキソン7の欠失がSMAの症例の95%の原因となる共通の突然変異であり、1/40から1/60の成人がそれを保有するため、妥当と思われる。従って、これらの患者は、同じ染色体上のSMN1の健常コピーを補償する少なくとも1個の獲得がなかったなら、SMAの典型的保因者であっただろう。
【0129】
棘筋萎縮症についての9プレックスアッセイ
一定のSMA関連ターゲットについての9プレックスアッセイも、2色(FAMおよびVIC蛍光体を含有するプローブ)だけで実証した。最適化プライマーおよびプローブ濃度を除いて、アッセイ条件および実験手順は、上記5プレックスアッセイと同一であった。図15aは、プローブ濃度の最適化前の様々な液滴集団を2Dヒストグラムに示すものである。異なるターゲットの素性をその図自体に示す。本発明の1つの方法として、異なる集団の同定を、前のように、1つ以上のアッセイ物の選択的排除および/または追加によって行った。空の液滴に対応するクラスタと極めて近接していたc.815A遺伝子型についてのプローブを除き、集団の大部分は既に十分に分解されていた。プローブ濃度の最適化を3回繰り返した後、すべてのターゲット集団は互いに十分に分解され、空の液滴からも十分に分解され(図15b)。この実証実験では本発明の3つの方法に光を当てた:(1)9つのDNAターゲットを、従来のqPCRの能力をはるかに超えて、二次元ヒストグラムで一意的に同定した;(2)同じターゲットに対する1つまたは複数のプローブから生ずる色と強度の両方の何らかの組み合わせに基づいてターゲットDNA分子を区別した;および(3)様々な液滴集団間で増加された分解についての色および強度のパターンを最適化するようにプローブ濃度を変えることによって、ヒストグラム内のターゲット分子の相対位置を調整した。
【0130】
本発明の1つの方法として、上の実施例におけるアッセイ物の選択的追加または排除によって、異なる液滴集団を同定した。しかし、本発明はこの方法のみに限定されない。むしろ、当業者に公知の任意の集団割り当て方法が考えられる。本発明の方法は、プローブおよびプライマーを共に同じ率または異なる率で変えること;プローブ濃度のみを変えること;プライマー濃度のみを変えること;熱サイクリング条件を変えること;ならびにマスターミックス組成を変えることを含めて、ヒストグラム内の1つ以上の集団の同定可能な置換、出現または消失を生じさせることができる任意の方法を含む。本発明のもう1つの方法は、割り当てを支援するためにヒストグラム内のアッセイ物の位置についての以前の知識を利用する。
【0131】
多重化能力
前記SMA実施例において実証した多重化のレベルは、qPCRでの最大実行可能数を有意に超える9×であった。理論により拘束されることを望まないが、2つの主な制限は、アッセイ間の分解と、プローブの負荷量がより多い空の液滴の漸増蛍光強度とである。本発明の方法は、最大多重化のために異なるプローブの色および強度のパターンを最適化する上に、尚、個々の反応それぞれに対する適切な特異性を実現することを含む。液滴集団の長方形アレイを5および9プレックス反応について実証したが、もう1つの望ましいパターンは、密充填六角形アレイである。しかし、本発明はいずれの特定のアレイ戦略にも拘束されない。
【0132】
余分な色を加えることは、さらにいっそうその可能性を増大させるだろうが、空の液滴の蛍光が強まり続けるため、リターンは多少減少する。この能力は、より大きな差分シグナルを生じさせるより良好なプローブ、例えば、接触消光によってバックグラウンドを低減するが、遊離未消光蛍光体に特有の明るいシグナルを呈示するハイブリッド5’-ヌクレアーゼ/分子ビーコンプローブを用いて、さらにいっそう増加させることができる。そのような改善により、50×を超える多重化能力を構想することができる。
【0133】
光学的標識づけとの併用多重化
液滴ベースのマイクロフルイディクスを用いて、複数のターゲットを異なる方法により同時に測定することもできる。代替方法によると、アッセイ物を一意的に同定するための光学的標識と共に、プライマーおよびプローブを液滴に個々に負荷することができる。典型的に、前記光学的標識は、1つの蛍光体であるか、プローブ蛍光体とはスペクトル的に違う異なる蛍光体の組み合わせである。異なる光学的標識によって一意的に同定される異なるアッセイ物をそれぞれが含有する様々な異なるタイプの液滴を混合して液滴の「ライブラリー」にすることができる。次に、上の本発明の方法に従って、テンプレートDNAを含有する液滴とライブラリー液滴を1個ずつ合体させる。熱サイクリング後、テンプレートDNAを含有する幾つかの液滴は、プローブの放射波長でより明るい蛍光を呈示する。その後、これらのPCR(+)シグナルを生じさせる特異的ターゲットDNA分子を、光学的プローブによって同定する。1つの研究では、異なるKRAS突然変異または野生型KRASに特異的なTaqMan(登録商標)プローブおよび光学コードをそれぞれが含有する7つの異なるタイプの液滴(7員ライブラリー)のいずれか1つとゲノムDNAを含有する液滴とを1個ずつ融合させることによって、KRASコドン12における6つの共通突然変異を1回の実験で並行してスクリーニングした。
【0134】
本発明の1つの方法では、本発明に既に組み込まれているdPCRの様々な多重化方法と光学的標識づけを併用することができる。例えば、単一の光学的標識は、上のKRAS実施例の場合のように単一アッセイ物だけでなく、5プレックスSMAアッセイ物全体をコードし得る。この要領で、他の光学的標識は、新生児についての種々のスクリーニングアッセイ物をコードし得る。上の本発明の他の方法に従って、このとき、乳児からの単一のDNAサンプルとすべてのアッセイ物とを、そのDNAを含有する液滴と光学的にコードされたアッセイ物を含有するライブラリー液滴とを1個ずつ合体させることによって、同時に分析することができるだろう。
【0135】
多重化を光学的標識と併用する一例として、いわゆる3×3×3の組み合わせのマルチプレックス反応と光学的標識づけを実証した(トリプレックスアッセイ物をそれぞれがコードする、2つの蛍光体での3×3光学的標識づけ、合計で27プレックス)。それぞれが合計9つの光学的標識を生じさせる3つの強度レベルを有する2つの蛍光体、(640nmレーザーによって励起される)Alexa633およびCF680、を光学的標識づけに利用した。前のSMAについての5および9プレックスアッセイでのように、TaqManアッセイ物を(488nmレーザーによって励起する)FAMおよびVIC蛍光体と共に使用した。FAMおよびVIC蛍光体からの蛍光を光学的標識からの蛍光と同時に記録し、これは、SMAアッセイについて説明した器械使用の光学的レイアウトへの変更を必要とした(2レーザー励起および4色検出についての光学的概略図を全体として図16に示す)。また、この実施例ではコ・フロー・マイクロフルイディクスを用いた(本出願のためのコ・フロー・ベースのマイクロフルイディクスの使用は、上で説明した本発明の方法の1つである)。この場合、一方のフローにおいてチップにテンプレートDNAを導入し、もう一方のフローにおいてチップに1回のトリプレックスアッセイのためのPCRマスターミックス、プライマーおよびプローブと光学的標識のための蛍光体の一意的組成とを同時に導入した。それらの2つのフローストリームは、液滴形成モジュールの上流の流体交差部で収束し、このようにして形成された各液滴は、両方のフローストリームの内容物を含有した。コ・フロー・マイクロフルイディクスを実行する方法は当業者に周知である。液滴を回収し、その後、次のトリプレックスアッセイ物および光学的標識を用いてその手順を繰り返す。その手順を、アッセイ物と光学的標識のそれぞれの対について1回、合計9回繰り返した。すべての液滴を1本のPCRチューブに回収し、オフチップで熱サイクルに付した。熱サイクルに付した液滴の混合物を、上でSMAアッセイのために使用したものと同じ読み出しチップに再注入し、4つすべての蛍光体からのアッセイ物の蛍光強度を記録した。
【0136】
図17は、コ・フロー・マイクロフルイディクスを用いる3×3×3アッセイにおけるすべての液滴からの累積結果を示すものである。この図は、液滴蛍光強度の2Dヒストグラムを、すべての光学的標識からのヒストグラムを左に、およびアッセイ物からのヒストグラムを右に示すものである。標準的な方法を用いて、光学的標識のヒストグラムにおいてスペクトルのオーバーラップを補正した。これらのヒストグラムをヒートマップとして示し、暖色であるほど大きな液滴数を表す。液滴の9つの異なるクラスタが光学的標識のヒストグラムに明瞭にはっきりと見えた。これら9つのそれぞれが異なる光学的標識に対応する:最低蛍光強度を有する光学的標識に対応する4つクラスタの小さな群がヒストグラムの下部左隅にあり;ならびにより高い強度で直線状のすじのように見える5つのクラスタがある。アッセイ物についてのヒストグラムでは液滴クラスタがあまり明確でなかったが、これは、示されている液滴がトリプレックスアッセイ物のすべてを含有するためと予想された。下記のように、光学的標識を使用することによって単一のタイプアッセイ物を選択すると、個々のアッセイ物が明瞭に明確になった。
【0137】
本発明の方法は、すべてが同じ光学的標識、または光学的標識の群、を含有するものである液滴の、個々の集団を選択することを含む。本発明の幾つかの方法では、蛍光強度の境界を用いて集団を特定した。ここに示す実施例では、長方形の境界を用いて、各蛍光体についての最小および最大蛍光強度を特定した。しかし、本発明の方法は、長方形の境界に拘束されない。閉じているまたは開いている任意の境界を用いることができる。さらに、本発明の方法によると、液滴集団の選択は、任意の方法によって行うことができ、境界選択などの閾値ベースの方法に拘束されない。
【0138】
図18Aは、1つだけの光学的標識を選択したとき(左ヒストグラム)のアッセイ物の液滴蛍光強度(右ヒストグラム)を示すものである。光学的標識のヒストグラム上の重った線により、両方の蛍光体に対して最低蛍光を有する光学的標識のみを選択するために使用した長方形の境界が確認される。両方のヒストグラムが、選択された液滴のみを示した。選択後、液滴の4つの別個のクラスタ、異なるアッセイ(この場合、SMN1、SMN2およびTERTについてのアッセイ(TERTはもう1つの共通参照遺伝子である))について3つおよび空の液滴に付いて1つ、が、アッセイヒストグラムに現れた。SMN1およびSMN2についてのコピー数を、5プレックスSMAアッセイについて上で説明したのと同じ本発明の方法によって測定し、それぞれ、2および1の期待値に近い1.8および0.94の値であった。同じアッセイ物を2つの他の光学的標識と共にコード化した。それらの選択を図18BおよびCに示す。同様の結果が達成され、それぞれSMN1およびSMN2の1.9±0.1および0.9±0.1コピーの総合測定値であり、実験不確実性の範囲内の正確な測定値を示した。
【0139】
図19A、BおよびCは、異なるアッセイ(TERT、SMN1遺伝子中のc.5C、およびBCKDHA(この図ではE1aと標識した))のための光学的標識選択を示すものである。各場合、4つの異なるクラスタも現れ、上と同じ本発明の方法により、3および2と比較してそれぞれ2.9±0.1および2.0±0.2の、TERTを参照にしてc.5CおよびBCKDHAについての遺伝子コピー数の正確な測定を行った。図20A、BおよびCは、第三のアッセイ(TERT、SMN1遺伝子中のc.88G、およびRNaseP(RNasePは、共通参照遺伝子である))のための光学的標識選択を示すものである。2の期待値と比較して2.1±0.1の正確な遺伝子コピー数が、TERTを参照してc.88GおよびRNasePの両方について測定された。
【0140】
要約すると、ここでの実証実験は、単一の実験において3つのトリプレックスアッセイ物の独立した測定を可能にする9つの異なる光学的標識の使用を示す。この実施例では前記光学的標識のうちの幾つかが重複するアッセイ物をコードした(9つの光学的標識を有するにもかかわらず3つの異なるアッセイ物しかない)が、本発明は、アッセイ物および光学的標識のいずれの特定の形式設定にも限定されない。本発明の実施形態は、アッセイ物のすべてが、光学的標識のすべてにわたって同じである形式;光学的標識のすべてにわたって同じであるアッセイ物がない形式;アッセイ物の幾つかが、光学的標識のすべてにわたって同じである形式;アッセイ物の幾つかが、光学的標識のすべてにわたって他の物より大きいプレキシティーを有する形式;アッセイ物のすべてが、光学的標識のすべてにわたって同じプレキシティーを有する形式;および光学的標識のすべてにわたってアッセイ物の任意の他の取り合わせが考えられる形式を含む。
【0141】
この実施例では光学的標識を作成するために2つの異なる蛍光体を使用したが、本発明は、それらの光学的標識を含む蛍光体のいずれの特定の数にも限定されない。本発明の実施形態は、1つの蛍光体、または2つの蛍光体、3つの蛍光体、または4つの蛍光体、または10以下の蛍光体、または20以下の蛍光体から成る光学的標識を含む。光学的標識は、20より多い蛍光体を含むこともある。
【0142】
ここで実証する実施例ではトリプレックスアッセイ物のみを使用したが、本発明は、トリプレックスアッセイ物と光学的標識の使用に拘束されない。本発明の実施形態は、光学的標識と共に使用するとき、次の量のプレキシティーを含む:シングルプレックス、デュプレックス、トリプレックス、4プレックス、10プレックス以下、20プレックス以下、50プレックス以下、および100プレックス以下。本発明の実施形態は、光学的標識と共に使用するとき、100を超えるプレキシティーも含む。
【0143】
本発明のもう1つの方法は、多重化と光学的標識を併用するために、コ・フローではな
く液滴マージの使用を含む。コ・フローでの前記実施例の場合と同じ3×3×3アッセイで、液滴マージを使用する実証実験を行った。先ず、それらの一意的光学標識と併用されるアッセイ物(プローブおよびプライマー)をPCRマスターミックスと共に液滴に封入した。その後、上で説明した本発明の方法に従って、9つすべての光学的に標識されたアッセイ物からの液滴の混合物を含有するライブラリーを、同じ患者からのテンプレートDNAを含有する液滴と、前の実施例の場合と同様に1つずつ合体させた。本発明のもう1つの方法は、参照により本明細書に援用されている米国特許仮出願第61/441,985号に記載されているようなラムダ・インジェクタ型マージモジュールを使用して、液滴マージを行った。コ・フローとマージとの違いを別にすれば、アッセイ物および実験手順は上のコ・フロー実験のものと同一であった。図21は、図17~20におけるものに類似している光学的標識およびアッセイ物についての液滴蛍光強度の2Dヒストグラムを示すものである。コ・フローについての場合と同様に、個々の光学的標識を含有する液滴の選択に基づき、各アッセイ物に対応する液滴の予想された別個のクラスタが明確にはっきりと見えた。さらに、各アッセイ物について、実測遺伝子コピー数は、実験不確実性の範囲内の期待値と合致したまたは非常に近しく合致した(表1参照)。
【0144】
【表1】

本発明の方法は、コ・フローでのマイクロフルイディクスまたは液滴マージでのマイクロフルイディクスのいずれかの使用を含むが、本発明は、これに関して限定されない。蛍光発生性DNAハイブリダイゼーションプローブも含有する光学的に標識された液滴を生成させることができる任意の流体工学的方法が考えられる。例えば、当該技術分野において周知の他の実施形態は、液滴生成チップへの注入前にマイクロ流体環境で光学的標識とアッセイ物を混合すること;およびサーペンタインミキサーなどで、専用混合モジュール内の液滴形成モジュールの上流で光学的標識とアッセイ物を入念に混合することである。
【0145】
データ分析
本発明の1つの方法は、一意的プローブシグネチャ(色および強度)から生ずる統計的に類似した液滴の集団を同定および特性づけするための、ならびに他のものからの液滴の1つの集団を識別するための、ヒストグラムベースのデータ提示および分析を含む。本発明のもう1つの方法は、光学的標識からの一意的シグネチャに基づいて液滴の集団を同定および選択するための、ヒストグラムベースのデータ提示および分析を含む。これらの方法についての一および二次元ヒストグラムの例を提供したが、本発明は、これに関して限定されない。上で説明したように、より多くの色を多重化にも光学的標識にも使用することとなることが予想される。従って、本発明の実施形態は、2より大きい、例えば3、または4、または10以下、または20以下の次元数のヒストグラムを含む。20より大きい次元数のヒストグラムも本発明に組み込まれる。
【0146】
本発明のもう1つの方法は、カウントのための、または光学的標識の場合のようなアッセイ物選択のための、または任意の他の目的のための、ヒストグラム内の液滴の選択を含む。本発明の方法は、任意の可能な形状および次元の、閉じたまたは開いた、境界による選択を含む。本発明の方法は、単一のタイプの蛍光体からの、または多数のタイプの蛍光体からの、例えば共通のDNAターゲットに対して複数のプローブから生ずる、蛍光を呈示する液滴の選択も含む。
【0147】
ポリメラーゼエラー訂正
超高感度を必要とする用途、例えば豊富な野生型DNAの中での稀な突然変異についての検索、については、偽ポジティブ結果がDNAポリメラーゼ自体からのエラーから生ずることがある。例えば、初期熱サイクルうちの1つのサイクルの間に、ポリメラーゼは、野生型テンプレートからDNAの突然変異体鎖を合成することがあるだろう。このタイプのエラーは、突然変異体と野生型の間の差が非常に小さいとき、例えば一塩基多型(SNP)のとき、発生する可能性が最も高い。本発明のこの方法において、各液滴は、あったとしても単一のターゲット核酸しか含有しない。好ましい実施形態において、これは、終点希釈条件下で遂行される。野生型のターゲットである増幅産物を含有する液滴を、その野生型のターゲットにハイブリダイズするプローブから放出される蛍光体からの放射に基づいて検出する。変異体のターゲットを含有する液滴を、その変異体のターゲットにハイブリダイズするプローブから放出される蛍光体の放射に基づいて検出する。各液滴は、単一の核酸分子のみで出発するので、各液滴内の結果として生ずる増幅産物は、ターゲットについて均一であるか、ターゲットの変異体について均一である。
【0148】
しかし、一定の液滴は、PCR反応中のポリメラーゼエラーのため、ターゲットおよびターゲット変異体両方の不均一混合物を含有するであろう。PCRのエラー率は、正確な核酸配列、使用される熱安定性酵素、およびインビトロでのDNA合成条件に従って変動する。例えば、熱安定性Thermus aquaticus(Taq)DNAポリメラーゼによって触媒されるPCR中のエラー頻度(1サイクルあたりの1ヌクレオチドあたりの突然変異)は、-2×10-4から<1×10-5まで、10倍より大きく変動する。Eckertら(Genome Res.1:17-24、1991)、この内容はその全体が参照により本明細書に援用されている。1サイクルあたり10,000ヌクレオチドにつき1の突然変異の頻度でのポリメラーゼ媒介エラーは、少量の出発原料(例えば、合計10,000ヌクレオチド未満のターゲットDNA)で始まる、または最終PCR集団中の個々のDNA分子に焦点を合わせている、いずれのPCR用途にとっても重要な考慮事項である。
【0149】
配列変化を含有するDNA分子の比率は、1サイクルあたりの1ヌクレオチドあたりのエラー率、増幅サイクル数、および出発集団サイズの関数である。改変DNA分子の集団が、PCR中に2つの原因:(1)各PCRサイクルでの新たなエラー;および(2)前のサイクルからのエラーを含有するDNA分子の増幅、から発生する。式
【数3】
は、pを各サイクルにおいて一定であると仮定して、PCR増幅についての平均突然変異頻度
【数4】
を、1サイクルあたりの1ヌクレオチドあたりのポリメラーゼエラー率(p)およびサイクル数(n)の関数として示す。PCRの指数関数的性質のため、初期エラーの発生は、
【数5】
によって示される平均より上に最終エラー頻度を増加させ得る。なぜなら、変異体DNA分子は各サイクルで増幅されることとなり、その結果、平均数より多い変異体を有する集団となるからである。
【0150】
初期増幅ラウンド中に野生型ターゲットを変異体ターゲットに変換するポリメラーゼエラーは、液滴内のターゲットおよびターゲット変異体の不均一集団を生じさせる結果となり、ならびに液滴がターゲットの変異体を含有すると不正確に同定されること(すなわち、偽ポジティブ)に至ることがある。そのような偽ポジティブは、デジタルPCR結果の妥当性および精度に大きな影響を及ぼす。
【0151】
本発明の方法は、どの液滴が分子の不均一集団を含有するかを検出することができ、それらの液滴を分析から排除することができる。増幅産物を含有する液滴が検出モジュールを通ってチャネル内を流れると、そのモジュールは、各液滴における蛍光放出を検出することができる。単一のシグナルのみを生じさせる液滴を、ターゲットの均一集団を含有する液滴として分類する。野生型のターゲットにハイブリダイズするプローブは、野生型ターゲットの変異体にハイブリダイズするプローブとは異なる蛍光体が付いているので、本発明の方法は、それぞれの液滴を、ターゲットのアンプリコンの均一集団またはターゲットの変異体のアンプリコンの均一集団のいずれかを含有するものとして分類することができる。
【0152】
2つのシグナルを生じさせる液滴を、分子の不均一集団を含有する液滴として分類する。各液滴は、多くても単一のターゲット核酸で出発するので、ターゲットのアンプリコンとターゲットの変異体のアンプリコンの両方である増幅産物を含む液滴は、ターゲットの変異体がPCR反応中のポリメラーゼエラー、大抵の場合、PCR反応の初期サイクル中のポリメラーゼエラー、によって生産された。そのような液滴を検出し、分析から排除する。
【0153】
分析
次に、分子の均一集団を含有する液滴のみに関して分析を行った。この分析は、カウンティング、すなわち、野生型ターゲットのみを含有する液滴の数の決定、および該ターゲットの変異体のみを含有する液滴の数の決定、に基づくものであり得る。そのような方法は、当該技術分野において周知である。例えば、Lapidusら(米国特許第5,670,325号および同第5,928,870号)ならびにShuberら(米国特許第6,203,993号および同第6,214,558号)(これらのそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に援用されている)を参照のこと。
【0154】
一般に、変異体のみを含有する液滴の存在は、癌などの疾患の指標となる。一定の実施形態において、前記変異体は、対立遺伝子変異体、例えば挿入、欠失、置換、転座、または一塩基多型(SNP)、である。
【0155】
癌に関連づけられるバイオマーカーは、当該技術分野において公知である。乳癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Erlanderら(US 7,504,214)、Daiら(US 7,514,209および7,171,311)、Bakerら(US 7,056,674およびUS 7,081,340)、Erlanderら(US 2009/0092973)に示されている。前記特許出願およびこれらの特許のそれぞれの内容はそれら全体が参照により本明細書に援用されている。子宮頚癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Patel(US 7,300,765)、Pardeeら(US 7,153,700)、Kim(US 6,905,844)、Robertsら(US 6,316,208)、Schlegel(US 2008/0113340)、Kwokら(US 2008/0044828)、Fisherら(US 2005/0260566)、Sastryら(US 2005/0048467)、Lai(US 2008/0311570)およびVan Der Zeeら(US 2009/0023137)に示されている。膣癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Giordano(US 5,840,506)、Kruk(US 2008/0009005)、Hellmanら(Br J Cancer.100(8):1303-1314、2009)に示されている。脳の癌(例えば、神経膠腫、小脳、髄芽腫、星状細胞腫、上衣腫、膠芽腫)の発達に関連づけられるバイオマーカーは、D’Andrea(US 2009/0081237)、Murphyら(US 2006/0269558)、Gibsonら(US 2006/0281089)、およびZetterら(US 2006/0160762)に示されている。腎癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Patel(US 7,300,765)、Soyupakら(US 7,482,129)、Sahinら(US 7,527,933)、Priceら(US 7,229,770)、Raitano(US 7,507,541)、およびBeckerら(US 2007/0292869)に示されている。肝癌(例えば、肝細胞癌腫)の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Horneら(US 6,974,667)、Yuanら(US 6,897,018)、Hanausek-Walaszekら(US 5,310,653)、およびLiewら(US 2005/0152908)に示されている。胃、胃腸および/または食道癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Changら(US 7,507,532)、Baeら(US 7,368,255)、Muramatsuら(US 7,090,983)、Sahinら(US 7,527,933)、Chowら(US 2008/0138806)、Waldmanら(US 2005/0100895)、Goldenring(US 2008/0057514)、Anら(US 2007/0259368)、Guilfordら(US 2007/0184439)、Wirtzら(US 2004/0018525)、Filellaら(Acta Oncol.33(7):747-751、1994)、Waldmanら(US 6,767,704)、およびLipkinら(Cancer Research、48:235-245、1988)に示されている。卵巣癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Podustら(US 7,510,842)、Wang(US 7,348,142)、O’Brienら(US 7,291,462、6,942,978、6,316,213、6,294,344、および6,268,165)、Ganetta(US 7,078,180)、Malinowskiら(US 2009/0087849)、Beyerら(US 2009/0081685)、Fischerら(US 2009/0075307)、Mansfieldら(US 2009/0004687)、Livingstonら(US 2008/0286199)、Farias-Eisnerら(US 2008/0038754)、Ahmedら(US 2007/0053896)、Giordano(US 5,840,506)、およびTchagangら(Mol Cancer Ther、7:27-37、2008)に示されている。頭頸部および甲状腺癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Sidranskyら(US 7,378,233)、Skolnickら(US 5,989,815)、Budimanら(US 2009/0075265)、Hasinaら(Cancer Research、63:555-559、2003)、Kebebewら(US 2008/0280302)、およびRalhan(Mol Cell Proteomics、7(6):1162-1173、2008)に示されている。前記論文、特許および特許出願のそれぞれについての内容はそれら全体が参照により本明細書に援用されている。結腸直腸癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Raitanoら(US 7,507,541)、Reinhardら(US 7,501,244)、Waldmanら(US 7,479,376);Schleyerら(US 7,198,899);Reed(US 7,163,801)、Robbinsら(US 7,022,472)、Mackら(US 6,682,890)、Tabitiら(US 5,888,746)、Budimanら(US 2009/0098542)、Karl(US 2009/0075311)、Arjolら(US 2008/0286801)、Leeら(US 2008/0206756)、Moriら(US 2008/0081333)、Wangら(US 2008/0058432)、Belacelら(US 2008/0050723)、Stedronskyら(US 2008/0020940)、Anら(US 2006/0234254)、Eveleighら(US 2004/0146921)、およびYeatmanら(US 2006/0195269)に示されている。前立腺癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Sidransky(US 7,524,633)、Platica(US 7,510,707)、Salcedaら(US 7,432,064およびUS 7,364,862)、Sieglerら(US 7,361,474)、Wang(US 7,348,142)、Aliら(US 7,326,529)、Priceら(US 7,229,770)、O’Brienら(US 7,291,462)、Golubら(US 6,949,342)、Ogdenら(US 6,841,350)、Anら(US 6,171,796)、Berganら(US 2009/0124569)、Bhowmick(US 2009/0017463)、Srivastavaら(US 2008/0269157)、Chinnaiyanら(US 2008/0222741)、Thaxtonら(US 2008/0181850)、Daharyら(US 2008/0014590)、Diamandisら(US 2006/0269971)、Rubinら(US 2006/0234259)、Einsteinら(US 2006/0115821)、Parisら(US 2006/0110759)、Condon-Cardo(US 2004/0053247)、およびRitchieら(US 2009/0127454)に示されている。膵臓癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Sahinら(US 7,527,933)、Ratainoら(US 7,507,541)、Schleyerら(US 7,476,506)、Domonら(US 7,473,531)、McCaffeyら(US 7,358,231)、Priceら(US 7,229,770)、Chanら(US 2005/0095611)、Mitchlら(US 2006/0258841)、およびFacaら(PLoS Med 5(6):e123、2008)に示されている。肺癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Sahinら(US 7,527,933)、Hutteman(US 7,473,530)、Baeら(US 7,368,255)、Wang(US 7,348,142)、Nachtら(US 7,332,590)、Gureら(US 7,314,721)、Patel(US 7,300,765)、Priceら(US 7,229,770)、O’Brienら(US 7,291,462およびUS 6,316,213)、Muramatsuら(US 7,090,983)、Carsonら(US 6,576,420)、Giordano(US 5,840,506)、Guo(US 2009/0062144)、Tsaoら(US 2008/0176236)、Nakamuraら(US 2008/0050378)、Raponiら(US 2006/0252057)、Yipら(US 2006/0223127)、Pollockら(US 2006/0046257)、Moonら(US 2003/0224509)、およびBudimanら(US 2009/0098543)に示されている。皮膚癌(例えば、基底細胞癌腫、扁平上皮癌腫、および黒色腫)の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Robertsら(US 6,316,208)、Polsky(US 7,442,507)、Priceら(US 7,229,770)、Genetta(US 7,078,180)、Carsonら(US 6,576,420)、Mosesら(US 2008/0286811)、Mosesら(US 2008/0268473)、Dooleyら(US 2003/0232356)、Changら(US 2008/0274908)、Alaniら(US 2008/0118462)、Wang(US 2007/0154889)、およびZetterら(US 2008/0064047)に示されている。多発性骨髄腫の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Coignet(US 7,449,303)、Shaughnessyら(US 7,308,364)、Seshi(US 7,049,072)、およびShaughnessyら(US 2008/0293578、US 2008/0234139、およびUS 2008/0234138)に示されている。白血病の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Andoら(US 7,479,371)、Coignet(US 7,479,370およびUS 7,449,303)、Daviら(US 7,416,851)、Chiorazzi(US 7,316,906)、Seshi(US 7,049,072)、Van Barenら(US 6,130,052)、Taniguchi(US 5,643,729)、Inselら(US 2009/0131353)、およびVan Bockstaeleら(Blood Rev.23(1):25-47、2009)に示されている。リンパ腫の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Andoら(US 7,479,371)、Levyら(US 7,332,280)、およびArnold(US 5,858,655)に示されている。膀胱癌の発達に関連づけられるバイオマーカーは、Priceら(US 7,229,770)、Orntoft(US 6,936,417)、Haak-Frendschoら(US 6,008,003)、Feinsteinら(US 6,998,232)、Eltingら(US 2008/0311604)、およびWewerら(2009/0029372)に示されている。上記参考文献のそれぞれについての内容はその全体が参照により本明細書に援用されている。
【0156】
一定の実施形態において、本発明の方法は、癌の再発について患者をモニターするために用いることができる。患者は、既に癌の処置を受けているので、その患者の癌に関連づけられる遺伝子プロファイルおよび特定の突然変異(単数または複数)は既にわかっている。患者が以前に治療を受けた癌の指標となる突然変異(単数または複数)を含有する核酸の領域に特異的にハイブリダイズするプローブを設計することができる。その後、患者のサンプル(例えば、膿、痰、精液、尿、血液、唾液、糞便、または脳脊髄液)を上で説明したように分析して、突然変異体対立遺伝子(単数または複数)がサンプル中で検出されるかどうかを決定することができ、その突然変異体対立遺伝子(単数または複数)が癌の再発の指標となる。
【0157】
液滴選別
本発明の方法は、液滴が分子の均一な集団を含有するかまたは分子の不均一な集団を含有するかに基づく液滴の選別を含む。選別モジュールは、検出モジュール内での液滴問い合わせに関連して受け取るシグナルに依存して液滴のフローが1つ以上の他のチャネル、例えば枝チャネル、に入るように方向を変えることができるチャネルの接合部であり得る。典型的に、選別モジュールはモニターされ、および/または検出モジュールの制御下にあり、従って、選別モジュールは検出モジュールに応答することができる。選別領域は1つ以上の選別装置と連通しており、それらによる影響を受ける。
【0158】
選別装置は、技術または制御システム、例えば、誘電性、電気的、電気浸透性、(マイクロ-)バルブなどを含む。制御システムは、様々な選別技術を用いて、分子、細胞、小分子または粒子のフローを所定の枝チャネルに変えるまたは向けることができる。枝チャネルは、選別領域および主チャネルと連通しているチャネルである。主チャネルは、例えばT形またはY形を形成するように、選別モジュールまたは分岐点で2つ以上の枝チャネルと連通し得る。他の形およびチャネル幾何形状を望みどおりに用いることができる。典型的に、枝チャネルは、検出モジュールにより検出され、選別モジュールで選別されると、関心のある液滴を受け取る。枝チャネルは、流出モジュールを有することができ、および/または分子、細胞、小分子もしくは粒子の回収または廃棄を可能にするウエルもしくはレザバー(それぞれ、回収モジュールもしくは廃棄モジュール)を末端に有することができる。あるいは、枝チャネルは、追加の選別を可能にするために他のチャネルと連通していることがある。
【0159】
流体液滴の特性を、何らかの仕方で、例えば本明細書に記載するように、感知および/もしくは決定することができ(例えば、流体液滴の蛍光を決定することができ)、および、呼応して、流体液滴を特定の領域(例えば、チャネル)に向けるために電場を印加するまたは除去することができる。一定の実施形態では、非荷電流体液滴(最初は、荷電されていることもあり、または非荷電であることもある)内に双極子を誘導すること、および印加された電場を用いてその液滴を選別するまたは指向させることにより、流体液滴を選別するまたは指向させる。前記電場は、AC場、DC場などであり得る。例えば、流体液滴とキャリア流体とを含有するチャネルは、分岐点で第一および第二のチャネルに分かれる。一般に、前記流体液滴は、非荷電である。分岐点の後に、第一の電極を第一のチャネル付近に配置し、第二の電極を第二のチャネルの付近に配置する。第三の電極は、第一チャネルと第二チャネルの分岐点の付近に配置する。その後、これらの電極の組み合わせを用いて、流体液滴内に双極子を誘導する。このように、適当な電場を印加することにより、液滴を望みどおりに第一または第二のチャネルのいずれかに向けることができる。液滴選別についてのさらなる説明は、例えば、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号に示されている。
【0160】
検出モジュールで検出されたシグナルに基づいて、分子の不均一集団を含有する液滴を、分子の均一集団を含有する液滴から選別除去する。液滴をさらに選別して、ターゲットのアンプリコンの均一集団を含有する液滴を、ターゲットの変異体のアンプリコンの均一集団を含有する液滴から分離することができる。
【0161】
液滴からのターゲットの放出
本発明の方法は、さらなる分析のために液滴から増幅ターゲット分子を放出させることをさらに含むことができる。液滴から増幅ターゲット分子を放出させる方法は、例えば、Linkら(米国特許出願第2008/0014589号、同第2008/0003142号、および同第2010/0137163号)およびRaindance Technologies Inc.の欧州特許出願公開第2047910号に示されている。
【0162】
一定の実施形態では、サンプル液滴をキャリア流体の上にクリーム状に固まらせる。非限定的な例として、前記キャリア流体には、1つ以上の安定化界面活性剤を有することができるパーフルオロカーボン油を挙げることができる。液滴は、その液滴を構成する水性相のものより大きいキャリア流体の密度によって、キャリア流体から上に上昇するまたは分離する。例えば、本発明の方法の1つの実施形態において使用するパーフルオロカーボン油は、1.0である液滴の水性相の密度と比較して、1.8である。
【0163】
その後、それらのクリーム状の液を、脱不安定化界面活性剤、例えば過フッ素化アルコール(例えば、1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール)、を含有する第二のキャリア流体上に置く。前記第二のキャリア流体もパーフルオロカーボン油であることがある。混合すると、水性液滴は合体し始め、合体を低速での短い遠心分離(例えば、遠心分離器において2000rpmで1分)によって完了させる。合体した水性相を今や除去し、さらに分析することができる。
【0164】
放出された増幅材料を、テイルドプライマーおよび第二のPCRプライマーの使用により、さらなる増幅に付すこともできる。この実施形態において、液滴内のプライマーは、該プライマーの配列特異的部分の5’末端に付加された追加の配列またはテイルを含有する。これらのテイル付き領域についての配列は、各プライマー対と同じであり、PCRサイクリング中にアンプリコンの5’部分に組み込まれる。アンプリコンを液滴から除去したら、そのアンプリコンのテイル領域にハイブリダイズすることができるもう1セットのPCRプライマーを使用して、追加のPCRラウンドにより産物をさらに増幅することができる。前記第二のプライマーは、前記テイル付き領域と長さおよび配列の点で厳密に合致することがあり、またはそれら自体、該プライマーのテイル部分の5’末端に追加の配列を含有することがある。第二のPCRサイクリング中、これらの追加の領域もアンプリコンに組み込まれた状態になる。これらの追加の配列としては、ライブラリー調製およびシークエンシングのためのシークエンシングプラットホームによって用いられるアダプター領域、同じ反応に多重化されたサンプルの同定のためにバーコード化機能として用いられる配列、ビオチン、ジゴキシン、ペプチドまたは抗体などの反応材料の残部からのアンプリコンの分離のための分子、およびフラグメントを同定するために使用することができる蛍光マーカーなどの分子を挙げることができるが、それらに限定されない。
【0165】
一定の実施形態では、それらの増幅されたターゲット分子をシークエンシングする。特定の実施形態において、前記シークエンシングは、合成ごとの単一分子シークエンシング(single-molecule sequencing-by-synthesis)である。単一分子シークエンシングは、例えば、Lapidusら(米国特許第7,169,560号)、Quakeら(米国特許第6,818,395号)、Harris(米国特許第7,282,337号)、Quakeら(米国特許出願第2002/0164629号)、およびBraslavskyら、PNAS(USA)、100:3960-3964(2003)に示されており、これらの参考文献のそれぞれの内容はその全体が参照により本明細書に援用されている。
【0166】
簡単に言うと、フローセルの表面に付着させたオリゴヌクレオチドに一本鎖核酸(例えば、DNAまたはcDNA)をハイブリダイズさせる。それらの一本鎖核酸を、当該技術分野において公知の方法、例えばLapidus(米国特許第7,666,593号)に示されているもの、によって捕捉することができる。前記オリゴヌクレオチドは、前記表面に共有結合で付着させることができ、または当業者に公知であるような共有結合以外の様々な付着を用いることができる。さらに、この付着は、間接的であってもよく、例えば、前記表面に直接または間接的に付着された本発明のポリメラーゼによるものであってもよい。前記表面は、平面であってもよいし、そうでなくてもよく、および/または多孔性もしくは無孔性、または付着に適することが当業者に知られている任意の他のタイプであってもよい。次に、成長鎖表面オリゴヌクレオチドに組み込まれた蛍光標識されたヌクレオチドのポリメラーゼ媒介付加を単一分子分解で撮像することにより、核酸をシークエンシングする。
【実施例
【0167】
実験の詳細
次に続くのは、上で詳述した様々な実験についての実験の詳細である。
【0168】
プライマーおよびプローブ
ここで使用したすべてのTaqMan(登録商標)プライマーおよびプローブを表2にリストする。表中に参考文献による別の注記がない限り、プライマーおよびプローブは、Applied Biosystems Inc.(ABI)からの「Custom TaqMan(登録商標)Assay Design Tool」で設計し、ABI(カリフォルニア州カールズバッド)を通じて調達した。プローブを6-カルボキシフルオレセイン(FAM、λ励起494nm\λ放射494nm)またはVIC(商標)(ABIから、λ励起538nm\λ放射554nm)で標識した。
【0169】
【表2】
ターゲットDNA
幾つかの遺伝子ターゲット、BCKDHAおよびSMN2、について、プライマー対の間にわたる配列(表2参照)を含有するプラスミドDNAを合成し(ドイツ、レーゲンスブルクのGeneArt)、GeneArt標準ベクター(2.5kb)にクローニングした。アッセイに影響を及ぼし得る一切のDNAスーパーコイル化を回避するために、SfiIでの制限消化によってターゲットフラグメントをクローニングベクターから放出させた。簡略化のために、本文全体を通してこれらの遺伝子フラグメントを「プラスミドDNA」と呼ぶ。多重化反応の実証実験のために異なる遺伝子フラグメントのストリングも合成し(GeneArt)、GeneArt標準ベクターにクローニングした。それを本文では「人工染色体」と呼ぶ。この場合はフラグメントを隣接EcoRV部位での制限消化によって互いに分離した。細胞株(表3参照;ニュージャージー州カムデンのCoriell)から既に精製された形態でヒトDNAを得、使用前に製造業者(カリフォルニア州カールズバッドのInvtrogen)の説示に従ってK7025-05ネブライザーでフラグメント化した。Nanodrop 2000分光光度計(デラウェア州ウィルミントンのThermo Scientific)を用いて260nmでの吸収を測定することにより、DNA濃度を定量した。
【0170】
【表3】
マイクロフルイディクス
従来のソフトリソグラフィーによってマイクロ流体チップを製造した。6インチシリコンウェハ上にSU-8ネガティブフォトレジスト(マサチューセッツ州ニュートンのMicroChem Corp.)をスピンコートし、OAI Hybralign Series 200アライナー(カリフォルニア州サンホゼのOAI)でのコンタクトリソグラフィーによりフォトマスク(オレゴン州バンドンのCAD/Art Services)から流体形状を転写することによって、成形用マスターを作製した。チップは、そのチップの外部ポートから機能領域に流体を移送するための低い流体力学的抵抗を有する深いチャネル(100±10um)と液滴操作および検出のための浅いチャネル(20±1um)である、2つの深度を有するチャネルを含有した。SU-8フォトレジスト2100および2025を深いおよび浅いチャネルにそれぞれ使用した。ポリジメチルシロキサン(PDMA)(Sylgard(登録商標)184、ミシガン州ミッドランドのDow Corning)チップを注文設計の金型ハウジング内でネガティブマスターから成形した。AutoGlow(商標)酸素プラズマシステム(アリゾナ州フェニックスのGlow Research)での表面活性化、続いて即座の圧着により、それらのチップの流体側にガラス・カバー・スライドを永久接着した。疎水性表面を作るために、100uLの溶剤中の18gのシランの混合物として調製したFC-3283(ミネソタ州セントポールの3M Specialty Materials)に溶解した1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルトリクロロシラン(マサチューセッツ州ワードヒルのAlfa Aesar)に~2分間、それらのマイクロ流体チャネルを暴露した。一方は液滴生成用および他方は熱サイクリング後の蛍光読み出し用である2つの異なるマイクロ流体デバイスを使用した。液滴生成チップは、この時点以降「キャリア油」と呼ぶ、エマルジョン安定化界面活性剤を伴う不活性フッ素化油(REBキャリア油;マサチューセッツ州レキシントンのRainDance Technologies)に懸濁されたテンプレートDNAおよびPCRマスターミックスの均一なサイズの水性液滴のエマルジョンを生じさせた。十字形のマイクロ流体交差部、すなわち「ノズル」、内で液滴を生成させた。図3aに示すように、典型的な動作のもとで、水性相は、右からノズルに流れ込み(160uL/時)、上部および下部からのキャリア油のフロー(750uL/時の全油)に合流し、11kHzの速度で4pLの液滴を生じさせた。交差部でのチャネル幅は、水溶液流入口については15um、油流入口については12.5の測定値であり、および流出口では15umが40umに広がっていた。特注OEMポンプ(イリノイ州ノースブルックのIDEX Corporation)によってフローを駆動した。
【0171】
おおよそ25uLのPCR反応混合物を液滴生成チップからエマルジョンとして回収し、DNA Engine(カリフォルニア州ハーキュリーズのBio-Rad)での熱サイクルに付した。その反応混合物は、1×TaqMan(登録商標)汎用PCRマスターミックス(カリフォルニア州カールズバッドのApplied Biosystems)、0.2mM dNTP(ウィスコンシン州マディソンのTakara Bio)ならびに結果の中で説明するような様々な量のプライマー対およびプローブを含有した。すべての場合、1×濃度から変動させるとき、プライマーおよびプローブを同じ量、変動させた。サイクルプログラムは、95℃での10分のホットスタート、ならびに95℃で15秒および60℃で60秒の45サイクルを含んだ。
【0172】
キャリア油が水性相より高濃度になり、エマルジョンから流れ落ちるため、オフチップ処理中に液滴が濃縮されてきた。それ故、一方の液滴を他方と正しく区別するために読み出し前に希釈を必要とする密充填エマルジョンとして、液滴を読み出しチップに再注入した。上の液滴生成ノズルに類似した「スペーサー」ノズルを使用して、余分なキャリア油の均一なプラグを読み出し直前に液滴間に注入した。図3bに示すように、ノズルへの液滴入口は、ほぼ個々の液滴サイズのくびれに先細になっていて、液滴を単一の列で、それ故、安定した速度でノズルに入らせた。上部および下部チャネルからのキャリア油の対向フローがそれらの液滴を均一に分離した。スペーサーノズルから出て行くノズルは、フロー方向に沿って幅が増大し、液滴は、その幅が液滴径より小さいまたは液滴径に等しいそのチャネルに沿った位置(図3bに矢印でしるしをつけた)でレーザー誘導蛍光による問い合わせを受けた。前記ノズルの寸法は、液滴入口および出口については15um、および油ラインについては20umであった。
【0173】
器械使用
特注の顕微鏡での従来の落射蛍光顕微鏡法により、蛍光読み出しを行った。20mW、488nmレーザー源(Cyan;カリフォルニア州サニーヴェールのPicarro)を2×拡大し、対物レンズ(20×/0.45NA;日本の株式会社ニコン(Nikon)によってマイクロ流体チャネルに焦点を合わせた。2つのバンド・パス・フィルターが、対物レンズによって集められた蛍光を識別した:FAMおよびVIC蛍光体についてそれぞれ512/25nmおよび529/28nm(ニューヨーク州ロチェスターのSemrock)。2つのH5784-20光電子倍増管(Hamamatsu、日本)により蛍光を検出し、USB-6259データ取得カード(テキサス州オースチンのNational Instruments)を用いて200kHzのサンプリング速度で概して記録した。後の分析の前に7点二次Savitzky-Golayアルゴリズムによりデータトレースを平滑化した。蛍光読み出しと当時に、850nm LED(TSHG6200;コネチカット州シェルトンのVishay Semiconductors)からの背面照明で同じ対物レンズと、蛍光検出および撮像のために光路を分離するためのショート・パス・フィルタと、Guppy CCDカメラ(マサチューセッツ州ニューベリーポートのAllied Vision Technologies)とによって、液滴を撮像した。画像にすじが入らないように短い照明パルス(5~20マイクロ秒)で液滴を撮像した。
【0174】
データ分析
液滴事象を閾値より上の蛍光強度の継続的バーストと解釈する特注LabViewソフトウェア(テキサス州オースチンのNational Instruments)でデータを分析した。シグナル対ノイズ比は一般に相当高く、シグナルレベルは日ごとに一致しており、従って、50mVの固定閾値を主として用い、他の状況では閾値を目視によって設定した。VIC蛍光体とFAM蛍光体の両方について液滴事象ごとにピーク蛍光強度を記録した。熱サイクリング中に液滴の多少の合体が、概して2個の無損傷液滴間の孤立した事象として発生して、「ダブレット」を形成した。ダブレットおよび稀なより大きい合体事象を蛍光バーストの継続期間に基づいてデータセットから容易に濾過した。
【0175】
参照による援用
他の文献、例えば特許、特許出願、特許公開公報、ジャーナル、本、論文、ウェブコンテンツ、の参照および引用を本開示全体を通して行った。すべてのそのような文献は、あらゆる意味でそれら全体が参照により本明細書に援用されている。
【0176】
等価物
本発明の精神または本質的特徴を逸脱することなく他の特定の形態で本発明を具現することができる。従って、上述の実施形態は、すべての点で、本明細書に記載する本発明を制限するものではなく例証するためのものであると解釈すべきである。
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