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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】構造物保全方法及び構造物保全装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/02 20060101AFI20230202BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20230202BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230202BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230202BHJP
   B05B 7/16 20060101ALI20230202BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B05D1/02 F
B05D3/12 B
B05D3/00 D
B05D7/14 N
B05D7/14 S
B05B7/16
E04G23/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021092877
(22)【出願日】2021-06-02
(65)【公開番号】P2021192905
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2020098416
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】長田 将典
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-000439(JP,A)
【文献】特開2015-160204(JP,A)
【文献】特開2003-231058(JP,A)
【文献】特開2014-100710(JP,A)
【文献】特開2006-317699(JP,A)
【文献】特開平08-323632(JP,A)
【文献】特開2020-124664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/02
B05D 3/12
B05D 3/00
B05D 7/14
B05B 7/16
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の構造物を保全するための構造物保全方法であって、
前記構造物が備える部材の表面の塗膜の状態に応じた所定の研磨方法により前記部材を研磨装置により研磨すると共に、研磨によって生じた粉塵を集塵部により吸引する研磨工程と、
飛散を防止すると共に、所定の厚さの塗膜が形成されるように塗料の粘度を所定値に調整し貯留容器に貯留する調整工程と、
前記貯留容器から第1圧力により前記塗料を第1流量により供給し、乾燥空気を所定温度に加温すると共に前記第1流量の前記塗料に応じて第2圧力により前記乾燥空気を第2流量により供給し、前記塗料と前記乾燥空気とを混合し混合気体を塗装範囲に対して噴霧するスプレーガンにより表面が研磨された前記部材を塗装する塗装工程と、を備え、
前記研磨装置は、回転駆動される回転部を有する研磨部と、前記回転部を覆うケースを備え、
前記ケースは、前記研磨部の一部を露出させるように開閉自在に形成された蓋部を備え、
前記研磨工程は、前記研磨部により前記塗膜を研磨する工程と、
前記蓋部を開けて前記ケースから前記研磨部の一部を露出させ、前記部材の狭隘部を前記研磨部の一部により研磨する工程と、
前記ケース内の前記粉塵を前記集塵部により吸引する工程と、を含む、
構造物保全方法。
【請求項2】
既存の構造物を保全するための構造物保全装置であって、
前記構造物が備える部材の表面の塗膜を研磨する研磨部と、研磨によって生じた粉塵を吸引より吸引する集塵部とを備える研磨装置と、
飛散を防止すると共に所定の厚さの塗膜が形成されるように粘度が所定値に調整された塗料が貯留された貯留容器と、
前記貯留容器から第1圧力により前記塗料を第1流量により供給する供給部と、乾燥空気を所定温度に加温すると共に前記第1流量の前記塗料に応じて第2圧力により前記乾燥空気を第2流量により供給する送風部と、前記供給部から供給された前記塗料と前記送風部から供給された前記乾燥空気を混合し混合気体を塗装範囲に対して噴霧するスプレーガンとを備え、表面が研磨された前記部材を塗装する塗装装置と、を備え、
前記研磨装置は、前記研磨部が有する回転部を回転駆動して前記塗膜を研磨するものであり、前記回転部を覆うケースを備え、
前記ケースは、開閉自在な蓋部が形成され、前記蓋部は前記部材の狭隘部が前記回転部により研磨されるように前記研磨部の一部を露出させる、
構造物保全装置。
【請求項3】
前記貯留容器と前記スプレーガンとは、配管により接続されており、
前記供給部は、前記配管を通じて前記塗料を前記貯留容器から前記スプレーガンに圧送する、
請求項に記載の構造物保全装置。
【請求項4】
前記塗装範囲を含む空間に設置され、前記スプレーガンから噴霧される前記塗装範囲以外に飛散した前記塗料を受け止めるシールドを備える、
請求項2または3に記載の構造物保全装置。
【請求項5】
前記送風部は、前記塗料が前記スプレーガンにより噴霧され前記部材に付着せずに空中に浮遊した際に乾燥するように前記乾燥空気を前記所定温度に調整する、
請求項2からのうちいずれか1項に記載の構造物保全装置。
【請求項6】
前記混合気体が噴霧され前記塗料が前記塗装範囲内に所定の膜厚で付着するように前記第1圧力、前記第1流量、前記第2圧力、前記第2流量が調整されている、
請求項2からのうちいずれか1項に記載の構造物保全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製構造物の保全に用いられる構造物保全方法及び構造物保全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔等の鋼製構造物は、維持管理のために鉄骨等の部材の表面の錆や汚れ、塗装された塗膜を研磨し、塗装することが定期的に行われている。鋼製構造物を塗装する前に、養生シートで覆われる。養生シートは、部材の表面を研磨した際に生じる錆、汚れ、塗膜の粉塵、及び塗装時の塗料が周辺環境に飛散することを防止するシートである。鋼製構造物が養生シートに覆われると、作業者は、部材を伝って移動しながら、研磨ブラシ等が装着されたグラインダー等を用いて部材に発生した錆や既存の塗膜を削り落とす作業を行う。研磨後、作業者は容器に入れた塗料を運搬し、刷毛を用いて研磨された部材を塗装する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-142135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
養生シートを用いて鋼製構造物を覆い作業後に撤去するのは手間がかかるのに加えて、高所作業における安全対策が十分に行われている必要がある。また、塗装時には高所に塗料を入れた容器を運搬する必要があり、運搬に手間と時間がかかると共に、安全性への十分な配慮が必要である。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、鋼製構造物の保全作業の工程を簡略化しつつも、十分な耐久性と施工の安全性を確保することができる構造物保全方法及び構造物保全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、既存の構造物を保全するための構造物保全方法であって、前記構造物が備える部材の表面の塗膜の状態に応じた所定の研磨方法により前記部材を研磨装置により研磨すると共に、研磨によって生じた粉塵を集塵部により吸引する研磨工程と、飛散を防止すると共に、所定の厚さの塗膜が形成されるように塗料の粘度を所定値に調整し貯留容器に貯留する調整工程と、前記貯留容器から第1圧力により前記塗料を第1流量により供給し、乾燥空気を所定温度に加温すると共に前記第1流量の前記塗料に応じて第2圧力により前記乾燥空気を第2流量により供給し、前記塗料と前記乾燥空気とを混合し混合気体を塗装範囲に対して噴霧するスプレーガンにより表面が研磨された前記部材を塗装する塗装工程と、を備える構造物保全方法である。
【0007】
本発明によれば、研磨工程において部材の塗膜を研磨すると共に、研磨により生じた粉塵を吸引するため、粉塵が周囲に飛散することを防止できる。また、塗装工程では、塗料を所定の粘度及び圧力に調整して吹付け塗装を行うため、塗料の飛散を防止できる。本発明によれば、粉塵と塗料の飛沫を防止することで、構造物を覆う養生シートを設置する工程を省略でき、工期を大幅に短縮できる。また、塗料を噴霧するための乾燥空気を加温するため、塗膜の乾燥時間を短縮し、工期を大幅に短縮できる。
【0008】
本発明の一態様は、既存の構造物を保全するための構造物保全装置であって、前記構造物が備える部材の表面の塗膜を研磨する研磨部と、研磨によって生じた粉塵を吸引より吸引する集塵部とを備える研磨装置と、飛散を防止すると共に所定の厚さの塗膜が形成されるように粘度が所定値に調整された塗料が貯留された貯留容器と、前記貯留容器から第1圧力により前記塗料を第1流量により供給する供給部と、乾燥空気を所定温度に加温すると共に前記第1流量の前記塗料に応じて第2圧力により前記乾燥空気を第2流量により供給する送風部と、前記供給部から供給された前記塗料と前記送風部から供給された前記乾燥空気を混合し混合気体を塗装範囲に対して噴霧するスプレーガンとを備え、表面が研磨された前記部材を塗装する塗装装置と、を備える構造物保全装置である。
【0009】
本発明によれば、研磨装置により部材の塗膜を研磨すると共に、研磨により生じた粉塵を吸引するため、粉塵が周囲に飛散することを防止できる。また、塗装装置により、塗料を所定の粘度及び圧力に調整して吹付け塗装を行うため、塗料の飛散を防止できる。本発明によれば、粉塵と塗料の飛沫を防止することで、構造物を覆う養生シートを設置する工程を省略でき、工期を大幅に短縮できる。また、塗料を噴霧するための乾燥空気を加温するため、塗膜の乾燥時間を短縮し、工期を大幅に短縮できる。
【0010】
本発明はまた、前記研磨装置は、前記研磨部が有する回転部を回転駆動して前記塗膜を研磨するものであり、前記回転部を覆うケースを備え、前記ケースは、開閉自在な蓋部が形成され、前記蓋部は前記部材の狭隘部が前記回転部により研磨されるように前記研磨部の一部を露出させるように構成されていてもよい。
【0011】
本発明によれば、ケースの一部が蓋部により開放され、回転部の一部を露出させることで、回転部の回転面だけでは研磨できない部材の狭隘部を研磨できる。
【0012】
本発明はまた、前記貯留容器と前記スプレーガンとは、配管により接続されており、前記供給部は、前記配管を通じて前記塗料を前記貯留容器から前記スプレーガンに圧送するように構成されていてもよい。
【0013】
本発明によれば、スプレーガンと貯留容器とが別体に構成されているため、スプレーガンに塗料容器が一体に形成されているものに比して多くの塗料を連続して噴霧でき、部材を広範囲に塗装できる。
【0014】
本発明はまた、前記塗装範囲を含む空間に設置され、前記スプレーガンから噴霧される前記塗装範囲以外に飛散した前記塗料を受け止めるシールドを備えていてもよい。
【0015】
本発明によれば、部材が塗料の噴霧範囲より幅が狭い場合、部材の裏側にシールドを配置して塗料をシールドに付着させ、塗料の飛散を防止することができる。
【0016】
本発明はまた、前記送風部は、前記塗料が前記スプレーガンにより噴霧され前記部材に付着せずに空中に浮遊した際に乾燥するように前記乾燥空気を前記所定温度に調整してもよい。
【0017】
本発明によれば、塗料を加温した乾燥空気で噴霧するため、部材に付着しないで飛散した飛沫がすぐに乾燥するため、塗料が周囲の環境に付着することを防止できる。
【0018】
本発明はまた、前記混合気体が噴霧され前記塗料が前記塗装範囲内に所定の膜厚で付着するように前記第1圧力、前記第1流量、前記第2圧力、前記第2流量が調整されていてもよい。
【0019】
本発明によれば、塗料の供給と、乾燥空気の供給とを所定の条件で調整することにより、1回の塗装で必要な塗膜の厚さを確保することができ、工期を大幅に短縮できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鋼製構造物の保全作業の工程を簡略化しつつも、十分な耐久性と施工の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の施工対象の鉄塔の構成を示す図である。
図2】研磨装置の構成を示す図である。
図3】研磨部のケースの構成を示す図である。
図4】塗装装置の構成を示す図である。
図5】シールドの構成を示す図である。
図6】変形例に係る塗装装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の構造物塗装方法及び構造物塗装装置の実施形態について説明する。構造物保全方法及び構造物保全装置は、既存の構造物を保全するための維持管理作業に適用される。構造物保全方法及は、例えば送電用に設置された既存の鋼製構造物に対して定期的に点検及び塗装等の補修作業を行い、長寿命化を図るものである。そして、構造物塗装方法及び構造物塗装装置は、保全作業の過程において高所作業の工程をなるべく削減し、工期を短縮するものである。以下、鋼製構造物として鉄塔を例示して説明する。
【0023】
図1に示されるように、鉄塔100は、地表面から立設される四角錐状に形成された主塔102と、主塔102の上方において水平方向に突出して設けられた一対のアーム部120(突出部)とを備える。
【0024】
主塔102は、例えば、複数の鉄骨、鋼管パイプ等の部材によりトラス状に組まれて形成される。主塔102は、例えば、鉛直方向に複数の鉄骨が連結されて立設された4本の主柱材103を備える。4本の主柱材103は、例えば主塔102の四隅に設けられる。4本の主柱材103は、それぞれ、上方に向かうほど互いの距離が近位するように鉛直方向に対して傾いて設置される。隣接する一対の主柱材103は、互いに水平方向に複数の水平材105により連結される。水平材105は、複数の部材が連結されて形成されている。
【0025】
複数の水平材105により、隣接する一対の主柱材103同士は、梯子状に連結される。隣接する一対の主柱材103同士は、水平材105の他に斜め方向に複数の斜材108により連結される。斜材108は、複数の鉄骨が連結されて形成されている。斜材108は、主塔102の筋交い用の部材である。
【0026】
アーム部120は、水平材121と斜材122と鉛直材123とがトラス状に組まれて形成されている。アーム部120は、主塔102の上下方向に沿って複数個設けられていてもよい。アーム部120には、送電用の電線(不図示)が懸架される。以下、上記各部材を総称する場合、部材Fと呼ぶ。部材Fは、鋼製部材であり、H断面、L断面等を有する鉄骨部材や円柱、四角柱等様々な形状に形成されている。鉄塔100を保全するための構造物保全工法は、作業者が構造物保全装置を用いて行う。
【0027】
構造物保全工法は、主に部材Fの研磨工程と、部材Fの塗装工程とを備えている。作業者は、研磨工程において部材Fの表面に塗装された塗膜を剥離すると共に、部材Fの表面に生じている錆を研磨して除去する。研磨工程及び塗装工程において構造物保全装置が用いられる。構造物保全装置10は、部材Fを研磨する研磨装置20と、部材Fを塗装する塗装装置30とを備える(図2及び図4参照)。
【0028】
図2に示されるように、研磨装置20は、部材Fの表面の塗膜を研磨する研磨部21と、研磨によって生じた粉塵を吸引する集塵部28とを備える。
【0029】
研磨部21は、例えば、ディスクグラインダを改造した電動工具である。研磨部21は、筐体21Aと、筐体21Aに支持された回転部22とを備える。筐体21Aは、作業者が把持する円筒状のグリップに形成されている。筐体21Aの先端部には、回転部22が設けられている。回転部22の周囲は、ケース23により覆われている。ケース23には集塵部28がホースHを介して接続されている。筐体21Aの後端部には、バッテリ25が設けられている。
【0030】
研磨部21は、電源としてバッテリ25を用い、回転部22をモータ(不図示)により回転駆動する。バッテリ25の代わりに商用電源から電力が供給されてもよい。回転部22は、ワイヤが放射状に配置された研磨ブラシ22Aが形成されている。研磨ブラシ22Aは、回転軸に対してワイヤが径方向の外方に向かって略円錐状に配置されている。
【0031】
研磨部21は、回転部22を覆うケース23を備える。ケース23は、碗状に形成されている。ケース23により、作業者が研磨部に接触することが防止される共に、塗装面の研磨中に生じる粉塵が施工対象の周囲に飛散することが防止される。ケース23は、回転部22の周囲を覆う側壁23Aが形成されている。側壁23Aの下端からは、研磨ブラシ22Aの回転面の先端が露出している。回転部22が回転駆動されると、研磨ブラシ22Aの回転面の先端が部材Fの塗膜に衝突し、塗膜を研磨することができる。
【0032】
研磨ブラシ22Aの回転軸は、例えば、筐体21Aを部材Fに押し当てた際に、部材Fの施工対象面に対して略直交方向となるように筐体21Aに配置されている。即ち、研磨ブラシ22Aは、回転面が施工対象面に対して略平行となるように用いられる。回転軸には、駆動用のモータ(不図示)の出力軸が接続されている。モータは、例えば、筐体21A内に内蔵するように配置されている。モータは、例えば、バッテリ25により電源供給されて研磨ブラシ22Aを回転駆動する。
【0033】
駆動用のモータが駆動されると、研磨ブラシ22Aが所定の回転方向に高速回転する。即ち、研磨ブラシ22Aは、施工対象面に接触するワイヤが作業者から見て施工対象面に対して円を描くように回転する。研磨ブラシ22Aが高速回転して研磨ブラシ22Aの先端を施工対象面に押し当てると、研磨ブラシ22Aの先端が施工対象面に高速に衝突し、塗膜をブラスト処理するように研磨する。研磨ブラシ22Aにより塗膜が研磨されると、削り屑(粉塵)が発生する。粉塵が周囲に飛散しないように、粉塵は、ケース23内に捕獲され、後述のように集塵部28によりケース23外に吸引される。
【0034】
図3に示されるように、ケース23において側壁23Aは、一部に開閉自在な蓋部24が形成されている。蓋部24は、回転部22の研磨ブラシ22Aの一部を露出させる。蓋部24は部材Fの狭隘部が回転部22により研磨されるように研磨ブラシ22Aの回転面に対して直交方向の側面の一部を露出させる。部材Fの狭隘部とは、例えば、鉄骨の窪んだ隅部等の研磨ブラシ22Aの回転面が届きにくい領域である。狭隘部のうち、ボルトの周囲など研磨ブラシ22Aが入りにくい領域は、ワイヤブラシ等を用いて手作業により研磨される。研磨と同時に集塵部28が駆動される。集塵部28は、例えば、商用電源により電力が供給される。
【0035】
研磨により発生した粉塵が周囲に飛散しないように、粉塵は、ケース23内から集塵部28により吸引され、ケース23外に排出される。ケース23には、可撓性のホースHの一端を接続するための接続部23Hが形成されている。接続部23Hは、円形断面の管状に形成されている。接続部23Hは、側壁23Aから外方に突出して形成されている。ホースHの他端は、集塵部28に接続されている。ホースHに負圧が発生すると、ケース23内の空気は接続部23Hを介してホースH内に吸引される。
【0036】
集塵部28は、粉塵を吸引し、内部空間(不図示)に集塵する。集塵部28は、例えば、紙パックや遠心分離により粉塵を捕獲する。集塵部28は、モータ(不図示)に回転駆動されるファン(不図示)を備える。ファンが回転すると気流を発生させ、ホースHに吸引方向の気流を発生させる。ファンとホースHの間には、内部空間が形成されている、内部空間とファンとの間には、紙パック(不図示)が設けられている。ファンの排気は大気開放される。内部空間には、吸引された粉塵が堆積する。ファンは、内部空間に回転方向の気流を発生させ、粉塵を内部空間において遠心分離するようにしてもよい。
【0037】
集塵部28は、例えば、一対のベルト29が設けられ、作業者が背負えるように形成されている。集塵部28は、部材Fにハンガ等で吊下げるようにしてもよい。作業者は、集塵部28を背負いつつ、研磨部21を把持しながら作業を行う。集塵部28を背負うことで、作業者は、両手が使える状態となる。集塵部28は、一般的な掃除機のようにホースHを通じて吸引し、排気を行う。集塵部28を稼働させると、ホースHを通じて研磨部21のケース23内において接続部23Hに空気が吸い込まれる。集塵部28は、内部に設置された紙パック内に吸気を流通させて紙パックで粉塵を濾し取り、粉塵を集塵する。
【0038】
集塵部28を稼働させた状態で、研磨部21で部材Fの施工対象面を研磨すると、回転した研磨ブラシ22Aの先端が塗装面に衝突し、塗膜が削り取られる。削り取られた塗膜片は、粉塵となってケース23内に吸引される。このとき、ケース23内には、外部空間に対して負圧が生じている。そのため、粉塵は、ケース23内から外部に離散することが無く接続部23HからホースH内に吸い込まれる。
【0039】
研磨ブラシ22Aで研磨できない部分は、柄がついたワイヤブラシ(不図示)等で手作業により研磨される。この時、研磨部21からホースHを外し、集塵部28を稼働させながら、手作業で生じた粉塵をホースHの先端から吸引する。上記と同様に、部材Fの表面に発生した錆も研磨部21やワイヤブラシで取り除かれる。塗膜は、状態に応じて所定の研磨方法により部材Fを研磨部21により研磨する。部材F表面に生じている白錆や赤錆が除去できるのであれば塗膜は研磨された状態で残し、必ずしも完全に剥離しなくてもよい。このように、部材Fの研磨と同時に粉塵を集塵部28で吸引するため、鉄塔100を養生シート等で覆う必要が無くなる。部材Fを研磨した後、作業者は、部材Fの表面を塗装する。塗装工程では塗装装置30が用いられる。
【0040】
図4に示されるように、塗装装置30は、例えば、部材Fを塗装するためのスプレーガン31と、スプレーガン31に塗料を供給する供給部60と、スプレーガン31に空気を供給する送風部40と、貯留容器50とを備える。スプレーガン31と送風部40とは、ホースHにより接続されている。スプレーガン31は、例えば、グリップを有するガン型に形成されている。スプレーガン31は、スイッチ32を押すと、先端33から塗料が噴霧される。スプレーガン31は、塗料ホースYから供給された塗料と送風部40から供給された乾燥空気を混合し混合気体を塗装範囲に対して噴霧する。
【0041】
スプレーガン31は、混合気体を吹付けて表面が研磨された部材Fを塗装する。貯留容器50とスプレーガンとは、塗料ホースY(配管)により接続されている。スプレーガン31の上部には塗料ホースYの一端が接続されている。塗料ホースYの他端は、貯留容器50に接続されている。貯留容器50は、蓋51により密閉されている。供給部60は、加圧用ホースY1により貯留容器50に接続されている。
【0042】
貯留容器50は、例えば、ハンガU及びロープE等を用いて作業者の近傍の部材Fに吊下げられる。作業者は、塗装作業の進行に応じて貯留容器50を移動する。貯留容器50には、粘度が所定値に調整された塗料が貯留されている。塗料は、調整工程において粘度が飛散を防止すると共に所定の厚さの塗膜が形成されるように調整され、貯留容器50に貯留される。
【0043】
塗料の粘度は、原液からの希釈率を変えることにより調整される。塗料は、例えば、原液に硬化剤を添加して攪拌された後、液温が測定される。塗料は、液温に応じて設定された希釈率に基づいて、原液の容量に応じた所定量の溶剤が添加され攪拌される。その後、塗料の粘度が測定され、溶剤や原液が添加されて希釈率が所定値に調整される。塗料の粘度は、塗膜に「たれ」が生じないように調整されている。塗膜は、例えば、吹付け後の湿潤状態の膜厚が140μm程度となるように粘度が調整される。そして、塗膜は乾燥後60μm以上の膜厚が確保される。
【0044】
供給部60は、例えば、空気を供給する小型のコンプレッサである。供給部60は、加圧用ホースY1を介して空気を供給し、貯留容器50の内圧を大気圧よりも高い第1圧力に調整する。供給部60により高められた貯留容器50の内圧により、塗料は貯留容器50から塗料ホースYを介してスプレーガン31に圧送される。貯留容器50には、圧力調整バルブ(不図示)が設けられており、内圧が第1圧力に一定に調整される。供給部60は、スプレーガン31に塗料を第1圧力で且つ、第1流量により供給するため、貯留容器50に空気を供給する。
【0045】
スプレーガン31に接続されている塗料ホースYの一端は、取り外すことができ、小型容器34を取り付けることができる。小型容器34は、少量の塗料を入れることができる。作業者は、小さな範囲を塗装する場合や、修正用に塗装する場合は小型容器34を使用して塗装を行う。小型容器34は、通常の吹き付け塗装に用いられる落下式のスプレーガンに使用される容器である。小型容器34を使用する際は、スプレーガン31には塗料ホースYが接続されていなくてもよく、送風部40及びホースHがあればよい。
【0046】
送風部40は、乾燥空気をスプレーガン31に供給するブロア(送風機)である。送風部40は、例えば、商用電源により電力が供給される。送風部40は、例えば、一対のベルト41が設けられ、作業者が背負えるように形成されている。送風部40は、部材Fにハンガ等で吊下げるようにしてもよい。送風部40は、シリカゲル等を用いた乾燥材(不図示)を通じて空気を吸気し、空気中の水分を除去する。送風部40は、吸気した乾燥空気を所定温度に加温すると共に、第1流量の塗料に応じて第2圧力で且つ、第2流量に調整してホースHを介してスプレーガン31に供給する。第2圧力は、通常の吹付け塗装に用いられる圧力に比して低圧に調整される。所定温度は、例えば、外気温+15℃程度に調整される。
【0047】
上記構成により、作業者は、送風部40を背負って塗装領域に移動する。作業者は、送風部40及び供給部60が稼働した状態においてスプレーガン31のスイッチを押すと、貯留容器50の内圧により貯留容器50から塗料ホースYを介してスプレーガン31に塗料が供給される。この時、スプレーガン31には、送風部40から加温された乾燥空気が供給される。乾燥空気は、スプレーガン31の先端33から噴射される。この時、スプレーガン31の内部において塗料が塗料ホースYから供給され、乾燥空気の気流に吸い出され先端33から混合気体となって噴霧される。部材Fの塗装範囲には、混合気体が噴霧され、部材Fの表面に所定の膜厚により塗膜が吹付けられる。
【0048】
塗膜は、乾燥空気が加温されているため、吹付け後の乾燥時間が短縮される。塗料の第1圧力及び第1流量、乾燥空気の第2圧力及び第2流量が調整されているため、混合気体が噴霧された後、塗料が塗装範囲内に付着する。従って、塗料の飛沫が飛散することが防止され、鉄塔100に養生シートを取り付ける必要が無くなる。乾燥空気は、送風部40により塗料がスプレーガン31により噴霧され部材Fに付着せずに空中に浮遊した際に、すぐに乾燥するように所定温度に調整されている。従って、塗装範囲外に塗料の飛沫が飛散した場合でも、乾燥空気が加温されているため、大気中で飛沫がすぐに乾燥し、鉄塔100の周囲の建物等に付着することが防止される。
【0049】
図5に示されるように、混合気体が吹付けられる範囲Rより部材Fの幅が狭い場合、部材Fの塗装面と反対側の塗装範囲を含む空間にシールドSが設置される。シールドSは、板状に形成されている。シールドSは、スプレーガンから噴霧され、塗装範囲以外に飛散した塗料を受け止める。シールドSにより、塗料の飛沫が飛散することが防止される。
【0050】
上述したように、構造物保全方法及び構造物保全装置10によれば、粉塵や塗料の飛沫の飛散が防止され、構造物を養生シートで覆う必要がなくなり、工期が大幅に短縮される。構造物保全方法及び構造物保全装置10によれば、20を用いて部材Fの塗装面を研磨すると共に、発生する粉塵を28により集塵することできる。構造物保全方法及び構造物保全装置10によれば、研磨後の部材Fは、30により所定の粘性に調整された塗料と加温された乾燥空気とを混合した混合気体を噴霧して塗装するため、1回の塗装で必要な塗膜の厚さを確保でき、刷毛で塗装する場合に比して工期を大幅に短縮できる。
【0051】
構造物保全方法及び構造物保全装置10によれば、塗装時にシールドSを用いて塗料の飛散を防止することができる。構造物保全方法及び構造物保全装置10によれば、30により噴霧される混合気体は、加温されているため、飛散したとしても塗料の飛沫がすぐに乾燥し、周囲の環境に付着することが防止される。
【0052】
[変形例]
以下、構造物保全装置10の変形例について説明する。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成要素については同一の名称及び符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
【0053】
図6に示されるように、変形例に係る構造物保全装置10Aの塗装装置30Aは、例えば、部材Fを塗装するためのスプレーガン31と、スプレーガン31に塗料を供給する供給部60Aと、スプレーガン31に空気を供給する送風部40と、貯留容器50とを備える。貯留容器50とスプレーガンとは、塗料ホースY(配管)により接続されている。スプレーガン31の上部には塗料ホースYの一端が接続されている。塗料ホースYの他端は、供給部60Aに接続されている。塗料ホースYは、例えば、20mから30m程度の所定長に形成されている。供給部60Aと貯留容器50とは塗料吸引ホースY2により接続されている。
【0054】
供給部60Aは、例えば、塗料を圧送するエアレスポンプある。供給部60Aは、例えば、内部に塗料を所定の流通方向に流通させるポンプ(不図示)を有する。供給部60Aは、ポンプを稼働させることにより塗料吸引ホースY2側から塗料ホースY側への流通方向に塗料を圧送する。上記実施形態と同様に、スプレーガン31に接続されている塗料ホースYの一端は、取り外すことができ、小型容器34を取り付けることができる。
【0055】
塗装装置30Aによれば、塗料ホースYが所定長に形成されているため、作業者は、貯留容器50及び供給部60Aの固定位置を変えずに、塗料ホースYが届く範囲において鉄塔の上方に移動して塗装可能であり、作業効率が向上する。塗装装置30Aによれば、重量物である貯留容器50及び供給部60Aの固定位置を変える回数を低減可能であり、高所作業における安全性を向上することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、構造物保全方法及び構造物保全装置は、鉄塔だけでなく、橋梁、煙突、その他の鋼製構造物に適用してもよい。
【符号の説明】
【0057】
10、10A 構造物保全装置、20 研磨装置、21 研磨部、21A 筐体、22 回転部、22A 研磨ブラシ、23 ケース、23A 側壁、23H 接続部、24 蓋部、25 バッテリ、28 集塵部、29 ベルト、30、30A 塗装装置、31 スプレーガン、32 スイッチ、33 先端、34 小型容器、40 送風部、41 ベルト、50 貯留容器、51 蓋、60、60A 供給部、100 鉄塔、102 主塔、103 主柱材、105 水平材、108 斜材、120 アーム部、121 水平材、122 斜材、123 鉛直材、D 粉塵、E ロープ、F 部材、H ホース、R 範囲、S シールド、U ハンガ、Y 塗料ホース、Y1 加圧用ホース、Y2 塗料吸引ホース
図1
図2
図3
図4
図5
図6