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特許7220276浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20230202BHJP
【FI】
G06Q10/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021211897
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2021-12-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503362463
【氏名又は名称】アドソル日進株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】安田 章展
【審査官】谷川 智秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-298063(JP,A)
【文献】特開2019-139455(JP,A)
【文献】特表2021-518889(JP,A)
【文献】特開2015-004245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーション対象領域における排水溝の位置、深さ、流水断面積、平均流速、粗度係数、および潤辺長を含む排水溝情報を取得する排水溝情報取得手段と、
前記排水溝情報取得手段で取得した前記排水溝情報に基づいて、マニングの公式を変形することにより前記排水溝の勾配を算出する勾配算出手段と、
前記シミュレーション対象領域における排水溝の位置に対応する地表の高さを、前記排水溝の深さと、前記勾配算出手段で算出した前記排水溝の勾配に沿って変更する地表変更手段と、
前記シミュレーション対象領域に含まれる単位領域における現在の流水速度と、前記単位領域と該単位領域に隣接する単位領域との流水速度差および水位差と、前記地表変更手段で変更した前記地表の高さと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の流水速度を算出する流水速度算出手段と、
前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出手段で算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する水位算出手段と、
前記水位算出手段による前記単位領域における水位の算出を、前記シミュレーション対象領域について行うことにより、前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を算出するシミュレーション水位算出手段と、
を備える浸水シミュレーション装置。
【請求項2】
前記シミュレーション水位算出手段で算出した前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を、記憶されている前記シミュレーション対象領域の画像に反映させることで、水位の上昇または下降を地図上で視認可能な水位変化画像を生成する画像生成手段を、
さらに備える請求項1に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項3】
前記水位算出手段は、前記排水溝情報取得手段で取得した前記排水溝情報と、前記勾配算出手段で算出した前記排水溝の勾配と、前記設定水量と、に基づいて、前記単位領域への流入量の演算を行うことにより、前記シミュレーション対象領域における、前記排水溝から溢れ出る水量を逆流量として加味した水位の時間変化を算出する、
請求項1または2に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項4】
前記シミュレーション対象領域における実際の水位を計測した水位計の情報を取得する水位計情報取得手段と、
前記水位計情報取得手段で取得した水位と、前記水位算出手段で算出した水位との差に応じて、補正用パラメータを算出する補正用パラメータ算出手段と、をさらに備え、
前記水位算出手段は、前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出手段で算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、前記補正用パラメータ算出手段で算出した前記補正用パラメータと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項5】
前記水位算出手段で算出した単位領域毎の水位の時間変化をグラフ化するグラフ生成手段をさらに備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の浸水シミュレーション装置。
【請求項6】
浸水シミュレーション装置による浸水シミュレーション方法であって、
排水溝情報取得手段が、シミュレーション対象領域における排水溝の位置、深さ、流水断面積、平均流速、粗度係数、および潤辺長を含む排水溝情報を取得する排水溝情報取得ステップと、
勾配算出手段が、前記排水溝情報取得ステップで取得した前記排水溝情報に基づいて、マニングの公式を変形することにより前記排水溝の勾配を算出する勾配算出ステップと、
地表変更手段が、前記シミュレーション対象領域における排水溝の位置に対応する地表の高さを、前記排水溝の深さと、前記勾配算出ステップで算出した前記排水溝の勾配に沿って変更する地表変更ステップと、
流水速度算出手段が、前記シミュレーション対象領域に含まれる単位領域における現在の流水速度と、前記単位領域と該単位領域に隣接する単位領域との流水速度差および水位差と、前記地表変更ステップで変更した前記地表の高さと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の流水速度を算出する流水速度算出ステップと、
水位算出手段が、前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出ステップで算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する水位算出ステップと、
シミュレーション水位算出手段が、前記水位算出手段による前記単位領域における水位の算出を、前記シミュレーション対象領域について行うことにより、前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を算出するシミュレーション水位算出ステップと、
を備える浸水シミュレーション方法。
【請求項7】
コンピュータを、
シミュレーション対象領域における排水溝の位置、深さ、流水断面積、平均流速、粗度係数、および潤辺長を含む排水溝情報を取得する排水溝情報取得手段、
前記排水溝情報取得手段で取得した前記排水溝情報に基づいて、マニングの公式を変形することにより前記排水溝の勾配を算出する勾配算出手段、
前記シミュレーション対象領域における排水溝の位置に対応する地表の高さを、前記排水溝の深さと、前記勾配算出手段で算出した前記排水溝の勾配に沿って変更する地表変更手段、
前記シミュレーション対象領域に含まれる単位領域における現在の流水速度と、前記単位領域と該単位領域に隣接する単位領域との流水速度差および水位差と、前記地表変更手段で変更した前記地表の高さと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の流水速度を算出する流水速度算出手段、
前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出手段で算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する水位算出手段、
前記水位算出手段による前記単位領域における水位の算出を、前記シミュレーション対象領域について行うことにより、前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を算出するシミュレーション水位算出手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、浸水などの水害をシミュレーションし、洪水ハザードマップを作成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、衛星データを採用することにより、空間分解能の高い標高データを用いて浸水状況をシミュレーションする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-340743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、排水溝などといった河川と比較して規模の小さい排水設備の排水能力を考慮してシミュレーションを行うことは困難であり、将来の浸水状況を高精度にシミュレーションするという点では未だ十分ではない。したがって、高精度に浸水状況をシミュレーションするといった点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、高精度に浸水状況をシミュレーションすることが可能な浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る浸水シミュレーション装置は、
シミュレーション対象領域における排水溝の位置、深さ、流水断面積、平均流速、粗度係数、および潤辺長を含む排水溝情報を取得する排水溝情報取得手段と、
前記排水溝情報取得手段で取得した前記排水溝情報に基づいて、マニングの公式を変形することにより前記排水溝の勾配を算出する勾配算出手段と、
前記シミュレーション対象領域における排水溝の位置に対応する地表の高さを、前記排水溝の深さと、前記勾配算出手段で算出した前記排水溝の勾配に沿って変更する地表変更手段と、
前記シミュレーション対象領域に含まれる単位領域における現在の流水速度と、前記単位領域と該単位領域に隣接する単位領域との流水速度差および水位差と、前記地表変更手段で変更した前記地表の高さと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の流水速度を算出する流水速度算出手段と、
前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出手段で算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する水位算出手段と、
前記水位算出手段による前記単位領域における水位の算出を、前記シミュレーション対象領域について行うことにより、前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を算出するシミュレーション水位算出手段と、
を備える。
【0007】
前記シミュレーション水位算出手段で算出した前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を、記憶されている前記シミュレーション対象領域の画像に反映させることで、水位の上昇または下降を地図上で視認可能な水位変化画像を生成する画像生成手段を、
さらに備える。
【0008】
記水位算出手段は、前記排水溝情報取得手段で取得した前記排水溝情報と、前記勾配算出手段で算出した前記排水溝の勾配と、前記設定水量と、に基づいて、前記単位領域への流入量の演算を行うことにより、前記シミュレーション対象領域における、前記排水溝から溢れ出る水量を逆流量として加味した水位の時間変化を算出する
ようにしてもよい。
【0009】
前記シミュレーション対象領域における実際の水位を計測した水位計の情報を取得する水位計情報取得手段と、
前記水位計情報取得手段で取得した水位と、前記水位算出手段で算出した水位との差に応じて、補正用パラメータを算出する補正用パラメータ算出手段と、をさらに備え、
記水位算出手段は、前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出手段で算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、前記補正用パラメータ算出手段で算出した前記補正用パラメータと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する、
ようにしてもよい。
【0010】
水位算出手段で算出した単位領域毎の水位の時間変化をグラフ化するグラフ生成手段をさらに備える、
ようにしてもよい。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る浸水シミュレーション方法は、
浸水シミュレーション装置による浸水シミュレーション方法であって、
排水溝情報取得手段が、シミュレーション対象領域における排水溝の位置、深さ、流水断面積、平均流速、粗度係数、および潤辺長を含む排水溝情報を取得する排水溝情報取得ステップと、
勾配算出手段が、前記排水溝情報取得ステップで取得した前記排水溝情報に基づいて、マニングの公式を変形することにより前記排水溝の勾配を算出する勾配算出ステップと、
地表変更手段が、前記シミュレーション対象領域における排水溝の位置に対応する地表の高さを、前記排水溝の深さと、前記勾配算出ステップで算出した前記排水溝の勾配に沿って変更する地表変更ステップと、
流水速度算出手段が、前記シミュレーション対象領域に含まれる単位領域における現在の流水速度と、前記単位領域と該単位領域に隣接する単位領域との流水速度差および水位差と、前記地表変更ステップで変更した前記地表の高さと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の流水速度を算出する流水速度算出ステップと、
水位算出手段が、前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出ステップで算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する水位算出ステップと、
シミュレーション水位算出手段が、前記水位算出手段による前記単位領域における水位の算出を、前記シミュレーション対象領域について行うことにより、前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を算出するシミュレーション水位算出ステップと、
を備える。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
シミュレーション対象領域における排水溝の位置、深さ、流水断面積、平均流速、粗度係数、および潤辺長を含む排水溝情報を取得する排水溝情報取得手段、
前記排水溝情報取得手段で取得した前記排水溝情報に基づいて、マニングの公式を変形することにより前記排水溝の勾配を算出する勾配算出手段、
前記シミュレーション対象領域における排水溝の位置に対応する地表の高さを、前記排水溝の深さと、前記勾配算出手段で算出した前記排水溝の勾配に沿って変更する地表変更手段、
前記シミュレーション対象領域に含まれる単位領域における現在の流水速度と、前記単位領域と該単位領域に隣接する単位領域との流水速度差および水位差と、前記地表変更手段で変更した前記地表の高さと、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の流水速度を算出する流水速度算出手段、
前記単位領域における現在の水位と、前記流水速度算出手段で算出した前記流水速度と、前記単位領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、に基づいて、前記単位領域における微小時間経過後の水位を算出する水位算出手段、
前記水位算出手段による前記単位領域における水位の算出を、前記シミュレーション対象領域について行うことにより、前記シミュレーション対象領域における水位の時間変化を算出するシミュレーション水位算出手段、
として機能させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高精度に浸水状況をシミュレーションすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る浸水シミュレーション装置の一例を示すブロック図である。
図2】シミュレーション処理の一例を示すフローチャートである。
図3】3Dモデルの一例を示す図である。
図4】排水溝の幅および高さがそれぞれ入力された場合の表示例を示す図である。
図5】(A)は幅、深さ設定時の排水溝の断面図であり、(B)は、計算された勾配が3D地形データに反映された排水溝の断面図である。
図6】A地点における東西方向の流水速度を説明するための説明図である。
図7】A地点における南北方向の流水速度を説明するための説明図である。
図8】(A)は、降雨時における水の流れを説明する説明図であり、(B)は、排水溝が満水となった状態を説明する説明図であり、(C)は、逆流量を説明するための説明図である。
図9】逆流量を説明するための説明図である。
図10】(A-1)および(A-2)は、地形についての離散化を説明する説明図であり、(B-1)および(B-2)は、水位についての離散化を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施の形態)
以下、本発明を実施するための形態に係る浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法およびプログラムについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、図中同一または相当する部分には同一符号を付す。
【0016】
まず、実施の形態に係る浸水シミュレーション装置100の構成について、図1を参照して説明する。実施の形態に係る浸水シミュレーション装置100は、図1に示すように、インターネット等のネットワーク210に接続された情報端末である。浸水シミュレーション装置100は、当該ネットワーク210を介して、携帯電話やスマートフォン、タブレットやPC(Personal Computer)などといった他の情報端末400と各種データを送受信可能である。例えば、浸水シミュレーション装置100により行われたシミュレーション結果を、当該ネットワーク210を介してユーザのスマートフォンなどの情報端末に送信可能である。なお、この実施の形態では、浸水シミュレーション装置100にシミュレーション結果が表示されるものとして、以下説明する。
【0017】
また、ネットワーク210には水位計300が接続されている。水位計300は、浸水シミュレーションを行う対象の敷地内に設置されており、例えば超音波センサなどから構成され、実際の水位を計測する装置である。水位計300により計測された水位情報は、ネットワーク210を介して浸水シミュレーション装置100で取得される。図示する例では、説明を簡略化するため、ネットワーク210に水位計300が一つ接続されている例を示しているが、水位計300は、浸水シミュレーションを行う対象の敷地内に複数設置されていてもよい。なお、水位計300は、例えば電波式、フロート式、ガイドロープ式、圧力式、静電容量式、差圧式など、超音波式以外のものであってもよい。また、水位計300は、ネットワーク210を介して浸水シミュレーション装置100に接続されているものに限られず、ネットワーク210を介さずに、浸水シミュレーション装置100と直接接続されてもよい。
【0018】
浸水シミュレーション装置100は、将来の浸水状況のシミュレーションを行うために設けられたスマートフォン、タブレットやPC等の情報端末もしくは、シミュレーション専用端末であり、インターネット等のネットワーク210に接続されている。
【0019】
浸水シミュレーション装置100は、図1に示すように、記憶部110と、制御部120と、入出力部130と、通信部140と、これらを相互に接続するシステムバス(図示省略)と、を備えている。
【0020】
記憶部110は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等を備える。ROMは制御部120のCPU(Central Processing Unit)が実行するプログラム111と、測量画像データ112と、プログラム111を実行する上で予め必要な各種データ(図示省略)と、を記憶する。なお、各種データには、設定水量や各種パラメータなどが含まれる。当該設定水量や各種パラメータについては、入出力部130からの入力に基づいて記憶部110に記憶されてもよいし、予め記憶されていてもよい。なお、各種データには設定水量や各種パラメータなどの他、シミュレーションに必要なデータが含まれる。
【0021】
プログラム111は、後述するシミュレーション処理を実行するためのプログラムである。具体的に、プログラム111は、後述する3Dモデル生成部121、排水溝勾配算出部122、シミュレーション水位算出部123、補正パラメータ算出部124、および画像等生成部125としての機能を実現させるためのプログラムであり、予め記憶部110に記憶されている。
【0022】
測量画像データ112は、例えば、ドローンにより、上空から建物を含む地表面を撮像した画像データであり、20cmや30cm、40cmや60cm精度のデータである。測量画像データの精度はこれらに限らず、100cm精度や500cm精度であってもよい。この測量画像データ112は、予め記憶部110に記憶される。測量画像データ112は、浸水シミュレーション装置100外部よりインターネットなどのネットワーク210や入出力部130を介して取り込み、記憶部110に記憶されてもよい。なお、測量画像データ112は、ドローンにより撮像して測量したデータに限らず、ドローンを使わない撮像測量やレーザ測量にて測量したデータであってもよい。また、この実施の形態では、記憶部110に測量画像データ112を記憶し、当該測量画像データ112に基づいて後述する3Dモデル生成部121により3Dモデルを生成する例を示しているが、記憶部110に測量画像データ112ではなく、直接3Dモデルを記憶することで、制御部120の3Dモデル生成部121を省いてもよい。直接記憶部110に記憶する3Dモデルとしては、例えば国土地理院で公開されているDEM(数値標高モデル:Digital elevation Model)など、既に作成されて他システムで提供されている3Dモデルなどがある。
【0023】
制御部120は、CPUやASIC(Application Specific Integrated Circuit)等から構成される。制御部120は、記憶部110に記憶されたプログラム111に従って動作し、当該プログラムに従った処理を実行する。制御部120は、記憶部110に記憶されたプログラム111で提供される主要な機能部として、3Dモデル生成部121と、排水溝勾配算出部122と、シミュレーション水位算出部123と、補正パラメータ算出部124と、画像等生成部125と、を備える。
【0024】
3Dモデル生成部121は、記憶部110に記憶されている測量画像データ112に基づいて3Dモデルを生成する機能部である。具体的に、3Dモデル生成部121は、SfM(Structure from Motion)を用いることで3Dモデルを生成する。SfMは、複数の画像間の特徴点の対応関係を計算し、特徴点の対応関係に基づいてカメラの位置、姿勢、および特徴点の3次元情報を復元する技術である。SfMによって作成された3Dモデルは、例えば、頂点、辺、および面の集合であるポリゴンメッシュとして表現される。さらに、SfMによって得られた情報に基づいて、SfMよりも精密な3次元再構成が行われるようにしてもよい。3Dモデルは、3次元の地形データである。なお、3Dモデル生成部121によって生成される3Dモデルは、SfMに限らず、点群データからの変換、ベクトルデータからの変換、CADデータからの変換等、他の手法で生成されてもよい。
【0025】
排水溝勾配算出部122は、排水溝の勾配を算出する機能部である(図5参照)。具体的に、排水溝勾配算出部122は、マニングの公式を水面勾配Iについて解くことにより、排水溝の勾配を算出する。なお、排水溝勾配算出部122に、排水溝情報を取得する機能を併せ持っていてもよい。排水溝情報は、入出力部130やネットワーク210を介して外部から取得され、記憶部110に予め記憶されていてもよい。
マニングの公式
V=(1/n)・R2/3・I1/2
〔なお、A:流水断面積、V:平均流速、n:粗度係数、R:径深(A/P)、I:水面勾配、P:潤辺長(流れが横断壁面に接する長さ)〕
これを水面勾配Iについて解くと、I=(V・n/R2/32となり、排水溝勾配算出部122は、この式により排水溝の水面勾配Iを算出する。
【0026】
シミュレーション水位算出部123は、ユーザにより設定されたシミュレーション速度(またはシミュレーション比率)、および何時間先までの浸水状況をシミュレーションするかといった経過時間に基づき、当該設定内容に対応した浸水シミュレーションを実行する機能部である。具体的に、シミュレーション水位算出部123は、設定されたシミュレーション速度に応じて、設定された経過時間までの水位の変化を算出する。シミュレーション速度は、リアルタイムの時間に対し、シミュレーションを何倍の速さで実行するかを示すパラメータである。この実施の形態では、シミュレーション結果を示すアニメーションのフレームレートを1秒間に30フレームのアニメーション画像を再生する30fpsと仮定する。例えば、シミュレーション速度をリアルタイムの300倍(1秒間に5分のシミュレーションを実行する)とした場合、シミュレーション水位算出部123は、シミュレーション開始から10秒後では、シミュレーション上の時間で50分経過後の水位を算出する。具体的には、シミュレーション水位算出部123は、シミュレーション開始から10秒までのシミュレーションにおいて、5分/30フレーム(約0.16分)間隔の水位を300フレーム分(経過時間50分(シミュレーション実行時間10秒)の水位データ)を算出する。また、シミュレーション速度をリアルタイムの300倍、経過時間2時間までの水位の変化をシミュレーションする場合、シミュレーション水位算出部123は、シミュレーション実行時間は24秒であり、1秒あたり30フレーム分、シミュレーション実行時間トータルで720フレーム分の水位データを算出する。なお、アニメーションのフレームレートは30fpsに限られず、入出力部130に接続されるディスプレイや、ネットワーク210を介して接続される情報端末400がアニメーション再生するに適した任意のフレームレートであってもよい。また、この実施の形態において、水位は、後述する式(2)で水速を計算し、式(5)で水量を算出する。この「式(2)で水速を計算し式(5)で水量を算出」するステップを1ステップとして計算し、当該「1ステップ」を反復的に繰り返し実行しながら時間経過による水位の変化を計算する。なお、1ステップで計算する水位データはアニメーション1フレームで描画する水位と同一であり、フレーム数とステップ数は同一となる。
【0027】
以下、シミュレーション水位算出部123による具体的な水位の算出式について説明する。シミュレーション水位算出部123は、下記式(1)に示すナビエストークス方程式を用いて水位を算出する。
【数1】

【0028】
上記式(1)について、粘性度ν=0、圧力pが静水圧gであると仮定し(δp=ρg(δh))、速度ベクトルuの時間tによる微分方程式の形式に変更すると、下記式(2)が得られる。ここでhは水位を表す。
【数2】

【0029】
上記式(2)の左辺を離散化すると、x方向およびy方向の速度の更新式、式(3)および式(4)が得られる。
【数3】


【数4】

【0030】
また、時間t、地点(x,y)での単位時間当たりの雨量をRt (x,y)、時間t、地点(x,y)での単位時間当たりのパラメータ逆流量をBt (x,y)、時間t、地点(x,y)での単位時間当たりの浸透量をPt (x,y)、とすると、上記式(3)および式(4)から、水量についての更新式を下記式(5)で表すことができる。なお、式(5)におけるパラメータ逆流量Bt (x,y)は、排水溝など地形で表現できているものからの逆流ではなく、下水管など地形では表現できない水の流れの出口であるマンホール等からの逆流などを想定したパラメータである。式(5)は、現在の水位と、式(3)および式(4)で計算した推測から、現在の水位から1ステップ後の水位を計算する式を示している。
【数5】

【0031】
シミュレーション水位算出部123は、上記式(5)について、時間を更新しながら逐次水量を算出する。その上で、シミュレーション水位算出部123は、算出した水量を3Dモデルにおける単位面積で除算して水位を算出する。なお、シミュレーション水位算出部123は、シミュレーション水位算出手段に対応する。
【0032】
補正パラメータ算出部124は、水位計300により計測された実際の水位と、シミュレーション水位算出部123により算出された水位との差が予め定めた規定値以上であった場合に、シミュレーション水位算出部123で用いた演算式におけるパラメータを補正する機能部である。具体的に、補正パラメータ算出部124は、上記式(2)を下記式(6)とし、補正パラメータαを算出する。なお、補正パラメータαの他、例えば粘度や密度等のパラメータ等を調整できるようにしてもよい。また、ここの例(図2)ではシミュレーション水位算出部123より算出された水位と水位計で実測した水位が規定値以上の場合のみ、補正のフィードバックを実行することとして記載しているが、規定値にとらわれず水位測定毎にフィードバックをかけ細かく補正を行ってもよい。
【数6】

【0033】
画像等生成部125は、シミュレーション水位算出部123が算出した水位を、3Dモデル生成部121にて生成した3Dモデルに反映させる処理を行う機能部である。具体的に、画像等生成部125は、3Dモデル生成部121にて生成した3Dモデルに、シミュレーション水位算出部123により算出した水位を、段階別に色分け等で危険度をわかりやすくビジュアル化して付加する。また、画像等生成部125は、シミュレーション水位算出部123により算出した単位領域の水位における時間変化のグラフも生成可能である。なお、当該画像等生成部125は、当該浸水シミュレーション装置100の外部の装置が備えていてもよい。また、当該グラフの生成の機能は、シミュレーション水位算出部123が備えていてもよい。
【0034】
入出力部130は、キーボード、マウス、カメラ、マイク、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等から構成され、各種データの入出力を行うための装置である。
【0035】
通信部140は、浸水シミュレーション装置100がネットワーク210を介して他の情報端末と通信を行うための通信インタフェースである。
【0036】
これら各機能部が協働することで、浸水状況をシミュレーションし、3Dモデルに反映させる機能を、当該浸水シミュレーション装置100に実現させる。
【0037】
以上が、浸水シミュレーション装置100の構成である。続いて浸水シミュレーション装置100の動作等について、図2~10を参照して説明する。なお、以下に示す例では、図3に示す敷地Sをシミュレーション対象領域として浸水シミュレーションを行う場合を例に説明する。
【0038】
まず、ユーザによる入出力部130に対する操作が行われることで、シミュレーション処理が開始される。図2は、シミュレーション処理の一例を示すフローチャートである。なお、図示するシミュレーション処理には、前提条件を設定する処理も含み、実際に水位をシミュレーションする処理は図示するステップS105の処理である。
【0039】
図2に示すシミュレーション処理を開始すると、制御部120は、まず、3Dモデル生成部121の機能により、記憶部110に記憶されている測量画像データ112に基づいて3Dモデルを生成する(ステップS101)。具体的に、ステップS101の処理では、例えば、記憶部110に記憶されている複数の測量画像データ112のうち、ユーザにより選択された測量画像データ112を浸水シミュレーション対象の敷地として特定する。そして、選択された測量画像データ112に基づいて、浸水シミュレーションを行う対象の敷地に対応する3Dモデルを生成する。なお、この例では、ステップS101の処理にて生成された3Dモデルが図3に示す敷地Sの3Dモデルであるものとし、図3における上方向が北、右方向が東であるものとする。また、この実施の形態では、図3における北方向がyの正方向、東方向がxの正方向とする。また、ステップS101にて生成された3Dモデルは、入出力部130たとえば液晶ディスプレイ等に表示される。例えば、記憶部110に記憶されている測量画像データ112が30cm精度のデータであった場合、ステップS101の処理にて生成される3Dモデルは、図3における領域X(12×12のマス)を構成する1マスが30cm精度のデータの集合データとなる。
【0040】
図2に示すステップS101の処理を実行した後、制御部120は、排水溝勾配算出部122により、入出力部130からの排水溝情報の入力を受け付ける(ステップS102)。排水溝情報には、排水溝の位置、幅、深さの情報の他、流水断面積、平均流速、粗度係数、潤辺長などの情報が含まれる。具体的に、ステップS102の処理では、まず、図3に示すように、表示中の敷地Sの3Dモデルについて、排水溝の位置する領域(図示する例では領域X)をユーザが入出力部130の液晶ディスプレイ等に表示される設定画面より選択し、具体的な排水溝の位置を入力する。図示する例では、敷地S内の領域Xを選択し、領域X内の図示する位置に排水溝10および排水溝20が位置するよう入力した場合の例を示している。なお、図示する例は一例であり、例えば座標を指定するなど、排水溝の位置の入力方法は任意の方法であってよい。なお、ステップS102の処理は、排水溝情報取得ステップに対応し、当該ステップS102の処理を実行する制御部120における排水溝勾配算出部122の機能は、排水溝情報取得手段に対応する。また、図3における1マスが敷地Sの単位領域に対応する。
【0041】
排水溝の位置が入力された後、例えば排水溝10の幅が60cm、高さが50cmであり、排水溝20の幅が30cm、高さが40cmである場合、これらの排水溝の幅および高さがユーザによる入力操作により入力される。図4は、排水溝10および排水溝20の幅および高さがそれぞれ入力された場合の表示例を示している。なお、図示するA地点は排水溝の内部の地点(マス)であり、東のマスは排水溝ではなく地面となっている。
【0042】
図2に示すステップS102の処理を実行した後、制御部120は、排水溝勾配算出部122により、ステップS102で受け付けた排水溝情報に基づいて、排水溝の勾配を算出する(ステップS103)。具体的に、ステップS103の処理では、図4に示す排水溝10および排水溝20それぞれの勾配を、マニングの公式を水面勾配Iについて、I=(V・n/R2/32と解くことにより算出する。例えば、図4に示す幅30cm、高さ40cmの排水溝20については、流水断面積A=0.3m×0.4m=0.12:平方メートルとなり、潤辺長P=0.3m+0.4m×2=1.1mとなり、径深R=0.12平方メートル÷1.1m=0.109mとなる。そして、国土交通省により定められた現場打ちコンクリートの粗度係数n=0.015であり、平均流速V=0.6m/sのときに必要な勾配を算出すると、I=(V・n/R2/32=(0.6・0.015/0.1092/32=0.00155566…≒0.15557%となる。なお、この実施の形態における平均流速については、例えば、排水溝がコンクリートであれば0.6m/s~3.0m/sのうち、大(3.0/s)、中(1.8m/s)、小(0.6m/s)の3段階から、いずれかの流速を選択可能となっている。なお、3段階から選択するのではなく、ユーザが自由に値を入力できるようにしてもよい。また、システムで一意に定めておくなど、別の入力方法であってもよい。このようにして、ステップS103では、排水溝20の勾配と同様に、排水溝10の勾配についても算出する。具体的に、図4に示す幅60cm、高さ50cmの排水溝10については、流水断面積A=0.6m×0.5m=0.20平方メートルとなり、潤辺長P=0.6m+0.5m×2=1.6mとなり、径深R=0.20平方メートル÷1.6m=0.125mとなる。そして、国土交通省により定められた現場打ちコンクリートの粗度係数n=0.015であり、平均流速V=0.6m/sのときに必要な勾配を算出すると、I=(V・n/R2/32=(0.6・0.015/0.1252/32=0.001296=0.1296%となる。
【0043】
このように、図2に示すステップS103の処理が実行されることで、図5に示すように排水溝の勾配が考慮されることとなる。図5に示す排水溝は、図4の排水溝10に対応し、図5の左側が南で右側が北である。具体的に、図2のステップS102の処理が実行され、排水溝の幅および深さが設定されると、3Dモデル上では図5(A)に示すように深さが一定の状態となる。一方、図2に示すステップS103の処理が実行され勾配が算出されると、図5(B)に示すように、排水溝の勾配が3Dモデル上に反映され、勾配に沿って深さが変化することとなる。なお、この実施の形態における浸水シミュレーションは、図10(A-1)および図10(A-2)に示すように、実世界では連続している地形について、3Dモデルの空間分解能(この例では30cm精度)に合わせて離散化して浸水シミュレーションの演算が行われることとなる。なお、ステップS103の処理は、勾配算出ステップに対応し、当該ステップS103の処理を実行する制御部120における排水溝勾配算出部122の機能は、勾配算出手段に対応する。
【0044】
図2に示すステップS103の処理を実行した後、制御部120は、シミュレーション水位算出部123の機能により、雨量、シミュレーション速度および経過時間の入力を入出力部130から受け付ける(ステップS104)。具体的に、ステップS103の処理では、シミュレーションの設定が行われる。例えば、ステップS104の処理では、1時間当たりの雨量として20mm、シミュレーション速度として300倍(1秒間に5分のシミュレーションを実行)、経過時間として2時間、がそれぞれ入出力部130を介してユーザにより入力される。なお、ステップS104の処理にて受け付けた雨量は、設定水量に対応する。また、ステップS104の処理では、雨量(上記Rt (x,y))の他、上述したパラメータ逆流量(上記Bt (x,y))や浸透量(上記Pt (x,y))の入力を受け付けてもよく、これらはユーザによる入力の他、外部のセンサ、外部のシステムなどから取得してもよい。パラメータ逆流量(上記Bt (x,y))や浸透量(上記Pt (x,y))についても設定水量に含まれる。このように、1時間当たりの雨量20mm、1秒経過後に5分後の水位が表示され、2時間先までのシミュレーション、といった設定に基づいて、次のステップであるステップS105の処理にてシミュレーションが行われることとなる。なお、ステップS105の処理は、シミュレーション水位算出ステップに対応する。ステップS104の処理では雨量の入力を受け付けているが、例えば、この他にも、河川の氾濫時のシミュレーション、マンホールからの逆流時のシミュレーション、大雨のあと100mmたまった水が何時間後にすべてはけるかのシミュレーションなど、シミュレーション用途に合わせて水量が入力されればよい。また、ステップS104の処理では、ユーザによる入出力部130に対する入力を受け付ける例を示したが、これに限られず、例えば降水量を公開しているWebサイトから自動で連携したり、マンホールからの逆流を計算している他システムから自動連携したりすることで水量を入力するなど、外部のシステムと連携することで入力されてもよい。
【0045】
ステップS104の処理を実行した後、制御部120は、シミュレーション水位算出部123の機能により、シミュレーション水位を算出する(ステップS105)。具体的に、ステップS105の処理では、ステップS104で受け付けた設定に基づき、上記式(3)~上記式(5)を用いて、シミュレーション水位を算出する。
【0046】
以下、図4に示すA地点におけるシミュレーション水位を算出する場合について説明する。なお、A地点は排水溝の内部の地点(マス)であり、東のマスは排水溝ではなく地面となっている。そして、A地点を含む南北の排水溝は南側が上流で北側が下流となっており、水は南から北に向かって流れることとする。さらに、全てのマスについて同じ雨量(20mm)であるものとする。
【0047】
まず、A地点を含む東西の流水速度を更新する。なお、図6に示すように、A地点の西側のマスをA西とし、東側のマスをA東とする。そして、図示する(x-1,y)、(x、y)、および(x+1,y)のうち、(x、y)および(x+1,y)、すなわちA地点の境界におけるΔt秒後の速度(ut+1(x、y)およびut+1(x+1,y))を、上記式(3)に基づいて算出する。ここで、A地点を含む東西(x方向)の流水速度であることから、速度ベクトルをx方向の速度に置き換えると、上記式(3)は下記式(7)となる。
【数7】

【0048】
当該式(7)における∂u/∂xは、u(x、y)について考えた場合、xが微小区間変化したときのx方向の速度の変化量を示す。この場合、xはマスの空間分解能としての30cm精度となり、微小区間変化したときの水流速度の変化量は、u(x、y)とu(x-1,y)との差分となる。また、u(x、y)について考えた場合、式(7)における∂h/∂xは、xが微小区間変化したときの水位の変化量となり、AとA西のマスの水位の差を示す。具体的に、式(5)を用いてht(x)-ht(x-1)の演算結果により求められる。また、g(sinθ)は、地形の勾配を示している。この例では、図6に示すようにAとA西のマスとの勾配はないことから、g(sinθ)=0となる。同様に、ut+1(x+1,y)について考えた場合、式(7)における∂u/∂xは、xが微小区間変化したときのx方向の速度の変化量を示し、u(x,y)とu(x+1,y)との差分となる。また、∂h/∂xは、xが微小区間変化したときの水位の変化量となり、AとA東のマスの水位の差を示す。以上を計算することにより、図2のステップS105の処理において、A地点における1ステップ後の東西方向の速度の変化量を算出する。具体的に、gは重力加速度を示し、Δtは1秒とする。また、∂xは1マスの大きさであり、この実施の形態では1マスが30cm精度のデータであることから、∂xは30cmとなる。また、∂uは、隣接しているマスの速度差を示している。例えば、図6に示す場合、(x+1,y)の地点では、AよりもA東の方が高い位置にあり、水がA東からAに流れる。一方、A東とA西の1つ西のマスの地表高と水位が同じであり、AとA西の地表高と水位が同じであることから、u(x-1,y)とu(x+1,y)は、隣接するマスの水位差から速度を計算すると、向きが違うだけで同じ速度となる。また、経過時間が2時間の場合、Ut+1としては、経過時間2時間の(x,y)における速度が算出される。また、Uには、Δt=1秒であることから、経過時間1時間59分59秒時点の(x,y)における速度が入力される。
【0049】
続いてA地点を含む南北の流水速度を更新する。なお、図7に示すように、A地点の南側のマスをA南とし、北側のマスをA北とする。そして、図示する(x,y-1)、(x、y)、および(x,y+1)のうち、(x、y)および(x,y+1)、すなわちA地点の境界におけるΔt秒後の速度(v(x、y)およびv(x,y+1))を、上記式(4)に基づいて算出する。ここで、A地点を含む南北(y方向)の流水速度であることから、速度ベクトルをy方向の速度に置き換えると、上記式(4)は下記式(8)となる。
【数8】

【0050】
当該式(8)における∂v/∂yは、yが微小区間変化したときのy方向の速度の変化量を示す。この場合、yはマスの空間分解能としての30cm精度となり、微小区間変化したときの水流速度の変化量は、u(x、y)とu(x,y-1)との差分となる。また、式(7)における∂h/∂yは、yが微小区間変化したときの水位の変化量となり、AとA南のマスの水位の差を示す。具体的に、式(5)を用いて上下に隣接するマスの水位hの差が∂h/∂yとなる。また、sinθは、地形の勾配を示している。この例では、図7に示すようにAとA南のマスとの勾配が存在し、その勾配は上記のとおり0.1296%であることから、g(sinθ)≒0.0127となる。なお、gは重力加速度を示し、9.81とする。以上を計算することにより、図2のステップS105の処理において、A地点における1ステップ後の南北方向の速度の変化量を算出する。
【0051】
このようにして、A地点における1ステップ後の東西方向、および南北方向の速度の変化量を算出した後、制御部120は、A地点と同様にして、敷地Sにおける全ての地点(全てのマス)について、1ステップ後の東西方向、および南北方向の速度の変化量を算出する。
【0052】
全ての地点における速度の変化量を算出した後、制御部120は、上記式(5)を用いて水量についての更新値を算出する。具体的に、上記式(5)は、下記式(9)で表すことができる。
【数9】

【0053】
排水溝が満水となった状態において継続して降雨があり、当該排水溝からあふれ出た雨水の流量のことを逆流量と言う(図8参照)。この実施の形態では、排水溝の勾配を算出し、当該勾配をシミュレーションに反映できるようにしたため、排水溝が満水となった時に排水溝から地面への逆流を、敷地Sへの流入量(排水溝からの逆流量)として取り扱う。具体的に、式(7)にて排水溝と地表の境界の速度を計算することで、図9に示す矢印の向きを持つ速度が計算される。式(9)にてA地点の水位を計算すると、A東に向かって水が流れるので水量が減り、A東地点の水位を計算すると、AからA東に水が流れるので水が増えることになる。これが、排水溝からの逆流量になる。このように、この実施の形態では、排水溝の勾配に基づいてΔtや水の速度から逆流量が算出される。なお、上記式(9)では、簡単のため、上記式(5)において示したパラメータ逆流量Bt (x,y)、雨量Rt (x,y)、および浸透量Pt (x,y)を省略している。
【0054】
例えば、A地点における1ステップ後の東西方向、および南北方向の速度の変化量(上記式(7)および式(8)の演算結果)から、上記式(9)により、1ステップ後のA地点の水量を算出することができる。そして、算出した水量を3Dモデルにおける単位面積で除算し、1ステップ後の水位を算出する。ここで、当該3Dモデルは30cm精度であることから、0.3m×0.3m=0.09平方メートルで除算することで、1ステップ後のA地点の水位を算出する。なお、この例では、シミュレーション速度が300倍(1秒間に5分のシミュレーションを実行)に設定されているため、1ステップ後のA地点の水位は10秒後の水位を示すこととなる。また、この例では、経過時間が2時間に設定されているため、図2のステップS105では、上記式(9)による演算を720ステップ分繰り返し行い、水位を算出する。なお、ステップS105では、地点Aの他の全てのマスについても同様の処理を行い、2時間先までの全てのマスの水位を算出する。なお、例えば、A地点のマスにおける水量が10立方メートルであった場合、当該A地点のマスからの流出する水量の上限は10立方メートルとなる。そのため、U(x,y) t+1Δt+v(x,y) t+1Δt<hであれば、U(x,y) t+1Δt+v(x,y) t+1Δtの値を、U(x,y) t+1Δt+v(x,y) t+1Δt≧hであればhを流出量とする。
【0055】
図2のステップS105の処理を実行した後、制御部120は、画像等生成部125の機能により、ステップS105の処理にて算出した全てのマスの水位について、水位の変化を、例えばOpenGL(登録商標、具体的には、OpenGL ES)などの3Dグラフィックをレンダリングする技術により、3Dモデルに反映させたシミュレーション画像を生成するとともに、水位の変化をグラフ化する(ステップS106)。具体的に、ステップS106の処理では、浸水度合いを3段階に分けて色分けし、3Dモデルに反映させたアニメーション画像を生成する。なお、当該アニメーション画像は、水位変化画像に対応する。ステップS105にて算出した720ステップの水位について、30fpsにて順次水位が変化するアニメーションを、全てのマスについて生成する。その際、例えば浸水度合いが高いマスを赤色、中程度のマスを黄色、小程度のマスを青色で表示する。なお、色分けの他、例えば浸水度合いが高くなったタイミングで音声出力を行うようにしてもよく、また、浸水度合いが高くなったマスを点滅させるなどといったように、ユーザに認識しやすい表示態様としてもよい。
【0056】
また、ステップS106の処理では、A地点の水位の時間変化を、図10(B-2)に示すようにグラフ化する。なお、この実施の形態では、図10(B-1)に示すように、実世界で連続している水位について、図10(B-2)に示すように、シミュレーション速度が、ここでは300倍(1秒間に5分(300秒)のシミュレーションを実行する)であり、フレームレートは30fpsであるため1ステップ=10秒に合わせて離散化してグラフが生成されることとなる。なお、図示する例ではA地点の水位の時間変化を示しているが、全てのマスについての水位の時間変化のグラフを生成してもよいし、予めユーザにより指定されたマスについて、水位の時間変化のグラフを生成してもよい。なお、ステップS106にて生成されたグラフは、ユーザによる操作(マスを選択してグラフ表示を行う操作)が行われることにより、表示されればよい。なお、ステップS106の処理は、画像生成ステップに対応し、当該ステップS106の処理を実行する制御部120における画像等生成部125の機能は、画像生成手段およびグラフ生成手段に対応する。
【0057】
図2に示すステップS106の処理を実行した後、制御部120は、補正パラメータ算出部124の機能により、通信部140を介して水位計300で測定された水位を取得する(ステップS107)。具体的に、ステップS107の処理では、設定した経過時間の2時間が実際に経過した際のA地点の水位を水位計300から取得する。なお、この例では、水位計300はA地点に設けられているものとする。なお、ステップS107の処理を実行する制御部120における補正パラメータ算出部124の機能は、水位計情報取得手段に対応する。
【0058】
ステップS107の処理にてA地点の水位を取得した後、制御部120は、補正パラメータ算出部124の機能により、ステップS105の処理で算出した経過時間の2時間後の水位と、ステップS107の処理で取得した水位との差が予め定められた規定値以上であるか否かを判定する(ステップS108)。具体的に、ステップS108の処理では、ステップS105の処理で算出した経過時間の2時間後の水位(シミュレーション水位)と、実際に2時間経過した後の実水位とを比較し、その差が規定値以上であるか否かを判定する。規定値は、例えば実水位とシミュレーション水位の差が何%以上を規定値以上と判定するように、ユーザにより予め設定され、記憶部110に記憶されていればよく、任意の値に変更可能であればよい。
【0059】
ステップS108にて規定値未満であると判定した場合(ステップS108;No)、制御部120は、そのままシミュレーション処理を終了する。一方で、規定値以上であると判定した場合(ステップS108;Yes)、制御部120は、補正パラメータ算出部124の機能により、補正パラメータとして、上記式(6)におけるαを補正パラメータとして算出する(ステップS109)。なお、ステップS109の処理を実行する制御部120における補正パラメータ算出部124の機能は、補正用パラメータ算出手段に対応し、補正パラメータαは、補正用パラメータに対応する。
【0060】
具体的に、ステップS109の処理では、上記式(6)を用いて上記式(3)および上記式(4)を下記式(10)および式(11)とし、これらにより、下記式(12)を導出する。
【数10】


【数11】


【数12】

【0061】
そして、上記式(12)における3αΔtについて、nステップ後の補正パラメータをn×3αΔtとして、補正パラメータαを算出する。例えば、A地点において、シミュレーション速度300倍(1秒間に5分のシミュレーションを実行)、経過時間2時間でシミュレーションを行った場合において、シミュレーション水位と実際に2時間経過した後の実水位との差が100mmであった場合に、ステップS109の処理にて補正パラメータαを算出する例について説明する。シミュレーション速度300倍であり、30fpsであることから、Δt=300フレーム/30fps=10秒となり、2時間後のステップ数は、7200秒/10秒=720ステップとなる。そのため、補正パラメータの累積誤差(3αΔt)は、シミュレーション水位+720×3×α×(10)=実水位となり、α=(実水位-シミュレーション水位)/216000=100/216000=1/2160=4.6e-4と補正パラメータαを算出する。
【0062】
図2のステップS109の処理を実行した後、制御部120は、補正パラメータ算出部124の機能により、上記式(6)における補正パラメータαを算出し、これを補正パラメータとして、ステップS105の処理にて用いる演算式を更新し(ステップS110)、シミュレーション処理を終了する。
【0063】
このように、この実施の形態に係る浸水シミュレーション装置100では、排水溝の情報から勾配を算出し、これらの情報に基づく浸水シミュレーションを行う。したがって、敷地内の排水溝の空間的情報を考慮した浸水状況のシミュレーションを行うことができるため、高精度に浸水状況をシミュレーションすることができる。
【0064】
また、この実施の形態に係る浸水シミュレーション装置100では、シミュレーション水位と実水位との差が規定以上であった場合、シミュレーション水位が実水位に近づくように演算式のパラメータを補正する。したがって、高精度に浸水状況をシミュレーションすることができる。なお、1ステップ後の水位を算出する度に、補正パラメータαを算出し、当該補正パラメータαを記憶部110へ記憶することで、図2におけるステップS105の処理において当該補正パラメータαを使用して水位を算出してもよい。すなわち、1ステップ毎にシミュレーション演算式が更新されるようにしてもよい。また、1ステップ毎ではなく、予めユーザが設定したステップ数の水位が算出される度に補正パラメータαを算出するようにしてもよい。
【0065】
(変形例)
なお、この発明は、上記実施の形態に限定されず、様々な変形及び応用が可能である。例えば、上記実施の形態に係る浸水シミュレーション装置100は、上記で示した全ての技術的特徴を備えるものでなくてもよく、従来技術における少なくとも1つの課題を解決できるように、上記実施の形態で説明した一部の構成を備えたものであってもよい。また、下記の変形例それぞれについて、少なくとも一部を組み合わせてもよい。
【0066】
上記実施の形態では、図2に示すステップS109の処理において、A地点での水位の比較結果から補正パラメータを算出する例を示したが、これは一例である。例えば、A地点以外の複数箇所に水位計が設けられている場合には、これら全ての補正パラメータαを算出し、地点毎(マス毎)の演算式を更新してもよい。これによれば、より精度よく浸水状況をシミュレーションすることができる。
【0067】
また、これとは異なり、全ての補正パラメータαを算出した上で、これらの補正パラメータαの平均値、中央値、最小二乗誤差、RANSAC(Random Sample Consensus)を求めることにより、全ての地点(全てのマス)において共通の補正パラメータおよび演算式となるようにしてもよい。これによれば、処理負担を軽減しつつシミュレーション精度を向上させることができる。
【0068】
また、上記実施の形態では、図1に示すように浸水シミュレーション装置100が3Dモデル生成部121を備え、当該浸水シミュレーション装置100が3Dモデルを生成する例を示したが、これは一例である。浸水シミュレーション装置100は、3Dモデル生成部121を備えておらず、例えば、他の情報端末400で生成された3Dモデルを受信するようにしてもよい。この場合、測量画像データ112は記憶部110に記憶されなくてよく、受信した3Dモデルが記憶部110に記憶されればよい。
【0069】
また、上記実施の形態では、図2に示すステップS106の処理において、A地点の水位の時間変化を、図10(B-2)に示すようにグラフ化する例を示したが、これに加え、水位計300における実水位の時間変化の情報を取得し、当該シミュレーション水位と並べて表示可能なようにグラフ化してもよい。これによれば、シミュレーション水位と実水位との差の時間変化を把握しやすくすることができる。
【0070】
また、上記実施の形態では、排水溝情報に基づいて排水溝の勾配を算出したり、当該排水溝の逆流量をするなど、排水溝の排水能力を考慮してシミュレーションを行う例を示したが、これは一例である。シミュレーション装置100は、排水溝に限られず、用水路や小さい河川など水が流れるようなところの能力を考慮してシミュレーション可能である。すなわち、排水溝は、排水溝そのものに限られず、用水路や小さい河川など水が流れるようなところを含む概念である。また、逆流量については、排水溝情報に基づいて算出したものに限られず、例えば他システムと連携して得た値や他指標値より設定した値を用いてもよい。
【0071】
なお、上記実施の形態に係る浸水シミュレーション装置100は、通常のコンピュータの他、専用の装置によって実現されてもよい。また、コンピュータに上述のいずれかを実行するためのプログラムを格納した記録媒体から該プログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理を実行する浸水シミュレーション装置100を構成してもよい。また、複数のコンピュータが協働して動作することによって、1つの浸水シミュレーション装置100を構成してもよい。
【0072】
また、上述の機能を、OS(Operating System)とアプリケーションとの分担、またはOSとアプリケーションとの協働により実現する場合等には、OS以外の部分のみを媒体に格納してもよい。
【0073】
また、搬送波にプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。例えば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS、Bulletin Board System)に当該プログラムを掲示し、ネットワークを介して当該プログラムを配信してもよい。そして、これらのプログラムを起動し、オペレーティングシステムの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上述の処理を実行できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0074】
10、20 排水溝、100 浸水シミュレーション装置、110 記憶部、111 プログラム、112 測量画像データ、120 制御部、121 3Dモデル生成部、122 排水溝勾配算出部、123 シミュレーション水位算出部、124 補正パラメータ算出部、125 画像等生成部、130 入出力部、140 通信部、210 ネットワーク、300 水位計、400 情報端末
【要約】
【課題】高精度に浸水状況をシミュレーションすることが可能な浸水シミュレーション装置、浸水シミュレーション方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】浸水シミュレーション装置は、シミュレーション対象領域における排水溝の位置と断面積を示す排水溝情報を取得し、取得した排水溝情報に基づいて、排水溝の勾配を算出する。そして、取得した排水溝情報と、算出した排水溝の勾配と、シミュレーション対象領域に追加または除去される水量を予め設定した設定水量と、に基づいて、シミュレーション対象領域における水位の時間変化を算出する。
【選択図】図2
図1
図2
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図9
図10