(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】突発性難聴の改善および/または症状の悪化を抑制するのための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20230203BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P27/16
(21)【出願番号】P 2021181484
(22)【出願日】2021-10-12
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】394021270
【氏名又は名称】MiZ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】平野 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文平
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐介
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126384(JP,A)
【文献】特開2010-195719(JP,A)
【文献】特開2020-117486(JP,A)
【文献】特許第5502973(JP,B1)
【文献】特許第5228142(JP,B1)
【文献】水素と突発性難聴,[online],2019年07月29日,[令和4年5月11日検索],インターネット,<URL:https://matobidetox.com/2019/07/29/post-1427/?msclkid=6328ca3dd00d11eca53e3df4c881c08c>
【文献】Neuroscience Research,2014年,Vol.89,p.69-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を有効成分として含む、ヒトにおいて、突発性難聴を原因とする症状を改善および/または症状の悪化を抑制するための組成物であって、
前記組成物が、吸入によって前記ヒトに投与され、
前記突発性難聴を原因とする症状が、両耳または
片耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、めまい、
および、これらの症状に伴う
生活の質の低下
からなる群から1つまたは2つ以上選択される症状であることを特徴とする組成物。
【請求項5】
前記請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物を作製する方法であって、前記組成物が水素ガス生成装置を用いて作製されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト患者において突発性難聴の症状、例えば、少なくとも両耳または片方耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、および/または、めまい、または、これらの症状に伴う活動レベルの低下などを予防、および/または、改善症状の悪化を抑制するための組成物に関する。
本発明はまた、ヒト患者において突発性難聴の上記症状を改善および/または症状の悪化を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
突発性難聴は、急性感音難聴をきたす疾患のうち、特に高度感音南東の原因として最も高頻度に認められる疾患である。2021年に行われた疫学調査では、60代の発症が最も多く、罹患頻度は人口10万人あたり60.9人と推定されている。突発性難聴の原因は明らかになっておらず、血流障害、ウイルス感染、外リンパ瘻などが発症に関与していると推測されているが、その中で血流障害が最も有力視されている。その推定病態に対する障害抑制効果を期待して、副腎皮質ステロイド、血管拡張薬などの投与が標準治療となっている。しかし、聴力が完全に回復する「治癒」症例は約3分の1以下と少ない。また、特に重症例の約60%に高度難聴が残存するため、新たな治療法の開発が望まれているのが現状である。
近年、水素分子が細胞内および細胞のミトコンドリア内部で発生するヒドロキシルラジカルを消去することにより慢性炎症を抑制し、慢性炎症に起因する多くの疾病に対し効果を奏する可能性があることを提唱されている(非特許文献1)。しかしながら、ヒト突発性難聴患者が水素ガス含有気体を吸入、吸引、飲用等した場合に、ヒト突発性難聴の症状が改善および/または症状の悪化を抑制されるかについては報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Shin-ichi Hirano,Yusuke Ichikawa,Bunpei Sato,Haru Yamamoto,Yoshiyasu Takefuji,Fumitake Satoh“Potential Therapeutic Applications of Hydrogen in Chronic Inflammatory Diseases:Possible Inhibiting Role on Mitochondrial Stress”International Journal of Molecular Science,2021,22,2549
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、副作用の少ないかつ簡便に製造し得る新しい突発性難聴の症状改善および/または症状の悪化を抑制するのための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明により、水素ガスの吸入、吸引等によってヒト突発性難聴において突発性難聴を原因とする少なくとも両耳または片方耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、および/または、めまい、または、これらの症状に伴う活動レベルの低下を含む症状を改善および/または症状の悪化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、水素ガスの吸入、吸引等によってヒト突発性難聴において突発性難聴を原因とする少なくとも両耳または片方耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、および/または、めまい、または、これらの症状に伴う活動レベルの低下を含む症状を改善および/または症状の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】突発性難聴の患者の聴力予後を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.突発性難聴
突発性難聴とは、突然、左右の耳の一方(ごくまれに両方)の聞こえが悪くなる疾患のことをいう。特に音をうまく感じ取れない難聴(感音難聴)のうち原因がはっきりしないものの総称である。突発性難聴は幅広い年代で発症する。特に働き盛りの40~60歳代に多くみられる疾患である。
本発明における突発性難聴の根本原因は不明であるが、有毛細胞の損傷、有毛細胞への血管の血流障害、ウイルス感染と言われているが、定かではない。
【0009】
2.水素ガス含有気体を含む突発性難聴の症状を改善および/または症状の悪化を抑制するための組成物
本発明は、水素ガス含有気体を有効成分として含む、ヒト突発性難聴患者において突発性難聴を原因とする少なくとも両耳または片方耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、および/または、めまい、または、これらの症状に伴う活動レベルの低下を含む症状を改善および/または症状の悪化を抑制するための組成物を提供する。
【0010】
本明細書中、本発明の組成物の有効成分である「水素」は分子状水素(すなわち、気体状水素)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH2、D2(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。D2は、高価であるが、H2よりスーパーオキシド消去作用が強いことが知られている。本発明で使用可能な水素は、H2、D2(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスであり、好ましくはH2であり、或いはH2に代えて、又はH2と混合して、D2及び/又はHDを使用してもよい。
【0011】
水素ガス含有気体は、好ましくは、水素ガスを含む空気又は、水素ガスと酸素ガスを含む混合ガスである。水素ガス含有気体の水素ガスの濃度は、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下、例えば0.5~18.5体積%であり、好ましくは1~10体積%、例えば2~8体積%、3~7体積%、3~6体積%、4~6体積%、4~5体積%、5~10体積%、5~8体積%、6~8体積%、6~7体積%など、より好ましくは5~8体積%、例えば6~8体積%、6~7体積%などである。本発明では、爆発限界以下で水素ガス濃度が高いほど突発性難聴の症状の改善効果および/または症状の悪化を抑制する効果が大きい傾向がある。
水素は、可燃性かつ爆発性ガスであるため、突発性難聴の症状の改善および/または症状の悪化の抑制においては、安全な条件で本発明の組成物に含有させて突発性難聴患者に投与することが好ましい。
【0012】
水素ガス以外の気体が空気であるときには、空気の濃度は、例えば81.5~99.5体積%の範囲である。水素ガス以外の気体が酸素ガスを含む気体であるときには、酸素ガスの濃度は、例えば21~99.5体積%の範囲である。
その他の主気体として窒素ガスを含有させることができる。空気中に含有する気体である二酸化炭素などのガスを、空気中の存在量程度の量で含有させてもよい。
本発明では、必要に応じて、水素ガス含有気体の投与と併用して水素溶存液体を突発性難聴患者に投与する、もしくは摂取させることができる。
【0013】
水素溶存液体と併用投与する場合には、本発明の組成物は、水素溶存液体の投与の前に、水素溶存液体の投与と同時に、又は水素溶存液体の投与の後に投与されうる。
水素溶存液体は、具体的には、水素ガスを溶存させた水性液体であり、ここで、水性液体は、非限定的に、例えば水(例えば滅菌水、精製水)、生理食塩水、緩衝液(例えばpH4~7.4の緩衝液)、エタノール含有水(例えばエタノール含有量0.1~2体積%)、点滴液、輸液、注射溶液、飲料などである。水素溶存液体の水素濃度は、例えば1~10ppm、例えば2~8体積%、3~7体積%、3~6体積%、4~6体積%、4~5体積%、5~10体積%、5~8体積%、6~8体積%、6~7体積%など、より好ましくは5~8体積%、例えば6~8体積%、6~7体積%などである。本発明では、爆発限界以下で水素ガス濃度が高いほど突発性難聴の症状の改善および/または症状の悪化を抑制する効果が大きい傾向がある。
【0014】
水素溶存液体には、突発性難聴を治療するための医薬品を添加してもよい。或いは、当該医薬品は、水素溶存液体又は水素ガス含有気体の投与と別に投与してもよい。
水素ガス含有気体又は水素溶存液体は、所定の水素ガス濃度になるように配合されたのち、例えば耐圧性の容器(例えば、ステンレスボンベ、アルミ缶、好ましくは内側をアルミフィルムでラミネーションした、耐圧性プラスチックボトル(例えば耐圧性ペットボトル)及びプラスチックバッグ、アルミバッグ、等)に充填される。アルミは水素分子を透過させ難いという性質を有している。或いは、水素ガス含有気体又は水素溶存液体は、投与時に、水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置、例えば、公知のもしくは市販の水素ガス供給装置(水素ガス含有気体の生成用装置)、水素添加器具(水素水生成用装置)、非破壊的水素含有器(例えば点滴液などの生体適用液バッグ内部へ非破壊的に水素ガスを添加するための装置)などの装置を用いてその場で作製されてもよい。
【0015】
水素ガス供給装置は、水素発生剤(例えば金属アルミニウム、水素化マグネシウム、等)と水の反応により発生する水素ガスを、希釈用ガス(例えば空気、酸素、等)と所定の比率で混合することを可能にする(日本国特許第5228142号公報、等)。あるいは、水の電気分解を利用して発生した水素ガスを、酸素、空気などの希釈用ガスと混合する(日本国特許第5502973号公報、日本国特許第5900688号公報、等)。これによって0.5~18.5体積%の範囲内の水素濃度の水素ガス含有気体を調製することができる。
【0016】
水素添加器具は、水素発生剤とpH調整剤を用いて水素を発生し、水などの生体適用液に溶存させる装置である(日本国特許第4756102号公報、日本国特許第4652479号公報、日本国特許第4950352号公報、日本国特許第6159462号公報、日本国特許第6170605号公報、特開2017-104842号公報、日本国特許第6159462号公報、等)。水素発生剤とpH調整剤の組み合わせは、例えば、金属マグネシウムと強酸性イオン交換樹脂もしくは有機酸(例えばリンゴ酸、クエン酸、等)、金属アルミニウム末と水酸化カルシウム粉末、などである。これによって1~10ppm程度の溶存水素濃度の水素溶存液体を調製できる(例えば、商品名「セブンウォーター」(クオシア)、等)。
【0017】
非破壊的水素含有器は、点滴液などの市販の生体適用液(例えば、ポリエチレン製バッグなどの水素透過性プラスチックバッグに封入されている。)に水素分子をパッケージの外側から添加する装置又は器具であり、例えばMiZ(株)から市販されている(http://www.e-miz.co.jp/technology.html)。この装置は、生体適用液を含むバッグを飽和水素水に浸漬することによってバッグ内に水素を透過し濃度平衡に達するまで無菌的に水素を生体適用液に溶解させることができる。当該装置は、例えば電解槽と水槽から構成され、水槽内の水が電解槽と水槽を循環し電解により水素を生成することができる。或いは、簡易型の使い捨て器具は同様の目的で使用することができる(特開2016-112562号公報、等)。この器具は、アルミバッグの中に生体適用液含有プラスチックバッグ(水素透過性バッグ、例えばポリエチレン製バッグ)と水素発生剤(例えば、金属カルシウム、金属マグネシウム/陽イオン交換樹脂、等)を内蔵しており、水素発生剤は例えば不織布(例えば水蒸気透過性不織布)に包まれている。不織布に包まれた水素発生剤を水蒸気などの少量の水で濡らすことによって発生した水素がプラスチックバッグを透過し生体適用液に非破壊的かつ無菌的に溶解される。
【0018】
上記の装置又は器具を用いて調製された、水素ガス含有気体や水素飽和生体適用液(例えば滅菌水、生理食塩水、点滴液、等)は、突発性難聴患者に経口的に又は非経口的に投与されうる。
本発明の組成物の別の形態には、突発性難聴患者に経口投与(もしくは摂取)するように調製された、消化管内で水素の発生を可能にする水素発生剤を含有する剤型(例えば、錠剤、カプセル剤、等)が含まれる。水素発生剤は、例えば食品もしくは食品添加物として承認されている成分によって構成されることが好ましい。
【0019】
3.突発性難聴の症状の改善および/または症状の悪化の抑制
本発明は、第2の態様により、突発性難聴患者に、本発明の組成物を投与することを含む、該患者において突発性難聴を原因とする少なくとも両耳または片方耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、および/または、めまい、または、これらの症状に伴う活動レベルの低下を含む症状を改善および/または症状の悪化を抑制する方法を提供する。
【0020】
本発明の組成物は、患者のQOL(生活の質)の改善を可能にする。
本発明の組成物を突発性難聴の患者に投与する方法としては、水素ガスを有効成分とするとき、例えば吸入、吸引等による経肺投与が好ましい。ガスを吸入するときには、鼻カニューラや、口と鼻を覆うマスク型の器具を介して口又は鼻からガスを吸入して肺に送り、血液を介して全身に送達することができる。
【0021】
また、水素溶存液体を患者に投与とするときには、経口投与又は静脈内投与もしくは動脈内投与(点滴を含む)が好ましい。経口投与する水素溶存液体については、好ましくは低温下に保存し、冷却した液体、又は常温で保存した液体をヒト突発性難聴の患者に投与してもよい。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解し、温度による溶解度差が比較的小さいことが知られている。或いは、水素溶存液体は、例えば上記の非破壊的水素含有器を用いて調製された水素ガスを含有させた点滴液又は注射液の形態であるときには、静脈内投与、動脈内投与などの非経口投与経路によって突発性難聴患者に投与してもよい。
上記水素濃度の水素ガス含有気体又は上記溶存水素濃度の水素溶存液体を1日あたり1回又は複数回(例えば2~3回)、1週間~3か月又はそれ以上の期間、例えば1週間~6か月又はそれ以上にわたりヒト突発性難聴の患者体に投与することができる。水素ガス含有気体が投与されるときには、1回あたり例えば10分~2時間もしくはそれ以上、好ましくは20分~40分もしくはそれ以上、さらに好ましくは30分~2時間かけて投与することができる。また、水素ガス含有気体を吸入、吸引等によって経肺投与するときには、大気圧環境下で、或いは、例えば標準大気圧(約1.013気圧をいう。)を超える且つ7.0気圧以下の範囲内の高気圧、例えば1.02~7.0気圧、好ましくは1.02~5.0気圧、より好ましくは1.02~4.0気圧、さらに好ましくは1.02~1.35気圧の範囲内の高気圧環境下で突発性難聴患者に当該気体を投与することができる。高気圧環境下での投与によって突発性難聴患者での水素の体内吸収が促進されうる。
【0022】
上記高気圧環境は、内部に、例えば上記水素ガス含有気体(例えば、水素含有酸素又は空気)を圧入して標準大気圧を超える且つ7.0気圧以下の高気圧を内部に形成することが可能である、十分な強度をもつように設計された高気圧筐体(例えば、カプセル状筐体)の使用によって作ることができる。高気圧筐体の形状は、耐圧性であるため、全体的に角がない丸みを帯びていることが好ましい。また高気圧筐体の材質は、軽量、高強度であることが好ましく、例えば強化プラスチック、炭素繊維複合材、チタン合金、アルミ合金などを挙げることができる。突発性難聴患者は、上記高気圧筐体内で酸素ガスもしくは空気とともに水素ガスを含む、突発性難聴の症状を改善および/または症状の悪化を抑制するのための組成物の投与を受けることができる。
【0023】
本発明の組成物による突発性難聴の処置の際には、十分な治療効果と安全性が確認された水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置(例えば、上記の水素ガス供給装置(もしくは気体状水素吸入装置)、水素添加器具(もしくは水素水生成装置)、非破壊的水素含有器(水素透過性バッグに封入された点滴液などの生体適用液に非破壊的に水素ガスを溶解する装置)などの装置)を使用することが望ましい。
【実施例】
【0024】
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
水素ガス吸入による突発性難聴症状の改善および/または症状の悪化の抑制についての二重盲検による臨床試験
1.本試験は二重盲検・ランダム化試験である。
2.本試験における患者の.選択基準は以下のとおりである。
● 突発性難聴の診断基準(厚生労働省難治性聴覚障害に関する研究班、2015年改訂)を満たす急性感音難聴症例
● 発症後14日以内に治療を開始できる症例
● 入院治療および外来通院が可能な症例
● 18歳以上
3.本試験における患者の除外基準
● 入院治療および外来通院が困難な症例
● 後迷路性難聴(聴神経腫瘍など)、その他の内耳疾患(外リンパ瘻、自己免疫性難聴など)が判明した症例
● 高度の糖尿病などで、通常の突発性難聴治療(ステロイド全身投与)が困難な症例
担当医が不適当と判断した症例
4.本試験における試験薬の管理・投与方法
使用する水素吸入機(MHG-2000α)はMiZ株式会社(神奈川県鎌倉市)から提供を受ける。水素発生のために必要な精製水は研究費で購入する。水素は水素吸入機を用い、3%の濃度で1回1時間、1日2回(朝、夕)で鼻カニューラを使用し吸入する。プラセボ群では、MHG-2000αと外見が全く同じ吸入機を用いて空気の吸入を行う。吸入は6日間行う。
水素吸入群とプラセボ(空気吸入群)への割り付けは、年齢、重症度により2群にランダムに割り付けを行う。割り付けは、臨床研究支援センターで行う。
5.評価方法
主要評価項目
● 治療開始3ヶ月後の聴力閾値と、聴力閾値の変化量
副次的評価項目
● 治療開始1ヶ月後における聴力閾値と、聴力閾値の変化量
● 治療開始3ヶ月後における、「治癒」および「著明回復」の割合(聴力回復の判定基準(厚生省特定疾患急性高度難聴研究班、1984年)による)
● 治療開始3ヶ月後における、「Complete recovery」および「Partial recovery」の割合(Siegel’s criteriaによる)
● 水素投与群において、脂質や血糖値・HbA1cの値により、治療効果が異なるかどうかを検討する。
● 安全性については、各診療日に診察を行い、副作用と思われる事項について2群間で検討を行う。
統計学的手法
● 上記の項目について、t検定、もしくはFisherの正確検定を用いる。なお、有意水準は片側5%とする。
6.結果
図1は重症度の高い突発性難聴の患者の聴力予後を比較したグラフである。「治癒」の割合は、重症の症例ではプラセボと水素群に差を認めた。突発性難聴の重症例で治癒の割合が高いことは、非常に意義のあることである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、突発性難聴患者に対し水素を投与するだけで突発性難聴の、例えば疲労、頭痛、身体の疼痛、思考力の低下、集中力の低下、および/または、これらの症状に伴う活動レベルの低下などの症状を改善および/または症状の悪化を抑制することを可能にする。水素自体に、副作用が知られていないため、患者のQOLを高めることができる。
【要約】
【課題】突発性難聴の症状改善のための組成物を提供する。
【解決手段】
水素ガス含有気体を有効成分として含む、突発性難聴患者において突発性難聴を原因とする少なくとも両耳または片方耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、および/または、めまい、および/または、これらの症状に伴う活動レベルの低下を含む症状を改善および/または症状の悪化を抑制するための組成物、並びに、この組成物を、突発性難聴患者に投与することを含む、少なくとも前記両耳または片方耳の難聴、耳閉感、圧迫感、音が重なって聞こえる、音が響く、耳鳴り、補充現象、および/または、めまい、および/または、これらの症状に伴う活動レベルの低下を含む症状を改善および/または症状の悪化を抑制する方法。
【選択図】
図1