(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】波長変換部材、光源装置、及び照明装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20230203BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20230203BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20230203BHJP
F21V 9/38 20180101ALI20230203BHJP
F21V 8/00 20060101ALI20230203BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20230203BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20230203BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20230203BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/08 J
F21S2/00 610
F21V9/38
F21V8/00 330
H01S5/022
F21Y115:10
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2019063402
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝田 悠大
(72)【発明者】
【氏名】林 真太郎
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-239551(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008282(WO,A1)
【文献】特開2020-021936(JP,A)
【文献】特開2018-190594(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207703(WO,A1)
【文献】特開平04-289483(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099145(WO,A1)
【文献】特開2011-052136(JP,A)
【文献】国際公開第2010/053341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C09K 11/08
F21S 2/00
F21V 9/38
F21V 8/00
H01S 5/022
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
550nm近辺の波長の黄色を発光する第一の波長変換材と、
ピーク波長として770nmから820nmの波長を有する近赤外光を出射する第二の波長変換材と、
を含み、
前記第二の波長変換材の発光波長は、前記第一の波長変換材の発光波長よりも長波長であり、
前記第二の波長変換材において、励起光が停止してから蛍光が停止するまでの時間を残光時間として、前記残光時間は、前記第一の波長変換材の発光時間よりも長く、且つ、1s以下である、波長変換部材。
【請求項2】
前記第一の波長変換材と前記第二の波長変換材とは、積層体として構成されている、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記第一の波長変換材と前記第二の波長変換材とは、混合体として構成されている、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記第二の波長変換材は、前記第一の波長変換材の発光によっても励起されている、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1に記載の波長変換部材と、
光源部と、
を備える、光源装置。
【請求項6】
前記光源部が間欠点灯する場合に、前記第一の波長変換材の発光の光強度が前記第二の波長変換材の発光の光強度の50%以下である状態が存在する、請求項5に記載の光源装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1に記載の波長変換部材と、
光源部と、
前記波長変換部材と前記光源部との間に設けられたライトガイドと、
を備える、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波長変換部材、光源装置、及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡等の医療用撮像装置においては、近年、白色光による通常観察とは別に、特殊光による特殊光観察を行う観察方法が考案されている。例えば、PDD(Photodynamic Diagnosis)では、インドシアニングリーン(ICG)水溶液を血管に注射し、近赤外光の照射によってICGのエネルギー状態を高めると、照射した近赤外光よりも若干波長の長い近赤外蛍光を発するので、これを利用して、リンパ腺などの状態観察を行うことができる。ここでは、白色光による観察と、近赤外光による観察とが行われる。
【0003】
白色光や近赤外光のように波長の異なる光を出力するには、複数の光源が必要で、従来は、放電ランプとカラーフィルタの組み合わせ等が用いられてきた。近年、光源として、LEDや、レーザダイオード等の固体発光素子からの出力光を、赤色、緑色、青色の光に変換する波長変換部材を用いて、光の三原色とし、これらを時分割技術で所望の演色性の光として出力する光源装置や照明装置に関することが行われる。
【0004】
特許文献1は、内視鏡に利用できる光源装置に関するものである。ここでは、従来技術として、紫色または紫外光を出力する固体発光素子を励起光源とし、励起光を、赤色、緑色、青色の蛍光に変換する3つの蛍光体を用い、固体発光素子を時分割駆動して画像データに対応する蛍光色を出力するカラープロジェクタを述べている。この場合、画像データに依存して3つの蛍光体の発光時間が異なるため、3つの蛍光体の温度上昇が異なり、発光効率が変化する。
【0005】
従来技術では、3つの蛍光体のそれぞれを回転体に設け、回転体の回転速度を調整して温度上昇を均一化する方法をとっているため、3つの蛍光体のそれぞれに固体発光素子と回転体とを必要とする。そこで、特許文献1では、回転体の径方向に互いに分離した4つの環状帯のそれぞれに、赤色、緑色、青色、アンバー色の蛍光体を配置して回転体を1つにまとめることが開示されている。
【0006】
特許文献2は、レーザ光を標本に照射して顕微鏡で標本を観察する顕微鏡システムにおいて、複数のレーザ光を合波して標本観察に適した波長の光とする光源装置が述べられている。ここでは、レーザ光源から出射される波長のレーザ光のみを反射して他の波長の光を透過させる波長選択光学素子としてノッチフィルタを用いる。例えば、互いに異なる波長を有する3つのレーザ光源と、3つのノッチフィルタとを組み合わせ、各ノッチフィルタの反射光軸を合わせて、光ファイバのファイバコアの小さい口径に入射させて、3つの波長のレーザ光を合波している。
【0007】
本開示に関連する技術として、特許文献3には、蓄光性材料の残光時間を延長する技術が述べられている。ここでは、2つの蓄光性材料を用いており、それぞれに励起光を照射すると、励起光の照射を停止しても、2つの蓄光性材料はそれぞれ残光を一定時間発生する。そして、励起光の照射停止後も、一方側の蓄光性材料の残光によって他方側の蓄光性材料が照射されることで、他方側の蓄光性材料の残光の持続時間が延長されると述べている。励起光の照射時間は、光源の種類、照射強度、光源からの距離によって異なるが、例えば10分から1時間程度であると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-117857号公報
【文献】特許第6059406号
【文献】特許第5543760号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
内視鏡等の医療用撮像装置において、白色光と特殊光とを用いて対象物を撮像して適切な観察を行うためには、白色光と特殊光との間のノイズを低減することが望ましい。複数の波長の光の間のノイズ低減法として時分割発光が用いられるが、従来技術では、蛍光体を配置した回転体とその駆動装置を用いる方法や、複数の光源と複数の光学ミラーを用い正確に光軸合わせを行う方法等があるが、いずれも複雑な構成でコストが高い。
【0010】
そこで、安価でかつ信頼性の高い構成で、複数の波長の光の間のノイズを抑制できる波長変換部材、波長変換部材を用いる光源装置、及び、波長変換部材を用いる照明装置が要望される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る波長変換部材は、第一の波長変換材と、第二の波長変換材と、を含み、第二の波長変換材の発光波長は、第一の波長変換材の発光波長よりも長波長であり、第二の波長変換材において、励起光が停止してから蛍光が停止するまでの時間を残光時間として、残光時間は、第一の波長変換材の発光時間よりも長く、且つ、1s以下である。
【0012】
本開示に係る光源装置は、上記波長変換部材と、光源部と、を備える。また、本開示に係る照明装置は、上記波長変換部材と、光源部と、波長変換部材と光源との間に設けられたライトガイドと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
上記構成の波長変換部材、光源装置、及び、照明装置によれば、安価でかつ信頼性の高い構成で、複数の波長の光の間のノイズを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係る波長変換部材を含む照明装置の斜視図である。
【
図3】
図1の照明装置から、実施の形態の光源装置の構成部分を抜き出して示す図である。
【
図4】
図3の光源装置において、波長変換部材が励起された場合の白色光と近赤外光の発光時間の関係を示す図である。
【
図5】実施の形態に係る波長変換部材を含む照明装置を内視鏡システムに適用した場合の構成図である。
【
図6】
図5の構成において、照明装置の照明光の発光シーケンスと、撮像装置の撮像シーケンスとの関係を同じ時間軸で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて、本開示に係る実施の形態を詳細に説明する。以下で述べる波長等は、説明のための例示であって、波長変換部材、光源装置及び照明装置の仕様等に応じて適宜変更が可能である。以下では全ての図面において対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、波長変換部材を含む照明装置10の斜視図である。照明装置10は、内視鏡システム50(
図5参照)に適用する場合において、観察対象物に光を照明するための装置となる。照明装置10は、放熱のためのフィン部12、励起光源が配置される光源部14、励起によって互いに異なる波長を有する複数の光を出力する波長変換部材が配置される波長変換部16、及び、内視鏡システム50における光ファイバ56(
図5参照)に対する接続口を含む光ファイバ接続部18を含む。
【0017】
図2は、
図1における光源部14の一部と、波長変換部16、光ファイバ接続部18を含むA部の断面図である。
【0018】
光源部14は、励起光源としてのレーザ光源52と集光レンズ系54(
図5参照)を含む。レーザ光源52としては、青色レーザを用いる。これは説明のための例示であって、光源部14の励起光源は蛍光体を励起できる光源であればよく、照明装置10、内視鏡システム50の仕様によっては、青色レーザ以外のレーザ光源52、あるいは、LED光源を用いてもよい。集光レンズ系54は、レーザ光源52から出射されるレーザビームを絞ってあらかじめ定めた焦点位置22に集光する光学素子である。集光レンズ系54で絞られたレーザ光20は、波長変換部16に入射される。
【0019】
波長変換部16は、波長変換部材30を包み込んで配置する部材である。波長変換部材30は、波長変換部16において光ファイバ接続部18側に配置される。光源部14における集光レンズ系54で絞られて入射されたレーザ光20の焦点位置22は、波長変換部16において光源部14側である。ライトガイド24は、光源部14側のレーザ光20の焦点位置22から波長変換部材30へレーザ光20を均一化しながら導く導光部材である。かかるライトガイド24としては、例えば、ミラーロッドと呼ばれる鏡を4枚張り合わせた筒体を用いることができる。ライトガイド24は波長変換部材30から光ファイバ接続部18との間にも設けることが好ましい。
【0020】
図3は、照明装置10におけるライトガイド24と光ファイバ接続部18とを省略して、光源装置15の構成として抜き出して示す図である。光源装置15は、光源部14と波長変換部材30を含んで構成される。
【0021】
波長変換部材30は、単一の波長を有するレーザ光20を、互いに異なる波長を有する複数の光に変換して、変換された複数の光を出力する光学素子である。ここでは、互いに異なる2つの波長を有する光に変換するために、透明基板32の上に、第一の波長変換材34と、第二の波長変換材36とを積層して、1つのプレート状の波長変換部材30を構成する。
【0022】
透明基板32は、第一の波長変換材34と第二の波長変換材36とを積層して支持し、且つ、レーザ光20を透過する光学基板である。かかる透明基板32としては、サファイア基板を用いる。場合によっては、ガラス基板を用いることができる。
【0023】
第一の波長変換材34は、透明基板32側に配置され、透明基板32に入射するレーザ光20を最初に受け止める。第二の波長変換材36は、第一の波長変換材34の上に積み重ねられて配置され、第一の波長変換材34を通ったレーザ光20を受け止める。
【0024】
第一の波長変換材34と第二の波長変換材36は、それぞれ、レーザ光20によって励起される蛍光材料を含むが、含まれる蛍光材料が相違し、その含有する蛍光材料の相違によって、次の関係を有する。すなわち、第二の波長変換材36の発光波長は、第一の波長変換材34の発光波長よりも長波長であり、第二の波長変換材36の発光時間は、第一の波長変換材34の発光時間よりも長い。
【0025】
第一の波長変換材34は、青色と補色関係にある黄色の波長の蛍光を出射する蛍光材料を含む。人間の目における色を認識する錐体細胞は、黄色の波長の光を感じると白色光と認識するので、黄色の波長の蛍光を出射する蛍光材料は、疑似的に白色蛍光を出射することになる。そこで、以下では、特に断らない限り、白色蛍光を白色光44と呼ぶ。かかる第一の波長変換材34としては、青色の波長450nm近辺の光で励起されて、550nm近辺の波長の黄色を発光するYAG:Ce系蛍光体を用いることができる。これは説明のための例示であって、光源部14から出射される光で励起され、白色光44を出射する蛍光体であればよい。
【0026】
第二の波長変換材36は、近赤外の波長の蛍光を出射する蛍光材料で、レーザ光20の照射が停止した後の蛍光の発光継続時間が、第一の波長変換材34の発光継続時間よりも長くなる蛍光材料を含む。かかる第二の波長変換材36としては、式(1)の組成を有するGSG(Ga,Sc,Ga)系蛍光体が用いられる。
【数1】
ここで、x,y,zは、式(2)の範囲が好ましい。
【数2】
式(1)の組成を有する第二の波長変換材36は、式(2)のパラメータの選択によって、ピーク波長λpとして、約770nmから約820nmの波長を有する近赤外蛍光を出射する。以下では、特に断らない限り、近赤外蛍光を近赤外光46と呼ぶ。また、第二の波長変換材36は、レーザ光20の照射が停止した後の近赤外光46の発光継続時間が、第一の波長変換材34であるYAG:Ce系蛍光体の白色光44の発光継続時間より十分に長くなる。
【0027】
光源装置15において光源部14が間欠点灯する場合には、点灯期間においてレーザ光20が出射されて、波長変換部材30を励起する。
図4は、第一の波長変換材34と第二の波長変換材36とがレーザ光20によって励起された場合に、第一の波長変換材34が出射する白色光44の発光時間と第二の波長変換材36が出射する近赤外光46の発光時間の関係を示す図である。
図4の横軸は時間で、縦軸は、励起光40のON/OFF状態と、白色光44及び近赤外光46の光強度を示す。励起光40のON/OFFは、光源部14におけるレーザ光源52の間欠点灯する場合の点灯状態をON状態とし、消灯状態をOFF状態とする。光強度の単位は任意である。
【0028】
図4において、時間t1は、励起光40がOFF状態からON状態に切り替わる時間であり、時間t2は、励起光40がON状態からOFF状態に切り替わる時間である。時間t1から時間t2の期間が、第一の波長変換材34と第二の波長変換材36とがレーザ光20によって励起される期間である。
【0029】
第一の波長変換材34は、時間t1から白色光44の発光を開始して迅速に白色光44の光強度が高くなりピークに達すると、励起光40の照射が停止する時間t2まで、白色光44の光強度のピークを維持する。時間t2以降は、時間経過とともに白色光44の光強度が低下し、時間t3で実質的に発光がなくなる。白色光44の発光時間は、時間t1から時間t3の期間である。
【0030】
第二の波長変換材36は、時間t1から近赤外光46の発光を開始し、時間経過とともに近赤外光46の光強度が高くなるが、白色光44の光強度の立上りに比較して近赤外光46の光強度の立上りは緩やかである。近赤外光46の光強度がピークに達するのは、励起光40の照射が停止する時間t2近辺である。したがって、近赤外光46は、ピークに達する前後で励起光40の照射がなくなるので、ピークに達してもそのままピークを維持することがなく、時間経過とともに近赤外光46の光強度が低下する。近赤外光46の光強度の低下は、白色光44の光強度の低下に比べかなり緩やかであり、時間t3よりもかなり遅い時間t4で実質的に発光がなくなる。近赤外光46の発光時間は、時間t1から時間t4の期間である。
【0031】
第一の波長変換材34と第二の波長変換材36とが積層された波長変換部材30の全体の発光状態は、白色光44と近赤外光46とが混合した状態である。
図4に示すように、波長変換部材30の全体の発光状態は、時間t1から時間t2の期間は、白色光44の光強度が近赤外光46の光強度より高く、人間の目では白色光状態が支配的となる。これに対し、時間t2の直後からは、近赤外光46の光強度が白色光44の光強度よりも高くなるので、近赤外光状態が支配的となる。換言すれば、近赤外光46が支配的な期間においては、近赤外光46の光強度に対して、白色光44の光強度が無視できる状態が存在し、近赤外光46と白色光44の間のノイズが抑制される。近赤外光46の光強度に対して白色光44の光強度を無視できるようにするには、近赤外光46の白色光44に対するS/N比の仕様によるが、例えば、近赤外光46の光強度に対して、白色光44の光強度を50%以下、好ましくは10%以下とする。
【0032】
上記では、第二の波長変換材36に含まれる蛍光体は、レーザ光20によって励起されて近赤外光46を出射するものとしたが、
図4に示すように、時間t1から時間t3までの期間は、第一の波長変換材34の蛍光体が出射する白色光44の照射を受ける。この白色光44の照射によっても第二の波長変換材36の蛍光体は励起される。この白色光44の励起の影響を受けることで、近赤外光46の発光効率はやや低下するが、発光時間は、単独にレーザ光20のみの励起を受ける場合に比べて長くなる。
【0033】
また、上記では、波長変換部材30は、レーザ光20の入射する側から順に透明基板32、第一の波長変換材34、第二の波長変換材36を積層して構成した。この積層順序は、第二の波長変換材36から出射される近赤外光46が第一の波長変換材34によって吸収されない構造である。レーザ光20が入射する側から順に透明基板32、第二の波長変換材36、第一の波長変換材34と積層すると、第二の波長変換材36から出射した近赤外光46が第一の波長変換材34を通過する際に吸収されて近赤外光46の発光効率が低下する。
【0034】
白色光44の発光時間である(t3-t1)、及び近赤外光46の発光時間である(t4-t1)は、いずれも、内視鏡システム50における画像データの1フレーム期間TF程度に設定される。高速度カメラ等の撮像システムにおける画像データの1フレーム期間TFは、例えば、(1/60)sであるが、内視鏡システム50では、仕様によるが、(1/30)sあるいは(1/15)sの場合がある。励起光が停止してから蛍光が停止するまでの時間を残光時間とすると、第一の波長変換材34に含まれる蛍光材料及び第二の波長変換材36に含まれる蛍光材料の残光時間は、長くても1s以下であり、蓄光性材料の発光時間あるいは残光時間が数時間に及ぶのに比べて圧倒的に短い。
【0035】
上記では、波長変換部材30は、第一の波長変換材34と第二の波長変換材36とが積層されて構成されたプレート状のものとした。これに代えて、レーザ光20の励起を受けて白色光44を出射する第一の蛍光体と、近赤外光46を出射する第二の蛍光体とが混合された混合体をプレート状に成形して波長変換部材30としてもよい。波長変換部材30として積層体型を用いる方が混合体型を用いる場合に比べ、光源装置15、照明装置10の組立精度等が向上するが、コスト面からは、混合体型を用いる方が積層体型を用いる場合に比べ有利になる。
【0036】
図5は、波長変換部16を用いた照明装置10を含む内視鏡システム50の構成図である。内視鏡システム50は、照明装置10から出射される白色光44と近赤外光46とが光ファイバ56を介して対象物8に照射される。そして、照射された対象物8の形状等に依存した光が光ファイバ56を介して撮像装置60に戻され、画像変換部62を介して表示部64に表示されるシステムである。
【0037】
照明装置10は、光源部14としてレーザ光源52と集光レンズ系54とを含む。レーザ光源52は、図視しない制御部の制御の下で、所定のフレーム期間T
Fごとに点滅し、点灯期間において青色のレーザ光20を励起光40として出射する。点灯期間は、
図4における励起光40のON期間である(時間t1から時間t2)である。レーザ光20は集光レンズ系54で絞られ、波長変換部16のライトガイド24を介して波長変換部材30に入射する。
図3で述べたように、ライトガイド24を省略して光源部14と波長変換部材30とを含む部分が光源装置15である。波長変換部16からは
図4で述べた発光関係で、白色光44と近赤外光46とが出射され、対象物8を照射する。対象物8は、生体である。
【0038】
照射された対象物8からは、照射された白色光44及び近赤外光46に対応する白色光45及び近赤外光47が光ファイバ56に導かれる。
【0039】
撮像装置60は、
図5においてR,G,B,IRと示す4種類の撮像素子を含む。Rと示す撮像素子は赤色光を検出し、Gと示す撮像素子は緑色光を検出し、Bと示す撮像素子は青色光を検出し、IRと示す撮像素子は近赤外光を検出する。4種類の撮像素子が検出した4種類の光の強度は、画像変換部62に伝送され、適当な画像信号処理を経て、対象物8の形状等を示す画像データとして表示部64に伝送され、画像として表示される。画像データの伝送は、フレーム期間T
Fごとに行われる。
【0040】
画像変換部62では、IRと示す撮像素子が検出した形状等を特殊な着色を加えた画像データとして表示部64に伝送することができる。例えば、対象物8である生体の血管にインドシアニングリーン(ICG)水溶液を注射し、近赤外光46を照射すると、ICGのエネルギー状態が高まり、照射した近赤外光46よりも若干波長の長い近赤外光47を発する。これを利用して、リンパ腺などの状態観察を行うことができる。
図5の表示部64では、対象物8の生体において、白色光45に基づいた内臓等の形状66と共に、近赤外光47に基づいたリンパ腺の形状部分を着色部68で示す。
【0041】
図6は、内視鏡システム50について、撮像装置60における4種類の撮像素子のそれぞれの検出タイミングと、照明装置10の照射タイミングとの関係を示す図である。
図6の横軸は時間で、時間軸にフレーム期間T
Fを示す。縦軸は、紙面の上方側から下方側に向かって、撮像素子の検出タイミング、照明装置10の照射タイミング、波長変換部16から出射される白色光44及び近赤外光46の光強度である。最下段の特性図は、
図4と同じである。
【0042】
撮像装置60において、4種類の撮像素子は、フレーム期間TFにおいて、Rと示す撮像素子、Gと示す撮像素子、Bと示す撮像素子、IRと示す撮像素子の順に作動し、赤色光、緑色光、青色光、近赤外光の順に時系列で検出が行われる。これに対応し、撮像装置60におけるRと示す撮像素子の動作期間、Gと示す撮像素子の動作期間、及びBと示す撮像素子の動作期間にわたって、照明装置10では白色光44の照射が行われる。また、撮像装置60におけるIRと示す撮像素子の動作期間にわたって、照明装置10では近赤外光46の照射が行われる。
【0043】
従来技術では、白色光44の照射の後に近赤外光46の照射が行われるように時分割照射のための複雑な構成が用いられる。これに対し、照明装置10においては、白色光44を出射する第一の波長変換材34と近赤外光46を出射する第二の波長変換材36とを含む波長変換部16を用い、1つのレーザ光源52から励起光40を波長変換部16に供給する。ここで、第一の波長変換材34から出射される白色光44の発光時間に比べ、第二の波長変換材36から出射される近赤外光46の発光時間が長くなるように、式(1)の組成の蛍光体を第二の波長変換材36に用いる。これによって、白色光44が支配的な期間と、近赤外光46が支配的な期間とを作り出す。照明装置10において白色光44が支配的な期間である時間t1から時間t2の期間を、撮像装置60におけるRと示す撮像素子の動作期間、Gと示す撮像素子の動作期間、及びBと示す撮像素子の動作期間にわたる期間に宛がう。こうすることで、時間t2の直後からフレーム期間TFの終了時間tFEまでの期間は、近赤外光46が支配的な期間となる。撮像装置60におけるIRと示す撮像素子は、近赤外光46が支配的な期間で動作することになる。
【0044】
上記構成によれば、蛍光体の材料特性としての発光時間を適切な構成式を有する蛍光体を用いることで制御して白色光44が支配的な期間と近赤外光46が支配的な期間を作り出す。これによって、上記構成の波長変換部材30、光源装置15、及び、照明装置10において、安価でかつ信頼性の高い構成で、複数の波長の光の間のノイズの抑制が可能になる。
【符号の説明】
【0045】
8 対象物、10 照明装置、12 フィン部、14 光源部、15 光源装置、16 波長変換部、18 光ファイバ接続部、20 レーザ光、22 焦点位置、24 ライトガイド、30 波長変換部材、32 透明基板、34 第一の波長変換材、36 第二の波長変換材、40 励起光、44,45 白色光、46,47 近赤外光、50 内視鏡システム、52 レーザ光源、54 集光レンズ系、56 光ファイバ、60 撮像装置、62 画像変換部、64 表示部、66 形状、68 着色部。