(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】正極活物質およびそれを備えた電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20230203BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20230203BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230203BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230203BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230203BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230203BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230203BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230203BHJP
【FI】
H01M4/505
C01G51/00 C
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/525
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2020541014
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2019020001
(87)【国際公開番号】W WO2020049803
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2018166354
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】内田 修平
(72)【発明者】
【氏名】夏井 竜一
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健祐
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/084536(WO,A1)
【文献】特開2016-26981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/40
H01M 10/0566
H01M 10/052
H01M 10/0562
C01G 51/00
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、
F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素、および
Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素、
を含有し、かつ
以下の数式(I)が充足される、
0.05≦積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)≦0.90 (I)
ここで、
積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、積分強度I
(43°-46°)に対する積分強度I
(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I
(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第1ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I
(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第2ピークの積分強度である、
正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質であって、
前記積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、0.11以上0.85以下である、
正極活物質。
【請求項3】
請求項2に記載の正極活物質であって、
前記積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、0.44以上0.85以下である、
正極活物質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、層状構造およびスピネル構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造に属する結晶構造を有する、
正極活物質。
【請求項5】
請求項4に記載の正極活物質であって、
前記層状構造の空間群は、空間群C2/mおよび空間群R-3mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群である、
正極活物質。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、
空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相、および
空間群Fm-3m以外の空間群に属する結晶構造を有する第二の相、
を含む多相混合物である、
正極活物質。
【請求項7】
請求項6に記載の正極活物質であって、
前記第二の相の結晶構造は、空間群Fd-3m、空間群R-3m、および空間群C2/mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群に属する、
正極活物質。
【請求項8】
請求項7に記載の正極活物質であって、
前記第二の相の結晶構造は、空間群Fd-3mに属する、
正極活物質。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、Fを含有する、
正極活物質。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、Bi、La、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する、
正極活物質。
【請求項11】
請求項10に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、Biを含有する、
正極活物質。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、Mnをさらに含有する、
正極活物質。
【請求項13】
請求項12に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、CoおよびNiをさらに含有する、
正極活物質。
【請求項14】
請求項1から8のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、組成式Li
x(A
zMe
1-z)
yO
αQ
βで表される平均組成を有する、
正極活物質。
ここで、
Aは、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Qは、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、かつ
以下の5つの数式が充足される。
0.5≦x≦1.5、
0.5≦y≦1.0、
0<z≦0.3、
1≦α<2、かつ、
0<β≦1。
【請求項15】
請求項14に記載の正極活物質であって、
以下の4つの数式
1.05≦x≦1.4、
0.6≦y≦0.95、
1.2≦α<2、および
0<β≦0.8
が充足される、
正極活物質。
【請求項16】
請求項15に記載の正極活物質であって、
以下の2つの数式
1.33≦α<2、および
0<β≦0.67。
が充足される、
正極活物質。
【請求項17】
請求項16に記載の正極活物質であって、
以下の4つの数式
1.15≦x≦1.3、
0.7≦y≦0.85、
1.8≦α≦1.95、および
0.05≦β≦0.2。
が充足される、
正極活物質。
【請求項18】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有し、
前記リチウム複合酸化物は、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつ
以下の数式(I)が充足される、
0.05≦積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)≦0.90 (I)。
ここで、
積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、積分強度I
(43°-46°)に対する積分強度I
(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I
(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第1ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I
(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第2ピークの積分強度である、
正極活物質。
【請求項19】
正極活物質であって、
リチウム複合酸化物
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、
空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相、および
空間群Fm-3m以外の空間群に属する結晶構造を有する第二の相、
を含む多相混合物であり、
前記リチウム複合酸化物は、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつ
以下の数式(I)が充足される、
0.05≦積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)≦0.90 (I)。
ここで、
積分強度比I
(18°-20°)/I
(43°-46°)は、積分強度I
(43°-46°)に対する積分強度I
(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I
(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第1ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I
(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第2ピークの積分強度である、
正極活物質。
【請求項20】
請求項19に記載の正極活物質であって、
前記第二の相の結晶構造は、空間群Fd-3m、空間群R-3m、および空間群C2/mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群に属する、
正極活物質。
【請求項21】
請求項20に記載の正極活物質であって、
前記第二の相の結晶構造は、空間群Fd-3mに属する、
正極活物質。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物を、主成分として含む、
正極活物質。
【請求項23】
電池であって、
請求項1から22のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極、
負極、および
電解質、
を備える、
電池。
【請求項24】
請求項23に記載の電池であって、
前記負極は、
(i)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質、および
(ii)材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料
からなる群から選択される少なくとも1つを含み、かつ
前記電解質は、非水電解液である、
電池。
【請求項25】
請求項23に記載の電池であって、
前記負極は、
(i)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質、および
(ii)材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料
からなる群から選択される少なくとも1つを含み、かつ
前記電解質は、固体電解質である、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質およびそれを備えた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、Li、Ni、Co、およびMnを必須として含むリチウム含有複合酸化物を開示している。特許文献1に開示されたリチウム複合酸化物は、空間群R-3mの空間群を有し、かつ1.4208~1.4228ナノメートルのc軸格子定数を有する。当該リチウム複合酸化物は、a軸格子定数とc軸格子定数が(3a+5.615)≦c≦(3a+5.655)の関係を満たす結晶構造を有する。さらに、リチウム複合酸化物では、X線回析パターンにおける(104)のピークに対する(003)のピークの積分強度比(I003/I104)が1.21~1.39である。
【0003】
特許文献2は、化学組成が一般式Li1+xMyMn2-x-yO4で表され、最大粒子径D100が15μm以下であり、(400)面のX線回折による半価幅が0.30以下、かつ、(400)面のピーク強度I400の(111)面のピーク強度I111に対する比I400/I111が0.33以上であることを特徴とするスピネル型リチウムマンガン酸化物を開示している。特許文献1においては、MはAl,Co,Ni,Mg,Zr及びTiからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素であり、xの値は0以上0.33以下であり、かつyの値は0以上0.2以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-26981号公報
【文献】特開2013-156163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、高い容量を有する長寿命の電池のために用いられる正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による正極活物質は、
リチウム複合酸化物
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、
F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素、および
Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素、
を含有し、かつ
以下の数式(I)が充足される、
0.05≦積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)≦0.90 (I)
ここで、
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、積分強度I(43°-46°)に対する積分強度I(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第1ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第2ピークの積分強度である。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、高容量の長寿命の電池を実現するための正極活物質を提供する。本開示は当該正極活物質を含む正極、負極、および電解質を具備する電池を提供する。当該電池は、高い容量および長い寿命を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態2における10の断面図を示す。
【
図2】
図2は、実施例1および比較例1の正極活物質の粉末X線回折パターンを示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1および比較例1の電池の充放電を繰り返す際の容量維持率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態が、説明される。
【0010】
(実施の形態1)
実施の形態1における正極活物質は、
リチウム複合酸化物
を含み、
ここで、
前記リチウム複合酸化物は、
F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素、および
Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素、
を含有し、かつ
以下の数式(I)が充足される、
0.05≦積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)≦0.90 (I)
ここで、
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、積分強度I(43°-46°)に対する積分強度I(18°-20°)の比に等しく、
積分強度I(43°-46°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、43°以上46°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第1ピークの積分強度であり、かつ
積分強度I(18°-20°)は、前記リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、18°以上20°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第2ピークの積分強度である。
【0011】
実施の形態1による正極活物質は、電池の容量および寿命を向上させるために用いられる。本明細書において用いられる用語「長寿命の電池」とは、充放電サイクルを繰り返した後でも、高い放電容量維持率を有する電池を意味する。
【0012】
実施の形態1における正極活物質を具備するリチウムイオン電池は、3.4V程度の酸化還元電位(Li/Li+基準)を有する。当該リチウムイオン電池は、概ね、260mAh/g以上の容量を有する。当該リチウムイオン電池は、概ね、3500Wh/L以上のエネルギー密度を有する。当該リチウムイオン電池は、4000Wh/L以上のエネルギー密度を有していてもよい。本明細書において用いられる用語「電池のエネルギー密度」は、初回放電容量(単位:mAh/g)、平均作動電圧(単位:ボルト)、および活物質の真密度(単位:g/cm3)の積で表される。すなわち、高エネルギー密度を有する電池とは、高い容量を有し、高電位で動作し、かつ重い活物質を含んでいる電池を意味する。
【0013】
後述されるリチウム複合酸化物(B)およびリチウム複合酸化物(C)を除き、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。当該少なくとも1種の元素により、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。電気化学的に不活性なアニオンによって、リチウム複合酸化物の酸素原子の一部を置換してもよい。言い換えれば、F、Cl、N、及びSからなる群より選択される少なくとも一種のアニオンによって酸素原子の一部を置換してもよい。この置換により、結晶構造が安定化すると考えられる。その結果、電池の放電容量または作動電圧が向上し、エネルギー密度が高くなると考えられる。大きなイオン半径を有するアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、Liの拡散性が向上すると考えられる。カチオンミキシングが比較的多い場合(例えば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下である場合)においても、結晶構造が安定化する。その結果、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になり、電池の容量をさらに向上できると考えられる。
【0014】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下である。積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、リチウム複合酸化物におけるカチオンミキシングの指標として用いられ得るパラメータである。本開示における「カチオンミキシング」とは、リチウム複合酸化物の結晶構造において、リチウムイオンおよび遷移金属のカチオンが互いに置換されている状態を意味する。カチオンミキシングが少なくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きくなる。カチオンミキシングが多くなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さくなる。
【0015】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下であるので、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物では、リチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間で十分にカチオンミキシングが生じていると考えられる。このため、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物においては、リチウムの三次元的な拡散経路が増大していると考えられる。その結果、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能である。このため、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、従来の規則配列型の(すなわち、カチオンミキシングの量が少ない)リチウム複合酸化物と比較して、高容量の電池を得るために適している。
【0016】
電池の容量をさらに向上させるために、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.11以上0.85以下であってもよい。
【0017】
電池の容量をさらに向上させるために、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.44以上0.85以下であってもよい。
【0018】
電池の容量をさらに向上させるために、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.44以上0.70以下であってもよい。
【0019】
電池の容量をさらに向上させるために、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.50以上0.79以下であってもよい。
【0020】
X線回折ピークの積分強度は、例えば、XRD装置に付属のソフトウエア(例えば、株式会社リガク社製、粉末X線回折装置に付属の商品名PDXLを有するソフトウェr)を用いて算出することができる。その場合、X線回折ピークの積分強度は、例えば、X線回折ピークの高さと半値幅から面積を算出することで得られる。
【0021】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群C2/mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°の範囲に存在する最大ピークは(001)面を、反映している。回折角2θが43°以上46°の範囲に存在する最大ピークは、(114)面を、反映している。
【0022】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群R-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは(003)面を、反映している。回折角2θが43°以上46°の範囲に存在する最大ピークは、(104)面を、反映している。
【0023】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群Fm-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°の範囲には、回析ピークは存在しない。回折角2θが43°以上46°の範囲に存在する最大ピークは、(200)面を、反映している。
【0024】
一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンでは、空間群Fd-3mに属する結晶構造の場合、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークは(111)面を、反映している。回折角2θが43°以上46°の範囲に存在する最大ピークは、(400)面を、反映している。
【0025】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。例えば、組成式においてリチウムの量が多いリチウム複合酸化物を含むLi過剰正極材料では、結晶構造に含まれる遷移金属だけでなく酸素も電荷補償に関与し、電池の容量を高めていると考えられている。しかし、酸素が電荷補償に関与する場合、充放電プロセス中に一部の酸素がガス化して脱離することで性能が劣化することが報告されている。実施の形態1におけるリチウム複合酸化物では、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の重い元素によって遷移金属の一部が置換されている。当該重い元素および酸素の間の共有結合性が向上し、充放電プロセス中の酸素の脱離を抑制できる。このため、実施の形態1による正極活物質は、繰り返し充放電後でも高い放電容量維持率を有すると考えられる。
【0026】
繰り返し充放電後の放電容量維持率をさらに高めるために、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Bi、La、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。
【0027】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Biを含んでもよい。
【0028】
リチウム複合酸化物の遷移金属の部分に、大きな原子番号を有するBiが配置されることによって、Biの酸素への結合性が強固になる。その結果、充放電プロセス中にガス化する酸素の量がさらに低減する。このため、充放電時における酸素の脱離をより一層抑制することができるため、結晶構造が安定化する。Biは重元素であるため、正極活物質の単位体積当たりのエネルギー密度も向上する。したがって、リチウム複合酸化物がBiを含む場合、繰り返し充放電後の放電容量維持率がさらに高められる。
【0029】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Fを含んでもよい。
【0030】
フッ素原子は電気陰性度が高いため、酸素の一部をフッ素原子で置換することにより、カチオンとアニオンとの相互作用が大きくなり、放電容量または動作電圧が向上する。同様の理由により、Fが含まれない場合と比較して、Fの固溶により電子が局在化する。このため、充電時の酸素脱離が抑制され、結晶構造が安定する。カチオンミキシングの量が比較的多い場合(例えば、積分強度比が0.05以上0.90以下である場合)においても、結晶構造が安定化する。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能になると考えられる。これらの効果が総合的に作用することで、電池の容量はさらに向上する。
【0031】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、リチウム原子だけでなく、リチウム原子以外の原子をも含む。リチウム原子以外の原子の例は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、またはAlである。リチウム複合酸化物は、1種類のリチウム原子以外の原子を含んでいてもよい。これに代えて、リチウム複合酸化物は、2種類以上のリチウム原子以外の原子を含んでいてもよい。
【0032】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Ti、Cr、Ru、W、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。
【0033】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも一種の3d遷移金属元素を含んでもよい。
【0034】
実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、Mnを含んでもよい。
【0035】
Mnおよび酸素の混成軌道は容易に形成されるので、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、電池の容量はさらに向上する。
【0036】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1において、リチウム複合酸化物は、Mn、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含んでもよい。
【0037】
このようなリチウム複合酸化物においては、酸素と混成軌道を容易に形成する遷移金属が用いられているので、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、電池の容量およびエネルギー密度を向上させることができる。
【0038】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Mnだけでなく、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、及びPからなる群より選択される少なくとも1種の元素をも含んでもよい。
【0039】
当該少なくとも1種の元素が含まれる場合には、Li以外のカチオン元素としてMnのみを用いた場合と比べ、充電時における酸素脱離がより効果的に抑制される。このため、結晶構造が安定化し、電池の容量およびエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【0040】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Mnだけでなく、CoおよびNiをもさらに含んでもよい。
【0041】
Mnは酸素との混成軌道を容易に形成する。Coは結晶構造を安定化させる。NiはLiの脱離を促進する。これら3つの効果により結晶構造はさらに安定化し、電池の容量を向上できる。
【0042】
次に、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の化学組成の一例を説明する。
【0043】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物のは、以下の組成式(I)により表される平均組成を有していてもよい。
Lix(AzMe1-z)yOαQβ ・・・(1)
ここで、
Aは、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、
Qは、F、Cl、N、Sからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、かつ
以下の5つの数式が充足される。
0.5≦x≦1.5、
0.5≦y≦1.0、
0<z≦0.3、
1≦α<2、および、
0<β≦1。
上記のリチウム複合酸化物は、電池の容量を向上させる。
【0044】
Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、およびZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素(すなわち、少なくとも一種の3d遷移金属元素)を含んでもよい。
【0045】
リチウム複合酸化物の「平均組成」とは、リチウム複合酸化物の各相の組成の違いを考慮せずにリチウム複合酸化物の元素を分析することによって得られる組成である。典型的には、リチウム複合酸化物の一次粒子のサイズと同程度、または、それよりも大きな試料を用いて元素分析を行なうことによって得られる組成を意味する。第1の相および第2の相は、互いに同一の化学組成を有してもよい。もしくは、第1の相および第2の相は、互いに異なる組成を有していてもよい。
【0046】
上述の平均組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより決定することができる。
【0047】
Aが化学式A’z1A”z2によって表される場合、「z=z1+z2」が充足される。例えば、AがBi0.05La0.05である場合には、「z=0.05+0.05=0.1」。MeおよびQが、それぞれ独立して2以上の元素から構成される場合であっても、Aの場合と同様に計算できる。
【0048】
xの値が1.05以上の場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0049】
xの値が1.5以下である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化し、容量が向上する。
【0050】
yの値が0.5以上である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0051】
yの値が1.0以下である場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなり、容量が向上する。
【0052】
zの値が0.005以上である場合、充放電プロセス中の酸素の脱離をさらに抑制され、繰り返し充放電後の放電容量維持率がさらに高くなる。
【0053】
zの値が0.2以下の場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化し、容量が向上する。
【0054】
αの値が1以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、容量が向上する。
【0055】
αの値が2.0よりも小さい場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0056】
βの値が0を超える場合、Qの電気化学的に不活性な影響により、Liが離脱した後であっても、結晶構造は安定なまま維持される。その結果、容量が向上する。
【0057】
βの値が1以下である場合、Qの電気化学的に不活性な影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、容量が向上する。
【0058】
電池の容量および寿命をさらに向上させるために、以下の4つの数式が満たされてもよい。
1.05≦x≦1.4、
0.6≦y≦0.95、
1.2≦α<2、および
0<β≦0.8。
【0059】
電池の容量および寿命をさらに向上させるために、以下の2つの条件が満たされてもよい。
1.33≦α<2、および
0<β≦0.67。
【0060】
電池の容量および寿命をさらに向上させるために、以下の4つの条件が満たされてもよい。
1.15≦x≦1.3、
0.7≦y≦0.85、
1.8≦α≦1.95、および
0.05≦β≦0.2。
【0061】
zの値は、0.2以下であってもよく、0.15以下であってもよく、または0.125以下であってもよい。zの値は、0.005以上であってもよく、0.01以上であってもよく、または0.0125以上であってもよい。
【0062】
電池の容量をさらに向上させるために、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Ti、Cr、Na、Mg、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。
【0063】
Meは、Mnを含んでもよい。すなわち、Meは、Mnであってもよい。
【0064】
もしくは、Meは、Mnだけでなく、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素をも含んでもよい。
【0065】
すでに説明したように、Mnは酸素と混成軌道を容易に形成するので、充電時における酸素脱離が抑制される。カチオンミキシングの量が比較的多い場合(例えば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下である場合)においても、結晶構造が安定化し、電池の容量をさらに向上できる。
【0066】
Meは、Mnだけなく、CoおよびNiをも含んでもよい。
【0067】
Mnは酸素との混成軌道を容易に形成する。Coは結晶構造を安定化させる。NiはLiの脱離を促進する。これら3つの効果により結晶構造はさらに安定化し、電池の容量がさらに向上する。
【0068】
実施の形態1によるリチウム複合酸化物において、Liの一部は、NaあるいはKのようなアルカリ金属で置換されていてもよい。
【0069】
実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を主成分として含んでもよい。言い換えれば、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、正極活物質の全体に対する上述のリチウム複合酸化物の質量比が50%以上となるように、含んでもよい。このような正極活物質は、電池の容量をさらに向上させる。
【0070】
電池の容量をさらに向上させるために、当該質量比は70%以上であってもよい。
【0071】
電池の容量をさらに向上させるために、当該質量比は90%以上であってもよい。
【0072】
実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物だけでなく不可避的な不純物をも含んでもよい。
【0073】
実施の形態1における正極活物質は、未反応物質として、その出発物質を含んでいてもよい。実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物の合成時に発生する副生成物を含んでいてもよい。実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物の分解により発生する分解生成物を含んでいてもよい。
【0074】
実施の形態1における正極活物質は、不可避的な不純物を除いて、上述のリチウム複合酸化物のみを含んでもよい。
【0075】
リチウム複合酸化物のみを含む正極活物質は、電池の容量をさらに向上させる。
【0076】
次に、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の結晶構造が説明される。さらに、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の特性(例えば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)およびリチウム複合酸化物の間の関係)も、より詳しく説明される。
【0077】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の結晶構造は、限定されない。電池の容量をさらに向上させるために、例えば、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、層状構造またはスピネル構造に属する結晶構造を有し得る。
【0078】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、層状構造を有していてもよい。実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が層状構造を有する場合、層状構造に属する結晶構造は、空間群C2/mおよび空間群R-3mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群に属する結晶構造であってもよい。
【0079】
層状構造に属する結晶構造は、六方晶型の結晶構造または単斜晶型の結晶構造であってもよい。この場合、Liの拡散性がさらに向上し、電池の容量がさらに向上する。
【0080】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、スピネル構造を有していてもよい。実施の形態1におけるリチウム複合酸化物がスピネル構造を有する場合、当該リチウム複合酸化物の結晶構造は、例えば、空間群Fd-3mに属する。
【0081】
電池の容量をさらに向上させるために、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相および空間群Fm-3m以外の空間群(例えば、空間群Fd-3m、空間群R-3m、および空間群C2/mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群に属する結晶構造)に属する結晶構造を有する第二の相を含む多相混合物であってもよい。
【0082】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の例は、以下の項目(A)~(C)の3つのリチウム複合酸化物である。
(A) 層状構造(すなわち、空間群C2/mおよび空間群R-3mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群に属する結晶構造)を有するリチウム複合酸化物、
(B) スピネル構造(すなわち、空間群Fd-3mに属する結晶構造)を有するリチウム複合酸化物、または
(C) 空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相および空間群Fm-3m以外の空間群(例えば、空間群Fd-3m、空間群R-3m、および空間群C2/mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群に属する結晶構造)に属する結晶構造を有する第二の相を含む多相混合物から形成されるリチウム複合酸化物。
【0083】
以下、上記(A)、(B)、および(C)のリチウム複合酸化物を、それぞれ、「リチウム複合酸化物(A)」、「リチウム複合酸化物(B)」、および「リチウム複合酸化物(C)」と記載する。以下、(A)~(C)の区別のない「リチウム複合酸化物」の説明は、結晶構造を限定せずに、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の全てにあてはまる。
【0084】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の空間群は、X線回折測定を用いるだけでなく、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」という)を用いた電子線回折測定を用いた公知の手法により電子線回折パターンを観察することで、特定可能である。
【0085】
<リチウム複合酸化物(A)>
リチウム複合酸化物(A)においては、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.05以上0.90以下である。
【0086】
リチウム複合酸化物(A)において、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05よりも小さければ、遷移金属層におけるLiの占有率が過剰に高くなり、熱力学的に結晶構造が不安定となる。その結果、充電時のLi脱離に伴い、結晶構造が崩壊し、容量が不十分となる。
【0087】
リチウム複合酸化物(A)において、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きい場合、カチオンミキシングの抑制により遷移金属層におけるLiの占有率が低くなり、Liの三次元的な拡散経路が減少する。その結果、Liの拡散性が低下し、容量が不十分となる。
【0088】
このように、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.05以上0.90以下であるので、リチウム複合酸化物(A)において、リチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間で十分にカチオンミキシングが生じていると考えられる。その結果、リチウム複合酸化物(A)においては、リチウムの三次元的な拡散経路が増大しているので、より多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能であると考えられる。
【0089】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.05以上0.90以下であるので、リチウム複合酸化物(A)において、Li層内におけるLiの高い拡散性だけでなく、遷移金属層内においてもLiの拡散性が向上している。さらに、Li層および遷移金属層の間でのLiの拡散性も向上している。その結果、リチウム複合酸化物(A)は、従来の規則配列型のリチウム複合酸化物(すなわち、カチオンミキシングの量が少ないリチウム複合酸化物)と比較して、高容量の電池を得るために適している。
【0090】
特許文献1は、層状構造である空間群R-3mに属する結晶構造を有し、かつリチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間で十分にカチオンミキシングが生じていないリチウム複合酸化物を含む正極活物質を開示している。従来技術においては、特許文献1に開示されているように、リチウム複合酸化物においてカチオンミキシングは抑制されるべきであると考えられていた。
【0091】
当該リチウム複合酸化物(A)は、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下であるので、電池の容量をさらに向上させることができる。
【0092】
リチウム複合酸化物(A)は、
空間群C2/mに属する結晶構造を有する単相のリチウム複合酸化物(A1)、
空間群R-3mに属する結晶構造を有する単相のリチウム複合酸化物(A2)、または
空間群C2/mに属する結晶構造を有する相(すなわち、C2/m相)および空間群R-3mに属する結晶構造を有する相(すなわち、R-3m相)を含む多相混合物のリチウム複合酸化物(A3)
であってもよい。
【0093】
(リチウム複合酸化物(A1))
以下、リチウム複合酸化物(A1)が説明される。リチウム複合酸化物(A1)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下であるため、遷移金属層に相当する「2bサイトおよび4gサイトの合計」におけるLiの占有率が、例えば、25モル%以上50モル%未満となると考えられる。その結果、Li層内におけるLiの高い拡散性だけでなく、遷移金属層内においてもLiの拡散性が向上している。さらに、Li層および遷移金属層の間でのLiの拡散性も向上している。このため、リチウム複合酸化物(A)は、従来の規則配列型のリチウム複合酸化物(すなわち、カチオンミキシングの量が少ないリチウム複合酸化物)と比較して、高容量の電池を得るために適している。
【0094】
リチウム複合酸化物(A1)は、空間群C2/mに属する結晶構造を有し、かつ、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有するため、Liを多く引き抜いた際にも、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の三次元的なネットワークが形成される。その結果、結晶構造を安定に維持できる。従って、リチウム複合酸化物(A1)を含む正極活物質は、高容量の電池を得るために適している。さらに、同様の理由で、サイクル特性に優れた電池を得るためにも適していると考えられる。
【0095】
空間群C2/mに属する結晶構造では、空間群R-3mに属する層状構造と比べ、Liを多く引き抜いた際に、層状構造が維持されやすい。その結果、空間群C2/mに属する結晶構造は崩壊しにくいと考えられる。
【0096】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物(A1)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.11以上0.85以下であってもよい。
【0097】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物(A1)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.44以上0.85以下であってもよい。
【0098】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物(A1)では、以下の4つの数式が充足されてもよい。
1.05≦x≦1.4、
0.6≦y≦0.95、
1.33≦α<2、および
0<β≦0.67。
【0099】
xの値が1.05以上の場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0100】
xの値が1.4以下である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0101】
yの値が0.6以上である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0102】
yの値が0.95以下である場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0103】
αの値が1.33以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、容量が向上する。
【0104】
αの値が2.0よりも小さい場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0105】
βの値が0を超える場合、Qの電気化学的に不活性な影響により、Liが離脱した後であっても、結晶構造は安定なまま維持される。このため、容量が向上する。
【0106】
βの値が0.67以下である場合、Qの電気化学的に不活性な影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、容量が向上する。
【0107】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物(A1)では、以下の4つの数式が充足されてもよい。
1.15≦x≦1.3、
0.7≦y≦0.85、
1.8≦α≦1.95、および
0.05≦β≦0.2。
【0108】
Liの(A+Me)に対するモル比は、数式(x/y)により表される。
【0109】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.3以上1.9以下であってもよい。
【0110】
モル比(x/y)が1よりも大きい場合では、例えば、組成式LiMnO2で示される従来の正極活物質におけるLi原子数の比よりも、実施の形態1による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物におけるLi原子数の比が高い。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となる。
【0111】
モル比(x/y)が1.3以上の場合、利用できるLi量が多いので、Liの拡散パスが適切に形成される。このため、モル比(x/y)が1.3以上の場合、電池の容量がさらに向上する。
【0112】
モル比(x/y)が1.9以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が少なくなることを防ぐことができる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。充電時のLi脱離時の結晶構造の不安定化を原因とする放電時のLi挿入効率の低下が抑制される。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0113】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.3以上1.7以下であってもよい。
【0114】
OのQに対するモル比は、数式(α/β)で示される。
【0115】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(α/β)は、9以上39以下でもよい。
【0116】
モル比(α/β)が9以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。さらに、電気化学的に不活性なQの影響を小さくできるため、電子伝導性が向上する。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0117】
モル比(α/β)が39以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができる。これにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。さらに、電気化学的に不活性なQの影響が発揮されることにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0118】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(α/β)は、9以上19以下でもよい。
【0119】
上述されたように、リチウム複合酸化物は、組成式Lix(AzMe1-z)yOαQβで表される平均組成を有していてもよい。したがって、リチウム複合酸化物は、カチオン部分およびアニオン部分から構成される。カチオン部分は、Li、A、およびMeから構成される。アニオン部分は、OおよびQから構成される。Li、AおよびMeから構成されるカチオン部分の、OおよびQから構成されるアニオン部分に対するモル比は、数式((x+y)/(α+β))で示される。
【0120】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、0.75以上1.2以下であってもよい。
【0121】
モル比((x+y)/(α+β))が0.75以上である場合、リチウム複合酸化物の合成時に不純物が多く生成することを防ぐことができ、電池の容量がさらに向上する。
【0122】
モル比((x+y)/(α+β))が1.2以下の場合、リチウム複合酸化物のアニオン部分の欠損量が少なくなるので、充電によってリチウムがリチウム複合酸化物から離脱した後でも、結晶構造は安定に維持される。
【0123】
電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、0.75以上1.0以下であってもよい。
【0124】
モル比((x+y)/(α+β))が1.0以下の場合、結晶構造内でカチオンの欠損が生じ、Li拡散パスが増加する。その結果、電池の容量が向上する。初期状態においてカチオンの欠損がランダムに配列されるため、Liが脱離した際にも結晶構造が不安定化しない。その結果、サイクル特性に優れた、長寿命な電池が得られる。
【0125】
リチウム複合酸化物(A1)において、Meに対するMnのモル比は60%以上であってもよい。言い換えれば、Mnを含むMe全体に対するMnのモル比(すなわち、Mn/Meのモル比)は、0.6以上1.0以下であってもよい。
【0126】
当該モル比が0.6以上1.0以下である場合には、酸素と混成軌道を容易に形成するMnが十分に含まれるため、充電時における酸素脱離がさらに抑制される。その結果、結晶構造が安定化し、電池の容量が向上する。
【0127】
Meは、Mnだけでなく、CoおよびNiをも含んでもよい。
【0128】
Mnは酸素との混成軌道を容易に形成する。Coは結晶構造を安定化させる。NiはLiの脱離を促進する。これら3つの効果により結晶構造はさらに安定化し、電池の容量を向上できる。
【0129】
Meは、B、Si、P、及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の元素を、Meに対する当該少なくとも一種の元素のモル比が20%以下となるように、含んでもよい。
【0130】
B、Si、P、及びAlは、高い共有結合性を有するので、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。その結果、サイクル特性が向上し、電池の寿命をさらに伸ばすことができる。
【0131】
(リチウム複合酸化物(A2))
以下、リチウム複合酸化物(A2)が説明される。電池の容量およびエネルギー密度を向上するために、リチウム複合酸化物(A2)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.62以上0.90以下であってもよい。
【0132】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きい場合、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が減少する。その結果、リチウムの拡散が阻害され、容量およびエネルギー密度が減少する。
【0133】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.62よりも小さい場合、結晶構造が不安定となる。その結果、充電時のLi脱離が原因で結晶構造が崩壊し、容量およびエネルギー密度が減少する。
【0134】
リチウム複合酸化物(A2)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.62以上0.90以下であるため、リチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間で十分にカチオンミキシングが生じていると考えられる。その結果、リチウムの三次元的な拡散経路が増大していると考えられる。このため、実施の形態1のリチウム複合酸化物では、従来の正極活物質と比較して、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能である。
【0135】
リチウム複合酸化物(A2)では、空間群R-3mに属する結晶構造を有し、かつ、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.62以上0.90以下であるため、Liを多く引き抜いた際にも、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の三次元的なネットワークが形成される。その結果、結晶構造を安定に維持できる。従って、リチウム複合酸化物(A2)を含む正極活物質は、高容量の電池を得るために適している。さらに、同様の理由で、サイクル特性に優れた電池を得るためにも適していると考えられる。
【0136】
電池のエネルギー密度を高めるために、リチウム複合酸化物(A2)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、0.67以上0.85以下であってもよい。
【0137】
電池のエネルギー密度を高めるために、リチウム複合酸化物(A2)では、αの値は、1.67以上1.95以下であってもよい。
【0138】
電池のエネルギー密度を高めるために、リチウム複合酸化物(A2)では、βの値は、0.05以上0.33以下であってもよい。
【0139】
電池のエネルギー密度を高めるために、リチウム複合酸化物(A2)では、モル比(x/y)は、0.5以上3.0以下であってもよい。
【0140】
モル比(x/y)が0.5以上の場合、利用できるLi量が多いので、Liの拡散パスが適切に形成される。その結果、電池のエネルギー密度がさらに向上する。モル比(x/y)が3.0以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が少なくなることを防ぐことができる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。充電時のLi脱離時の結晶構造の不安定化を原因とする放電時のLi挿入効率の低下が抑制される。このため、電池のエネルギー密度がさらに向上する。
【0141】
リチウム複合酸化物(A2)では、モル比(x/y)は、1.5以上2.0以下であってもよい。
【0142】
モル比(x/y)が1.5以上2.0以下の場合、従来の正極活物質(例えば、LiMnO2)と比較して、Liが位置するサイトにおけるLi原子数の割合が高い。その結果、より多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能となり、電池のエネルギー密度を向上できる。
【0143】
電池のエネルギー密度を高めるために、リチウム複合酸化物(A2)では、モル比(α/β)は5以上39以下であってもよい。
【0144】
モル比(α/β)が5以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。さらに、電気化学的に不活性なQの影響を小さくできるため、電子伝導性が向上する。このため、電池の容量がさらに向上する。モル比(α/β)が39以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができる。これにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。さらに、電気化学的に不活性なQの影響が発揮されることにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。その結果、電池の容量はさらに向上する。
【0145】
電池のエネルギー密度を高めるために、リチウム複合酸化物(A2)では、モル比(α/β)は9以上19以下であってもよい。
【0146】
電池のエネルギー密度を高めるために、リチウム複合酸化物(A2)では、モル比((x+y)/(α+β))は0.75以上1.15以下であってもよい。
【0147】
モル比((x+y)/(α+β))が0.75以上である場合、リチウム複合酸化物の合成時に不純物が多く生成することを防ぐことができ、電池の容量がさらに向上する。モル比((x+y)/(α+β))が1.15以下の場合、リチウム複合酸化物のアニオン部分の欠損量が少なくなるので、充電によってリチウムがリチウム複合酸化物から離脱した後でも、結晶構造は安定に維持される。
【0148】
リチウム複合酸化物(A2)において、Meに対するMnのモル比は40%以上であってもよい。言い換えれば、Mnを含むMe全体に対するMnのモル比は、0.4以上1.0以下であってもよい。
【0149】
当該モル比が0.4以上1.0以下である場合には、酸素と混成軌道を容易に形成するMnが十分に含まれるため、充電時における酸素脱離がさらに抑制される。その結果、結晶構造が安定化し、電池のエネルギー密度が向上する。
【0150】
(リチウム複合酸化物(A3))
以下、リチウム複合酸化物(A3)が説明される。リチウム複合酸化物(A3)は、空間群C2/mに属する結晶構造を有するC2/m相および空間群R-3mに属する結晶構造を有するR-3m相を含む。
【0151】
空間群C2/mに属する結晶構造は、Li層と遷移金属層とが交互に積層した構造を有する。遷移金属層には、遷移金属だけでなく、Liが含有されてもよい。そのため、空間群C2/mに属する結晶構造には、一般的に用いられる従来材料であるLiCoO2よりも、より多くの量のLiが当該結晶構造の内部に吸蔵される。
【0152】
しかし、遷移金属層が空間群C2/mに属する結晶構造のみから形成される場合、遷移金属層におけるLiの移動障壁が高い(すなわち、Liの拡散性が低い)ため、急速充電時には容量が低下してしまうと考えられる。
【0153】
一方で、空間群R-3mに属する結晶構造は、二次元的にLiの拡散経路を有する。そのため、空間群R-3mに属する結晶構造は、Liの高い拡散性を有する。
【0154】
リチウム複合酸化物(A3)は、空間群C2/mに属する結晶構造および空間群R-3mに属する結晶構造の両者を含むため、高容量の電池を実現できる。当該電池は、急速充電に適していると考えられる。
【0155】
リチウム複合酸化物(A3)において、C2/m相からなる複数の領域と、R-3m相からなる複数の領域とが、3次元的にランダムに配列していてもよい。
【0156】
3次元的なランダム配列は、Liの3次元的な拡散経路を拡大させるため、より多くの量のリチウムを挿入および脱離させることが可能となる。その結果、電池の容量が向上する。
【0157】
上述されたように、リチウム複合酸化物が多相混合物であるかどうかは、上述されたように、X線回折測定法および電子線回折測定法によって判定されうる。具体的には、X線回折測定法および電子線回折測定法によって取得されたリチウム複合酸化物のスペクトルに複数の相の特徴を示すピークが含まれるならば、そのリチウム複合酸化物は多相混合物であると判定される。
【0158】
リチウム複合酸化物(A3)では、以下の数式(II)が充足されてもよい。
0.05≦積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)≦0.26 (II)
ここで、
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、積分強度I(18°-20°)に対する積分強度I(20°-23°)の比であり、
積分強度I(20°-23°)は、リチウム複合酸化物のX線回析パターンにおいて、20°以上23°以下の回折角2θの範囲に存在する最大ピークである第3ピークの積分強度である。
【0159】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は、リチウム複合酸化物(A3)における、C2/m相およびR-3m相の存在比の指標として用いられ得るパラメータである。C2/m相の存在比が大きくなると、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は大きくなると考えられる。R-3m相の存在比が大きくなると、積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)は小さくなると考えられる。
【0160】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が0.05以上の場合、C2/m相の存在比が大きくなるため、充放電時のLiの挿入量および脱離量が増加すると考えられる。その結果、電池の容量をさらに向上できると考えられる。
【0161】
積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が0.26以下の場合、R-3m相の存在比が大きくなるため、Liの拡散性が向上すると考えられる。その結果、電池の容量をさらに向上できると考えられる。
【0162】
このように、リチウム複合酸化物(A3)において積分強度比I(20°-23°)/I(18°-20°)が0.05以上0.26以下である場合、多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能であり、かつ、Liの拡散性が高いと考えられる。その結果、リチウム複合酸化物(A3)を用いて高い容量を有する電池が得られると考えられる。
【0163】
<リチウム複合酸化物(B)>
以下、リチウム複合酸化物(B)が説明される。リチウム複合酸化物(B)は、スピネル構造、すなわち、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有する。積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は0.05以上0.90以下であるため、リチウム複合酸化物(B)においても、カチオンミキシングの量が比較的多いと考えられる。このため、Li層および遷移金属層に含まれるカチオンサイトに相当する「8aサイト、16dサイト、および16cサイト」の全てにおいて、リチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間でカチオンミキシングが生じていると考えられる。積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下である限り、8aサイト、16dサイト、および16cサイトにおけるLiの占有率は、限定されない。
【0164】
リチウム複合酸化物(B)では、上述のカチオンミキシングにより、Li層内におけるLiの高い拡散性だけでなく、遷移金属層内においてもLiの拡散性が向上する。さらに、Li層および遷移金属層の間におけるLiの拡散性も向上する。言い換えれば、カチオンサイト全体において、Liが効率的に拡散できる。このため、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物(B)は、従来の規則配列型の(すなわち、カチオンミキシングが少ない)リチウム複合酸化物と比較して、高容量の電池を構成するのに適している。
【0165】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05よりも小さい場合、遷移金属層におけるLiの占有率が過剰に高くなり、熱力学的に結晶構造が不安定となる。このため、充電時のLi脱離に伴い、結晶構造が崩壊し、容量が不十分となる。
【0166】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きい場合、カチオンミキシングが抑制されることにより、遷移金属層におけるLiの占有率が低くなり、Liの三次元的な拡散経路が減少する。その結果、Liの拡散性が低下し、容量が不十分となる。
【0167】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下であるので、リチウム複合酸化物(B)では、リチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間で十分にカチオンミキシングが生じていると考えられる。その結果、リチウム複合酸化物(B)においては、リチウムの三次元的な拡散経路が増大し、より多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能であると考えられる。
【0168】
リチウム複合酸化物(B)は空間群Fd-3mに属する結晶構造を有し、かつ、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有するため、Liを多く引き抜いた際にも、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の三次元的なネットワークが形成される。その結果、結晶構造を安定に維持できる。従って、リチウム複合酸化物(B)を含む正極活物質では、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能であると考えられる。すなわち、リチウム複合酸化物(B)を含む正極活物質は、高い容量を有する電池を得るために適している。さらに、同様の理由で、リチウム複合酸化物(B)を含む正極活物質は、サイクル特性に優れた電池を得るためにも適していると考えられる。
【0169】
空間群Fd-3mに属する結晶構造では、空間群R-3mに属する層状構造と比べ、Liを多く引き抜いた際に、層状構造が容易に維持され、結晶構造が崩壊しにくいと考えられる。
【0170】
特許文献2は、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有し、かつリチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間で十分にカチオンミキシングが生じていないリチウム複合酸化物を含む正極材料を開示している。特許文献2において開示されているリチウム複合酸化物は、おおよそ、2以上3以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有している。特許文献2によれば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が2以上3以下であるため、結晶構造の乱れが極めて小さくなり、電池の特性が向上する。
【0171】
特許文献2のような従来技術は、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有するリチウム複合酸化物(B)を開示も示唆もしていない。
【0172】
リチウム複合酸化物(B)は、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有し、かつ0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有する。その結果、電池の容量をさらに向上できる。
【0173】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物(B)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、0.05以上0.70以下であってもよい。
【0174】
電池の容量をさらに向上させるために、リチウム複合酸化物(B)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、0.05以上0.30以下であってもよい。
【0175】
リチウム複合酸化物(B)では、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素は任意の成分である。言い換えれば、リチウム複合酸化物(B)は、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含まなくてもよい。リチウム複合酸化物(B)は、以下のように特定され得る。
リチウム複合酸化物であって、
前記リチウム複合酸化物は、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有し、
前記リチウム複合酸化物は、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつ
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下である、
リチウム複合酸化物。
【0176】
電池の容量をさらに向上させるために、下記の4つの数式が充足されてもよい。
1.05≦x≦1.4、
0.6≦y≦0.95、
1.33≦α≦2、および
0≦β≦0.67。
【0177】
xの値が1.05以上の場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0178】
xの値が1.4以下である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0179】
yの値が0.6以上である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0180】
yの値が0.95以下である場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0181】
αの値が1.33以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、容量が向上する。
【0182】
αの値が2.0以下である場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0183】
βの値が0.67以下である場合、Qの電気化学的に不活性な影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、容量が向上する。
【0184】
リチウム複合酸化物(B)において、Meに対するMnのモル比は、50%以上であってもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのモル比(すなわち、Mn/Meのモル比)が、0.5以上1.0以下であってもよい。
【0185】
Mn/Meのモル比が、0.5以上1.0以下である場合には、酸素との混成軌道を容易に形成するMnが十分に含まれるので、充電時における酸素脱離が抑制される。カチオンミキシングの量が比較的多い場合(例えば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下である場合)においても、結晶構造がさらに安定化し、電池の容量をさらに向上できる。
【0186】
Meに対するMnのモル比は、75%以上であってもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのモル比(すなわち、Mn/Meのモル比)が、0.75以上1.0以下であってもよい。
【0187】
Mn/Meのモル比が、0.75以上1.0以下である場合には、酸素との混成軌道を容易に形成するMnが十分に含まれるので、充電時における酸素脱離が抑制される。カチオンミキシングの量が比較的多い場合(例えば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下である場合)においても、結晶構造がさらに安定化し、電池の容量をさらに向上できる。
【0188】
Meは、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、Meに対する当該少なくとも一種の元素のモル比が20%以下となるように、含んでもよい。
【0189】
B、Si、P、及びAlは、高い共有結合性を有するので、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。その結果、サイクル特性が向上し、電池の寿命をさらに伸ばすことができる。
【0190】
電池の容量をさらに向上させるために、以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.1≦x≦1.2、および
y=0.8。
【0191】
電池の容量をさらに向上させるために、以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.67≦α≦2、および
0≦β≦0.33。
【0192】
電池の容量をさらに向上させるために、以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.67≦α<2、および
0<β≦0.33。
【0193】
電池の容量をさらに向上させるために、以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.67≦α≦1.9、および
0.1≦β≦0.33。
【0194】
Liの(A+Me)に対するモル比は、数式(x/y)により表される。
【0195】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.3以上1.9以下であってもよい。
【0196】
モル比(x/y)が1よりも大きい場合では、例えば、組成式LiMnO2で示される従来の正極活物質におけるLi原子数の比よりも、実施の形態1による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物におけるLi原子数の比が高い。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となる。
【0197】
モル比(x/y)が1.3以上の場合、利用できるLi量が多いので、Liの拡散パスが適切に形成される。このため、モル比(x/y)が1.3以上の場合、電池の容量がさらに向上する。
【0198】
モル比(x/y)が1.9以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が少なくなることを防ぐことができる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。充電時のLi脱離時の結晶構造の不安定化を原因とする放電時のLi挿入効率の低下が抑制される。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0199】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.38以上1.5以下であってもよい。
【0200】
OのQに対するモル比は、数式(α/β)で示される。
【0201】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(α/β)は、5以上19以下でもよい。
【0202】
モル比(α/β)が5以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。さらに、電気化学的に不活性なQの影響を小さくできるため、電子伝導性が向上する。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0203】
モル比(α/β)が19以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができる。これにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。さらに、電気化学的に不活性なQの影響が発揮されることにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0204】
上述されたように、リチウム複合酸化物は、組成式Lix(AzMe1-z)yOαQβで表される平均組成を有していてもよい。したがって、リチウム複合酸化物は、カチオン部分およびアニオン部分から構成される。カチオン部分は、Li、A、およびMeから構成される。アニオン部分は、OおよびQから構成される。Li、A、およびMeから構成されるカチオン部分の、OおよびQから構成されるアニオン部分に対するモル比は、数式((x+y)/(α+β))で示される。
【0205】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、0.75以上1.2以下であってもよい。
【0206】
モル比((x+y)/(α+β))が0.75以上である場合、リチウム複合酸化物の合成時に不純物が多く生成することを防ぐことができ、電池の容量がさらに向上する。
【0207】
モル比((x+y)/(α+β))が1.2以下の場合、リチウム複合酸化物のアニオン部分の欠損量が少なくなるので、充電によってリチウムがリチウム複合酸化物から離脱した後でも、結晶構造は安定に維持される。
【0208】
電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、0.95以上1.0以下であってもよい。
【0209】
モル比((x+y)/(α+β))が1.0以下の場合、結晶構造内でカチオンの欠損が生じ、Li拡散パスが増加する。その結果、電池の容量が向上する。初期状態においてカチオンの欠損がランダムに配列されるため、Liが脱離した際にも結晶構造が不安定化しない。その結果、サイクル特性に優れた、長寿命な電池が得られる。
【0210】
<リチウム複合酸化物(C)>
以下、リチウム複合酸化物(C)が説明される。リチウム複合酸化物(C)は、空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相および空間群Fm-3m以外の空間群に属する結晶構造を有する第二の相を含む多相混合物である。
【0211】
空間群Fm-3mに属する結晶構造は、リチウムイオンおよび遷移金属のカチオンが、ランダムに配列された不規則型岩塩構造である。そのため、空間群Fm-3mに属する結晶構造には、一般的な従来材料であるLiCoO2よりも、より多くの量のLiを吸蔵することができる。一方で、空間群Fm-3mに属する結晶構造では、Liイオンは、隣接するLiイオンまたは空孔を介してのみしか拡散できないため、Liの拡散性は高くない。
【0212】
一方で、空間群Fm-3m以外の空間群(例えば、空間群Fd-3m、空間群R-3m、または空間群C2/m)に属する結晶構造では、二次元的にLi拡散パスが存在するため、Liの拡散性が高い。空間群Fm-3m以外の空間群に属する結晶構造では、遷移金属-アニオン八面体のネットワークが強固であるため、空間群Fm-3m以外の空間群に属する結晶構造は、安定である。
【0213】
リチウム複合酸化物(C)では、第一の相および第二の相が混在するため、電池の容量および寿命が向上する。
【0214】
リチウム複合酸化物(C)において、第一の相からなる複数の領域と、第二の相からなる複数の領域とが、3次元的にランダムに配列していてもよい。
【0215】
3次元的なランダム配列によりLiの三次元的な拡散経路が増大するため、より多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能となり、電池の容量をさらに向上できる。
【0216】
リチウム複合酸化物(C)は、多相混合物である。例えば、バルク層と、それを被覆するコート層とからなる層構造は、本開示における多相混合物に該当しない。多相混合物は、複数の相を含んだ物質を意味する。リチウム複合酸化物の製造時にそれらの相に対応する複数の材料が混合されてもよい。
【0217】
リチウム複合酸化物が多相混合物であるかどうかは、上述されたように、X線回折測定法および電子線回折測定法によって判定されうる。具体的には、X線回折測定法および電子線回折測定法によって取得されたリチウム複合酸化物のスペクトルに複数の相の特徴を示すピークが含まれるならば、そのリチウム複合酸化物は多相混合物であると判定される。
【0218】
電池の容量をさらに向上するため、リチウム複合酸化物(C)において、第二の相は、空間群Fd-3m、空間群R-3m、および空間群C2/mからなる群より選択される少なくとも1種の空間群に属する結晶構造を有してもよい。
【0219】
電池の容量をさらに向上させるため、第二の相は、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有してもよい。
【0220】
空間群Fd-3mに属する結晶構造(すなわち、スピネル構造)では、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の3次元的なネットワークが形成される。一方で、空間群R-3mまたはC2/mに属する結晶構造(すなわち、層状構造)では、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の2次元的なネットワークが形成される。その結果、第二の相が空間群Fd-3mに属する結晶構造(すなわち、スピネル構造)を有していれば、充放電時において結晶構造が不安定化しにくく、放電容量はさらに大きくなる。
【0221】
リチウム複合酸化物(C)では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は、リチウム複合酸化物における、第一の相および第二の相の存在比の指標として用いられ得るパラメータである。第一の相の存在比が大きくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は小さくなると考えられる。第二の相の存在比が大きくなると、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)は大きくなると考えられる。
【0222】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05よりも小さい場合、第二の相の存在比が小さくなるため、Liの拡散性が低下すると考えられる。その結果、容量が不十分となる。
【0223】
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きい場合、第一の相の存在比が小さくなるため、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下すると考えられる。その結果、容量が不十分となる。
【0224】
このように、リチウム複合酸化物(C)は第一の相および第二の相を有し、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)0.90を有するため、多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能で、かつ、Liの拡散性および結晶構造の安定性が高いと考えられる。その結果、リチウム複合酸化物(C)は、高容量の電池を得るために適切であると考えられる。
【0225】
電池の容量をさらに向上させるため、リチウム複合酸化物(C)は、0.10以上0.70以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していてもよい。
【0226】
特許文献2は、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有し、かつリチウムイオンおよび遷移金属のカチオンの間で十分にカチオンミキシングが生じていないリチウム複合酸化物を含む正極材料を開示している。特許文献2において開示されているリチウム複合酸化物は、おおよそ、2以上3以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有している。特許文献2によれば、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が2以上3以下であるため、結晶構造の乱れが極めて小さくなり、電池の特性が向上する。
【0227】
特許文献2のような従来技術は、第一の相および第二の相を有し、かつ0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有するリチウム複合酸化物(C)を開示も示唆もしていない。さらに、特許文献2のような従来技術は、リチウム複合酸化物(C)が高容量の電池を得るために適切であると考えられることも開示も示唆もしていない。
【0228】
すでに説明されたように、リチウム複合酸化物(C)は、空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相および空間群Fm-3m以外の空間群(例えば、空間群Fd-3m、空間群R-3m、または空間群C2/m)に属する結晶構造を有する第二の相を有するため、回折角2θが18°以上20°以下の範囲に存在する最大ピークが反映している空間群を完全に特定することは、必ずしも容易ではない。同様の理由により、回折角2θが43°以上46°以下の範囲に存在する最大ピークが反映している空間群を完全に特定することも必ずしも容易ではない。そのため、上述のX線回折測定に加えて、透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」という)を用いた電子線回折測定が行なわれてもよい。公知の手法により電子線回折パターンを観察することで、リチウム複合酸化物(C)が有する空間群を特定することが可能である。これにより、リチウム複合酸化物(C)が、空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相および空間群Fm-3m以外の空間群(例えば、空間群Fd-3m、空間群R-3m、または空間群C2/m)に属する結晶構造を有する第二の相を有することを確認できる。
【0229】
リチウム複合酸化物(C)では、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素は任意の成分である。言い換えれば、リチウム複合酸化物(C)は、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含まなくてもよい。リチウム複合酸化物(C)は、以下のように特定され得る。
リチウム複合酸化物であって、
前記リチウム複合酸化物は、空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相および空間群Fm-3m以外の空間群に属する結晶構造を有する第二の相を含む多相混合物であり、
前記リチウム複合酸化物は、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつ
積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が、0.05以上0.90以下である、
リチウム複合酸化物。
【0230】
リチウム複合酸化物(C)において、以下の4つの数式が充足されてもよい。
1.05≦x≦1.4、
0.6≦y≦0.95、
1.33≦α≦2、および
0≦β≦0.67。
【0231】
xの値が1.05以上の場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0232】
xの値が1.4以下である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0233】
yの値が0.6以上である場合、Meの酸化還元反応により正極活物質に挿入および脱離するLiの量が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0234】
yの値が0.95以下である場合、正極活物質に挿入および脱離可能なLi量が多くなる。このため、容量が向上する。
【0235】
αの値が1.2以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、容量が向上する。
【0236】
αの値が2.0以下である場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、容量が向上する。
【0237】
βの値が0.67以下である場合、Qの電気化学的に不活性な影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、容量が向上する。
【0238】
リチウム複合酸化物(C)において、Meに対するMnのモル比は、50%以上であってもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのモル比(すなわち、Mn/Meのモル比)が、0.5以上1.0以下であってもよい。
【0239】
Mn/Meのモル比が、0.5以上1.0以下である場合には、酸素との混成軌道を容易に形成するMnが十分に含まれるので、充電時における酸素脱離が抑制される。その結果、第一の相および第二の相を有する結晶構造がさらに安定化し、電池の容量をさらに向上できる。
【0240】
Meに対するMnのモル比は、67.5%以上であってもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのモル比(すなわち、Mn/Meのモル比)が、0.675以上1.0以下であってもよい。
【0241】
Mn/Meのモル比が、0.675以上1.0以下である場合には、酸素との混成軌道を容易に形成するMnが十分に含まれるので、充電時における酸素脱離が抑制される。その結果、第一の相および第二の相を有する結晶構造がさらに安定化し、電池の容量をさらに向上できる。
【0242】
Meは、B、Si、P、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、Meに対する当該少なくとも一種の元素のモル比が20%以下となるように、含んでもよい。
【0243】
B、Si、P、及びAlは、高い共有結合性を有するので、リチウム複合酸化物の結晶構造が安定化する。その結果、サイクル特性が向上し、電池の寿命をさらに伸ばすことができる。
【0244】
電池の容量をさらに向上させるため、以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.1≦x≦1.25、および
0.75≦y≦0.8。
【0245】
電池の容量をさらに向上させるため、以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.33≦α≦1.9、および
0.1≦β≦0.67。
【0246】
以下の2つの数式が充足されてもよい。
1.33≦α≦1.67、および
0.33≦β≦0.67。
【0247】
上記の2つの数式が充足される場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができる。さらに、電気化学的に不活性なQの影響が十分に発揮され、Liが脱離しても結晶構造は安定なまま維持される。その結果、電池の容量をさらに向上できる。
【0248】
Liの(A+Me)に対するモル比は、数式(x/y)により表される。
【0249】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.3以上1.9以下であってもよい。
【0250】
モル比(x/y)が1よりも大きい場合では、例えば、組成式LiMnO2で示される従来の正極活物質におけるLi原子数の比よりも、実施の形態1による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物におけるLi原子数の比が高い。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となる。
【0251】
モル比(x/y)が1.3以上の場合、利用できるLi量が多いので、Liの拡散パスが適切に形成される。このため、モル比(x/y)が1.4以上の場合、電池の容量がさらに向上する。
【0252】
モル比(x/y)が1.9以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が少なくなることを防ぐことができる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。充電時のLi脱離時の結晶構造の不安定化を原因とする放電時のLi挿入効率の低下が抑制される。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0253】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.38以上1.67以下であってもよい。
【0254】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(x/y)は、1.38以上1.5以下であってもよい。
【0255】
OのQに対するモル比は、数式(α/β)で示される。
【0256】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(α/β)は、2以上19以下でもよい。
【0257】
モル比(α/β)が2以上である場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。さらに、電気化学的に不活性なQの影響を小さくできるため、電子伝導性が向上する。このため、電池の容量がさらに向上する。
【0258】
モル比(α/β)が19以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができる。これにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。さらに、電気化学的に不活性なQの影響が発揮されることにより、Liが脱離した際に結晶構造が安定化する。このため、より高容量の電池を実現できる。
【0259】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比(α/β)は、2以上5以下でもよい。
【0260】
上述されたように、リチウム複合酸化物は、組成式Lix(AzMe1-z)yOαQβで表される平均組成を有していてもよい。したがって、リチウム複合酸化物は、カチオン部分およびアニオン部分から構成される。カチオン部分は、Li、A、およびMeから構成される。アニオン部分は、OおよびQから構成される。Li、A、およびMeから構成されるカチオン部分の、OおよびQから構成されるアニオン部分に対するモル比は、数式((x+y)/(α+β))で示される。
【0261】
電池の容量をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、0.75以上1.2以下であってもよい。
【0262】
モル比((x+y)/(α+β))が0.75以上である場合、リチウム複合酸化物の合成時に不純物が多く生成することを防ぐことができ、電池の容量がさらに向上する。
【0263】
モル比((x+y)/(α+β))が1.2以下の場合、リチウム複合酸化物のアニオン部分の欠損量が少なくなるので、充電によってリチウムがリチウム複合酸化物から離脱した後でも、結晶構造は安定に維持される。そのため、電池の容量がさらに向上する。
【0264】
電池の容量およびサイクル特性をさらに向上させるために、モル比((x+y)/(α+β))は、0.95以上1.0以下であってもよい。
【0265】
モル比((x+y)/(α+β))が1.0以下の場合、結晶構造内でカチオンの欠損が生じ、Li拡散パスが増加する。その結果、電池の容量が向上する。初期状態においてカチオンの欠損がランダムに配列されるため、Liが脱離した際にも結晶構造が不安定化しない。その結果、サイクル特性に優れた、長寿命な電池が得られる。
【0266】
<リチウム複合酸化物の作製方法>
以下に、実施の形態1の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の製造方法の一例が、説明される。
【0267】
リチウム複合酸化物は、例えば、次の方法により、作製される。
【0268】
Liを含む原料、Meを含む原料、および、Qを含む原料を用意する。
【0269】
Liを含む原料としては、例えば、Li2OまたはLi2O2のようなリチウム酸化物、LiF、Li2CO3、またはLiOHのようなリチウム塩、あるいはLiMeO2またはLiMe2O4のようなリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0270】
Meを含む原料としては、例えば、Me2O3のような金属酸化物、MeCO3またはMe(NO3)2のような金属塩、Me(OH)2またはMeOOHのような金属水酸化物、あるいはLiMeO2またはLiMe2O4のようなリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0271】
例えば、MeがMnの場合には、Mnを含む原料としては、例えば、MnO2またはMn2O3のような酸化マンガン、MnCO3またはMn(NO3)2のようなマンガン塩、Mn(OH)2またはMnOOHのような水酸化マンガン、あるいはLiMnO2またはLiMn2O4のようなリチウムマンガン複合酸化物、が挙げられる。
【0272】
Qを含む原料としては、例えば、ハロゲン化リチウム、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属硫化物、または遷移金属窒化物が挙げられる。
【0273】
QがFの場合には、Fを含む原料としては、例えば、LiFまたは遷移金属フッ化物が挙げられる。
【0274】
Aを含む原料としては、例えば、Aの酸化物(例えば、A2O3)、Aの水酸化物、Aの水和物、Aの硝酸物、またはAの硫化物が挙げられる。
【0275】
例えば、AがBiである場合には、Biを含む原料としては、例えば、Bi2O3、Bi2O5、Bi(OH)3、Bi2O3・2H2O、Bi(NO3)3・5H2O、またはBi2(SO4)3が挙げられる。
【0276】
これらの原料の重さが、例えば、組成式(I)に示されたモル比を有するように、測定される。
【0277】
このようにして、x、y、z、α、およびβの値を、組成式(I)において示された範囲内で変化させることができる。
【0278】
次いで、原料を、例えば、乾式法または湿式法で混合し、次いで遊星型ボールミルのような混合装置内で10時間以上メカノケミカルに互いに反応させることで、前駆体が得られる。
【0279】
前駆体を熱処理する。このようにして、実施の形態1によるリチウム複合酸化物が得られる。
【0280】
熱処理の条件は、所望のリチウム複合酸化物が得られるように適宜設定される。熱処理の最適な条件は、他の製造条件および目標とする組成に依存して異なるが、本発明者らは、例えば、熱処理の温度が高いほど、または熱処理に要する時間が長いほど、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)の値が大きくなる傾向を見出している。すなわち、本発明者らは、例えば、熱処理の温度が高いほど、または熱処理に要する時間が長いほど、カチオンミキシングの量が小さくなる傾向を見出している。製造者は、この傾向を指針として用いて熱処理の条件を定めることができる。熱処理の温度および時間は、例えば、300~800℃の範囲、及び、30分~8時間の範囲からそれぞれ選択されてもよい。熱処理の雰囲気の例は、大気雰囲気、酸素雰囲気、または不活性雰囲気(例えば、窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気)である。
【0281】
以上のように、原料、原料の混合条件、および熱処理条件を調整することにより、所望のリチウム複合酸化物を得ることができる。
【0282】
得られたリチウム複合酸化物が有する結晶構造の空間群は、例えば、X線回折測定または電子線回折測定により、特定することができる。
【0283】
得られたリチウム複合酸化物の平均組成は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれら分析方法の組み合わせにより、決定され得る。
【0284】
原料としてリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、元素のミキシングのエネルギーを低下させることができる。これにより、リチウム複合酸化物の純度を高められる。
【0285】
以上のように、実施の形態1において、リチウム複合酸化物の製造方法は、原料を用意する工程(a)、原料をメカノケミカルに反応させることによりリチウム複合酸化物の前駆体を得る工程(b)、および前駆体を熱処理することによりリチウム複合酸化物を得る工程(c)を具備する。
【0286】
工程(a)では、Li、Me、Q、およびAの比率が所望のリチウム複合酸化物の比率となるように原料を混合して混合物を得てもよい。
【0287】
原料として用いられるリチウム化合物は、公知の方法で作製されてもよい。
【0288】
工程(b)では、ボールミルを用いてメカノケミカル反応を生じさせてもよい。
【0289】
以上のように、実施の形態1において、リチウム複合酸化物を得るためには、原料(例えば、LiF、Li2O、遷移金属酸化物、またはリチウム複合酸化物)を、遊星型ボールミルを用いて、メカノケミカル反応により混合して前駆体を得て、次いで得られた前駆体を熱処理してもよい。
【0290】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。実施の形態1において説明された事項は、適宜、省略され得る。
【0291】
実施の形態2における電池は、上述の実施の形態1における正極活物質を含む正極と、負極と、電解質と、を備える。
【0292】
実施の形態2における電池は、高い容量を有する。
【0293】
実施の形態2における電池において、正極は、正極活物質層を備えてもよい。正極活物質層は、実施の形態1における正極活物質を主成分として含んでいてもよい。すなわち、正極活物質層の全体に対する正極活物質の質量比は50%以上である。
【0294】
このような正極活物質層は、電池の容量をさらに向上させる。
【0295】
当該質量比は、70%以上であってもよい。
【0296】
このような正極活物質層は、電池の容量をさらに向上させる。
【0297】
当該質量比は、90%以上であってもよい。
【0298】
このような正極活物質層は、電池の容量をさらに向上させる。
【0299】
実施の形態2における電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、非水電解質二次電池、または全固体電池である。
【0300】
実施の形態2における電池において、負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含有していてもよい。あるいは、負極は、材料であって、放電時にリチウム金属が当該材料から電解質に溶解し、かつ充電時に前記リチウム金属が当該材料に析出する材料を含有していてもよい。
【0301】
実施の形態2における電池において、電解質は、非水電解質(例えば、非水電解液)であってもよい。
【0302】
実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0303】
図1は、実施の形態2における電池10の断面図を示す。
【0304】
図1に示されるように、電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。
【0305】
セパレータ14は、正極21と負極22との間に、配置されている。
【0306】
正極21と負極22とセパレータ14とには、例えば、非水電解質(例えば、非水電解液)が含浸されている。
【0307】
正極21と負極22とセパレータ14とによって、電極群が形成されている。
【0308】
電極群は、ケース11の中に収められている。
【0309】
ガスケット18と封口板15とにより、ケース11が閉じられている。
【0310】
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を備えている。
【0311】
正極集電体12は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種)又はそれらの合金で作られている。
【0312】
正極集電体12は設けられないことがある。この場合、ケース11を正極集電体として使用する。
【0313】
正極活物質層13は、実施の形態1における正極活物質を含む。
【0314】
正極活物質層13は、必要に応じて、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、または結着剤)を含んでいてもよい。
【0315】
負極22は、負極集電体16と、負極集電体16の上に配置された負極活物質層17と、を備えている。
【0316】
負極集電体16は、例えば、金属材料(例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン、銅、パラジウム、金、及び白金からなる群より選択される少なくとも一種)又はそれらの合金)で作られている。
【0317】
負極集電体16は設けられないことがある。この場合、封口板15を負極集電体として使用する。
【0318】
負極活物質層17は、負極活物質を含んでいる。
【0319】
負極活物質層17は、必要に応じて、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、または結着剤)を含んでいてもよい。
【0320】
負極活物質の材料の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。
【0321】
金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属またはリチウム合金が挙げられる。
【0322】
炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、または非晶質炭素が挙げられる。
【0323】
容量密度の観点から、負極活物質として、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物を使用できる。珪素化合物および錫化合物は、合金または固溶体であってもよい。
【0324】
珪素化合物の例として、SiOx(ここで、0.05<x<1.95)が挙げられる。SiOxの一部の珪素原子を他の元素で置換することによって得られた化合物も使用できる。当該化合物は、合金又は固溶体である。他の元素とは、ホウ素、マグネシウム、ニッケル、チタン、モリブデン、コバルト、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、ニオブ、タンタル、バナジウム、
タングステン、亜鉛、炭素、窒素、及び錫からなる群より選択される少なくとも1種の元素である。
【0325】
錫化合物の例として、Ni2Sn4、Mg2Sn、SnOx(ここで、0<x<2)、SnO2、またはSnSiO3が挙げられる。これらから選択される1種の錫化合物が、単独で使用されてもよい。もしくは、これらから選択される2種以上の錫化合物の組み合わせが、使用されてもよい。
【0326】
負極活物質の形状は限定されない。負極活物質としては、公知の形状(例えば、粒子状または繊維状)を有する負極活物質が使用されうる。
【0327】
リチウムを負極活物質層17に補填する(すなわち、吸蔵させる)ための方法は、限定されない。この方法の例は、具体的には、(a)真空蒸着法のような気相法によってリチウムを負極活物質層17に堆積させる方法、または(b)リチウム金属箔と負極活物質層17とを接触させて両者を加熱する方法である。いずれの方法においても、熱によってリチウムは負極活物質層17に拡散する。リチウムを電気化学的に負極活物質層17に吸蔵させる方法も用いられ得る。具体的には、リチウムを有さない負極22およびリチウム金属箔(負極)を用いて電池を組み立てる。その後、負極22にリチウムが吸蔵されるように、その電池を充電する。
【0328】
正極21および負極22の結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。
【0329】
結着剤の他の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン、からなる群より選択される2種以上の材料の共重合体である。上述の材料から選択される2種以上の結着剤の混合物が用いられてもよい。
【0330】
正極21および負極22の導電剤の例は、グラファイト、カーボンブラック、導電性繊維、フッ化黒鉛、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、または有機導電性材料である。
【0331】
グラファイトの例としては、天然黒鉛または人造黒鉛が挙げられる。
【0332】
カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、またはサーマルブラックが挙げられる。
【0333】
金属粉末の例としては、アルミニウム粉末が挙げられる。
【0334】
導電性ウィスカーの例としては、酸化亜鉛ウィスカーまたはチタン酸カリウムウィスカーが挙げられる。
【0335】
導電性金属酸化物の例としては、酸化チタンが挙げられる。
【0336】
有機導電性材料の例としては、フェニレン誘導体が挙げられる。
【0337】
導電剤を用いて、結着剤の表面の少なくとも一部を被覆してもよい。例えば、結着剤の表面は、カーボンブラックにより被覆されてもよい。これにより、電池の容量を向上させることができる。
【0338】
セパレータ14の材料は、大きいイオン透過度および十分な機械的強度を有する材料である。セパレータ14の材料の例は、微多孔性薄膜、織布、または不織布が挙げられる。具体的には、セパレータ14は、ポリプロピレンまたはポリエチレンのようなポリオレフィンで作られていることが望ましい。ポリオレフィンで作られたセパレータ14は、優れた耐久性を有するだけでなく、過度に加熱されたときにシャットダウン機能を発揮できる。セパレータ14の厚さは、例えば、10~300μm(又は10~40μm)の範囲にある。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよい。もしくは、セパレータ14は、2種以上の材料で構成された複合膜(または、多層膜)であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30~70%(又は35~60%)の範囲にある。用語「空孔率」とは、セパレータ14の全体の体積に占める空孔の体積の割合を意味する。空孔率は、例えば、水銀圧入法によって測定される。
【0339】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩と、を含む。
【0340】
非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。
【0341】
環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。
【0342】
鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。
【0343】
環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、または1、3-ジオキソランである。
【0344】
鎖状エーテル溶媒の例としては、1、2-ジメトキシエタンまたは1、2-ジエトキシエタンである。
【0345】
環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。
【0346】
鎖状エステル溶媒の例は、酢酸メチルである。
【0347】
フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。
【0348】
非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で、使用されうる。もしくは、非水溶媒として、これらから選択される2種以上の非水溶媒の組み合わせが、使用されうる。
【0349】
非水電解液は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、およびフルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素溶媒を含んでいてもよい。
【0350】
当該少なくとも1種のフッ素溶媒が非水電解液に含まれていると、非水電解液の耐酸化性が向上する。
【0351】
その結果、高い電圧で電池10を充電する場合にも、電池10を安定して動作させることが可能となる。
【0352】
実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0353】
固体電解質の例は、有機ポリマー固体電解質、酸化物固体電解質、または硫化物固体電解質である。
【0354】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物と、リチウム塩との化合物である。このような化合物の例は、ポリスチレンスルホン酸リチウムである。
【0355】
高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。高分子化合物がエチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができる。その結果、イオン導電率をより高めることができる。
【0356】
酸化物固体電解質の例は、
(i) LiTi2(PO4)3またはその置換体のようなNASICON固体電解質、
(ii) (LaLi)TiO3のようなペロブスカイト固体電解質、
(iii) Li14ZnGe4O16、Li4SiO4、LiGeO4、またはその置換体のようなLISICON固体電解質、
(iv) Li7La3Zr2O12またはその置換体のようなガーネット固体電解質、
(v) Li3NまたはそのH置換体、もしくは
(vi) Li3PO4またはそのN置換体
である。
【0357】
硫化物固体電解質の例は、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-B2S3、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.25P0.75S4、またはLi10GeP2S12である。硫化物固体電解質に、LiX(XはF、Cl、Br、またはIである)、MOy、またはLixMOy(Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、またはInのいずれかであり、かつxおよびyはそれぞれ独立して自然数である)が添加されてもよい。
【0358】
これらの中でも、硫化物固体電解質は、成形性に富み、かつ高いイオン伝導性を有する。このため、固体電解質として硫化物固体電解質を用いることで、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0359】
硫化物固体電解質の中でも、Li2S-P2S5は、高い電気化学的安定性および高いイオン伝導性を有する。このため、固体電解質として、Li2S-P2S5を用いると、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0360】
固体電解質が含まれる固体電解質層には、さらに上述の非水電解液が含まれてもよい。
【0361】
固体電解質層が非水電解液を含むので、活物質と固体電解質との間でのリチウムイオンの移動が容易になる。その結果、電池のエネルギー密度をさらに向上できる。
【0362】
固体電解質層は、ゲル電解質またはイオン液体を含んでもよい。
【0363】
ゲル電解質の例は、非水電解液が含浸したポリマー材料である。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、またはポリメチルメタクリレートである。ポリマー材料の他の例は、エチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0364】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i) テトラアルキルアンモニウムのような脂肪族鎖状第4級アンモニウム塩のカチオン、
(ii) テトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状第4級ホスホニウム塩のカチオン、
(iii) ピロリジニウム、モルホリニウム、イミダゾリニウム、テトラヒドロピリミジニウム、ピペラジニウム、またはピペリジニウムのような脂肪族環状アンモニウム、または
(iv)ピリジニウムまたはイミダゾリウムのような窒素含有ヘテロ環芳香族カチオン
である。
イオン液体を構成するアニオンは、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、AsF6
-、SO3CF3
-、N(SO2CF3)2
-、N(SO2C2F5)2
-、N(SO2CF3)(SO2C4F9)-、またはC(SO2CF3)3
-である。イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0365】
リチウム塩の例は、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3である。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/リットルの範囲にある。
【0366】
実施の形態2における電池の形状について、電池は、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、シート型電池、ボタン型電池(すなわち、ボタン型セル)、扁平型電池、または積層型電池である。
【0367】
(実施例)
<実施例1>
[正極活物質の作製]
1.2/0.4725/0.11375/0.11375/1.9/0.1/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/F/Biモル比を有するように、LiF、Li2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、LiNiO2、およびBi2O3の混合物を得た。
【0368】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0369】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0370】
前駆体を、摂氏700度で1時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、実施例1による正極活物質を得た。
【0371】
実施例1による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0372】
【0373】
実施例1による正極活物質に対して、電子回折測定も行った。粉末X線回折測定および電子回折測定の結果に基づいて、実施例1による正極活物質の結晶構造を解析した。その結果、実施例1による正極活物質は、空間群C2/mに属する相および空間群R-3mに属する相の混合物であるとして特定された。
【0374】
X線回析装置(株式会社リガク社製)を用いて得られた粉末X線回折測定の結果から、X線回析ピークの積分強度を、当該X線回析装置に付属のソフトウェア(商品名:PDXL)を用いて算出した。実施例1による正極活物質は、0.50の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0375】
原料のモル比から算出されるリチウム複合酸化物の平均組成は、表1に示されているように、Li1.2Mn0.4725Co0.11375Ni0.11375Bi0.1O1.9F0.1で表される。当該平均組成は、Li1.2(Bi0.125(Mn0.675Co0.1625Ni0.1625)0.875)0.8O1.9F0.1(すなわち、組成式(I)において、x=1.2、y=0.8、z=0.125、α=1.9、およびβ=0.1)と等価である。
【0376】
以下、当該リチウム複合酸化物は正極活物質として用いられた。
【0377】
[電池の作製]
次に、70質量部の実施例1による正極活物質、20質量部のアセチレンブラック、10質量部のポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という)、および適量のN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」という)を混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。アセチレンブラックは導電剤として機能した。ポリフッ化ビニリデンは結着剤として機能した。
【0378】
20マイクロメートルの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0379】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた正極板を得た。
【0380】
得られた正極板を打ち抜いて、直径12.5mmの円形状の正極を得た。
【0381】
300マイクロメートルの厚みを有するリチウム金属箔を打ち抜いて、直径14mmの円形状の負極を得た。
【0382】
これとは別に、フルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)とエチレンカーボネート(以下、「EC」という)とエチルメチルカーボネート(以下、「EMC」という)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0383】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0384】
得られた非水電解液を、セパレータに、染み込ませた。セパレータは、セルガード社の製品(品番2320、厚さ25マイクロメートル)であった。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータであった。
【0385】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点がマイナス摂氏50度に維持されたドライボックスの中で、直径が20ミリであり、かつ厚みが3.2ミリのコイン型電池を、作製した。
【0386】
<実施例2>
実施例2では、以下の事項(i)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) Li/Mn/Co/Ni/O/F/Biのモル比が、1.2/0.50625/0.12188/0.12188/1.9/0.1/0.05であったこと。
【0387】
原料のモル比から算出されるリチウム複合酸化物は、表1に示されているように、Li1.2Mn0.50625Co0.12188Ni0.12188Bi0.05O1.9F0.1で表される平均組成を有する。当該平均組成は、Li1.2(Bi0.0625(Mn0.675Co0.1625Ni0.1625)0.9875)0.8O1.9F0.1(すなわち、組成式(I)において、x=1.2、y=0.8、z=0.0625、α=1.9、β=0.1)と等価である。
【0388】
実施例1の場合と同様に、実施例2による正極活物質の物性および特性が測定された。それらの結果は表1に示される。
【0389】
実施例1の場合と同様に、実施例2による正極活物質を用いて、実施例2によるコイン型電池を作製した。
【0390】
<実施例3>
実施例3では、以下の事項(i)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) Li/Mn/Co/Ni/O/F/Biのモル比が、1.2/0.53325/0.12838/0.12838/1.9/0.1/0.01であったこと。
【0391】
原料のモル比から算出されるリチウム複合酸化物は、表1に示されているように、Li1.2Mn0.53325Co0.12838Ni0.12838Bi0.01O1.9F0.1で表される平均組成を有する。当該平均組成は、Li1.2(Bi0,0125(Mn0.675Co0.1625Ni0.1625)0.9375)0.8O1.9F0.1(すなわち、組成式(I)において、x=1.2、y=0.8、z=0.0125、α=1.9、β=0.1)と等価である。
【0392】
実施例1の場合と同様に、実施例3による正極活物質の物性および特性が測定された。それらの結果は表1に示される。
【0393】
実施例1の場合と同様に、実施例3による正極活物質を用いて、実施例3によるコイン型電池を作製した。
【0394】
<実施例4>
実施例4では、以下の事項(i)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) Bi2O3に代えて、La2O3が用いられたこと。
【0395】
原料のモル比から算出されるリチウム複合酸化物は、表1に示されているように、Li1.2Mn0.4725Co0.11375Ni0.11375La0.1O1.9F0.1で表される平均組成を有する。当該平均組成は、Li1.2(La0.125(Mn0.675Co0.1625Ni0.1625)0.875)0.8O1.9F0.1(すなわち、組成式(I)において、x=1.2、y=0.8、z=0.125、α=1.9、β=0.1)と等価である。
【0396】
実施例1の場合と同様に、実施例4による正極活物質の物性および特性が測定された。それらの結果は表1に示される。
【0397】
実施例1の場合と同様に、実施例4による正極活物質を用いて、実施例4によるコイン型電池を作製した。
【0398】
<実施例5>
実施例5では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) Bi2O3に代えて、La2O3が用いられたこと。
(ii) Li/Mn/Co/Ni/O/F/Laのモル比が、1.2/0.50625/0.12188/0.12188/1.9/0.1/0.05であったこと。
【0399】
原料のモル比から算出されるリチウム複合酸化物は、表1に示されているように、Li1.2Mn0.50625Co0.12188Ni0.12188La0.05O1.9F0.1で表される平均組成を有する。当該平均組成は、Li1.2(La0.0625(Mn0.675Co0.1625Ni0.1625)0.9875)0.8O1.9F0.1(すなわち、組成式(I)において、x=1.2、y=0.8、z=0.0625、α=1.9、β=0.1)と等価である。
【0400】
実施例1の場合と同様に、実施例5による正極活物質の物性および特性が測定された。それらの結果は表1に示される。
【0401】
実施例1の場合と同様に、実施例5による正極活物質を用いて、実施例5によるコイン型電池を作製した。
【0402】
<実施例6>
実施例6では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) Bi2O3に代えて、La2O3が用いられたこと。
(ii) Li/Mn/Co/Ni/O/F/Laのモル比が、1.2/0.53325/0.12838/0.12838/1.9/0.1/0.01であったこと。
【0403】
原料のモル比から算出されるリチウム複合酸化物は、表1に示されているように、Li1.2Mn0.53325Co0.12838Ni0.12838La0.01O1.9F0.1で表される平均組成を有する。当該平均組成は、Li1.2(La0,0125(Mn0.675Co0.1625Ni0.1625)0.9375)0.8O1.9F0.1(すなわち、組成式(I)において、x=1.2、y=0.8、z=0.0125、α=1.9、β=0.1)と等価である。
【0404】
実施例1の場合と同様に、実施例6による正極活物質の物性および特性が測定された。それらの結果は表1に示される。
【0405】
実施例1の場合と同様に、実施例6による正極活物質を用いて、実施例6によるコイン型電池を作製した。
【0406】
<実施例7>
実施例7では、以下の事項(i)および(ii)を除き、実施例1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) Bi2O3に代えて、CeO2が用いられたこと。
(ii) Li/Mn/Co/Ni/O/F/Ceのモル比が、1.2/0.53325/0.12838/0.12838/1.9/0.1/0.01であったこと。
【0407】
原料のモル比から算出されるリチウム複合酸化物は、表1に示されているように、Li1.2Mn0.53325Co0.12838Ni0.12838Ce0.01O1.9F0.1で表される平均組成を有する。当該平均組成は、Li1.2(La0,0125(Mn0.675Co0.1625Ni0.1625)0.9375)0.8O1.9F0.1(すなわち、組成式(I)において、x=1.2、y=0.8、z=0.0125、α=1.9、β=0.1)と等価である。
【0408】
実施例1の場合と同様に、実施例7による正極活物質の物性および特性が測定された。それらの結果は表1に示される。
【0409】
実施例1の場合と同様に、実施例7による正極活物質を用いて、実施例7によるコイン型電池を作製した。
【0410】
<比較例1>
比較例1では、公知の手法で、化学式LiCoO2(すなわち、コバルト酸リチウム)で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0411】
実施例1の場合と同様に、比較例1においても、正極活物質の物性および特性が測定された。それらの結果は表1に示される。
【0412】
実施例1の場合と同様に、比較例1による正極活物質を用いて、比較例1においても、コイン型電池を作製した。
【0413】
<電池の評価>
0.5mA/cm2の電流密度で、4.7Vの電圧に達するまで、実施例1の電池を充電した。
【0414】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、実施例1の電池を放電させた。
【0415】
実施例1の電池の初回放電容量は、274mAh/gであった。
【0416】
放電過程における実施例1の電池の平均作動電圧を算出した。その結果、平均作動電圧は、3.53Vであった。
【0417】
再度、0.5mA/cm2の電流密度で、4.7Vの電圧に達するまで、実施例1の電池を充電した。
【0418】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、実施例1の電池を放電させた。
【0419】
充放電は10回、繰り返された。本発明者らは、実施例1によるコイン型電池の初回体積エネルギー密度を測定した。本発明者らは、10回の充放電を繰り返した後の放電容量の維持率も測定した。
【0420】
上記と同様に、実施例2~7および比較例1によるコイン型電池についても、初回体積エネルギー密度および10回の充放電を繰り返した後の放電容量の維持率が測定された。
【0421】
以上の結果が、表1に示される。
図3は、実施例1および比較例1の電池において、充放電を繰り返す際の容量維持率の変化を示すグラフである。
【0422】
【0423】
表1に示されるように、実施例1~実施例7の電池は、比較例1の電池よりも高いエネルギー密度および高い容量維持率を有する。
【0424】
この理由としては、実施例1~実施例7の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物では、以下の事項(i)~事項(iii)が充足されるからであると考えられる。
(i) リチウム複合酸化物が、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むこと
(ii) リチウム複合酸化物が、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、およびSnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むこと、および
(iii) リチウム複合酸化物が、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有すること。
このようなリチウム複合酸化物には多くのLiを挿入および脱離させることが可能である。さらに、Liの拡散性および結晶構造の安定性が高く、金属および酸素の間の結合力が高い。その結果、充放電中の酸素の脱離が抑制され、かつ正極活物質は高い真密度を有すると考えられる。これらの理由により、エネルギー密度および容量維持率が大きく向上すると考えられる。
【0425】
実施例1による電池は、実施例2および実施例3による電池よりも高いエネルギー密度および高い容量維持率を有する。
【0426】
この理由としては、実施例1による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、実施例2および実施例3による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物よりも、大きなBi含有量を有することが考えられる。その結果、正極活物質の真密度が高くなり、かつ酸素および金属の結合力も向上する。これらの理由により、実施例1では、エネルギー密度および容量維持率は高いと考えられる。
【0427】
実施例1による電池は、実施例4による電池よりも高いエネルギー密度および高い容量維持率を有する。
【0428】
この理由としては、実施例4による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物には、Biの代わりにLaが含まれているためであると考えられる。リチウム複合酸化物の遷移金属部分に原子番号が大きいBiが配置されるため、Biおよび酸素の間の結合性が高められ、充放電プロセス中にガス化する酸素の量がさらに低減する。その結果、充放電時における酸素脱離をさらに抑制でき、結晶構造が安定化する。Biは重元素であるため、Biは、正極活物質の単位体積当たりのエネルギー密度を向上させる。したがって、実施例1による電池は、実施例4による電池よりも高いエネルギー密度および高い容量維持率を有すると考えられる。
【0429】
実施例1による電池は、実施例5~実施例7による電池よりも、高いエネルギー密度および高い容量維持率を有する。
【0430】
この理由としては、実施例1による正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物のBiの含有量が、実施例5~実施例7による各正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物のLaまたはCeの含有量よりも多いことが考えられる。その結果、正極活物質の真密度が高くなり、かつ酸素および金属の結合力も向上する。これらの理由により、実施例1では、エネルギー密度および容量維持率は高いと考えられる。
【0431】
以下、参考例を記載する。参考例においては、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物は、Bi、La、Ce、Ga、Sr、Y、またはSnの元素のいずれをも含んでいない。
【0432】
<参考例1-1>
参考例1-1では、1.2/0.54/0.13/0.13/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、Li2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、およびLiNiO2の混合物を得た。
【0433】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0434】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0435】
前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0436】
その結果、前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0437】
前駆体を、摂氏700度で1時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、参考例1-1による正極活物質を得た。
【0438】
参考例1-1による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0439】
その結果、参考例1-1による正極活物質の空間群は、C2/mと特定された。
【0440】
参考例1-1による正極活物質は、0.80の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0441】
実施例1の場合と同様に、参考例1-1による正極活物質を用いて、参考例1-1によるコイン型電池を作製した。
【0442】
<参考例1-2~参考例1-26>
参考例1-2~参考例1-26では、以下の事項(i)および(ii)を除き、参考例1-1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) 混合物の混合比(すなわち、Li/Me/O/Fの混合比)を変化させたこと。詳細は表2を参照せよ。
(ii) 加熱条件を、600~900℃かつ30分~1時間の範囲内で変えたこと。
【0443】
参考例1-2~参考例1-26の正極活物質の空間群は、C2/mと特定された。
【0444】
参考例1-2~参考例1-26において、前駆体は、参考例1-1の場合と同様に、化学量論比に基づいて混合された原料を用いることにより調製された。
【0445】
例えば、参考例1-13においては、1.2/0.49/0.13/0.13/0.05/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/Mg/O/Fモル比を有するように、LiF、Li2MnO3、LiCoO2、LiNiO2、およびMgOの混合物が用いられた。
【0446】
参考例1-1の場合と同様に、参考例1-2~参考例1-26による正極活物質を用いて、参考例1-2~参考例1-26によるコイン型電池を作製した。
【0447】
<参考例1-27>
参考例1-27では、参考例1-1の場合と同様に、Li1.2Mn0.54Co0.13Ni0.13O1.9F0.1で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0448】
参考例1-27では、前駆体を700℃で3時間、熱処理した。このようにして、参考例1-27による正極活物質を得た。
【0449】
参考例1-27による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0450】
その結果、参考例1-27による正極活物質の空間群は、C2/mと特定された。
【0451】
参考例1-27による正極活物質は、1.03の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0452】
参考例1-1の場合と同様に、参考例1-27による正極活物質を用いて、参考例1-27によるコイン型電池を作製した。
【0453】
<参考例1-28>
参考例1-28では、参考例1-1の場合と同様に、Li1.2Mn0.54Co0.13Ni0.13O1.9F0.1で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0454】
参考例1-28では、前駆体を300℃で10分間、熱処理した。このようにして、参考例1-28による正極活物質を得た。
【0455】
参考例1-28による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0456】
その結果、参考例1-28による正極活物質の空間群は、C2/mと特定された。
【0457】
参考例1-28による正極活物質は、0.02の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0458】
参考例1-1の場合と同様に、参考例1-28による正極活物質を用いて、参考例1-28によるコイン型電池を作製した。
【0459】
<参考例1-29>
参考例1-29では、参考例1-1の場合と同様に、Li1.2Mn0.54Co0.13Ni0.13O2.0で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0460】
参考例1-29では、LiFが用いられなかった。
【0461】
参考例1-29による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0462】
その結果、参考例1-29による正極活物質の空間群は、C2/mと特定された。
【0463】
参考例1-29による正極活物質は、0.82の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0464】
参考例1-1の場合と同様に、参考例1-29による正極活物質を用いて、参考例1-29によるコイン型電池を作製した。
【0465】
<参考例1-30>
参考例1-30では、参考例1-1の場合と同様に、Li1.2Mn0.54Co0.13Ni0.13O1.9F0.1で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0466】
参考例1-30では、熱処理が行われなかった。
【0467】
参考例1-30による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0468】
その結果、参考例1-30による正極活物質の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0469】
参考例1-1の場合と同様に、参考例1-30による正極活物質を用いて、参考例1-30によるコイン型電池を作製した。
【0470】
<参考例1-31>
参考例1-31では、公知の手法を用いて、LiCoO2で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0471】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0472】
その結果、参考例1-31による正極活物質の空間群は、R-3mと特定された。
【0473】
参考例1-1の場合と同様に、参考例1-31による正極活物質を用いて、参考例1-31によるコイン型電池を作製した。
【0474】
<電池の評価>
0.5mA/cm2の電流密度で、4.9Vの電圧に達するまで、参考例1-1の電池を充電した。
【0475】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、参考例1-1の電池を放電させた。
【0476】
参考例1-1の電池の初回放電容量は、299mAh/gであった。
【0477】
0.5mA/cm2の電流密度で、4.3Vの電圧に達するまで、参考例1-27の電池を充電した。
【0478】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、参考例1-27の電池を放電させた。
【0479】
参考例1-27の電池の初回放電容量は、236mAh/gであった。
【0480】
参考例1-2~参考例1-26、参考例1-28、および参考例1-31によるコイン型電池の初回放電容量が測定された。
【0481】
以上の結果が、表2に示される。
【0482】
【0483】
【0484】
【0485】
【0486】
表2に示されるように、参考例1-1~参考例1-26による電池は、266~299mAh/gの初回放電容量を有する。
【0487】
参考例1-1~参考例1-26による電池は、参考例1-27~参考例1-31による電池よりも、大きな初回放電容量を有する。
【0488】
この理由としては、参考例1-1~参考例1-26による電池では、以下の事項(i)~(iii)が充足されることが考えられる。
(i) 参考例1-1~参考例1-26では、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物が、Fを含むこと。
(ii) 当該リチウム複合酸化物が、空間群C2/mに属する結晶構造を有すること、および
(iii) 参考例1-1~参考例1-26当該リチウム複合酸化物が、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有すること。
高い電気陰性度を有するFによって酸素の一部が置換され、結晶構造が安定化したと考えられる。さらに、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05以上0.90以下であるので、LiおよびMeの間で良好に生じたカチオンミキシングが原因で、隣接するLiの量が増加し、Liの拡散性が向上したと考えられる。これらの効果が総合的に作用することで、初回放電容量が大きく向上したと考えられる。
【0489】
参考例1-27では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きいため、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が減少したと考えられる。その結果、リチウムの拡散が阻害され、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0490】
参考例1-28では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05よりも小さいため、熱力学的に結晶構造が不安定となり、充電時のLi脱離に伴い結晶構造が崩壊したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0491】
参考例1-29では、リチウム複合酸化物がFを含まないため、結晶構造が不安定となり、充電時のLi脱離に伴い結晶構造が崩壊したと考えられる。これにより、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0492】
表2に示されるように、参考例1-2による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0493】
この理由としては、参考例1-2では、参考例1-1よりも、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいことが考えられる。その結果、結晶構造が不安定となり、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0494】
表2に示されるように、参考例1-3による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0495】
この理由としては、参考例1-3では、参考例1-2よりも、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいことが考えられる。その結果、結晶構造が不安定となり、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0496】
表2に示されるように、参考例1-4による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0497】
この理由としては、参考例1-4では、参考例1-2よりも、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいことが考えられる。その結果、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が僅かに減少したと考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0498】
表2に示されるように、参考例1-5による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0499】
この理由としては、参考例1-5では、参考例1-1よりも、モル比(α/β)が大きいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元によって容量が過剰となることが考えられる。さらに、高い電気陰性度を有するFの影響が小さくなり、Liが脱離した際に結晶構造が不安定化したことが考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0500】
表2に示されるように、参考例1-6による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0501】
この理由としては、参考例1-6では、参考例1-1よりも、モル比(α/β)が小さいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元によって電荷補償量が低下することが考えられる。さらに、電気陰性度が高いFの影響が大きくなり、電子伝導性が低下したことが考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0502】
表2に示されるように、参考例1-7~参考例1-9による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0503】
この理由としては、参考例1-7~参考例1-9では、CoおよびNiが含まれないことが考えられる。すでに述べたように、Coは結晶構造を安定化させる。NiはLiの脱離を促進する。参考例1-7~参考例1-9では、CoおよびNiが含まれないため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0504】
表2に示されるように、参考例1-10による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0505】
この理由としては、参考例1-10では、参考例1-1よりも、モル比(x/y)が大きいことが考えられる。その結果、電池の初回充電において、結晶構造内のLiが多く引き抜かれ、結晶構造が不安定化したことが考えられる。このため、放電で挿入されるLi量が低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0506】
表2に示されるように、参考例1-11による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0507】
この理由としては、参考例1-11では、参考例1-10よりも、モル比(x/y)が大きいことが考えられる。その結果、電池の初回充電において、結晶構造内のLiが多く引き抜かれ、結晶構造が不安定化したことが考えられる。このため、放電で挿入されるLi量が低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0508】
表2に示されるように、参考例1-12による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0509】
この理由としては、参考例1-12では、参考例1-1よりも、モル比(x/y)が小さいことが考えられる。その結果、反応に関与できるLiの量が少なくなり、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0510】
表2に示されるように、参考例1-13~参考例1-26による電池は、参考例1-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0511】
この理由としては、参考例1-13~参考例1-26では、参考例1-1よりも、Mnの量が小さいことが考えられる。すでに述べたように、Mnは酸素と混成軌道を容易に形成する。Mnの量が少ないため、酸素の酸化還元反応への寄与が僅かに低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0512】
<参考例2-1>
[正極活物質の作製]
参考例2-1では、公知の方法でリチウムマンガン複合酸化物(すなわち、Li2MnO3およびLiMnO2)及びコバルト酸リチウム(すなわち、LiCoO2)を得た。3/1/4/1のLi2MnO3/LiMnO2/LiCoO2/LiFモル比で、Li2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、及びLiFの混合物を得た。
【0513】
混合物を、5mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0514】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで35時間処理することで、化合物を作製した。
【0515】
次に、得られた化合物を、空気中において700℃で1時間、焼成した。このようにして、参考例2-1による正極活物質を得た。
【0516】
参考例2-1による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。測定の結果が、
図2に示される。
【0517】
粉末X線回折測定の結果、参考例2-1による正極活物質の空間群は、R-3mと特定された。
【0518】
参考例2-1による正極活物質は、0.75の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0519】
参考例2-1による正極活物質の組成を、誘導結合プラズマ発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、およびイオンクロマトグラフィー法により特定した。
【0520】
その結果、参考例2-1による正極活物質は、Li1.2Mn0.4Co0.4O1.9F0.1の組成を有していた。
【0521】
[電池の作製]
次に、70質量部の実施例1による正極活物質、20質量部のアセチレンブラック、10質量部のポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という)、および適量のN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」という)を混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。アセチレンブラックは導電剤として機能した。ポリフッ化ビニリデンは結着剤として機能した。
【0522】
20マイクロメートルの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0523】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた厚さ60マイクロメートルの正極板を得た。
【0524】
得られた正極板を打ち抜いて、直径12.5mmの円形状の正極を得た。
【0525】
300マイクロメートルの厚みを有するリチウム金属箔を打ち抜いて、直径14mmの円形状の負極を得た。
【0526】
これとは別に、フルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)とエチレンカーボネート(以下、「EC」という)とエチルメチルカーボネート(以下、「EMC」という)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0527】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0528】
得られた非水電解液を、セパレータに、染み込ませた。セパレータは、セルガード社の製品(品番2320、厚さ25マイクロメートル)であった。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータであった。
【0529】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点がマイナス摂氏50度に維持されたドライボックスの中で、直径が20ミリであり、かつ厚みが3.2ミリのコイン型電池を、作製した。
【0530】
<参考例2-2~2-19>
参考例2-2~参考例2-19では、以下の事項(i)および(ii)を除き、参考例2-1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) 混合物の混合比(すなわち、Li/Me/O/Fの混合比)を変化させたこと。詳細は表3を参照せよ。
(ii) 焼成条件を、300~700℃かつ1時間~5時間の範囲内で変えたこと。
【0531】
参考例2-2~参考例2-19において、前駆体は、参考例2-1と同様に、化学量論比に基づいて混合された原料を用いることにより調製された。
【0532】
例えば、参考例2-9においては、3/1/4/1のLi2MnO3/LiMnO2/LiNiO2/LiFモル比で、Li2MnO3、LiMnO2、LiNiO2、およびLiFの混合物が用いられた。
【0533】
各参考例2-2~参考例2-19による正極活物質の空間群は、R-3mと特定された。
【0534】
参考例2-1の場合と同様に、参考例2-2~参考例2-19による正極活物質を用いて、参考例2-2~参考例2-19によるコイン型電池を作製した。
【0535】
<参考例2-20>
参考例2-20では、公知の手法を用いてコバルト酸リチウム(すなわち、LiCoO2)を得た。
【0536】
参考例2-20による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0537】
その結果、参考例2-20による正極活物質の空間群は、R-3mと特定された。
【0538】
参考例2-20による正極活物質は、1.20の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0539】
参考例2-1の場合と同様に、参考例2-20による正極活物質を用いて、参考例2-20によるコイン型電池を作製した。
【0540】
<参考例2-21>
[正極活物質の作製]
参考例2-21では、3/1/4/1のLi2MnO3/LiMnO2/LiCoO2/LiFモル比で、Li2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、及びLiFの混合物を得た。
【0541】
混合物を、5mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0542】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで35時間処理することで、化合物を作製した。
【0543】
次に、得られた化合物を、空気中において800℃で1時間、焼成した。このようにして、参考例2-21による正極活物質を得た。
【0544】
参考例2-21による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0545】
粉末X線回折測定の結果、参考例2-21による正極活物質の空間群は、R-3mと特定された。
【0546】
参考例2-21による正極活物質は、0.92の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0547】
参考例2-21による正極活物質の組成を、誘導結合プラズマ発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、およびイオンクロマトグラフィーにより特定した。
【0548】
その結果、参考例2-21による正極活物質は、Li1.2Mn0.4Co0.4O1.9F0.1の組成を有していた。
【0549】
参考例2-1の場合と同様に、参考例2-21による正極活物質を用いて、参考例2-21によるコイン型電池を作製した。
【0550】
<参考例2-22>
[正極活物質の作製]
参考例2-22では、1/1のLi2MnO3/LiCoO2モル比で、Li2MnO3およびLiCoO2の混合物を得た。
【0551】
混合物を、5mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0552】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで35時間処理することで、化合物を作製した。
【0553】
次に、得られた化合物を、空気中において700℃で1時間、焼成した。このようにして、参考例2-22による正極活物質を得た。
【0554】
参考例2-22による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0555】
粉末X線回折測定の結果、参考例2-22による正極活物質の空間群は、R-3mと特定された。
【0556】
参考例2-22による正極活物質は、0.75の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0557】
参考例2-22による正極活物質の組成を、誘導結合プラズマ発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、およびイオンクロマトグラフィーにより特定した。
【0558】
その結果、参考例2-22による正極活物質は、Li1.2Mn0.4Co0.4O2の組成を有していた。
【0559】
参考例2-1の場合と同様に、参考例2-22による正極活物質を用いて、参考例2-22によるコイン型電池を作製した。
【0560】
<電池の評価>
0.5mA/cm2の電流密度で、4.5Vの電圧に達するまで、参考例2-1による電池を充電した。
【0561】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、参考例2-1による電池を放電させた。
【0562】
参考例2-1の電池の初回エネルギー密度は、4000Wh/Lであった。
【0563】
0.5mA/cm2の電流密度で、4.3Vの電圧に達するまで、参考例2-20の電池を充電した。
【0564】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、3.0Vの電圧に達するまで、参考例2-20の電池を放電させた。
【0565】
参考例2-27による電池の初回エネルギー密度は、2500Wh/Lであった。
【0566】
参考例2-2~参考例2-19、参考例2-21、および参考例2-22によるコイン型電池の初回エネルギー密度が測定された。
【0567】
以上の結果が、表3に示される。
【0568】
【0569】
表3に示されるように、参考例2-1~参考例2-19による電池は、参考例2-20~参考例2-22による電池よりも、極めて高い初回エネルギー密度を有する。
【0570】
この理由としては、参考例2-1~参考例2-19による電池では、以下の事項(i)~(iii)が充足されることが考えられる。
(i) 参考例2-1~参考例2-19では、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物が、F、Cl、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むこと。
(ii) 当該リチウム複合酸化物が、空間群R-3mに属する結晶構造を有すること、および
(iii) 参考例2-1~参考例2-19では、当該リチウム複合酸化物が、0.62以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有すること。
これらの効果が総合的に作用することで、エネルギー密度が向上したと考えられる。
【0571】
参考例2-21では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きいため、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が減少したと考えられる。その結果、リチウムの拡散が阻害され、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0572】
参考例2-22では、F、Cl、N、またはSのような電気化学的に不活性なアニオンを含まないため、結晶構造が不安定化したと考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0573】
表3に示されるように、参考例2-2による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。この理由としては、参考例2-2では、参考例2-1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいことが考えられる。すなわち、カチオンミキシングの割合が多く、結晶構造が比較的不安定になったことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0574】
表3に示されるように、参考例2-3による電池は、参考例2-1による電池よりも小さなエネルギー密度を有する。この理由としては、参考例2-3では、参考例2-1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいことが考えられる。その結果、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が僅かに減少したと考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0575】
表3に示されるように、参考例2-5による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。この理由としては、参考例2-5では、参考例2-1と比較して、モル比(α/β)が大きいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元によって容量が過剰となることが考えられる。さらに、高い電気陰性度を有するFの影響が小さくなり、Liが脱離した際に結晶構造が不安定化したことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0576】
表3に示されるように、参考例2-6による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。この理由としては、参考例2-6では、参考例2-1と比較して、モル比(α/β)が小さいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元によって電荷補償量が低下することが考えられる。さらに、電気陰性度が高いFの影響が大きくなり、電子伝導性が低下したことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0577】
表3に示されるように、参考例2-7による電池は、参考例2-6による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0578】
この理由としては、参考例2-7では、参考例2-6と比較して、モル比(α/β)がさらに小さいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することが考えられる。さらに、電気陰性度が高いFの影響が大きくなり、電子伝導性が低下したことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0579】
表3に示されるように、参考例2-8による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。この理由としては、参考例2-8では、Li以外のカチオンがMnのみであるため、酸素の脱離が進行しやすく、結晶構造が不安定化したことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0580】
表3に示されるように、参考例2-9による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。この理由としては、参考例2-9では、カチオンとして、Coの代わりにNiが用いられている。酸素とのNiの軌道の重なりは、Coのそれよりも小さい。その結果、酸素の酸化還元反応によって容量が十分に得られず、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0581】
表3に示されるように、参考例2-10~参考例2-13による電池は、参考例2-5による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0582】
この理由としては、参考例2-10~参考例2-13では、Fの代わりに、Fよりも低い電気陰性度を有するアニオンを用いたことが考えられる。その結果、カチオンおよびアニオンの間の相互作用が弱くなり、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0583】
表3に示されるように、参考例2-14による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0584】
この理由としては、参考例2-14では、参考例2-1と比較して、モル比(x/y)が小さいため、Liのパーコレーションパスが適切に確保されず、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0585】
表3に示されるように、参考例2-15による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0586】
この理由としては、参考例2-15では、参考例2-1と比較して、モル比(x/y)が大きいことが考えられる。その結果、電池の初回充電において、結晶構造内のLiが多く引き抜かれ、結晶構造が不安定化したことが考えられる。その結果、放電で挿入されるLi量が低下し、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0587】
表3に示されるように、参考例2-16による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0588】
この理由としては、参考例2-16では、参考例2-1と比較して、モル比(x/y)が小さいこと、およびモル比((x+y)/(α+β))が小さいことが考えられる。すなわち、合成時のLi欠損により、Mn及びCoが規則的に配列する。その結果、Liイオンのパーコレーションパスが十分に確保できず、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0589】
表3に示されるように、参考例2-17による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0590】
この理由としては、参考例2-17では、参考例2-1と比較して、モル比((x+y)/(α+β))が大きいことが考えられる。すなわち、初期構造のアニオン欠損により、充電時における酸素脱離が進行し、結晶構造が不安定化したことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0591】
表3に示されるように、参考例2-18による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0592】
この理由としては、参考例2-18では、参考例2-1と比較して、モル比(x/y)が大きいことが考えられる。その結果、電池の初回充電において、結晶構造からLiが多く引き抜かれ、結晶構造が不安定化したことが考えられる。このため、放電で挿入されるLi量が低下し、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0593】
表3に示されるように、参考例2-19による電池は、参考例2-1による電池よりも小さな初回エネルギー密度を有する。
【0594】
この理由としては、参考例2-19では、参考例2-1と比較して、モル比(x/y)が小さいことが考えられる。すなわち、合成時のわずかなLi欠損により、Mn及びCoが規則的に配列する。その結果、Liイオンのパーコレーションパスが十分に確保できず、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。さらに、参考例2-19では、参考例2-1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいことが考えられる。すなわち、参考例2-19では、カチオンミキシングの割合が過剰であるため、結晶構造が比較的不安定になったことが考えられる。その結果、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0595】
<参考例3-1>
[正極活物質の作製]
参考例3-1では、1.2/0.8/1.67/0.33のLi/Mn/O/Fモル比を有するように、LiF、Li2MnO3、およびLiMnO2の混合物を得た。
【0596】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0597】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0598】
得られた前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0599】
その結果、得られた前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0600】
次に、得られた前駆体を、500℃で1時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、参考例3-1による正極活物質を得た。
【0601】
参考例3-1による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0602】
その結果、参考例3-1による正極活物質の空間群は、Fd-3mと特定された。
【0603】
参考例3-1による正極活物質は、0.23の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0604】
[電池の作製]
次に、70質量部の実施例1による正極活物質、20質量部のアセチレンブラック、10質量部のポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という)、および適量のN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」という)を混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。アセチレンブラックは導電剤として機能した。ポリフッ化ビニリデンは結着剤として機能した。
【0605】
20マイクロメートルの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0606】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた厚さ60マイクロメートルの正極板を得た。
【0607】
得られた正極板を打ち抜いて、直径12.5mmの円形状の正極を得た。
【0608】
300マイクロメートルの厚みを有するリチウム金属箔を打ち抜いて、直径14mmの円形状の負極を得た。
【0609】
これとは別に、フルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)とエチレンカーボネート(以下、「EC」という)とエチルメチルカーボネート(以下、「EMC」という)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0610】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0611】
得られた非水電解液を、セパレータに、染み込ませた。セパレータは、セルガード社の製品(品番2320、厚さ25マイクロメートル)であった。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータであった。
【0612】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点がマイナス摂氏50度に維持されたドライボックスの中で、直径が20ミリであり、かつ厚みが3.2ミリのコイン型電池を、作製した。
【0613】
<参考例3-2~3-19>
参考例3-2~参考例3-19では、以下の事項(i)および(ii)を除き、参考例3-1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) 混合物の混合比(すなわち、Li/Me/O/Fの混合比)を変化させたこと。詳細は表4を参照せよ。
(ii) 焼成条件を、400~600℃かつ30分間~2時間の範囲内で変えたこと。
【0614】
参考例3-2~参考例3-19による正極活物質の空間群は、Fd-3mと特定された。
【0615】
参考例3-2~参考例3-19において、前駆体は、参考例3-1と同様に、化学量論比に基づいて混合された原料を用いることにより調製された。
【0616】
例えば、参考例3-4においては、1.2/0.6/0.1/0.1/1.67/0.33のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、Li2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、およびLiNiO2の混合物が用いられた。
【0617】
参考例3-1の場合と同様に、参考例3-2~参考例3-19による正極活物質を用いて、参考例3-2~参考例3-19によるコイン型電池を作製した。
【0618】
<参考例3-20>
参考例3-20では、参考例3-1と同様に、Li1.2Mn0.8O2で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0619】
参考例3-20では、LiFを使用しなかった。
【0620】
参考例3-20による正極活物質の空間群は、Fd-3mと特定された。
【0621】
参考例3-20による正極活物質は、0.15の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0622】
参考例3-1の場合と同様に、参考例3-20による正極活物質を用いて、参考例3-20によるコイン型電池を作製した。
【0623】
<参考例3-21>
参考例3-21では、公知の手法を用いて、LiMn2O4で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0624】
参考例3-21による正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0625】
その結果、参考例3-21による正極活物質の空間群は、Fd-3mと特定された。
【0626】
参考例3-21による正極活物質は、1.30の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0627】
参考例3-1の場合と同様に、参考例3-21による正極活物質を用いて、参考例3-20によるコイン型電池を作製した。
【0628】
<参考例3-22>
参考例3-22では、参考例3-1と同様に、Li1.2Mn0.8O1.67F0.33で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0629】
参考例3-22では、500℃で5時間の熱処理が行われた。
【0630】
参考例3-22による正極活物質の空間群は、Fd-3mと特定された。
【0631】
参考例3-22による正極活物質は、1.04の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0632】
参考例3-1の場合と同様に、参考例3-22による正極活物質を用いて、参考例3-22によるコイン型電池を作製した。
【0633】
<参考例3-23>
参考例3-23では、参考例3-1と同様に、Li1.2Mn0.8O1.67F0.33で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0634】
参考例3-23では、500℃で10分間の熱処理が行われた。
【0635】
参考例3-23による正極活物質の空間群は、Fd-3mと特定された。
【0636】
参考例3-23による正極活物質は、0.02の積分強度比I(18°-23°)/I(43°-46°)を有していた。
【0637】
参考例3-1の場合と同様に、参考例3-23による正極活物質を用いて、参考例3-23によるコイン型電池を作製した。
【0638】
<電池の評価>
0.5mA/cm2の電流密度で、4.9Vの電圧に達するまで、参考例3-1による電池を充電した。
【0639】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、参考例3-1による電池を放電させた。
【0640】
参考例3-1の電池の初回放電容量は、300mAh/gであった。
【0641】
0.5mA/cm2の電流密度で、4.3Vの電圧に達するまで、参考例3-21の電池を充電した。
【0642】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、参考例3-21の電池を放電させた。
【0643】
参考例3-21による電池の初回放電容量は、140mAh/gであった。
【0644】
参考例3-2~参考例3-20および参考例3-22~参考例3-23によるコイン型電池の初回放電容量が測定された。
【0645】
以上の結果が、表4に示される。
【0646】
【0647】
表4に示されるように、参考例3-1~参考例3-20による電池は、267~300mAh/gの初回放電容量を有する。
【0648】
すなわち、参考例3-1~参考例3-20による電池は、参考例3-21~参考例3-23による電池よりも高い初回放電容量を有する。
【0649】
この理由としては、参考例3-1~参考例3-20による電池では、以下の事項(i)~(ii)が充足されることが考えられる。
(i) 参考例3-1~参考例3-20では、正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物が、空間群Fd-3mに属する結晶構造を有すること、および
(ii) 参考例3-1~参考例3-20では、当該リチウム複合酸化物が、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有すること。
LiおよびMeの間で良好にカチオンミキシングが生じることで、隣接するLiの量が増加し、Liの拡散性が向上したと考えられる。その結果、リチウムの三次元的な拡散経路が増大し、そしてより多くのLiを挿入および脱離させることが可能になったと考えられる。このため、初回放電容量が大きく向上したと考えられる。
【0650】
参考例3-21では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きいため、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が減少したと考えられる。さらに、参考例3-21では、モル比(x/y)が小さいので、反応に関与できるLiの量が少なくなり、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。その結果、リチウムの拡散が阻害され、初回放電容量が大きく低下したと考えられる。
【0651】
参考例3-22では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きいため、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が減少したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0652】
参考例3-23では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05よりも小さいため、熱力学的に結晶構造が不安定となり、充電時のLi脱離に伴い結晶構造が崩壊したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0653】
表4に示されるように、参考例3-2による電池は、参考例3-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0654】
この理由としては、参考例3-2では、参考例3-1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいことが考えられる。その結果、結晶構造が不安定となり、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0655】
表4に示されるように、参考例3-3による電池は、参考例3-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0656】
この理由としては、参考例3-3では、参考例3-1と比較して、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいことが考えられる。その結果、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が僅かに減少したと考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0657】
表4に示されるように、参考例3-4による電池は、参考例3-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0658】
この理由としては、参考例3-4では、参考例3-1と比較して、Mnの量が減少したことが考えられる。すでに述べたように、Mnは酸素との混成軌道を形成しやすい。CoおよびNiは、Mnよりも、酸素と混成軌道を形成しにくいため、参考例3-4では、充電時に酸素が脱離し、結晶構造が不安定化したと考えられる。すなわち、参考例3-4では、酸素の酸化還元反応への寄与が低下したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0659】
表4に示されるように、参考例3-5による電池は、参考例3-4による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0660】
この理由としては、参考例3-5では、参考例3-4と比較して、Mnの量がさらに減少したことが考えられる。すでに述べたように、Mnは酸素との混成軌道を形成しやすい。参考例3-5では、Mnの量がさらに減少したので、初回放電容量がさらに低下したと考えられる。
【0661】
表4に示されるように、参考例3-6による電池は、参考例3-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0662】
この理由としては、参考例3-6では、参考例3-1と比較して、モル比(α/β)が大きいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元によって容量が過剰となることが考えられる。さらに、高い電気陰性度を有するFの影響が小さくなり、Liが脱離した際に結晶構造が不安定化したことが考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0663】
表4に示されるように、参考例3-7による電池は、参考例3-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0664】
この理由としては、参考例3-7では、参考例3-1と比較して、モル比(x/y)が小さいことが考えられる。その結果、結晶構造内において孤立したLiが増加し、反応に関与できるLiの量が少なくなったことが考えられる。このため、Liイオンの拡散性が低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。一方で、孤立したLiが支柱として機能することで、サイクル特性は良化した。
【0665】
表4に示されるように、参考例3-8~参考例3-19による電池は、参考例3-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0666】
この理由としては、参考例3-8~参考例3-19では、参考例3-1と比較して、Mnの量が減少したことが考えられる。すでに述べたように、Mnは酸素との混成軌道を形成しやすい。Mnの量が減少したので、酸素の酸化還元反応への寄与が低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0667】
表4に示されるように、参考例3-20による電池は、参考例3-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0668】
この理由としては、参考例3-20では、リチウム複合酸化物がFを含まないことが考えられる。Fは高い電気陰性度を有する。参考例3-20では、Fによって酸素の一部が置換されておらず、カチオンおよびアニオンの間の相互作用が低下したと考えられる。その結果、充電時における酸素脱離により、結晶構造が不安定化し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0669】
<参考例4-1>
[正極活物質の作製]
参考例4-1では、1.2/0.8/1.33/0.67のLi/Mn/O/Fモル比となるように、LiF、Li2MnO3、およびLiMnO2の混合物を得た。
【0670】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0671】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0672】
得られた前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0673】
得られた前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0674】
次に、得られた前駆体を、500℃で2時間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、参考例4-1による正極活物質を得た。
【0675】
参考例4-1による正極活物質に対して、粉末X線回折測定および電子回析測定を実施した。
【0676】
参考例4-1による正極活物質は、0.50の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0677】
[電池の作製]
次に、70質量部の実施例1による正極活物質、20質量部のアセチレンブラック、10質量部のポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」という)、および適量のN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」という)を混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。アセチレンブラックは導電剤として機能した。ポリフッ化ビニリデンは結着剤として機能した。
【0678】
20マイクロメートルの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0679】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた厚さ60マイクロメートルの正極板を得た。
【0680】
得られた正極板を打ち抜いて、直径12.5mmの円形状の正極を得た。
【0681】
300マイクロメートルの厚みを有するリチウム金属箔を打ち抜いて、直径14mmの円形状の負極を得た。
【0682】
これとは別に、フルオロエチレンカーボネート(以下、「FEC」という)とエチレンカーボネート(以下、「EC」という)とエチルメチルカーボネート(以下、「EMC」という)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0683】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0684】
得られた非水電解液を、セパレータに、染み込ませた。セパレータは、セルガード社の製品(品番2320、厚さ25マイクロメートル)であった。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータであった。
【0685】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点がマイナス摂氏50度に維持されたドライボックスの中で、直径が20ミリであり、かつ厚みが3.2ミリのコイン型電池を、作製した。
【0686】
<参考例4-2>
[正極活物質の作製]
参考例4-2では、1.2/0.4/0.4/1.9/0.1のLi/Mn/Co/O/Fモル比となるように、LiF、Li2MnO3、LiMnO2、およびLiCoO2の混合物を得た。
【0687】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0688】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0689】
得られた前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0690】
得られた前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0691】
次に、得られた前駆体を、300℃で30分間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、参考例4-2による正極活物質を得た。
【0692】
参考例4-2による正極活物質に対して、粉末X線回折測定および電子回析測定を実施した。
【0693】
それらの結果、参考例4-2による正極活物質は、空間群Fm-3mに属する相および空間群R-3mに属する相の二相混合物と特定された。
【0694】
参考例4-2による正極活物質は、0.24の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0695】
参考例4-1の場合と同様に、参考例4-2による正極活物質を用いて、参考例4-2によるコイン型電池を作製した。
【0696】
<参考例4-3>
[正極活物質の作製]
参考例4-3では、1.2/0.54/0.13/0.13/1.9/0.1のLi/Mn/Co/Ni/O/Fモル比を有するように、LiF、Li2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、およびLiNiO2の混合物を得た。
【0697】
混合物を、3mmの直径を有する適量のジルコニア製ボールと共に、45ミリリットルの容積を有する容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。容器はジルコニア製であった。
【0698】
次に、容器をアルゴングローブボックスから取り出した。容器に含有されている混合物は、アルゴン雰囲気下で、遊星型ボールミルで、600rpmで30時間処理することで、前駆体を作製した。
【0699】
得られた前駆体に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0700】
得られた前駆体の空間群は、Fm-3mと特定された。
【0701】
次に、得られた前駆体を、500℃で30分間、大気雰囲気において熱処理した。このようにして、参考例4-3による正極活物質を得た。
【0702】
参考例4-3による正極活物質に対して、粉末X線回折測定および電子回析測定を実施した。
【0703】
その結果、参考例4-3による正極活物質は、空間群Fm-3mに属する相および空間群C2/mに属する相の二相混合物と特定された。
【0704】
参考例4-3による正極活物質は、0.30の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0705】
参考例4-1の場合と同様に、参考例4-3による正極活物質を用いて、参考例4-3によるコイン型電池を作製した。
【0706】
<参考例4-4~参考例4-21>
参考例4-4~参考例4-21では、以下の事項(i)および(ii)を除き、参考例4-1の場合と同様に正極活物質を得た。
(i) 混合物の混合比(すなわち、Li/Me/O/Fの混合比)を変化させたこと。詳細は表5を参照せよ。
(ii) 焼成条件を、300~500℃かつ30分間~2時間の範囲内で変えたこと。
【0707】
参考例4-4~参考例4-21による正極活物質は、空間群Fm-3mに属する相および空間群Fd-3mに属する相の二相混合物と特定された。
【0708】
参考例4-4~参考例4-21において、前駆体は、参考例4-1と同様に、化学量論比に基づいて混合された原料を用いることにより調製された。
【0709】
参考例4-1の場合と同様に、参考例4-4~参考例4-21による正極活物質を用いて、参考例4-4~参考例4-21によるコイン型電池を作製した。
【0710】
<参考例4-22>
参考例4-22では、参考例4-1と同様に、Li1.2Mn0.54Co0.13Ni0.13O2で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0711】
参考例4-22では、LiFを使用しなかった。
【0712】
参考例4-22による正極活物質は、空間群Fm-3mに属する相および空間群C2/mに属する相の二相混合物と特定された。
【0713】
参考例4-22による正極活物質は、0.25の積分強度比I(18°-22°)/I(43°-46°)を有していた。
【0714】
参考例4-1の場合と同様に、参考例4-22による正極活物質を用いて、参考例4-22によるコイン型電池を作製した。
【0715】
<参考例4-23>
参考例4-23では、LiCoO2(すなわち、コバルト酸リチウム)で表される組成を有する正極活物質を公知の方法で得た。
【0716】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0717】
その結果、参考例4-23による正極活物質は、R-3mの空間群を有していた。
【0718】
参考例4-23による正極活物質は、1.27の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有していた。
【0719】
参考例4-1の場合と同様に、参考例4-23による正極活物質を用いて、参考例4-23によるコイン型電池を作製した。
【0720】
<参考例4-24>
参考例4-24では、参考例4-1と同様に、Li1.2Mn0.8O1.67F0.33で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0721】
参考例4-24では、700℃で10時間の熱処理が行われた。
【0722】
参考例4-24による正極活物質に対して、粉末X線回折測定および電子回折測定を行い、結晶構造を解析した。
【0723】
その結果、参考例4-24による正極活物質は、空間群Fm-3mに属する相およびFd-3mに属する相の二相混合物と特定された。
【0724】
参考例4-24による正極活物質は、1.05の積分強度比I(18°-24°)/I(43°-46°)を有していた。
【0725】
参考例4-1の場合と同様に、参考例4-24による正極活物質を用いて、参考例4-24によるコイン型電池を作製した。
【0726】
<参考例4-25>
参考例4-25では、参考例4-1と同様に、Li1.2Mn0.8O1.67F0.33で表される組成を有する正極活物質を得た。
【0727】
参考例4-25では、300℃で10分間の熱処理が行われた。
【0728】
参考例2-25による正極活物質に対して、粉末X線回折測定および電子回折測定を行い、結晶構造を解析した。
【0729】
その結果、参考例4-25による正極活物質は、空間群Fm-3mに属する相およびFd-3mに属する相の二相混合物と特定された。
【0730】
参考例4-25による正極活物質は、0.02の積分強度比I(18°-25°)/I(43°-46°)を有していた。
【0731】
参考例4-1の場合と同様に、参考例4-25による正極活物質を用いて、参考例4-25によるコイン型電池を作製した。
【0732】
<電池の評価>
0.5mA/cm2の電流密度で、4.9Vの電圧に達するまで、参考例4-1による電池を充電した。
【0733】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、参考例4-1による電池を放電させた。
【0734】
参考例4-1の電池の初回放電容量は、299mAh/gであった。
【0735】
0.5mA/cm2の電流密度で、4.3Vの電圧に達するまで、参考例4-23の電池を充電した。
【0736】
その後、0.5mA/cm2の電流密度で、2.5Vの電圧に達するまで、参考例4-23の電池を放電させた。
【0737】
参考例4-23による電池の初回放電容量は、150mAh/gであった。
【0738】
参考例4-2~参考例4-25によるコイン型電池の初回放電容量が測定された。
【0739】
以上の結果が、表5に示される。
【0740】
【0741】
表5に示されるように、参考例4-1~参考例4-22による電池は、260~299mAh/gの初回放電容量を有する。
【0742】
参考例4-1~参考例4-22による電池は、参考例4-23~参考例4-25による電池よりも、高い初回放電容量を有する。
【0743】
この理由としては、参考例4-1~参考例4-22による電池では、以下の事項(i)~(ii)が充足されることが考えられる。
(i) 正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物が、空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相および空間群Fm-3m以外に属する結晶構造を有する第二の相を有すること、および
(ii) 参考例4-1~参考例4-22では、当該リチウム複合酸化物が、0.05以上0.90以下の積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)を有すること。
上記の事項(i)~(ii)が充足されるため、多くの量のLiを挿入および脱離させることが可能で、かつ、Liの拡散性および結晶構造の安定性が高いと考えられる。その結果、初回放電容量が大きく向上したと考えられる。
【0744】
参考例4-23では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きい。参考例4-23では、結晶構造は空間群R-3mの単相であるため、リチウム複合酸化物は、空間群Fm-3mに属する結晶構造を有する第一の相を有さない。その結果、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下したと考えられる。さらに、参考例4-23では、モル比(x/y)が比較的小さいので、反応に関与できるLiの量が少なくなり、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。これらの理由のため、初回放電容量が大きく低下したと考えられる。
【0745】
参考例4-24では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.90よりも大きいため、第一の相の存在比が小さくなり、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下したと考えられる。さらに、第一の相および第二の相の間の界面が多く形成されたため、Liの拡散性が低下したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0746】
参考例4-25では、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が0.05よりも小さいため、第二の相の存在比が小さくなり、Liの拡散性が低下したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0747】
表5に示されるように、参考例4-2による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0748】
この理由としては、参考例4-2では、参考例4-1とは異なり、第二の相が、空間群Fd-3mではなく、空間群R-3mに属する結晶構造を有することが考えられる。空間群Fd-3mに属する結晶構造(すなわち、スピネル構造)では、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の3次元的なネットワークが形成される。一方で、空間群R-3mに属する結晶構造(すなわち、層状構造)は、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の2次元的なネットワークが形成される。このため、結晶構造が不安定となり、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0749】
表5に示されるように、参考例4-3による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0750】
この理由としては、参考例4-3では、参考例4-1とは異なり、第二の相が、空間群Fd-3mではなく、空間群C2/mに属する結晶構造を有することが考えられる。空間群Fd-3mに属する結晶構造(すなわち、スピネル構造)では、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の3次元的なネットワークが形成される。一方で、空間群C2/mに属する結晶構造(すなわち、層状構造)は、ピラーとして機能する遷移金属-アニオン八面体の2次元的なネットワークが形成される。このため、結晶構造が不安定となり、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0751】
表5に示されるように、参考例4-4による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0752】
この理由としては、参考例4-4では、参考例4-1よりも、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいため、第一の相の存在比が小さくなり、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下したと考えられる。第一の相および第二の相の間の界面が多く形成されたため、Liの拡散性が低下したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0753】
表5に示されるように、参考例4-5による電池は、参考例4-4による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0754】
この理由としては、参考例4-5では、参考例4-4よりも、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が大きいため、第一の相の存在比が小さくなり、充放電時のLiの挿入量および脱離量が低下したと考えられる。第一の相および第二の相の間の界面が多く形成されたため、Liの拡散性が低下したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0755】
表5に示されるように、参考例4-6による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0756】
この理由としては、参考例4-6では、参考例4-1よりも、積分強度比I(18°-20°)/I(43°-46°)が小さいため、第二の相の存在比が小さくなり、Liの拡散性が低下したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0757】
表5に示されるように、参考例4-7による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0758】
この理由としては、参考例4-7では、参考例4-1よりも、モル比(x/y)が小さいため、結晶構造内において孤立したLiの量が増加し、反応に関与できるLiの量が少なくなったことが考えられる。その結果、Liイオンの拡散性が低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0759】
表5に示されるように、参考例4-8による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0760】
この理由としては、参考例4-8では、参考例4-1よりも、モル比(α/β)が大きいことが考えられる。参考例4-8では、高い電気陰性度を有するFの影響が小さくなり、電子が非局在化するため、酸素の酸化還元反応が促進されることが考えられる。その結果、酸素の脱離が生じ、Liが脱離した際に結晶構造が不安定化したことが考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0761】
表5に示されるように、参考例4-9による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0762】
この理由としては、参考例4-9では、参考例4-1よりも、モル比(x/y)が大きいため、充電時において、より多くのLiが脱離し、結晶構造が不安定化したと考えられる。その結果、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0763】
表5に示されるように、参考例4-10~参考例4-21による電池は、参考例4-1による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0764】
この理由としては、参考例4-10~参考例4-21では、Mnの一部を他の元素で置換したため、参考例4-1と比較して、Mnの量が減少したことが考えられる。すでに述べたように、Mnは酸素と混成軌道を容易に形成する。参考例4-10~参考例4-21では、Mnの量が減少したため、酸素の酸化還元反応への寄与が低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0765】
表5に示されるように、参考例4-22による電池は、参考例4-3による電池よりも小さな初回放電容量を有する。
【0766】
この理由としては、参考例4-22では、リチウム複合酸化物がFを含まないことが考えられる。参考例4-22では、高い電気陰性度を有するFによって酸素の一部を置換していないので、カチオン及びアニオンの間の相互作用が低下したと考えられる。その結果、高電圧の充電時における酸素脱離により、結晶構造が不安定化し、初回放電容量が低下したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0767】
本開示による正極活物質は、二次電池のような電池の正極活物質として利用され得る。
【符号の説明】
【0768】
10 電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極