(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】傾斜板沈降システム
(51)【国際特許分類】
B01D 21/02 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
B01D21/02 F
B01D21/02 J
(21)【出願番号】P 2021167778
(22)【出願日】2021-10-13
【審査請求日】2021-10-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592104335
【氏名又は名称】ワセダ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】山岸 邦彰
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 雄太
(72)【発明者】
【氏名】中山 雄介
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-065984(JP,U)
【文献】特開2002-316003(JP,A)
【文献】実開昭51-113875(JP,U)
【文献】特開昭56-045712(JP,A)
【文献】特開2016-159199(JP,A)
【文献】特開2021-090945(JP,A)
【文献】特開2021-037493(JP,A)
【文献】特開2020-121293(JP,A)
【文献】特開2001-321607(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1290651(KR,B1)
【文献】実開昭56-044807(JP,U)
【文献】特開平09-150012(JP,A)
【文献】特開昭62-298409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜面が互いに平行に
なるように所定の間隔で水平方向に並んで配置された複数枚の傾斜板を有する傾斜板沈降装置と、
沈殿槽上に水平方向に掛け渡された懸吊材と、
上端が前記懸吊材に、下端が前記傾斜板沈降装置に取り付けられる吊り下げ手段と、を有し、
前記吊り下げ手段を介して前記傾斜板沈降装置が前記沈殿槽内に吊り下げられ、前記傾斜板の表面に沿って水平方向に通水する横向流式の傾斜板沈降システムであって、
前記傾斜板沈降装置の上方に、前記傾斜板の上端に平行な方向に沿って垂直方向に起立
し、前記傾斜板の上端から水面までを遮蔽する防波板を
、スロッシングを起こした水の波の成長を妨げる範囲で間隔を置いて複数枚有し、
前記傾斜板沈降装置が、前記通水の方向から見て左右両端に、該左右両端に配置された前記傾斜板の下端部から所定の距離を介して、通水方向に沿って垂直方向に起立する抑制板を有することを特徴とする傾斜板沈降システム。
【請求項2】
前記防波板は、水平方向に長尺の板状部材であり、長手方向が前記傾斜板の上端に平行に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の傾斜板沈降システム。
【請求項3】
前記防波板の下端が、前記傾斜板沈降装置の最上段の傾斜板の上端と等しい位置、或いはより低い位置にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の傾斜板沈降システム。
【請求項4】
前記防波板の上端が、前記沈殿槽内の水面よりも高い位置にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の傾斜板沈降システム。
【請求項5】
前記防波板の上端から前記懸吊材の下端までの距離が1cm~3cmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の傾斜板沈降システム。
【請求項6】
前記防波板は、前記吊り下げ手段に取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の傾斜板沈降システム。
【請求項7】
前記防波板の長手方向に平行な長尺の補強材が、前記防波板と前記吊り下げ手段とに取り付けられていることを特徴とする請求項6に記載の傾斜板沈降システム。
【請求項8】
前記傾斜板沈降装置の左右両端に位置する前記傾斜板の下端部と前記抑制板との距離が、40mm~250mmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の傾斜板沈降システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜板沈降装置を沈殿槽内に吊り下げてなる傾斜板沈降システムであって、スロッシング抑制手段を備えた傾斜板沈降システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水場などにおいて、被処理水に含まれる固形物を効率よく沈降させる手段として、複数枚の傾斜板を支持フレームに取り付けて一体化した傾斜板沈降装置を、吊りボルト等の吊り下げ手段によって、沈殿槽内に吊り下げた傾斜板沈降システムが知られている。このような傾斜板沈降システムにおいて、傾斜板沈降装置は沈殿槽に対して固定されていないため、地震が発生した場合には、地震の揺れによって発生する沈殿槽内の水のスロッシング(揺動)に伴って傾斜板沈降装置もスロッシングし、傾斜板沈降装置が沈殿槽の壁面に接触して傾斜板や支持フレームが損傷したり、傾斜板が支持フレームから外れて落下したりする事故が発生していた。
【0003】
特許文献1には、傾斜板沈降装置と沈殿槽の側壁との間に、コイルバネ部材やゴム状弾性部材などの緩衝装置を介在させることにより、地震発生時のスロッシングを抑制し、傾斜板や支持フレームの損傷を防止した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された緩衝装置のスロッシングを十分に抑制するためには、傾斜板沈降装置と沈殿槽の側壁との間に緩衝装置を多数取り付ける必要があり、作業が大掛かりである。
【0006】
本発明の課題は、既存の傾斜板沈降システムへの適用が容易な傾斜板沈降装置のスロッシング抑制手段を備えた傾斜板沈降システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、傾斜面が互いに平行になるように所定の間隔で水平方向に並んで配置された複数枚の傾斜板を有する傾斜板沈降装置と、
沈殿槽上に水平方向に掛け渡された懸吊材と、
上端が前記懸吊材に、下端が前記傾斜板沈降装置に取り付けられる吊り下げ手段と、を有し、
前記吊り下げ手段を介して前記傾斜板沈降装置が前記沈殿槽内に吊り下げられ、前記傾斜板の表面に沿って水平方向に通水する横向流式の傾斜板沈降システムであって、
前記傾斜板沈降装置の上方に、前記傾斜板の上端に平行な方向に沿って垂直方向に起立し、前記傾斜板の上端から水面までを遮蔽する防波板を、スロッシングを起こした水の波の成長を妨げる範囲で間隔を置いて複数枚有し、
前記傾斜板沈降装置が、前記通水の方向から見て左右両端に、該左右両端に配置された前記傾斜板の下端部から所定の距離を介して、通水方向に沿って垂直方向に起立する抑制板を有することを特徴とする。
【0008】
本発明においては、以下の構成を好ましい態様として含む。
前記防波板は、水平方向に長尺の板状部材であり、長手方向が前記傾斜板の上端に平行に配置されている。
前記防波板の下端が、前記傾斜板沈降装置の最上段の傾斜板の上端と等しい位置、或いはより低い位置にある。
前記防波板の上端が、前記沈殿槽内の水面よりも高い位置にある。
前記防波板の上端から前記懸吊材の下端までの距離が1cm~3cmである。
前記防波板は、前記吊り下げ手段に取り付けられている。
前記防波板の長手方向に平行な長尺の補強材が、前記防波板と前記吊り下げ手段とに取り付けられている。
前記傾斜板沈降装置の左右両端に位置する前記傾斜板の下端部と前記抑制板との距離が、40mm~250mmである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、傾斜板沈降装置の左右両端に抑制板を配置すると同時に、傾斜板沈降装置の上方に防波板を配置することで、傾斜板沈降装置のスロッシングを大幅に抑制することができ、地震発生時の傾斜板沈降装置の損傷を防止することができる。また、本発明は、傾斜板沈降装置に抑制板を、懸吊材に防波板を取り付けるだけであるため、既存のシステムへの適用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の傾斜板沈降システムの一実施形態の構成を模式的に示す部分斜視図である。
【
図2】
図1の実施形態を通水方向から見た図である。
【
図3】
図1の実施形態の傾斜板沈降装置を上方から見た図である。
【
図4】
図1の吊りボルトとその周辺部の拡大図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のA-A’端面図である。
【
図5】従来の傾斜板沈降システムの一例の構成を模式的に示す部分斜視図である。
【
図6】
図4の傾斜板沈降システムを通水方向から見た図である。
【
図7】本発明の傾斜板沈降システムの他の実施形態における吊りボルトとその周辺部の拡大図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のB-B’端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、傾斜板沈降装置の左右両端に抑制板を、上方に防波板を、それぞれ配置することで、地震によって発生する沈殿槽内の水のスロッシングを抑制し、該水のスロッシングによって生じる傾斜板沈降装置のスロッシングを抑制したことに特徴を有する。以下に、図面を参照して本発明の構成を詳細に説明する。
【0012】
先ず、従来の傾斜板沈降システムの構成例を説明する。
図5は、従来の傾斜板沈降システムの一例の構成を模式的に示す部分斜視図である。本例は、傾斜板2の表面に沿って水平方向に通水する横向流式の傾斜板沈降システムであり、
図6は、
図5のシステムを、被処理水の通水方向Fから見た図である。尚、
図5においては、左手前側の一部の傾斜板2の図示を省略、
図5,
図6においては、沈殿槽11内の水の図示を省略する。
【0013】
図5、
図6の傾斜板沈降システムは、傾斜板沈降装置1と、沈殿槽11上に水平方向に掛け渡されたPC桁や鋼材桁(SS製やSUS製)等の懸吊材21と、吊り下げ手段としての吊りボルト22とを有している。傾斜板沈降装置1においては、複数枚の傾斜板2を、傾斜面が互いに平行になるように所定の間隔で配置した状態で、水平方向に長尺の支持フレーム3に固定して一体化し、さらに、上下方向に複数本配置される支持フレーム3を、支柱5によって互いに連結しておくことによって、傾斜板2の間隔が保持され、傾斜板沈降装置1のねじれが防止されている。そして、吊りボルト22の上端を懸吊材21に取り付け、下端を最上段の支持フレーム3に掛けることによって、傾斜板沈降装置1は沈殿槽内に吊り下げられている。
【0014】
被処理水は、
図5中の通水方向Fで示されるように、傾斜板2の傾斜面に沿って流され、被処理水に含まれる固形物は、傾斜板2の傾斜した上面に沈降した後、該傾斜板2上を下方に滑り落ちて沈殿槽の底部11aに沈殿する。また、被処理水から固形物が除かれた後の清澄水は、傾斜板2に沿って上昇する。本例においては、上段の傾斜板2の下端と下段の傾斜板2の上端とが、水平方向において互いに隙間を有するため、上昇する清澄水が、傾斜板2の固形物が沈降する側とは反対側の裏面側を通って沈降する固形物と分離される。よって、上昇する清澄水が、沈降する固形物と混ざることがなく、効率よく清澄水が得られる。
【0015】
次に、本発明の傾斜板沈降システムの特徴について説明する。
【0016】
図1は本発明の傾斜板沈降システムの一実施形態の構成を模式的に示す部分斜視図であり、
図2は、
図1のシステムを被処理水の通水方向Fから見た図、
図3は
図1の傾斜板沈降装置を上方から見た図である。尚、
図1~
図3において、
図5、
図6と同じ部材については同じ符号を付して説明を省略する。また、
図1においては、左手前側の一部の傾斜板2と、抑制板31及び取り付け部材32の図示を、
図1~
図3においては、沈殿槽11内の水の図示を省略する。
【0017】
本発明の傾斜板沈降システムの特徴は、
図5、
図6に例示した傾斜板沈降システムにおいて、傾斜板沈降装置1のスロッシング抑制手段として、傾斜板沈降装置1の左右両端に抑制板31を、上方に防波板6を、それぞれ配置したことにある。即ち、抑制板31と防波板6以外については、本発明の構成は、従来の傾斜板沈降システムの構成と同じである。
【0018】
抑制板31は、板状部材であって、
図1~
図3に示すように、通水方向Fから見て傾斜板沈降装置1の左右両端に、主面が通水方向Fに平行になるように、通水方向Fに沿って垂直方向に起立して配置される。また、防波板6は長尺の板状部材であって、
図1、
図2に示すように、傾斜板2の上端に平行な方向、即ち通水方向Fに平行な方向に長手方向が沿うように、垂直方向に起立して配置される。
【0019】
通水方向Fに直交する方向において、傾斜板沈降装置1と沈殿槽11の側壁11bとの間隙を通る被処理水は、傾斜板による処理が施されないため、係る間隙の幅は可能な限り狭く設定される。一方、通水方向Fに平行な方向において、傾斜板沈降装置1と沈殿槽11の側壁(不図示)とは十分な距離が介在する。そのため、地震による揺れが通水方向Fに直交する方向に作用する場合に、傾斜板沈降装置1がスロッシングを起こして沈殿槽11の側壁11bに接触する可能性がある。
【0020】
前記したように、地震の揺れが先ず沈殿槽11内の水に伝わってスロッシングを起こし、この水のスロッシングが傾斜板沈降装置1に伝わってスロッシングを起こす。この時、傾斜板2に沿って、水が上昇、下降し、傾斜板沈降装置1にスロッシングを生じさせる。また、傾斜板沈降装置1の上方において、スロッシングを起こした水の波が大きく成長し、傾斜板沈降装置1に伝わってスロッシングを生じる。
【0021】
本発明においては、抑制板31によって、水のスロッシングによる傾斜板沈降装置1の急激な動きが抑制され、沈殿槽11の側壁11bへの傾斜板沈降装置1の接触が防止される。同時に、抑制板31によって、傾斜板沈降装置1の左右両側における水の動きが抑制され、水のスロッシングの成長を抑制することができる。さらに、防波板6によって傾斜板沈降装置1上の波の成長、即ち水のスロッシングの成長が抑制され、係る波による傾斜板沈降装置1のスロッシングが抑制される。よって、全体として、傾斜板沈降装置1のスロッシングが大幅に抑制され、傾斜板沈降装置1の沈殿槽11への接触及び傾斜板2の落下が防止される。傾斜板沈降装置1のスロッシング抑制効果は、抑制板31及び防波板6のどちらか一方でも得られるが、両方備えていることによって高い抑制効果が得られる。
【0022】
本発明においては、抑制板31近傍に下端部を有する傾斜板2上に沈降した固形物が、該下端部より下方に落下し得るように、傾斜板沈降装置1の左右両端に位置する傾斜板2の下端部から抑制板31まで、所定の間隙を介在させる。通常、傾斜板沈降装置1と、沈殿槽11の側壁11bとの間は、100mm~400mm程度である。よって、係る範囲内において、傾斜板沈降装置1に抑制板31を取り付けてスロッシング抑制効果を得た上で、傾斜板沈降装置1の左右両端に位置する傾斜板2の下端部と抑制板31との間隙から固形物が下方に落下するためには、該間隙は40mm~250mmが好ましい。また、水平方向から見て、抑制板31の上端は、最上段の傾斜板2の上端に、下端は最下段の傾斜板2の下端に、それぞれ達していればよく、通水方向においては、前端が前段の傾斜板2の前端に、後端が後段の傾斜板2の後端に達していればよい。即ち、通水方向Fに直交する方向から見た場合に、抑制板31が傾斜板2に重なって、傾斜板2が見えなければよい。
【0023】
抑制板31は、傾斜板沈降装置1の左右両端側に配置された支柱5に取り付け部材32を介して取り付ければよい。よって、既存の傾斜板沈降装置1にも容易に取り付けることができる。取り付け部材32としては特に限定されず、市販のステンレス製やアルミニウム製の金物が好ましく用いられる。また、支持フレーム3の両端を延長し、その先端に抑制板31を取り付けても構わない。
【0024】
また、本発明において、防波板6は、スロッシングを起こした水の波の成長を妨げる上で、傾斜板2の上端から水面までを遮蔽することが好ましい。よって、防波板6の下端が、傾斜板沈降装置1の最上段の傾斜板2の上端と等しい位置にあるか、或いは、より低い位置にあり、水平方向から見て、傾斜板2の上端側と防波板6の下端側とが互いに重なりあっていることが好ましい。また、防波板6の上端は、スロッシングを起こした水の波が成長しないように、水面よりできるだけ高い位置にある方が好ましいが、防波板6の上端が懸吊材21に接触していると、少しの揺れで防波板6が損傷したり、懸吊材21から防波板6に振動が伝わったりしてしまう。よって、防波板6の上端と懸吊材21の下端との間(
図4(a)中のH)は、1cm~3cm程度空いていることが好ましい。
【0025】
防波板6は、通水方向Fに平行な方向において、傾斜板沈降装置1の長さに対応して配置していることが好ましく、より好ましくは、通水方向Fに平行な方向における傾斜板沈降装置1の端部よりも前後に突出していることが好ましい。また、
図1、
図2に示したように、通水方向Fにおいて、傾斜板2が複数枚配列するような場合には、防波板6は、係る複数枚にわたって連続していることが好ましい。
【0026】
防波板6は、スロッシングを起こした水の波の成長を妨げる範囲で、適度な間隔を置いて複数枚配置すればよく、
図1、
図2に示したように、吊りボルト22を利用して取り付けることができる。好ましくは、通水方向Fに直交する方向に50cm~150cm程度のピッチで防波板6を配置すればよく、通水方向Fに直交する方向に隣り合う吊りボルト22,22の間隔が広すぎる場合には、防波板6を配置したい位置に、別途、吊りボルト22、或いは、吊りボルト22と同様の棒状部材を防波板6の取り付け部材として懸吊材21に取り付けても構わない。
【0027】
図4(a)に、
図1の吊りボルト22とその周辺部の拡大図を、
図4(b)に
図4(a)中のA-A’部位の端面図を示す。本例においては、防波板6を貫通するUボルト7を用いて吊りボルト22に防波板6を取り付けている。
図4中、8はUボルト7を固定するためのナットである。また、
図4(a)中、23は、吊りボルト22の先端に掛けた支持フレーム3が吊りボルト22から外れるのを防止するストッパーである。このように、傾斜板沈降装置1への防波板6の取り付け作業は、防波板6を吊りボルト22に取り付けるだけでよいため、容易であり、水処理を停止することなく行うことができる。また、防波板6を交換する場合も、取り外しが容易であり、水処理中であっても防波板6の交換が可能である。
【0028】
本発明で用いられる抑制板31及び防波板6としては、素材は特に限定されないが、日光に晒されることから、UV劣化しにくい素材が好ましく、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)やPET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂素材、或いは、SUSが好ましく用いられる。
【0029】
図1に示したように、防波板6を吊りボルト22に取り付けた場合、通水方向Fにおいて隣り合う2本の吊りボルト22,22の中間部においては、地震により生じた波によって防波板6に撓みや変形、捩れ、ひび割れが生じるおそれがある。よって、これらを防止するために、補強材を用いてもよい。
図7に、係る補強材を用いた実施形態の構成を模式的に示す。
図7(a)に、係る実施形態の吊りボルト22とその周辺部の拡大図を、
図7(b)に
図7(a)中のB-B’部位の端面図を示す。
図7の実施形態においては、防波板6の長手方向に沿って、長尺の板状の補強材9を、吊りボルト22と防波板6との間、及び、防波板6とナット8との間に挟み込み、Uボルト7とナット8とで、吊りボルト22及び防波板6と一体に取り付けている。即ち、1枚の防波板6について、上下2箇所で表裏の合計4本の補強材9を取り付けている。これにより防波板6は補強され、吊りボルト22,22の中間部においても、地震により生じた波によって防波板6に撓みや変形、捩れ、ひび割れが生じにくくなる。
【0030】
また、
図7に示すように、補強材9を吊りボルト22と一体に取り付けることにより、通水方向Fに沿った方向において、複数本の吊りボルト22が懸吊材21よりも下方で互いに連結されるため、互いに連結された吊りボルト22の拘束力によって、該吊りボルト22に吊り下げられた傾斜板沈降装置1が一体化してゆがみが生じにくくなり、スロッシングの影響を受けにくくなる。
【0031】
尚、補強材9は、表、裏のいずれか一方のみでも良い。補強材9としては、例えば、SUS製の補強用アングル鋼材や樹脂が好ましく、防波板6と同じ素材が好ましく用いられる。
【0032】
尚、
図1~
図3においては、複数の傾斜板2が固定具4を介して支持フレーム3に取り付けられて一体化されているが、複数の傾斜板2を一体化する手段としては、これに限定されない。また、吊り下げ手段としては、上端を懸吊材21に取り付け、下端を傾斜板沈降装置1に取り付けて、該傾斜板沈降装置1を沈殿槽11内に吊り下げることができる手段であれば、吊りボルト22に限定されない。
【0033】
図1~
図3においては、傾斜板2を水平方向に複数枚配置して1段とし、互いに傾斜方向が逆になるように、上下に2段、前後に2列配置しているが、これに限定されるものではない。1段のみとしても良いし、3段以上配置しても良い。また、1列としても良いし、3列以上としても良い。複数段配置する場合には、上下段で傾斜方向が逆になるように配置することが好ましく、複数列配置する場合には、前後で傾斜方向をそろえる。
【符号の説明】
【0034】
1:傾斜板沈降装置、2:傾斜板、3:支持フレーム、4:固定具、5:支柱、6:防波板、7:Uボルト、8:ナット、9:補強材、11:沈殿槽、11a:底部、11b:側壁、21:懸吊材、22:吊りボルト、23:ストッパー、31:抑制板、32:取り付け部材
【要約】
【課題】既存の傾斜板沈降システムへの適用が容易な傾斜板沈降装置のスロッシング抑制手段を備えた傾斜板沈降システムを提供する。
【解決手段】傾斜板沈降装置1の左右両端に、傾斜板2から所定の距離を介して抑制板31を取り付けると同時に、傾斜板沈降装置1を吊り下げている吊りボルト22に、傾斜板2に平行に防波板6取り付けて、地震発生時の水のスロッシングの波の成長を抑制する。
【選択図】
図1