(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】電極箔の製造方法および電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20230203BHJP
H01G 9/07 20060101ALI20230203BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20230203BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
H01G9/00 290A
H01G9/00 290D
H01G9/00 290E
H01G9/07
H01G9/145
H01G9/15
(21)【出願番号】P 2021186633
(22)【出願日】2021-11-16
(62)【分割の表示】P 2018504067の分割
【原出願日】2017-02-13
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2016047191
(32)【優先日】2016-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 美和
(72)【発明者】
【氏名】河内 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】津田 康裕
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/117985(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/118901(WO,A1)
【文献】特開2003-224036(JP,A)
【文献】特開2012-43960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/07
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属を含む金属箔と、前記金属箔上に配置された第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に配置された第2誘電体層を備えた電極箔の製造方法であって、
前記金属箔を粗面化する工程と、
前記粗面化した前記金属箔の表面に、原子層堆積法により、第2金属の酸化物を含む薄膜を形成する工程と、
前記金属箔を化成して、前記金属箔と前記薄膜との間に、前記第1金属の酸化物を含む前記第1誘電体層を形成するとともに、前記薄膜を前記第1金属と前記第2金属との複合酸化物を含む前記第2誘電体層とする工程と、
を備え、
前記第2誘電体層の厚さは、0.5nm以上7.0nm以下である、
電極箔の製造方法。
【請求項2】
前記第1金属はアルミニウムであり、前記第2金属はチタンである、請求項1に記載の電極箔の製造方法。
【請求項3】
前記金属箔を粗面化する工程において、前記金属箔は、直流エッチングまたは交流エッチングにより粗面化される、請求項1または2に記載の電極箔の製造方法。
【請求項4】
前記金属箔を粗面化する工程において、深さDの粗面化領域を形成し、
前記薄膜を形成する工程において、前記粗面化領域のうち、前記金属箔の表面から0.5Dの深さまでの表面領域における前記第2金属の濃度C1と、前記粗面化領域の残部である深部領域における前記第2金属の濃度C2との比:C2/C1が、0.5~1.2になるように、前記薄膜を形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極箔の製造方法。
【請求項5】
第1金属を含む金属箔と、前記金属箔上に配置された第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に配置された第2誘電体層を備えた電極箔を含む電解コンデンサの製造方法であって、
前記金属箔を粗面化する工程と、
前記粗面化した前記金属箔の表面に、原子層堆積法により、第2金属の酸化物を含む薄膜を形成する工程と、
前記金属箔を化成して、前記金属箔と前記薄膜との間に、前記第1金属の酸化物を含む前記第1誘電体層を形成するとともに、前記薄膜を前記第1金属と前記第2金属との複合酸化物を含む前記第2誘電体層とすることにより、前記電極箔を得る工程と、
前記電極箔に電解液を含浸させる工程および前記第2誘電体層の表面に固体電解質層を形成する工程の少なくとも一方の工程と、を備え、
前記第2誘電体層の厚さは、0.5nm以上7.0nm以下である、
電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記第1金属はアルミニウムであり、前記第2金属はチタンである、請求項5に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記金属箔を粗面化する工程において、前記金属箔は、直流エッチングまたは交流エッチングにより粗面化される、請求項5または6に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記金属箔を粗面化する工程において、深さDの粗面化領域を形成し、
前記薄膜を形成する工程において、前記粗面化領域のうち、前記金属箔の表面から0.5Dの深さまでの表面領域における前記第2金属の濃度C1と、前記粗面化領域の残部である深部領域における前記第2金属の濃度C2との比:C2/C1が、0.5~1.2になるように、前記薄膜を形成する、請求項5~7のいずれか一項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極箔の製造方法および電解コンデンサの製造方法に関し、特に耐電圧性および静電容量の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサの陽極体として、弁作用金属を含む金属箔が用いられる。電解コンデンサの容量を増加させるために、金属箔の主面の全部または一部にはエッチングが施される。通常、その後、金属箔を化成処理して、エッチングにより形成された凹凸の表面に金属酸化物(誘電体)の層が形成される。
【0003】
特許文献1は、化成処理に替えて、エッチングされた金属箔の表面に、原子層堆積法により、誘電体層を形成することを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、電解コンデンサの容量の増加が十分ではなく、耐電圧性も低い。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の第1の局面に係る電極箔の製造方法は、第1金属を含む金属箔と、前記金属箔上に配置された第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に配置された第2誘電体層を備えた電極箔の製造方法であって、前記金属箔を粗面化する工程と、前記粗面化した前記金属箔の表面に、原子層堆積法により、第2金属の酸化物を含む薄膜を形成する工程と、前記金属箔を化成して、前記金属箔と前記薄膜との間に、前記第1金属の酸化物を含む前記第1誘電体層を形成するとともに、前記薄膜を前記第1金属と前記第2金属との複合酸化物を含む前記第2誘電体層とする工程と、備え、前記第2誘電体層の厚さは、0.5nm以上7.0nm以下である。
【0007】
本発明の第2の局面に係る電解コンデンサの製造方法は、第1金属を含む金属箔と、前記金属箔上に配置された第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に配置された第2誘電体層を備えた電極箔を含む電解コンデンサの製造方法であって、前記金属箔を粗面化する工程と、前記粗面化した前記金属箔の表面に、原子層堆積法により、第2金属の酸化物を含む薄膜を形成する工程と、前記金属箔を化成して、前記金属箔と前記薄膜との間に、前記第1金属の酸化物を含む前記第1誘電体層を形成するとともに、前記薄膜を前記第1金属と前記第2金属との複合酸化物を含む前記第2誘電体層とすることにより、前記電極箔を得る工程と、前記電極箔に電解液を含浸させる工程および前記第2誘電体層の表面に固体電解質層を形成する工程の少なくとも一方の工程と、を備え、前記第2誘電体層の厚さは、0.5nm以上7.0nm以下である。
本開示はさらに、以下の発明例を開示する。
[発明例1]
第1金属を含む金属箔を粗面化する工程と、
前記粗面化した前記金属箔の表面に、原子層堆積法により、第2金属の酸化物を含む第2誘電体層を形成する工程と、
前記第2誘電体層が形成された前記金属箔を化成して、前記金属箔と前記第2誘電体層との間に、前記第1金属の酸化物を含む第1誘電体層を形成する工程と、
を備える、電極箔の製造方法。
[発明例2]
前記第1誘電体層を形成する工程において、前記第2誘電体層には前記第1金属と前記第2金属との複合酸化物が形成される、発明例1に記載の電極箔の製造方法。
[発明例3]
前記第1金属はアルミニウムであり、前記第2金属はチタンである、発明例1または2に記載の電極箔の製造方法。
[発明例4]
前記金属箔を粗面化する工程において、前記金属箔は、直流エッチングまたは交流エッチングにより粗面化される、発明例1~3のいずれか一項に記載の電極箔の製造方法。
[発明例5]
第1金属を含む金属箔を粗面化する工程と、
前記粗面化した前記金属箔の表面に、原子層堆積法により、第2金属の酸化物を含む第2誘電体層を形成する工程と、
前記第2誘電体層が形成された前記金属箔を化成して、前記金属箔と前記第2誘電体層との間に、前記第1金属の酸化物を含む第1誘電体層を形成し、電極箔を得る工程と、
前記電極箔に電解液を含浸させる工程および第2誘電体層の表面に固体電解質層を形成する工程の少なくとも一方の工程と、を備える、電解コンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容量が大きく、耐電圧性に優れる電解コンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る方法により製造される電極箔の表面部分を拡大して示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る方法により製造される電解コンデンサの要部の構成を説明するための展開図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る方法により製造される電解コンデンサの断面模式図である。
【
図4】実施例および比較例における漏れ電流を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る製造方法により得られる電極箔は、粗面化された金属箔に形成されたピットの深部(さらには最深部)の表面まで被覆する2つの誘電体層を備える。このような電極箔は、第1金属を含む金属箔を準備する工程(第1工程)と、金属箔を粗面化する工程(第2工程)と、粗面化した金属箔の表面に、原子層堆積法により、第2金属の酸化物を含む第2誘電体層を形成する工程(第3工程)と、第2誘電体層が形成された金属箔を化成して、金属箔と第2誘電体層との間に、第1金属の酸化物を含む第1誘電体層を形成する工程(第4工程)と、を備える方法により製造される。この方法により製造される電極箔は、電解コンデンサの容量が増加するとともに、金属箔の自然電位が上がって、耐電圧性が向上する。以下、本実施形態に係る電極箔の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0011】
[電極箔の製造方法]
(1)金属箔を準備する工程(第1工程)
まず、第1金属を含む金属箔を準備する。第1金属の種類は特に限定されないが、第1誘電体層の形成が容易である点から、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。金属箔の厚みは特に限定されないが、例えば、15μm以上、300μm以下である。
【0012】
(2)金属箔を粗面化する工程(第2工程)
次に、金属箔の表面を粗面化する。粗面化により、金属箔の表面に複数のピットが形成される。粗面化は、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。エッチング処理は、例えば、直流電流による直流エッチングまたは交流電流による交流エッチングにより行われる。
【0013】
金属箔の表面に形成されるピットの孔径は特に限定されないが、表面積を大きくできる点および第2誘電体層がピットの深部にまで形成され易い点で、50~2000nmであることが好ましい。ピットの孔径とは、例えば水銀ポロシメータで測定される細孔分布の最頻度孔径である。ピットの深さも特に限定されず、金属箔の厚みに応じて適宜設定すればよい。なかでも、表面積を大きくできる点および電極箔の強度保持の観点から、ピットの深さ(ピットが形成されているエッチング領域の厚みD)は、エッチングされる前の金属箔の厚みの1/10以上、4/10以下であることが好ましい。エッチング領域の厚みDは、金属箔の断面のSEMあるいはTEM画像における、任意の10点の平均値である。以下、第1誘電体層および第2誘電体層の厚みも同様にして算出される。
【0014】
(3)第2誘電体層を形成する工程(第3工程)
粗面化した金属箔の表面に、第2金属の酸化物を含む第2誘電体層を形成する。このとき、第2金属の酸化物は、原子層堆積法により、金属箔の表面に堆積される。第2誘電体層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.5nm以上、200nm以下である。
【0015】
原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD法)は、対象物が配置された反応室に第2金属を含む原料ガスと酸化剤とを交互に供給して、対象物の表面に第2金属の酸化物を含む層(第2誘電体層)を形成する製膜法である。ALD法では、自己停止(Self-limiting)作用が機能するため、第2金属は原子層単位で対象物の表面に堆積する。そのため、原料ガスの供給→原料ガスの排気(パージ)→酸化剤の供給→酸化剤の排気(パージ)を1サイクルとしたサイクル数により、第2誘電体層の厚みは制御される。つまり、ALD法は、形成される層の厚みを制御し易い点で好ましい方法である。さらに、400~900℃の温度条件で行われる化学気相成長法(CVD)に対して、ALD法は100~400℃の温度条件で行うことができる。つまり、ALD法は、金属箔への熱的ダメージを抑制することができる点でも好ましい。
【0016】
ALD法では、ピットの孔径が例えば10nm程度あれば、ピットの深部の表面に薄膜を形成することができる。上記のとおり、金属箔の表面に形成されるピットは、通常、50nm以上の孔径を有する。そのため、ALD法によれば、孔径が小さく深いピット、すなわち、アスペクト比の大きなピットの深部の表面にも第2誘電体層を形成することができる。
【0017】
例えば、ALD法によれば、エッチング領域のうち、エッチング領域の表面から0.5Dまでの表面領域における第2金属の濃度C1と、エッチング領域の残部である深部領域における第2金属の濃度C2との比:C2/C1が、0.5~1.2になるように、第2誘電体層を形成することができる。第2金属の濃度は、第2誘電体層を備える金属箔の断面の分析、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いた元素マッピングにより算出できる。
【0018】
第2金属としては、Al、Ta、Nb、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。これらは、単独で、あるいは2種以上組み合わされてもよい。すなわち、第2誘電体層には、Al2O3、Ta2O5、Nb2O5、SiO2、TiO2、ZrO2、HfO2が単独で、あるいは2種以上組み合わされて含まれ得る。第2誘電体層が2種以上の第2金属の酸化物を含む場合、各酸化物は混在していてもよいし、それぞれ層状に配置されていてもよい。なかでも、第2金属は、金属箔に含まれる第1金属とは異なる金属種であることが好ましい。特に、得られる電解コンデンサの容量が増加する点で、第2金属の酸化物は、第1金属の酸化物よりも高い比誘電率を有することが好ましい。また、電解コンデンサの耐電圧が向上する点で、第2金属の酸化物は、Ta2O5、TiO2、SiO2であることが好ましい。
【0019】
酸化剤としては、従来、ALD法で用いられている酸化剤を使用することができる。酸化剤としては、例えば、水、酸素、オゾン等が挙げられる。酸化剤は、酸化剤を原料とするプラズマとして反応室に供給されてもよい。
【0020】
第2金属は、第2金属を含むプリカーサ(前駆体)をガス化して、反応室に供給される。プリカーサは、第2金属を含む有機金属化合物であり、これにより、第2金属は対象物に化学吸着し易くなる。プリカーサとしては、従来、ALD法で用いられている各種の有機金属化合物を使用することができる。
【0021】
Tiを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(t-ブチルシクロペンタジエニル)チタン(IV)ジクロライド(C18H26Cl2Ti)、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(IV)([(CH3)2N]4Ti、TDMAT)、テトラキス(ジエチルアミノ)チタン(IV)([(C2H5)2N]4Ti)、テトラキス(エチルメチルアミノ)チタン(IV)(Ti[N(C2H5)(CH3)]4)、チタン(IV)(ジイソプロポキシド-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート(Ti[OCC(CH3)3CHCOC(CH3)3]2(OC3H7)2)、四塩化チタン(TiCl4)、チタン(IV)イソプロポキシド(Ti[OCH(CH3)2]4)、チタン(IV)エトキシド(Ti[O(C2H5)]4)等が挙げられる。
【0022】
Alを含むプリカーサとしては、例えば、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)等が挙げられる。Zrを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(メチル-η5-シクロペンタジエニル)メトキシメチルジルコニウム(Zr(CH3C5H4)2CH3OCH3)、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)([(CH3)2N]4Zr)、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(IV)(Zr(NCH3C2H5)4)、ジルコニウム(IV)t-ブトキシド(Zr[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。Nbを含むプリカーサとしては、例えば、ニオブ(V)エトキシド(Nb(OCH2CH3)5)、トリス(ジエチルアミド)(t-ブチルイミド)ニオブ(V)(C16H39N4Nb)等が挙げられる。
【0023】
Siを含むプリカーサとしては、例えば、N-sec-ブチル(トリメチルシリル)アミン(C7H19NSi)、1,3-ジエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン(C8H23NSi2)、2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン((CH3SiHO)5)、ペンタメチルジシラン((CH3)3SiSi(CH3)2H)、トリス(イソプロポキシ)シラノール([(H3C)2CHO]3SiOH)、クロロペンタンメチルジシラン((CH3)3SiSi(CH3)2Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリジメチルアミノシラン(Si[N(CH3)2]4)、テトラエチルシラン(Si(C2H5)4)、テトラメチルシラン(Si(CH3)4)、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)、ドデカメチルシクロヘキサシラン((Si(CH3)2)6)、四塩化ケイ素(SiCl4)、四臭化ケイ素(SiBr4)等が挙げられる。
【0024】
Taを含むプリカーサとしては、例えば、トリス(エチルメチルアミド)(t-ブチルアミド)タンタル(V)(C13H33N4Ta)、タンタル(V)ペンタエトキシド(Ta(OC2H5)5)、トリス(ジエチルアミド)(t-ブチルイミド)タンタル(V)((CH3)3CNTa(N(C2H5)2)3)、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル(V)(Ta(N(CH3)2)5)等が挙げられる。
【0025】
Hfを含むプリカーサとしては、例えば、ハフニウムテトラクロライド(HfCl4)、テトラキスジメチルアミノハフニウム(Hf[N(CH3)2]4)、テトラキスエチルメチルアミノハフニウム(Hf[N(C2H5)(CH3)]4)、テトラキスジエチルアミノハフニウム(Hf[N(C2H5)2]4)、ハフニウム-t-ブトキシド(Hf[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。
【0026】
(4)第1誘電体層を形成する工程(第4工程)
続いて、第2誘電体層が形成された金属箔を化成する。これにより、例えば
図1に示すように、金属箔11と第2誘電体層122との間に、金属箔11を構成する第1金属の酸化物を含む第1誘電体層121が形成される。第1誘電体層121は、金属箔11を化成することによって形成されるため、ピット11aの最深部の表面にまで形成される。
【0027】
ALD法によれば、薄く均一な第2誘電体層122が形成され得る。しかし、実際にはピット11aの内部(特に最深部)の表面において、ピンホール等の欠陥を有する場合がある。そこで、第2誘電体層122が形成された金属箔11を化成処理する。これにより、イオン化した第1金属が第2誘電体層122にまで拡散する。第2誘電体層122に拡散した第1金属によって、第2誘電体層122の欠陥が修復される。その結果、誘電体層12全体として、ピンホールのない均一な厚みを備える層が形成される。よって、電解コンデンサの容量が増大するとともに、金属箔11の自然電位が上がって、耐電圧性が向上する。第1誘電体層121の厚みは特に限定されない。
【0028】
化成処理により、第2誘電体層122の欠陥が修復されることは、化成処理後の第2誘電体層122が、第2金属に加えて第1金属を含むとともに、形成される第1誘電体層121の厚みが薄くなることからわかる。例えば、第1誘電体層121の厚みは、第2誘電体層122を有しない金属箔11を同じ条件で化成した場合と比較して、薄くなる。さらに、第2誘電体層122が厚くなるほど、第1誘電体層121の厚みは薄くなる。厚い第2誘電体層122によって、化成処理の際の第1金属の溶出が抑制されるとともに、第1金属によって修復されるべき第2誘電体層122の欠陥が多くなるためであると考えられる。そのため、第1金属の酸化物よりも高い比誘電率を有する第2金属の酸化物を含む第2誘電体層122を形成し、その後、金属箔11を化成して第1誘電体層121を形成する場合、得られる電解コンデンサの容量をさらに増大させることができる。比誘電率の低い第1金属を含む第1誘電体層121が、薄くなるためである。
【0029】
金属箔11を化成する方法は特に限定されず、例えば、金属箔11をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬して、電圧を印加すること(陽極酸化)により行われる。第1誘電体層121の厚みは、陽極酸化の際の印加電圧に応じて変化する。
【0030】
このようにして得られる第2誘電体層122の厚みT2と第1誘電体層121の厚みT1との比は特に限定されず、用途および所望の効果等に応じて適宜設定すればよい。例えば、厚みの比:T1/T2は、0.01程度であってもよいし、30以上であってもよい。第2誘電体層122と第1誘電体層121との合計の厚みは、第2誘電体層122を有しない金属箔11を同じ条件で化成して形成される第1金属を含む誘電体層の厚みと同程度になる場合もある。なお、第1金属と第2金属とは、これらの複合酸化物として第2誘電体層122に含まれ得る。換言すれば、第2誘電体層122に第1金属と第2金属との複合酸化物が含まれる場合、金属箔11に対して、上記の第3工程および第4工程がこの順に行われたといえる。
【0031】
[電解コンデンサ]
電極箔10を陽極体として備える電解コンデンサは、例えば、上記の第1工程~第4工程により製造される電極箔10に、電解液を含浸させる工程および/または第2誘電体層122の表面に固体電解質層を形成する第5工程を行うことにより製造される。
【0032】
(5)電極箔に電解液を含浸させる工程および/または第2誘電体層の表面に固体電解質層を形成する工程(第5工程)
第5工程では、電極箔10に電解液を含浸させるか、または、電極箔10の第2誘電体層122の表面に固体電解質層を形成する。電解液の含浸工程および固体電解質層の形成工程の両方を行う場合、固体電解質層の形成工程の後、電解液の含浸工程を行う。
【0033】
電極箔10に含浸させる電解液としては、非水溶媒であってもよく、非水溶媒とこれに溶解させたイオン性物質(溶質、例えば、有機塩)との混合物であってもよい。非水溶媒は、有機溶媒でもよく、イオン性液体でもよい。非水溶媒としては、高沸点溶媒が好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなとの多価アルコール類、スルホランなどの環状スルホン類、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、炭酸プロピレンなどのカーボネート化合物、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。有機塩とは、アニオンおよびカチオンの少なくとも一方が有機物を含む塩である。有機塩としては、例えば、マレイン酸トリメチルアミン、ボロジサリチル酸トリエチルアミン、フタル酸エチルジメチルアミン、フタル酸モノ1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、フタル酸モノ1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウムなどを用いてもよい。
【0034】
固体電解質層は、例えば、マンガン化合物や導電性高分子を含む。すなわち、電極箔10に接触させる電解質は、マンガン化合物や導電性高分子を含む。導電性高分子として、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などを用いることができる。導電性高分子を含む固体電解質層は、例えば、原料モノマーを第2誘電体層122上で化学重合および/または電解重合することにより、形成することができる。あるいは、導電性高分子が溶解した溶液、または、導電性高分子が分散した分散液を、第2誘電体層122に塗布することにより、形成することができる。
【0035】
第5工程は、
図2に示すような捲回体100を作製した後、行ってもよい。
図2は、捲回体100の構成を説明するための展開図である。
【0036】
捲回体100の作製に際して、まず、陰極体20を準備する。
陰極体20にも、電極箔10(陽極体)と同様、金属箔を用いることができる。金属の種類は特に限定されないが、Al、Ta、Nbなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。必要に応じて、陰極体20の表面を粗面化してもよい。また、陰極体20の表面は、化成皮膜が設けられていてもよく、陰極体20を構成する金属とは異なる金属(異種金属)や非金属の被膜が設けられていてもよい。異種金属や非金属としては、例えば、Tiのような金属やカーボンのような非金属などを挙げることができる。
【0037】
次に、電極箔10と陰極体20とを、セパレータ30を介して捲回する。このとき、各電極には、リードタブ50Aまたは50Bの一方の端部がそれぞれ接続しており、リードタブ50Aおよび50Bを巻き込みながら、各電極は捲回される。リードタブ50Aおよび50Bの他方の端部には、リード線60Aおよび60Bがそれぞれ接続している。リード線60Aおよび60Bの材料についても特に限定されず、導電性材料であればよい。
【0038】
セパレータ30は特に限定されず、例えば、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、アラミド繊維などを主成分とする不織布を用いることができる。リードタブ50Aおよび50Bの材料も特に限定されず、導電性材料であればよい。リードタブ50Aおよび50Bは、その表面が化成処理されていてもよい。また、リードタブ50Aおよび50Bの封止部材212(
図3参照)と接触する部分や、リード線60Aまたは60Bとの接続部分は、樹脂材料で覆われていてもよい。
【0039】
次に、巻回された電極箔10、陰極体20およびセパレータ30のうち、最外層に位置する陰極体20の外側表面に、巻止めテープ40を配置し、陰極体20の端部を巻止めテープ40で固定する。なお、電極箔10を大判の金属箔11を裁断することによって準備した場合には、電極箔10の裁断面に誘電体層を設けるために、得られた捲回体100に対し、さらに化成処理を行ってもよい。
【0040】
捲回体100に電解質を接触させる方法は、特に限定されない。例えば、容器に収容された電解質に、捲回体100を浸漬させる方法や、電解質を捲回体100に滴下する方法などを用いることができる。含浸は、減圧下、例えば10kPa~100kPa、好ましくは40kPa~100kPaの雰囲気で行ってもよい。
【0041】
次に、捲回体100を封止することにより、
図3に示すような電解コンデンサ200が得られる。
図3は、本実施形態に係る製造方法により得られる電解コンデンサ200の断面模式図である。電解コンデンサ200は、例えば、以下のようにして製造される。まず、リード線60A、60Bが有底ケース211の開口する上面に位置するように、捲回体100を有底ケース211に収納する。有底ケース211の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属あるいはこれらの合金を用いることができる。
【0042】
次に、リード線60A、60Bが貫通するように形成された封止部材212を、捲回体100の上方に配置し、捲回体100を有底ケース211内に封止する。封止部材212は、絶縁性物質であればよい。絶縁性物質としては弾性体が好ましく、なかでも耐熱性の高いシリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、ハイパロンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴムなどが好ましい。
【0043】
次に、有底ケース211の開口端近傍に、横絞り加工を施し、開口端を封止部材212にかしめてカール加工する。最後に、カール部分に座板213を配置することによって、封止が完了する。その後、定格電圧を印加しながら、エージング処理を行ってもよい。
【0044】
上記の実施形態では、捲回型の電解コンデンサについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他の電解コンデンサ、例えば、積層型の電解コンデンサにも適用することができる。
【0045】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
本実施例では、定格電圧2.0Vの巻回型の電解コンデンサ(Φ(直径)6.3mm×L(長さ)9.9mm)を作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0046】
(電極箔の作製)
厚さ120μmのAl箔を準備した。このAl箔に直流エッチング処理を行い、表面を粗面化した。Al箔の表面には、厚み40μmのエッチング領域が形成されており、そのピットの孔径は100~200nmであった。
【0047】
次いで、ALD法(温度:200℃、プリカーサ:TDMAT、酸化剤:H2O、圧力:10Pa、60サイクル)により、Al箔の表面に第2誘電体層を形成した。続いて、Al箔に化成処理を施して第1誘電体層を形成し、電極箔を得た。化成処理は、アジピン酸アンモニウム溶液にAl箔を浸漬し、これに4Vの電圧を印加することにより行った。その後、電極箔を裁断して、陽極体を準備した。
【0048】
EDXによる元素分析の結果、第2誘電体層(厚み:2.5nm)には、TiO2およびTiとAlとの複合酸化物が含まれており、第1誘電体層(厚み:約11nm)にはAl2O3が含まれていた。また、Tiの濃度C1と濃度C2との比:C2/C1は1.0であった。
【0049】
(陰極体の準備)
厚さ50μmのAl箔にエッチング処理を行い、Al箔の表面を粗面化した。その後、Al箔を裁断して、陰極体を準備した。
【0050】
(捲回体の作製)
陽極体および陰極体に陽極リードタブおよび陰極リードタブを接続し、陽極体と陰極体とを、リードタブを巻き込みながら、セパレータを介して捲回した。捲回体から突出する各リードタブの端部には、陽極リード線および陰極リード線をそれぞれ接続した。そして、作製された捲回体に対して、再度化成処理を行い、陽極体の切断された端部に誘電体層を形成した。次に、捲回体の外側表面の端部を巻止めテープで固定した。
【0051】
(導電性高分子分散液の調製)
3,4-エチレンジオキシチオフェンと、ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸とを、イオン交換水に溶かした混合溶液を調製した。得られた混合溶液を撹拌しながら、イオン交換水に溶かした硫酸鉄(III)(酸化剤)を添加し、重合反応を行った。反応後、得られた反応液を透析して、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去し、約5質量%のポリスチレンスルホン酸がドープされたポリエチレンジオキシチオフェンを含む導電性高分子分散液を得た。
【0052】
(固体電解質層の形成)
減圧雰囲気(40kPa)中で、所定容器に収容された導電性高分子分散液に捲回体を5分間浸漬し、その後、導電性高分子分散液から巻回体を引き上げた。次に、導電性高分子分散液を含浸した捲回体を、150℃の乾燥炉内で20分間乾燥させ、導電性高分子を含む固体電解質層を陽極体と陰極体との間に形成した。
【0053】
(捲回体の封止)
固体電解質層を具備する捲回体を封止して、
図3に示す電解コンデンサを完成させた。その後、定格電圧を印加しながら、130℃で2時間エージング処理を行った。
【0054】
得られた電解コンデンサについて、静電容量および漏れ電流を測定した。また、1.0V/秒のレートで昇圧しながら電圧を印加し、0.5Aの過電流が流れる破壊耐電圧を測定した。静電容量および破壊耐電圧の評価結果を表1に、漏れ電流の測定結果を
図4に示す。表1には、比較例1の結果を100とした場合の、各相対値も合わせて示した。
【0055】
《実施例2》
ALD法のサイクル数を100回にしたこと以外は、実施例1と同様にして電解コンデンサを作製し、評価した。結果を表1および
図4に示す。化成処理後の第2誘電体層(厚み:約4.4nm)には、TiO
2およびTiとAlとの複合酸化物が含まれており、第1誘電体層(厚み:約8.7nm)にはAl
2O
3が含まれていた。また、Tiの濃度C1と濃度C2との比:C2/C1は1.0であった。
【0056】
《実施例3》
ALD法のサイクル数を180回にしたこと以外は、実施例1と同様にして電解コンデンサを作製し、評価した。結果を表1および
図4に示す。化成処理後の第2誘電体層(厚み:約7.0nm)には、TiO
2およびTiとAlとの複合酸化物が含まれており、第1誘電体層(厚み:約7.1nm)にはAl
2O
3が含まれていた。また、Ti濃度C1と濃度C2との比:C2/C1は1.0であった。
【0057】
《比較例1》
第2誘電体層を形成しなかった(化成処理のみを行った)こと以外は、実施例1と同様にして電解コンデンサを作製し、評価した。陽極体のAl箔の表面には、厚み約14nmのAl
2O
3を含む層が形成されていた。結果を表1および
図4に示す。
【0058】
《比較例2》
第1誘電体層を形成しなかった(化成処理を行わなかった)こと以外は、実施例1と同様にして電解コンデンサを作製した。陽極体のAl箔の表面には、厚み約2.5nmのTiO2を含む層が形成されていた。しかし、漏れ電流が大きく、静電容量は測定できなかった。また、破壊耐電圧も、安定して測定することはできなかった。
【0059】
《比較例3》
ALD法に替えて、CVD法を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電解コンデンサを作製し、静電容量および破壊耐電圧を評価した。結果を表1に示す。第2誘電体層には、TiO2およびTiとAlとの複合酸化物が含まれていたものの、第2誘電体層は、ピットの深部の表面には形成されていなかった。そのため、Tiの濃度C1と濃度C2との比:C2/C1は0.2であった。形成されている化成処理後の第2誘電体層の厚みは、約2.5nmであった。第1誘電体層(厚み:約12nm)にはAl2O3が含まれていた。
【0060】
【0061】
実施例1~3では、比較例1と比較して、耐電圧および容量ともに向上していた。また、実施例1~3では、比較例1との間で漏れ電流値に大きな変化はなく、第2誘電体層の厚みの違いが漏れ電流に与える影響はほとんどないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る方法により製造される電極箔は、容量および耐電圧性を向上させるため、様々な用途のコンデンサに利用できる。
【符号の説明】
【0063】
10:電極箔、11:金属箔、11a:ピット、12:誘電体層、121:第1誘電体層、122:第2誘電体層、20:陰極体、30:セパレータ、40:巻止めテープ、50A、50B:リードタブ、60A、60B:リード線、100:捲回体、200:電解コンデンサ、211:有底ケース、212:封止部材、213:座板