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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】キメラ分子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 21/04 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
C07H21/04 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022039293
(22)【出願日】2022-03-14
【審査請求日】2022-05-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 研究題目「新規高活性触媒機能付与型核酸医薬によるCOVID-19感染症治療薬の開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】和田 健彦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 雅仁
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第95/008556(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157723(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086397(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104836(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/111137(WO,A1)
【文献】Recl. Trav. Chim. Pays-Bas,1995年,114,295-297
【文献】Tetrahedron,2001年,57,9481-9486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 21/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PNA、PRNA、PNA/PRNA、若しくはLNAである第1の核酸又はその誘導体と、RNA若しくはDNAである第2の核酸又はその誘導体とが、少なくとも一つずつ融合したキメラ分子の製造方法であって、
前記第1の核酸の誘導体は、前記第1の核酸に結合している塩基部のハロゲン化誘導体、脱アミノ誘導体、若しくは酸素原子に代えて硫黄原子を有する誘導体であり、
前記第2の核酸の誘導体は、前記第2の核酸に結合している塩基部のハロゲン化誘導体、脱アミノ誘導体、若しくは酸素原子に代えて硫黄原子を有する誘導体、又はホスホロチオエート型DNA若しくはRNA、ホスホロジチオエート型DNA若しくはRNA、モルホリノ型核酸であり、
前記塩基部は、核酸に結合しているウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニン、プリン環若しくはピリミジン環を意味し、
前記製造方法が、水酸基を有する第1のキメラ分子前駆体のRNA若しくはDNAの5’位の水酸基を介した、前記第2の核酸又はその誘導体の導入による第2のキメラ分子前駆体の準備、
過酸化物を用いた、前記第2のキメラ分子前駆体のリン原子の酸化、
必要に応じて、前記第2のキメラ分子前駆体の脱保護、及び
前記第2のキメラ分子前駆体又は脱保護された前記第2のキメラ分子前駆体への、前記第1の核酸又はその誘導体の導入を含み、
前記第1のキメラ分子前駆体が、式(1)
【化1】
(式(1)中、Ar は、炭素数10~40の脂肪族炭化水素基が単結合又はリンカーを介して結合した炭素数6~14の芳香族炭化水素環を示し;Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し;Baseは、前記塩基部を示し;式中のデオキシリボースは2’-位に保護されていてもよい水酸基を有していてもよい。前記リンカーは、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-S-、-S(=O)-、又は-S(=O) -である。)で表される構造、若しくは、式(2)
【化2】
(式(2)中、Ar は、炭素数10~40の脂肪族炭化水素基が単結合又はリンカーを介して結合した炭素数6~14の芳香族炭化水素環を示し;Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し;Baseは、前記塩基部を示し;Xは、単結合を示すか、又はXに結合する酸素原子とリン原子との結合を介する1以上の第1の核酸若しくはその誘導体及び/又は第2の核酸若しくはその誘導体を示し;式中のデオキシリボースは2’-位に保護されていてもよい水酸基を有していてもよい。前記リンカーは、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-S-、-S(=O)-、又は-S(=O) -である。)で表される構造を有し、
前記第2の核酸が、式(4)
【化3】
(式(4)中、pは0以上の整数を示し;AGは、保護されていてもよいアミノ基を示し;Baseは、前記塩基部を示し;NR は、ジアルキルアミノ基を示し;LVは、2-シアノエチル基、アリル基、又はベンジル基を示し;式中のデオキシリボースはそれぞれ独立して2’-位に保護されていてもよい水酸基を有していてもよい。)で表される構造を有し、
第2のキメラ分子前駆体の前記脱保護が、前記第2のキメラ分子前駆体に導入された前記第2の核酸又はその誘導体の保護された前記アミノ基の脱保護であり、
第1の核酸又はその誘導体の前記導入は、前記第2の核酸又はその誘導体の前記アミノ基を介した導入であり、
前記第1の核酸が、式(5)
【化4】
(式(5)中、qは0以上の整数を示し;PGは、隣接するアミノ基の保護基を示し;Baseは、前記塩基部を示す。)で表される構造を有し、
第2のキメラ分子前駆体の前記準備、第2のキメラ分子前駆体の前記脱保護、及びキメラ分子の前記製造が、いずれも液相合成法により行われることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第1の核酸がPNAであり、前記第2の核酸がDNAである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の核酸又はその誘導体がPNAであり、前記第2の核酸又はその誘導体がDNAである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記過酸化物が、tert-ブチルヒドロペルオキシド、又はメタクロロ過安息香酸であり、用いられる前記過酸化物の使用量が、第2のキメラ分子前駆体の使用モル数あたり2~5モル、若しくは第2のキメラ分子前駆体の準備に用いた第1のキメラ分子前駆体の使用モル数あたり2~5モルである、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記式(1)及び前記式(2)における前記リンカーが-O-であり、前記炭素数6~14の芳香族炭化水素環がベンゼン環であり、前記Rが水素原子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(4)における前記LVが2-シアノエチル基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記式(4)の前記AGにおける、前記保護されていてもよいアミノ基が保護されたアミノ基であり、前記保護されたアミノ基の保護基がトリチル基、p-メトキシフェニルジフェニルメチル基、又はジ(p-メトキシフェニル)フェニルメチル基である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記式(5)の前記PGにおける、前記隣接するアミノ基の保護基が、フルオレニル基がハロゲン、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル、カルボキシ、アルキルオキシカルボニル、ジアルキルカルバモイル、及びアルキルカルボニルからなる群より選択される基で置換されていてもよいフルオレニルメトキシカルボニル基;トリチル基;p-メトキシフェニルジフェニルメチル基;ジ(p-メトキシフェニル)フェニルメチル基;又はフタルイミド型保護基である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記式(1)、前記式(2)、前記式(4)におけるデオキシリボースの2’-位に置換することが許容される保護されていてもよい水酸基が、保護されていない水酸基である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラ分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸医薬が抗体医薬と同様に次世代型分子標的薬として注目されている。
核酸医薬における薬剤戦略として、例えば、疾患進行に関与するメッセンジャーRNA(mRNA)やマイクロRNA(miRNA)、エスアイRNA(siRNA)などを標的とし、塩基配列選択的に標的を認識し、複合体を形成することで標的RNAの機能を抑制し治療効果を発現するアンチセンス核酸(ASO)が知られている。これら核酸医薬が有効に薬効発現するためには、1)高い生体内安定性、2)標的核酸への高い特異性と複合体安定性、が求められ、天然型DNA/RNAに化学修飾を施した修飾オリゴ核酸/人工オリゴ核酸の開発が精力的に研究されている。
【0003】
核酸医薬における広義のオフターゲット効果(標的核酸認識に依存しない核酸医薬特有の毒性)の克服へ向けた方法論として、核酸医薬の投与量の低減が提案されている。しかし、投与量を低減すると当然標的RNAとの複合体形成量の低下が起こり、効果的な薬効発現は期待できない。その解決法として、少量のASOで標的RNAを触媒のように切断する、RNaseHを活用した触媒様の機能を有する核酸医薬が注目されている(非特許文献1)。
【0004】
RNaseHを活用した触媒様の機能を有する核酸医薬としては、RNA切断後の解離過程に着目した、切断後標的RNAの複合体から迅速解離可能なオリゴ核酸系構築に資する、低濃度で標的核酸の機能を抑止でき、オフターゲット効果を抑制できるキメラ分子が報告されている(特許文献1)。
【0005】
オリゴ核酸の合成には固相合成法が汎用されている。また、ペプチドの合成にも固相合成法が汎用されている。
固相合成法は、プロセス最適化がなされ自動化も進んでいるが、本質的に不均一系であり、その低い反応性を補うため、例えば6~10当量以上の大過剰量の試薬を用いる必要があり、コスト面で改善の余地がある。また、単離精製に高度な技術を要するほか、反応用固相樹脂に対する官能基の担持量の限界からスケールアップが難しく、ラボスケールには向くが、工業化を見据えると固相合成法の適用は困難であると言わざるを得ない。
【0006】
反応後の単離精製を、ろ過及び洗浄のみで行える固相合成法のメリットを活かしつつ、前述の固相合成法の欠点を解消する試みとして、液相に溶解している特定の成分のみを沈殿化させ、固体として単離することにより、反応後の単離精製を容易化する方法が提案されている(特許文献2~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2021/015234号
【文献】国際公開第2012/157723号
【文献】国際公開第2014/189142号
【文献】国際公開第2010/104169号
【文献】国際公開第2010/113939号
【文献】国際公開第2011/078295号
【文献】国際公開第2016/117663号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Liang,X.et al.,Mol.Ther.、2017、25(9)、2075
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、前述の特許文献2~7に示されるように、オリゴリボ核酸やオリゴデオキシリボ核酸、あるいはオリゴペプチドと言った、異種分子同士の融合のないオリゴマーにあっては、これまでも液相合成法による製造の報告がある。
しかし、特許文献1で報告されるような、代表的にはリボ核酸(RNA)やデオキシリボ核酸(DNA)と、ペプチド核酸(PNA)やペプチドリボ核酸(PRNA)とを任意に組み合わせて融合したキメラ分子の製造方法としては、固相合成法による製造方法しか知られていない。
【0010】
特に、オリゴRNAやオリゴDNAに対して、オリゴRNAやオリゴDNAの末端窒素原子を介したPNAやPRNAの導入、又はオリゴPNAやオリゴPRNAに対して、オリゴPNAやオリゴPRNAの末端窒素原子を介したRNAやDNAの導入に係る液相合成法による報告はない。
すなわち、これまで同種分子同士を結合させる手法に関しては液相合成法による報告はあったものの、RNAやDNAに対してPNAやPRNAを融合させたPNA-DNA構造、あるいはPNAやPRNAに対してRNAやDNAを融合させたDNA-PNA構造の構築については、現状では少なくとも一部の工程を固相合成法に頼る他ない。
【0011】
また、固相合成法において、DNAを手掛かりにDNAをさらに伸長する手法は、各ステップにおいてほぼ定量的に自動合成機を用いて反応を進行させることが可能なため、複数のDNAの伸長に際しても十分な収率を維持することができる。その一方、固相合成法において、DNAを足掛かりにPNA-DNA構造を構築する場合、その収率は最大でも70%程度にとどまっており、さらにそこからPNAの伸長が進むにつれて数%ずつ収率が低下する。その結果、固相合成法を用いたとしても、PNA-DNA構造の構築は満足な収率が得られないばかりか、多くの副反応により反応系が複雑になり、単離に非常に多くの労力を要する。
【0012】
上記の課題に鑑み、本発明においては、後述する第2のキメラ分子前駆体の製造、及び第2のキメラ分子前駆体を用いたキメラ分子の製造を含む、RNAやDNAに代表される主鎖骨格が陰イオン性である核酸又はその誘導体に、PNAやPRNAに代表される主鎖骨格が中性又は陽イオン性である核酸又はその誘導体を導入する、液相合成法によるキメラ分子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の要旨を有する。
主鎖骨格が中性又は陽イオン性である第1の核酸又はその誘導体と、主鎖骨格が陰イオン性である第2の核酸又はその誘導体とが、少なくとも一つずつ融合したキメラ分子の製造方法であって、
前記製造方法が、水酸基を有する第1のキメラ分子前駆体の前記水酸基を介した、前記第2の核酸又はその誘導体の導入による第2のキメラ分子前駆体の準備、
必要に応じて、前記第2のキメラ分子前駆体の脱保護、及び
前記第2のキメラ分子前駆体又は脱保護された前記第2のキメラ分子前駆体への、前記第1の核酸又はその誘導体の導入を含み、
前記水酸基を有する第1のキメラ分子前駆体は、脂溶性アンカーを含み、
前記第2の核酸又はその誘導体は、保護されていてもよいアミノ基を有し、
第2のキメラ分子前駆体の前記脱保護が、前記第2のキメラ分子前駆体に導入された前記第2の核酸又はその誘導体の保護された前記アミノ基の脱保護であり、
第1の核酸又はその誘導体の前記導入は、前記第2の核酸又はその誘導体の前記アミノ基を介した導入であり、
第2のキメラ分子前駆体の前記準備、第2のキメラ分子前駆体の前記脱保護、及びキメラ分子の前記製造が、いずれも液相合成法により行われることを特徴とする製造方法。
【0014】
前記第1の核酸及び第2の核酸が、それぞれ標的核酸に対して結合する能力を有する核酸であることが好ましい。
前記第1の核酸がPNA、PRNA、PNA/PRNA、若しくはLNAであり、前記第2の核酸がRNA若しくはDNAであることが好ましい。
前記第1の核酸がPNAであり、前記第2の核酸がDNAであることが好ましい。
キメラ分子が、第2の核酸又はその誘導体の5’末端に第1の核酸又はその誘導体が結合している部分を有することが好ましい。
前記第1のキメラ分子前駆体が、後述する特定の式で表される化合物であることが好ましい。
前記第2の核酸又はその誘導体が、後述する特定の式で表される化合物であることが好ましい。
前記保護されていてもよいアミノ基が保護されたアミノ基であり、前記保護されたアミノ基の保護基が置換されていてもよいトリチル基であることが好ましい。
前記第1の核酸又はその誘導体が、後述する特定の式で表される化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、RNAやDNAに代表される主鎖骨格が陰イオン性である核酸又はその誘導体に、PNAやPRNAに代表される主鎖骨格が中性又は陽イオン性である核酸又はその誘導体を導入する、液相合成法によるキメラ分子の製造方法を提供できる。
この方法を利用することにより、オリゴRNAやオリゴDNAにPNA構造を融合させた、若しくはこの構造にさらにPNA構造を結合させたPNA-DNA構造;あるいは、DNA-PNA構造にさらにPNA構造を融合させた、若しくはこの構造にさらにPNA構造を結合させたPNA-DNA-PNA構造の液相合成法による製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変更して実施できる。
【0017】
本発明の製造方法の目的物であるキメラ分子は、主鎖骨格が中性又は陽イオン性である第1の核酸又はその誘導体(以下、誘導体を含めて、単に「第1の核酸」とも言う。)と、主鎖骨格が陰イオン性である第2の核酸又はその誘導体(以下、誘導体を含めて、単に「第2の核酸」とも言う。)とが、少なくとも一つずつ融合した化合物である。すなわち、本発明の製造方法の目的物であるキメラ分子は、第1の核酸と第2の核酸が融合した部分構造を有していればよい。
本発明の製造方法の目的物であるキメラ分子は、複数の核酸が結合しており、その任意の一部が第1の核酸であって、残りの部分が第2の核酸であってよい。
【0018】
複数の核酸が結合するキメラ分子において、その核酸の総数の下限は3であってよく、5が好ましく、10がより好ましく、16がさらに好ましい。核酸の総数の上限は80であってよく、40が好ましく、30がより好ましく、23がさらに好ましい。上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、3~80であってよく、好ましくは5~40であり、より好ましくは10~30であり、さらに好ましくは16~23である。
複数の核酸が結合するキメラ分子において、その核酸の総数における第1の核酸と第2の核酸の個数の比率は、特に制限されないが、第1の核酸の個数:第2の核酸の個数として、1:10~10:1であってよく、好ましくは1:3~3:1であり、より好ましくは1:2~2:1である。
【0019】
本発明における第1の核酸及び第2の核酸は、それぞれ標的核酸に対して結合する能力を有することが好ましい。
標的核酸としては、本発明の製造方法の目的物であるキメラ分子が結合できる標的配列を有する核酸又はその誘導体であれば特に制限はないが、RNA又はDNAが好ましく、キメラ分子を医薬組成物の有効成分として用いる場合には、標的核酸は、医薬組成物を用いて治療する疾患の原因となるたんぱく質をコードするRNA又はDNA、及び疾患に関連するmRNA、miRNA又はsiRNAであることが好ましい。
【0020】
本発明において核酸とは、一般的に核酸と定義されるRNA及びDNAの他、いわゆる人工核酸と呼ばれるPNA、PRNA、LNA(架橋型人工核酸)等を含む広義の核酸を意味する。核酸の誘導体としては、特に制限されないが、例えば、核酸に結合している塩基部(ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニン若しくはプリン環やピリミジン環)のハロゲン化誘導体、脱アミノ誘導体、各核酸塩基の酸素原子に代えて硫黄原子を有する誘導体が挙げられる。その他、核酸の誘導体としては、ホスホロチオエート型DNA及びRNA、並びにホスホロジチオエート型DNA及びRNAに加え、例えば、前述の特許文献3に開示されるようなモルホリノ型核酸が挙げられる。
本明細書において、「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードを意味し、好ましくはフルオロ、クロロ、ブロモである。
【0021】
RNA、DNA、PRNAにおけるリボース又はデオキシリボースにあっては、LNA等の2位及び4位の炭素原子が2価の有機基により結合されたリボース又はデオキシリボースであってもよく、このようなリボース又はデオキシリボースとしては、前述の特許文献7に記載された構造のリボース又はデオキシリボースが挙げられる。RNA、DNA、PRNAにおけるリボース又はデオキシリボースにあっては、リボース又はデオキシリボースであることが好ましい。
【0022】
本発明における、主鎖骨格が中性又は陽イオン性である第1の核酸又はその誘導体は、主鎖骨格が中性であることが好ましい。
中性の主鎖骨格としては、特に制限されないが、例えば、アミド骨格(代表的には、N-(2-アミノエチル)グリシンを単位とする骨格)が挙げられる。アミド骨格を有する核酸又はその誘導体としては、例えば、PNA又はその誘導体、PRNA又はその誘導体、PNAとPRNAとの組み合わせ(以下、「PNA/PRNA」とも言う。)又はその誘導体が挙げられる。
PNA/PRNAにおいて、PNAにおけるPRNAの結合位置は、PNAのいずれの位置でもよく、PNAの途中に結合されていてもよい。例えば、PNA-PRNA-PNAのような組み合わせであってもよい。
【0023】
陽イオン性の主鎖骨格としては、特に制限されないが、例えば、イミノ骨格、リン酸アミド骨格、ホスホロアミダイト骨格、並びにアミド骨格側鎖にアミノ基やグアニジウム基など陽イオン性側鎖を有する骨格が挙げられる。
【0024】
本発明における、主鎖骨格が陰イオン性である第2の核酸又はその誘導体において、陰イオン性の主鎖骨格としては、特に制限されないが、例えば、糖-リン酸骨格、糖-チオリン酸骨格が挙げられる。糖-リン酸骨格、糖-チオリン酸骨格を有する核酸又はその誘導体としては、例えば、RNA又はその誘導体、DNA又はその誘導体が挙げられる。
【0025】
キメラ分子において、第1の核酸又はその誘導体が、PNA、PRNA、PNA/PRNA、及びLNA、並びにそれらの誘導体からなる群より選択されるいずれかであることが好ましく、PNA及びその誘導体からなる群より選択されるいずれかであることがより好ましい。また、キメラ分子において、第2の核酸又はその誘導体が、RNA及びDNA、並びにそれらの誘導体からなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。特に、キメラ分子において、第1の核酸又はその誘導体が、PNA、PRNA、PNA/PRNA、及びLNA、並びにそれらの誘導体からなる群より選択されるいずれかであり、かつ、第2の核酸又はその誘導体が、RNA及びDNA、並びにそれらの誘導体からなる群より選択されるいずれかであることが好ましく;第1の核酸又はその誘導体が、PNA及びその誘導体からなる群より選択されるいずれかであり、かつ、第2の核酸又はその誘導体が、RNA及びDNA、並びにそれらの誘導体からなる群より選択されるいずれかであることがより好ましく;第1の核酸又はその誘導体が、PNA及びその誘導体からなる群より選択されるいずれかであり、かつ、第2の核酸又はその誘導体が、DNA及びその誘導体からなる群より選択されるいずれかであることがさらに好ましい。キメラ分子において、分子内に複数の第1の核酸又はその誘導体、あるいは第2の核酸又はその誘導体が含まれる場合、複数の第1の核酸又はその誘導体は、同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、複数の第2の核酸又はその誘導体は、同一であってもそれぞれ異なっていてもよい。
キメラ分子において、第1の核酸は、第2の核酸の3’末端及び5’末端のいずれに結合していてもよい。第2の核酸の5’末端に第1の核酸が結合している部分が少なくとも1つあることが好ましい。あるいは、第2の核酸の5’末端に第1の核酸が結合している部分が少なくとも1つあることが必要である。
【0026】
第1の核酸と第2の核酸とが、少なくとも一つずつ融合したキメラ分子としては、例えば、第1の核酸であるPNA(又はその誘導体。以下同様。)と、第2の核酸であるDNAとの融合体、第1の核酸であるPNA/PRNAと、第2の核酸であるDNAとの融合体が挙げられる。
PNAとDNAとの融合体としては、DNAの5’-位側にPNAが融合したキメラ分子(以下、「PNA-DNAキメラ分子」とも言う。)、DNAの3’-位側にPNAが融合したキメラ分子(以下、「DNA-PNAキメラ分子」とも言う。)が挙げられ、PNA-DNAキメラ分子が好ましい。
PNA/PRNAとDNAとの融合体としては、DNAの5’-位側にPNA/PRNAが融合したキメラ分子(以下、「PNA/PRNA-DNAキメラ分子」若しくは「PPD」とも言う。)、DNAの3’-位側にPNA/PRNAが融合したキメラ分子(以下、「DNA-PNA/PRNAキメラ分子」若しくは「DPP」とも言う。)が挙げられ、PPDが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法の目的物であるキメラ分子は、複数の核酸が結合しており、その任意の一部が第1の核酸であって、残りの部分が第2の核酸であってよい。したがって、
・第1の核酸を手掛かりとした(好ましくは、第1の核酸のN末端を介した)、第1の核酸の伸長、
・第1の核酸を手掛かりとした(好ましくは、第1の核酸のN末端を介した)、第2の核酸の伸長、
・第2の核酸を手掛かりとした(好ましくは、第2の核酸の5’-位を介した)、第1の核酸の伸長、及び、
・第2の核酸を手掛かりとした(好ましくは、第2の核酸の5’-位を介した)、第2の核酸の伸長、
を組み合わせることにより、第1の核酸及び第2の核酸が任意の順序で組み合わせられたキメラ分子を製造することができる。
これらのうち、第1の核酸を手掛かりとした第1の核酸の伸長、第1の核酸を手掛かりとした第2の核酸の伸長、及び第2の核酸を手掛かりとした第2の核酸の伸長については、固相合成法を含めた公知の方法を採用することができる。
【0028】
例えば、第1の核酸を手掛かりとした第1の核酸の伸長は、前述の特許文献4~6に記載の方法若しくはK.Ogami,et al.、Chem.Lett.、2018、47、138-140、又はこれらに準じた方法を採用することができる。
例えば、第1の核酸を手掛かりとした第2の核酸の伸長は、F. Bergmann,et al.、Tetrahedron Lett.、1995、36(38)、6823-6826に記載の方法若しくは国際公開第2017/086397号に記載の方法、又はこれらに準じた方法を採用することができる。
例えば、第2の核酸を手掛かりとした第2の核酸の伸長は、前述の特許文献2及び7に記載の方法若しくはこれに準じた方法を採用することができる。
【0029】
第2の核酸を手掛かりとした第1の核酸の伸長、特に、第2の核酸の5’-位を介した第1の核酸の伸長は、以下に説明する本発明の製造方法を採用することができる。
【0030】
本発明の製造方法であるキメラ分子の製造方法は、以下の(1)~(3)の工程を含む。
(1)水酸基を有する第1のキメラ分子前駆体の水酸基を介した、第2の核酸の導入、
(2)必要に応じた、第2のキメラ分子前駆体の脱保護、及び
(3)第2のキメラ分子前駆体又は脱保護された第2のキメラ分子前駆体への、第1の核酸の導入。
以下、本発明の製造方法について説明する。必要に応じて第1の核酸としてPNA、第2の核酸としてDNAを用いた、PNA-DNAキメラ分子(DNAの5’-位側にPNAが融合したキメラ分子)の製造を例とする。
【0031】
(1)水酸基を有する第1のキメラ分子前駆体(以下、単に「第1のキメラ分子前駆体」とも言う。)の水酸基を介した、第2の核酸の導入(第2のキメラ分子前駆体の準備)
本工程は、第1のキメラ分子前駆体が有する水酸基を足掛かりとして、第2の核酸を導入する工程である。その結果、第2のキメラ分子前駆体が製造される。
第1のキメラ分子前駆体は、第2の核酸を導入するための水酸基を有することに加え、反応後の溶液に特定の溶媒を加えることにより目的物を固化させて回収の容易化に資する脂溶性アンカーを含む。
第2の核酸の導入の後、導入された第2の核酸を手掛かりとして第1の核酸を導入するため、第2の核酸は5’-位に保護されていてもよいアミノ基を有する。
【0032】
本工程における第2の核酸の導入においては、第1のキメラ分子前駆体が有する水酸基から第2の核酸が求核攻撃を受けて、第1のキメラ分子前駆体が有する水酸基由来の酸素原子と、第2の核酸であるDNAのリン原子、好ましくは、DNAのデオキシリボースの3’-位に接続するリン原子との間に結合が生じる。第2の核酸は、2以上の第2の核酸が結合したものであってもよい。
求核攻撃を受ける第2の核酸のリン原子は3価であることが好ましい。この場合、1つの結合手にはデオキシリボース(RNAの場合にはリボース)の3’-位の酸素原子が置換し、別の1つの結合手には脱離基が置換し、残る1つの結合手には、最終的に-Oを生じさせることができる基が置換している。
【0033】
脱離基としては、弱酸性条件下、リン原子への酸素原子の求核置換反応に用いられる脱離基であればよい。例えば、ジアルキルアミノ基が挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、ジイソプロピルアミノ基が好ましく用いられ、例えば、ジエチルアミノ基、エチルイソプロピルアミノ基を用いることもできる。
【0034】
最終的に-Oを生じさせることができる基としては、キメラ分子若しくはキメラ分子前駆体にある他の構造に影響を与えない条件下、酸素原子から脱離する基が酸素原子に置換した基であればよい。例えば、弱塩基性条件下で-Oを生じさせることができる、2位に電子吸引基が置換したエトキシ基が挙げられ、2-シアノエトキシ基が好ましい。また、例えば、パラジウム触媒存在下、パラジウム触媒の酸化的付加により-Oを生じさせることができるアリルオキシ基、パラジウム担持炭素存在下、接触水素還元により-Oを生じさせることができるベンジルオキシ基が挙げられる。
2位に電子吸引基が置換したエトキシ基のような、弱塩基条件下、-Oを生じさせることができる基は、最終的に脂溶性アンカーの切り離しの際に脱離させることができる。また、弱塩基条件下、酸素原子から脱離する基は、本工程の第1のキメラ分子前駆体からの求核攻撃の際には必要な官能基であるが、それ以外の工程においては、脱離していても、脱離していなくてもよく、積極的に脱離させても、反応条件に起因して脱離してしまってもよい。
【0035】
第2の核酸が有する保護されていてもよいアミノ基(後述するように、このアミノ基を介して、第1の核酸が導入される。)としては、アミノ基、保護されたアミノ基が挙げられる。本工程を円滑に進行させるために、保護されたアミノ基が好ましい。
アミノ基の保護基としては、酸性条件下で除去できる基であれば特に制限されず、例えば、ウッツ(P.G.M.Wuts)及びグリーン(T.W.Greene)著、「Greene‘s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、2006年)」に記載の基が挙げられ、置換されていてもよいトリチル基が好ましい。置換されていてもよいトリチル基としては、トリチル基(Tr)、p-メトキシフェニルジフェニルメチル基(MMTr)や、ジ(p-メトキシフェニル)フェニルメチル基(DMTr)が挙げられ、MMTrがより好ましい。
2以上の第2の核酸が結合した化合物を本工程における第2の核酸として用いる場合、第2の核酸が有する保護されていてもよいアミノ基は当該2以上の第2の核酸が結合した化合物の5’-末端に存する第2の核酸のみが有していればよく、5’-末端に存する第2の核酸以外の第2の核酸は、それぞれ酸素原子を介して結合していてよい。
【0036】
例えば、本工程で用いられる第2の核酸は、以下の構造を有する。
【0037】
【化1】
【0038】
式中、pは0以上の整数を示し;
AGは、保護されていてもよいアミノ基を示し;
Baseは、塩基部(それぞれ同一でも異なっていてもよい。)を示し;
NRは、弱酸性条件下、リン原子への酸素原子の求核置換反応に用いられる脱離基を示し;
LVは、酸素原子から脱離する基を示す。
なお、デオキシリボースはそれぞれ独立して2’-位に保護されていてもよい水酸基を有していてもよい。
【0039】
pは0~40が好ましく、0~30がより好ましく、0~20がさらに好ましく、0~10がよりさらに好ましく、0であることが特に好ましい。
【0040】
本工程で用いられる第2の核酸、例えば、リン原子の1つの結合手にデオキシリボースの3’-位の酸素原子が置換し、別の1つの結合手に脱離基が置換し、残る1つの結合手に、最終的に-Oを生じさせることができる基が置換している第2の核酸は、例えば、米国特許出願公開US2020/0399304、Tetrahedron Letters、39(24)、4215-4218、1998、若しくはJournal of Carbohydrate Chemistry、24(2)、145-160、2005に記載された方法、又はこれらに準じた方法で製造することができる。
【0041】
第1のキメラ分子前駆体が有する脂溶性アンカーとしては、反応後の溶液に特定の溶媒を加えることにより目的物を固化させて回収の容易化に資する部分構造であればよい。例えば、前述の特許文献2~6に開示された部分構造が挙げられ、特に、前述の特許文献2に開示された疑似固相保護基を使用できる。
本発明のキメラ分子の製造方法においては、脂溶性アンカーを構造の一部として含む出発原料を用いるため、脂溶性アンカーを構造の一部として含むキメラ分子が製造されうる。本発明のキメラ分子の製造方法によって製造された脂溶性アンカーを構造の一部として含むキメラ分子から脂溶性アンカーを切り離すことにより、脂溶性アンカーを構造の一部として含まないキメラ分子が製造されてもよい。脂溶性アンカーは、キメラ分子の製造においては切り離されず、その一方で任意の段階で切り離すことができることが好ましい。脂溶性アンカーは、酸性条件下では除去されず、塩基性条件下で除去可能であることが好ましい。
【0042】
脂溶性アンカーとしては、1以上の炭素数10~40の脂肪族炭化水素基が単結合又はリンカーを介して結合した炭素数6~14の芳香族炭化水素環を有する有機基が挙げられる。
【0043】
炭素数10~40の脂肪族炭化水素基において、脂肪族炭化水素基は直鎖状、分枝状、環状いずれでもよく、これらが混在していてもよい。脂肪族炭化水素基は、1又は2個の不飽和結合を有していてもよい。脂肪族炭化水素基において、1又は2個のメチレン性炭素原子はエーテル性酸素原子で置き換えられていてもよい。
脂肪族炭化水素基は直鎖状であることが好ましく;直鎖状であって、不飽和結合を有していないことがより好ましく;直鎖状であって、不飽和結合及びエーテル性酸素原子を有していないことがさらに好ましい。
炭素数10~40の脂肪族炭化水素基の炭素数としては、10~30が好ましく、12~28がより好ましく、14~22がさらに好ましく、16~20が特に好ましい。
炭素数10~40の脂肪族炭化水素基としては、炭素数14~22の直鎖状アルキル基が好ましく、炭素数16~20の直鎖状アルキル基がより好ましく、炭素数17~19の直鎖状アルキル基がさらに好ましく、炭素数18の直鎖状アルキル基が特に好ましい。
【0044】
炭素数10~40の脂肪族炭化水素基と炭素数6~14の芳香族炭化水素環とは、リンカーを介して結合していることが好ましい。リンカーとしては、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-、-S-、-S(=O)-、-S(=O)-が挙げられ、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-が好ましく、-O-がより好ましい。
【0045】
炭素数6~14の芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0046】
炭素数6~14の芳香族炭化水素環においては、炭素数10~40の脂肪族炭化水素基が単結合又はリンカーを介して1~5個結合していてよく、好ましくは1~4個であり、より好ましくは1~3個であり、さらに好ましくは2~3個であり、特に好ましくは3個である。
【0047】
脂溶性アンカーとしては、炭素数14~22の脂肪族炭化水素基が-O-リンカーを介して1~5個結合した、ベンゼン環を有する有機基が挙げられ;炭素数16~20の脂肪族炭化水素基が-O-リンカーを介して2~3個結合した、ベンゼン環を有する有機基が好ましく;炭素数18の脂肪族炭化水素基が-O-リンカーを介して3個結合した、ベンゼン環を有する有機基がより好ましく;3,4,5-トリ(n-オクタデカニルオキシ)フェニルを有する有機基がさらに好ましい。
【0048】
炭素数10~40の脂肪族炭化水素基が単結合又はリンカーを介して結合した炭素数6~14の芳香族炭化水素環を有する有機基としては、例えば、以下の構造の有機基が挙げられ、下記式(i)で示される構造の有機基が好ましい。
【0049】
【化2】
【0050】
式中、Arは、炭素数10~40の脂肪族炭化水素基が単結合又はリンカーを介して結合した炭素数6~14の芳香族炭化水素環を示し;
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し;
NAは、それぞれ独立に、第1の核酸又は第2の核酸を含む構造と結合する位置を示す。
【0051】
Rにおける炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状いずれでもよく、これらが混在していてもよい。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
Rとしては、水素原子であることが好ましい。
【0052】
例えば、式(i)のように、NAで示される第1の核酸又は第2の核酸を含む構造と結合する位置がカルボニル炭素である場合、ヌクレオシドのデオキシリボース若しくはリボースの3’-位若しくは5’-位、好ましくは3’-位の酸素原子と結合していることが好ましい。
例えば、式(ii)のように、NAで示される第1の核酸又は第2の核酸を含む構造と結合する位置が窒素原子である場合、第1の核酸であるPNA若しくはPRNAのカルボニル炭素と結合してアミド結合を形成していることが好ましい。
【0053】
第1のキメラ分子前駆体が有する水酸基は、好ましくは、ヌクレオシドのデオキシリボース及びリボースの3’-位及び5’-位の水酸基、並びに、第2の核酸であるDNA及びRNAのデオキシリボース及びリボースの3’-位及び5’-位の水酸基からなる群より選択される水酸基であり;より好ましくは、ヌクレオシドのデオキシリボース及びリボースの5’-位の水酸基、並びに、第2の核酸であるDNA及びRNAのデオキシリボース及びリボースの5’-位の水酸基からなる群より選択される水酸基である。
【0054】
第1のキメラ分子前駆体が有する水酸基が、ヌクレオシドのデオキシリボース若しくはリボースの5’-位の水酸基である場合、当該ヌクレオシドのデオキシリボース若しくはリボースの3’-位の酸素原子が、式(i)で示される脂溶性アンカーのNAの位置に直接置換された、第1のキメラ分子前駆体Aであってよい。
第1のキメラ分子前駆体Aは、例えば、以下の構造を有する。
【0055】
【化3】
【0056】
式中、Ar及びRは、前述の意味を示し;
Baseは、塩基部を示す。
なお、デオキシリボースは2’-位に保護されていてもよい水酸基を有していてもよい。
【0057】
第1のキメラ分子前駆体が有する水酸基が、第2の核酸であるDNA若しくはRNAのデオキシリボース若しくはリボースの5’-位の水酸基である場合、第1のキメラ分子前駆体Aの水酸基の酸素原子と、第2の核酸であるDNA若しくはRNAのデオキシリボース若しくはリボースの3’-位のリン酸部位とが直結しているか、第1のキメラ分子前駆体Aの水酸基の酸素原子と、第2の核酸であるDNA若しくはRNAのデオキシリボース若しくはリボースの3’-位のリン酸部位とが1以上の第1の核酸及び/又は第2の核酸(第1の核酸と第2の核酸との組み合わせであってもよい。)を介して結合している、第1のキメラ分子前駆体Bであってよい。
第1のキメラ分子前駆体Bは、例えば、以下の構造を有する。
【0058】
【化4】
【0059】
式中、Ar、R及びBaseは、前述の意味を示し;
Xは、単結合を示すか、又はXに結合する酸素原子とリン原子との結合を介する1以上の第1の核酸及び/又は第2の核酸を示す。
なお、デオキシリボースはそれぞれ独立して2’-位に保護されていてもよい水酸基を有していてもよい。
【0060】
第1のキメラ分子前駆体が有する水酸基が、第2の核酸であるDNA若しくはRNAのデオキシリボース若しくはリボースの5’-位の水酸基である場合、式(ii)で示される脂溶性アンカーのNAの位置にC末端が結合した第1の核酸であるPNA若しくはPRNAのN末端と、第2の核酸であるDNA若しくはRNAのデオキシリボース若しくはリボースの3’-位のリン酸部位とが直結しているか、式(ii)で示される脂溶性アンカーのNAの位置にC末端が結合した第1の核酸であるPNA若しくはPRNAのN末端と、第2の核酸であるDNA若しくはRNAのデオキシリボース若しくはリボースの3’-位のリン酸部位とが1以上の第1の核酸及び/又は第2の核酸(第1の核酸と第2の核酸との組み合わせであってもよい。)を介して結合していている、第1のキメラ分子前駆体Cであってよい。
第1のキメラ分子前駆体Cは、例えば、以下の構造を有する。
【0061】
【化5】
【0062】
式中、Ar、R及びBaseは、前述の意味を示し;
Yは、単結合を示すか、又はYに結合する窒素原子とリン原子との結合を介する1以上の第1の核酸及び/又は第2の核酸を示す。
なお、デオキシリボースはそれぞれ独立して2’-位に保護されていてもよい水酸基を有していてもよい。
【0063】
第1のキメラ分子前駆体BのX、及び第1のキメラ分子前駆体CのYにおける、X(若しくはY)に結合する酸素原子(若しくは窒素原子)とリン原子との結合を介する1以上の第1の核酸及び/又は第2の核酸において、核酸の総数は2~70であってよく、好ましくは2~31であり、より好ましくは2~21であり、さらに好ましくは2~10である。
【0064】
前述の脂溶性アンカーが、反応後の溶液に特定の溶媒を加えることにより目的物を固化させて回収の容易化に資するために、第1のキメラ分子前駆体はその分子量が300~6,000であることが好ましく、300~5,000であることがより好ましく、300~4,000であることがさらに好ましい。
【0065】
本工程で用いられる第1のキメラ分子前駆体は、例えば、前述の特許文献、特に特許文献2及び7に記載された方法若しくはこれに準じた方法で製造することができる。
【0066】
本工程は、第1のキメラ分子前駆体に対して第2の核酸を過剰量用い、反応に不活性な溶媒中で行う。
【0067】
反応溶媒としては、非極性溶媒を用いることが好ましい。非極性溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等の非極性エーテル類;これらの任意の組み合わせ;が挙げられる。ハロゲン化炭化水素類が好ましい。
また、反応溶媒全体に占める非極性溶媒の割合が50体積%以上であれば、極性溶媒を組み合わせてもよい。極性溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等の極性エーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等のアミド類;これらの任意の組み合わせ;が挙げられる。
【0068】
例えば、ハロゲン化炭化水素類とニトリル類の組み合わせが好ましく、ジクロロメタンとアセトニトリルの組み合わせがより好ましい。この場合、その混合比(体積%)は、50:50~99:1であってよく、80:20~99:1が好ましく、80:20~95:5がより好ましい。
【0069】
第1のキメラ分子前駆体に対して過剰量用いる第2の核酸は、第1のキメラ分子前駆体の使用モル数に対して、1.5~10当量、好ましくは1.6~8当量、より好ましくは1.8~5当量、さらに好ましくは2~4当量用いることができる。
【0070】
本工程を円滑に進行させる目的で、1H-テトラゾール、4,5-ジシアノイミダゾール等の活性化剤を使用してもよい。これらの活性化剤を使用する場合、第1のキメラ分子前駆体の使用モル数に対して、1~25当量、好ましくは5~20当量、より好ましくは8~15当量、さらに好ましくは8~12当量用いることができる。
【0071】
反応温度と反応時間は、使用する試薬の種類や量によって適宜変更することができる。例えば、0~100℃、好ましくは15~50℃、より好ましくは20~30℃において、5分~24時間攪拌してもよい。
反応における基質濃度は、使用する試薬の種類や量によって適宜変更することができる。例えば、第1のキメラ分子前駆体の反応溶液中濃度が、0.01~0.2mol/L、好ましくは0.02~0.1mol/L、より好ましくは0.025~0.08mol/L、さらに好ましくは0.03~0.05mol/Lとなるように溶媒の使用量を調整することができる。
【0072】
本工程に続いて、必要に応じて、第2のキメラ分子前駆体のリン原子を酸化若しくはチオ酸化してもよい。
リン原子の酸化若しくはチオ酸化は常法を採用することができる。例えば、前述の特許文献7の、ホスファイトトリエステル結合をホスフェートトリエステル結合又はチオホスフェートトリエステル結合へと変換する工程を参照できる。
【0073】
リン原子の酸化に当たっては、過酸化物が好ましく用いられる。過酸化物としては、tert-ブチルヒドロペルオキシド、メタクロロ過安息香酸が好ましく、tert-ブチルヒドロペルオキシドは、市販されているデカン溶液若しくはトルエン溶液を、そのまま若しくは1~3倍に希釈して用いることができる。
酸化剤若しくはチオ酸化剤の使用量は、第2のキメラ分子前駆体、若しくは前工程における第1のキメラ分子前駆体の使用モル数あたり、例えば、1~50モル、好ましくは1~10モル、より好ましくは2~5モルである。
【0074】
なお、リン原子の酸化若しくはチオ酸化は、第2の核酸の導入後の第2のキメラ分子前駆体の単離精製を経ずに、第2の核酸の導入の工程に引き続いて、いわゆるワンポットで行ってもよい。
【0075】
反応終了後、反応溶液に極性溶媒を添加することにより、目的物(第2のキメラ分子前駆体)を固化させて回収してもよい。本発明の製造方法で用いる第1のキメラ分子前駆体は脂溶性アンカーを含むため、本工程の目的物(第2のキメラ分子前駆体)は極性溶媒の添加により固化して沈殿を生じる。したがって、本工程の目的物をろ過により回収することができる。
極性溶媒としては、汎用性やコスト面から、アセトニトリル、メタノールが好ましく用いられ、メタノールを用いることが特に好ましい。
目的物をろ過により回収するために反応終了後に反応溶液に添加される極性溶媒の量は、反応における基質濃度にもよるが、例えば、使用した反応溶媒の総量(体積)に対して、5~50倍量、好ましくは5~30倍量、より好ましくは8~20倍量、さらに好ましくは10~15倍量である。
【0076】
(2)必要に応じた、第2のキメラ分子前駆体の脱保護
前述の工程で得た第2のキメラ分子前駆体は、導入された第2の核酸に由来する、保護されていてもよいアミノ基を有する。次工程においてこのアミノ基を介して第1の核酸を導入するため、保護されていてもよいアミノ基が、保護されたアミノ基である場合、アミノ基の脱保護が必要である。
アミノ基の脱保護は、使用した保護基に応じて適宜条件を変更することができる。具体的には、前述の「Greene‘s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、2006年)」に記載の方法を採用することができる。
【0077】
例えば、アミノ基の保護基がMMTrである場合には、酸を用いて、反応に不活性な溶媒中で行う。
使用できる酸としては、特に制限されないが、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸等のハロゲノ酢酸類;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;が挙げられる。良好な結果が得られる点から、ハロゲノ酢酸類が好ましく、トリクロロ酢酸が特に好ましい。
酸の使用量は、第2のキメラ分子前駆体の使用モル数あたり、例えば、1~100モル、好ましくは5~80モル、より好ましくは10~60モル、さらに好ましくは20~50モルである。
【0078】
前工程と同様に、反応終了後、反応溶液に極性溶媒を添加することにより、目的物(脱保護された第2のキメラ分子前駆体)を固化させて回収してもよい。
【0079】
脱保護された第2のキメラ分子前駆体は、そのまま次工程に付してもよいし、上記式中LVで示された、弱塩基条件下、酸素原子から脱離する基を脱離させてから次工程に付してもよい。
酸素原子から脱離する基の脱離は、常法を採用することができる。弱塩基条件下、酸素原子から脱離する基の脱離は、例えば、De Napoli et al.、Chem.Commun.、2005、2586-2588、U.Pradere et al.、Chem.Rev.、2014、114、9154-9218を参照できる。
【0080】
(3)第2のキメラ分子前駆体又は脱保護された第2のキメラ分子前駆体(本項において、単に「第2のキメラ分子前駆体」とも言う。)への、第1の核酸の導入(キメラ分子の製造)
本工程は、第2のキメラ分子前駆体が有するアミノ基を足掛かりとして、第1の核酸を導入する工程である。その結果、キメラ分子が製造される。
【0081】
本工程における第1の核酸の導入においては、第2のキメラ分子前駆体が有するアミノ基と、第1の核酸が有するカルボキシ基との間のアミド化反応若しくはこれに準じた反応により、アミド結合を形成する。第1の核酸は、1以上の第1の核酸が結合したものであってもよい。
第1の核酸としては、Fmoc型PNAモノマーに代表されるN末端が保護されたPNAモノマーを使用できる。なお、Fmoc型PNAモノマー中のFmoc(フルオレニルメトキシカルボニル)中のフルオレニル基は、Fmocの除去に際して反応性を調整するため、任意の置換位置に1~2個の置換基を有していてもよい。置換基としては電子吸引基が好ましく、例えば、ハロゲン、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル、カルボニル(カルボキシ、アルキルオキシカルボニル、ジアルキルカルバモイル、アルキルカルボニル)が挙げられる。
【0082】
例えば、本工程で用いられる第1の核酸は、以下の構造を有する。
【0083】
【化6】
【0084】
式中、qは0以上の整数を示し;
PGは、隣接するアミノ基の保護基を示し;
Baseは、塩基部(それぞれ同一でも異なっていてもよい。)を示す。
【0085】
qは0~40が好ましく、0~30がより好ましく、0~20がさらに好ましく、0~10がよりさらに好ましく、0であることが特に好ましい。
【0086】
本工程で用いられる第1の核酸として、市販されている化合物を用いてもよい。また、市販されているモノマー同士を、通常のアミド化反応に付して、2以上の第1の核酸が結合したものを準備することができる。
【0087】
アミノ基の保護基としては、好ましくは置換基を有していてもよいFmoc、より好ましくはFmocを用いることができる。また、Tr、MMTr、DMTrを含むトリチル、より好ましくはMMTr、あるいはヒドラジンを用いて除去することができる、フタルイミド型の保護基を用いることもできる。
【0088】
本工程は、第2のキメラ分子前駆体に対して第1の核酸を過剰量用い、必要に応じて縮合剤の存在下、反応に不活性な溶媒中で行う。
【0089】
ここで用いられる溶媒の例としては、特に限定されないが、ハロゲン化炭化水素類;芳香族炭化水素類;脂肪酸エステル類;非極性/極性エーテル類;ニトリル類;アミド類;これらの任意の組み合わせ;が挙げられる。例えば、テトラヒドロフランが好ましい。
【0090】
第2のキメラ分子前駆体に対して過剰量用いる第1の核酸は、第2のキメラ分子前駆体の使用モル数に対して、1.01~5当量、好ましくは1.05~3当量、より好ましくは1.1~2.5当量、さらに好ましくは1.1~2.2当量用いることができる。
【0091】
本工程を円滑に進行させる目的で、縮合剤を使用してもよい。
縮合剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,1’-カルボニルジイミダゾール、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロホスファート(COMU)、ジフェニルリン酸アジド、オキシ塩化リンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、COMUが好ましい。
【0092】
縮合剤、好ましくは縮合剤としてCOMUを用いる場合、第2のキメラ分子前駆体の使用モル数に対して、1~10当量、好ましくは1.5~8当量、より好ましくは2~6当量、さらに好ましくは2.5~5当量、特に好ましくは3~4.5当量用いることができる。
【0093】
第1の核酸におけるカルボキシ基を反応性誘導体に変換してから第2のキメラ分子前駆体と反応させることもできる。カルボキシ基の反応性誘導体としては、例えば、オキシ塩化リン、塩化チオニル等のハロゲン化剤と反応して得られる酸ハロゲン化物;クロロギ酸イソブチル等と反応して得られる混合酸無水物;1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等と縮合して得られる活性エステル;が挙げられる。これらの反応性誘導体と第2のキメラ分子前駆体との反応は、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類等の反応に不活性な溶媒中で行う。トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン等の有機塩基を用いることが反応を円滑に進行させる上で有利な場合がある。
【0094】
本工程では、添加剤(例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾールなど)を用いることが反応に好ましい場合がある。
また、有機塩基;又は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;の存在下で反応を行うことが、反応を円滑に進行させる上で有利な場合がある。例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミンが好ましい。
有機塩基、好ましくは有機塩基としてN,N-ジイソプロピルエチルアミンを用いる場合、第2のキメラ分子前駆体の使用モル数に対して、1~10当量、好ましくは1.5~8当量、より好ましくは1.5~5当量、さらに好ましくは2~4当量、特に好ましくは2~3当量用いることができる。また、第2のキメラ分子前駆体のリン酸バックボーンの数に対して、1~10倍モル量、好ましくは1.5~5倍モル量、より好ましくは2~4倍モル量、さらに好ましくは2.5~3倍モル量用いることができる。
【0095】
反応温度と反応時間は、使用する試薬の種類や量によって適宜変更することができる。例えば、0~100℃、好ましくは15~50℃、より好ましくは20~30℃において、5分~24時間攪拌してもよい。
反応における基質濃度は、使用する試薬の種類や量によって適宜変更することができる。例えば、第1のキメラ分子前駆体の反応溶液中濃度が、0.01~0.2mol/L、好ましくは0.02~0.1mol/L、より好ましくは0.025~0.08mol/L、さらに好ましくは0.03~0.05mol/Lとなるように溶媒の使用量を調整することができる。
【0096】
前工程と同様に、反応終了後、反応溶液に極性溶媒を添加することにより、目的物(キメラ分子)を固化させて回収してもよい。
【0097】
上記の工程で得られたキメラ分子は、導入された第1の核酸のN末端を介して、さらに第1の核酸又は第2の核酸が導入されてもよい。
その場合、導入された第1の核酸のアミノ基の保護基を除去し、当該アミノ基を手掛かりとして、第1の核酸又は第2の核酸を導入することができる。
【0098】
導入された第1の核酸のアミノ基の保護基の除去方法は、保護基の種類によって選択すればよく、前述の「Greene‘s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、2006年)」に記載の方法を採用することができる。
導入された第1の核酸のアミノ基の保護基がFmocである場合、例えば、2体積%の1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)と2体積%のピペリジンとの溶液、例えばテトラヒドロフラン(THF)溶液を作用させる方法が挙げられる。
【0099】
キメラ分子へのさらなる第1の核酸の導入は、前述の(3)第2のキメラ分子前駆体又は脱保護された第2のキメラ分子前駆体(本項において、単に「第2のキメラ分子前駆体」とも言う。)への、第1の核酸の導入(キメラ分子の製造)に準じて行うことができる。
第2の核酸の導入は、F. Bergmann,et al.、Tetrahedron Lett.、1995、36(38)、6823-6826に記載の方法若しくはこれに準じた方法、又は国際公開第2017/086397号に記載の方法若しくはこれに準じた方法を採用することができる。
【0100】
このように製造された脂溶性アンカーを構造の一部として含むキメラ分子から、脂溶性アンカーを切り離すことにより、脂溶性アンカーを構造の一部として含まないキメラ分子を製造することができる。
前述のように、脂溶性アンカーは、キメラ分子の製造においては切り離されず、その一方で任意の段階で切り離すことができることが好ましい。脂溶性アンカーは、酸性条件下では除去されず、塩基性条件下で除去可能であることが好ましい。
脂溶性アンカーが式(i)や式(ii)で示される脂溶性アンカーである場合、前述の特許文献2及び7に記載の方法若しくはこれに準じた方法により切り離すことができる。例えば、極性溶媒、好ましくはエタノール中、水酸化アンモニウム水溶液を作用させることにより、脂溶性アンカーの残渣が沈殿し、上澄みから目的物であるキメラ分子を単離することができる。なお、導入された第2の核酸のリン酸部位に、弱塩基条件下、酸素原子から脱離する基(LVで示した基)が脱離せず残っていたり、導入された第1の核酸のアミノ基の保護基(例えばFmoc)が除去されず残っていたりした場合、これらの基も脱離したキメラ分子が得られる。
【実施例
【0101】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
製造例1(アルキル化)
【0103】
【化7】
【0104】
没食子酸メチル(15.0 g、81.5 mmol)、1-ブロモオクタデカン(89.7 g、269 mmol)、及び炭酸カリウム(67.2 g、486 mmol)のDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)(300 mL)中の混合物に対して、80℃で1日間撹拌した。反応混合物を室温に冷却し、トルエンで希釈した。これを水で洗った。有機層を部分的に濃縮し、メタノールの添加により懸濁させた。得られた沈殿物を濾過により回収し、固体を減圧下で乾燥させて、標的化合物(80.1 g、定量的)を白色の固体として得た。
【0105】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.24 (s, 2H), 4.00 (td, J = 6.5, 3.4 Hz, 7H), 3.91-3.86 (m, 4H), 1.84-1.69 (m, 7H), 1.45 (td, J = 8.9, 5.1 Hz, 7H), 1.24 (s, 98H), 0.87 (t, J = 7.0 Hz, 11H) ppm.
NMRデータは既存文献に記載のデータと一致した(S. Kim, et al., Eur. J. Chem., 2013, 19, 8615-8620)。
【0106】
製造例2(LAH還元)
【0107】
【化8】
【0108】
THF(81.0 mL)中のLiAlH4(1.00 g, 21.1 mmol)の溶液に、室温でのカニューレ挿入技術により、THF(96.0 mL)中のメチルエステル(5.01 g, 5.32 mmol)の溶液を滴下して加えた。室温で3時間撹拌した後、反応混合物を氷浴で冷却し、水(1.00 mL)、続いて15%NaOH水溶液(3.00 mL)を加えることによりクエンチした。混合物を室温に温め、1時間撹拌した。水(3.00 mL)を加えた後、混合物をNa2SO4で乾燥させ、濾過した。濾液を濃縮し、粗生成物をジクロロメタン(30.0 mL)に溶解した。メタノール(200 mL)を加えることにより生成物を再結晶化し、沈殿物を濾過により収集した。固体を減圧下で乾燥させて、標的化合物(4.55 g、収率93.6%)を白色粉末として得た。
【0109】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.54 (s, 2H), 4.58 (s, 2H), 3.94 (dt, J = 15.4, 6.6 Hz, 6H), 1.84-1.66 (m, 6H), 1.46 (d, J = 7.9 Hz, 7H), 1.24 (s, 67H), 0.91-0.82 (m, 9H) ppm.
NMRデータは既存文献に記載のデータと一致した(H. Tamiaki, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 2001, 74, 733-738)。
【0110】
製造例3(リンカーの導入)
【0111】
【化9】
【0112】
ジクロロメタン(8.26 mL)中の5'-O-DMTr-チミジン(3.00 g、5.51 mmol)及び無水コハク酸(1.10 g、11.0 mmol)の溶液に、トリエチルアミン(2.79 g、3.83 mL、27.6 mmol)を加えた。室温で7.5時間撹拌した後、反応混合物をジクロロメタンで希釈し、飽和水溶液で洗浄した。NH4Clに続いてブラインで洗浄した。水相をジクロロメタンで2回抽出した。合わせた有機層をNa2SO4で乾燥し、濃縮して、標的化合物(4.40 g、定量的)を淡黄色の泡として得た。
【0113】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.61 (s, 1H), 7.38-7.33 (m, 2H), 7.30-7.25 (m, 4H), 7.25-7.18 (m, 6H), 6.84-6.78 (m, 4H), 6.36 (dd, J = 9.3, 5.2 Hz, 1H), 5.41 (d, J = 5.3 Hz, 1H), 5.29 (s, 1H), 4.17 (s, 1H), 3.76 (d, J = 2.6 Hz, 6H), 3.44 (dd, J = 10.2, 2.5 Hz, 1H), 3.39 (dd, J = 10.5, 2.8 Hz, 1H), 3.02 (q, J = 7.3 Hz, 4H), 2.57 (s, 3H), 2.50 (dd, J = 13.6, 5.0 Hz, 1H), 2.40-2.35 (m, 1H), 1.35-1.32 (m, 3H), 1.27 (t, J = 7.3 Hz, 5H) ppm.
NMRデータは既存文献に記載のデータと一致した(P. Kumar, et al., Nucleosides Nucleotides, 1993, 12, 565-584; C. Johnston, et al., Chemistry-Methods, 2021, 1, 1-8)。
【0114】
製造例4(アンカー上へのヌクレオシドの固定化)
【0115】
【化10】
【0116】
ベンジルアルコール誘導体(100 mg、0.109 mmol)のTHF(2.00 mL)溶液に、ヌクレオシド-3'-O-コハク酸塩(122 mg、0.164 mmol)、EDC塩酸塩(52.3 mg、0.273 mmol)及びDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)(33.4 mg、0.273 mmol)を加えた。室温で3時間撹拌した後、反応混合物をメタノールの添加により懸濁させた。得られた沈殿物を濾過により収集し、メタノールですすいだ。ペレットを減圧下で乾燥させて、標的化合物(154 mg、収率 91.7%)を白色固体として得た。
【0117】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 8.19 (s, 1H), 7.60 (d, J = 1.7 Hz, 1H), 7.39-7.34 (m, 2H), 7.32-7.20 (m, 9H), 6.83 (d, J = 8.8 Hz, 4H), 6.52 (s, 2H), 6.42 (dd, J = 8.5, 6.1 Hz, 1H), 5.47 (dd, J = 4.4, 2.7 Hz, 1H), 5.00 (s, 2H), 4.13 (q, J = 2.4 Hz, 1H), 3.94 (d, J = 6.5 Hz, 3H), 3.93-3.88 (m, 3H), 3.78 (s, 6H), 3.50-3.41 (m, 2H), 2.66 (dq, J = 8.5, 5.9 Hz, 4H), 2.48-2.40 (m, 2H), 1.81-1.75 (m, 4H), 1.72 (dt, J = 15.0, 7.6 Hz, 3H), 1.50-1.38 (m, 6H), 1.24 (s, 96H), 0.87 (t, J = 7.1 Hz, 9H) ppm.
13C NMR (151 MHz, CDCl3) δ 172.10, 171.91, 163.42, 158.87, 153.32, 150.28, 144.25, 138.32, 135.58, 135.31, 135.19, 130.53, 130.18, 128.23, 128.16, 127.35, 113.42, 111.71, 107.11, 87.32, 84.43, 84.05, 75.95, 73.53, 69.22, 67.29, 63.81, 55.35, 37.94, 32.03, 30.43, 29.87, 29.83, 29.77, 29.73, 29.55, 29.51, 29.47, 29.16, 29.03, 26.23, 22.79, 14.23, 11.65 ppm.
HRESIMS calcd. for C96H150N2NaO13, 1562.1030 [M+Na]+; found 1562.1060.
【0118】
製造例5(トリチル除去;第1のキメラ分子前駆体の製造)
【0119】
【化11】
【0120】
クロロホルム(5.49 mL)中の出発物質(156 mg、101 mmol)の冷却溶液に、氷浴中の184 mMトリクロロ酢酸/ジクロロメタン(2.74 mL、トリクロロ酢酸:505 mmol)を加えた。混合物を0℃で1.5時間撹拌し、次に室温に温めた。室温で4.5時間撹拌した後、反応混合物をメタノールで希釈した。得られた沈殿物を濾過により収集し、メタノールですすいだ。固体を減圧下で乾燥させて、標的化合物(117 mg、収率93.6%)を白色の泡として得た。
【0121】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.38 (s, 1H), 7.49 (t, J = 1.3 Hz, 1H), 6.52 (s, 2H), 6.18 (dd, J = 8.3, 6.1 Hz, 1H), 5.26 (dt, J = 6.3, 2.4 Hz, 1H), 5.01 (s, 2H), 4.03 (q, J = 2.5 Hz, 1H), 4.01-3.75 (m, 9H), 2.74-2.61 (m, 4H), 2.56 (t, J = 4.9 Hz, 1H), 2.47-2.27 (m, 2H), 1.91 (d, J = 1.2 Hz, 3H), 1.86-1.66 (m, 7H), 1.51-1.38 (m, 7H), 1.24 (s, 97H), 0.91-0.82 (m, 10H) ppm.
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 172.11, 172.03, 163.46, 153.29, 150.33, 138.23, 136.48, 130.64, 111.45, 107.16, 86.26, 85.08, 77.31, 75.19, 73.57, 69.24, 67.20, 62.65, 37.16, 32.02, 30.41, 29.86, 29.82, 29.76, 29.72, 29.54, 29.50, 29.47, 29.18, 29.14, 26.22, 22.79, 14.22, 12.68 ppm.
HRESIMS calcd. for C75H132N2NaO11, 1259.9724 [M+Na]+; found 1259.9734.
【0122】
製造例6(第2の核酸の伸長)
【0123】
【化12】
【0124】
3’-O-脂溶性アンカー修飾チミジン(20.0 mg, 16.2 μmol)及び5’-O-DMTr-チミジンホスホロアミダイト(24.1 mg, 32.4 μmol)のジクロロメタン溶液(1.62 mL)に対して、0.25 Mの5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール(BTT)のアセトニトリル溶液(162 μL, 40.5 μmol)を加えた。室温で8時間反応させた後、反応溶液にメタクロロ過安息香酸(mCPBA)を21.5 mg(81 μmol)加え、室温で1時間反応させた。反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、フィルター濾過を行うことにより沈殿物を回収し、濾紙上に得られた固体をメタノールで洗浄した。つづいて得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色粉末として目的物のジヌクレオチドを得た(17.9 mg、収率58.3%)。
【0125】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 9.26-8.55 (m, 2H), 7.51 (t, J = 12.3 Hz, 1H), 7.43 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 7.38-7.27 (m, 9H), 7.27-7.19 (m, 12H), 6.83 (dd, J = 8.5, 3.7 Hz, 6H), 6.52 (d, J = 3.4 Hz, 6H), 6.46-6.33 (m, 1H), 6.33-6.09 (m, 4H), 5.38-5.24 (m, 3H), 5.17 (s, 3H), 5.09-4.90 (m, 6H), 4.40-4.00 (m, 17H), 4.00-3.89 (m, 20H), 3.85 (s, 4H), 3.77 (dd, J = 3.9, 1.7 Hz, 9H), 3.61-3.45 (m, 1H), 3.37 (d, J = 10.3 Hz, 1H), 3.32-3.13 (m, 1H), 2.84-2.73 (m, 4H), 2.73-2.59 (m, 17H), 2.59-2.21 (m, 10H), 1.96-1.85 (m, 14H), 1.85-1.64 (m, 45H), 1.50-1.37 (m, 27H), 1.24 (s, 294H), 0.86 (td, J = 7.0, 1.5 Hz, 31H) ppm.
13C NMR (151 MHz, CDCl3) δ 172.11, 163.85, 163.65, 158.94, 153.33, 150.49, 144.05, 138.34, 136.60, 135.85, 135.73, 135.19, 135.04, 130.51, 130.22, 128.24, 128.17, 127.44, 116.59, 116.44, 116.26, 113.45, 111.88, 111.71, 111.45, 107.15, 87.43, 86.40, 86.27, 85.67, 85.10, 84.39, 82.48, 79.12, 75.17, 74.00, 73.88, 73.58, 73.56, 69.27, 67.69, 67.30, 63.30, 62.61, 62.48, 62.08, 55.38, 39.01, 38.47, 37.16, 36.76, 36.53, 32.02, 30.44, 29.86, 29.82, 29.76, 29.73, 29.55, 29.52, 29.46, 29.18, 29.02, 26.23, 22.78, 19.81, 19.71, 19.67, 14.20, 12.61, 12.53, 11.78 ppm.
31P NMR (243 MHz, CDCl3) δ -1.86, -1.94, -2.09, -2.15 ppm.
HRESIMS calcd. for C109H166N5NaO20P, 1920.1790 [M+Na]+; found 1920.1878.
【0126】
製造例7(トリチル除去;第1のキメラ分子前駆体の製造)
【0127】
【化13】
【0128】
出発物質(17.9 mg, 9.43 μmol)のジクロロメタン(2.00 mL)溶液に対して、氷浴上で184 mMトリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液(2.00 mL、トリクロロ酢酸:368 μmol)を加えた。混合物を0℃で4分間撹拌したのち、室温に戻し、さらに1時間攪拌した。反応混合物をメタノールで希釈した。得られた沈殿物をフィルター濾過により回収し、得られた固体をメタノールで洗浄した。固体を減圧下で乾燥させて、標的化合物(16.9 mg、収率>99.0%)を白色粉末として得た。
【0129】
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 9.37-8.78 (m, 1H), 7.49 (d, J = 1.3 Hz, 1H), 7.43 (q, J = 2.5 Hz, 1H), 7.37-7.29 (m, 1H), 7.25 (s, 2H), 6.52 (s, 3H), 6.26-6.09 (m, 2H), 5.40-5.24 (m, 1H), 5.17 (td, J = 6.0, 3.0 Hz, 1H), 5.01 (d, J = 3.9 Hz, 3H), 4.42-4.25 (m, 5H), 4.21 (dq, J = 5.4, 2.8 Hz, 1H), 4.15 (t, J = 4.1 Hz, 1H), 4.00-3.89 (m, 9H), 3.85 (s, 3H), 3.28-3.04 (m, 1H), 2.79 (td, J = 6.1, 3.3 Hz, 2H), 2.68 (dh, J = 15.8, 4.2 Hz, 6H), 2.58-2.27 (m, 5H), 1.97-1.84 (m, 8H), 1.81-1.63 (m, 17H), 1.52-1.38 (m, 10H), 1.24 (s, 98H), 0.86 (t, J = 7.0 Hz, 15H) ppm.
13C NMR (151 MHz, CDCl3) δ 172.14, 163.76, 153.33, 150.47, 138.35, 136.67, 135.87, 130.51, 116.59, 111.87, 111.41, 107.12, 86.47, 86.34, 85.70, 82.56, 79.14, 74.02, 73.88, 73.58, 69.27, 67.65, 67.30, 62.61, 62.10, 62.00, 38.46, 37.15, 36.53, 32.02, 30.44, 29.86, 29.82, 29.76, 29.73, 29.55, 29.52, 29.46, 29.04, 26.23, 22.78, 19.86, 19.82, 14.20, 12.66, 12.61, 12.53, 1.10 ppm.
31P NMR (243 MHz, CDCl3) δ -1.86, -1.94 ppm.
HRESIMS calcd. for C88H148N5NaO18P, 1617.0450 [M+Na]+; found 1617.0467.
【0130】
実施例1(第2のキメラ分子前駆体の製造)
【0131】
【化14】
【0132】
3’-O-脂溶性アンカー修飾チミジン(20.0 mg, 16.2 μmol)のジクロロメタン溶液(463 μL)に対して、アセトニトリル(43.6 μL)を加えた。次いで、5’-MMTr-アミノ化チミジンホスホロアミダイト(23.1 mg, 32.4 μmol)及び1H-テトラゾール(11.3 mg, 162 μmol)を加え、室温で5時間反応させた。反応溶液にジクロロメタン(200 μL)を加えたのち、5’-MMTr-アミノ化チミジンホスホロアミダイト(11.6 mg, 16.2 μmol)及び1H-テトラゾール(5.65 mg, 81.0 μmol)を加えた。室温で6.5時間反応させた後、反応溶液に5~6 Mのtert-ブチルハイドロペルオキシド/デカン溶液(13.0 μL, 64.8 μmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し3,500 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色固体として目的物のジヌクレオチドを得た(23.3 mg、収率77.2%)。
【0133】
31P NMR (243 MHz, CDCl3) δ -1.84, -1.95 ppm.
【0134】
実施例2(第2のキメラ分子前駆体の製造)
【0135】
【化15】
【0136】
3’-O-脂溶性アンカー修飾チミジン(17.4 mg, 14.1 μmol)のジクロロメタン溶液(403 μL)に対して、アセトニトリル(40.3 μL)を加えた。次いで、5’-MMTr-アミノ化チミジンホスホロアミダイト(20.1 mg, 28.2 μmol)及び4,5-ジシアノイミダゾール(16.7 mg, 141 μmol)を加え、室温で6時間反応させた。反応溶液に5’-MMTr-アミノ化チミジンホスホロアミダイト(20.1 mg, 28.2 μmol)を追加で加え、室温で3時間反応させた。反応終了後、反応溶液に5~6 Mのtert-ブチルハイドロペルオキシド/デカン溶液(11.3 μL, 56.4 μmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた沈殿物をフィルター濾過により回収し、得られた固体をメタノールで洗浄した。固体を減圧下で乾燥させて、標的化合物(22.9 mg、収率75.6%)を白色固体として得た。
【0137】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.43 (d, J = 8.0 Hz, 3H), 7.33 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.28 (d, J = 4.4 Hz, 3H), 7.05 (s, 1H), 6.87 - 6.75 (m, 2H), 6.52 (s, 2H), 6.22 (s, 2H), 5.29 (s, 2H), 5.06 - 4.93 (m, 3H), 4.41 - 4.07 (m, 7H), 3.93 (d, J = 9.6 Hz, 7H), 3.76 (d, J = 3.6 Hz, 3H), 2.86 - 2.45 (m, 10H), 2.45 - 2.20 (m, 4H), 2.16 (s, 4H), 1.90 (d, J = 3.5 Hz, 4H), 1.87 - 1.67 (m, 11H), 1.45 (s, 10H), 1.24 (s, 92H), 0.87 (t, J = 6.8 Hz, 11H) ppm.
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ -1.95 ppm.
【0138】
実施例3(第2のキメラ分子前駆体の脱保護)
【0139】
【化16】
【0140】
出発物質(23.3 mg, 12.5 μmol)のジクロロメタン(2.70 mL)溶液に対して、氷浴上で184 mMトリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液(2.70 mL、トリクロロ酢酸:488 μmol)を加えた。混合物を0℃で8分間撹拌したのち、室温に戻し、さらに1時間攪拌した。反応混合物をメタノールで希釈した。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色固体として目的物のジヌクレオチドを得た(8.80 mg、収率44.2%)。
【0141】
31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ -2.02 ppm.
【0142】
実施例4(第2のキメラ分子前駆体への第1の核酸の導入;キメラ分子の製造)
【0143】
【化17】
【0144】
出発物質(8.80 mg, 5.52 μmol)のテトラヒドロフラン溶液(552 μL)に対して、Fmoc-PNA-Tモノマー(3.35 mg, 6.62 μmol)、COMU(7.60 mg, 17.8 μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.78 mg, 2.38 μL, 13.8 μmol)を順番に加え、室温で20時間反応させた。反応終了後、反応溶液にメタノールを加え懸濁させた。アセトニトリルで懸濁液を10倍希釈し、得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色固体としてPNA-DNAキメラ分子を得た(7.90 mg、収率70.5%)。
【0145】
31P NMR (243 MHz, CDCl3) δ -1.64 ppm.
MALDI-TOF-MS calcd. for C111H169N9O23P, 2028.587 [M-H]-; found 2028.657.
【0146】
実施例5(キメラ分子の脱保護)
【0147】
【化18】
【0148】
出発物質(7.90 mg, 3.89 μmol)のテトラヒドロフラン溶液(500 μL)に対して、2%ピペリジン/2% DBUのテトラヒドロフラン溶液(500 μL)を加え、混合物を室温で1時間撹拌した。反応溶液のpHが5になるまで1 M塩酸を滴下し、反応を停止させた。つづいて、反応混合物にメタノール(5.00 mL)を加え懸濁させ、得られた懸濁液を遠沈管へ移した。懸濁液をアセトニトリル(34.0 mL)で希釈したのち、3,500 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をアセトニトリルで三回洗浄し、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色固体としてPNA-DNAキメラ分子を得た(6.80 mg、収率96.7%)。
【0149】
MALDI-TOF-MS calcd. for C96H159N9O21P, 1806.3443 [M-H]-; found 1806.446.
【0150】
実施例6(キメラ分子へのアミノ酸導入)
【0151】
【化19】
【0152】
出発物質(6.80 mg, 3.76 μmol)のテトラヒドロフラン溶液(376 μL)に対して、Fmoc-グリシン-OH(2.24 mg, 7.52 μmol)、COMU(6.42 mg, 15.0 μmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.46 mg, 1.95 μL, 11.3 μmol)を順番に加え、室温で17.5時間反応させた。反応終了後、反応溶液にメタノールを加え懸濁させた。アセトニトリルで懸濁液を10倍希釈し、得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色固体としてFmoc-Gly-PNA-DNAキメラ分子を得た(4.60 mg、収率58.5%)。
【0153】
MALDI-TOF-MS calcd. for C113H172N10O24P, 2085.639 [M-H]-; found 2086.052.
【0154】
実施例7(キメラ分子からの脂溶性アンカーの切り離し)
【0155】
【化20】
【0156】
保護基/アンカー付PNA-DNAキメラ(4.60 mg, 2.20 μmol)をエタノール(400 μL)、28%アンモニア水(1.20 mL)に懸濁させ、80 ℃で5時間処理した。反応溶液を室温に戻したのち、濃縮乾固した。得られた白色固体をメタノールに懸濁させ、得られた懸濁液を遠沈管へ移し、4,000 rpmで15分間遠心分離を行なった。上清を回収し濃縮乾固後、超脱イオン水に溶解し、LC-MSによる純度解析及びNanoDropによる吸光度測定を行なった。その結果、目的物のキメラ分子N-Gly-T(PNA)TT(DNA)-3’の純度は63.4%であり、収率は26.8%(0.59 μmol, ε260 = 26,160 M-1・cm-1)であった。
【0157】
HRESIMS calcd. for C33H44N10O16P, 867.2680 [M-H]-; found 867.2758.
【0158】
製造例8(第2の核酸の伸長、リン原子の酸化、トリチル除去;第1のキメラ分子前駆体の製造)
【0159】
【化21】
【0160】
3’-O-脂溶性アンカー修飾チミジン(108 mg, 87.3 μmol)のジクロロメタン(2.49 mL)-アセトニトリル(249 μL)混合溶液に対して、5’-O-DMTr-チミジンホスホロアミダイト(195 mg, 262 μmol)及び1H-テトラゾール(61.2 mg, 874 μmol)を加え、室温で7.5時間反応させた。反応溶液に5~6 Mのtert-ブチルハイドロペルオキシド/デカン溶液(69.8 μL, 349 μmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体をジクロロメタン(4.74 mL)に溶解した。得られたジクロロメタン溶液を氷浴で冷却したのち、氷浴上にて184 mM トリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液(4.74 mL)を加え2分間攪拌した。反応溶液を室温に戻したのち、さらに1時間攪拌した。反応終了後、反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体をジクロロメタンに溶解した。ベンゼン共沸を三回行なったのち、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色固体としてジヌクレオチド体を得た(136 mg、収率97.8%)。
【0161】
MALDI-TOF-MS calcd. for C88H148N5NaO18P, 1617.045 [M+Na]+; found 1617.119.
【0162】
製造例9(第2の核酸の伸長、リン原子の酸化、トリチル除去;第1のキメラ分子前駆体の製造)
【0163】
【化22】
【0164】
3’-O-脂溶性アンカー修飾ジヌクレオチド(136 mg, 85.3 μmol)のジクロロメタン(2.44 mL)-アセトニトリル(244 μL)混合溶液に対して、5’-O-DMTr-チミジンホスホロアミダイト(191 mg, 256 μmol)及び1H-テトラゾール(59.8 mg, 853 μmol)を加え、室温で5時間反応させた。反応溶液に5~6 M tert-ブチルハイドロペルオキシド/デカン溶液(68.2 μL, 341 μmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体をジクロロメタン(4.74 mL)に溶解した。得られたジクロロメタン溶液を氷浴で冷却したのち、氷浴上にて184 mMトリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液(4.74 mL)を加え2分間攪拌した。反応溶液を室温に戻したのち、トリフルオロ酢酸を2~3滴加え、1時間攪拌した。反応終了後、反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体をジクロロメタンに溶解した。ベンゼン共沸を三回行なったのち、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、白色固体としてトリヌクレオチド体を得た(82.6 mg、収率49.5%)。
【0165】
MALDI-TOF-MS calcd. for C101H164N8NaO25P2, 1975.391 [M+Na]+; found 1975.886.
【0166】
実施例8(第1のキメラ分子前駆体への第2の核酸の導入:第2のキメラ分子前駆体の製造/脱保護)
【0167】
【化23】
【0168】
3’-O-脂溶性アンカー修飾トリヌクレオチド(82.6 mg, 42.3 μmol)のジクロロメタン(1.21 mL)-アセトニトリル(121 μL)混合溶液に対して、5’-MMTrNH-チミジンホスホロアミダイト(90.7 mg, 127 μmol)及び1H-テトラゾール(29.6 mg, 423 μmol)を加え、室温で10時間反応させた。反応溶液に5~6 Mのtert-ブチルハイドロペルオキシド/デカン溶液(33.8 μL, 169 μmol)を加え、室温で1時間反応させた。反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体をジクロロメタン(2.00 mL)に溶解した。得られたジクロロメタン溶液に対して、184 mM トリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液(10.0 mL)を加え、室温で45分間攪拌した。反応終了後、反応溶液をメタノールで希釈することにより反応溶液を懸濁させた。得られた懸濁液を、遠沈管へ移し4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体をジクロロメタンに溶解した。ベンゼン共沸を三回行なったのち、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、茶褐色固体として5’-アミノ化テトラヌクレオチド体を得た(75.4 mg、収率77.2%)。得られたテトラヌクレオチドは、リン酸骨格上のシアノエチル基が三つ全て付いているもの、一つ外れたもの、二つ外れたものの混ざりであることをMALDI-TOF-MS分析により確認した。
【0169】
MALDI-TOF-MS calcd. for C114H182N12O31P3, 2309.684 [M+H]+; found 2310.708(シアノエチルが三つ全て付いているもの), C111H179N11O31P3, 2256.620 [M+H]+; found 2257.655(シアノエチルが一つ外れたもの), C108H176N10O31P3, 2203.566 [M+H]+; found 2204.544(シアノエチルが二つ外れたもの).
【0170】
実施例9(シアノエチル基の除去)
【0171】
【化24】
【0172】
5’-アミノ化テトラヌクレオチド(75.4 mg, 32.7 μmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.00 mL)に対して、2%ピペリジン/2% DBUのテトラヒドロフラン溶液(1.00 mL)を加え、混合物を室温で1時間撹拌した。反応溶液にメタノール(45.0 mL)を加え懸濁させ、得られた懸濁液を遠沈管へ移し、4,000 rpmで20分間遠心分離を行なった。得られた沈殿物をメタノールで三回洗浄し、得られた固体をジクロロメタンに溶解した。ベンゼン共沸を三回行なったのち、得られた固体を真空条件下一晩乾燥し、茶褐色固体として脱シアノエチル化体を得た(62.7 mg、収率89.2%)。
【0173】
MALDI-TOF-MS calcd. for C105H171N9O31P3, 2148.477 [M-H]-; found 2148.571.
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明によれば、RNAやDNAに代表される主鎖骨格が陰イオン性である核酸又はその誘導体に、PNAやPRNAに代表される主鎖骨格が中性又は陽イオン性である核酸又はその誘導体を導入する、液相合成法によるキメラ分子の製造方法を提供できる。
【要約】
【課題】DNAを含む陰イオン性主鎖骨格核酸に、PNAを含む中性又は陽イオン性主鎖骨格核酸を導入する、液相合成法によるキメラ分子の製造方法の提供。
【解決手段】第1の核酸と第2の核酸とが融合したキメラ分子の製造方法であって、第1のキメラ分子前駆体の水酸基を介した、第2の核酸の導入による第2のキメラ分子前駆体の準備と必要に応じた脱保護、及び第2のキメラ分子前駆体への第1の核酸の導入によるキメラ分子の製造を含み、第1のキメラ分子前駆体は脂溶性アンカーを含み、第2の核酸は保護されていてもよいアミノ基を有し、第2のキメラ分子前駆体の脱保護が第2のキメラ分子前駆体に導入された第2の核酸の保護されたアミノ基の脱保護であり、第1の核酸の導入は第2の核酸のアミノ基を介した導入であり、いずれの工程も液相合成法により行われる。
【選択図】なし