(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】マイクロチップの製造方法及びチップ部材
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20230203BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230203BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2017200079
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】592111894
【氏名又は名称】ヤマトエスロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100175385
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206195
【氏名又は名称】山本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松永 哲至
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳則
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125058(JP,A)
【文献】特開2012-237707(JP,A)
【文献】特開2014-122831(JP,A)
【文献】特表2002-536210(JP,A)
【文献】特開2011-069618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00- 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部にマイクロ流路が形成された平板状のマイクロチップを製造するマイクロチップの製造方法であって、
熱可塑性の合成樹脂からなり、平板状の第1の本体と、前記第1の本体の一方面から突出するように一体的に形成され、互いに所定間隔離れて延びる一対の流路形成用リブとを備えたチップ部材、及び、熱可塑性の合成樹脂からなり、平板状の第2の本体を備え、前記第2の本体の一方面である接合面が前記チップ部材の前記一方面の前記一対の流路形成用リブの先端部に対向状態で接触可能な形状である対向部材を準備する準備工程と、
前記チップ部材の前記一方面の前記一対の流路形成用リブと前記対向部材の前記接合面とを高周波溶着又は超音波溶着により溶着し、前記チップ部材の前記一方面と前記対向部材の前記接合面と前記溶着された一対の流路形成用リブとに覆われるように連続的に延びる液密の空間を前記マイクロ流路として形成する溶着工程とを備え、
前記チップ部材は、
前記流路形成用リブの密度が低い箇所において、前記一対の流路形成用リブの
両側近傍に
前記一対の流路形成用リブに沿って延びる一対の補助リブが形成され、
前記補助リブは、その溶着前の高さが前記一対の流路形成用リブの各々の高さと同一に設定され、
前記溶着工程において、更に前記補助リブと前記接合面とを溶着する、マイクロチップの製造方法。
【請求項2】
溶着前の前記一対の流路形成用リブの各々は、その延びる方向に直交する方向の断面形状が、その先端部の角度が15°~120°の三角形状であると共に、
溶着前の前記一対の流路形成用リブの前記所定間隔は、0.3mm~3.0mmである、請求項1記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項3】
前記対向部材には、前記チップ部材の前記先端部が係合する溝が形成されている、請求項1又は請求項2記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記チップ部材は、前記一対の流路形成用リブの一方端部と接続された投入口を更に備え、
使用前に前記投入口にあらかじめ試薬を収納し封止する試薬収納工程を更に備えた、請求項1から請求項3のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
対向部材に溶着されることで、その内部にマイクロ流路が形成された平板状のマイクロチップの基板となるチップ部材であって、
熱可塑性の合成樹脂からなり、
平板状の本体と、
前記本体の一方面から突出するように一体的に形成され、互いに所定間隔離れて延びる一対の流路形成用リブとを備え、
前記本体は、
前記流路形成用リブの密度が低い箇所において、前記一対の流路形成用リブの
両側近傍に
前記一対の流路形成用リブに沿って延びる一対の補助リブが形成され、
前記補助リブは、その溶着前の高さが前記一対の流路形成用リブの各々の高さと同一に設定された、チップ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はマイクロチップの製造方法及びチップ部材に関し、特に、検体、試薬、反応物等を通過させるマイクロ流路をその内部に有するマイクロチップの製造方法及びチップ部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、その内部にマイクロ流路が形成され、当該マイクロ流路に例えば検体及び試薬の混合物を通過させ反応させることで、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)や等温核酸増幅(LAMP法等)の検査反応に使用されるマイクロチップが存在する。
【0003】
図12は、従来のマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図である。
【0004】
同図を参照して、チップ部材72は、微細流路加工された図示しない金型等を用いて合成樹脂が射出成形されてなり、例えば縦(
図12のY軸方向で示す、手前方向から奥方向)72mm×横(
図12のX軸方向で示す、左右方向)22mmの平面視矩形状であって厚さ1.2mm(後述するマイクロ流路や孔が形成された箇所を除いた平坦な部分の平均厚さ)である平板状の本体75と、本体75の手前側において貫通形成された投入口76と、本体75の奥側において貫通形成された到達口77と、投入口76と到達口77とを連絡するマイクロ溝78(例えば深さ0.1mmの溝状)とから主に構成されている。マイクロ溝78は具体的には、投入口76に接続される一方端部80と、到達口77に接続される他方端部82と、縦方向等間隔且つ横方向等幅に連続的に並ぶジグザグ状に折れ曲がりながら一方端部80と他方端部82とに連続的に接続される通過部81とから構成されている。
【0005】
次に、このチップ部材72を用いたマイクロチップの製造方法について説明する。
【0006】
図13は
図12で示したチップ部材を用いて構成されたマイクロチップにおける、
図12で示したXIII-XIIIラインの拡大端面図であって、(1)は両面テープを用いる場合のものであり、(2)は片面テープを用いる場合のものである。
【0007】
まず
図12と
図13の(1)を併せて参照して、上述したチップ部材72と、チップ部材72に対して平面視対称形状(図示せず)である対向部材73とが、マイクロ溝78、79の形成されている面同士が対向するように両面テープ84を用いて貼り合わされることによって、マイクロチップ71が構成されている。両面テープ84は、ポリエステル等を芯材とし、両面に例えばアクリル系の粘着剤が施されたものである。
【0008】
このように構成することで、マイクロ溝78、79の少なくとも一方と両面テープ84とに囲われる液密の空間がマイクロチップ71のマイクロ流路86として機能する。
【0009】
このように対向部材73を用いる場合は、上述した両面テープ84を用いる方法以外に、有機溶剤によりチップ部材72及び対向部材73を溶かして接合したり、例えばシアノアクリレート系瞬間接着剤等で貼り合わせたりする方法がある。
【0010】
又、
図12と
図13の(2)を併せて参照して、平坦な片面テープ85(ポリエステル等を芯材とし、片面にアクリル系の粘着剤が施されたもの)の粘着面をチップ部材72側としてチップ部材72全面(少なくともマイクロ溝78全体を覆う状態)に貼り合わせることによって、マイクロチップ71´を構成することもできる。
【0011】
このようにして構成されたマイクロチップ71(71´)をPCRに使用する場合には、まず、マイクロ流路78の通過部81の横方向の一方側の折り返し端部から所定間隔離れて縦方向に延びる第1のスリット88に高温(例えば95℃)のヒーター(図示せず)を装着し、他方側には同様に形成された第2のスリット89に低温(例えば55℃)のヒーター(図示せず)を装着する。
【0012】
次に、一方面が対向部材73又は片面テープ85により覆われた投入口76に、目標DNAを含む検体や反応に必要な試薬(水、DNAポリメラーゼ、dNTP、プライマー等)をマイクロピペット等の実験器具を用いて所定量注入し、その後投入口76の他方面を他の粘着テープ等により封止する。
【0013】
次に、検体及び試薬の混合物が封入された投入口76を図示しないポンプユニットや使用者の指を用いて押圧し、矢印90で示すように投入口76から到達口77へ向かう方向に混合物を移動させて通過部81を通過させる。これによって、通過部81を通過する混合物は上述した第1のスリット88及び第2のスリット89に装着されたヒーターによって加熱・冷却され、その温度が94℃程度の高温と60℃程度の低温とに周期的に変化し、PCRが進行する。
【0014】
最後に、PCRが完了した反応物が到達口77(必要であれば投入口76と同様に両面又は片面を封止しておく。)に到達する。反応物は他の容器に回収して目標DNAの検出を行うことができる。又、PCR前にあらかじめ試薬に目標DNAと結合する蛍光試料を含有させた場合には、到達口77に収納された状態の反応物に対して直接的に目標DNAの増幅を確認する蛍光検出を行うこともできる。
【0015】
このように、マイクロチップ71は、ジグザグ状に折り曲げる等して密度を高めたマイクロ流路78を備えることで、少量スケールでの反応実験を可能とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記のような従来のマイクロチップの製造方法では、粘着剤を施したテープを用いる場合には、接着力不足による流路崩壊や粘着剤の剥がれによる流路破壊が起こる虞があった。少量スケールでの反応実験に用いられるというマイクロチップの性質上、このような一部の流路崩壊や微量の異物混入であっても、反応結果に大きく影響する虞があり重大な問題である。
【0017】
又、有機溶剤や瞬間接着剤を用いる場合には、貼り合わせの煩雑さや使用できる樹脂素材が限定される問題が存在していた。
【0018】
更に、チップ部材と対向部材とを、粘着テープ、有機溶剤や瞬間接着剤等を介さず直接的に加溶着、超音波溶着により接合しようとすると、特にマイクロ流路(マイクロ溝)の密度が高く幅が細い場合には、溶け出した合成樹脂がマイクロ流路に混入し流路破壊(流路空間の詰まり)が起こる虞があった。
【0019】
このように、特にマイクロ流路(マイクロ溝)の密度が高く幅が細い場合にも安定的にマイクロチップを製造することができる方法や、これによって得られる信頼性や歩留まりの向上したマイクロチップの登場が切望されていた。
【0020】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、安定的にマイクロチップを製造することができるマイクロチップの製造方法及びチップ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、その内部にマイクロ流路が形成された平板状のマイクロチップを製造するマイクロチップの製造方法であって、熱可塑性の合成樹脂からなり、平板状の第1の本体と、第1の本体の一方面から突出するように一体的に形成され、互いに所定間隔離れて延びる一対の流路形成用リブとを備えたチップ部材、及び、熱可塑性の合成樹脂からなり、平板状の第2の本体を備え、第2の本体の一方面である接合面がチップ部材の一方面の一対の流路形成用リブの先端部に対向状態で接触可能な形状である対向部材を準備する準備工程と、チップ部材の一方面の一対の流路形成用リブと対向部材の接合面とを高周波溶着又は超音波溶着により溶着し、チップ部材の一方面と対向部材の接合面と溶着された一対の流路形成用リブとに覆われるように連続的に延びる液密の空間をマイクロ流路として形成する溶着工程とを備え、チップ部材は、流路形成用リブの密度が低い箇所において、一対の流路形成用リブの両側近傍に一対の流路形成用リブに沿って延びる一対の補助リブが形成され、補助リブは、その溶着前の高さが一対の流路形成用リブの各々の高さと同一に設定され、溶着工程において、更に補助リブと接合面とを溶着するものである。
【0022】
このように構成すると、溶着工程において、流路形成用リブが溶着されることにより、連続的に延びる液密のマイクロ流路が構成される。又、溶着工程において、流路形成用リブに加え補助リブも溶着に供されることにより、流路形成用リブにかかる圧力が分散される。更に、溶着工程において、流路形成用リブにかかる圧力がより確実に分散される。
【0023】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、溶着前の一対の流路形成用リブの各々は、その延びる方向に直交する方向の断面形状が、その先端部の角度が15°~120°の三角形状であると共に、溶着前の一対の流路形成用リブの所定間隔は、0.3mm~3.0mmであるものである。
【0024】
このように構成すると、溶着により溶けた流路形成用リブの形状が安定する。
【0025】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、対向部材には、チップ部材の先端部が係合する溝が形成されているものである。
【0026】
このように構成すると、チップ部材の対向部材に対する位置決めが容易となる。
【0031】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、チップ部材は、一対の流路形成用リブの一方端部と接続された投入口を更に備え、使用前に投入口にあらかじめ試薬を収納し封止する試薬収納工程を更に備えたものである。
【0032】
このように構成すると、あらかじめ反応に要する試薬が収納されたマイクロチップが製造される。
【0033】
請求項5記載の発明は、対向部材に溶着されることで、その内部にマイクロ流路が形成された平板状のマイクロチップの基板となるチップ部材であって、熱可塑性の合成樹脂からなり、平板状の本体と、本体の一方面から突出するように一体的に形成され、互いに所定間隔離れて延びる一対の流路形成用リブとを備え、本体は、流路形成用リブの密度が低い箇所において、一対の流路形成用リブの両側近傍に一対の流路形成用リブに沿って延びる一対の補助リブが形成され、補助リブは、その溶着前の高さが一対の流路形成用リブの各々の高さと同一に設定されたものである。
【0034】
このように構成すると、チップ部材の流路形成用リブに対応した形状の接合面を有する対向部材に高周波溶着又は超音波溶着されることで、流路形成用リブが溶ける。又、溶着工程において、流路形成用リブに加え補助リブも溶着に供されることにより、流路形成用リブにかかる圧力が分散される。更に、溶着工程において、流路形成用リブにかかる圧力がより確実に分散される。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、溶着工程において、流路形成用リブが溶着されることにより、連続的に延びる液密のマイクロ流路が構成されるため、安定的にマイクロチップを製造することができる。又、溶着工程において、流路形成用リブに加え補助リブも溶着に供されることにより、流路形成用リブにかかる圧力が分散されるため、空間の詰まりが発生する虞が減少し、マイクロチップの製造の信頼性や歩留まりが向上する。更に、溶着工程において、流路形成用リブにかかる圧力がより確実に分散されるため、マイクロチップの製造の安定性が更に向上する。
【0040】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、溶着により溶けた流路形成用リブの形状が安定するため、マイクロチップの製造の安定性が向上する。
【0041】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、チップ部材の対向部材に対する位置決めが容易となるため、溶着工程の安定性が向上する。
【0044】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、あらかじめ反応に要する試薬が収納されたマイクロチップが製造されるため、反応の安定性が向上し、実験者の技量の巧拙にかかわらず安定的に反応を進行させることができる。
【0045】
請求項5記載の発明は、チップ部材の流路形成用リブに対応した形状の接合面を有する対向部材に高周波溶着又は超音波溶着されることで、流路形成用リブが溶けるため、連続的に形成された液密の空間が構成される。又、溶着工程において、流路形成用リブに加え補助リブも溶着に供されることにより、流路形成用リブにかかる圧力が分散されるため、空間の詰まりが発生する虞が減少し、マイクロチップの製造の信頼性や歩留まりが向上する。更に、溶着工程において、流路形成用リブにかかる圧力がより確実に分散されるため、マイクロチップの製造の安定性が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】この発明の第1の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図である。
【
図3】
図2で示したIII-IIIラインの拡大端面図である。
【
図4】この発明の第1の実施の形態によるマイクロチップに用いられる対向部材の構成を示す平面図である。
【
図5】
図1で示したチップ部材と
図4で示した対向部材とを溶着する溶着工程前後の状態を示す拡大端面図であって、
図3に対応する箇所であり、(1)は溶着工程前のものであり、(2)は溶着工程後のものである。
【
図6】この発明の第2の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図であり、
図1に対応するものである。
【
図7】この発明の第3の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図であり、
図1に対応するものである。
【
図8】
図6で示した“B”部分の拡大図及び
図7で示した“B´”部分の拡大図であって、(1)は
図6の第2の実施の形態によるものであり、(2)は
図7の第3の実施の形態によるものである。
【
図9】この発明の第4の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図である。
【
図10】この発明の他の実施の形態によるマイクロチップにおける流路形成用リブの構成を示す拡大端面図である。
【
図11】この発明の更に他の実施の形態によるマイクロチップの溶着工程前後の状態を示す拡大端面図であって、
図5に対応するものであり、(1)は溶着工程前のものであり、(2)は溶着工程後のものである。
【
図12】従来のマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図である。
【
図13】
図12で示したチップ部材を用いて構成されたマイクロチップにおける、
図12で示したXIII-XIIIラインの拡大端面図であって、(1)は両面テープを用いる場合のものであり、(2)は片面テープを用いる場合のものである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1はこの発明の第1の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図であり、
図2は
図1で示した“A”部分の拡大図であり、
図3は
図2で示したIII-IIIラインの拡大端面図である。
【0050】
このチップ部材の基本的な構成は従来のチップ部材と同様であるため、相違点を中心に以下説明する。
【0051】
これらの図を参照して、チップ部材2は、熱可塑性の合成樹脂が射出成形されてなり、例えば縦128mm×横22mmの平面視略矩形状であって厚さ2.2mmである平板状の第1の本体5と、第1の本体5の手前側領域に貫通形成された投入口6及び奥側領域に貫通形成された到達口7と、投入口6と到達口7とを連絡するマイクロ溝8(例えば深さ0.1mmの溝状)と、マイクロ溝8を挟むように互いに所定間隔(マイクロ流路となる箇所を挟むように、使用時に検体や試薬が通過する方向に直交する方向の幅であって、
図3に示す距離W)離れて延びる一対の流路形成用リブ9(9a、9b)とから主に構成されている。マイクロ溝8の通過部14に沿う箇所において、流路形成用リブ9a、9bは、マイクロ流路となる箇所を離間した状態で互いに噛み合う櫛の歯状に形成されている。そのため、流路形成用リブ9a、9bに挟まれるマイクロ溝8の通過部14は、Y軸方向等間隔且つX軸方向等幅に連続的に並ぶジグザグ状に折れ曲がりながら一方端部10と他方端部19とに連続的に接続される。
【0052】
即ち、マイクロ溝8は、その一方端部10において投入口6から主にY軸方向(奥側)に向けて延びた後、曲がってX軸方向(左側)に向けて第1の本体5の左側端部の近くに位置する左側折り返し端部20まで延びる。そして、左側折り返し端部20において半円状に奥側に折り返し、次はX軸方向(右側)に向けて第1の本体5の右側端部の近くに位置する右側折り返し端部23まで延びる。右側折り返し端部23においても同様に半円状に奥側に折り返し、このX軸方向(左右方向)の往復を所定回数折り返すようにして通過部14が形成されている。
【0053】
又、投入口6と接続されたマイクロ溝8はその一方端部10において、到達口7に向けて延びる方向とは分岐してX軸方向(右側)に延び、厚さ方向に貫通する空気抜き11とも接続されている。空気抜き11の機能については後述する。
【0054】
図3を特に参照して、同図は、チップ部材2の一方面13における、流路形成用リブ9a、9bが延びる方向に直交する厚さ方向の断面を示す。マイクロ溝8(8a~8c)が凹設された平坦な基部18(18a~18g)には、マイクロ溝8a~8cを挟むように流路形成用リブ9a、9bが交互に突出形成されている。流路形成用リブ9a、9bは、チップ部材2の第1の本体5の一方面13から断面半円形状に突出する(第1の本体5においてマイクロ溝8が形成されている方向とは逆方向に突出する)ように、後述するマイクロ流路となる箇所に沿って途切れず一体的に形成されている。又、流路形成用リブ9a、9bの先端部12(12a、12b)の頂点同士を結ぶ水平方向長さであって流路形成用リブ9a、9b間の所定間隔である距離W
1は、本実施の形態にあっては0.9mmである。
【0055】
又、流路形成用リブ9a、9bの高さ(基部18から流路形成用リブ9の先端部12までの垂直方向長さ)である距離Hは一定であって、本実施の形態にあっては0.2mmである。
【0056】
次に、チップ部材と貼り合わされる対向部材について説明する。
【0057】
図4はこの発明の第1の実施の形態によるマイクロチップに用いられる対向部材の構成を示す平面図である。
【0058】
図1~
図4を参照して、対向部材3は、上述したチップ部材2と同様の外縁形状に形成された平板状の第2の本体15と、上述した投入口6、到達口7及び空気抜き11の各々と対応した位置に形成された対向孔16a~16cとから構成されている。
【0059】
又、貼り合わされた状態でチップ部材2の一方面13側と対向する第2の本体15の一方面である接合面は後述するように平坦であるため、チップ部材2の一方面の一対の流路形成用リブ9a、9bの先端部12a、12bに対向状態で接触可能な形状である。
【0060】
そして、上述したチップ部材2及び対向部材3を準備する準備工程の後、チップ部材2と対向部材3とを溶着する溶着工程に進む。この溶着工程について以下説明する。
【0061】
図5は
図1で示したチップ部材と
図4で示した対向部材とを溶着する溶着工程前後の状態を示す拡大端面図であって、
図3に対応する箇所であり、(1)は溶着工程前のものであり、(2)は溶着工程後のものである。
【0062】
まず同図の(1)を参照して、チップ部材2の一方面13(流路形成用リブ9a、9bが形成されている表面)と対向部材3の平坦な接合面17とを接触させ、チップ部材2の一方面13の一対の流路形成用リブ9a、9bと対向部材3の接合面17とに対して超音波溶着を行うことで、対向部材3の接合面17はチップ部材2の方向に設定値である0.1mm沈み込み、流路形成用リブ9a、9bが溶融して互いが近寄り基部18の面積が縮小する方向に押しだされる。そして、同図の(2)に示すように、チップ部材2と対向部材3とは溶着され液密に一体化する。
【0063】
同図の(2)を参照して、上述した溶着工程を経て、チップ部材2の一方面13と対向部材3の接合面17と溶着された一対の流路形成用リブ9a、9bとに覆われる状態で連続的に延びる液密の空間であるマイクロ流路21(21a~21c)が形成される。
【0064】
チップ部材2の一方面13における流路形成用リブ9aは、これと幅方向両側において隣接する流路形成用リブ9bの両方に対して近づいている。即ち、溶着工程を経て固化した状態における流路形成用リブ9aの表面は、隣接する2つのマイクロ流路21a、21bの側壁22a、22bを構成する。流路形成用リブ9bについても同様である。
【0065】
以上説明したように、チップ部材2と対向部材3とを準備する準備工程と、チップ部材2と対向部材3とを超音波溶着により溶着して連続的に延びる液密の空間をマイクロ流路21として形成する溶着工程とを経て、マイクロチップ1は製造される。溶着工程において、流路形成用リブが溶着されることにより、連続的に延びる液密のマイクロ流路が構成されるため、粘着テープや接着剤を使用する場合のように異物混入や流路崩壊(空間の詰まり)が発生する虞が減少し、安定的にマイクロチップを製造することができる。
【0066】
このようにして構成されたマイクロチップ1は、基板としての第1の本体5と、第1の本体5と同一素材の対向部材3とを備え、第1の本体5の所定部分としての流路形成用リブ9a、9bと対向部材3の流路形成用リブ9a、9bと対応する部分としての接合面17とが一体化することで液密のマイクロ流路21が形成されているものである。これによって、マイクロ流路21のシール性が向上するため、マイクロチップ1の信頼性が向上する。
【0067】
又、特定のマイクロチップが上記のような製造方法を用いて製造されたか否かは、
図5で示したような溶着に係る所定部分を含む断面構造を観察し、超音波溶着や高周波溶着により流路形成用リブが溶けたことでマイクロ流路が一体的に形成されたものか否かによって判断することが可能である。
【0068】
マイクロチップ1の使用方法は従来のマイクロチップと同様である。即ち、
図1で示した投入口6に所望の検体及び試薬を投入してから粘着テープやゴム製の蓋等を貼付することで封止し、手前側の投入口6から奥側の到達口7に向けてポンプユニット等により移動させる。このとき、上述したように空気抜き11が形成されていることにより、混合物の移動がスムーズとなるため、使用勝手が向上する。
【0069】
そして、マイクロチップ1を設置して使用する図示しない装置(サーマルサイクラー)には、通過部14の両傍(従来のマイクロチップにおいて第1のスリットや第2のスリットが形成されていた箇所)に対応する位置に高温及び低温のヒーターが備えられており、混合物が通過部14を通過するのに伴って周期的に高温低温間の温度変化を起こし、PCRを安定的に進行させることができる。
【0070】
次に、
図6はこの発明の第2の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図であり、
図1に対応するものである。
【0071】
この第2の実施の形態によるチップ部材は、上述した第1の実施の形態のチップ部材と基本的に同様の構成であるため、相違点を中心に以下説明する。
【0072】
同図を参照して、チップ部材24の第1の本体25は、混合物の移動の開始側である手前側の領域において、上述した第1の実施の形態における投入口6に相当する第1の投入口26に連絡された第2の投入口28を備えている。
【0073】
又、第1の投入口26からY軸方向(奥側)に向けて延びるマイクロ溝30の一方端部31は、通過部32に向かう途中で曲がりX軸方向(左側)に向けて延び、X軸方向において通過部32の左側折り返し端部33に揃う位置に到達した後再度Y軸方向(奥側)に向けて延び、通過部32の開始地点である屈曲部35と接続される。
【0074】
次に、使用に際しては、第2の投入口28に試薬を使用前に封入しておくことが可能である。まず、第2の投入口28に機械的に所定量が量り取られた試薬を封入しておき、上述した第1の実施の形態と同様に、チップ部材24と図示しない対向部材とを超音波溶着して図示しないマイクロチップを作成する。使用時には第1の投入口26に検体を入れ、第2の投入口28を押圧すると、第1の投入口26において検体と第2の投入口28から移動した試薬との混合物となる。このように、第2の投入口28に所定量の試薬を使用前に封入しておく試薬収納工程を更に備えることで、あらかじめ反応に要する試薬が収納されたマイクロチップが製造されるため、反応の安定性が向上し、実験者の技量の巧拙にかかわらず安定的に反応を進行させることができる。
【0075】
そして、押圧を続け、混合物がマイクロ溝30に相当する位置に形成されたマイクロ流路内部を到達口27に向けて移動する。このとき、上述したようにマイクロ溝30(マイクロ流路)の一方端部31は、通過部32と接続される前にチップ部材24(マイクロチップ)の左側端部に沿ってY軸方向に延びるため、実験に際して予備加熱することができ、例えばPCRであればDNAの熱変性の確実性を向上させることが可能となり、実験の安定性が向上する。
【0076】
次に、
図7はこの発明の第3の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図であり、
図1に対応するものである。
【0077】
この第3の実施の形態によるチップ部材は、上述した第2の実施の形態のチップ部材と基本的に同様の構成であるため、相違点を中心に以下説明する。
【0078】
同図を参照して、チップ部材37の第1の本体38には、マイクロ溝41の一方端部42傍において、一対の流路形成用リブ39の両側近傍(0.8mm~1.6mm離れた箇所)に、流路形成用リブ39に沿って延びる一対の補助リブ40が形成されている。補助リブ40は流路形成用リブ39や投入口43には基本的に接続されず独立している。
【0079】
補助リブ40の構造は、この第3の実施の形態にあっては、基本的に流路形成用リブ39の構造と同一であり、補助リブ40の高さ(上述した
図3で示した距離Hに相当)が流路形成用リブ39の高さと同一に設定されている。
【0080】
そして、チップ部材37と図示しない対向部材との溶着工程において、上述した流路形成用リブ39と対向部材の接合面との溶着に加え、更に補助リブ40と対向部材の接合面とが溶着される。
【0081】
次に、この補助リブ40の効果について説明する。
【0082】
図8は
図6で示した“B”部分の拡大図及び
図7で示した“B´”部分の拡大図であって、(1)は
図6の第2の実施の形態によるものであり、(2)は
図7の第3の実施の形態によるものである。
【0083】
まず同図の(1)を参照して、二点鎖線で示す“B”部分の中心点である点Pは、一対の流路形成用リブ34a、34bの間隔D1のX軸方向(左右方向)の中央に位置する任意の点である。一対の流路形成用リブ34a、34bの間隔(両者の先端部を結ぶ距離)D1をα倍した距離D2を一辺とする平面視正方形の領域を“B”部分としている。αは、同図においては5(即ち、D2=D1×5)に設定されており、その詳細については後述する。
【0084】
ここで、上述したように、チップ部材と対向部材との溶着工程において、チップ部材24と図示しない対向部材とが最初に接触する箇所は、同図(1)の破線で示す一対の流路形成用リブ34a、34bの先端部の頂点であって、チップ部材24全体に及ぼす超音波溶着により一対の流路形成用リブ34a、34bの一部又は全部が溶けることにより、対向部材と接合される。
【0085】
しかしこのとき、“B”部分において、超音波溶着の圧力がかかる箇所が主に流路形成用リブ34a、34bしかない。このように流路形成用リブ34a、34bの密度(平面視において単位面積当たりの流路形成用リブの占める面積であって、“B”部分を単位面積とした同図の場合にはおよそ1/α)が低い箇所においては、流路形成用リブ34a、34bにかかる超音波溶着の圧力が過大になることでこれらが過剰に溶けてしまい、マイクロ流路となる空間に詰まりが発生する虞がある。
【0086】
そこで、同図(2)に示す第3の実施の形態にあっては、流路形成用リブ34a、34bの近傍に補助リブ40a、40bが設けられている。
【0087】
これによって、溶着工程において、流路形成用リブ39a、39bに加え補助リブ40a、40bも溶着に供されることにより、超音波溶着により圧力がかかる箇所は同図(2)の破線で示すX軸方向(左右方向)の長さがD3(D1の約4倍の長さ)である領域(D3×D2)となり、流路形成用リブ39a、39bにかかる圧力が分散されるため、空間の詰まりが発生する虞が減少し、マイクロチップの製造の信頼性や歩留まりが向上する。
【0088】
尚、上述した単位面積箇所を決めるための係数であるαは、3~10の範囲内で適宜設定が可能である。αが小さいほど、設定が厳格になる代わりに、上述した補助リブを形成した場合の効果が高くなる。αが3以上であれば、補助リブと流路形成用リブとの間隔が十分なものとなり溶着工程の安定性が向上する。又、αが10以下であれば、補助リブの空間の詰まりを抑制する作用効果を十分に奏することができる。
【0089】
このように、第3の実施の形態によるチップ部材にあっては、平板状の本体に、一対の流路形成用リブの近傍(上述した“B”部分に含まれる領域、即ち流路形成用リブの密度が低い箇所)に補助リブが形成されたものである。このように構成することで、溶着する際に、流路形成用リブに加え補助リブも溶着に供されることにより、流路形成用リブにかかる圧力が分散されるため、空間の詰まりが発生する虞が減少し、信頼性や歩留まりが向上する。
【0090】
尚、製造されたマイクロチップに空間の詰まりは、マイクロ流路の一方端側から空気や窒素、アルゴン等の不活性ガスを送り込み、ガスの漏れが検知されたか否かによって確認することが可能である。又、他の検査方法であっても良く、例えば、カメラ装置により溶着箇所をパターン認識し、適切に溶着が行われたかを確認する方法が挙げられる。以上の方法を用いることで、目視による検査方法より迅速且つ確実な検査が可能となる。
【0091】
次に、
図9はこの発明の第4の実施の形態によるマイクロチップに用いられるチップ部材の構成を示す平面図である。
【0092】
この第4の実施の形態によるチップ部材は、上述した各実施の形態のチップ部材と基本的に同様の構成であるため、相違点を中心に以下説明する。
【0093】
同図を参照して、チップ部材47は、平板状の本体48と、本体48の所定箇所に形成された、マイクロチップの状態ではポンプ室となる第1の凹部49と、本体48のY軸方向下方端部を一辺とするように形成された第2の凹部50と、第2の凹部50の外周端部と接続され、本体48の一方面から突出するように一体的に形成され、互いに所定間隔離れてY軸方向上方端部まで延びる一対の流路形成用リブ51a、51bと、第1の凹部49と第2の凹部50とに接続される一対の流路形成用リブ51c、51dとから主に構成されている。
【0094】
マイクロチップの製造に際しては、チップ部材47と、接合面が平坦である等の流路形成用リブ51a~51dの先端部に対向状態で接触可能な形状である図示しない対向部材とを超音波溶着により溶着する。これによって、第1の凹部49に相当する箇所がポンプ室となり、第2の凹部50に相当する箇所が測定室となり、一対の流路形成用リブ51a、51bに挟まれる箇所52aが測定室とマイクロチップ外部とを連絡する第1のマイクロ流路となり、一対の流路形成用リブ51c、51dに挟まれる箇所52bがポンプ室と測定室とを連絡する第2のマイクロ流路となる。
【0095】
このようにして製造されたマイクロチップを溶液の糖度測定に使用する場合、まず測定室に、マイクロチップ外部に準備した測定器と電気的に接続された電極を測定室の下方端部から差し込んだ後、下方端部を密閉する。又、第1のマイクロ流路の上方先端にキャピラリを差し込む。そして、キャピラリを測定対象の溶液に差し込み、ポンプ室を押圧・解除することで溶液を吸引して測定室に溶液を送り込む。測定室に送り込まれた溶液は電極を介して外部の測定器により糖度が測定される。
【0096】
次に、上述した各実施の形態による流路形成用リブは断面半円形状であったが、このような形状は溶着工程において、上方から溶けていくにつれ急激に接合面との接触面積が大きくなっていくため、溶けた後の形状が安定しないことがあり、即ちマイクロ流路の形成の安定性という点で改善の余地があった。
【0097】
図10はこの発明の他の実施の形態によるマイクロチップにおける流路形成用リブの構成を示す拡大端面図である。
【0098】
一対の流路形成用リブの所定間隔が0.3mm~3.0mmの範囲内であるとき、一対の流路形成用リブの各々54a~54cは、同図に示すような、その延びる方向に直交する方向の断面形状が、その先端部55a~55cが形成する角度θが15°~120°の三角形状であることが好ましい。又、角度θが30°~90°であることがより好ましい。このように構成することで、溶着により溶けた流路形成用リブの形状が安定するため、マイクロ流路の形成が安定し、マイクロチップの製造の安定性が向上する。
【0099】
同図(1)に示す流路形成用リブ54aは、断面正三角形状であって、角度θは60°である。
【0100】
又、上述した断面三角形状には、同図(2)に示す流路形成用リブ54bのように、三角形状から先端部55bの仮想頂点部分56を切り取った形状も含まれる。このように構成することで、流路形成用リブ54bを含めたチップ部材を射出成形する際の形状の安定性が向上する。
【0101】
又、上述した断面三角形状には、同図(3)に示す流路形成用リブ54cのように、角部に丸みをもたせた台形の上底に三角形の先端部が付いた形状も含まれる。このように二段構造としても良い。このように構成することで、溶着により溶けた流路形成用リブの形状が更に安定する。
【0102】
次に、
図11はこの発明の更に他の実施の形態によるマイクロチップの溶着工程前後の状態を示す拡大端面図であって、
図5に対応するものであり、(1)は溶着工程前のものであり、(2)は溶着工程後のものである。
【0103】
同図(1)をまず参照して、チップ部材57の一方面58の流路形成用リブ59は、断面三角形状に他の流路形成用リブよりも高く突出するように形成されている。
【0104】
そして、対向部材61の接合面62には、チップ部材57の流路形成用リブ59の先端部60が係合する溝63が形成され、チップ部材57と対向部材61とは所定の位置関係に固定された状態である。溶着工程を経ることで、同図(2)に示すようにチップ部材57と対向部材61とが溝63であった部分も含め溶着され、連続的に延びる液密の空間であるマイクロ流路65を有するマイクロチップ64が製造される。
【0105】
このように対向部材61に溝63を構成することで、チップ部材の対向部材に対する位置決めが容易となるため、溶着工程の安定性が向上する。
【0106】
又、チップ部材57の一方面58の基部66は、上述した各実施の形態のようなマイクロ溝は形成されておらず、平坦である。
【0107】
このように構成することで、チップ部材に流路形成用リブやマイクロ溝といった凸部と凹部とを同時に形成する必要がなくなり、チップ部材の製造がより容易となる。
【0108】
尚、上記の各実施の形態にあっては、マイクロチップを特定の反応実験に使用していたが、他の反応実験に使用しても良い。例えばPCR法、LAMP法、SDA法、NASBA法、ICAN法等の遺伝子増幅方法や、糖度測定や濃度測定等の内容物の検査反応が挙げられる。
【0109】
又、上記の各実施の形態にあっては、マイクロチップ、チップ部材及び対向部材が特定形状のものであったが、他の形状であっても良い。例えば、外縁形状はこれらが使用される装置に適合するように形成すれば良い。又、マイクロ流路の折り返し回数(例えば25~35回の範囲内)や幅は使用する反応方法や検体に適合するように選択すれば良い。更に、厚さは適宜変更可能であり、比較的薄手のフィルムであっても良く、比較的厚手のシートであっても良い。更に、これらは平板状であったが、平板状とは一方面の基部や接合面が平坦であれば含まれ、例えばチップ部材と対向部材との溶着に供されない側の面が丸みを帯びる形状等であっても良い。
【0110】
更に、上記の各実施の形態にあっては、チップ部材や対向部材に種々の貫通孔である投入口や到達口が形成されていたが、その大きさ、位置や個数は用途に応じて適宜変更可能である。又、貫通形成されず凹部として形成されていても良い。更に、これらが無くても良い。
【0111】
更に、上記の各実施の形態にあっては、チップ部材と対向部材とを超音波溶着により溶着して構成されていたが、例えば高周波溶着等の他の溶着方法により構成することも可能である。
【0112】
更に、上記の各実施の形態に用いられる検体は特に限定されず、例えば唾液、血液、植物の葉の破砕体等の目標DNAを含むものや、果汁や水溶液等の糖度や濃度の測定を目的とするものが挙げられる。
【0113】
更に、上記の各実施の形態に用いられる試薬は特に限定されず、例えばPCRの場合は水、プライマー、DNAポリメラーゼ、dNTP、緩衝液、必要に応じて投入し目標DNAと結合する蛍光試料等が挙げられる。
【0114】
更に、上記の各実施の形態に用いられる熱可塑性の合成樹脂は特に限定されず、例えばポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリメタクリル酸メチル(アクリル樹脂;PMMA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)等が挙げられる。又、チップ部材の樹脂と対向部材の樹脂とが同一の種類であっても良い。チップ部材と対向部材とを高周波溶着により溶着する場合には高周波溶着適性を持つ樹脂を選択し、超音波溶着により溶着する場合には超音波溶着適性を持つ樹脂を選択すれば良い。
【0115】
更に、上記の各実施の形態にあっては、検体及び試薬の混合物の移動をポンプユニットにより行っていたが、他の方法であっても良い。例えば、ゴム蓋で密閉した投入口に対する使用者の指による押圧、注射器等を用いたエアーの送入、遠心力の利用、あるいは移動目標側からの吸引等が挙げられる。
【0116】
更に、上記の各実施の形態にあっては、マイクロ流路(マイクロ溝)が基本的に分岐せず単線状に延びていたが、途中で反応物の一部を排出したり、途中から試薬を追加したりする等の必要に応じて分岐・合流させても良い。
【0117】
更に、上記の各実施の形態にあっては、マイクロ流路(マイクロ溝)が平板状の本体に対して平面的に形成されていたが、複層構造にする等、立体的に形成することでマイクロ流路の密度(単位体積当たりに占めるマイクロ流路の体積)を高めても良い。
【0118】
更に、上記の各実施の形態にあっては、空気抜きが形成されているものがあったが、空気抜きが無くとも良い。
【0119】
更に、上記の各実施の形態にあっては、対向部材はチップ部材と同様の外縁形状であったが、溶着によりマイクロ流路を形成することができるように少なくともマイクロ溝を覆うものであれば良い。但し、位置決めを容易とする観点からは、少なくとも一部がチップ部材と同様の外縁形状であることが好ましい。
【0120】
更に、上記の各実施の形態にあっては、マイクロチップの製造方法は、準備工程と溶着工程とから主に構成されていたが、他の工程をいずれかの段階において加えても良い。
【0121】
更に、上記の第2の実施の形態にあっては、第2の投入口に使用前に試薬を封入していたが、使用前に封入せずに使用しても良い。又、第1の投入口と第2の投入口の使い方を逆にしても良い。
【0122】
更に、上記の第3の実施の形態にあっては、補助リブが一対形成されていたが、一方側のみであっても良い。
【0123】
更に、上記の第3の実施の形態にあっては、補助リブが流路形成用リブと同一構造であったが、他の形状・構造であっても良い。このとき、補助リブの高さが一対の流路形成用リブの各々の高さと同一に設定されることが好ましい。このように構成することで、溶着工程において、流路形成用リブにかかる圧力がより確実に分散されるため、マイクロチップの製造の安定性が更に向上する。尚、接合面側が平坦でなく流路形成用リブや補助リブを迎え入れる溝等が形成されている場合等には、補助リブの高さが流路形成用リブの高さと同一でなくとも好適に使用できる。
【0124】
更に、上記の第3の実施の形態にあっては、補助リブが流路形成用リブ、マイクロ溝、投入口や到達口といった他の部分に接続されず独立していたが、いずれかの部分に接続されていても良い。
【0125】
更に、上記の他の実施の形態にあっては、対向部材の接合面の一部に溝が形成されていたが、チップ部材の先端部に係合するように全ての接触箇所に溝が形成されていても良い。
【符号の説明】
【0126】
1、64…マイクロチップ
2、24、37、47、57…チップ部材
3、61…対向部材
5、25、38…第1の本体
6、43…投入口
9、34、39、51、54、59…流路形成用リブ
12、55、60…先端部
13、58…一方面
15…第2の本体
17、62…接合面
21、65…マイクロ流路
26…第1の投入口
28…第2の投入口
40…補助リブ
48…本体
63…溝
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。